土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
ISSN-L : 2185-467X
76 巻, 2 号
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水工学論文集第65巻
  • 我部山 喜弘, 角野 拓真, 岡崎 百合子, 中村 太郎, 岡崎 慎一郎, 梶谷 義雄, 渡邊 諭, 佐溝 昌彦
    2020 年76 巻2 号 p. I_601-I_606
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     近年,激甚化する豪雨災害の一つとして,洗掘による橋脚の損傷やそれに伴う落橋等が各地で頻発している.本研究では,洗掘災害に対するリスクポテンシャル評価を行うモデルの構築を目的に,過去の被災データを教師データとして用いて,4つの機械学習アルゴリズムを適用し,その判別性能を比較することにより,最適な機械学習アルゴリズムとしてニューラルネットワークを選定した.また,重要度が高いパラメータを特徴量選択により抽出し,実務において取得が容易なパラメータを説明変数としたモデルを構築した.構築したモデルは,平成30年7月豪雨により被災した橋脚を概ね判別することが可能であり,将来的な洗掘被害を予測可能であることを確認した.

  • 松田 朋也, 渡邊 康玄
    2020 年76 巻2 号 p. I_607-I_612
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     2018年7月,北海道の湧別川流域において確率規模1/15の洪水が発生した.湧別川に架かるいわね大橋は,橋脚の沈下により,橋桁が大きく折れ曲がる被害を受けた.今後,橋脚沈下の原因を把握しておくことは,河川,橋梁の防災対策および維持管理を検討する上で,有益な情報を得ることとなる.本研究では,いわね大橋が中規模出水において被災した要因を明らかにすることを目的に,平面2次元河床変動計算ソフトiRIC Nays2DHを用いて河床変動計算を行った.2次元河床変動計算の結果,出水のピーク時付近では砂州が確認されず,砂堆状の河床地形が形成された.また,河道内に存在する橋脚が,橋脚周辺の河床変動と流れの変化に大きく影響を及ぼすことが確認され,橋脚周辺の局所洗掘が被災要因であることが明らかとなった.

  • 瀬戸 心太
    2020 年76 巻2 号 p. I_613-I_618
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     マイクロ波放射計による観測輝度温度から算出される冠水率を,日本国内の地理情報データと組み合わせて,ダウンスケーリングする手法を,日本全域(一部の島嶼を除く)に適用し,高解像度(1.5秒格子)の地表水マップ(GSMaWS)を作成した.Today’s Earth日本域版(TEJ)による洪水氾濫割合と比較すると,GSMaWSは,都市河川・北海道・一部の沿岸部の流域において,浸水想定区域内の浸水割合を過大評価しているが,東日本の流域では,TEJと正の時間相関がみられた.令和元年台風19号で浸水の発生した6つの流域について,GSMaWSとTEJによる浸水域の推定を,国土地理院の浸水域データを基準として,評価した.降水のピーク直後の10月13日未明の観測では,GSMaWSはTEJと同程度の精度で浸水域を推定しているケースがみられたが,降水が継続している場合GSMaWSの精度は低下することが示された.

  • Bambang PRIYAMBODOHO , 八木 隆聖, 木藤 あや音, 石川 彰真, 呉 修一
    2020 年76 巻2 号 p. I_619-I_624
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     2019年10月の台風19号では長野県千曲川で甚大な洪水氾濫および家屋被害が生じた.本論文は,長野市長沼地区の堤防決壊により生じた家屋被害と洪水氾濫流の関係を明らかにすることを目的に,数値計算により氾濫流の挙動を再現し,現地調査より得られた家屋被害状況に対して考察を行ったものである.決壊した堤防付近に着目した高解像度の氾濫解析を行うことで,甚大な被害を引き起こした氾濫流の2方向への流れを表現することが出来た.家屋の流失や損壊大は,氾濫流の流速が2m/s以上,浸水深が2m以上の個所で生じていることを示した.このような2方向の氾濫流の挙動は広域浸水範囲を対象とした氾濫解析では再現が難しく,事前の水平避難などを議論する際は高解像度情報を用いた検討が必要である.

  • 佐藤 大介, 武田 誠, 川池 健司, 豊田 政史
    2020 年76 巻2 号 p. I_625-I_630
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     2019年10月,大型で強い勢力を持つ台風19号の影響により,日本の多くの地域で大雨や暴風などによる災害が生じた.長野市を流れる千曲川では,左岸堤防からの越水,破堤による大規模な浸水被害が生じた.これにより,JR東日本の長野新幹線車両センター等が浸水し,人的被害,家屋被害,農業被害が生じ,交通や経済に深刻な被害をもたらした.本研究では,当時の情報を用い再現計算を行い,実測データと比較することで解析モデルの妥当性評価を行った.計算で得られた浸水深は実測値と概ね一致し,高い精度で解析ができた.また,排水を考慮した解析結果から,浸水深の低下の様子も示されたが,小河川,下水道,ポンプ車による排水を考慮していないため,実績との差も現れた.さらに,破堤地点を中心とした詳細な解析を行い,道路を流れる氾濫水の様子や流出した家屋の周りの流体力などが求められた.これらの結果から,破堤時の水理の様子が詳細に示された.

  • 尾形 勇紀, 伊藤 毅彦, 小野村 史穂, 二瓶 泰雄
    2020 年76 巻2 号 p. I_631-I_636
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     令和元年10月に立て続けに発生した台風19号,21号の洪水は,多くの河川施設に被害を与えた一方,貯留施設を有する河川では洪水氾濫被害を抑制していた.本研究では,調節池の洪水調節効果に着目し,台風19号時の荒川第一調節池と,台風21号時の一宮川第二調節池を対象に,現地調査,平面二次元計算による調節池の治水効果を検討した.また,調節池の越流堤高を変化させ,洪水調節機能がどのように変化するか検討を行った.その結果,中流域で広域の氾濫が生じた一宮川第二調節池は,増水期に河川水位の低減効果をもたらしたが,この効果は調節池が満水になるまでであった.荒川第一調節池では,現況再現流量では現況越流堤高(=8.70[A.P.m])で最も洪水調節効果を発揮したが,台風19号の規模を上回る洪水に対しては,越流堤高を変えることが洪水調節効果をより発揮できる可能性が示された.

  • 五十嵐 善哉, 田中 規夫
    2020 年76 巻2 号 p. I_637-I_642
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     令和元年東日本台風は東日本の広範囲に記録的な豪雨をもたらし,荒川水系の都幾川で4箇所,越辺川で2箇所の堤防が決壊した.今後の河道管理において,上下流バランスを考慮してリスク箇所を改善するためには,台風19号における河川と氾濫原の間の氾濫水のやりとりを把握する必要がある.そのため,都幾川と越辺川の堤防決壊が氾濫量や下流の流量ハイドログラフに与える影響を検討した.

     越辺川0.0k右岸の堤防決壊時刻と堤防決壊プロセスは,堤内地の氾濫量に大きく影響した.越辺川支川の大谷川の内水氾濫も考慮すると,12日24時から3時間程度で堤体が流失したケースで最も実績の氾濫量と近くなった.堤防決壊が下流のピーク流量に与える影響は小さかった.これは台風19号の降雨継続時間が洪水伝播時間より長かったためだと考えられる.

  • 上野 瑞樹, 二瓶 泰雄
    2020 年76 巻2 号 p. I_643-I_648
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     近年,短期間で複数の災害が発生する「連続災害」が懸念されている.本研究では,災害復旧のあり方について検討するため,令和元年の台風 19号と21号の風水害の連続発生によって被害を受けた福島県夏井川流域に焦点をあて,風水害の連続災害の発生状況を把握した.現地調査及び情報収集の結果,台風19号による浸水面積は10.7km2であり,台風21号の約20倍であった.また,台風19号時の堤防決壊地点において台風21号でも越水が発生していることが確認された.一方,台風19号と21号に関する氾濫解析の結果,台風21号においても台風19号と同規模の浸水が発生する可能性があったことがわかった.以上から,災害発生後,速やかに復旧可能な工法の開発や被災後の洪水氾濫リスク評価手法を確立することが今後求められる.

  • 関根 正人, 吉野 萌
    2020 年76 巻2 号 p. I_649-I_654
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     2019年10月に発生した台風19号により,日本各地で堤防の決壊や河川の氾濫,内水氾濫によって多くの被害が発生した.地球規模での気候変動により気象の極端化が進む今,同程度の規模の台風や,現在整備されているインフラで対応しきれないような局地的集中豪雨は増加の一途を辿っている.これは大都市においても例外ではなく,ひとたび未曾有の雨が降れば,河川洪水や内水氾濫被害に見舞われる.本研究では,精緻な浸水予測手法であるS-uiPSを用いて,多摩川下流域における浸水事例の再現計算を行った.その際の入力降雨には,2019年台風19号のXRAIN実降雨データを用いている.この再現計算により,対象エリア内の降雨量が小さかったとしても,上流で高強度の降雨があり,河川の水位が上昇していれば,対象エリアにおいて顕著な浸水が生じる場合があることを明らかにした.

  • 石川 彰真, 呉 修一
    2020 年76 巻2 号 p. I_655-I_660
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     浸水想定区域の作成や公表は精力的に行われているが,各河川で堤防決壊の発生確率が高い箇所は不明瞭であり,堤防決壊リスクの検証・公表は殆ど行われていない.本研究では富山県全河川の降雨流出・洪水解析を行い,越水・侵食・浸透のポテンシャルを評価することで,県内河川の堤防危険箇所の相対評価を実施した.富山の一級河川である神通川,常願寺川,庄川,小矢部川,黒部川を対象に洪水解析を行うとともに,越水,浸透,侵食評価手法を適用し,その適用性を検証した.解析結果より,合流部での水位上昇による越水の危険性や湾曲部での侵食危険性を明らかにすることが出来た.また,評価した3つのポテンシャルを組み合わせることで,河川堤防危険箇所の総合評価手法を新たに提案し適用した.

  • 西田 渉, 佐々木 達生, 田崎 賢治
    2020 年76 巻2 号 p. I_661-I_666
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     内水氾濫時に油の流出事故が発生した場合,氾濫水の排除に加えて,氾濫域に広がる油の回収・除去や河道への流出防止等の対応が必要となるために,浸水域の復旧時間が長引くことになる.

     本研究では,油の流出範囲を予め明らかにしておくことで流出事故発生の対応が効果的に進められると考え,まず,氾濫域における油の流動と広がりを評価するための数値モデルの構築を行った.モデルの計算結果と文献値との比較から,静水場や流水場に投入された油の広がりを妥当に計算されることが示された.つぎに,内水氾濫の実績がある流域を対象に油の流出を想定した計算を実施した.計算結果には,油は氾濫流によって輸送されるが,モデルに導入された油自身の特性による輸送作用によって流出面積がさらに広がることが示された.

  • 井上 卓也, 旭 一岳, 岩﨑 慎介, 清水 康行
    2020 年76 巻2 号 p. I_667-I_672
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,内水氾濫によって流出した油の移流・拡散を予測するための数値解析モデルを構築し,構築したモデルを用いて,令和元年8月の前線に伴う大雨において発生した油流出事故の再現計算を行った.解析の結果,油の移流を精度良く再現するためには,氾濫流の影響に加え水面勾配の影響を考慮する必要があることが明らかとなった.また,油は油膜の特性によって自立的に拡散するため,氾濫流の流速が低下した後も徐々に広がっていくことが明らかとなった.

  • 藤森 健人, 川池 健司, 山野井 一輝, 中川 一
    2020 年76 巻2 号 p. I_673-I_678
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     内外水氾濫時の浸水予測精度の向上を目的として,建物内部への浸水を考慮した解析モデルの開発を試みた.建物内部への浸水を考慮した氾濫実験を行い,建物境界での流量計算にトリチェリの定理を適用した数値モデルによって,実験での氾濫状況を精度良く再現できることを確認した.さらにその数値モデルを実スケールのモデル市街地に適用して,国土交通省の洪水浸水想定区域図作成マニュアルによる手法と比較したところ,浸水予測結果に差が生じることがわかった.したがって,建物内部への浸水は浸水予測結果に無視できないほどの影響を及ぼすこと,建物境界での流量予測にはトリチェリの定理が適用できることがわかったが,建物境界が解析格子境界に一致しない場合の取り扱い手法,ならびにトリチェリの定理に用いる浸水口面積と浸水口高さの設定方法等について今後検討を加える必要がある.

  • 小内 尭, 田中 規夫
    2020 年76 巻2 号 p. I_679-I_684
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     建物が連続して立地するエリアを含む流域に対して高速かつ高精度に浸水シミュレーションを行うために通常用いられる氾濫解析手法を大きく変えない形での精度向上が必要である.本研究では,解析メッシュにおける空隙率の異方性について着目し,平面水路を用いた氾濫水理模型実験ならびに解析メッシュの異方性を持つ空隙率を考慮したモデルを構築した.その結果,異方性モデルを用いた氾濫解析が異方性配置により流下方向,横断方向へ強調される流れを高い精度で再現可能であることを確認した.また,抗力係数の感度分析結果より,流速の低減効果を抗力係数に反映させることで,ある程度解析精度が向上することを確認できたが,空隙率の異方向成分を考慮することの方が感度が大きい結果となった.したがって,本研究で開発した異方性モデルに適切な異方性空隙率を与えることで,計算精度の向上が期待できる.

  • Jean Margaret R. Jean Margaret R. MERCADO, Akira KAWAMURA, Hideo AMAGU ...
    2020 年76 巻2 号 p. I_685-I_690
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     This study attempts to conduct a monitoring & evaluation (M&E) of the integrated flood risk management (IFRM) in Metro Manila. In this study, we monitored the performance level at each city in Metro Manila by carrying out a series of interviews and surveys. The performance for IFRM based on the 15 indicators we utilized in this study was appraised qualitatively by the practitioners from each city in Metro Manila. Then, the monitored qualitative appraisals were evaluated using the fuzzy set theory, which was a suitable method for handling imprecise or qualitative data. The indicators and qualitative appraisals were given fuzzyweights, and these were aggregated to evaluate the overall performance for IFRM for each city. The results show that majority of the cities in Metro Manila are performing above the Good level, but this level still suggests that more work and attention are needed to attain substantial achievements for IFRM. The approach in this study is suitable for M&E activities that heavily depended on qualitative data or information.

  • 坂本 貴啓, 篠崎 由依, 佐藤 裕和, 白川 直樹, 中村 圭吾, 萱場 祐一
    2020 年76 巻2 号 p. I_691-I_696
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     市町村が管理する準用河川と普通河川のうち,河川法による一級・二級の水系指定がなされていない単独水系では,管理の方法や負担の程度,問題点に不明な点が多い.そこで,本研究では単独水系を多く抱える長崎県を主対象に,河川管理統計の収集・分析,現地調査,ヒアリングを行い,市町村が管理する単独水系の抱える課題について治水,利水,環境それぞれの観点から分析した.河川法が求める管理水準を市町村だけで満たすことは難しい現状にあることが明らかとなった一方,必要な人員の不足,全川点検の困難性などの課題に対して独自の工夫を講じている事例がみられた他,住民参加が河川管理へ一定の役割を果たす可能性も示唆された.

  • 久田 由紀子, 橋本 彰博, 木村 延明, 杉原 裕司, 松永 信博, 小松 利光
    2020 年76 巻2 号 p. I_697-I_702
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     気候変動下にある現在,わが国では毎年のように甚大な水土砂災害に見舞われている.水土砂災害に対する防災力を向上させる一つの手段として流域における強靭なインフラ整備は不可欠であるが,現在の社会情勢から科学的根拠に基づいた経済的かつ効果的な整備が強く求められている.本研究では,国土交通省「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」に提出されたダム審査資料に基づき,治水対策事業の中でも施工頻度が高く治水効果が期待される河川事業として,ダム建設,河道掘削,引堤,堤防嵩上げ,遊水池,放水路(捷水路),輪中堤の7つの対策事業に関するコストのデータを抽出・解析し,それぞれの事業コストを評価するための簡便な算定方法と推計式を提案した.また,福岡市内を流れる二級河川那珂川を対象として,気候変動下における将来の河川氾濫リスクの予測ならびに被害額を算定し,最も経済的かつ効果的と思われる氾濫適応策の組み合わせを検討例として示した.

  • 羽鳥 航平, 井上 亮
    2020 年76 巻2 号 p. I_703-I_708
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     水害前後の不動産価格変化を分析し社会の水害危険性認識を考察する研究が行われ,水害多発地域では,新たな被災が価格に与える影響は小さく,危険性の高い地域は常に安く評価されることが確認されている.ただし,価格下落と相関を有する危険度情報は,治水性能の向上などに伴い変化してきたことが指摘されている.近年の水害危険度情報への社会的関心の高まりを踏まえると,水害想定の影響が大きくなっていると予想される.そこで,本研究は水害多発地域の一つである名古屋市を対象に,地価と水害危険性情報の関係を分析した.平常時から危険区域は安く,水害後変化しないという既往研究の結果を再確認すると共に,近年は被害区域よりも浸水想定区域が価格に与える影響が大きいこと,また想定区域内では被害経験が無い方が減価が大きいことを確認した.

  • BAE CHANG YEON , 小林 健一郎
    2020 年76 巻2 号 p. I_709-I_714
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,韓国・蔚山広域市中区太和洞を対象にC++言語によるマルチエージェント避難シミュレーションモデルを構築し,当該地域における最適避難に関する検討を行った. 具体的には浸水時避難所の立地や規模などに関する定量的基準がない太和洞の実情に即して年齡別避難所要時間の分析など,当該地域において必要な避難戦略について検討した. また,想定時間内に避難が困難な場合は臨時避難所を指定するなど,避難時間の短縮について検討した. 本研究は,最適避難経路の提示だけではなく,道路整備や避難施設の設定など,事前対応資料として活用できると考える.

  • 八木 隆聖, 呉 修一
    2020 年76 巻2 号 p. I_715-I_720
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究は,リスクを過小評価している災害経験の少ない地域や住民に対して事前の避難促進に繋がる策を構築することを目的としている.常願寺川,神通川を対象に複数シナリオでの洪水氾濫計算を行い,リスクランク評価手法を構築することで,氾濫時の浸水深,流速に加えて浸水継続時間,水位上昇速度を考慮したハザードマップの新しい見せ方を提案する.解析結果より,特に常願寺川での破堤の際には浸水継続時間,水位上昇速度を考慮することが重要であり,破堤箇所付近では流速の影響が大きいことを明らかにした.また,2019年台風19号の千曲川での洪水被害を考慮したリスクランク評価手法を構築し,垂直・水平避難ゾーンを明示した新しいハザードマップの見せ方を提案することができた.

  • 本間 升一朗, 太田 皓陽, 柳沼 秀樹, 小野村 史穂, 片岡 智哉, 二瓶 泰雄
    2020 年76 巻2 号 p. I_721-I_726
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,近年甚大な被害が生じた3つの主要な実洪水氾濫事例に関してETC2.0を用いて車両通行状況と洪水氾濫状況を比較することで,車両通行情報による洪水氾濫モニタリングへの活用可能性を調べた.両者を比較したところ,浸水域において有意に車両通行量が減少していたことが確認された.また,車両1台毎に挙動を着目したところ,浸水域を反映した車両の挙動が確認された.浸水域の抽出指標として,洪水時の通行量を平常時の通行量で除した「無次元車両通行量」を提案し,2015年鬼怒川氾濫の主要幹線道路に適用することでその有効性を確認した.以上から車両通行情報が洪水氾濫モニタリングに有用であることが示唆された.

  • 戸田 敦仁, 尾﨑 平, 石垣 泰輔, 橋本 彰博, 戸田 圭一
    2020 年76 巻2 号 p. I_727-I_732
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     近年,豪雨災害が頻発し,各地で内水被害が発生している.今後,気候変動の影響により,豪雨災害の規模が増大することが懸念されている.そのため,気候変動を考慮した下水道計画が求められる.そこで,本研究では大阪梅田地域を対象に,多数アンサンブルかつ高解像度の特徴をもつd4PDF(5km,SI-CAT)を用いて,将来の平均気温4℃上昇時の10年確率計画降雨を算定した.現在の計画降雨と比較した結果,降雨強度,総降雨量共に増大することが明らかとなった.また,時間雨量が最大となるワーストケース降雨により甚大な内水被害が予想されるが,地下出入口に止水板を設置することで,流入量を削減できることを示した.

  • 堀江 展弘, 重田 尚秀, 渡辺 政広
    2020 年76 巻2 号 p. I_733-I_738
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     プライスマン・スロット・モデル(Preissmann Slot Model, PSM)は,都市下水道管渠システムでのサーチャージ流れの実用的な解析モデルとして,従前より広く用いられてきているが,本来の幅から拡幅したスロットを用いる流出シミュレーション結果,特に水位ハイドログラフには,水位低下が顕著に表れるなどの問題点・課題が指摘されてきている。これは,これまで,PSMの開水路非定常流れの基礎方程式を,下水道管渠の管水路非定常流れのそれと対比してパラメータ同定する作業が行われてこなかったため,どの程度の拡幅をしたスロットを採用して良いかが,明らかになっていなかったことによると考えられる。

     本論文では,PSMの開水路非定常流れの基礎方程式を,下水道管渠の管水路非定常流れのそれと対比して,厳格に同定する方法を示すとともに,実用上から同定する方法を提案した.

  • 草野 魁叶, 石垣 泰輔, 寺田 光宏
    2020 年76 巻2 号 p. I_739-I_744
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     地球温暖化に伴う気候変動の影響から降雨形態(頻度や強度)が変化する可能性が高まっている.また,都市部の大阪では地下街や地下鉄等の地下空間の利用が進展しており,大阪市を中心に地下鉄網が広がっている.本研究では,出版されている書籍に記載されている工事記録や路線縦断図をもとにトンネルの細かな形状を考慮した地下鉄モデルを新たに構築し,内水氾濫解析を行うことで地下鉄モデルの高度化が地下鉄網の浸水状況に与える影響について検討した.得られた結果より,トンネルの凹凸は氾濫水の伝播範囲に影響を与えることが明らかとなった.また,地下鉄モデルの高度化によって,氾濫水の伝播による影響を受ける危険性が高い地下鉄駅を明らかにすることができた.

  • 中阪 友太朗, 太田 和樹, 石垣 泰輔, 戸田 圭一
    2020 年76 巻2 号 p. I_745-I_750
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     近年,日本では,気候変動の影響により局所的な短時間の集中豪雨の発生回数や降雨量が増加しており,今後も増加すると指摘されている.また,都市部では限られた土地を有効活用するため,地下街や地下鉄といった地下空間の利用がされるようになった.このため,地下空間を有する都市において内水氾濫が発生した場合には,地上の市街地だけでなく,地下空間にも浸水が及ぶ危険性がある.本研究では,実在する大規模地下街を対象に,想定最大規模の降雨を用いて地上部の内水氾濫解析を行い,地下への流入量をもとに地下街の浸水解析を行った.その結果,地下街全体で広範囲に浸水し,避難が困難になることが示された.また,地下浸水への対策として止水板の設置について検討した結果,地下街の浸水に対する減災効果を得られた.

  • 庄田 侑平, 石垣 泰輔, 尾崎 平, 安田 誠宏
    2020 年76 巻2 号 p. I_751-I_756
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
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     南海トラフ地震は30年以内に発生する可能性が高く,都市部に大規模な被害を与えると想定されている.また,都市部では地下鉄と地下空間が広がっており津波により浸水しやすいと推定される.本研究では,大阪市の地下鉄や地下街を対象に下水管のシミュレーションソフトInfoworksICMを用いて浸水の検討を行った.従来は地上からの浸水を対象に避難検討が行われてきたが、本研究では地下鉄の伝播によって浸水する駅も対象に検討を行った.解析の結果,浸水駅の中でも非浸水域の駅が氾濫水の伝播によって浸水する駅の方が,浸水域の駅の数より多い結果が得られた.それに加えて,地下鉄の出入り口やトンネル坑口からの溢水も見られた.こうした二次被害を防ぐ為の対策が必要であることが示された.

  • 小幡 翔吾, 島谷 幸宏, 佐藤 辰郎
    2020 年76 巻2 号 p. I_757-I_762
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     六角川流域における流域治水のために,ため池による内水対策が効果的であると考え,その検討を行った.分布型降雨流出氾濫モデルを六角川流域に適用し,令和元年8月の豪雨を対象に,ため池の洪水緩和機能を評価した.その結果,現況のため池により氾濫水量が15.0万m3減少することがわかった.また,同一降雨を対象にため池の事前放流をした場合を考え,ため池の洪水緩和機能を評価し,氾濫水量が38.3万m3減少することがわかった.さらに,ため池の事前放流により,多くの家屋で浸水深を低減できることが明らかとなった.以上のことから,ため池を用いた内水対策は効果があると結論した.

  • 谷口 健司, 北口 都由佳
    2020 年76 巻2 号 p. I_763-I_768
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     地球温暖化に伴う大規模水害の発生が懸念されるなか,洪水氾濫を前提とした治水対策の検討とそのリスク軽減効果の評価が必要になるものと考えられる.本研究では,石川県小松市を流れる一級水系・梯川を対象として,複数の降雨波形を入力値とした氾濫解析を実施した.また,既存道路を活用した様々なパターンの氾濫制御施設の設置を想定した氾濫解析を実施し,その氾濫流拡大抑制効果による浸水域の変化について検討を行った.さらに,氾濫解析より得られる浸水深分布を用いて,治水経済調査マニュアル(案)に基づく経済損失の推定を行い,氾濫制御施設の被害軽減効果を検討した.氾濫制御施設を適切に配置することで氾濫流を制御し,住宅街や商業地等の資産が集中する地域の浸水範囲や浸水深を減少させ.経済損失を20%程度軽減できる可能性が示された.

  • 伊藤 毅彦, 尾形 勇紀, 佐山 敬洋, 片岡 智哉, 小野村 史穂, 二瓶 泰雄
    2020 年76 巻2 号 p. I_769-I_774
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     令和元年台風19号は東日本の広い範囲に甚大な洪水被害を及ぼした.荒川水系では,支川の計7箇所の堤防決壊に伴う広範囲に及ぶ浸水被害が生じ,荒川本川においても氾濫危険度は高い状態であった.本研究では,氾濫域における現地観測を行い,これに基づく解析をしたところ,荒川流域における浸水面積は25.9km2,氾濫水量は約3100万m3であった.また,越水氾濫が生じなかった荒川本川において,氾濫が生じ得た可能性を検証するため,実績降雨データ及びアンサンブル予測降雨データを用いて,流出解析及び河川流解析を行い,得られた河川水位縦断分布に基づく氾濫リスクの評価を行った.その結果,荒川本川では,計画高水位を長時間超過する区間が多く存在し,超過時間は最大14時間になることが確認されており,高い氾濫リスクが存在したことが示唆された.

  • 見上 哲章, 福岡 捷二, 渡邊 明英
    2020 年76 巻2 号 p. I_775-I_780
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     豪雨の頻発化や水害の激甚化が生じる現在,進行中の洪水の縦断水面形時系列を活用し,高精度に解析できる洪水予測手法が求められる.本研究では観測水面形時系列に基づいた同化解析を行い,得られた縦断水面形と流量時系列情報を基に,洪水流伝播を利用した水位予測手法とタンクモデルの流出量を修正した水位予測手法の適用性を検討した.この結果,H25.9洪水の水位伝播時間が明らかとなり,それをリードタイムとした予測水位は観測水位に概ね合致した.また,同解析流量に基づきタンクモデルの状態量を適切に修正した予測流量から水面形を予測することで,長いリードタイムにおいても観測水位への適合度が高いことが示された.このため,本予測手法の防災情報への利用性は高いことが示された.

  • 吉川 夏樹, 髙野 陽平
    2020 年76 巻2 号 p. I_781-I_786
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究では都市化が進む地域における農業用排水施設の多面的な役割を定量評価することを目的に,洪水時における排水中に含まれる地目別流出成分を可視化するモデルを開発した.任意の地目に降下する雨水に濃度1,それ以外の地目に濃度0のトレーサーを与えて追跡するトレーサーサブモデルを構築し,先行研究で開発した内水氾濫解析モデルに実装した.これによって,排水路内の排水および氾濫水中に含まれる任意の地目を起源とする水の濃度を可視化することができるようになった.本モデルを近年都市化の進展が著しい地区に適用した結果,農業用排水機場が洪水ピーク時に排水する成分に非農地由来の雨水が多く含まれるほか,農地の浸水に寄与することが明らかになった.

  • 髙野 陽平, 吉川 夏樹, 松下 時生
    2020 年76 巻2 号 p. I_787-I_792
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究では水田の畑作物利用による流出特性の変化が流域スケールの氾濫現象に与える影響を評価するモデルを開発した.モデル化にあたって,転作田の流出機構および特性を明らかにするため,現地調査を実施した.その結果,転作田からの流出は降雨波形に鋭敏に応答し,水稲田と比較してピーク流出は大きく,ピーク到達後は迅速に流出が減少する特徴が確認された.流出量が増大した要因は畝間への湛水と考え,圃場面の畝間形状を余弦関数で表現し湛水深の変化を考慮できるモデルを構築した結果,観測結果を良好に再現した.本モデルを既存の内水氾濫解析モデルに実装し,事例流域に適用した結果,水稲田から転作田への転換によって湛水被害面積が大きく増加することが示唆された.

  • 今井 洋太, 三橋 弘宗, 鎌田 磨人, 武藤 裕則
    2020 年76 巻2 号 p. I_793-I_798
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     兵庫県豊岡市の普通河川である田結川では,河川周辺の耕作放棄水田を洪水管理に役立てようとする取り組みが地域住民によって始められている.本研究では,普通河川である田結川流域で30年確率降雨による出水について二次元氾濫解析を行い,住民等によって設置された施設の有効性と,耕作放棄水田による洪水の一時貯留機能を評価した.その結果,洪水は耕作放棄水田の上流端の越流堤から流入し,直下に設置された堰によって流速が低下してから耕作放棄水田に流れ出していた.また,耕作放棄水田内に設置された止水板の一部は洪水を減衰させていた.そして,耕作放棄水田はピーク流量時には,約22%の流量をカットすること,さらに,出水イベント時の総流入量の約 25%を受け止めることが明らかになった.

  • 大目 雅公, 田浦 扶充子, 森山 聡之, 島谷 幸宏
    2020 年76 巻2 号 p. I_799-I_804
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     都市域のグリーンインフラ技術として,土壌への貯留浸透により流出抑制を行う雨庭が注目を集めている.本研究では福岡市内のコミュニティカフェ,戸建住宅において,対象降雨に対し福岡市下水道計画以上の降雨を100%流出抑制することを目標とした,土壌浸透や間隙貯留等による流出抑制型の雨庭を開発した.実装後には現地導水テスト,水収支のモニタリングを行い,設計時推定と実際の流出抑制効果を比較した.カフェでの導水テストの結果,単位時間当たりの流出は0mmとなり,推定貯水高約100mmに対し約130mm以上貯水することができた.戸建住宅でのモニタリングでは,日降雨量297.6mmの実降雨における推定流出高約7.9mmに対し観測された流出高は約0.24mmであった.土壌浸透や間隙貯留を考慮して設計された雨庭は,豪雨に対して高い流出抑制効果を持つことが示唆された.

  • 宮津 進, 松下 時生, 岩村 祐暉, 吉川 夏樹
    2020 年76 巻2 号 p. I_805-I_810
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,緩傾斜地という特徴をもつ栃木県杣井木川流域を対象に現地観測に基づいて構築した数値モデルを用いて浸水シミュレーションを実施し,田んぼダムの浸水被害緩和機能発揮における限界降雨を検討した.その結果,本流域では田んぼダムの効果が最大限発揮されるのは120年確率降雨(268mm/day)程度であることが明らかになった.また,700mm/day程度の降雨までは浸水被害量を軽減できるものの,降雨規模が大きくなると畦畔を越えて溢水する水田が増加し,田んぼダムの効果は低減することが確認された.

  • Thatkiat MEEMA, Yasuto TACHIKAWA, Yutaka ICHIKAWA, Kazuaki YOROZU
    2020 年76 巻2 号 p. I_811-I_816
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     This study aims to develop a reservoir-hydropower plant model and incorporate it into a distributed hydrological model to evaluate the effect of dam operation on river discharge and power generation. The model was composed of a reservoir power generation and hydrological processes with a concept of a kinematic wave-based assumption. By using the integrated model to assess the impact of hydropower development in the Nam Ngum Basin in Lao PDR, the results indicated that the change of river discharge at the downstream of Nam Ngum 1 reservoir is +218.8% during the dry season and –28.5% during the wet season in the full development scenario from the natural condition. There is no primary effect on the inflow of the Nam Ngum 1 dam by the operation of the under construction dam. On the other hand, the annual energy product of the Nam Ngum 1 has a minor increase.

  • 澤谷 拓海, 一言 正之, 植西 清
    2020 年76 巻2 号 p. I_817-I_822
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     深層強化学習を用いてダム下流河川の危険度を考慮して洪水調節を行うAIモデルを構築した.具体的には,まずダム放流量から下流河川の流量変化量を推定する回帰式を作成した.強化学習では,モデルの行動に伴う環境の変化に報酬を与えることで,高い報酬を獲得できる行動をモデルが学習する.本研究で構築したAIモデルでは,既往研究の学習設定に,回帰式から算定した下流河川の推定流量が流下能力を超過した場合に減点するという報酬設定を追加した.これにより,ダム地点の洪水調節とダム下流河川の危険度を低減する放流操作の獲得を狙った.構築したAIでは,下流河川の危険度が未考慮であるAIと比較して,多くの洪水事例でピーク流量の低減がみられた.また,現行の操作規則・細則に基づくシミュレーションとの比較も行い,モデルの妥当性を確認した.

  • 赤塚 洋介, 瀬戸 里枝, 鼎 信次郎
    2020 年76 巻2 号 p. I_823-I_828
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     近年,既存のインフラを活用した災害対策の需要が高まっている.特に,ダムによる洪水被害対策においては洪水が発生する前に予めダムの貯水容量を空けて貯留可能な容量を増やす事前放流操作が注目されている.本研究では,深層強化学習を活用したダム操作モデルを使用して予測流入量・雨量情報を活用した事前放流操作の可能性を検討した.モデルによる学習の結果から,深層強化学習を活用したダム操作モデルは予測情報を活用した事前放流操作に応用できることが明らかになった.一方で,事前放流操作と洪水調節操作を一連の操作として学習を行った場合,モデルが選択する行動が1つに収束し,適切な結果を得られない可能性があることは判明した.

  • 野原 大督, 木谷 和大, 道広 有理, 角 哲也
    2020 年76 巻2 号 p. I_829-I_834
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     欧州中期予報センター(ECMWF)が提供する15日先までのアンサンブル降雨予測を活用した利水専用ダムの事前放流操作のシミュレーションを実施し,長時間アンサンブル予測情報を考慮した事前放流の有効性について分析した.事前放流の実施判断には,上位の予測メンバにより事前放流の実施の必要性を,下位の予測メンバにより事前放流量を決定する方式を採用した.分析の結果,採用した事前放流方式では,出水規模に応じた事前放流可能量の算出により出水後の確実な貯水位回復が達成された一方で,事前放流の早期の開始によって多くの貯留水の事前放流が可能となり,大きな治水効果が得られる結果となった.

  • 山洞 智弘, 中津川 誠, 小林 洋介, 坂本 莉子
    2020 年76 巻2 号 p. I_835-I_840
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,未経験洪水事例にも適用可能なダム流入量予測手法の提案である.近年,全国的に頻発している大洪水に対し,事前放流など被害を最小限に抑える操作のため,予測先行時間が長く信頼性の高いダム流入量の予測が望まれている.本研究では,少ない情報からデータ間の関係性を特定することを目的に活用が進んでいるスパースモデリング手法の一つであるElastic Netを用いて,関係する気象・水文情報から24時間先までのダム流入量積算値の予測を試みた.結果として,2016年8月北海道豪雨事例のように大雨が連続し,土壌の湿潤状態が変化する場合にも,半減期720時間の実効雨量を説明変数に加えることで安全側の予測が可能であることを示した.最終的に複数の未経験洪水事例に対して,実務に利用可能なレベルの予測結果が得られることを確認した.

  • 武馬 夏希, 中矢 哲郎, 藤山 宗
    2020 年76 巻2 号 p. I_841-I_846
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     開水路系を対象に,水路内貯留を用いて水需要と水供給の不一致を吸収するための,ゲート操作手法を検討した.対象地域の農業用水路は下流側地域で水不足の問題を抱えており,観測結果から,上流側で用水が優先的に取水されるため需要ピーク時に下流側で水不足が生じていると推察された.この問題に対処するため,上流制御ゲートと下流制御ゲートの間を水路内貯留の容量として用い,水需要のオフピーク時に用水を貯留しピーク時に放流する手法を提案した.本手法により,水路上流域でのピーク需要時でも分水口や水路下流端で流量低下を緩和できることが,数値解析上で示された.調整池が造成できない現場では,水路側壁を嵩上げし水路内貯留の容量を増強することで本手法を適用できる.

  • Morimasa TSUDA, Masahide ISHIZUKA
    2020 年76 巻2 号 p. I_847-I_852
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     Due to the increased frequency of floods caused by torrential rainfall in recent years, reservoir operation is expected to be flexible enough to mitigate damage in downstream areas during flood events, rather than following pre-defined flood control rules. This study proposes a new method to determine reservoir control options, using backward simulation of river discharge. A reverse routing method with a kinematic wave equation was performed using a time series of lateral inflows into a river channel obtained from a rainfall runoff model. Two case studies were examined for the Sameura Dam in the Yoshino River, Japan. It was confirmed that the proposed method was effective in determining the volume of water to release from the dam to control the downstream flood level, accounting for the volume and timing of inflows from tributaries and hill slopes.

  • 小島 裕之, 永谷 言, 久保 裕基, 孫 夢霞, 川村 育男, 角 哲也
    2020 年76 巻2 号 p. I_853-I_858
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨や令和元年東日本台風による水災害以降,ダムの容量を有効に活用する方策の一つとして,制限水位以下の利水容量などを放流した上で治水容量として一時的に活用する事前放流が改めて注目を浴びている.しかしながら,現時点では,事前放流の実施が貯水池内の堆砂特性に与える影響やこれらの将来変化を予測する手法は確立されていない.そこで,本研究では,全国の多目的ダムの堆砂実績から,貯水池容量配分比率と堆砂進行速度,堆砂形状の関係について検討するとともに,モデルダムに対して事前放流を実施した場合の河床変動計算を行い,上記の結果との比較考察を行った.この結果,実ダムの堆砂実績より,総貯水容量に対する治水容量の比率によって堆砂特性が異なることを確認した.また,事前放流を考慮した河床変動計算の結果,迎洪水位を低下させた場合において,上記と同様の傾向を確認した.このことから,事前放流の実施においては,堆砂特性の変化に留意が必要であることが示唆された.

  • 中村 要介, 江頭 進治, 池内 幸司, 柿沼 太貴
    2020 年76 巻2 号 p. I_859-I_864
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     これまでデータ同化を用いた水位予測に関する研究は盛んに行われてきたが,降雨流出モデルにおける空間状態量と河床変動を同時かつ逐次的に修正し,リアルタイムの予測問題に取り組んだ研究は少ない.本研究のターゲットは中小河川であり,本論では河床変動が著しい芹川を対象とする.RRIモデルの斜面水深と予測地点の河床変動量を粒子フィルタ(PF)で同時かつ逐次的に推定するとともに,河床変動の予測モデルを組み込んで6時間先までの河川水位の予測精度向上を図る.その結果,本研究の提案手法は観測水位に同化できているだけでなく,河床変動量をPFが推定することで,長いリードタイムの予測精度が確保でき,降雨流出モデルと同時に河床変動を適切に取扱うことの重要性を示すことができた.

  • Can DING, Kenji KAWAIKE, Hajime NAKAGAWA, Kazuki YAMANOI, Rocky TALCHA ...
    2020 年76 巻2 号 p. I_865-I_870
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     A series of physical experiments was conducted to investigate the influence of paddy ridges on the suspended load deposition under the scenario of embankment failure. A constant flow discharge and sediment was supplied at the breach as the inlet boundary, and three experimental cases were conducted by varying the downstream boundary height with or without using ridges. Experimental results show that, in the case of presence of downstream wall, the deposition occurred mainly in the vicinity of the inlet boundary and along the main flow direction. In the case of the open downstream boundary, no deposition was seen to occur near the inflow boundary owing to the high bed shear stress, most of the sediment was transported downstream and deposited there. In the vicinity of the paddy ridges, sedimentation was found at the back of the ridges but not at the front side and downstream of the ridges. A two-dimensional numerical model used here could generally simulate the deposition area and thickness, but it cannot provide sufficient explanation of the deposition near the ridges due to the three dimensional flow characteristics of the water in this area.

  • 五十嵐 孝浩, 竹林 洋史, 浜田 裕貴, 田中 安理沙, 上村 雄介
    2020 年76 巻2 号 p. I_871-I_876
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     平成28年熊本地震後の降雨(4月降雨と6月降雨)による土砂災害を対象に土砂災害雨量指数を算定,土砂災害発生地点の発生時刻前後の土砂災害雨量指数が基準値(閾値)未満であることを確認した.基準値を引き下げることによる土砂災害発生箇所数の変化を整理し,判定範囲内に含まれる引き下げ後の判定ランクごとの発生箇所数の変化から,土砂災害危険情報サービスとして,土砂災害発生前に土砂災害危険度判定による通知が可能となり,かつ空振りの増大を抑制できる最適な基準値の引き下げ率を検討した.

  • 野口 新之助, 山野井 一輝, 川池 健司, 中川 一
    2020 年76 巻2 号 p. I_877-I_882
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,広島県南部の花崗岩類分布地域における平成30年7月豪雨の土砂災害データとそれに関連する地形・降雨データを基に作成されたデータセットを対象に,順序ロジスティック回帰分析を実施した.分析により構築された回帰モデルは,XRAINメッシュ空間における地形条件と降雨条件を入力とし,その空間で起こりうる土砂生産の規模に対する4段階のカテゴリーの各発生確率値を予測する.また,土石流の堆積勾配式に基づく簡易な土砂移動モデルを構築し,上記の両モデルを併用した多ケースシミュレーションによる土砂堆積域の確率的な予測手法を提案した.同手法の適用では,平成30年7月豪雨で被害を受けた広島県安芸郡坂町総頭川流域を対象とした.計算結果と実際の被災状況の比較から,同流域においては良好に土砂流出傾向を示すことができた.

  • 川池 健司, 武田 誠, 豊田 政史, 余川 弘至, 山野井 一輝, 中川 一
    2020 年76 巻2 号 p. I_883-I_888
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     長野市の穂保地区では,千曲川の堤防決壊による洪水氾濫に伴い大量の土砂が堆積し,農作物や農地に被害が出たほか,土砂の撤去などの復旧の妨げになるなどの被害をもたらした.堆積した土砂について現地調査を行ったところ,粒径がかなり細かい土砂が決壊地点付近で20cm以上堆積している様子が見られた.つぎに,支川流域からの流出流量を考慮して千曲川の洪水流を再現し,それを境界条件に用いて掃流砂と浮遊砂を考慮した非構造格子による数値解析モデルで氾濫流と土砂堆積の再現計算を行った.解析の結果,最大流動深や土砂堆積の全体的な傾向は再現できたものの,各地点の土砂堆積厚の再現精度にはさらに改良が必要であることがわかった.さらに,複数の堤防決壊箇所を想定して土砂堆積厚の最大値を重ね合わせることによって,洪水氾濫による土砂堆積想定区域図の作成を試みた.

  • 山野井 一輝, 堤 大三, 藤田 正治
    2020 年76 巻2 号 p. I_889-I_894
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     土砂災害の予測を行う上では,降雨浸透,斜面崩壊および土砂流出のそれぞれの過程を統合的に扱うことが重要である.しかしながら,斜面崩壊の正確な予測には,すべり面位置の予測が求められるが,複雑な形状を持つ流域地形上では計算が容易ではなく,これに伴う土石流・土砂流出の解析も困難であった.そこで本研究では,等高線に垂直に交わるチューブの集合で流域を表す事の可能な,ストリームチューブに基づく地形分割手法を用い,飽和側方浸透流を考慮した降雨浸透解析と,すべり面解析,および土石流解析をインタラクティブに統合した数値シミュレーションモデルを構築した.九州北部豪雨で被災した乙石川流域へ適用した結果,本川周辺の被害が良好に再現されることを確認した.

  • 太田 一行, 佐藤 隆宏
    2020 年76 巻2 号 p. I_895-I_900
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

     橋梁およびダム堰における流木捕捉を統一的に捉えて,構造物周辺の水理特性と流木捕捉確率の関係を検討した.まず水理実験により橋梁およびダム堰での流木捕捉確率を定量化した後,3次元数値流体解析を援用した考察により,橋梁およびダム堰の流木捕捉確率を統一的に表現可能な無次元水理量を見出した.具体的には,ピア間における縮流流速の影響および構造物への接近流速の影響を表す2つの無次元水理量(無次元縮流流速,加速率)を抽出した.また,ダム堰では自由越流に伴う流れの加速により無次元縮流流速および加速率が大きくなるため,橋脚に比べて流木捕捉確率が低い傾向であることが示された.

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