土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
81 巻, 16 号
特集号(水工学)論文
選択された号の論文の193件中51~100を表示しています
特集号(水工学)論文
  • 泉 典洋, 栃本 怜美, 井上 卓也
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16054
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     基盤岩が露出する露岩河床上において断層等の地殻変動によって発生した段差部(ステップ,滝)は,ステップ上で流速が大きくなり侵食が集中することによって時間の経過とともに上流に遡上すると言われている.基盤岩の場合,侵食の原因となるのは流水によるものというより流水によって運搬される流送土砂によるものであり,流送土砂による侵食関数も定式化されている1).ところが,その式を用いて数値シミュレーションを行うと,時間の経過とともにステップが消滅することが明らかとなっている.本研究では,緩勾配の露岩河床上に形状を維持しながら上流へ遡上する孤立ステップ(単独の滝)が形成され得るか否かを理論的に明らかにした.

  • 木戸 理歩, 井上 卓也, 山野井 一輝
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16056
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     土砂洪水災害の被害を拡大させる山地流域からの流出土砂量を予測することは,気候変動による被害の増加を防ぐためにも重要である.本研究では河岸侵食による川幅の拡大と広い粒度分布をもつ山地流域での遮蔽効果を土砂流出モデルSiMHiSに組み込み,山地流域における土砂流出モデルの精度向上を図った.その結果,2016年北海道豪雨時のペケレベツ川上流部からの流出土砂量及び川幅の拡大を再現することができた.さらに,川幅拡大による掃流力の低下を考慮できたことで極端な侵食が抑えられるようになった.また,細粒土砂の遮蔽効果を適切に考慮できたことで極端な堆積が抑えられ,粗粒化を適切に表現できるようになった.

  • 赤堀 良介, 渡邊 康玄, 伊藤 隆郭, 柴田 隆之介, 杉原 匡, 高原 春登, 田川 尊登
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16057
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     出水時の流木の挙動については治水上の重要な課題とされてきたが,近年は流木と土砂輸送機構の関連について改めて注目が集まりつつある.国内の一部河川では比重の大きい広葉樹由来の流木が掃流的に河道を輸送される可能性が示されており,これまでの土砂水理学的な挙動とは異なる河道の変化をもたらすことが予想される.本研究では簡易なParticle Semi-implicit Model型の流木モデルをこのような掃流型の輸送に適用できるよう修正し,既往の屋外水路実験での流木挙動の再現に適用した.流木の堆積位置について比較的良好な再現性が得られた他,流れに対する迎角を評価した抗力項の寄与が高いことが示唆された.

  • 福丸 大智, 赤松 良久
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16058
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     本研究では,中国地方の5つの一級水系を対象に深層学習を用いた河川水温予測モデルを開発し,入力層に雨量も用いることによる精度の変化を検討した.具体的には,流域内全地点の気象データを入力に用いて流域内全地点の水温を同時予測する条件下で,気温のみを入力する場合と気温に加えて雨量も入力する場合の2条件で比較した.その結果,気温のみの入力では特に集水域面積が大きい本川の地点で6~8月の出水時期の水温を5℃以上過大評価したのに対し,雨量も入力に用いた場合は最大でも2℃程度に低減し,平均絶対誤差率(MAPE)は対象地点のほどんどで10%以下となった.したがって,気温に加えて雨量も入力に用いることで,流域一貫の高精度な河川水温予測を実現可能であることが示された.

  • 前田 尚哉, 鈴木 颯人, 宮本 仁志
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16059
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     本研究では,機械学習を多段階適用させることで河川植生分布を予測し,植生の侵入・消失の要因を分析する新しい予測モデルを開発した.機械学習にはRandom Forest(RF)を使用した.この多段階モデルはSegmentごとに最適化され,入力データの翌年の河川植生分布を予測する.この多段階モデルを鬼怒川の複数河道に適用した結果,単純なRFモデルと比べてF値が約1割向上した.蛇行部内岸砂州などで予測精度が向上した結果,F値は全てのSegmentで0.8以上となった.予測結果による要因分析では,Segmentごとに特徴づけられる河道の地形・流動特性の違いにより植生の侵入・消失の主要因が反転する可能性が検出された.以上より,本研究の多段階モデルは河川植生の分布予測に有用であることが確認された.

  • 佐藤 拓也, 岩見 収二, 加藤 千恵, 宮本 仁志
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16060
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     本論文では,鬼怒川の礫河川を対象に衛星画像の正規化指標を用いた機械学習により河川地被分類を試み,筆者らの提案する洪水流解析手法の汎用性向上を検討した.河川地被分類では,衛星画像から作成した正規化指標を用いて機械学習を行い,撮影時点の異なる未学習の衛星画像に適用した結果,F値が0.76以上の精度で河川地被が分類された.得られた地被を粗度係数に換算した上で洪水流解析を行い,正解データの解析水位と比較した結果,水位差は0.1m未満となった.このとき,河川横断面ごとに算出したF値は0.8以上となり,洪水流解析に対する精度確保の必要条件が鬼怒川の礫河川でも検証された.以上より,本研究で提案する洪水流解析手法は,河川地被変化が流下能力へ及ぼす影響を高頻度で定量評価するのに有用であることが確認できた.

  • 中谷 祐介, 懸樋 洸大, 岩岡 慶晃, 鹿島 千尋
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16061
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     定点カメラで撮影された河川水面画像からスカム被覆率を定量化する深層学習モデルについて,複数地点への適用性を評価した.さらに,ラグランジュ粒子追跡シミュレーションに検出モデルの出力を逐次的に同化し,夜間や地点間のデータ欠損を補間することで,スカムの時空間挙動を連続的に追跡可能なシステムを開発した.その結果,ダミー画像を基に学習した検出モデルに対し,少数のオリジナル画像を用いたファインチューニングを行うことで,スカムの検出精度を向上させ,誤検知率を低下させることができた.また,検出モデルではスカムの挙動を離散的にしか把握できなかったが,同化シミュレーションでは潮汐に応じてスカムが流下・遡上を繰り返しながら輸送される様子を可視化することができ,開発した挙動追跡システムの有用性が示された.

  • 門脇 大典, 安達 智哉, 中谷 祐介
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16062
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     大阪府寝屋川水系における浮遊ごみの動態を明らかにするために,定点カメラで撮影した水面画像から物体検出モデルYOLOv5を用いて浮遊ごみの連続検出を行い,その動態に及ぼす風と潮汐の影響を解析した.その結果,寝屋川水系では感潮限界付近で浮遊ごみ個数密度が高く,満潮時に流れが停滞することで上下流から輸送された浮遊ごみが集積することが示唆された.浮遊ごみが多く検出された住道を対象に長期観測を行ったところ,浮遊ごみ個数の多寡には風況と潮汐が大きく寄与していた.降水量が少ない期間にも多くの浮遊ごみが出現していたことから,浮遊ごみは遡上方向の西風によって上流域へと輸送され,感潮域を長期間漂流すると考えられた.また,浮遊ごみ個数は朔望周期で変動し,大潮時には小潮時に比べて2~3倍程度増加することがわかった.

  • 佐藤 嘉展, 野原 大督, 角 哲也
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16063
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     気候変動の影響により,極端な大雨による洪水災害だけでなく,無降雨頻度の増加による水不足も懸念されている.また,流域治水の一環として農業用利水ダムにも治水協力が求められるようになってきているが,治水のために利水容量を小さくすると,渇水時に十分な利水能力を発揮できなくなる恐れがある.そこで,農業用利水ダム運用への気候変動影響を明らかにするために,三重県の安濃ダムを対象に,気象庁気象研究所のMRI-AGCM3.2Sの長期連続気候実験データを用いて,分布型流出モデル(Hydro-BEAM)にダムモデルを組み込んだモデルシミュレーションを行った.その結果,将来の利水補給が制限される日数が現在の約1.2~1.8倍に増加し,給水停止となる日数は現在の約1.5~2.0倍に増加することがわかった.

  • 安藤 胤帆, 伊島 実咲, 早田 圭吾, 正木 守, 丸谷 靖幸, 渡部 哲史, 矢野 真一郎
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16064
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     令和2年7月豪雨により甚大な洪水被害を受けた球磨川について,既存の市房ダムと建設計画中の流水型ダムである川辺川ダムについて,異常洪水時防災操作への移行確率への気候変動影響を評価した.d4PDFの現在気候,将来気候(2℃,4℃上昇)を対象とし,流出モデルと操作規則によるダムモデルを用いて評価を行った.また,下流の人吉地点で超過洪水になる確率を評価した.これらを回避するため,市房ダム再開発,川辺川ダムの鍋底流量増量,ならびに遊水地造成について,効果検証を行った.その結果,両ダムの異常洪水時防災操作や人吉の超過洪水の発生確率と気候変動影響を定量的に評価できた.また,市房ダム再開発の効果が大きく,遊水地の併用で,目標の安全度を全気候条件で達成できる可能性があることが示された.

  • 西 琴江, KANTOUSH Sameh , 小林 草平, 角 哲也
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16065
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     気候変動対策として治水対策,カーボンニュートラルに貢献する既存ダム運用高度化の必要性が高まっているが,事前放流,後期放流,高度運用などの一連のダム操作を統合化させた検討が不足している.本研究では,水力発電を有する多目的ダムにおいて,新たに事前放流の下限水位,高度運用の活用水位を基準水位として設定し,一貫した高度運用が治水・利水安全度や水力発電量に与える影響を検討した.その結果,長時間アンサンブル予測を基に水位ごとにルールを変更してダム操作を行うことで,洪水・渇水リスクを監視しながら効果的に高度運用や事前放流をできることが分かった.また,貯水容量に対して発電最大使用水量が小さいダムでは,放流量の下限値を最大使用水量とすることで利水安全度を脅すことなく水力発電に資する操作ができることが示された.

  • 岡本 悠希, 小柴 孝太, 田中 智大, 角 哲也
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16066
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     大規模洪水の被害軽減や水力発電の有効活用を実現するため,アンサンブル降雨予測を利用したダム操作の高度化が期待されている.本研究では,アンサンブル降雨予測を利用した事前放流や洪水調節操作の最適化を行い,治水・利水双方にメリットがあるダム操作手法を実操作に適用する方法について検討した.ダムの最大放流量を最小化するような洪水調節操作によって,最大放流量とともに減電の原因となる発電所の無効放流も低減された.洪水調節操作の最適化に事前放流を組み合わせることで,治水効果と利水効果がさらに増大した.また,最適化結果をもとに予め用意された複数の操作オプションである「型紙操作」を用意することで,ダム管理の実務に実装しやすい形でダム操作手法を提案することができた.

  • 古家 諒也, Sameh Ahmed KANTOUSH , Quang Binh NGUYEN , Mohamed SABER , 小林 草 ...
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16067
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     ダムの長期運用には堆砂対策が必要である.土砂バイパストンネル(SBT)は観測流量に基づき運用されるが,流量予測や浮遊砂濃度(SSC)予測によって効率的に運用できる可能性がある.本研究では,美和ダムを対象として浮遊砂動態の分析を行い,アンサンブル降雨予測を用いた流量・SSC予測をSBT運用へ適用することを検討した.SSCは小規模出水では洪水初期に高くなり,大規模出水では洪水後期にも高くなることが確認された.また,SBT運用の開始時刻を予測流量に基づき,終了時刻を貯水位回復量の予測から定めることで,開始時刻の遅れに伴う土砂バイパス効率低下や貯水位が回復しないリスクを避けたSBT運用が可能になることが示された.

  • 若狭谷 昇真, 中津川 誠
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16068
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究の目的は,洪水時の水位予測と連動した避難行動を支援するデジタルツイン技術の提案である.水害発生前に,地域住民が避難場所やルートを適切に把握し行動に移すには,河道付近や背後地の状況が実感でき,氾濫に至る水理現象を時系列で表現するコンテンツが必要である.本研究では北海道室蘭市の知利別川を対象に,河道地形をレーザー測量で得られた3次元点群データ,後背地地盤を基盤地図情報,建築物をPLATEAUで表し,河川水位や浸水深といった水理現象をiRICNays2DFloodで計算し水害の時系列をイメージ化した.これらに避難場所やルートを加え,デジタルツイン上に再現されるハザードマップのイメージを提案した.このような現実の水害に近い実感を与えるコンテンツは,地域住民の適切な避難行動に有用であると考える.

  • 小林 亘
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16069
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     道路冠水を予測できれば,道路利用者は合理的な経路の選択に,道路管理者は効率的な通行規制に役立てることができる.本研究は道路に設置した1個の冠水センサによる冠水情報と降雨データを蓄積し,これにロジスティック回帰分析を適用して道路冠水の発生確率をリアルタイムに算出する手法を提案するものである.冠水センサは地点当たり1個であるため,道路冠水が突発的に発生する箇所,冠水センサを複数設置できない個所に適用できる.3か所の2年5か月の道路冠水と降雨を使用した実験により提案手法の有用性を確認した.

  • 平本 達典, 大塚 竜太朗, 柏田 仁, 水野 真由己, 西 弘二, 田中 衛, 二瓶 泰雄
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16070
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     近年,気候変動に伴う豪雨災害は激甚化・頻発化しており,洪水氾濫被害軽減のためには,洪水氾濫状況をリアルタイムにモニタリングし,適切な避難行動に結びつける必要がある.そこで本研究では,車両通行情報に着目し,車両通行情報と河川氾濫の様態の関係を明らかにするとともに,リアルタイムに洪水氾濫モニタリングを行い,避難情報に適した形での洪水氾濫モニタリング手法を提案した.その結果,50cm以上の浸水状況と車両通行状況は有意な関係があることが判明するとともに,浸水が確認された道路では相対的に通行速度の低下が確認された.最終的には道路を通過する車両の有無状況から地域標準メッシュ単位で浸水範囲を推定し,避難情報を出しやすくした.この手法は車両交通量が多い昼間の浸水範囲を評価する上で基本的な妥当性を有することが示唆された.

  • 柳原 駿太, 岡本 彩果, 風間 聡, 平賀 優介, 吉田 惇
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16071
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     令和元年東日本台風および令和2年7月豪雨により浸水した地域を対象に,浸水被害が2分の1地域メッシュ(500mメッシュ)の人口総数に与える影響を差分の差分法により評価した.また,地域特性が浸水被害による人口総数の変化に与える影響を分析した.その結果,浸水深の増加に伴い人口総数が減少することが示された.浸水被害が発生しなかった場合と比較して,浸水被害による500mメッシュ1セルあたりの平均的な人口総数の変化率は,令和元年東日本台風の浸水地域において-2.9%,令和2年7月豪雨の浸水地域において-10.4%と推定された.また,浸水被害が人口総数に与える影響は地域特性により異なり,例えば,医療機関までの距離が長いほど,浸水被害による人口総数の減少が大きくなることが示された.

  • 吉井 祥真, 柏田 仁, 田中 衛, 二瓶 泰雄
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16072
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     我が国では,様々な災害が毎年のように発生している.複数の災害が同時に発生し,インフラシステムが寸断するという空間・時間連鎖型マルチハザード(以下よりMHとする)による被害の甚大化が懸念されている.本研究では空間・時間連鎖型MH研究の第一歩として,時間連鎖型MHの事例調査・解析を行うと共に,浄水場に着目したMHポテンシャル評価を目的とする.そのため,令和4年台風15号と令和5年7月秋田大雨による浄水場の断水発生の時間連鎖型MHの実態についての現地調査を行った.また,ハザードマップと確率論的地震動予測地図を用いて,全国の浄水場における災害発生ポテンシャルを評価した.その結果,多くの浄水場で何らかのハザードによる被害の危険性があることを確認し,その中でも洪水・地震による被害が大きいことが分かった.

  • 赤穗 良輔, 久我 知弘, 山本 樹, 劉 可欣, 宅野 智紀, 前野 詩朗
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16073
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     近年,気候変動の影響により水害が激甚化・頻発化している.また,今後30年以内の発生確率が70~80%と想定される南海トラフ地震による巨大津波の発生も危惧され,津波と洪水の複合災害も検討する必要がある.本研究では,包括型氾濫解析モデルを用いて児島湾へ流入する旭川,百間川,吉井川を対象に,複合災害時の津波遡上特性を検討した.結果,洪水規模が小さい場合の方が津波遡上距離が大きくなり,数km以上にわたって河川を遡上することが確認された.一方,洪水規模が大きくなると津波遡上距離は小さくなるが,洪水自体の影響により河川水位は上昇する.また,海域における津波の伝播方向に対する河口の入射角度が大きい河川ほど,洪水流の影響が顕著になり,水位上昇範囲が狭くなる傾向が示された.

  • 田中 岳
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16074
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,降雨流出系に貯留型流出モデルを採用し,降雨強度,貯留係数,初期流出高を既知の確率変数として,時間変化する流出高の確率特性を理論的に推定可能な微分方程式を提案し,その妥当性をシミュレーション法に基づき示した.その結果として,流域の地形や地質に関わるパラメータ(貯留係数)の分散が洪水の到達時間近傍で,また,降雨強度の分散はその値に比例する形で,それぞれ流出高の分散を変化させることが示された.本研究の成果と物理モデルの確率応答解析の結果との比較を通して,貯留型流出モデルが適用可能な流域面積など,流出モデルの集中化の妥当性を評価,議論することが可能になると考えられる.

  • 小林 健一郎, 垣内 しい
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16075
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本稿では風が洪水伝播,降雨流出過程に与える影響を数値実験で検証した.浅水流方程式とそれに基づく流出・氾濫モデルを適用した.5mと250m解像度の仮想領域で仮想及び観測の風を利用して洪水伝播波形,速度,範囲がどのように変化するかを検討した.結果として,進行方向の風により洪水伝播は加速し,範囲も広がるが,無風状態と比べて各地点で水位が上昇するか下がるかは位置によること,250m解像度の計算も一般的な傾向としては5m解像度と同じようになることを示した.また,実測風により洪水流の移動方向が変化することも明確にわかった.次に,荒川流域の令和元年東日本豪雨時の洪水についても風の有無のもとで流量計算し,変化を見定めた.結果として,実測風の有無では,わずかな流量差があるだけであった.他方,風速が2倍,5倍となるにつれて流量変化が大きくなった.

  • 平沢 陽子, 中津川 誠, 臼谷 友秀
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16076
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     本論文の目的は,降雨に加え融雪を考慮することで,積雪寒冷地でも通年で適用可能な流出予測手法を提案することである.気候変動により積雪寒冷地では融雪に相まった大雨が懸念されるが,融雪を考慮した流出モデルの研究や実用例は多くない.本研究では,降雨量に加え融雪量の推定,積雪層を考慮した斜面流出,河道追跡から成る分布型流出モデル手法を提案する.本手法では気象庁の解析積雪深を用いて,積雪モデル等を必要とせず簡易に融雪量を推定できる.本研究では,長期の流出計算による水収支の妥当性を確認した上で,過去事例の再現と予測計算を行った.その結果,融雪期を含め任意の期間に流出量の推算・予測ができることを示した.また,公開気象情報を活用することで,積雪寒冷地域にも通年で適用できる実用的な流出予測手法を提案した.

  • 黒澤 祥一, 風間 聡
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16077
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     本論文は米代川流域における高標高積雪深データとアメダスデータを分析し,数値モデル以外の方法による融雪出水予測手法を提案した.アメダス観測による積雪深,降雨量,気温データに閾値を設けることによって危険度の高い融雪出水を予測した.この予測手法を2022年データにおいて検証し,実用性を示した.アメダス地点の消雪後の融雪出水に対して,高標高の積雪深観測の有効性を示した.米代川流域の場合,高標高において約30cm以上/3日の急激な積雪深低下,気温約10℃以上,日5mm程度の降雨の条件によって危険度の高い融雪出水の発生を示した.この成果は,数値モデルによる洪水予測システムの未整備な自治体において,融雪出水時の防災情報や水防体制に活用できる手段であり,高標高積雪観測の重要性を示した.

  • 佐藤 柳言, 三井 洋平, 高橋 正行
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16080
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     与えられたフルード数のもと,レイノルズ数を系統的に変化させた実験によって,スルースゲート直下に形成される自由跳水の流速分布と乱れ強さ分布とが示された.跳水の流速特性と乱れ強さ特性に対するレイノルズ数の影響が示された.跳水の始端断面と任意な下流側断面との間の検査領域でのエネルギー収支が求められ,自由跳水の表面渦終端では跳水によるエネルギー損失が達成されていないことを明らかにした.跳水のエネルギー減勢に着目し,跳水型減勢工の水叩長の合理的決定に適切な跳水の長さが示された.

  • 浪平 篤
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16081
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     農村地域における都市化や混住化に伴い,農業用水路の落差工で発生する落下水音等が,その周辺に新たに居住するようになった人々にとっては騒音として認識される場合が生じるようになってきている.そこで,水クッション型落差工における落下水音の発生の予測を目的として,現地で計測された音圧レベルから求めた音響パワーレベルと,数値流体解析から得られた乱流エネルギー散逸率の関係を検討した.その結果,乱流エネルギー散逸率は,流量や段落差の変化が音響パワーレベルに及ぼす影響を予測できる可能性が高いことが確認された.従来,着目されてきた単位時間単位幅あたりの落下エネルギーよりも,音響パワーレベルとの相関関係が高いことも確認された.

  • 山本 健介, 太田 和彦
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16082
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
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     老朽化した水インフラの維持管理は必要不可欠であり,配管の簡便な点検方法が望まれている。本研究では,一対の送受波器のみを用いた時間反転波による音波の収束を利用して,管内変形の検出のための新たな手法を提案する.このため容積や材質の異なる変形模擬物を用いた基礎実験をトーラス形状の管内で行い,本手法の有効性を確認した.なお,管内の割れやきず等の検出は提案手法の対象範囲外としている.加えて時間反転波の受信波形のみで変形の有無の判別が困難な場合に,その有無に対応した信号を判別する深層学習モデルを構築し,正解率及びF値を評価指標として提案手法の有効性を評価した.

  • 松本 海太, 岡田 健太郎, 彭 玥寧, 丸山 桃茄, 米田 響, 尾山 洋一, 駒井 克昭, 中山 恵介
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16083
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     二酸化炭素を減少させるための方策として,水草や植物プランクトンの光合成による二酸化炭素の吸収を利用する淡水カーボンが注目されつつある.過去の研究において,淡水湖において成層が形成されることによって,二酸化炭素フラックスが大きく変動することが示されている.しかし,水草が存在することにより形成される成層については,十分な研究成果が存在しない.そこで本研究では,表層混合層の形成に対する水草の影響を評価することを目的とし,2022年度に阿寒湖・チュウルイ湾にて現地調査を行い,水温データの解析を行った.その結果,水草の存在によって表層混合層がより薄く形成されることがわかった.また,風のエネルギーを考慮することで,表層混合層厚を推定するための式を提案し,良好な再現性を得ることができた.

  • 米田 響, 中山 恵介, 平見 樹哉, 早川 和秀, 焦 春萌
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16084
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     琵琶湖では,冬季の循環期を除くと水温差によって成層が発生する.湖面に風応力が加わると,水密度の変化により内部波が発生する.研究では,琵琶湖における内部波のモードについて,現地観測で得られた鉛直水温分布を用いることで,コリオリ力を考慮した周波数方程式の解および数値シミュレーションにより解明することを目的とした.現地観測結果から,琵琶湖の地形に基づいた内部ケルビン波と内部ポアンカレ波の内部波が誘起されていることが明らかになった.周波数方程式の解と数値シミュレーションにより推定された内部波モードは現地観測結果と対応し,周波数方程式の解を用いた琵琶湖の内部波周期の簡便な推定が可能となった.

  • 齋藤 優樹, 泉 典洋
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16085
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     海底混濁流が非常に長い距離を移動する原因が,その密度界面において濁水と清水1)の間の連行や拡散(混合)が極めて小さいことであることが,近年明らかとなってきた.本研究では,海底混濁流の運動を層上部からの海水の連行を無視した場合について数値解析することで,長距離移動する海底混濁流が流下方向にどのような条件下でどのような挙動を示すのかを調べた.その結果,海底混濁流の密度界面形状は,条件によって開水路流のS2曲線,S3曲線に類似したものになり,等流(流れが減速しない)状態に収束することがわかった.また,ある条件の下では流れが消滅するが,その場合と等流状態に収束する場合の間には限界水深のような境界となる層厚(海底混濁流の厚さ)が存在し,等流状態に収束するには層厚はある程度低い値である必要があることがわかった.

  • 中村 倫明, 有山 尚吾, 木村 悠二, 鷲見 浩一, 小田 晃, 落合 実
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16086
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     海洋に流入したMPsへの懸念がされている.しかしながら河川底質におけるMPsの汚染実態を把握した事例は少なく,特に継続的な調査によるMPsの個数,種類,サイズの時間変動は不明である.本研究では,海老川の定期的な調査を基にMPsが陸域から東京湾へ流入する過程の解明を試みた.その結果,MPsの個数および種類は時間と共に大きく変動しているが,季節性は小さく,台風通過時にはMPsが通常の75倍に増えることが分かった.また,海老川におけるMPsの形状は 90%以上がプラ片で,人工芝や繊維は少ないことが分かった.

  • 真嵜 寛太, 石塚 正秀, 齋藤 祥吾, 上村 忍, 西岡 彩美, 中國 正寿, 一見 和彦, 多田 邦尚
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16087
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     河川・海岸におけるマイクロプラスチックと海岸・海域におけるマクロプラスチック漂流ごみを対象として,直接採取により,それらの特徴や流出量を調べた.その結果,マイクロプラスチックでは,河川・海岸ともにPEやPPが多くみられた.また,2次粒子のMPsの粒径から元の製品の同定は難しいことが確認された.マクロ漂流ごみでは,大分類のうちプラスチックが最も多く,その内訳では袋類や破片やたばこの吸い殻が多い結果となった.また,風や波が強いと潮目が生じず,ごみの回収量もやや減少することが確認された.さらに,不法投棄や不適切な処分をされて流入したごみは,比較的短期間に海域部へと移動することが賞味期限の結果から示された.

  • 伊賀 陽太, 片岡 智哉
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16088
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,大分川感潮域でマイクロプラスチック(MP)の調査をすることで,一潮汐(干潮A-上げ潮-満潮-下げ潮-干潮Bの順)におけるMPの鉛直分布の時間変動を明らかにした.潮位に依らず,底層に多くのMPが存在し,表層から底層にかけてMP質量濃度が高かったが,中間層に存在する塩水躍層でのMP集積が確認された.また,一潮汐におけるMP鉛直平均濃度を比較した結果,上げ潮>下げ潮>干潮A>満潮>干潮Bの順に小さくなった.これから潮流の緩やかな干潮・満潮時にMPが沈降し,潮流の速い上げ潮・下げ潮時に堆積したMPが巻き上げられる動態が推察された.また,1mm未満のMP(SMP)が,1mm以上のMP(LMP)よりも1桁-2桁大きく,海洋への流出負荷を評価する上でSMPの濃度評価が軽視できないことが示唆された.

  • 田中 衛, 柏田 仁, 二瓶 泰雄
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16090
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     海洋へ流出するプラスチックごみの主な発生源は都市部であるが,路面上の汚染を定量的に評価した事例は少ない.特に,鉄道駅近傍ではプラスチックごみの高い生産性が懸念される.本研究では神奈川県川崎市の鉄道駅近傍,およびその対照として千葉県野田市郊外の歩道,車道にて計38地点の路上プラスチック濃度(個/m2,mg/m2)の観測を行った.(1) 行政による路面清掃が有る区域では,無い区域と比べてプラスチック濃度が5分の1に抑えられていた.(2) 大型のターミナル駅の近傍では小規模な駅と比べて10倍ほどプラスチック濃度が高かった.(3) 主要な交通手段が自動車である野田市では鉄道駅近傍と比べ,タイヤ片の割合が3倍ほど高かった.本研究の結果は効率的なプラスチック流出抑制対策やプラスチック動態の理解に役立つと期待される.

  • 大江 悠人, 野澤 颯一郎, 古谷 昌大, 片岡 智哉
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16091
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,飲料用ボトルキャップを対象に乾燥・湿潤状態各々の促進劣化試験に基づいて作成した劣化モデルを人口分布と気象条件(年間累積紫外線量,年間降水日数)を考慮した高解像度のグリッドベースマップに適用することで,国内1級河川流域内において微細プラスチック(Micro- and nanoplastics: MNP)発生ポテンシャルを評価した.各グリッドのMNP発生ポテンシャルを1級河川流域界毎に集計したところ,流域人口や面積の大きい利根川や淀川の値が大きくなった.一方,流域面積当たりの発生ポテンシャルに着目すると,流域内人口密度の高い鶴見川で極めて高くなることがわかった.また,流域人口当たりの発生ポテンシャルでは,降水量の少ない瀬戸内気候に属する太田川において最も大きいことが判明した.今後は流域内での物理的な外力によるMNPの発生や降雨に伴う表面流出効果を考慮して,MNP発生ポテンシャルを解明していく必要がある.

  • 野路 佑人, 中田 一騎, 佐伯 雄一, 内田 龍彦, 松尾 大地, 阪上 健, 松島 弘幸, 寺井 一弘
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16092
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     太田川水系根谷川に設置されている観測桝に堆積する洪水時の土砂量の時間変化を観測するために,硬く応力に対して変形しにくい材質を用いた計測装置を新たに開発し,計3つの異なる計測パターンで比較,検討した.計測装置の計測原理は,水で満たされた容器内と容器外に圧力式水位計を設置し,土砂堆積後の容器内の圧力計は堆積土砂の全応力を計測し,容器外の圧力計は間隙水圧を計測し,その差によって土砂堆積高を求める手法である.観測枡へ適用した結果,袋体タイプおよびポリタンクでは,適切に土砂堆積高を評価することができなかった.一斗缶では,現地実験による補正式の適用や,壁面に作用する応力を考慮することで,ある程度土砂堆積高を評価することができると考えられる.

  • 鈴木 拓真, 中津川 誠, 小林 洋介
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16093
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究の目的は,全国を対象に様々な流域の特徴をもつダムの流入量予測の一般化手法を提案することである.気候変動の影響により大洪水が頻発化している現状を踏まえて,政府は洪水調節機能の無い利水ダムにおいても事前放流等の洪水対策を行う方針を示した.適切なダム操作を行うためには流入量の予測手法の確立が求められる.しかし,全国に数多く存在しているダムにおいて予測モデルを個別に作成するには多大な労力と時間がかかるため,複数のダムに適用できる,一般性のある予測手法の確立が望まれる.本研究では,スパースモデリング手法の一つであるElastic Netを用いて,流入量予測手法の一般化を試みた.ダムを流域の地理情報をもとにクラスタリングし,各クラスターを代表するモデルを選定することで,予測手法の一般化を図った.

  • 渡辺 修, 中津川 誠, 小林 洋介
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16094
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究の目的は,アンサンブル予測雨量によって,予測の不確実性を考慮することに加え,融雪量をElastic Netに導入することで,通年でのダム流入量予測手法を提案することである.近年,気候変動の影響で,大雨に起因する夏期のみならず,融雪期の洪水の頻発化,激甚化が懸念される.こうした事態を念頭に,効果的なダム操作に活かされる流入量予測が求められている.本研究では北海道のダムを対象に,スパースモデリング手法の一つであるElastic Netを使用し,流入量予測を行った.その際にモデルの説明変数にアンサンブル予測雨量を導入した.さらに,解析積雪深とMSMの気温を用いてデグリーアワー法で計算した融雪量を説明変数とすることで,通年で良好な精度の流入量予測が可能であることを示した.

  • 沖 岳大, 砂田 勇佑, 九千房 修司, 武田 宣孝
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16095
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究は陸域・水面以下を同時に計測できるUAVグリーンレーザをダム堆砂地形計測に適用した場合の適用性や,得られた3次元データの活用方法について報告するものである.研究対象は,近年,堆砂が進行する3つの水力発電専用ダムとした.主な研究結果は,①3次元点群データ取得率が計測範囲の概ね85%以上であること,②計測誤差は要求精度を満たすこと,③欠測の可能性がある領域は,計測方法に応じて貯水位を上下する運用が有効で,ナローマルチビームとグリーンレーザの併用が効果的であることを示した.さらに,グリーンレーザで取得した高密度な3次元の点群データから,詳細な地形メッシュを作成し,フラッシング排砂のシミュレーションを実施し,今後,排砂予測検討が可能な解析モデルを構築した.以上より,本研究は,グリーンレーザによるダム堆砂地形計測への適用性や,取得データ活用の有用性を示すものである.

  • 鈴田 裕三, 河合 利巳, 寺島 大貴, 原田 守啓
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16096
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,長大な管理延長を有する都道府県管理の中小河川において,ALB計測を起点とした効率的な土砂堆積状況の把握と流下能力の充足度の評価を主軸とした客観的な対策優先度の判定を行うなど,河川管理者に判断材料を提供し意志決定を支援するワークフローを提案する.限られた河川管理のリソースを有効活用し,治水上の安全度と重要性を考慮し,必要な箇所に重点的な対策を講じるための仕組みを構築するとともに,河川規模の異なる県管理の4河川において本手法による分析を行い,手法の有効性を検討した.また,県管理河川の治水安全度の実態について考察するとともに,本手法による気候変動を考慮した将来的な外力の基準に対する氾濫リスク評価への応用の可能性を示した.

  • 能登谷 祐一, 守谷 将史, 荒川 陸人, 髙橋 巧武, 田中 裕士
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16097
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     気候変動や厳しい財政状況等により,ダム管理の現場では既存ダムの有効活用や管理の効率化が求められている.これに対し本研究は,吉野川水系銅山川の3つのダムを対象として,深層強化学習の手法を用いて低水管理において適切な放流量を予測できるAIモデルを構築し,その適用性を検討した.深層強化学習の手法は,既往研究で適応事例が多いDeep Q-Network(DQN)よりも,ダムの放流量予測への適用性が高いと考えられるtwin delayed deep deterministic policy gradient(TD3)を適用した.その結果,運用ルールに従って操作を実施した場合と比較して,渇水調整日数をほぼ増加させることなく,発電量を増大させることができる操作を予測可能であり,ダムの流水管理を支援する手法として有効であることが確認できた.

  • 上田 翔, 井上 隆, 窪田 利久, 柏田 仁, 二瓶 泰雄
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16098
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     近年の豪雨災害の激甚化・頻発化に伴い,河川橋桁の流失が多発している.その要因を検討し,対策を考案するために,橋桁流失時における橋桁周辺の流況を正確に把握することが重要である.そこで本研究では,流失した橋梁をモデルとして,越流時の橋桁周辺の流速,圧力分布特性を明らかにすることを目的として模型実験を実施した.その結果,流速については,橋桁の上下面で非対称な分布となり,特に橋桁下面では高流速域が発達していることに加え,橋桁下流側で大きな乱れが発生していることが示された.また,圧力については,剥離の影響で,橋桁下面側において大きな負圧が発生しており,これにより越流時の流況において,橋桁には下向きの揚力が顕著に作用していることが示された.これらに基づき,揚力係数と無次元越流高さの関係性を明らかにした.

  • 東 卓志, 林 博徳, 池松 伸也
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16099
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     空石積み護岸は伝統的な石積み技術が用いられた護岸であり,近年価値が見直されている技術である.しかし,空石積み護岸の強度に関する知見が少ない等の理由から護岸工法として採用されにくいという現状がある.本研究は,空石積み護岸の被災要因の一つである,護岸内部の裏込め材の吸出しに着目し,落差工が吸出しに与えるメカニズムを明らかにし,さらにそのメカニズムが,落差工の構造の違いによってどのように変化するかを明らかにすることを目的とした基礎的研究である.結果として,裏込め材の吸出しは縦断方向に生じる急激な圧力変化によって生じ,落差工の構造によって吸出しの起きやすさは異なること,吸出しは護岸近傍の流速が最大となる地点付近で活発に起こること,石畳堰は吸出しを起こしにくい構造であることが明らかとなった.

  • 齊藤 啓, 前田 健一
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16100
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     近年,堤防の浸透現象による漏水,噴砂等の被災事例が報告されている.漏水,噴砂等を出水中の水防活動のみで対応することは困難であるため,事前に危険個所を把握し対策することが重要である.本論文では諸文献より浸透の安全性に影響する条件を整理したうえで,これまで注目されていなかった堤防の平面形状に着目した事例調査を実施した.事例調査の結果,堤防の湾曲部内岸で漏水,噴砂が生じやすい傾向にあり,仮説検定によりその有意を証明した.内岸で漏水,噴砂が発生しやすい理由を,フローネットによる簡易解法にて検討した.その結果,内岸では局所動水勾配が上昇しやすく,それは曲線半径に依存することがわかった.以上より,浸透の安全性に影響する条件として堤防の平面形状を考慮することで危険個所の絞込みに寄与できると考える.

  • 植村 郁彦, Alex Curran , 舛屋 繁和, 吉田 隆年, 山田 朋人
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16101
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     気候変動による水害の頻発化を受け,水害リスク情報の重要性が高まっている.水害リスクを構成する要素の一つであるハザードの評価手法のうち氾濫解析では,河川水位が計画高水位(HWL)に達すると破堤するという条件が汎用的に用いられている.一方,実洪水ではHWLに達しても破堤に至らない場合や,浸透や侵食による越水なき破堤も報告されている.ハザードの定量評価に向け,実現象に即した破堤条件の設定が必要であり,諸外国ではその確率的な評価が導入されている.以上から,本研究では破堤条件の確率的な評価に向け,侵食破堤を対象に基礎的な破堤確率の評価モデルを構築した.モデルを北海道東部の帯広市街地に隣接する堤防に適用し,各評価地点の破堤確率の高低が,堤防高や堤内地盤高などの条件や設定した外力の大小と整合していることを示した.

  • 梶山 青春, 鼎 信次郎
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16104
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     アジアモンスーン域では雨季全体を網羅するような降水予測が水資源管理の鍵を握っている.本研究は畳み込みニューラルネットワークを用いて長期降水予測モデルとその信頼度を予測する二つのモデルを開発した.CMIP6に参加する異なる42モデルから6930サンプルをもとに,5-10月のアジアモンスーン域における積算降雨量を予測した.予測値と真値とのアノマリー相関係数は0.89であり,モデルの有効性を示した.一方,テスト結果において予測性能が低いサンプルが全体の約15%存在することが明らかとなった.本研究は,同サンプル群を特定するために信頼度指数を提案する.降雨の離散値を学習する新たなモデルを構築し,降雨の確率分布から各サンプルの信頼度を算出した.その結果,信頼度により予測性能が低いサンプル群を事前に判別できることを示した.

  • 新井 涼允, 佐藤 隆宏, 今村 正裕
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16106
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     最近開発された機械学習ベースの気象予測手法であるGraphCastは,全球を0.25°の空間解像度により10日間先まで予測できる.本研究は日本域におけるGraphCastの降水予測結果と,ECMWFの決定論的モデル(HRES)とアンサンブル平均(ENS)による降水予測結果を比較することにより,GraphCastが有する降水予測性能を評価した.GraphCastはほとんどのリードタイムにおいて予測降水量の平均絶対誤差が最小となった.また,100(mm/24h)以上の豪雨に対する予測性能をスレットスコアにより評価した結果,リードタイム4~10日間における豪雨予測性能はGraphCastが最も優れていた.これは,HRESがリードタイム4日間において有する性能とほぼ同等であることも確認した.

  • 大野 剛, 織田 幸伸, 佐山 敬洋
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16108
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     河川工事では安全管理の面から24時間程度先までの出水の有無を把握することが重要となる.著者らは降雨強度の空間分布を入力情報としてニューラルネットワークにより24時間先の水位を求める手法の検討を進めている.この手法は,空間分布の重心座標と予測地点から重心座標までの距離,降雨強度の空間平均値と空間分散値,直近の過去水位から24時間先の水位を求めるものである.本手法の課題は,降雨分布の不均一性を考慮できず,予測水位が実測水位より過小(危険側の予測)になることである.本研究では降雨分布を複数に分割して不均一性を考慮する方法について,4流域で有効性を確認した.その結果,過小傾向の予測結果が改善され,降雨量の空間分散値が大きい,すなわち降雨分布内の不均一性が高いときに,過小予測の改善効果がみられた.

  • 遠藤 優斗, 一言 正之, 西戸 義博
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16109
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     深層学習を用いたダム流入量予測において,採用率の高いLSTMとFFNNのモデル精度を比較した.ダム流入量予測モデルは長時間予測を目的とし,入力データに雨量データのみを用いる.最適化関数などが異なるFFNN(A),(B)を用意し,入力データを720時間前までの過去の雨量をいくつかの間隔に分割した上で時間圧縮し,精度の向上を図った.検証対象4ダムのうち,3ダムを流域平均雨量のみで構築し,1ダムに地点雨量を追加して影響を検証した.4ダムのうち流域平均雨量のみで構築した3ダムでFFNN(B)の精度が最も高いことが確認された.地点雨量を追加したケースではLSTMの精度が最も高いことが確認された.しかし,検証洪水と同程度規模の洪水を学習できるかがモデルの優位に影響を及ぼす可能性を無視できない.

  • 小野村 史穂, 井上 隆, 柏田 仁, 吉川 泰弘, 二瓶 泰雄
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16110
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,豪雨水害時に発生する洪水流による車両漂流事故に着目し,屋外開水路において実際の小型車両を用いた車両漂流実験を行った.勾配1/100,水路幅2mの開水路に,上流端から16mの位置からアスファルト舗装を施し,その上に上流向きに車両を設置した.車両のハンドブレーキを解除した2ケースとブレーキを掛けた1ケースを行い,段階的に流量を増やし,車両漂流発生時の流況を計測した.その結果,ハンドブレーキを解除した2ケースでは車両漂流が発生し,ブレーキを掛けた1ケースでは最大流量を流しても車両は動かず,ブレーキの有無が漂流発生に大きく寄与していることが示唆された.また,既往の模型実験結果と比べ,車両漂流時の水深と流速は,やや小さくなっており,より穏やかな流況でも流される危険性があることが示された.

  • 髙野 宏征, 福田 朝生
    2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16112
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,袋詰玉石周囲の流れ場と袋詰玉石に作用する流体力を測定するため,袋詰玉石のモデルに水流が作用する開水路実験を行った.袋詰玉石の上下流断面で,流速分布および圧力分布を計測し,袋詰玉石周囲の流れの様子を明らかにした.さらに,袋詰玉石上下流断面で計測した流速と圧力分布を用いて,運動量収支を考慮することで袋詰玉石に作用する流体力を求めた.浮力と揚力を考慮して見積もった移動限界の摩擦力と運動量収支から求めた流体力の比較をとおして,流体力の算出に対し,圧力分布を計測し運動量収支を考慮する手法が効果的であることを示した.さらに,運動量収支をもとに,流体力を算出する場合には,静水圧分布とは異なる圧力を計測することが重要であることが確認された.

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