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大桑 有美, 前田 健一, 近藤 知輝, 佐々木 一真, 加藤 碩二郎
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16114
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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近年,豪雨の強度増加や長期化により,堤内地で噴砂が発生する被災事例が増加しているが,地盤損傷が進展し,噴砂に至る過程やそのメカニズムについて未だ解明されていない点が多い.そこで,本論文では,2016~2018年,2022年の出水により噴砂と陥没が繰り返し発生した宮崎県北川の開削調査で確認された地盤内変状の過程を観察するために模型実験を実施し,噴砂挙動に影響を及ぼす地盤損傷の進展及びそのメカニズムの解明を試みた.その結果,現地で見られた砂溜りや砂脈,難透水層の崩落による地表面の陥没などが確認された.また,十分に締固められた地盤であれば堤内地における1か所の噴砂が基礎地盤全体に損傷を与えない可能性が示唆され,実堤防における噴砂及び変状の評価方法についても検討した.
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岡本 隆明, 夏目 将嗣, 小高 猛司, 李 圭太, 松本 知将, 山上 路生
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16115
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究では粘り強い堤防に必要な法面被覆工や法尻保護工の効果を調べることを目的とし,越流侵食実験を行った.法尻保護工の長さを系統的に変化させて越流実験を実施し,洗掘孔の大きさの変化,堤体材料の吸い出しの有無を調べた.また法尻部での流れのPIV計測を行い,基礎地盤を侵食する底面近傍の流れ構造についても考察した.越流侵食実験とPIV計測より,法尻保護工を長くすると法尻での基礎地盤に向かう流れの流向が変化し,洗掘孔が浅くなることがわかった.また流向が変化することで,堤体材料の吸い出しが抑制され,決壊するまでの時間を大幅に長くできることが示された.保護工の短いケースでは洗掘の進展に伴って流れが地盤にぶつかる点が移動し,洗掘孔が大きくなると流向も変化して侵食の速度が小さくなることがわかった.
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中田 雄己, 梶川 勇樹, 黒岩 正光
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16116
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究では,浸透流によるサクション効果の変化が堤防の越流侵食に与える影響を解明することを目的とし,浸透流を考慮した越流侵食解析モデルを開発するとともに,中小河川のような水位が急激に上昇する場合を想定し,数値解析的検討を行った.サクション効果有無の比較検討より,サクション無しでは有りに比べ堤体侵食量が過大評価となり,サクションによるせん断抵抗力を考慮する重要性を示した.次に,透水係数を変更した検討から,透水係数の僅かな違いがサクション効果に寄与し,粒径が大きくなるほど侵食過程や侵食量に大きな影響を与えることを明らかにした.この結果より,現地の河川堤防の越流侵食予測では,透水係数を一意的に与えると大きな誤差を含んでいる可能性が示唆された.
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金子 恭也, 池本 敦哉, 柳原 駿太, 風間 聡
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16117
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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日本全国の1級水系を対象に,河道内樹木の伐採による年期待被害額の軽減率(適応)とCO2削減量(緩和)を定量的に評価した.樹木伐採の緩和効果として,樹木の伐採地点から発電施設までの輸送にかかるCO2排出量を含めたCO2削減量を算出した.樹木伐採による洪水被害額軽減率は,常願寺川で2.1%,黒部川で0.9%である.このことから,急流河川の下流区間の伐採が効率的であることが理解された.伐採区分によるCO2削減量は,上流で564×103t-CO2,中流で621×103t-CO2,下流で618×103t-CO2である.これらから,上流区分における樹木伐採はCO2削減効率が悪いことが理解された.河道内樹木の伐採による適応・緩和ともに効果の高い水系は,十勝川,天塩川,木曽川水系であった.
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鹿島 千尋, 中谷 祐介, 東 博紀, 秋山 千亜紀
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16119
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究では分布型流出モデルを構築し,各湾灘の汚濁負荷特性を解析した.また,各湾灘に流入する負荷量を簡便に算定するための手法として,モデルの計算結果から湾灘ごとのL-Q式を提案した.構築したモデルは一級河川の流量Qと負荷量Lを良好に再現した.各湾灘に流入する負荷量を算定した結果,平水時に比べて出水時負荷が卓越していた.また,年度ごとのばらつきが大きく,面源負荷算定の重要性が示唆された.湾灘別L-Q式(L=aQb,aおよびb:係数)を作成した結果,平水時は希釈効果が大きく表れ,b<1となった.出水時のbは,懸濁態成分が多いCOD・TPでは平均で1.43,1.35と大きく1を上回った.L-Q式に一級河川の観測流量から求めた比流量を代入したところ,湾灘に流入する負荷量を良好な精度で推定可能であった.
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日下部 裕貴, 藪崎 志穂, 川越 清樹
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16120
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究は,流域における水質を利用して,化学成分から地質の風化度によるリスクを定量化,指標化することを目標として取り組まれたものである.近年に豪雨によるマスムーブメントの頻発した日本列島各地の花崗岩類地域を対象に基底流の化学組成や成分を対象に斜面崩壊率との関係で比較検討することでリスクの導出を試みた.研究対象に設定した領域は,先行研究も含む8つの花崗岩類分布エリアであり,ここに含まれる64流域でデータ比較した.主な結果として,花崗岩類の形成時代に応じて化学成分の特徴が分かれることが明らかにされた.白亜紀前期ではMg, Ca, Sr,白亜紀後期とジュラ紀中期・前期ではFeの流出量と斜面崩壊率の強い相関が認められ,時代に応じて風化の関与する化学反応が異なる結果を得た.
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星野 剛, 越田 裕斗, 宮本 仁志
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16121
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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日本における63年分(1961–2023年)の気象観測データを用いて河川や湖沼の水温の指標となる平衡水温の長期変化傾向およびその変化要因を分析した.その結果,平衡水温は全国的に有意な上昇傾向を示すことが明らかとなった.また,その要因として日射量と気温の両者の増大が寄与していた.季節別に平衡水温の長期変化傾向およびその要因を分析したところ,平衡水温はいずれの季節においても増加しており,季節ごと,地域ごとにその増加量の大きさは異なることがわかった.また,平衡水温の変化に対する日射量の増大と気温の上昇の寄与は季節ごと,地域ごとに異なることが明らかとなった.
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宮園 誠二, 滝山 路人, 中尾 遼平, 赤松 良久
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16122
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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日本国内で数多くの河川魚類の地域的な絶滅が報告されており,流域全体の河川環境を迅速かつ正確に評価できる手法を開発し,将来的に河川魚類が絶滅する可能性が高い河川区間を特定する必要がある.しかし,流域の環境調査を同時期に行うには,多大な時間・労力を要するため,効率的なモニタリング手法が必要となる.本研究では,環境DNAと安定同位体を併用して,水系内および水系間の流域環境を評価することを目的とした.中国地方の流域特性の異なる2つの一級水系(高津川および高梁川)を対象とし,環境DNA定量メタバーコーディングによる魚類多様度指数と付着性藻類の窒素安定同位体比を併用することにより,魚類多様性と集水域からの人為的負荷を考慮した流域網羅的な河川環境評価が可能になることが示された.
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滝山 路人, 宮園 誠二, 中尾 遼平, 乾 隆帝, 赤松 良久
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16123
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究では,高津川水系を対象に環境DNA分析で得られた生物の在データを用いて,複数魚種の生息ポテンシャルを生物分布予測モデルのMaxEntにより推定した.その結果,環境DNA分析で得られた魚類の在データと環境要因との関係から,すべての魚種において,AUCが0.7以上の有用なモデルの構築が可能であった.また,ほとんどの魚種の生息ポテンシャルは河床勾配及び流量の影響を強く受けることが明らかとなった.一方,河川水温や土地利用等は河床勾配と比較すると相対的に重要度が低い傾向であった.さらに,生息ポテンシャルの推定では各魚種の分布傾向を高精度に再現しており,環境DNA分析で得られた魚類の在データとMaxEntを用いることで,複数魚種の生息ポテンシャルを流域網羅的に推定可能であることが明らかとなった.
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田﨑 拓海, 原田 英治, 後藤 仁志
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16124
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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土砂の流動過程の正しい予測に基づいた土砂流・土石流の対策が求められ,近年,画像解析技術により追跡した個々の砂礫挙動から土石流の構成則が検証あるいは修正されているが,水理実験で計測できるデータには未だ制限がある.一方,Lagrange-Lagrange型モデルは低水深の激しい土砂輸送の解析に長け,また,非定常現象への高い適用性も期待できるが,これまで土石流の解析はほとんど行われていない.
本研究では,DEM-MPS法を用いた定常状態の土砂流の3次元解析を行い,対応する水理実験の計測結果からモデルの適用性を検証する.固体要素の形状が土砂流動特性や粒子間の接触・衝突による応力構造に与える影響を検討し,内部構造を粒子間摩擦,衝突,粒子速度の乱れそれぞれが卓越した領域に分類する.
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加藤 宏季, 福岡 捷二
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16125
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究は,石礫流による渓床・渓岸侵食を伴って流下する石礫流の流下機構を運動量とエネルギーの両方の観点から考察し,土石流研究の地平を開くことを狙いとしている.まず,石礫流head部が侵食した石礫粒子群を取り込み,成長・発達する機構や石礫粒子群を取り込んだことによる石礫流head部の流れ場への影響を運動量の観点から明らかにした.次に,石礫流流下の全体像を見るためにAPM法により解析された流れと石礫の時空間変化の値を用いてエネルギー的考察を行った.侵食・崩落や石礫の堆積により石礫流のエネルギーが局所的に高まり,高まったエネルギーによって堆積した石礫粒子群が再流動するとエネルギーが解放されるといったエネルギーの貯留・放出過程が石礫流の流下・発達の重要な流下機構であることを明らかにした.
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原田 守啓, 手島 翼
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16126
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究は,掃流砂量式を利用して土砂の「平均流送速度」を定義し,幅広い粒度分布を有する石礫床河川において土砂が河川区間を流下するのに要する時間スケールを算出する方法を検討・試行した.平均流送速度はpick-up rateとstep lengthによる方法と,芦田・道上式に基づく方法により算出する.木曽川水系長良川の谷底平野と扇状地の各10km程度の区間に対して本手法を試行した.掃流力の算定方法を比較検討した上で,47年分の流量ハイドログラフを与えて,各区間の時間流量に対する掃流力から平均流送速度及びこれを時間積分した流送距離を算出した.区間通過に要する時間を求めた結果,粒径階毎に区間通過に要する時間オーダーは大きく異なり,細礫では100~101年と試算されたのに対し,粗石は103~104年と試算された.
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前田 憲紀, 福田 朝生
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16128
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究では,粘性土河床の侵食実験を行い,実験結果の流れ場を対象に3次元数値シミュレーションを実施した.シミュレーション結果は実験結果の水面形をよく説明することができた.このシミュレーション結果より,河床に作用したエネルギーを見積もり,粘性土河床の特徴的な侵食である表面侵食と,塊状侵食に要するエネルギーを考察した.河床に作用するエネルギーの分布から,塊状侵食が生じている箇所では凹凸スケール程度のエネルギーの集中化が生じ,侵食がより促進されることが確認された.また,同一の侵食深を生じる際に塊状侵食の区間は表面侵食の区間と比較し,小さなエネルギーで侵食が進行することが確認された.
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森本 晃樹, 井関 宏崇, 恩田 千早, 片野 泉, 角 哲也
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16130
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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水力発電は,安定した出力を長期的に維持することが可能な脱炭素電源として重要である.一方で,水力発電の持続性を確保していく上で,貯水池土砂管理は大きな課題である.また,脱炭素電源を最大限に活用する「ダム再生」と,ダムの長寿命化と河川・海岸の改善を両立する「流砂環境再生」が重要である.本論文では,ダム下流河川環境に配慮した貯水池土砂管理手法の高度化を目的として,ダム下流河川の土砂動態と生物生息場環境の関係性について考察した.具体的には,置土を計画している二津野ダムを対象として,河床変動解析を実施するとともに,河川環境調査結果の整理・分析を行った.その結果,河川に必要な土砂の粒径等を把握した上で,最適なダム下流への土砂還元の計画を策定できる可能性を見出した.
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関谷 光夏, Alvin C. G. VARQUEZ , Do Ngoc KHANH , 稲垣 厚至, 神田 学, 井原 智彦, 伊坪 徳宏
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16131
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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本研究は, 統合評価モデルと高解像度熱排出データセットを活用し, 都市の人的エネルギー消費に起因する地表面の追加的熱源である人工排熱を予測するための動的かつ統合的なモデリング手法を提案する. 統合評価モデルから得られるエネルギー消費データを基にし, 気候モデルから取得した暖房度日および冷房度日を用いて調整を行うことで, 人工排熱予測の精度と解像度を向上させた. このモデルは, 統合評価モデルのアウトプットを統合することで共有社会経済経路シナリオを拡充し, 以前は限られていた, さまざまな将来の条件下での予測を可能にする. 本手法は, 政策変更や技術開発が都市の熱排出に与える影響をシミュレートするための重要なツールを提供し, 利害関係者が効果的な都市および環境政策を策定するのを支援する. 本研究の結果は, 将来の人工排熱予測において都市の拡大や気候変動を考慮する重要性を強調し, 都市環境研究の分野における新たな基準を設定し, 将来の都市気候適応戦略のためのフレームワークを提供するものである.
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廣瀬 健太, 井上 靖生, 坂田 良介, 馬場 太志, 吉田 護, 多田 彰秀
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16133
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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九州の北西端に位置する長崎県は,気候変動の影響によって東シナ海の海水面温度上昇の影響を強く受けることから,その他の地域に比べて,局地的な豪雨が起こりやすい可能性が高い.このため,気候変動を踏まえた治水計画の検討を行うにあたり必要となる「降雨量変化倍率」について,長崎県域に着目した検証を試みた.検証に際しては,国土交通省の検討で用いられた降雨データを適用するとともに,国土交通省での検討内容を踏まえた長崎県の時空間スケールを勘案した検討条件を設定した.その結果,気温2℃上昇相当において1.16倍と国土交通省の検討結果(九州北西部1.14倍)よりもわずかに大きい値となった.一方,気温4℃上昇相当において1.32倍と国土交通省の検討結果(九州北西部1.36倍)よりもわずかに小さい結果となった.
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五三 裕太, 肥後谷 絵奈, 水山 美和, 渡部 哲史
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16134
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
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九州地方の5つの流域における計画降雨相当の事例を対象に,空間解像度の異なる2つのメッシュアンサンブル気候予測データから得られる降水量に対してバイアス調整を行った結果を比較した.さらにバイアス補正結果を入力値とした数値シミュレーションにより河川流量を推計した結果を比較した.実験結果からいずれの解像度のデータを用いた場合も各流域の基本高水ピーク流量を再現することが示された.20km解像度実験では,アンサンブル実験数の多さから同等の流域平均雨量において基本高水ピーク流量を含む様々なピーク流量の結果が再現されていた.一方で,今回の流域においては5km解像度実験では限られたアンサンブル実験数の中で各流域の基本高水ピーク流量が再現されており,極端流量の評価における5km解像度実験結果利用の長所と短所が明らかとなった.
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北野 利一, 加藤 紗也, 平松 健太郎
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16135
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
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降水量と流量の間には,降雨パターンに依存した気象学的プロセスと降雨流出プロセスがあり,治水計画を論じる上で重要な関係がある.総合確率法は,降水量と流量の関係を考慮して,ピーク流量の確率評価を可能とする手法である.本研究では,多数のアンサンブルデータに対し,極値理論に基づいた条件確率を用いることにより,降水量と流量の極値の従属の度合いを求め,その副作用として確率流量も得られる.そのため,多数のアンサンブルデータを活用すれば,手間のかかる総合確率法を用いずとも,気候変動の影響の簡便な評価が可能となる.これらを可能とする極値理論を示すとともに,具体例を用いて適用法を提示する.
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清水 啓太, 山田 朋人
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16136
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
近年,気候変動に伴う極値降雨量の非定常性の顕在化が指摘されている.このため,非定常性を踏まえた適応策の検討の重要性を鑑み,本研究では,極値に対して高い検定力を有する確率限界法を用いた時系列データ内の非定常性の評価手法を構築した.さらに,数値実験を用いて,確率限界法検定が非定常性の検出において重要となる分布の裾野の変化を鋭敏に検出可能であることを示した.また,1976年から2000年にわたる期間の観測値から推定した年最大雨量分布を帰無仮説として,国内の観測雨量を対象として,当該期間からの非定常性強度をp値として算出した.その結果,日スケールの年最大降雨量は,北海道地方において,早期の応答関係が見られた.加えて,2015年頃以降,東北,近畿,九州及び四国地方において,非定常性への推移が他の年代よりも早期化していた.
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山田 朋人, 清水 啓太, 星野 剛
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16137
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
我が国では,地形や台風の影響に対応可能な高解像度のアンサンブル気候データが構築され,精緻な風水害リスク評価を実施可能な状況にあり,気候変動を踏まえた治水計画が推進されている.現在,治水計画や風水害リスク評価に利活用されている気候データ(d4PDF)は,過去及び将来期間において温暖化の進行段階を固定した境界条件の下でのアンサンブル情報である.一方,時間軸上での適応策の検討においては,一続きの予測が重要となる.過去から将来にわたる時間連続的な気候の再現と予測を大量のアンサンブル数かつ高解像度で実施することは,地球シミュレータ等の大規模計算機においても困難である.本研究は,情報理論と物理則の保存則を導入した数理手法を提案し,観測及び過去から将来にわたる時間連続的な気候情報に基づいた,時間連続かつ大量アンサンブル気候情報の創出を可能とした.
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丸谷 靖幸, 木村 大樹, 渡部 哲史, 眞田 藍, 中村 要介, 矢野 真一郎
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16138
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
流量による影響は沿岸域における貧酸素水塊の発達・形成に影響を及ぼすため,流量発生確率評価は水環境分野においても重要である.しかし,降水量の観測値と比較して,流量に関する確率評価は観測データ数の乏しさや測定方法に起因する不確実性が存在しており,研究例は数が少ない.そこで本研究では,九州地方の8つの1級河川を対象とし,現河道に対する氾濫を考慮した流出解析モデルを構築し,d4PDFを入力値として各流域毎に適合率の高い流量確率分布を明らかにすることを目的とした.その結果,降水量確率評価で用いられるGumbel分布は,流量においても平均的に適合度が高いことが確認された.ただし,河川によっては最も適合度が高い分布形が異なる場合も存在するため,河川毎に適合する分布形を適切に評価する必要性も示唆された.
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遠藤 咲季, 阿部 紫織, 中村 要介
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16139
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
計画高水流量は,一般的に観測された水文・気象データを基に統計解析によって設定されている.しかし,中小河川ではこれらのデータが限られており未観測の場合がある.そこで本研究では,徳島県の美波町を対象に実績データが限られた中小河川における気候変動を考慮した降雨量や流量の将来変化を分析した.d4PDFを日和佐アメダスでバイアス補正した降雨データを用いて分析した結果,対数正規分布では年超過確率1/50規模相当の降雨量及び流量が現行の計画値よりも小さい値となったが,d4PDFを用いることで過去の観測データにはない多様な降雨波形を含んだ計画規模流量を算出できる可能性がある.また,近傍のアメダスでバイアス補正した降雨データを用いることで,未観測地域の小河川でも確率規模別流量を推定できる可能性が示唆された.
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呉 許剣, 山上 路生, 岡本 隆明, 松本 知将, 小柴 孝太, 角 哲也
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16140
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
本研究では砂のセルフライニングの起きやすい三角柱粗度の間隔を明らかにすることを目的とし,水路実験を通じて三角柱粗度の流れ構造,粗度背後の砂の堆積量について考察した.粗度間隔,水路勾配を系統的に変化させた9通りの流れ場を対象に砂の投入実験を実施し,画像計測から粗度背後での砂による表面被覆率の変化について調べた.セルフライニングが成功する粗度間隔,水路勾配を明らかにした.また砂堆積前と堆積後の流れのPIV計測を行った.跳水発生時に水深が下がっている領域では大規模な下降流が起きていることがわかった.フルード数が大きいケース(セルフライニング失敗時)にはsweepで砂が巻き上がっていることが明らかとなった.
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渡辺 勝利
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16141
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
本研究では,底壁面に吸込み機能を有する縦桟粗度を設置した開水路において,吸込み操作を上流半分領域とした流れ場の特徴を検討した.全領域吸込み操作で消失する顕著な上昇流,対を成す大規模旋回流については,上流半分領域の吸込み操作では,上昇流の形成は半水深位置までに留まり,対を成す旋回流は消失することが明らかとなった.また,鉛直直方向のレイノルズ応力(-uv)は,吸込み操作無,全領域吸込み有の場合と比べて比較的小さい値となることが認められた.また,それに伴って乱れエネルギー生成項(-uv(dU/dy))分布においては,吸込み操作無,全領域吸込み操作の場合に比べて比較的小さい値となることが認められた.これらの特徴は,上流半分領域の下流に形成される縦渦構造が未発達の状況にあることが要因と推察された.
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田中 貴幸, 深津 拓朗, 大本 照憲
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16143
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
ウォッシュロードのような微細な土砂を含む流れは,黄河に代表される高含砂河川や豪雨時の泥流,土石流時の流れとして発生する.このような高濃度土砂流の流動特性を把握することは,実際の洪水氾濫挙動や橋脚,家屋等に与える影響を知る上で重要となる.そこで本研究では,様々な形状の柱状物体を有する開水路にて,高分子剤を用いて高濃度土砂流を再現し,体積土砂濃度7%に相当する高粘性流体と清水流における流れ構造や形状抵抗特性の違いについて実験的に検討した.様々な形状の柱状物体を有する開水路流の時間平均流特性について検証し,高粘性流体では清水流に比べて柱状物体周辺に発生する迂回流や後流渦の発生規模が抑えられることを明らかにした.また,高粘性流体における形状抵抗特性について,各形状の抵抗係数の大小関係を明示した.
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北村 勇人, 木村 一郎, 高橋 昂大, 仲座 栄三
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16144
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
屋外大規模平面水槽を用いたエビ養殖においては,エビの抜け殻などの堆積老廃物を効率的に集積し除去する方策の確立が重要となる.本研究では養殖場を模した正方形および長方形水槽を対象に,ポンプで発生させた強制循環流構造と,堆積物の移流特性について,水理模型実験と数値解析により検討を行った.正方形水槽では一個の循環流が,長方形水槽(アスペクト比1:2)では2個の循環流が発生した.集積は循環流の中心付近で生じ.集積径は水深とポンプ出力に依存した.長方形条件では流動場が非定常となり,ポンプ停止後に循環流構造の変化と堆積物集積状況の変化が生じた.三次元数値解析により水槽内の循環流および堆積物の挙動を概ね再現できた.しかし,乱流モデルと堆積物・底面間の摩擦係数の評価について,更なる検討の必要性が指摘された.
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齋藤 有志, 山上 路生, 大西 左海, 西畑 剛, 片山 裕之
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16145
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
沿岸域に設置される潜堤による砕波は,大気中の酸素や二酸化炭素ガスの水中への輸送を促進すると考えられる.構造物による再曝気効果については複数の先行研究によって示唆されているが,砕波に伴う乱流生成との関係や水面下のガス輸送機構については不明な点が多い.本研究では造波水槽による基礎実験により,波,乱れおよびそれらによる溶存ガス輸送を定量的に考察した.特に複数の光学式DO計による再曝気係数の時空間変化やPIV可視化計測による砕波乱流の構造や気泡の発生特性を明らかにした.これらの情報をもとに造波周期,気泡発生量,乱れ統計量など現象を支配すると思われる水理量を整理するとともに,潜堤砕波によるガス輸送の促進メカニズムを考察した.
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黒川 岳司, 本多 康平
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16146
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
ジェットポンプ式流動装置はダム湖などの閉鎖性水域の水質改善対策として有用である.駆動水と吸引水を攪拌混合する部分である混合管での混合が十分に行われたという仮定の下では理論式が確立されているが,混合管内での十分な混合に必要な装置形状は不明である.そこで,本研究では装置形状として混合管長,混合管径,駆動水を発するノズルの口径を変化させて,それに伴う駆動水,吸引水の流速,流量や混合管内の流動特性を流速分布測定とPIV計測を中心に実験的に検討した.その結果,最大の吐出水流量が得られるノズル口径と混合管径の関係があり,ノズル口径と混合管径の比が0.2程度が最適であった.ただし,この最適なノズル口径と混合管径の比の条件下では,混合管長は管径の10倍以上必要であることが明らかとなった.
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大石 哲也, 平松 裕基, 岡本 隆明, 宮本 仁志
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16147
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
出水時の種子の輸送や定着は,河川環境における種子の分散過程の理解を深め,生態学的研究の基礎となる重要な知見を提供するものの,種子が定着する過程でどのような現象が起きているかまでは明らかにされていない.本研究では,砂州の前縁部をモデル化した斜め落差の落ち込み部の流れを対象として実験を行い,乱流構造と浮遊する種子の輸送について検討した.PIV計測により落差によって生じるせん断混合層近傍の流れや乱流構造の可視化を試みた.また,種子投入実験では,追跡した種子の軌跡とPIV計測結果を比較し,落差によって生じる流れ場の変化が種子の輸送メカニズムに与える影響について考察した.
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鬼束 幸樹, 渡邊 杏咲
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16148
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
近年,ニホンウナギの個体数が激減している.その一因はダムや堰による遡上阻害であるため,魚道が併設される.ニホンウナギのような匍匐遊泳を行う底生魚が魚道を遡上するには,桟粗度のような遡上反力を支持する物体の設置が有効である.本研究では開水路底面に設置する桟粗度の断面形状を4種類,また,全長倍流速を1~4(1/s)に変化させ,平均全長200mmのニホンウナギの遡上に適した桟粗度の断面形状を探索した.その結果,横断方向に20mmおきに幅20mm,深さ5mmの凹部をくり抜いた辺長10mmの正方形桟粗度を,流下方向にニホンウナギの全長50%相当の間隔で設置する状態が最適と判明した.なぜならこの状況では,ニホンウナギは桟粗度天端および凹凸部の直角壁に躯幹を接触させて摩擦力を得られるため,流出しにくいからである.
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鬼束 幸樹, 富澤 太一, 夏山 健斗
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16149
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
ダムや堰による魚類の遡上阻害を解消する目的で魚道が併設される.欧州ではウナギ用魚道の開発が進行中だが,最適な傾斜角や魚道長等は未解明である.本研究では底面に円柱突起物を有するウナギ用魚道の傾斜角と魚道長を15~45°,0.4~2.0mの範囲で変化させ,ニホンウナギの遡上特性に及ぼす影響を調査した.その結果,魚道長の増加に伴い遡上速度および蛇行度が増加し停滞率が減少すること,また,遡上率および遡上成功率が減少し,この傾向が魚道長0.8m以上で顕著になることが解明された.一方,傾斜角30°で遡上率が最大となった.以上より,全長200mmのニホンウナギの遡上に適したウナギ用魚道の傾斜角は30°で魚道長は0.4~0.8mであること,魚道を連続設置する際は接続部に休憩場所の設置が必要との結論を得た.
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船橋 昇治, 後藤 勝洋, 福岡 捷二
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16150
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
一般的な沖積河道にあっては,洪水の規模に応じて流路は様々な変化をする.しかしながら,土丹が露頭した河川では,大洪水時に土丹に流路が深く刻まれ固定化し,河道の維持管理が困難な状況が起こる.このような状況に陥らないためには,流路の固定化の兆候を早期に見出すことと流路の固定化が進行するメカニズムを明らかにし,固定化が進行するのを回避・防止することが重要である.本研究では,多摩川で見られる土丹露頭による流路固定化のメカニズムを明らかにし,土丹露頭河道の保全対策のあり方について考察を行った.
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工藤 俊, 萬矢 敦啓, 山田 浩次
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16151
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
電波式流速計,ADCP,動画撮影による同時観測結果を分析し,流速の時間変動や空間分布の実態を把握し,これらの処理方法が流量観測における測線の代表流速に与える影響分析を行った.今回の分析からは,表面流速及び水中流速の時間変動を総合的に分析し,60秒の平均時間を設ければ,水中流速も含めてばらつきが十分に収束する結果を得た.また,表面流速データも含めて鉛直流速分布を整理した結果,今回の観測データは浮子の更生係数の根拠になっている安芸式と矛盾しないことが示された.さらに,動画を基にPIV解析を行い,電波式流速計から得られる流速と概ね整合することを確認でき,その上で複数の流速計測手法による流量を算定し,それらの違いを整理した.
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大内 憲人, 島谷 幸宏, 皆川 朋子
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16152
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
近年の気候変動により国内での甚大な水害が頻発し,流域治水の必要性が高まっている.その導入にむけ,支川や水路等の流量データなどの基礎情報が必要であるが,支川や水路ではそれらに関するデータはほとんど取得されていない.そこで本研究では,筆者らが提案した堰上げ高を利用した流速測定手法を応用させ,スリット型ピトー管流速計を開発し,現地への実装可能性について検討した.その結果,開発した流速計は,流速を精度よく観測できることが明らかとなった.また,水路や河川に設置して得られた連続的な流速データは降雨波形と良好な応答関係が確認でき,現地で安価に流速を連続的に観測できる可能性を示した.
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吉村 英人, 椿 涼太, 大森 嘉郎, 藤田 一郎
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16153
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
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認証あり
河川流量観測で必要となる水深分布には通常平水時に行われる測量結果が用いられるが,大規模な出水時には河床変動により河床高が変化することもあるため,正しい流量を得るには洪水時の表面流速に加えて水深分布も把握する必要がある.本研究では河川表面の主流方向の時空間画像から得られる水面変動の波数–周波数スペクトルと波の分散関係の対応から,水深の横断分布を推定する手法を提案した.実河川への適用結果から,提案手法は20%以下の誤差で測量水深を推定できることを示した.一方,水深の推定精度は波数–周波数スペクトルの解像度や推定手法のパラメータに依存し,解像度が不足する場合には推定誤差が大きくなることやフルード数が高い場合には異常値が算出されることが確認された.
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川岸 皓介, 柏田 仁, 大塚 竜太朗, 田中 衛, 二瓶 泰雄
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16154
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
我が国では水位観測網の整備が進む一方,流量データは不足している.本研究では,多地点流量観測を実現するために,測量負荷を低減した簡易幾何補正手法としてSfMとSTIVを組み合わせた画像流量観測法を提案し,千葉県一宮川流域での観測を行い,観測精度を評価した.また,悪条件下における工事現場用カメラから氾濫時における流量算出を行い,多くの流量データからH-Q式の特性や誤差を分析するために,増水期・減水期や観測水位の規模を変化させて感度分析を行った.河川氾濫時の流量は水位ピーク前に流量ピークを迎え,その後,水位が上昇しても流量は変わらなかった.また,H-Q式の推定精度を保持するために必要な観測データについて評価した.
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植村 昌一
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16155
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
将来,温室効果ガスの排出量の増加に起因した気候変動により降水の量や頻度は増加すると想定されており,鉄道ではその影響が懸念されている.本研究では,山形新幹線を対象として,気候モデルによるRCP8.5シナリオの条件下での数値実験の出力データを用いて,土石流の計画手法による流出量に基づく被災判定の将来変化を評価した.種々の超過確率の日雨量に対する土石流による被災判定の結果,将来期間では,現在期間に比べて土石流災害が発生する日雨量の超過確率は20%高まり,同一の日雨量の超過確率に対する土石流災害の発生数は1.9~2.4倍に増加するなどの気候変動影響が現れることがわかった.
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山野井 一輝, 鹿倉 佳央梨, 小柴 孝太, 川池 健司
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16156
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
一つの流域で多数の土石流が生起するような災害を対象にした気候変動影響評価手法を提案する.本研究では,まず西日本豪雨の情報で学習させた,降雨と地形データを説明変数とした土砂生産量を予測する順序ロジスティック回帰モデルと,当モデルからの土砂生産量の確率論的予測,土石流の流下モデルをそれぞれ組み合わせることで,降雨と地形条件から土石流の被害領域を確率的に予測する手法を構築した.次に,この手法に気候変動の影響を踏まえた現在・将来の降雨条件を入力することで,それぞれの条件下における土石流の氾濫域や堆積分布を確率的に評価した.上記の方法により,流動深さが閾値以上となる確率や,堆積厚さが閾値以上となる確率等,定量的な指標の将来変化の評価方法を提案した.
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渋尾 欣弘, 谷口 健司, 田中 直也
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16157
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
沿岸部低平地流域では大雨による内水はん濫や河川洪水に加え,高潮による浸水リスクも抱えている.そのため台風による洪水時には同時生起しうる高潮現象による浸水リスクの高まりが懸念される.地球温暖化に伴う台風の強大化に伴い,大雨や洪水,高潮の変容が指摘されており,将来気候下において台風に伴う洪水・内水・高潮の複合水災害を評価する必要がある.本研究では擬似温暖化気象シミュレーションにより,既往台風の将来気候下での変化を推定し,得られた気象場を用いて高潮解析,外水・内水の一体解析を行った.帷子川を対象とした分析では,適用する全球気候モデルによって降水量の増加にばらつきがみられたものの高潮は増加傾向にあった.その潮位偏差が干満差との重なることにより河道水位も変化した.一方で副振動と考えられる高潮偏差の変動がみられ,高潮の地域特性に留意する必要性がある.
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野原 大督, 佐藤 嘉展, 角 哲也
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16159
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
豪雪地域での水資源管理への気候変動の影響を明らかにするため,手取川流域のダム貯水池群を対象に利水・発電運用の将来変化の推定と影響の評価を実施した.気候データには気象研究所の高解像度全球気候モデルMRI-AGCM3.2Sによる150年間連続実験データを用い,流出モデルによりダム流入量を推定した上で,ダム群の利水補給と水力発電の長期計算を実施し,気候変動の影響を評価した.その結果,特に21世紀後半以降で貯水量の季節推移の将来変化が大きくなることや,夏季以降の利水補給不足が顕著に増大する可能性,流れ込み式水力発電所で年間発電量の減少割合が相対的に大きくなる可能性が示された.
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瀬戸 心太, 内海 信幸, 久保田 拓志
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16160
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
著者らは以前の研究で,気象庁雨量計データから1分値降水強度を推定する内挿法を開発した.内挿法は,転倒ます型雨量計の転倒発生時刻を推定し,転倒間の降水強度を一定と仮定して任意の時刻の降水強度を算出する方法である.本研究では,XRAINの降水強度を参照して,転倒間の降水強度変化を推定するように内挿法を改良した.以前の方法に比べて,精度が向上した.次に,これをXRAINの補正とみて,補正係数を決定する.補正係数を時間平滑化及び空間内挿して,雨量計のない場所でもXRAINの補正を行った.XRAINの信頼度をレーダからの距離に応じて設定し,平滑化の時間スケールを雨量計からの距離に応じて設定するのが良いと分かった.補正前のXRAINに比べて,おおむね精度が向上するが,線状降水帯などの強い雨は過小評価することが課題である.
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馬渕 慎也, 吉見 和紘, 吉田 翔
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16161
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
本稿は,短時間降雨予測手法であるVILナウキャストにMP-PAWRから推定した鉛直風を用いて,雨滴生成率の過大評価の抑制アルゴリズムを導入した降雨予測手法を提案するものである.具体的には,Dualドップラー解析より推定した鉛直風をVILナウキャストに導入し,予測結果を従来のVILナウキャストと比較することで改善効果を確認した.結果として,過大評価傾向にあった予測雨量が改善された.特に雨量強度が強まり,下降流がみられる時間帯に対して改善がみられた.また,RMSE及び総雨量比についてみると,どのリードタイムにおいても改善され,リードタイムの改善幅が大きくなることを確認した.
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瀬戸 里枝
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16162
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
雲降水粒子タイプ毎の水分量のデータは降水予測の初期値やモデル評価等に重要だが,これらの整合的なプロダクトは極めて少ない.雲水量観測に広く使われるマイクロ波と雲降水粒子の相互作用は,粒子のサイズや相,マイクロ波の波長・偏波によりその特性が異なる.本研究では固相散乱の影響が少ないKa bandを用いた液相鉛直積算雲水量(LWP)推定法の精度・適用範囲・不確実性の評価と,雲と雨のより分け推定の可能性の検討を,仮想的な真値から作成した観測を用いる合成実験により行った.その結果,雲頂高度情報の活用によって、広範囲のLWPについて適切な推定が可能であること,および,適用範囲の制限があるものの、Ka band輝度温度の偏波差が雲/雨のより分け推定に有効であり、その実現可能性があることが示された.
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田村 隆雄, 吉田 弘, 端野 道夫, 梅岡 秀博
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16163
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
森林樹冠付近における風下方向への浮遊微細水滴の輸送量が降雨遮断量の主体を占めるという仮定の下,水平輸送フラックスとしての風速と降雨強度の積の累積和である風雨積と降雨遮断量の関係式を誘導したが,この関係式では降雨遮断量の発生源である降雨量が陰形式で風雨積の中に埋没しているため,実用上不便であるとともに,降雨遮断量-降雨量関係の非線形性を考察するにも不都合である.そこで本論文では,樹冠付近の浮遊微細水滴量の降雨量に対する割合に関係する降雨強度と風速を取り込んだ関数(風雨指数)を確率統計的手法で誘導する.そして,この風雨指数を基にした降雨遮断量-降雨量関係の回帰分析により,樹種の遮断特性や非線形特性は回帰係数や風雨指数で評価できることを明らかにした.
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岡地 寛季, 山田 朋人
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16164
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
本研究は,2019年台風19号が利根川上流域と千曲川上流域にもたらした大雨と台風経路の関係を分析した.既往事例および高解像度大量アンサンブルデータ(d4PDF)を用いて,東西に台風経路がずれた場合の事例を比較対象とすることで,台風19号の経路に類似する事例が対象地域における最大となる雨量をもたらすことが示された.また,いずれの経路においても将来気候下における雨量が現在気候下における雨量を上回る.温暖化進行後における降雨量は台風経路が東西にずれた場合においても,過去気候下における最大の降雨量よりも大きいため,同地域に極端な降雨量をもたらす台風の発生頻度が増加する可能性が示唆された.
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小川 朋真, 手計 太一
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16165
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
土地利用と気象現象との関係は一部の現象を除いて明瞭な定量関係は依然として明確ではない.そこで本研究では領域気象モデルWRFを用いて1900年頃,1950年頃,1976年,2016年の土地利用データが2016年8月の関東平野における降雨現象に与える影響評価を行った.数値実験の結果,都市率が最も高い2016年の土地利用を用いた結果の方が1900年頃の土地利用を用いた場合よりも,領域で平均した台風による降雨量が約50mm減少し,20mm/h以上の降雨頻度も減少し,台風外力の減少がみられた.台風通過時の潜熱について土地利用データ毎での変化はみられなかったため地表面粗度といった要因によるものだと考えられる.都市化による台風性の降水量の減少によって,土地利用が台風強度の軽減に貢献する可能性を示した.
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鵜﨑 賢一, 寺門 征哉
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16166
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
河川において,水表面流速の計測は流量算定等において重要であるが,浮子速度,あるいは水表面流速自体における風応力や吹送流の影響は十分に評価されていない.本研究では,既往研究を踏まえ,風応力と河川流が順流となる場合において,現地観測によって水表面流速における吹送流成分の評価を行った.その結果,吹送流成分Δuは風速U10の6.9%程度と見積もられた.しかしながら,河川流速の鉛直分布の変動が大きく,風応力の影響が意外に深くまで及ぶことも示唆され,今後,さらにΔuの算定については精査が必要であることがわかった.
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金子 峻, 山上 路生, 岡本 隆明
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16167
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
本研究では風が吹いている条件下での流木の挙動変化を明らかにすることを目的とし,水路実験を行った.流木の直径,比重(空中露出部と喫水部の投影面積比),風速を系統変化させて流木の投入実験を実施し,風による流木の漂流速度の増加量について調べた.また,流木にかかる抗力計測を行い,風応力による抗力係数についても考察した.漂流速度計測結果より,同一の流木長に対して流木直径が小さい方が風によって漂流速度が増加しやすいこと,また同一の直径に対して比重が大きく喫水が大きいと漂流速度が増加しにくいことが示された.さらに,抗力計測結果より,直径が小さいと風抗力による加速効果が大きくなること,反対に比重が大きいと加速効果が小さくなることが示唆された.
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岡本 隆明, 山上 路生
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16168
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
本研究では川幅の広い河川を想定して,1本の橋脚模型を用いて流木集積実験を行った.まず流木長を系統的に変化させて,どれぐらいの長さの流木がくると流木塊が流下方向,鉛直方向,横断方向にどの程度大きくなるのか,流木形成過程の各フェイズの流木の沈下率を明らかにした.またフォースゲージで橋脚にかかる流体力を計測し,流木塊が形成されることで水流から受ける力がどのぐらい増加するかを計測し,流木集積時の橋脚の抗力係数を評価した.次に長い流木長のケースでみられた流木塊の大規模な崩壊現象に着目し,崩壊前の流木塊が非定常に左右に揺れている状態での流体力の時間変化や崩壊前後での流木塊の左右のバランス,大きさの変化を比較した.
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窪田 利久, 柏田 仁, 鎌田 直樹, 田中 衛, 二瓶 泰雄
2025 年 81 巻 16 号 論文ID: 24-16169
発行日: 2025年
公開日: 2025/02/22
ジャーナル
認証あり
超過洪水時には,河川横断構造物や河道平面形状の影響により,複雑な三次元流れ場が発生し得る.これらの流れ場は,水面形や流速水平・鉛直分布に大きく影響し,氾濫リスクや河川環境に重大な影響を与えることから,気候変動下において,複雑な三次元流れ場を再現可能な流動モデルの必要性が高まっている.本研究では,著者らが開発する低計算負荷な三次元流動モデルであるHy2-3Dモデルに非静水圧を考慮し,乱流モデルに2方程式モデルを導入することで三次元流れ場への適用性を検証した.複断面蛇行水路と令和二年球磨川洪水への適用を通じて,複断面的蛇行流を再現可能であることが示された.また,球磨川洪水流解析で得られた二次流分布を詳細に調べた結果,橋梁抵抗が二次流を抑制することが示唆され,その効果によって最大流速線が変化することが示された.
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