日本環境感染学会誌
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24 巻, 1 号
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総説
原著論文
  • 森本 正一, 堀 賢, 崎村 雄一, 伊藤 昭, 平松 啓一
    2009 年 24 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      飛沫核感染の制御には,陰圧病室が不可欠である.しかし陰圧病室のデザインや気流が,室内気の飛沫核濃度に及ぼす影響についての動的な検討はほとんど行われていない.実在の陰圧病室をモデルとして,数値流体力学(CFD)的手法を用いて飛沫核の挙動と濃度を解析した.排菌患者が入室すると飛沫核濃度は直ちに上昇し,30分後に患者呼気の約1/1,200倍に希釈した濃度で定常状態となった.患者が退室した後では,飛沫核濃度は60分後に定常状態から約1/1,000倍まで減少した.陰圧病室のドアを閉め切ることで,室内気の前室への流出は認められなかったが,ドアを開放すると室内気が前室へ流れ込み,飛沫核濃度が急上昇した.また飛沫核の分布に与える吹出口と吸込口の影響について,同じ換気回数で検討した.飛沫核の分布は,患者の口と吹出口および吸込口との距離に影響されることが明らかとなった.CFD的手法を用いて飛沫核の挙動を検討することは,最適な陰圧病室を計画するのに役立つと期待される.
  • 勝井 則明, 真鍋 美智子, 喜多 英二
    2009 年 24 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      ネブライザーは医療関連感染(院内感染)における医原性因子となることが知られている.病棟で使用されている超音波式ネブライザーについて,薬液槽中の吸入液を調査したところ,サンプリングした吸入液の19%に微生物汚染が認められた.微生物汚染の要因として,超音波照射による薬液カップの破損と,患者唾液の蛇管から薬液槽への逆流が推察された.薬液カップの破損を電気抵抗値の変化で検出し,その薬液カップを新品と交換すると共に,唾液が蛇管から薬液槽に逆流しないようにアダプターを取り付ける等の対策を講じたことにより,病棟で使用されている全てのネブライザーについて,吸入液中の微生物汚染を検出限界以下のレベルに安定して維持することができるようになった.
  • 木村 聡, 相澤 寿子, 増山 智子, 仲間 恵美子
    2009 年 24 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      トイレの出入り口は不特定多数の者が接触し,病原体を媒介する可能性を有している.とりわけ最近普及した手指温風乾燥機(ハンドドライヤと略)では,水滴の飛散による周囲の汚染が指摘されており,底に溜まった水に触れる危険も考えられる.そこで我々は,ハンドドライヤの汚染状況を調査し,トイレ扉の取手等との比較を行った.あらかじめ手技を統一した男女各1名の検者が,病院の職員および患者用トイレ扉の取手と,ハンドドライヤの水滴受け部分など合計36箇所に,滅菌生理食塩水を含ませたシードスワブで拭き取り試験を行ない,生菌数の計測と菌種同定を行った.その結果,トイレ入り口扉からはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)をはじめとする皮膚常在菌が数10~数100個検出されたのに対し,ハンドドライヤの検出菌は1000個を超え,使用頻度が高いトイレでは10万個に達していた.男子トイレのハンドドライヤでは,黄色ブドウ球菌やCNSなど皮膚常在菌が主体を占めたのに対し,女子トイレではモルガネラ属,クレブシエラ属,エンテロバクター属などの腸内常在細菌が多く,皮膚常在菌の生菌数は有意に少なかった.以上よりハンドドライヤに貯留する水は,他の接触部位より汚染されている可能性が推定された.手洗い後はハンドドライヤの受け皿に触れぬよう注意が必要であり,水滴の飛散には何らかの対策が必要な可能性がある.
  • 森 みずえ, 千田 好子, 光畑 律子, 狩山 玲子
    2009 年 24 巻 1 号 p. 27-35
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      気管内吸引を必要とする長期在宅療養患者の肺炎予防を目的とした感染管理方法を考究するため,気管内吸引カテーテル(カテーテル)の管理方法と口腔ケアの現状調査,ならびにカテーテル洗浄液・浸漬液および歯垢の細菌学的検討を行った.患者20名は全員気管切開をしており,18名が寝たきりの状態で,15名に肺炎の既往があった.患者のカテーテルは浸漬(16名)・乾燥(4名)保管の状態で24時間以上繰り返し使用されており,吸引の前後に使用する洗浄液と浸漬液を兼用としている介護者が8名いた.カテーテル洗浄液・浸漬液からはSerratia marcescens (14名)やPseudomonas aeruginosa (6名)の検出率が高く,そのうち6名の洗浄液・浸漬液の生菌数は105 cfu/mL以上と汚染度が高かった.口腔ケアは,ほとんどの患者に1日1~2回実施されていたが,患者の歯垢からはP. aeruginosa (16名),S. marcescens (8名),Klebsiella pneumoniae (3名)などが検出された.患者18名の歯垢からの生菌数は105 cfu/mL以上であった.歯垢からP. aeruginosaないしS. marcescensのいずれかが検出された患者17名中11名の洗浄液・浸漬液から歯垢と同種の細菌が検出された.肺炎のハイリスク患者である在宅療養患者には,カテーテルを清潔に使用するための管理方法を実践することが極めて重要であり,加えて日々の口腔清掃方法を改善する必要性が示唆された.
  • 菊地 克子
    2009 年 24 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      医療従事者においては,手洗いやアルコールの擦り込みによる手指消毒などにより,しばしば手指皮膚の乾燥や手湿疹が起こる.手湿疹の多くは刺激性皮膚炎である.病変を持つ皮膚には健常皮膚と比べて有意に常在細菌数が多いため,効果的な殺菌作用を示すのみならず皮膚傷害性が少ない消毒剤を使用することが院内感染防御の上でも重要である.生体膜構成脂質と類似の構造を持つ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を構成単位としたポリマー(MPCポリマー)は保湿性があり皮膚刺激を減弱することが知られている.健常ボランティア36人を対象に,MPCポリマーを配合したアルコール手指消毒剤の手指皮膚に対する影響を計測機器による角層機能評価により調べた.MPCポリマー配合製剤とMPCポリマーを配合しない対照品をそれぞれ2週間ずつ使用するクロスオーバー試験を行ったところ,手背皮膚の角層水分量は,対照品で低下が認められたのに対し,MPCポリマー配合製剤では増加傾向がみられ,同時に経表皮水分喪失量が低下し,バリア機能向上が示唆された.さらに,MPCポリマー配合製剤では,使用時の刺激感・痛みが対照品に比べ少なかった.これらの結果から,MPCポリマー配合アルコール手指消毒剤はより皮膚刺激性・傷害性が少なく医療従事者にとってより好ましい製剤であることが示された.
  • 小笠原 康雄, 大野 公一, 播野 俊江, 舟原 宏子, 後藤 千栄, 長崎 信浩, 三田尾 賢
    2009 年 24 巻 1 号 p. 42-46
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      病棟薬剤師が,カルバペネム系抗菌薬を中心に抗菌薬治療を行っている症例に対して,1症例ずつ確認を行う取り組みを開始して1年半以上が経過したので,取り組み開始前をI期,取り組み開始後1年未満をII期,1年以上経過後をIII期として,カルバペネム系抗菌薬の用法・用量,AUD,分離された緑膿菌のカルバペネム系抗菌薬に対する感受性の変化,医師からの相談件数について検討をおこなった.カルバペネム系抗菌薬の用法・用量については,用法はI期からIII期の変化をみると,1日2回投与がそれぞれ94.0%, 73.0%, 59.0%と減少し,1日3回投与がそれぞれ6.0%, 21.7%, 36.9%と増加し,平均1日投与量は1.06 g, 1.20 g, 1.24 gと増加が見られた.カルバペネム系抗菌薬のAUDは,取り組み開始後から14.6, 13.5, 11.2と低下した.また,分離された緑膿菌のカルバペネム系抗菌薬に対する感受性は「感性」の割合がIPM/CSは,53.2%, 68.1%, 73.1%, MEPMが66.5%, 70.9%, 78.6%とそれぞれ改善していった.
      また,カルバペネム系抗菌薬の投与症例は,empiric therapyが多く,今後は,アンチバイオグラムを整備し,想定原因菌のMICや組織移行性,腎機能等を考慮した投与と原因菌が判明した際にはde-escalationを考慮することが必要であると考えられる.
報告
  • 脇坂 浩
    2009 年 24 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      緊急的なケア前後に手指衛生を必須とするICU看護師に,携帯型手指消毒薬を提供し手指衛生の教育を促すことで,手指衛生の遵守率の向上に有用であるか検討した.構成的観察法により,携帯型消毒薬導入前後の手指衛生方法と手指衛生回数を調査した.三次救命救急センターICUの看護師16名を観察した結果,手指衛生必要数は1時間に約26回であった.手指衛生の教育後に携帯型手指消毒薬を導入したことで,手指消毒の実施率が上昇し,手指衛生の遵守率が約27%も向上した.しかし,携帯型消毒薬導入後に石鹸と流水による手洗いを実施しない対象が25.0%上昇,携帯型消毒薬導入後に手指衛生の遵守率が低下した対象(12.5%)は石鹸と流水による手洗い実施率が低下していた.また経験年数の少ない対象において手指衛生の遵守率が低い傾向を認めた.ケア別の手指衛生の遵守率では,携帯型消毒薬導入後に全て向上していたが,患者周囲のME機器や備品に接触後の手指衛生は低値であった.以上から,ICU看護師には頻回な手指衛生が求められるので手指消毒を推進することが重要であり,その一つとして携帯型手指消毒薬の適用は手指衛生の遵守率向上に有用であると考えられた.また,手指衛生の教育においてはICU看護師の背景やケアの特徴を踏まえた教育が必要であり,ICUにおける接触感染予防において患者周囲のME機器や備品に接触後の手指衛生は重要なポイントとなると考えられた.
  • 佐藤 法仁, 渡辺 朱理, 苔口 進
    2009 年 24 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      歯科医療行為の多くは,観血的処置を伴い,患者からの血液や体液の暴露の危険性が絶えず存在する.このような状況下において,感染防止に関する知識と技能は必要不可欠であり,これは歯科臨床実習を受けている学生に対しても同様である.
      今回,我々はより良い感染防止教育に寄与するため,歯科臨床実習を受けている歯学科学生109名(大学生),歯科衛生士学校生161名(専門学校生),合計270名に対して「肝炎を中心とした医療関連感染に対する意識調査」を行った.
      その結果,「B型肝炎について」,「C型肝炎について」,「肝炎ウイルスについて」,「肝臓癌の原因のひとつであること」,「血液感染すること」,「唾液中に肝炎ウイルスが含まれていること」,「歯科医療で肝炎ウイルスに感染するリスクがあること」に関しては,歯学科学生,歯科衛生士学校生共に正しい知識を持つ者が多かったが,「肝炎ウイルスを持つ人の診療で使用したゴム手袋は76.9~81.4 v/v%エタノールで消毒すれば再利用してもよいか」では,歯科衛生士学校生72名(44.7%)が「再利用してもよい」と回答しており,ゴム手袋の適正使用に関する感染防止教育の必要性を認めた.
      今後,医療関連感染原因微生物に対する正しい知識を有しているかの調査などを行い,感染防止のきめ細かい講義と実習を臨床実習前に徹底して行う必要があると考える.また,歯科臨床実習先である病院や歯科医院に対しても,最新かつ正確な感染防止情報を提供するシステムなどを構築する必要もあると考える.
  • —2006年度感染領域薬剤師研究会の内容と運営方法のアンケート調査—
    鈴木 忠徳, 石川 洋一, 五十嵐 正博, 田中 昌代, 西 圭史, 濱 敏弘, 松尾 和廣, 峯村 純子, 林 昌洋
    2009 年 24 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/06
    ジャーナル フリー
      東京都病院薬剤師会では2004年度から感染領域薬剤師研究会を開催し,感染制御にかかわる基礎知識を習得し,実践に応用できる薬剤師の養成を目指している.その研修の内容,運営方法などについて,受講者を対象としたアンケート調査をもとに考察した.その結果,研究会で習得した知識を直ちに実務に生かしている受講者が多く,研究会は大変有意義であり,受講者が感染制御に関する業務に積極的に取り組む姿勢と意識の高さがうかがえた.
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