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柳澤 修一
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A2
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
植物には光合成のような動物には見られない生理現象が存在し、それに呼応した遺伝子発現の制御のために植物特異的な転写因子のファミリーが存在している。Dof転写因子群は、そのような植物に特異的な転写制御因子のファミリーの代表的な例であり、植物に特異的な様々な生命現象に関わっていることが示されつつある。我々は、最初のDof転写因子をトウモロコシから発見すると同時に、その分子的性質について解析を行い、zinc fingerを一つだけ形成するであろう新しいDNA結合ドメインを同定した。このドメインをDof(DNA-binding with one finger)ドメインと名付け、Dofドメインを持つ転写因子のファミリーが植物には存在することを示してきた。また、最初のDof転写因子であるトウモロコシのDof1はC4光合成型ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子などの発現促進因子であり、Dof転写因子は葉特異的かつ光に応答した遺伝子発現制御に関わっていることを示唆してきた。本発表では、トウモロコシのDof1の役割と機能を中心に、他のDof転写因子の生理的役割などについても紹介し、植物におけるDof転写因子群の全体像について概要する。また、我々は、最近、植物が持つ光合成的窒素固定能の強化をDof1転写因子を利用して行うことにも成功したのであわせて報告する。
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林 八寿子, 山田 健志, 嶋田 知生, 松島 良, 西澤 直子, 西村 幹夫, 西村 いくこ
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A3
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
高等植物の分化の特徴は細胞の柔軟性にあり,これを支えているのがオルガネラの変換能力である.私達は細胞内最大の表面積を持つ小胞体から派生する新規のコンパートメント(約0.5 x 5m)を見いだし,ER bodyと命名したER bodyは小胞体局在型のGFP (GFP-HDEL)を発現するシロイヌナズナで容易に観察することができる.ER bodyは,シロイヌナズナの幼植物体の全身の表皮細胞に存在しており,内部にストレス誘導型のプロテアーゼを蓄積していた.成長した植物体と異なり,幼植物にとっては外界からのストレスが個体の生死に関わる.このような幼植物の表皮にプロテアーゼを蓄積し,傷害やストレスに予め備えていると考えられる.一方,成長した植物体のロゼット葉にはER bodiesは見られないが,傷害(虫害)やジャスモン酸メチルで処理により大量に誘導されることが分かった.このER bodyの誘導は,外界からの刺激に対する細胞内膜系の応答系としてとらえることができる.
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宮澤 真一, 矢野 覚士, 寺島 一郎
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S1
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
多くの教科書に,「葉単位面積あたりの光合成活性は,葉の面積展開とともに上昇し,面積展開終了時もしくはその少し前に最大に達する。」と書かれているが,これは常緑広葉樹の葉には当てはまらない。常緑広葉樹の葉の単位面積あたりの光合成速度は,面積展開終了時には著しく低く,その後2-3週間にわたって上昇を続ける。常緑樹葉では,細胞分裂や葉緑体分裂が草本葉よりも遅くまで続き,葉緑体の光合成機能は主として葉面積展開終了後に発達する。発生プロセスに必要なエネルギーや物資量の検討に基づき,草と木の葉の発生過程の違いを考察する。
一年生草本シロザの陽葉と陰葉の分化におよぼす部分被陰の影響を調べた。シュート頂分裂組織を被陰しても成熟葉が強光下にあれば,発生途上の葉の細胞層数が増え陽葉化すること,逆に,シュート頂分裂組織が強光を浴びていても成熟葉が被陰されていれば,陰葉化することがわかった。一方,葉緑体の性質はその葉のおかれた光環境によって決定された。これらより,陽葉と陰葉の分化において,少なくとも二つの光環境感受システムが機能していることが明らかである。また,ブナなどの一斉展葉型の落葉樹では,葉が冬芽の中にある時点の光環境によって細胞層数が決定される。このようにシロザとブナの細胞層数決定機構は類似している。
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山田 晃世, 堤 功一, 齋藤 丈夫, 関口 美紀子, 谷本 靜史, 三村 徹郎, 小関 良宏
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S2
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
演者らは、マングローブ植物の一種である
Bruguiera sexangula やアカザ科塩生植物の一種である
Suaeda japonica に着目し、機能スクリーニング法でこれらの植物の耐塩性に関与すると考えられるタンパク質をコードする cDNA の探索を進めてきた。
B. sexangula 及び
S. japonica cDNA ライブラリーをそれぞれ大腸菌に導入し、その形質転換体の耐塩性を指標としたスクリーニングを行った結果、大腸菌の耐塩性を強化する遺伝子群 (cDNA) の単離に成功した。本発表では、このスクリーニング法で得られた cDNA 群がコードするジャスモン酸合成系酵素の一つである allene oxide cyclase homolog (mangrin) (Yamada et al. 2002 Plant Cell Physiol, 43 903-910) や、シャペロニンの一種であるCCT alfa (Yamada et al. 2002 Plant Cell Physiol, 43 1043-1048)、そして緊縮制御タンパク質の一つである RelA/SpoT homolog (Yamada et al. Plant Cell Physiol, in press) に焦点をしぼり、これまで得られた知見を紹介する。
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Eiichi Mizohata, Takeshi Ueno, Hiroyoshi Matsumura, Yasushi Kai
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S3
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
The initial steps of photosynthetic carbon reduction and photorespiratory carbon oxidation cycles are catalyzed by the key enzyme ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase (Rubisco) by combining CO
2 and O
2, respectively, to ribulose-1,5-bisphosphate. Since Rubisco limits photosynthesis and thus plant growth, an understanding of the structure/function relationships of this enzyme is extremely important to design Rubisco superior in catalysis and to improve crop productivity. Rubisco from an acido-thermophilic unicellular red alga,
Galdieria partita (optimal growth conditions are pH 2 and 40 °C) has the highest specificity for carboxylation reaction among the Rubiscos reported so far. In order to clarify the structural basis of the excellent property of the Galdieria enzyme, X-ray crystallography of this enzyme has been conducted. In this symposium, we show crystal structures of
Galdieria Rubisco complexed with some different ligands, and propose the mechanism in which the enzyme acquired the high functionality.
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明石 欣也, 横田 明穂
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S4
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
乾燥ストレスは、植物の生産性を律速する主要な環境要因の一つである。一方、自然界には乾燥ストレスに極度に強い野生植物が存在し、多様な適応戦略でストレスに対処していることが知られている。それらの耐性を担う分子生理機構を解析するに当たり、我々はアフリカ・ボツアナ共和国のカラハリ砂漠に自生する野生スイカに注目している。この植物は、乾燥条件下において水分をほとんど失わずに生存する能力を持ち、また強光傷害の回避機構に優れているが、興味深いことに一般に乾燥に弱いとされるC3型の光合成代謝を営む。この野生スイカはストレス下において極めて特殊なアミノ酸代謝制御を行い、葉内にアルギニン生合成経路の中間体である新規適合溶質シトルリンを約300 mMまで高蓄積する。このシトルリンは、反応性の高い活性酸素種であるヒドロキシル・ラジカルを消去する能力に驚異的に優れている。また野生スイカにおいては、乾燥ストレスに際して他の一般植物とは異なるシグナル情報伝達が行われ、DRIP-1、メタロチオネイン、シトクロムb-561などの新規タンパク質を誘導する。これらのタンパク質のいくつかは、野生スイカにユニークなストレス耐性機構に寄与していることが示唆される。野生スイカを用いた研究は、植物の乾燥応答を理解するにあたり、モデル植物の研究では得ることのできない有用な知見を提供しており、その応用を図る上でも興味深い。
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伊藤 菊一
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S5
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
一般に植物には体温維持機能はなく、その体温は気温変化とともに変動すること考えられているが、植物の中には、自ら発熱しその体温を調節できるものが存在する。早春まだ雪の残る時期に花を咲かせるザゼンソウ(
Symplocarpus foetidus)は、氷点下を含む外気温の変動にも関わらずその発熱部位である肉穂花序の体温を20℃内外に維持する能力を持つ発熱植物である。我々は植物界では例外的ともいえる恒温性を有するザゼンソウの体温制御システムに関する解析を進めている。これまでの研究から、温度センサー機能を持つ肉穂花序は外気温を直接認識するのではなく、外気温の変化を肉穂花序自身の温度変動として認識していることが明らかになっている。また、肉穂花序には、温度変化により誘導されるほぼ60分を1周期とする規則的な体温振動現象が存在し、このような時間軸に依存した体温振動機構が本植物の体温制御システムに密接に関与していると考えている。また、肉穂花序における体温振動の誘導に必要とされる温度変化の閾値は0.5℃程度と見積もられ、発熱部位である肉穂花序における鋭敏な温度応答特性が明らかになった。さらに、肉穂花序温度の時系列データを詳細に解析した結果、その体温変動には典型的なカオス性が存在することが判明し、その体温制御システムは一連の数理モデルを用いた解析が可能であることが示唆された。本研究は生研機構基礎研究推進事業の支援で行われた。
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森 直樹
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S6
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
コムギは現在世界中で最も多くの人々が利用している栽培植物である。コムギの歴史は古く、地中海東岸からイランのザグロス山脈に至るいわゆる肥沃な三日月地帯に点在する8000年以上前の遺跡から炭化種子が発見されており、この時期には既に利用されていたことを窺わせる。これまでの研究によると、この地域において豊かな多様性を示す野生植物から人類にとって重要な一群の栽培植物が生まれたことが明らかになっている。中でも、栽培型コムギやオオムギの登場によって人々の生活形態は画期的に変化し、やがてこの地域に一大文明をはぐくむ基盤となったと考えられる。コムギ属 (
Triticum)は、遺伝学的に2倍性、4倍性、6倍性のいわゆる倍数性系列をなす種群から構成されている。6倍体以外にはそれぞれ近縁野生亜種が存在し、人類による栽培化によってその各々から栽培種が起源したと考えられているが、いつ、どこで、どのようにして生まれたのか依然として謎が多い。栽培化によって変化した主な形質は、登熟時に穂がバラバラになるかどうかという脱粒性、種子の形、1穂あたりの種子数、植物体の草型、休眠性など多岐にわたるが、その多くがいわゆる量的形質の遺伝様式を示し、遺伝学的解析は容易ではない。我々は最近、葉緑体DNAの多型をもとに母系解析を行い、「どこで?」に対する一つの答えを得た。本稿ではこの結果を中心にコムギの栽培化について考察する。
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三村 徹郎
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S7
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
Arabidopsisを代表とするモデル植物のゲノム解析は、分子レベルでの植物の生理機構の理解に極めて大きな影響を与えている。植物細胞が持つ無機イオン代謝機構においてもそのことは例外ではない。イオン代謝において中心的な役割を果たす生体膜イオン輸送体の多くは、
Arabidopsisをはじめとした少数のモデル系植物から見出されている。しかし、多くのモデル植物とは異なり、高塩・低温・乾燥といった極限生態環境に生育する植物群を観察していると、その環境に適応した特徴が先鋭的に出現するために、実験室環境ではなかなか見いだせない生理機構を見出すことが可能である。そこでは、たとえ同じ分子装置を利用していても、それを利用する工夫がなされていて、植物の新しい環境適応戦略を考えることが可能になる。
私たちは、高塩環境に生育するマングローブ植物の細胞や、極低リン環境に生育する藻類の細胞から、植物細胞の持つ新しいイオン処理機構を見出している。ここでは、私たちが扱っている野生植物細胞の生理機構解析を中心に、古典生理学から得られたデータから、新たなゲノム利用へのアプローチがどのように可能かを論じてみたい。
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Moritoshi Iino
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S8
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
We screened rice mutants impaired in coleoptile phototropism from gamma-ray-mutagenized M
2 caryopses of cv. Nihonmasari. Until now, three genetically separable mutants, designated as
cpt1,
cpt2, and
cpt3 (
cpt:
coleoptile
photo
tropism), have been isolated. We characterized
cpt1 and
cpt2 in detail. The
cpt1 mutant shows no coleoptile phototropism over a wide range of blue-light fluence rates. This mutant is also impaired in root phototropism. The
cpt2 mutant shows a reduced phototropic response of coleoptiles; root phototropism is normal. Tip-shading experiments revealed that, in this mutant, the tip-specific light perception is selectively impaired. In the two mutants, gravitropism and growth of the two organs are normal. Therefore, the products of
CPT1 and
CPT2 are probably involved in the signal transduction pathway specific to phototropism. Map-based cloning of these genes is in progress. The most recently isolated
cpt3 mutant is phenotypically similar to the
cpt2 mutant, but additionally shows a leaf curling phenotype.
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加川 貴俊, 和田 正三
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S9
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
葉緑体の細胞内の位置は光環境に依存して変わることが知られている。シロイヌナズナにおいて、フォトトロピンファミリーが光受容体であることが明らかにされた。phot1とphot2はともに葉緑体光集合反応の光受容体である。しかし、葉緑体光逃避反応の光受容体はphot2であり、
phot1変異体を使った生理学的実験から逃避反応にはphot1はほとんど機能していないと考えられる。
ホウライシダにもフォトトロピンファミリーが存在している。ホウライシダから葉緑体光逃避反応を示さない突然変異体を単離し、フォトトロピン遺伝子の塩基配列を調べた結果、phot2に変異があることがわかった。この突然変異体の前葉体にphot2 cDNAを導入すると強光下での逃避反応が回復したことから、シダ植物でもphot2が光受容体として機能していることがわかった。
シンポジウムでは葉緑体逃避反応のフォトトロピンの役割を紹介する。
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古西 智之, 見留 輝和, 小竹 敬久, 円谷 陽一
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100
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
ペクチンは双子葉植物の主要な細胞壁多糖の一つである。我々はこれまでにダイズ実生を用いてペクチンの糖鎖の合成・修飾に関与するガラクツロン酸転移酵素[1]、メチル基転移酵素[2]の性質を明らかにした。本研究ではペクチン側鎖のβ-1,4-ガラクタン合成に関わるガラクトース転移酵素 (GalT) の性質を検討した。ダイズの黄化胚軸から調製した膜画分を酵素源、UDP-[
14C]Galを供与体、市販のβ-1,4-ガラクタンの部分酸分解物を受容体としてGalの転移量を測定した。GalTの最適pHは6.5、最適温度は25℃で、25 mM Mn
2+、0.75% Triton X-100により活性は促進された。市販β-1,4-ガラクタン(M
r>150,000)は低い活性しか示さないが、M
r約60,000の画分が高い受容体活性を示した(比活性約 3,000 pmol/min/mg protein)。内在性の受容体を用いた場合の転移活性は僅かだった。放射標識転移産物をエンド-β-1,4-ガラクタナーゼで分解すると主に放射活性を有するβ-1,4-Gal
2、Galが得られるので、Galの転移はβ-1,4-結合であることが確認された。
同様に、ピリジルアミノ (PA) 基で蛍光標識したβ-1,4-ガラクトオリゴ糖 (DP=1-7) をオリゴ糖受容体として、Galの取り込みをHPLCを用いて調べたところ、Gal
7-PAからGal
8-10-PAが生ずる鎖長伸長が認められた。
[1]
Biosci. Biotechnol. Biochem.,
65 (2001) 1519-1527
[2]
Planta,
210 (2000) 782-791
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石井 忠, 松永 俊朗, 松本 定, 樋口 正信, マルカム オーニル, アラン ダービル, ピーター アルバーシェーム
p.
101
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
ペクチン多糖ラムノガラクツロナンII(RG-II)は、種子植物の1次細胞壁に存在する複雑な構造を持つ多糖である。RG-IIは植物の必須微量元素であるホウ素(B)とホウ酸エステルを形成して、2量体(dRG-II-B)として存在する。最近、このホウ素によるRG-IIの架橋が植物の正常な成長に必須であることが示された。dRG-II-Bは種子植物に普遍的に存在することが知られているが、シダ植物やコケ植物中にdRG-II-Bが存在するかは不明である。そこで、シダ植物とコケ植物から細胞壁をアルコール不溶部分として調製し、植物体と細胞壁に含まれるBを定量した。また、LC/ICP-MSにより細胞壁中のdRG-II-B量を定量した。シダ植物からはdRG-II-Bを単離し、糖組成等の構造解析を行った。
シダ植物の細胞壁は種子植物とほぼ同程度のBを含み、細胞壁に存在するBの約半分はdRG-II-Bとして存在した。この値は種子植物とほぼ同じであった。シダ植物から単離したdRG-II-Bは種子植物のものとほぼ同じ構造を持っていた。一方、コケ植物の細胞壁はシダ植物の2/3程度のBを含んでいたが、dRG-II-Bとして存在するBは、細胞壁中に含まれるBの約1%という少量でしかなかった。
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岩井 宏暁, 石井 忠, 鎌田 博, 佐藤 忍
p.
102
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
高等植物の細胞接着の主役であるペクチン関しては、その生合成メカニズムや発現特性に関する知見は極めて乏しい。近年我々は、
Nicotiana plumbaginifolia の半数体植物の葉切片にT-DNAを挿入して培養し、不定芽形成能力を失うと同時に、細胞間接着性の弱くなった突然変異体の作出法を確立した。そのうちの一つである
nolac-H18変異体の解析より、その原因遺伝子として新規ペクチングルクロン酸転移酵素遺伝子(
NpGUT1;
gluc
uronyl
transferase
1)が同定された。この遺伝子は、植物のペクチン合成に関わる初めての糖転移酵素遺伝子で、頂端分裂組織で特に発現が強く、メリステム形成と共にホウ素の作用点であるラムノガラクツロナンII二量体の形成に必須であることが判明している(PNAS, in press)。本研究では、p
NpGUT1::GUS形質転換タバコを用いて、各ステージの詳細な発現解析を行った。その結果、未熟種子胚の全体、および発芽直後の子葉および茎頂において強い発現が見られた。子葉の展開に伴ってその発現は減少し、その後は茎頂、篩管および維管束形成層での発現を示した。また、花においては、タペート組織、花粉、花粉管、花柱の伝達組織において発現が見られた。以上より
NpGUT1は、分裂組織および花粉などにおける細胞接着に重要な働きをしていることが示された。
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小田 篤, 作田 千代子, 鎌田 博, 佐藤 忍
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103
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
高等植物の導管液中には水、無機塩類、ホルモン類などの他に、多糖やタンパク質などの高分子物質が存在する。これまでに我々は、キュウリ根導管液中に存在するレクチン様タンパク質(XSP30)に着目し、キュウリ根における遺伝子発現の解析を行ってきた。その結果、根特異的な
XSP30の発現は光周期に依存して日周変動し、その振幅はジベレリンによって制御されていることを明らかにしてきた。本研究では、XSP30の遺伝子発現の組織特異性とレクチン活性について解析を行った。
XSP30のプロモーターによりGUSを発現させるキュウリ形質転換毛状根では、成熟した根維管束組織(木部柔組織、内鞘)にGUSの染色が見られた。また、XSP30のレクチン活性を糖タンパク質への結合性を指標として解析した結果、XSP30はN-アセチルグルコサミンを認識していることが明らかになった。さらに、キュウリ葉肉細胞中の高分子の糖タンパク質にはXSP30が結合する糖鎖が多く存在していた。以上の結果により、成熟した根維管束において産生されるXSP30が地上部器官の生理状態に影響を与えている可能性を考察する。
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清水 雅美, 加藤 哲二, 塚越 啓央, 中村 研三, 福田 裕穂, 松岡 健
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104
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
スポラミンはアミノ酸配列中にN-結合型糖鎖付加モチーフをもたず、タバコ培養細胞BY-2 株で発現させた場合にN-末端側から36番目のProが水酸化後にアラビノガラクタン様糖鎖の付加を受けた分子として合成される。この性質を用いて我々はタンパク質へのアラビノガラクタン様糖鎖付加に関わる配列の解析を行っており、すでに、糖鎖付加部位前後の各5アミノ酸の領域が効率良い糖鎖付加に必須であることを明らかにしてきた。そこで今回、この領域の各アミノ酸残基を10種類程度のアミノ酸に置換した変異スポラミンを解析することにより、この領域の各アミノ酸のどのような性質が糖鎖付加に必要であるかを検討した。分泌型に改変し、アミノ酸置換を導入した変異スポラミンをBY-2細胞で発現させ、発現したスポラミンを形質転換BY-2の培地から免疫沈降により回収し、回収された変異スポラミンを電気泳動時のスメアリング程度を指標として糖鎖付加効率が低下した置換体候補を選抜した。これらの変異体を培地から精製後、エドマン分解によりプロリンの水酸化と水酸化されたプロリンへの糖鎖付加の程度を解析した。これらの結果をもとに、プロリン残基の水酸化と水酸化プロリンへの糖鎖付加に関わるアミノ酸配列の推定を行った。
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湯浅 浩司, 清水 雅美, 福田 裕穂, 松岡 健
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105
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
スポラミンはサツマイモ塊根の貯蔵蛋白質であるが、タバコ培養細胞BY-2株で発現させるとN末端から36番目のプロリンが水酸化され(Hyp)、アラビノガラクタン様の
O-結合型糖鎖付加修飾を受けることが分かっている。我々は今回、MALDI-TOF MSを用い、この糖鎖付加モチーフの同定を行った。
スポラミンをSDSで加熱変性させた後、数種のプロテアーゼを0.5 pmol加え15時間、37℃で消化反応を行い、消化効率をSDS-PAGEにより確認した。その結果、SDSを終濃度0.0125%で加え、プロテアーゼとしてTrypsinまたはEndoproteinase Asp-Nを用いたところ、スポラミンの消化断片が確認された。このプロトコールに従い調製したスポラミンの消化断片を、サンプルプレートに直接スポットし解析を行った。糖鎖修飾を受けないネガティブコントロールとして、大腸菌で発現させたリコンビナント蛋白質を用い、培地から回収される液胞輸送シグナルを欠失した変異スポラミンと、液胞から精製したスポラミンを比較したところ、どちらのスポラミンもHypとそれに続く1~3分子のPentoseをもつ最大9分子までのHexoseがピークとして確認された。現在1アミノ酸置換をしたスポラミンについても、糖鎖付加モチーフの解析を行っている。
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掛川 弘一, 石井 忠, 松永 俊朗
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106
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
ホウ素(B)は高等植物の微量必須元素であり、その欠乏は成長や形態形成に著しい影響を及ぼす。我々はこれまでに低ホウ素条件下(5 μM、0 μM)で成長可能なギンドロ培養細胞系 (1/20-B、0-B) を確立し、B欠乏耐性機構について研究を行ってきた。その結果、1/20-B細胞では細胞壁中のBによるペクチン間の架橋の減少をカルシウム(Ca)による架橋の形成によって補っており、架橋の形成を調節するペクチンメチルエステラーゼ(PME)活性の上昇が耐性機構に重要であることが示唆された。今回、我々はPME活性と培地中のB量との関連を調べるために1/20-B、0-B、及び100 μMのBを含むMS培地に移植した1/20-B細胞 (1/20-BR)のPME活性を耐性を持たない1/1-B細胞と比較した。継代後14日目のPME活性は1/20-B細胞では1/1-B細胞の約1.6倍であった。細胞壁中のCa量が1/1-Bよりも少なく、架橋形成が耐性に関与していないと考えられる0-B細胞でも同程度の活性が検出されたことからB欠乏によってPME活性が誘導される可能性が示唆された。一方、1/20-BR細胞では継代回数の増加に伴い活性が低下し、5回目の継代では1/1-Bの1.2倍であった。しかし、活性の低下が遅いことからPMEの誘導に対するBの関与は間接的なものであると考えられた。
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武藤 隆, 小林 優, 間藤 徹
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107
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
ホウ素欠乏による障害の発生機構を明らかにするため、ホウ素欠乏で誘導される遺伝子を検索した。
タバコ培養細胞BY-2をホウ素濃度50 mg L
-1(通常の1/20)の低ホウ素培地で継代し、馴化細胞を選抜した。この低ホウ素馴化細胞と対照細胞の間でcDNAサブトラクションを行い、馴化細胞特異的な遺伝子を13個同定した。これら馴化細胞特異的遺伝子の多くは他のストレスでも発現が誘導される遺伝子であり、ホウ素欠乏の二次的な影響を反映したものと判断した。特にグルタチオン
S-トランスフェラーゼ、カタラーゼ、サリチル酸誘導性グルコシド糖転移酵素など酸化的ストレスで誘導される遺伝子が含まれたことから、ホウ素欠乏障害の少なくとも一部は過酸化ストレスによるものと推測した。現在、ホウ素欠乏状態の細胞で実際に活性酸素種が増加するか検討中である。
馴化細胞特異的遺伝子の一部は、対照細胞をホウ素欠除培地に移すホウ素欠除処理でも誘導された。特にサリチル酸誘導性グルコシド糖転移酵素は欠除処理開始30分以内に発現量が増加したことは、ホウ素欠乏の影響が極めて短時間で発生することを示唆する。
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小原 圭介, 鷲見 和良, 福田 裕穂
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108
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
シロイヌナズナでは、Mt型およびCp型のモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素(MDAR)と思われるEST配列が1つずつ報告されている。両者のアミノ酸配列を比較すると、Mt型がN末端に7アミノ酸を余分に持っていたが、それ以降(8番目にある2つ目のMetから)は全く同一であった。そこでゲノム配列を検索したところ、両者は同じ遺伝子から由来することがわかった。Mt型のN末端の7アミノ酸内には、イントロンがあった。我々は、それぞれを特異的に増幅するプライマーを設計し、poly (A)
+ RNAに対するRT-PCR解析を行い、両者が共に転写されていることが確かめた。さらに、Cap Site Hunting法により両者の転写開始点を決定したところ、Cp型の転写開始点はMt型の第1イントロン内にあることがわかり、この
MDAR遺伝子が転写開始点を使い分けて、長短2種類のmRNAを作り分けていることがわかった。それぞれのシグナル配列部分、あるいはcDNA全長にGFPを融合させシロイヌナズナの葉に導入したところ、Mt、Cpへとそれぞれ輸送された。Mt型N末端の7アミノ酸部分は、Mt移行シグナルに典型的な正荷電の両親媒性αヘリックスを形成すると予測された。1つの遺伝子由来のタンパク質がMtとCp輸送される例は約20程あるが、転写開始点の使い分けによる例はこれまで報告されておらず、これは新規の機構と思われる。
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大谷 将人, 吉次 友昭, 長谷川 桂子, 湯川 泰, 杉浦 昌弘, 小保方 潤一
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
核遺伝子の転写は、一般に転写量の調節を担う上流調節領域(調節プロモーター領域)と、転写開始の位置や方向を決定するコアプロモーターによって、二重に制御されている。最近の研究によって、コアプロモーター領域も転写の特異的調節に関わっていることが明らかになってきた。コアプロモーターを構成するモジュールとしてはTATAボックスとイニシエーター(Inr)がよく知られているが、後者については配列の保存性が低く、植物ゲノム中で、実際にどのような塩基配列がどの程度の強さで転写開始位置を決めるのかは、まだよくわかっていない。本研究では、高等植物由来の
in vitro転写系を使って、転写開始点前後の3塩基の組み合わせ全64通りについて、それぞれもつ相対的な転写開始シグナル強度を測定した。さらに、同様な実験をHela細胞由来の
in vitro 転写系で行い、両者の結果を比較した。その結果、転写開始点の選択機構に従来予想されていなかった規則性のあること、さらに、動物と植物の系のもつ相似点、相違点などが明らかになった。
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中本 真理, 西村 良子, 尾之内 均, 内藤 哲
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110
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
シスタチオニン γ-シンターゼ(CGS)は、メチオニン生合成において、鍵となる反応を触媒している重要な酵素である。
in vitro翻訳系を用いた研究からシロイヌナズナのCGS遺伝子は、メチオニンの次の代謝産物である
S-アデノシルメチオニン(SAM)により、mRNAの安定性の段階で負に制御されていると考えられる。この制御機構には、CGS第1エキソン内の十数アミノ酸からなる領域(MTO1領域)が必須であることが示されている。また、CGS第1エキソンのポリペプチドが、自身のmRNAに対してシスに働くことから、この制御は翻訳中に行われていると考えられる。
in vitro翻訳系において、CGS第1エキソンを持ったmRNAを翻訳反応させると、SAMに応答してmRNAの切断が誘導された。そこで本研究では、
in vitroで合成したGSTタグ付きのCGS第1エキソンを持つmRNAを
in vitro翻訳し、GST抗体を用いてウエスタン解析を行った。その結果、SAMを加えた場合では全長のタンパク質が減少し、特異的なバンドが2つ検出された。分子量の小さいペプチドは融合タンパクのN末端からMTO1領域近傍までを持ち、大きいものはこれにRNAが付いたものであることがわかった。この結果から、SAM存在下ではMTO1領域近傍で翻訳が停止し、ポリペプチドにtRNAが付いたままになっていると考えている。
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櫻井 玲子, 西村 良子, 尾之内 均, 内藤 哲
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
シスタチオニン γ-シンターゼ (CGS) は、メチオニン生合成において、鍵となる反応を触媒している酵素である。シロイヌナズナのCGS遺伝子はmRNAの安定性の段階で制御されている。この制御には、CGS第1エキソン内の十数アミノ酸からなる領域 (MTO1領域) が必須であることが示されており、CGS第1エキソンのアミノ酸配列を植物間で比較するとMTO1領域を含む38アミノ酸において高い相同性を示した(保存領域)。また、CGS第1エキソンのポリペプチドが、自身のmRNAに対しシスに働いていることから、この制御は翻訳中に行われていると考えられる。小麦胚芽を用いた
in vitro翻訳系において、CGS第1エキソンを持ったmRNAを翻訳反応させると、メチオニンの次の代謝産物である
S-アデノシルメチオニン (SAM) に応答して全長より300-400塩基短いRNAが検出された。同様の短いRNAは
in vivoでも見られている。今回、
in vitro翻訳系を用いて、短いRNAの解析を行った。Primer伸長法により切断個所を決定したところ、MTO1領域近傍にこの RNAの5’末端が検出された。また、
in vitro翻訳系を用いてこの制御に必要な領域をレポーター活性により調べたところ、CGS第1エキソン内の保存領域が必要であることが示された。現在短いRNA の生成に関わる領域の同定を行っている。
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鈴木 昭徳, 尾之内 均, 内藤 哲
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
植物におけるメチオニン生合成の鍵段階で働く酵素であるシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)は,メチオニン添加に応答してmRNAの安定性の段階でフィードバック制御を受ける.また,この制御機構においてCGS遺伝子の第1エキソン領域が必要十分な領域であることが明らかにされている.
この第1エキソンにみられる制御機構に対してトランスに働く因子を遺伝学的に同定することを目的として,CGS遺伝子の第1エキソンとGFP遺伝子を繋ぎ,これをCaMV 35Sプロモーターの制御下においた融合遺伝子を持つトランスジェニック・シロイヌナズナに変異誘起処理を行った.50,000株のM2植物をメチオニンを添加した培地で生育させたところ,メチオニン添加に応答せずに高いGFP蛍光を示し,実際に導入遺伝子の発現量が増加している9株の候補株を得た.さらにそのうちの2株はCGS遺伝子の発現量も増加していた.得られた候補株がメチオニン生合成に関わる変異株である可能性も否定できないため,現在は突然変異株における遊離アミノ酸の蓄積量の解析を行っている.
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今井 剛, 山本 俊哉, 松田 長生, 矢崎 潤史, 石川 雅弘, 藤井 文子, 真保 佳納子, 島谷 善平, 長田 夕子, 橋本 晶子, ...
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
開花後1か月および収穫期のモモ果実よりcDNAライブラリーを作製し、ランダムにピックアップした約1,500クローンのマイクロアレイによる発現解析を行った。ターゲットとして開花後10日、1ヶ月、2ヶ月半、収穫期の果実および若い葉より精製したmRNAを用い、果実発達に伴う顕著な発現量の変化がみられる遺伝子を探索した。1割程度で変動がみられ、大きいものでシグナル強度で2桁の変動があった。i) 減少していくもの:ポリフェノールオキシダーゼ、プロテアーゼインヒビター、スーパーオキシドジスムターゼ等; ii) 増大していくもの:抗菌性ペプチドホモログ、インベルターゼインヒビター、ACCオキシダーゼ、ペクチンリアーゼ等; iii) 初期と収穫期で発現が強いもの:転写因子の一種。i) に属するPF10056は28アミノ酸のほぼ完全な繰り返しを4回もつタンパク質をコードしており、開花後2ヶ月半までは発現量も非常に多い。野生種タバコ由来のエクステンシンの一種と30%程度の相同性がみられたが、機能に興味が持たれる。
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浅野 敬幸, 草野 博彰, 菊池 尚志, 増村 威宏, 島田 浩章, 門脇 光一
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
レーザーマイクロダイセクションは、組織切片から目的とする細胞のみを限定的に単離し、回収する装置としてガン細胞を用いて開発された。これにより、細胞レベルでの個々の遺伝子の発現解析が可能となった。そこで、我々はレーザーマイクロダイセクションを用いて、周辺細胞と形態的識別が容易なイネの師部で発現する遺伝子の効率的な単離を行った。まず、レーザーマイクロダイセクションによりイネの師部の限定単離を行い、回収した細胞からRNAを抽出し、これを用いてcDNAライブラリーを作製した。任意に選択した413クローンの塩基配列の解析を行ったところ、これらのクローンは124のグループに分類され、そのうちの約6割のクローンが既知の塩基配列との相同性を示した。次に、任意のcDNAクローンを選択し、
in situハイブリダイゼーションおよびGUSレポーター遺伝子を用いた組織化学的染色により、これらの遺伝子の組織特異的な発現解析を行った。本学会では、師部特異的cDNAライブラリーの構築および得られたcDNAクローンの遺伝子発現解析の結果について報告する。
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辻 寛之, 雑賀 啓明, 堤 伸浩, 中園 幹生
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
真核生物のゲノムDNAはヒストン8量体に巻きついて存在しており、この構造はヌクレオソーム構造と呼ばれている。ヌクレオソーム構造の弛緩、凝集は遺伝子の転写の活性化、抑制に影響すると考えられている。こうしたヌクレオソーム構造の変化にはヒストンの修飾が関わっており、ヒストンの修飾にはアセチル化、メチル化、リン酸化、モノユビキチン化が知られている。一般にヒストンがアセチル化されると転写活性が上昇し、脱アセチル化されると転写活性が減少する。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)はヒストンの脱アセチル化を通して転写の抑制を行う酵素であり、酵母や動物ではHDACが転写の制御、ジーンサイレンシング、生物の寿命に関わっていることが知られている。本研究では植物におけるHDACの機能を解析する第一歩として、イネからHDAC遺伝子を同定しその発現の器官特異性、ストレス応答性などについて調べた。HDACはクラス1,2,3,とHD2タイプの4クラスが存在し、イネゲノム中には少なくともクラス1が7つ、クラス2が5つ、クラス3が2つ、植物特有のHD2タイプが2つ存在していた。これらの発現をRT-PCRで解析したところ、幼植物体で主に発現する遺伝子や穂で主に発現する遺伝子などがみつかった。またイネにいくつかの環境ストレスを与えてHDACの発現をRT-PCRで解析したところ、それぞれのストレスで誘導される遺伝子が見つかった。
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渡辺 弥生, 橋本 有加, 中田 克, 塩野 忠彦, 松崎 雅弘, 佐藤 敏生
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
germin 及び germin-like proteins (GLPs) の遺伝子は多くの植物から分離されており、植物に普遍的に存在すると考えられている。また、GLP遺伝子はゲノム内に複数存在し遺伝子ファミリーを形成しているが、個々のGLPの機能についてはほとんど明らかになっていない。当研究室では、コケ植物から初めて細胞外にMn-SOD活性を持つタンパク質を分離し、それがGLPである事を明らかにした。
本研究では、植物におけるGLP遺伝子の分子系統進化を明らかにする事を目的とし、初めての陸上植物であるコケ植物に注目した。材料としては、遺伝子導入系が確立している蘚類ヒメツリガネゴケを用いた。
ヒメツリガネゴケではGLP遺伝子を含むクローンが68個データベースに登録されており、7種類の別々のGLPであった。これらのGLPには輸送配列が存在し、細胞外に局在すると予想された。これらのゲノム領域を得るため、ゲノムライブラリーをスクリーニングし、現在までに2種類のGLPのゲノムを得た。GLP配列をもとに系統解析を行うと、ヒメツリガネゴケのGLPは独自のサブファミリーを形成した。
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Naoki Takahashi, Hirofumi Kuroda, Motoaki Seki, Kazuo Shinozaki, Hiroa ...
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
The SCF ubiquitin ligase complex targets the ubiquitin-mediated degradation of proteins in multiple dynamic cellular processes including flower formation, hormone and light signal transduction, and senescence in plant. The SCF ubiquitin ligase is composed of SKP1, cullin, Rbx1 and F-box protein. The genome of
Arabidopsis has been shown to contain at least 19 SKP1 homologue (
ASK;
Arabidopsis SKP1 homologue) genes. The biochemical properties, expression, and function of the
ASK genes are examined. By yeast two-hybrid analysis, ASK proteins exhibited diverse binding specificities for F-box proteins in
Arabidopsis. The tissue specificity of expression of
ASK genes was also varied by promoter-
GUS transgenic plants. Over expression or antisense expression of
ASK genes resulted in abnormal morphology in flower, leaves and stem. Our results suggest that through combinatorial arrangements between ASK proteins and F-box proteins, specific types of SCF complexes can be formed.
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Hirofumi Kuroda, Naoki Takahashi, Hiroaki Shimada, Motoaki Seki, Kazuo ...
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
F-box proteins regulate diverse cellular processes including cell cycle transition, transcriptional regulation and signal transduction by playing roles in SCF complexes or non-SCF complexes. Our database search revealed that at least 568 F-box protein genes are present in Arabidopsis genome. We found F-box proteins with LRRs, WD40 repeats, Kelch repeats, several unique functional domains and new putative domains by domain search analysis using SMART and Pfam databases. The domain analysis revealed that the Arabidopsis F-box proteins are classified into at least 19 subgroups based on their domain structures. To carry out functional analysis of F-box protein genes, 82 cDNAs of F-box protein genes were collected by RT-PCR and by searching a RAFL collection, and cloned into Entry vector of Gateway system. Using the cDNAs, tissue specific expression was analyzed by macro array analysis, and we are currently analyzing antisense transgenic plants of F-box protein genes.
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羽田 厚, 日出間 純, 前川 雅彦, 熊谷 忠
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
イネにおけるUVB感受性とUV吸収物質の蓄積との関係を明らかにするため、UVB誘導DNA損傷の1つであるシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)のUVBによる生成量とUV吸収物質の蓄積量との関係について解析した。材料として、UV吸収物質(フラボノイド類、アントシアニン)を多く蓄積している紫イネと台湾の栽培種である台中65号(T-65)との間で戻し交雑を行い、T-65の遺伝的背景を有し、かつ葉内に蓄積されるUV吸収物質含量が2~6倍多い準同質系統(NIL)を用いた。その結果、(1)T-65と比較してUV吸収物質を多量に蓄積しているNILは、UVB付加によって生育は抑制され、可溶性タンパク質、Rubisco含量を著しく低下させた、(2)生育期間中、葉内に存在しているCPD量は、UVB付加(chronic UVB exposure)によって増加したが、その量はNILの方がT-65と比較して常に高い、(3)UV吸収物質の蓄積は短時間のUVB照射(challenge UVB exposure)によるCPD生成量を軽減させた(4)アントシアニン量の蓄積は、Blue/UVAを吸収してCPDを修復する光回復酵素の活性も低下させた、ことが分かった。以上の結果から、UV吸収物質の蓄積は、UVBによって引き起こされる傷害を軽減するためのスクリーニングとして、必ずしも効果的に働いている訳ではないと結論した。
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上田 忠正, 佐藤 雅志, 日出間 純, 廣内 篤久, 山本 和生, 熊谷 忠, 矢野 昌裕
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
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イネ紫外線抵抗性品種日本晴と感受性品種Kasalathの戻し交雑後代系統群を用いたQTL(量的形質遺伝子座)解析により、イネ染色体上には紫外線抵抗性に関与する6つのQTLが検出されている。このうち第10染色体上のQTL(
qUVR-10)はこれらの QTLの中で最大の寄与率を示し、Kasalathの対立遺伝子が紫外線感受性にする。マップベースクローニングにより、
qUVR-10は27kbの候補ゲノム領域内に存在することが判明し、その領域内にはシクロブタン型ピリミジン2量体(CPD)光回復酵素(photolyase)と高い相同性のある配列が存在した。
qUVR-10近傍の組換え個体について、CPDに対するの光修復能力を測定したところ、修復能力に関与する遺伝子座と
qUVR-10は一致した。日本晴とKasalath のCPD photolyaseのゲノム塩基配列の比較を行ったところ、高度に保存された領域において1塩基置換が認められ、それが1アミノ酸置換を生じることが推定された。これら結果より
qUVR-10はphotolyaseをコードしており、Kasalath 型のphotolyase遺伝子をもつ植物ではこのアミノ酸置換により光修復能が低下し、紫外線感受性になっていると推察された。
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宗村 郁子, 日出間 純, 熊谷 忠
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
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紫外線はDNAにシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)やピリミジン(6-4)ピリミドン二量体[(6-4) 光産物]を作り、突然変異や致死を引き起こす。これらの損傷に対し生物はさまざまな修復機構をもつ。植物においては、UVA/Blue光を利用してCPD及び(6-4)光産物を特異的に修復する酵素反応が主要となっている。イネにおいては、UVB感受性品種(農林1号)は、UVB抵抗性品種(ササニシキ)と比較し、CPD光修復能が低下しており、それがUVB抵抗性を左右する一因子である可能性がこれまで示されている。しかしながら、もう一つのDNA損傷である(6-4)光産物の光修復活性については不明である。本研究では、UVB感受性の異なる二品種を用いて、UVBによる(6-4)光産物の生成とその光修復能について比較解析を行った。その結果、両品種のUVB照射による(6-4)光産物の生成に対するdose response curveは差が認められなかった。しかし、UVA/Blue光による(6-4)光産物の修復速度は、UVB抵抗性品種では感受性品種に比べ遅いことが判った。これらのことから、この二品種間におけるUVB感受性の違いは、CPD光修復活性に加えて(6-4)光修復酵素の活性とも関係している可能性が示された。
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竹内 敦子, 日出間 純, 熊谷 忠
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
紫外線B (UV-B) によって生成される DNA損傷の主産物の一つはシクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD)である。CPDの修復機構としては暗修復と光修復が知られているが、植物においては光修復が主である。ところで、植物におけるCPD光回復酵素の細胞内局在性に関する知見は乏しく、アラビドプシス (Chen et al., 1996)とホウレンソウ (Hada et al., 1998)については、葉緑体に光回復酵素が存在しない可能性が報告されているが、イネに関しては不明である。本報告では、イネにおけるCPD光回復酵素の細胞内局在性について紹介する。
イネ・ササニシキの葉から葉緑体画分と核画分をショ糖密度勾配遠心法によって分画した。葉緑体の指標としては、クロロフィル量およびNADP-G3P-dehydrogenase活性を用い、さらに核および葉緑体の指標として定量PCR法による rbcSとrbcL量を用いた。得られた葉緑体画分と核画分を用い、アルカリ電気泳動法によりCPD光回復活性を測定した。その結果、核画分においては高いCPD光修復活性が認められたが、葉緑体画分ではCPD光修復活性は認められなかった。この結果、イネのCPD光回復酵素は核には局在し、葉緑体には局在しないことが示唆された。
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山本 充, 張 文会, 佐藤 雅志, 日出間 純, 熊谷 忠
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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UVBやCO
2大気環境が植物の生長に及ぼす影響の野外試験は他の環境要因の変化によって大きく左右されるので、それらの影響を正確に把握するには多年にわたる試験が必要である。我々は93年から宮城県鹿島台の実験水田や圃場に設置したオープントップチャンバーを用い、UVB付加(UVB蛍光管からの放射光をCellulose diacetate filmを通過させた290 nm以下の波長を除去した約1W/m
2のUVBを付加)照射あるいは高濃度CO
2大気(700 ppm)がイネの生育・収量に及ぼす影響について調査してきた。そのうち、本年会では、98年以降に得た結果について報告する。
実施した年度毎で程度の差は認められたものの、UVB付加によって地上部乾物重や籾重は減少した。年度の気候の違いにかかわらずUVB付加によって、玄米の大きさは小型化し、玄米に含まれるタンパク質含量は増加した。中でも貯蔵タンパク質(アルブミンーグロブリン、プロラミン、グルテリン)のうちグルテリン含量の増加が著しかった。これらUVB付加照射による影響は、高濃度CO
2環境下においても同様であった。また、水田における試験の結果、分げつ期、幼穂形成期、登塾期の生育段階のうち登塾期に処理したUVB付加が玄米の小型化や貯蔵タンパク質の増加にもっとも効果的に働く事が分かった。今後はこのメカニズムを明らかにしたい。
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五條 理保, 手塚 修文
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
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本研究では、近紫外光がクロレラ〔
Chlorella ellipsoidea(IAM-27)〕の生育に及ぼす影響について、調査を結果、近紫外光照射条件下において、生長や生理活性に違いがみられた。
植物ホルモンであるエチレンは、植物の生長に深く関与している。しかし、これまでクロレラではこのエチレン生成に関する報告はほとんどみられなかった。よって、ACCシンターゼ、ACCオキシダーゼの活性ならびにACC、最終生成物であるエチレンが検出され、これらの経路によって、クロレラにエチレン生成系が存在することを確認した。
また、これらのACCシンターゼ、ACCオキシダーゼの活性ならびにACC、最終生成物であるエチレンの含量は、近紫外光によって抑制されていた。
今大会では、これらの結果について報告する。
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白石 卓夫, 鈴木 基寛, 尾形 健明, 大矢 博昭
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
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酸化的ストレスによる植物のレドックス状態の変動を観察するために、スピンプローブ剤を用いた電子スピン共鳴(ESR)法を開発してきた。植物に取り込ませたスピンプローブ剤は葉中で還元された後に、レドックス状態の酸化方向への遷移に伴って再酸化される。本報告では、植物のストレス応答能を評価するESR計測法の確立を最終目的として、ストレス負荷に対するスピンプローブ剤の反応を解析した。
一般的に用いられるESRプローブ剤であるcarbamoyl-PROXYLをダイコン幼植物体またはエンドウ葉に取り込ませた。その後に、光照射によって引き起こされるプローブ剤のESR信号変化を計測した。個々の葉におけるプローブ剤のESR信号強度の増加量は、照射光強度と葉中のプローブ剤量に依存していた。低温下での強光照射 (45000 lux, 7度, 3時間)によって予め光障害処理を施した幼植物体の葉においては、クロロフィル蛍光量子収率の低下と相関して光照射による信号強度の増加量が増大した。これらの結果から、酸化的ストレスに対する個々の葉のストレス適用能力をESR計測によって決定し得ることが示された。
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木村 光宏, 真鍋 勝司, 松井 南, 阿部 知子, 吉田 茂男, 山本 義治
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
フリー
強光ストレス下においてはアンテナタンパク等の光合成関連遺伝子群の発現が抑制されるだけではなく、活性酸素類の除去酵素を含むいくつかの抗ストレスタンパク質の遺伝子発現が活性化される。私達は強光受容から遺伝子発現制御へ至るまでのシグナル伝達経路の解明を目的として遺伝学的な解析を行っている。強光処理に応答してホタルルシフェラーゼ遺伝子の発現が活性化されるシロイヌナズナのin vivo解析系を用いて、強光応答に異常の見られるシロイヌナズナ変異体をスクリーニングした。現在30種類程度の変異体が単離されており、強光応答の鈍くなったものと恒常的に強光応答を示すものの二つのグループに分けられた。また遺伝子発現応答がおかしいだけでなく、葉の形態に異常を示すものも見られた。これらの変異体についての知見について報告したい。
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佐々木 克友, 伊藤 浩之, 松井 博和, 大橋 祐子
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
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我々は傷害やTMV感染による過敏感細胞死によって誘導されるタバコペルオキシダーゼtpoxN1の機能を解析している.今までに,この転写産物は傷害を与えると30分から1時間で蓄積し始め,そのレベルが長期間保持されていることを報告した (Sasaki et al. 2002).傷害によるこの転写産物の蓄積は葉脈を含まない葉組織では顕著ではなく,通導組織,特に茎で最も顕著であった.今回, tpoxN1の機能解析を目的として
tpoxN1 cDNAをCaMV35Sプロモーターの20倍強力なプロモーターに連結しタバコに導入したところ,組換えタバコはやや矮化の表現系が見られた.植物体から葉を取り除き1 cm長の茎切片を切り出し,そのまま放置して自然乾燥させ,経時的にその重量を測定すると,組換え体では重量の減少が非組換え体に比較して有為に抑制されていることが分かった.このことはこの組換え体ではtpoxN1由来の高レベルのペルオキシダーゼ活性を介して,傷の修復が促進されている可能性を示唆している.傷口の修復は植物の生存に必要な負のxylem pressure を取り戻すためにも必須であり,本遺伝子が迅速な傷害応答を示すことも合わせて考えると,その機能に興味が持たれる.
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山口 夕, 葉 婉琴, 石橋 佳奈, 原 光二郎, 屋木 美津恵, 小泉 望, 佐野 浩
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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傷に応答して、数分から1時間で一過的に転写量が上昇するタバコの遺伝子群の一員として、
WIPK(wound induced protein kinase)と
WIZZ (wound induced leucine zipper zinc finger) が単離されている。
WIPKはMAPキナーゼを、
WIZZはWRKY型の転写因子をコードしており、どちらも修復や防御機構の発現調節に関わっている。しかし、
WIPKと
WIZZ自体の転写の活性化が、どのような仕組みで起こっているのかは明らかではない。本研究は、プロモーター解析によってそれらの転写活性化機構に迫るものである。
WIPKと
WIZZの上流領域から、それぞれ1.1kb、1.5kbの断片を単離し、レポーター遺伝子(GUS/LUC)とのキメラ遺伝子を構築し、タバコに導入した。傷処理により
WIPKは傷口の周りで、
WIZZは維管束で強く発現していた。それぞれ数種類のディレーションコンストラクトを作製したところ、
WIPKは上流0.4kb以内に、
WIZZでは0.3kb以内にシス配列が存在することが示唆された。また、
WIPKは、TMV感染による過敏感反応でも、転写量が上昇することが分かっている。プロモーター解析により、過敏感反応による壊死斑のまわりで
WIPKが強く発現していること、傷害応答性と同様に上流0.4kb以内にシス配列が存在することを明らかにした。
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小川 大輔, 栗原 理恵, 西内 巧, 山口 和男
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
会議録・要旨集
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Multiprotein bridging factor 1(MBF1)は、カイコにおいてTATA-box Binding Protein(TBP)とBmFTZ-F1の2つの転写因子を橋渡すように相互作用するコアクチベーターとして機能することが発見された。その後、MBF1ホモログが酵母からヒトまで広く存在することが明らかになり、その中にはコアクチベーターとしての機能が報告されているものもある。しかし、現在までのところ植物においてはMBF1ホモログに関する知見はあまり得られていない。
我々はシロイヌナズナの根カルス形成時に発現している遺伝子をディファレンシャルディスプレイ法により検出した。その結果、転写制御に関わると推定される遺伝子が複数存在し、その中の1つにMBF1ホモログが含まれていた。また、シロイヌナズナのゲノム中にはさらに2つのMBF1ホモログの存在が示されたため、それらを
AtMBF1a、AtMBF1b、AtMBF1cとした。
これらの3つの遺伝子において、発現の器官特異性をノーザンブロットにより解析したところ、これらは根カルス以外でも様々な器官で発現し、特に花で強いというよく似た発現パターンを示した。さらに詳細な解析のため、それぞれのプロモーター::GUS融合遺伝子を導入した形質転換体を作出し、解析を行った結果、AtMBF1cが傷害に応答することが明らかになった。
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楠見 健介, 河野 智樹, 杉本 広樹, 戸澤 譲, 吉村 淳, 菊池 尚志, 射場 厚
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130
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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イネ
virescent (
v1、
v3) は温感受性突然変異株で、制限温度下で生育すると葉緑体分化が阻害され葉がクロロシスを起こす。これまでの解析から、
virescent 遺伝子はP4と呼ばれる葉の発生初期のステージで機能し、プラスチド遺伝子の転写制御に関与することが示唆されている。本研究では抗体を用いて、転写装置を中心とした葉緑体タンパク質の蓄積パターンを調べた。野生株のP4ステージの葉においては、核コードRNAポリメラーゼ(NEP)(OsRpoTp)およびプラスチドコードRNAポリメラーゼ(PEP)のサブユニットタンパク質(RpoA, SigA)は、ともに顕著に蓄積していた。ところが制限温度下の
v1、
v3変異株においては、これらが著しく抑制されていた。一方P5以降のステージでは、
v1、
v3変異株では野生株と比較してプラスチドコードの葉緑体タンパク質の蓄積がほとんど観察されず、またLHCPやRubisCO小サブユニットなど核コードの葉緑体タンパク質の蓄積も著しく抑制されていることがわかった。これまで得られた知見とあわせ、これらの結果は、P4ステージにおけるNEPの活性化が葉緑体の遺伝子発現系構築の引き金であると同時に、核コードの葉緑体タンパク遺伝子の発現制御にも重要な意味を持つことを示唆している。
V1、
V3遺伝子は現在クローニング中であり、その結果についても報告する。
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杉本 広樹, 楠見 健介, 吉村 淳, 菊池 尚志, 射場 厚
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131
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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virescent-2 (
v2) はイネ低温感受性葉緑体形成不全突然変異株である。これまでに行った解析により、
V2 遺伝子は、葉の発生分化の初期 (P4) に特異的に機能すること、T7ファージ型葉緑体RNAポリメラーゼ (NEP) の活性化を通じた葉緑体の遺伝子発現システムの構築に関与することが示唆されている。マップベースクローニングの手法により、
V2 遺伝子をクローニングしたところ、この遺伝子がコードするタンパク質は核酸合成のキーエンザイムであるguanylate kinase (GUK) と高い相同性を示した。そこで、
V2 遺伝子を
ogkA と命名した。この
ogkA は酵母の
guk1 変異を機能相補した。また、RT-PCRによる発現解析から、
ogkA の転写産物は葉の発生初期のステージ (P1~P4) の未成熟葉において顕著に蓄積することがわかった。これらの結果は、OgkAの活性化と核酸合成経路が葉緑体分化初期のプラスチドの遺伝子発現制御に重要な役割をもつことを示唆している。また、これらの結果に加え、マイクロアレイシステムを用いた、
v2 変異株における遺伝子発現パターンの詳細な解析結果についてもあわせて報告する。
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中西 弘充, 内川 荘司, 辻 孝, 田口 悟朗, 小島 峯雄, 金子 康子, 林田 信明
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132
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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葉の色が異常になった個体は、クロロフィルの合成過程、もしくはクロロフィルの蓄積される場である葉緑体の形成に異常が起きている可能性が高い。そこで、葉緑体の形態形成に関連する遺伝子を解析するために、体色変異株の収集と解析を行った。これまでにEMSを変異原とした変異株ライブラリーから77系統の体色変異株を見出した。各変異株のプロトプラストを観察し、葉緑体の形態が異常な株を見つけた。そのうちの2系統について、電子顕微鏡を用いてさらに詳しい観察を行った。
1系統は斑入り変異株で、植物体の成長にともない斑が拡大した。電子顕微鏡観察の結果、緑色部の葉緑体は野生株のものとほぼ同じ構造だったが、白色部の色素体は発達したチラコイド膜はなく、空胞が見られた。葉緑体の分化維持の制御機構に異常が起きたものと考えられる。表現型が細胞ごとに現れたり消えたりする斑入りの機構は、特に興味深い。
別の1系統は葉緑体の大きさと外形の変異株である。この系統では、葉緑体の直径が野生株の2倍以上に拡大していたものや、逆に縮小したものが同じ細胞中に観察された。葉緑体の分裂機構に異常が起きたものと考えられた。しかし、電子顕微鏡観察の結果、さらに興味深いことが分かった。葉緑体の分裂異常だけではなく、チラコイド膜の配向が異常で、ストロマ領域の割合と局在も異常を示していた。葉緑体内の膜構造の制御に関わる変異と考えられる。
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岸根 雅宏, 高林 厚史, 宗景 ゆり, 鹿内 利治, 佐藤 文彦, 遠藤 剛
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133
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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葉緑体遺伝子発現は核による制御を受けており、中でも転写産物のプロセッシングを含む転写後制御は重要である。これらの葉緑体遺伝子発現に関わる変異株の選抜のために、光合成電子伝達の状態を反映するクロロフィル蛍光を用いることが有効である。我々はこれまでにシロイヌナズナのM2植物約50,000株から、クロロフィル蛍光に異常を示す変異株を59株単離してきた。その中の一つ2627-2と名付けたT-DNAタギング株は、葉緑体に移行すると予想されるRNase Rをコードする遺伝子に挿入を持っていた。そこで2627-2株における葉緑体のRNA代謝について解析を行った。その結果、葉緑体RNAのうちでrRNA前駆体に明らかな蓄積が認められ、一方その成熟rRNAは減少していた。また、葉緑体mRNAのうちで、葉緑体コードRNAポリメラーゼ (PEP) によって転写されるmRNAには量的な変化が見られなかったが、核コードRNAポリメラーゼ (NEP) 制御のものの蓄積が2627-2株で増加していることを認めた。これらの結果は、2627-2株では葉緑体RNase Rの欠損によるrRNAのプロセッシング異常により、葉緑体リボソームの翻訳活性が低下し、葉緑体遺伝子発現に変化をきたしていることを示唆しており、現在さらなる解析を行っている。
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平間 岳史, 関根 康介, 佐藤 直樹
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134
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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プラスチドは独自のDNAを持つオルガネラであり、葉緑体DNA (cpDNA) はタンパク質とともに核様体を構成している。葉緑体核様体の主要構成タンパク質の一つである亜硫酸還元酵素(SiR)は、cpDNAのパッケージングを行い,転写調節を行っていることが、当研究室の研究によって分かっている。SiRは葉緑体に局在し、フェレドキシン依存的に亜硫酸イオンを硫化物イオンに還元する酵素である。本研究では、プラスチドの緑化過程におけるSiRの量的・質的変化を調べた。エンドウの幼芽からエチオプラスト核様体を単離し、ウエスタンブロットを行ったところ、葉緑体核様体と同様に、主要なタンパク質としてSiRが検出された。さらに、両プラスチド核様体において、SiRの含有量に違いがあることが分かった。また、プラスチドでのSiRの質的変化を調べるために、葉緑体を分画し、それぞれのフラクションについて二次元電気泳動による分離を行い、ウエスタンブロットによってSiRを検出したところ、フラクションによってSiRの等電点が異なることがわかった。現在、このようなSiRの等電点の違いがタンパク質の修飾によるものであるという可能性について調べている。
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関根 康介, 長谷 俊治, 高橋 秀樹, 佐藤 直樹
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発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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プラスチド核様体はプラスチドDNAと複数のタンパク質との複合体であり,プラスチドの発達段階によって形態的,分子的変化を伴う.エンドウでは,葉緑体核様体の主要な構成成分である70 kDaタンパク質が亜硫酸還元酵素(SiR)であると同定され,また,トウモロコシの組換えSiRを使った実験からSiRがDNAを凝縮する機能を持つことが示された。組換えSiRの添加によって核様体のDNA凝縮が強固になり,ヘパリンによるSiRの可溶化でDNA凝縮が弛緩されることも確認された。単離核様体を使った
in vitro転写系において,SiRによるDNA凝縮が転写を抑制し,DNA凝縮の弛緩によって転写が活性化されることが分かった。本研究ではSiRのDNA結合に関して,さらに詳細な検討を加えた。SiRとGFPの融合遺伝子を導入したシロイヌナズナの葉肉細胞と,その変異体から単離した葉緑体核様体の顕微鏡観察では,SiRがストロマと核様体の両方に存在している可能性が示唆された。また,高等植物と同様,フェレドキシン型SiRを持つラン藻では,核様体にSiRは存在しないと思われる。現在エンドウSiRのcDNAを単離しており,高等植物におけるSiRのDNA結合活性についてタンパク質の構造比較からのアプローチも試みる予定である。
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寺沢 公宏, 大木 康人, 佐藤 直樹
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136
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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PENDタンパク質は、エンドウ葉緑体の包膜に存在するDNA結合タンパク質である。N末端近くにbZIP様のDNA結合ドメインがある。シロイヌナズナの第3染色体にコードされるATF4F15.280と、アブラナの核の転写因子として発表されているGSBF1は、エンドウのPENDと相同である。アブラナ・ソメイヨシノ・キュウリからも、相同なゲノム配列を得た。また新たにトマトやコムギなどのcDNAにも相同な配列が見つかった。PENDタンパク質が被子植物に広く存在し、cbZIP領域とC末端の膜貫通領域が特に良く保存されていることがわかった。PENDタンパク質の全長を含むGFPとの融合タンパク質が葉緑体に局在し、さらにN末端の15アミノ酸を除いたコンストラクトでは核に局在することが分かり、これはウエスタンブロット分析でも確認された。以前の研究で、N末端側のコンストラクトでは葉緑体に局在し、約半数の細胞ではさらに核にも局在することが報告されている。シロイヌナズナとアブラナのゲノム配列を用いたGFPとの融合タンパク質でも同様な結果が得られた。さらに安定な形質転換体では、ほとんど葉緑体だけに局在した。この結果からPENDタンパク質は通常葉緑体の包膜に局在するが、葉緑体が傷害を受けた場合には細胞核に輸送されるのではないかと考え、これを実証する実験を進めている。
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宮島 一徳, 関根 康介, 壁谷 如洋, 得平 茂樹, 佐藤 直樹
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137
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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プラスチドは,独自のDNAを持つオルガネラであり,プラスチドDNAは様々なタンパク質,RNAとともに高次の複合体である核様体として存在し,これが機能的な単位となっている。
Cyanidioschyzon merolaeは,核,プラスチド,ミトコンドリアを1個ずつ持つ単細胞性紅藻で,緑色植物系統とは異なる系統におけるプラスチドの進化を調べるのに有用である。本研究では
C. merolaeのプラスチド核様体を単離し,
in vitro転写実験系の基本的な性質を調べ,ラン藻,コケ,エンドウと比較することを目的とした。様々な阻害剤のプラスチド核様体に及ぼす効果を調べると,バクテリアのRNAポリメラーゼの転写を阻害するリファンピシンで異なる阻害効果があった。
エンドウの葉緑体核様体の主要構成タンパク質は亜硫酸還元酵素(SiR)であり,SiRが葉緑体DNAの凝縮に働いているが,これに対して
C. merolaeでは,ヒストン類似タンパク質のHUタンパク質がプラスチドDNAの凝縮に関与している。
in vitro転写実験系に,大腸菌に発現させた
C. merolaeのHUタンパク質を加えたところ,
C. merolaeのプラスチド核様体では転写活性が上がり,エンドウでは下がる効果があった。紅藻と緑色植物系統のプラスチドでは,核様体を構成するタンパク質に大きな違いがあり,今後更に研究を進める予定である。
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壁谷 如洋, 佐藤 直樹
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138
発行日: 2003/03/27
公開日: 2004/02/24
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植物におけるオルガネラRNAポリメラーゼRPOTは、シロイヌナズナに3種類存在し、それぞれミトコンドリア(Mt)、葉緑体(Cp)、そして両方へ輸送されることが知られている。両方に輸送されるAtRpoT;2はそのN末端配列中の2か所にMet残基(M1, M40)を持ち、M1から翻訳されるとCpに、M40から翻訳されるとMtに輸送されるとされている。ヒメツリガネゴケのPpRPOT1とPpRPOT2には、いずれもAtRpoT;2と同じように開始Metとなりうる2個のMetが存在する。PpRPOT1の5'-非翻訳領域と2個のMet残基(M1, M48)を含むN末端配列にGFPをつないだコンストラクトをヒメツリガネゴケのプロトプラストに導入したところ、GFPの蛍光はMtにのみ局在した。しかし、Metコドンのすぐ前にエンドウrbcSのtranslation leader配列をつなぎ強制的に翻訳させるコンストラクトを用いたところ、M1から翻訳させるとCpに、M48から翻訳させるとMtに輸送されることが分かった。また、M1とM48 の上流配列とGUS をつなぎプロトプラストでの翻訳効率を調べたところ、M1の上流配列からの翻訳はほとんど無いことが分かり、本来のコンテキストではM48から翻訳されMtに輸送されることが示唆された。このことは、単離CpとMtの転写のタゲチトキシン感受性の結果とも一致する。
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