日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
選択された号の論文の841件中251~300を表示しています
  • 佐々木 孝行, 山本 洋子, 江崎 文一, 且原 真木, Peter R. Ryan, Emmanuel Delhaize, 松本 英明
    p. 239
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    コムギでは、根圏からのリンゴ酸の放出がアルミニウム(Al)耐性機構の一つと考えられている。これまでにコムギの準同質遺伝子系統ET8(Al耐性)とES8(Al感受性)を用いたサブトラクション法によりAl耐性株の根特異的に発現する遺伝子(ALMT1)を単離し、この遺伝子がAl活性化型リンゴ酸トランスポーターをコードすることを明らかにした。さらにALMT1には2つの対立遺伝子があり、Al耐性品種に共通の遺伝子型(ALMT1-1)とAl感受性品種に共通の遺伝子型(ALMT1-2)は互いに6塩基(アミノ酸で2残基)の相違があることも明らかにした。
    本年度は、ALMT1遺伝子とAl耐性遺伝子(Alt1)との連鎖分析を行い、ALMT1遺伝子がAlt1と同一である可能性を検証した。ETとESの掛け合わで得られたF2およびF3世代植物において、Al耐性の表現型とALMT1の遺伝子型および転写量について調べた。その結果、Al耐性を示す個体は全てALMT1-1のホモおよびヘテロの遺伝子型を持ちかつALMT1遺伝子の高い発現を示すが、Al感受性の個体は全てALMT1-2をホモに持ちきわめて低い発現量であることが明らかとなった。したがってALMT1-1Alt1遺伝子と同じであることが強く示唆された。現在シロイヌナズナとタバコなどにALMT1遺伝子を形質転換し、Al耐性が向上するかどうかを検討中である。
  • 松田 信行, 小林 弘, 中村 辰之介, Evert Bakker, 加藤 大和, 小川 晃男, 魚住 信之
    p. 240
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    カリウムイオン(K+)は、あらゆる生物の細胞内の主要な陽イオンであり、K+輸送システムによって高濃度に維持されている。微生物や植物にはK+トランスポーターとK+チャネルの両者が存在し、外界環境変化への応答や細胞内の情報伝達に深く関与している。これまでに数々の生物種からK+トランスポーター遺伝子が単離され、その機能や構造が調べられてきた。らん藻Synechocystis sp. PCC6803のゲノムには植物のNa+/K+トランスポーター(HKT系)や海洋性細菌Vibrio alginolyticusのK+トランスポーター(KtrB)と高い相同性を示すK+トランスポーター遺伝子が存在している。我々はこれまでに、このらん藻の本遺伝子をK+輸送能欠損大腸菌変異株(trk、kdp、kup)に導入して解析を行い、本遺伝子産物がK+輸送能を有することを明らかにしている。らん藻における本遺伝子の生体内での機能と役割を明らかにするために、本遺伝子のらん藻破壊株と野生株を用いて解析を行った。その結果、本遺伝子破壊株はK+輸送能を失っていることが分かった。また大腸菌発現系において、輸送体のK+輸送についてさらに検討したところCCCPを添加するとK+輸送活性が阻害されることを見いだした。このことは、K+輸送にproton motive forceが関わっていることを示唆している。
  • 大西 美輪, 三橋 尚登, 関口 陽子, 佐塚 隆志, 島崎 研一郎, 西村 いくこ, 前島 正義, 三村 徹郎
    p. 241
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    液胞は無機イオンや代謝産物の蓄積の場として知られており、植物の膨圧形成に重要な役割を果たしている。さらに、代謝産物の移動、細胞内成分の分解といった、植物細胞の恒常性の維持に液胞が重要な働きをしていることもよく知られている。しかし、これらの機構の解析は今だ十分ではなく、さらなる解析には収率がよく、構造的に無傷で、しかも機能的に活性の高い液胞の単離・精製法が必要となってくる。今回、我々はArabidopsisの培養細胞より、intact液胞を多量に単離する方法を確立し、調整した液胞の諸性質の検討を行った。Intact液胞は、浸透圧ショックによるプロトプラストの破壊後、Percollの密度勾配遠心により単離された。細胞膜H+-ATPase, 液胞膜H+-ATPase, Bipの抗体を用いたWestern解析による純度の検定と、標識酵素の活性測定を行った結果、解析に十分な純度と膜のintegrityを持つ液胞が調整されていることがわかった。今後、この単離液胞をゲノム情報と組み合わせることで、液胞膜上に存在すると考えられる種々の膜輸送体や液胞内酵素の同定、あるいは液胞内代謝産物の測定を進める予定である。
  • 寺坂 和祥, 士反 伸和, 佐藤 文彦, 真庭 史雄, 植田 和光, 矢崎 一史
    p. 242
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物は、そのゲノム中に多数のABC蛋白質遺伝子を有しており、その数はシロイヌナズナで129個と、ショウジョウバエやヒトなどと比べても2倍以上の数になる。これらABC蛋白質の80%は膜蛋白質であり、物質の輸送に関与していると予測されているが、その詳細について明らかにされた例は未だごく僅かしかない。我々は、動物の薬剤排出ポンプであるMDR (multidrug resistance protein) などの解析法として知られる、バナデート・トラッピング技術を植物に初めて適用し、植物細胞においてABC蛋白質を検出することに成功した。今回は二次代謝産物の輸送に関わるABC蛋白質を解析する目的で、アルカロイド生産性のオウレン、及びアキカラマツの培養細胞を用いてバナデート・トラップを行った。その結果、フルサイズのABC蛋白質の分子量領域に、前者においては3本の、後者においては1本のバンドが認められ、その内1種を除いてヒトMDR1と同様の生化学的性質を示すこと明らかとなった。特に後者のバンドは、サイトカイニン添加で誘導され、ベルベリンを基質とすることが示唆された。大会では、酵母などヘテロな系にABC蛋白質を発現させてバナデート・トラップを行った場合の問題点についても討論する。
  • 大谷 美保子, 佐藤 文彦, 矢崎 一史
    p. 243
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    アルカロイドは、植物の二次代謝産物のなかでも生理活性の高い化合物群である。植物の多くはアルカロイドを液胞に蓄積・隔離しており、自らを防御していると考えられる。しかし、アルカロイドの輸送機構に関しては未だ不明な点が多く、輸送活性の生化学的解析が不可欠である。我々はオウレン培養細胞をモデルとして、黄色のイソキノリン系アルカロイドであるベルベリンを液胞に輸送・蓄積する機構の生化学的解析を行った。
    まずオウレン培養細胞からミクロソーム画分を調製し、不連続ショ糖密度勾配遠心法を用いて膜分画を行い、液胞膜に富む画分を得た。この膜画分を用いてベルベリン輸送活性の測定系を確立した。3H-標識ベルベリンを用い、液胞膜画分におけるベルベリン輸送実験を行った結果、オウレンの液胞膜におけるベルベリン輸送は、至適pHが7.5であり、かつATPに依存的であることが示された。一方Bafilomycin A1やvanadateなど様々な膜輸送体の阻害剤実験から、オウレンの液胞におけるベルベリンの取り込みはH+-antiporterによることが強く示唆された。現在さらに解析を進めており、それらの結果と併せて報告する。
  • 藤井 俊行, 柴坂 三根夫, 明石 加奈子, 笠毛 邦弘
    p. 244
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞は動物細胞と同様、細胞内あるいは外来からの生体異物に対する代謝や解毒のシステムを備えている。高等植物に暴露された農薬などの有害化合物は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)によりグルタチオン(GSH)と結合して抱合体をつくり、GS-X pumpによって液胞内へと隔離される。我々は膜タンパク質であるGS-X pump遺伝子の単離と、このpumpの働きにより生体膜の物性変化(例えば流動性)が検出できることを期待して本研究を進めている。本実験では植物細胞に対する生体異物のモデル化合物であるジニトロフェニルグルタチオン(DNP-GS)を合成し、この化合物の液胞膜への透過性を調べるために液胞膜の流動性を蛍光偏光解消法で測定した。これまでヤエナリ液胞膜のGS-X pumpによる顕著な流動性の変化を測定することはできなかったので、GS-X pumpを酵母で過剰発現させた系の利用を考えた。そこでまず、これに用いる遺伝子としてヤエナリのゲノムからGS-X pumpと考えられる遺伝子の一部を単離し解析した。また、液胞への取り込み活性を[3H]DNP-GSを用いて行った。その結果、液胞内へのGS-X pumpによる取り込みはATPに依存することが確認できた。今後、GS-X pumpの遺伝子の全長の解析を行い、酵母で過剰発現させ膜の流動性の変化の測定を行う予定である。また、GS-X pumpを過剰発現させた酵母を用いて[3H]DNP-GSの取り込み実験を行う予定である。
  • 且原 真木, 半場 祐子, 柴坂 三根夫, 林 泰行, 早川 孝彦, 笠毛 邦弘
    p. 245
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    水分子の膜輸送は、主として水チャンネルを介しておこなわれている。この水チャンネルを形成する膜タンパクがアクアポリンである。近年アクアポリンが水以外の低分子化合物に対する透過性も持つ例が知られるようになってきた。ヒトのアクアポリンAQP1はガス体の溶存CO2を輸送すると言われている。植物では生理学的実験から車軸藻節間細胞やソラマメ緑葉で水透過性とCO2透過性に相関があることが知られている。植物アクアポリンが二酸化炭素を透過させることをさらに直接的に示すことを目指して、本研究ではオオムギ水チャンネル(HvPIP2;1)を過剰発現させた形質転換イネの緑葉におけるCO2透過性(拡散コンダクタンス;gi)を測定した。giはCO212C/13C値から計算される(Hanba et al. Aust J Plant Physiol. 28:1075, 2001)。
    サザンおよびノザン解析で遺伝子の導入が確認された形質転換イネT0カルスから再生した植物体の緑葉で、ウエスタン解析によりHvPIP2;1タンパクの発現が認められた系統について、自家受粉を繰り返しT2を得た。その緑葉を用いてgiの測定をおこなった。導入タンパクの発現が見られた系統では、光合成速度は非形質転換コントロールとほぼ同じ値であったが、giはコントロールの平均より20%ほど上昇しており、導入タンパクの発現が高い個体ほどgiも高い傾向が認められた。
  • 桜井 淳子, 山口 知哉, 中山 克大, 小池 説夫
    p. 246
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     水チャンネルは植物の細胞膜と液胞膜に存在し、植物体内での水輸送に重要な役割を果たす可能性が示されている。イネにおける水チャンネルの機能および低温・冷温応答等を明らかにするため、イネの3種の細胞膜型水チャンネル(RWC1, RW2, RWC3)に着目し、そのmRNA発現量の変動を解析した。
     発芽2週間後の幼苗を葉、茎、根に分け、RWC1, RWC2, RWC3の各mRNAの3'非コード領域をもとに作成した特異的プローブを用いてmRNA量を解析したところ、RWC1, RWC2はともに全ての器官で発現していた。RWC1は葉で最も多く発現していたのに対し、RWC2は根で最も多く発現していた。一方、RWC3は根特異的に発現していた。根における各mRNA発現量の日周変動を解析したところ、RWC3が最も強いリズムを示し、明期前半に最大で暗期前半に最低となった。RWC2は明期半ばに最大で明期終了時に最低となるゆるやかなリズムを示した。RWC1RWC2と似たパターンを示したが、そのリズムは不明瞭であった。
     低温処理を受けたイネ幼苗の吸水量は激減するが、現在、低温ストレスを受けた幼苗根での水チャンネル遺伝子発現量の変動についても解析を進めている。また冷温ストレスによる生殖器官でのmRNA発現量の変動等についても解析を進めている。これらの結果をもとに、低温・冷温ストレスと水チャンネルの関係について考察したい。
  • 須賀 しのぶ, 前島 正義
    p. 247
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     植物の細胞膜と液胞膜には水チャネルが存在し、植物体内の水輸送、細胞生長や水ストレスへの応答を理解する上で重要な要素と考えられる。ダイコン(Raphanus sativus)の細胞膜 水チャネル(RsPIP1-1, 1-2, 1-3, 2-1, 2-2, 2-3)と液胞膜水チャネル (RsTIP1-1, 2-1)は、これまでの解析からRsPIP1とRsTIPは構成的な水チャネルであり、RsPIP2-1は生育段階、器官特異的な性質を持ち、ストレスやホルモンに対する応答性を示す水チャネルであることを明らかにしている。そこで、細胞膜、液胞膜水チャネル各分子種別の水チャネル活性測定を試みた。酵母BJ5459株に各分子種を発現させ、ストップトフロー光散乱法によって活性測定を行った。RsPIP2タイプとRsTIPタイプはともにベクターのみを発現させたコントロールよりもシグナル減少し水チャネル活性を示した。これに対しRsPIP1タイプはイムノブロット解析よりタンパク質の蓄積を確認したが、活性は検出できなかった。つまり、RsPIP1-1, 1-2, 1-3は水チャネル活性を持たない、あるいは低い可能性を示唆している。これらの結果から、水チャネルの分子多様性と機能について考察したい。
  • 田中 喜之, 中村 敦子, 福田 篤徳, 小関 良宏, 山田 晃世, 三村 徹郎
    p. 248
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     熱帯・亜熱帯の汽水域に分布するマングローブと総称される樹木は、高塩濃度環境においても生育し子孫を残し、耐塩性の研究に適している。マングローブの一種Bruguiera sexangulaの懸濁培養細胞において低濃度(50 mM) NaCl処理では、低濃度のNa+を蓄積する。一方、高濃度(150 mM) NaClにより処理すると細胞内Na+は24時間をピークに一過性に上昇し以後もとのレベルにまで減少した。このNa+レベルの調節機構を解析するために細胞膜型Na+/H+アンチポーター(BsNHE)および液胞膜型Na+/H+アンチポーター遺伝子(BsNHX)をクローニングし、その性質と発現制御を明らかにした。B.sexangula培養細胞よりcDNAライブラリーを作製した。シロイヌナズナの細胞膜型Na+/H+アンチポーターであるAtSOS1遺伝子の情報をもとにプライマーを作製しライブラリーを鋳型にPCRを行い、SOS1遺伝子とホモロジーが高い断片を得た。これをプローブに3792塩基対よりなり、1153アミノ酸残基のタンパク質をコードする翻訳領域を有するクローン(BsNHE1)を得た。推定アミノ酸配列では、12回膜貫通領域を持つ膜タンパクでありNHEの特徴であるC末端側に長い親水性領域を有していた。AtSOS1アミノ酸配列と65%のホモロジーを示した。同様にBsNHX遺伝子を2クローン(BsNHX1,BsNHX2)取得した。推定アミノ酸配列では、12回膜貫通領域を持つ膜タンパク質をコードし、アミノ酸配列を比較するとAtNHX1-4とは60-80%のホモロジーを示した。
  • 福田 篤徳, 中村 敦子, 田中 喜之
    p. 249
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    液胞膜型Na+/H+アンチポーターは、液胞膜を介したpH勾配をエネルギー源として利用し、細胞質に存在するNa+を液胞内に輸送する対向輸送体である。当研究室では、既にイネからNHX型である液胞膜型Na+/H+アンチポーター遺伝子(OsNHX1)を1種類単離している。最近、イネのゲノムの全塩基配列が公開されたが(1)、この情報を元に、さらに3種類のNHX型アンチポーターを単離した(OsNHX2-4)。これらの遺伝子から予想されるアミノ酸配列のOsNHX1に対する相同性は、OsNHX2は75%、OsNHX3は71%、OsNHX4は33%であった。OsNHX2及びOsNHX3遺伝子は、OsNHX1と同様に出芽酵母Na+/H+アンチポーター変異体(nhx1)をNaCl、KCl及びハイグロマイシン耐性について機能相補することを確認した。また、OsNHX1-3のそれぞれは、イネに対する高濃度のNaClやマンニトール(高浸透圧)処理に対して異なった発現パターンを示した。本発表では、OsNHX4の結果も併せて報告する。
    (1) Goff, S. et al. (2002) Science 296, 92-100.
  • 森 美穂子, 吉田 久美
    p. 250
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)空色西洋アサガオ(Ipomoea tricolor cv. Heavenly blue)は開花に伴い表層の着色細胞の液胞pHが6.6から7.7に上昇して色が赤から青へと変化する。我々はこのpH上昇機構の解明を目的に研究を行っている。これまでにツボミ及び開花花弁より着色細胞の液胞膜を単離し、プロトン輸送活性の季節変動を報告した[1]。今回はこの膜のNa+/H+対向輸送活性[2]も同時に調べた。
    (方法、結果)昨年と同様にツボミと花より液胞膜を調製した。開花数の最盛期と気温が低下し花数の減少した時期、および後者については開花不十分な紫~青紫色の花弁からも試料を調製した。プロトン輸送活性は昨年同様ツボミより花で高く、ピロリン酸依存性の活性の方がATP依存性の活性よりも高かった。しかし活性の季節による変動は認められなかった。半開き花弁の活性は開花花弁の活性とほぼ同値であった。現在、この膜のNa+/H+対向輸送活性測定を目指し、実験を進めている。
    [1]森美穂子ほか、日本植物生理学会2002年度年会、pp.150.
    [2]Yamaguchi, T. et al., (2001) Plant Cell Physiol. 42: 451-461.
  • 池田 己喜子, 馬見 公子, 日野原 美里, 中西 洋一, 前島 正義
    p. 251
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     カサノリは、緑藻類に属し、巨大な単細胞から成る海棲の生物体である。我々は、このカサノリの液胞膜にも、高等植物と同様に二つのプロトンポンプ、V-ATPase 及び V-PPase が存在することを生化学的並びに遺伝子レベルで明らかにしてきた。
     V-PPase の推定される一次構造は 721 あるいは 751 アミノ酸であった。今回、V-PPase の酵母での発現を進め、特に VMA3 欠損株を用いた機能解析及び機能領域の解析を進め、下記に述べる結果を得た。
    1) 酵母 BJ5459 株での発現の結果、カサノリ V-PPase 遺伝子が 751 アミノ酸をコードすることを明らかにした。
    2) 酵母 VMA3 欠損株での発現の結果、カサノリ V-PPase が酵母液胞膜に組み込まれプロトンポンプとして機能することを、液胞の酸性化の指標となる ade 蛍光色素の液胞への蓄積を蛍光顕微鏡で観察することで実証した。
    3) 2) の系を用いて V-PPase の DCCD 結合部位の解析を進めてる。現在までのところ、カボチャ V-PPase で報告された C 末端近辺の Glu-749(シロイヌナズナでは Glu-751)はプロトンポンプ機能に影響しないという結果を得ている。
     現在、2) のシステムを用い、シロイヌナズナ V-PPase で報告されている Glu-427(最も可能性の高い DCCD 結合部位)への点変異導入を進めている。
  • 角谷 晃司, 森浦 展行, 岩崎 健太, 畑 太一, 益子 高, 豊田 秀吉
    p. 252
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    CD98は、ガン化した細胞の膜に存在し、アミノ酸トランスポーターや細胞接着などの機能を有し、腎臓、小腸、精巣および卵巣等の様々な組織で過剰発現することにより細胞の悪性化を引き起こすことが知られている。演者の研究室では、ガン予防を目的として、CD98遺伝子を導入した農作物を作出し、CD98に対する経口ワクチンの開発を進めている。まず、本実験ではマメ科モデル植物であるミヤコグサ(Lotus japonicus)を供試し、アグロバクテリウム法によりCD98遺伝子を導入した。バイナリーベクターpIG-121Hmのgus遺伝子領域をCD98遺伝子に置換したプラスミドをA. tumefaciens EHA101株へ導入し、ミヤコグサ胚軸切片への接種に使用した。ハイグロマイシン抵抗性を示す不定芽を誘導した後、多数の再分化植物を作出した。RT-PCR分析により、ハイグロマイシン抵抗性を示す全ての植物体においてCD98遺伝子の発現を確認し、さらに、ウエスタン分析により約90kDa付近にCD98組換えタンパクの生産を検出した。今後、これらの組換え植物を用いたCD98に対する免疫原性作用の有効性について検討する予定である。
  • 新井 祐子, 仲下 英雄, 真野 昌二, 近藤 真紀, 田口 一徳, 西村 幹夫, 土肥 義治
    p. 253
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     ポリ-3-ヒドロキシアルカン酸(PHA)は微生物により合成される生分解性共重合ポリエステルである。PHAは植物に内在する酵素では分解されず、蓄積する性質を有している。この性質を利用して、形質転換植物ではPHA合成の基質である(R)-3-ヒドロキシアシル-CoA((R)-3HA-CoA)の供給に関与する代謝系についての解析が可能である。本研究では、植物細胞の各オルガネラにおける脂肪酸代謝を代謝中間体レベルで解析することを目的とし、PHAシンターゼ(PhaC)をアラビドプシスのペルオキシソーム及びミトコンドリアに導入した形質転換植物を作出した。
     短鎖(炭素数4-6)の(R)-3HA-CoA又は短鎖-中鎖(炭素数4-12)の(R)-3HA-CoAを基質として認識する2種のPHAシンターゼ遺伝子(phaC)にそれぞれ各オルガネラへの移行シグナルを付加して、アグロバクテリウム法により導入した。RT-PCR法により解析によりphaCの発現が確認され、抗PhaC抗体を用いたウエスタンブロット法により葉の粗タンパク質画分にPHAシンターゼの存在が確認された。また、葉の粗タンパク質画分からPHAシンターゼ活性を検出した。現在、これらの形質転換体の合成したPHAの合成量及び組成について解析を行っている。
  • 荻田 信二郎, 山口 夕, 小泉 望, 佐野 浩
    p. 254
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    コーヒーに含まれるカフェインは、往々にして健康に害を及ぼす。そのため、カフェインレスコーヒーが作成されているが、化学的に抽出するため、コーヒー本来の風味が失われる。私たちは、分子育種によってカフェインレスコーヒー植物を創出することを目的とした。これまでに主要なコーヒー植物であるアラビカ種のcDNAライブラリーをスクリーニングして、カフェイン生合成系の鍵酵素の一つであるテオブロミン合成酵素をコードしている遺伝子(CaMXMT)を得ている。今回は、CaMXMTに特異的な部分配列を用いたRNAiコンストラクトの導入によるコーヒー植物のカフェイン生合成の制御について報告する。コーヒーの形質転換不定胚形成細胞におけるCaMXMT発現をRT-PCRにより解析した結果、その発現が強く抑制された細胞株が得られ、このような細胞株にはカフェインの蓄積はほとんど認められなかった。さらにカフェイン生合成系の前駆物質であるアデニンなどを加え、プリンアルカロイド合成量の変動を調べた。非形質転換株では中間代謝産物である7-メチルキサンチンやテオブロミン、最終産物であるカフェインなどが蓄積されるのに対して、RNAi形質転換株においてはカフェインの合成が促進されるには至らなかった。このことは、RNAi法によりコーヒー植物のカフェイン生合成系が改良されたことを強く示唆するものである。本研究は、NEDOの助成で行った。
  • 桂 幸次, 伊藤 裕介, 井内 聖, 小林 正智, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 255
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    ネオザンチン開裂酵素(NCED)は植物ホルモン(ABA)の生合成の鍵酵素として知られれている。シロイヌナズナでは7種類のNCEDからなる遺伝子ファミリーを形成しているが、その一つであるAtNCED3遺伝子は乾燥で強く誘導されることや35Sプロモーターによって過剰発現した形質転換シロイヌナズナが乾燥耐性になることが報告されている。本研究ではシロイヌナズナの遺伝子であるAtNCED3をイネに形質転換し、イネ中での機能を解析した。
    AtNCED3遺伝子をトウモロコシのユビキチン遺伝子のプロモーターの下流に結合させたコンストラクトをイネに導入して、AtNCED3を恒常的に発現する形質転換イネを作出した。得られた形質転換体をノザン解析で確認したところ13 lineの形質転換体でAtNCED3の発現がみられた。さらに形質転換体の耐乾燥試験とABAの測定を行った。乾燥試験は発芽後15日間育てた植物体を10日間水を与えずに行ったところ、耐乾燥性を持つ植物体が得られた。一方、植物体中のABAの量の上昇がみられる植物体も見いだされた。現在さらに解析を進めている。
  • 寺田 理枝, 栂根 一夫, 飯田 滋
    p. 256
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、相同組換えによりWaxy遺伝子の第1イントロン内にHmr(Hygromycin耐性)遺伝子と転写終止領域を挿入し遺伝子破壊するターゲティングに成功し、ヘテロ型でWaxy が破壊された6系統のイネを独立に作出し、ウルチからモチへの表現型やSouthern解析の結果を昨年の本大会で報告した。今回は、後代植物の相同組換え領域のゲノム構造を解析した。従来植物の相同組換えでは、導入ベクターの相同遺伝子領域がゲノム遺伝子のコピーと組換えを起こした後にランダムに挿入されるectopicな組換え、遺伝子ターゲティングのために必要な導入ベクターの2つの相同領域の内の一方で組換えが起こり、他方は非相同組換えが起きたOne Sided Invasion (OSI)、相同組換えとともに導入ベクターの選抜マーカーが非相同的組換えによりゲノムに挿入するectopicな挿入などを起こした形質転換体が得られている。そこで、次世代のWaxy破壊ホモ個体等を分離して表現型、Waxy領域の上流と下流を含む35kbのSouthern解析、組換え領域17kbの全塩基配列決定を行った。その結果、今回得られたターゲティング個体では、従来報告されたectopicな組換えや挿入は観察されず、1対のWaxy遺伝子中の片方だけで極めて正確な相同組換えによるターゲティングが起こって次世代に伝達されたことが明らかとなった。
  • 外薗 寛郎, 高橋 美佐, 坂本 敦, 森川 弘道
    p. 257
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    トランスジーンローカスのジャンクション領域の解析から、マトリクス結合領域(MAR)がトランスジーンの近傍に存在することが知られている。本研究では、パーティクルガン法で得られたBY-2形質転換細胞のトランスジーンローカスのジャンクション領域から単離したMAR配列(TJ1)を用いてMAR配列の付加や向きが外来遺伝子の組込み効率にどのように影響するかを調べた。
    コントロールベクター(35Ω-sGFP(S65T))と、そのGFP遺伝子発現カセットの5’および3’側にそれぞれ向きを変えてTJ1を挿入した4つのベクターを別々にパーティクルガンを用いて導入した。導入処理後5・10・20・30日後のGFPを発現した細胞塊数を測定した結果、5日後から10日後にかけて著しい減少が観察されたが、それ以降の減少はほとんど見られなかった。遺伝子導入30日後のGFP発現細胞塊のサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、トランスジーンはゲノムにインテグレーションされていることが解った。GFP発現細胞塊数はTJ1を挿入することによっておよそ2倍に上昇した。
    このことから、TJ1配列の付加によりトランスジーンのゲノムへのインテグレーションが促進されることが解った。MAR配列の方向による明らかな違いは見られなかった。
  • 長屋 進吾, 加藤 晃, 二宮 由佳, 吉田 和哉, 関根 政実, 新名 惇彦
    p. 258
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    真核生物の染色体DNAはヒストンに巻きついたヌクレオソーム構造をとり、さらに染色体タンパク質と相互作用して凝集したクロマチン構造を形成している。動物での知見から、染色体上の異なる位置では凝集度合いの異なるクロマチン構造が形成され、遺伝子発現に影響を与えうることが示されている。植物においても導入遺伝子の発現に差異が生じることから、動物と類似した染色体環境にあることが想像されるが、解析例は乏しいのが現状である。我々はショウジョウバエと同程度のゲノムサイズであるシロイヌナズナを対象として、導入遺伝子の発現が染色体上の挿入位置により受ける影響を明らかにするために解析を行った。
     シロイヌナズナ植物体に減圧湿潤法によりCaMV(cauliflower mosaic virus)35S-GUS(β-glucuronidase)遺伝子を導入した。得られた形質転換体のGUS活性値には顕著な差異が認められたが、選抜したシングルコピー導入個体のGUS活性値はいずれも同程度であった。
     染色体上の異なる位置に挿入された導入遺伝子が同程度に発現することから、シロイヌナズナにおいては遺伝子発現に対して一様なクロマチン構造が形成されていることが示唆された。
  • Junko Satoh, Yuka Ninomiya, Ko Kato, Atsuhiko Shinmyo
    p. 259
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Gene expressions are regulated in various steps at transcriptional and post-transcriptional levels. Particularly, alteration of translational initiation step is thought to be very important to synthesize desired proteins quantitatively. This step is strongly influenced by the structure of 5'-UTRs. To estimate the effect of 5'-UTRs on translational efficiencies, we have designed a transient transformation-based assay system in which tobacco BY2, Arabidopsis T87 and rice suspension cultured cells were used as hosts, and GUS gene as a reporter. In this system, when the 5'-UTR of the BY2 alcohol dehydrogenase gene was inserted upstream of translational initiation site, the GUS expressions in BY2 and T87 increased about 30- to 100- fold than control plasmid pBI221. This 5'-UTR functioned also in stable transformants. However, in rice cultured cells, the increase was not so high. Effective 5'-UTRs will be applied to improve productivity in plant cells.
  • 小山 貴芳, 小埜 俊郎, 水野 梨絵, 光川 典宏, 河津 哲, 木村 哲哉, 粟冠 和郎, 大宮 邦雄
    p. 260
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     我々は、植物遺伝子組換え技術を応用したファイトレメディエーションに関する研究を行っている。これまでの研究では、土壌中の環境ホルモンを分解する目的で、リグニン分解酵素の一種であるラッカーゼを植物で発現させることを試みた。その際、ラッカーゼ遺伝子をCaMV35Sプロモーターの下流に連結させてイネに導入して発現させたところ、顕著な生育傷害がみられた。そこで本研究では、植物遺伝子組換え技術を応用した土壌中の有害物質分解を合目的的に効率よく行うため、根で特異的に発現するプロモーターの開発を行った。
     開発には、シロイヌナズナ由来リン酸トランスポーター遺伝子(PHT1)のプロモーターを用いた。PHT1プロモーターの下流にレポーター遺伝子GUSを連結したPHT1::GUS融合遺伝子をシロイヌナズナとイネに導入し、PHT1プロモーターの発現を調べた。その結果、シロイヌナズナ、イネともに根で強いGUS活性が検出され、リン酸濃度に対する負の応答を示した。根以外の器官でのGUS活性は低かった。
     双子葉植物由来のPHT1プロモーターが単子葉植物であるイネにおいても機能することから、同プロモーターは植物が共通に持っている発現機構によって制御されていることが示唆された。このことから、現在は実用植物であるユーカリとポプラでPHT1プロモーターが機能するかを解析している。
  • 黒瀬 高章, 渡辺 守, 芦田 裕之, 田中 克典, 川向 誠, 松田 英幸, 中川 強
    p. 261
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     我々はバイナリーベクターの操作性を向上させることを目的として、Gatewayクローニング技術が利用可能なバイナリーベクターの開発を行ってきた。特に様々なタグを簡便に融合するためのベクターシリーズを作製してきた。今までに、GFP、6His、FLAG、3HA、4Myc、10Myc、GSTを目的タンパク質のN末あるいはC末端に融合させるベクターの作製を行ってきたが、今回新たにT7タグを融合するためのベクターをシリーズに加えた。
     このようなGateway Binary Vectorシリーズを用いて植物でのタグ融合タンパク質の発現と、活性に及ぼす影響について調べた。レポーターとしてGUSを用い、上記の各種タグを融合し、タバコ培養細胞BY-2で発現させた。抗タグ抗体による検出、抗GUS抗体によるGUSタンパク質の定量、GUS活性の測定を行い、タグ融合によるGUS活性の変化について調べた。
  • 伊ヶ崎 知弘, 松林 嘉克, 坂神 洋次, 篠原 健司
    p. 262
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    組換えスギの創出には、効率の良い個体再生系が必要である。我々は、ペプチド性植物細胞増殖因子ファイトスルフォカイン(PSK)を用い、不定胚を経由した効率の良いスギ個体再生系を確立した。前年にジベレリンによる着花促進処理を施した約10年生のスギ個体から6月下旬に未熟種子を採取し、滅菌後、未熟種子胚を取り出し、2,4-DとBAを含む改変MS培地に置床し、暗所25℃で培養した。約4週間後embryogenicなカルスが確認され、これらを2,4-DとBAを含む改変MS液体培地に移植し、懸濁培養した。懸濁培養は暗所で行い、2週間ごとに新しい培地に継代した。回収した培養細胞を、活性炭、ABAを含んだスギ不定胚誘導培地上に移植すると、4~12週後には様々なステージの不定胚が形成した。この不定胚誘導培地にPSKやポリエチレングリコール(PEG)を添加すると、不定胚の誘導効率は上昇し、PSKとPEGの両者を添加した場合には、その効率は劇的に上昇した。また、PEGのみを含む培地で誘導した不定胚は寸詰まりの形態を示し、発芽率が10~60%程度であったが、PSKを含む培地で誘導した不定胚は、正常な形態を示し、ほとんどが発芽した。これらの結果は、PSKがスギの場合でも不定胚形成を促進する効果を持つこと、正常な不定胚形成に何らかの効果を持つことを示唆している。
  • Yasunori Ohmiya, Toshiro Ono, Kimura Tetsuya, Naoto Ogawa, Kiyotaka Mi ...
    p. 263
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Utilization of transgenic trees as phytoremediation is considered to be one of the cost-effective ways for successive degradation of chlorinated aromatic compounds which are resistant to degradation for decades. In biological degradation pathway of these compounds, chlorocatechols are key intermediates. A bacterial gene cbnA encoding chlorocatechol dioxigenase from Ralstonia eutropha NH9, catalyzes important step for degradation of chlorocatechols and produce toxically reduced 2-chloromuconate.
    We introduced cbnA gene under the control of CaMV 35S promoter to hybrid poplar by Agrobacterium mediated transformation. Twenty five transgenic lines were isolated and their growth were normal. Accumulation of CbnA translation was visualized by Western blotting. When poplar transgenic calli was incubated in the presence of 3- chlorocatechol, increase of a degradation product*2-chloromuconate peak signal was observed in parallel with reduced peak of the substrate. These results indicated that cbnA was efficiently expressed in the transgenic poplar despite high GC content of cbnA (65%).
  • 近藤 啓子, 古城 敦, 土肥 敬悟, 石毛 奈緒子, 春日 美江, 篠崎 一雄, 篠崎 和子, 日尾野 隆
    p. 264
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     塩害、乾燥害、冷害といった環境ストレスは植物の生育を妨げる主要因の1つである。
     これらを解決することは、差し迫る食糧問題の解決を始め、地球環境の改善へ向けて多大なる効果をもたらす。本研究者らは、特に樹木でのマルチストレス耐性付与を目的として研究を進めている。
    本研究者は、昨年度の本年会において、モデル植物におけるストレス耐性機構の制御因子を活用することにより、ユーカリのストレス耐性能力を向上させることに成功したことを報告した(日本植物生理学会2002年度年会要旨集;1pL16)。しかしながら、マルチストレス耐性樹木として実際に活用するためには、さらに改良を加える必要があり、特には目的とする制御因子の効果的な発現を行うために、樹木由来のストレス応答機構を解析し、これを活用することが重要であるとの結論に至った。
    本研究者らは、ユーカリを材料に用い、塩ストレスを与えた場合の遺伝子発現について解析を行った。さらに、塩ストレスにより迅速かつ強く発現する遺伝子について、これらのプロモーター領域とレポーター遺伝子との融合遺伝子を構築し、ユーカリに導入した。
     本報告では、これらの結果とともに、継続して進めているストレス耐性ユーカリの開発状況についても併せて報告する。
     尚、本研究は生研機構、新事業創出研究開発事業からの支援を受けて行っている。
  • Tetsu Kawazu, Keiko Kondo, Yuji Suzuki, Tatsumi Wada, Hiroyuki Koyama
    p. 265
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Since phosphorous is a severely limited and nonrenewable resource, improvement of the ability of Pi-acquisition is an important goal in sustainable agriculture and forestry. Pi-acquisition in higher plants could be improved by modification of organic acid metabolism and in turn to enhancing organic acid excretion from the roots. A full-size cDNA encoding mitochondrial citrate synthase (mtCS) from carrot (Daucus carota L.) was introduced into a hybrid eucalypt (Eucalyptus grandis x urophylla) by Agrobacterium tumefaciens-mediated transformation. Several transgenic plants exhibited more than threefold greater level of CS activity than that found in the control plants. Western blot analysis revealed that ectopic mtCS proteins in the transgenic plants incorporated into the mitochondria. When aluminum-phosphate was supplied as a sole phosphorus source, growth rate and Pi content in the transgenic plants were greater than those of the control plants. It appears that the overexpression of mtCS improves Pi-acquisition ability in eucalypts.
  • Yuji Suzuki, Takashi Hibino, Tetsu Kawazu, Tatsumi Wada, Tomonori Kiha ...
    p. 266
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    The RNA fraction was extracted from leaves of Eucalyptus, six other woody plants and four herbaceous plants with an extraction buffer containing sodium isoascorbate at a concentration of 500 mM. This method consisted of one or two chloroform extractions, one acid guanidium-phenol-chloroform extraction and isopropanol precipitation alone. The yields of the RNA fractions and the ratios of absorbance at 260 nm/280 nm and 260 nm/230 nm were 246-1750 μg-1 fresh weight, 1.94-2.03 and 2.07-2.50, respectively. When the RNA fractions obtained with this method were subjected to agarose gel electrophoresis, intact rRNA bands were detected. When the reverse transcript-PCR reaction was performed using these RNA fractions and de-generated primers for NADP-specific isocitrate dehydrogenase, an amplified fragment at ≈1.1 kb was obtained as expected. These results indicate that our new method achieves a simple and rapid preparation of high quality RNA from leaves of Eucalyptus and other plant species.
  • 井本 桂子, 横山 隆亮, 西谷 和彦
    p. 267
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの花茎は1日に数cmという速さで伸長する。花茎上部の伸長量の多い部位の表皮細胞長を測定したところ、数日間で数倍に伸びていた。このように急激に細胞の形が変化するとき、細胞壁の構築・再編成がおきていることがこれまでの研究で明らかにされてきたが、その分子過程は未だ不明である。細胞壁は構造、組成ともに複雑であり、シロイヌナズナでは1,000以上の遺伝子が細胞壁に関連した機能を持っているとゲノム情報から推測された。この複雑な細胞壁の機構を解明するため、私たちの研究室では細胞壁関連遺伝子の中から28ファミリーに属する762遺伝子について遺伝子特異的なオリゴDNAチップを作成した。これを利用して伸長中・伸長後の花茎の遺伝子発現を比較するマイクロアレイ解析を行い、伸長中の花茎で発現量が増加する30程度の細胞壁関連遺伝子が明らかになった。これらの遺伝子は花茎伸長に関わっている可能性がある。一方、伸長後の花茎でも数十の遺伝子の発現が増加しており、伸長終了後の細胞壁構造の変化に関わっている可能性が高い。両方の花茎で常に高い発現レベルを示す遺伝子は少数であった。伸長中、伸長後で異なる遺伝子が働いていることは、花茎が質的に大きく変化していることを示唆するのではないだろうか。現在はリアルタイムRT-PCR法による定量などにより、マイクロアレイの結果について、さらなる解析を進めている。
  • 權 惠卿, 横山 隆亮, 西谷 和彦
    p. 268
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物の細胞壁は多数の遺伝子ファミリーにコードされる様々なタンパク質群の働きを通して構築されるダイナミックな細胞構造である。シロイヌナズナの全ゲノム配列が決定されたことにより、細胞壁構築に関与する遺伝子ファミリーが多数同定されている。しかし、実際に細胞壁の形成過程で働くタンパク質群の全貌はまだ明らかではない。我々は細胞壁構築に関わるタンパク質群の全体像を明らかにするために、シロイヌナズナの培養細胞を用いてプロトプラストから細胞壁再生過程で発現する細胞壁タンパク質群の挙動を経時的に解析した。酵素により培養細胞の細胞壁を分解し、プロトプラスト化したのち、細胞壁の再生を行った。続いて再生中の細胞壁から1 M KCl溶液により細胞壁タンパク質を抽出し、二次元電気泳動により全タンパク質の分離とマッピングを行った。現在、MALDI-TOF MSを用いてこれらの細胞壁タンパク質の同定を進めている。これらの結果から、細胞壁の形成に関わるメカニズムについて考察する。
  • 田中 大祐, 横山 隆亮, 西谷 和彦
    p. 269
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物の細胞壁は細胞の形態を決定する複雑な構造物である。その構造は多数の遺伝子ファミリーにコードされるタンパク質の働きによって構築、維持される。その仕組みを理解するには細胞壁タンパク質の特定と同時にタンパク質群全体についての網羅的解析が必要である。我々は細胞伸長に関わる細胞壁タンパク質群を調べるために、まずシロイヌナズナの培養細胞を用いて細胞の形態を変化させる実験系を検討した。一般に植物の培養細胞の形状は培地中の植物ホルモンの組成を変えることにより変化することが知られている。培地のホルモンを通常の培養で用いる2,4-Dからインドール酢酸(IAA)とイソペンテニルアデニン(IP)を組み合わせたものへと変えたところ、細胞伸長が見られた。この伸長した細胞の細胞壁中で発現しているタンパク質群を、2次元電気泳動法により分離しその変化を調べた。その結果、伸長している細胞の細胞壁タンパク質の発現は顕著に変化していることがわかった。
  • Kumiko Yoshioka, Ryoichi Yano, Masanobu Nakamura, Ikuo Nishida
    p. 270
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Cold deacclimation (DA) is a phenomenon that is genetically controlled to lose the degree of freezing resistance acquired during cold acclimation (CA). DA is also accompanied by a restart of plant growth arrested during CA, which may provide us with a suitable experimental system for studying the regulation of plant growth at molecular level. We herein identified a cDNA for putative myo-inositol oxygenase of Arabidopsis (AtMIOX), which exhibited a significant homology to hog MIOX and was induced by DA treatment. AtMIOX is hypothesized to oxygenize myo-inositol to D-glucuronate, which in turn may serve as a precursors to matrix polysaccharides (Seitz et al. (2000) Plant J. 21: 537-546). Alternatively, myo-inositol accumulated during CA might be oxygenized for respiratory substrates during DA. Experiments were conducted to test these possibilities, and a probable function of AtMIOX in the biosynthesis of matrix polysaccharides will be discussed. (Supported in part by a grant from PROBRAIN.)
  • 岸 光子, 村田 隆, 長谷部 光泰, 渡邊 雄一郎
    p. 271
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の原形質連絡では細胞膜とデスモチューブルが細胞壁を貫通しており、この構造を通してタンパク質や核酸などが輸送される。しかし原形質連絡に局在するタンパク質についての知見は少なく、タンパク質などの輸送を調節する機構は未解明である。一方、原形質連絡は植物ウイルスが隣接細胞へ感染していく通り道としても利用される。タバコモザイクウイルスの移行タンパク質(MP)は、原形質連絡に局在し、排除分子量限界を拡大する事が知られている。
    我々は原形質連絡中のMP結合タンパク質を探索する目的で、MPを構成的に発現する形質転換タバコ細胞壁からMPを抽出し同時に抽出されるタンパク質を原形質連絡タンパク質候補として解析した。高濃度のLiCl処理はMPを細胞壁から抽出し、原形質連絡の構成要素を減少させる。この時に得られる画分には推定分子量24 K, 25 Kのタンパク質が主要に含まれ、N末端アミノ酸配列からgermin like protein (GLP)ファミリーに属していると予想された。このタンパク質をクローニングしたところ、細胞壁への局在が示されているモモのauxin-binding protein 19/20、病原微生物への応答に関与することが示唆されているオオムギのGLP1などと高い相同性を示すGLPが得られた。ウイルス感染時に見られる原形質連絡内部の変化へのタバコGLPの関与が期待される。
  • 竹田 浩之, 中川 直樹, 桜井 直樹
    p. 272
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    我々はアスパラガスの培養細胞を用いて不定胚形成時に細胞壁で働くタンパク質の同定、機能解析を試みてきた。アスパラガスのカルスは2,4-Dを含む培地(+2,4-D)では脱分化したままだが、-2,4-D培地では分化して不定胚を形成する。胚形成にともなって強く発現し、細胞壁に分泌されたペルオキシダーゼの一つ、AoPOX1を同定し、全長cDNAをクローニングした。AoPOX1の機能を調べるためにHisタグを付けた融合タンパク質を大腸菌内で発現させ、基質特異性を検討した。6種類のフェニルプロパノイドのうちAoPOX1はFerulic acidとConiferyl alcohol (CA)に強い基質特異性を示した。HPLCでCAのAoPOX1による反応生成物を精製し、GC-MSと1H-NMRで構造解析をおこなった。反応生成物はDehydrodiconiferyl alcohol (DDCA)であった。不定胚培養系の培地中には10-8MレベルのDDCAが含まれていた。DDCAにグルコースが結合したDehydrodiconiferyl glucoside(DCG)は細胞分裂促進作用があることが報告されている(Binns et al. 1987)。AoPOX1はDDCAあるいはDCGを合成することでアスパラガス不定胚形成に寄与していると考えられる。
  • 吉川 拓夫, 竹田 浩之, 劉 希珍, 周 薇, 中川 直樹, 李 一勤, 桜井 直樹
    p. 273
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     花粉管伸長は有性生殖に関わる非常に特殊な伸長で、先端成長と呼ばれ、他には高等植物の根毛やカビの菌糸など一部の組織でしかみられない。我々はテッポウユリの花粉管の細胞壁に結合している2つのエキソ型のグルカナーゼを発見し、それぞれ、LP-ExoI(83kDa)とLP-ExoII(71kDa)と名づけた(Kotake et al. 2000)。これら2つのグルカナーゼは花粉管伸長に伴って活性が高くなり、ラミナリン(1,3-β-グルカン)、セロオリゴ糖、イネ科の1,3;1,4-β-グルカンを加水分解することから、その基質は花粉管に含まれるカロースやセルロースと考えられた。しかし、今回、花粉管細胞壁のヘミセルロース性多糖類を枯草菌のグルカナーゼにより加水分解し、その断片を調べたところ、花粉管のヘミセルロースにはイネ科に特有の1,3;1,4-β-グルカンが存在する可能性が示された。また、花粉管の通り道である柱頭と花柱のヘミセルロースをメチル化分析で調べたところ、1,3-1,4-β-グルカンやカロースの存在は確認されず、主成分はグルコマンナンであった。これらの結果より、LP-ExoIとIIの基質はセルロースやカロースだけでなく、1,3-1,4-β-グルカンである可能性と、柱頭と花柱には基質となるカロースや1,3-1,4-β-グルカンが存在しないことがわかった。
  • 佐々木 慎弥, 小川 直人, 青山 渉, 西田 友昭, 堤 祐司, 近藤 隆一郎
    p. 274
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】リグニンは植物における主要な構成成分であり、その生合成過程の最終段階はペルオキシダーゼによる脱水素重合だと考えられている。しかしながら、その脱水素重合過程については、ラジカルメディエーターによる脱水素重合説も含めて、いまだ明らかになっていない。したがって本研究では、ポプラカルスから精製したペルオキシダーゼアイソザイム(CWPO-C)のin vitroによるリグニン脱水素重合メカニズムおよび樹木中における局在について検討した。
    【方法・結果】リグニンが脱水素重合される過程において、リグニンpre-polymerの酸化によるラジカル形成が必須となる。そこでペルオキシダーゼの高分子基質に対する酸化能の検討を行ったところ、CWPO-Cはシナピルアルコールおよびダイマーに対して同等に高い酸化速度を示し、シナピルアルコールポリマーに対しても高い酸化能を有することが明らかになった。一方で、HRPによって酸化・生成されたコニフェリルアルコールラジカルは、速やかにシナピルアルコールへ転移し酸化を触媒したが、ダイマーの酸化速度は急激に減少し、ポリマーについてはほとんど酸化できなかった。以上の結果より、CWPO-Cは高分子リグニンの形成に必須なpre-polymerのラジカル形成を触媒しうるアイソザイムであることが示された。また、CWPO-Cのポプラ樹木における局在を調査した結果、細胞壁にイオン結合した細胞壁結合性アイソザイムであることが明らかになった。
  • Yong Woo Park, 馬場 啓一, 林 隆久, 古田 裕三, 飯田 生穂, 鮫島 一彦, 荒井 基夫
    p. 275
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     エンドウ上胚軸切片へのXTH(XET)によるキシログルカンの組込み実験から、キシログルカンネットワークの強化は伸長を抑制し、その分解は細胞伸長を促進することが示されている。そこで、キシログルカンを直接加水分解するキシログルカナーゼ(XEG)をポプラで構成発現させた。
     XEGの発現は、全ての組織(一次壁および二次壁)でキシログルカン含量を減少させた。茎および葉柄の伸長を促進し、葉肉細胞は大きくなり、厚い葉を形成した。木部繊維細胞は、セルロース含量を増加させ、比重も増加していた。ヤング率を測定したところ、伸長部位ではコントロールよりも低い値を示したのに対して、伸長の終わった部位では高い値を示した。これらの結果より、キシログルカンの効果的な分解は、植物の成長だけでなく、セルロースの生合成をも制御できることが示された。
  • 馬場 啓一, Yong Woo Park, 林 隆久
    p. 276
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    伸長成長終了後の肥大成長している高等植物の茎では、あて材形成によって重力に対する姿勢制御している。双子葉植物では屈曲側に引張あて材を形成し、その成長応力によって茎を曲げる。引張あて材の繊維細胞二次壁は正常材と比べてセルロースが多く、リグニンが少なく、ミクロフィブリル傾角が小さいなどの特徴を有するが、引張の成長応力を発生するメカニズムについては未だ明らかにされていない。最近、正常材の二次壁にはほとんど検出されないキシログルカンが、ポプラの引張あて材繊維細胞の二次壁(G層)中に含まれていることがわかった。そこでキシログルカナーゼ(XEG)を遺伝子導入したポプラを水平位置に倒し、引張あて材誘導実験をおこなった。
    XEG導入ポプラも初期にはコントロール同様に肥大成長部位で反重力方向への屈曲を示し始めたが、次第に茎が捻れて上方への屈曲を継続することが困難となった。それぞれの茎の断面を観察したところ、いずれも同程度に引張あて材を形成していた。一方、伸長成長部位ではコントロール・XEG導入ポプラともに倒置処理後1日で偏差成長による重力屈性を正常に示した。これらことからキシログルカンは偏差成長による姿勢制御への関与は薄く、引張あて材形成による成長応力発生において重要な役割を演じていることが示唆された。
  • 曽我 康一, 若林 和幸, 神阪 盛一郎, 保尊 隆享
    p. 277
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物の基部方向に向かって過重力刺激を与えると、細胞壁伸展性が低下し、茎の成長速度が低下する。しかし、基部方向とは異なった方向に過重力刺激を与えたときに、植物がどのような成長反応示すのかは、ほとんど明らかになっていない。本研究では、アズキ芽生えに、基部方向、垂直方向、頂端方向に300 gの過重力刺激を5時間与え、その成長および細胞壁の物性に与える影響を調べた。その結果、どの方向から過重力刺激を与えても、基部方向に過重力刺激を与えた場合と同様に、細胞壁伸展性が低下し、上胚軸の伸長成長が阻害された。また、機械的刺激受容チャンネルの阻害剤であるランタンおよびガドリニウムで処理すると、どの方向から過重力刺激を与えても、過重力刺激による成長阻害が見られなくなった。以上のことから、過重力刺激によるアズキ上胚軸の成長阻害は、刺激の方向に依存せずに起こることが明らかになった。すなわち、植物は、茎の成長調節において、過重力刺激の方向ではなく、過重力刺激の大きさのみを情報として利用していると考えられる。また、基部方向、垂直方向、頂端方向のどの方向から過重力刺激を与えても、茎の成長が阻害されたこと、機械的刺激受容チャンネルの阻害剤処理により、過重力刺激による成長阻害が見られなくなったことから、機械的刺激受容チャンネルが原形質膜上に存在し、そのチャンネルによって、植物は過重力刺激を受容している可能性が考えられる。
  • 高橋 宏二, 木藤 伸夫, 加藤 潔
    p. 278
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     我々はこれまでに、ササゲ黄化胚軸の細胞壁試料(glycerinated hollow cylinders; GHCs)を用いて、細胞壁の力学的パラメータ(展性; φ と臨界降伏張力; y )がpHに依存して調節されること、さらにyはyieldinにより制御されていることを明らかにした。一方、細胞壁のクリープ現象を酸性条件下で促進するタンパク質としてexpansinが知られている。我々は、これら細胞壁機能タンパク質の生体内での役割を検討するためには、生理学的な解析と分子遺伝学的な解析を合わせて行う必要があると考え、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を研究材料に取り上げた。今回は従来の細胞壁力学的パラメータの測定システムで、小さな植物材料であるシロイヌナズナ胚軸由来の細胞壁試料の力学的パラメータが測定可能であるか否かを検討した。
     グリセリン処理した3日齢のシロイヌナズナ黄化幼植物の下胚軸を新たに改造した細胞壁伸展計に固定し、任意のpHの溶液中で荷重を0.1gあるいは0.05gずつ加え、それぞれの荷重下での細胞壁試料の伸展速度を測定した。その結果、シロイヌナズナの細胞壁試料においてもササゲGHCsと同様にpHに依存したφyの調節が確認された。これは、細胞壁機能タンパク質の研究材料としてシロイヌナズナが有効に利用できることを示している。
  • 平田 晋也, 高橋 宏二, 木藤 伸夫, 加藤 潔
    p. 279
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、キュウリ(Cucumis sativus)クラスIIIキチナーゼCHI1, 2, 3が、ササゲ(Vigna unguiculata)下胚軸の臨界降伏張力(y)を pH依存的に調節することを報告した。今回は、キュウリ下胚軸におけるyの調節能の有無を調べるために、グリセロール及び凍結融解処理をしたキュウリ下胚軸細胞壁標品を作成し、細胞壁力学的パラメータのpH依存性を解析した。その結果、いずれの細胞壁標品においても壁展性(φ)及びyが存在し、それらの値はpHに依存して調節されることが明らかとなった。定荷重によるpH依存的な壁伸展の変化を観察したところ、酸性化による伸展は荷重がy以上である場合のみに起こった。細胞壁標品を熱処理したところpHに依存したyの変化は失われたが、φのpH依存性は消失しなかった。そこで、1M NaClで抽出した細胞壁タンパク質で熱処理標品を再構成すると、yはほぼ完全に回復した。
    これらの結果から、キュウリにおいても伸長生長の調節はφのみでなくyによっても調節されていることが分かった。また、細胞壁タンパク質によって調節されるのはyであり、実際の伸長生長における律速パラメータである可能性が高い。
  • 井手 和史, 高橋 宏二, 木藤 伸夫, 加藤 潔
    p. 280
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の伸長生長の分子的なメカニズムには、未だ未解明な部分が多い。ササゲ(Vigna unguiculata)下胚軸を用いた伸長生長メカニズムの生理学的研究から、細胞壁の伸展には力学的パラメーターである壁展性(Φ)と臨界降伏圧(Y)両者の調節が重要であることが明らかになり、in vitroでpH依存的に臨界降伏張力(y)を調節するタンパク質yieldin(Vu-YLD)がクローニングされた。ササゲ以外ではカボチャの下胚軸でのみyの存在が報告されているが、アズキ(Vigna angularis)上胚軸でもササゲと同様の伸長制御様式が考えられる。今回内部灌流型伸展計を用いたアズキ上胚軸のin vitro生理実験より、(i)アズキ上胚軸の伸長域でも力学的パラメーターφyが存在し、(ii)それぞれpHに依存して変化する。さらに(iii)熱処理によってpHに依存したyの調節が見られなくなるが、(iv)細胞壁タンパクで再構成することによりy調節能が回復することがわかった。しかし(v)ササゲやアズキのYLDタンパク質を用いた再構成実験では、y調節能の回復は完全ではなく、別画分のアズキ細胞壁タンパク質中にy調節能をほぼ完全に回復する活性が確認された。以上よりアズキ上胚軸にはYLD以外にもy調節能を持つ壁タンパク質の存在が示唆された。これらタンパク質について現在解析を行っている。
  • 江崎 直史, 高橋 宏二, 木藤 伸夫, 加藤 潔
    p. 281
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物体内にはCa2+、Mg2+、Cu2+、Mn2+、Zn2+などの金属イオンが必須元素として含まれているが、植物の細胞壁標品をin vitroで金属イオン処理すると細胞壁の伸展性が低下することが報告されている。細胞壁の伸展は壁展性(φ)と臨界降伏張力(y)の調節によって制御されていると考えられるが、金属イオンがこれら力学的パラメータにどのように影響するかは明らかになっていない。そこで、金属イオンがφyのどちらに影響するのかを明らかにする目的で、ササゲのグリセリン処理中空胚軸(GHC)を金属イオン処理し、内部灌流型伸展計を用いて細胞壁の伸展特性を解析した。
     無処理のGHC標品ではpH4.0のときにyは70gw前後を示したが、1mM CaCl2処理した標品では115gw前後まで増加した。しかし、φについては無処理に比べて目立った変化は見られなかった。次に、Mg2+やCu2+、または根の伸長生長を阻害することが知られているAl3+についても細胞壁の力学的性質に与える影響を調べた。その結果、pH4.0のときにそれぞれ約100gw、100gw、90gwまでyが増加した。以上の結果は、これまで報告のあるin vitroでの金属イオン処理による細胞壁の伸展性の低下はyの増加によることを示唆する。
  • 高橋 恒太, 安彦 友美, 政田 正弘, 児玉 浩明
    p. 282
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     我々は、リノレン酸を合成する小胞体局在型ω-3脂肪酸不飽和化酵素(NtFAD3)のcDNAをタバコに導入して形質転換植物を作出した。しかし、その中に、野生株よりリノレン酸含量の少ない個体が見つかった。その個体について、ノーザン解析を行ったところ、mRNAの存在は確認できており、転写抑制型サイレンシング(TGS)による発現抑制ではなく、転写後抑制型ジーンサイレンシング(PTGS)様の現象によりNtFAD3の発現が抑制されていると考えた。PTGSと相関性のある現象として、導入遺伝子のコーディング領域のメチル化が多く報告されている。野生株(WT)、PTGSを起こしている株(S44株)、NtFAD3遺伝子を過剰発現している株(S24株)の葉からゲノムDNAを抽出し、メチル化感受性制限酵素処理とPCR法を用いて、メチル化解析を行った。まず、メチル化感受性制限酵素を用いて制限酵素処理を行い、続いて、内在性NtFAD3と導入遺伝子それぞれに対して特異的なプライマーを設計し、PCR法により目的領域が増幅するか確認した。その結果、導入遺伝子においては、S44株では、強いメチル化が確認され、S24株でもS44株ほどではないがメチル化が確認された。そして、内在性NtFAD3遺伝子については現在、検討中である。又、DNAのメチル化シトシンの分布・出現頻度を調べるため、bisulfite処理を用いた解析により更に詳細検討を加えている。
  • 大沢 勇久, 土本 卓, 津田 賢一, 山崎 健一, 大坪 久子, 大坪 栄一
    p. 283
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     p-SINE1はイネゲノムに多コピー数存在する大きさ122 bpの散在性反復配列であり、転写産物が逆転写されることによって転移するレトロポゾンSINEであると考えられている。我々はノーザン解析によりイネの培養細胞でp-SINE1が転写されていることを見出した。転写産物の両端を決定したところ、ゲノムにおけるp-SINE1配列の両端と一致していた。また、in vitro転写の結果からp-SINE1内部にRNAポリメラーゼIIIのプロモーターが存在することが示唆された。これらは、p-SINE1がイネ細胞中で内部プロモーターによって転写されていることを示す。転写産物の配列を調べた結果、p-SINE1の中でも最も最近転移したサブファミリー(RA)のメンバー由来のものが大部分を占めていることがわかった。DNAメチル化によるp-SINE1の発現制御を調べるため、細胞をメチル化阻害剤で処理したところ、p-SINE1転写産物の量が顕著に増大した。実際、RAメンバーのゲノム配列は培養細胞で強くメチル化されており、阻害剤処理でそのメチル化が弱まることがわかった。これらの結果はRAメンバーの発現がDNAメチル化によって抑制されていることを示唆する。また植物体では、p-SINE1は穂と根で発現しており、葉では発現していなかった。穂での転写産物の配列は培養細胞と同様、RAメンバー由来のものが大部分であった。これは、RAメンバーの発現が植物体において組織特異的に制御されていることを示唆する。
  • 吉岡 光江, 小松 晃, 加藤 常夫, 小前 幸三
    p. 284
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     澱粉の主要構成成分であるアミロペクチンは、可溶性スターチシンターゼ(SSS)、スターチブランチングエンザイム(SBE)及びスターチデブランチングエンザイム(DBE)の作用によって合成されることが知られている。特にDBEであるイソアミラーゼ(ISA)とプルラナーゼ(PUL)はマルチプルクラスター構造の構築に不可欠であるとされている。本研究では、我々はオオムギDBEのうちISAに着目して特性解析を行った。
     オオムギ胚乳より精製したISAは、SDS-PAGEの結果、80kDaと 85kDaの2本のバンドが検出されたことから、分子量の異なる2種類の蛋白質で構成されることが判った。さらに、それぞれのN末端および内部の部分アミノ酸配列が異なること、また免疫化学的な解析結果から、オオムギ胚乳由来のISAは2種類のサブユニットからなるヘテロオリゴマーを形成することが示唆された。ISAの 80kDaおよび85kDaサブユニット蛋白質をコードする遺伝子は、オオムギの出穂後2週目の未熟種子由来cDNAライブラリーから単離された。これらcDNAの塩基配列を決定し相同性を比較した結果、47パーセントの相同性であり、異なる機能を有する遺伝子であることが考えられた。
  • 塚越 啓央, 山田 万希子, 柴田 大輔, 森上 敦, 中村 研三
    p. 285
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物生長の種々の局面で、糖に応答した遺伝子発現制御が重要な役割を担っている。糖シグナル応答には複数のシグナル伝達経路が働くが、その分子機構の多くは不明である。我々は、サツマイモ塊根主要タンパク質スポラミンのプロモーターに由来する糖誘導性最小プロモーターとLUCの融合遺伝子(Spomin::LUC)を導入したシロイヌナズナを用い、糖に応答したLUC発光を指標にして突然変異体を網羅的にスクリーニングし、25系統の低い糖濃度においても高いLUC活性を発現するhsi型突然変異株と、24系統の糖濃度を上げてもLUC活性が低いlsi型突然変異株を得ている。
    Spomin::LUCの発現はABAにも応答するが、発芽時の糖に応答した種々の遺伝子発現抑制と異なり、その糖による発現誘導は、ABI4,ABI5に非依存的である。hsilsi型突然変異株の解析から、ABAに依存的な経路と非依存的な経路によってその発現が制御されていると推定される。
    hsi型変異株の中でもhsi2変異株はSpomin::LUCの発現が特に高いが、内生のABAレベルは野生型株とほぼ同じであり、hsi20変異株では糖以上にABAに応答したLUC活性が顕著に高い。またhsi12変異株ではABAに対しては野生型株と応答性に変化はない。
    これらhsi型変異株は種子発芽の感受性などの生理的解析やアレイを用いた内生遺伝子の発現解析、マッピング解析などから、新規の糖・ABA応答に関わる変異と考えられた。hsi2変異を2番染色体下椀のおよそ40kbの領域内に特定した。
  • 光田 展隆, 佐藤 雅彦
    p. 286
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの液胞膜に存在するH+-PPaseの遺伝子AVP1のプロモーター領域には花粉での発現に重要な領域が存在し、これまでの研究により38塩基対内にまでその領域を絞り込んだ(Mitsuda et al., 2001, Plant Mol Biol., 46: 185-192)。その後この領域を釣り餌にして酵母One-Hybrid法により、この領域に結合するタンパク質を2種類同定した。これらはお互いにアミノ酸レベルで45%の相同性を持ち、植物特異的であり、ジンクフィンガーモチーフを1個構成し得る配列とNACドメインに類似したドメインを持っていた。これらは酵母に於いて単独で核に移行して配列特異的にDNAに結合し下流遺伝子の転写を活性化する能力を有することから転写因子であることが強く示唆された。またこれらの結合配列を調べたところ、38塩基対内のGCGTNNNNNNNACGC という15塩基対からなる配列のInverted repeat部位を認識して特異的に結合することがわかった。また、DNA結合能がZnキレーターに対して高い感受性を持つことや、Znフィンガーを構成するであろうシステインおよびヒスチジンに対する点変異タンパクがDNAに結合できないことより、これらはC3HタイプのZnフィンガーDNA結合モチーフを持つことが証明された。しかしZnフィンガーモチーフだけでなくその後に続くNAC類似ドメインもDNAへの結合に必要不可欠であり、全体として全く新しいタイプのDNA結合モチーフを構成していることが示唆された。
  • 石丸 泰寛, 中西 啓仁, 高橋 美智子, 山口 博隆, Bughio Naimatullah, 森 敏, 西澤 直子
    p. 287
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    鉄欠乏のイネの根から調製したcDNAライブラリーから、シロイナズナの2価鉄トランスポーター(IRT1)と非常に相同性の高い遺伝子OsIRT1を単離した。酵母の鉄吸収変異株を用いた相補実験により、OsIRT1は鉄トランスポーターの機能を示すことが確認された。IRT1プロモーター部分とGUS遺伝子の融合タンパクをイネで発現させたところ、鉄十分条件のイネの葉では小維管束と機動細胞に発現しており、根では内皮とそれに隣り合う皮層細胞にプロモーター活性がみられた。鉄欠乏条件のイネでは葉全体で発現しており、特に大維管束の伴細胞、小維管束に強い発現がみられた。根では表皮を除いた根全体に発現がみられ、特に中心柱で強かった。さらに、このOsIRT1と相同性の高いイネ遺伝子を単離し、OsIRT2と名づけ、鉄欠乏条件で誘導されることを確認した。さらに、OsIRT1、OsIRT2は鉄欠乏で発現が誘導されるだけでなく、OsIRT1は銅欠乏、亜鉛欠乏により、OsIRT2は銅欠乏により発現が誘導されることをRT-PCRで確認した。以上の結果は、OsIRTファミリーがイネ金属輸送に関わる重要なトランスポーターであることを示唆している。
  • 嶋田 典基, 青木 俊夫, 佐藤 修正, 金子 貴一, 田畑 哲之, 綾部 真一
    p. 288
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物に特徴的な 5-デオキシイソフラボノイドは,対病原微生物活性物質 (ファイトアレキシン) や根粒菌との共生シグナルとして,マメ科の環境適応にきわめて重要な役割を担っている.我々は,5-デオキシイソフラボノイドの生合成機構・生態生理機能および分子進化について,モデルマメ科ミヤコグサを用いて研究を行っている.今回,各種フラボノイドの共通前駆体 (2S)-フラバノンを与えるカルコン異性化酵素 (CHI) を解析し,6'-ヒドロキシカルコンのみを基質とする非マメ科型 CHI (type I) と 6'-デオキシカルコンに対する触媒活性も持つマメ科型 (type II) CHI cDNA を同一植物より初めてクローニングした.得られた cDNA 配列を用いて,ミヤコグサ TAC ライブラリーをスクリーニングしたところ,type I および type II CHI 遺伝子が第 5 染色体上わずか15 kb の範囲に存在することがわかった.このことは局所的な遺伝子重複が CHI の分子進化に重要な役割を果たしたことを示している.また,マメ科に特徴的なイソフラボノイド骨格形成と,ファイトアレキシンに見られる4'-メトキシ構造をつくる連続した反応を触媒する P450 とメチル基転移酵素の遺伝子についても報告する.
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