日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第45回日本植物生理学会年会講演要旨集
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  • 村松 昌幸, 日原 由香子
    p. 403
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803は光強度変化に応じて光化学系I (系I)複合体量を変化させるが、これは系I遺伝子群のプロモーター活性が、協調的に弱光下で増加し、強光下で減少することで主に調節されている (Muramatsu and Hihara, Planta 216: 446-453, 2003)。そこで本研究では、光応答を示す系I遺伝子の転写調節機構を明らかにするため、反応中心サブユニットをコードするpsaABのプロモーター構造解析を行った。psaABの推定プロモーター領域欠失シリーズを用いてのluxABレポーターアッセイから、psaABには光応答を示す2つのプロモーター(P1、P2)が存在し、各々の近傍には、光応答には関与しないが、プロモーター活性を常に正または負に調節する領域が存在していることが明らかになった。さらに、ゲルシフトアッセイにより、弱光下においてはP1、P2領域にそれぞれ異なる因子が結合していることが分かった。現在、様々に塩基置換を導入したP1、P2領域をluxABに結合し、光応答領域の同定を試みている。また、系I小サブユニット遺伝子psaDのプロモーター構造解析も同様に行っている。本大会ではpsaABおよびpsaDのプロモーター構造を比較することによって、系I遺伝子の発現が光強度変化に対し協調的に調節される機構を論じたい。
  • 日原 由香子, 村松 昌幸, 中村 絹, 園池 公毅
    p. 404
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    Pirinは生物種間で広く保存されたタンパク質であり、ヒト、トマトでプログラム細胞死の過程に関わることが知られているが、原核生物におけるPirinホモログの役割は全く分かっていない。演者らは、塩、浸透圧、酸化、エタノール等の各種ストレス条件下のシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803で、Pirinホモログをコードするsll1773、ジンクフィンガーモチーフを2個持つ推定転写因子をコードするssl3389が共転写されてくることを見出し、これらのORFをそれぞれpirApirBと名付けた。ストレス条件下でのpirABの発現と、細胞の受ける増殖阻害との間には特に相関は見出されず、Synechocystis sp. PCC 6803におけるpirAの細胞死への関与は未だ不明である。pirABの上流逆向きにはLysR型の転写因子をコードするslr1871が存在しており、この遺伝子を破壊すると、非ストレス条件下でのpirAB発現が脱抑制されることを見出した。このことはslr1871がpirABのリプレッサーとして機能することを示唆するため、これをpirRと名付けた。現在、pirABpirRの三者が、ストレスの有無に応じて複雑な相互調節を行なっていることが明らかになりつつある。本年会ではこれらの遺伝子破壊株についてのマイクロアレイ解析の結果も併せて報告したい。
  • 金子 貴一, 中村 保一, 佐藤 修正, 三室 守, 宮下 英明, 土屋 徹, 田畑 哲之
    p. 405
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    Gloeobacter violaceus PCC 7421はチラコイド膜を持たない単細胞性のラン藻である。光合成系のタンパク質は細胞膜上に存在している。また、Gloeobacterはラン藻の分子系統樹の中で最も古く分岐するため、他のラン藻とは異なる遺伝的特徴を多く保持する種であることが期待される。本研究では、Gloeobacterの全遺伝子情報から酸素発生型光合成の進化と起源に関する知見を得ることを目的として、全ゲノム構造解析をおこなった。Gloeobacterゲノムは4,659,019 bpの染色体からなる。ゲノム上には、4430のタンパク質遺伝子が推定され、その41%については他生物遺伝子へのアミノ酸配列の類似性に基づいて機能が推測された。光合成関連の遺伝子構成については、Gloeobacterは他のラン藻とよく似ていた。ところが、全遺伝子の機能別分類と遺伝子ファミリーの分類、さらに他ラン藻ゲノムとの遺伝子構成比較をおこなったところ、他のラン藻とは異なる特徴がGloeobacterにみつかった。例えば、転写因子の数が多いこと、SQDG生合成系や生物時計関連遺伝子がみつからないこと、カロテノイド生合成系が部分的に異なることである。これらは、Gloeobacterがラン藻の中でも独自の進化を遂げたことを示しているのかもしれない。
  • 宮本 良, 大岡 宏造, 三野 広幸, 伊藤 繁
    p. 406
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    TypeI型ホモダイマー反応中心を持つヘリオバクテリアHb. modesticuldumの電子伝達経路を同定するため極低温ESR測定を行った。8 Kの光照射により電荷分離状態P800+FXを作ると、10 msの時定数で再結合をした(1)。230 Kから14 Kまで光照射しながら反応中心コア標品を冷却すると、線幅12 G、g = 2.0060を中心とした非対称のシグナルの蓄積が観測された。PS Iとの類推から、この信号はコアタンパク内に存在する還元型メナキノンに由来する可能性が高い。さらに、レーザー閃光照射時のESR信号の時間依存性を調べた。Flash直後の短時間領域では電子間のスピン相互作用を示す非常に強い分極シグナルが観測され、A / E / A / Eの分極パーターン(A: absorption E: emission)を示した。一方、暗所で凍結したコア標品ではP800+FX分極シグナルのE / A / Eパターンが観測された。これらの結果をPS IのP700+Q(キノン)分極シグナルとの比較で議論する。
    (1) 2003年度植物生理学会年会 宮本ら
  • 塚谷 祐介, 伊藤 繁, 宮本 良, 大岡 宏造
    p. 407
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     緑色イオウ細菌の光化学系1型反応中心はPscA~Dの4つのサブユニットにより構成されている。PscAは反応中心コアダイマーを形成し、PscBはFA/FBタンパク、PscCは結合型チトクロムとして機能していることが明らかとなっているが、PscDについては機能未知のままである。我々は、PscDサブユニットの機能を明らかにするために、緑色イオウ細菌Chlorobium tepidumのPscD欠損株を作製した。野生株と欠損株の生細胞を用いて蛍光寿命を測定すると、バクテリオクロロフィルa (BChl a)の蛍光の減衰が欠損株で遅くなっていることがわかった。また、膜画分を精製すると、BChl a/P840比が欠損株でわずかに減少していた。
     緑色イオウ細菌において、クロロゾームと呼ばれる光捕集器官によって捕らえられた光エネルギーは、クロロゾームのbaseplate(ベースプレート)、FMOタンパクを経由して反応中心複合体に伝達される。2次元結晶を用いた電子顕微鏡解析 [Remigy et al. (1999) J. Mol. Biol. 290, 851-858]では、PscDサブユニットがFMOタンパクと接触していることが示唆されている。ベースプレートとFMOタンパクにはBChl aが含まれており、PscDを欠損したことでFMOタンパクから反応中心へのエネルギー移動に支障をきたした結果、BChl aの蛍光寿命が長くなったと考えられた。PscDはFMOタンパクから反応中心へのエネルギー移動を効率よくするために機能しているものと推測される。
  • 冨井 哲雄, 柴田 穣, 池田 裕樹, 谷口 誠治, コスロビアン ハイク, 又賀 昇, 嶋田 敬三, 伊藤 繁
    p. 408
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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     好酸性紅色光合成細菌Acidiphilium rubrumはバクテリオクロロフィル(BChl)の中央金属のMgがZnに置き換わったZn-BChlを主要色素としてもつ。反応中心(RC)を精製し、蛍光アップコンバージョン法によりフェムト秒蛍光減衰過程を測定し、RC中の Zn-BChl二量体(P850)からBPhe(H)への電子移動速度を測定した。チタンサファイアレーザーの基本波(815 nm、半値幅180 fs)によりアクセサリーZn-BChl(B)を励起した。P850の蛍光の立ちあがりは160 fs、減衰は3.3psであった。前者はBからPへのエネルギー移動、後者はPからHへの電子移動を反映する。これらの時定数は通常のMg-BChlをもつ紅色細菌R.sphaeroidesとほぼ等しい。蛍光偏光解消からBとPの遷移双極子の角度は約32°と見積もられた(R.sphaeroides は36°)。また光子計数法によるピコ秒蛍光測定でLH1→RCのエネルギー移動速度は42psであった。A.rubrum RC内の電子移動速度とエネルギー準位の関係を議論する。
  • 石田 和裕, 町谷 賢広, 島田 裕士, 大林 武, 増田 建, 太田 啓之, 高宮 建一郎
    p. 409
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    光合成細菌 Rhodobacter sphaeroides のSPBは好気的条件下、または強光照射下で puf オペロンの上流域に結合し、その転写を抑制する因子として同定された。その後の解析からSPBは単独ではなく他の因子と相互作用して、puf オペロンの転写抑制に関与することが示唆された。そこで我々はSPBと相互作用する因子の探索を試み、その結果、好気的条件下でSPBと特異的に結合する新タンパク質(SIP)を同定した。SIPはSPBと35%の相同性を示し、DNA結合領域を含んでいた。さらにSPBがロイシンジッパーモチーフをもつという事実からSPBとSIPはヘテロダイマーをつくり puf オペロンの転写抑制に関与することが示唆された。また、SIPとSPBは、嫌気・(強/弱光)条件および(好気/微好気)・暗条件で定常的に発現していた。したがって、SPBとSIPの結合能は転写・翻訳後の修飾によって調節されることが示唆された。このことは、in vitro では SPB がリン酸化/脱リン酸化されることによってDNA への結合能が制御され、その結果SPBが転写を制御するという我々のこれまでの仮説と矛盾しない。今回は、in vivo および in vitro でのSPBおよびSIP のリン酸化とヘテロダイマー形成能との解析結果についても報告する予定である。
  • 士反 伸和, 吉松 嘉代, 佐藤 文彦, 矢崎 一史
    p. 410
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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     植物における有用アルカロイド輸送・蓄積のモデルとして、キンポウゲ科多年生草本のオウレンにおけるベルベリン蓄積機構を解析している。同植物において主アルカロイドのベルベリンは根において生合成され、根茎に蓄積される。すなわち、本アルカロイドは根から根茎に輸送され蓄積していると考えられる。我々はこれまでに、細胞膜に局在するMDR(multi-drug resistance)タイプのABC (ATP-binding cassette) タンパク質CjMDR1がベルベリンの組織間での転流に関与することを示唆する結果を報告してきた。今回、本CjMDR1の植物体における生理学的役割をさらに明らかとすることを目的とし、CjMDR1の発現を変化させた形質転換オウレン植物体の作成を試みた。まずCjMDR1を過剰発現させることを試みたが、得られた植物体を解析した結果、予想に反して根、葉柄、葉におけるCjmdr1 mRNAの発現が低下していることを認めた。この発現の低下は安定していたことより、現在、ベルベリンの蓄積に対する効果を検討している。
  • 稲井 康二, 佐藤 康隆, 高瀬 尚文, 橋本 隆
    p. 411
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    タバコ(Nicotiana tabacum)の主なアルカロイドであるニコチンは、根で生合成された後、葉に転流され液胞に蓄積する。タバコ低ニコチン変異株であるnic1nic2では、ニコチンの生合成能力と蓄積量が低下している。我々は野生型と低ニコチン変異株の根において発現量の異なる遺伝子をスクリーニングした結果、MATE(multidrug and toxin efflux family)トランスポーターをコードする相同な二つの遺伝子(NtMATE1, NtMATE2)を単離した。植物において広く存在するMATE型トランスポーターの機能は未知なる部分が多い。我々はその発現がニコチン生合成酵素遺伝子と同調して制御されていることからNtMATE1/2がニコチンの輸送に関与していると考えている。そこで形質転換BY-2 細胞を用いてNtMATE1/2タンパク質の細胞内局在およびニコチントランスポート活性を測定する実験を行っている。また、植物体においてもNtMATE1の過剰発現体・発現抑制体を作出しニコチンの蓄積量の変化を調べている。
  • 加藤 彰, 橋本 隆
    p. 412
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    タバコは生理学ならびに生化学における有効なモデル植物でありながら、いままで分子生物学的、遺伝学的な解析ツールが充実していなかった。そこで、我々は2倍体タバコであるNicotiana sylvestrisの根部と葉部から部分的に平均化したcDNAライブラリーを構築した。得られた約13,000のcDNAクローンをシークエンスした結果、約6,500の非重複配列が得られた。それらをGenbankに登録されているNicotiana属の核ゲノムコードの配列と比較した結果、非重複配列は約3,500の遺伝子に由来することが推測された。これらのESTを用いてcDNAマイクロアレイ・チップを作成し、ニコチン生合成系に関連するタバコの遺伝子転写レベルの動向を解析している。
  • 米山 奈保, Chuang-Xing Ye, 芦原 坦, 加藤 美砂子
    p. 413
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    植物に蓄積される主要なプリンアルカロイドは、カフェイン(1,3,7-トリメチルキサンチン)またはテオブロミン(3,7-ジメチルキサンチン)である。カフェイン生合成の最終段階には3回のメチル化反応が含まれる。キサンチン骨格のN-7位、N-3位のメチル化の後にテオブロミンが合成され、さらにN-1位がメチル化されてカフェインとなる。我々は、植物に蓄積されるプリンアルカロイドの違いは、存在するN-メチルトランスフェラーゼの基質特異性の違いを反映していることを昨年の本大会で報告した。
     本研究では、カフェインを蓄積するチャ(Camellia sinensis)に存在し、N-3位とN-1位のメチル化の両方を触媒するカフェインシンターゼ(TCS1)とテオブロミンを蓄積するCamellia ptilophyllaに存在し、N-3位のメチル化のみを触媒するテオブロミンシンターゼ(PCS1)に着目した。これらのアミノ酸配列は91%という非常に高い相同性を示す。この2つの酵素の基質特異性の違いを決定する領域を特定することを目的として、大腸菌の発現系を用いて変異型酵素を作製し、解析した。その結果、TCS1の全369個のアミノ酸のうち、140-287番目の領域が基質特異性を決定していることが示唆された。その中でも、TCS1の221番目のアルギニンが、基質特異性の決定に大きく関与することがわかった。
  • 中川 周治, 森 美穂子, 前島 正義, 吉田 久美
    p. 414
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    目的 アントシアニンは高等植物に広く存在する色素であり、植物細胞内においては液胞に蓄積される。どのような機構でアントシアニンが液胞内へ輸送されるかについては、未だはっきりと分かっていない。本研究では、塊根全体にアントシアニンを蓄積する紅芯ダイコン(Raphanus sativus (北京水ダイコン))を用いて、アントシアニンの液胞輸送機構の解明を目指している。
     方法・結果 まず、輸送基質となりうる分子の構造を明らかにするため、塊根を柔組織と形成層に分けて、それぞれに含まれるアントシアニンを2% TFAを含む50% CH3CN aq.で抽出しHPLC分析を行った。その結果、両組織で,含まれるアントシアニン分子種の比率が異なることが分かった。両組織から主要なアントシアニン分子を単離精製し、構造決定を行なった。全ての分子がペラルゴニジンを母核として、数個のグルコースや有機酸が結合していた。また、既報の構造とは異なり、ほとんどがマロニル化されていた。7種類単離したうち、4種が新規のアントシアニン分子であった。形成層で主要なアントシアニン分子は、柔組織のそれよりも高度にアシル化・配糖化を受けていることが分かった。構造上の特異性と生理的意義についても議論したい。
  • 森 美穂子, 吉田 久美, 近藤 忠雄
    p. 415
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)ほとんどの花色を担う色素のアントシアニンは、花弁の表層にある着色細胞の液胞に局在する。液胞内の色素濃度は10-2 Mと非常に高く、様々な分子会合により安定化され、かつ色が変化する。我々は、花弁の着色液胞におけるin vivo花色発現解明に取り組んでおり、今回細胞内での色素の分子会合を明らかにする目的で、花弁および着色細胞の円二色性(CD)を測定し、in vitroの花色再現実験と比較した。
    (結果)既に我々はネモフィラ(Nemophila menziesii)青色花弁色素がメタロアントシアニンのネモフィリンであることを、構成成分の単離と再合成実験により明らかにしている。Mg2+-Mg2+型錯体は紫色だがMg2+-Fe3+型錯体は青色を示し、それぞれ可視吸収スペクトルとCDが異なる。生花弁を測定すると乱反射によるノイズのため極大波長を正確に求められない。そこで、吸水させた花弁及びプロトプラスト懸濁液を用いて測定したところ、いずれもMg2+-Fe3+型とよい一致を示した。CDには特有の励起子型の負のコットンが認められ、色素同士のキラルな会合の存在がわかった。さらにアジサイ(Hydrangea macrophylla)など数種の花について測定を行ったので合わせて報告する。
  • 野田 尚信, 加藤 直幹, 古川 耕一郎, 数馬 恒平, 鈴木 正彦
    p. 416
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    チョウマメの青色花弁に蓄積するポリアシル化アントシアニンであるテルナチン類の構造は,デルフィニジン3-(6''-マロニル)グルコシド-3',5'-ジグルコシド(テルナチンC5)を共通に持つ.このB環の水酸基を配糖化する3'位及び5'位グルコシル基転移酵素タンパク質(3'GT及び5'GT)をそれぞれ精製したところ,両タンパク質の生化学的特性は類似していた.そこで,精製した3'GTの内部部分アミノ酸配列を基にcDNA(CtBGT1)をクローン化して大腸菌で発現させた.組換えCtBGT1は,アントシアニンB環の3'及び5'位水酸基へ逐次グルコシル基を転移する3',5'位グルコシル基転移酵素(UA3'5'GT)活性を有していた.CtBGT1は447アミノ酸残基からなる分子量48,649のポリペプチドをコードし,アミノ酸レベルでの分子系統解析ではUF3GTファミリーに属していた.一方,機能的に最も近いエゾリンドウの3'GT(AB076697)との相同性は8%であった.CtBGT1転写産物は,デルフィニジン3-(6''-マロニル)グルコシドを花弁に蓄積する藤色花系統でも認められたが,コード領域内部に一塩基置換による停止コドンが存在していた.従って,テルナチン生合成における3'及び5'位の配糖化はCtBGT1遺伝子にコードされる新規な糖転移酵素UA3'5'GTによって触媒されると考えられる.
  • 西原 昌宏, 中塚 貴司, 三柴 啓一郎, 菊池 亮子, 山村 三郎
    p. 417
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    我々はこれまでにアンチセンス法を用いてCHS(Chalcone synthase)遺伝子を抑制した白花リンドウを作出し解析を進めている。さらに花弁特異的かつ高効率のCHS遺伝子の抑制を目指し、内在性のプロモーターによるRNAi誘導型ベクターを用いて形質転換を行った。
     リンドウ花弁特異的CHSプロモーター制御下にinverted repeat構造のCHS部分断片(約500bpセンス及び250bpアンチセンス)を繋ぎ、アグロバクテリウム法により青花リンドウへ導入した。形質転換体では青色の抑制が観察され、その効率は24系統中17系統であった。白色よりも薄青色の花色を示す系統が多く観察され、アンチセンス法に比べて抑制程度が低いという結果が得られた。また同じ系統であっても個体ごとに花色のばらつきが認められ、内在のCHSプロモーターを用いた影響によるものと推定された。白~薄青を示した1系統を増殖させ、12個体について花色及びアントシアニン量を調査した結果、花色に応じたアントシアニン含量を有していた。白花化花弁でのCHS遺伝子の発現はアンチセンス白花化系統とほぼ同程度にまで低下しているのに対し、薄青花色の個体ではその抑制が不完全であった。現在、本原因の究明を目指し、CaMV35Sプロモーターとの比較、siRNAの検出、CHSプロモーターのメチル化等について解析を行っている。
  • 中塚 貴司, 西原 昌宏, 三柴 啓一郎, 山村 三郎
    p. 418
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    リンドウのフラボノイド生合成系に関与する遺伝子発現を解析した結果、白花リンドウ品種‘ホモイ’においてはANSの発現が検出されず、ANS変異体であると推定された。ANSGFPをCaMV35Sプロモーターにドライブし、パーティクルガンで花弁に導入したところ、赤色着色とGFP蛍光が同一細胞で観察され、本変異はANSの導入により相補されることが示された。同じく白花品種の‘ポラーノホワイト’においては、ANSといくつかの関連遺伝子の発現が弱く、また低温条件下で花弁が着色するなどから構造遺伝子の変異による可能性は低いと考えられる。ノザン解析の結果、着色花弁ではCHS, F3H, F3'H, ANSの誘導、CHI, F3',5'Hの抑制が観察され、白花化の原因はフラボノイド生合成遺伝子群の転写調節因子の変異であると推定された。一方、ピンク花リンドウ品種‘ももこりん’のF3',5'Hの配列内には両端に76bpの繰り返し配列を持つ520 bpのレトロトランスポゾン様挿入配列が存在しており、ピンク花化は本遺伝子の変異によるものであることが示唆された。サザン解析の結果、エゾ系及びササ系リンドウ共に多数のバンドが見られ、本配列はリンドウゲノム内に散在する配列であることが示された。現在、レトロトランスポゾン様配列の元配列の単離を目指して、解析を進めている。
  • 中村 典子, 石黒 加奈子, 小埜 栄一郎, 奥原 宏明, 落合 美佐, 田中 良和
    p. 419
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     カーネーションは重要な花卉の一つである。(1)カーネーション花弁における物質代謝の理解と、(2)黄色の花を作出する上で有用なツールである2’,4,4’,6’-テトラヒドロキシカルコン2’-糖転移酵素(THC2’GT)遺伝子の取得を目的としてカーネーション花弁で発現している遺伝子を解析した。
     黄色カーネーション花弁のcDNAライブラリーから2,600クローンのESTを得た。この中にはフラボノイド合成に関わると考えられる構造遺伝子及び3種のGT遺伝子が見出された。次に、花弁―葉のサブトラクションcDNAライブラリーから3,700クローンの配列を決定し、新たに16種のGT遺伝子を見出した。また、既知GT遺伝子をプローブとして花弁cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、新たに16種のGT遺伝子を見出した。以上によりカーネーション花弁において多様なGT遺伝子が発現していることがわかった。アラビドプシスのゲノム中には約100種のGT遺伝子があるが、カーネーションはこれを上回るGT遺伝子を持つことが期待され、これらの機能解析は興味深い課題である。
    (本研究の一部は生研センターからの受託で実施)
  • 奥原 宏明, 石黒 加奈子, 廣瀬 知華, 高 マイ, 戸上 純一, 中村 典子, 小埜 栄一郎, 落合 美佐, 福井 祐子, 山口 雅篤, ...
    p. 420
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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     2’,4,4’,6’-テトラヒドロキシカルコン2’-糖転移酵素(THC2’GT)は、黄色を呈するテトラヒドロキシカルコン(THC)を無色のナリンゲニンへと異性化するのを抑制し、細胞内で安定化させることから、THC2’GT遺伝子は黄色の花の分子育種に有用である。カーネーション(Dianthus caryophyllus cv. light cream candle)の黄色花弁から得られた35個の糖転移酵素(GT)遺伝子を大腸菌で発現させ、それぞれの組み換えタンパク質のC2’GT活性を測定した。クローンT170、T128、CGT93、S12A2にin vitroでのTHC2’GT活性が見られた。これらの遺伝子をペチュニアで発現させたところ、T170およびT128を発現しているペチュニアでTHC2’-glucosideが合成されていた。しかしながらその蓄積量が少ないためか、花弁が黄色を呈するには至らなかった。
     シクラメン(Cyclamen persicum)、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)の花弁cDNAライブラリーからT170のホモログ遺伝子をクローニングした(YCy3-12, YMb4)。これらを大腸菌で発現させ、酵素活性を測定したところやはりTHC2’GT活性が見られた。
    (本研究は生研センターからの受託で実施した)
  • 瀬口 武史, 早川 尚吾, 皆川 純
    p. 421
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
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    緑藻クラミドモナスは高等植物と同等の光化学系を持っているが、高等植物では生育に深刻な影響が出る強光条件(約2000μE/m2/s)にも順化し、非常に速く生育することができる。異なる光環境下(10-5000μE/m2/s)で細胞を生育させると、環境光の強さと光阻害の程度、NPQのレベルに相関が見られるため、強光下での速い生育は効果的なNPQの誘導によって可能になったと考えられる。本研究は、この強光下のNPQ誘導メカニズムを明らかにするため、まず蛍光誘導の詳細な解析を行った。その結果、強光培養細胞におけるNPQは、qE(ΔpH依存)ではなく主にqT(ステート遷移)に起因するものであることが示唆された。そこで、このqT誘導能の高い集光装置を詳細に調べるため、強光培養細胞からLHCII画分を単離した。ゲル濾過クロマトグラフィーにより複合体の大きさを解析したところ、弱光条件と比べ高い三量体/単量体比を示すことが明らかとなった。以上の結果から、強光に順化したクラミドモナスは三量体比の高いLHCII複合体を持つため、ステート遷移によるNPQを誘導しやすいことが示唆された。現在、LHCIIの高次構造とステート遷移の関係を明らかにするため、抗リン酸化抗体を用いた免疫化学的解析を進めており、その結果もあわせて報告する。
  • 菅野 歩, 瀬口 武史, 皆川 純
    p. 422
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系IIの集光装置は、コアアンテナ(CP43/CP47)、マイナーアンテナ(CP29/CP26)、メジャーアンテナ(LHCII)によって構成される。このうちマイナーアンテナには、大部分のキサントフィル・サイクル色素が結合されていることから、集光よりも過剰エネルギーの熱散逸に関与するとの報告があるが、その詳細は明らかではない。そこで本研究では、RNAi技術を用い緑藻クラミドモナスのマイナーアンテナの一つであるCP29 の光環境適応における役割を検討した。まず、作成したRNAi株におけるLhcb4遺伝子のmRNA量が野生株の3%以下に抑制されていることを確認した。また、CP29タンパク質の発現も著しく低下していることがウェスタンブロッティングによって明らかとなった。次に、強光および弱光条件下で培養した細胞を用いて、CP29発現抑制の効果の生理生化学的な検討を行った。その結果、弱光下では野生株と差が見られなかったのに対し、強光下で培養したRNAi株では最大量子収率の低下とD1タンパク質の蓄積量の低下が見られた。これらのことからCP29の発現抑制が光化学系IIの損傷をもたらしたことが明らかとなり、CP29は強光下における光化学系IIの防御に必要であることが示唆された。ゲノム情報から明らかになってきた緑藻型集光装置の特徴と併せ、報告する。
  • 佐藤 壮一郎, 平島 真澄, 田中 亮一, 田中 歩
    p. 423
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    光合成色素による光エネルギーの捕捉は光合成集光装置によって行われる.光合成集光装置は,中心集光装置と周辺集光装置で構成されている.中心集光装置は,酸素発生型光合成生物では良く保存されており,その構成はどのような環境でも一定である.一方,周辺集光装置は生物種によって多様であり,また環境によってその構成と大きさは変化する.緑色植物においては,中心集光装置はクロロフィルaタンパク質複合体で構成されているのに対して,周辺集光装置は集光性クロロフィルa/bタンパク質複合体(LHC)で構成されている.しかし,周辺集光装置と中心集光装置への異なった色素の選択的分配がどのように決定されているかは不明である.この点を明らかにするため,LHCとの相互作用が示唆されている緑色植物のクロロフィルb合成遺伝子(CAO)のかわりに,LHCと相互作用しないと考えられる原核緑藻ProchlorothrixのCAO(PhCAO)をシロイヌナズナに導入し,色素タンパク質複合体の形成を調べた.その結果,PhCAOを導入した株では,光化学系IおよびIIの中心集光装置にクロロフィルbが取込まれ,クロロフィルa/bタンパク質複合体に転換した。PhCAOを導入した形質転換株は,弱光下では野生型とほぼ同じ形質を示した.これらの結果をもとに,クロロフィルのタンパク質への選択的分配と色素タンパク質の可塑性について議論する.
  • 田中 亮一, 田中 歩
    p. 424
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物においては、クロロフィルaおよびbの合成には17段階の反応が必要である。これらの反応を触媒する酵素のうち、唯一、Divinyl-protochlorophyllide reductaseの遺伝子だけが同定されていない。一方、分解には、現在、少なくとも7段階の反応が明らかになっている。このうち、3つの反応を触媒する酵素が同定されていない。
     われわれは、これらの酵素をコードする遺伝子を同定するために、HPLCによるスクリーニング方法を開発した。まず、EMSで変異をおこしたシロイヌナズナの種子をバーミキュライト上にまき、3週間後に葉を一枚刈り取り、HPLCによって色素組成を調べる。次に、この植物体を4日間暗所で育成し、葉を一枚刈り取り、HPLCによって色素組成を調べ、暗所処理前の色素組成と比較する。
     われわれは、この方法によって、Divinyl-protochlorophyllide reductaseの変異体を含む、数種類のクロロフィル代謝およびカロチノイド代謝の変異体の単離に成功したので報告する。
  • 平島 真澄, 田中 亮一, 佐藤 壮一郎, 田中 歩
    p. 425
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     フェオフォルビドaオキシゲナーゼ(PaO)は、クロロフィル分解系において、フェオフォルビドaに酸素を添加し、テトラピロール環を開環する反応を担う酵素である。この酵素の活性が阻害されると、植物は常緑化すると考えられている。また、PaOはフェレドキシンの還元力を利用したモノオキシゲナーゼであり、葉緑体の包膜に存在することが報告されている。我々はシロイヌナズナのゲノムデータベースを調べ、PaO遺伝子候補を3つ選出し、これらの遺伝子に対するアンチセンスRNA形質転換株を作成した。このうちACD1 Accelerated Cell Death 1)のアンチセンス株(AsACD1株)を暗所で数日間生育させると、野生株ではほとんど蓄積しないフェオフォルビドaの蓄積が見られた。この結果は、ACD1がPaOであることを示唆している。暗所生育下でのこの株のクロロフィルの分解は、野生株とほぼ同程度行われていたことから、PaOの活性阻害は、シロイヌナズナにおいては、常緑化に直接結びつかないと考えられる。また、暗所の後再び連続光下で生育させると、AsACD1株の葉は白く退色し、枯死した。これは蓄積したフェオフォルビドaが光を受けて、活性酸素を発生させたためであると考えられる。
  • 永田 望, 田中 亮一, 田中 歩
    p. 426
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    クロロフィルaはグルタミン酸から様々な反応を経て合成され、それらの反応を触媒する酵素の遺伝子の多くは同定されている。しかし、ジビニルプロトクロロフィリドaをモノビニルプロトクロロフィリドaへ触媒するジビニルプロトクロロフィリド8-レダクターゼ(DVPレダクターゼ)に関しては、酵素的な性質は研究されているが、遺伝子はまだ同定されていない。
    我々は、DVPレダクターゼ遺伝子の同定を目的として、EMS処理したシロイヌナズナから、クロロフィルの代わりにジビニルクロロフィルを蓄積する変異株を単離した。この変異株はDVPレダクターゼの活性を欠損していると考えられる。
    変異株は光合成によって生育することができた。これは、ジビニルクロロフィルを利用している原核緑藻プロクロロコッカスと同様に、高等植物においてもジビニルクロロフィルは光合成色素として機能することを示している。
    変異株は、野生株と比較すると色調が薄い、クロロフィルa/b比が高い、成長速度が遅いという特徴が見られた。さらに、PAMを用いた測定でFv/Fmが低いという特徴も得られた。DVPレダクターゼ遺伝子に関しても報告する予定である。
  • 堀口 清華, 宗景 ゆり, 田坂 昌生, 鹿内 利治
    p. 427
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    PSΙ cyclic電子伝達は、PSΙ からの電子受容体であるフェレドキシンあるいはNADPHから電子をプラストキノンに戻し、シトクロムb6f 複合体を再び通過させる電子伝達で、CO2 free条件下や強光下でのNPQ誘導に大きく貢献している。PSΙ cyclicにはFQR依存とNDH依存の2つの経路が関与している。当研究室において、FQR活性に異常があるシロイヌナズpgr5 変異株と、NDH活性を欠くcrr 変異株群が既に単離されている。我々は、FQR、NDHとともに働くalternative電子伝達経路の変異株を得る目的で、CO2 free, 5%O2条件下で高いクロロフィル蛍光を示すシロイヌナズナ変異株を選抜した。CE46-48はCO2free条件下で野生株に比べてNPQの誘導能、PSΙΙの量子収率が低下する変異株である。また、NPQ誘導能は光合成誘導期(光照射後1分)では低いが、定常状態では回復する。pgr5 及び crr2 との比較により、CE46-48はFQR経路及びNDH経路以外の光合成誘導の初期段階に機能するalternative電子伝達経路に関与している事が示唆された。現在O2 への電子伝達活性に対する影響の有無を調べている。
  • 池田 明子, 山嵜 裕之, 田坂 昌生, 鹿内 利治
    p. 428
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体遺伝子の転写、RNA成熟、安定化及び翻訳の各段階は、核コード因子により制御される。当研究室で単離されたシロイヌナズナ突然変異体pgr3には3つのアレルがあり、pgr3-2アレルはシトクロムb6f複合体のみ、pgr3-3アレルはNDH複合体にのみ表現型を示し、pgr3-1アレルは両方に対して異常を示した。PGR3は27個のPPR(Pentatrico Peptide Repeat)モチーフを持つ葉緑体移行タンパク質をコードしていた。PPRタンパク質の機能は未知であるが、現在までに解析されたPPRタンパク質は全てオルガネラRNAプロセシング、安定化、翻訳などの転写後制御に関与している。このことから、PGR3も転写後制御において何らかの機能をしていることが考えられる。PGR3の機能を明らかにする目的で葉緑体内での局在を調べたところ、チラコイド膜に局在していた。pgr3petL operon RNAの不安定化とおそらくpetLの翻訳の異常、さらには未同定ではあるが11のndh遺伝子のどれかの翻訳に異常があることを示唆する結果が得られている。以上のことからPGR3はチラコイド膜上で異なる標的RNAの安定化、翻訳に関与していることが考えられる。
  • 近藤 久益子, 耿 暁星, 片山 光徳, 池内 昌彦
    p. 429
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアのアンテナ複合体であるフィコビリソームは光条件による様々な調節を受けることが知られているが、その分子機構は殆ど明らかではない。我々はSynechocystis sp. PCC 6803の光応答現象の解析から、cpcG2遺伝子が光受容体を介した光依存的な発現制御を受けていることを最近明らかにした。他のシアノバクテリアの研究ではCpcG蛋白質はフィコビリソームのコアとロッドを連結するリンカーであるといわれているが、2つの遺伝子cpcG1cpcG2をもつSynechocystisではその役割分担は不明である。今回、我々はそれぞれの遺伝子破壊株と二重破壊株からショ糖密度勾配遠心によりフィコビリソームを単離し、野生株との比較を試みた。cpcG2破壊株では野生株と類似したほぼ完全なフィコビリソームが単離されたが、cpcG1破壊株では部分的に会合しているものしか単離されなかった。一方、二重破壊株ではさらに会合が抑えられていた。これらの結果から、CpcG1はロッドとコアをつなぐのに主要な役割を担い、CpcG2は補助的な役割を担っており、CpcG2がアンテナサイズの調節に関与している可能性が示唆される。今後さらなる解析により、フィコビリソームの構造におけるCpcG2の役割と光制御との関連を明らかにしていきたい。
  • 井上 弘, 河村 紀江, 蒲池 浩之, 中山 耕造, 星名 哲
    p. 430
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    ゼンマイの緑色胞子に存在する葉緑体には,サブユニットの分子量が42kDa近辺の可溶性タンパク群,膜に強く結合している24-kDaタンパク,ゆるく結合している22-kDaタンパクなどが,多量に存在している。これらのタンパクは,胞子が吸水し, 発芽が始まると消失することから推察して,乾燥状態において葉緑体を安定化するものと予想している。このうち,22-kDaについては,その全アミノ酸配列が明らかになり,LEA3ホモログらしいことが分かっている。また22-kDaタンパクを特異的に分解するプロテアーゼも休眠胞子から部分精製されている。今回,24-kDaタンパクについても,このタンパクの性質を明らかにする一環として,24-kDaタンパクをコードしているmRNAのcDNAを作成し,その全アミノ酸配列を知ることを計画した。SDS-PAGEゲルからバンドを切り出した後,V8プロテアーゼで処理し,得られた産物のN末端アミノ酸配列を調べた。その結果を利用してPCRを行い,サブクローニングした。現時点の結果として,最も相同性の高いものとして,乾燥耐性植物であるTortula ruralisで発現しているELIP early light-inducible proteinの中の一つが挙がってくる。このように,このタンパクは,一般的にはELIPのホモログと言えるが,機能的には乾燥耐性に関連するものと思われる。
  • 津山 孝人, 河津 哲, 小林 善親
    p. 431
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    Low wave現象-飽和光パルス照射直後の蛍光強度の一時的な低下-を基に光合成電子伝達の制御について調べた。Low waveシグナルの誘導は電子伝達鎖の酸化還元状態に依存していた。葉に照射する光の強度や気相中の炭酸ガス濃度の変化に応答してLow waveシグナルの大きさは変化した。Low waveの大きさを光化学系II量子収率(Φ PSII)などの蛍光パラメータに対してプロットすると至適曲線が得られた。Low waveは光化学系I反応中心P700の酸化還元状態の変化を伴った。これらの結果から、系Iサイクリック電子伝達がLow wave現象を引き起こす原因であることが示唆された。Low waveシグナルを系Iサイクリック電子伝達の指標として解析した所、系Iサイクリックは系IIダウン レギュレーションを誘導する生理機能を担うことが示唆された。系IIダウン レギュレーションは植物が強光阻害を回避する上で必須の機能と考えられているが、系Iサイクリックは強光照射下(例えばPFD 1,100 μmol photon m-2s-1)では機能しないことが示唆された。
  • 森野 和子, 島本 功, 梅村 賢二, 岩田 道顕, 川田 元滋
    p. 432
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    イネ OsRac1 は,活性酸素生成を介して,病害抵抗性反応時における細胞死を誘導する。このOsRac1 遺伝子のプロモーター領域にGFP を融合したコンストラクトをイネに導入した。その結果,葉身において,いもち菌接種やいもち菌由来のエリシターにより GFP 発現誘導が観察された。また,未成熟根における側根の発生部位や分けつ芽など組織・器官特異的発現が観察された。未成熟根横断切片での OsRac1::GFPの発現解析を行ったところ,側根発生予定位置と考えられる母根の中心柱,外皮細胞,皮層細胞の一部の細胞及び側根原基で発現が観察された。また,DAB 染色により,OsRac1::GFPの発現細胞で,H 2 0 2 生成が検出された。NADPH オキシダーゼの阻害剤 DPI 処理を幼植物体に6時間行った結果,母根からの出根前に一部の細胞が死んでいる側根原基や,母根内部でねじれている側根原基が観察された。1アミノ酸置換により,恒常的活性型に改変した OsRac1遺伝子を OsRac1プロモーターに融合し,イネに導入したところ,初期の根は,現品種と比較すると著しく短く,側根の発生が抑制された。また,強い表現型を示す系統では,本来休眠している伸長茎部の分けつ芽が活性化された。以上の結果から,OsRac1は,活性酸素生成を介して発生におけるシグナル伝達系を調節していると考えられた。
  • 長崎 宏, 伊藤 純一, 佐藤 奈美子, 伊藤 百代, 林 克信, 芦苅 基行, 長戸 康郎, 佐藤 豊, 松岡 信
    p. 433
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     高等植物の形作りの主要な場である茎頂分裂組織は胚発生の過程で作られる。我々はイネの茎頂分裂組織の形成・維持機構を明らかにするために、イネ胚発生致死突然変異体shootless2 (shl2)および幼植物体致死突然変異体shoot organization1 (sho1)の解析を行っている。shl2変異体は胚発生の段階で茎頂分裂組織を特異的に欠失する。sho1変異体は茎頂分裂組織を形成するがその形態は扁平で野生型に比べ未分化な細胞が占める領域が小さくなっている。また、この茎頂分裂組織の異常に伴いsho1変異体では葉の発生も異常になると考えられている。これらの変異体から原因遺伝子の単離を行ったところ、いずれもRNA interference (RNAi)への関与が示唆される遺伝子であった。これまでRNAiは外来遺伝子に対する生物の防御機構として解析されてきた。近年、線虫などでmicroRNA (miRNA)と呼ばれる小さなRNA分子がRNAiの機構の一部を介して生成され、発生の制御にも重要な役割を果たしていることが報告されている。今回、我々はSHL2, SHO1遺伝子とmiRNA生成との関連性について検討した結果を報告する。
  • 古谷 将彦, 田坂 昌生
    p. 434
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    双子葉植物の胚は、球状型胚から心臓型胚に発生する過程で2つの子葉原基が胚の頂端領域に発達する。その結果、それまでの放射状の対称性に加え線対称性を獲得する。我々は既に、オーキシンの排出キャリアーをコードするPIN-FORMED1 (PIN1)遺伝子の変異体の胚において、子葉の境界部に発現するCUP-SHAPED COTYLEDON1 (CUC1)と、子葉原基の背軸側で発現するFILAMENTOUS FLOWER (FIL)が胚頂端領域で放射状パターンを示し、本来示す線対称性を完全に欠失することを明らかにした。さらに、pin1 pinoid (pid) 二重変異体において子葉の発達が、異所的に広がったCUCの活性より完全に抑えられる事も示した。本研究は、線対称性の確立に関与する新しい因子を得ることを目的とし、pidのエンハンサー変異子を子葉の発達抑制を指標に単離した。その結果、PIN1以外に新たに3遺伝子座を得た。その中の一つはエネルギー代謝に必須な遺伝子で、変異体に点変異が存在した。今回単離された変異体の分子遺伝学的な解析を踏まえ、オーキシン、線対称性、およびCUCの活性について議論したい。
  • 木村 泰裕, 和田 拓治, 橘 達彦, 槻木 竜二, 岡田 清孝
    p. 435
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの根の表皮細胞は根毛細胞と非根毛細胞のいずれかに分化する。この細胞分化に関わるCAPRICE (CPC)遺伝子は根毛細胞分化を正に制御するR3タイプのMyb遺伝子であり、その転写は非根毛細胞に特異的である。我々はCPCのプロモーターのデリーション解析等により組織特異的な転写に必要な約70 bpのシス領域を同定した。このシス領域を8個タンデムに連結させて最小プロモーターに結合させ、その下流にCPCのコード領域を連結し、cpc突然変異体に導入したところ、表現型を回復することができた。このことから、このシス領域はCPCの発現と機能にとって十分であることが明らかとなった。このシス領域にはMybタンパク質認識配列が二カ所含まれていた。下流側に位置するMyb認識配列に塩基置換を導入すると非根毛細胞特異的なプロモーター活性が検出できなくなった。根の表皮細胞分化に関わるR2R3タイプのMybタンパク質としてWEREWOLF (WER)が知られている。そこでWERタンパク質についてCPCプロモーターに結合するかどうかを酵母のone-hybrid法とゲルシフト法によって調べ、WERタンパク質のMybドメインがCPCプロモーターのシス領域に結合しうることを明らかにした。以上の結果より、CPC遺伝子発現におけるMybタンパク質の関与と細胞分化のシステムについて論ずる。
  • 倉田 哲也, 野口 昌敬, 佐野 亮輔, 岡田 清孝, 和田 拓治
    p. 436
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    根毛形成の正の制御因子であるCPCタンパク質の機能発現には、根の表皮細胞における細胞間移行が重要なステップである。この分子機構の解明は高等植物の発生における細胞間相互作用の理解につながると考えられる。
     これまでにCPCタンパク質の欠失シリーズとGFP融合遺伝子の形質転換植物体を用いた解析で、CPCタンパク質の細胞間移行に必要なモチーフをN末端領域とMyb領域のC末端側に2か所同定した。さらにこのモチーフ中にいくつかのアミノ酸置換変異を導入し移行能の検定を行ったところ、Myb領域のC末端側に存在する2つのアミノ酸 (W76、M78) のアラニンへの置換変異体W76AとM78Aで細胞間移行の低下が観察された。W76A変異体では核移行能も低下していた。
     次に、酵母two-hybridスクリーニングを行いCPCと相互作用し、細胞間移行に関与する因子の検索を行った。相互作用に必要な2つのモチーフを含む最小領域をベイトにシロイヌナズナの根由来のライブラリーをスクリーニングし数種類の候補クローンを得た。このうち#1クローンは細胞間移行能が低下するW76Aアミノ酸置換変異を導入したベイトとの相互作用が低下していたことから細胞間移行に関与することが強く示唆された。#1は機能未知なタンパク質をコードしており、推定配列からD/E/Kの3つのアミノ酸に富んだドメインをC末端側に持っていた。
  • 岩田 美根子, 冨永 るみ, 佐野 亮輔, 倉田 哲也, 関 原明, 篠崎 一雄, 岡田 清孝, 和田 拓治
    p. 437
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     植物の根の根毛、葉のトライコームや気孔は表皮細胞から分化してできる器官である。シロイヌナズナのCPC遺伝子は根毛形成を正に制御するR3タイプのMYB遺伝子である。我々はCPCと相同なCPC-LIKE MYB遺伝子(CPL1,CPL2,CPL3)を単離し、その機能の解析をおこなっている。
     CPL遺伝子をそれぞれ過剰発現させた形質転換体においてはCPC過剰発現体と同様にトライコーム数の減少および根毛数の増加がみられた。これに対し機能欠失型突然変異体ではcpl3にのみ、若干の根毛数の減少がみられた。またin situ hybridizationとプロモーターGUSアッセイの結果、CPL2,CPL3遺伝子は気孔の孔辺細胞でのみ特異的に発現し、CPL1遺伝子はトライコームと根の表皮細胞で発現することがわかった。これらの結果から、3つのCPL遺伝子が根毛形成とトライコーム形成においてはCPC遺伝子と類似の機能を持ち、CPL2,CPL3遺伝子は気孔の分化にも関わっていることが示唆された。
     WER遺伝子は根毛形成の負の制御に働くR2R3タイプのMYB遺伝子である。そこでCPC,WERのR3領域を入れ替えたキメラ遺伝子をwer-1またはcpc-1にそれぞれ導入した。これらキメラ遺伝子がそれぞれの突然変異体の表現型を相補しなかったので、現在R3領域内のどのアミノ酸残基が機能に重要であるかを解析中である。
  • Keiji Nakajima, Takashi Hashimoto
    p. 438
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    Efficient induction of gain-of-function mutations is essential for functional assignment of genes whose loss-of-function mutations do not cause obvious phenotypic defects. In order to identify genes responsible for root morphogenesis, we are establishing a new activation tagging system that utilizes a yeast transcriptional activator GAL4 and its recognition sequence (UAS). In this system, a T-DNA containing five copies of 17-mer UAS is randomly inserted into the genome of GAL4:VP16-expressing Arabidopsis lines established by Jim Haseloff and coworkers. The simple transcriptional activation by GAL4:VP16-UAS interaction is expected to efficiently induce ectopic expression of tagged genes in a pattern defined by the GAL4:VP16 expression. Since the host lines also harbor a GFP reporter placed under the UAS, plants defective in root patterning can be easily screened in the primary transformants based on altered GFP expression. TAIL-PCR analysis of isolated mutants has identified several genes to which no biological functions have been assigned.
  • 今泉(安楽) 温子, 武田 直也, 梅原 洋佐, 村上 泰弘, 吉川 真琴, 佐藤 修正, 浅水 恵理香, 田畑 哲之, Myriam Ch ...
    p. 439
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物において、根粒非着生変異体の一部がアバスキュラー菌根菌非感染の表現型を示すことから、両共生系にシェアされる宿主遺伝子群の存在が明らかになってきた。ミヤコグサ共生変異体Ljsym71では根粒が全く着生せず、根粒菌の産生するNod factor処理によってカルシウムスパイキングが誘導されないうえ、菌根菌の内生菌糸は皮層に侵入することが出来ない。これらの表現型に基づき、我々はこの変異体の原因遺伝子を、菌根菌・マメ科植物・根粒菌の三位一体の共生システムを司る宿主因子「TRINITY (TRI)」と命名した。TRIは第一染色体南端にマップされ、近傍マーカーを基点に作製したBAC/TACコンティグについて、F2集団1833個体の解析からTRI座乗領域を約155kbにまで絞り込んだ。その領域内に予測された4候補遺伝子についての変異体の配列分析から遺伝子を同定した。TRIは約11kbにコードされており、機能既知のドメインを含まない新規遺伝子であった。Ljsym71変異体は、現時点でEMS処理及びカルス培養ストレスによる培養変異による14アレルを単離している。培養変異アレルの多くでは、100b~20kbの欠失が生じていることから、この領域は染色体レベルでのheterozygous deletion変異が生じるホットスポットであると考えられる。
  • 武田 直也, 今泉(安楽) 温子, 呉 国江, 梅原 洋佐, 村上 泰弘, 吉川 真琴, 佐藤 修正, 浅水 恵理香, 田畑 哲之, Myr ...
    p. 440
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物ミヤコグサから単離された根粒菌・菌根菌共生変異体Ljsym71の原因遺伝子TRINITYTRI)をポジショナルクローニングにより同定した。cDNA配列および推定アミノ酸配列から、この遺伝子産物はプラスチド移行シグナルと4つの膜貫通ドメインをもち、カリウムイオン輸送に関与していることが示唆された。Ljsym71は根粒形成初期の段階で反応が抑制され、後の共生応答反応が起こらないことから、細胞内シグナル伝達経路に関わる因子であると考えられた。このチャネル様タンパク質がどのような機能を保持しているのか興味深い。サザンハイブリダイゼーションの結果相同性の高い遺伝子の存在が示され、ディジェネレートPCRおよびESTクローンの解析から、ホモログ遺伝子Sister of TRINITY (SOT) の単離に成功した。この遺伝子産物もTRIと同じくプラスチド移行シグナルをもつことから、TRIとの相互作用、共生への関与などを解析中である。TRI遺伝子ホモログは他のマメ科植物にも存在し、根粒形成および菌根菌感染双方を司る決定的な因子であると考えられる。さらにイネやアラビドプシスなどの非マメ科植物にも存在していることから、マメ科植物だけではなく、植物全般に重要な役割を果たしていることが示唆される。
  • 矢野 幸司, Kate Vickers, Jillian Perry, 佐藤 修正, 浅水 恵理香, 田畑 哲之, 川口 正代司, 室岡 義 ...
    p. 441
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物は根粒菌や菌根菌と共生関係を築いている。これまでの研究によって、このような共生に必要ないくつかの因子が解明されてきている。しかし、その遺伝的メカニズムについては、いまだ未知の部分が多い。そこで、本研究では共生メカニズムの一端を解明するために、EMS処理によって得られたミヤコグサの共生変異体Ljsym82を解析した。Ljsym82に根粒菌を感染させたとき、皮層細胞の分裂は観察されたが、それが成熟根粒にまで発達しなかった。また、感染糸の形成も阻害されており、根毛の途中で止まっているような感染根毛が見受けられた。一方、菌根菌を感染させると、内生菌糸は皮層に侵入することができるが、菌根菌が形成する樹枝状体の早期老化が起こっていた。マッピングによって、遺伝子座が第2連鎖群に存在していることが示唆された。そこで、F2集団をさらに解析して、座乗領域を約20kbpにまで絞り込んだ後、候補遺伝子についてシークエンスを行い、変異箇所を同定した。この遺伝子は推定アミノ酸配列で518アミノ酸残基をコードしており、変異体では107番目のグルタミンがストップコドンに変化したナンセンス変異を起こしていた。また、機能既知のドメインを含まない新規遺伝子だった。
  • 林 誠, Myra Tansengco, 矢野 幸司, 今泉(安楽) 温子, 川崎 信二, 佐藤 修正, 田畑 哲之, 川口 正代司, 室岡 ...
    p. 442
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物の共生的窒素固定において、感染糸は根圏の根粒菌を植物根組織内に取り込む構造として重要な機能を担っている。我々は感染糸形成に関わる因子を分子遺伝学的に同定する目的で、感染糸形成に不全をきたすミヤコグサ共生変異体を単離し、その解析をおこなっている。現在までに、B-129に由来する5相補群についてファインマッピングを終了した。Ljsym74Ljsym80は第1連鎖群、Ljsym82Ljsym84は第2連鎖群、Ljsym79は第5連鎖群に座乗した。この内、Ljsym82Ljsym84については変異を特定した。また、Ljsym74はB-129とMG-20間の転座に伴う0cM共分離領域に座乗したため、さらにB-129とB-303のF2集団を用いたマッピングによって座位を特定している。また表現型解析により、感染糸変異体を2つの異なる側面から分類した。すなわち感染糸形成不全位置による分類では、CP1-type(根毛内での形成開始あるいは伸長の阻害)とCP2-type(表皮細胞-皮層細胞境界での阻害)、感染糸形態による分類ではAstragaloid-typeとDesmodioid-typeである。硝酸態窒素などによる生理的感染糸形成不全においても全ての表現型が観察されることから、これら変異体の原因遺伝子は感染糸形成の調節機構に決定的な役割を果たしていると考えている。
  • 赤間 一仁, 藤本 英志, 宮原 善男, 中村 祐恵
    p. 443
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)はγ-アミノ酪酸(GABA)の合成に関与する。双子葉植物GADのC末端側が普遍的にカルモジュリン結合部位(CaMBD)を持つのに対して、イネ(単子葉植物)はCaMBDを持つアイソフォーム(OsGAD1)とCaM結合を欠くアイソフォーム(OsGAD2)の2種類から構成されることを我々はすでに明らかにしている (Akama et al, 2001)。昨年度の本大会では、大腸菌の発現系を用いて調製した組換えタンパク質OsGAD1がCa2+/CaMに依存してその活性が著しく増大するのに対して、組換えOsGAD2ではこのような活性化がもたらされないことを報告した。
     イネの2種類のGADアイソフォームの活性調節におけるC末端ペプチドの役割を明らかにするために、この領域をコードする部分を欠失させたcDNAを構築し、上記と同様のタンパク質発現系を用いて融合タンパク質の誘導・精製と酵素活性の測定を行ない、野生型融合タンパク質とのものとの比較検討を行なった。この結果、CaMBDを除いたOsGAD1はCa2+/CaMが存在しなくても、高い活性が観察された。一方、OsGAD2はC末端ペプチドの切除によって、Ca2+/CaMの有無に関わらず、野生型と比較して約5倍の活性増大が観察された。以上の結果から、いずれのイネGADアイソフォームともにそのC末端領域は通常自己阻害ドメインとして機能しており、Ca2+/CaMと結合することによって、その阻害効果が解除されると考えられる。
  • 中野 善公, 大川 悟史, 原 正和, 關谷 次郎
    p. 444
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物においてグルタチオンの異化に関与する酵素についてはよく分かっていない。動物、微生物ではγ-グルタミル化合物のγ-グルタミル基転移、加水分解を触媒するγ-グルタミルトランスフェラーゼ (GGT) が代謝の最初のステップである。我々が種々の植物のGGT活性を測定したところ可溶性画分および残渣を高濃度の塩で再抽出した画分にGGT活性が存在した。ダイコンを材料に用いて酵素の局在性を検討し、可溶性画分(可溶性GGT)、細胞壁画分(結合性GGT)に局在していると結論した。ダイコンから精製を行ったところ、可溶性GGTとして2種類、結合性GGTとして2種類のアイソザイムを得た。同一画分から得られたもの同士は性質が互いに類似していたが、可溶性GGTと結合性GGTの間では性質が異なっていた。次にダイコンのcDNAライブラリから2種類のGGT遺伝子をクローニングした。RT-PCRによる発現解析で2つの遺伝子は異なる発現パターンを示し、これら2種類の遺伝子によってコードされるGGTの機能する時期、部位が異なっている可能性が示された。これらの遺伝子を過剰発現するタバコを作成したところどちらの場合も酵素活性は細胞壁画分に検出され、性質はダイコンにおける結合性酵素とよく似ていた。現在、これらのトランスジェニックタバコなどを用いて生理的な機能を解明することを試みている。
  • 中嶋 信美, 大嶋 幸子, John S. Edmonds, 玉置 雅紀, 久保 明弘, 青野 光子, 佐治 光
    p. 445
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    内分泌攪乱化学物質であるビスフェノールA (BPA) を配糖化する酵素 (BGT)の cDNA を単離する目的で、植物のグルコース転移酵素 (GTase)で保存されているアミノ酸配列からプライマーを設計し、タバコ BY-2 細胞の RNA を用いて RT-PCR 法により、既知の GTase をコードしている 4 つの cDNA 断片 (NtGT1a: AB052557, NtGT10a: U32643, NtJIGT: AB000623, NtSAGT: AF190634)を単離した。それぞれの全長鎖 cDNA を単離し大腸菌内で発現させ、粗抽出液の BGT 活性を調べた。その結果、NtGT1a , NtGT10a, NtSAGT を発現させた場合 BGT 活性が検出できたが、NTJIGT を発現させても活性は検出できなかった。次に播種後 4 週間のタバコ実生を葉と根に分け、BGT 活性とこれら遺伝子の mRNA 量を調べた。その結果、葉は根の 3 倍以上の BGT 活性を持っていた。NtGT10aNtSAGT の mRNA の量は葉と根で大きな差はなく、どちらも構成的に強く存在していた。それに対し NtGT1a の mRNA は葉で多く存在しており、根ではほとんど見られなかった。以上の結果、BPA を配糖化する酵素は複数存在することが明らかとなった。現在、BPA の配糖化にどれが最も強く関わっているか検討中である。
  • 南條 洋平, 黒川 俊輔, 近藤 善宏, 伊藤 紀美子, Javier Potueta-Romero, 三ツ井 敏明
    p. 446
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、デンプンの生合成におけるグルコース供与体であるADP-グルコースをAMPとG1Pに分解する酵素活性を発芽イネ種子幼芽組織において見出し、その精製を行った。精製された酵素分子は70 kDaのサブユニットから構成された285 kDa の分子を形成しており、その至適pHは6.0、至適温度は60℃であった。本酵素は、ADP-グルコースだけでなくUDP-グルコース、ATPなどその他のヌクレオチドに対する分解活性をもつことから本酵素をNucleotide Pyrophosphataseとした。プロテインシークエンサー及びnESI-MS/MS 解析により決定したアミノ酸配列をもとに本酵素のcDNAをクローニングした。本酵素遺伝子の大腸菌発現タンパク質に対する抗体を作製し、免疫電子顕微鏡観察を行ったところ、本酵素は緑葉細胞内において葉緑体及び細胞壁に局在していることが分かった。さらに本酵素とGFPの融合タンパク質を用いた一過性発現解析においてもプラスチド局在を示し、本酵素にはプラスチドに輸送されるための輸送シグナルが存在することが示唆された。本酵素がプラスチドに局在するという結果は本酵素がデンプン生合成制御に関わることを強く支持した。
  • 内海 好規, 久保 亜希子, 中村 保典
    p. 447
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     近年、ジャガイモのイソアミラーゼ (ISA) がアミロペクチン合成に必須である事が明らかになり、ジャガイモでは3つのアイソザイムのうち、それ自身では活性のないISA2がISA1と複合体を形成する事が報告された。トウモロコシ、コムギ、オオムギ、シロイヌナズナにおいてもゲノム上に各1コピーが存在する事が分かっている。イネにおけるISAのアイソザイムに関する基礎的知見について報告する。
     RT-PCR法を用いてイネ胚乳および葉身のmRNAからOsISA2, OsISA3のcDNAを単離した。OsISA1に対するOsISA2とOsISA3の推定アミノ酸配列の相同性はそれぞれ34%と44%だった。OsISA2はジャガイモでの報告と同様、イントロンが存在しなかった。OsISA1は胚乳でのmRNA発現量が顕著に高く、OsISA2は胚乳と葉身の両者、OsISA3は葉身で発現量が高かった。イネ、ジャガイモおよびコムギより精製したISAの2次元電気泳動の結果、ジャガイモではOsISA1と2のバンドが確認されたが、イネとコムギではOsISA1の単一バンドのみが観察された。これらの結果から、ジャガイモISAとは異なり、イネとコムギのISAはホモオリゴマーであることが推測された。
  • Daisuke Seo, Kei Kamino, Kazuhito Inoue, Hidehiro Sakurai
    p. 448
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    A diaphorase protein purified from Bacillus subtilis was found to be the yumC gene product from N-terminal amino acid sequencing. YumC is a homo-dimer of 94kDa with one molecule of FAD per subunit. YumC supports diaphorase activity with higher affinity to NADPH than NADH, low NADPH oxidase activity and ferredoxin oxidoreductase activity. YumC shows high amino acid sequence identity to the novel type FNR from green sulfur bacterium Chlorobium tepidum. A BLAST search with YumC as a query sequence revealed that there are more than 30 genes in prokaryotes coding for similar proteins variously annotated as thoredoxin reductase, NAD(P)H oxidase, etc. These genes are present notably in Gram-positive bacteria except for clostridia, and less frequently in Archaea and proteobacteria. We propose that YumC together with C. tepidum FNR constitute a new group of FNR, which should be added to already established plant type, bacteria type, and mitochondria type FNR groups.
  • 山内 靖雄, 豊田 泰之, 田中 浄
    p. 449
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    植物の生体膜を構成する多価不飽和脂肪酸の過酸化に起因するタンパク質の修飾を、過酸化脂質付加体を認識するモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロッティングにより調べた。反応系として、モデルタンパク質(BSAまたはRubisco)、不飽和脂肪酸(植物生体膜の主要な構成成分であるオレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、またはリノレン酸(18:3)のメチルエステル化合物)、および酸素ラジカル発生系(Fe(III)/アスコルビン酸/O2)を用いた。結果、リノレン酸を用い37℃、6時間インキュベートした時に、多量のマロンジアルデヒド(OHCCH2CHO)、アクロレイン(CH2:CHCHO)、クロトンアルデヒド(CH3CH:CHCHO)のタンパク質付加が確認された。さらにキュウリ緑葉からタンパク質を抽出しウエスタンブロッティングを行ったところ、過酸化脂質修飾タンパク質が検出され、それらのタンパク質の内部アミノ酸配列を調べた結果、いずれも葉緑体に局在するタンパク質であることが分かった。以上のことから植物中ではリノレン酸が主要なタンパク質修飾源となっており、リノレン酸が最も多く含まれる葉緑体で過酸化脂質によるタンパク質の化学修飾が多く発生していることを示唆している。
  • 肥塚 崇男, 松井 健二, 赤壁 善彦, 梶原 忠彦
    p. 450
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    オキシリピン代謝経路の一つである脂肪酸α酸素添加酵素は、遊離脂肪酸のα位に一分子の酸素を添加し、α-ヒドロペルオキシ脂肪酸を生成する酵素である。脂肪酸α酸素添加酵素はタバコやシロイヌナズナを始めとした双子葉植物において、病原菌や酸化ストレスによって遺伝子レベルで発現誘導されることが知られているが、その生理的役割はまだ判然としない。一方、演者らは単子葉植物のイネに脂肪酸α酸素添加酵素と相同性の高い遺伝子があることを見い出し、組換えタンパク質として大腸菌発現させ、その酵素学的性質を報告した。今回、生理的役割解明の一環としてイネ脂肪酸α酸素添加酵素の発現様式を調べた所、双子葉植物のそれは主にサリチル酸経路を介して誘導されるのに対し、イネではサリチル酸でほとんど誘導されず、ジャスモン酸によってのみ顕著な活性誘導が認められた。イネ幼葉をイネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)に曝露した時、さらに、重金属イオン、メチルビオローゲンによる酸化ストレスを水耕栽培した播種後9日目のイネに処理した時にも脂肪酸α酸素添加酵素の誘導が見られた。これらの結果、本酵素の活性誘導は双子葉のそれに対し、シグナル伝達経路に違いはあるものの、酸化ストレスや病原菌曝露に対して強く誘導されるという同じ応答を示した。また、この脂肪酸α酸素添加酵素の誘導にはタンパクのリン酸化が正に制御していることが示唆された。
  • 先山 哲史, 上野 裕則, 沼田 治, 桑原 朋彦
    p. 451
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
    近年,病原菌以外にもヘモリシン様タンパク質(HLP)の存在が明らかになりつつある。これらのタンパク質は溶血以外の生理機能をもつと考えられるが,それが何かは明らかでない。Synechocystis sp. PCC6803についても, HLPは本菌の主要なタンパク質であるが,その生理機能は不明である。HLPのDNA配列から予想される分子量は約178,000であり,カルシウムイオンのhalf-binding siteであるβ-roll構造を複数もつことが知られている。我々はこれまでにHLPを精製し,本タンパク質がSDS存在下における熱処理により,SDS-PAGEで90 kDaから>200 kDaに大きく移動度を変えることを報告した。今回,SDS非存在下で熱処理すると,カルシウム添加により移動度が90 kDaに戻ることを発見した。この事実は,本タンパク質の高次構造の変化にはカルシウムの結合が関与していることを示唆する。EGTAではこの移動度の変化は起こらないことから,カルシウムのHLPに対する結合はEGTAに対するより強いか,もしくはEGTAが接近できない部位に存在することが示唆された。また免疫電顕により,HLPはS-layerに局在していることが明らかになった。我々はHLP の構造変化が本菌のmotilityに関与するのではないかと考えて研究を進めている。本発表ではこの仮説について議論する。
  • 小幡 年弘, 白岩 善博
    p. 452
    発行日: 2004/03/27
    公開日: 2005/03/15
    会議録・要旨集 フリー
     我々は海洋単細胞石灰藻である円石藻Emiliania huxleyiの増殖にセレンが必須であることを見出した。セレンはイオウの同族元素であり,ホ乳類等ではシステインのセレン体であるセレノシステインが,セレノプロテインと呼ばれるタンパク質の酵素活性中心に特異的に配置されることが知られている。そこで,本研究では円石藻E. huxleyiの増殖に対して必須性を賦与すると予測されるセレノプロテインの同定を試みた。
     E. huxleyi75Se-ラベルタンパク質をSDS-PAGEにより解析したところ,6種のセレノプロテイン(SEP1~6)を検出した。これらのタンパク質の部分アミノ酸配列を決定し, 最も多くの配列情報が得られたSEP2について,cDNAの塩基配列を決定した。相同性検索の結果,SEP2は多種生物由来のProtein disulfide isomerase(PDI)と相同性を示し,特にPDIの活性中心であるThioredoxin(Trx)ドメイン周辺における相同性が高かった。また,Trxドメインの活性中心であるシステインの位置には,セレノシステインをコードするTGAコドンが存在していた。以上の結果から,円石藻では,セレンがPDIの活性因子としてタンパク質の立体構造形成に関与する可能性が示された。セレン含有PDIはこれまでに報告が無く,セレンの新たな生体機能が示唆された。
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