日本血管外科学会雑誌
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最新号
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総説
  • 安原 清光
    2024 年 33 巻 2 号 p. 73-77
    発行日: 2024/03/06
    公開日: 2024/03/06
    ジャーナル オープンアクセス

    胸部大動脈ステントグラフトは胸部大動脈疾患の治療体系を大きく変貌させた.治療対象は下行大動脈瘤のみならず,急性および慢性B型大動脈解離や大動脈損傷などが適応とされている.加えてその治療領域はさらに広がる方向にある.本邦に企業製胸部大動脈ステントグラフトが発売され15年が経過し,その成績は良好で,手術件数はなおも増加傾向である.ただし国内外のガイドラインにおいて多くの疾患に対するステントグラフト治療は高い推奨クラスではあるものの,いずれの疾患群においても,経時的に治療介入が増加してくる.治療後の形態変化や新たな合併症などもあるため,慎重な経過観察が重要である.

  • 小林 平
    2024 年 33 巻 2 号 p. 91-95
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル オープンアクセス

    下肢閉塞性動脈疾患に対する血行再建術は,その低侵襲性やデバイスの進歩に伴い,血管内治療全盛の時代となった.しかしながら,一般に総大腿動脈閉塞性病変は石灰化病変が多く,バルーン拡張のみでは長期開存が期待できず,また総大腿動脈は屈曲部に位置しており,ステントを留置した場合,ステント破綻の可能性があり,血管内治療の成績は良好とは言いがたい.またステントを留置した場合,穿刺困難となるなど問題点が多い.血管内治療全盛の時代においても総大腿動脈病変に対する内膜摘除術は第一選択の治療法であるといえる.一方で内膜摘除の手技(動脈切開法,パッチ形成術の有無,使用パッチの種類,断端の内膜固定の有無)は施設間で差がある.内膜摘除の手技別の成績については十分な検討が行われておらず,今後の検討課題であり,手技の標準化が望まれる.われわれ血管外科医は現状に満足することなく,より質の高い内膜摘除術を行う必要がある.

  • 松原 健太郎
    2024 年 33 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2024/04/05
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm; AAA)に対する企業性ステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair; EVAR)の適応は著しく拡大してきた.本邦における最近の動向としては,大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインの2020年改訂版が出版され,さらに日本ステントグラフト実施基準管理委員会(Japanese Committee for Stentgraft Management; JACSM)のビッグデータを用いた解析により,本邦におけるEVARの成績も相次いで報告されつつある.本邦でも良好な短期成績が報告される一方で,欧米における長期成績の結果は,EVAR術後の遠隔期における問題点を露呈するものであった.技術やデバイスの進化により,EVARの長期成績は今後改善することが期待され,その適応はさらに拡大すると見込まれるが,個々の患者の解剖学的特徴や手術リスクを勘案し,適切な症例には外科手術を選択する必要がある.

講座
  • 広川 雅之
    2024 年 33 巻 2 号 p. 79-83
    発行日: 2024/03/13
    公開日: 2024/03/13
    ジャーナル オープンアクセス

    下肢静脈瘤は良性疾患であるため,自覚症状,皮膚病変がある場合が治療対象となる.超音波検査と問診,視診,触診の結果を総合的に勘案して治療方法を決定する.下肢静脈瘤の治療には保存的治療と侵襲的治療があり,うっ滞性皮膚炎や潰瘍を有する重症例では基本的に侵襲的治療を選択する.現在,伏在型静脈瘤の侵襲的治療の約90%はラジオ波またはレーザーによる血管内治療となっている.2019年に保険適用となったシアノアクリレート系接着材による血管内治療は,TLA麻酔や術後弾性ストッキング着用が必要なく,高齢者,両側同時症例や複数の伏在静脈の治療に適している.近年,低侵襲治療の普及によって,適応外症例に血管内治療を行う不適切治療が増加し大きな社会問題となっている.無症状例,軽症例に対する不適切治療は決して行ってはならない.

症例
  • 長﨑 和仁, 菊池 恭太, 古賀 敬也
    2024 年 33 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2024/03/13
    公開日: 2024/03/13
    ジャーナル オープンアクセス

    四肢の急性動脈閉塞血行再建術後に生じるコンパートメント症候群の多くは下腿,前腕,そして手に発症し,足部に発症することは稀である.足部コンパートメント症候群が未治療で経過した場合,claw toeなどの屈趾症や慢性疼痛などの神経障害を生じ,保存的に改善しない場合は切断術を含めた外科的治療を要する.今回われわれは,急性下肢動脈閉塞血行再建術後に発症した足部コンパートメント症候群が原因と思われる屈趾症の1症例を経験した.症例は61歳男性で,主訴は屈趾症による歩行時の左第2足趾趾尖部痛で,理学療法による保存的治療にても疼痛管理困難であった.下肢動脈血管造影検査にて足趾血流が保たれていることを確認後,経皮的屈筋腱切離術を施行し趾尖部痛なく歩行可能となった.急性下肢動脈閉塞血行再建術後に足部コンパートメント症候群も稀ではあるが発症するため,その病態の認識と合併症管理が必要であると考えられた.

  • 西村 知起, 鉢呂 康平, 髙島 範之, 近藤 康生, 五十川 賢司, 鈴木 友彰
    2024 年 33 巻 2 号 p. 97-100
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤の圧排によって十二指腸狭窄を来す例としては,国内外合わせて数十例の報告がある.今回われわれが経験した症例は77歳男性で2カ月前からの嘔気・嘔吐を自覚しており食思不振が続いていた.精査目的に前医を受診,造影CTにて最大短径52 mmの腹部大動脈瘤と上腸間膜動脈に挟まれた十二指腸水平脚を認めた.上腸間膜動脈症候群の診断に至り,食思不振の原因と考えられたため手術加療目的に当科紹介となった.本症例は脳梗塞の既往がありADLは低かったが,十二指腸狭窄の解除を確実にする目的で開腹人工血管置換術を施行した.術後経過は良好で,十二指腸狭窄の解除に伴って食思不振の症状も改善し,術後14日に退院した.腹部大動脈瘤を切除することで,十二指腸の圧排が解除され上腸間膜動脈症候群の寛解を得られたため報告する.

  • 梅田 璃子, 佐々木 昭彦, 在原 綾香, 内山 博貴, 橋口 仁喜, 宇塚 武司
    2024 年 33 巻 2 号 p. 107-110
    発行日: 2024/04/18
    公開日: 2024/04/18
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩動脈瘤に対する治療は通常のバイパス術に加え,最近血管内治療の報告が増加してきている.しかし,本症例のような大腿–膝窩動脈バイパス術後の仮性動脈瘤に対し末梢血管用ステントグラフト治療を行った症例は稀である.症例は82歳男性.閉塞性動脈硬化症で左外腸骨動脈–浅大腿動脈閉塞および右総腸骨動脈–外腸骨動脈狭窄を認め,7年前に当科で右浅大腿動脈–左膝窩動脈バイパス術および右総腸骨動脈–外腸骨動脈にステント留置を施行していた.1カ月前から左膝窩痛・腫脹を自覚し,造影CTにて末梢吻合部仮性動脈瘤を認めた.患者は高齢であるためVIABAHN(W. L. Gore, Flagstaff, AZ, USA)の血管内治療を選択した.全身麻酔下に大腿人工血管アプローチで末梢用ステントグラフトVIABAHNをグラフト末梢吻合部に留置した.合併症を認めず,術後5日で退院した.

  • 土井 真之, 楜澤 壮樹, 相澤 啓, 松本 春信, 川人 宏次
    2024 年 33 巻 2 号 p. 111-114
    発行日: 2024/04/26
    公開日: 2024/04/26
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩動脈捕捉症候群による膝窩動脈瘤は6%程度と少なく,比較的まれな疾患であり,診断および治療を適切に行う必要がある.今回われわれは,膝窩動脈捕捉症候群に伴う膝窩動脈仮性瘤の手術症例を経験した.症例は48歳女性.右下腿倦怠感,浮腫を主訴に来院した.造影CT検査で,膝窩動脈捕捉症候群Delaney分類II型を原因とする径31 mmの囊状動脈瘤を認めた.手術は腹臥位後方到達法で,右膝窩部にL字切開を置き,膝窩動脈を露出した.膝窩動脈は,腓腹筋内側頭の前方を通過し,腓腹筋内側頭と大腿骨で圧排されており,同部位で囊状瘤を形成していた.腓腹筋内側頭切除,膝窩動脈瘤切除を行い,自家静脈による膝窩動脈置換術を行った.同側の大伏在静脈は静脈灌流を維持するために採取せず,対側の大伏在静脈をグラフトとして使用した.動脈硬化素因のない,非典型的な膝窩動脈瘤の原因として膝窩動脈捕捉症候群を考慮する必要があると考えられた.

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