急性・亜急性Stanford B型大動脈解離に対する治療ストラテジーはTEVARが登場することにより大きな変化を遂げた.従来のcomplicated case(破裂・malperfusion)に加え,難治性高血圧,持続・再発する疼痛,大きな大動脈径など,保存治療では予後不良とされる症例も侵襲治療の適応に加わった.また,急性・亜急性・慢性早期の治療の方法としてはTEVARが第一選択となり,これができない場合,他の術式(fenestration・人工血管置換)が選択されることとなる.侵襲治療のタイミングはlife-threatening condition(破裂・malperfusion)には緊急で,有症状症例には至急で,それ以外の保存治療継続にて予後不良と考えられる症例には,発症6カ月以内において待機的に侵襲治療を施行するのが適切と考えられる.
B型大動脈解離では,合併症がない場合に内科加療が行われる.急性期の内科治療においては,心拍数を60未満におさえつつ収縮期血圧を120 mmHg以下にすることが重要である.また経過中に臓器虚血や解離腔の拡大がないか注意する必要がある.合併症のないB型解離例においては,内科治療による早期死亡率は比較的低いが,退院時生存例の5年死亡率は12–28%と報告され,残存する解離をどう治療するかが慢性期の課題とされてきた.近年,発症一年以内の胸部ステントグラフト内挿術(Thoracic Endovascular Aortic Stent Graft: TEVAR)により,解離部位の有効なリモデリングが得られ,予後の改善が見込まれることがわかってきた.しかしながらTEVAR施行時には,逆行性A型解離などの致死的な合併症が起こりうるため,現時点では,大動脈関連事象を起こす可能性が高いハイリスク例に対して施行される方向にある.一方,ハイリスク例の定義については,さまざまな研究が行われており,多数の危険因子が報告されている.正確な予後評価を行ったうえで先制TEVARの適応を決定し,予後を改善していくことが今後の課題である.
大腿動脈の仮性動脈瘤は経皮的穿刺手技の後,早期に鼠径部の拍動性腫瘤として発見される場合が多いが,腫瘤の症状なく下肢浮腫のみが初発症候となる例は稀で,術後長期間経過してから発症することも極めて稀である.仮性動脈瘤の治療では手術による修復が避けられないことも多い.その際には大伏在静脈が広く使用されるが,それが使用できない場合には手術に用いる材料について検討が必要となる.88歳男性,18年前に両側大伏在静脈を使用し,左大腿動脈から体外循環の送血を行った大動脈基部置換術を受けた既往があった.左下肢全長の浮腫を訴えて来院した.下肢動静脈超音波検査にて,左総大腿動脈内側壁に6 mm大のentryをもつ50 mm径の仮性動脈瘤を認め,総大腿静脈が圧排され静脈内に血流が観察されなかった.ウシ心囊膜パッチ(XenoSure)を用いた動脈修復術によって治療した.
腸骨静脈圧迫症候群(iliac compression syndrome)は左下肢に多く,右下肢での報告は少ない.今回われわれは,右下肢浮腫,右鼠径部痛,静脈性跛行を主訴とする54歳,男性を経験したので報告する.CT検査では右内・外腸骨動脈による右外腸骨静脈の圧排所見と外腸骨静脈の血栓を認めた.治療は血栓吸引とステント留置を施行した.術後26カ月後にステントは閉塞したが症状の再発はない.