日本温泉気候物理医学会雑誌
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74 巻, 3 号
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Editorial
原著
  • 野上 佳恵, 野上 順子, 鰺坂 隆一
    2011 年 74 巻 3 号 p. 141-154
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/12/07
    ジャーナル フリー
        わが国における急速な高齢化は、循環器疾患のさらなる増加をもたらすと予想されており、高齢者の循環器疾患に対する予防策を講じることは重要な課題である。加齢に伴い心機能は低下するがそれは主に左室拡張機能であり、左室収縮機能は保たれることが報告されている。左室拡張機能の低下は、駆出後半に上昇する後負荷による左室弛緩速度の延長が一因となるとされている。温浴は後負荷軽減をもたらすことから、心疾患者に対する後負荷軽減療法として活用されている。しかし健常高齢者に対する温浴の効果について検討した研究は少ない。そこで本研究は健常高齢者の左室心機能に対する温浴の効果を検討することを目的とした。対象は健常高齢者17名とコントロール群である若年者18名とした。40度の湯温にて15分半身浴を行い、温浴前・温浴中・温浴後の心機能の変化を比較検討した。温浴は左室収縮機能の増強を認めたが、加齢により低下した左室拡張機能に対しては明らかな効果をもたらさない可能性が示された。温浴による収縮機能増強に見合う拡張機能の改善を認めなかったことは、高齢者の左室収縮弛緩連関が低下している可能性を示した。
  • 殿山 希, 大越 教夫, 佐藤 豊実
    2011 年 74 巻 3 号 p. 155-168
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/12/07
    ジャーナル フリー
        がん治療後の人(がん生存者)に対してあん摩療法は心身にどのような効果をもたらすかを検討した。
        対象は子宮がん(I a1~II a)により子宮全摘出後2年以内で現在寛解状態にあり予後良好と医師が判断した女性5人(がん生存者群:53.6±11.6歳)で慢性的に肩こりを感じている人。統制群は慢性的に肩こりを自覚する健康女性5人(健康者群:57.6±2.1歳)である。40分間の全身あん摩施術を週に2回、1ヶ月間(計8回)継続して、両群を比較した。身体的評価として、Visual Analogue Scale (VAS)で肩こりの自覚症状を測定し、1分間の唾液からコルチゾル、分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)、クロモグラニンA(CgA)を定量した。また、心理的評価には状態不安、特性不安、抑うつ尺度による得点を用いた。
        あん摩を行わないベッド上での40分間の安静(コントロール)では、がん生存者群と健康者群の間にs-IgAと状態不安で有意差がみられた。健康者群では休息後にs-IgAの有意な増加と状態不安の有意な低下がみられた。単回のあん摩療法前後での比較では、VAS、s-IgA、CgAでがん生存者群と健康者群間に有意差がみられた。群内比較において両群ともVAS、状態不安、コルチゾルは低下し、s-IgAとCgAは増加した。あん摩治療前と1ヶ月継続後の比較では、VAS、CgA、抑うつに両群間で有意差がみられた。群内比較において両群ともVAS、特性不安、抑うつは低下した。
        これらの結果から、あん摩療法はその直後効果として、がん生存者に対しても健康者同様に肩こりの自覚症状、不安感を軽減させ、精神的ストレスを軽減させ、免疫機能を賦活することが示唆された。健康者では、あん摩を行わないベッド上での40分間の安静で不安感の軽減と免疫機能の賦活が示唆されたが、がん生存群はあん摩施術後に有意な改善がみられた。また、4週間後の不安感と抑うつの低下はあん摩療法による累積効果と考えられるが、サンプル数を増やしての検討が必要である。
  • 近藤 照彦, 武田 淳史, 小林 功, 谷田貝 光克
    2011 年 74 巻 3 号 p. 169-177
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/12/07
    ジャーナル フリー
        森林浴は、リラクセーションならびに心身の健康をもたらすとされる。我々は高齢者を対象として、森林浴が生体に及ぼす生理学的効果について検討した。被験者は、2008年から2010年の3回の森林浴測定に参加した高齢者男性24名(65.5±2.5歳)および女性24名(65.0±3.0歳)である。森林浴測定は、8月第3週水曜日の日程で2時間行った。測定時の天候は晴れ、気温30℃から32℃、湿度58%から60%、風速0m/secから2m/secであった。森林浴および非森林浴の測定は、被験者を3グループに分けた。1つのグループは、防臭マスクによる嗅覚遮断男性8名および女性8名、アイマスクによる視覚遮断男性8名および女性8名、コントロール男性8名および女性8名(非遮断)である。非森林浴は、同一被験者による室内環境において日を変えて同一条件下で測定した。フィトンチッド濃度は、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いた。測定項目は、森林浴ならびに非森林浴前後の気象データ、心拍数、血圧、カテコールアミン3分画、コルチゾールおよびNK細胞活性について調べた。本研究における森林浴測定地点から樹木由来のフィトンチッドが3種類検出された。男性の森林浴および非森林浴における平均心拍数は、89bpmおよび85bpmであった。女性の森林浴および非森林浴における平均心拍数は、86bpmおよび85bmpであった。森林浴前後の男女収縮期血圧は、嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。森林浴前後の男性拡張期血圧は、嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。森林浴前後の男女アドレナリンは、嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。森林浴前後のノルアドリナリンは、男性のコントロール、女性の嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。同様に、男女のコルチゾールは、嗅覚遮断およびコントロールにおいて有意に低下した。森林浴前後の男女NK細胞活性は、有意差を認めなかった。非森林浴前後における血圧、カテコールアミン、コルチゾールおよびNK細胞活性は、男女とも有意差を認めなかった。
        森林浴は、フィトンチッドや緑の森林環境が生体に対してリラックス効果を及ぼすことが指摘されている。今回、高齢男性および女性を対象とした検討から、視覚遮断群で有意差は認めた測定項目はなかった。有意差を認めた測定項目は、嗅覚遮断およびコントロールの両群であった。森林浴の生体に対する効果は、フィトンチッドも含めた生体五感に関わる複合的要素の生理学的効果が短時間に存在する可能性が示唆された。
        香りや視覚の量的、質的データと生理・心理的応答との関連性の調査結果の蓄積が今後の課題である。
  • 美和 千尋, 横山 登, 河原 ゆう子, 出口 晃, 田中 紀行, 島崎 博也, 鈴村 恵理, 川村 陽一
    2011 年 74 巻 3 号 p. 178-185
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/12/07
    ジャーナル フリー
        この研究はうたせ湯が筋収縮後のヒトの肩の筋血流量、筋硬度および体温に及ぼす影響を明らかにすることを目的に行なった。若年男性8人(平均20.4歳)を対象とし、レーザー組織血液酸素モニターにより僧帽筋の中部繊維の血流量を、筋硬度計により筋硬度を測定した。他に、レーザードップラーにより皮膚血流量を、サーミスターにより鼓膜温も測定した。測定は安静10分間と筋負荷後の40℃うたせ湯、肩たたき器によるマッサージ、40℃ホットパックと何もしない自然回復を5分間、その後30分間安静を行なった。安静時の室内は室温27℃、湿度42%RHを維持した。その結果、うたせ湯は有意な筋硬度の減少および皮膚血流量の増加、筋血流量の増加傾向を示した。マッサージでは有意な筋硬度の減少、皮膚血流量の増加が認められた。ホットパックでは有意な筋硬度の減少がみられた。鼓膜温は安静時を除いて有意な変化は認められなかった。これらの結果により、うたせ湯は筋と皮膚の血流量増加を伴って、筋硬度を減少させるものであり、肩こりの緩和に効果のある方法の一つであるといえる。
  • ─STAI-FormJYZおよびPOMSを用いて─
    松永 慶子, 朴 範鎭, 宮崎 良文
    2011 年 74 巻 3 号 p. 186-199
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/12/07
    ジャーナル フリー
    目的
        病院屋上森林が医療従事者に及ぼす主観的リラックス効果、および特性不安による影響を明らかにすることを目的とした。
    方法
        参加者は医療従事者である男性16名(37.1±10.6才)、女性56名(43.5±11.2才・平均±標準偏差)とした。女性を、State Trait Anxiety Inventory-Form JYZ(STAI-Form JYZ)特性不安により中~低不安群32名、および高不安群24名の2群に分けた。実験場所は、医療機関4階屋上に造成した屋上森林122m2とし、同施設に隣接した屋外駐車場170m2を対照とした。参加者は1名ずつ前室、屋上森林および屋外駐車場の3カ所において各5分間座観後、STAI-Form JYZ状態不安およびProfile of Mood States(POMS)を3回計測した。同一被験者の屋上森林および対照における測定値を比較した。順番の影響を除外するために、男女別に年齢をマッチさせたA班B班に分け、屋上森林および対照を巡る順番を逆とした。
    結果と考察
        屋上森林座観後のSTAI-Form JYZ状態不安は、男性34.6±8.1(対照43.4±8.4)点、女性36.3±10.2(45.8±8.8)点となり有意に低下(p<0.01)した。特性不安の中~低不安群は状態不安の「非常に低い」状態へ(対照「低い」)、特性不安の高不安群は状態不安の「低い」状態へ(対照「普通」)、有意に低下(p<0.01)した。屋上森林座観後におけるPOMS T得点は、男性において「疲労」(39.0±7.5:対照41.1±7.0)の低下(p<0.01)、「活気」(43.3±10.4:37.9±8.1)の上昇(p<0.01)が、女性においては「緊張-不安」(39.7±7.7:43.7±8.8)、「抑うつ-落込み」(43.5±6.3:45.4±7.6)および「疲労」(40.7±7.3:43.6±8.5)の低下(p<0.01)、「活気」(46.2±10.8:38.9±8.0)の上昇(p<0.01)が認められた。視覚的に表すと、屋上森林座観後には、高不安群において暗く消極的な心理状態を表す「谷型」が消失し、中~低不安群においては明るく積極的な心理状態を表す「氷山型」が出現した。
    結論
        病院屋上森林は医療従事者に有意な主観的リラックス効果をもたらし、その効果には、特性不安による影響が認められた。
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