日本温泉気候物理医学会雑誌
Online ISSN : 1884-3697
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75 巻, 4 号
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Editorial
原著
  • 石澤 太市, 渡邊 智, 谷野 伸吾, 油田 正樹, 宮本 謙一, 尾島 俊之, 早坂 信哉
    2012 年 75 巻 4 号 p. 227-237
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
    背景:入浴は、身体を清潔に保つための重要な行為であり、生活習慣の一つである。入浴に対する意識は、疲れを取る、リフレッシュ、健康のため、睡眠をよく取るため等であり、健康維持と捉えることができる。しかし、これまで家庭での入浴習慣と健康状態との関係はほとんど研究されていない。
    目的:本研究は家庭における日々の入浴と身体的・心理的健康状態との関係を明らかにすることを目的とした。
    方法:健康成人男女 198 名を対象として調査を行った。入浴習慣の調査項目は、被験者の性別・年齢、浴槽浴頻度、入浴剤使用頻度、浴槽浴時湯温、浴槽浴時間、浴槽浴時水位について調査した。健康状態の調査項目は、気分プロフィール検査である POMS(Profile of Mood States)を用い、主観的健康感および睡眠の質については VAS(Visual Analogue Scale)を用いて評価した。
    結果:浴槽浴頻度の高い群において、「緊張不安」および「抑うつ・落込み」が有意に低く、主観的健康感が有意に高かった。また、入浴剤使用頻度の高い群では、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。全身浴群においては、「疲労感」が有意に低く、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。
    結論:入浴習慣と身体・心理状況との関連が、健康成人男女を対象として行った研究により明らかになった。全身浴による浴槽浴頻度および入浴剤使用頻度が高い入浴習慣は、中壮年の身体的・心理的健康状態を高めたと考えられた。
  • 宮内 孝浩, 池田 義之, 宮田 昌明, 鄭 忠和
    2012 年 75 巻 4 号 p. 238-247
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
     和温療法は、均等に60°Cに温度管理できる遠赤外線乾式サウナを用いる温熱治療であり、通常の高温サウナ浴とは異なる。患者は60°Cの遠赤外線乾式サウナで 15分間温浴することにより、深部体温は 1.0°C∼1.2°C 上昇する。出浴後、毛布に包まりさらに 30分間の安静保温を行い、体温上昇を持続させる。和温療法開始時と終了時に体重を測定し、発汗に見合う水分を飲水し、脱水を予防する。
     我々は、和温療法が慢性心不全患者の心機能と血管内皮機能及び予後を改善することや閉塞性動脈硬化症(ASO)患者の症状や血流を改善することを報告した。その機序として基礎実験により、和温療法が実験動物の血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現を亢進し、一酸化窒素(NO)の産生を増加させ、心不全モデルハムスターの心機能を改善することや ASO モデルマウスの血管新生を促進することも報告した。今回、熱など様々な刺激に対応して、生体防御機能を発揮するストレス応答蛋白である熱ショック蛋白(Heat Shock Protein:Hsp)に注目して、和温療法の効果発現機序を検討した。Hsp はシャペロン(介添え)蛋白であり、ストレスによる細胞の蛋白変性や細胞死から守る作用を有する。
     実験の結果、4週間の和温療法は、心不全モデルハムスターの不全心筋において、p38MAPK のシグナル伝達を介して抗酸化作用のある Hsp27、Hsp32 及び Mn-SOD の発現を亢進させることで酸化ストレス(4-hydroxy-2-nonenal:4HNE)を低下させ、心機能を改善することが示唆された。また、ASO モデルマウスにおいて、和温療法はHsp90の発現を増強させ、その下流にある Akt/eNOS/NO シグナル伝達を介して血管新生効果を発現することが示唆された。なお、この ASO モデルにおいて、和温療法による Hsp70、Hsp60、Hsp32、Hsp27 の発現増強は認められなかった。和温療法による熱刺激は、臓器や病態に応じてそれぞれ特有のHspの発現を増強させ、心血管病の病態改善に到ることが示唆された。
  • 坂口 俊二, 久下 浩史, 竹田 太郎, 小島 賢久, 宮嵜 潤二, 佐々木 和郎, 森 英俊
    2012 年 75 巻 4 号 p. 248-255
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
    目的:冷え症(血管運動神経障害)者を健康関連 QOL の一つである SF-8 の下位尺度 ‘体の痛み(BP)’ 得点で 2 群に分類し、下肢への低周波鍼通電療法(EAT)の効果を比較検討した。
    方法:対象は冷え症を自覚し、体位変換試験(起立試験)により下肢血管反応に異常を呈した女性 20 名(平均年齢 20.6±2.5 歳)とした。EAT は週 1 回、計 5 回、左右三陰交(SP6)に 40 mm·20 号のステンレス鍼を約 15 mm 刺入して周波数 1Hz で 20 分間とした。評価には冷えを含む 14 症状の 6 件法と冷えの程度をVisual Analogue Scale(VAS)で回答する独自の評価票(冷え日記)を用いた。また、健康関連 QOL には SF-8 日本語版(スタンダード版)を用いた。
    結果:対象者は、治療前の SF-8 の BP 得点が国民標準値 42.75 点より得点の低い(QOLが低い)L 群 12 名と得点の高い(QOL が高い)H群8名に分類した。VAS 値には両群間でEATによる有意な改善はみられなかったが、14 症状の合計得点は L 群で治療第2週から治療前に比べて有意に低下し、その効果は治療終了 1 カ月後まで持続していた。SF-8 の下位尺度では、L 群で VT の得点が治療前に比して治療終了 1 ヵ月後に、BP·MH の得点が治療前に比して治療後、治療終了 1 ヵ月後に有意に増加した。
    結語:三陰交への EAT は冷え症者の全身症状および健康関連 QOL の改善に寄与し、その効果は健康関連 QOL が低い(BP が強い)ほど高いことが示唆された。
  • 後藤 康彰, 早坂 信哉, 中村 好一
    2012 年 75 巻 4 号 p. 256-267
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/10/23
    ジャーナル フリー
    【背景と目的】
    日常的な浴槽に浸かる温浴、温泉入浴施設の利用、緑茶の多飲は、日本人に特徴的な生活習慣であるとして着目し、これらの習慣が、日本人の健康に及ぼす効果について検討した。健康指標として、罹患率・死亡率との相関が報告され、疫学的健康評価に広く使われている主観的健康感(SRH)、睡眠の質、主観的ストレスを用いた。
    【方法】
    2011 年に静岡県が県民 5,000人を対象に実施した自記式アンケート調査項目のうち、SRH、睡眠の質、ストレスの程度を従属変数に、浴槽浴頻度(週 7 日/週 6 日以下)、温泉施設の訪問頻度(月 1 回以上/月 1 回未満)、緑茶の 1 日あたり飲料(1 日 1 リットル 以上/ 1 リットル未満)と、栄養バランスへの配慮(有/無)、運動習慣(週 1 回以上/週 1 回未満)、睡眠時間(7時間以上未満)、ストレスの程度(高/低)、喫煙(有/無)を独立変数とした logistic 回帰分析を実施した。
    【結果】
    調査への回答者は 2,779人(55.6%)であった。毎日の浴槽浴、月 1回以上の温泉施設訪問、緑茶多飲とそれらの組み合わせは、栄養バランスへの配慮、運動習慣、7 時間以上の睡眠、低ストレス同様、良好な SRH と関連した。毎日の浴槽浴は睡眠の質が良い状態(単変量解析でのみ有意)、低ストレス状態とも関連を示した。
    【考察】
    毎日の浴槽温浴、温泉入浴施設利用、緑茶多飲は、主観的健康感がよい状態と関連するとの知見が得られた。これらの生活習慣を取り入れることが、栄養バランスへの配慮、運動習慣、適切な睡眠、低ストレス同様、健康に寄与することが示唆された。
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