水利科学
Online ISSN : 2432-4671
Print ISSN : 0039-4858
ISSN-L : 0039-4858
66 巻, 6 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
一般論文
  • ──木曽三川水源造成公社間伐促進プロジェクト「水源の森づくりプロジェクト」からの考察──
    石井 洋二
    2023 年66 巻6 号 p. 1-20
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    森林整備不足により,水源涵養機能の低下の懸念が生じる中,外部資金を山間地域に流入させ,その資金を水源林の森林整備費の一部として活用していく可能性を内包し,日本政府により公式に運営されている排出量取引制度「J-クレジット制度」に着目した。また,同制度を活用した水源林の森林整備を推進するため,同制度の普及拡大に係る考察を行い,水源林には,同制度の主目的である二酸化炭素吸収のほか,水源涵養という大きな公益的付加価値が内包されていることについて認識する必要性が示唆された。
  • 末次 忠司
    2023 年66 巻6 号 p. 21-42
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    河道計画の策定,防災・減災対策の実施にあたって,河川の特徴や特性を知っておくことは重要である。本報では河川地形,河道特性,水文特性,河川環境・利用,土砂特性,河川管理施設,社会経済特性などの視点から,各河川流域(109の1 級水系など)が有している特徴・特性(52項目)をまとめて,考察した。各河川(流域)の特徴・特性を知っておくと,各河川(流域)における計画策定や災害対応に活用できることはもとより,類似した河川で発生している災害や洪水などの現象を,対象河川同士で比較河川的に活用することもできる。一例として,令和2(2020)年7 月豪雨に伴う洪水により球磨川で狭窄部およびその上流の人吉盆地などで水害が発生したが,富士川にも同様な河川地形(狭窄部と盆地など)があり,他河川の事例を参考にして,今後の防災・減災の教訓とすることができる。
  • ─人と自然が共生する川づくりの作法とは─
    和田 彰, 岩瀬  晴夫
    2023 年66 巻6 号 p. 43-63
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    地域が望む河川本来の姿に保全・再生し,それを将来に継承していくためには,行政主導によるトップダウンの取組,そして地域の市民によるボトムアップの両取組が必要である。「自己調達できる資金規模」,「多様な主体による参画と協働が可能」,「修復と撤去が容易」の3 条件を満たす活動として定義される「小さな自然再生」は,ボトムアップによる川づくりの取組として全国に拡がってきた。手づくり魚道,産卵場や水際の造成,瀬淵や蛇行づくり等の小さな自然再生の実践では,変動する川の営みに適応した軌道修正できる手づくりの技術が適用される。川の営力と人力の協働修復作業ともいえる小さな自然再生による見試しは,川の営みを探り,それに適応する技術を高める行為そのものであり,人と自然が共生する川づくりの作法を学ぶ機会となる。
  • ──維持流量から環境流量への展開を考える
    大浜 秀規
    2023 年66 巻6 号 p. 64-82
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    維持流量の課題を整理し,環境流量への展開について検討した。維持流量の設定手法は3 通りある。発電ガイドラインに基づく維持流量は,早急な環境改善に貢献したが暫定的なものである。ダムの弾力的管理に基づく維持流量は,運用で流量を捻出するため,基本的な設定手法とはならない。正常流量に基づく維持流量は算定項目が10あり,1 級河川の95%は動植物が決め手項目となっている。この,動植物の殆どは魚類の産卵又は移動に必要な流速,水深から算出されるが,魚の生活史は産卵と移動だけで完結するものではない。この場合の正常流量は,渇水時に移動又は産卵に必要な最低流量を基に算出されていることから,日本語として適切ではない。評価手法の改良や開発,河川生態系の知見集積も進み,保全のため環境流量が新たに提唱されるなど,再検討を行うべき機は熟しつつある。現行の算出方法は合理的とは言い難いことから,環境 流量の検討を始めるため委員会を設置することが望まれる。
連載論文
  • 山口  晴幸, 岡山  伸吾
    2023 年66 巻6 号 p. 83-151
    発行日: 2023/02/01
    公開日: 2025/07/10
    ジャーナル フリー
    近年,魚類や貝類などの海洋生物の体内からマイクロプラスチックと呼ばれる大きさ5 mm 以下の微小プラスチックの検出報告が増えつつある。微小な大きさ故に,一旦,自然界に流出したマイクロプラスチックの回収・除去は絶望的であると同時に,有害化学物質を含有・吸着していることで,海洋生物の摂食による海洋生態系への汚染リスクが拡大し,最終的には,食物連鎖を介してブーメランのように我々に戻ってくる危険性を孕んでいる(筆者はこれをブーメラン汚染と称す)。そのためマイクロプラスチックなどの微小プラスチックは海洋生態系にとって深刻なダメージをもたらす脅威となることから,世界的に甚大な海洋・沿岸水域の汚染因子として警告が発せられている。 本稿では,まず,マイクロプラスチックの供給源である海洋廃プラスチックの海岸・沿岸水域での漂着実態やその特徴などについてグローバル・広域的に解説し,世界的に問われているプラスチック廃棄物の軽減・削減対策等の現状・動向や廃プラスチックによる海洋・沿岸水域への汚染対策に関する取り組み・課題などについて論究している。 特に,20年以上に亘る長年の沖縄島嶼での調査・研究成果を踏まえ,下記の事項等について詳述している。 ①表示されている文字等から中国,韓国,台湾など近隣アジア諸国からとみられる越境ゴミを含む海洋ゴミの大量漂着が海岸・沿岸水域の甚大な自然破壊をもたらしている実態を明らかにし,深刻度を増す外来廃プラスチック等の越境ゴミに対する海岸・沿岸水域への国策的対応強化の重要性について。 ②廃プラスチックに加え,医療ゴミや管球類(電球・蛍光灯管・水銀ランプ)ゴミをはじめ,廃油ボール,有毒液体の残存する廃ポリタンク,ドラム缶や電化品(冷蔵庫・テレビなど)などの危険で有害な海洋ゴミが大量に漂着を繰り返している実態を明らかにし,海岸・沿岸水域の自然環境に及ぼす有害リスクの甚大性について。 ③沖縄島嶼の中でも最も野趣豊かな島嶼とされる西表島(2021年7 月26日世界自然遺産登録)のマングローブ湿地水域を埋め尽くす海洋ゴミの深刻な汚染実態と,棲息・繁茂する海浜動植物生態系に与えるダメージリスクについて。 ④蓄積・山積する海洋ゴミによる防潮・防風林等の海岸樹木の折損・立ち枯れと,大型流木の大量漂着による海岸・沿岸植生域の衰退・荒廃リスクについて。 ⑤太平洋岸から流出漂流した我が国の海洋漂着ゴミによる太平洋上の他国の島嶼海岸への影響リスクの実態把握と軽減・抑制対策の検討について。 上述したように,近年では,廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の深刻化に伴い,劣化・破砕したマイクロプラスチックなどの微小プラスチックの海洋生物による摂食が鮮明化しつつある。食物連鎖を介した海洋生態系への影響リスクが危惧されていることから,海岸・沿岸水域に漂着した国籍(生産国)・タイプ(種類等)の異なる,様々な漁具類・容器類などの海洋廃プラスチックを対象に主要化学成分についての種々の成分分析を試みることで,重金属類等の有害元素の含有・溶出性に関して定量的に明らかにするとともに,摂食による微小プラスチックの有害リスクについて科学的に検証している。 さらに,筆者はこれまで長年,深刻化する廃プラスチックによる海洋・沿岸水域汚染の地球規模的な実情に危機感を抱き,マイクロプラスチックを含む微小プラスチックの砂浜海岸での漂着・混在状況を定量的に把握評価するための全国的な実態調査にも取り組んできた。 ここでは,2016年10月から2018年6 月にかけて,相模湾,東京湾,南外房沿岸の54か所の砂浜海岸(神奈川県37か所,東京都2 か所,千葉県15か所)で調査を実施し,関東沿岸水域の砂浜海岸に漂着・混在している大きさ5 mm 以下の微小プラスチック「海岸マイクロプラスチック」の現存量の実態や,それを構成している主要な素材の特徴・状況などについて詳細に解説している。 また,海岸マイクロプラスチックの緻密な実態分析や,関東沿岸水域とは異なり,近隣アジア諸国からのものを含む廃プラスチックの大量漂着が長年繰り返されている沖縄島嶼での調査データとの比較検証を通して,マイクロプラスチックの主要な素材はレジンペレット樹脂粒子,プラスチック微細片,発泡スチロール微細片の3 素材で構成されていることを明らかにしている。だが,それらの素材の構成割合には海岸・沿岸水域間で偏重・特異性が認められることから,検出マイクロプラスチックの詳細な素材分析は,マイクロプラスチックの素である廃プラスチックの発生・排出源の解明や軽減・防止対策に有益な示唆を与えることを指摘している。 なお,洋上漂流や海底沈積したマイクロプラスチックはいうまでもないことであるが,海岸・沿岸水域に漂着・混在したマイクロプラスチックを含めた微小プラスチックの回収・除去すら,殆ど絶望的で不可能に近い作業となる。廃プラスチックを含めた海洋漂着ゴミの水際対策としては,何よりも海岸放置・停滞を許さない迅速,且つ持続的な清掃活動に基づいた海岸・沿岸水域の管理保全システムを,島嶼・過疎地を問わず全国津々浦々に如何に構築するかということが,マイクロプラスチックを含めた海洋漂着ゴミの軽減・抑制対策にとって最も重要で効果的な施策であることを,長年の調査成果から得られた最大の教訓として強調している。 そのためにも沖縄島嶼をはじめ日本海沿岸・離島などのように,大量漂着を繰り返す海洋ゴミが島嶼・沿岸水域の行政組織・住民など(NGO,NPO,学校,個人など)による清掃活動の限界を遥かに超え,放置・停滞を余儀なくされ,深刻な海岸・沿岸水系破壊がもたらされている地域においては,“特定監視海岸域の設定”や“海洋漂着ゴミ対策を主眼とした専属組織の立ち上げ”など,国策として積極的に対応・支援するための強化策の必要性について提言している。
feedback
Top