<B>1. はじめに</B><BR>
市町村の「平成の大合併」の影響を受けて森林組合の合併が進んだが,森林組合の合併には地域的な差異が認められることから,複合的な要因がその合併の動向に影響を与えると考えられるものの,そのことが十分に解明されているとは言い難い.そこで本発表の目的は,森林組合の合併の動向とその背景を,とくに林業経営の分析を通して明らかにすることである.<BR>
石井(1995)は資源基盤,組織体制,事業内容の三点をとりあげ,森林組合を類型化した.次に,森林組合の類型別特徴を,資源基盤,組織体制,事業量,損益,財務,地域の就業者構成を用いて表した.小川(2012)は森林組合の合併を,未合併型,市町村広域型,森林組合広域型,合併一致型の四つに類型化した.<BR>
先行研究を受けて,本発表では和歌山県(以下,「県」)の過疎地域にあって,面積がほぼ同じで隣接する地域にありながら合併に対する動向が対照的な二つの地域(日高川町と有田川町)を抽出し,森林組合と森林組合の合併とを類型化し,合併の動向とその要因を考察する.具体的には,和歌山県森林組合連合会(以下,「県森連」),日高川町の紀中森林組合,有田川町の金屋町森林組合,清水森林組合に聞き取り調査・アンケート調査を実施し,分析を行った.<BR><BR>
<B>2. 和歌山県における森林組合合併の動向</B><BR>
県内における森林組合の合併の動向を見ると,全国と比較した場合,市町村数に比べて森林組合数が多い.2014年度現在,全国の市町村数は1,718市町村,森林組合数は631組合である.一方,県内の市町村数は30,森林組合数は23であった.2016年度においても市町村数は30,森林組合数は20である.<BR>
県森連は森林組合の上部組織であるが,聞き取り調査の結果からは,以前は県森連が合併を強力に推進したが,現在では県森連自ら合併を推進している事実はなかった.県森連は森林組合の合併計画を県に提示し,県が合併計画を推進している.<BR>
一方,県は森林組合に対する許認可権を保持しているが,森林組合・森林組合員の意向を尊重する立場をとっているといえる.<BR><BR>
<B>3. 和歌山県日高川町における森林組合の場合―合併合意―</B><BR>
平成の大合併により,旧美山村,旧中津村,旧川辺町が合併して2005年5月に日高川町が誕生した.旧美山村には旧美山村森林組合,旧中津村には旧中津村森林組合,旧川辺町には旧川辺町森林組合があり,日高川町が隣接する印南町には旧印南森林組合があった.2016年11月,日高川町の三つの森林組合と印南町の一つの森林組合が広域合併して紀中森林組合が誕生した.<BR>
旧美山村森林組合は合併した四つの旧森林組合の中では,組合員所有山林面積がもっとも広いこと,財務状況が安定していること,現場作業員の技術レベルが高く,施業には高性能林業機械を保有し,架線による木材搬出も行っていること,森林地理情報システムを活用している等,紀中森林組合の中核に位置づけられている.高度な森林施業技術を持つ旧美山村森林組合では,森林組合の合併により施業面積が増えることは素材生産量の増大につながるため,合併が利益をもたらすと判断された.<BR><BR>
<B>4. 和歌山県有田川町における森林組合の場合―合併拒否―</B><BR>
平成の大合併により,旧吉備町,旧金屋町,旧清水町が合併して,2006年1月に有田川町が誕生した.旧吉備町には森林組合は存在しないが(1999年度に解散),旧金屋町には金屋町森林組合があり,小規模ながらも安定した経営を行っている.高性能林業機械は所有せず,施業のほとんどを請負に出すことで利益を得ている.金屋町森林組合は他の森林組合と比較した場合,小規模ながらも安定経営を続けていることで,県下で優良林業事業体として位置づけられている.旧清水町にある清水森林組合は施業面積が広く,高性能林業機械を所有しているが,一時期財務状況が不安定になった.金屋町森林組合は現在の小規模・安定経営を維持するためには,清水森林組合との合併には否定的であり,合併には至っていない.<BR><BR>
<B>5. おわりに</B><BR>
森林組合の合併に対する動向について,聞き取り・アンケート調査の結果から類型化を試みた.その結果,行政区域内のすべての森林組合が合併に同意し,かつ市町村の行政区域を超えた森林組合が加わった合併場合は,「完全広域合併型」といえる.一方,合併を拒否している場合を合併拒否型とした.類型化することで,合併には内的要因(森林組合内部の要因)・外的要因(森林組合外部の要因)が関係していることが明らかになった.
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