理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター発表
  • 奥野 友和, 岡村 憲一, 木村 昌靖, 冨士 佳弘, 奥田 真規, 大谷 直寛, 渡邉 学
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】大腿骨顆部・顆上骨折は重篤な膝関節屈曲制限を呈するとの報告が多く,その屈曲制限の予防には早期からの関節可動域運動が推奨されている.しかし当院では固定術翌日から関節可動域運動に取り組んでいるにもかかわらず,ADLを阻害する膝屈曲制限が残存する症例を多く認めた.今回我々は理学療法士が手術中に膝関節角度と抵抗部位及び運動終末感(end feel:以下EF)を確認した上で関節可動域運動を進める機会を得た.そこで上記3項目において術中からの経時的変化の特性を見出したので報告する.【方法】平成23年2月から平成24年10月までに当院に搬送された大腿骨顆部・顆上骨折4例4膝を対象とした(男性2名,女性2名,平均年齢46±23歳).各症例のAOの系統的骨折分類は症例A:33-C3,症例B:33-C2,症例C:33-B1,症例D:33-C2で術式は全例とも観血的整復内固定術であった.測定項目は膝屈曲角度,抵抗部位,EFとした.測定肢位は急性期では主治医の安静度指示に準じたが,可能な範囲で端坐位にて測定した.抵抗部位とEFについては信頼性を高めるため,それらを確認し合う回診を1年間実施した理学療法士7名で測定した.測定は術中閉創後,及び術後1日目から術後1週間までの毎日と,その後退院まで毎週1回実施した.なお手術中に関しては2名で測定した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は理学療法行為の一環として対象者に十分説明し同意を得た上で,ヘルシンキ宣言に基づく配慮を行い実施した.【結果】症例ごとに膝屈曲角度を術中(以下0D),術後1日目(以下1D),術後3日目(以下3D),術後1週目(以下1W)から各週ごとに記載する.なお記載は全例で角度変化を認めなくなった13週目までとする.症例A:0D60°1D30°3D55°1W60°60°55°55°65°70°90°90°95°95°100°110°110°.症例B:0D70°1D30°3D50°1W70°70°70°70°70°75°80°85°90°95°95°100°105°.症例C:0D70°1D30°3D55°1W75°85°85°85°90°90°95°95°100°100°105°105°100°.症例D:0D75°1D30°3D65°1W60°65°65°70°70°75°75°75°75°75°80°85°90°.術中抵抗部位は症例A:膝蓋骨中央,症例B及び症例C:膝蓋骨底外側,症例D:膝蓋骨外側縁であった.術後1日目からの抵抗部位とEFの変化は全症例で同様の傾向を示した.術後1日目は腫脹が強く膝周辺全体に張った抵抗を感じた.腫脹は徐々に軽減するが,術後3~5日目には大腿部の様々な部位で疼痛,防御性収縮による抵抗が増強してきた.防御性収縮が軽減してくると角度は術中角度付近で停滞し,抵抗部位も術中と類似した部位で変化を認めなくなった.その後 90°付近で再度角度変化が停滞すると大腿骨外側顆の前方隆起部上で抵抗部位の変化も止まり,それは最終まで大きく変化しなかった.また最終のEFは健常人よりも硬く,筋の伸長感は得られなかった.【考察】小形によると関節拘縮は固定開始直後から始まるとされている.対象は受傷から手術までの期間(平均7.3日)は膝伸展位での安静を強いられており,術中角度に関しては全例75°以下であったことから,術中にはすでに膝屈曲制限が存在している可能性が示された.また膝屈曲角度,抵抗部位,EFの経過は術中角度に到達するまでの時期(以下1期),術中角度付近で角度が停滞する時期(以下2期),屈曲90°付近で角度が停滞する以降の時期(以下3期)に分けられると考えた.1期は全例で腫脹,疼痛,防御性収縮が著明で,それらの軽減とともに膝屈曲角度は改善することから,受傷と手術操作による炎症が制限因子と考えられた.2期は症例Cを除く3例で術中角度付近で角度が停滞した.2期での抵抗部位は術中と類似していたことから,術中までに形成された制限因子が2期までの期間で強固となり角度が停滞したと考えられた.3期は全例で90°付近で角度が停滞または停止した.また角度が90°以上に改善した3例についても抵抗部位は90°時と大きく変化しなかった.小形は関節拘縮は2週目以降で関節包など関節構成体の影響が優位となると報告している.結果より屈曲90°に到達するまでの期間は最短症例でも5週間経過していた.また最終のEFで筋の伸長感が得られなかったことから,4例の最終制限因子は膝関節構成体の瘢痕化であると推察された.90°以上の角度改善に難渋するのは大腿骨顆部横径が90°で最大となり側面の組織に大きな伸長性が必要となるなど解剖学的要因も影響していると考えられた.【理学療法学研究としての意義】大腿骨顆部・顆上骨折では術中までの期間にすでに膝屈曲制限が形成されている可能性がある.また術中角度と屈曲90°付近で角度変化が停滞する可能性があり,膝屈曲制限を予防するには,術中までに形成される制限因子への対策の検討と解剖学的に難渋する屈曲90°を早期に超える必要性が示された.
  • 櫻井 好美, 石井 慎一郎, 前田 眞治
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-08
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 女性は同競技の男性選手よりも前十字靭帯(ACL)損傷の発生率が高く月経期の発生が多いことが報告され,これは月経随伴症状の影響であるとされている.一方,組織学的研究では女性ホルモンがACLのコラーゲン構造と代謝に影響を与えることが解明され損傷リスクが高いのは黄体期であると示唆されており,疫学的研究と異なるものである.また,競技関連動作中の膝関節運動について男女差を検討した報告は散見されるが,月経周期と膝関節の動的アライメント変化の関係については明らかになっていない.そこで本研究はPoint Cluster法(PC法)を用いた三次元運動計測により着地動作中の膝関節運動を解析し,月経周期との関連を調べることを目的に行った.【方法】 被験者は下肢に整形外科的既往がなく,関節弛緩性テストが陰性の健常女性30名(19~24歳)と健常男性10名(20歳~23歳)とした.女性には12週間毎日の基礎体温と月経の記録を求めた.三次元動作計測は7日ごとに12回行い課題は最大努力下での両脚垂直ジャンプとし両脚同時に着地した.被験者の体表面上のPC法で決められた位置に赤外線反射標点を貼付し,三次元動作解析装置VICON 612(VICON PEAK社製)を用いてサンプリング周波数120Hzで計測した.また床反力計(AMTI JAPAN社製)を用いて足尖が接地するタイミングを確認した.各標点の座標データをPC法演算プログラムで演算処理を行い,膝関節屈曲角度,内・外反角度,脛骨回旋角度,大腿骨に対する脛骨前後移動量を算出した.三次元動作計測と同日に大腿直筋,大腿二頭筋,半膜様筋の筋硬度を測定した.先行研究の手法に則り体温と月経の記録から低温期と高温期に分け,さらにそれぞれを1/2ずつにして月経期,排卵期,黄体前期,黄体後期の4期間に分けた.各期間のデータの比較には反復測定による分散分析を,男女の比較にはT検定を用い,それぞれ危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設の研究倫理審査委員会の承認を得ている.被験者には事前に書面と口頭で説明を行い研究参加の同意署名を得て実施した.【結果】  着地直後,全被験者において膝関節屈曲・外反・大腿骨に対する脛骨の内旋が起こった.よって,最大内旋角度,最大外反角度,脛骨最大前方変位量について比較した.内旋角度は黄体前期が他の期と比べて有意に大きく,黄体前期をピークとして月経期まで増加傾向であった.また男性の最大内旋角度より有意に大きくなった.男性は12週間で変化はみられなかった.外反角度については4期間で変化はなかったがすべての期で男性よりも大きな値となった.脛骨前方変位量は黄体前期が他の時期と比較して有意に大きくなった.筋硬度については女性の大腿直筋・大腿二頭筋は黄体前期と後期が月経期・排卵期と比較して有意に高い値を示した.半膜様筋は,統計的有意差は認められなかった.男性は12週間で変動はみられなかった.【考察】 黄体前期には脛骨の内旋角度と最大前方変位量が増大した.先行研究にてヒトACLではエストロゲン濃度の上昇に伴い線維増殖や主要な構成要素であるTypeIコラーゲンの代謝が減少し弛緩性が増加すること,濃度上昇から弛緩性が変動するまでに3日程度のTime-delay(TD)があることが報告されている.エストロゲン濃度は排卵期にもっとも高くなる.本研究でみられた黄体前期の内旋角度や脛骨移動量の変化は,このTDにあてはまるものと考えられる.また血中エストロゲン濃度は黄体後期にも再び上昇するためTDは月経期まで持続し,粗になったACLの構造が回復するまで損傷リスクが高い状態であるといえる.ACLは膝関節の前方剪断と脛骨内旋を制動する第一義的な組織であり,弛緩したことで前方変位量と内旋角度が増加したものと考えた.さらに,黄体前期と後期には大腿直筋と大腿二頭筋の筋硬度が増加した.筋硬度はγ運動ニューロンと交感神経によって制御されている.交感神経は黄体前期に活発になるとされており,筋硬度の増加は交感神経の働きによるものと推察した.そしてこの筋硬度の上昇はACLの構造が粗になる黄体期に,筋によって膝関節の剛性を増し対応するためであると考えられた.以上のことから月経期は黄体期と比較して脛骨の内旋・前方変位が減少するものの筋硬度の低下によって膝関節の動的安定性が得られにくい時期であることが示唆され,ここに月経随伴症状が加わることでACL損傷リスクが高まると結論付けた【理学療法学研究としての意義】  本研究結果は女性のACL損傷予防ための有益な知見になるものと考える.
  • 忘れられていた筋、膝関節筋の作用について
    齊藤 明, 岡田 恭司, 高橋 裕介, 斎藤 功, 木下 和勇, 木元 稔, 若狭 正彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-08
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 膝関節筋は中間広筋の深層に位置し、大腿骨遠位前面を起始、膝蓋上包を停止とする筋である。その作用は膝関節伸展時の膝蓋上包の牽引・挙上とされ、機能不全が生じると膝蓋上包が膝蓋骨と大腿骨の間に挟み込まれるため拘縮の原因になると考えられている。しかしこれらは起始、停止からの推論であり、膝関節筋の機能を直接的に示した報告はない。本研究の目的は膝関節筋が膝蓋上包の動態に及ぼす影響およびその角度特性を超音波診断装置を用いて明らかにすることである。【方法】 健常大学生16名(男女各8名:平均年齢22歳)32肢を対象とした。測定肢位は筋力測定機器Musculator GT30(OG技研社製)を使用し椅子座位にて体幹、骨盤、下腿遠位部をベルトで固定した。動作課題は膝関節伸展位、屈曲30°位、屈曲60°位での等尺性膝伸展運動とし、実施順は無作為とした。いずれも最大筋力で3回行い、このときの膝関節筋の筋厚および膝蓋上包の前後径、上方移動量を超音波診断装置Hi vision Avius(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定には14MHzのリニアプローブを使用しBモードで行った。膝関節筋および膝蓋上包の描写は上前腸骨棘と膝蓋骨上縁中央を結ぶ線上で、膝蓋骨上縁より3cm上方を長軸走査にて行った。膝関節筋筋厚は筋膜間の最大距離、膝蓋上包前後径は膝関節筋付着部における腔内間距離を計測し、等尺性膝伸展運動時の値から安静時の値を減じた変化量を求めた。膝蓋上包上方移動量は安静時の画像上で膝関節筋停止部をマークし、等尺性収縮時の画像上でその点の移動距離を計測した。各膝関節角度間での膝関節筋筋厚、膝蓋上包の前後径、上方移動量の差を検定するため、一元配置分散分析およびTukey多重比較検定を行った。また各膝関節角度において膝蓋上包前後径および上方移動量を従属変数、膝関節筋筋厚、年齢、体重を独立変数とした重回帰分析(stepwise法)を行った。統計解析にはSPSS19.0を使用し、有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に研究目的および測定方法を十分に説明し書面で同意を得た。【結果】 膝関節筋筋厚は伸展位3.21±0.72mm、屈曲30°位2.74±0.71mm、屈曲60°位2.03±0.49mmで伸展位が屈曲30°位、60°位に比べ有意に厚く(それぞれp=0.014、p<0.001)、屈曲30°位が屈曲60°位より有意に厚かった(p<0.001)。膝蓋上包前後径は伸展位2.62±0.94mm、屈曲30°位2.15±0.98mm、屈曲60°位0.44±0.30mmで伸展位および屈曲30°位が屈曲60°位より有意に大きかった(いずれもp<0.001)。膝蓋上包上方移動量は伸展位13.33±4.88mm、屈曲30°位10.44±2.65mm、屈曲60°位5.63±2.02mmで伸展位が屈曲30°位、60°位に比べ有意に大きく(それぞれp=0.041、p<0.001)、屈曲30°位が屈曲60°位より有意に大きかった(p<0.001)。重回帰分析の結果、膝蓋上包前後径のモデルでは調整済みR²値は、伸展位で0.659、屈曲30°位で0.368であった(p<0.001)。膝関節筋筋厚の標準偏回帰係数は伸展位で0.752(p<0.001)、屈曲30°位で0.623(p<0.001)であり、いずれも正の連関が認められた。屈曲60°位では有意な連関は得られなかった。膝蓋上包上方移動量のモデルでは調整済みR²値は、伸展位で0.548であった(p<0.001)。膝関節筋筋厚の標準偏回帰係数は0.750(p<0.001)であり、正の連関が認められた。屈曲30°位、60°位では有意な連関は認められなかった。【考察】 筋厚の結果から膝関節筋はより伸展位で収縮する性質があると考える。また屈曲60°位においても2.03mmの変化が得られたことから、屈曲位でも収縮することが示された。膝蓋上包前後径および上方移動量は伸展位、屈曲30°位に比べ屈曲60°位で有意に小さかった。これは膝関節屈曲時に膝蓋骨と共に膝蓋上包が遠位に移動するため、その緊張が高まり後方および上方への変化量が小さかったと考える。しかし膝関節筋の収縮は認められることから、屈曲60°位においても膝蓋上包への張力は作用しているものと推察される。重回帰分析の結果、膝関節伸展位では膝関節筋の収縮は膝蓋上包前後径、上方移動量に影響することが示され、解剖学的知見から予測された作用と一致する結果であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究は膝関節筋が膝蓋上包を牽引、挙上することを超音波画像より直接的に示したものであり、基礎データとして有意義であると考える。今後は膝関節拘縮や変形性膝関節症との関連性や膝関節可動域制限への介入の新たな視点等、臨床への応用が期待される。
  • 膝関節伸展運動での検討
    宇佐 英幸, 松村 将司, 小川 大輔, 市川 和奈, 畠 昌史, 清水 洋治, 平田 圭佑, 竹井 仁, 柳澤 健
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-08
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】徒手筋力検査(Manual Muscle Testing:以下MMT)は定量的でなく客観性に乏しいと指摘されている。そのため,簡便に客観的かつ定量的な測定ができる徒手筋力測定器(Hand-held Dynamometer:以下HHD)を用いた筋力評価の有用性が諸家により報告されている。HHDでの筋力測定では,客観的かつ定量的に筋力を測定するため,体格や年齢など,対象者個々の特性に対して考慮することを排除している。そのためHHDでの筋力評価では,対象者の特性を考慮した最大筋力の予測値を指標として相対的に評価する必要がある。そこで我々は,理論式から算出可能なMMT grade 3の筋力値(以下Mf)を用いて最大筋力値(以下Mm)を予測するために,股関節屈曲・伸展と膝関節屈曲・伸展運動におけるMfとMmの関係を明らかにし,第47回日本理学療法学術大会にて報告した。しかし,対象が20代の被験者であったため,その他の年代への適用について言及できなかった。よって本研究では,膝関節伸展運動でのMfとMmの関係における加齢による相違を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常者130名のボールの蹴り脚130肢とした。被験者は年齢により,20~30代のA群(40名,平均年齢28.3歳,平均身長166.0cm,平均体重60.8kg),40~50代のB群(46名,平均年齢49.8歳,平均身長163.9cm,平均体重62.3kg),60~70代のC群(44名,平均年齢69.6歳,平均身長160.8cm,平均体重58.5kg)に分類した。実験課題は,膝関節伸展運動における最大努力での等尺性筋収縮とし,その抵抗力(以下F)をHHD(アニマ社製μTas MT-1)で測定した。測定肢位は股・膝関節90°屈曲位,骨盤中間位でのベッド上端座位とし,両上肢は体幹前方で組ませた。HHDの圧力センサーは下腿の遠位1/3の部分に配置し,非伸縮性のベルトでベッドの脚に固定した。Fの測定はそれぞれ2回行い,その平均値を代表値とした。また,下腿長とモーメント・アーム長(l:膝関節裂隙-測定部間距離)と体重も測定した。MfとMmは以下の式にて算出した。MfはDanielsらの定義に基づき, Mf=m・k・g・K・Lとした。MmはMm=F・lとした。ただし,m:体重,k:下腿の重量係数(男性0.0725,女性0.0685),g:重力加速度=9.8,K:下腿の重心位置距離比=0.51,L:下腿長。統計ソフトIBM SPSS 20を用いて,各群ごとに,MfとMmについて無相関の検定と回帰分析を行った。また,MmについてMfを共変量とする共分散分析の平行性の検定を行った。有意水準は5%とした。【説明と同意】本研究は首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号11038)を受け,被験者に研究趣旨と方法を十分に説明し,書面にて承諾を得た上で実施した。【結果】各群においてMfとMmの間にはそれぞれ正の相関があった。相関係数はA群:0.758,B群:0.642,C群:0.376であった。回帰分析の結果,各群における回帰式は,A群:Mm=11.758Mf-37.261,B群:Mm=8.088Mf-18.703,C群:Mm=4.046Mf+10.465,決定係数は,A群:0.575,B群:0.412,C群0.141であり,すべて予測に役立つことが確認された。また,共分散分析の平行性の検定の結果,3つの回帰直線の平行性は棄却された。【考察】体重と下腿長を測定することにより,膝関節伸展運動のMfは前述の式から算出される。結果より,3つの回帰直線の平行性が棄却されたため,年代により異なる回帰式ではあるが,算出したMfを代入することによりMmは容易に予測される。しかし,A群,B群,C群の順に相関係数が減少したことや,決定係数が減少して回帰式のあてはまりが良くなくなることから,年代が高くなるにつれてMfとMmの関係には個人差が大きくなり,本研究結果を用いたMmの予測の精度は低下すると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究結果を用いて予測した膝関節伸展の最大筋力値は,体重や下腿長といった身体特性を反映している。そのため,患者個々の特性を考慮した,定量的かつ客観的な筋力評価や筋力トレーニング時の目標値の設定において有用であると考える。しかし,予測の精度は年代が高くなるにつれて低下することに留意して利用する必要がある。
  • 大浦 佳子, 奥園 翔太, 原賀 佑志, 光岡 愛美, 山田 美沙希, 若田 智加子
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-08
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性膝関節症などの膝関節疾患では内側広筋,なかでも斜走線維(VMO)が萎縮を起こしやすい.VMOは膝蓋骨のアライメント保持,動的な安定として作用する.VMOの筋萎縮は外側広筋(VL)との筋力比(VMO/VL比)が不均等となり膝蓋骨が外側偏位を起こし,膝蓋大腿関節痛の要因となる。本研究は内側広筋強化の効果的な方法を検証することを目的として、股関節外転外旋位のマッスルセッティング(QS)と、さらに膝蓋骨を徒手的に内側方向へ偏位させたパテラセッティング(PS)について筋電図解析によるVMO/VL比を用いて検討した.【方法】対象は健常成人男性34名(21.8±1.2歳)とし、QS群17名,PS群17名とした.測定肢位は背臥位,股関節外転20°最大外旋位とし膝下にタオルを敷き,膝関節屈曲10°とした。足関節背屈位で最大努力での膝関節伸展によりタオルを押しつぶすように指示を統一し5秒間の最大等尺性収縮に続く5秒間の弛緩を連続3回反復させた.表面筋電計(ノラクソン社製テレマイオ2400)を使用し,VMOは膝蓋骨内側の上角から4横指近位部,前額面上で50°内側上方に,VLは膝蓋骨外側の上角から5横指近位15°外側上方に電極を貼付し,アースは膝蓋骨中央に貼付した.筋電データは整流処理後,安定した3秒間について3回の平均値を算出し、単位時間あたりに換算して積分筋電図(iEMG)を算出した。VMOのiEMGをVLのiEMGで除して%VMO/VLを算出しVMO/VL比とした.統計処理は, 対応のないt検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の主旨と方法を口頭と書面にて説明し,参加の同意を得て実施した.【結果】VMO/VL比はQS群121.2±37.1%,PS群153.7±53.1%であり、QSに比較しPSが高値を示した(P=0.023).VMOの強化法として股関節外転外旋位で膝蓋骨を徒手的に内側偏位させるPSが有効であると示唆された.【考察】膝蓋骨に対する大腿四頭筋牽引の方向はQ角によって決まると考えられている.このため,膝蓋骨正中位での膝蓋骨の牽引方向は,やや外側上方へ向く。VMOは大腿骨に対し45~55°の角度を有している .また,VMOは膝関節伸展筋としては作用せず,膝蓋骨を内側へ引き大腿四頭筋の外側への牽引力に対して膝蓋骨を中央にとどめ,アライメント保持に作用するとされている .また,VMOは内側方向に走行して直接膝蓋骨に連結していることから,膝蓋骨の安定性を高める上では理想的な走行となっており,動的な安定として作用する.本研究の結果より,QS群に比べてPS群では,膝蓋骨が内側偏位し,VL,RFの収縮方向が外側へ向くため,外側方向への牽引力が強まり,この牽引力を相殺し膝蓋骨のアライメントを保持するためにVMOの筋収縮が強くなったと考える.【理学療法学研究としての意義】VMOの萎縮が発生すると,VLとの筋力比が不均等となるため,膝蓋骨のアライメント保持が行えず,膝蓋骨は外側偏位を起こす.この外側偏位が,膝蓋大腿関節痛を引き起こす原因とされ,VMOの選択的強化の方法について多くの報告がされている。しかし、効果的な方法が明確にはなっていない.変形性膝関節症の進行した患者では下腿の内反変形によりアライメントが変化しているため,VMOの走行が異なることが考えられる.今後は,膝関節疾患の患者を対象に,PSによるトレーニングの効果を検証する必要がある.
  • 六川 恒, 三秋 泰一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-08
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】内側広筋斜頭(VM)は,膝関節の保護や支持性に重要な役割を担うほか,膝蓋骨の外側偏位を抑制する特異的な機能を持つ.また膝関節疾患においてVMは筋萎縮を起こしやすく,外側広筋(VL)と比較し筋力増強運動への反応が遅いとされる.膝蓋大腿関節症(PFPS)患者ではVMの筋活動低下が指摘されるなど,VMの萎縮によるVLとの不均衡が問題とされ,VMを優先的に収縮できる運動が模索されている.先行研究において様々な方法が検討されているが,統一した見解は得られていない.また膝関節の静的アライメント(膝アライメント)に関して,外反膝の者は内反膝の者に比べQ-angleが大きいとされ,Q-angleが増大すると,膝蓋骨にかかる外側方向への牽引力に対しVMが対立する力を発揮するため,VMが肥大するとされる.よって膝アライメントの違いで大腿四頭筋の筋収縮様式が異なる可能性が考えられ,膝アライメントの影響を考慮せずVMの優先的収縮運動を行ってもいいのか不明である.そこで本研究は,開運動連鎖における運動方法の違いによるVMの優先的収縮の状態を比較すること,膝アライメントの違いがVM,VLの筋活動に与える影響を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常女子大学生とし,膝関節の内外反度を測定するスクリーニングを88名に行い,内反度の大きい9名(内反群),外反度の大きい6名(外反群),中間群10名を選出した.測定肢は非利き脚とし,測定肢位は股関節屈曲90度・膝関節屈曲60度の背もたれ端座位とした.1.膝伸展+脛骨内旋運動(Int-ro),2.膝伸展+脛骨外旋運動(Ext-ro),3.膝伸展+股関節内転運動(Add),4.大腿四頭筋セッティング(Set)の4種目の膝関節伸展最大等尺性収縮(MVC)運動を5秒間行った.運動回数は各運動それぞれ3回行った.各運動中の表面筋電図をVM,VLから導出し,記録した5秒間の中央3秒間の二乗平均平方根(RMS)を算出した.算出されたVM,VLのRMSを,膝屈曲60度・膝内外旋中間位での膝関節伸展MVC時のRMSで除し正規化した.また正規化したVMをVLで除し,VM/VL比を求めた.運動種目の違いと膝静的アライメントの違いがVM/VL比に与える影響の検定として,繰り返しのある二元配置分散分析を用い,事後検定としてTukeyの方法を用いた.また,各種目におけるVMとVLの筋活動量の比較として,対応のあるT-検定を用いた.有意水準は0.05未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得ており,被験者に測定手段,運動方法を口頭にて説明し,文書にて同意を得た上で,実験を開始した.【結果】VM/VL比は運動種目間において主効果が認められた(p<0.001)が,膝アライメントにおいては認められなかった.4種類の運動種目間のVM/VL比の比較では,AddのVM/VL比が1.64±1.2で他の3種目よりも有意にVM/VLが高く(p<0.01),SetのVM/VL比が0.705±1.1で他の3種目よりも有意に低かった(p<0.05).VMとVLの筋活動量の比較では,AddにてVMの筋活動量は135であり,VLの86.4よりも有意に高く(p<0.00005),他の種目では有意差は認められなかった.【考察】今回の実験結果では,大腿四頭筋の筋収縮に股関節内転筋を同時収縮させたAddが,他の3種目に比べ有意にVM/VL比が高く,VMの優位な活動が認められたことから,MVC時ではAddを行うことが,VMの優先的な収縮おいて最も効果的であることが示唆された.これは,VMの大部分が大内転筋より起始するということと、筋電図と筋張力に相関があるとされることを踏まえ,股関節内転筋の収縮により牽引されVMの筋張力が増加し,それに抗するため筋活動量も上昇したと考える.膝アライメントとVM/VL比に関しては,内反群,中間群,外反群の3群間のVM/VL比において有意差は見られず,VMの優先的収縮において,膝アライメントの影響は無かったと考えられる.今回の内外反度を用いた膝アライメントの分類方法では,Q-angleに有意差がなかった可能性が考えられ,今後はQ-angleの違いによって群分けを行い,VM/VL比の比較を行う必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】VMの萎縮が考えられる患者に対し運動療法を行う際,VMの優先的収縮を行える運動を行うことが筋のアンバランスの改善に有効であり,その運動種目としては,膝関節伸展運動に股関節内転筋の同時収縮を付加することが最も効果的であることが示唆された.
  • 野陳 佳織, 小林 巧, 神成 透, 堀内 秀人, 松井 直人, 角瀬 邦晃, 大川 麻衣子, 高村 雅二, 山中 正紀
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-09
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】高齢者が要支援・要介護になる原因として関節疾患が要支援では1位、要介護では4位となっている。変形性膝関節症(osteoarthritis of the knee:以下、膝OA)は、近年の高齢化とともに増加傾向にあり、自覚症状を有する患者数で約1000万人、潜在的には約3000万人と推定されている。膝OAは、運動時や荷重時の痛み、疼痛による運動制限、関節の拘縮を主症状とし、日常生活に影響を及ぼす。これまで、膝OA患者における機能因子(疼痛、ROM、筋力)に関する報告は散見されるが、歩行能力(歩行速度や重複歩距離)と関連する因子についての報告は少ない。本研究では、膝OA患者の歩行能力に影響を与える機能因子についての検討を目的としている。【方法】膝OA患者23例(女性20例、男性3例)。北大病期分類stageⅢ11例stageⅣ12例。平均年齢70.9±8.3歳、身長151.7±7.7cm、体重60.9±5.7kg 、BMI26.5±2.6。除外基準は、膝関節以外の関節可動域制限や疼痛が歩行動作の制限になっている者、独歩困難な者、中枢神経疾患により明らかな運動障害がある者、またはBMI40 以上の者とした。歩行能力の評価として最大速度での10m歩行試験を実施し、歩行速度および重複歩距離を算出した。基本属性として年齢、身長、体重、BMIを計測した。また、機能因子として疼痛、ROMおよび筋力について測定した。測定は両側実施し、痛みの強い方を患側とした。(1)疼痛:日常生活における立ち上がり時および歩行時の膝の痛みについてvisual analog scaleを用いて数値化した。(2)ROM:膝屈曲および伸展のROMについてゴニオメーターを用いて測定した。(3)筋力:Biodex System 3を用いて、角速度60°/secにて膝屈曲および伸展の等速性peak torque値を算出し、各被験者の体重で除した値を使用した。統計学的分析として、歩行能力と機能因子の関連性の検討としてピアソンの相関係数を用いた。また、測定した全ての基本属性および機能因子から歩行速度および重複歩距離の予測因子を検討するためにステップワイズ法による重回帰分析を使用して解析を行った。有意水準は5%とした。【説明と同意】対象者には検査実施前に研究についての十分な説明を行い、研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。【結果】歩行速度は健側の屈曲および伸展筋力(各r=0.72、0.68)、患側の屈曲および伸展筋力(各r=0.50、0.76)と有意な相関を認めた。重複歩距離は健側の膝屈曲および伸展筋力(各r=0.58、0.53)および患側の膝伸展筋力(r=0.58)と有意な相関を認めた。重回帰分析において、各項目の決定係数は歩行速度R²=0.651、重複歩距離R²=0.301であり、有意な回帰式を得た。歩行速度は患側膝伸展筋力(β=0.74)、健側膝屈曲筋力(β=0.42)が有意な予測因子となった。重複歩距離は健側膝屈曲筋力(β=0.59)が有意な予測因子となった。年齢は歩行速度(r=0.48)および重複歩距離(r=0.46)と有意な相関を認めたが、重回帰分析で影響は見られなかった。歩行能力(歩行速度と重複歩距離)と身長・体重・BMI・疼痛・ROMは相関・重回帰分析ともに有意な関連性を認めなかった。【考察】本研究結果から、2変数間の関連において膝OA患者の歩行能力は年齢や両側の膝伸展および屈曲筋力との関連が高いことが示された。すなわち、身体的な特徴には影響を受けず、健側および患側の膝屈伸筋力に影響を受ける可能性が示唆された。また重回帰分析では歩行速度の予測因子として、患側の膝伸展筋力と健側の膝屈曲筋力が、重複歩距離の予測因子として、健側の屈曲筋力が挙げられた。Barker(2004)らは、歩行速度は膝OA重症度に関係なく下肢伸展筋力が関与していると報告しており、今回の結果からも膝伸展筋力が重要な歩行速度の予測因子であることが推察された。また、Brown(2004)らはTKA術前の6分間歩行距離の有意な予測因子として膝の屈曲筋力をあげ、今回の結果からも歩行速度および重複歩距離に影響する因子として健側の膝屈曲筋力の関与が示された。膝OAの主症状である疼痛は歩行能力との関連を示さなかった。本研究では、歩行速度の予測において従来から着目されていた患側の膝伸展筋力の影響を示す内容の結果を得たが、健側の膝屈曲筋力も影響している可能性が示唆された。以上から、膝伸展筋力のみならず健側の膝屈曲筋力向上を図ることで歩行速度や重複歩距離が向上する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】高齢社会の中、自宅での自立した生活を継続するために膝痛などの運動器障害の進行と転倒予防のために機能・歩行評価を実施することは重要である。しかし、歩行能力がどのような機能因子と関連するか検討した報告は少ない。膝OA患者の歩行能力を予測する因子を明らかにすることはより効果的な理学療法を実施するための一助となる可能性がある。
  • 山本 哲生, 山崎 裕司, 栗山 行, 山下 亜乃, 片岡 歩, 中内 睦朗
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-09
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】膝伸展筋力が歩行速度を規定する要因の一つであることは、数多くの先行研究から周知の事実となっている.しかし,これらの先行研究の多くは,運動器疾患を有しない対象者での検討が主であり,運動器疾患を対象とした報告は未だ少ない.また,運動器疾患を有する対象者は正常と異なる歩行パターンを呈することが知られており,先行研究の結果が適応できない可能性が高いと考えられる.今回の研究では,両変形性膝関節症患者において歩行速度と膝伸展筋力の関係について検討した.【方法】対象者は60歳以上で両変形性膝関節症を有し,独歩での通院が可能な症例である.除外基準は,研究に対して同意が得られなかったもの,疼痛の急性期や明らかな中枢神経系疾患を有する者,認知症などで指示の理解が困難なものである.上記の基準に照らし得られた対象者数は143名(男性11名,女性132名,年齢75.3±6.3歳)であった.年齢,身長,体重,10m最大歩行速度,等尺性膝伸展筋力(アニマ社製 徒手筋力計測器μTasF-1)の5項目を調査・測定した.なお膝伸展筋力は左右の平均値を体重で除したものを採用した.歩行速度と関連の強い因子を偏相関係数によって特定した.次に,膝伸展筋力を0.1kgf/kg単位で区分し,各筋力区分で歩行速度が1.0m/秒以上の対象者の割合を比較した.また,各筋力区分間で年齢,歩行速度,膝伸展筋力を一元配置分散分析によって比較した.【説明と同意】対象者には,研究の目的と計測方法について具体的に口頭で説明し,計測の実施と得られた結果の研究使用について同意を得た.【結果】歩行速度との間に有意な偏相関係数を認めたのは,膝伸展筋力r=-0.42,年齢r=0.30であった.歩行速度と膝伸展筋力の関係は,直線回帰ではなく,ある一定の筋力を下回る場合に歩行速度の遅い症例が出現する傾向にあった(r=0.57,p<0.01).筋力0.2kgf/kg未満群は14名で,男性0名,女性14名,年齢76.0±4.4歳であった.歩行速度は9.45±1.28秒,1.0m/秒未満の対象者は6/14名(43%)であった.0.3kgf/kg未満群は47名で,男性0名,女性47名,年齢74.8±6.6歳であった.歩行速度は8.83±2.04秒,1.0m/秒未満の対象者は9/47名(19%)であった.0.4kgf/kg未満群は51名で男性4名,女性47名,年齢76.5±6.2歳であった.歩行速度は7.78±1.98秒,1.0m/秒未満の対象者は5/51名(10%)であった.0.5kgf/kg未満群は22名で,男性3名,女性19名,年齢74.8±5.9歳であった.歩行速度は6.85±1.47秒,1.0m/秒未満の対象者は1/22名(5%)であった.0.5kgf/kg以上群は9名で,男性4名,女性5名,年齢70.0±6.9歳であった.歩行速度は6.29±0.7秒,1.0m/秒未満の対象者は0/9名(0%)であった.各群間比較において,年齢を除く,歩行速度,膝伸展筋力に有意差を認めた(p<0.01).1.0m/秒未満の対象者は筋力の弱い群ほど増加した.また,1.0m/秒未満の対象者の1例を除き,すべての症例は膝伸展筋力が0.35kgf/kg以下であった. 【考察】両変形性膝関節症を有する症例の歩行速度と膝伸展筋力との関係を検討した.両変形性膝関節症を有する患者においても,運動器疾患を有しない対象者の先行研究の結果と同様に,膝伸展筋力と歩行速度には有意な相関が見られた.また膝伸展筋力の弱い群においても,屋外歩行に必要な歩行速度1.0m/秒未満の症例の割合が大きかった.大森らは,運動器疾患の無い高齢者を対象とした研究において,1.0m/秒以上の歩行速度を獲得するには0.36kgf/kg以上の膝伸展筋力が必要であると述べた.今回の結果は,先行研究の結果と近似していた.以上のことから,両変形性膝関節症を有する症例においても,歩行能力を規定する要因として膝伸展筋力が重要なものと考えられた.また今回の研究では両変形性膝関節症についての検討であったが,今後,他の運動器疾患についても引き続き調査を行う必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】今回の研究において,運動器疾患を有しない対象者の研究結果と同様に,両変形性膝関節症患者についても,膝伸展筋力と歩行速度に有意な関係が見られることが示された.今回の結果は,両変形性膝関節症患者の歩行速度の低下原因を考察するうえでの基礎的データとして活用できると考える.
  • 神成 透, 小林 巧, 堀内 秀人, 松井 直人, 角瀬 邦晃, 野陳 佳織, 大川 麻衣子, 山中 正紀
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-09
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 我が国は平均寿命の増加とともに高齢化率は上昇している。高齢になると転倒のリスクは増加し、それによって生じる骨折がADL能力やQOLを低下させる。転倒の予測因子としてバランス能力を評価する際には、重心動揺計やバランススケールが臨床でも広く用いられている。 また、変形性膝関節症(以下、膝OA)は高齢者において最も多い骨関節疾患の一つであり、理学療法の対象となる疾患である。一般に膝OAの理学療法においては下肢機能向上のためにバランス訓練をおこなわれることが多い。しかし、膝OA患者において、バランス能力の指標となるバランススケールと下肢機能の指標となる歩行能力の関連を調査したものは少ない。さらに、バランスの評価として一般的な重心動揺測定と歩行能力との関連も調査した。本研究の目的は、膝OA患者においてバランススケールや重心動揺を含めたバランス能力と歩行能力の関連を調査することである。【方法】 対象はTKAを予定している膝OA患者25例(女性22例・男性3例)、平均年齢は66.7±6.3歳、平均身長153.3±6.1cm、平均体重62.0±9.6kgであった。除外基準として、反対側の膝OA以外の整形疾患、平衡機能障害およびバランスに影響のある疾患の既往のある者、またはBMI40以上の者とした。 方法は、歩行能力として10mの歩行路をできるだけ早く歩行し、所要時間ならびに歩数を計測した。その値より歩行速度、重複歩距離および歩行率を算出した。また、バランス能力として片脚立位時間、Functional Reach Test(以下、FRT)、Timed Up and Go Test(以下、TUG)およびBerg Balance Scale(以下、BBS)を測定した。さらに、重心動揺計(アニマ社製グラビコーダG-620)を用い、片脚立位にて10秒間測定し、総軌跡長、外周面積、矩形面積、左右最大振幅、前後最大振幅を算出した。片脚立位時間および重心動揺は両側計測し、各測定は3回おこない平均値を用いた。疼痛の強い方を患側、反対側を健側と定義した。 統計学的分析として、歩行能力とバランス能力の関連性の検討についてSpearmanの順位相関係数を実施した。また、各バランススケールと重心動揺計を用いた測定値から歩行能力指標予測のために重回帰分析をおこなった。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には検査実施前に研究についての十分な説明をおこない、研究参加の同意を得た。【結果】 歩行能力とバランス能力の関連性について、歩行速度と片脚立位時間(患側r=0.505、健側r=0.479)、TUG(r=-0.827)、重複歩距離と片脚立位時間(患側r=0.465、健側r=0.411)、TUG(r=-0.805)、歩行率と片脚立位時間(患側r=0.412)において有意な相関が認められた(p<0.05)。 総軌跡長、外周面積、矩形面積、左右移動距離および前後移動距離に関しては有意な相関を認めなかった。 ステップワイズ法による重回帰分析において、歩行速度の予測には術側の片脚立位とTUGが、重複歩距離の予測にはTUG が、歩行率ではTUGとBBSが投入され説明効率の高い回帰式が得られた。【考察】 本研究結果から、膝OA患者において歩行能力を示す歩行速度、重複歩距離、歩行率が片脚立位時間やTUGと有意な相関が認められ、歩行能力を示す因子として有用である可能性を示唆した。一方、重心動揺計による測定との関連は一切示されなかった。Wuは高齢女性を対象に歩行能力とバランス能力について調査し、片脚立位時間と歩行速度については相関がみられたが、重心動揺軌跡長や重心動揺面積には相関がみられなかったと報告し、歩行は動的な姿勢保持要素が関連すると述べている。今回の結果は、膝OA患者においても同様に歩行能力には片脚立位時間やTUGのバランススケールが関連し重心動揺は関連がないという結果となった。バランスを評価する際には、その評価方法によりどのような特徴が関連するかを把握し検討する必要がある。以上より、重心動揺の測定よりも片脚立位時間やTUGの指標がより歩行能力に関連するバランス指標として重要である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 膝OA患者に対する理学療法の目的の一つに歩行能力を向上させることが挙げられる。どのようなバランス指標が歩行能力に関連するかは実際に理学療法をおこなう上で重要である。重心動揺の測定はバランス能力の指標として従来より用いられているが、歩行と関連がなかったことはとても興味深く、歩行においてどのようなバランス因子が重要かを幅広く検討していく必要がある。
  • 五十嵐 祐介, 平野 和宏, 鈴木 壽彦, 田中 真希, 石川 明菜, 姉崎 由佳, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-09
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は整形外科疾患において代表的な疾患であり、関節軟骨の変性や骨棘形成など様々な臨床症状を呈する。膝OAの増悪には多くの因子が関与しており、主に肥満や膝関節の安定性、膝関節屈曲及び伸展筋力、膝関節のアライメント、歩行時におけるlateral thrustなどとされている。一方、膝OAの進行予防に関する因子として、膝OA患者の歩行や階段昇降などの動作時に膝関節屈曲筋力と伸展筋力の比であるH/Q (ハムストリングス/大腿四頭筋)比を筋電図で検討した結果、各筋のバランスが膝OA進行予防に重要であるとの指摘がされている。しかし、膝OAの増悪因子と考えられるlateral thrustと膝関節屈曲筋力、伸展筋力のバランスを表すH/Q比との関連を検討した報告は見当たらない。そこで今回、当大学附属4病院にて共通で使用している人工膝関節全置換術患者に対する評価表から、術前評価のデータを使用し、後方視的にlateral thrustとH/Q比との関係を検討することとした。【方法】対象は2010年4月から2012年8月までに当大学附属4病院において膝OA患者で人工膝関節全置換術の術前評価を実施した199肢(男性:33肢、女性:166肢、平均年齢74.1±7.3歳)とした。測定下肢は手術予定側及び非手術予定側に関わらず膝OAの診断がされている下肢とした。筋力の測定はHand-Held Dynamomater (ANIMA社製μ-tas)を使用し、端座位時に膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できるよう専用の測定台を作成し、ベルトにて下肢を測定台に固定した状態で伸展と屈曲を各々2回測定した。測定値は2回測定したうち最大値を下腿長にてトルク換算し体重で除した値を使用した。また、lateral thrustの有無は各担当理学療法士が歩行観察により評価した。統計学的処理はlateral thrust有群(以下LT有群)と無群(以下LT無群)の2群に分け屈曲筋力、伸展筋力、H/Q比をそれぞれ対応のないt検定にて比較した。【倫理的配慮】本研究は、当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。【結果】LT有群95肢(男性:22肢、女性:73肢、平均年齢74.1±7.4歳、平均伸展筋力99.9±42.2Nm/kg、平均屈曲筋力30.1±15.83Nm/kg、平均H/Q比0.34±0.23)、LT無群104肢(男性:11肢、女性:93肢、平均年齢74.5±6.5歳、平均伸展筋力95.5±47.9 Nm/kg、平均屈曲筋力35.4±21.5 Nm/kg、平均H/Q比0.44±0.38)となり、屈曲筋力とH/Q比において2群間に有意差を認めた(p<.05)。【考察】LT有群は、LT無群と比較し屈曲筋力及びH/Q比にて有意に低値を示した。lateral thrustに対し筋力の要因を検討したものでは、大腿四頭筋の最大筋力値が高いほどlateral thrustが出現しにくいという報告や、一方で大腿四頭筋の最大筋力値はlateral thrustの出現に関与しないという報告もあり、筋力の観点からは統一した見解は未だ示されていない。今回の結果にて有意差は認められなかったが伸展筋力ではLT有群の平均値がLT無群よりも高値であったことや、屈曲筋力にて有意差が認められたことは先行研究と同様の傾向を示すものはなく、lateral thrustを単一の筋力のみで検討するには難しいのではないかと考える。本研究でlateral thrustとH/Q比において有意差が認められたことより、各筋力の最大値以外にも比による筋力のバランスという観点も重要であり、lateral thrustが出現している膝OA患者に対するトレーニングとして、最大筋力のみでなく主動作筋と拮抗筋のバランスを考慮したアプローチも重要であると考える。今後はlateral thrustとH/Q比の関係を更に検討するために、歩行時における各筋の活動状態やlateral thrustの程度、立脚期における膝関節内反モーメントなどの評価にて考察を深めていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、最大筋力でのH/Q比がlateral thrustの出現に関与する一因である可能性が示唆され、理学療法研究として意義のあることと考える。今後、更に考察を深めていくことでlateral thrust の制動に効果的なH/Q比の検討につなげていきたい。
  • アンケート調査と足底圧軌跡に着目して
    竹本 陽一, 西本 章, 横山 恵子, 古見 信子, 森實 一美, 森中 茂, 秋山 重幸
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-09
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】第43回日本理学療法学術大会において内側型変形性膝関節症(以下膝OA)に対する足底板の効果を検証し報告した。外側型変形性膝関節症においても、同様に運動力学的に有効と考え、当院で作成した内側楔状足底板を患者に使用し効果を検証した。特徴として1.中足骨パッドをつけ、その内側にアーチサポートを設けている。2.周りに縁をつけることで、靴の中でのずれをなくし、矯正力を逃がさないようにしている。3.中足骨パッドの周りの前方と外側の部分を抜いてあり、段差をつけることで、足部の前外側部が入り込むようにし、距骨下関節が回外位を保つようにしてある。【方法】対象は骨折、関節リウマチ、骨系統疾患等に続発した例は除外し、当院で外側型膝OAと診断された女性7名(13膝であり、うち1名はwindswept deformity)、年齢は52~78歳(平均67.7歳)、装着期間は4か月~3年5か月(平均1年6か月)、Kellgren分類はIIが4膝、IIIが9膝であった。外側型膝OAの症例に対して、当院で作成した内側楔状足底板を装着させ、その前後でVAS,JKOM:Japanese Knee Osteoarthritis Measure(日本版変形性膝関節症患者機能評価表)での評価を行い、Welchの検定を行った。3症例に対して、足底板の装着の有無で足底圧を測定し分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対して研究趣旨を十分に説明し、了解を得た後に足底板を使用してもらい、アンケート調査を行い、そのうち3症例に対して足底圧の測定を行った。【結果】100mmVASにおいては装着前で50.5±19.4、装着後で19.7±21.8であり有意差(P>0.05)があった。JKOMでは総合点においては装着前36.5±6.7、装着後で14.2±8.4で有意差(P>0.001)があった。項目別に着目しても階段昇降(P>0.01)や立ち上がり(P>0.01)、外出の項目(P>0.01)で有意差が見られた。足底圧の測定では、装着後に圧の軌跡は外側へ移動していた。【考察】Rodriguesらは動作時痛、安静時痛、機能障害が有意に改善し、膝外側角が内側楔状足底板の8週間の装着により有意に改善したと報告している。下肢の運動連鎖では距骨下関節が回外することで、下腿は外旋し、大腿骨も外旋し、脛骨よりも大腿骨の方が回旋量が大きいため、膝は内反を伴う。我々の考案した足底板では、足底接地の後、足底外側荷重に移行することで下肢を外旋位に誘導することにより、膝関節外側に偏った接触圧分布を分散できたと考える。膝の生理的な運動の獲得に伴い、疼痛が軽減し、VAS,JKOMへの好影響をもたらしたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】足底板治療は副作用が少ない治療法の一つである。理学療法士の知識として運動力学や構造を知ることで、医師や義肢装具士と検討し、患者にあった足底板を作成することができ、患者の痛みを軽減したりQOL改善に貢献できるのではないだろうか。今後は症例数を増やし、症状や痛みの部位による変化を捉え、段差を調整し矯正力の強弱をつけたり、中足骨パッドの位置など変えて、歩容や動作への影響を検討していきたいと考える。
  • 河野 愛史, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 笹代 純平, 平田 和彦, 木村 浩彰, 越智 光夫
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 膝関節の靭帯損傷はスポーツで頻発する外傷のひとつであり,なかでも膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷は発生頻度が高い.治療には靭帯再建術の選択が一般的で,術後は関節可動域の改善や筋力増強などの理学療法が必要になる.筋力増強の効果判定のひとつとして大腿周径が用いられるが,臨床では大腿周径の回復と筋力の回復が一致しない症例を経験する.一般に,四肢周径は筋や骨の発達状態の把握に役立ち,筋力と有意な相関があるとされ(渕上ら,1990),筋力の発揮には筋量などの筋的要因や運動単位の動員などの神経的要因が影響し,筋力増強はそれらのいずれか,または両者の変容によるものとされる(後藤,2007).本研究の目的は,ACL再建術後の筋力の回復に筋量の回復がどの程度影響するのかを大腿周径と筋力を測定することで検討し,かつそれらを測定する意義を明確にすることである.【方法】 広島大学病院にてACL再建術(STG法)を受け,術後12ヶ月以上経過した初回受傷患者106名(男性50名:平均27.9±11.3歳,女性56名:平均24.8±11.2歳)を対象とした.大腿周径は膝蓋骨上縁から5,10,15,20cmを術後6,12ヶ月時に測定し,非術側に対する術側の割合(以下,患健比)を求めた.筋力測定はBIODEX System3(BIODEX社)を用いて,術後6,12ヶ月時に60°/s,180°/sの角速度での膝関節伸展,屈曲筋力を測定し,患健比を求めた.統計処理は術後6,12ヶ月の各時期での大腿周径と筋力の関係をPearsonの相関分析を用いて検討し,危険率は5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会,広島大学疫学研究に関する規則に基づき実施した.対象には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た.【結果】 大腿周径の患健比は,術後6,12ヶ月で,男性は5cmで97.1%,98.1%,10cmで95.9%,96.9%,15cmで95.7%,96.9%,20cmで96.4%,96.9%,女性は5cmで97.2%,98.2%,10cmで96.4%,96.4%,15cmで96.3%,96.6%,20cmで96.5%,97.6%であった.筋力の患健比は,術後6,12ヶ月で,男性は60°/sでの伸展筋力は67.2%,77.1%,屈曲筋力は80.9%,83.7%,180°/sでの伸展筋力は75.7%,81.6%,屈曲筋力は85.3%,86.5%であった.女性は60°/sでの伸展筋力は69.1%,82.6%,屈曲筋力は84.3%,89.8%,180°/sでの伸展筋力は77.5%,86.2%,屈曲筋力は87.8%,92.6%であった.大腿周径の患健比と筋力の患健比は,術後6ヶ月で,男性は60°/s,180°/sでの伸展筋力と周径5,10,15,20cmそれぞれと,60°/s,180°/sでの屈曲筋力と周径20cm,女性は180°/sでの伸展,屈曲筋力と周径20cmとに有意な正の相関を示した(r=0.29~0.48).術後12ヶ月で,男性は60°/s,180°/sでの伸展筋力と周径5,10,15,20cmそれぞれと,女性は60°/s,180°/sでの伸展筋力と周径5,10,15,20cmそれぞれと,60°/s,180°/sでの屈曲筋力と周径5cmとに有意な正の相関を示した(r=0.28~0.45).【考察】 男性は術後6,12ヶ月,女性は術後12ヶ月で大腿周径の患健比と膝伸展筋力の患健比の間に有意な相関を示したことから,膝伸展筋力の回復に大腿周径すなわち大腿部の筋量の回復が影響し,術後12ヶ月ではその影響が大きいと考える.しかし,女性は術後6ヶ月で大腿周径の患健比と60°/sでの膝伸展筋力の患健比の間に有意な相関を示さなかった.これは,女性はもともと男性に比べて大腿部の筋量が少ないため(Abeら,2003),筋量が筋力に反映されにくいことや,術後6ヶ月は筋量の回復が不十分で神経的要因の回復により筋力が回復したことなどの可能性が考えられる.以上より,ACL再建術後に大腿周径および膝伸展筋力を測定することで,筋力の回復のどの程度が筋量の回復によるものかを評価でき,回復状況を把握することでリハビリテーションプログラムの再考につながる.また術後12ヶ月では筋量が筋力にある程度反映しているため,大腿周径がスポーツ復帰の指標のひとつとして有用である可能性が示唆されたが,例外もありこのような症例には注意が必要である.【理学療法学研究としての意義】 ACL再建術を受けたスポーツ選手のスポーツ復帰時期を決定するために筋力の回復は重要で,男性は術後6,12ヶ月と大腿周径および筋力が順調に回復する傾向にあるが,女性は各時期での回復状況に特に注意し運動療法を行うべきである.
  • 採取側の違いによる比較
    北島 正透, 饗庭 甲人, 西川 雄二, 松竹 裕輝, 武田 寧, 今屋 健, 下川 元継
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】当院では膝前十字靭帯(ACL)再建術はスポーツ種目や競技レベルによって、半腱様筋腱、薄筋腱での再建術(STG法)と骨付き膝蓋腱による再建術(BTB法)を使い分けて行っている。BTB法に関しては文献的に、1.グラフト採取部の疼痛、2.大腿四頭筋筋力回復の遅れが指摘されている。当院ではこれまで移植腱を再建膝から採取する方法であったが、近年、再建膝の筋力の早期回復を目的に腱を健側から採取する方法も施行されている。今回、BTBの採取側の違いによる筋力を中心とした臨床成績の差を検討し、若干の知見を得たので報告する。【説明と同意】【対象】対象は、2009年8月から2012年4月までに当院でBTB法でのACL再建術を行った70名(再再建術及び両側羅患を除く)である。再建膝から腱を採取して移植した群(以下患側BTB群)23名(男7名、女16名)、健側から腱を採取して移植した群(以下健側BTB群)47名(男33名、女14名)の2群を対象とした。尚、対象者には内容を説明し、同意を得た。【方法】比較項目は、(A)筋力、(B)BTB採取部の疼痛、(C)復帰時期とした。筋力の比較項目:筋力測定はCOMBIT CB-2+(ミナト医科学株式会社)を用いた。測定時期は術前と術後6ヶ月での値を用い、項目としては、1.体重支持指数(WBI)、2.角速度60度での等速性膝伸展筋力の値を用いた。BTB採取部の疼痛:筋力測定中に感じる疼痛の有無と、筋力トレーニング中に感じる疼痛を4段階評価(1.疼痛なし2.疼痛あるが気にならない3.疼痛が気になる4.疼痛で出来ない)し調査した。尚、検討方法は患側BTB群と健側BTB群との2群間での比較とし、統計学的処理は対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】(A)1.WBIは健側同士の比較では患側BTB群が健側BTB群よりも有意に筋力が強かった(P=0.0063)。しかし、再建膝同士の比較では健側BTB群が有意に筋力が強かった(P=0.0044)。2. 術前と術後の筋力の比較では、患側BTB群では健側の膝伸展筋力に有意差はなく、再建膝では術後の方が有意に低値となった(P=0.0410)。一方、健側BTB群では健側の膝伸展筋力は術後が有意に低く(P=0.0001)、再建膝では有意差は認められなかった。(B)筋力測定時にBTB採取部の疼痛割合は、患側BTB群で18%、健側BTB群で14%であった。筋力トレーニング中の疼痛は、患側BTB群は1:76%、2:12%、3:12%、4:0%で、健側BTB群は1:69%、2:20%、3:11%、4:0%であった。(C)復帰時期は患側BTB群で平均8.2±1.7ヶ月(6~12)、健側BTB群で平均8.0±1.8ヶ月(6~12)であった。【考察】今回の結果から、患側BTB群は、従来報告されているとおり再建膝の膝伸展筋力の獲得は術後に有意に低値であった。一方、健側BTB群では再建膝の筋力は、術前と術後の比較でも有意差はなく、術後に低下することはなかった。また、WBIにおいても健側BTB群が有意に高いことから、再建膝の膝伸展筋力は、移植腱を反対側から採取した方が、術後に有意に筋力獲得が良好であると示唆される。再再建術の場合には健側からの腱採取には躊躇はないが、初回の再建術から健側の腱を再建するのには賛同が得にくい。しかし、健側から腱採取した場合、再建膝が早期に筋力回復が期待できることが示唆されており、選手の事情により早期復帰を希望される場合には選択されてもよいと考えられた。患側BTB群と健側BTB群の平均復帰期間に有意差はなかったが、術後6か月で復帰している選手は健側BTB群15.0%、患側BTB群で7.7%であった。健側BTB群は術式として健側から腱採取するので健側の膝伸展筋力が、術前よりも術後が有意に低かったことは問題であるが、筋力トレーニングを妨げる主因となる疼痛は、健側から採取した場合も疼痛の観点からは問題がないこともわかった。今回の問題としては、健側BTB群に対しても膝伸展筋のトレーニング指導を再建膝に合わせていたことが考えられた。今後は採取腱部の腱機能を強化することで、健側の筋力トレーニング時期を早期に開始することが可能となり、再建膝と健側の早期筋力回復が望めるものと考える。【理学療法学研究としての意義】今回は筋力値で比較検討したが、膝伸展可動域の制限の有無により筋力は変わるという報告もあるので、患側BTB群と健側BTB群の可動域と筋力の関係を今後追って報告したい。
  • 渡邉 美紀, 藤野 努, 国分 貴徳
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は、非接触型の損傷が多く、中でもカッティング動作や着地動作での受傷が多いとされている(Boden、2000)。また、受傷肢位は膝軽度屈曲・外反位が多いとされ(Hewatt、2005)、要因としてQ-angleや大腿骨前捻角の増大、Navicular Drop Test(金子ら、2011)、股関節内旋可動域の増大(浦辺ら、2001)などが報告されている。しかし、受傷リスクが高いとされる動作および肢位における膝関節の運動力学的特性と、それらの要因としてあげられる身体特性との関係性についての報告は少ない。本研究では、ACL損傷リスクが高いとされる着地動作において、膝関節の運動力学的特性を明らかにし、かつそれらに影響を及ぼし得る身体特性について検討した。これらの結果からACL損傷危険予測因子を明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】 健常女性9名、平均年齢20.8±1.5歳を対象とした。被験者にはPlug-In-Gait Full Bodyモデルに従ってマーカーを身体に貼付し、両手を腰に当てた状態で40cmの台からの着地動作を行い、三次元動作解析装置と床反力計を用いてデータを計測した。着地動作は、LandingとDrop Jumpの2種類を行い、Landingは台からの落下着地、Drop Jumpは接地後すぐに垂直ジャンプをする試行と定義した。接地後膝関節最大屈曲角度の平均が大きい肢を被験肢とし、膝関節最大屈曲時の膝外反角度、および屈曲/外反モーメントを抽出した。身体特性に関しては、Q-angle、大腿骨前捻角、Navicular Drop Test、股関節内旋可動域を測定した。測定データは正規性の検定を行った後、Landing-Drop Jump間の各パラメータの比較には対応のあるt検定、Landing・Drop Jump時の外反モーメントと身体特性との関連についてはステップワイズ法を用いて解析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、埼玉県立大学の倫理委員会の承認を得て遂行した。また、本研究に関する十分な説明を口頭ならびに書面で行い、その上で同意書に署名が得られた被験者を対象とした。【結果】屈曲/外反角度はLandingで86.2°/13.2°、Drop Jumpで69.0°/8.0°であり、どちらもLandingで有意に大きかった(p</I><0.01)。一方、屈曲/外反モーメントはLandingで1420.6N・m/502.0 N・m、Drop Jumpで2459.6 N・m/953.1 N・mであり、どちらもDrop Jumpで有意に大きかった(p</I><0.01)。運動学的データと身体計測データの関係は、Landing時の外反モーメントとQ-angleにのみ影響が示唆された。【考察】Landingと比較してDrop Jumpでは、両脚着地動作時の屈曲/外反角度は小さく、屈曲/外反モーメントは大きいことが示された。屍体膝を用いた研究で、膝関節の屈曲角度が30°~40°と小さい場合の方が、大きい場合よりも下腿の前方引き出しの割合が大きくなることが報告されている(Marcusら、1993)。ジャンプ着地動作時の筋活動に関しては、女性では膝の屈曲角度が小さいほど、大腿四頭筋に対するハムストリングスの活動量比が低いとの報告がある(小林ら、2003)。これら先行研究と本研究結果から、Drop Jumpでは膝関節屈曲角度が有意に小さいため、より下腿の前方引き出しが生じやすい肢位であり、かつ屈曲モーメントは大きい数値であることから、大腿四頭筋の活動量が高くなっていることが推察される。以上のような運動力学的特性から、Drop JumpはLandingに比べ、よりACL損傷のリスクが高いことが示唆された。また、力学的特性と身体特性の関係は、ステップワイズ法によりLanding時の外反モーメントとQ-angleにおいてのみ認められた。その他のデータにおいても膝関節外反モーメントとの相関において一定の傾向性が認められたため、今後被験者数を増やすことで関連が認められる可能性があり、さらなる研究の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では、LandingよりもDrop JumpでACL損傷が発生する可能性の高いことを、その運動力学的動作特性から明らかにした。この結果に併せて、どのような身体特性を持つ人が同様の動作特性をもつのかということが解明されることで、一般的な理学療法評価でACL損傷のリスクが予測可能となり、本研究が予防医学および損傷後の理学療法介入に貢献することが出来ると考える。
  • 長谷川 知子, 矢島 英賢, 波多腰 峰子, 川澄 広大, 古幡 里美, 縄田 昌司, 木村 貞治
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 膝前十字靭帯(以下、ACL)損傷に対して行われるACL再建術は、スポーツ復帰を目的として行われる場合が多い。ACL再建術後(以下、術後)患者のスポーツ現場への復帰基準としては、疼痛、関節可動域、膝筋力、動作能力などが重要視されている。そこで当院では術後の円滑なスポーツ復帰を目的として、術前とスポーツ復帰が許可される術後10か月の前段階である術後4か月、6か月時点における疼痛、関節可動域、膝筋力を評価し、今後の理学療法の指針について検討したので報告する。【方法】 当院にて2011年12月~2012年3月までに半腱様筋腱を移植腱として使用したACL再建術が施行され術後6か月までフォローアップが可能であった症例を対象とした。除外基準はスポーツ復帰目的でない症例、両側ACL断裂例、再々建術例とした。評価として、疼痛をVASにて、膝関節可動域をゴニオメータにて測定した。また、60°/sec、180°/secでの等速性膝伸展・屈曲筋力を等速性筋力測定装置(BIODEX社製、BIODEX System3)を用いて、最大トルク体重比(患側、健側)、健患比を指標として算出した。評価は術前、術後4か月、6か月時点で測定した。VASと最大トルク体重比の相関をスピアマンの順位相関を用いて解析し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会により承認された。対象者には本研究の目的および趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】 上記期間中に処方が出た術後患者は23例でそのうち除外基準に該当せず、術後6か月までフォローアップ可能であった症例は8例(男性3名、女性5名、平均30.5±11.8歳)であった。そのうち半月板損傷合併例は5例であった。各測定項目を術前、術後4か月、6か月の順で示すと、VASは35.0±31.9mm、18.4±28.3mm、12.4±17.7mm、膝関節可動域は伸展0°、-0.6±1.8°、-1.9±2.6°、屈曲148.1±5.3°、150.6±5.6°、151.9±5.9°、最大トルク体重比は60°/secの伸展が患側188.5±54.2%、179.9±60.4%、175.4±49.6%、健側249.0±37.4%、258.5±43.3%、272.6±46.0%、屈曲が患側88.7±22.9%、86.3±32.7%、96.9±27.9%、健側111.7±37.8%、100.2±21.2%、114.2±18.5%、180°/secの伸展が患側137.6±38.2%、127.5±36.82%、126.8±26.4%、健側166.2±27.6%、168.6±43.3%、179.8±27.4%、屈曲が患側77.5±20.1%、70.0±21.9%、78.9±19.5%、健側92.0±21.0%、79.5±21.6%、87.8±12.7%であった。健患比は60°/secの伸展が75.4±16.9%、68.5±18.0%、64.9±18.7%、屈曲が89.0±37.6%、83.5±20.0%、84.2±17.6%、180°/secの伸展が82.8±17.5%、76.6±17.9%、71.1±14.5%、屈曲が87.8±30.6%、89.4±20.1%、89.2±14.1%であった。VASと最大トルク体重比はどの時期においても有意な相関関係は認められなかった。【考察】 今回の結果を先行研究と比較すると、疼痛は先行研究と同様に経時的に減少する傾向にあった。筋力は先行研究と比し患側の伸展がやや低下している傾向にあることから、術後4か月以降の患側伸展筋力の回復の遅延が考えられた。その他の筋力については先行研究の状況と同様であった。また、VASと筋力との間で有意な相関関係が認められなかったことから、必ずしも疼痛が筋力低下の原因とは限らないと考えられた。可動域に関しては術後4か月と6か月で比べた場合大きな変化が認められなかった。これらの結果から当院における術後患者の退院後の関節可動域練習と筋力トレーニングが理学療法場面と自主トレーニングの両方において不十分であった可能性があると考えられた。さらに今回半月板損傷合併例が複数含まれていたことが、筋力回復に影響した可能性も考えられる。以上より、術後10か月以降の円滑なスポーツ復帰を実現するためには、退院後の関節可動域練習と筋力トレーニングをより積極的に実施していくとともに、競技特性を考慮した動作能力のトレーニングとその経時的な評価を実施していくことが課題であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 ACL再建術後患者の継続的な機能状態の調査を含めた退院後のフォローアップ体制のあり方を実際の評価結果を指標として具体的に検討していくことが、円滑なスポーツ復帰を促すための重要な取り組みになると考えられる。
  • ―当院のクリティカルパスの妥当性―
    斉藤 洋志, 田極 薫
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々は第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会において、当院での膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後の患者は平均年齢が高く、スポーツ復帰の目標もレクリエーションレベルが多いことでクリティカルパスからの逸脱者が多いことを報告した。今回は膝関節の伸筋と屈筋について筋力の回復状況を調査し、当院のクリティカルパスの妥当性と今後の課題を引き続き検討することを目的とした。【方法】2005年1月~2012年4月に当院でACL再建術を施行した100名(男性55名、女性45名、平均年齢29±11歳、STG法96名、ST法4名)を対象とし、COMBIT CB-2(ミナト医科学社製)にて等尺性収縮で測定された膝関節伸筋と屈筋の測定値を診療記録から抽出した。まず、術後3ヶ月~18ヶ月の間に測定した352記録より伸筋と屈筋の筋力の回復状況を健患比で3ヶ月毎に比較した。また、術後3ヶ月・6ヶ月・9ヶ月・12ヶ月の全ての期間に測定されていた36名(男性12名、女性14名、平均年齢34±11歳、全てSTG法)について、術側の伸筋と屈筋の筋力の回復状況をトルク値で3ヶ月毎に比較し、分散分析にて比較した。分散分析にはSPSS Ver.12.0を用い、有意水準は5%未満とした。さらに、この36名について年齢と筋力のトルク値に相関があるのか確かめた。【倫理的配慮、説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に基づいて行い、個人情報保護のため得られたデータは匿名化し、個人情報が特定できないように配慮した。【結果】年齢の割合は10代が17%、20代が40%、30代が23%、40代17%であった。術後3ヶ月~18ヶ月の3ヶ月毎の膝関節筋力の健患比の値は、伸筋では術後3ヶ月で64±16%、術後6ヶ月で76±16%、術後9ヶ月で81±14%、術後12ヶ月で82±16%、術後18ヶ月で86±15%であった。屈筋では同様に各々、60±17%、78±17%、82±15%、85±16%、88±12%であった。また、術後3ヶ月・6ヶ月・9ヶ月・12ヶ月のすべての期間に測定されていた36名の膝関節筋力のトルク値は、伸筋では術後3ヶ月で40±16kgf・m、術後6ヶ月で47±19kgf・m、術後9ヶ月で52±20kgf・m、術後12ヶ月で54±22kgf・mであり、有意差を認めた。屈筋では同様に各々、15±5kgf・m、20±7kgf・m、22±7kgf・m、23±7kgf・mであり、有意差を認めた。さらにこの36名の年齢と筋力のトルク値について、伸筋では術後6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月において低い負の相関を認めた(術後6ヶ月 r=-0.234、9ヶ月 r=-0.281、12ヶ月r=-0.323)。屈筋では術後6ヶ月と9ヶ月において負の相関を認め(術後6ヶ月 r=-0.453、9ヶ月 r=-0.403)、術後3ヶ月と12ヶ月において低い負の相関を認めた(術後3ヶ月 r=-0.254、12ヶ月 r=-0.341)。【考察】術後3ヶ月~18ヶ月の3ヶ月毎の膝関節筋力の健患比は順次回復していることが認められた。また、術後3ヶ月~12ヶ月の3ヶ月毎の膝関節筋力のトルク値も順次回復しており、有意差が認められた。しかしながら「術後6ヶ月で伸展筋85%、屈曲筋84%(青野ら2010)」、「術後8ヶ月で伸展筋力89.0±14.5%、屈曲筋力92.9±14.4%(園部ら2011)」という健患比についての報告と比較すると、今回の研究では回復が不十分と言える。この原因として、年齢と筋力のトルク値には相関が認められたことから、当院におけるACL再建術後の患者の年齢が影響していると考えられる。当院では10代よりも20代、30代の患者が多いため、10代が多くを占める他の報告よりも筋力が回復していないと考えられる。また、当院におけるACL再建術後の患者はレクリエーションレベルが多いため、外来通院以外での筋力強化トレーニング環境が少なく、それに対する自主トレーニング指導も不十分であることが予想される。その他、当院では術後3ヶ月以降はステップ練習が中心となるため、筋力強化の要素が少ないことも一因と考える。【理学療法学研究としての意義】今回の研究により、当院におけるACL再建術後の膝関節の筋力回復状況が明らかとなった。また、当院におけるACL再建術後の患者の筋力回復状況には患者の年齢の高さが影響していることが示唆された。今後は筋力強化トレーニングを実施できる環境設定や自主トレーニングの指導方法の確立、プログラム内容の変更も課題と考え、クリティカルパスの改善が必要と考える。
  • モーションレコーダ,3次元動作解析装置,表面筋電計を用いて
    合津 卓朗, 徳田 一貫, 羽田 清貴, 田中 泰山, 吉田 研吾
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 臨床において,変形性膝関節症(Knee osteoarthritis:以下,膝OA)患者の症状として,荷重時の膝痛を訴えることが多い.そこで我々は,下肢荷重対応の簡易評価として片脚立位動作を指標としている.しかし,我々の渉猟の範囲では,膝OAにおける片脚立位時の運動学的解析や筋電図学的解析を行った報告はない.そこで本研究は,膝OA患者の片脚立位動作における単脚支持移行期のバイオメカニクス的特徴を捉えることで,理学療法アプローチの指標とすることを目的として行った.【方法】 被検者は膝OA群13人 (66.6±7.4歳,K/L分類:gradeI:5人,gradeⅡ:5人,gradeⅢ:3人,gradeⅣ:1人,身長158.6±6.3cm,体重55.6±4.4kg),過去に膝関節痛の経験を有さない対象群10人 (56.1±6.8歳,身長153.5±7.0cm,体重63.4±16.9kg)である. 課題動作は,膝OA側の下肢を支持脚(両膝OAの場合は,より疼痛の強い下肢)とし,重心動揺計(アニマ社製)上で両上肢を体幹前方で組んだ状態から,検者の合図から5秒間の片脚立位保持(5秒未満で遊脚側が接地した場合は,接地を動作終了とした)を計3回行った.下腿側方加速度の測定は,8チャンネル小型無線モーションレコーダ(Microstone社製,MVP-RF8)を大腿の質量中心部と下腿の質量中心部に相当する部位(共に同部位の遠位から57%の位置)の二ヵ所にそれぞれ装着し測定した.下肢の各体節角度の測定は,臨床歩行分析研究会が推奨する方法に準拠して,身体各部位の計22か所に直径30mmの反射マーカーを貼付し,3次元動作解析装置Kinema Tracer(キッセイコムテック社製)を使用し,身体運動を計測した後に得られた位置データから関節中心点座標を算出して,片脚立位動作時の各体節角度を求めた.同時に下肢筋群の筋活動を測定するために,表面筋電計km-Mercury (メディエリアサポート社製)を使用した.サンプリング周波数は1000Hzとし,被検筋は,大殿筋,中殿筋,大腿直筋,内側広筋の計4筋とした.各被検筋の徒手最大収縮時の積分値(IEMG)を求め,動作時のIEMGは,徒手最大収縮時のIEMGに対する筋活動の割合(%IEMG)を算出した.解析区間は,重心動揺計より得られた足圧中心を基に,動作開始は足圧中心が遊脚側へ動き出す瞬間を(α),足圧中心が遊脚側へ最大移動した瞬間を(β),遊脚側の踵離地の瞬間(床反力OFFの瞬間)を動作終了(θ)とした.(α)から(β)を第I相,(β)から(θ)を第Ⅱ相とした.また,同期ケーブルにて同期を行い,各データの時間が異なるため100%に正規化し,各試行3回の平均値を代表値として解析を行い,下腿内外方傾斜加速度,下腿外方傾斜角度,下肢筋活動,股関節内外転角度を各相で解析,比較検討した.両群間の差の検定において,統計処理ソフトR2.8.1を使用し,正規性を認めた場合は二標本t検定,その他はMann-WhitneyのU検定を行った.なお危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,当院倫理委員会の了承を得て行った.また,研究に先立ち,文章による説明を行い同意が得られた後に行った.【結果】 第Ⅱ相における大腿直筋活動は,膝OA群が対象群よりも有意に大きかった(p<0.05).第Ⅱ相における立脚側股関節内転角度は,膝OA群が対象群より有意に小さかった(p<0.05).下腿外方傾斜加速度は,膝OA群と対象群間での有意差は認めなかった.下腿外方傾斜角度は,膝OA群と対象群間での有意差は認めなかった.【考察】 今回の結果からは,片脚立位動作時の運動制御として,下腿傾斜角度および加速度では有意差を認めなかった.その要因として,膝OAの重症度が比較的軽度であったことや膝OAの初期では膝関節に加わる衝撃の軽減を図る対応行っていると推察した.膝OA群は単脚支持に移行する際,大腿直筋の過剰収縮により膝関節の安定化を図り,股関節外転による荷重対応を行うことで膝関節へ生じる内反モーメントを低減するための荷重対応を図っていることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 膝OAの理学療法として,大腿直筋の活動を抑制し単脚支持移行期において,股関節内転に伴う荷重対応を促すアプローチが必要であることが示唆された.今後は追跡調査を行い,重症度別の運動学的要因の検討を行っていく必要がある.
  • 二木 良平, 武田 直樹, 山中 正紀, 島田 勝規
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下、膝OA)は、高齢者における疼痛と機能障害の主要な原因の一つであり、本邦での高齢人口の有病率は61.9%である。膝関節内側コンパートメント負荷の代替値であり、疾患進行と関連する外的膝関節内反モーメント(以下、膝内反モーメント)は膝OA患者の歩行研究で広く研究されてきた。 体幹側方傾斜の偏倚は下肢の運動器疾患において除痛や、筋力低下の代償のため比較的よく見られる現象であり、重度膝OA患者や変形性股関節症患者に実施される人工股関節全置換術(以下、THA)後の患者の歩行分析で報告されている。体幹側方傾斜の偏倚が、偏倚側下肢の膝内反モーメントを減ずることが報告されている一方、重度膝OA患者やTHA患者の非偏倚側膝関節においては、増加した膝内反モーメントや膝OA変化が報告されている。体幹側方傾斜の偏倚が非偏倚側下肢の膝内反モーメントに及ぼす影響は報告されておらず、その影響を詳細に知ることはこれらの病態の理解を深めることにつながると考えた。本研究の目的は、歩行時の体幹側方傾斜の偏倚が両側の膝内反モーメントに及ぼす影響を調査することである。【方法】 偏倚の効果が重症度やアライメント変化等によって不明確になることを除外するため、健常若年者15名15肢(男性15名、年齢:22.0±2.0歳、身長:171.6±4.3cm、体重:65.9±7.6kg)を対象とした。データ収集には三次元動作解析装置と6台のデジタルカメラ、2枚の床反力計を使用した。同一下肢での比較を達成するために、検査対象下肢を一側に定めた。動作課題は通常条件、通常条件と比較して、立脚側に体幹側方傾斜を偏倚する同側偏倚条件、立脚側に対して反対側に偏倚する反対側偏倚条件の3条件で、各条件3回の試行を記録した。体幹側方傾斜角度の決定方法は、先行研究に準じて、実験室座標系の垂直線と第10胸椎棘突起と第2胸椎棘突起に設置した赤外線反射マーカーを結んだ線の成す角度と定義した。同側偏倚条件と反対側偏倚条件について、被検者の背後からゴニオメータを使用して、5°の角度に設定し、その角度を維持したまま、通常歩行と同様の歩行速度で歩行するように指示した。 収集したパラメータは、各条件時の体幹側方傾斜の歩行周期平均角度、歩行速度、垂直床反力の立脚期ピーク値、体重心と膝関節中心の水平距離と膝前額面上レバーアーム長の立脚期平均値、膝内反モーメントの立脚期ピーク値と立脚期積分値であった。統計解析は各被検者の条件ごとのパラメータに関して、反復測定一元配置分散分析を使用して3条件の比較を行った(p<0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 被検者には実験前に本研究内容についての説明を口頭と書面により行い、実験参加に対する同意を得て実験を実施した。本研究は北海道大学院保健科学院の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 体幹側方傾斜の歩行周期平均角度は3条件間で有意に異なり、歩行速度、垂直床反力立脚期ピーク値に3条件間の有意差はなく、条件設定は確実に達成された。体重心と膝関節中心の水平距離、膝前額面上レバーアーム長の立脚期平均値はどちらも通常条件と比較して、同側偏倚条件で有意に短く(p<0.001)、反対側偏倚条件で有意に長かった(p<0.001)。膝内反モーメントは、3つのパラメータにおいて、通常条件と比較して、同側偏倚条件で有意に減少し(p<0.05)、反対側偏倚条件で有意に増加した(p<0.05)。【考察】 本研究において、体幹側方傾斜の偏倚が膝内反モーメントに与える影響が明らかになった。今回生じた膝内反モーメントの変化は、体幹側方傾斜の偏倚によって、身体重心の分布に偏倚が生じ、膝前額面上レバーアームが変化したために生じたものと考えられる。体幹側方傾斜の反対側偏倚は、立脚側下肢の膝内反モーメントを増加し、膝OA発症や進行のリスクを増大すると考えられる。この結果から、重度膝OA患者やTHA患者の患側や術側への体幹側方傾斜の偏倚は、健側や非術側で増加した膝内反モーメントや膝OA変化に関与している可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 体幹側方傾斜の偏倚は重度膝OA患者やTHA患者の歩行分析で報告されている。体幹側方傾斜の偏倚は偏倚側下肢の膝内反モーメントを減ずる一方、非偏倚側下肢の膝内反モーメントを増加する。重度膝OA患者やTHA患者のリハビリテーションにおいては、体幹側方傾斜の偏倚に注意した取り組みが求められる。
  • 山田 英司
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 内側型変形性膝関節症(以下膝OA)は関節軟骨に対する力学的負荷の繰り返しと蓄積により、軟骨の変性・破壊、それに続く関節辺縁や軟骨下骨における骨の増殖性変化を呈する疾患であり、その発症には異常な力学的負荷が関与していることが明らかになっている。外部膝関節内反モーメント(knee adduction moment:以下KAM)は膝関節内側コンパートメントに生じる圧縮負荷を反映する指標とされている。よって、KAMを減少させるメカニズムを明らかにすることが、膝OAに対する保存的理学療法の戦略を確立する上で重要である。我々は重症度の高い膝OAでは歩行時のKAMとステップ長との間に負の相関関係があることを報告した。ステップ長は骨盤の回旋、前足と後足の各関節の角度により規定されるため、それぞれの因子とKAMとの関連性を明確にする必要がある。 本研究では床反力計と三次元動作解析装置を用いて歩行解析を施行し、重症度の高い膝OAにおける歩行時のKAM、ステップ長と骨盤の回旋角度、前足、後足の股関節、膝関節、および、足関節角度との関係について検討した。【方法】 対象は片側性または両側性膝OAと診断された男性5名、女性10名(平均年齢70.0歳)の15肢とした。両側性膝OAではより疼痛が強く、Kellgren-Lawrence分類で重症度の高い肢を計測肢とした。測定下肢の内訳はgrade3が10名、grade4が5名であった。 歩行時の床反力とKAMは床反力計(AMTI社、Watertown)と三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion System社、Oxford)を用いて計測した。歩行条件は、裸足で自由歩行速度とした。マーカーは31カ所に貼付し、解析ソフトBodyBuilder(Vicon Motion System社、Oxford)を用いて、KAM、歩行速度、およびステップ長を算出した。また、前足の接床時の重心位置を床面に投影した点から前足踵部マーカーまでの距離(以下、前ステップ長)、後足踵部マーカーまでの距離(以下、後ステップ長)を算出した。また、同時期の骨盤回旋角度と股関節、膝関節、足関節の矢状面の角度を算出した。なお、KAMは最大値を求め、体重で正規化した。全ての値は3歩行周期の平均を算出した。まず、KAMとステップ長、前ステップ長、および後ステップ長との相関関係を検討した。そして、前ステップ長と骨盤の回旋角度、前足の各関節角度との関係を、また、後ステップ長と骨盤の回旋角度、後足の各関節角度との関係を検討した 統計学的検定にはPearsonの相関係数を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての被検者には研究の目的、内容を説明し、文書による同意を得た。【結果】 前ステップ長は12.4±3.5cm、後ステップ長は31.0±3.8cmであった。KAMとステップ長、および前ステップ長との間に有意な負の相関関係を認めたが(p < 0.05, r = -0.530)、(p < 0.05, r = -0.531)、後ステップ長との間には相関関係を認めなかった。前ステップ長は足関節背屈角度のみと有意な正の相関関係を示した(p < 0.05, r = 0.540)。後ステップ長と骨盤の回旋、各関節角度との間には有意な相関関係を認めなかった。【考察】 KAMと前ステップ長、および後ステップ長との関係では、前ステップ長が有意な負の相関関係を示し、前ステップ長と足関節背屈角度との間に有意な相関を示したことから、足関節背屈角度がKAM、および前ステップ長に影響を及ぼす重要な因子であることが示唆された。骨盤、および各関節角度との間に相関関係が認められなかったことは、膝OAの病態の多様性を反映していると考えられた。 膝OAではKAMと前ステップ長との間に負の相関関係を認めることから、KAMを減少させることを目的とした保存的理学療法では、接床時の足関節背屈角度を増加させるメカニズムを考慮した運動療法を行い、前ステップ長を増加させることが治療戦略の一つになる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 膝OAではKAMと前ステップ長との間に負の相関関係があり、足関節背屈角度と有意な相関関係を認めることを明らかにしたことにより、KAMを減少させることを目的とした保存的理学療法の治療戦略の根拠を示したことである。
  • 浅枝 諒, 岩城 大介, 細 貴幸, 島田 昇, 折田 直哉, 出家 正隆
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】反復性膝蓋骨脱臼(以下、RPD)は軽微な力で容易に膝蓋骨脱臼を繰り返し、再脱臼を繰り返すことで日常生活動作においても障害を起こすことが多い。しかしRPDに関する研究はほとんどが膝蓋骨の形態など解剖学的なものであり、脱臼や脱臼不安感が生じる荷重下での動作解析を報告したものは少ない。そこで本研究では不安感が生じる歩行動作に着目し、不安感の出現やRPDが膝関節に与える影響を歩行時膝関節運動から検討することを目的とした。【方法】被験者はRPDと診断を受けた女性6名(平均年齢18.6±4.4歳)のRPD群、及びRPD群と同等の属性をもち、下肢関節に整形外科的疾患を有さない健常女性6名(平均年齢21.5±1.6歳)の対照群であった。課題動作は10mの歩行路を被験者に至適速度で歩くこととした。歩行中の運動学データは、脛骨内外旋や前後移動量を含めた膝関節微細運動が測定可能なPoint Cluster法を参考に、赤外線反射マーカーを骨盤、両下肢に計26個身体に貼付した。運動学データは赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析装置VICON612(Vicon社製)を用いて計測し、同時に床反力計4基(AMTI社製)を用いて運動力学データを計測した。得られたデータを基にWorkstation(Vicon社製)、Bodybuilder(Vicon社製)を使用し、Point Cluster法を用いて膝関節屈伸、内外反角度、脛骨内外旋角度、脛骨前後移動量を算出した。また逆動力学解析により内部膝関節屈曲・伸展モーメント、外部膝関節内反・外反モーメントを算出した。解析データは静止立位からの変化量を求め、1歩行周期を100%に正規化した。各パラメータの値は3歩行周期の平均値とした。統計学的解析は統計ソフトウェアSPSSVer.19.0 for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い、RPD群と対照群との比較には対応のないt検定を用いた。なお有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当大学院保健学研究科倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者は自らの意思に基づき本研究に参加し、測定前に研究の意義、目的について十分に説明し、口頭及び文書による同意を得た後に実施した。【結果】膝外反角度は、立脚初期(14~20%)、遊脚終期(80~91%)でRPD群が対照群と比較して有意に増大した(p<0.05)。脛骨内旋角度は、立脚初期~立脚中期(8~30%)、遊脚期(61~79%、82~86%)でRPD群が対照群と比較して有意に増大した (p<0.05)。しかし、膝関節屈曲伸展角度、脛骨前後移動量は両群間に有意な差は認められなかった。また立脚期における内部膝関節伸展モーメント、外部膝関節内反モーメントのピーク値も両群間に有意な差は認められなかった。【考察】膝蓋骨の脱臼素因の1つに外反膝があるが、本研究において荷重下(立脚期)、非荷重下(遊脚期)ともに外反角度の増大を認めた。RPDでは動的状態の歩行においても膝関節は外反し歩行時に脱臼リスクが増大していると考えられ、RPDの歩行時脱臼不安感は膝関節外反角度増加が要因となる可能性がある。またRPDの脛骨内外旋運動に関して、非荷重下膝伸展運動においては膝蓋骨の外方偏移を防ぐために正常とは異なる伸展に伴う脛骨内旋運動が生じることが先行研究で示されている(森ら、1998)。本研究では立脚期における脛骨内旋角度の増大を認め、さらに膝伸展運動は正常関節運動と同様であったことから、歩行立脚期のような荷重下においても膝蓋骨外方偏移を防ぐ伸展に伴う脛骨内旋運動が生じている可能性が考えられる。膝伸展に伴う脛骨内旋運動のような非生理的回旋運動は膝蓋大腿関節、脛骨大腿関節へのshearing stressを増大させ、2次的に関節構成体の損傷を引き起こすかもしれない。本研究から、RPDは脱臼リスクの高い歩行と、脱臼を防ぐ代償運動から膝関節へのストレスを増大させる歩行を兼ねていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は、RPDの歩行時膝関節運動の特徴を明らかにしたことである。またRPDは内側膝蓋大腿靭帯再建術などの観血的治療が適用されることが多いが、受傷から手術までの保存的治療期間での理学療法において膝外反角度増大や伸展に伴う脛骨内旋運動を考慮する必要性も示唆された。
  • 吉田 研吾, 徳田 一貫, 羽田 清貴, 合津 卓朗, 田中 泰山, 奥村 晃司, 川嶌 眞人
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 降段動作は,一側下肢で身体を支持し,各関節周囲筋の遠心性収縮によって,身体重心を前下方へ移動させる動作であり,日常生活において頻繁に行う動作のひとつである.先行研究において,変形性膝関節症(以下,膝OA)患者の歩行動作に関する報告は数多くなされているが,階段降段動作に関する報告は少ない.また,臨床上,歩行と比較して,動作獲得や疼痛軽減を図る上で難渋する課題のひとつに挙げられる.本研究は,三次元動作解析装置を用いて,降段動作における運動学的特徴を比較・検討し,動作遂行困難や膝OAの病態進行に繋がる要因を明らかにすることを目的に行った.【方法】 対象は,膝関節に既往のない対照群10人(女性10人,平均年齢56.8±7.6歳)と膝OAと診断された膝OA群12人(女性12人,平均年齢61.0±7.2歳).膝OAの病期分類(Kellgren-Lawrence分類)は,Grade1が5人,Grade2が4人,Grade3が3人であった.計測は,三次元動作解析システム Kinema Tracer (キッセイコムテック社製)を使用した.左右の肩峰,最下肋骨下縁,上前腸骨棘,上後腸骨棘,大転子,膝関節裂隙,外果,第5中足骨頭に直径30 mmの蛍光マーカを貼付した.課題動作は,高さ15.5cmの台から二足一段で降段動作を行い,自由速度にて,3回施行した.測定肢は後脚下肢とし,対照群は右下肢を,膝OA群は膝OA側の下肢,両膝OAの場合は,重症度が高い下肢を選択した.非測定肢のつま先離地からつま先接地までを解析範囲とし,つま先離地から立脚側への重心移動が最大となる時期を立脚初期,立脚側への重心移動が最大となった後からつま先接地までを立脚後期と定義し,身体重心の変化量,身体重心と膝関節中心間の距離の変化量,身体体節角度の変化量の解析を行った.算出したデータは100%正規化を行った後,3回試行の平均値を被験者の代表値として採用した.統計学的解析は,統計解析ソフトウェアDr.SPSSⅡfor windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用いて,対応のないt検定を行い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 当院の倫理委員会の承諾を受けた上で,対象者には,ヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨を口頭および文書にて説明した.同意が得られた場合のみ測定を実施した.【結果】 身体重心の移動は,被験者全て,つま先離地後に立脚側へ移動し,その後,遊脚側へ移動していた.立脚初期における身体重心の立脚側への移動量は,膝OA群が対照群と比較して,有意に小さかった(p<0.05).立脚後期における身体重心の遊脚側への移動量は,膝OA群が対照群と比較して,有意に大きく(p<0.01),前額面上での身体重心と膝関節中心間の距離の変化量も膝OA群が対照群と比較して,有意に大きかった(p<0.01).関節角度変化量において,体幹の遊脚側への傾斜量は,膝OA群が対照群と比較して,有意に大きく(p<0.01),対照群は立脚側に傾斜するのに対し,膝OA群は遊脚側への傾斜が認められた.骨盤の遊脚側への傾斜量は,膝OA群が対照群と比較して,有意に大きかった(p<0.01).大腿の外側傾斜量は,膝OA群が対照群と比較して,有意に大きく(p<0.01),下腿の外側傾斜量は,膝OA群が対照群と比較して,有意に大きかった(p<0.05).【考察】 膝OA群では,立脚初期における身体重心の立脚側への移動量が小さく,体幹および骨盤の遊脚側への傾斜量が大きいことから,これらが降段動作時に身体重心の遊脚側への移動量が対照群と比較して,大きくなった要因として考えられる.体幹・骨盤の遊脚側への傾斜に伴い,身体重心の遊脚側への移動量が大きくなることで,前額面上での身体重心と膝関節中心との距離が対照群と比較して,大きくなったことが考えられる.前額面上での身体重心と膝関節中心間の距離が大きくなることに加え,大腿および下腿の外側傾斜量が大きくなる結果から,膝関節への内反モーメントが増大していることが推察される.これらの動作戦略となる要因として,立脚側下肢の支持機能低下により,立脚初期において,身体重心を立脚側へ移動できないことや体幹・股関節機能低下により,体幹・骨盤の遊脚側への傾斜を制御できないことが推察される.膝OA群の降段動作における動作戦略は,結果として,膝関節への内反モーメントが増大することで,膝関節内側部への圧縮力を高め,関節破壊・膝OAの病態を進行される恐れがあることが推察された.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,膝OA患者の降段動作における前額面での運動学的特徴を捉え,動作遂行困難や膝OAの病態進行に繋がる要因を明らかにすることを目的に行った.今回の知見から,臨床応用として,膝OAの病態進行を予防するために,股関節・体幹機能改善により立脚側下肢の支持性向上を図り,適切な下肢荷重を促す必要性が明らかとなった.
  • 土橋 純美, 福本 貴彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】足指握力が身体機能において重要な役割を持っているとの報告は多い.足指握力は安静立位時の姿勢調節を行っているとの報告や,足指握力強化による転倒リスク軽減の可能性,歩行能力向上の報告もある他,トップアスリートのパフォーマンスにおいても重要な役割を担っているとされている.また,扁平足では運動能力が劣ることが一般常識とされている.扁平足の子供はそうでない子供と比較して,片脚立位などの運動課題において成績が劣るとの報告や,立ち幅跳びや50m走などにおいて,アーチ未形成者は形成者に比べて成績が劣るとの報告がある.以上より,足指握力及び足部アーチは種々の身体機能面において重要であると言えるが,その関係性についての報告は少なく結果も様々である.また,足指握力の測定肢位は膝関節屈曲90°の端座位姿勢がよく選択されるが,日常的に足指機能を発揮しているのは歩行時や運動時など,荷重下の場合がほとんどであると思われる.荷重下で足指握力を測定することで,より日常生活上での能力として反映されると考えた.本研究の目的は,足指握力の測定を荷重下で行い,足指握力に影響を及ぼすとされるアーチ高率との関連性を検討することである.【方法】日常生活に支障を来たすような疼痛のない健常女子大学生24名(身長160.0±5.2cm,体重56.0±9.4kg,BMI21.9±3.5kg/m²).利き足はボールを蹴る足と定義し,全員右側であった.計測は全て自然立位下で行った.足長は,踵骨後端から最も長い足指先端までの直線距離とした.アーチ高は,床面から舟状骨粗面までの高さとした.アーチ高率は,足長に対する舟状骨粗面高の割合を算出した.足指握力は,足指筋力測定器(T.K.K.3362 武井機器工業株式会社)を用いて左右交互に2回計測し,平均値を採用した.統計処理は,足指握力とアーチ高率の関係性をみるために相関係数を算出した.有意水準は0.05未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の十分な説明を口頭及び文書にて行い,書面にて同意を得た.【結果】アーチ高率の平均は右側15.7±2.6%,左側15.9±2.8%であった.足指握力の平均は右側21.7±7.3,左側20.0±7.1であった.右側のアーチ高率と足指握力に有意な相関関係は認められなかった(p=0.35).左側のアーチ高率と足指握力にも有意な相関関係は認められなかった(p=0.20).その他,左右の足指握力と各体格要因(身長,体重,BMI,アーチ高)との間にも有意な相関関係は認められなかった.【考察】荷重下での足部アーチの高低が足指握力に及ぼす影響について検討した.足指握力に影響を与える因子として,アーチ高率が高いほど足指握力が強いという報告があるが,本研究の結果はこれとは一致しない.アーチ高率に関しては,体重負荷によって低下することが予想される.端座位の場合,足部にかかる荷重は下肢の重さ(体重の1/6)のみであるとされているが,立位姿勢となると全体重が足部に負荷される.これによりアーチが低下し,足指屈筋が伸張位となることで,充分な足指の屈曲が得られなかったのではないかと考えられる.また,一般的に筋力と体重には相関があるとされているが,足指握力に関しては,立位姿勢では足指が体重支持(バランス)に強く働き,座位姿勢時よりも筋力を発揮出来なかったのではないかと考えられる.【理学療法学研究としての意義】足指握力を荷重下で測定することによって,足指握力に影響を与える因子として考えられているアーチ高率との関連性を認めなかった.つまり測定肢位を変化させることでアーチ高率は足指握力に関与しなくなったと考えられる.よって,荷重によってアーチが低下しても,足指握力には影響を与えないということが示唆された.立位姿勢で足指握力を測定することは,特に高齢者やバランス障害のある患者においてはそれだけで危険な行為であり,足指握力に関連する因子も見出せない.そのため,足指握力の測定肢位は,荷重下である立位姿勢よりも,一般的に選択されている端座位姿勢が臨床的に有用であり,かつ安全であると考えられる.
  • 西 恒亮, 小保方 祐貴, 長谷川 惇
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 外反母趾は,疼痛がなければ放置することが大半であり,また,発生原因についても靴等の種々の要素が指摘されているが明確にはなっていない.歩行解析は,外反母趾例の歩行の特徴や発生原因を検討するために行われているが,手術例に対し経時的に歩行時足圧分布の変化について検討した報告は少ない.本研究の目的は,外反母趾形成術例の歩行時足圧分布を定期的に測定し,その経時的変化について明らかにすることである.【方法】 対象は,当院にて外反母趾形成術を受けた8症例で、年齢は67.0±6.1歳、性別は全員女性であった。術側は右が3症例、左が5症例で、術式は8症例がlapidus法であり,この術式の特徴は外反母趾の変形の強制と同時に,第1中足足根関節を固定する方法である.うち1症例がlapidus法と第2中足指節関節形成術を同時に行った症例であった。測定は,Medi capture社製のwin-podを用いた.サンプリング数60Hzにて自由裸足歩行を6回行い,自由歩行となる4歩目以降にて,歩行時の足底圧を左右3回測定し,その平均を求めた.測定項目は力,最大圧,平均圧とし,win-podの解析ソフトのエリア分析を用い,後足部,中足部,前足部外側,前足部中央,前足部内側,母趾に分けて算出した.足底圧測定は術前,術後3か月,6か月,12か月に行い,また,医師の治療上の必要から撮影された術前術後のレントゲン像より外反母趾角(以下HV角),第1,2中足骨間角(以下M1M2角)を求めた.統計解析にはSPSS ver.17.0 for windowsを使用し,Wilcoxonの符号付順位検定を用い,術前と術後3か月,術後6か月,術後12か月,術後3か月と術後6か月,術後12か月,術後6か月と術後12か月,そして,HV角とM1M2角の術前術後の差を求めた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言を遵守し,外反母趾の治療のため手術を目的に当院に入院した症例に対し,当院で通常診療として実施している測定データを本研究に使用することを口頭にて説明し,書面にて同意を得た方を対象に測定データを使用した.【結果】 HV角,M1M2角に関して,ともに有意な改善が認められた(HV角術前47.4±8.7°術後18.03±5.6°p<0.05,M1M2角術前20.6±3.8°術後7.3±3.7°p<0.05).また,足圧分布に関して力,最大圧,平均圧ともに,後足部は術後3か月,術後6か月、術後12か月と増加する傾向があった。これに対して、中足部と前足部外側では逆に減少する傾向がみられた。前足部内側と母趾では術後3か月,術後6か月,術後12か月すべてにおいて術前よりも力,最大圧,平均圧それぞれに有意な増加を認めた(p<0.05).【考察】 外反母趾形成術により,HV角,M1M2角はともに有意な改善を認めた.また,歩行時足圧分布は,力,最大圧,平均圧ともに術後3か月,術後6か月,術後12か月と経時的に後足部にて増加,中足部,前足部外側にて減少,前足部中央,前足部内側,母趾にて増加といった変化がみられた.特に変化が大きかったのは母趾と前足部内側であった.これらの結果は,外反母趾形成術による形態の改善が前足部内側荷重と母趾荷重を改善させ,少なくとも術後6か月には歩行時のpush offが確実に可能になったことを示唆している.よって,同術式が形態の改善のみならず,機能改善に寄与することが明らかとなり,足部形態と歩行機能に関係性があることが分かった.また,有意差は認めなかったが後足部や中足部の足圧分布の変化の傾向に関しては,今後,実際の歩行スピードの変化や第1リスフラン関節部でのアーチ高の変化を検討していきたいと考える.【理学療法学研究としての意義】 外反母趾形成術後の歩行時足圧分布の変化を経時的,かつ12ヶ月間の長期にわたりに追跡したことは,長期的な観点からの外反母趾形成術症例の歩行能力の変化を説明するための知見として意義が高い.
  • 福迫 剛, 橋口 円, 俵積田 光宏, 上村 明子, 俵積田 麻里, 岩川 良彦, 原 光一郎, 有島 善也, 南川 義隆
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】関節リウマチ(以下RA)の足趾の変形は外反母趾とともに疼痛を生じることが多い。このような足趾の変形の観血的治療として足趾関節形成術を施行することがある。術後の足趾の調整のために従来は義肢装具業者に依頼して硬性の足趾装具を作製していたが術後の腫脹が軽減するまでの約3週間は装具を作製することができず,術後早期からの足趾アライメントの調整ができない。また,装具業者に依頼しても腫脹の軽減や足趾アライメントの変化に応じた迅速な対応が困難なことが多い。これらのことからなるべく術後早期から足趾アライメントを調整するために各足趾の内外反の矯正だけでなく屈曲伸展方向の調整も可能となる足趾装具(hanging toe brace 以下HTB)を当院で作製し,術後2日~1週間で装着,術後2~3ヶ月間は24時間装具を装着している。術後,抜糸するまでの約2週間は硬性のHTB(以下HTB hard)を使用し,抜糸後は約2~3ヶ月間,軟性のHTB(以下HTB soft)を使用する。今回,外反母趾変形に対して母趾中足基節関節の人工関節置換術(Swanson flexible hinge toe implant)を併用した足趾関節形成術を施行した症例の術前から術後の変化を評価し,足趾のアライメントの経時的変化と装具の有効性について検討したので報告する。【方法】被験者はRA患者12例(男性2例,女性10例)22足を対象とした。年齢は平均59.2±10.8歳(45歳~80歳)であった。術後に当院で作製したHTBを使用した16足とHTBを使用しなかった6足(従来の足趾装具を使用した4足と装具を使用しなかった2足)を対象とし,足趾のアライメント評価はX線による外反母趾角度(以下HV角)で評価した。HV角は術前,術直後,術後1週,術後3週,術後3ヵ月,最終(術後9ヵ月~3年,平均14.3±7.6ヵ月)の6期に分けて比較検討した。今回はHTBを使用した16足を最終でHV 角20°以下8足とHV角21°以上8足に分けた。HTB未使用6足をHTB未使用群,HTB使用HV角 20°以下をHTB使用正常群,HTB使用HV 角21°以上をHTB使用外反群とし,各群でHV角について各期ごとにTukey testによる多重比較検定を行い,3群間で各期ごとにDunn法による多重比較を行った。統計処理での有意水準は5%以下とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象となる症例には研究の内容を説明し,同意を得た。【結果】3群の各期での比較では,HTB未使用群,HTB使用正常群とも術前と全期間でのみ有意差がみられた。HTB使用外反群では術前と全期間だけでなく術直後と最終との間に有意差がみられた。3群間各期ごとの比較では,HTB未使用群-HTB使用外反群での術前で有意差がみられた。HTB使用正常群-HTB使用外反群では、術後3週,術後3ヶ月,最終でのみ有意差がみられ,HV角平均値の差も術後3週から最終まで徐々に拡大していった。HTB未使用群で術後に装具を使用しなかった2足趾は最終でもHV角は正常域内で良好であったが,母趾以外の足趾のアライメントは不良であった。【考察】3群とも術前と全期の間に有意差がみられ,HTB使用外反群では術直後と最終の間にも有意差がみられた。また,HTB使用正常群とHTB使用外反群の各期ごとの比較では術前から術後1週までの有意差は認められなかったが,術後3週から術後3ヶ月,最終に有意差がみられ,HV角平均値の差も術後3週から最終まで徐々に拡大していった。これらのことから人工関節置換術によりHV角は改善されるが,HTBを使用しても最終でHV角が21°以上の場合は術後3週からHV角が増悪する可能性が示された。HTBを使用してもこのように差異が生じたのは,術後の母趾の矯正が不十分であったことが要因と思われ,術後3週ですでにHV角が有意に増悪していたことから抜糸が施行される術後2週間までの母趾の調整が重要であると思われる。つまり、術後2週間までに術後の母趾の矯正が十分にできなかったことが最終時における外反母趾の再発につながったと考えられる。HV角のHTB未使用群とHTB使用外反群の各期ごとの比較では,術前のHV角でのみ有意差が認められ,HTB未使用群のHV角が有意に低値であったことから術前の外反母趾が高度でもHTBを使用することにより一定の効果はあったのではないかと考えられる。HTB未使用群で装具を使用しなかった症例では母趾以外の足趾のアライメントは術前の状態に戻っていたことから,外反母趾の程度が軽度でも他足趾の変形が高度であると術後に術前の状態に戻りやすいと考えられ,術後の母趾以外の足趾のアライメント調整も重要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】足趾関節形成術後早期から足趾のアライメント調整ができる装具を使用することで術後の足趾変形の再発を防止することができる。
  • 超音波画像を用いての検討
    福原 隆志, 坂本 雅昭, 中澤 理恵, 川越 誠, 加藤 和夫(MD)
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】足関節底背屈運動時には,腓骨の回旋運動が伴うとされている.しかしながら,回旋方向についての報告は一定の見解を得ていない.また,先行研究は屍体下肢を用いての報告がほとんどであり,生体を対象にした報告はほとんど行われていない.本研究の目的は,Bモード超音波画像を用い,足関節底背屈運動時の腓骨外果の回旋運動について検討するものである.【方法】対象は,足関節に既往のない健常成人男女5名(24.6±2.5歳)の足関節10肢とした.測定姿位は,長坐位にて膝30°屈曲位とした.超音波画像診断装置(LOGIQ e,GEヘルスケア,リニア型プローブ)を用い,腓骨外果最下端より3cm近位部にて足関節前外方よりプローブを当て,短軸像にて脛腓関節を観察した.被験者は自動運動にて足関節背屈及び底屈運動を行った.足関節最大背屈時及び足関節最大底屈時において,脛骨及び腓骨の運動方向を画像上にて確認した.また脛骨及び腓骨間の距離を画像上にて0.01cm単位で測定した.さらに脛骨及び腓骨の接線を描画し,両者の成す角を0.1°単位で測定した.なお,測定は1肢につき3回行い平均値を測定値とした.なお,測定はすべて同一検者1名で行った.統計学的解析方法として,足関節背屈時と底屈時に得られた測定値についてWilcoxonの符号付順位和検定を用い検討した.解析にはSPSS ver.17を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者全員に対し,研究の趣旨について十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】全ての被験者において,関節背屈時に腓骨の外旋が観察された.また,足関節底屈時には腓骨の内旋が確認された.脛骨及び脛骨間の距離は,底屈時では0.27±0.08cm,背屈時では0.36±0.13cmであり,底屈時と比べ背屈時では有意に距離は開大していた(p<0.01).脛骨及び腓骨の接線の成す角は,底屈時では4.8±5.8°,背屈時では10.0±6.42°であり,底屈時と比べ背屈時では有意に角度は増加していた(p<0.01).【考察】足関節の運動学は理学療法実施上,注目すべき重要なポイントであると考えられる.しかしながら足関節底背屈運動時における腓骨の運動方向について,これまで一定の見解を得ていなかった.今回の結果から足関節の自動運動時において,背屈時には腓骨は脛骨に対し外旋し,底屈時には内旋することが明らかとなった.今回の知見を活かすことで,足関節に対する理学療法実施の際,より適切なアプローチを実施することが可能となると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究は足関節底背屈運動に伴う脛腓関節の運動について明らかにし,適切な理学療法実施のための一助となる研究である.
  • 小倉 正基, 今枝 裕二, 阿部 光, 富田 正身, 福田 卓民
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】足関節の可動性が低下することで立位姿勢のアライメント異常や歩行バランス低下、歩容の異常などが生じるといわれている。しかし身体機能の低下にともない歩行が困難となり、日常生活での起立や移乗に介助を要するような高齢者を対象とした足関節の可動性に関する報告は少ない。足関節の背屈制限は、起立や移乗の介助量増加や動作能力向上の阻害因子にもなり、引いては離床機会の減少につながると考えられ、自立歩行や立位が困難であっても可動性を維持する必要のある関節であると考える。今回、足関節の可動域が生活に与える影響を検討することを目的に、療養病床における高齢障害者の生活状況と足関節背屈制限の関係について調査した。【方法】対象は2012年8月に当院在院中の708名(男性:161名、女性:547名、平均年齢88.0歳)とした。生活状況は障害高齢者の日常生活自立度に準じ、A群(81名)、B群(328名)、C群(298名)の3群に分け(Jは該当者無し)、それぞれの左右足関節背屈可動域(膝関節屈曲時および伸展時)を測定し、その平均値を比較した。統計処理はt検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】研究は院内で検討し承諾を受け、対象者またはその家族に研究の目的と方法を説明し同意を得た。【結果】膝屈曲時の足関節平均背屈角度は、A群は右16.7±8.1°/左16.2±8.2°、B群は9.4±9.7°/9.0±9.7°、C群は-6.1±18.2°/-6.0±18.3°であり、膝伸展時においてA群は右5.5±6.0°/左4.9±6.5°、B群は-0.7±8.7°/-0.3±8.6°、C群は-13.9±16.6°/-14.4±16.5°であった。足関節背屈角度は膝屈曲時および伸展時ともにA群とB群、B群とC群との比較において有意に減少していた。【考察】加齢にともない足関節背屈可動域は減少する傾向にあるとされているが、今回の調査では生活状況により3群に有意な差がみられ、A群に比べB・C群の足関節背屈制限が著明であった。B群は移動が車椅子主体であり、移乗動作を自立または介助により行なうものの、日中は座位中心で膝関節屈曲位、足関節底背屈0°前後の肢位で過ごす時間が長いと思われ、歩行のような連続した足関節底背屈運動の機会がないことによる足関節周囲筋の伸張性低下が考えられる。また、膝伸展時の平均背屈角度は0°を下回っており、移乗時に立位をとる際にも膝関節は完全伸展位にならず、二関節筋である腓腹筋が十分に伸張されていない場合が多いものと考えられる。また長時間の座位保持による影響から足関節周囲に浮腫がみられることも多く、足関節可動域制限の発生因子となっている可能性がある。C群は日中の臥床時間が長く、足関節は底屈位のまま保持されていることが多い。自動・他動での関節運動の機会が少なく、筋や腱の伸張性低下が生じやすい状況にあると考えられる。沖田らは弛緩位で不動化された骨格筋は伸張位で不動化された場合より短期間で筋長が短縮したと報告している。また不動の期間が長期化することにより骨格筋だけでなく、関節包や靱帯などにも器質的変化をきたすとされている。C群では-60°以上の背屈制限を呈する者もみられ、器質的変化が関節包や靱帯などに及んでいる可能性もあると考える。今回は横断的な調査であり、経時的な変化や効果的な介入については今後の課題である。B群はC群の予備軍と捉え、離床し車椅子に乗車するだけでは足関節の可動性は低下する可能性があるため、足関節周囲筋の収縮・弛緩を引き出しながらの立位練習による伸張性の維持、足関節自動運動やストレッチなどの積極的な介入が必要と考えられる。また対象者の能力を最大限に活かせる介助方法の指導により、日常生活動作で機能維持を図ることも重要である。当院ではC群の対象者でもリスクを考慮しながら可能な場合は立位練習を実施している。離床機会が減少し臥床傾向になると短期間で背屈制限が生じる可能性もあるため、常に身体状態を把握し、立位練習やストレッチなどで足関節の可動性維持を図る必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の調査結果は、療養病床における足関節背屈制限の状況を生活状況別に示し、これからの検証と介入の必要性を示すことができたものと考える。理学療法の分野として今後は経時的な変化を追うこと、積極的な介入による効果判定を示すことが必要であると考える。
  • 國田 泰弘, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 藤井 絵里, 河野 愛史, 芝 俊紀, 松浦 由生子
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 ストレッチングには静的なストレッチング(static stretching ; SS)と動的なストレッチングがある.SSは関節運動を伴わず持続的にストレッチングをするのに対し,動的なストレッチングは自動的に,または他動的に関節運動を伴いながらストレッチングをする方法である.動的なストレッチングについて介入効果を検証した研究は多くみられるが,ストレッチング時の角速度を明確に規定しているものは少ない.また,角速度を規定した報告のなかでも異なる速度での動的なストレッチング後について,関節可動域および筋力の変化を検討した報告は見当たらない.本研究では立位で,足関節の底背屈を他動的に繰り返すことが可能な装置を用いてストレッチング(cyclic stretching ; CS)を行い,動的なストレッチング時の角速度の違いが関節可動域および筋力に与える影響を明らかにすることを目的とした.  【方法】 対象は足関節に疾患の既往がない健常成人24名(男性13名,女性11名,平均年齢21.5±1.3歳)とし,対象肢は利き足の下腿三頭筋とした.ストレッチングには自動足関節運動装置(丸善工業株式会社)を用い,1)SS,2)5°/ sのCS(slow CS ; SCS),3)10°/ sのCS(fast CS ; FCS)の3条件のプログラムをそれぞれ2分間行った.SSは足関節最大背屈位で,CSは最大背屈位と最大背屈位から12°減じた角度の間で底背屈を繰り返すストレッチングプログラムを行った.各プログラム前後に足関節背屈角度および足関節底屈筋力を測定し,プログラム間は最低5日以上の間隔をあけ,全対象で3条件のプログラムをランダムに割り当て試行した.足関節最大背屈角度は装置上で立位をとり,足部のステップを1°ずつ上昇させ測定した.足関節底屈筋力は背中を壁につけた状態で長座位をとり,骨盤帯と足部を結ぶベルトで徒手筋力計(μtasF1,ANIMA社)を足底に固定し,足関節底背屈0°にて下腿三頭筋の最大等尺性収縮を測定した.各ストレッチング前後の角度および筋力を対応のあるt検定を用いて比較した.また,3条件間でのストレッチング前後の改善角度,筋力変化量の比較には一元配置分散分析を用い,多重比較検定としてTukey法を用いた.いずれも危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象に本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1229).【結果】 改善角度はSS 4.3±1.2°,SCS 3.1±1.2°,FCS 3.7±1.7°となり,各条件の前後で有意に改善した(p<0.01).筋力変化量はSS -14.0±17.0 N,SCS 7.7±20.2 N,FCS 9.5±22.6 Nとなり,SSのみストレッチング後で有意に減少した(p<0.01).3条件間の比較では改善角度においてSSとSCS間に有意差があり(p<0.05),筋力変化量においてはSSとSCS間,SSとFCS間で有意差を認めた(p<0.01).【考察】 本研究結果から,SSは改善角度が大きいが直後に筋力低下が起こることが示された.SSで筋力低下が起こることは多くの報告で示されており,本研究でも同様の結果が得られた.それに対してSCS,FCSは筋力が低下しないことが示され,特にFCSはSSと比べ改善角度に有意な差はなかった.CSはSSとは異なり他動的に下腿三頭筋の伸張-弛緩を繰り返す.そのためSSよりも血流量改善による筋温の上昇や(今戸,2007),筋の粘性の減少が生じた可能性があり(Esteki and Mansour,1996),筋力低下が起こらなかったと考える.また,CS以外の他動的かつ動的なストレッチングとしてballistic stretching(BS)がある.BSは反動をつけ体重などにより筋を伸張するため,急激な伸張により筋や腱への負担が大きいとされている.一方で,CSの角速度は5~10°/sであり,ストレッチング最中に伸張反射が生じる可能性が低いため(Gajdosik et al,2005),BSよりも筋や腱への負荷が小さく安全なストレッチングであると考えられる.さらに,ストレッチングの時間を3条件全て2分間で行ったが,最大背屈位で伸張されている時間はSSが最も長いため,今後はCSの伸張時間や可動範囲の違いで,効果を検証していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より,cyclic stretching後に筋力低下を起こさずに足関節背屈可動域の向上が得られることが示された.臨床場面やスポーツ現場で,活動直前に関節可動域を改善させ,かつ筋力低下を起こしたくないケースなどで適応があると考える.
  • 投球障害肩の下肢の柔軟性を獲得するために
    木村 淳志, 永吉 由香, 緑川 孝二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】投球は、下肢と体幹で作ったエネルギーを上肢、そして、ボールへと伝える全身運動である。下肢・体幹の機能低下や運動連鎖の破綻は上肢のオーバーユースにつながり、投球障害に陥る。そのため、肩や肘の投球障害において、下肢の柔軟性の評価・治療は重要である。当院では投球障害肩に対し、肩の11項目に肩以外の全身6項目を加えた17項目を重要項目として点数化し、投球禁止や再開、競技復帰の指標としている。我々は、この17項目をもとに、投球障害肩の治療経過を調査し、股関節内旋と足関節背屈の柔軟性の改善が難渋する傾向にあることを、第24回九州・山口スポーツ医科学研究会で報告した。今回、足関節背屈の柔軟性を効率良く改善する方法として、縄跳びをスタティックストレッチの前運動として導入することを考え、影響を調査したので報告する。【方法】対象は、膝伸展位での足関節背屈の他動運動が0°以下と柔軟性が低下し、愁訴のない成人25名(男性15名、女性10名)とした。平均年齢は26.6±4.9歳であった。方法は、足関節背屈のスタティックストレッチのみを実施した群(以下、ストレッチのみ群)と、スキップ、ジョグ、縄跳びの運動課題後にスタティックストレッチを行った群(以下、スキップ群、ジョグ群、縄跳び群)を比較検討した。スキップとジョグは、5mの距離を8の字で2周、縄跳びは左右交互の駆け足飛びで40回とした。スタティックストレッチは、疼痛を感じず伸張できる強度で、両側を交互に20秒間ずつのセルフストレッチとした。それぞれ、運動前後に膝伸展位での足関節背屈を他動的に測定した。統計処理は、F多重比較検定を行い、危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。【結果】足関節背屈角度の増加量は、ストレッチのみ群:1.3±0.3°、スキップ群:1.7±0.9°、ジョグ群:2.8±0.9°、縄跳び群:8.8±0.5°であり、ストレッチのみ群と比較すると、ジョグ群と縄跳び群が、有意に増加した(p<0.01)。ジョグ群と縄跳び群の増加量の比較では、縄跳び群が有意に増加した(p<0.01)。【考察】臨床の現場では、いわゆる「体が硬い」症例を多く目にする。このような場合、ストレッチを施行しても痛みのみを発生させたり、伸張感が無かったりと、ストレッチに対する効果や変化を得られない事が多い。今回の研究では、スタティックストレッチで可動域の増加が認められなかった対象者が、縄跳びを行った後にスタティックストレッチを行うことで、可動域の増加が認められた。筋腱複合体の影響による柔軟性の低下は、筋緊張の亢進(過緊張状態)と筋の伸張性の低下によるものがある。縄跳びは、伸張刺激により筋緊張の抑制効果が働き、スタティックストレッチによる伸張性の改善を効果的なものとしたと考える。同様のジャンプ系運動のスキップやジョグと比較したが、縄跳び群は有意差を持って改善している。これは、スキップやジョグは、前方移動を含むジャンプであり、前方へ移動しない上方移動の縄跳びの影響が足関節背屈の可動域改善に効果的に働いたと考える。これにより、縄跳びが治療や自主練習の導入の1つとして効果的であると思われた。【理学療法学研究としての意義】今回の研究では、駆け足での縄跳び40回という軽運動に、痛みのない範囲で20秒間のストレッチを行う低負荷、短時間の伸張刺激で、即時的ではあるが足関節背屈の可動域の改善がみられた。ストレッチの効果に関する報告は様々あるが、明確な方法は示されていない。縄跳びという簡易的にできる運動とセルフストレッチを行うことで、可動域が改善したことは、より有効なストレッチを施行する一助になると考える。
  • 荻原 佑輔, 池田 聖夏, 城下 貴司
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 歩行の立脚期には3つのロッカーファンクションが働いている.ヒールロッカー(以下HR)は歩行周期の0-12%,アンクルロッカー(以下AR)は歩行周期の13-30%,フォアフットロッカー(以下FFR)は歩行周期の31-45%と報告している(ペリー,2007).しかし,この報告では歩行速度の影響について言及されていない.本研究は歩行速度がAR,FFRに与える影響を運動学的に明らかにすることを目的とした.【方法】 対象者は,現在および過去に著名な整形外科的疾患または神経学的疾患の既往のない健常成人14名(男性8名,女性6名),平均年齢21.4±0.5歳,身長167.1±8.8cm,体重61.9±8.8kgであった.機材は三次元動作解析装置システム(VICON MX),カメラ6台,床反力計3枚(AMTI),メトロノーム,解析ソフトはNexus1.7を用いた.パラメータはAR・FFRの足関節背屈モーメント変化率(以下ARm,FFRm〔%〕),歩行周期の30%・45%での矢状面上の足関節軸から床に下ろした身体重心線の最短距離(以下30%LA,45%LA〔mm〕),歩行周期のうち身体重心が足・膝関節軸を通過する時期(以下AG,KG〔%〕)を比較・検討した.解析方法は35個の反射マーカーを被験者の身体の各部位に貼付し,サンプリング周波数は100Hzとした.実験条件は安楽歩行(以下normal),40steps/min歩行(以下slow), 160steps/min歩行(以下fast)とした.被験者には肉眼的に自然な歩容が得られるよう各条件下での歩行を十分に練習してもらった上で,測定を行った.踏み込み足の指定は行わなかった.統計ソフトはIBM SPSS 20を用い,統計処理は一元配置分散分析の後,多重比較法(Dunnett法)を行った(有意水準5%未満).【倫理的配慮、説明と同意】 すべての被験者に対し研究の目的,実験方法,参加による利益と不利益,被験者自らの意志で参加し,いつでも参加を中止できること等を記した書面と口頭による説明を十分に行い,実験参加に同意していただいた場合は同意書を得た.データを記録した紙やUSB ,PC画面上には実験に関わった人のみ本人の氏名が分かるようにIDで管理した.個人情報を外部に持ち出す際には必ずUSBで持ち出し,さらにセキュリティをかけるようにした.万が一被験者に何かに異常が認められた場合を想定し,最寄りの病院に迅速に搬送できるような手配をしておいた.【結果】 slowのARm(51.0±11.0%)がnormalのARm(41.7±11.4%)と比較して有意に高値であり,slowのFFRm(49.0±11.0%)がnormalのFFRm(58.3±11.4%)と比較して有意に低値を示した(p<0.05).30%LAではslow(100.6±18.1mm)がnormal(113.8±16.3mm)と比較して有意に短く(p<0.05),fast(137.2±18.4mm)がnormal (113.8±16.3mm)と比較して有意に長かった,45%LAではslow(238.0±18.6mm)がnormal(299.6±21.3mm)と比較して有意に短く,fast(330.9±24.8mm)がnormal(299.6±21.3mm)と比較して有意に長かった(p<0.01).AGではslow(20.2±2.0%)がnormal(21.5±1.2%)と比較して有意に短く(p<0.05) ,同様にfast(20.3±1.3%)がnormal(21.5±1.2%)と比較して有意に短かった(p<0.05). KGではnormal(25.4±2.2%),slow(24.4±4.3%) ,fast(25.8±2.0%)となり,有意差は認められなかった.【考察】 本研究の結果から,歩行速度はモーメント発生要因の質を変化させる可能性が示唆された.slowはARm優位の歩行であった,30%LAは短いがARmは増加した,すなわち重心移動よりも力の成分の関与が考えられる.fastは有意差がなかったが,FFRm優位傾向の歩行であった,45%LAは長かった,すなわち力の成分よりも重心移動の関与が示唆される.言いかえればslowはARに制動力としてモーメントを発生していることが考えられる.fastはFFRに45%LAを確保することによりモーメントを発生していると示唆される.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究では,ロッカーファンクションと歩行速度の関係性について着目し,新たな見解が得られると我々は考えた.今回の研究により遅い歩行はARを誘導し,早い歩行はFFRを誘導する可能性を示唆した.
  • 池田 聖夏, 荻原 佑輔, 城下 貴司
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 足部は様々な関節から構成され,歩行中には衝撃吸収作用や身体の推進作用など重要な役割を担っている.その足関節を制限した際,他の関節角度に影響を与えないと報告されている(深谷隆司,2009).また,ペリーは歩行の立脚期にはヒールロッカー(0-12%),アンクルロッカー(13-30%),フォアフットロッカー(31-45%)の3つのロッカー機能があると報告している(ペリー,1992).そのため本研究ではこれらの先行研究を踏まえ,裸足歩行と左足関節テーピング固定歩行(以下足関節制限歩行)を行った際,股関節及びロッカー機能にどのような影響があるのか検証することを目的とした.【方法】 対象者は過去6か月間足部に既往歴のない平均年齢21.3±0.48歳の健常成人男性7名,女性3名である.使用機器は3次元動作分析装置(VICON MX),床反力計3枚(AMTI),赤外線カメラ6台(100Hz)を用いた.手順は被験者に35個の反射マーカーを貼付後,各関節角度の標準化のために静止立位による計測を行った.その後,1 枚目の床反力計に左足,2 枚目に右足から接地するよう数回練習を行った.計測条件は裸足歩行と足関節制限歩行の2条件であり,各条件で最低3回の計測を行った.足関節制限は経験のある理学療法士が担当し,アンダーラップ後アンカー,スターアップ,ホースシュー,ダブルヒールロック,フィギュアエイトを行った.また,足関節可動域(度)(以下ROM)を計測する際には2名で行い,計測値は小数点以下第1位までとした.解析はROM,アンクルロッカー(以下AR)とフォアフットロッカー(以下FFR)時の足関節背屈モーメント変化率(%)(以下DFM),足関節角度変化量(度)(以下AJV),股関節角度変化量(度)(以下HJV),床反力を算出した.ARとFFRのDFM計算方法はペリー(1992)が定義した,歩行周期AR=13(Y1)から30(Y2)%,FFR=30(Y2)から45(Y3)%を用い,AR=(Y2-Y1/Y3-Y1)×100,FFR=(Y3-Y2/Y3-Y1)×100で求めた.HJVの計算方法は歩行周期の13%から45%の変化量を求めた.統計処理はIBM SPSS staticstic20を用い,裸足歩行と足関節制限歩行のHJV・AJV及びDFMに対して対応のあるt検定を行った.また,ROMで群分けをした際には相関係数を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 今回すべての被験者に対し研究の目的,研究方法,参加について記した書面と口頭による説明を十分に行った.その際同意書と同意撤回書を配布し研究に同意していただいた場合は同意書を提出していただいた.今回の研究にあたりデータ公表や解析は被験者が特定されないようID化した.また皮膚にマーカーを貼付する際の両面テープや,テーピング固定に使用するテーピングが,かぶれやかゆみを伴うことがある.そのため,テーピング固定にはアンダーラップを用いテーピングを皮膚に直接行わないよう配慮した. かぶれが生じた場合は保湿クリームの塗布や最寄りの病院に搬送できるよう手配をした.【結果】 いずれのパラメーターも有意差はみられなかった.足関節制限歩行AR(DFM;36.7±19.40%,p=0.063(p<0.05)),裸足歩行AR(DFM;33.5±21.37%,p=0.063(p<0.05))であった.裸足歩行HJV8.8度,足関節制限歩行HJV6.2度.また裸足歩行HJV3.5度,足関節制限歩行HJV5.4度となる被験者がいた.被験者をROM10度以上と10度以下で群分けを行った場合でも有意差は得られなかった.【考察】 今回,統計的有意差は得られなかったが,足関節制限歩行はDFMからAR優位の歩行となった.また,足関節制限歩行でHJVが拡大する被験者と,減少する被験者がおり個人差があることが示唆された.また,ROMでの群分けを行った場合でも個人差があるものとなった.そのため,深谷らの研究と同様に可動域制限によって他関節角度への影響は得られず,個人差が顕著であることが示唆された.今後の課題として被験者データを増やす,足関節制限を片側から両足に変更する,足関節制限のテーピング方法の見直し,着目するパラメーターの変更などの必要性が挙げられる.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究では,ARとFFRに着目して解析を試み,新たな見解もできると我々は考えた.足関節制限歩行ではAR優位の歩行となったが,個人差が顕著だった.歩行には個人差があり,解釈が複雑なため臨床では個別に評価治療する必要があると考える.
  • 足底板による足部第5列外反誘導がRocker Functionに与える影響
    弦巻 徹, 山口 剛, 斎藤 昭彦, 岡本 栄行, 浅岡 良信, 岩井 実穂子, 中村 祐輔, 月城 美雪, 鈴木 智
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】Windlass Mechanismを機能させて歩くためには、中足趾節関節の水平軸でForefoot Rockerが行われることが条件になると考えられるが、足部の列とRocker Functionの関係について報告した例は少ない。本研究の目的は、足部の第5列がRocker Functionに与える影響を明らかにすることである。足部の第5列を外反誘導した場合、足圧中心は内側に偏移し、Forefoot Rockerは水平軸で行われやすくなると考えられる。この結果、Windlass Mechanismが機能し、ストライドが延長することが予測された。実際の歩行を対象に、予測を確認することを最初の目的とした。次に、その予測が成立した場合、足部の第5列の外反角度に比例して、ストライドが延長するかどうか明らかにすることを、第2の目的とした。先行研究から、Mid Stance以降、足圧中心が前足部の外側から内側に移動することが報告されている。Sammarcoはモーメントアームの相違にてForefoot Rockerは中足趾節関節の斜軸が低速歩行、水平軸が高速歩行に適していると述べている。【方法】トレッドミル上を、裸足で歩く様子をデジタルカメラ(カシオ製EX-F1)で撮影した。歩行速度は、被験者が最も歩き易いと感じた速度(4.5km~6km)に設定し、実験中一定に保持させた。1秒を1200フレームに分割し、定常歩行の5歩について、歩行周期の平均値を算出した。対象は、下肢に既往のない男女10名。Forefoot Rockerに要する時間を分析するため、立脚相をInitial Contactから第1末節骨頭が床面に接地するまでと、第1末節骨頭が接地してから立脚期が終了するまでに区分、その時間変化も算出した。第5列外反誘導の方法は、足底板作成に使用するボロンを1mm毎に1mmから5mm第5中足骨底面に貼り付けて行った。歩行速度一定の場合、ストライドが延長すれば、歩行周期は増加し、ストライドが短縮すれば、歩行周期は減少することになる。統計学的解析はWilcoxonの符号順位検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、実験前に口頭と書面で本研究の目的、実験手順、考えうる危険性等を十分に説明し、内容について十分に理解を得た、その上で参加に同意したものは同意書に署名し実験に参加した。【結果】予測通り、足部の第5列外反誘導で歩行周期は増加、ストライドが延長することが認められた。また、第5列外反誘導が3mm以下では、歩行周期と第5列の外反角度が比例する有意差が認められ(p < 0.05)た。よりWindlass Mechanismが効く歩容に変化した。【考察】中足趾節関節の水平軸は第1趾と第2趾を通過する運動軸であるため、第5列は直接関与しているわけではない。しかし、本研究の結果、Forefoot Rockerが中足趾節関節の水平軸で行われるためには、第5趾外反誘導が有効であることが認められた。また、Forefoot Rockerが中足趾節関節の斜軸、あるいは水平軸で行われるかどうかを決定する要因の1つに、第5列を含む足部の横アーチが深く関与していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】足底板療法は、下肢の疼痛軽減状態を一時的に維持し、運動療法を組み合わせることで歩行能力の改善を目的に、広く行われている。足底板が歩行に与える影響について、足圧中心や関節モーメントの報告はあるが、視覚的に判断可能で、臨床応用が容易な歩行周期の時間変化に関する研究は少ない。足部は床面と唯一接する関節であり、歩行において重要な働きを示すことは容易に推測される。今回の実験では足部第5列外反誘導がMP関節の運動軸を変化させることが示唆された。MTP関節の運動軸が斜軸から水平軸に足部第5列外反誘導に伴い変化するのであれば、ウィンドラス機構を効率的に働かせ、立脚期の時間を調整することが可能になるのではと考えられる。よって靴型装具作成時の一つの指標となると考える。
  • 白尾 泰宏, 小牧 順道
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】上部体幹の不良姿勢として頭部前方位がある。この不良姿勢は頚部後方組織のメカニカルストレスの増大や、肩甲帯機能不全の主因とされており、その発生機序としてJandaが提唱する上部交差症候群といわれる筋のアンバランスが存在するといわれている。臨床上、腱板損傷やインピンジメント症候群等の肩疾患においてこの頭部前方位の不良姿勢が存在していることをよく経験する。今回の研究は、頭部中間位と前方位における肩甲帯周囲筋の筋活動を分析し肩甲帯機能への影響を調査するものである。【方法】健常成人11名(男性3名女性8名平均年齢31.5歳)を対象に、背もたれ付椅子に坐位となり利き手側肩関節中間位で90°屈曲し1kgの重錘バンドを手関節に乗せ、3秒間保持し頭部中間位、頭部前方位(5cm前方移動)での棘下筋、三角筋前部線維、前鋸筋、僧帽筋上部線維、僧帽筋下部線維の筋活動を調査した。頭部位置は椅坐位にて骨盤中間位としレッドコードを使用して矢状面での肩峰中心と外耳孔の位置を測定しそれぞれの頭部位置を決定した。筋活動分析にはキッセイコムテック社製コードレス表面筋電計MQ-AIRを使用し、測定筋の位置は、棘下筋は肩甲棘の中央下2横指、三角筋前部線維は肩峰前端と三角筋粗面を結ぶ線上の肩峰下2横指、前鋸筋は肩甲骨下角外側2横指、下1横指、僧帽筋上部線維は第7頸椎棘突起と肩峰を結ぶ中間、僧帽筋下部線維は肩甲棘内側と第8胸椎棘突起を結ぶ線上の肩甲棘内側を結ぶ上3分の2とした。測定筋はアルコール綿にて処理を行ないサンプリング周波数1000Hzにて測定した。得られたデータは同社製BIMUTAS-Videoにて解析し、1秒間の実効値(Root Mean Square RMS)を求めた。さらにKendall式徒手筋力テストにて各筋の最大筋力を測定し、1秒間のRMSを求め測定したRMSを最大筋力のRMSで除し%MVCを求め比較した。統計処理は頭部位置別筋活動測定値の級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient ICC)を求め、excel statcel 2を用いて二つの頭部位置間の比較にはpaired-t testを、各頭部位置における各筋の筋活動の比較は一元配置分散分析をおこない有意差を認めたのでBonferroniにて多重比較検定を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】頭部位置別筋活動測定値のICCは棘下筋0.89、三角筋前部線維0.82、僧帽筋上部線維0.86、僧帽筋下部線維0.90で良好であった。頭部前方位では頭部中間位と比較し棘下筋、前鋸筋の筋活動低下と、僧帽筋下部線維の筋活動上昇に有意差がみられた(P<0.05)。また、頭部中間位では前鋸筋と僧帽筋下部線維間に有意差を認めた(P<0.05)が、頭部前方位では各筋活動に有意差は認められなかった。【考察】頭部前方位での前鋸筋の筋活動低下と、僧帽筋下部線維の筋活動上昇に有意差がみられたが、これはWeonら先行研究と同様の結果となった。その要因としてMcleanは頭部前方位では肩甲挙筋が過活動し、その拮抗筋である前鋸筋は相反神経抑制されるとしている。また、頭部中間位では前鋸筋が僧帽筋下部線維に比較し筋活動量が大きく有意差があり前鋸筋による肩甲骨安定化作用がみられるが、頭部前方位では僧帽筋下部の活動が増加し頭部中間位とは異なる肩甲骨安定化作用がみられた。したがって、僧帽筋下部線維の筋活動の増大は前鋸筋の代償作用と推察される。頭部前方位での棘下筋の活動性低下は肩甲上腕関節の求心位の低下を惹起し、さらに前鋸筋の活動低下による肩甲帯不安定性からouter muscle優位になり、肩甲上腕関節の回旋中心軸の変化が起こりImpingement症候群の一要因となる可能性が推察される。しかし、肩甲上腕関節の回旋中心軸の変化については筋活動からの推測であり、実際の上腕骨頭偏位の確認にはレントゲン等による比較検討が必要である。また今回の研究では肩関節挙上角度が90°のみであり、その他様々な角度や肩甲面での挙上による筋活動の検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】肩甲上腕関節の障害では肩甲帯の位置異常が臨床場面での問題点としてフォーカスされるが、頭部位置異常も肩甲帯機能に影響を及ぼす要因となること、そして頭部前方位の肩甲帯筋活動を明確にしていくことでImpingement症候群や腱板損傷の発生メカニズムの解明、治療、予防に応用できると思われる。
  • 中川 和昌, 小川 美由紀
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】肩関節の障害は,回旋筋腱板機能不全や体幹・下肢からの連結不全によってもたらされることが多く,肩関節機能のみならず肩周囲筋の安定性,さらには動作時における体幹筋の安定性を複合して評価する必要がある。肩関節疾患に対する機能評価として,原テストが臨床的によく用いられている。しかしながら本テストは肩関節疾患に対する総合的評価であり,各評価項目が具体的に,どの身体機能と関係しているか検証している報告は少ない。本研究の目的は,原テストの一項目である座位での肘押テスト(Elbow Push Test: 以下EPT)について,筋力の視点からEPTに関わる身体機能を検討することである。【方法】対象は健常高校生17名(男子10名,女子7名,平均年齢16.2±1.1歳,身長166.2±7.1cm,体重59.4±9.7kg)であった。対象者全員に対し,EPTにおける筋力,前鋸筋筋力,体幹回旋筋力,体幹屈曲・伸展筋力を測定した。EPTの筋力測定は,端座位,両下肢が床についた状態で,腕を胸の前で組んだ状態(肩関節90°屈曲,肘関節90°屈曲,前腕回内外中間位で肩関節90°内旋位の状態を保持)のまま,肘部に対して体幹と垂直に抵抗をかけ,肘部を突き出す等尺性筋出力値を計測した。前鋸筋の筋力はDanielらの徒手筋力測定法に基づき,端座位にて等尺性筋出力を計測した。体幹回旋筋力は,股・膝関節屈曲90°,骨盤正中位での端坐位,両下肢が床についた状態で,大腿部をベルトで固定,両上肢は胸の前で組んだ姿勢のまま,大結節部分に抵抗をかけて等尺性筋出力値を計測した。以上の筋力測定はハンドヘルドダイナモメーター(μ-tas,ANIMA社製)を使用し,左右ともに3回ずつ測定した平均値を測定値とした。なお信頼性の評価として,全ての測定においてICCを計測し,高い検者内信頼性が得ている。体幹屈曲・伸展筋力は,等速性筋力測定器 (BIODEX SYSTEM 3, 酒井医療社製)を使用し,角速度60°の等速性筋力を計測した (資料提供: (財)群馬県スポーツ振興事業団)。体幹屈曲・伸展の各筋力に加え,屈伸比を測定値として抽出した。統計学的分析では,EPTの筋力と前鋸筋筋力,体幹回旋筋力,体幹屈曲・伸展筋力および屈伸比における各測定値間のPearsonの相関係数を算出し,その関連性を検討した。なお各分析における有意水準は5%とし,統計ソフトはSPSS 18.0J for Windowsを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者は事前調査で腰痛・上肢痛を有していないことを確認し,計測時は医師,理学療法士が傍にいる状態で,緊急時に対応できる体制で実施した。なお全ての対象者に対し,研究の意義や内容に関して十分に説明し,紙面上で同意を得た上で測定に取り掛かっている。【結果】左右EPT筋力と前鋸筋筋力(左 0.645, p=0.005 / 右 0.551,p=0.022 / 左右平均 0.697, p=0.002),および体幹回旋筋力(左 0.667, p=0.003 / 右 0.684,p=0.002 / 左右平均0.730, p=0.001)との間に有意な相関を認めた。体幹屈曲・伸展筋力および屈伸比との間には相関を認めなかった。【考察】EPTにおける筋力発揮には,前鋸筋および体幹回旋筋力が必要であることが明らかになった。EPTの運動特性として,肘部で上肢を突き出すための肩甲骨の固定と,突き出す動作に伴う体幹回旋が必要であることから,それに関連する結果と考えられた。今回の結果からEPTは肩甲骨固定と体幹回旋の絶対筋力の評価として有用である可能性が示唆された。しかし今回はEPTにおいて筋力発揮が可能な対象者における検討であり,肩関節疾患に対する評価の有用性を検討する上では,筋力発揮が困難な対象者において,筋出力のタイミングやその他の要因も含めて検討する必要がある。また原テストは複数のテストによる総合的評価指標であるため,その他の評価項目においても関係する身体的要因を明らかにしていく事が今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】今回はEPTの筋力のみの検討であったが,最終目標である原テストの適応を明確にするための一助として有意義であったと考えられる。肩関節の理学療法における臨床評価として幅広く利用されている本テストの科学的根拠や意義が明確となり,今後の臨床への適応,研究における評価として発展していくことが期待される。
  • 坪内 健一, 定松 修一, 中嶋 裕子, 魚部 宏美, 吉田 宏史
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】肩腱板損傷修復術後患者(以下、術後患者)の肩関節自動運動をする際、肩甲帯の代償運動がしばしば見られ、それを改善するための一要因として肩甲骨の動的な測定は重要である。今回我々は、高性能で簡便な3軸加速度センサ・3軸角速度センサ内蔵の無線動作角度計システム(MicroStone社製MVP-RF8を2個、MVP-DA2-S、以下センサ)を使用し、術後患者肩関節自動屈曲・外転時の肩甲骨可動域測定を行い、我々が以前行った健常人の結果と比較分析した。【方法】対象は、術後患者26例(男性17例、女性9例、平均年齢65歳)とした。測定方法は、基本軸を脊柱と仮定し第7頸椎棘突起の上部・移動軸を肩甲骨棘上部としそれぞれにセンサを固定、術側肩関節自動屈曲3回・自動外転3回を立位・肘関節伸展位で行い、肩甲骨可動域を測定した。肩関節屈曲の最大可動域は、ゴニオメーターで測定した。測定時期は術前(a)、術後4~5週間軟性装具固定後自動運動が始まる術後6週(b)・7週(c)・8週(d)で行った。 解析方法は、無線動作角度測定ソフトウェアからCSVファイルに変換されたものを使用し、肩甲骨動作の3方向(上下方回旋、前後方回旋、前後傾)の波形・角度を算出した。最大肩甲骨可動域・肩関節可動域の比(以下、ROM比)と先行研究の健常人の結果をU-検定にて比較した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には、本研究の趣旨および検査内容について口頭および文書にて十分に説明し同意を文書により得た。【結果】肩関節自動屈曲時の肩甲骨動作の波形は、上方回旋・後方回旋・後傾の動きを示した。肩関節自動屈曲時の肩甲骨上方回旋最大値の平均は、(a)19.6°(b)16.9°(c)21.1°(d)22.7°、後方回旋の平均は(a)17.7°(b)14.9°(c)18.4°(d)20.7°、後傾の平均は、(a)23.5°(b)22.9°(c)28.2°(d)29.9°であった。肩関節自動屈曲最大値の平均は、(a)119°(b)90°(c)106°(d)117°であった。肩関節自動屈曲時の肩甲骨上方回旋のROM比平均は、(a)0.17(b)0.19(c)0.20(d)0.20、後方回旋のROM比平均は(a)0.15(b)0.16(c)0.17(d)0.18、後傾のROM比平均は、(a)0.19(b)0.24(c)0.26(d)0.25であった。肩関節自動外転時の肩甲骨動作の波形は、屈曲時と同様に、上方回旋・後方回旋・後傾の動きを示した。肩関節自動外転時の肩甲骨上方回旋の平均は、(a)16.1°(b)12.4°(c)17.4°(d)19.9°、後方回旋の平均は(a)13.1°(b)12.2°(c)15.0°(d)18.0°、後傾の平均は、(a)17.2°(b)17.2°(c)20.8°(d)24.4°であった。肩関節自動外転最大値の平均は、(a)111°(b)78°(c)95°(d)106°であった。肩関節自動外転時の肩甲骨上方回旋のROM比平均は、(a)0.15(b)0.16(c)0.18(d)0.20、後方回旋のROM比平均は(a)0.12(b)0.16(c)0.16(d)0.18、後傾のROM比平均は、(a)0.15(b)0.21(c)0.21(d)0.23であった。 先行研究の健常人のROM比結果(肩関節自動屈曲時の肩甲骨上方回旋ROM比0.13、後方回旋ROM比0.15、後傾ROM比0.11、肩関節自動外転時の肩甲骨上方回旋ROM比0.14、後方回旋ROM比0.15、後傾ROM比0.11)と術後患者と比較すると、肩甲骨上方回旋・後方回旋は肩関節自動屈曲・外転ともに有意な差はなく、肩甲骨後傾は術前に有意な差はないが術後6・7・8週に有意な差があった(p<0.01)。【考察】肩甲骨上方回旋・後方回旋ROM比は、術前・術後健常人に近い値を示していたが、後傾は健常人よりも大きい値であった。これは、術後肩関節屈曲・外転の最大努力をするあまり肩甲骨後傾の代償運動が強く表れた結果と考える。よって術後肩関節の正常な動きに近づけるためには、肩甲骨後傾の代償運動を抑制し可動域拡大を図る必要性がある。 文献では肩甲骨の上方回旋は40~50°と言われているが、今回の結果は低い値を示したと考えられる。肩甲骨の動きが低く出る要因は、皮膚表面での肩甲骨の動きの測定には限界があることや肩甲骨特有の挙上下制や内転・外転の動きをこのセンサーでは測定できないことによるものだと考える。【理学療法学研究としての意義】術後肩固定を外した後の肩甲骨可動域と肩関節可動域の経時的な変化を測定することは、正常な肩甲上腕・肩甲胸郭関節に対する可動域拡大のための参考になりうると考える。
  • 高橋 友明, 畑 幸彦, 川﨑 桂子, 三澤 加代子, 田島 泰裕, 荻無里 亜希, 山室 慎太郎
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】腱板断裂サイズが大きくて腱板断端を大結節の腱板付着部に縫着できない症例に対して,腱板付着部より近位に骨溝を作成して腱板を縫着する方法は広く一般に行われている.しかし,この手技が術後臨床成績に及ぼす影響に関する報告は少ない.今回,腱板縫着位置の近位移動距離と術後の筋力や関節可動域との関連性を明らかにする目的で,各項目との相関関係を調査したので報告する.【対象】対象は,腱板全層断裂に対してmini open repair法を施行されて1年以上を経過した症例99例100肩である.内訳は,手術時年齢が平均60.5歳,性別が男性70肩・女性30肩,左右別が右61肩・左39肩であった.なお,非手術側には臨床所見や画像所見で腱板断裂を疑わせる所見は全く認めなかった.【方法】術後1年のMRI斜冠状断像で大結節から骨溝までの最大距離を計測し,近位移動距離と定義した.対象を縫着位置を近位移動した症例50例50肩(以下,移動あり群)としなかった症例49例50肩(以下,移動なし群)の2群に分類した.次に,移動あり群と移動なし群の2群間で,病歴(手術時年齢,性別および罹患側),断裂サイズ,および術後1年の肩関節可動域とピークトルク健側比について有意差検定を行った.統計学的解析は,性別と罹患側についてはχ2検定を用いて行い,断裂サイズについてはマン・ホイットニ検定を用いて行い,手術時年齢,術後1年の肩関節可動域およびピークトルク健側比についてはウィルコクソン符号付き順位和検定を用いて行い,また,近位移動距離と病歴(手術時年齢,性別および罹患側),断裂サイズ,および術後1年の肩関節可動域とピークトルク健側比との相関関係については,スピアマン順位相関検定を用いて行い,それぞれ危険率5%未満を有意差ありとした. なお,ピークトルク健側比の測定は,同一検者がBIODEX社製トルクマシン(Multi joint system 2AP)を用いて両側肩関節の筋力測定を行った.坐位で体幹と骨盤を固定した体勢にて,屈曲-伸展方向は屈曲180°から伸展20°の範囲で,90°外転位での内旋-外旋方向は内旋40°から外旋90°の範囲で3回ずつ測定し,角速度は60°/secに設定した.【説明と同意】今回の症例に本研究の趣旨を十分に説明し,全例から同意が得られた.【結果】縫着位置を移動あり群と移動なし群の間で比較すると,移動あり群の断裂サイズが有意に大きく,棘下筋腱にまで断裂が及ぶ割合も有意に高かったが,手術時年齢,性別および罹患側については有意差を認めなかった.術後1年の肩関節可動域は,移動あり群の屈曲方向が移動なし群より有意に制限されていたが,その他の方向においては有意差を認めなかった.術後1年の筋力(ピークトルク健側比)は,移動あり群の屈曲筋力と90°外転位外旋筋力が移動なし群より有意に低下していたが,その他の方向の筋力においては有意差を認めなかった.近位移動距離は,屈曲可動域,屈曲筋力および90°外転位外旋筋力との間にそれぞれ弱い負の相関を認めたが,他の項目との間には有意な相関を認めなかった.【考察】今回の結果より,腱板付着部より近位に腱板を縫着した症例は,近位移動距離と断裂サイズの間に有意な相関は認めなかったが,断裂サイズが有意に大きく,特に棘下筋腱にまで断裂が及ぶ症例が有意に多かった.したがって断裂サイズが大きくて棘下筋まで断裂が及ぶ症例では,縫着位置の近位移動が必要になる可能性が高いと思われた.次に,術後1年の肩関節可動域に関して,移動あり群の屈曲方向が有意に制限されていた.これは,「腱板縫着位置を近位へ移動すると可動域制限が生じる」というYamamotoらの生体力学的研究や「zero positionをとれない症例はとれる症例よりも縫着部位までの距離が有意に長かった」という畑らの報告から,縫着位置の近位移動によって肩甲上腕関節の動きが制限されたために屈曲方向が有意に制限されたと考えた.さらに,術後1年の筋力(ピークトルク健側比)に関して,移動あり群の屈曲筋力と90°外転位外旋筋力が有意に低下していた.これは,「腱板縫着位置の近位移動により肩甲骨面での挙上のモーメントアームが減少する」というLiuらの報告から,縫着位置の近位移動によって棘上筋のモーメントアームが減少した結果,移動あり群では有意な筋力低下を生じたのではないかと考えた.【理学療法学研究としての意義】より良い術後成績を得るためには術式を十分に理解した上で後療法を行うべきである.今回の研究結果から,一般的に行われる腱板縫着部を近位移動する手技は屈曲可動域,屈曲筋力および90°外転位外旋筋力の低下を引き起こす可能性が高いと分かったので,この手技を併用した症例には屈曲可動域の拡大と屈曲筋力と外転位外旋筋力の増強訓練が特に必要であると思われた.
  • 術後挙上可動域と筋力および疼痛の経時的変化
    野原 邦彦, 矢上 圭一朗
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 近年,腱板断裂に対する鏡視下腱板修復術(以下ARCR)の有用性が数多く報告されている.当院でも2006年以降ARCRが施行され術前術後の理学療法を行っている.今回,その治療成績における肩関節自動屈曲可動域(以下,拳上可動域)と外旋,内旋筋力について,術前術後の疼痛と合わせて検討したのでここに報告する.【方法】 2008年から腱板完全断裂に対してARCRを行い,1年以上の経過観察が可能であった41例を対象とした.男性20例20肩,女性21例21肩,手術時平均年齢64.0歳(41~78歳)であった.断裂サイズは長径が5cm以上の広範囲断裂4肩,3~5cmの大断裂16肩,1~3cmの中断裂が21肩であり,不全断裂の者,反対側に肩関節疾患がある者は除外した.拳上可動域の測定は,座位で両上肢の自動挙上を,外旋,内旋筋力の測定は,仰臥位1st positionにてハンドヘルドダイナモメーターを使用し,最大等尺性随意収縮3秒間を2回計測し,最大値を採用した.統計学的検討は,拳上可動域は,術前,術後3ヶ月,術後6ヶ月,術後1年で,外旋,内旋筋力は,術前,術後6ヶ月,術後1年で,それぞれ健側との比率を計算して行った.また疼痛については,日本整形外科学会肩関節治療成績判定基準(以下,JOA score)の疼痛の点数を術前,術後3ヶ月,術後6ヶ月,術後1年で比較検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の趣旨を説明し同意を得られた患者を対象とした.【結果】 拳上可動域は,健側比はそれぞれ術前81.8%,術後3ヵ月85.0%,術後6ヶ月96.0%,術後1年98.1%であり,術前と術後3ヵ月間では有意な改善を認めず,術後3ヵ月と術後6ヶ月では有意に改善を認め,術後6ヶ月と術後1年では有意差はないものの改善傾向を認めた.外旋筋力は,健側比はそれぞれ術前58.4%,術後6ヶ月78.2%,術後1年88.8%であり,術前と術後6ヶ月,術後6ヶ月と術後9ヶ月で有意に改善を認めた.内旋筋力は,健側比はそれぞれ術前81.0%,術後6ヶ月92.7%,術後1年105.4%であり,術前と術後6ヶ月,術後6ヶ月と術後9ヶ月で有意に改善を認めた.疼痛は,JOA score疼痛点数が術前11.2点,術後3ヶ月18.8点,術後6ヶ月25.1点,術後1年27.2点で,術前と術後3ヶ月,術後3ヶ月と術後6ヶ月,術後6ヶ月と術後1年でそれぞれ有意に改善を認めた.【考察】 今回の結果より,自動拳上可動域は術後3ヵ月から6ヶ月の間に急速に改善し,術後6か月で健側比96.0%と良好な可動域を獲得していることがわかった.戸野塚らは,術後3ヶ月において拳上120°外旋10°,結帯L5が目標可動域で,それに満たないものは術後2年において成績が劣るとしている.我々の研究においても,術後3ヶ月時点で拳上可動域は平均138.8°獲得し,条件を満たしており,術後1年において健側比98.4%獲得できている.筋力では,術前健側比外旋で6割から術後6ヶ月で8割弱,内旋で8割程度だったものが術後6ヶ月で9割まで改善し,術後1年では外旋は9割弱,内旋は健側並みに改善していることがわかった.術前の挙上可動域の低下は,物理的な腱板の断裂によるものと,疼痛や拘縮が原因と考えられる.今回,術後6ヶ月で良好な挙上可動域を得られたのは,術後6ヶ月までに疼痛がJOA scoreで25点(スポーツ,重労働時の僅かな痛み)まで改善したことと,外旋筋力が8割弱まで,内旋筋力が9割まで改善したことが要因となっていることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究結果から,当院のARCR術後の経過を客観的に評価でき,術後6ヶ月までの後療法と疼痛管理の重要性を確認した。また,再断裂についての検討も行っていきたいと考える.
  • ~術後短期成績での検討~
    濱田 健司, 前田 伸悟, 木村 雅巳, 濵野 祐樹, 西岡 幸哉, 山名 智也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】鏡視下腱板縫合術(以下、ARCR)において、術後の臨床成績と機能回復の報告は散見される。しかし、それらは長期成績に関する報告がほとんどで、運動器リハビリの標準算定日数である150日という比較的短期間での成績に着目した報告は少ない。また、肩関節は構造上非常に不安定な関節であるが、回旋筋腱板は骨頭を求心位に保ち、肩の動的安定性の重要な役割をしているとされる。尼子らはARCR後の肩内外旋筋力回復に伴い疼痛やROMの回復が得られ、筋力と術後成績は正の相関を示すと報告した。しかし、この報告は対象者全体の回復経過を追ったもので、対象者の臨床成績別の回復経過の特徴までは言及していない。よって今回、術後短期成績の良好群と不良群間で肩内外旋筋力の回復に特徴があるかを明らかにし、総合的な肩関節機能に関与する因子について検討を行った。【方法】〔対象〕当院にて、2011年6月から2012年2月までに腱板断裂に対しARCRを施行した症例中、術後3ヶ月・6ヶ月時に日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下、JOA)と、肩内外旋筋力評価を行い経過観察が行えた22例とした。〔方法〕先行文献に基づきJOAの疼痛・筋力・ADL・ROM項目の合計点数の8割を満たした例をexcellentとした。6ヶ月時にexcellentに達した例を良好群(17例 男性10名 女性7名 平均年齢64.2±11.2歳 平均JOA73.3±4.7点)、6ヶ月時にexcellentに達しなかった例を不良群(5例 男性5名 女性0名 平均年齢64.0±12.4歳 平均JOA54.6±6.1点)とした。尚、今回用いるJOAの定義は、理学療法士が評価しうる疼痛・筋力・ADL・ROM項目の合計点数とし、医師の判断が必要なX線所見と肩不安定性の項目は除外した。肩内外旋筋力は角速度60°/秒、180°/秒での等速性筋力とし、Biodex System3(Biodex社,USA)を用いて1stポジションにて測定した。筋力はピークトルクを体重で除した値を使用した。良好群・不良群間の3ヶ月・6ヶ月時の肩内外旋筋力の特徴を示すため、1)各時期の両角速度での肩内外旋筋力値の差、2)3ヶ月と6ヶ月での肩内外旋筋力の両角速度の変化率(6ヶ月の肩内外旋筋力値を3ヶ月の肩内外旋筋力値で除した値)の差、3)各群内の3ヶ月と6ヶ月の肩内外旋筋力の差、4)各時期でのJOAの値の差を検討した。統計学的検定には、1)2)4)は、群間比較のため2標本の差の検定を行い、3)は対応のある差の検定を行った。有意水準はp=0.05とし、R 2.8.1を用いて統計解析を行った。【倫理的配慮】本研究は、研究内容や倫理的配慮に関して、ヘルシンキ宣言に基づいた当院倫理委員会の承認を受け実施された。【結果】良好群と不良群間において、1)各時期での肩内外旋筋力の両角速度に有意差はみられなかった。また、2)3ヶ月・6ヶ月での肩内外旋筋力の変化率にも差がみられなかった。3)各群内の3ヶ月と6ヶ月の肩内外旋筋力の差に関しては良好群の全ての値で有意に筋力が改善しており(外旋60°/秒p<0.001、外旋180°/秒・内旋60°/秒・内旋180°/秒p<0.01)、不良群では外旋180°/秒・内旋60°/秒(共にp<0.05)で有意に筋力の改善がみられた。4) JOAの値については3ヶ月・6ヶ月共に良好群と不良群間で有意な差がみられた(3ヶ月p<0.01、6ヶ月p<0.001)。【考察】運動器リハビリ算定期限である約6ヶ月での良好群・不良群間にて、各時期での肩内外旋筋力の両角速度の筋力値に有意な差はみられず、3ヶ月と6ヶ月における変化率にも有意差はみられなかった。また、各群内の3ヶ月と6ヶ月の筋力には良好群・不良群共に概ね向上した。従って、肩内外旋筋力は増加するものの良好群と不良群には差がない事が明らかとなった。一方、JOAの値は良好群と不良群間で3ヶ月・6ヶ月共に差を示している。従って、3ヶ月・6ヶ月でのJOAの良好群・不良群に関与する因子として、肩内外旋筋力の絶対値と変化率は影響せず、術後6ヶ月のJOAの良好群・不良群に関与する因子は先行研究で述べられているような、年齢や術前拘縮の有無、罹病期間、断裂サイズや脂肪変性の有無などが影響すると考えられた。【理学療法学研究としての意義】ARCR後3ヶ月から6ヶ月において、良好群と不良群共に肩内外旋筋力の筋力強化は起こる。しかし、JOAでの総合的な肩関節機能の良好因子として肩内外旋筋力の影響はみられず、他の因子の影響を考慮して介入する必要性がある。
  • 内旋制限の残存傾向がある
    小野寺 智亮, 梅田 健太郎, 荒木 浩二郎, 菅原 亮太, 村田 聡, 瀬戸川 美香
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】近年,上腕骨大結節骨折において,肩関節腱板修復術のSuture bridging法(以下本法)が応用されている.本法は大結節骨片を付着した腱板ごと上腕骨に固定するもので,本法で良好な固定が得られたという報告例が散見される.しかし,機能についての報告は少ない.そこで,今回は当院での本法の機能成績について考察を交えて報告する.【対象】2011年~2012年に上腕骨大結節骨折を受傷し当院にて本法による骨接合術を施行した7例7肩(男性4例,女性3例)を対象とした.受傷時平均年齢は67.2±8.9歳(57-78歳),全例とも肩関節脱臼により受傷,理学療法の平均期間は7.2±2.4か月(6.5-12か月)であった.【方法】後療法は腱板断裂術後に準じて行ない,5週間のUltra sling固定,術翌日より他動可動域訓練,3週より自動介助運動,6週より腱板筋力訓練を行なった.理学療法終了時の肩関節可動域(屈曲,伸展,外転,外旋,内旋),肩関節外転筋力,疼痛,主観的満足度,機能評価は日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下:JOA score)とConstant scoring systemを用いて評価した.なお,肩関節屈曲と外転については自動運動と他動運動を,伸展と外旋は他動運動の可動域を計測した.肩関節内旋可動域と肩関節外転筋力についてはConstant scoring systemに準じて実施し,肩関節内旋は手背で触れる脊椎レベルを計測,肩関節外転筋力は90°外転位で上腕遠位部にハンドヘルドダイナモメーターをベルト固定し等尺性筋力を計測した.疼痛と主観的満足度についてはVASにて評価を行なった.【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,入院時に書面で対象者または家族へ説明し同意を得た.また,データはID化し個人が特定できないようにした.【結果】理学療法終了時の7例の肩関節の平均可動域は,屈曲:自動140.0±16.8°(120-165°),他動156.4±9.4°(140-170°),外転:自動129.2±19.8°(100-155),他動145.7±17.4°(110-165°),伸展52.5±2.7°(30-55°),1st外旋59.3±12.7°(40-75°),2nd外旋72.9±11.9°(50-85°),内旋は平均第1腰椎レベル(第9胸椎-第3腰椎)であった.肩関節外転筋力は8.4±2.7 kg (5-11kg),疼痛は4±3.6mm(0-7mm),満足度は87.6±4.3mm(83-95mm),JOA scoreは88.9±7.6(77-98),Constant scoring systemは85.3±10.0(72-96)であった.【考察】上腕骨大結節骨折は4mm 以上の転位がある場合は,外科的に整復固定する適応があると考えられている.固定方法としてはスクリューやワイヤー固定などが一般的であるが,骨片自体に再骨折を生じる可能性があり,強固な固定を期待できないことが少なくない.また,固定材そのものによるインピンジメントの発生の可能性もある.上腕骨近位部骨折後の理学療法では,可動域制限を作らないことが重要である.今回の結果,屈曲や外転可動域はADL自立可能な範囲まで改善し,機能評価においても良好な結果を得た.また,疼痛の訴えがほとんどなく満足度も高いものであった.本法の利点としては,スクリューによる骨接合術と異なり,腱板及び骨片の表面にインプラントが突出しないため術後インピンジメントの発生予防に有効であること,骨片全体を広い面で圧着できること,脆い骨片に対しても比較的強固な固定ができることがあげられる.今回の結果においても,インピンジメント症状を訴えた例はなかった.また,強固な固定ができ早期から他動可動域訓練を実施できたことで屈曲・外転制限が少なかったと考えられる.そのなかで制限が一番強かったのは内旋である.多くの症例で内旋制限による結帯動作の制限が残存した.今回の対象は全例が肩関節脱臼による受傷であるために,骨折の発生機序としては大結節に付着する棘上筋・棘下筋・小円筋の牽引力による大結節の裂離が考えられ,その際の上記筋へのダメージが筋の伸張性が低下させ内旋制限につながったと考えられる.また,本法は大結節の強固な固定ができるが,そのために上記筋の伸張性が低下してしまうことも考えられる.以上のことから,本法の理学療法においては特に内旋可動域を改善させていく重要性が示唆された.上腕骨近位端骨折は全骨折の4~5%で,大結節単独骨折はそのうちの2%弱と言われ,アウトカムの報告自体が少ない.発生頻度の少ない骨折ではあるが,データの積み重ねが臨床において有意義になってくると考える.今回は症例数が少なかったが,今後は対象数をさらに増やして検討をすすめる必要がある.【理学療法学研究としての意義】本法を行なった上腕骨大結節骨折後の内旋制限の可能性が示唆された.理学療法介入に際して,内旋制限の改善が機能・ADL改善につながると考える.
  • 栗原 豊明, 菅原 和広, 上野 将和, 伊賀 敏朗, 山本 康行
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】肩関節外転時には外転30°まで肩甲骨の運動が少なく,肩甲上腕関節の運動が主となるsetting phaseが生じる.この時期では肩甲骨は僧帽筋および前鋸筋の活動により肩甲胸郭関節を固定し,肩甲上腕関節において三角筋が発生させる外転トルクを効果的にするという報告がある.一方,腹横筋は上肢の素早い屈曲運動時に先行して活動し,腹圧の調節や予測的姿勢制御に重要な役割を担っているとされている(Urquhart DM et al. 2005).近年,腹横筋のトレーニング方法としてDrawingが行われ,Drawingが胸腰部の安定に関与することが報告されている.以上の報告から肩関節複合体の運動には体幹の固定および肩甲骨の固定と可動性が肩甲上腕関節の運動に深く関係していることが考えられる.そこで本研究の目的は体幹のトレーニングとしてDrawingを実施し,肩関節外転運動時の筋活動に与える影響を調査することとした.【方法】右利き健常成人男性8名(21.8 ± 1.2歳)を対象に実験を行った.使用機器は筋電計と計測ソフトウェアを用い,左肩関節外転,左肩甲骨面拳上時の筋電図の測定と解析を行った.肩甲骨面拳上はあらかじめ験者が被験者の左肩甲棘を触診し,その延長上で上肢を拳上するよう指示した.測定肢位は端座位とし,骨盤は中間位とした.両上肢は下垂した状態を取り,角速度90°/secで運動範囲は外転90°までとした.運動条件として,何も把持しない状態(0kg)と1kgの重錘を前腕遠位に巻いた2条件とした.測定筋は左僧帽筋上部線維,左僧帽筋中部線維,左前鋸筋下部線維,左三角筋前部線維,左三角筋中部線維とした.各筋に貼付した電極間距離は2cmとし,アース電極は左肩峰とした.Drawingの方法は先行研究(森.2011)を参考にし,背臥位で「臍をへこませるように」と口頭指示を与え行った.また課題中に息こらえが生じないように自然な呼吸を行うように指示した.上前腸骨棘から2cm内側,また腹直筋外側で触診し腹横筋の収縮を確認した.被験者は0kgおよび1kgにて肩関節外転および肩甲骨面拳上時の筋活動計測を行い,その後10秒間のDrawingを2セット行った.そして再度同様の条件と運動方向で筋活動計測を行った.筋活動計測時のsampling周波数は4000Hzとし,得られた筋電図波形は0.5~500Hzのbandpass filterで処理を行い,全波整流を施した.各筋線維の筋活動発現潜時を求めるため,三角筋中部線維の筋活動発現地点を0msとし,各筋の活動発現は三角筋中部線維の筋電図発現潜時との差とした.筋活動発現地点は安静時の筋活動量の平均±1.5SDを超えた地点として算出した.あらかじめ徒手筋力検査にて各筋の最大随意収縮(MVC)の積分値を算出し,各条件および関節運動で得られた0°から90°までの積分値をMVCで除した相対値(%MVC)を算出した.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は実験前に各被験者に実験内容を十分説明し,書面により同意を得た.【結果】0kg条件においての肩関節外転時の前鋸筋下部線維の筋活動量は,Drawing前22.3±12.4%(平均値±標準偏差)であったが,Drawing後では13.0±7.0%と有意に減少した(p<0.05).また1kgの重錘負荷条件での外転時においてもDrawing後に30.0±28.3%から13.0±4.5%となり有意に減少した(p<0.05).また肩甲骨面拳上時においても0kgおよび1kgの両条件でDrawing後に前鋸筋の筋活動が減少した(p<0.05).一方,筋活動潜時はすべての筋で各運動方向および0kg,1kg条件においてDrawing前後に有意差は見られなかった.【考察】腹横筋は体幹の安定性に関与するといわれ(Urquhart DM et al. 2005),今回用いたDrawingは腹横筋の代表的なエクササイズの一つである(Teyhen DS et al. 2009).本実験において,肩関節の2種類の外転運動を行ったところ,Drawing前後で前鋸筋の筋活動発現潜時は変化が見られなかったものの,肩関節外転と肩甲骨面拳上の両関節運動,また0kg,1kgの負荷条件においても前鋸筋の活動量が有意に減少した.前鋸筋は肩甲骨の運動に関与するだけでなく腹斜筋群へも影響することが報告されている.本実験ではDrawing直後で腹横筋の活動が得られたことにより,座位姿勢を保持するための腹斜筋の活動が減少し,それに伴い前鋸筋の活動量が減少したと考えられる.【理学療法学研究としての意義】肩関節は複合関節であり,本研究によりDrawingにより即時的に体幹の安定性が向上し,肩甲骨周囲筋群の筋活動が変化した.このことから,複合関節である肩関節の運動を円滑に行うためには体幹機能も含めた考察が必要であると考えられる.
  • 松原 淳一, 菊池 勇次
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 患者満足度やQOL(Quality of life)向上は、医療に携わる者の課題となっており、客観的評価と併せて様々な患者立脚型評価が行われている。肩関節疾患においても患者立脚肩関節評価法Shoulder36V.1.3が使用され、調査結果が散見されるようになってきた。そこで今回、治療時間を要する肩関節腱板断裂に着目し、退院時アンケート調査を行い、アンケート結果と肩関節機能、術中所見などの客観的な指標との関係性を調査し、若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は、当院にて2011年9月から2012年4月までの期間に腱板修復術を施行し、退院時アンケートを回収できた30例30肩とした。内訳は男性22名(平均年齢60.1±11.4才)、女性8名(平均年齢61.8±6.5才)であった。アンケート内容は術後リハビリテーションの内容や実施時間、スタッフ対応、病院内での生活満足度と夜間睡眠状態、鎮痛剤服薬状況、入院中自主練習時間などを調査した。アンケートは記名ありで医療関係者の面前を避け、回答を得た。その内、A夜間睡眠状態を夜間睡眠良好群(以下良好群)、不良群の2群に分類、B鎮痛剤内服状況を内服あり群(以下あり群)、内服なし群(以下なし群)に分類、C自主練習時間を15分以上群、15分以下群で分類し、A,B,Cの各分類で退院時日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下退院時JOA)、退院時疼痛Visual analogue scale(以下退院時VAS)、退院時肩関節自動挙上角度と他動挙上角度、術中所見として腱板断裂サイズ、腱板縫合角度との関係性を調査した。有意差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いて有意水準5%で処理した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言のもとに実施し、アンケート参加者には調査目的と方法を十分に説明し同意を得た。【結果】 A夜間睡眠状態では、良好群は22名、退院時JOAは平均50.3±15.0点、不良群は8名で平均54.9±7.5点。退院時VASは良好群4.0±2.3、不良群5.1±2.8。退院時自動挙上は良好群120.3±37.4度、不良群122.1±40.4度。他動挙上は良好群155.8±11.0度、不良群154.3±13.0度。断裂サイズは良好群3.3±1.9cm、不良群2.3±0.8cm。縫合角度は良好群16.8±10.0度、不良群11.3±11.0度であった。2群間での有意差は認められなかった。B鎮痛剤内服状況ではあり群は18名で退院時JOAは平均49.9±13.5点、なし群は12名で平均54.1±13.6点であった。退院時VASはあり群4.9±2.4、なし群3.4±2.3。退院時自動挙上はあり群122.3±36.1度、なし群118.3±41.6度。他動挙上はあり群154.0±11.9度、なし群157.5±10.6度。断裂サイズはあり群2.4±0.9cm、なし群4.1±2.3cm。縫合角度はあり群14.4±10.4度、なし群16.7±10.7度であった。断裂サイズのみ有意差が認められた。(p<0.05)C入院中自主練習時間では15分以上群21名で退院時JOAは平均50.2±12.6点、15分以下群は55.0±16.0点であった。退院時VASは15分以上群4.7±2.5、15分以下群3.4±2.0。退院時自動挙上は15分以上群122.0±37.5度、15分以下群118.0±40.0度。他動挙上は15分以上群157.1±11.2度、15分以下群150.7±11.0度。断裂サイズは15分以上群3.4±1.8cm、15分以下群2.1±1.1cm。縫合角度は15分以上群15.7±10.0度、15分以下群14.4±11.0度であった。断裂サイズのみ有意差が認められた(p<0.05)。【考察】 今回の結果では、鎮痛剤内服状況、自主練習時間において断裂サイズの有意差は認められたが、退院時VASは平均値の差が認められたものの有意差は認められなかった。断裂サイズが小さいと、退院時VASが高い傾向にあり、睡眠状態や鎮痛剤使用に影響していた。また断裂サイズが大きいと、退院時VASが小さく、睡眠状態良好で鎮痛剤も未使用が多い傾向となった。腱板断裂術後リハビリテーションにおいて、患者満足度向上には疼痛管理と早期機能回復が必要であると考える。今回、アンケートを介して患者主観評価と医療者側の客観的評価の関係性を調査し、患者主観評価への影響が考えられる疼痛に関しては平均値の差は認められたものの、統計学的有意差は認められなかった。しかし断裂サイズが睡眠状態、鎮痛剤内服状況に関与することは認められ、腱板の質的状態が術後リハビリテーション経過や患者主観評価に影響することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 患者立脚型評価と客観的評価を比較することは、患者ニーズを確認し、患者満足度向上を図るため重要であるとともに、術後成績に関与する因子分析の一助となることも示された。
  • 肩関節CKC運動について
    加地 和正, 山中 祥二, 阿部 大樹, 坂本 大樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】肩関節疾患において、肩甲上腕関節の拘縮並びに腱板筋やアウターマッスル等の筋機能低下、また肩甲帯の不良肢位など様々な複合的要因で肩関節機能障害を呈する。そしてこれらの障害の内、腱板筋を中心とした筋機能低下に対し、Redcordを用いたCKC運動をする事で、その効果を検証した。【方法】対象は、有痛性肩関節疾患19名(肩関節周囲炎15名:右肩6名/左肩9名・左腱板損傷3名・右鎖骨骨折後拘縮1名)、男性9名(平均年齢60.3±10.2歳)、女性10名(平均年齢61±7.63歳)。Redcord exercise(以下RCEと示す)によるCKCの方法は、サスペイションポイントとスリングポイントは、直線的な位置関係にし、対象者の可動性を考慮して肩関節90°屈曲の四つ這位とした。そして徒手的にセラピストが前後左右に5Hz程度の振動刺激を加え、5秒間4回1セットとし4セット施行した。エクササイズ効果判定方法では、1:VAS、2:患側肩関節自動可動域テスト(屈曲・外転・55°外転位での内外旋)。3:肩関節周囲筋筋力テスト:ハンドヘルドダイナモメーター(日本メデックス社製)使用し坐位で両側肩甲骨外転筋・肩屈筋・外転筋・55°外転位での内旋/外旋筋、また立位にて肩外転約30°での棘上筋筋力を2回測定し最大値を採用。また単位は、トルク体重比Nm/kgとして数値の補正を行った。以上の評価を四つ這位でRCEと四つ這位エクササイズ(以下四つ這位Exと示す)とし、同一対象者に運動前後測定した。なお測定日は別日に行った。また統計処理は、対応のあるWilcoxon符号付順位和検定で危険率5%未満を有意差とした。【説明と同意】被験者には、ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨を説明し、同意を得た症例を抽出した。【結果】1.VAS:RCEでは、平均4.4±1.4から3.4±1.6となり、四つ這位Exでは、平均3.8±1.7から3.3±1.7と、共に疼痛軽減認めたが、RCEの方がより有意(p<0.01)に疼痛軽減した。2.肩関節自動可動域テスト:運動前後の可動域結果では、RCE屈曲運動前143.2±10.2°、運動後147.7±11.5にて屈曲4.5°、外転6.1°、外旋6°と可動域が拡大し、特に内旋では、運動前43.1±16.9°から運動後50.1±16.6°と可動性の改善を見た。しかし四つ這位Exでは、外転と外旋では、2°程度可動域の改善を見たものの屈曲、内旋に関して有意差は無かった。3.肩関節周囲筋筋力テスト:運動前の筋力を100%として運動後筋力の変化率は、RCEでは平均109~121.7%で、その中でも特に棘上筋は121.7±16.4%で内旋筋118.6±16.8%、肩外転筋117.2±13.3%と即時的に筋力の数値が高い傾向であった。次に四つ這位Exでは、平均100~106.2%の筋力増加を見たが、2群間で有意差を認め、RCEの方がより筋力向上を示した。また患側、健側において各筋群の運動前後の有意差を見た結果。RCEでは、運動後患側・健側共に数値が高くなり有意差を見たが、四つ這位Exでは、患側外旋筋、肩甲骨外転筋、健側内旋筋に有意差を認めたものの、他の筋群では有意差はなかった。【考察】RCEによる四つ這い位では、サスペイション並びにスリングポイントが肩関節から手掌へと直線的となり、その反力を受けとめるには、骨頭を中心に関節窩が安定した位置でなければ肢位保持困難と推察される。このことは四つ這位での肢位にて行う事は、アウターマッスルと協調して肩甲下筋や棘上筋などの腱板筋が骨頭に対し、求心力として作用し上腕骨内旋位をとり、その結果肩甲骨が前鋸筋の活動と共に外転位に誘導され、この肢位を安定させる。次にred cordでのCKCでは、吊るしたロープの末端で主に支持するため、両上肢は不安定な状況下にて手掌から肩関節・肩甲帯・体幹と力学的運動連鎖が発生し、且つ振動刺激を入れることで、より固有受容器が刺激される。これらの外乱入力にて、筋紡錘がより活性化され、肩甲帯筋群や肩関節周囲筋群特に内旋筋や外転筋の即時的筋力向上や可動域改善となった。このことは、特に肩関節内旋の可動性が改善された事で考えて見れば、棘上筋や肩甲下筋の筋収縮が引き起こされると、骨頭が内旋方向の転がりを促し、また外旋筋である棘下筋や小円筋の筋収縮にて骨頭の後方への滑りを誘発し、上腕骨頭を関節窩に安定させ、骨頭偏位を制御し、運動軸がより中心化され、内旋を始めとして肩関節の可動性拡大に繋がったのではなかろうか。しかしすべての肩関節疾患に適応があるわけでなく、当然個々の肩関節機能を考慮して判断しなければ、関節圧縮による関節内の病変増悪や筋の過緊張を引き起こす要因にも成るため、エビデンスに基づいた肩関節機能評価や治療を行った上で、適応を見極め施行する事が重要である。【理学療法学研究としての意義】腱板機能低下を主症状とする肩関節機能障害に対するアプローチとして、Redcordの有用性が示唆された。
  • 鈴木 加奈子, 塩島 直路
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】肩関節は胸郭上を浮遊する関節のため,その土台となる体幹の機能の影響を受けやすい。先行研究において,上肢前方挙上0~150°における肩甲骨回旋の動きと体幹の屈曲・伸展の動きには3次相関があり,相互に関連がある事が示されている。また,上肢前方挙上0~90°では空間上における体幹の後方への動き,90~150°では前上方への動きが生じ,空間上における体幹の前後移動が生じている事も示されている。これにより,上肢前方挙上時の肩甲骨の動きは体幹前後移動とも関連がある事が予測される。本研究では,上肢挙上時の体幹の前後移動を制限しない条件(条件1)と,制限する条件(条件2)の2条件での上肢前方挙上時の肩甲骨前後傾の動きについて検討した。これにより,体幹前後移動が上肢前方挙上時の肩甲骨前後傾の動きに及ぼす影響について検討する事を目的とした。【方法】対象は,条件1:健常男性10名(年齢:26.5±4.1歳),条件2:健常男性6名(年齢:30.8±6.5歳)であった。測定肢位は,条件1:体幹の前後移動を制限しない自然坐位での両上肢前方挙上0°,30°,60°,90°,120°,150°の6肢位,条件2:支柱に頭部と胸部をベルトで固定し,体幹前後移動を制限した坐位での両上肢前方挙上同6肢位とした。被験者に測定肢位まで上肢を自動挙上させ,その肢位を保持させた状態で肩甲骨前後傾角度を測定した。水準計(シンワ測定社製)を肩甲骨棘下窩の平らな部分に沿わせ,体表より計測した。数値が大きくなる程肩甲骨後傾が大きくなる事,小さくなる程肩甲骨前傾が大きくなる事を示す。各条件下で,両上肢前方挙上0~150°の6点について,上肢前方挙上角度をx軸,肩甲骨前後傾角度をy軸にとり回帰分析を実施した。また,肩甲骨前後傾角度の上肢挙上30°毎の変化量を算出し,Mann- Whitney検定を実施し,2条件間で比較した。なお,統計には SPSS ver.12.0Jを用い,5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に本研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外に使用しない事,プライバシーの保護には十分留意する事を説明し,同意を得た。【結果】条件1での上肢挙上0~150°の6点における上肢挙上角度と肩甲骨前後傾角度は3次相関の関係(y=-0.000003x³+0.0008x²+0.0158x+89.318, R²=0.997, p<0.01)をなした。肩甲骨前後傾角度の変化量(°)は,上肢挙上0~30°:0.4±4.4,30~60°:3.2±3.6,60~90°:2.8±3.0,90~120°:0.9±3.5,120~150°:3.0±6.3であった。条件2での上肢挙上0~150°の6点における上肢挙上角度と肩甲骨前後傾角度は3次相関の関係(y=-0.00002x³+0.0053x²-0.127x+79.546, R²=0.994, p<0.01)をなした。肩甲骨前後傾角度の変化量(°)は,上肢挙上0~30°:-0.1±7.0,30~60°:7.2±9.2,60~90°: 5.6±6.7,90~120°:5.9±5.2,120~150°:2.5±3.9であった。上肢挙上90~120°における条件2での肩甲骨前後傾角度は条件1と比較し有意差(p<0.05)があり,後傾が大きくなった。【考察】両条件共に,上肢前方挙上時の上肢挙上角度と肩甲骨前後傾角度の間には 3次相関がみられ,体幹移動の有無によらず上肢挙上時には一定のリズムに従って肩甲骨前後傾の動きが生じている事が示された。上肢挙上90~120°における肩甲骨前後傾の動きは,体幹前後移動を制限する場合としない場合を比較し有意差がみられ,体幹前後移動が制限された場合に肩甲骨後傾が大きくなる事が示された。これにより,体幹前後移動が上肢挙上時の肩甲骨前後傾の動きに影響を及ぼす可能性が考えられる。体幹での肩甲骨関節窩を前上方へ向ける動きが制限された事で,肩甲骨での動きが大きくなったのではないかと考える。この事から,肩甲胸郭関節での可動域が得られていても,体幹前後移動の制限により肩甲骨関節窩を前上方へ向けられない場合がある事が考えられる。今後は,上肢挙上時の肩甲骨と体幹の動きの関係について検討を加える。【理学療法学研究としての意義】上肢挙上時の肩甲骨前後傾の動きには,体幹の前後移動が影響を及ぼす事が示された。これにより,肩甲骨の動きを評価,治療する際の新たな着目点を得られた。
  • -腱板断裂症例の腱板機能から考える-
    尾崎 尚代, 千葉 慎一, 嘉陽 拓, 西中 直也, 筒井 廣明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】古くから諸家によって肩関節機能に関する研究がなされてきている。腱板機能訓練に関しては筒井・山口らの報告を契機に多くの訓練方法が用いられ、近年では肩甲骨の機能が注目され、肩関節求心位を得るための訓練方法が多々報告されている。しかし、肩関節の動的安定化機構である腱板を構成する各筋が肩関節求心位を保つための機能について報告しているものは渉猟した限りでは見つからない。今回、腱板断裂症例の腱板機能を調査し、肩関節求心位を保持する腱板機能について興味ある知見が得られたので報告する。【方法】2011年9月末までの2年間に当院整形外科を受診し、初診時に腱板断裂と診断された症例のうち、「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像を撮影し、手術した症例35名(年齢60.8歳±12.7、男性19名・女性16名、罹患側 右22名・左13名)について、術前MRI所見および手術所見からA群(棘上筋単独断裂 23名)、B群(棘上筋+棘下筋断裂 5名)、C群(肩甲下筋を含む断裂 7名)の3群に分類した。 「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち肩甲骨面上45度挙上位無負荷像を用い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、関節窩と上腕骨頭の適合性について、富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は任意の垂線に対する上腕骨および関節窩の角度を計測し、関節窩と上腕骨頭の適合性は、関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として関節窩に対する上腕骨頭の位置関係を計測した値を腱板機能とした(正常範囲-1.11±2.1、大和ら1993)。統計学的処理は、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ²検定を用いて危険率5%にて行い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、腱板機能について3群を比較検討し、さらに腱板機能については正常範囲を基に3群間で比較検討した。【説明と同意】当院整形外科受診時に医師が患者の同意を得て診療放射線技師によって撮影されたレントゲン像を用いた。なお、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。【結果】測定平均値をA群、B群、C群の順で示す。上腕骨外転角度(度)は43.59±8.84、45.64±7.04、33.83±7.54、肩甲骨上方回旋角度(度)は10.17±13.46、0.96±5.02、24.87±22.92であり、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度については3群間で有意差は認められなかった。腱板機能は-0.75±4.76、5.44±12.61、7.84±5.07であり、3群間で有意差は認められ(p=0.007)、なかでもC群はA群と比較して関節窩に対して骨頭の位置が上方に移動していた(p=0.0008)。腱板機能について正常範囲を基に各群間で比較した結果、A群では正常範囲に入るものが23名中10名(43.5%)であり、関節窩に対して骨頭が上方に移動しているもの、下方に移動しているものがそれぞれ26.1%、30.4%あったが、B群、C群では正常範囲に入るものが0%、14.3%であった。B群は骨頭の上方移動および下方移動を呈するものが半数ずつであったが、C群では7名中6名(85.7%)が骨頭の上方移動を呈しており、有意差が認められた(p=0.03)。【考察】腱板断裂の指標として用いられる肩峰骨頭間距離は下垂位前後像で計測し、その狭小化を認める症例は腱板断裂の疑いがあるとされているが、今回用いた機能的撮影法は肩甲骨面上45度拳上時における肩甲骨と上腕骨の位置関係を調査している。 当院では、肩関節疾患患者に対し理学療法実施時に疼痛誘発テストとして肩甲骨面上45度挙上位での徒手抵抗テストを行ない、理学療法プログラム立案の一助としているが、このテストと同一の撮影肢位であるレントゲン像を用い、腱板断裂症例の腱板機能を断裂腱によって分類して調査することによって肩関節の求心位に作用する筋が明らかになると考えた。その結果、棘上筋の単独断裂では約半数は正常範囲にあり、残りの半数および棘下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭が上方あるいは下方へと移動するが、肩甲下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭の上方移動が認められたことから、肩甲下筋の機能不全が肩関節求心位に大きく影響することが示唆された。また、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は各群間で差がなかったことから、腱板機能不全を呈する症例は上腕骨を空間で保持するために肩甲骨が様々な反応を示すことが推測でき、前回報告した結果を裏付けするものと考える。 臨床上、肩甲下筋を選択的に収縮させることによって肩関節可動域が改善する症例を経験するが、肩甲帯の土台である肩甲骨の機能はもちろんのこと、腱板機能不全に対し肩関節求心位を確保するために選択する理学療法プログラムは肩甲下筋を考慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から肩関節疾患症例に対しておこなわれる腱板機能に関する理学療法プログラム立案を再考する必要性が示唆された。
  • 超音波画像診断装置を用いた検討
    押領司 俊介, 井上 彰, 鶴田 崇, 的場 早条, 木村 淳志, 緑川 孝二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 肩関節障害の原因は、肩関節複合体にとどまらず、骨盤や体幹といった全身からの影響を多く受けているが、肩関節の機能向上を目的とした訓練を指導する際、強度や回数の設定は行っても、訓練時の姿勢について着目することは少ない。近年、姿勢と肩甲骨アライメントとの密接な関係を示唆する文献も散見され、姿勢が肩甲上腕関節に与える影響も大きいと考える。 肩峰骨頭間距離は単純X線写真により計測されるが、座位姿勢による検討は散見しない。そこで今回、超音波画像診断装置を用い肩峰-大結節間距離を測定し、骨盤前後傾誘導による座位姿勢の違いが肩甲上腕関節に与える影響を検討した。【方法】 対象は健常成人男性16名16肩。平均年齢26.3±5.1歳(22~42歳)。全例利き手の右側で計測した。超音波画像診断装置はTOSHIBA社製Xario(7.5MHzリニア型プローブ)を用いた。座位は、縦6cm横40cm高さ3cmの硬性ポロン材の板(以下ポロン板)を椅子の中央に置き、椅子の高さは座位姿勢で両下肢の足底が全面設置する高さと規定した。ポロン板に両坐骨を乗せた状態での自然坐位を中間位とし、中間位から上体を動かさず、坐骨がポロン板から落ちないように骨盤前傾した状態を前傾位、骨盤後傾した状態を後傾位とした。骨盤角度はゴニオメーターと水平計を用い、上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ直線と水平線の角度を計測した。それぞれの位置で超音波画像診断装置を用い、上肢下垂位での肩峰前面-腱板付着部(superior facet)間の距離を測定した。統計学的検討には二元配置分散分析法・多重比較検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。【結果】 座位姿勢の変化は、骨盤中間位から前傾位への移動量が平均13.9°、後傾位への移動量が平均22.1°であった。肩峰前面-腱板付着部間の距離は、中間位で平均24.27mm、前傾位で平均25.82mm、後傾位で平均22.48mmであった。前傾位から後傾位になるにつれ距離が短くなり、それぞれの肢位で有意差を認めた。【考察】 今回の座位姿勢の変化量は、ポロン板上での骨盤移動に規定しており、通常の立位や座位でのアライメントの崩れによる骨盤移動量と比べ、その変化量は少ないと思われる。この規定内で骨盤誘導を行ったにも関わらず、骨盤前傾に伴い肩峰-大結節間距離は有意差を持って長くなり、骨盤後傾に伴い肩峰-大結節間距離は有意差を持って短くなる結果が得られた。その原因は、腰椎や胸椎、肩甲骨など多くの要因を含んでいると考える。 骨盤の後傾に伴い腰椎の前弯は減少し、胸椎後弯は増強する。Finleyらは、意図的にだらしない(胸椎後弯の)姿勢をとった場合、肩甲骨前傾・上方回旋が増加したと報告し、姿勢と肩甲骨運動の密接な関係を示した。また村木らは、肩甲骨の前傾に伴い肩峰下最大接触圧は直線的に減少したと報告し、肩甲骨アライメントの変化が肩甲上腕関節に与える影響を示唆している。肩甲上腕関節での肩峰と大結節間の関係を見ても、肩甲骨の前傾に伴い肩峰-大結節距離は短くなり、今回の結果において骨盤後傾に伴い肩峰-大結節間距離が短くなった結果も、これらの先行研究と同様の結果であると考える。 今回の研究では、肩甲骨アライメントの3次元的な動きの詳細までとらえることは出来ないが、骨盤前傾に伴い腰椎前弯の増強、胸椎後弯の減少が起こり肩甲骨下方回旋・後傾・外旋が起こり、肩峰-大結節間距離は長くなり、骨盤後傾に伴い腰椎前弯の減少、胸椎後弯の増強が起こり肩甲骨上方回旋・前傾・内旋が起こり、肩峰-大結節間距離は短くなったと考える。【理学療法学研究としての意義】 肩関節機能向上を目的とした訓練を行う際、通常は立位で行うことが多い印象を受けるが、場合によって座位で訓練を行う事も少なくない。今回の研究では、座位面を指定し、上体を動かさずにポロン板上で骨盤を誘導するといった、非常に狭い範囲での結果においても有意な差が生じたことより、今後立位、座位ともに、肩関節機能向上を目的とした訓練を行う際は、姿勢も考慮して指導する必要性があると考える。また今後の展望として、これらの肢位の違いによる筋出力の変化や、疼痛を有する患者の訓練方法などを検討していきたい。
  • 水池 千尋, 石原 康成, 堀江 翔太, 大谷 豊, 立原 久義
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】可動域制限を伴う肩関節疾患では,結帯動作が障害され日常生活動作に支障をきたすことがあるが,その改善に難渋することが多い.肩の可動域制限に対するアプローチは様々であり,肩関節周囲筋の緊張や軟部組織の癒着を取り除く徒手療法やセルフエクササイズ等が実施される.しかし,運動療法の介入に対する評価は困難であり,とりわけセルフエクササイズの効果を検証した研究は少ない.近年,機器を用いた肩の屈曲・伸展反復運動(以下,ディップ運動)がセルフエクササイズとして行われている.短時間で安全に肩関節の可動域を改善し,結帯動作を改善することができれば,有効な治療法となる可能性があるが,効果に関しては不明な点が多い.本研究の目的は,機器を用いた短時間のディップ運動が肩関節の可動域と結帯動作に及ぼす影響について検証することである.【方法】対象は,肩に整形外科的疾患を有さない健常成人20名40肩[平均年齢:33(21-50)歳,男性:11名,女性:9名]とした.運動に使用した機器は,Hogrel ディッピングミニ(是吉興業株式会社製)である.運動は,機器のシートに着座した状態で,肩のディップ運動を行わせた.運動時の上肢の肢位は2種類とし,肩伸展・肘屈曲・前腕回内位と肩外転・肘屈曲・前腕回内位とした.運動の速さと回数は,対象者自身のタイミングでリズミカルに20回ずつ行うように指示した.本研究における運動時間は,約3分程度であった.運動前後に,肩関節自動挙上角度,第7頸椎棘突起から母指先端までの距離(以下,指椎間距離)を測定した.指椎間距離は結帯動作の指標として用いた.また,上肢下垂位と挙上時における肩甲棘と上腕骨長軸のなす角度(spino-humeral angle:以下,SHA)を測定し,上肢下垂位と挙上時の値の差によって,肩甲上腕関節の可動範囲を評価した.肩関節自動挙上角度とSHAの測定はゴニオメーターを用い,指椎間距離の測定にはメジャーを用いた.さらに,運動後の肩の上がりやすさに関する主観的感覚について,「上がりやすくなった」,「変わらない」,「上がりにくくなった」の3件法のアンケートを実施した.統計学的処理はSPSSを用い,運動前後の比較には対応のあるt検定を行った.有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の目的や手順を十分に説明し,口頭にて同意を得た.また,本研究は所属する職場の倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】肩関節自動挙上角度は運動前157.8±8.3°,運動後161.4±7.5°で,運動後に有意に拡大した(p<0.05).指椎間距離は運動前137.4±51.5mm,運動後125.6±48.0mmで,運動後に有意に短縮した(p<0.05).SHAは運動前108.9±13.4°,運動後109.8±12.1°で,運動前後で有意な差はなかった。アンケートは,「上げやすくなった」(10/20名),「変わらない」(10/20名)という回答が得られ,「上げにくくなった」という回答は無かった.【考察】本研究の結果より,ディップ運動後に肩関節自動挙上角度は拡大し,指椎間距離は短縮することが明らかとなった.一方,SHAは運動前後で変化しなかった.これらのことから,ディップ運動は肩関節の可動域を拡大させるが,肩甲上腕関節(glenohumeral joint:以下,GHj)よりも肩甲胸郭関節(scapulothoracic joint:以下,STj)の動きに作用することが示唆された.ディップ運動によりSTjの可動域が拡大した機序として,広背筋,僧帽筋,前鋸筋の反復収縮と相反神経抑制によって肩甲骨周囲筋の柔軟性の向上が引き起こされたことによると考えられる.結帯動作の獲得にはGHjの可動域だけではなくSTjの運動が重要であるため,ディップ運動によるSTjの可動域拡大により,指椎間距離の短縮が得られたものと考えられる.さらに,対象者の半数で自覚的な改善度も得られることが明らかとなった.このことは,本研究の運動がセルフエクササイズに重要な自己効力感を高め,モチベーションの維持に繋がる可能性が示唆された.今後,各筋の柔軟性の変化や効果の持続時間については,さらなる検討が必要であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】肩のディップ運動は,肩甲上腕関節より肩甲胸郭関節の可動域を拡大し,結帯動作の改善に繋がることが示唆された.このことから,肩甲胸郭関節の可動域制限がある場合に有効な治療法となる可能性を見出したことに意義があると考えられる.
  • 前田 伸悟, 木村 雅巳, 濱野 祐樹, 西岡 幸哉, 濱田 健司, 山名 智也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】肩関節は大きな自由度を持たせるために、上腕骨頭と浅い関節窩により形成され、関節の接合面は筋をはじめとする軟部組織で構成されている。不安定な関節の動的安定性を保証するうえで回旋筋腱板を中心とした内外旋筋が重要な役割を果たしている。肩関節疾患において、鏡視下腱板縫合術(以下ARCR)による術後成績は早期に関節可動域の獲得および筋力の回復が期待できるといわれており、これまでに良好な成績が諸家により報告されている。先行研究により、矢貴らは、術後早期の可動域回復良好因子として利き手を報告している。しかし術側の違いが筋力回復過程に及ぼす影響には十分に検討なされていないのが現状である。今回ARCR術後、術側利き手・非利き手の違いが筋力の回復に影響するかを調査したので報告する。【方法】〔対象〕当院で2011年6月から2012年2月までに腱板断裂に対して、ARCRを施行した症例中、術後3ヶ月、6ヶ月時に肩内外旋筋力評価を行い経過観察可能であった22症例とした。〔方法〕患者からの聴取により利き手、非利き手を決定した。利き手群13例(右13肩 左0肩 平均年齢71.3歳±7.5歳 男性9名 女性4名)非利き手群9例(右2肩 左7肩 平均68.7歳±8.9歳 男性6名 女性3名)の2群に分けた。肩内外旋等速性筋力測定は、Biodex System3(Biodex社.USA)を使用した。計測肢位は肩関節屈曲50°外転30°外転位の肩甲骨面上の座位にて測定した。角速度計測は60deg/sec、180deg/secとし肩関節内外旋運動を各々60deg/secにて5回180deg/secにて10回実施し、筋力を測定した。筋力値はピークトルクを体重で除した値を使用した。上記の計測を3ヶ月時、6ヶ月時にて行った。利き手群、非利き手群間の3ヶ月、6ヶ月における肩内外旋筋力の特徴を示すために1.3ヶ月、6ヶ月時における肩関節内外旋筋力の筋力値2.肩関節内外旋筋力の変化率(6ヶ月の筋力を3ヶ月の筋力で除した値)を用いた。統計学的検定には、2標本の差の検定(t検定)を行った。有意水準はp=0.05とし、すべての統計解析のために、R2.8.1を使用した。【倫理的配慮】厚生労働省が定める「臨床研究に関する倫理指針」に基づき診療情報は匿名化したうえで後方視的なデータを収集・分析した。また本研究は研究内容や倫理的配慮に関してヘルシンキ宣言に基づいた当院倫理委員会の承認を受け実施された。【結果】3ヶ月、6ヶ月時における利き手群、非利き手群間の内外旋筋力60deg/sec、180deg/sec筋力値は有意な差はなかった。また、3ヶ月、6ヶ月での肩内外旋筋力の変化率も有意な差がなかった。【考察】肩関節腱板機能において利き手、非利き手の筋力の回復の特徴を客観的に評価する一方法として、等速性筋力測定器による筋力評価を行った。今回の結果では、3ヶ月、6ヶ月時の利き手と非利き手における肩関節内外旋筋力60deg/sec、180deg/secでの筋力値に優位な差はなかった。また3ヶ月、6ヶ月での肩関節内外旋筋力の変化率にも優位な差がなかった。矢貴らは、術後2週目における可動域制限の関連因子として、術側の違いの報告があり、この可動域制限は12ヶ月経過後も有意な差があると報告がある。また肩関節可動域制限が筋力回復を阻害するという報告がある。利き手の損傷は、日常生活を送る上で、使用頻度は高く、左右非対称である動作も多いため筋力回復過程にも影響を及ぼすと考えたが今回の結果からは得られなかった。これらの理由として先行研究に比べ対象者の年齢が高齢であるために労働や活動性が低いことが予想される。そのためこれら対象群において筋力の回復には利き手、非利き手の影響は少ないと考えられた。今回のように比較的高齢である場合、筋力の回復過程の関連因子として、利き手、非利き手に優位差はないためその他因子の影響が考えられる。筋力回復の傾向性は年齢や断裂サイズなど他の因子と検討することで、検討の余地があると考えられる。【理学療法研究としての意義】ARCR術後利き手、非利き手という術側の違いが筋力回復に影響するか等速性筋力評価を用いて計測したが今回の対象者において有意な差は得られなかった。今回のような対象群において筋力の回復過程の関連因子として、利き手、非利き手に優位な差はないため、その他因子の影響が考えられる。
  • 前腕屈筋群へのストレッチ実施による検証
    木原 太史
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】橈骨遠位端骨折などの患者の運動療法を行う際、手関節の背屈・掌屈の関節可動域(以下、ROM)の角度が改善しても、日常生活動作の中で、なかなかうまく動作が改善しない事を経験する。日本リハビリテーション医学会が制定するROM検査法では、手関節の掌屈・背屈は、前腕中間位にて測定するように定められている。だが、日常生活動作の中で、前腕中間位で動作する事は少ないように感じる。今回、前腕の肢位の違いにて手関節背屈のROM角度(以下、手背屈ROM角)に差があるのかを比較検討し、その因子について検証するため、前腕の屈筋群に着目し、筋腹を直接圧迫するダイレクトストレッチ法(以下、ストレッチ)を実施することで、手背屈ROM角がどう変化するのかを測定し、検証を行った。若干の知見を得たのでここに報告する。【方法】対象は手関節に問題のない健常成人29名(男性17名、女性12名、平均年齢31.3±7.9歳)とした。まず、29名の左右の手関節背屈ROM角を、前腕の中間位、回内位、回外位で測定した。また、その背屈運動時に、同時に起こっている手関節の橈側・尺側への偏位角度(以下、偏位角)も測定した。その後、背屈時の拮抗筋となる前腕の屈筋群に対して、患者の痛みを伴わない程度の弱いストレッチを行い、手背屈ROM角の変化を測定した。ストレッチの強さは、防御性筋収縮反応が出ない程度の強さで、伸張時間は、各筋腹に対して20秒×3か所の合計1分間行った。29名の対象者のうち、ストレッチを(1)橈側手根屈筋に対して行った10名(以下、FCR群)、(2)尺側手根屈筋に対しての10名(以下、FCU群)、(3)長母指屈筋に対しての9名(以下、FPLM群)、(4)深指屈筋に対しての9名(以下、FDP群)に実施した。その後、ストレッチ前後の手背屈ROM角について統計処理を行った。統計処理は、対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意差有りとした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には今回の研究に対して十分な説明を行い、同意を得た。【結果】(1)前腕の肢位による手背屈ROM角は、平均で回外位58.09±7.57°、回内位64.83±8.15°、中間位77.7±6.43°であり、手背屈ROM角は、回外位<回内位<中間位となり、中間位が最も大きかった。それぞれp<0.0001と有意差があった。(2)また、その時の偏位角は、平均で、回外位20.65±8.28°(橈側偏位)、中間位6.54±6.36°(橈側偏位)、回内位16.39±6.97°(尺側偏位)であった。偏位角においても、それぞれの肢位で、p<0.0001と有意差があった。ストレッチ実施前後での変化として、有意差が出たものとしては、(3)前腕中間位で、手背屈ROM角は、FDP群が、78,29±9.52°→84.14±6.04°、偏位角は、FPLM 群が、6.29±6.18°→2.71±2.56°(橈側偏位)へと角度の変化が見られた。同じように、(4)前腕回内位で、手背屈ROM角は、FCR群が63.4±2.76°→70.8±3.85°、FPLM群が64.86±8.03°→68.57±6.9°、偏位角は、FPLM 群が、14±2.31°→9.71±6.21°(橈側偏位)、(5)前腕回外位で、手背屈ROM角は、FCR群が55.2±4.02°→63.1±8.64°へと変化が見られた。前腕回外位での偏位角は、どの筋群においても、特に有意差は見られなかった。【考察】手背屈ROM角を前腕中間位、回内位、回外位で測定した結果、前腕の肢位により、有意差が見られ、前腕中間位での背屈角度が最も大きかった。これは、前腕の肢位による橈骨と尺骨の骨関係により筋の走行も変化するため、筋の伸張による制限も因子の1つと考えられる。それを検証するために、前腕の3つの肢位にて、各手関節屈筋群に対し、ストレッチを行い、手背屈ROM角と偏位角の変化を見た。前腕回内位では、手背屈ROM角はFCR群とFPLM群に、偏位角はFPLM群に変化が見らえた。これは、橈側の浅層と深層の筋の伸張感が回内位での手背屈ROM角の制限因子の1つになっていることが考えられる。また、前腕回外位でも、手背屈ROM角はFCR群に有意差が見られたことで、回外位においても、橈側の筋であるFCRが因子の1つとなっていることがわかる。【理学療法学研究としての意義】以上のことより、手背屈動作にて、浅層の橈側手根屈筋とともに、深層の筋である長母指屈筋が、筋によるROMの制限因子を考える上で重要であり、前腕のどの肢位においても、これらの筋へのアプローチを考えていく必要があるといえる。
  • 運動速度および収縮様式によって筋力トレーニング時のメカニカルストレスに違いはあるのか?
    小林 拓也, 中村 雅俊, 武野 陽平, 梅垣 雄心, 池添 冬芽
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 運動速度をゆっくりとする筋力トレーニング法であるスロートレーニング(以下ST)は比較的低負荷を用いながらも持続的な筋収縮を行うことで,高負荷で行う通常速度での筋力トレーニング(以下NT)と同等の筋力・筋量の増加が期待できると報告されている.しかし,これらの先行研究は反復回数を統一した条件下でSTとNTを比較しており,総トレーニング時間を統一して比較した報告はみられない.また,一般的にNTでは求心性収縮トレーニングに比べて遠心性収縮トレーニングの方が筋力増強効果は高いとされているが,STにおいて求心性収縮と遠心性収縮の割合を変化させて比較した報告はみられない.そこで,本研究の目的は健常若年男性を対象に,総トレーニング時間を統一した条件下で筋力トレーニングによる骨格筋特性の即時変化を調べ,運動速度(STとNT)および収縮様式(求心性収縮と遠心性収縮の割合)の違いが骨格筋のメカニカルストレスに及ぼす影響を明らかにすることとした.【方法】 上肢に整形外科的疾患の既往を有さない健常男性36名(年齢22.7±3.1歳,身長172.1±5.6cm,体重64.1±7.3kg)を対象とした.対象筋は利き腕側の上腕二頭筋とし,測定課題は肘関節を屈曲20°から120°まで屈曲し(求心相),再び屈曲20°まで伸展させる(遠心相)動作とした.対象者を無作為に求心相と遠心相の時間が同じST(NST群: 求心相5秒,遠心相5秒),求心相が長いST(CST群: 求心相7秒,遠心相3秒),遠心相の長いST(EST群: 求心相3秒,遠心相7秒),求心相と遠心相の時間が同じNT(NT群: 求心相1秒,1秒静止,遠心相1秒,1秒静止)の4群に分類した.最大筋力の20%の重錘を把持して肘関節屈伸運動をSTでは10回×3セット,NTでは25回×3セット行い,いずれの群も総運動時間は計300秒に統一した.トレーニング時は表面筋電図(Noraxon社製テレマイオ2400)を用いて上腕二頭筋の筋活動を測定した.筋力トレーニングによる上腕二頭筋へのメカニカルストレスの指標として,筋力,筋厚,筋輝度を測定した.筋力の測定には徒手筋力計(酒井医療社製モービィ)を用いて,肘関節90°屈曲位での最大等尺性筋力を2回測定し,平均値をデータとして採用した.また,超音波診断装置(GE横河メディカル社製LOGIQe)を用いて,安静背臥位での上腕二頭筋の筋厚および筋輝度を測定した.なお,筋厚の増加は筋線維がメカニカルストレスを受けて微細損傷を起こし,腫脹している状態を表している.また筋輝度の増加(高エコー)はメカニカルストレスによる筋の炎症状態を反映している.筋力,筋厚,筋輝度について各群のトレーニング前後の比較に対応のあるt検定を用いた.また,トレーニング前後の変化率およびトレーニング中の上腕二頭筋の総筋活動量積分値(筋活動量積分値の合計)の群間比較にはSteel-Dwass法による多重比較を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に研究の十分な説明を行い,同意を得た.【結果】 すべての群においてトレーニング直後に筋力は有意に低下,筋厚および筋輝度は有意に増加した.トレーニング前後での変化率は筋力がNST群-14.1±14.2%,CST群-14.6±8.4%,EST群-14.4±9.5%,NT群-13.5±4.3%,筋厚はNST群11.7±6.0%,CST群10.5±8.5%,EST群5.6±7.0%,NT群12.4±10.5%,筋輝度はNST群23.1±22.5%,CST群17.6±14.5%,EST群13.9±9.6%,NT群9.7±8.1%であり,いずれの項目も4群間に有意差は認められなかった.また,トレーニング時の総筋活動量積分値も4群間で有意差は認められなかった.【考察】 本研究の結果,すべての群でトレーニング直後に筋力は低下し,筋厚,筋輝度は増加した.これらはトレーニングにより筋がメカニカルストレスを受けたことによる即時変化であると考えられた.また,筋力,筋厚,筋輝度の変化率はいずれも4群間で有意差は認められなかった.トレーニング時の総筋活動量積分値は群間差がなかったことから,総トレーニング時間や総筋活動量が同じであれば動作速度や収縮様式による違いはない,すなわちスロートレーニングにしても,あるいは遠心性収縮の割合を多くしても,骨格筋に対するメカニカルストレスに違いはみられないことが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 筋力トレーニングによる骨格筋特性の即時変化,すなわち骨格筋に対するメカニカルストレスは,運動速度や収縮様式よりも,むしろトレーニングの総時間や総筋活動量が影響していることが推測された.本研究結果は筋力増強を目的とした運動療法を確立するうえでの一助となると考えられる.
  • 超音波画像診断装置を用いた評価
    板垣 昭宏, 山本 泰三, 豊田 和典, 矢上 健二, 関口 成城, 榊 佳美, 石井 さやか, 山口 茜, 福山 勝彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】上腕骨小頭と橈骨頭で構成される腕橈関節は,上腕骨小頭との適合性を高めるため,橈骨関節面は凹型の構造となっている.構造的な特徴から,肘関節伸展時に上腕骨小頭に対して,橈骨頭は後方へ滑るとされている.Gotoらは,肘関節運動時の腕橈関節における関節面接触に関する研究において,上腕骨小頭関節面は肘関節屈曲135°に比べ90°,0°では後方での接触になり,橈骨関節面は肘屈曲135°では前方での接触,屈曲90°,0°では全体での接触になると報告している.しかし,超音波画像診断装置を用いて,肘関節伸展時の腕橈関節を評価した報告は少ない.我々は,超音波画像診断装置を用いて,肘関節伸展時の橈骨頭の後方への移動量について検討したので報告する.【方法】対象は神経学的および整形外科疾患の既往の無い健常女性10名10肘で,測定肢はすべて左肘とした.対象者の平均年齢は24.2±1.6歳,平均身長は156.4±2.9cm,平均体重は48.9±3.1kgであった.測定肢位は背臥位とし,被験者の右上肢で測定側上腕近位部を把持させ,肩関節内外旋0°の位置で固定した.計測する角度は,前腕回内外中間位で肘関節伸展-20°,-15°,-10°,-5°,0°,5°とし,ゴニオメータにて設定した.上腕骨小頭に対する橈骨頭の後方への移動を,超音波画像診断装置(東芝社製famioSSA-530A 12MHzリニア式プローブ)を使用し,腕橈関節前面からの長軸像を計測した.プローブ操作は,短軸像での上腕骨小頭頂点を描写し,上腕骨小頭頂点を軸に90°プローブを回転させて,腕橈関節長軸像を描写した.腕橈関節長軸像から内蔵デジタルメジャーのパラレル計測を用いて,矢状面での上腕骨小頭頂点を通る線と,その線に対し橈骨頭前縁を通る平行な線の二つの線の間の距離を腕橈関節前後距離(以下,腕橈関節前後距離とする)として計測した.腕橈関節前後距離は,上腕骨小頭に対する橈骨頭の後方への移動量を正の値として算出した.各角度における腕橈関節前後距離を3回計測し,平均値を測定値とした.なお測定はすべて同一検者により実施し,プローブを皮膚に対して直角にあて過度な圧をかけないように注意しながら行った.各角度間における腕橈関節前後距離を,一元配置分散分析にて比較し,有意差のみられたものにTukeyの多重比較検定を行った.統計処理には統計ソフトSPSSを使用し,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】実験に先立ち,対象者には研究内容について十分に説明し同意を得た.【結果】腕橈関節前後距離の平均値は,肘関節伸展-20°で0.93±0.7mm,-15°で1.90±0.78mm,-10°で2.7±0.60mm,-5°で3.32±0.69mm,0°で3.92±0.74mm,5°で3.98±0.82mmであった.肘関節伸展-20°では,-10°以上の各角度との間に,肘関節-15°では,-5°以上の各角度との間に,肘関節-10°では,-20°および,0°,5°との間に有意差があったが(P<0.05),肘関節伸展-5°,0°,5°の各角度間には有意差はなかった.【考察】今回の結果において,肘関節-5°,0°,5°の間での腕橈関節前後距離に有意差はなかったことから,肘関節屈曲位から伸展する際に,上腕骨小頭に対して橈骨頭は後方へ移動するものの,肘関節最終伸展域では橈骨頭は後方への移動はしていない,または少ない可能性が示唆された.腕橈関節の特徴として,上腕骨小頭の関節面は上腕骨長軸に対し,矢状面で前方に約30°傾いており,さらに関節軟骨は前方のみに限局していることから,肘関節最終伸展域では,橈骨頭は上腕骨小頭関節面に対し狭い関節面で適合しなければならない構造となっている.肘関節伸展可動域を改善するためには,上腕骨小頭に対して,橈骨頭が後方に移動できるよう周囲の軟部組織の柔軟性を確保するとともに,最終伸展域では橈骨頭を後方へ移動させるのではなく,上腕骨小頭関節面に適合させるような誘導をする必要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】肘関節伸展可動域を拡大させるためには,腕橈関節に対する評価や運動療法を実施する意義があると考える.腕橈関節の可動性を引き出すためには,上腕骨小頭に対して橈骨頭の後方への移動が必要であり、肘関節最終伸展域では上腕骨小頭関節面に橈骨頭を適合させる必要があると考える.
  • 佐々木 晃子, 亀山 顕太郎, 岩永 竜也, 荻野 修平, 村田 亮, 石毛 徳之
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 結帯動作は複合運動であるため、肩甲上腕関節にのみアプローチを行っても改善しないことを臨床でも経験する。このような結帯動作制限を有する症例の中には、前腕の回内可動域制限に対しアプローチを行うことで、結帯動作制限が改善する場合がある。こうした症例は、前腕の回内可動域制限が、結帯動作制限の一要因になっていると考えるが、前腕の可動域制限が結帯動作に与える影響を述べた研究は少なく、どの程度の影響を及ぼすか明らかにされていない。そこで、本研究では前腕の回内可動域制限を擬似的につくり、前腕が最大結帯動作に与える影響を調査することを目的とした。【方法】 被検者は本研究に同意を得た、健常成人10名(男性8名 女性2名、平均年齢24.1±2.5歳、平均身長167.1±10.7cm)、測定は右側上肢のみとした。利き手は全員右手であった。測定項目は最大結帯動作時の母指と第7頸椎棘突起の距離とし、メジャーを用いて1mm単位で測定した。測定肢位は体幹伸展位、股関節90°屈曲位、膝関節90°屈曲位とし、椅子座位で測定した。体幹伸展位は矢状面から観察して、肩峰と大転子が一直線となるように設定した。測定課題は、前腕の回内可動域を制限しない状態での最大結帯動作(以下;最大結帯動作)、およびテーピングにて前腕の回内可動域を制限した状態での最大結帯動作(以下;前腕回内制限による結帯動作)の2つの課題とした。2つの課題の順番はランダムに行い、それぞれ最大結帯動作時の母指と第7頸椎棘突起の距離を2回測定し、2回の平均値を指椎間距離として求めた。テーピングは、非伸縮性テーピング(日東メディカル社ニトリートCB-38)を使用し、テーピングを巻く肢位は上腕下垂位、肩関節内外旋中間位、肘関節90°屈曲位、前腕回外位とした。テーピングを巻く方法は、尺骨茎状突起より開始し、前腕掌側を通り橈骨茎状突起へ、さらに前腕後面へ回り尺骨の茎状突起へ到達させ、同様の方向へ螺旋状に前腕遠位から前腕中間位までテープを巻き、擬似的に前腕回内制限をつくった。回内制限の角度に関しては、テーピングの巻き方・強さを調整し、最大の自動前腕回内角度が60°(正常可動域より30°の前腕回内制限)になるように調整した。テーピングは全例同一検者が巻いた。また、全例テーピングを巻いた後に、肘関節の屈曲伸展角度に制限が起きていないことを確認した。統計処理にはSPSS17.0J for Windowsを用い、最大結帯動作と前腕回内制限による結帯動作を対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 被検者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を十分説明し、同意を得た上で研究を行った。【結果】 最大結帯動作時の指椎間距離は平均16.1±4.3cm、前腕回内制限による結帯動作時の指椎間距離は平均19.4±4.8cmであり、最大結帯動作に比べて前腕回内制限による結帯動作時の指椎間距離に有意な延長が認められた。内訳としては10名中9名が延長をしめし、1名は変化がなかった。最大結帯動作と比較し、前腕回内制限による結帯動作時の指椎間距離の延長は、各被検者間で0cm~6.5cmと被検者間で差が生じた。【考察】 今回、前腕の回内可動域を制限した場合は、前腕の回内可動域を制限しない場合と比較し指椎間距離が延長する傾向にあった。指椎間距離を短縮させるためには、母指の外転(いわゆるサムズアップ)を十分に行い、前腕を回内させ母指の先端を上部に向ける必要がある。この時に、前腕の回内が制限されていると十分に母指の先端を上部に向けることができずに、指椎間距離の延長につながると考える。また、前腕が回外傾向だと尺骨が棘突起から離れるため、上腕骨の伸展動作がより必要となり、肩甲上腕関節への負担が増大し指椎間距離の延長につながるのではないかと推察した。日常生活の中でも、女性用下着の着脱は前腕回内で行う場合もあるため、この前腕の回内可動域制限の改善は日常生活動作の拡大にもつながると考えた。結帯動作の制限に関して様々な報告があるが、本研究で明らかになった前腕の回内可動域制限に関しても、結帯動作制限の一要因といえると考える。今回、健常者において結帯最終域での制限がみられたが、今後は実際の症例を通して前腕回内角度の改善が、どの程度結帯動作の改善に影響を与えるか検討していく予定である。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、結帯動作最終域において制限を有するような症例に対し、肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、体幹の可動性の他に、前腕の可動性についても着目し、評価、治療をする必要があると考える。
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