理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般口述発表
  • 唄 大輔, 徳田 光紀, 福本 貴彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 近年,ジャンプ着地時の筋活動のタイミングに関する報告が多くされており,特に前活動という機能が着目されている.ジャンプ着地時の膝関節周囲筋の筋活動においては,大腿四頭筋に対してハムストリングスの筋活動が早く起こることが多く報告されている.特に膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament:以下ACL)損傷予防プログラムの中で,様々なジャンプ動作が用いられており,その中には垂直方向のジャンプ動作,スクワットジャンプ,前後ジャンプ動作,そして180°回転や360°回転ジャンプ動作がある.ACL予防のためには,ジャンプ動作からの着地動作指導が必要であると報告されており,先行研究で180°回転や360°回転ジャンプ動作時の動作解析は報告が見当たらない.現場では予防プログラムとして用いられているが動作解析の報告がないために,回転ジャンプ動作が必要なのか疑問である.そこで本研究では,360°回転ジャンプ時の着地動作において,表面筋電図を使用し,着地動作時の最大筋活動時間の相違を検証する.そして,予防プログラムとして有効であるかを検証する.【方法】 対象は下肢に運動器疾患のない健常女子大学生11名(平均年齢19.8±1.0歳,平均身長157.1±3.9 cm,平均体重50.2±2.6 kg)とした.課題動作として,右方向への360°回転ジャンプを実施した.課題動作は,直立位から右側へ360°回転ジャンプを行わせ,開始肢位に戻ることとした.測定は3回行ない,着地後に着地姿勢を2秒間保持することを条件とした.本研究では,左下肢を測定下肢とした.着地動作における膝関節周囲筋の筋活動の測定には,表面筋電図測定装置(SX230; Biometrics Ltd. UK)を用い,サンプリング周波数は2000Hzとした.被検筋は,内側広筋(Vastus medialis:VM),外側広筋(Vastus lateralis:VL),大腿二頭筋(Biceps femoris:BF),半膜様筋(Semimembranosus:SM)の4筋とした.得られた筋電図波形4筋において,最大筋活動が訪れる平均時間を算出し,それぞれの差をみるために一元配置分散分析を用い,多重比較にはTukeyを用いた.危険率は5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-25)を得て行った.また,被験者には本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,同意を書面にて得た.【結果】 回転ジャンプ着地後の最大筋活動が見られた時間は,VMが104.7±25.5ms,VLが98.9±22.2ms,BFが10.9±64.2ms,SMが24.8±69.4msであった.今回,着地前後の0.4秒間の最大筋活動を測定したが,全ての筋において着地後に最大筋活動が記録された.また,着地時の筋活動について,ハムストリングスが大腿四頭筋に対して最大筋活動時間が有意に早く起こった(p<0.05).しかし,VMとVL,BFとSMの間には有意な差は認められなかった.【考察】 本研究では,回転ジャンプ着地動作時の最大筋活動時間の差を検討した.その結果,全ての筋で着地直後に最大筋活動が起こった.また,ハムストリングスの筋活動時間が大腿四頭筋に対して有意に早く活動が起こった.これらのことから,回転ジャンプ着地前後の筋活動において,膝関節屈曲筋群の筋活動が早く起こることが示された. 台からのドロップジャンプや垂直ジャンプ動作時の筋活動の先行研究において,ハムストリングスの活動は着地前に最大となり,大腿四頭筋においては着地後に起こるという報告が多い.本研究では,全ての筋において着地後に最大筋活動が起こった.これは先行研究と違い難易度が高く,経験による予測的制御が働きにくいことが考えられる.しかし,ハムストリングスの最大筋活動は大腿四頭筋より早く起こり先行研究と同様の結果となった.また,内側と外側の筋において群間の有意差は認められなかった.回転ジャンプにより支持脚には膝関節外反方向のストレスが加わることが考えられ,そのストレスを制動するために内側の筋群の活動が高く見られることが考えられる.しかし今回の結果から,有意な差は認められず,VMとVL,BFとSMにおいてそれぞれ最大筋活動が似たタイミングで起こった可能性が考えられる.それにより外反や内反方向への回旋ストレスを軽減することが考えられる. 以上より回転ジャンプ動作においても,着地時に膝関節は正中位となり,またハムストリングスの活動が早く起こることで膝関節屈曲位を誘導することが示唆された.これはACL損傷予防肢位であり,適切なアライメントを保持することで予防トレーニングとして有効であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 以前より予防プログラムとして用いられていた回転ジャンプ着地動作においても,適切な筋活動を誘導することは,ACL損傷予防につながり有効なプログラムの一つと考えられる.
  • 石田 知也, 山中 正紀, 谷口 翔平, 越野 裕太, 武田 直樹, 松本 尚, 青木 喜満
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 膝前十字靱帯(ACL)損傷のリスクとして着地動作時の膝関節外転運動や内旋運動が報告されている.また,着地動作時の膝関節回旋運動は膝関節周囲組織(鷲足,膝内側側副靱帯靱帯など)のストレスの原因として考えられる.しかし,着地動作時の膝関節回旋運動に関しては報告が少なく,それを明らかにすることは膝関節障害の予防・治療を行う上で重要である.我々は第44回日本理学療法学術大会(2009)にて荷重下で膝屈曲角度を一定にした下肢外反運動(Knee-in,Dynamic knee valgus)において膝関節外旋運動が生じたことを報告し,第22回日本臨床スポーツ医学会(2011)では着地動作時の膝関節回旋運動に多様性があることを示唆した.本研究の目的は1)着地動作時の膝関節回旋運動を検討すること,2)着地動作時の膝関節回旋パターンと膝関節外転運動が関係するかを検討することとした.【方法】 対象は過去6か月に整形外科学的既往がない健常女性25名とした(21.0±1.3歳,159.4±6.4cm,50.6±6.5kg).動作課題は30cm台から着地後直ちに最大垂直跳びを行うDrop vertical jumpとし,反射マーカーを右の大腿,下腿などに合計39個貼付して赤外線カメラ6台(MotionAnalysis,200Hz)と床反力計2枚(Kistler,1000Hz)を同期させ記録した.台からの着地における初期接地(IC)から最大膝屈曲時までを解析対象とし,データ解析ソフトSIMM(MusculoGraphics)を用いて膝関節内外転,内外旋角度を算出した(それぞれ外転,内旋が正).また,膝関節回旋パターンについて検討するため我々の過去のデータ(2011)を参考にしてパラメータを決定した.過去のデータではほぼ全例で膝関節は接地後に内旋し,早期に内旋角度ピークが生じていた.内旋ピーク後はほぼ回旋運動を生じない例,緩やかに外旋する例,急激に外旋する例が見られたため,膝関節内旋角度ピーク値とその後生じる膝関節外旋角度ピーク値の差を外旋変化量と定義し(外旋変化が正),膝関節回旋パターンを表すパラメータとした.また,接地後40msまでの膝関節外転,内旋運動とACL損傷の関係性が示唆されているため,接地後40ms間での膝関節回旋角度変化量を算出した.統計学的解析では膝関節外転,内旋角度のIC時,ピーク値と外旋変化量の間の関係性に関してPearsonの相関係数を用いて検討した(P<.05).なお,各被験者データは成功3試行の平均値を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学保健科学研究院倫理委員会の承認を得て行った.対象には事前に口頭と書面で研究内容について説明し,十分に理解を得て参加に同意した者は同意書に署名をし,研究に参加した.【結果】 IC時の膝関節回旋角度は1.3±4.2°であった.IC後に一貫して内旋,外旋運動を呈した例を各1例ずつ認めたためその後の解析から除外した.残りの23例における内旋角度ピーク値は8.5±5.2°であり,接地後71.7±46.8msに生じていた(膝屈曲角度ピーク:179.1±41.3ms).内旋角度がピークに達した後の外旋変化量は7.0±5.6°(0.7-24.0°)であり,ほぼ回旋運動を生じない例や大きく外旋運動が生じている例を認めた.外旋変化量は膝関節外転角度ピーク値(R=.549,P=.007)との間に有意な相関を認めた.すなわち,膝関節外転角度ピーク値が大きいほど膝関節内旋ピーク後の大きな外旋変化量を示した.また,接地後40ms間での膝関節回旋角度変化は25例中22例に4.9±3.1°の内旋変化,3例に-1.9±1.0°の外旋変化を認めた.【考察】 接地後早期の膝関節外転,内旋運動はACL損傷リスクとされるが,この運動は本研究の様な非損傷場面でも多くの例で生じる運動であることが示された.Kogaら(2010)はACL損傷場面のビデオ解析で接地後40msまでの膝関節回旋角度変化は10例中8例で10.4±5.7°の内旋変化,10例中1例で16°の外旋変化が生じていたことを報告している(1例は0°).この値は本研究結果と比較して高値であり,接地後早期の急激な膝関節回旋運動がACL損傷に関係する可能性が考えられた.また,膝関節内旋ピーク後の外旋変化量は膝関節外転角度ピーク値と相関した.この結果は我々の先行研究(2009)と矛盾しない結果であり,着地動作においても膝関節外転運動と外旋運動が関連して生じていることが示唆された.着地動作時に膝関節外転角度が大きい例では外旋ストレスも加わり鷲足や膝内側側副靱帯への負荷が大きくなることが考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究結果は臨床場面では詳細な評価が難しい着地動作時の膝関節回旋運動についての知見を示した.この知見は臨床家が着地動作の動作分析において膝関節回旋ストレスを予測するのに役立つだろう.
  • -足部アライメントと足底板の種類による効果の違い-
    伊藤 雄, 山中 正紀, 松本 尚, 石田 知也, 本多 大輔, 青木 喜満
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)は,スポーツ中でのジャンプ着地や減速動作,方向転換動作などにおいて受傷頻度が高いとされており,膝外反に加えて下腿の回旋が生じることによって受傷すると報告されている.膝外反に関連する運動要素の1つとして足部回内・外反があり,静的な足部回内アライメントがACL損傷受傷のリスク因子であるとする報告も散見される.足部回内・外反の治療選択の一つとして足底板療法が広く用いられているが,足底板使用により第5中足骨頭への負荷が増加するという報告もなされており,その適応は慎重に判断する必要がある.足部の静的なアライメントと足底板の種類による上位関節への効果の違いとの関連性は足底板処方において重要であるが,まだ未解明な部分が多い.そこで,本研究の目的は足部の静的なアライメントと足底板の種類の違いによる膝関節に与える効果の違いを調べることとした.【方法】神経学的・整形外科的現病歴,既往歴の無い健常女性13名(平均年齢23.4±2.6歳)を対象とした.対象をNavicular Drop(ND)の値からNDL群(NDが7mm以上:n=7),NDS群(NDが7mm以下:n=6)の2群に分類した.動作課題は,30cm台上両脚立位から前方への片脚着地とした.動作は,三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis社製),カメラ6台(240Hz),床反力計1枚(Kistler社製 1200Hz)を使用し,被験者には体表に39個の反射マーカーを貼付し運動を記録した.また,事前に対象の足型を非荷重位(座位)にて採型し,対象の足底に合った内側アーチサポートを作成,加えて対象の足長に合わせた5°の内側ウェッジを用意し,足底板無し(bare),内側アーチサポート(arch),内側ウェッジ(wedge),内側アーチサポート+内側ウェッジ(both)の4条件下にて,片脚着地動作を行った.なお,足底板はテープで足底に固定した.測定前に運動の十分な説明と練習を行い,各条件下4試行の運動を記録した.床反力が10Nを超えた点を初期接地(Initial Contact:IC)とし,IC前150msからIC後150msの間における膝関節の角度/モーメントをSIMM4.2.1(Musculo Graphics社製)を用いて算出した.統計学的検定は,各群ともに25msごとに4条件間の角度・モーメントをrepeated-measure ANOVAを用いて比較し,post hocにはLSDを使用した.統計学的有意水準はp<0.05とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,対象には実験前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えうる危険性等を十分に説明し,内容について十分に理解を得た.その上で参加に同意した者は同意書に署名し実験に参加した.【結果】床反力,膝屈曲/伸展角度・モーメントはどちらの群も4条件間で有意差はなかった.膝内反/外反角度において,NDL群では100,125msの時点でbothが他の3条件に比して有意に内反角度が高値であったが,NDS群ではIC,25msの時点でboth,archがbareに比して有意に内反角度が少なかった.また膝内旋/外旋角度において,NDL群では125,150msの時点で,both,archがbareに比して有意に内旋角度が高値であったが,NDS群では有意差を認めなかった.膝内反/外反モーメントにおいては,NDL群では75~150msの時点でbothが他の3条件に比して有意に内反モーメントが高値であったが,NDS群では75~125msの時点でbothがbareに比して有意に内反モーメントが高値であった.【考察】75ms以降において,NDL群ではboth条件が他の3条件に比して内反角度・モーメントが高値であり,NDS群では角度では有意差は無くモーメントではbothと他の足底板条件との差が無くなったことから,NDが大きい者はarch,wedge単独ではなく両方を合わせなければ足底板による制動効果を発揮することができないかもしれなく,NDの小さい者では,単独で十分に効果が出る可能性が示唆された.しかし,NDの小さい者では裸足に比して足底板を入れることでより高い内反モーメントを生じており,膝関節へ加わる負荷が増大していると考えられるため,予防の観点からの足底板の使用は慎重に判断する必要性があるかもしれない.今後は足底板使用による股関節・体幹の運動への効果や,筋活動の変化についての研究が必要だと考えられる.【理学療法学研究学的意義】ACL損傷予防においては,臨床的に神経筋コントロールの改善を中心に行われているが,足底板療法もまた選択される一つの治療戦略である.足部のアライメントと足底板の種類による効果の違いとの関連を明らかにすることで,より効果的な足底板処方を行うことが出来るようになる可能性が考えられる.
  • ~筋力・可動域を中心に~
    宮本 謙司, 小川 千津子, 大見 頼一, 長妻 香織, 尹 成祚, 川島 達宏, 栗原 智久, 土井 朋美, 加藤 宗規
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】膝前十字靱帯(以下ACL)損傷は,スポーツ外傷の中でも発生頻度が高く,受傷すると高いレベルでのスポーツ活動が困難となる.また,術後競技復帰までに6ヵ月以上の期間を要し,選手の受ける損失は大きい.ACL損傷に影響する因子として,生体力学的因子が注目されている.中でも非接触型ACL損傷は,ジャンプ着地動作やカッティング動作中の膝関節外反の増加,外反モーメントの増加,膝軽度屈曲位が影響すると報告され,中でも、膝最大外反角度が注目されている.しかし,着地動作における膝最大外反角度と基本的な身体能力を示すパラメーターである関節可動域,筋力,着地時の膝アライメントや運動力学的なパラメーターである着地時の膝への負担,衝撃力との関係は明らかになっていない.そこで,これらのパラメーターの変化が膝外反角度の増減に影響を与えているかを,三次元動作解析装置,床反力計を用い,台から片脚着地動作を行った際に起こる膝最大外反角度と関節可動域,筋力,着地後最大下肢三関節角度,最大下肢三関節モーメント,最大鉛直方向床反力,つま先接地時(以下IC)での各関節角度,関節モーメントの間に関連があるかを検証することを目的とした.【方法】対象は,大学女子バスケットボール部所属選手、14名28肢(18~20歳:平均年齢18.2±0.6歳).測定項目は,関節可動域測定(伸展位股関節内旋・外旋角度)(屈曲位股関節内旋・外旋角度)(膝伸展位/屈曲位/荷重下・足関節背屈角度).下肢筋力測定:等速性筋力測定機を用い実施(膝伸展・屈曲・片脚スクワット・両足スクワット).等尺性筋力測定を、徒手筋力測定器を用い実施(股関節外転、外旋、開排).片脚着地動作は三次元動作解析システムVICONMXを用い,試技は20cm台からの片脚着地動作を左右とも実施し,解析可能だった2試技の平均値を採用した.解析項目は,つま先接地時と着地後最大を示した値の股・膝・足関節の各角度と関節モーメントと垂直方向最大床反力を算出した.統計は,片脚着地後,膝最大外反角度を中心に,各可動域,各筋力,各関節モーメント,最大床反力との相関をpearsonの相関係数を用い,有機性は危険率5%水準で判定した.【倫理的配慮】 本研究は、対象者に書面と口頭にて研究目的・方法を説明し同意を得た.また本研究はヘルシンキ潜原に基づく倫理的配慮を十分に行った.【結果】IC膝外反角と膝最大外反角度に有意な相関を認めた(p<0.05).しかし,それ以外の膝最大外反角度と関節可動域,各筋力,各関節における最大関節モーメント,床反力,IC時股関節・膝関節(膝外反を除く)・足関節の角度,IC時の各関節における関節モーメントの間に有意な相関は認めなかった.IC膝内外反角度は内反,外反,双方が存在していたが,最大膝内外反角度は全て外反位であった.【考察】IC膝外反角と膝最大外反角度のみに有意な相関を認め,片脚での着地動作において,着地の瞬間には膝関節内反位,外反位をとるものがいた.しかし,全ての被験者が最大外反に向かって膝を外反させている事が分かった.そして,IC時にすでに外反が大きいものは,最大外反も大きくなる事が示唆された.着地動作では,矢状面上での緩衝作用を前額面等で代償する可能性があり,着地時の靭帯保護作用として,神経筋コントロールによる早い反応と,それを補う前活動が必要と考えられる.そのため,IC膝外反は着地後に起こる身体活動をスムースに行うための前活動であるとも考えられる.よって,ICの膝外反角が,その人の着地パターンを決定付けている可能性が考えられた.また,股関節外転機能と膝外反量の関係について,股関節外転筋力や外旋筋力が低値な選手ほど膝外反角度量は大きいと報告しているものがあるが,今回の研究では膝最大外反角度と関節可動域、筋力との間に有意な相関は認められず,着地後の最大外反に対して股関節外転筋や外旋筋のみが影響を与えているのではなく複合的な要素が影響している事が本研究により示唆された.【理学療法学研究としての意義】 片脚着地動作時の膝最大外反角度は,IC膝外反が大きいものは膝最大外反角度も大きくなることが示唆され,また,膝関節最大外反角度は股関節、足関節の関節可動域や股関節周囲筋力、膝周囲筋力といった特定の要素で決定するものではない事が示唆された.今後の課題として,着地時膝最大外反を少なくするためには,ICまたは,それ以前のアライメントや筋のプレ活動などを分析する必要があると思われた.
  • 宝満 健太郎, 山中 正紀
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】前十字靱帯(以下,ACL)損傷を予見するスクリーニングツールとされる Drop vertical jump(以下,DVJ)は,前向き研究により着地時の膝外反運動(Dynamic knee valgus)を指標として広く臨床的に認知されている.数多くの研究がそのような動的アライメントの原因を神経筋コントロールの不良として結論づけている.事実,神経筋トレーニングの一つであるPlyometricな運動は着地動作における下肢筋前活動や膝関節モーメントを有意に変化させることが報告されている.DVJは単純な着地動作ではなく、着地後すぐに最大垂直跳びというPlyometricな連続動作で構成され,伸長-短縮サイクルを形成する.そのため運動を素早く切り替える必要性から単位時間当たりの関節運動を減少させ立脚時間を短縮することが要求される.しかし,この機能的要求が膝関節運動へもたらす変化は不明である.本研究の目的は,DVJ時の立脚時間の短縮が膝関節運動、特に外転運動に及ぼす影響を調査することである.【方法】健常大学生15名(男性9名,女性6名)を対象とし、下肢既往のないものとした.30cm台からのDVJを三次元動作解析装置(Cortex3.0,Motion Analysis社製)にてリアルキャプチャーし,着地時の指示を与えないPreferred条件を3試行、接地時間の短縮が定常状態となる3試行の計9試行をそれぞれ採取した.データ解析にはSIMM(Motion Analysis社製)を使用しスキンアーチファクトに配慮した膝詳細モデルを作成し適用した.統計学的検定はANOVAを用い,post hoc testはBonferroniを用いた(有意水準p<0.05)【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当大学院倫理委員会の承認を得て行った.対象には事前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などを説明し,その内容について十分に理解を得た.その上で参加に同意した者は同意書に署名し,実験を行った.【結果】立脚時間の短縮はPreferred条件より有意に短縮され、膝外転モーメントおよび内旋モーメントが上昇させた(p<0.05).また,膝外転角速度および内旋角速度も高値となった.下肢関節の変化量は有意に減少していた(p<0.01).【考察】立脚時間を短縮する要求に応じて下肢のStiffness を上昇させなければならない.Pollardらは膝屈曲角度が小さいものはより大きな膝外転角度およびモーメントを呈すというLigament Dominance theoryを提唱している.本実験結果もこれを支持し,立脚時間の短縮は膝関節前額面運動に影響を与えた.加えて,回旋運動も増加させ,これらの組み合わせはACLのin situ forceを高めることが示唆される.【理学療法学研究としての意義】ACL再建術後のプロトコールには,ジャンプ動作開始における明確なエビデンスは存在していない.本研究はその一端に寄与するとともに,着地時の立脚時間に焦点を当てた神経筋トレーニングがACL損傷予防への効果的な介入となる可能性を示している.
  • 内野 翔太, 大森 茂樹, 河原 常郎, 土居 健次朗, 倉林 準, 門馬 博, 八並 光信
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】足関節背屈制限は下肢ダイナミックアライメントに影響を及ぼし、円滑なスポーツ動作の阻害や二次的外傷の発生機転になる。足関節には荷重時の衝撃吸収能、運動伝達や運動制御、身体機能制御など重要な関節機能がある。そのため、足関節の機能低下が他関節に与える影響は極めて大きい。足関節捻挫後、選手は足関節可動域制限を有したままスポーツ復帰する事が多い。根地島らによると、片脚着地は両脚着地より膝関節屈曲角度が減少し外反角度が増加するため、前十字靭帯損傷のリスクが高まると報告した。Bodenらは、一般的な損傷パターンに片脚着地動作を上げている。着地動作の先行研究は、足関節背屈角度に着目したものは少ない。本研究は、足関節背屈角度と着地時の下肢各関節に与える影響を検証することで、障害予防の一助とすることを目的とした。【方法】対象は両足関節に整形外科的疾患をもたない、健常男性11名22肢(年齢24.4±1.9歳、身長1.74±0.05m、体重65.2±7.4kg)とした。足関節背屈角度は27.4±7.8°であり、35.2°以上をA群(2肢)、35.6°未満19.6°以上をB群(17肢)、19.6°未満をC群(3肢)と分類した。計測機器は、VICON MXシステム(VICON、カメラ7台、200Hz)、床反力計OR6-7(AMTI、2枚、1,000Hz)、使用ソフトはVICON NEXUS1.6.1を用いた。マーカは、Helen Hayes Markersetの35ヵ所とした。測定方法は、足関節背屈角度を、日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会により決定された関節可動域表示ならびに測定法に準じて測定した。運動課題として対象は30cm台に乗り、静止立位の姿勢から床反力計に向けて自由落下させた。片脚での着地後、同側での片脚跳びを行い着地するまでの計測を行った。着地後の片脚跳びは素早く・高く跳ぶように教示した。対象は測定前に十分に練習を行った。運動課題は、三次元動作解析装置および床反力計を用いて計測した。解析項目は、下肢各関節角度、関節モーメントを算出し、着地点、着地最下点、離地点の値を抽出した。各期の規定は、着地期:30cm台からの垂直落下し床反力計に足部が接地した点、着地最下期:身体重心の最下点、離地期:床反力計から足部が離れる点とした。各データを二元配置分散分析で比較検討し、有意水準を5%未満とした。【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に準じ事前に対象者に研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得たうえで研究を開始した。【結果】着地期において、足関節角度(底屈・背屈)ではA群-28.7±4.7°、C群-18.4±7.3°となり、A-C群間において有意差を認めた。膝関節角度(外反・内反)では、A群7.8±0.2°、C群15.0±2.0°となり、A-C群間において有意差を認めた。膝関節モーメント(外反・内反)では、A群8.8±27.6Nmm、C群-6.9±6.7NmmとなりA-C群間に有意差を認めた。股関節モーメント(外転・内転)では、A群-6.7±17.2Nmm、C群-13.7±10.6NmmとA-C群間で有意差を認めた。着地直後では足関節底屈角度が膝関節・股関節において外反・内反ならびに外転・内転方向に関与する。着地最下点において、足関節角度(底屈・背屈)では、A群22.2±1.9°、C群27.8±2.0°となり有意差は認められなかった。股関節角度(屈曲・伸展)、膝関節角度(屈曲・伸展)ではともにA-C群間での有意差が認められた。股関節・膝関節モーメントでは屈曲・伸展においてA-C群間に有意差を認めた。足関節角度での有意差は認められないが膝関節・股関節の矢状面での動きに有意差を認める結果となった。離地期においては、足関節角度(底屈・背屈)、股関節モーメント(屈曲・伸展)において有意差を認めた。【考察】本研究では、足関節背屈角度が着地動作時の下肢各関節に与える影響を検証した。着地期では足関節角度においてA-C群間では背屈角度だけでなく底屈角度においても有意差を認めた。また、足関節の矢状面での角度が股関節・膝関節の前額面での角度ならびに関節に作用する力に影響を与えると考える。着地最下点では足関節角度と股関節・膝関節に関係は認められなかった。足関節背屈角度だけでなく足関節底屈角度が、障害の要因になると示唆された。そのため、足関節背屈角度だけでなく足関節底屈角度にも着目する事が重要と考えた。【理学療法学研究としての意義】今回の研究により、足関節角度が下肢における二次的障害を引き起こす要因となると示唆された。足関節角度は臨床やスポーツの現場でも容易に計測できる。足関節可動域制限を防ぐことが下肢関節の障害予防に繋がる事となる。
  • 栗原 智久, 大見 頼一, 尹 成祚, 川島 達宏, 長妻 香織, 土井 朋美, 吉本 真純, 川島 敏生, 栗山 節郎, 宮本 謙司, 遠 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年、膝前十字靭帯(以下ACL)損傷を中心とした予防プログラムの効果が諸家により報告されており、我々も女子バスケットボール選手を対象に予防プログラムを行いACL損傷の発生率が減少したと報告している。女子バスケットボール選手に対する予防プログラムの効果は散見されるが、男子スポーツ選手を対象としたものは少なく、男子バスケットボール選手に対する予防プログラムの効果についての報告は見られない。また、下肢スポーツ外傷予防を目的として作成された予防プログラムによって下肢スポーツ障害が減少するか否かを検討した報告も見られない。本研究の目的は、男子大学トップレベルのバスケットボール選手に対する予防プログラムが下肢スポーツ外傷と下肢スポーツ障害の発生状況に及ぼす効果について検証することである。【方法】対象は関東大学1部リーグの男子バスケットボール選手、コントロール期44名、介入期43名とした。介入前2年間をコントロール期とし、介入後2年間を介入期とした。傷害の定義として、下肢スポーツ外傷は1回の急激な外力によって発生するものとし、下肢スポーツ障害は度重なるストレスによって発生するものとした。発生件数は練習・試合を1日以上休んだものを1件と定義した。介入方法として知識教育と実技の講習会を選手と指導者を対象に年間3回行った。正しいアライメントや動作方法を画像と動画を用いて講義し、実技として二人一組でのアライメントチェックやジャンプ着地、ストップ動作などの動作指導を行った。予防プログラムはジャンプ・筋力強化・バランス・ストレッチングの4種類で構成し、頻度はトレーニング期が週2~3回以上とし、試合期は週1回以上とした。練習・試合時間と傷害が発生した人数を記録し、1000player-hour(1000PH)当たりの傷害発生率を算出し、相対危険度を用いて比較した。【倫理的配慮】対象には本研究の趣旨を説明し、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行い、実施した。【結果】コントロール期の下肢スポーツ外傷は69件、下肢スポーツ障害は41件であった。介入期の下肢スポーツ外傷は31件で下肢スポーツ障害は13件であった。1000PH当たりの発生率は、下肢外傷がコントロール期0.019/1000PH、介入期0.009/1000PHであり有意(リスク比0.482,p<0.05)に減少した。下肢スポーツ障害はコントロール期0.011/1000PH、介入期0.004/1000PHであり有意(リスク比0.340,p<0.05)に減少していた。【考察】今回、男子バスケットボール選手を対象に予防を行った結果、下肢スポーツ外傷、下肢スポーツ障害ともに有意に減少した。今回、我々が作成した予防プログラムはACL損傷を中心とした下肢スポーツ外傷予防を目的したが、下肢スポーツ障害も減少が見られた。我々の先行研究では、女子バスケットボール選手における予防プログラムの効果として片脚着地時の股・膝関節屈曲角度の増大と垂直方向最大床反力が減少したと報告している。このため、予防プログラムによって筋力強化やバランスなどで股関節の動きと使い方を学習し、動作指導により正しいアライメントでのジャンプ着地やストップ動作を行うことで床反力が減少し、下肢の各関節へのストレスが軽減され下肢スポーツ障害が減少したと考えられる。大学トップレベルの男子バスケットボール選手においても下肢スポーツ外傷と下肢スポーツ障害の減少に予防プログラムが有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】近年、傷害予防は理学療法の分野においても注目を受けており、男子・女子選手ともに予防プログラムの効果が得られたことは傷害を有する患者に対する再発予防の理学療法の発展にもつながると考えられる。
  • 小野 淳子, 大工谷 新一, 林 義孝
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝前十字靭帯(ACL)再建後の症例において,機能評価については関節可動域や筋力が主な指標となるが,その回復程度と動作獲得レベルは必ずしも一致しないことを経験する.そのため,筆者らは機能評価において電気生理学的検査を実施している.今回,ACL再建後の症例においてヒラメ筋のH反射を縦断的に記録したので報告する.【方法】対象は,ACL再建後の症例6名(症例A・B・C・D・E・F)である.各症例のリハビリテーション過程においては症例A,B,Dでは特に特徴的な所見は認められなかった.症例CとEでは術側の下肢に痛みが出現していた時期があり,動作で非術側下肢が優位に動員されている特徴を認めた.症例Fは安全な動作イメージの学習に多くの指導を要した.H反射において,症例Aは術後1,3,4,5,6ヶ月,症例Bは術前,術後1,2,3,4ヶ月,症例Cは術前,術後1,2,3,4ヶ月,症例Dは術後1,2,4,5ヶ月,症例Eは術後2,3,4,5ヶ月,症例Fは術後1,2,3,4,5,6,7ヶ月に記録した.各症例のH反射を記録し,振幅H/M比の経時的変化と外観上のスポーツ動作所見とを比較検討する.H反射の測定・記録条件は,被験者を腹臥位とし膝窩部脛骨神経から持続時間1.0ms,頻度0.5Hzの刺激を16回与え,ヒラメ筋からH反射を記録する.導出したH反射より頂点間振幅を計測し最大M波振幅との比から振幅H/M比を求める.【倫理的配慮、説明と同意】対象には研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】症例A・B・Dの振幅H/M比については特徴的な結果は認められなかった.症例Cの術前,術後1,2,3,4ヶ月の振幅H/M比(非術側,術側)は(0.07,0.05),(0.09,0.09),(0.11,0.08),(0.11,0.07)(0.06,0.05),症例Eは術後2,3,4,5ヶ月の振幅H/M比は(3.20,0.08),(1.40,0.05),(3.10,0.05),(1.13,0.26)で,術側下肢の痛みにより外観上のスポーツ動作所見で非術側下肢が優位に動員していると思われた時期に非術側での振幅H/M比の増大を認めた.一方,症例Fの結果は術後1,2,3,4,5,6,7ヶ月の順に(0.01,0.46),(0.001,0.38),(0.27,0.18),(0.21,1.21),(0.25,0.45),(0.15,0.44),(0.17,0.62)であり,安全な動作イメージの学習に多くの指導を要した時期に合致して術側の振幅H/M比が増大していた.【考察】H波は単シナプス反射であり,その反射弓は求心性感覚神経,脊髄前角細胞,末梢運動神経の各要素が関与しているためH反射は脊髄神経機能の興奮性を示す指標となる.しかし,H反射は末梢筋から記録するため,筋の温度や収縮状態,短縮や萎縮により影響される.H反射を検討する際に用いられる指標に振幅H/M比がある.振幅H/M比はH反射の振幅を同名筋の最大M波の振幅で除したもので,末梢筋の状態変化に影響されない脊髄興奮準位の指標となるものである.今回,ACL再建術後の症例のH反射において,リハビリテーション過程の特徴と合致した所見が得られた.具体的には,対称的なスポーツ動作でも非術側下肢が優位に用いられているという動作観察所見が得られた症例や,安全な動作イメージの学習に難渋した症例で,それらの時期に合致して振幅H/M比の増大が認められた.さらにリハビリテーション過程で特記する所見のなかった症例においては,振幅H/M比にも特記すべき所見は得られなかった.この結果から,リハビリテーション過程において,一側下肢の過用という動作観察所見が認められた時期や動作イメージの学習を積極的に進めていた時期においては,H波の反射弓である求心性感覚神経・脊髄前角細胞・末梢運動神経の興奮性が増大していた,あるいは脊髄神経機能の興奮性を修飾する上位中枢の興奮性が増大していたことが考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,競技復帰を目標とするACL再建術後のリハビリテーション過程において,H反射を一つの評価指標とすることで定性的な理学療法評価所見を裏付ける客観的な所見が得られることが期待できる.さらに,ACL再建術後のリハビリテーション過程における脊髄神経機能の変化が明らかになることで動作を再獲得する過程におけるCortical adaptationに代表される神経機序に裏付けられた理学療法の提供が可能になると考えられる.
  • 木本 龍, 宮原 小百合, 河野 めぐみ, 篠原 竜也, 渡邉 昌, 宗村 浩美, 常泉 美佐子, 菅原 成元, 輪座 聡, 遠藤 洋毅, ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 反重力トレッドミル『Alter G』とは ,NASAで宇宙飛行士の訓練用として開発されたトレッドミルであり,空気圧により利用者を持ち上げて免荷量を調整でき,部分体重免荷トレッドミルトレーニングが可能となるリハビリテーション機器である.現在,プロサッカーチームの『マンチェスターユナイテッド』や『ACミラン』,NBAの『レイカーズ』などに導入され,主に整形外科やスポーツリハビリテーションの分野で使用されている. 当院では2011年10月より導入し,多くの患者のリハビリテーションに使用してきた.しかし,『Alter G』は新しいリハビリ機器のため,その適応や設定方法,効果については十分確立されていない.今回,ACL再建術後の患者において,『Alter G』の使用の有無による在院日数や退院時の移動能力,筋力推移を比較・検討し,『Alter G』の効果や今後の使用方法について検討したので報告する.【対象、方法】 使用群は『Alter G』が導入された2011年10月以降にACL再建術を受けられた12名(平均年齢:30.3歳,男性6名,女性6名). 未使用群は『Alter G』が導入される以前に手術を受けられた12名(平均年齢:29.5歳,男性7名,女性:5名). 両群ともに手術は内視鏡下にて内側ハムストリングス自家腱を使用した4重束のシングルルートであり,後療法は術後2週間までは1/2PWB,2週後よりFWBとし,FWB開始後に問題がなければ退院という当院のクリニカルパスに沿ってリハビリを実施した.『Alter G』を使用しての歩行練習を追加した以外には両群に差はなかった. 診療録より基礎情報(年齢・性別),在院日数,退院時の移動能力(手放し歩行or松葉杖歩行),筋力推移について調査し,2群で比較検討を行った.筋力測定はミナト医科学株式会社製の『COMBIT CB-2』を使用し,術前・術後1ヶ月・3か月・6か月の時点で膝伸展および屈曲筋力を測定した.なお,各速度は60deg/secと180deg/secの2条件とし,最大筋力の患健比で評価をした.統計処理は,在院日数の比較はマンホイットニーU検定を,退院時移動能力の比較はχ二乗検定を,筋力推移の比較は分散分析(Post-hoc test: Bonferroni)を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,当センター内で倫理検討を行い,本研究の内容を患者に十分説明した後,同意を得た.【結果】 在院日数の比較では,使用群は17.0日,未使用群は19.4日と有意に使用群の方が短かった. 退院時の移動能力の比較では,使用群は手放し歩行9人,松葉杖歩行が3人に対し,未使用群は手放し歩行5人,松葉杖歩行が7人であり,使用群の方が手放し歩行で退院できた人数が多く,統計上有意差を認めた. 筋力推移に関しては,術後1ヶ月時点のみ,使用群の方が膝屈曲筋力は有意に高かったが,膝伸展筋力や術後3か月・6か月時点の膝屈曲筋力では2群間で差は認められなかった.【考察】 使用群は在院日数が短いにもかかわらず,退院時には手放し歩行獲得者が多かった.これは『Alter G』を使用することによって,空気圧で下肢にかかる体重を調整でき,術後早期から手放し歩行での練習が可能なことが影響していると思われる.両群共に術後2週までは1/2PWBであり,松葉杖歩行での生活となるが,使用群は術後早期から手放しでの部分体重免荷歩行練習が可能となり,FWB開始となった術後2週直後に手放し歩行が獲得できる症例が多かった. また,筋力推移に関しては,術後1ヶ月時点の膝屈曲筋力のみ有意に高かった.これは,当院では内側ハムストリングス自家腱を使用する手術であるため,術後早期の膝屈曲筋力の低下が著明であるが,『Alter G』を使用し部分免荷することによって,体重支持や下肢の振り出しに関わるハムストリングの筋活動量が減少し,術後早期からハムストリングスに対して愛護的な歩行練習ができるためと考えられる.しかし,術後3か月・6か月時の筋力は2群で有意差が認められなかった.これは,部分体重免荷の先行研究によると,部分免荷歩行は通常歩行時よりもハムストリングスや大腿直筋の筋活動量が低下することが報告されており,FWBが痛みなく可能になった後は『Alter G』を使用せず,積極的に荷重させた方が筋力の回復は良好なのではないかと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 ACL再建術後の患者において,『Alter G』での部分免荷歩行練習は,術後の早期退院・早期手放し歩行の獲得が可能となり,急性期の筋力回復にも適していると考えられる.しかし,免荷することで下肢の筋活動量が減少することを考慮すると,FWBが可能になってからは積極的に荷重させた方が良い可能性が示唆される.
  • 室井 良太, 松本 仁美, 南谷 晶, 正門 由久
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】全身関節弛緩性とスポーツ外傷・障害の関係には、競技によって関節のやわらかさがプラスに働くといった報告や体操などの競技において関節弛緩性の高い上下肢に大きなメカニカルストレスを与えるといった報告がある。重心動揺計で測定した片脚立位の総軌跡長はバランス能力と関係があり、下肢アライメント評価のleg-heel angleと相関があると述べた研究も見受けられる。そのような中で、全身関節弛緩性者のバランス能力とスポーツ外傷の発生機序を考える際に重要な下肢アライメントにおける報告は少ない。そこで我々は片脚立位バランスと下肢アライメントの関係について着目し、この関係が外傷・障害を発生するリスクの指標として考えられるかを検討する。【方法】下肢に整形外科疾患の既往がなく、全身弛緩性テスト(東大式)で7点満点中4点以上の健常成人女性22名(平均年齢25.0±4.3歳)を対象とした。測定項目は以下のものとし、その順序はランダムとした。①片脚立位による重心動揺の測定:ツイングラビコーダGP-6000(アニマ株式会社)を使用した。測定は右下肢を被験肢とし、3回測定し、動揺の少ない値を代表値とした。測定時間は30秒で、総軌跡長、外周面積を測定した。②下肢アライメントの測定:ゴニオメータ(OG技研社製)を使用した。a.脛骨捻転角:膝関節伸展位、足関節底背屈0°、膝蓋骨を真上に向けた肢位にて床面に対する足関節内外顆を結ぶ線の角度を計測した。b.thigh foot angle:腹臥位にて検査側膝関節90°屈曲位に保持し、大腿中央線と踵骨中央から第2趾先端を結ぶ線のなす角を測定した。c.leg-heel angle:荷重位にて下腿遠位1/3の長軸線と踵骨の縦軸線がなす角度を測定した。d.navicular drop test:股関節・膝関節を90°、足関節中間位とした坐位にて床面から舟状骨下端までの距離を計測し、その後、立位にて床面から舟状骨下端までの距離を計測し坐位と立位での距離の変化値を計算値とした。統計処理は重心動揺と各変数の関連性を検討するためにSPSS19.0を用いてPearsonの積率相関係数(有意水準5%未満)を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、東海大学医学部付属病院臨床研究審査委員会(受付番号11R085号)に承認されている。なお、対象者には研究の目的及び研究方法を十分に説明して文章にて同意を得た。【結果】各変数の平均は、脛骨捻転角13.1±3.0°、thigh foot angle12.8±7.3°、leg-heel angle8.9±3.4°、navicular drop test12.1±4.6mmであった。総軌跡長と有意な相関がみられたのは脛骨捻転角(r=0.451、P<0.05)のみであり、他の計測項目とは有意な相関はみられなかった。【考察】総軌跡長と脛骨捻転角が有意な正の相関を示したことにより、脛骨捻転角は片脚立位バランスに影響を及ぼす因子の一つであるとわかった。この結果は脛骨捻転角が距骨下関節の特徴から足部の内外反に関与するため、片脚立位に影響したと考える。よって全身弛緩性を持つ健常者では、脛骨捻転角の評価はバランス能力の一指標である片脚立位と関係があるために有用であると示唆された。一方で、相関が得られなかったleg-heel angleやnavicular drop testは測定肢位が立位姿勢であった。重心動揺計で測定した片脚立位の総軌跡長は大腿四頭筋や中殿筋の筋力と相関があるといった報告がある。よって筋力の関与が影響してleg-heel angleやnavicular drop testは重心動揺検査と相関が得られなかったと推察する。また、thigh foot angleは測定肢位が膝関節90°屈曲位であり、重心動揺検査での膝関節角度と等しくないことにより相関が得られなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】関節弛緩性を持つ健常者の片脚立位バランスと下肢アライメント評価の中で脛骨捻転角に相関が認められた。スポーツ動作で多く見られる片脚立位と脛骨捻転角を合わせて評価することは、その身体的特徴を得る手段の一つに挙げられるとわかり、本研究に意義があると考える。今後は、関節弛緩性を持つ健常者と持たない者や整形外科疾患の既往歴のある関節弛緩性者と比較し、外傷や障害を発生するリスクの指標になるか検討していきたい。
  • 和田 治, 赤山 僚輔, 飛山 義憲, 北河 朗, 丸野 英人, 岩崎 安伸
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】前十字靭帯(ACL)損傷は,スポーツ膝傷害の中でも頻度が高い.ACL再建術後の目標は受傷前の運動レベルに復帰し,復帰したスポーツにおいて全力でプレー出来ることである.ACL再建術後の運動復帰および復帰後の全力プレーには,再建された膝機能に加え,再受傷に対する恐怖心やスポーツに対する自信などの心理的要因が重要であると考えられるが,これらの項目とスポーツ復帰の関連性を包括的に検討した研究は見当たらない.そこで本研究はACL再建術患者を対象とし,膝の機能面と再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信とACL再建術患者のスポーツ復帰状況との関連性を明らかにし,さらにこれらの要素がスポーツ復帰後の全力プレーに与える影響を検討することを目的とした.【方法】対象は当院にてACL再建術を施行された患者のうちアンケート調査に同意の得られた156名とした.まず,受傷前,術後の活動レベルの指標としてTegner Activity Scoreを使用した.また,膝機能の評価としてIKDC Subjective Scoreを用いた.心理的要因に関しては,再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信,全力プレーを評価するため,Mohtabi ,Websterらの質問紙を日本語訳・引用しVisual Analog Scale(VAS)を用いて評価した.Tegner Activity Scoreに関しては受傷前/術後の両方を,IKDC Subjective Score,恐怖心,自信,全力プレーのVASは術後の状態のみ聴取した.復帰の基準は,受傷前,術後のTegner Activity Scoreを用い,対象者を復帰可能群と復帰不可能群に分けた.次にIKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVAS,全力プレーのVASを対応のないt検定を用いて各群で比較した.さらに,復帰可能群を対象とし,従属変数を全力プレーのVAS,独立変数をIKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVASとした重回帰分析を行った.なお,手術時の年齢,性別,術後の経過期間,受傷前Tegner Activity Scoreを調整変数として投入した.有意水準はすべて5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,対象者には本研究の主旨,目的,測定の内容および方法,安全管理,プライバシーの保護に関して書面および口頭にて十分な説明を行い,署名にて同意を得た.【結果】アンケートに協力の得られた156名のうち,受傷前のTegner Activity Scoreが4以下の者および社会的な理由により活動レベルが低下した者を対象から除外した結果,分析を行った対象者は140名となった(年齢25.8±12.0歳,男性57名/女性83名,身長165.2±8.6cm,体重61.1±12.9kg).対象者全体の復帰率は82.1%であり,復帰可能群115名,復帰不可能群25名であった. IKDC Subjective scoreに関しては,復帰可能群で有意に高い数値を示した(p<0.01).一方で,再受傷に対する恐怖心およびスポーツに対する自信では,両群の間に有意な差は認められなかった.また重回帰分析の結果,IKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVAS全てが有意な項目として抽出され(p<0.01),全力プレーのVASにはスポーツに対する自信のVASが最も影響を与える結果となった.【考察】IKDC Subjective Scoreを復帰可能群と復帰不可能群と比較すると,復帰可能群で有意に高い結果となった.したがって,復帰可能群では復帰不可能群よりも優れた膝機能を獲得していることが明らかとなり,ACL再建術後のスポーツ復帰には膝機能の獲得が重要であると予想される.一方で,再受傷に対する恐怖心およびスポーツに対する自信に関しては復帰可能群と復帰不可能群では有意な差は認められず,これらの項目はACL再建術後のスポーツ復帰には影響を与えないことが示唆される結果となった.さらに,復帰可能群を対象とした重回帰分析の結果,スポーツ復帰後の全力プレーには,膝機能,再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信の全てが影響を与えることが明らかとなり,さらに膝機能よりもスポーツに対する自信が重要となることが示唆された.スポーツに対する自信の低下はスポーツ時の消極的なプレーにつながり,全力プレーを阻害していると予想される.本研究結果より,ACL術後のスポーツ復帰にはまず膝機能が重要となるが,復帰後に全力プレーを可能にし,プレーの質を向上させるには,膝機能に加え自信を高めていく必要があることが示された.【理学療法学研究としての意義】現在まで,ACL再建術後の膝機能および心理的要因を包括的に検討した研究は認められない.本研究は今まで明らかにされていなかった,ACL再建術後の膝機能および心理的要因がスポーツ復帰におけるどの段階で重要となるかを示した点において,臨床におけるリハビリテーションを行う上で1つの示唆を与えるものであると考える.
  • 中田 周兵, 松本 尚, 青木 喜満
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament: 以下ACL)損傷は,代表的なスポーツ外傷の一つである.ACL損傷膝は大きな不安定性を呈すため,保存療法でのスポーツ復帰は困難であり,手術療法としてACL再建術が選択されることが多い.近年は,手術手技や後療法の発展により,ACL再建術後の競技復帰に関しては,安定した成績が期待できるようになっている.しかし一方で,競技復帰をすることによって,再建靱帯もしくは反対側ACLを再損傷してしまう症例も散見される. ACL損傷予防の観点から,受傷メカニズムやリスクファクターに関する先行研究は多いが,その一方でACL損傷の再受傷に関して検討した報告は未だ少ない.ACL損傷再受傷に関するエビデンスを構築することは,競技復帰の安全性を担保する上で重要である.そのため本研究では,ACL損傷再受傷症例の競技復帰時期の等速性膝関節伸展・屈曲筋力および等尺性股関節外転筋力に関して調査した.【方法】 対象は,当院でACL再建術を施行後、ACL損傷再受傷と診断された8例(男性2例,女性6例)とした.取り込み基準は,術後9ヶ月における筋力測定データがある者とし,除外基準は,ACL再建術以外の手術歴がある者、ACL再々受傷の者,明らかな再受傷機転のない者とした.初回再建術式は,全症例で半腱様筋腱および薄筋腱を用いた解剖学的二重束ACL再建術であった.術後リハビリテーションは,術翌々日より患部外トレーニングを開始し,術後1週でROM-exおよび全荷重を開始した.また,術後3ヶ月でジョグ開始とし,術後6ヶ月よりスポーツ動作練習開始、術後9ヶ月で競技復帰許可とした.等速性膝関節伸展・屈曲筋力は,BIODEX System 3(BIODEX社製)を用いて,60°/s,180°/s,300°/sの角速度で測定した.等尺性股関節外転筋力測定は,側臥位で股関節内外転中間位,伸展屈曲中間位,内外旋中間位にてハンドヘルドダイナモメーター(μTas MF-01;ANIMA社製)を大腿骨外側上顆にあて3回測定し,そのうちの最大値を採用した.術後9ヶ月時点での膝関節伸展・屈曲筋力および股関節外転筋力を再受傷側と非再受傷側とに分け,Paired t-testによって比較し,統計処理は有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者には,ヘルシンキ宣言に則り、事前に研究目的および測定内容等を明記した書面にて十分に説明した.そして,対象者からの同意が得られた場合には、同意書に署名の記載を受けた.また,対象者が未成年の場合,親権者に対しても同様の手順で同意を得た後に、同意書に署名を受けた.【結果】 ACL損傷再受傷した8例の平均年齢は17.9歳(14-26歳)で,競技はバスケットボールが6例,スキーとバドミントンで各1例であった.再受傷側は,再建側で2例,反対側で6例であった.再受傷発生時期は、再建側で平均9.5ヶ月,反対側で平均16.8ヶ月であった.術後9ヶ月時点での等速性膝関節伸展・屈曲筋力は,60°/s,180°/s,300°/sの角速度いずれにおいても,再受傷側と非再受傷側との間に統計学的有意差は認められなかった.一方,等尺性股関節外転筋力は,非再受傷側で14.5kgに対し再受傷側で13.3kgであり,有意に再受傷側の股関節外転筋力が低かった(p<0.05).【考察】 過去の報告によりACL損傷再受傷の要因は,術後の活動レベル,性別,移植腱の種類などが関与している可能性が示唆されている.また,再建側の再受傷では再建靱帯の成熟不良により,微細な外力で破断する可能性があると報告されている.本研究では,明らかな再受傷機転のあるものを対象としているため,外傷による再受傷であると考えている. 本研究では,バスケットボールやスキーなど高い活動レベルへ復帰した症例で再受傷を認め,過去の報告と同様の結果が得られた.さらに,股関節外転筋力の筋力不足が再受傷発生に関与していることが示唆された.先行研究においては,競技復帰時の再受傷症例の特徴として,動作時の左右非対称な股関節キネマティクスを認めたと報告している.このことからも,競技復帰の際には膝関節伸展・屈曲筋力が一般的に指標として用いられるが,再受傷の予防のためには股関節外転筋力の評価も必要であることが示された.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,ACL再建術後の競技復帰の際に,膝関節伸展・屈曲筋力のみでは再受傷リスクを推測できない可能性が示唆された.競技復帰の安全性を担保するために,股関節周囲筋を含めた包括的な評価が必要であることを示した本研究は意義深いと考えている.
  • ~トレーニング前後における垂直跳・片脚幅跳・50mダッシュタイムの比較~ 
    橋本 貴幸, 櫻庭 景植
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 我々は、第45回から47回日本理学療法学術大会において、足部内在屈筋を中心とした足趾把持筋力値の測定方法の確立、トレーニング方法の確立、トレーニングによる筋力値向上効果、アーチ形成効果を報告している。本研究の目的は、確立したトレーニング実施前後の運動パフォーマンスの効果について検証することである。【方法】 身体に際立った既往歴のない健常男性12名の左右それぞれ、計24足を対象とした。平均年齢は、29.3±4.6歳、平均身長172.5±7.3cm、平均体重64.9±12.8kgであった。 足部内在屈筋の筋力トレーニング方法は、第46回本学会報告内容同様とし、期間は8週間、頻度は週3回の1日1回、回数は200回、負荷量は3kgで実施した。 運動パフォーマンスの検査項目は、歩行以上の負荷がかかる動的運動を目的に、上方への跳躍力と左右両下肢の同時運動として垂直跳、左右それぞれの前方への跳躍力および推進力として片脚幅跳、疾走力および両下肢の交互運動として50mダッシュタイムの3項目を設定した。計測時は、靴下および運動靴を使用し、各2期測定時は同様のものを着用した。 垂直跳の測定は、測定値0.1cm毎に表示可能な竹井機器工業株式会社制ジャンプ-MD計測器を使用し数値化した。計測は、2回実施しその平均値を採用した。 片脚幅跳は、文部科学省新体力テスト立ち幅跳と同様の計測方法に準じて、計測下肢の爪先から踵までの距離をメジャーにて計測した。計測は、左右それぞれを交互に2回実施し、その平均値を採用した。 50mダッシュタイムの計測として、スタートの合図は、同一検者がスタートラインより掛け声と腕折で実施し、被検者はスタンディングポジションからスタートしゴールラインに胴が到達するまでに要した時間を同一検者がストップウォッチにてタイム計測した。計測回数は2回実施しその平均値を採用した。 統計処理は、トレーニング前後の値を、対応のあるt-testを用い検討した。なお、統計学的有意水準は危険率5%未満とし、統計処理には、SPSS;Version14.0(SPSS JAPAN Inc.)を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科倫理委員会の承認(21-34号)を得たのち、全被検者に本研究の目的、内容について説明し、書面にて同意を得た。【結果】 垂直跳は、トレーニング前が平均54.6±7.3cm、トレーニング後が平均57.9±7.4cmとなり、トレーニング前後で有意な差(p<0.05)がみられた。 片脚幅跳において、左片脚幅跳は、トレーニング前が平均181.6±17.2cm、トレーニング後が平均196.1±13.9cmとなり、トレーニング前後で有意な差(p<0.01)がみられた。右片脚幅跳は、トレーニング前が平均178.7±15.8cm、トレーニング後が平均193.4±16.2cmとなり、トレーニング前後で有意な差(p<0.01)がみられた。 50mダッシュタイムは、トレーニング前が平均7.41±0.52sec、トレーニング後が平均7.08±0.45sec となり、トレーニング前後で有意な差(p<0.01)がみられた。【考察】 動的検査の3項目では、垂直跳高の増大、片脚幅跳距離の増大、50mダッシュタイムの短縮を認め、トレーニング後に運動パフォーマンスの向上が得られた。Rabitaらは、跳躍機能を高める要素は、筋腱構造と内在筋との硬さが重要であり、神経筋機能へのアプローチも重要と述べており、我々が報告している足部内在屈筋の足趾把持力値増大とアーチ形成に伴う足部の剛性を高められた結果であると推察された。Mannらは、全速力で走る場合、内在筋は体重負荷中常に活動していることを報告しており、負荷が高い条件下での足部内在屈筋活動性の向上が推察された。さらに、足関節底屈動作が頻繁に行われ負荷が高い・走、跳動作において、本トレーニングは底屈位での安定性とPIP・MP関節での駆出力を高められた結果、前方推進力および跳躍力の運動パフォーマンスが向上したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 足部内在屈筋は、着目すべき強化部位である。足部内在屈筋筋力トレーニングは、立位・歩行およびそれ以上の負荷の高い運動パフォーマンス向上に有用である。
  • 石川 大瑛, 成田 大一, 高橋 信人, 對馬 史織, 澤田 徹平, 尾田 敦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 足関節捻挫(以下,捻挫)はスポーツにおいて最も発生頻度の高い下肢の外傷である。捻挫受傷後に運動能力が低下することは多く報告されており,捻挫を予防することが重要とされている。捻挫予防において足関節装具(以下,装具)は捻挫再受傷頻度を減少させることから,その有用性が示されている。装具の使用による影響に関しては,即時的,もしくは4週といった短期的には運動能力に与える影響が少ないことが報告されている。しかし体幹装具の長期使用により体幹筋力が低下することは広く知られているように,足関節装具においても同様に筋力に影響を及ぼす可能性があるが,足関節装具の長期的使用による影響を報告したものは渉猟しえない。そこで本研究では,足関節装具を1年間使用することが足関節周囲筋力,運動能力に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は弘前市内の高校女子バレーボール選手のうち,追跡調査が可能であり,全ての調査項目に欠落のない22名41足とした。調査は2年間にわたって行い,初回調査の1年後に追跡調査を行った。対象者にはアンケート調査と実地調査を行った。アンケートでは,捻挫既往の有無とその回数,装具使用の有無を調査した。また装具を使用しているものには装具依存性の有無を調査した。実地調査では足部アーチ高率,足関節筋力,片脚反復横跳び,重心動揺を測定した。足部アーチ高率は両脚立位にて足長と舟状骨高を測定し,足長(mm)に対する舟状骨高(mm)の割合(%)により算出した。足関節筋力は,ハンドヘルドダイナモメータを用い,背屈,底屈,内反,外反筋力を測定した。得られた筋力は体重で除し,体重比を採用した。片脚反復横跳びは,30cm幅を片脚にて10往復する時間を測定した。重心動揺では,重心動揺計(Anima社製,グラビコーダGS-3000)を用い開眼での10秒間の片脚立位を測定し,総軌跡長と矩形面積を採用した。実地調査は裸足にて行った。統計処理では,追跡調査の値から初回調査の値を引いた変化量をデータとして用いた。また,アンケート調査により捻挫受傷後に装具を使用している足(以下,装具使用足)と捻挫受傷後装具を使用していない足(以下,装具不使用足),捻挫の既往のない足(非捻挫足)の3群に群分けし,変化量を比較するためTukey検定を行った。統計ソフトはSPSS16.0Jを使用し,有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の趣旨を説明し,選手とその保護者から承諾を得られた者を対象とした。なお,本研究は本学医学研究科倫理委員会より承認を得て実施した。【結果】 装具使用足が7足,装具不使用足が18足,非捻挫足が16足であった。装具使用足は全例に捻挫の既往があり,装具依存性を有していた。装具使用足の捻挫回数は2.0±1.0回,装具不使用足では2.4±2.7回であった。3群を比較した結果,背屈筋力と内反筋力の変化量では,非捻挫足と比較して装具使用足に有意差な低下が認められた。外反筋力の変化量では,非捻挫足と比較して装具使用足,装具不使用足に有意差な低下が認められた。その他の項目では有意差は認められなかった。【考察】 本研究では装具の1年間の使用により背屈,内反,外反筋力が低下していた。背屈筋力の低下は捻挫受傷リスクを増大させることが報告されており,外反は足関節の内反を制動する動作である。これら筋力の低下が装具をはずした状態での捻挫受傷リスクを増大させることが推測される。そして,このことが装具依存性を出現させる要因となると考えられる。本研究では筋力を除く運動能力の成績の低下は認められず,即時的な装具使用による運動能力を検討した報告を支持するものとなった。この中では,装具により足関節運動の適切な制動と固有受容器の刺激により,運動能力を低下させることなく運動可能だと考察されている。本研究でも同様の効果があると考えられるが,装具の長期的使用によって,筋性の制動が抑制され,廃用性の筋力低下が引き起こされると考えられる。このことから装具を使用する際には筋力増強訓練も同時に指導し,筋力低下を引き起こさないようにする必要があると考えられる。本研究では全例が捻挫受傷後に装具を使用した足であったが,捻挫の予防目的で装具を使用している足に関しても検討していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究から,長期的な装具使用により筋力低下が引き起こされることが明らかとなった。足関節捻挫後に装具を使用する際には筋力増強訓練の指導も同時に行う必要性が示唆された。
  • 笹代 純平, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 篠原 博, 藤井 絵里, 森山 信彰, 事柴 壮武
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 足関節後方インピンジメント症候群(Posterior Ankle Impingement Syndrome; PAIS)は,バレエダンサーやサッカー選手に特徴的で,バレエのpointe肢位や,サッカーのキック動作で足関節が繰り返し強制的に底屈されることが原因であるといわれている(奥田 2010)。本症は,過度な足関節底屈によって脛骨天蓋の後方と踵骨の上方で軟部組織,骨棘,遊離小骨,骨片などが挟み込まれることで疼痛などの症状が起こるとされており(Rathurら 2009),PAISの予防は重要課題である。しかし,これらの動作のような過度な足関節底屈位をとった際に,実際に足関節後方で脛骨と踵骨の衝突が起きることを確認した研究は見当たらない。本研究は,超音波画像診断装置を用いて,健常者の足関節角度の違いによる脛骨と踵骨の位置関係の変化を観察し,過度な足関節底屈がPAISを引き起こすメカニズムを明らかにすることを目的とした。仮説は,足関節底屈角度が増大するにつれて,脛骨と踵骨間の距離が短縮するとした。【方法】 対象は現在足関節に整形外科疾患のない男性7名(年齢21.7±0.8歳,身長169.0±4.0cm,体重62.3±5.1kg)と女性8名(年齢23.0±1.5歳,身長161.0±5.1cm,体重53.1±5.8kg)の計15名30足とした。足関節底屈角度の違いによる脛骨と踵骨間の距離の測定には,超音波画像診断装置LOGIQ e Expert(GE Healthcare社)を用いた。足関節の凹凸に対し,安定した画像を確保するため水槽を利用し,水中での走査とした。測定肢位は端座位で測定を水槽の底につけた状態とし,足関節後方の脛骨天蓋から踵骨上方までを走査部位と定めた。測定条件は足関節最大背屈,背屈15°,底背屈0°,底屈15°,底屈30°,底屈45°,最大底屈の7条件とした。なお,最大背屈と最大底屈は自動運動で行った。各条件で,東大式角度計(酒井医療社)を使用し足関節角度の規定,最大背屈と最大底屈の角度測定を水槽の側面より実施した。超音波画像は静止画で記録し,装置に内蔵された解析ツールで,矢状面上での脛骨天蓋の後方と踵骨上方間の距離を計測した。統計学的解析にはStatcel 2(OMS出版社)を用いた。脛骨と踵骨間の距離について,足関節角度の7条件間での差の検定には一元配置分散分析を行い,多重比較にScheffe’s F testを用いた。男女間の差の比較には対応のないt検定を行った。危険率は5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1231)。研究に先立ち十分な説明を行い対象の同意を得た。【結果】 最大背屈角度は男性で32.9±5.5°に対して女性で31.2±5.8°,最大底屈角度は男性で53.4±5.0°に対し女性で58.9±5.8°であった。脛骨と踵骨間の距離は足関節底屈角度の増大とともに,男性では最大背屈の528±44mmから最大底屈の227±29mmまで,女性でも最大背屈の506±24mmから最大底屈の225±25mmへと減少した。男性,女性ともに最大背屈から底屈30°(男性:272±35mm,女性:281±28mm)まで徐々に有意な減少を示したが(p<0.05),それ以降には有意差が認められなかった。【考察】 足関節を過度に底屈した際に,足関節後方でインピンジメントが起きることは一般的にいわれているものの(Hopperら 2008),生体においてこれを確認した研究は見当たらない。本研究の結果から,仮説どおり,足関節底屈角度の増大にともなって脛骨と踵骨間の距離が短縮することが確認された。しかし,男女ともに底屈30°以降でその距離に変化が少なかったことは興味深い。これらの角度ではすでに足関節後方で何らかの接触や衝突が起きており,それ以上距離が短縮しなかった可能性がある。さらに,男女間で差が認められなかったことから,足関節底屈にともなう脛骨と踵骨の接近には性差はないことが明らかとなった。本研究の限界は,装置の機能上,実際にインピンジメントが起きているであろう足関節の深部が直接確認できないことであるが,3DCTなど,他の画像診断ツールとの整合性などをみながら,今後はスポーツ選手と一般健常者との比較や,スポーツ動作中の足関節角度との関連などを検討し,PAISの予防に役立てたい。【理学療法学研究としての意義】 スポーツ理学療法の領域において,足関節底屈にともなう,足関節後方のインピンジメントに関連する脛骨と踵骨間の距離の短縮が明らかになったことは,PAISの予防を考えるうえで意義深い。
  • 越野 裕太, 山中 正紀, 江沢 侑也, 石田 知也, 武田 直樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】足関節内反捻挫は最も一般的なスポーツ損傷であり,後遺症として慢性足関節不安定性(Chronic ankle instability:CAI)に多く発展する.足関節内反捻挫の再発予防のためにCAIによる下肢関節動態の変化を解明することは重要である.CAIを有する者において様々な動作中の下肢関節運動を調査した研究はいくつかあるが,一致した見解は得られていない.さらに,足関節内反捻挫は急な方向転換動作時に生じることが多いにも関わらず,CAIを有する者を対象とし,方向転換動作時の下肢関節運動を調査した研究は見当たらない.よって,本研究の目的はCAIを有する者における歩行,ターン動作,カッティング動作(急な方向転換動作)時の下肢関節運動を健常者と比較することとした.【方法】健常者12名とCAIを有する者12名を対象とした.CAIの定義は1)過去に最低1回は免荷または固定を要した捻挫,または歩行が困難となった捻挫の既往があること,2)過去に捻挫を最低2回以上,さらに過去2年間に最低1回の捻挫の既往があること,3)足関節giving wayの経験が複数回あること,4)Cumberland ankle instability tool(CAIT)のスコアが27点以下であること,5)主観的な足関節の不安定感,痛み,弱さの訴えがあることとした.両群とも下肢の骨折歴・手術歴がないこと,スポーツ競技活動に定期的に参加していることを条件とした.各被験者の下肢に反射マーカーを貼付し,赤外線カメラ6台(Motion Analysis,200Hz)と同期した床反力計(Kistler, 1000Hz)を用いて以下の3つの動作を記録した;1)自然歩行,2)歩行中に進行方向に対して45°方向へ,検査脚を軸に方向転換するターン動作,3)0.4mの距離を前方へジャンプし,足を接地してからの45°方向へ走行するカッティング動作.初期接地の前200ms間と立脚相(100%に正規化)における股・膝・足関節の角度を,解析ソフトSIMM(MusculoGraphics)を用いて算出した.なお,静的立位時の下肢関節角度を0°とした.また接地前の第5中足骨頭に貼付したマーカーの床からの最小距離を足部クリアランスとして算出した.各動作において,2群間における接地前200ms間と立脚相の関節角度の最大値と最小値,足部クリアランスを対応のないt検定にて比較した(p<0.05).【倫理的配慮,説明と同意】被験者には口頭と紙面により説明し、理解を得たうえで本研究への参加に当たり同意書に署名して頂いた.また本研究は,本学院倫理委員会の承認を得て実施された.【結果】年齢,身長,体重は2群間で差はなかった(健常群:20.7±0.5歳,172.1±8.0cm,64.7±9.3kg,CAI群:21.1±0.9歳,172.9±8.2cm,64.6±8.4kg).また,両群とも男性10名,女性2名であり,検査脚の利き脚(9脚)と非利き脚(3脚)の割合も同じであった.CAITスコアは,CAI群(20.8±4.4点)は健常群(29.8±0.6点)に比べ有意に低かった(p<0.001).歩行,ターン動作では,2群間で全ての関節角度に差は認められなかった.カッティング動作において,CAI群は健常群に比べ,立脚相の股関節最大屈曲角度(屈曲が正)が有意に大きく(健常群:39.8±6.4°,CAI群:45.1±6.0°;p=0.049),接地前の膝関節最大屈曲角度(屈曲が正)は大きい傾向であった(健常群:71.0±5.1°,CAI群:77.2±9.6°;p=0.063).また,CAI群は健常群に比べ,立脚相の足関節最大外反角度(外反が負)が有意に小さく(健常群:-12.0±6.0°,CAI群:-7.0±3.7°;p=0.022),足部クリアランスも有意に低かった(健常群:99.1±8.4mm,CAI群:64.6±5.8mm;p<0.001). 【考察】CAI群はカッティング動作において,健常群よりも大きな股・膝関節屈曲を示した.この所見は先行研究を一部支持する結果であり,CAIを有する者は健常者に比べ,股・膝関節をより用いた運動戦略を図ることが示唆された.また,CAI群はカッティング動作において,健常者よりも足関節外反角度が小さく,さらに接地前の足部クリアランスも低いことが明らかとなった.これらの所見はCAIを有する者において足関節捻挫の再発が多いことや,足関節のgiving wayが生じる原因の一つを示していると考えられる.また,歩行やターン動作では2群間で全ての関節角度に差はなかった.カッティング動作は他2動作に比べ,大きな床反力を伴い,さらに急な減速を要する.スポーツ動作のような,より動的な運動ではCAIによる下肢関節運動の変化がより生じる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 CAIを有する者において,足関節以外にも股・膝関節の運動機能を評価する必要性が示唆された.また,足関節内反捻挫の再発予防のために,カッティング動作においてCAI群で観察された足部・足関節運動の変化は修正されるべきである.
  • 大谷 遼, 小野寺 久美, 秀島 聖尚, 小松 智, 平川 信洋, 峯 博子, 青柳 孝彦, 可徳 三博, 鶴田 敏幸
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 足関節捻挫(以下、捻挫)は発生頻度の高いスポーツ外傷である。その原因として再発を引き起こす足関節の慢性足関節不安定症 Chronic Ankle Instability(以下、CAI)が挙げられる。CAIは「機械的不安定性」と「機能的不安定性」からなる。機械的不安定性は解剖的・組織的変化とされている。一方で機能的不安定性は、足関節捻挫により生じる筋・神経・姿勢制御機能の低下とされているが詳細は明らかではない。そこで本研究では、CAIにおける機能的変化の詳細を明らかにする為に捻挫の既往を有するスポーツ選手の足部機能・足圧中心制御の特徴を把握し、その特徴が捻挫の受傷に与える影響を検討する事を目的とした。【方法】 対象は高校生女子バドミントン選手とし、捻挫の既往がある15名(既往有り群)既往の無い15名(既往無し群)とに分類した。足関節可動域・足趾開排能・静止立位重心動揺・および前後左右方向へ随意足圧中心移動距離の測定をWii balance board(任天堂株式会社製)にて行い、デジタルカメラで撮影した動画からImageJ(NIH製)を用いてLeg-Heel angle(以下、LHA)を計測し、LHA変化量を求めた。両群間の比較には対応のないt検定を、各項目の関連についてはPearsonの単相関を用いた。そして、評価実施後半年間において捻挫を受傷した者10名(受傷群)と元々既往がなく半年間捻挫を受傷しなかった者10名(健常群)とに分類し、評価時のデータを比較分析した。なお,統計学的処理にはSPSS ver11.0を使用し,危険率5%未満をもって統計的有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施に際して、ヘルシンキ宣言に基づき対象者にその趣旨を十分に説明した上で同意を得た。また、本研究は当院の倫理委員会による承認を得た上で実施した。【結果】 評価実施時における捻挫既往の有無による比較では、身長・体重・関節可動域・静止立位重心動揺は両群間に有意な差は認められなかったが、捻挫群は健常群と比べて静止立位における足圧中心位置が後方に位置し(既往有り群38.5%/既往無し群42.1%,p<0.05)側方への随意足圧中心移動距離が小さく(21.4cm/23.4cm,p<0.05)足趾開排能も低く(0.76%/11.5%,p<0.05)それぞれ有意差が認められた。また、側方への足圧中心移動距離と安静時足趾開排に正の相関が認められた(R=0.656,p<0.05)。 また、評価後半年間の間に足関節の捻挫を受傷した受傷群は10名で、健常群は10名であった。評価時のデータを比較すると、受傷群は健常群と比べて足趾開排能が低く(受傷群0.76%/健常群11.5%,p<0.05)、静止立位における足圧中心位置が後方に位置し(39.2%/44.1%, p<0.05)、側方への足圧中心移動時において健常群はLHAが回内(+)方向に変化するのに対し、受傷群は回外(-)方向に変化しており(+2.85°/-2.07°, p<0.05)それぞれ有意差が認められた。身長・体重・関節可動域・静止立位重心動揺および随意足圧中心移動距離に有意差は認められなかった。【考察】 捻挫の既往のある選手は静止立位時において足圧中心が後方に位置していた。捻挫に伴い距骨の前方偏位や前方関節包の肥厚が生じる。加えて、関節位置覚の変化により底屈位をとり易くなることで、後方荷重になったと考えられる。また、捻挫の既往のある選手は足趾開排能が低かった。足趾の開排には母趾外転筋をはじめとする足部内在筋がはたらくが、足部内在筋は重心の前方荷重時に働くとされており、足関節捻挫に伴う後方荷重によって足部内在筋の活動が低下し、足趾開排能力が低下したと考えられる。このような足趾開排能の低下した状態では足圧中心を大きく移動させることができず、捻挫発生のリスクが高まると考えられた。しかし、評価後に捻挫を受傷した選手の特徴をみると、側方への足圧中心移動距離は健常群と差は無かったが、側方移動時にLHAが回外方向に変化することが分かった。足圧中心を大きく移動する事が出来たとしても、後方荷重に加え側方移動時に後足部の回外が伴えば捻挫のリスクは高まる。捻挫受傷のリスクとして足圧中心制御に着目することは重要であるが、それに加え足部がどのような対応をしているのか考慮することが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究から、Wii balance boardやデジタルカメラを用いた足関節捻挫のリスク評価の有用性が示唆された。こうした評価は高価な機器を必要とせず臨床場面において実施しやすい為、今後スポーツ現場を含めた多くの場面での臨床応用が期待できると考える。
  • 杉野 伸治, 武藤 雄亮, 西浦 知世, 濵田 孝喜, 伊藤 一也, 秋山 祐樹, 貞松 俊弘, 土居 満, 窪田 智史, 小林 匠, 蒲田 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 バレーボールのスポーツ外傷調査によると、足関節外傷が占める割合は最も高い。Verhagenらの報告では足関節捻挫の占める割合は全外傷・障害の40%であった。ポジション別ではスパイカーが多数を占め、受傷機転としてはジャンプ後の着地の失敗による受傷が59%を占めていた。 バレーボールの競技特性からジャンプ力の向上は勝敗を左右するとともに、選手としての生命線ともいえる。したがって足関節受傷後のジャンプ力向上は選手にとって重要な課題となる。また、パフォーマンスの向上と臨床症状の改善は密接な関係にあると考えられるが、足関節捻挫後に長く症状が残存する例においては、症状消失とパフォーマンス向上の両方を実現する介入が必要である。2次的予防を目的とした介入を含む先行研究は多いが、その選手のパフォーマンスに及ぼす効果は不明であり、コンプライアンスが芳しくないことも問題である。 我々は、足関節の外傷予防を目的として開発されたエクササイズ器具であるリアライン・バランスシューズ足関節用(GLAB社製、以下BS)を用いた15分間の外傷予防プログラムを考案した.本研究では、足関節捻挫の既往のある中・高校生女子バレーボール選手を対象に、BSを用いた運動プログラムの効果を検証することを目的とした。【方法】 研究デザインは無作為化対照試験であり、対象者を無作為に2群に割り付けた。対象者は5年以内に少なくとも1週間以上のスポーツ活動休止を必要とする足関節捻挫の既往があり、バレーボール復帰後1ヶ月以上経過している者とした。 バランスシューズ群(以下B群)には足部のモビライゼーションを目的とした竹踏み、距腿関節内側のモビライゼーションを目的としたニーアウトスクワットを行った後、BSを使用したCKC運動を行った。コントロール群(以下C群)には、従来の足関節機能向上のため広く実施されている1)チューブを用いた足関節周囲筋の筋力トレーニング、2)バランスディスクを用いたバランストレーニング、に加え、3)BSを装着しない状態でB群と同様のCKC運動、を行った.2群ともに1回15分の介入時間で、最低週3回、4週間継続した.測定項目はバレーボールパフォーマンス測定として10mダッシュ、垂直跳び、スパイクジャンプ、反復横跳び、足関節機能テストとして片脚跳び、8の字ホップテスト、サイドホップテストとした。測定は4週間の運動介入の前後に行い、統計学的分析としてt検定を用いて群内および群間の比較を行った。有意水準としてα=0.05を採用した。【倫理的配慮、説明と同意】 貞松病院倫理委員会の承認を得た後、研究内容を説明し同意を得られた者を対象とした。【結果】 B群20名、C群17名の同意が得られた。B群において、バレーボールパフォーマンスおよび足関節機能テストにおいて、介入後に有意な改善が得られた。一方C群では、足関節機能テストのみ改善が得られたのみで、バレーボールパフォーマンスへの影響はなかった。全ての項目において群間差は認められなかった。【考察】 本研究の結果、2群に有意差は認められなかったが、群内ではB群においてのみパフォーマンス向上効果が認められた。本研究では、研究デザインとして無作為化対照研究を採用し、注意深く選択バイアスの除去を行った。また、高いコンプライアンスが両群ともに得られたことも研究結果の信頼性を高めることに貢献した。本研究の限界として、統計学的パワー不足と足関節捻挫の再発予防効果については不明であるといった点が挙げられる。したがって今後は対象者を増やすとともに、運動介入後の足関節捻挫再発に関しても調査していきたい。以上により、BSを用いた足関節外傷予防プログラムは、足関節機能およびバレーボールパフォーマンスの両方に効果的であると結論づける。【理学療法学研究としての意義】 足関節捻挫後の運動介入の効果をみた先行研究では、介入時間の長さや、スポーツパフォーマンスに及ぼす影響が不明であった。今回我々が考案したリアライン・バランスシューズ足関節用を用いた足関節外傷予防プログラムは、短時間、短期間で足関節機能の向上のみでなく、スポーツパフォーマンスの向上をもたらしたことから、足関節捻挫後のリハビリテーションにおいて有益であることが示された。
  • ―術後1年間の膝機能―
    岡 徹, 黒木 裕士, 古川 泰三, 奥平 修三, 中川 拓也, 末吉 誠, 中川 泰彰
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】膝特発性骨壊死 (Spontaneous Osteonecrosis of the Knee:以下SPONK)は50歳以上の中高年女性に多く、大腿骨内顆の荷重部に発症する。強い荷重時痛のため歩行困難となる。原因は不明で比較的稀な疾患とされている。当院ではSPONKに対し骨軟骨移植術を施行している。骨軟骨移植術は大腿骨膝蓋関節面辺縁部および顆間窩辺縁から小さな円柱状骨軟骨片を採取し、これを軟骨欠損部に移植する方法である。損傷軟骨のみでなく軟骨下骨の修復も同時に可能とされる。しかし、SPONKに対して骨軟骨移植を行った術後理学療法の詳細な報告はない。今回、SPONKに対して骨軟骨移植を行った、8症例の術後1年間の膝機能と理学療法について報告する。【対象と方法】膝SPONKに対する骨軟骨移植術を行った8例8膝(腰野分類StageⅢ:4例、Ⅳ:4例)を対象とした。男性4例、女性4例で手術時平均年齢は53.5歳であった。膝機能の評価項目としては、膝伸展筋力、膝屈曲ROM、疼痛はNumeric Rating Scale(以下:NRS )およびJapanese Knee Osteoarthritis Measure(以下、JKOM:最良値が25点、最悪値が150点)の4評価項目を、術前、術後2週、1、3、6ヶ月および1年で評価した。JKOMは全荷重可能となる術後3ヶ月以降の値とした。膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメーター(Tas F-1,アニマ社製)を使用し、端坐位の膝屈曲90度位で下腿遠位部にパッドを当て、5秒間の最大努力による伸展運動を2回行いその平均値を体重で除した値とした。理学療法プログラムは移植骨軟骨の部位・範囲に注意して荷重時期・運動角度を設定して実施した。荷重時期は移植部位により異なるが術後3~4週で部分荷重開始し、術後5~7週で全荷重とした。評価と治療は同一療法士がおこなった。【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の趣旨を口頭および書面で説明し同意を得た。【結果】膝伸展筋力は、術前が平均3.6N/kg(健側比68%)が術後3ヶ月で4.7N/kg(健側比85%)と改善した。膝屈曲ROMは、術前平均135度が術後3ヶ月で146度と健側と同等まで回復した。膝疼痛は、術前NRSの平均7.5 点が術後3ヶ月で0.7点と改善した。JKOMは術前の平均79 点が術後3ヶ月で43点、6ヶ月で33点、1年で28点と改善していった。【考察】膝SPONKに対する骨軟骨移植術後の治療成績は比較的良好とされる。中川らはInternational Knee Documentation Committeeにおいて骨軟骨移植後は96%以上がNearly normalであったと報告しており、松末らも術後の16症例において再鏡視下で評価を行った結果すべて良好であったと述べている。ただし、具体的な術前後の膝機能における報告は少ない。今回の結果からは、術後3ヶ月の時点で膝機能の疼痛、屈曲ROM、膝伸展筋力は良好な回復となった。これは、Kurokiらの報告にある骨軟骨移植後の基礎研究において、移植骨軟骨の強度が増す時期が術後3ヶ月からと述べており、それまでは過度な荷重や運動負荷は大きな負担になると考えている。そのため、術後3ヶ月までは移植部位を考慮した筋力強化運動や段階的ROM運動を行ったことで良好な膝機能の獲得が可能であったと考える。JKOMにおいては膝のQOLを評価しているとされ、術後3ヶ月で大きく改善傾向にあるが、さらに1年時まで緩やかに回復しており機能的な回復とQOLの改善は一致していないと推測される。そのため術後は長期的なフォローが必要ではないかと考える。今後は、さらに症例数を増やし、長期的な予後や他疾患との比較などを行いながら有効な理学療法を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】本臨床研究における結果は、膝SPONKに対する骨軟骨移植術後の膝機能回復を目的とした理学療法が有効であることを示唆する。また、長期経過や他疾患と比較することで、さらなる治療期間の短縮や有効な理学療法プログラムの開発に期待ができるのではないかと考える。今後さらなる研究を進めたい。
  • 歩行時痛の有無での筋活動の違いについて
    神原 雅典, 島田 周輔, 石原 剛, 水元 紗矢, 加藤 彩奈, 浅海 祐介, 吉川 美佳, 井口 暁洋, 野口 悠, 千葉 慎一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】当院では、反復性膝蓋骨脱臼症例に対し内側膝蓋大腿靭帯(以下、MPFL)再建術ならびに術後理学療法を施行している。本手術は、20年程前に報告された手術であり術後理学療法の報告は少ない。我々は第30回神奈川県理学療法士学会において当院でのMPFL再建術の経過について報告した。そこから、術後経過は関節可動域(以下、ROM)や筋力など機能面では良好な改善を認めているものの、程度や場所に差はあるが疼痛が残存している症例が多かった。今回、MPFL再建術後理学療法を施行した症例に対し、歩行時痛が出現している状態と出現していない状態での筋活動を表面筋電計により評価することが出来たので報告する。【方法】症例紹介:40代女性。職業介護士。小学生の時に右膝蓋骨脱臼し、以後両側膝蓋骨脱臼を10回以上認めたが、いずれも自然整復または自己整復されていた。今回の受傷は、小走りした際に右膝亜脱臼感があり、それをかばった際に左膝蓋骨脱臼。4週シーネ固定の後、自宅で再度脱臼。再度脱臼した1ヶ月後に左MPFL再建術(グラフトに半腱様筋腱使用)を施行した。その後理学療法施行し、術後8週にてフリーハンド歩行許可となった。術後3ヶ月半で仕事復帰したが、その後徐々に膝前面痛が出現した。疼痛は日差・日内変動はあるものの持続していた。術後5ヶ月の時点で表面筋電計により歩行時筋活動を評価した。筋活動を評価した時点での術側膝関節機能は、Apprehension Test陰性。ROMは屈曲150°、伸展0°で左右差なし。筋力は、MMTで大腿四頭筋3-(自動伸展不全5°)、ハムストリングス4(非術側はいずれも5)。膝関節筋力測定装置(Isoforce GT-380、OG技研)にて測定した大腿四頭筋等尺性筋力は屈曲60°で49N・m、体重支持数(WBI)45%、(非術側82N・m、WBI77%)。 屈曲90°で42N・m、WBI39%、(非術側74N・m、WBI69%)であった。また診療で用いられたレントゲン画像より、膝蓋骨低高位・外側傾斜・外側偏位を認めないことを確認した。計測動作:自由な速度で10mの歩行路を計6回歩行した。初めの3回はVASで4/10程度の歩行立脚時膝前面痛があった。その後、日常の臨床場面で本症例に施行していた足部へのテーピング(左距骨下関節回外誘導方向)を実施し、3回歩行した。テーピング施行時は、疼痛がVASで0/10になったことを確認した。筋活動の評価:大腿直筋(以下、RF)、内側広筋(以下、VM)、内側広筋斜走線維(以下、VMO)、外側広筋(以下、VL)を被験筋とし、筋活動を計測した。筋活動の計測には表面筋電計(Megawin Version2.0、Mega Electronics社、サンプリング周波数2000Hz)を用いた。得られた筋活動のRoot Mean Square(以下、RMS)振幅平均値を算出し、各筋のRMSとした。また膝屈曲60°での最大等尺性収縮を100%として正規化し、各筋の%RMSを算出した。算出された各筋の%RMSを歩行時痛有立脚相(以下、有立脚)、歩行時痛有遊脚相(以下、有遊脚)、歩行時痛無立脚相(以下、無立脚)、歩行時痛無遊脚相(以下、無遊脚)に分けて評価した。【倫理的配慮、説明と同意】当院規定の書面にて診療情報を研究活動へ用いることに対して同意を得ていることを確認した後、ヘルシンキ宣言に基づき、症例に研究の主旨を説明し同意を得た上で計測を行った。【結果】RF(有立脚8.9%、有遊脚16.8%、無立脚19.0%、無遊脚9.0%)、VM(有立脚9.5%、有遊脚18.6%、無立脚22.0%、無遊脚9.3%)、VMO(有立脚14.7%、有遊脚34.9%、無立脚32.8%、無遊脚9.0%)、VL(有立脚12.5%、有遊脚23.7%、無立脚27.2%、無遊脚10.1%)であった。【考察】MPFL再建術後症例の歩行時筋活動を疼痛の出現している状態としていない状態で評価した。いずれの被験筋も歩行時痛が出現している状態では、立脚相での活動が低く、遊脚相での活動が高い傾向が見られた。反対に、歩行時痛が出現していない状態では立脚相での活動が高く、遊脚相での活動が低い傾向が見られた。本来これらの筋群は、立脚相で主に活動が高まる筋群であり、その活動が逆転している状態では、何らかのメカニカルストレスが生じ疼痛の起因となっている可能性があることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 MPFL再建術後症例の歩行時筋活動に言及した研究は見られず、少ない症例ではあるが提示することで、知見を共有・蓄積出来るので、本研究は理学療法研究として意義のあるものだと考える。
  • ~ShearWave™ Elastographyを用いた評価~
    一志 有香, 小野 志操, 福島 友里, 河井 祐介, 吉塚 隼人, 増田 一太, 細見 ゆい, 為沢 一弘, 林 晃生
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 膝関節疾患症例や下肢の術後症例に対する運動療法において膝関節屈曲運動に伴い大腿外側部に疼痛が出現し、膝関節可動域拡大に難渋することは少なくない。膝関節屈曲運動では大腿外側の軟部組織の柔軟性や伸張性が重要であると報告されている。大腿外側に位置する軟部組織として、外側広筋(以下、VL)と深層に位置する中間広筋(以下、VI)では筋線維方向や収縮様式に相違があるとの報告は散見されるが、膝関節屈曲に伴うVLとVIの組織弾性変化やVLとVIの筋間(以下、intermuscle;IM)における組織弾性変化について調査した報告は渉猟し得た限り見当たらない。そこで今回、組織弾性の定量測定が可能なShearWave™ Elastography機能を用いて膝関節伸展位と屈曲位でVLとVIおよびIMにおける組織弾性の変化を測定した。得られた結果に考察を加え報告する。本研究の目的は膝関節屈曲運動に伴うVLとVIおよびIMの組織弾性変化を測定することで、膝関節屈曲可動域制限の一要因を明らかにすることである。【方法】対象は下肢に疾患を有さない健常成人8名16肢(男性5名,女性3名)、平均年齢30.6歳とした。VL、VI、IMの組織弾性測定には超音波診断装置Aixplorer(SuperSonic Image社製)のShearWave™ Elastography機能を用いた。使用したプローブの周波数帯域は16 MHzとした。測定肢位は被験者を長坐位とし、膝関節完全伸展位と最大屈曲位の2肢位とした。測定方法はプローブを短軸走査として膝蓋骨中心に当てた。次にプローブを外側へ移動させ大腿骨外側顆部を確認したところでプローブを90°回転させた。そのままプローブを近位方向へ移動させ大腿骨外側顆部の頂点を確認したのち、VIとVL両方の幅が等分される位置までプローブを移動させ測定位置とした。そこで筋束がfibrillar patternで描出できるよう調整したのちShearWave™ Elastographyの関心領域を1.2cm×1.2cmとしてVLとVIおよびIMの組織弾性を測定した。測定は3回行い、その平均値を計測値とした。統計解析はVL、VI、IMそれぞれの肢位による変化はWilcoxon符号付順位和検定を用いた。各部位間の比較にはSteel-Dwass法による多重比較検定を用い、各部位間の関係についてはSpearman順位相関係数を用いた。すべての検定で有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は筆頭演者の所属する病院の臨床研究倫理審査委員会の承認を得たうえで、被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明し同意を得た。【結果】膝関節伸展位での組織弾性の平均値は、VL:25.2kPa、VI:35.1kPa、IM:62.8kPaであった。膝関節屈曲位での組織弾性平均値は、VL:114.3kPa、VI:125.2kPa、IM:195.1kPaであった。各測定部位すべてで膝関節屈曲に伴い組織弾性の値は有意に増加し、硬くなることが示された(p<0.01)。伸展位では各測定部位の組織弾性に有意差はなかったが、屈曲位ではIMとVL、VIそれぞれの間で組織弾性に有意差を認め、屈曲位ではVLとVIに比べIMが硬くなることが示された(p<0.05)。膝関節屈曲位における各組織間の相関関係はVLとVI、VIとIMの間に相関関係は認められなかったが、VLとIM(rs = 0.74、p<0.01)では正の相関を認めたことから、VLの組織弾性が増加することでIMの組織弾性が増加することが示された。【考察】 本研究の結果からVL、VI、IMは膝関節屈曲に伴い、それぞれ組織弾性の値が増加し、硬くなることが示された。IMはVL、VIと比較して有意に組織弾性値が増加していた。このことから、VLとVIが膝関節屈曲に伴って伸張され、それぞれの筋形状が変化することでIMに圧縮応力が加わっていることを示していると考えられる。膝関節屈曲位におけるVL組織弾性とIMの組織弾性に正の相関を認めたことから、IMの硬化にはVLの硬さが関与している。これらのことから膝関節屈曲制限を有する患者に対して運動療法を行う場合には、単にVLやVIの伸張性を獲得するような操作を加えるだけでなく、VLとVIの間に加わる圧縮応力が軽減され、十分な筋の滑走が得られるような工夫が必要であることが示された。また、腸脛靭帯(以下、ITT)の緊張が高まることでVLに対する圧迫刺激が増大し、VLの伸張性が低下するとの報告もある。VLの組織弾性の増加にはITTが関与している可能性もある。ITTの緊張が高まることでVLの伸張性が低下するばかりでなく、IMへの圧縮応力が増加する可能性も考えられ検討を重ねる必要がある。今回は健常者のみでの検討を報告したが、今後健常者と患者間での比較や、関節可動域と組織弾性の関係などを検討することで、より臨床に活かせる研究になると考えられる。【理学療法学としての意義】本研究の結果は膝関節拘縮に対する運動療法を実施するにあたって、安全かつ効率的に治療を進めていく一助になると考える。
  • 高見 千由里, 山田 英莉, 荒木 清美, 稲垣 沙野香, 加藤 翼, 青柳 陽一郎
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 関節位置覚は加齢変化や変形性膝関節症(以下膝OA)により低下すると言われている。関節位置覚の受容器は筋や腱、靭帯、関節包、靭帯など関節、またその周囲に分布している。膝OAに対する標準的手術療法であるTotal Knee Arthroplasty(以下TKA)は、関節位置覚に大きな影響を与える事が予想される。今回、TKA術前後において膝関節位置覚と立位バランスの変化について検討したので報告する。【方法】 対象は当院にて膝OAの診断によりTKA が施行され、中枢神経系に障害を有さない患者30例30膝とした。性別は男性5例女性25例、平均年齢は72.3±6.2歳、入院期間は40.1±10.1日であった。 評価項目として1)膝関節誤差角度2) 安静立位時重心動揺3)Functional Reach Testに準じたリーチ距離と動的重心動揺の測定を術前・抜糸後・退院時に行った。膝関節誤差角度は被験肢の膝外側関節裂隙中央、外果部にマーカーを貼付。膝関節屈曲70°の端座位、閉眼の状態を開始肢位とした。験者が約3°/secで他動的に被験者の膝を伸展させ目標角度(屈曲40°)で5秒静止後開始肢位にもどした。被験者には静止した膝関節の角度を記憶するよう指示した。再び開始肢位から他動的に膝関節を伸展し、被験者は記憶した膝関節の角度に達したと感じた時点で合図してもらい、その角度をデジタルビデオカメラにて記録した。画像ソフトにて目標角度との誤差を求め、施行3回の平均値を算出した。重心動揺測定は重心動揺測定装置(ANIMA社製グラビコーダGS3000)を使用した。被験者は開眼で両脚を平行に10cm開いた状態で測定プレート上に起立し、両脚安静立位および前方へのリーチ計2種類を各20秒間測定した。リーチ動作においては床面と平行に両上肢を挙上させ、最大位置まで前方にリーチを行うよう指示した。なお、リーチ動作は1回の試行後、実測を行った。重心動揺測定項目は総軌跡長、外周面積とした。 誤差角度との相関関係については総軌跡長、外周面積、リーチ距離で検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当大学倫理審査委員会の承認を得た。被験者には十分な説明のもと、文書で同意を得られた患者を対象とした。【結果】1) 膝関節誤差角度:術前3.1±1.8°、抜糸後4.3±2.0°、退院時4.1±2.3°であり、術前に比べ抜糸後および退院時は有意に高値を示した(p<0.05)。2) 安静立位時重心動揺:総軌跡長は、術前28.1±14.2cm、抜糸後34.4±15.5cm、退院時31.4±14.0cmであり、術前に比べ抜糸後で有意に高値を示した(p<0.05)。外周面積では有意差は認められなかった。3) リーチ動作時の変化:リーチ距離では術前23.8±7.0cm、抜糸後21.7±6.6cm、退院時23.3±5.8cmであり術前および退院時に比べ抜糸後は有意に低値を示した(p<0.05)。重心動揺の総軌跡長は、術前63.1±20.1cm、抜糸後69.4±21.9cm、退院時63.3±17.0cmであり、術前、退院時に比べ抜糸後は有意に高値を示した(p<0.05)。外周面積に有意差は認められなかった。 誤差角度とリーチ時外周面積、リーチ距離との間にそれぞれ有意な負の相関を認めた(p<0.01)。誤差角度と安静立位時の総軌跡長、外周面積との間にそれぞれ有意な正の相関を認めた(p<0.05)。【考察】 誤差角度は術前に比べ抜糸後に有意に高値を示し、手術侵襲により術後に位置覚が低下したと考えられた。術後に総軌跡長が増大し、リーチ距離は低値を示したことから手術侵襲による位置覚低下が重心動揺増大とリーチ距離短縮に影響していると考えられた。退院時、誤差角度は高値のままであったのに対し、リーチ時の総軌跡長およびリーチ距離は術前の値に近づいたことから、膝関節内以外に残存している固有感覚受容器が代償的に働いた可能性があると考えられる。誤差角度と動的バランス関連値は負の相関、また誤差角度と静的バランス関連値は正の相関がみられたことからも膝関節位置覚が姿勢制御に影響を与えることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究において関節受容器、筋および腱組織内への手術侵襲により術後のバランス機能が低下するも、リハビリテーション期間中にある程度改善することが示された。位置覚低下によりボディーイメージが障害されることもあるといわれており、TKA術後患者では知覚、運動の統合を含めた治療プログラムを考える必要性が示唆された。
  • 望月 良輔, 内田 みなみ, 石垣 直輝
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々は日常診療の中で、腰痛患者に対して何らかの理由により腰部に直接アプローチができないとき、殿筋群ストレッチを行うことでその痛みが軽減することをしばしば経験する。しかし、その機序について言及した文献は渉猟し得ない。本研究の目的は、殿筋群ストレッチ前後で腰部周囲にどのような身体変化が起こるのかを柔軟性と可動性の観点から検討し、その機序を考えるうえでの一助とすることである。【方法】対象は現在腰痛のない健常人42名とし、これを無作為にストレッチ群(以下、S群)23名(男性18名、女性5名、年齢25.5±2.7歳)と対照群(以下、C群)19名(男性15名、女性4名、年齢26.4±2.4歳)に振り分けた。測定項目は脊柱起立筋の柔軟性としてL4棘突起右外側2cmの腰部筋硬度(以下、筋硬度)、股関節の可動性として右股関節屈曲角度(以下、股屈曲)、脊柱から下肢の可動性として指床間距離(以下、FFD)とした。筋硬度の測定はTRY-ALL社製筋硬度計TDM-Z1を使用し、5回の測定値の平均値を採用した。測定は筋硬度計の取り扱いに習熟した検者1人によって全て行われた。再現性については高梨らの先行研究によりICC(1,1)=0.89以上と良好な再現性が証明されている。FFDの測定は立位からの体幹前屈動作とした。指先が足底面に届かない場合を+、足底面より下まで届いた場合を-と表記した。測定手順は対象の右腰部に負荷をかけ筋緊張を高めることを目的として、四つ這い位で左上肢と右下肢を拳上し保持する運動課題(1分×2セット、休憩30秒)を行った後、筋硬度、股屈曲、FFDを測定した。S群は負荷後、殿筋群ストレッチ(背臥位で左股関節、膝関節を屈曲、右股関節を開排し右足部を左大腿前部に乗せ、右膝を左肩へ引き付ける。30秒×5セット、休憩30秒)を行い、C群は負荷後5分の安静(背臥位で両股関節、膝関節屈曲)を行った後、両群に対して再び筋硬度、股屈曲、FFDを測定した。統計学的分析はSPSSver12.00を使用し、S群、C群それぞれに対し、負荷後の測定値とS群は介入後、C群は安静後の測定値について対応のないt検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院倫理委員会の承認を得て行われ(承認番号2012017)、対象者が研究における倫理的な配慮や人権擁護がなされていることを十分に説明し同意を得ている。【結果】S群の筋硬度は、負荷後(14.4±4.8)、介入後(10.3±4.3)となり、有意に低下した(p<0.01)。股屈曲は、負荷後(125.2±7.9度)、介入後(130.0±8.0度)となり、有意に増大した(p<0.01)。FFDは、負荷後(-3.0±9.6cm)、介入後(-4.7±8.9cm)となり、有意に増大した(p<0.01)。C群の筋硬度は、負荷後(15.0±6.0)、安静後(14.2±4.8)となり、有意な差はなかった。股屈曲は、負荷後(123.2±8.4度)、安静後(125.3±8.6度)となり、有意に増大した(p<0.01)。FFDは、負荷後(-6.7±11.2cm)安静後(-6.7±11.2cm)となり、有意な差はなかった。【考察】S群では介入後、有意に筋硬度の低下、股屈曲とFFDの増大がみられた。一方、C群では股屈曲のみ介入前後で有意な増大がみられた。筋硬度測定は脊柱起立筋の中でも特に多裂筋を想定し、殿筋群ストレッチは深層回旋六筋と大殿筋を対象として行った。先行研究では、多裂筋は仙骨後面に付着し仙骨を前傾させる作用を持ち、深層回旋六筋の過緊張は仙骨の前傾運動を阻害すると報告している。深層回旋六筋の伸張性の改善により、仙骨の後傾ストレスが軽減し、それが多裂筋の伸張ストレス軽減につながり、筋硬度が低下し柔軟性が得られ、また股屈曲が増大し股関節の可動性が改善したと考えられた。FFDは多くの関節を含む運動であり、その変化には様々な要因が考えられる。今回の研究では、前述の筋硬度低下が関与して、腰部可動性が改善したこと、股関節の可動性が改善したことで脊柱から下肢の可動性が改善したと考えられた。また股屈曲は両群で有意に増大したことから、安静による筋緊張の変化も関与したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】殿筋群ストレッチを行うことで、股関節の可動性のみならず脊柱起立筋の柔軟性と脊柱から下肢の可動性が改善することが明らかになった。このことは、われわれが経験的に感じている腰痛患者に殿筋群ストレッチを行うことで腰痛が軽減する現象の一因を明らかにできたと考えられる。
  • 淵岡 聡, 樋口 由美, 岩田 晃, 小栢 進也, 井上 純爾
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 加齢に伴う運動機能や生活機能の低下は,その多くが筋力低下に起因するとされている。評価指標として最大筋力がよく用いられるが,日常生活において最大筋力を発揮する場面はほとんど見られない。近年,最大筋力のみではなく,筋の出力特性を質的に評価する種々の指標が提唱されている。RFD(rate of force development)は,筋力の立ち上がりの早さの指標として,最大筋力をその発生までに要した時間で除した値で示される。しかし最大筋力との相関を報告する研究もあり,最大筋力を発揮するまでに要する時間には非常に大きなばらつきがあるなど,個人の筋機能を評価する指標としての信頼性にはやや疑問が残る。 本研究ではRFDの概念を援用し,筋力発揮の初期段階での筋力発生率に着目し,移動能力を含む身体運動能力との関連を検討することを目的とした。【方法】 我々が地域在住高齢者の健康増進に資することを目的に開催している身体機能測定会(自分の身体を測定する会)への今年度の参加者を対象とした。本研究で使用した測定項目は身長,体重,筋機能として膝伸展筋力(角速度60および180°/secの等速性筋力:ISOK60およびISOK180,屈曲90°位での等尺性筋力:ISOM90),等尺性筋力測定時のRFDとした。等尺性筋力は目前のLEDランプ点灯を合図とし,「ランプが光ったらできるだけ早く強く力を入れる」よう指示し,数回の練習の後に測定した。RFDは等尺性筋力が最大値を示した力-時間曲線を抽出し,筋力発生から50msec毎に150msec後までの筋力を,体重と時間で除し,1秒あたりの筋力発生率として算出した:RFD50,RFD100,RFD150。なお,筋力発生は5Nm以上の筋力が検出された時点とし,合図から筋力発生までを反応時間:RTとした。さらに身体運動能力として5m歩行時間(通常・最速),Timed Up & Go テスト:TUG,5回立ち座りテスト:5-STS,Seated side tapping test:SSTを,それぞれストップウォッチを用いて2回計測し,最速値を解析に用いた。なお,SSTは過去の報告と同様,41cmの台上に着座させ,両側方に設置した目標物を左右交互に10回タップするのに要する時間を計測した。 各項目の関連はPearsonの積率相関係数を算出して検討した。統計解析にはJMP10を用い,有意確率は5%未満とした。【説明と同意】 本学研究倫理委員会の承認を経た後、全ての対象者に本測定会の内容および測定データの使用目的について口頭ならびに文書を用いて十分な説明を行い、書面による任意の同意を得た。【結果】 測定会に参加した65歳以上の110名(男29名,女81名)を解析対象とした。対象の属性(平均値±標準偏差)は,年齢74.9 ± 5.3歳,身長153.8 ± 7.5cm,体重51.0 ± 7.6kg,BMI 21.5 ± 2.6であった。筋機能項目の結果はISOK60 1.55±0.33Nm/kg,ISOK180 1.03±0.20Nm/kg,ISOM90 2.03±0.50Nm/kg,RT 0.30±0.07秒,RFD50 10.36±3.27Nm/kg/sec,RFD100 7.39±2.80Nm/kg/sec,RFD150 5.16±1.79Nm/kg/secであった。身体運動項目の結果は通常歩行 3.67±0.57秒,最速歩行 2.73±0.39秒,TUG 7.53±1.28秒,5-STS 8.56±2.22秒,SST 5.49±0.90秒であった。 RTDと身体運動能力との関係は,RFD50と最速歩行(r=-0.20),5-STS(r=-0.22),SST(r=-0.27)に,RFD100と最速歩行(r=-0.20),SST(r=-0.23)に有意な相関が見られた。筋力と身体運動能力との関係は,ISOK60とTUG(r=-0.22),通常歩行(r=-0.26),最速歩行(r=-0.36),SST(r=-0.30)に,ISOK180とTUG(r=-0.24),通常歩行(r=-0.26),最速歩行(r=-0.44),SST(r=-0.33)に,ISOM90と最速歩行(r=-0.22)にそれぞれ有意な相関が見られた。RTは5-STS(r=-0.27)とのみ有意な相関が見られた。【考察】 筋力指標では歩行速度やTUGと有意な相関がみられ,これまでの知見と一致する結果であったが,RFDは最速歩行や5-STS,SSTといった素早さが要求される運動課題において有意な相関がみられた。特に今回は筋力発揮のごく初期段階における筋力発生率を計測しており,量的指標である最大筋力とは異なる側面を評価する指標としての有用性を示すものと考えられた。また,最速歩行とSSTはRTとの関連が見られず,筋力発揮の初期段階における筋力発生率は,動作の素早さを評価する指標として,筋の反応時間よりも有用な指標である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 高齢者において,素早さが要求される身体運動機能は,最大筋力や筋の反応時間よりも,筋力発揮時の初期段階における筋力発生率との関連が強いことを客観的に示した点。
  • 動作指導への活用
    岡山 裕美, 大工谷 新一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 腰痛患者をはじめとした脊椎疾患の理学療法では,脊柱起立筋に負担をかけずに重量物を運搬する方法を指導する機会が多い.そこで本研究では,物体を保持する際の脊柱起立筋の活動動態を明らかにすることを目的として,物体を保持する動作における物体の重量,および物体を保持する際の身体との距離の違いによる体幹筋の筋活動の変化を検討した.【方法】 被験者は整形外科学的,神経学的に問題のない健常成人男性9名とした.被験者が楽だと感じる安静立位と重量保持の立位で表面筋電図の計測を行った.安静立位は上肢を身体の側方に位置させることとした.重量保持の立位は安静立位の状態から肘関節を屈曲させ,前腕が床面と平行であることを条件とした.この際,重量物は5kg,10kgのダンベルを使用し保持させた.ダンベルを持った立位姿勢でのダンベルと身体との距離は肩峰を通る垂線とダンベルの中心の最短距離とし,10cm,20cm,30cmの3条件を設けた.ダンベルの重量とダンベルと身体との距離の条件を組み合わせた6パターンを無作為に実施した.表面筋電図の計測はMyosystem1400(Noraxon社製)を用いて腹直筋(上部,下部),脊柱起立筋(胸部,腰部)の表面筋電図を記録した.電極配置位置に関しては,腹直筋上部および下部は臍部を境とし,上部と下部に分け,脊柱起立筋胸部はTh12レベルで腰部はL3レベルとした.これらの筋の表面筋電図を記録し,得られた信号をAD変換しパーソナルコンピュータに取り込んだ.サンプリング周波数は1kHz,解析の周波数は10~500Hzとした.課題の立位保持時間は10秒間とし,得られた波形より立位保持を開始してから2.5~7.5秒までの5秒間を解析し,筋電図積分値と中間周波数を算出した.筋電図積分値においては,ダンベルを持った立位での各筋の結果を同名筋の安静立位の結果で除し相対値を算出した. 統計学的検討には,ダンベルと身体との距離の違い毎にダンベルの重量の違いによる筋活動の比較を筋電図積分値の相対値と中間周波数を従属変数としてt検定を行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】 筋電図積分値の相対値は,腹直筋上部・下部では5kg,10kgともに安静立位を1.0とした場合,重量保持動作時は0.9~1.2であり重量の変化における有意な差は認められなかった.脊柱起立筋胸部において,5kg,10kgの順に10cmでは2.1,2.6,20cmでは2.9,4.1,30cmでは3.6,5.8であり,5kgと比較して10kgで有意に高値を示した(p<0.05).一方,脊柱起立筋腰部においては,10cmでは1.5,1.7,20cmでは2.2,2.7であり,有意な差は認められなかったが,30cmでは2.7,4.2であり,5kgと比較して10kgで有意に高値を示した(p<0.05). 中間周波数は,腹直筋上部・下部ともに重量の変化における有意な差は認められなかった.一方,脊柱起立筋では胸部・腰部ともに30cmにおいてのみ5kgと比較し10kgにおいて有意に高値を示した(p<0.05).【考察】 腹直筋上部・下部ではダンベルの重量の違いによる筋活動に有意な差は認められず,安静立位の筋活動と同程度であったことが確認された.これより,10kg程度までの重量は10cmから30cm程度までであれば腹直筋の筋活動を変化させることなく,物体を保持することが可能であることが分かった. 一方,脊柱起立筋の胸部では筋電図積分値の相対値において,全ての距離で重量の違いによる有意な差を認めたが,腰部では30cmの距離でのみ有意な差を認めた.これより,立位で物体を身体の前方で保持する際に脊柱起立筋の胸部では10cmでも重量の影響を受けやすいが,腰部では30cmの距離から重量の違いが影響し制動が必要となることが示唆された.臨床的に腰痛患者への生活指導では重量物の運搬に際して身体に近い位置での保持を推奨することが多い.本研究の結果から重量としては10kg程度の物でも脊柱起立筋には相当の活動が必要になること,および胸部脊柱起立筋においてはその活動は身体重心線付近から10cm程度の距離でも影響を受ける可能性があることが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】 重量保持動作時の体幹の筋活動の変化が明らかになることで,具体的な重量物の定義や重量物の運搬・保持時における身体と物体との適切な距離を同定することができ,その結果は,体幹機能に問題を有する症例への生活指導・動作指導に活用できる.
  • 三浦 拓也, 山中 正紀, 武田 直樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】体幹の安定性は従来,腹直筋や脊柱起立筋群などの体幹表層筋群の同時収縮により提供されると考えられてきた.しかしながら近年,これらの筋群の過剰な同時収縮はまた腰椎にかかる圧迫力を増加させ,腰痛発症のリスクとなり得るということも報告されており,体幹表層筋への依存は腰椎の安定性に対して負の影響をもたらす可能性が示唆されている.対して,腹横筋や腰部多裂筋を含む体幹深層筋群は直接的に,もしくは筋膜を介して間接的に腰椎に付着するため,その活動性を高めることで腰椎安定性を増加させることが可能であると言われている.しかしながら,増加した体幹深層筋群の活動性が表層筋群の活動性にどのような影響を与えるかについて同一研究内で報告したものは見当たらない.本研究の目的は,体幹深層筋群の活性化が表層筋群の活動性に与える影響について筋電図学的に調査することである.【方法】対象は,体幹や下肢に整形外科学的または神経学的既往歴の無い健常者6名(22.4 ± 1.1歳,166.9 ± 2.0 cm,60.5 ± 3.6 kg)とした.筋活動の記録にはワイヤレス表面筋電計(日本光電社製)を周波数1000 Hzで使用し,対象とする筋は右側の三角筋前部線維,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋-腹横筋,脊柱起立筋,腰部多裂筋とした.実験プロトコルに関して,立位姿勢にて重量物(2,6 kg)を挙上させる課題を異なる条件にて実施した.条件は特に指示を出さずに行う通常挙上と,腹部引きこみ運動(Abdominal drawing-in maneuvers;ADIM)を行った状態での挙上の2つである.各条件において測定は計5回ずつ行い,得られた筋電データはband-pass filter(15-500 Hz)を実施した後にroot-mean-square(RMS)にて整流化した.全課題を終えた後に各筋における5秒間の最大等尺性収縮(MVIC)を取得し,これを用いて筋電データの標準化を行った.重量物挙上のonsetを加速度計にて決定し,その前後200 ms間の筋電データを解析に使用した.統計解析は各課題(2-N;2 kg-通常挙上,2-A;2 kg-ADIM挙上,6-N;6 kg-通常挙上,6-A;6 kg-ADIM挙上)の比較に一元配置分散分析(SPSS Advanced Statistics 17,IBM 社製)を使用し,post-hocにはFisher’s LSDを用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の被験者には事前に書面と口頭により研究の目的,実験内容,考えられる危険性,データの取り扱い方法等を説明し,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した.本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った.【結果】外腹斜筋は6-A挙上時,6-N挙上と比較して有意に活動量が減少し(p<0.05), 2-N挙上と比較して6-N挙上では有意に活動量が増加した(p<0.05).内腹斜筋-腹横筋では2,6 kgのそれぞれでADIM挙上時,通常挙上と比較して有意に活動量が増加した(p<0.05).脊柱起立筋では6-A挙上時,6-N挙上と比較して有意に活動量が減少し(p<0.05), 2-N挙上と比較して6-N挙上では有意に活動量が増加した(p<0.05).腹直筋および腰部多裂筋においては有意差は認められなかった.【考察】ADIMを行った状態での挙上課題において,外腹斜筋および脊柱起立筋では筋活動量の減少が認められた.このことは重量物挙上による体幹動揺に抗するための体幹表層筋群への努力要求量が減少したことを示唆するかもしれない.この努力要求量の減少は,ADIMにより体幹深層筋群が活性化され,これに伴う体幹安定性の増加がもたらしたものと推察される.実際に内腹斜筋-腹横筋ではADIM挙上時に有意にその活動量が増加している.腹直筋や腰部多裂筋において有意な差が認められなかったことについては,主に体幹伸展モーメントを必要とする本研究の課題特性が影響したものと考えられる.体幹深層筋群の筋活動計測に対してはこれまでワイヤー筋電計などの手法が用いられてきたが,本研究結果はそれら先行研究と同様の結果が得られたため表面筋電においても体幹深層筋群の活動性を捉えることが可能であると示唆された.また,体幹表層筋群の同時収縮は腰椎に対して力学的負荷増加といったリスクを伴う可能性があるため,その活動性を減少させる体幹深層筋群の活性化は腰椎の安定性に対して重要な働きを持つものと考えられる.この体幹深層筋群の活性化による腰椎安定性増加は,将来的な腰痛発症を予防するという観点から臨床家が取り組むべき課題であると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究により,体幹深層筋群の活性化が体幹表層筋群の活動性を減少させることが示唆された.本所見は将来的な腰痛発症を防ぐためにも重要な知見であり,腰痛に対するリハビリテーションの一助となるものと考える.
  • 隈元 庸夫, 世古 俊明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 立位から体幹屈曲時の背筋群における屈曲弛緩現象(FRP)の消失は腰痛の客観的指標になり得るとされ,近年改めて注目されている。また欧米では屈曲弛緩比率(FRR)として,直立位(Upright)の筋活動量を脱力位(Slump)の筋活動で除した安静時FRRや体幹屈曲時と体幹伸展時の筋活動量をそれぞれ最大屈曲位での筋活動量で除した運動時FRRを用いて腰痛症に対するリハビリの効果を筋電図学的に検討した報告が散見される。しかし,背筋群以外の筋活動状況や運動中の視線条件を含めて,立位と座位で比較した報告は少ない。 本研究の目的は健常者を対象に立位と座位,視線前方と視線下方でのFRPの出現差と安静時FRR,運動時FRRについて背筋群以外の筋活動状況も含めて比較することでFRPの基礎的検討を行うことである。【方法】 対象は腰痛疾患を有さない健常者10名(全例男性,平均年齢23.0歳,身長168.4cm,体重63.5kg)とした。 体幹屈曲運動は先行研究を参考に,開始姿勢での安静3秒後,体幹を4秒かけて屈曲し,最大屈曲位で4秒静止,再び開始姿勢に4秒で戻る動作とした。開始姿勢は立位と座位とし,両上肢は体側に自然におろした肢位とした。それぞれの姿勢の条件をMakらの報告を参考にUprightを骨盤中間位で脊柱を直立させた肢位,Slumpを骨盤後傾位で体幹を屈曲した脱力肢位での運動開始とした。視線は前方と下方の2種類とした。筋活動の測定には表面筋電計(Tele Myo G2, Noraxon)を用いた。胸部背筋(UE),腰部背筋(LE),多裂筋(MF),大殿筋(GMa),大腿二頭筋(BF)を導出筋とした。導出方法は双極導出法とし,筋電計内蔵の皮膚インピーダンステストをクリアしたことを確認後,測定を行った。測定側は全て左とした。また,体幹屈曲運動での体幹屈曲角度を表面筋電計と同期させた電気角度計(Norangle,Noraxon)でOlsonらの報告を参考に計測した。波形解析は筋電解析ソフト(MyoResearch Master,Noraxon)にて,心電図ノイズ低減,全波整流,スムージングを行い,得られた筋活動から,FRP出現の定義を三瀧らの報告を参考に「開始姿勢安静時の筋活動の大きさの平均より低値」としてFRPの出現を判定した。またUprightの筋活動量をSlumpでの筋活動量で除した安静FRR,そして運動時FRRとして体幹屈曲時の筋活動量を最大屈曲位での筋活動量で除した屈曲FRR,体幹伸展時の筋活動量を最大屈曲位での筋活動量で除した伸展FRRを求めた。 以上の方法で得られた結果について,立位と座位,視線前方と視線下方で各々比較検討した。統計処理はカイ自乗検定,t-test,Wilcoxon-t検定,Holmの方法を用いて有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に則り,十分な配慮を行い,本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得た。【結果】 FRPはLEで最も認められ,各運動条件の全条件で出現し,出現頻度に有意差がなかった。一方,BFでは全運動でFRPの出現頻度が低かった。立位では全運動でBFを除いた筋のFRP出現頻度が高かった。座位では全運動で全筋のFRP出現頻度が低かった。特に視線前方のSlump座位からの体幹屈曲ではUE,MF,GMaでFRP出現頻度が低かった。視線下方立位ではUpright,SlumpともにUE,LEでのFRP出現頻度が100%と高い結果であった。 安静時FRRはBF以外で立位よりも座位での値が有意に高値を示し,座位で LEの安静時FRRが4.4であった。動作時のFRRは,立位で全筋群が伸展FRRよりも屈曲FRRで有意に低値を示し,座位では伸展FRRと屈曲FRRに有意差がない筋群がみられた。【考察】 立位と比較して座位ではFRPの出現が健常者でも不十分となることから,立位がとれない有疾患者に対して座位でFRPを確認する場合はFRPの出現の有無だけでは検討不十分となりうることが示された。 安静FRRが高値ほど安静時の背筋の弛緩を表すことから,FRPの出現差だけでは検討しきれない座位では安静時FRRが背筋の弛緩状態の一指標となりうると考えられた。また動作時のFRRは立位で屈曲相の弛緩が反映され,座位では屈曲相で姿勢制御として下肢を補う背筋活動が作用している可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本結果は,腰痛症における筋・筋膜性をはじめとする疼痛原因の根拠や治療効果の量的指標として,今後臨床応用への一助を与える基礎的情報になると考える。
  • 正木 光裕, 池添 冬芽, 福元 喜啓, 塚越 累, 南 征吾, 山田 陽介, 木村 みさか, 市橋 則明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 加齢に伴い立位姿勢アライメントは脊柱後彎や骨盤後傾が増加する。この姿勢アライメントは体幹屈曲筋力とは関連がみられず,体幹伸展筋力と関連があることが報告されている(Kim 2006, Sinaki 1996)。さらに,脊柱・骨盤を中間位に保持した姿勢は,脊柱後彎・骨盤後傾が増加した姿勢よりも腰部多裂筋や腰腸肋筋の筋活動量が高いことが報告されており(O’Sullivan 2006),脊柱・骨盤中間位のアライメントと背部筋との関連性が示唆されている。このように加齢に伴う脊柱後彎・骨盤後傾変化は背部筋の筋機能低下が関連していると考えられている。 我々は近年,超音波画像診断装置を使用した研究により,加齢により骨格筋の筋輝度は増加する,すなわち筋内の脂肪組織の増加といった骨格筋の質的変化が生じることや,この質的変化は中高齢者の筋機能に影響を及ぼすことを報告した(Fukumoto 2011,Ikezoe 2012)。しかし,加齢による背部筋の量的・質的変化が姿勢アライメントに影響を及ぼすのかについて詳細に検討した報告はみられない。本研究の目的は,中高齢者における立位姿勢アライメントと背部筋の量的・質的変化との関連性について明らかにすることである。【方法】 対象は地域在住の中高齢女性38名(平均年齢72.6±7.8歳)とした。超音波診断装置(GE ヘルスケア社製LOGIQ Book e)を使用し,安静臥位での腰腸肋筋(ES),腰部多裂筋(MF),大腰筋(PM)の横断画像を撮影した。8MHzのリニアプローブを使用し,ゲインなど画像条件は同一設定とした。得られた画像から筋厚,また画像処理ソフト(Image J)を使用し,各筋の筋輝度を算出した。なお,筋輝度は0から255の256段階で表現されるグレースケールで評価され,値が大きいほど高輝度で筋内脂肪などの非収縮組織が増加していることを意味する。筋厚,筋輝度ともに右左の平均値を使用した。姿勢アライメントの測定にはSpinal Mouse(Index社製)を用い,安静立位での胸椎後彎・腰椎前彎・仙骨前傾角度を求めた。統計学的検定として,ピアソンの相関係数を使用し,姿勢アライメント(胸椎後彎・腰椎前彎・仙骨前傾角度)と年齢,筋厚,筋輝度との関係性を検討した。さらに,姿勢アライメントを従属変数,相関分析の結果でp値が0.10未満であった筋厚および筋輝度を独立変数とした重回帰分析を行った。全ての統計の有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究内容についての説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 安静立位時の姿勢アライメントは,胸椎後彎角度35.7±13.4°,腰椎前彎角度12.6±7.3°,仙骨前傾角度3.2±5.2°であった。胸椎後彎・腰椎前彎・仙骨前傾角度と年齢との間にはいずれも有意な相関がみられなかった。 胸椎後彎角度と筋厚,筋輝度との間における単相関係数は,ESの筋厚r=-0.45(p<0.05),筋輝度r=0.08(p=0.61),MFの筋厚r=-0.11(p=0.50),筋輝度r=0.08(p=0.64), PMの筋厚r=-0.32(p=0.05),筋輝度r=0.15(p=0.38)を示した。腰椎前彎角度では,ESの筋厚r=0.14(p=0.39),筋輝度r=0.19(p=0.25),MFの筋厚r=0.18(p=0.27),筋輝度r=-0.07(p=0.70), PMの筋厚r=0.31(p=0.06),筋輝度r=-0.26(p=0.12)を示した。仙骨前傾角度では,ESの筋厚r=0.33(p<0.05),筋輝度r=0.15(p=0.37),MFの筋厚r=0.13(p=0.45),筋輝度r=-0.31(p=0.06), PMの筋厚r=0.48(p<0.05),筋輝度r=-0.38(p<0.05)を示した。 また,重回帰分析の結果,胸椎後彎角度に影響を与える有意な因子としてESの筋厚(標準偏回帰係数=-0.39)が抽出され(決定係数=0.22),仙骨前傾角度に影響を与える有意な因子としてPMの筋厚(標準偏回帰係数=0.42),MFの筋輝度(標準偏回帰係数=-0.31)が抽出された(決定係数=0.38)。【考察】 中高齢女性の立位姿勢アライメントと背部筋の筋厚・筋輝度との関連性について重回帰分析で検討した結果,ESの筋厚が減少するほど胸椎後彎角度が増加し,PMの筋厚が減少,MFの筋輝度が増加するほど仙骨前傾角度が減少することが示された。これらの結果から,中高齢女性の胸椎後彎の増加には脊柱起立筋の筋量減少,骨盤後傾変化には大腰筋や多裂筋といった深部筋の筋量減少や筋内脂肪増加が関連していることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究は,中高齢女性における胸椎,骨盤のアライメントには,背部筋の量的・質的変化が関連していることを明らかにした研究であり,姿勢アライメントの改善に対する運動療法の確立に向けて研究が発展することが期待される。
  • 纐纈 良, 納土 真幸, 石原 望
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 体幹深部筋は外乱応力を素早く分散させ,バランスを維持する反応を起こすための固有受容器であり,体幹の安定化機構として姿勢制御の働きを担っているといわれている.小泉によると腹部引きこみ運動は体幹深部筋トレーニングの基礎であると述べており,腹部引きこみ運動は腹横筋や内腹斜筋の収縮を促す運動でインナーマッスルを活性化させ,意識下での収縮が難しい体幹深部筋に対し比較的容易に収縮を促すことができるとの報告もある.高齢者群を対象にした先行研究では体幹深部筋トレーニングである腹部引き込み運動が下肢運動と比較して,ある時間内における足圧中心の移動距離を表す総軌跡長や,その移動面積を表す外周面積を有意に減少させる即時効果があることを報告しているが,効果の持続性についての研究は見当たらない.そこで本研究の目的は腹部引き込み運動の効果の即時効果がどの程度持続するかを明らかにすることとした.【方法】 健常成人29名(男性12名,女性17名,年齢25.3±3.5歳,身長164.0±8.9cm,体重54.8±8.7kg)を対象とした.課題は体幹深部筋トレーニングとして腹部引き込み運動を行った群(以下,体幹群)と下肢運動として下肢伸展挙上運動を行った群(以下,下肢群)と安静臥位のみの群(以下,安静群)の3つとし,無作為に割り付けた.また,課題はそれぞれ3分間とし,体幹群は背臥位膝立位で,呼気時に合わせて腹部腹をへこませ,そのまま10秒間保持することを繰り返すように指示し実施した.下肢群は背臥位で無負荷下肢伸展挙上運動を左右両側交互にメトロノームに合わせて1秒間に1回行うように指示し実施した.安静群は背臥位で安静臥位をとってもらった.重心動揺測定は課題前,課題後,4時間後,10時間後の計4回実施した.重心動揺測定はZebris社製FDMを用いて計測した.重心動揺のパラメータは総軌跡長とし,閉眼にて60秒間閉脚立位肢位で計測した.統計解析は課題前の測定値と身体的特性として年齢,身長,体重において,課題3群間で統計的に有意差がないことを確認した後,課題の効果判定として総軌跡長の変化を指標とし,1要因に対応がある二元配置分散分析および多重比較法を用いて比較検討した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究概要,対象者の人権擁護等をヘルシンキ宣言の趣旨に沿い口頭にて説明した.また,参加について自由意志を尊重した上,参加することに同意を得た.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.【結果】 分散分析の結果,総軌跡長の変化は経過において有意差が認められたが,課題3群間では有意差は認められなかった.また,多重比較法において体幹群で課題前と課題後,課題前と4時間後で有意に減少した.下肢群,安静群についてはいずれの経過においても有意差が認められなかった.【考察】 被験者群が健常成人の場合でも,腹部引き込み運動後に総軌跡長が有意に減少した.この結果は,高齢者群を対象に行われた先行研究の結果に即したものとなった.また,持続効果としては4時間後までは課題前と有意差が認められたが,10時間後では有意差が認められなかった.以上より,腹部引きこみ運動の効果は即時効果のみならず少なくとも4時間後までは効果が持続する可能性が示唆された.体幹深部筋の機能を向上させることは,障害の予防や運動パフォーマンス向上のために重要と考えられるが体幹深部筋は選択的収縮が難しく,高齢者や運動麻痺を呈する者にとっては運動難易度が高いとされている.そのためこの腹部引き込み運動は運動難易度が低いことやどの肢位でも行えることから床上リハビリテーションでの治療の選択肢となるものと考える.また,健常者や競技者の中で体幹トレーニングが取り入れられている背景としては,健常者であっても,日常生活上で利き手,利き足の使い方や足を組むなどの個人の癖や生活習慣などにより本来使えるはずである体幹力を十分に発揮できていないためではないかと考えられ,高齢者や運動麻痺を呈する者でも選択的に収縮できるようになれば運動パフォーマンスの向上に繋がると考えている.今後の課題としては,今回は課題が1回のみであったが,より臨床につなげていくことを考えると課題を一定期間行った場合について検討することや,対象者の選定についてなどさらなる検討が必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】 今回,体幹深部筋トレーニングである腹部引き込み運動による総軌跡長減少は即時効果だけでなく持続効果があることが確認することができた. 本研究結果が腹部引き込み運動を使用するうえでの一助になると考えられる.
  • 遠藤 達矢, 小俣 純一, 岩渕 真澄, 白土 修, 伊藤 俊一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】従来から,腰痛症の機能低下の一つとして体幹筋力の弱化が示されており,体幹筋力測定は重要な機能評価の一つである.臨床での筋力評価として徒手筋力検査(MMT)が広く普及しているが,MMTは順序尺度であり,客観性や再現性に問題があると報告されている.一方,ハンドヘルドメーター(HHD)は客観性,簡便性,コスト面において有用であると考えられるが,測定法・測定条件などを詳細に検討する必要がある.測定肢位においては,腹臥位での体幹伸展運動は腰部椎間板に与える負荷が大きく,腰痛の強い者や高齢者ではMMTの肢位での測定そのものが出来ないため座位での測定が推奨されるとの報告も散見される.したがって,体幹筋力の測定機器や測定法は統一見解には至っていない.本研究の目的は,HHDを用いた椅座位での体幹筋力測定時の測定方法の違いが筋力および筋活動に与える影響を検討し、最善の測定方法を確立することとした.【方法】対象は,運動器および神経系に障害がなく腰痛の既往のない健常成人男性20名とした.測定にはHHD(徒手筋力計モービィMT-100;酒井医療社製)を用いた.また,表面筋電計(Noraxon社製テレマイオG2)を用いて,体幹筋群ならびに下肢筋群の筋活動を最長筋,腸肋筋,腰部多裂筋,腹直筋,外腹斜筋,大殿筋,大腿直筋,大腿二頭筋から導出した.測定肢位は膝関節屈曲90 度・足関節底背屈0 度の座位姿勢として,骨盤前傾位,骨盤中間位,骨盤後傾位の3肢位にて比較した.体幹屈曲筋力は,徒手による固定(以下;徒手圧迫法),ベルトを用いた牽引による固定(以下;徒手牽引法)の2つの方法を用いて比較した.体幹伸展は,壁面を用いた固定(壁面圧迫法)と徒手圧迫法の2つの方法を用いて比較した. 統計的解析には,反復測定の一元配置分散分析を用い,その後、多重比較(Tukey法)を行った.検者内・間相関は級内相関係数(以下,ICC)を用いた.有意水準は全て5%未満にて統計処理した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り行った。対象者には,本研究の主旨と方法に関して十分な説明を行い,承諾を得た後,測定を行った.なお,本研究は埼玉県立大学倫理員委員会の承認を得た.【結果】HHDにて測定された筋力値は骨盤の傾斜の変化・抵抗部位の変化による違いがなかった.測定信頼性については,体幹屈曲では,徒手圧迫法ICC(1,1)=0.87,ICC(3,1)=0.83,徒手牽引法ICC(1,1)=0.85,ICC(3,1)=0.82であった.体幹伸展では壁面圧迫法ICC(1,1)=0.95,ICC(3,1)=0.96,徒手圧迫法ICC(1,1)=0.88,ICC(3,1)=0.63であった.また,筋電積分値(%MVC)は体幹屈曲では,骨盤前傾位と中間位に比べて骨盤後傾位で有意に高値を示した.体幹伸展では,骨盤後傾位に比べて中間位と前傾位で有意に高値を示した. 【考察】HHDによる筋力測定は,測定の信頼性と妥当性が必要であり,代償運動を少なくし,よりpeak値に近い測定が重要とされている.また,骨盤前後傾により体幹筋発揮力は変化し,腰椎の過度な前弯増強は腰痛発症危険因子の一つであるという報告もみられる.本研究の結果からも,骨盤傾斜の違いによって体幹筋群の活動は変化することがわかった.本来骨盤は,後傾位となると股関節伸筋と腰背筋が伸張され,股関節屈筋と腹筋は収縮する.しかし,座位姿勢で前方からの抵抗に抗することにより体幹の固定がより必要となり,外腹斜筋が有意に発揮されたと考える.よって,体幹の筋活動を評価するためには体幹屈曲では,骨盤を後傾位とし体幹上部にHHDを設置して測定する椅座位での徒手圧迫法が,検者間・検者内ともに高い信頼性があり腹筋群の筋活動をより反映する体幹屈曲筋力評価法であると考える.また,体幹伸展では骨盤を中間位にして測定する椅座位での壁面圧迫法が,検者間・検者内ともに高い信頼性があり背筋群の筋活動をより反映し,かつ腰椎の過度な前彎を惹起しない体幹伸展筋力評価法であると考える.【理学療法学研究としての意義】臨床においては,信頼性,安全性,簡便性が高い筋力評価方法が推奨される.さらに,体幹筋の筋活動を十分にとらえることが重要である.本研究より,椅座位での体幹筋力測定では,体幹屈曲は骨盤後傾位での徒手圧迫法での評価が推奨され,体幹伸展は骨盤中間位での壁面圧迫法での評価が推奨された.これは,腰痛や変形のため腹臥位をとれない患者に対してより効率の良い評価方法であり,短時間での測定が可能なため,臨床における理学療法効果の判定に有用な評価バッテリーであると考えられる.
  • 稲垣 剛史, 松原 貴子, 冨澤 孝太, 坂野 裕洋, 大澤 武嗣, 山口 尚子, 浅井 友嗣, 前原 一之, 前原 秀紀
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】failed back syndrome(FBS)とは,腰仙椎の手術後に腰痛,下肢痛,痺れなどの症状が残存,再発する病態の総称であり,本邦ではその発症率が8.5%と報告されている(種市,2004)。FBSは手術的要因,精神心理的要因,社会的要因など多面的な要因により惹起される(大鳥,2007)。また,国際疼痛学会では術後痛に対する多面的な支援対策の確立が提起された(IASP,2012)。しかし,FBSに関する研究は手術的要因に着目したものが多く,精神心理的要因や社会的要因を含めた包括的な検討はほとんどされていない。そこで本研究では,腰椎手術後の外来患者を対象に,FBSにおける手術的要因,精神心理的要因,社会的要因について調べ,各要因の関連性について検討した。【方法】対象は腰椎手術後の外来患者33名(男性19名,女性14名,平均年齢63.7±18.7歳)とし,red flagに該当する4名を除外し,疼痛強度をvisual analog scale(VAS:0~100 mm)で調べたうえ,腰痛または下肢痛,痺れがVAS≧20をFBS群(男性9名,女性9名,平均年齢70.2±14.0歳),VAS<20をnFBS群(男性8名,女性3名,平均年齢52.7 ±22.1歳)とした。両群に対して疼痛持続期間,疾患名,手術内容,JOA back pain evaluation questionnaire(JOABPEQ)の「疼痛関連障害」,「腰椎機能障害」,「歩行機能障害」,「社会生活障害」,「心理的障害」,pain catastrophizing scale(PCS)の「反芻」,「無力感」,「拡大視」,hospital anxiety and depression scale(HADS)の「不安」,「抑うつ」,手術後の満足度(VAS)および教育歴,職業とした。統計学的解析は,FBS群における各項目間の相関関係の検討にSpearmanの順位相関係数,FBS群とnFBS群の群間比較にMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は前原外科・整形外科院内研究倫理委員会の承認を得て対象者に研究内容,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について説明し,同意を得たうえで実施した。また,調査に際しては個人情報保護に努めた。【結果】FBS群とnFBS群の疼痛強度はVAS 平均値でそれぞれ腰痛35.4±24.5:4.5±5.5,下肢痛43.3±25.3:4.5±5.8,痺れ44.6±23.4:10.1±8.2であり,その持続期間は1年以上(43%):3ヶ月(45%),疾患名は腰部脊柱管狭窄症(78%):腰部椎間板ヘルニア(64%),手術内容はいずれも1椎間(50%:82%)の腰椎後方固定術(72%:82%)であった。また,FBS群の教育歴(最終学歴)は中学校卒(47%)が最も多く,ついで高等学校卒(37%)であり,職業は無職(50%)が最も多かった。FBS群はnFBS群に比べ,JOABPEQの「疼痛関連障害」,「腰痛機能障害」,「歩行機能障害」,「社会生活障害」,「心理的障害」がいずれも有意に低値,PCSの「無力感」と「拡大視」およびHADSの「不安」が有意に高値,手術後の満足度が有意に低値を示した。各項目の相関関係は,FBS群で下肢痛と拡大視(r= 0.64),無力感(r= 0.83),不安(r= 0.62)に中等度から強い相関,また,無力感と疼痛持続期間(r= 0.55),満足度(r=-0.54)ならびに疼痛関連障害と不安(r= 0.54)に弱い相関を認めた(p< 0.05)。 【考察】慢性痛は身体機能のみならず精神心理社会的に大きな影響を与えるといわれている(Nakamura,2012)。今回,FBSでは,下肢痛と拡大視,無力感,不安との相関が認められたことや手術に対する満足度が低いこと,さらに,教育歴や職業離脱など社会的要因の影響を受けることから,他の慢性痛と同様に,疼痛や身体機能のみならず精神心理社会的な問題を有することが明らかとなった。したがって,FBS患者の疼痛マネジメントにおいては,身体機能に対する介入のみならず,患者教育を含めた精神心理社会的アプローチをできるだけ早期から導入することの必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】これまでのFBSに関する報告は手術的要因に着目したものが多く,他の要因に関する検討はされていなかった。しかし,本研究はFBSの精神心理的要因や社会的要因を含めた包括的な検討を行った点で意義深い。本研究の結果は,これまで難渋してきたFBSの評価や治療の発展に寄与することが期待できる。
  • 心理・社会的要因と理学療法期間,疼痛強度の関係
    杉山 秀平, 杉浦 武, 久保 裕介, 小堀 かおり, 根地嶋 誠
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 近年,腰痛の概念は,大幅に見直されている。従来は「生物学的(物理的・構造的)側面へのアプローチ」が主であったが,新たに,心理・社会的因子を加えた「生物・心理・社会的側面へのアプローチ」が,重要視されている。心理・社会的因子は,Yellow Flagsと称され,腰痛発症に深く関わり,腰痛の慢性化,職場復帰の遅延化,再発率を高める危険因子として知られており,背部痛理学療法診療ガイドラインにおいても提示されている。Lintonらは,Yellow Flagsを数値化する質問紙として,Yellow Flags Screening Instrument (以下,YFSI)を提示した。先行研究において,YFSIは,国際地域によってスコアや医療費の傾向に相違があるとされている。そのため,各国が独自に,YFSIに基づいた質問紙を作成し,妥当性と信頼性を検証している。しかし,本邦においては,YFSIの有用性についての検証がされていない。本研究は,腰痛患者にYFSIを用いて,Yellow Flagsを数値化し,スコアの高い群・低い群で疼痛強度の変化と理学療法期間を比較検討することで,YFSIの本邦における有用性を提示することを目的とした。【方法】 対象は,腰痛により当院を受診し理学療法を実施した10症例(平均年齢41.1±6.8歳)とした。除外基準は,悪性腫瘍など重大な器質性疾患(Red Flags),精神疾患(Orange Flags)とした。評価項目は,YFSIのスコア,理学療法期間,運動時の疼痛強度とした。そして,対象者のYFSI得点からhigh risk群とlow risk群に分別し、各評価項目を比較した。YFSIのCut off pointは,105点とされており,105点以上をhigh risk群,105点未満をlow risk群とした。また,疼痛強度は,体幹前屈・後屈時の疼痛をVisual Analogue Scale (以下,VAS)で評価した。理学療法の内容は,物理療法(ホットパック,干渉波)と,米国において開発された腰痛治療機器active therapeutic movement(ATM)による運動療法とした。理学療法の頻度は,週に1から2回とした。理学療法終了基準は,VASが10mm以下または,対象者の理学療法終了意志とした。YFSIのスコアと理学療法期間についての統計学的解析は,正規性の検定の後に,ピアソンの相関係数を用いて検討した。有意水準は,危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究に対する説明と同意に関しては,ヘルシンキ宣言及び当院倫理指針に基づいた研究調査に関する説明を口頭および書面にて行い,書面にて同意を得た。【結果】 本研究におけるhigh risk群は3名,low risk群は7名であった。YFSIのスコアと理学療法期間において,有意な正の相関関係が認められた(p<0.05)。high risk群の理学療法期間は,34.3±10.0日,low risk群の理学療法期間は,15.8±6.2日であり,high risk群の理学療法期間が,low risk群の理学療法期間より延長する傾向にあった。また,high risk群における1週目のVASは,55.5±14.3mm,2週目は,79.5±14.8mm,3週目は,59.5±14.5mm,4週目は,63.5±15.2mmで,疼痛は減少しない傾向であった。low risk群では,1週目は,57.6±14.7mm,2週目は,13.3±12.0mm,3週目は,13.0±12.3mmで,疼痛は減少する傾向であった。high risk群は,low risk群に比べ,疼痛が持続する傾向にあった。【考察】 結果より,YFSIのスコアが増加すると,理学療法期間が延長することが明らかとなった。また,high risk群の平均理学療法期間は,low risk群の平均理学療法期間より長い傾向にあった。この結果は,先行研究の結果と同様であった。VASに関しては,low risk群では2週目にVASが減少する傾向がみられたが,high risk群では,4週目においても,疼痛が持続する傾向にあった。理学療法期間とVASの結果から,YFSIによるYellow Flagsのスクリーニングは,本邦においても有用であり,疼痛変化の推移や,理学療法期間の遷延性の予測に寄与できるものと考えられる。本研究の限界は,症例数が少ないためhigh risk群とlow risk群における,理学療法期間,VASの群間比較ができなかった点である。今後は,症例数を増やしhigh risk群とlow risk群の群間比較をし,YFSIの感度,特異度を検証する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 YFSIによるYellow Flagsの識別は,疼痛慢性化の予測を可能にし,慢性化が予想された対象者(high risk群)に対して,認知行動療法などによる心理・社会的側面への早期アプローチを可能にする。そして,急性疼痛が慢性疼痛へ移行することを予防(2次予防)できる。本研究の結果は,Yellow Flagsを数値化する質問紙の有用性を示唆し,今後の腰痛患者への治療選択を広げるものと考える。
  • 中元寺 聡, 多々良 大輔, 吉住 浩平, 野崎 壮, 原田 伸哉, 小橋 芳浩, 園田 康男
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】近年、脊椎変性疾患患者の脊椎・骨盤の関係性(spinopelvic balance)評価の重要性が取り上げられており、中でも、医師の腰部変性疾患(Lumbar degenerative disease:以下LDD)に対する治療指標の一つとして、立位や座位でのX線矢状面骨盤パラメータの計測が盛んに行われている。当院では平成24年九州PT・OT合同学会にて、座位骨盤パラメータを用いた医師・セラピスト間での身体評価基準の統一化の試みについて報告し、座位での脊椎・骨盤帯の可動性を診る上で制限因子となり得る要因を検討していく必要性が示唆された。本研究は、LDD患者の座位X線矢状面骨盤パラメータ間、また股関節可動域との関連性を調査し、腰椎骨盤リズム、骨盤大腿リズムにおける股関節可動域の重要性を検討することである。【方法】対象は当院にてLDDと診断された患者26名(男性:14名,女性:12名,身長:159.7±9.7cm,体重:59.4±9.4kg,年齢:64.9±14.3歳)。[疾患内訳]腰椎椎間板ヘルニア:6名、腰椎変性辷り症:11名、腰椎変性後弯:3名、腰部脊柱管狭窄症:6名。当院腰部X線評価時に撮影した[1]腰椎伸展位[2]腰椎屈曲位の画像から、Legayeらが提唱するX線矢状面骨盤パラメータの骨盤傾斜角(pelvic tilt以下:PT)、仙骨傾斜角(sacral slope以下:SS)、Jacksonらが提唱する腰椎前弯角(以下、LLA)を、NIH社製画像処理ソフトウェアImage Jにて計測した。対象患者の症状出現側の股関節可動域を日本整形外科学会制定の方法に準じて計測した。画像より計測した[1],[2]のSS,PT,LLA値と、[1]-[2]でのSS,PT,LLA値の変化量を算出。各パラメータ間の相関関係と、測定した症状側股関節各可動域と各パラメーター間の相関関係をスピアマンの順位相関関係数検定(統計解析Statcel、有意水準5%未満)にて統計処理した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準じ、研究内容に関しては目的・方法を書面にて説明し、患者の承諾を得て実施している。【結果】SS・PTそれぞれの変化量間では非常に強い負の相関(rs=-0.81,p<0.01)、PT・LLAの変化量間では中等度の負の相関(rs=-0.58,p<0.01) 、SS・LLAの変化量間では中等度の正の相関(rs=0.42,p<0.05)がみられた。また、SS変化量と股関節内旋可動域に中等度の正の相関(rs=0.45,p<0.05)、LLA変化量と股関節内旋可動域に中等度の正の相関(rs=0.44 p<0.05)がみられた。他の項目での相関はみられなかった。【考察】Legayeらは、X線矢状面腰椎骨盤帯のバランス評価にはSS・PTに加え、その合計値から算出されるPelvic Incidence(以下、PI)を含めたバランス評価が重要であると述べている。今回の結果から、LDD患者の動態撮影における骨盤パラメータのSS・PTの変化量に非常に強い負の相関がみられたことは、Legayeらの報告を支持する結果となっている。またPT値の増加(骨盤後傾)で腰椎は後弯し、SS値の増加 (仙骨前傾)で腰椎は前弯する傾向があることも、今回の結果から示唆された。また、座位動態評価におけるLDD患者の姿勢制御の傾向として、慢性的に骨盤後傾位を強いられることで、股関節外旋肢位が持続して股関節内旋可動域の低下が生じた場合、仙骨に起始を有する股関節外旋筋の作用により、動的場面での仙骨の前傾運動が阻害される為にSS値が低下したと考えられる。さらに、SS値が低下することで、結果の示す関係性からLLAも同様に低値を示す事が示唆され、骨盤後傾位でのマルアライメントを呈すことで、腰部変性疾患の発症の可能性を強めてしまうことが示唆された。今回の研究は、医師の病状評価において一般的に撮影される座位動態X線腰椎骨盤パラメータと股関節可動性の関連性を調査したが、今後は立位でのspinopelvic balanceを含め、LDDを各疾患にて細かく分析し、疾患別での股関節各可動域との関連性を調査していく。【理学療法学研究としての意義】座位動態骨盤パラメータに股関節可動域制限が影響を与えることが示されたことから、LDDに対する理学療法士の介入の必要性が示唆される。
  • 太田 憲一郎, 中宿 伸哉, 松本 裕司
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】分離症の発生要因の一つとして股関節の柔軟性低下が報告されている。スポーツ動作において、股関節の可動域制限は代償的に腰椎の過剰運動を惹起する。また、腰椎分離症の骨折線は一様ではないとされている。腰椎関節突起間部(以下、Pars)への応力は特に体幹伸展と回旋運動の際に集中するが、伸展時と回旋時ではParsの応力集中部が異なるため、Parsへ加わるストレスの方向が骨折線の向きと関連することが想像できる。この2点を組み合わせると、股関節伸展制限によりParsへの伸展ストレスが大きくなると、骨折線が環状断に近くなり、回旋制限により回旋ストレスが大きくなると、矢状断に近くなることが予測される。今回、当院の分離症症例における骨折線の角度と股関節の柔軟性低下の関連性を報告する。【方法】対象は平成20年4月から24年8月までに当院を受診し、腰椎分離症と診断された症例のうち、股関節柔軟性に関する情報を入手できた76例108椎(13.71±1.41歳)である。まずCT画像を元に、椎孔の横径と骨折線がなす角度(分離角度)を計測した。また、椎間関節も同時に確認できる症例(73例104椎)においては、三宅らの方法に基づき、椎体後縁と椎間関節との角度を椎間関節角とし、併せて骨折線との関連性を調べた。次に、分離角度の中央値を境に、角度の大きい群(以下、回旋type;R群、51椎、34.33±10.08°)と角度の小さい群(以下、伸展type;E群、57椎、12.47±6.55°)に群分けした。全ての症例に対し、ハムストリングス(以下Hs)、大殿筋(以下Gm)、腸腰筋(以下Ip)、大腿筋膜張筋(以下Tf)、大腿直筋(以下Rf)のtightnessテストを行い、基準および評価は、田中らの報告に従った。それぞれの群におけるtightnessテストの陽性率を対比検討した。統計処理には、椎間関節角と分離角度の関連性はPearsonの相関係数の検定を、各群のタイトネス陽性率はχ²検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院における倫理審査委員会の承諾を受けて実施した。【結果】1.股関節tightnessテスト76例の腰椎tightnessテストの陽性率は、SLR67.46°(90°以上は3.9%、75°以上は27.6%)、Gm65.78%、Ip73.68%、Tf94.74%、Rf81.58%であった。2.椎間関節角と分離角度の相関73例104椎の分離角度は21.16±16.66°、椎間関節角は47.33±10.01であり、低い正の相関が認められた(r=0.35)。3.各群のタイトネス陽性率SLR(R群67.20°、E群68.02°)、Gm(R群64.71%、E群63.16%)、Ip(R群68.62%、E群73.68%)、Tf(R群94.11%、E群89.47%)においては有意差は認められなかった(p<0.05)。Rfは、R群68.63%、E群87.71%であり、有意にE群の方が高かった(p<0.025)。【考察】分離症の主たる発症要因はParsの疲労骨折であり、一因として股関節の柔軟性低下が挙げられている。今回は田中らの報告に、回旋要素であるGmテストを加えて調査を行ったところ、多くの症例において同様にtightnessテストが陽性であった。西良らは分離症の骨折線の個体差より、Parsにかかるストレスの多様性を示している。また、腰椎伸展時には両側のParsに環状断に近い応力集中が、回旋時には反対側のParsに矢上断に近い応力集中が見られると報告している。しかし、股関節の柔軟性と骨折線との関連性に関する報告は、我々が渉猟し得た限りでは見当たらないため、骨折線の角度と股関節柔軟性低下の関連性を調べた。まず、椎間関節角の個体差を考慮し、椎間関節角と分離角度との関連性を検討した。正の相関が認められたものの、その相関性は低く、分離症発生には椎間関節の運動方向とは別の要因が関わるということを示唆する結果となった。次に、R群とE群間の股関節tightnessテスト陽性率の比較を行った。有意差はRfのみに認められ、Gm、TfはR群の方が、IpはE群の方が陽性率が高かったものの、いずれも有意差は認めなかった。したがって、田中ら、西良らの報告と同様な傾向を示したものの、今後、腰椎アライメントや種目別の動作特異性の関連を調査する必要があると思われた。【理学療法学研究としての意義】骨折線と股関節柔軟性の関連性を調査することで、分離症発生の要因を追究した。
  • - Oswestry Disability Indexに影響を及ぼす因子からの検討-
    小俣 純一, 対馬 栄輝, 遠藤 達矢, 鶴見 麻里子, 遠藤 浩一, 岩渕 真澄, 白土 修, 伊藤 俊一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】近年,高齢化社会が進むにつれて変形性関節症・脊椎変性疾患などの運動器疾患患者は急増している.日常の臨床においては,腰椎変性疾患によって人生の質(QOL)に支障を来たしている患者が多く見受けられる.その中で,患者のQOL評価を実施することは非常に重要であると考えるが,一般的に用いられているとはいい難い.腰椎変性疾患患者のQOL改善に必要なアプローチ方法を明らかにすることは,治療の質の向上につながるであろう.また,疾患特異的QOL評価としてOswestry Disability Index(ODI)は,多くの報告で有効な評価手段であることが示されている. そこで本研究では,腰椎変性疾患患者における如何なる因子がODIに影響を及ぼすかを解析し、腰椎変性疾患に対する運動療法の臨床的意義を検討することを目的とした.【対象と方法】対象は会津医療センター整形外科を受診した腰椎変性疾患患者43名とした.男性22名,女性21名,平均年齢66.9歳であった.評価項目は,ODI,機能的項目として体幹屈曲筋力および伸展筋力,Finger Floor Distance(FFD),疼痛の項目として腰痛安静時VAS,腰痛動作時VAS,生活の項目として生活様式(寝具と生活),農作業の有無とした.体幹筋力をHand Held Dynamometer(HHD;徒手筋力計モービィMT-100;酒井医療社製)を用い、椅坐位にて屈曲筋力および伸展筋力を測定した.3回の測定から得られた平均を採用した.生活様式の評価は、寝具においてベッドまたは布団,生活においては椅子または床であるかを質問して生活様式の評価とした.統計的解析は,ODIの総点数を従属変数,患者基本情報,機能的項目,疼痛の項目および生活の項目を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を用いて解析した. 【倫理的配慮】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿って行われた.また,福島県立会津総合病院倫理委員会の承認を受けて実施している.【結果】評価項目の結果は,体幹屈曲筋力12.4±3.6kg,体幹伸展筋力14.1±3.6kg,FFD63.7±15.5mm,安静時VAS25.7±23.7mm,動作時VAS65.9±23.9mmであった.生活様式は,ベッド51.2%,布団48.8%,洋式の生活34.9%,和式の生活65.1%,農業有りは46.5%,なしは53.5%であった.ODIに対する影響力(標準偏回帰係数)は,体幹伸展筋力が0.393(p<0.05)、安静時VASが0.373(p<0.05)であった。【考察】ODIは、腰痛患者に対する疾患特異的QOL評価法として最も有用なものの一つである。その影響因子を検討することは、腰痛患者に対する適切なアプローチを選択する上で極めて重要である。本研究から、体幹伸展筋力と安静時VASが最もODIに影響を与える因子であることが判明した.この結果は、体幹伸展筋力の向上と疼痛軽減が腰痛患者のQOL改善ために重要であることを示した。これらは運動療法の最大の目的でもあり、その臨床的意義の拠り所になると考える。本研究では,生活様式にも着目して検討を実施したが,生活様式の違いは,QOLに対する影響力を見出せなかった.ODIは機能的パラメーターである体幹伸展筋力と痛みのパラメーターである安静時VASの影響を捉えることが可能であり,ODIのような疾患特異的評価を用いることが重要な評価であることを示した.さらに,体幹伸展筋力や疼痛に対する運動療法アプローチが腰椎変性疾患患者のQOLに変容に影響を示す可能性があると考えられる.しかし,実際の臨床においては、機能やQOLには多くの因子が関与しており、評価項目の再検討も必須である.【理学療法学研究としての意義】腰椎変性疾患患者におけるODIは筋力または疼痛と有意に関連し,腰椎変性疾患患者の筋力や疼痛に対するアプローチによってQOLの変容を来す可能性がある.
  • 上原 徹, 青木 一治, 木村 新吾, 前野 圭吾, 大石 純子, 山田 翔太, 山田 寛, 木村 健一, 杉本 直樹, 佐藤 正隆, 小原 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】当院では、骨粗鬆症性椎体骨折(osteoporotic vertebral fracture以下、OVF)に対する保存的治療として、背臥位吊り上げ位での体幹ギプス固定を行っている。一般には原田らや倉都らのアンケート調査にもあるように、軟性コルセットによる治療が多くを占めている。また、硬性装具と軟性コルセットで新鮮骨折例について検討した結果、両群で偽関節の発生率には有意な差を認めなかったという報告もある。そこで今回、X線とMRI撮像所見を用いて、外固定治療方法の違いや、固定期間によりOVFに対する影響についてretrospectiveに比較したので報告する。【対象と方法】H19年1月~H23年12月の間に、胸腰椎移行部のOVFで保存的治療を行い、6カ月以上経過観察可能であった73例(男性10例、女性63例)を対象とした。受傷時平均年齢76.6歳(62~89歳)であった。受傷椎体は、Th11:9例、Th12: 19例、L1: 25例、L2: 10例であった。外固定治療法は、体幹ギプス固定を8週間行った59例(以下、G8群)と、4週間の体幹ギプス固定を行った8例(以下、G4群)、および初期より硬性装具を装着した16例(以下、RO群)で比較した。G8群とG4群では、体幹ギプス除去後は12週間の硬性装具着用とし、その後軟性装具に変更した。RO群では、3カ月以上硬性装具を装用し、軟性装具へと変更した。X線評価は初診時、2カ月時、3カ月時、最終評価(6カ月)時の単純立位側面X線像から、椎体圧潰率の算出と局所後弯角の測定を行った。最終評価時における骨癒合の判定は、側面動態X線撮像により、椎体の前縁および後縁高に差のない状態、あるいはMRIのT1強調矢状断像で低信号域の消失により判定した。検討項目は、1.初診時から最終評価時までの椎体圧潰率の増加、2.受傷-2カ月、2-3カ月および3カ月-最終評価までの3期における椎体圧潰率、3.初診時から最終評価時までの局所後彎角の推移、4.骨癒合率とし、外固定治療法別に比較した。統計処理はMann Whitney U検定、およびカイ二乗検定を用い、有意水準5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、当院の学術研究に関する方針ならびにプライバシーポリシーに則って行った。後方視的研究のため、個人情報を識別する情報を取り除き、症例は番号を付して匿名化して集計した。【結果】1.椎体圧潰率 受傷時に比べ全例で圧潰は進行しており、最終評価時の椎体圧潰率は16.4%であった。群別では、G8群13%、G4群17.5%、RO群30.6%であり、RO群ではG8群と比較し椎体の圧潰が有意に進行していた。2.椎体圧潰率の経時的変化 受傷-2カ月では、G8群6.8%、G4群13.3%、RO群18.9%と、RO群では2カ月内に椎体圧潰が有意に進行していた。2-3カ月においては、G8群2.8%、G4群13%、RO群では2カ月の段階で重度の圧潰を示しており、それ以上の進行は認めなかった。3カ月-最終評価においては、各群ともに変化はみられなかった。3.局所後彎角 全例において局所後彎角は増加しており、平均4.4°の増加を認めた。群別では、G8群3.5°、G4群5.6°、RO群7.8°と、RO群とG8群では、RO群が有意に後彎角の増加を認めた。4.骨癒合率 最終評価時に骨癒合が得られていたのは73例中62例(84.9%)であった。外固定法別ではG8群48例(90.6%)、G4群6例(75%)、RO群8例(66.7%)に骨癒合が得られ、RO群においてはギプス固定を行ったものと比較して、偽関節となる症例が多かった。【考察】全症例で受傷椎体の圧潰進行と局所後弯角の増加が認められ、諸家の報告と同様、外固定により圧潰および後彎変形の進行を抑制することは困難であった。川本らや井上らは2週間あるいは4週間の体幹ギプス固定は、3カ月間の硬性装具と比較した結果、圧潰の進行、後彎変形に差はなかったと報告している。本研究では、体幹ギプスによる強固な固定といえども、4週間では硬性装具より良好な結果であったが有意差はなく、8週間の体幹ギプス固定を行うことで、圧潰の進行を有意に抑制する結果となった。Chowらも8週間の反張位体幹ギプス固定は、後彎変形の進行は抑制できないが臨床成績は良好であると報告している。しかし、体幹ギプスによる固定は患者のコンプライアンスの面から問題も指摘されるところではある。しかし脊椎不良アライメントの進行や、手術的治療への移行を予防できることを考慮すれば、OVFの初期保存的療法として、体幹ギプス固定が推奨される。今後の課題としては、体幹ギプスと運動療法との併用により、装着期間の短縮を検討することである。【理学療法学研究としての意義】高齢社会においてOVFの発生率は増加の一途にある。しかし、適切な固定治療が行われず、脊柱変形の増加によりに障害を有するケースも少なくない。本研究により、運動器不安定症などの二次的障害を予防し、社会復帰への理学療法の円滑な遂行を可能にするものと考える。
  • 関根 康浩, 土居 健次朗, 河原 常郎, 大森 茂樹, 倉林 準, 門馬 博, 八並 光信
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】胸郭は胸椎・肋骨・胸骨からなり、呼吸運動を行う呼吸器でもあり、また体幹の動きを円滑にする為の運動器でもある。胸郭には136個の関節が存在すると言われており、個々の関節がわずかな可動域制限を生じる事でも身体に大きな影響を与える。しかし胸郭の動きは定量化しにくい部位であり運動器としての報告はまだ少ない。体幹回旋動作は日常生活やスポーツでも欠かせない動作の1つである。胸郭は体幹運動を行う際に肋骨と胸椎の動きに伴い様々な形態に変化する。胸郭の運動は肋椎関節の運動軸の違いによって胸郭の運動は上部・下部で動きが異なり、それぞれpump-handle motion(以下、PHM)、bucket-handle motion(以下、BHM)と呼ばれている。体幹回旋動作は、主に股関節を中心とした下肢の報告が多く胸郭との関連を述べたものは少なかった。今までの報告によると体幹回旋動作と胸郭の関係は十分に明らかにされていなかった。本研究では胸郭拡張差(腋窩レベル、剣状突起レベル、第10肋骨レベル)と体幹回旋可動域との関係を明らかにする事とした。【方法】対象は整形外科的疾患がなく、著明な呼吸器疾患を有さない、非喫煙者である健常成人男性12名(平均年齢24.1±1.6歳、BMI21.2±1.8)とした。胸郭拡張差については股関節90°・膝関節90°屈曲位の端座位にて、腋窩レベル:第6胸椎棘突起(以下、Th6)、剣状突起レベル:第9胸椎棘突起(以下、Th9)、第10肋骨レベル:第12胸椎棘突起(以下、Th12)を通る3レベルでの安静時と最大吸気時の胸郭拡張差を算出した。体幹回旋動作は三次元動作解析装置VICON MX(Vicon、カメラ7台、200Hz)を用い、ソフトは VICON NEXUS1.6.1を使用した。マーカセットは、両肩峰、Th6、Th9、Th12の高さにおける体幹前後面、両PSISの計10点とした。体幹回旋角度は、肩峰、腋窩、剣状突起、第10肋骨、各レベルの2つのマーカ間の線分と両PSISを結んだ線分における水平面上の交わる角度とした。運動課題は、下肢を椅子に固定し、左右最大回旋動作を行った。運動課題時は、肩甲帯の前方突出を防ぐための棒を用いて上肢を固定した。さらに運動課題中は口頭にて側屈動作が起きないように指示し、確認しながら計測を行った。呼吸との同期については安静呼気時に回旋を行うよう統一した。得られた胸郭拡張差は、各レベルでの中央値を基準に制限がある群とない群の2群に分類した。Th6・Th9・Th12の胸郭拡張差と各レベルの回旋角度について2群間の各レベルでの体幹回旋可動域について、二元配置分散分析を行い比較した。有意水準は危険率5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属法人における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明した。同意書に署名が得られた対象について計測を行った。【結果】胸郭拡張差は腋窩レベルで3.1±1.1cm、剣状突起レベルで5.1±0.9cm、第10肋骨レベルで3.7±2.1cmであった。体幹回旋角度は肩峰レベルで67.9±18.3度、腋窩レベルで59.5±16.4度、剣状突起レベルで47.3±12.3度、第10肋骨レベルで28.9±6.82度であった。第10肋骨レベルの胸郭拡張差制限がある群とない群に有意差はなかった。制限がある群での体幹回旋角度は制限がない群と比べ低い値を示した。その他のレベルと体幹回旋角度に有意差と特徴的な変化は見られなかった。【考察】本研究結果から第10肋骨レベルでの胸郭拡張差がない群は同一レベルの体幹回旋角度において大きい値を示し、ある群はない群と比較し小さい値を示した。第10肋骨は下位肋骨に分類される。下位肋骨の動きはBHMであり、肋骨頸が上位胸椎のPHMよりも、より上下方向に滑る動きである。下位胸郭可動性が低いということは、BHMが出にくく、肋骨頸の可動性が低下していることが考えられ、体幹回旋可動域に制限が生じたと推察された。また下部肋骨には腹筋群が付着するため、その柔軟性も影響していると考えられた。本研究ではすべてのレベルにおいて体幹回旋角度に有意差を認めなかったが、体幹回旋動作は下位胸郭の拡張性が必要である可能性が考えられた。臨床やスポーツの現場では、体幹回旋動作で症状を訴える症例に対して、下位胸郭の評価を行う必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は体幹回旋動作と胸郭拡張性の関連性を検討した。体幹回旋動作は、上位胸郭よりも下位胸郭の関与が大きい傾向があった。今後、評価・治療の際に着目していく必要性があると考えられる。
  • 小畠 啓伸, 薦田 昭宏, 窪内 郁恵, 中澤 伸哲, 渡邉 彩花, 掛水 將太
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】体幹は協調した筋収縮をすることで脊柱・骨盤が安定化され,下肢への荷重伝達が効率的に働くと言われている.脊椎圧迫骨折における理学療法の目的は,疼痛緩和・廃用予防・歩行能力向上・椎体の圧潰を防止し脊柱のアライメントを保つなどがあげられる.一般的には圧潰防止のために脊柱起立筋を中心とした運動療法が推奨されているが,腹筋群(外・内腹斜筋,腹直筋,腹横筋)の報告は少ない.今回脊椎圧迫骨折症例において腹筋群と歩行の関連性を経時的に調査検討し,若干の知見を得たので報告する.【方法】脊椎圧迫骨折で保存療法目的に当院入院した17例(全例女性,平均年齢77.5±11.0歳)を対象とした.全例MRI所見にて急性期例であり,運動・知覚麻痺など神経学的異常所見を認めるものは除外した.椎体骨折数は単椎体13例,多椎体4例,コルセットは軟性14例,硬性3例である.腹筋群の評価として,Sahrmannが推奨する腹筋群の段階的評価を基に腰部過負荷及び上肢を使用するものを除外し5段階の評価として用いた.全段階において開始肢位を屈膝臥位とし,(1)片側下肢を屈伸,(2)片側下肢を挙上,(3)片側下肢を股関節90度屈曲させた状態で対側下肢を挙上,(4)片側下肢を股関節90度屈曲させた状態で,対側下肢を挙上後降ろし踵を滑らせ下肢を伸展,(5)段階4の動作を踵が床面に触れないように実施する,とした.これらの各段階の動作を両下肢で行い,代償や疼痛なく連続10回実施可能か評価した.段階的腹筋群評価において初期から5週目までに向上した群をI群(12例),向上しなかった群をII群(5例)とし,2群の年齢,疼痛(NRS),圧潰率,歩行速度,ケイデンス,ストライド長を比較検討した.統計処理はt検定を用い,有意水準5%未満とした.また各症例には腹筋群を同時収縮させる方法(Bracing)と,疼痛や機能・能力面に応じ運動療法を実施した.【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全患者に本研究の趣旨を説明し同意を得て実施した.【結果】段階的腹筋群評価の分類では,初期時 (1)1例,(2)14例,(3)1例,(4)1例,(5)0例であり,5週目ではI群は全例1段階の向上であり,II群は段階が初期時と同様であった.年齢:I群76.9±11.4歳,II群78.8±11.1歳であり有意差は認めなかった.椎体骨折数:I群単椎体10例,多椎体2例,II群単椎体3例,多椎体2例,コルセット:I群軟性10例,硬性2例,II群軟性4例,硬性1例,脊椎圧迫骨折既往歴:I群有8例,無4例,II群有2例,無3例,受傷原因:I群転倒5例,軽作業4例,その他3例,II群転倒3例,軽作業0例,その他2例であった.初期評価では疼痛:I群6.9±2.7,II群7±2.1,圧潰率:I群33.7±18.4,II群37.2±13.4であった.歩行速度:I群0.5±0.2m/秒,II群0.3±0.1m/秒,ケイデンス:I群83.4±17.9,II群99.6±14.2,ストライド長:I群0.7±0.2m,II群0.4±0.1mであり,歩行速度に有意差(P<0.05)が認められた.評価5週目では疼痛:I群4.3±3.4,II群6.0±1.4,圧潰率:I群44.4±20.0%,II群40.5±12.3%であった.歩行速度:I群0.7±0.2m/秒,II群0.4±0.1m/秒,ケイデンス:I群105.0±15.3,II群95.4±1.8,ストライド長:I群0.8±0.2m,II群0.5±0.1mであり,歩行速度とストライド長に有意差(P<0.01)が認められた.【考察】腹筋群の役割として脊椎の安定化,脊柱と骨盤の最適なアライメントを保つ,四肢運動時の体幹や骨盤の代償運動を防ぐなどが言われている. 腹筋群の収縮様式の一つであるBracingは深部筋と浅部筋を同時収縮させるため脊椎安定化に優れていると言われており,今回の対象症例にも運動療法として取り入れた.2群間で年齢や圧潰率に関係なく歩行能力に有意差がみられたことから,歩行能力向上につながった要因の一つとして腹筋群向上が前斜系制御による脊椎安定化に貢献したと示唆される. また,今回使用した段階的腹筋群評価が腹筋群の評価の一つとしてなりえると考える.その他の要素として5週目の疼痛でもI群は低い傾向があり,疼痛が歩行能力に関与しているとも考える.今後も症例数を増やし更なる調査検討をしていきたい.【理学療法学としての意義】本研究により脊椎圧迫骨折症例の腹筋群が歩行能力に関与すると示唆され,腹筋群へのアプローチの重要性が確認できた.
  • 石川 大輔, 仲澤 一也, 鴇田 拓也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 脊柱アライメントの変化は、整形的疾患や内科的疾患、また心理面に影響を及ぼし、日常生活動作や生活の質の低下に関与すると報告されている。特に胸椎後彎角の変化は脊柱や骨盤の障害に大きな影響を及ぼすと考える。 脊柱アライメントの改善を目的に用いるツールの1つとして、ストレッチポールがある。 ストレッチポールエクササイズ(以下SPex)が与える影響として先行研究では、杉野らによる脊柱リアライメント効果(2006)、秋山らによる胸郭機能改善(2007)などの報告が散見される。 また、胸椎に関しては、蒲田らがSPex前後において胸郭のスティフネス低下、胸椎伸展へのリアライメントなどの効果があると報告している。 しかし、SPex前後での胸椎可動性の変化について調査した研究は少ない。 そこで、本研究の目的は、SPex前後で胸椎後彎角に与える影響として中間位・屈曲位・伸展位の3つの肢位で調査することである。【方法】 対象は健常成人、10名(男性10名 平均年齢33.5±7歳)とした。本研究ではSPex前後に安静立位姿勢から中間位・屈曲位・伸展位の順で胸椎後彎角を計測した。 安静立位姿勢の規定は、我々の先行研究に準じ、矢状面から観察し耳孔と大転子が同一垂線上になるようにし、足幅は肩幅とし、両手は胸骨部を両手が重なるように触る肢位とした。 胸椎可動性の計測は、自在曲線定規を使用し、予めC7とTh12をランドマークしてから、自在曲線定規を胸椎カーブに当て計測をおこなった。 自在曲線定規のデータは、方眼紙上にC7棘突起とTh12棘突起の位置に印をして胸椎カーブをトレースし、肢位ごとにトレースをおこなった。 胸椎後彎角度については、トレースした用紙から長さと高さを算出し、Milneらの計算方法に準じて後彎角θを求めた。また、屈曲位と伸展位の差をトータルアークとした。 ストレッチポールの課題には、日本コアコンディショニング協会が推奨しているベーシックセブンを使用し、10分程度実施した。 統計処理として、SPex前後で中間位・屈曲位・伸展位の胸椎可動性及びトータルアークをt検定で比較した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究への参加についてヘルシキン宣言に基づき、説明書および同意書を作成し、研究の目的、進行および結果の取り扱いなど十分な説明を行った後、研究参加の意思確認を行った上で同意書へ署名を得た。【結果】 SPex前後で胸椎後彎角は中間位で35.4度から28.1度、屈曲位で50.3度から44.8度、伸展位で26.8度から21.8度と有意に減少した。(p<0.05) トータルアークは、23.7度から22.9度と有意な変化は見られなかった。(p=0.8)【考察】 本研究の結果より、SPex前後で中間位、屈曲位、伸展位の胸椎可動性を有意に減少させた。 この結果は、SPexで胸郭可動性を改善させ、肋椎関節や肋横突関節のモビライゼーション、胸筋群のリラクゼーション効果により胸椎可動性が変化したと考える。また、各肢位において胸椎可動性が減少したにも関わらず、トータルアークが有意な変化が見られなかったことは、立位姿勢において、胸椎アライメントが伸展方向へのシフトしたことも示唆される。 さらに成書にSPexが身体に及ぼす影響として、胸椎伸展へのリアライメントや胸椎のモビライゼーションなどの効果があることを示唆しており、我々の研究結果からも同様な結果であることが証明できた。 今後の課題として、SPexの即時効果だけではなく長期的効果の研究や高齢者や脊柱疾患を有する者などの変化についても行なっていきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究でSPexは胸椎可動性の後彎角および可動性に影響を与えることが示唆された。このことは、胸椎後彎が強いことにより障害や伸展可動域の不足などにSPexを適用することで、臨床上有益な効果が期待できると考える。
  • 瓦田 恵三, 中丸 宏二, 波戸根 行成, 相澤 純也, 小山 貴之, 松本 高志郎, 来間 弘展, 新田 收, 橋本 明秀
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 頸部痛は筋骨格系の障害の中でも比較的訴えの多い症状の一つである。頸部痛に対しては様々なエクササイズが推奨されているが、中でも頸部深層屈筋(頭長筋、頸長筋)に対する頭頸部屈曲トレーニング(Cranio-Cervical Flexion training)は低負荷で実施可能で、その効果も実証されている。しかし、このトレーニングは自己管理下では効果が乏しいことが示されており、事前に正確な運動を学習する期間を設けることやセラピストの監視下で行うことが求められている。 そこで我々は自己管理下でも頭頸部屈曲トレーニングを簡便かつ効果的に実施するための機器を開発した。この機器は耳孔にほぼ一致する軸を有したアーム部分とバネ式の抵抗部分で構成されており、アームのクッション部分に後頭部をのせて頷き動作を行うことで頭頸部の屈曲運動が可能となる。先行研究ではこの機器を用いた頭頸部屈曲運動によって頭長筋が活動していることをMRIで確認している。 本研究の目的は、この機器を用いた頭頸部屈曲エクササイズが頸部痛を訴える人の主観的・客観的アウトカムに影響を及ぼすか否かを検討することとした。【方法】 対象は頸部痛を訴えるボランティア8名(男性5名、女性3名、年齢33.3±8.7歳)とした。 エクササイズは先行研究のプロトコルを参考にした。被験者は膝を屈曲した背臥位をとり、後頭部を機器のアームのクッション部分にのせて頭頸部を屈曲する。屈曲の最終域で10秒間保持してからゆっくりと開始肢位に戻し、これを10回繰り返す。エクササイズの指導は初回のみとし、この運動を1日2回、4週間行なってもらった。 客観的アウトカムとして初回、2週間後、4週間後に頸椎の自動関節可動域(屈曲、伸展、側屈、回旋)を測定した。主観的アウトカムとして、痛みの強さを示すNumerical Rating Scale(NRS)、頸部痛がADLに及ぼす影響を示す日本語版Neck Disability Index(NDI-J)に回答してもらい、また2週間後と4週間後にはエクササイズ開始時からの症状の変化を7段階から選んでもらうPatient Global Impression of Change(PGIC)にも回答してもらった。 分析にはSPSS 16.0Jを使用し、有意水準は5%とした。NRSはFriedman検定で有意差を確認した後にWilcoxon検定を行い、Bonferroni法による補正をして分析した。NDIと頸椎ROMは反復測定による一元配置分散分析を行い、NRSと同様の補正をして分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究内容について口頭と書面で説明し同意を得た。本研究は首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 頸椎ROMの平均値(初回、2週間後、4週間後)は伸展が(50.1±12.5°、65.1±10.0°、70.8±9.0°)となり、有意に可動域の増大を認めた。同様に側屈や回旋においても有意な可動域の増大を認めたが、屈曲においては有意差を認めなかった。 NRSの中央値は(3、2、1)、NDI-Jの平均値は(11.4±5.9点、6.7±3.9点、3.2±2.0点)となり、共に有意に改善を認めた。PGICは4週間後に全ての被験者が2(だいぶ良くなった)と回答した。【考察】 客観的アウトカムである頸椎ROMは屈曲を除く全ての運動で有意に関節可動域が増大した。頸部痛患者では胸鎖乳突筋や斜角筋、僧帽筋上部線維などの表層筋群の活動が増加し、頸部深層屈筋の活動が減少することが報告されている。頸椎の伸展運動ではこの頸部深層屈筋の遠心性制御が重要とされていることから、今回のエクササイズによりその機能が改善され伸展可動域が増大したと考えられた。また、表層筋群の活動が減少したことが側屈や回旋の可動域の増大に影響したことが推測された。 主観的アウトカムにも改善が認められ、NDI-Jは平均で8.2点減少した。先行研究によるとNDI-Jの最小可検変化量(MDC)は6.8であることから、今回のNDI-Jの改善は測定誤差ではなく実際に被験者の症状が改善したことが示された。 以上のように、自己管理下においても各アウトカムに改善が認められた。これは、機器のアームが一定の動きをすることによって正確な頭頸部屈曲運動が反復されたことが影響したものと推測された。今後の課題として、対照群を設定し他のエクササイズと効果を比較する必要性が挙げられる。【理学療法学研究としての意義】 今回の機器をエクササイズに利用することによって、自己管理下においても頸部痛患者の症状改善に貢献できると思われる。
  • 石田 和宏, 対馬 栄輝, 司馬 恭代
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】「腰椎椎間板ヘルニア(LDH)診療ガイドライン(第2版)」では,LDH術後早期からの積極的なリハビリテーション(リハビリ)の必要性は認められないとされている.しかし,本邦の実情としては,各施設独自の方法で術後早期からストレッチングや筋力強化,ADLや社会復帰に向けた生活指導などを積極的に行っている.つまり,これらの矛盾は本邦においてLDH術後のリハビリ効果の検証に関する前向き研究が存在しないことが原因であると考える.本研究の目的は,LDH術後の早期からの積極的なリハビリ実施による効果を準ランダム化比較試験にて検証することである.【方法】対象はH20年7月からH22年8月までに当院にてLDH摘出術目的で入院した症例とした.適応基準は,1)手術手技がLove変法または内視鏡視下ヘルニア摘出術(MED),2)60歳未満の者,3)本研究への参加に同意し,本人が同意書に署名した者,とした.除外基準は,1)腰部脊柱管狭窄症を合併する者,2)変性側弯症・後弯症を合併する者,3)脊椎に手術歴がある者,4)多部位の骨・関節障害により疼痛が認められる者,5) Danielsの徒手筋力テストにて3未満の下肢筋力低下を認める者,などとした.無作為抽出は封筒法にて実施し,術後の理学療法の内容から,積極的なリハビリ実施群(介入群)と倫理面を考慮した最低限のリハビリ実施群(control群)に割り付けた.両群で実施したリハビリ内容は,術前指導として行った足関節底背屈運動,術後から実施したADL指導(独自のパンフレットを使用)とした.介入群のみ実施した内容は,体幹・下肢のストレッチングおよび筋力強化,Walkingなどの有酸素運動,個々の状態に合わせたADLや社会生活の姿勢・動作指導,物理療法などとし,術後5日目より毎日実施した.検討項目は,腰痛・下肢痛・しびれのVisual Analogue Scale (VAS),腰椎の前後屈可動性,Oswestry Disability Index(ODI)scoreおよびsub score,SF36の8下位尺度,BS-POPの患者用・治療者用score,不安の程度などとした.検討時期は,術前,術後5日,2週,1・3・6・12ヶ月とした.統計的解析は,分割プロットデザインのANOVA(SP-ANOVA),尤度比基準による多重ロジスティック回帰分析を適用した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は実験的な介入であり,ヘルシンキ宣言に則り,対象者に対して十分な配慮が必要である.研究の意義,目的,方法,研究者との利害関係が生じないこと,個人情報の取り扱い,同意撤回の自由などの説明を慎重に行い同意を得た.なお,本研究は筆頭演者所属の倫理委員会の承認を受け実施した.【結果】対象者は介入群25例,control群24例に割り付けられた.脱落者は,介入群では術後6ヶ月,control群では術後1ヶ月にヘルニア再発による各1例であった.本研究では脱落例を除いた介入群の24例,control群の23例にて統計的解析を実施した.SP-ANOVAではBS-POPの患者用スコアと腰痛VASで交互作用を認めた(p<0.05).BS-POPの患者用スコアでは,介入群が有意に良好であった(p<0.05).腰痛VASは,control群において術後3ヶ月・12ヶ月で有意な悪化が認められた(p<0.05).多重ロジスティック回帰分析では,術後1ヶ月でSF36 MH(オッズ比:1.6),下肢痛 VAS(1.1),3ヶ月でSF36 PF(1.3),下肢痛 VAS(1.1),6ヶ月でODI の物の挙上(6.8),ODI score(1.7),12ヶ月で不安(12.8),SF36 GH(1.2)・VT(1.2),しびれVAS(1.1)が抽出された(p<0.05).【考察】介入群ではBS-POPの患者用スコア・QOL・不安の改善がcontrol群に比べ良好であった.これは,術後の社会復帰に向けた積極的なリハビリ介入が精神・心理面のサポートとなり,良好な改善に至ったものと考える.また,腰痛VASは,介入群では術後12ヶ月まで良好であったが,control群は術後3ヶ月から有意な悪化が認められた.これは,術後の不良例では腰痛により座位姿勢が困難である者が多いとの我々の先行研究(梅野,2009)を踏まえると,介入群では術後早期から実施した座位姿勢の教育が有効であったと推察する.一方,介入群が不良であった項目として,下肢痛VAS・しびれVASがあった.これらは,積極的なリハビリ介入を開始する以前の時点で,介入群がcontrol群よりもVASの平均で10程度悪かったことが影響したものと考える.従って,術後早期からの積極的なリハビリは,精神・心理的側面やQOLの改善,腰痛の悪化予防に有効である.   【理学療法学研究としての意義】本研究にて得られた結果は, 本邦の実情に即したLDH術後早期からの積極的なリハビリ実施に対する有効なエビデンスとなる.LDH診療ガイドラインに対しても重要な報告の一つになり得ると考えている.
  • 宮城島 一史, 対馬 栄輝, 石田 和宏, 大谷 貴之, 佐藤 栄修, 百町 貴彦, 柳橋 寧, 安倍 雄一郎
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】 近年では様々な疾患に対する治療効果判定として,広く世界的に健康関連QOL(HRQOL)の評価であるSF-36が用いられている.腰椎固定術後においても,SF-36が向上する効果があるとの報告が多くなっている.しかし,本邦においては腰椎固定術後のHRQOLに何が影響しているか,関連する因子を検討した報告は皆無である.そこで,HRQOLに影響を及ぼす術前の因子を明らかにできれば,理学療法の一助になると考えた. 本研究の目的は,腰椎固定術後1年時のHRQOLに影響する術前因子を明らかにし,理学療法の参考とすることである. 【方法】 対象は,当院で2009年4月1日から2011年3月31日までに腰椎固定術を実施し,術後1年以上経過した624例中,3椎間以上の症例を除き,記録の不備がない94例(年齢69.0±9.3歳,男性37例,女性57例)とした.HRQOLの評価としてSF-36v2を使用した.検討項目は,術前の性別,年齢,BMI,職業,同居家族,喫煙,他部位の整形外科疾患の既往,合併症,腰椎手術の既往,膀胱機能,下肢筋力(MMT),ODI sub score(痛みの強さ,身の回りのこと,物を持ち上げること,歩くこと,座ること,立っていること,睡眠,社会生活,乗り物での移動),SF-36の8下位尺度(身体機能:PF,日常役割機能-身体-:RP,身体の痛み:BP,全体的健康感:GH,活力:VT,社会生活機能:SF,日常役割機能-精神-:RE,心の健康:MH)とした. 統計的検討は,術後1年時のSF-36の8下位尺度を従属変数,その他の術前の検討項目を独立変数とした正準相関分析を用いた.【倫理的配慮,説明と同意】本研究における評価項目は日常診療でも必要な情報であり,実験的な介入を行ったものではない.対象にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の趣旨,目的,方法,参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護についての十分な説明を行い,同意を得た. 【結果】 第1正準変量(正準相関係数0.786)は,GH(正準負荷量0.825),MH(0.543),ODIの「社会生活」(0.468),SF(0.432),性別(0.352)の順に術後1年のGH(0.795)・MH(0.737)・SF(0.543)へ高く影響していた. 第2正準変量(0.753)は,他部位の整形外科疾患の既往(0.398)に術後1年のVT(0.524)が高く影響していた. 第3正準変量(0.735)は,年齢(0.461),PF(0.422),同居家族(0.354),ODIの「歩くこと」(0.349),下肢筋力(0.343)の順に術後1年のPF(0.771)・RP(0.690)・RE(0.564)へ高く影響していた.【考察】 本研究の結果より,腰椎固定術後1年時のHRQOLには術前の因子が大きく影響することを確認できた. 第1,2正準変量の結果より,術前の精神的QOLが低下している女性,他部位の整形外科疾患の既往がある症例は術後1年時の精神的QOLが低くなると考えた.術前の不良な精神的QOLは術後成績不良との報告(Cobo Sariano J;2010)を支持した結果となった.また,第3正準変量の結果より,高齢で独居,術前に入浴・着替えなどの活動が困難,下肢筋力が低い症例,腰痛や下肢痛のために歩行が困難な症例は,術後1年時の身体的QOLが低くなると考えた. 以上より,術前のSF-36,性別,年齢,同居家族,他部位の整形外科疾患の既往,下肢筋力,ODIの「歩くこと」,「社会生活」の情報を踏まえて理学療法を実施すべきである.高齢で独居,術前に入浴・着替えなどの活動が困難な症例は,術後にもADL低下が予想され,術後早期から退院後の生活を想定した積極的なADL指導が重要である.他部位の整形外科疾患に関しては,術後早期からの問題点となり得ることから,術後早期からの理学療法が必要と考える.また,術前から下肢筋力が低く,腰痛や下肢痛のために歩行が困難な症例も,術前評価を踏まえた術後早期からの関わりが重要であるが,手術により改善されることも予想される.今後は術後の因子を検討することが課題となる.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,本邦の腰椎固定術後理学療法の参考となり得る.術後1年時のHRQOLと関連する因子を踏まえ,術後の理学療法を実施すべきである.
  • 鏡視下腱板修復術後の早期後療法を想定して
    仲島 佑紀, 藤井 周, 坂内 将貴
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】鏡視下肩腱板修復術後の早期後療法における腱板機能エクササイズとして等尺性運動が選択され、ホームエクササイズとしても指導することが多い。しかし臨床上、適切な運動負荷量の設定が困難であり、運動時に肩関節周囲筋の過活動など運動習得に難渋する症例を経験する。そのような症例においては前腕や手関節運動を用いた腱板筋群の賦活を行っているが、運動様式の違いによる腱板筋群の筋活動については明らかとなっていない。そこで本研究では肩関節外旋等尺性運動に着目し、運動様式の異なる3種類の腱板機能エクササイズにおける筋活動について、表面筋電図学的に検討することを目的とした。【方法】対象は肩関節に既往のない健常男性17名(25.5±2.1歳)の非利き手側17肩とした。測定筋は棘下筋、小円筋、三角筋前・後部線維とした。測定機器はNoraxon社製Myosystem1400の表面筋電図を使用し、サンプリング周波数は1000Hzに設定した。電極は十分な皮膚処理後に貼付した。測定肢位はすべての運動課題において、外転装具を用いて肩関節外転位、前腕回内外中間位、手関節掌背屈中間位で肘を机上に乗せた坐位とした。運動課題は3種類とし、試行回数は5秒間を3回とした。<1>肩関節外旋等尺性運動(以下、外旋);自家製pulleyを用いて、0.5kg重錘にて肩関節内旋方向の牽引力が加わるよう設定した。抵抗部位を手関節とし、保持させた。<2>前腕回外反復運動(以下、回外);輪ゴムの一方を固定し、一方を母指に掛け、前腕回内外中間位から最大回外位までの反復運動を行わせた。<3>手関節背屈反復運動(以下、背屈);輪ゴムを母指と示指・中指で把持し、手関節掌背屈中間位から最大背屈位までの反復運動を行わせた。<2>と<3>については最大回外位、最大背屈位で輪ゴムが一定の張力となるよう設定し、メトロノームを用いて1秒に1回のリズムで運動を行わせた。解析区間は5秒間のうち中間3秒間とした。筋活動の解析は、各筋の最大等尺性収縮を測定し、得られた筋活動最大値から%MVCを算出した。解析区間で得られた%MVC積分値を筋活動量とし、各運動課題の3試行の平均値を算出した。統計学的解析には2元配置分散分析を用い、各運動様式および各筋活動量を比較検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理委員会で承認を得た後に行われた(承認番号2012019)。被験者に対して倫理委員会規定の同意書を用いて研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】各運動課題における筋活動量(%MVC)は、外旋において棘下筋19.6±11.5、小円筋12.0±5.3、三角筋前部2.5±1.4、三角筋後部3.3±1.5、回外において棘下筋22.1±11.2、小円筋14.7±6.0、三角筋前部3.9±2.9、三角筋後部4.3±2.2、背屈において棘下筋18.7±10.1、小円筋13.4±6.2、三角筋前部3.2±2.4、三角筋後部3.8±2.1であった。2元配置分散分析から各筋の筋活動量に主効果が認められ(p<0.01)、各運動様式には主効果が認められなかった(p=0.19)。交互作用は認められなかった(p=0.96)。【考察】本研究結果は、最も高値の筋活動量が棘下筋であり、次いで小円筋、三角筋後部、三角筋前部の順となり、各運動様式においてその傾向が同様であったことを表している。これは本研究運動課題における低負荷外旋等尺性運動と回外や背屈を用いた腱板機能エクササイズがそれぞれ同様の運動効果をもたらす可能性を示唆するものと考える。林らは肩関節ROMエクササイズとしての腱板等尺性収縮の有効性を報告し、また石谷らは、術後早期の腱板機能エクササイズについて、鏡視下腱板修復後のRSD様症状の発生予防や挙上角度の早期改善に有利であること、装具固定期間の等尺性収縮を用いた早期後療法と術後1ヶ月後にエクササイズを開始した群において腱骨接合部癒合不全率に差がなかったと報告している。先行研究からも後療法における等尺性運動は有効であると考える。しかし臨床上、外旋等尺性運動においては運動強度を定めることが困難であり、組織修復期間の過剰な筋収縮のリスクなどを考慮する必要がある。そのため早期後療法として低負荷での筋収縮を行わせるうえで、運動課題が容易である前腕や手関節を用いた腱板機能エクササイズの有用性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】腱板機能エクササイズについて表面筋電図学的検討を行ない、各運動様式で筋活動が同様の傾向を示したことは、本研究結果が臨床上、症例に応じた運動療法選択の一助となる可能性が示唆された。
  • 高原 信二, 青柳 孝彦, 村中 進, 小松 智, 平川 信洋, 小峯 光徳, 可徳 三博, 鶴田 敏幸
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 肩腱板修復術術後の、組織学的修復が完成するのはおよそ術後8週と言われている。この術後8週までの期間の後療法は、各施設により様々であるのが現状であると思われる。また、術後固定に使用する装具についても、外転角度の違いによる差が生じており、肩甲帯の運動の開始時期や洗面・食事・運転動作を許可する時期など、ADL動作の許可時期に関する統一された見解はない。これらの動作における腱板および肩甲骨周囲筋群の筋活動量を知ることは、術後早期の後療法を安全に進める重要なポイントである考える。そこで今回我々は、当院で使用している装具装着下(枕有・無)におけるADL動作時の肩関節周囲筋群の筋活動量を調査し、外転角度の違いによる比較、ならびにADL動作の開始時期の妥当性について検討したのでここに報告する。【方法】 対象は、肩関節に愁訴を持たない健常成人男性11名(平均年齢36±9.3歳)で、全例右利きであった。被検筋は、棘上筋・棘下筋・三角筋(前部線維)・上腕二頭筋の4筋とし、装具装着枕有りと枕無し2パターンで、「箸で食べる」「書字」「マウスを動かす」「顔を洗う」「運転動作」「肩甲骨挙上」「肩甲骨内転」の7項目に関して測定を行った。筋電計は、MED-9404(日本光電社製)を用い、計測と解析には神経伝導検査ソフトQP-964Bを用いた。筋電図導出方法は単極導出法(棘上筋・棘下筋刺入針)と双極導出法とし、電極間距離は表面電極で20mmとした。被検筋各々の徒手筋力検査を10秒間行って得られた筋電図波形のうち、中間の安定した5秒間から1秒間あたりの筋電図積分値が最大となる1秒間をサンプリングし、その筋電図積分値を最大随意等尺性収縮強度(Maximal Voluntary isometric Contraction:MVC)と定義した。筋力検査の肢位はすべて、背もたれを使用しない端坐位、足底接地とし、各動作時より得られた筋電図波形から、各筋の1秒間あたりの筋電図積分値が最大となる1秒間の筋電図波形をサンプリングし積分処理した。同じ動作を3回連続して行い、筋電図積分値の平均値をMVCで除した値を%MVCとして標準化した。最後に各動作より得られた%MVCを被験者間で平均化した。評価方法は、Smithらの分類を参考に、≦20%MVCを低活動量、>20%MVCを高活動量とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には、本研究の調査内容や起こりうる危険、不利益などを含め説明し、また、個人情報に関しては、学会などで研究結果を公表する際には個人が特定できないように配慮することを説明し同意を得た。【結果】 運転動作では、枕有りでは棘上筋(26.5%MVC)・三角筋(25.1%MVC)、枕無しでは棘上筋・棘下筋(27.7%MVC)・三角筋(23.4%MVC)で高活動量を示した。肩甲骨挙上では、枕有りでは棘上筋(33.7%MVC)・棘下筋(22.2%MVC)、枕無しでは棘上筋で高活動量を示した。肩甲骨内転では、枕有りでは棘上筋(42.2%MVC)、枕無しでは棘上筋・棘下筋(30.6%MVC)で高活動量を示した。その他の動作では、枕有り・無しともに低活動量を示した。【考察】 今回、Smithらの報告を参考に%MVCを用いた筋活動量を調査し、本研究を行った。高値を示した項目の中で、運転動作では、ハンドルを左に切る際右肩関節は外転から水平屈曲方向への運動が必要となるため、棘上筋・棘下筋・三角筋の筋活動量が高値を示したのではないかと考える。肩甲骨挙上動作では、Sling jointである肩甲上腕関節内で、肩甲骨の挙上に伴い相対的に上腕骨頭を求心位に保持するため棘上筋・棘下筋が収縮したのではないかと考えた。また、肩甲骨内転動作についても同様に上腕骨頭の求心位保持のため棘上筋・棘下筋が収縮したのではないかと考えた。今回の調査より、枕有り・無しにおいて筋活動量に大きな差は認められなかった。ADL動作での腱板の筋活動量を考慮すると、腱板修復術術後早期での肩甲骨の挙上・内転運動は避けるべきであり、また、運転動作に関しても外転・水平屈曲などの動作は避けるよう指導が必要である。【理学療法学研究としての意義】 日常生活動作における、肩甲骨周囲筋群の筋活動量を知ることで、腱板修復術術後早期のリハビリテーションを進めていく中で、早期から許可される動作とリスクが高いため開始時期を遅らせる必要がある動作を判別することができる。また、腱板の修復時期を考慮しながら、実際に行っている個人の各動作の特徴を把握し、安全で効率的な動作獲得のための個別指導が重要である。
  • シングルケーススタディ
    市川 塁, 繁田 明義
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】掌蹠膿庖症(palmoplantar pustulosis以下、PPP)に合併する胸肋鎖関節炎により肩関節運動制限を呈した症例を経験した。本疾患に対する理学療法介入の報告は少ない。そこで我々はその治療経過報告から、理学療法介入の有用性や治療介入のポイントを検討したので報告する。【症例紹介】症例は40代女性、やせ型、約10年前にPPPを発症し、薬物療法等による加療歴あり。繰り返す左前胸部・左肩周囲の痛みが継続し、6ヶ月前に突然疼痛増強した。薬物療法にて改善せず、理学療法実施となった。身体所見では、左鎖骨近位部の腫脹が認められ、左肩関節の運動時痛(部位:左後頚部~左上腕近位外側と左前胸部)・夜間痛・可動域制限が著明に認められた。MRI所見では、T1Wで低信号を呈する鎖骨の過形成像とSTIRで高信号を呈する周囲軟部組織を含む左鎖骨近位部・胸骨柄・胸鎖関節下方の炎症像を認めた。治療は週1~2回1単位の理学療法のみであり、また症例の生活背景は、母親の介護と主婦業を中心とした生活である。【倫理的配慮、説明と同意】当院の倫理審査委員会の承認を受け、症例に対し学会発表の趣旨を口頭及び書面にて説明し、同意を得た。【結果・経過】初期評価時には、左肩関節周辺の筋緊張亢進し、運動時痛・可動域制限が著明に認められた。そのため理学療法は、左肩周囲筋のリラクセーション・ROM ex・徒手にて筋促通訓練からはじめた。徐々に可動域改善が認められるも、左胸鎖関節の可動域制限が残存したため、左胸鎖関節に対し関節モビライゼーション・肩甲骨運動を介したROM exを加え実施していった。評価項目として、JOA score・ROM(肩関節屈曲・外転、肩甲上腕関節屈曲、胸鎖関節挙上・前方牽引)・NRS(運動時)・needをあげた。以下に、初期・3週後・8週後の経過を記載した。JOA scoreは、初期32点、3週後53点、8週後60.5点であり、内ADL点は、初期1点、3週後5点、8週後5.5点であった。肩関節屈曲は初期30°、3週後100°、8週後115°、外転は初期30°、3週後85°、8週後90°、肩甲上腕関節屈曲:初期30°、3週後85°、8週後100°であった。胸鎖関節挙上は初期5°、3週後10°、8週後10°、前方牽引は初期5°、3週後10°、8週後10°であった。NRSは初期8/10、3週後3/10、8週後2/10、であった。needは、初期は少しでも動かせるようになりたい、3週後は使えるようになってきてうれしいが、まだ少し怖い、8週後は今の状態を維持したい、であった。【考察】PPPは、手掌・足部に無菌性小膿庖を生じる慢性難治性皮膚疾患である。原因は不明とされ、全体の約10%に骨関節炎が認められると報告されている。その治療方法は様々存在するが、一定した治療効果の報告は認められない。初期の状態では、痛みによる過剰な筋緊張が肩関節の可動域制限・疼痛を助長させていた。肩関節は複数の関節から構成され、その一部である胸鎖関節の炎症により、二次的に肩関節複合体の運動制限が引き起こされたと考えられた。そのため、上記した理学療法にて、肩甲上腕関節の可動域改善・痛みの軽減が図られ、ADL改善につながったと考える。ただし、胸鎖関節の可動域の改善は乏しく、さらなる可動域の獲得・ADL改善には至らなかった。胸鎖関節は、肩関節屈曲時に前方牽引・挙上・後方回旋運動がおこると言われている。本症例の胸鎖関節の可動域制限は著明で、肩関節の可動域制限を引き起こす主要な要因になっていた。また、そのため挙上時には、鎖骨下でのインピンジメント、胸鎖関節へのメカニカルストレスにより疼痛が生じていることが考えられた。本症例への理学療法は、原因不明の胸鎖関節炎ということもあり、胸鎖関節へ直接アプローチを行うべきか、またどのようなアプローチを行うべきか悩まされた。症状の経過を追いながら胸鎖関節可動域制限に対し関節モビライゼーション・ROM exを行っていったが、慢性的な炎症により変性した関節のため治療効果はあまり認められなかったと考えた。本症例の経験から、本疾患への理学療法介入効果の有用性が考えられ、また、理学療法のみのアプローチにおける限界と胸鎖関節に対する介入方法を再検討する必要性を考えることができた。【理学療法学研究としての意義】PPPに合併する胸肋鎖関節炎による肩関節運動制限に対する理学療法症例報告は少ないため、治療介入のポイントの研究またエビデンス構築にデータの蓄積が必要である。
  • ~超音波画像診断装置を用いた観察~
    笠野 由布子, 林 典雄
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】中手指節関節(以下、MP関節)の側副靭帯は、指が伸展位にあるときには緩み内外転運動を可能にするが、MP関節の屈曲とともに側副靭帯は緊張し内外転運動が制動される。この現象はMP関節の屈曲可動域と側副靱帯との緊張が密接に関わることを示している。手指伸筋腱断裂術後リハビリテーションでは、縫合腱の修復と強度の関係からMP関節の屈曲運動を一定期間禁止されるのが普通である。つまり、MP関節伸展位固定に伴うMP関節の伸展拘縮の発生と縫合腱の保護とを同時に解決する方法論が必要である。このような症例に対し我々は、手指の牽引を用いたMP関節の離解操作を加えることで側副靱帯ならびに関節包の短縮を予防する運動療法を実施し一定の効果を得ている。そこで今回、MP関節伸展拘縮の一要因である側副靭帯に着目して、手指の牽引による関節の離解操作が、側副靭帯長に影響するのか否かについて超音波画像診断装置を用いて検討することで、屈曲運動を早期に行えない症例に対する手指牽引の臨床的妥当性について考察したので報告する。【方法】対象は、検査側の手関節および手指に機能障害の無い成人8名14肢(男性6名、女性2名、年齢21.5±0.65歳)とした。測定にはesote社製MyLab25および12.0MHzリニア式プローブを使用した。側副靱帯長の測定は、対象者の前腕を回内外中間位で検査台上に固定し、示指MP関節の橈側よりプローブをあて側副靱帯長軸像を描出した。測定条件は、1)MP関節伸展0°、2)MP関節屈曲90°、3)MP関節伸展0°+ 手指牽引操作の3条件とし、超音波画像上での計測は、高エコーに描出される側副靭帯の中手骨頭付着部と基節骨底部の最大膨隆部の2点に垂線を立て、超音波画像診断装置内の計測パッケージの距離計測機能を用いて、その2点間距離を測定した。牽引操作時の計測においては、牽引操作時の動画を記録し、骨間が最大に開大したところで同様に計測した。3条件の値をそれぞれ比較し、検討した。統計学的解析には一元配置分散分析を行い、多重比較検定にはBonferroni検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】実施にあたっては中部学院大学倫理委員会の承認を得て、参加者には本研究の主旨を十分に説明し、書面にて参加への同意を得た。【結果】1)MP関節伸展0°の側副靭帯長は平均1.54±0.9cm、2)MP関節屈曲90°の側副靭帯長は平均1.66±0.9cm、3)MP関節伸展0°+牽引操作の側副靭帯長は平均1.71±0.9cmであった。3条件間での比較においては、1)MP関節伸展0°と2)MP関節屈曲90°、1)MP関節伸展0°と3)MP関節伸展0°+手指牽引操作、2)MP関節伸展0°と3)MP関節伸展0°+手指牽引操作の側副靭帯長に有意な差を認めた(P<0.01)。【考察】今回の研究より、側副靭帯長はMP関節伸展0°より、MP関節屈曲90°で平均1mm程度伸張されることが分かった。これは、側副靭帯の中手骨付着部がやや背側に位置しているため、MP関節を屈曲することによって起始と停止の距離が離れるためと考えられる。また、中手骨頭部は背側で細く、掌側で幅広い卵形をしており、MP関節の屈曲に伴い側副靭帯は骨頭顆部に押し広げられて緊張することから、側副靭帯の伸張性とMP関節伸展拘縮とが強く関連することが分かる。本研究よりMP関節の牽引操作では、側副靭帯長は平均1~2mm長くなることが確認され、MP関節周囲の他の軟部組織による拘縮要因を除外すれば、関節の牽引操作が側副靭帯の伸張性を維持するのに有効である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究より、手指牽引による関節離開操作に伴う側副靭帯長の変化が関節周囲の運動療法を実施するうえで重要な基礎データとなるとともに、手指外傷後や術後患者の理学療法にとって有用な知見となると思われる。
  • 井上 雅之, 井上 真輔, 中田 昌敏, 宮川 博文, 梶浦 弘明, 長谷川 共美, 稲見 崇孝, 森本 温子, 櫻井 博紀, 長谷川 義修 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】慢性痛患者に対する集団的リハビリテーションプログラムは,欧米諸国において広く普及し,その有効性についてこれまでに多くの報告がされている.しかしながら我が国においては,保険制度やマンパワーなどの問題から,このようなプログラムを実施している施設は少ない.我々は平成23年10月より,愛知医科大学学際的痛みセンターと運動療育センターの共同で,慢性痛患者を対象とした少人数制による集団的リハビリテーションプログラムを「慢性痛教室」の名称で実施している.この教室では“痛みがあっても前向きで活動的な人生を送る”ことをテーマに,痛みに対する直接的なアプローチではなく,医師,コメディカルによる集学的,全人的アプローチを試みている.今回,慢性痛教室の詳細とその介入効果について報告する.【方法】対象は第1回(平成23年10~11月)から第4回(平成24年7~9月)までの慢性痛教室に参加した20名(男性8名,女性12名),平均年齢64.0歳(47~76歳)である.教室は週1回,全9回のスケジュールで実施し,定員は5~7人に限定した.プログラムは痛みに関する講義(30分),リラクセーション,ストレッチングなどのエクササイズ(30分),マシンを使用した有酸素エクササイズ(10分),歩行を中心とした水中エクササイズ(30分)から構成される.講義は痛みのメカニズム,認知行動療法,睡眠,栄養などについて医師(整形外科,精神科,麻酔科),理学療法士,管理栄養士が担当し,適宜グループミーティングを交えて行った.また運動指導は理学療法士,トレーナーが担当した.教室開始時と終了時に下記の評価を実施し,教室前後における各評価項目の変化について調査,検討した.評価項目は,1.痛みの強さ:Visual Analogue Scale(VAS),2.QOL:Pain Disability Assessment Scale(PDAS),3.心理・精神機能:Hospital Anxiety and Depression scale(HADA,HADD),Pain Catastrophizing Scale(PCS),4.形態:体重,Body Mass Index(BMI),体脂肪率(%FAT),腹囲周径(腹囲),5.身体機能:握力,全身反応時間(反応),長座位体前屈(前屈),開・閉眼片脚立位保持時間(開眼片脚、閉眼片脚),10mジグザグ歩行(10m歩行),起居動作テスト(起居動作),身辺作業テスト(身辺作業),6分間歩行距離(6MD),等尺性体幹屈曲・伸展筋力,等尺性膝屈曲・伸展筋力とした.統計学的処理は,各評価項目の前後比較に対応のあるt検定を使用し,危険率を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】参加者は全て愛知医科大学学際的痛みセンターを受診する患者であり,教室参加に先立ち,主治医から1)教室内容,2)安全に十分に配慮して実施すること,3)参加者の機密保持に関する事項等に関し,十分な説明を行い参加同意を得た。【結果】全評価項目のうち,VAS(開始時:69mm,終了時:49mm),PDAS(27.0,20.1),HADD(8.5,6.1),PCS(30.0,25.8),体重(58.2kg,57.2kg),BMI(23.3,22.8),前屈(-0.4cm,2.8cm),開眼片脚(44.9秒,64.8秒),10m歩行(9.4秒,8.4秒),起居動作(10.6秒,8.0秒),身辺作業(9.1秒,7.4秒),6MD(477m,528m)において有意な改善を認めた.【考察】慢性痛患者は痛み以外にも意欲低下,睡眠障害,不安,抑うつ傾向,食欲不振,活動量低下などがみられ,身体的症状のみならず心理・社会的要因が複雑に絡み合っているとされる.今回の教室開始時における評価結果でも同様の傾向を示し,痛み,心理・精神機能,形態,身体機能に低下がみられたが,集学的アプローチで講義や運動指導を組み合わせたプログラムを実施することにより,痛みへの理解度を深め,合理的な認知の構成や,運動に対する恐怖を取り除いて活動量を増加させ,終了時における結果の改善に繋がったと考える.また慢性痛患者は社会的に孤立しがちなため,集団内でのコミュニケーションにより,心理面の不安も軽減できたと推察する.今後の課題として,教室終了後の介入効果の持続期間を調査し,フォローアッププログラムの導入について検討が必要と考える.【理学療法学研究としての意義】本研究は,難治性の慢性痛患者に対する我が国における集団的リハビリテーションプログラムの有効性について明らかにしたものであり,今後の慢性痛患者に対する治療アプローチの一助になるものと考える.
  • 島原 範芳, 松原 貴子
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】我々はこれまで関節リウマチ(RA)患者において,疾患活動性の増悪により痛みに固執しやすく不安や抑うつが強くなる精神心理的な傾向があることを報告した。RAでは,病状進行に伴い疼痛症状や身体機能障害が増悪し,精神心理的問題を含め,その障害像は経年的に複雑化しながら進行する。そのようなRAにともなう疼痛,機能障害,精神心理的問題は,罹病期間や治療経過の影響を受けることが推測される。そこで今回,RA患者の疼痛,機能障害度,心理状態を評価し,それらの関係性を調べるとともに,病期による比較検討を行った。【方法】対象は,内科および整形外科的加療ならびに理学療法目的で当院に入院した女性RA患者15名(平均年齢66.9±8.7歳,平均罹病期間19.4±17.6年,classI:3名,classⅡ:12名)とした。評価は,疼痛の有無と部位および強度をvisual analogue scale(VAS),機能障害をpain disability assessement scale(PDAS)とhealth assessment questionnaire(HAQ),精神心理的問題をpain catastrophizing scale(PCS:「反芻」,「拡大視」,「無力感」)とhospital anxiety and depression scale(HADS:「抑うつ」,「不安」)について,それぞれ入院時と退院時に行った。統計学的解析は,各項目間の相関関係の検討にピアソンの相関係数を用い,さらに,対象を病期により発症後5年未満の早期群(6名,67.0±8.2歳)と発症後5年以上の維持期群(9名,66.8±9.6歳)に分類したうえで,群間比較にはマンホイットニのU検定を用い,それぞれ有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,研究内容,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について文面と口頭で対象者に説明し,同意を得て実施した。また,調査に際しては個人情報保護に努めた。【結果】疼痛の発生部位は手と膝に多かったが,その強度ならびにHAQは両群とも退院時に有意に減少した。また, PCSの反芻も両群とも退院時に有意に減少し,PCSの拡大視およびHADSの不安は維持期群でのみ有意に減少した一方で,PCSの無力感とHADSの抑うつは両群ともに変化を認めなかった。また,疼痛強度とHAQ(r=0.60)およびPCSの反芻(r=0.64)との間に中等度の相関が認められた。【考察】全対象で加療による疼痛の軽減とともに,機能障害,catastrophizingの反芻の改善がみられた。病期による検討では,病期の長い維持期であっても,疼痛の改善とともにcatastrophizingの反芻に加え拡大視,さらに不安感が改善する一方,病期に関係なく全RA患者で無力感と抑うつが改善しづらいこと,また,RAの疼痛が無力感および抑うつとの相関がないことより,RA患者の無力感や抑うつはRAの主症状である疼痛や機能障害とは無関係で異なる病因によって生じる精神心理的問題であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】RA患者の疼痛,身体機能,精神心理因子の関係性について明らかにするとともに,病期によるそれら因子の変化を比較検討した点に本研究の意義がある。RA患者では病期によって精神心理的問題が異なり,維持期であっても加療後の疼痛軽減により機能障害や精神心理的問題は変化しうるが,抑うつやcatastrophizingの無力感については改善しにくいことから,RA患者のマネジメントにおいては身体機能に対する介入だけでなく,認知・情動面へのアプローチも積極的に取り入れていく必要があると考える。
  • ~安静時における肩甲骨の位置に着目して~
    小西 彩香, 近藤 義剛, 三宅 貴之, 荒木 妙子, 藤本 玲奈, 田中 慧, 中島 悠, 清水 浩之, 横田 淳司, 澤田 徹, 熊田 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】肩関節に疾患を持つ患者の多くは、臨床上結帯動作に支障をきたしている場合が多い。結帯動作について先行研究では、肩甲胸郭関節の動きに対して肩甲上腕関節の動きの割合が大きいことが報告されている。しかし、肩関節に疾患を持つ患者に対し、肩甲上腕関節に直接アプローチすることは、疼痛や術後管理の為困難な場合がある。その際、肩甲胸郭関節の代償的な動きが重要となるが、その基となる結帯動作時の肩甲骨の動きを調査した報告は少ない。本研究の目的は、健常人における結帯動作時の肩甲骨の動きを評価すること、及び被験者間における肩甲骨の位置と肩甲骨の動きが結帯動作に及ぼす影響について検討することである。【方法】対象は肩関節に既往症のない成人男性31名(平均年齢25.4歳)。<結帯動作時の肩甲骨の動き>結帯動作の開始肢位は上肢下垂位とし、上肢がL5棘突起(以下L5)、Th12棘突起 (以下Th12 )それぞれに到達するよう指示し、その時の肩甲骨の動きを評価した。上肢のランドマークは橈骨茎状突起とした。肩甲骨の運動は、挙上、上方回旋、前傾の3方向とした。挙上は、肩甲骨下角から10cm下方の点を基準点とし、上方向に移動した距離をメジャーで測定した。上方回旋は、肩甲骨下角と棘三角を結んだ線と脊柱のなす角を角度計にて計測した。前傾は、床面からの垂線に対する肩甲骨の傾きをデジタルアングルメーター(シンワ社製)にて測定した。<肩甲骨の位置と肩甲骨の動き>結帯動作の最大距離を計測するため、上肢がヤコビー線に沿って対側方向へ水平移動する距離(以下、上肢移動距離)を計測した。上肢移動距離は被験者全体で、標準偏差を算出し、標準偏差から外れた両群を、上肢移動距離が短い群(A群)、長い群(B群)の2群に分けた。2群間での肩甲骨の動きを調べると共に肩甲骨の位置を計測した。統計処理は、T検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究実施に際し、書面および口頭にて十分な内容説明を行い、同意のもと実施した。【結果】<結帯動作時の肩甲骨の動き> 挙上について、L5では平均2.5cm±1.0cm(p<0.01)、Th12では平均3.2 cm±1.4cm(p<0.01)でありL5、Th12共に有意差を認めた。前傾について、開始肢位では平均17.3°±4.7°、L5では平均 21.5°±6.1°(p<0.01)、Th12では平均24.1°±6.1° (p<0.01)でありL5、Th12共に有意差を認めた。一方、上方回旋について、開始肢位では平均5.0°±6.4 °、L5では平均3.4°±6.0°、Th12では平均3.0 °±6.0 °でありL5、Th12共に有意差を認めなかった。<A群B群間での肩甲骨の動き>挙上、上方回旋、前傾の動きの変化量についてA群B群間で有意差は認めなかった。<A群B群間の肩甲骨の位置>前傾についてA群では19.4°±4.5°、B群では14.6°±3.6°(p<0.05)、上方回旋についてA群では8.4°±5.2、B群では0.6°±5.3°(p<0.01)であり、2方向に有意差を認めた。【考察】結帯動作時の肩甲骨の動きについて、L5、Th12共に前傾、挙上が行われていたが、上方回旋の動きは有意差を認めなかった。上方回旋に関しては被験者間で運動パターンが違うものと考えられる。次にA群B群間で肩甲骨の動きの変化量を比較したところ、2群間での有意差は認められなかった。その原因として、今回被験者が健常人であり肩甲上腕関節の可動性が十分であったことから、先行研究でも述べられているように結帯動作において肩甲骨の動きよりも肩甲上腕関節での動きが大きく関与したものと考えられた。一方、肩甲骨の位置と結帯動作時の上肢移動距離に関しては有意差を認めた。つまり、安静時の肩甲骨の位置が前傾、上方回旋していると上肢移動距離は短くなった。その原因として、通常よりも肩甲骨が上方回旋、前傾していることによって臼蓋は上前方を向くため、肩甲上腕関節の伸展、内旋の動きがより多く必要になると考えられる。また、上肢挙上時に肩甲上腕リズムが存在するのと同様に、結帯動作においても肩甲骨の前傾と肩甲上腕関節の伸展、内旋が、協調したリズムの中で行われていると仮定すれば、開始肢位で肩甲骨の前傾が大きい場合、そのリズムに破綻をきたし、結果的に上肢が伸展、内旋しにくくなることで上肢移動距離が短くなったと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究では、結帯動作における肩甲骨の動きの指標を示すことができた。結帯動作の上肢移動距離には、肩甲骨の可動性よりも肩甲骨の位置に着目する必要があることが示唆された。
  • 松村 葵, 建内 宏重, 中村 雅俊, 市橋 則明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 一般に棘下筋を含め腱板筋の筋力トレーニングは,三角筋などによる代償を防ぐために低負荷で行うことが推奨されている.しかし低負荷での棘下筋に対するトレーニング介入研究において,わずかに筋力増強が生じたという報告はあるが筋肥大が生じたという報告はなく,棘下筋に十分な運動ストレスを与えられているとは考えにくい. 近年,下肢筋を中心に低負荷であっても低速度で運動を行うことで,筋力増強や筋肥大がおこると報告されている.また運動の筋収縮時間が筋力トレーニング効果と関連するという報告もされている.よって運動速度を遅くすることで筋の収縮時間を長くすれば,より筋に運動ストレスを与えられると考えられる.実際に,我々は低負荷であっても低速度で持続的な運動を行えば,棘下筋は通常負荷・通常速度での運動よりも持続的な筋収縮によって筋活動量積分値が大きくなり,棘下筋に大きな運動ストレスを与えられることを報告している(日本体力医学会 2012年).しかし,低負荷・低速度肩外旋トレーニングが,棘下筋の筋断面積や筋力に与える影響は明確ではない. 本研究の目的は,低負荷・低速度での8週間の肩外旋筋力トレーニングが棘下筋の筋断面積と外旋筋力に及ぼす効果を明らかにすることである.【方法】 対象は健常男性14名とした.介入前に等尺性肩関節体側位(1st位)外旋筋力,棘下筋の筋断面積を測定した.対象者を低負荷・低速度トレーニング群(500gの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で5秒で外旋,5秒で内旋,1秒保持を10回,3セット)と通常負荷・通常速度トレーニング群(2.5kgの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で1秒で外旋,1秒で内旋,1秒安静を10回,3セット)の2群にランダムに群分けした.両群ともに運動は週3回8週間継続した.介入期間の途中に負荷量の増大はせず,介入4週までは研究者が運動を正しく実施できているか確認した.介入4週と8週終了時点で介入前と同様の項目を評価した.チェック表にて運動を実施した日を記録した. 棘下筋の筋断面積は超音波画像診断装置を用いて,肩峰後角と下角を結ぶ線に対して肩甲棘内側縁を通る垂直線上にプローブをあてて画像を撮影した.筋断面積は被験者の介入内容と評価時期がわからないように盲検化して算出した.等尺性外旋筋力は徒手筋力計を用いて3秒間の筋力発揮を2回行い,ピーク値を解析に使用した. 統計解析は棘下筋の筋断面積と外旋筋力に関して,トレーニング群と評価時期を2要因とする反復測定2元配置分散分析を用いて比較した.有意な交互作用が得られた場合には,事後検定としてHolm法補正による対応のあるt‐検定を用いて介入前に対して介入4週,8週を群内比較した.各統計の有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 介入終了時点で両群とも脱落者はなく,トレーニング実施回数には高いコンプライアンスが得られた. 棘下筋の筋断面積に関して,評価時期に有意な主効果とトレーニング群と評価時期と間に有意な交互作用が得られた.事後検定の結果,低負荷・低速度トレーニング群では介入8週で介入前よりも有意に筋断面積が増加した(7.6%増加).通常負荷・通常速度トレーニング群では有意な差は得られなかった. 外旋筋力に関して,有意な主効果と交互作用は得られなかった.【考察】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で持続的な筋収縮によって,棘下筋の筋肥大が生じることが明らかになった.低速度で行うことで筋活動積分値が大きくなり,棘下筋により大きな運動ストレスを与えられる.また低負荷でも低速度で運動を行うことによって,低負荷・通常速度での運動よりも筋タンパク質の合成が高まるとされている.これらの影響によって,低負荷・低速度トレーニング群で筋肥大が生じたと考えられる. 低負荷・低速度トレーニング群では棘下筋の筋肥大は生じたが外旋筋力は増加しなかった.また,より高負荷である通常負荷・通常速度トレーニング群でも,外旋筋力の増加は生じなかった.本研究で用いた負荷量は低負荷・低速度で約4%MVC,通常負荷・通常速度で約20%MVCと神経性要因を高めるには十分な大きさではなかったことが,筋力が増加しなかった原因と考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で運動を行うことで棘下筋を肥大させられることが明らかとなり,低負荷トレーニングにおいて運動速度を考慮する必要があることが示唆された.本研究は,棘下筋の筋萎縮があり,受傷初期や術後などで負荷を大きくできない場合に,低負荷でも低速度でトレーニングを実施することで筋肥大を起こす可能性を示した報告として意義がある.
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