理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般口述発表
  • 壬生 彰, 西上 智彦, 山本 昇吾, 梶原 沙央里, 岸下 修三, 松﨑 浩, 田辺 暁人
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】切断後や腕神経叢麻痺後の末梢性求心路遮断性疼痛に対して鏡療法の疼痛軽減効果が報告されているが,効果が限定的な症例も存在する.鏡療法においては,患肢の運動イメージ獲得が重要であり,運動イメージが獲得可能になると,疼痛の軽減が認められることが多い.これまでの鏡療法は健肢を鏡に映し,自由に運動させ,あたかも患肢が動いているような鏡像を観察させ,患肢が同様の運動をしているようにイメージさせるといった方法が行われているが,この手法のみでは患肢の運動をイメージすることが困難な症例も存在する.今回,20年以上前に受傷した腕神経叢引き抜き損傷後の末梢性求心路遮断性疼痛症例に対して,従来の鏡療法では疼痛軽減効果が限定的であったが,難易度を段階的に調整する段階的鏡療法を実施することで患肢の運動イメージが獲得可能となり,更なる疼痛の軽減を認めた経過を報告する.【方法】40歳代男性.23年前に交通事故にて受傷し全型の右腕神経叢引き抜き損傷となる.右肩関節より遠位は拘縮しており,筋収縮は認められなかった.表在感覚,深部感覚ともに右肘関節より遠位は完全に脱失していた.安静時痛は右上腕遠位部から手指にかけてしびれを伴う持続する痛みがNumerical Rating Scale(NRS)で8-10であった.特に手指の痛みが強く,「ねじられるような痛み」であった.服薬状況はロキソニン及びメチコバールをそれぞれ1日3回服用していた.本症例に対し,週2回の頻度で鏡療法を実施した.住谷らの方法を参考に,身体正中矢状面に鏡を置き,健肢を鏡に映し,鏡面に患肢が存在しているように設定し,鏡を見ながら健側の肘関節,手関節及び手指の屈曲・伸展運動をさせ,同時に患肢が鏡像肢と同様の運動をしているようにイメージさせた.開始当初は運動イメージが困難であり,特に握り運動については,手指が「締め付けられる感じ」と疼痛の増強を訴えた.そこで,運動イメージを伴わない鏡像肢の運動の観察から運動イメージを伴う課題へと移行していった.それにより,徐々に患肢の肘関節,手関節の運動イメージは可能となった.手指は,母指,示指,中指の運動イメージが可能となり,NRSで6-8と疼痛も軽減した.しかし,環指,小指は常に中手指節間関節・指節間関節が屈曲位で固定され,全く動くイメージができず,イメージしようとすることで痺れ,疼痛の増強が生じた.そこで,鏡療法開始2ヶ月後より,まず,環指・小指の伸展位のイメージを生成するために視覚情報入力を工夫した.健肢の手掌と小指先端の間に異なる長さの3種類の棒を順に挟み,徐々に屈曲位から伸展位に角度を変化させた.それぞれの屈曲角度の時に鏡像肢を観察し,患肢のイメージを鏡像肢の屈曲角度と一致させるように想起させたところ,伸展位のイメージが可能となり痛みが軽減した.次に,小指の運動イメージを生成するため,セラピストによる健側小指の自動介助運動を行い,鏡像肢を観察しながら患肢で同じ運動を想起させたところ,運動イメージが可能となった。【倫理的配慮、説明と同意】本症例に対し,本報告の趣旨を説明し同意を得た.【結果】環指,小指の伸展位のイメージや運動イメージが可能となることで,鏡療法中は疼痛がNRS5へと軽減した.完全伸展位のイメージが可能になると痛みが完全に消失し,しびれのみの状態となった.この状態は30分程度保持された.安静時痛は環指,小指がNRS9-10と開始時と同様な疼痛であったが,その他の部位はNRS6と軽減を認めた.また,鏡療法開始3ヶ月後には服薬を中止することが可能となった.【考察】住谷らは鏡療法の治療機序として,鏡からの視覚情報により患肢からの不十分な体性感覚情報の入力を代償することで患肢の知覚-運動ループが再統合され,疼痛が軽減すると考察している.本症例は従来の鏡療法では運動イメージの獲得が不十分であり,疼痛軽減効果も限定的であった.鏡療法中の患側手指のイメージは環指・小指が屈曲位で固定されており,視覚情報との不一致により疼痛が増強した可能性があり,従来の鏡療法では難易度が高いことが考えられた.そこで,まず,視覚情報を増加させ,より患肢からの体性感覚情報の入力を代償し,伸展位のイメージが可能となった結果,疼痛が軽減し,次の段階として,セラピストによる自動介助運動を実施することで,患肢の運動イメージが可能となり,更なる疼痛の軽減が得られたと考える.【理学療法学研究としての意義】求心路遮断性疼痛に対する鏡療法において,効果が不十分な症例に対して本症例のように段階的鏡療法を行うことで疼痛を軽減させる可能性を示唆した点.
  • 井上 純爾, 大重 努, 向井 陵一郎, 小栢 進也, 岩田 晃, 淵岡 聡
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】外乱刺激時の立位保持は、体性感覚、前庭感覚、視覚などを統合した種々の姿勢反応により、重心移動を最小限に留めるような制御が行われており、筋活動や重心移動のパラメータを評価指標とした研究が多く報告されている。一方、瞬間的な筋力発揮特性の指標である筋力発生率(rate of force development;以下RFD)は転倒歴や歩行時のスリップ、バランス能力との関連が報告されており、外乱刺激直後の姿勢保持反応との関連が推測される。本研究では,立位姿勢における体幹への外乱刺激時の骨盤の移動量ならびに移動速度と、下肢筋群のRFDとの関連を明らかにすることを目的に、三次元動作解析による分析を行った。【方法】対象は健常成人女性17名とした。測定項目は身長、体重、筋力(膝関節屈曲•伸展、足関節底屈•背屈の等尺性最大筋力)、外乱刺激時の骨盤の最大移動量および移動速度とした。筋力は固定式ダイナモメーター(BIODEX system3)を用いて、膝関節屈曲•伸展は膝関節屈曲75°、足関節底屈•背屈は膝関節屈曲60°、足関節底背屈0°にて、目前のLEDランプが点灯したと同時にできるだけ速く強く力を入れるように指示し、3回ずつ計測し、最大値を解析に用いた。その時の力―時間曲線において筋力が5Nmを超えた時点を筋力発揮開始と規定し、RFDと反応時間を算出した。RFDは筋力発揮開始後50msec、100msecの筋力値から単位時間当たりの値を算出した(以下、50RFD、100RFD)。なお、筋力とRFDは体重で除し、標準化した。外乱刺激については被験者の腰部(腸骨稜の高さ)に前後2箇所に紐をつけたベルトを装着し、水平方向に体重の4%の力で引く装置を作成した。静止立位の被験者に対して前後から無作為に2回ずつ不意に外乱刺激を加え、三次元動作解析装置(VICON NEXUS)で記録した。前後とも2回目のデータを解析に用い、両上前腸骨棘の中点の最大移動量と移動速度を算出した。各測定項目の関連はPearsonの積率相関係数を算出して検討した。統計解析にはJMP10.0を用い、有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本学研究倫理委員会の承認を得た後、全ての対象者に本研究の内容および測定データの使用目的について口頭ならびに文書を用いて十分な説明を行い、書面による任意の同意を得た。【結果】対象の属性の平均値および標準偏差は、年齢21.8±1.3歳、身長158.0±4.0cm、体重50.4±4.3kg、BMI20.2±1.2であった。測定の結果は同様に、膝関節屈曲において筋力1.0±0.2Nm/kg、50RFD6.9±2.2Nm/kg/sec、100RFD5.7±1.6Nm/kg/sec、膝関節伸展において筋力2.6±0.5Nm/kg、50RFD13.5±4.5Nm/kg/sec、100RFD11.4±3.5Nm/kg/sec、骨盤の前方への最大移動量(以下、骨盤前移動)22.3±9.9mm、移動速度(以下、骨盤前速度)9.0±2.1mm/secであった。これらの結果の関係は、膝関節屈曲50RFD と骨盤前移動(r=-0.52、p<0.05)および骨盤前速度(r=-0.60、p<0.05)、膝関節屈曲100RFD と骨盤前移動(r=-0.63、p<0.01)および骨盤前速度(r=-0.49、p<0.05)、膝関節伸展50RFDと骨盤前移動(r=-0.52、p<0.05)、膝関節伸展100RFDと骨盤前移動(r=-0.62、p<0.01)に負の相関がみられた。膝関節屈曲•伸展筋力および下肢筋の反応時間と骨盤前移動および骨盤前速度には有意な相関がみられなかった。また、足関節筋力およびRFDと骨盤の最大移動量、移動速度には関連がみられなかった。【考察】RFDは短時間で強い力を産生する能力の指標であり、膝関節屈曲および伸展のRFDが大きいほど、体幹に不意な外乱刺激が加わった時の骨盤の前方への最大移動量および移動速度が小さいことが明らかとなった。不意な外乱刺激に対して立位姿勢を保持するためには、外乱刺激直後の筋の反応時間およびRFDが重要と考えられる。本研究で下肢筋の反応時間と骨盤移動に関連がみられなかったため、骨盤前移動と骨盤前速度が小さくなった要因としてRFDが大きく関与していることが示唆された。また、骨盤前移動および骨盤前速度と筋力には相関がみられず、50RFDおよび100RFDには相関がみられたため、不意の外乱刺激に対する立位保持能力は最大筋力よりも、筋力発生率と関連があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】外乱刺激時の立位保持には、最大筋力よりも短時間で強い力を発揮できる能力が重要である可能性を示唆するものであり、立位保持能力向上や転倒予防対策における介入手段の検討に有用と考える。
  • 今枝 裕二, 宿野 真嗣, 吉際 俊明, 本田 祐一郎, 沖田 実
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 リハビリテーションの対象症例においては,関節可動域制限の発生頻度は高く,その中でも対象者が高齢になればさらに発生頻度は高くなるといわれている.しかし,関節可動域制限の推移を縦断的に観察した報告はほとんどない.そこで今回,当院で実践している関節可動域制限に対する予防の介入方法を紹介し,膝関節伸展可動域の経年変化からその効果を検討する.【方法】 対象は2008年10月から2011年10月までの3年間を通じて当院に在院していた236名(男性30名,女性206名)とした.対象者の平均年齢は90.4歳±6.9歳、平均在院期間は6.4±2.3年で主な疾患とその内訳は脳梗塞や脳出血などの脳血管系疾患が120名(50.8%)、認知症を含む精神疾患が78名(33.0%)、骨折などの運動器系疾患が26名(11.0%),その他の疾患が12名(5.0%)であった.対象者に対し,看護師ならびに介護職員による日常ケアでの他動運動と,理学療法士(以下,PT)ならびに作業療法士(以下,OT)による個別の運動プログラムを実施し,その効果判定のために膝関節伸展可動域を測定した.看護師・介護職員は,オムツ交換時に股・膝関節の他動的屈曲伸展運動と,車椅子乗車時に膝関節の他動伸展運動をそれぞれ左右一回ずつ行った.PT・OTは運動能力で対象者を4群に分け,それぞれの状況に応じて下肢への荷重を意識したプログラムを実施した.膝関節伸展可動域の測定は対象者を背臥位とし,ゴニオメーターを用いて,9名のPTと13名のOTが行った.測定開始時の臨床経験年数はPTが平均5.3±5.1年,OTが平均4.7±4.1年であった.測定は2008年10月より2011年10月まで,2ヵ月毎に行い.分析は,毎年10月の測定結果を分析とした.3年間の経年変化についてはFriedman検定を用い,平均値±95%信頼区間で標記し,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】今回の介入を進めるにあたっては院内検討委員会で承認を得,対象者とその家族には取り組みの趣旨と内容について説明し,同意を得た上で実施した.【結果】 膝関節伸展可動域の経年変化は,各年度における膝関節伸展可動域の平均値は2008年が-14.8±1.6°,2009年が-15.7±1.6°,2010年が-15.9±1.6°,2011年が-16.7±1.7°で経年的に有意な減少が認められ,その程度は3年間で1.9°であった.【考察】 日常ケアの中での他動運動と下肢への荷重を含めた運動プログラムを実施した結果,対象とした236名472関節の膝関節伸展可動域の平均値は統計学的には経年的に有意な減少が認められた.しかし,その程度は3年間で平均1.9°の減少に過ぎず,今回の対象者の平均年齢が90.4歳で,加齢に伴う関節周囲軟部組織の器質的変化や廃用などによって関節可動域が減少しやすい状態であったことを考慮すると,今回の介入方法は膝関節伸展可動域の維持に効果的であったと考えられる. 先行研究によれば,関節可動域制限の進行予防には他動運動を主体とした関節運動や姿勢変化などによる関節への重力負荷が有効とされており,今回の結果はこのことを裏付けているものと思われる.しかし,統計学的な結果としては膝関節伸展可動域が経年的に有意な減少を示した事実があり,その要因として考えられる疾患や羅病期間,生活状況などを考慮した分析が必要であることが明らかとなった【理学療法学研究としての意義】関節可動域制限の予防に対する長期的な対応や経時的推移についての報告は少ない.リハビリテーションの対象症例に頻発する関節可動域制限の縦断的な観察は,その要因を特定し,介入方法を定めるためにも意義あるものと考える.
  • 梅澤 慎吾, 岩下 航大, 大野 祐介, 興津 太郎
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】両側大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手(以下:高機能膝継手)が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が報告され始めている.その達成には要所を押さえた義肢部品の運用と,訓練全体のマネジメントが必須となる.第一報では二足実用歩行を獲得した一症例を報告した.今回は同様の方法で実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,両大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする.【症例】34歳 男性 交通外傷による両側大腿切断.既往歴や合併障害なし.受傷後,前病院の断端形成術~装着前訓練を経て,義肢装具SC入院《断端長》右11.0cm,左24.0cm《受傷前身長》166cm,《義足装着》シリコーンライナー使用[初期評価:訓練開始時] 《ROM》左股関節伸展10°右股関節屈曲70°伸展-5°《筋力》左右股関節の伸展・外転筋MMT4《受傷~義肢装着の期間》約4ヶ月 [最終評価:18W終了時]《ROM》左股関節伸展15°右股関節屈曲80°伸展5°《筋力》左右股関節周囲筋 MMT5 《膝継手》固定⇒C-Leg⇒C-LegCompact【説明と同意】結果の公表を本人に説明し,個人情報の開示を行う旨を了解済みである。【経過と結果】[開始~10W]膝継手なし,または固定膝で訓練施行.船底型足部を利用したスタビーによる動作習熟が中心.移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う.坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cmずつ長くする.《10m歩行》11.5秒 《12分間歩行》500m 《TUG》19.2秒 《PCI》0.8 [10W~18W]C-Leg(Compact)変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟とその反復に重点を置いて訓練継続.杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が2W~4Wで自立.最終では装着時身長が166cm、約1.5kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》8.5秒 《12分間歩行》660m 《TUG》14.3秒 《PCI》0.57【考察】従来の両大腿切断の訓練は到達目標が頭打ちになることが多いと推測する.両大腿切断者が義足で生活を送るには、多様な路面の攻略が必要になるが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる.多くは手摺りを頼りに出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである.この報告で提案する訓練の基軸は「安心感をもたらす膝継手選択による身体機能向上」と「高機能膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である.いずれも膝継手の理解無くして目的達成は困難といえる.高機能膝継手は,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(良好なクリアランス形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる.具体的には1.強力な油圧抵抗で大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝が緩やかに屈曲しながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意な状況で膝折れが起きない 3.C-Legをエネルギー効率の面で優位とする報告があり,義足歩行の継続が過負荷にならない等の特長がある。今症例では膝継手使用前に,膝折れのない安心できる環境の下で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った.これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作を獲得したという成功体験に繋がっている.この効果として,膝継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となって,装着者本人に問題意識が芽生え,より動作習熟に尽力できる下地になったと分析する.立脚期を考慮すれば固定膝に利点もあるが,歩行速度や歩行効率等の評価から分かる通り,より高いレベルの目標達成には,遊動膝による良好な遊脚期形成が重要といえる.高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,これも良好なアライメント設定が前提になる. その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮して重心位置(義足長)を低く保つために,低床型足部や,キャッチピンを用いない装着法も要検討である.(キスシステム,シールインライナー,吸着式)【理学療法学研究としての意義】公費対象でない製品は高額であるため,現制度内での運用は決して一般的でない.しかし,両側大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,同様の重度切断障害者が,膝継手の選択次第で屋内外を問わず義足で生活できる可能性を見いだせるきっかけとしたい.期限設定~動作達成度の評価や訓練施設の特定など,今後は条件付きで膝継手支給の仕組みが議論されることも必要である.
  • 村上 憲治, 石井 壮郎, 宮川 俊平, 島田 周輔, 藤田 博暁, 石橋 英明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】サッカー競技における股関節周囲の障害はキック動作との関連は示されているが具体的な発症機序は不明な部分が多い。しかしキック動作のバイオメカニクス的検証ではさまざまなパラメーターから一部の障害との関連性は示唆されている。しかし、それ以外の障害との関連はいまだ不明である。昨年、本学会のポスター発表にてインステップ・キック、インサイド・キック、インフロント・キックの3種類の各キック動作の股関節にかかる関節間力最大値から股関節周囲にかかる応力分布を報告した。今回、さらにキック動作における股関節周囲にかかる力学ストレスを各キック動作の各相に分け、それぞれの応力分布と股関節周囲の障害との関連性に関して検証した。【方法】サッカー経験のある健常成人男性1名(利き脚:右脚)にサッカーにおいて一般的なキック動作のインステップ・キック、インサイド・キック、インフロント・キックの3種類を各3回行わせた。その動作を3次元動作解析装置(Vicon MX × 8 :250Hz + Kistler Force Plate × 2:1000Hz) にて計測した。キック動作(脚スイング動作)相分けは、蹴り脚股関節最大伸展位、ボールインパクト位、股関節最大屈曲位の3相に分けた。解析は動力学解析ソフトウエア「SIMM」にて各キック動作の股関節関節間力と股関節関節角度を算出した。さらに同被験者のCT/MRIデータから骨強度評価ソフトウエア「MECHANICAL FINDER」にて応力解析に必要な有限要素モデルを作成した。有限要素モデルは右腸骨、仙骨、右大腿骨で構成し、モデルの範囲を腸骨上縁(腸骨稜)より大腿骨遠位端までとした。さらにモデルに各キック動作各相の股関節角度を設定し各キック動作各相の姿勢を規定した。応力解析における境界条件は、仙骨上面をx、y、z方向、仙骨耳状面をx方向、恥骨結合面をx方向で拘束する条件とし、動力学解析より算出した股関節関節間力3分力(x、y、z)を荷重条件とし大腿骨頭座標系(x、y、z)に与え与え応力解析を行った。なお、今回の計測においてボールを蹴ってはいない。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言を十分理解した上、本研究を実施するに際し、筑波大学体育系研究倫理審査委員会の承認を得て行った。また被験者には、研究の概要、並びに参加に際し受ける利害および弊害を文章および口頭で十分説明を行い、自由意志のもと、同意を得て行った。なお、CT/MRI撮影に関して共同演者である医師の指示・立会のもと、安全に配慮し臨床放射線技師による撮影を行った。【結果】インステップ・キック、インサイド・キック、インフロント・キックの各キック動作において股関節間力が最大となる姿勢はいずれも股関節屈曲位(フォロースルー期)であった。各キック動作における股関節最大屈曲位では股関節関節間力は最大値ではなかったが他相と比べ高い値を示した。その結果より股関節最大屈曲位での股関節周囲の応力解析を行った結果、恥骨枝、寛骨臼蓋縁前上部、仙腸関節部が他部位に比べに高い応力域を示した。【考察】サッカーのキック動作における各相の股関節周囲の応力分布を検証した。キック動作において高い応力域を示す部位は、サッカーにおける股関節周囲の障害で臨床所見として確認される恥骨枝骨髄浮腫が生じる領域と一致した。 また、股関節関節唇損傷が生じやすい部位である寛骨臼蓋前上部においても高い応力域が確認され臨床所見と一致する結果となった。ただし、今回の試行では実際にボールを蹴っていない。そのためボールから受ける力学要因の検証が行われていない。そのため、実際の動作から得られるものとは一部異なる結果となった。しかし、今回の検証では関節間力が高いこと、股関節屈曲位であることが高い応力の条件となった。臨床で示唆されている関節唇損傷の要因は股関節屈曲位であることを考慮すると、これらの要因が股関節障害を発症させる一因になっていると考えることができる。サッカーにおけるキック動作において生じる障害を予防するために、関節間力を減じる方法と股関節角度を考慮すべきであると考える。 さらに今後、被験者数も含め課題動作の再考、解析条件の再設定などを行い、解析精度を向上させる必要もあると考える。【理学療法学研究としての意義】障害発症のメカニズムを解明することは障害発症を予測・予防する上で重要なことである。本研究はPC上に作成されたモデルを使用し、障害発症のシミュレーションが可能である。そのため個体要因も含め各種条件の変更が可能で、さらに再現性も高い。そこから得られる情報により障害予防や再発予防も含めた個別のプログラムの策定も可能となり、根拠に基づいたテーラーメイドなアプローチも可能と考える。
  • 理学療法士における職域拡大の可能性
    粕山 達也, 石黒 友康, 渡邊 正利, 高尾 篤史
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年,問題視されている子どもの体力低下問題に関して,文部科学省や日本体育協会が中心となりアクティブ・チャイルド・プログラムが実施され,小中学校をはじめとした教育機関において健康増進および傷害予防に関するニーズが高まっている.我々,理学療法士において医療分野のみならず,健康増進や介護福祉など様々な分野への職域拡大は急務である.理学療法士が用いる健康増進,傷害予防,障害児支援等への知識・技術は小中学校を対象とした教育機関への導入も可能であると考えられる.そこで,本研究は小中学校教職員に対して,スポーツ傷害および理学療法士に関する意識調査を実施し,理学療法士の職域拡大の可能性について検討することを目的とした.【方法】対象は,山梨県富士河口湖町河口湖畔教育協議会に所属する小中学校教職員171名(小学校教員110名,中学校教員60名,その他1名:平均年齢41.5±11.1歳,平均教育歴17.4±11.2年)であった.対象者全員に対して,スポーツ傷害および理学療法士に関する質問紙調査を実施した. 調査項目は,1)部活およびクラブの指導経験,2)スポーツ傷害既往,3)スポーツ傷害予防への関心,4)学校内で発生するスポーツ傷害の種類,5)スポーツ傷害の原因,6)スポーツ傷害の予防法,7)スポーツ傷害について知りたい情報,8)スポーツ傷害発生時の対応,9)傷害予防についての導入希望,10)理学療法士の認知度,11)理学療法士の学校導入希望,であった.質問4,5については上位項目を挙げて点数化した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の主旨を伝え,説明と同意の上実施した.回答の有無,回答内容によって、個人が不利益を受けることは一切無いことを周知した.回答内容は,個人が特定されないよう所属,回答者名を無記名とした.集計結果については,調査以外の目的で使用したり,個別の結果を外部に漏らさないように配慮した.個人情報の保護に十分留意し,研究終了後は電子媒体および質問紙を破棄することとした.【結果】スポーツ傷害の予防に関心があると答えたものは66%であり,関心がないと答えたものは6%であった.学校で発生するスポーツ傷害として多いと考えるものとして,打撲が最も多く,次いで捻挫,熱中症の順であった.スポーツ傷害の原因として考えられるものでは,“身体が硬い”が最も多く,次いで“筋力が弱い”,“バランスが悪い”の順となっていた.スポーツ傷害の予防法として知っているものとしては,ストレッチが99%と最も多く,専門的なSAQトレーニングや神経筋協調練習は数%であり,国際サッカー連盟(FIFA)が提唱する“The11+”を回答したものはいなかった.スポーツ傷害について知りたい情報としては,応急処置が最も多く,次いでストレッチ方法,子供への指導法の順であった.スポーツ傷害予防に関する学校への導入については,機会があれば導入したいと答えたものが71%であった.また,理学療法士の認知度について名前・仕事ともによく知っているものは6%であり,名前・仕事とも少し知っていると答えたものは51%であった.健康増進や傷害予防等で理学療法士を学校に導入して欲しいかという質問に関しては,機会があれば導入してほしいと回答したものが60%であった.【考察】教職員における調査では,スポーツ傷害の要因として筋柔軟性低下の印象が強く,対応としてストレッチや応急処置に関する具体的な手技を求める傾向にあった.体育・スポーツ系の専門的な傷害予防方法はほとんど知られていなかった.教職員の中では,スポーツ傷害予防や健康増進に関して関心を持つものが多く,理学療法士を教育機関に導入出来る可能性が示唆された.一方で,理学療法士に関する具体的な仕事内容に関して知るものは少なく,活動内容を啓発していくことが必要であると考えられる.理学療法士が持つ医学的知識と運動学的な知識を活かして,地域社会および教育機関へ貢献できる可能性が示された.【理学療法学研究としての意義】理学療法士を小中学校などの教育機関に導入していく上で,本研究は重要な基礎資料となる.また,スポーツ傷害における予防プログラムを啓発していく上で,教職員の実態を把握する有用な調査であると考えられる.今回の資料をもとに,健康増進・傷害予防を含めた教育機関への新しい戦略を立てることで,理学療法士の職域拡大につながることが期待される.
  • 島 俊也, 金澤 浩, 越山 晋平, 白川 泰山
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 投球動作の反復により、投球側の肩関節内旋可動域(以下、IR)は減少し、IR制限と投球障害は密接に関係する(岩堀、2007)。野球選手は投球翌日にIR制限が出現し、肩関節後方の筋群が要因(高村ら、2010)とする報告や、現場でのIRの問題のほとんどは筋腱に起因している(宮下、2010)という報告があり、肩関節のコンディショニングを行う際には、継時的に変化する筋腱の状態を把握することが重要と考えられる。IRを測定し、肩関節後方の筋群の伸張性を推察することがあるが、IRは筋腱以外に関節包や上腕骨の形態などの様々な因子が影響するため、個々の筋の影響を捉えることは困難である。現場では触診で筋硬度を確認しIR制限の因子を推察するが、生体内での筋硬度の変化を定量的に捉えることができれば、投球障害の予防や治療に有用と思われる。近年、体表からの圧迫操作に対する組織の変形率を、ひずみ画像として撮影領域内で表示することが可能な、日立アロメディカル社のReal-time Tissue Elastography(以下、RTE)による筋硬度評価が注目されている。我々はこれを使用すれば肩周囲筋の筋硬度を客観的に評価できると考えたが、現時点では肩関節の外旋筋個々の筋硬度を正確に測定できるかは不明であり、今後、筋硬度変化の検討を行う上で、測定方法を検討する必要があると思われる。本研究では、主な外旋筋である棘下筋、小円筋および三角筋後部線維に対してRTEを用いて筋硬度測定を行い、検者間信頼性の検討を行った。【方法】 20歳代の健常成人男性10名20肩を対象とした。対象の平均年齢(±SD)は24.5±2.5歳、身長は169.9±1.5cm、体重は57.5±5.7kgだった。なお、投球を伴うスポーツの経験者は対象から除外した。測定項目は、棘下筋、小円筋、三角筋後部線維の筋硬度およびIRとした。棘下筋の筋硬度の測定は、肩甲骨の下角と肩甲棘三角の中点と肩峰の後角を結ぶ線上で、小円筋は河上(2002)の方法を参考に触診し、その筋腹上で、三角筋後部線維は肩甲棘三角と肩峰の後角の中点と三角筋粗面を結ぶ線上で行った。各筋の皮膚上に音響カプラーを置き、その上からRTEを用いて測定を行った。音響カプラーに対する各筋の筋硬度を算出し、Strain Ratio(以下SR)とした。測定は2名の理学療法士(検者A、検者B)で行った。測定肢位は肩関節1stポジションと2ndポジションの2つの肢位とし、それぞれのSRを1stSR、2ndSRとした。測定は3回行い、平均値を採用した。また、1stポジション、2ndポジション各々の3筋のSRを合計し、total SR(以下、TSR)として検討に用いた。IRは肩関節2ndポジションで、検査者2名で測定した。統計学的分析には検者間での差の比較に一元配置分布を用い、棘下筋に対するRTEの検者間信頼性(ICC)を検討した。また、1stポジションおよび2ndポジションのTSRとIRとの関係をピアソンの相関係数を用いて検討した。危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象には本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。また、本研究は当院倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号:MRH120009)。【結果】 1stSRは検者Aで棘下筋が2.06±0.56、小円筋が1.64±0.91、三角筋後部線維が2.27±1.60、検者Bでは棘下筋が1.87±0.45、小円筋が1.58±0.60、三角筋後部線維が2.44±0.63だった。1stSRのICCは棘下筋が0.89、小円筋が0.55、三角筋後部線維が0.58だった。一方、2ndSRは検者Aで棘下筋が1.42±0.53、小円筋が2.18±1.22、三角筋後部線維が2.91±2.50、検者Bでは棘下筋が1.48±0.58、小円筋が2.14±1.10、三角筋後部線維が2.24±0.81だった。2ndSRのICCは棘下筋が0.94、小円筋が0.83、三角筋後部線維が0.51だった。また、1stポジションでのTSRとIRとの関係は検者Aがr=0.36、検者Bがr=0.39でいずれも弱い正の相関関係を認めた。一方、2ndポジションでのTSRとIRとの関係は検者Aがr=0.80、検者Bがr=0.76でいずれも有意な強い正の相関関係を認めた(P<0.05)。【考察】 本研究の結果、2ndSRは棘下筋および小円筋における検者間の一致度は非常に高く、三角筋においても一致度は良い結果となり、1stSRと比較して一致度の傾向は優秀だった。また、TSRとIRとの関係においては、2ndポジションにおいて強い正の相関関系を認め、2ndポジションでの筋硬度測定の結果は、IR制限に関与する筋を反映することが確認された。以上より、RTEによる2ndポジションでの筋硬度測定は正確に実施でき、IRを制限する筋を特定するのに有用な方法であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の測定方法を用いて外旋筋群の筋硬度変化を評価することで、内旋可動域制限を来す筋の要因を明らかにすることができ、コンディショニングに有用なデータが得られると考えられる。また、各筋の有効なストレッチング方法を考案する際にも有用と思われる。
  • 中村 雅俊, 池添 冬芽, 梅垣 雄心, 小林 拓也, 武野 陽平, 市橋 則明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】ハムストリングスのストレッチング方法は主観的な伸張感により,近位部を伸張するには股関節屈曲位での膝関節伸展,遠位部を伸張するには膝関節伸展位での股関節屈曲が推奨されている.しかし,これら2種類のストレッチング方法の違いが近位部と遠位部の伸張性に及ぼす影響について客観的な指標を用いて比較した報告はなく,科学的根拠は乏しいのが現状である.そこで本研究は剪断波超音波診断装置を用いて,これら2種類の異なるストレッチング方法がハムストリングスの各部位における伸張の程度に及ぼす影響を検討し,ストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張できるかを明らかにすることを目的とした.【方法】対象は整形外科的疾患を有さない健常男性15名(年齢23.8±3.2歳)とし,利き脚 (ボールを蹴る) 側の半腱様筋(ST)と大腿二頭筋長頭(BF)を対象筋とした.対象者をベッド上背臥位にし,骨盤後傾を防ぐために反対側下肢をベッドから下ろして骨盤を固定した状態で他動的に股関節90°屈曲位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで膝関節伸展を行うストレッチング(KE),膝関節完全伸展位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで股関節屈曲を行うストレッチング(SLR),股関節90°屈曲・膝関節90°屈曲位の安静時の3条件での筋の伸張の程度を評価した.筋硬度の測定には超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製 Aixplorer)の剪断波エラストグラフィ機能を用いて,STとBFそれぞれ大腿長の近位1/3(近位),1/2(中間),遠位1/3(遠位) の筋硬度を無作為な順番で測定した.筋は伸張されると筋硬度が増すことが報告されているため,伸張量の指標として筋硬度を用いた. 統計学的処理は,STとBFにおける各部位の安静時とKE,SLRの条件間の違いをScheffe法における多重比較を用い検討した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を求め,各部位におけるKEとSLRの変化率の違いと近位,中間,遠位の部位による違いについてScheffe法における多重比較を用い比較した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を十分に説明し,研究に参加することの同意を得た.【結果】STの筋硬度について近位部は安静で39.6±31.8kPa,KEで398.4±125.8kPa,SLRで354.3±109.4kPa,中間部は安静で61.0±23.2kPa,KEで507.9±71.5kPa,SLRで472.6±81.5kPa,遠位部は安静で66.5±29.3kPa,KEで504.3±103.6kPa,SLRで478.4±151.2kPaであった.BFにおける近位部は安静で30.6±12.8kPa,KEで361.4±91.8kPa,SLRで343.3±92.6kPa,中間部は安静で45.4±32.3kPa,KEで386.4±147.6kPa,SLRで392.3±98.8kPa,遠位部は安静で54.1±22.4kPa,KEで490.5±112.3kPa,SLRで425.8±109.5kPaであった.多重比較の結果,STとBFともに近位,中間,遠位部の全ての部位において安静条件と比較してKEとSLRで有意に高値を示した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を比較した結果,STとBFの全ての部位においてKEとSLR間で有意差は認められなかった.安静時からの変化率について近位,中間,遠位の部位間で比較した結果,STとBFのKEとSLRともに部位による有意差は認められなかった.【考察】本研究の結果,KEとSLRの2つのストレッチング法はともにSTとBF両筋の全ての部位を伸張することが可能であった.さらに,KEとSLR間では全ての部位で有意差が認められなかったことより,どの部位でも両ストレッチング方法による伸張の程度に違いはないことが明らかとなった.また,近位,中間,遠位部の比較においても有意差が認められなかったことより,部位による違いはないことも明らかとなった.これらの結果より,二関節筋であるSTとBFを伸張する場合にはKEとSLRの方法による違いはなく,両ストレッチングとも全ての部位において同じ程度のストレッチング効果が得られること,すなわちこれらストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張することは困難であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】股関節を屈曲した状態から膝関節を伸展するストレッチングと膝関節完全伸展位から股関節を屈曲するストレッチングの両ストレッチング手技ともにハムストリングスの近位部,遠位部を一様に伸張する効果があることが明らかとなった.
  • ローカル筋・グローバル筋に着目して
    中北 智士, 福本 貴彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】近年,体幹安定性の向上により優れた運動パフォーマンスが発揮されると考えられ,体幹安定性と運動パフォーマンスに関する研究が行われている.これらの研究では,両者間に正の相関関係を認めるものが多く,運動パフォーマンス向上に体幹安定性が一翼を担っていると考えられる.また,体幹安定性は骨格・筋・神経系により産生されており,このうち筋群はグローバル筋とローカル筋に分けられ,グローバル筋は表在にある大きな体幹筋群であり,ローカル筋は体幹深部の脊椎分節間制御に関与する筋群である.これら筋群の中でも腹横筋は身体運動に先行して活動を開始し,非方向依存性に脊椎剛性を高めるとして重要視されている. また,障害予防やスポーツ分野では筋バランスが重要とされ,膝関節QH比や肩関節内外旋比などが報告がされている.しかし,体幹のグローバル筋とローカル筋の筋バランスを検証した報告はない. 本研究の目的は,ローカル筋,グローバル筋および体幹筋力比の視点で体幹安定性と運動パフォーマンスの関係性を検証することである.【方法】対象は男子大学野球・ソフトボール選手17名(年齢:20.2±0.8歳,身長:171.5±5.2cm,体重:62.9±4.3kg,BMI:21.3±1.0kg/m²).除外対象は,競技に支障を来たす疾患を有する者とした.腹横筋筋厚計測には超音波画像装置(U-sonic Rtfino:GE横河メディカルシステム),7.5MHzのプローブを用いた.測定部位は,左前腋窩線上で胸郭下縁と腸骨稜の中間点とした.測定肢位は,背臥位とし安静時腹横筋筋厚と収縮時腹横筋筋厚を測定とした.筋厚は上下筋膜間の距離とした.収縮時腹横筋筋厚は,Abdominal Drawing-in Maneuverを3回実施し3回目の値を採用した.腹横筋筋厚変化率は,収縮時腹横筋筋厚と安静時腹横筋筋厚の差を安静時腹横筋筋厚にて除して算出した.腹筋,脊柱起立筋筋力はトルクマシン( system3 ver.3.33:Biodex)を用いて測定した.体幹筋力比は,腹筋筋力と背筋力をそれぞれ腹横筋厚変化率で除して算出した.体幹安定性はFront Bridgeにて1回実施した.頭部,体幹,下肢を一直線上に保つように指示を与え,その肢位の保持時間を測定した.パフォーマンスは瞬発力(50m走,ハンドボール投げ,垂直跳び),敏捷性(反復横跳び),持久性(20mシャトルラン),平衡性(閉眼片脚立位)を測定した.測定方法,分類などの詳細は文部科学省新旧体力テスト実施要項に準じて行った.筋力(大腿四頭筋)は,利き足(ボールを蹴る足)にてHand Held Dynamometer(μTas-1:ANIMA)を用いて測定した.統計処理は,筋力と各パフォーマンスの関係をみるために相関係数を算出するとともに多重回帰分析を用いた.いずれも有意水準を0.05未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,同意を書面にて得た.【結果】腹横筋厚変化率,腹筋・背筋筋力および体幹筋力比と体幹安定性との間に有意な相関関係を認めなかった.体幹安定性と各パフォーマンスについては,体幹安定性と反復横跳びとの間にのみ有意な正の相関関係を認めた(r=0.55,p=0.02).しかし,その他パフォーマンスとの間には相関関係を認めなかった.さらに,体幹筋力比とパフォーマンスとの間に有意な相関関係を認めなかった.【考察】今回,体幹安定性とパフォーマンスの関係性をローカル筋とグローバル筋という視点から検証した.また,一般的に筋厚は筋力を示すとされているため,本研究における腹横筋筋厚変化率も腹横筋筋力として捉えることができると考える. 本研究では,ローカル筋,グローバル筋および体幹筋力比と体幹安定性に相関関係を認めなった.したがって,それぞれが体幹安定性と単独で関係しているのでなく,体幹筋群を全体的に捉えることが重要であると考える.また,体幹を構成する様々な筋が相対的に弱い筋を補っている可能性が考えられる.そのため,体幹筋力比に関して相関を認めなかったと考える. 体幹安定性とパフォーマンスでは敏捷性との間に有意な相関関係を認めた.素早い方向転換には,体幹の中央での固定性が重要とされる.また,野球選手よりも敏捷性が要求されるサッカー選手で体幹機能が高いとの報告がある.したがって,本研究結果はこれらの報告と一致するものと考える.【理学療法学研究としての意義】敏捷性が要求されるスポーツ選手の理学療法およびトレーニング介入において,体幹安定性向上により高い競技能力獲得が期待されると考える.さらに,体幹トレーニングの方法に関しては,ローカル筋とグローバル筋を個別に捉えるのではなく,体幹機能全体に焦点を当てることが重要であると考える.
  • 藤井 絵里, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 水村 真由美, 吉田 康行, 笹代 純平
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】外傷・障害予防やパフォーマンス向上のための包括的な身体機能評価としてFunctional Movement Screen ™(以下、FMS)が注目されている。FMSは「動きの制限と非対称性」をスクリーニングするものであり、stabilityとmobilityを基盤とした体幹および四肢の複合的な基本動作7項目で構成されている。手軽に動作パターンを評価できる一方で、ひとつの動作に含まれる身体的な要素は多い。得点は、「体幹が安定しているか」「バランスを保持できているか」などの大まかな基準によるため、検者の経験や判断に左右されやすいことが難点である。これまでの先行研究により結果の信頼性は「概ね良い」とされているが、対象の属性や動作の項目によるばらつきもある。本研究では対象としてバレエダンサーに着目した。バレエダンサーは脚を高く拳上する、最大限のつま先立ちでバランスを保持するなど極端な動作を行うが、その際に体幹や骨盤で代償せず行うことが、審美的な観点だけでなく障害予防の観点からも重要である。そのため、FMSはダンサーにおいても有用なツールであると思われる。本研究の目的は、バレエダンサーを対象としてFMSを実施し、検者間信頼性と結果からみえてくる身体的な特徴を検討することとした。【方法】対象は大学の舞踊の専門教育コースに所属する学生バレエダンサー28名(全て女性、年齢19.8±1.2歳)とした。測定時にFMSを安全に遂行することが不可能な疾患を有する者は除外した。対象全てに、Deep Squat(DS)、Hurdle Step(HS)、Inline Lunge(IL)、Shoulder Mobility (SM)、Active Straight-Leg Raise(ASLR)、Trunk Stability Pushup(TSPU)、Rotary Stability(RS)の7項目で構成されるFMSを実施し、その様子を前額面と矢状面よりビデオ撮影した。採点は撮影した動画によるビデオ分析で行い、他競技者の評価経験のあるセラピスト1名(検者A)と、舞踊を専門とするFMS初心者1名(検者B)、計2名により項目ごとに0点から3点の4段階で評価した。DSとTSPU以外の5項目では左右それぞれ採点した。各項目における検者間の一致度をKappa係数により分析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1239)。研究に先立ち、対象に十分な説明を行い書面にて同意を得た。【結果】DS(K=0.64)、SM、ASLR(K=1.00)、TSPU(K=0.49)の4項目において中等度から高い一致度が示された。特に柔軟性が反映されるASLRでは、検者A、B共に全ての対象で3点であった。その他のHS(右K=0.05、左K=0.08)、IL(右K=0.14、左K=0.12)、RS(右K=0.17、左K=0.13)については低い一致度を示した。合計点の平均は検者Aで17.2±1.4点、検者Bで17.9±1.5点であった。【考察】本研究において、検者間の一致度は項目により差が大きく、経験者と初心者の検者間信頼性は高いとされている先行研究(Minick et al,2010)とは異なる結果となった。中等度から高い一致度を示した4項目については評価基準が比較的明確に定量化されているため、検者間で相違が少なかったと考える。低い一致度を示した項目の中でも、特にHSとILについては体幹の動揺や代償動作の有無が評価基準であるため検者の判断に左右されやすい。HSは先行研究においても信頼性が低いことが報告されている(Onate et al,2012、Smith et al,2012)。本研究の検者AはFMS経験があることから判断する上での比較対象があったこと、検者Bは舞踊を専門としており、対象のダンス歴や技術レベルといった背景を把握していたことも採点する上でのバイアスになったと思われる。先行研究により経験レベルに左右されず評価が可能であることは示されているが、対象数を重ねるうちに自己判断基準が変化していくことは初心者でも起こりうるため、測定前には十分な導入が必要である。合計点の平均は先行研究(Kiesel et al,2007、Schneiders,2011、Teyhen et al,2012)と比較して高く、SMやASLRに代表されるようなmobilityの要素は、柔軟性に秀でているバレエダンサーではほぼクリアできたことが影響したと考えられる。FMSを実施する際は検者のバイアスと対象の身体的な特徴を考慮し、詳細で明確な評価基準を設ける必要があるかもしれない。【理学療法学研究としての意義】FMSの基盤であるstabilityとmobilityに秀でているバレエダンサーは得点が他の対象よりも高いことが示された。FMSは動作パターンを容易に評価できる点で汎用性が高いが、対象の身体的特徴に応じて詳細な評価基準を追加することで、パフォーマンステストとしての有用性をより示すことができると考える。
  • 澤野 靖之
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】新体操は美を表現するスポーツであり,5種類の手具を操作しながらジャンプ,ピボットターン,バランス,柔軟性を組み合わせて表現する競技である.選手の競技活動では技術練習に多くの時間を要し,個人戦,団体戦があるため,すべての練習を合わせると身体へのストレスは大きい.新体操選手の障害はover useによるものが多く,当院では足関節と足部の割合が38%を占める.今回はover use障害の一つで,難治性である中足骨疲労骨折に着目した.臨床で新体操選手の中足骨疲労骨折症例は外反母趾を呈し,左側の発症が多い印象があるが,今日まで新体操選手の足部に関しての報告は渉猟し得ない.そこで本研究の目的は,新体操選手における中足骨疲労骨折と他の足部傷害との足部の形状的特徴をX線学的に比較検討することである.【方法】対象は,2003年3月~2012年8月までに当院にて担当医がレントゲンまたはMRIにて中足骨疲労骨折と診断した新体操選手13名13足(平均身長159.1±2.9cm,平均体重44.2±2.8kg,平均年齢16.2±0.6歳,平均競技歴9.6±1.1年)をFx群とし,中足骨疲労骨折以外の足部疾患と診断した新体操選手10名12足(平均身長157.2±3.2cm,平均体重44.7±3.4kg,平均年齢16.3±0.6歳,平均競技歴8.6±1.9年)をCo群とした.方法はレントゲン正面像より外反母趾角(hallux valgus angle:HV角)を第1中足骨の長軸と第1基節骨の長軸の交点より計測し,第1・2中足骨間角(First-second intermetatarsal angle:M1/2 角)を第1中足骨の長軸と第2中足骨の長軸の交点より計測した.各角度は3回同一検者にて計測し,その平均値をそれぞれFx群,Co群で比較検討した.統計処理にはSPSSver16.0を使用し,検者内級内相関(ICC)を算出した上で,Fx群,Co群のHV角,M1/2角の比較をMann-WhitneyU検定にて行い,有意水準は5%とした.さらにFx群の左右足の中足骨疲労骨折の割合とFx群,Co群のHV角20°以上の割合を重ねて検討した.【倫理的配慮、説明と同意】レントゲンに関しては,担当医が診療時に必要と判断し,当院放射線技師にて撮影された足部正面像を使用した.またヘルシンキ宣言に基づき対象者へは人権擁護がなされている旨を説明し同意を得て行った.【結果】ICC(1,1)はHV角:0.942,M1/2角:0.954(p<0.001)と再現性の高いものであった.HV角はFx群24.5±3.8°とCo群20.3±3.5°でFx群が有意に高値を示し(p<0.05),M1/2角はFx群11.6±2.6°とCo群9.1±1.9°でFx群が有意に高値を示した(p<0.05).HV角20°以上の割合は,Fx群で11足/13足(85%),Co群で5足/12足(42%)であり,Fx群とCo群を合計すると16足/25足(64%)であった.Fx群の障害発生の割合は10/13名(77%)が左側,3/13名(23%)が右側であり左側に多かった.【考察】日本整形外科学会診療ガイドライン委員会の定める外反母趾の診断にはHV角20°以上を推奨しており,M1/2角に関しては10°以上を第1中足骨内反としている.今回の結果では,HV角よりFx群は85%が外反母趾であり,Co群も42%が外反母趾を呈していた.M1/2角からはFx群が第1中足骨内反が強いといえる.HV角,M1/2角ともにFxが有意に高値を示したことより,HV角とM1/2角の増大は新体操選手の中足骨疲労骨折に関連があると示唆された.また新体操選手の足部疾患の64%に外反母趾症例が存在することから,外反母趾は新体操選手の足部の特徴である可能性も考えられる.スポーツ選手の中足骨疲労骨折について,能らは,サッカー,陸上,バスケットボール,剣道選手の61.3%が左側であったと報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の左右割合も同様に77%と,バランスやピボットターンの軸足となる左側に多い結果であった.【理学療法学研究としての意義】新体操選手に特化した足部の報告は現在までに渉猟し得ないため,今回の新体操選手の中足骨疲労骨折とHV角,M1/2角の特徴について報告出来たことは今後理学療法を行う上で有用であると考える.佐本らは,30°未満のHV角は運動療法にて減少すると報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の予防的観点からも外反母趾に対する理学療法と軸脚である左足部への介入が重要と考える.
  • 上池 浩一, 森 孝久
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】腰椎分離症(以下分離症)は成長期のスポーツ選手に好発する疾患であり、腰椎関節突起間部の疲労骨折と考えられている。そのため急性疾患として捉える必要があり、骨癒合の可能性が高い時期にMRIやCTでの早期診断と治療開始が重要である。理学療法アプローチでは体幹装具による腰椎にかかるストレスの軽減や運動療法における股関節・体幹機能の改善が中心となるが、スポーツ場面では種目により制限を受けやすい運動方向、制限による代償機構、必要な動作パターンに違いが生じると思われる。しかし各競技における分離症症例の身体特性について報告されたものは少ない。そこで各競技間での股関節可動域制限や、動作パターンが分離症発生にどう影響しているか検討したので報告する。【方法】対象は平成19年9月~平成24年10月に当院を受診し、CT検査の結果腰椎分離症の確定診断を受け、運動器リハビリテーションの処方がなされ最終的にスポーツ復帰可能であった183名(男性163名、女性20名、平均年齢17.1±2.49歳、平均身長166.4±8.30cm、平均体重61.2±9.70kg)を対象とした。競技種目については対象が行っていた上位4種目を選び、サッカー(以下S群)73例、野球(以下B群)56例、陸上(以下FT群)29例、バレーボール(以下V群)25例であった。分離症の病期は初期83例、進行期31例、終末期77例で、分離椎体はL5 171例、L4 11例、L3 1例であった。また両側性は111例、片側性は72例であった。測定方法は全例について利き手、利き足の別について問診した。次に両側股関節可動域を全運動方向について測定し、さらにハムストリングスのtightness を検討するためにSLRも加えた。測定肢位については日本整形外科学会参考可動域測定の方法に準じて測定し、全て他動運動にて行い、5°刻みで記載した。分析項目は1:各競技での股関節可動域の差、2:各競技における片側性の割合、3:利き手・利き足と片側性分離症の関係である。統計処理はMann-Whitney のU検定、多重比較検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】全症例に対して測定の趣旨と本人の不利益にならないことを説明し、データの公開に対して本人もしくは保護者の承諾を得たうえで本研究を実施した。【結果】S群では蹴り足股関節屈曲・伸展・内転・内旋・SLR、B群ではステップ足股関節屈曲・内転・内旋において制限を認めた。FT群、V群については股関節可動域に有意差を認めなかった。各競技における片側性の割合はS群では39.7%、B群では35.7%、FT群では31.0%、V群では56.0%であった。利き手・利き足と片側性分離症の関係について、利き手・利き足の反対側に有意に片側性分離症を示していた。特にV群男子にその傾向が強く見られていた。【考察】本研究の結果から、S群、B群では一側の股関節可動域制限が認められた。これは競技によってtightnessが生じる部位に違いがあるものと推察する。S群ではキック動作で使用頻度高い筋群に、B群では投球動作においてステップ足股関節周囲筋の遠心的な収縮が誘因となり制限が生じたものと考えられる。いずれも股関節の制限によって、本来股関節での回旋運動が過度の体幹回旋主体で行われたため腰椎に大きなストレスが生じ分離症に至ったものと思われる。またFT群、V群では明らかな股関節可動域の差を認めなかったが、特にV群男子ではその殆どがアタッカーで、片側性分離症の割合が高く、低身長ということである。この結果より、より高い打点でのスパイクやブロック、またコースの打ち分けなどにより腰椎に強い伸展・回旋ストレスが生じていたのではないかと推察される。先行研究で分離症は初期に適切な治療を行えば骨癒合率は高くなるが、治療時期を逸し終末期まで進行すると骨癒合は期待できないと報告されている。今回の結果を踏まえ、競技別で制限を受けやすい運動方向、動作パターンを考慮した理学療法がスポーツ復帰や予防の観点で肝要であると考える。【理学療法学研究としての意義】各競技種目の特性を考慮し、制限を受けやすい運動方向や動作パターンを考慮して理学療法を行うことは、分離症症例のスポーツ復帰率や再発予防に対して重要な要素であると思われる。
  • -最大等尺性筋力、rate of force development、筋電図学的検討から-
    波多野 元貴, 鈴木 重行, 松尾 真吾, 後藤 慎, 岩田 全広, 坂野 裕洋, 浅井 友詞
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 スタティック・ストレッチング(static stretching:SST)は、柔軟性の改善をもたらすとされ、臨床場面やスポーツ現場などで広く用いられる。他方、SST後は最大発揮筋力や単位時間あたりの筋力発揮率であるrate of force development(RFD)などに代表される筋パフォーマンスの低下が生じるため、最大限の筋力発揮を要するパフォーマンスの前にはSST実施を避けるべきであるとする報告が多い。また、SST後の筋パフォーマンス低下の要因のひとつとして、筋電図振幅の減少など神経生理学的な変化が報告されている。SST後の発揮筋力や瞬発的なパフォーマンスの変化を検討した先行研究を渉猟すると、少数ながらSST後に動的な運動や低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、筋パフォーマンスの低下を抑制できる可能性が示唆されている。しかし、SST後の運動負荷による筋パフォーマンス低下抑制と神経生理学的変化の関連性について比較検討した報告はない。よって、本研究はSSTおよびその後に行う低強度・短時間の等尺性収縮が最大等尺性筋力、RFDおよび筋電図振幅に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 被験者は健常学生7名(男性4名、女性3名、平均年齢21.4±1.0歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)と表面筋電計(Mega Electronics社製ME6000)を用いて測定を行った。評価指標は6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮時の最大等尺性筋力、筋収縮開始時から200 msec間の時間-トルク関係の回帰直線の傾きであるRFD、等尺性収縮中の内・外側ハムストリングスの筋電図平均振幅(root mean square:RMS)とした。実験は、まず6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行い、15分間の休憩の後、膝関節を痛みの出る直前の角度まで伸展し、300秒間保持することでハムストリングスに対するSSTを行った。その後は、直ぐに6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST群)、または30%maximum voluntary contraction(MVC)の強度で6秒間の等尺性収縮を行った後に6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST-30%MVC群)のいずれかを行い、被験者はこの2種類の実験をランダムな順番に行った。統計処理は反復測定2元配置分散分析および対応のあるt検定を行い、有意水準は5% とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は本学医学部生命倫理審査委員会および共同研究施設倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者には実験の前に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合のみ研究を行った。【結果】 最大等尺性筋力は、SST群では介入後に有意に低下し(介入前:64.5±19.7 Nm、介入後:57.0±18.7 Nm)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:63.9±20.3 Nm、介入後:65.70±19.8 Nm)。また、介入方法と介入前後との間に交互作用を認め、両群の介入後の値に有意な差を認めた。RFDはSST群で介入後に有意に低下し(介入前:238.5±61.6 Nm/msec、介入後:160.0±63.8 Nm/msec)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:215.0±88.5 Nm/msec、介入後:194.7±67.3 Nm/msec)。また、外側ハムストリングスのRMSは、SST群で介入後に有意に低下し(介入前:280.0±92.3 μV、介入後:253.9±97.0 μV)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:270.6±62.3 μV、介入後:258.9±67.1 μV)。内側ハムストリングスのRMSは、両群とも介入前後の値に有意な差を認めなかった。【考察】 本研究結果より、SST後には最大等尺性筋力、RFD、外側ハムストリングスのRMSの低下が生じるが、SST後に低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、これらの低下を抑制できることがわかった。先行研究にて、筋活動が低下した状態で30%MVCの等尺性収縮を負荷すると、筋紡錘の自発放電頻度が増加することが示されている。本研究では外側ハムストリングスのRMSの変化が最大等尺性筋力およびRFDの変化に同期していることから、SST後に低下した神経生理学的な興奮性が等尺性収縮の負荷によって高まり、筋パフォーマンス低下が抑制されたものと推察する。【理学療法学研究としての意義】 本研究から、理学療法士がスポーツ現場でウォームアップとしてSSTを行う際に危惧してきた筋パフォーマンス低下が、低強度・短時間の等尺性収縮により抑制できる可能性が示唆された。理学療法士が頻繁に行うSST効果に関する基礎的データの集積は、理学療法介入の科学的根拠に基づく理学療法介入の確立・進展につながるとともに、有効なSST実践に向けた方法論構築に寄与するものと考える。
  • 篠原 博, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 笹代 純平, 藤井 絵里, 森山 信彰
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】アーチェリー選手は弓を引く動作を反復することで肩関節痛を生じ,競技を行ううえで問題となる.スポーツ選手の肩関節痛の原因として,肩関節インピンジメント症候群(Shoulder Impingement Syndrome:SIS)が最も多いと報告されている(Jobeら,2000).Mannら(1990)は死体の肩関節にてアーチェリーの射的動作である内旋,屈曲,水平伸展運動を行うと棘上筋と上腕二頭筋長頭腱が烏口肩峰アーチに接触することを確認した.そのため,筆者らは肩峰下でインピンジメントが生じるSISを有するアーチェリー選手は射的動作で水平伸展運動にて疼痛が増悪する可能性があると考えた.しかし,SISを有するアーチェリー選手の射的フォームに関して肩関節の筋活動や関節角度を分析した報告はみあたらない. 本研究はSISを有するアーチェリー選手の射的動作時における肩関節周囲筋筋活動と上肢関節角度を健常な選手と比較し,違いを明らかにすることを目的とした.仮説としてはSISを有するアーチェリー選手では肩関節の水平伸展角度が小さく,三角筋後部線維の筋活動が低くなるとした.【方法】対象は男性アーチェリー選手30名とした.平均年齢17.6±1.7歳,身長169.9±3.7cm,体重61.2±9.2kg,BMI 21.2±3.4kg/m2であった.30名のうち,インピンジメントテストにて陽性となった7名をSIS群とし,残り23名から無作為に抽出した7名を健常群とした.課題動作は2m前方の的に向かい5射の射的を行うこととした.射的する直前の弓を最も大きく引いている時期の肩関節水平伸展,肘関節屈曲角度と,三角筋後部線維,上腕二頭筋,上腕三頭筋の筋活動量を表面筋電計(追坂電子機器社)を用いて測定した.反射マーカーをC7,右肩峰,右上腕骨外側上顆,撓骨茎状突起に貼り付け,5台のハイスピードカメラ(4 assist社)にて撮影した.得られた画像を動作解析ソフト(Dipp-motion XD,DITECT社)にて,3次元動作解析を行い肩関節水平伸展角度,肘関節屈曲角度を算出した.筋活動量の分析は矢を射る前1秒間の筋活動の積分値を解析に使用した.各筋の最大等尺性収縮で正規化し,%MVCで算出した.統計学的分析は対応のないt検定を使用し,関節角度と各筋の筋活動量を健常群とSIS群で比較した.危険率は5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】全対象に本研究の趣旨と方法を十分に説明し,書面にて同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号1172).【結果】肩関節水平伸展角度は健常群で152.2±6.1°,SIS群で138.2±16.8°となりSIS群の方が有意に小さい値を示した(p<0.05).肘関節屈曲角度は健常群で140.4±4.0°,SIS群で138.0±5.2°となり両群間に有意な差を認めなかった.三角筋後部線維の筋活動量は健常群で97.4±31.4%MVC,SIS群で112.5±42.6%MVCとなり両群間に有意な差を認めなかった.上腕二頭筋の筋活動量は健常群で38.0±29.1%MVC,SIS群で38.8±11.1%MVCとなり両群間に有意な差を認めなかった.上腕三頭筋の筋活動量は健常群で9.7±6.8%MVC,SIS群で20.7±14.2%MVCとなり両群間に有意な差を認めなかった.【考察】本研究の仮説通り,SISを有するアーチェリー選手は射的動作時の肩関節水平伸展角度が小さくなることが示された.Hawkins(1983)は,肩関節屈曲動作に内旋が加わることで烏口肩峰アーチ下のスペースが狭くなることを示している.アーチェリーの射的動作はSISが生じやすい肩関節挙上,内旋位から水平伸展運動を行う.そのため,SIS群はインピンジメントが生じる運動を避けるため,結果として肩関節水平伸展運動を減少させている可能性があると考える.射的動作は肩関節の水平伸展を行う動作であり,三角筋後部の働きが重要である(Leroyerら,1993).本研究でも三角筋後部線維の筋活動は100%MVC程度で,両群共に強い活動を示しているが,SIS群と健常群に差を認めなかった.活動量が同等にもかかわらず肩関節水平伸展角度に差が生じている理由として,SIS群の三角筋後部線維の筋力が低下している可能性が考えられる.今後は三角筋後部線維の筋力値も比較することで,SISを有するアーチェリー選手の射的フォームをさらに検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】SISを有するアーチェリー選手の射的フォームの特徴を捉えることで,実際のスポーツ現場でのインピンジメントの予防や改善を促すような指導が可能になる.本研究においてSIS群の射的フォームの特徴を見出したことは理学療法等の発展のために意義がある.
  • 木下 和勇, 岡田 恭司, 若狭 正彦, 斉藤 明, 木元 稔, 斎藤 功, 高橋 祐介, 瀬戸 新
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに・目的】 明らかな疲労骨折がなく、脛骨後内側縁の遠位1/3に、放散痛と不快感を伴う運動時痛がみられる病態を、シンスプリントと呼んでいる。シンスプリントは陸上競技やバスケットボールなど、下肢を酷使するスポーツで発生頻度の高い疾患であり、その発生要因は諸説ある。しかし、その中でも足関節の過回内により、長趾屈筋・長母趾屈筋・後脛骨筋に頻回な伸張ストレスが加わるためであるとする報告は多い。ところが、これらの報告は下腿踵骨角やアーチ高率などの足部の静的アライメントを指標としており、シンスプリントの症状発現場面である動的環境では検討されていない。 そこで本研究では足部の静的アライメントの他に、簡便に測定が可能で、下肢のアライメント異常の推定が可能とされている歩行時の足圧分布を測定し、シンスプリントを有するスポーツ選手と、シンスプリントが見られない選手間で比較検討することを目的とした。【方法】 対象は、本学の運動部に所属しているもののうち、シンスプリントがみられた成人6名(シンスプリント群、男性4名,女性2名、平均年齢20.7±3.4歳、平均体重58.8±8.2kg)の10脚と、シンスプリントが見られない成人5名(対照群、男性2名,女性3名、平均年齢19.0±1.1歳、平均体重58.2±5.3kg)の10脚とした。シンスプリント群、対照群ともに、対象者は1回3時間以上の練習に、週3回以上参加しているものであった。 被験者にF-scan2(ニッタ社製)の足底シートを挿入した靴で、前後に3mの助走路を設けた10mの段差のない歩行路を快適速度で歩行してもらい、足圧分布を計測した。測定靴には、足のサイズに適した運動靴(新日本教育シューズ社製、パワーシューズクレープソール)を使用した。足圧中心軌跡の湾曲の程度を表す指標として、足圧中心軌跡の開始点と終了点を結んだ線と、足圧中心軌跡との最大距離を足幅で除して最大振幅率を算出した。足底部を踵・ミッドフット・第1中足骨・第2中足骨・第3中足骨・第4中足骨・第5中足骨・母趾・第2趾・第3趾・第4,5趾の11領域に細分し、それぞれの領域で計測された荷重圧を、各領域の面積とそれぞれの体重で除し、領域別の接触圧力を算出した。なお計測は3回行って平均値を採用した。また、片脚起立時の下腿踵骨角も計測した。シンスプリント群と対照群の統計学的分析には、Mann-WhitneyのU検定を使用し、危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学倫理委員会の承認を得て実施した。またヘルシンキ宣言に従い、被験者には事前に本研究の目的、方法について十分な説明し、所定の書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 シンスプリント群の足圧中心軌跡は、対照群に比べ直線状で足部内側にあり、最大振幅率は、シンスプリント群で対照群に比べ有意に低値であった(7.47±1.91% vs 11.53±2.91%, p<0.01)。領域別の接触圧力はミッドフットで、シンスプリント群が対照群に比べ、有意に低値であった(0.64±0.18kg/cm²vs 0.93±0.35 kg/cm², p=0.02)。第1中足骨部では、シンスプリント群が対照群に比べ、有意に高値を示した(1.65±0.3 kg/cm²vs 1.27±0.34 kg/cm², P=0.03)。その他の領域の接触圧力は、両群間で有意差は認められなかった。また、片脚立位時の下腿踵骨角にもシンスプリント群と対照群で有意差は認められなかった。【考察】 シンスプリント群では対象群に比べ、接触圧力が第1中足骨部で有意に高値となり、ミッドフットで有意に低値となることで、足圧中心軌跡が内側に変移して直線状となり、最大振幅率が有意に低値を示していた。この一因として、歩行時の足関節の過回内が考えられる。その一方で、静的アライメントの指標である片脚立位時の下腿踵骨角には有意差が認められなかった。このことから、シンスプリントを有するスポーツ選手では、静的アライメントで異常がなくとも、歩行時には足関節の過回内が生じていることが示唆された。【理学療法研究としての意義】 シンスプリントでは動的なアライメントの評価が重要であり、簡便にアライメントも評価可能な足圧分布の測定は、臨床的に有用な方法だと思われる。シンスプリントを生じやすい競技者では、症状がなくても足関節の過回内に留意し、インソールやテーピングなどで矯正すれば、シンスプリントの発症を予防する効果が期待される。
  • 鏡視下Bankart法と鏡視下Bankart+Boytchev合併法を比較して
    鶴田 崇, 伯川 広明, 木村 淳志, 白濱 良隆, 三苫 桂嗣, 鳥越 健児, 緑川 孝二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 当院では反復性肩関節脱臼疾患に対して、鏡視下バンカート手術(以下A群)を施行している。しかし、ラグビー・アメリカンフットボール・柔道・空手などのハードコンタクトスポーツ復帰を強く望んでいる同疾患の場合は、鏡視下バンカート手術とボイチェフ手術(以下:B群)を施行している。今回は、A群・B群の術後の関節可動域の経過とスポーツ復帰時期を中心に検討した。【方法】 対象は、平成20年4月から24年8月まで当院を受診し、反復性肩関節脱臼と診断され、手術を選択した56例のうち、スポーツ復帰まで経過を追えたA群10例と,ハードコンタクトスポーツ復帰を目的にB群を施行した14例のうち、経過を追えた8例を対象とした。性別は、両群とも全例男性。平均年齢は、A群が28.8±9.9歳、B群が20.1±4.5歳。A群のスポーツ種目は、野球4例、ラグビー2例・柔道・スキー・水泳・フリークライムが各1例ずつ、B群はラグビー6例、柔道2例。方法は、方法は、術後3週~術後5ヶ月までの屈曲・外転・下垂外旋(以下外旋)・背側内旋(以下内旋)の可動域、スポーツ復帰時期を比較した。統計学的検討にはStatcel 3を利用し、プロトコールの比較はt検定・ウィルコクソン符号不順位和検定を用いた。可動域の治療経過は、繰り返しのある二元配置分散分析法・フリードマン検定及び多重比較検定を用い検討した。危険率は、5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。【結果】 治療開始時期は両群とも術後翌日からで、等尺性腱板運動はA群が術後約2.6日目、B群は術後約とも術後約3.8日目、肩甲骨周囲筋群運動はA群が術後約3日目、B群が4日目、他動運動は両群とも術後約19日目、等張性腱板運動はA群が術後約31日目、B群が約37日目とすべてにおいて有意差は無かった。肘関節伸展許可時期はA群が術後約2日目に対して、B群が約41日目と有意に遅かった。 術後5ヶ月の屈曲角度はA群が平均158°、B群は平均155°で両群とも術後3週と比較して有意に改善した。術後1ヶ月目はA群が130.5°、B群が113.8°、2ヶ月目はA群が平均141.7°、B群が平均125°とA群が有意に改善していた。他の時期において両群間に有意差は無かった。術後5ヶ月目の外転角度はA群が平均170°、B群が平均165°、外旋角度はA群が平均64°、B群が平均62.5°、内旋角度は両群とも平均約Th8であり,両群のすべての可動域角度は術後1ヶ月目と比較して有意に改善した。また、外転・外旋・内旋は、すべての時期において両群間に有意差はなかった. 両群とも術後約3ヶ月でウェイトトレーニングを開始し、A群の全例とB群の5例は約4月以降でアジリティートレーニング・アスレチックリハビリを開始し,約5~6ヶ月で試合復帰した。しかし、A群の2例はラグビーに復帰したが、再脱臼したので、ハードコンタクトスポーツ復帰を望む疾患には、現在B群を施行している。【考察】 ボイチェフ法は、合同腱のみを烏口突起とともに骨切り後、肩甲下筋の下を通して烏口突起再固定を行う術である。よって、烏口突起の骨癒合に伴い、肘関節伸展許可時期が変化するため、A群と比較して肘伸展許可時期が術後約41日と有意に遅く、術後1・2ヶ月の可動域低下に影響したと思われる。青柳らは、鏡視下バンカート法術後の競技復帰の時期は術後6ヶ月を目標に後療法を進めていると述べ、池田らは、ボイチェフ法及びボイチェフ黒田変法の術後4~6ヶ月で、ウィークエンドスポーツに復帰していると述べている。当院では、両群の筋力トレーニング開始時期や術後3ヶ月以降の関節可動域に有意差は無く、後療法の経過において双方に改善している。そのため、両群とも術後約3・4ヶ月目から競技特性に応じた治療が可能であり、競技復帰時期も相違なく5~6ヶ月で可能であったと考える。【理学療法学研究としての意義】 反復性肩関節脱臼を伴ったスポーツ疾患においてスポーツ復帰はゴールであるが、再脱臼に対する恐怖心が残存し、受傷前のスポーツレベルまで復帰するまでに時間と労力を要する。今回の研究において、両群の復帰時期は同一であった。よって、ハードコンタクトスポーツ復帰を目指す疾患に対しては、より強固な安定性が得られる手術と競技特性を考慮した治療・アプローチ選択が必要ではないかと思われる。
ポスター発表
  • ―超音波診断装置を用いた検証―
    竹原 圭祐, 濱田 大介, 土川 寛貴
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 側腹筋は外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋から構成され、脊椎の安定性に寄与している。これらの筋の運動制御と耐性の向上のためのエクササイズを教えることは、腰痛予防とリハビリテーションにとって重要である。実際に、臨床においてトレーニング対象となることが多い筋であるが、これらの筋に対するエクササイズは高齢者に対して実施する際には負荷の調整が難しい場合や、複雑な内容となる場合がある。また、運動方法を患者に理解させても、患者自身が容易に行えるような方法でなければ、継続して運動を行うことは困難である。 側腹筋は発声においても重要な役割を担っており、ある音程を一定の強さで発する場合、呼気筋である側腹筋の収縮が必要となる。近年、呼吸を利用した体幹筋のトレーニングについての報告は多いが、発声と体幹筋との関係についての報告は少ない。 今回、発声時の声の高さが側腹筋の筋厚にどのように影響を与えるのか超音波診断装置を用いて検証した。【方法】 対象は腰痛の既往のない健常男性4名(年齢平均25歳±4.2)で、側腹筋の筋厚は超音波診断装置(GE Healthcare社製LOGIQe)およびリニアプローブ(12MHz)を用い、検者間での差が生じないように、検者は1名とした。被験者をベッド上背臥位とし、通常の高さでの発声(以下通常時)、出来るだけ高音での発声(以下高音)、出来るだけ低音(以下低音)での発声をなるべく一定の声の大きさを保つように行わせ、筋厚(外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)を測定、比較した。計測する側腹筋の左右の選択、発声の順序はクジにて決定し、測定部位は腸骨稜と肋骨下縁の間で、床と平行な直線上とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者に対し、実験の目的および方法を十分に説明し、承諾を得た上で検証を行った。【結果】1.外腹斜筋通常時の筋厚は7.0±1.3mm、低音の筋厚は8.6±1.4mm(変化率128.3±21.5%)、高音の筋厚は8.4±1.8mm(変化率119.2±11.5%)であった。2.内腹斜筋通常時の筋厚は8.8±1.7mm、低音の筋厚は8.9±0.8mm(変化率103.2±13.3%)、高音の筋厚は11.0±2.7mm(変化率127.2±24.5%)であった。3.腹横筋通常時の筋厚は3.3±1.1mm、低音の筋厚は4.5±1.2mm(変化率148.8±73.4%)、高音の筋厚は5.4±1.0mm(変化率178.8±73.1%)であった。【考察】 今回の検証の結果、低音、高音ともに側腹筋の収縮が通常時と比較し向上した。特に、内腹斜筋、腹横筋に関しては、高い声を発声した時に筋厚が厚くなるという結果となった。 人間の発音や発声は、呼吸器系による空気が声帯ヒダの間を通る時に生じる声帯ヒダの振動によって生じる。音の高さと量は空気が声帯ヒダを通るときの速度と圧力に左右され、体幹筋の活動に左右される。音の高さは、内喉頭筋群により声帯ヒダが緊張し、声門裂が狭くなることによって生じる。また、呼気が声帯ヒダを通過する際の圧力もまた振動のパターンを変化させることになり音の高さに影響し、高い声を出すためには、呼気の圧力を増加させる必要がある。 つまり、高い声を出すためには、より呼気筋の収縮が必要となるため、低音よりも高音のほうが、側腹筋の収縮が強く生じたのではないかと考えられる。 側腹筋の収縮は、腹腔内圧を上昇させ、脊椎椎間の配列を整えるように作用する。配列が整うと、関節突起間関節の剪断力を最小限に抑えることが出来るため、腰椎の前後動揺が減少し、腰椎部での安定性が向上すると考えられている。 今回の検証においては、対象数の不足により、統計学的手法による検定が行えなかったことと、一般的な体幹筋トレーニング時の筋厚との比較を計測していないため、高声の発声のみで十分な体幹筋トレーニングと判断できるのか不明である。今後、問題点を修正し、検証を続けていく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 今回、発声時の声の高さが側腹筋の筋厚に与える影響について、超音波診断装置を用いて検証した。体幹の安定性に対する運動療法については、多くの報告がされているが、統一した見解は得られておらず、不明な点も多い。そこで、高い声を出すことで側腹筋が収縮し、体幹の安定性が向上することが示されれば、負荷も少なく、患者自身が継続して行いやすい運動方法の一つとなるのではないかと考える。
  • 腎生検後と鼠径ヘルニア修復術後について
    坂上 尚穗, 岩坂 憂児, 中江 秀幸, 相馬 正之, 武田 賢二, 山崎 健太郎
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 腹部臓器の切除や摘出ならびに移植など腹部術後の症例において,術直後は術創部の疼痛を訴えることが多く,咳,くしゃみ,喀痰など腹筋群の収縮を起こす動作では術創部の疼痛が増強する。その最中,主治医からの安静解除指示となり離床を促され,自力での起き上がり動作が強要される場面が多々あり疼痛ストレスは多大となる。腎生検と鼠径ヘルニア修復術など症例においても腹部術創部が3~5cm程度ではあるが,同様に術創部の疼痛を訴え,起き上がり動作等のADL上で疼痛が増強している。そこで我々は第47回日本理学療法学術大会にて腎生検後の症例24名に対し,起き上がり動作時の術創部の疼痛抑制を目的に,起き上がり動作時に呼吸(主に呼気)運動を取り入れて,その効果を調査し疼痛が有意に減少したことを報告した。 今回,腎生検後の症例を増やし,更に鼠径ヘルニア修復術後症例を加えて腹部術後における起き上がり動作時の術創部疼痛抑制に,呼吸(主に呼気)運動の効果を再調査したので報告する。【方法】 対象は腎生検後において術創部の疼痛を訴える78名(男性50名, 女性28名, 平均年齢47.2±19.4歳)であり,鼠径ヘルニア修復術において術創部の疼痛を訴える11名(男性10名, 女性1名,平均年齢68.6±15.0歳)であった。調査は手術の翌日または数日以内に主治医から安静解除の指示が出された後に実施した。方法として,対象にベッド上にて背臥位から端座位までの起き上がり動作を行なわせ,その際の術創部の疼痛について視覚的アナログ目盛り法(以下VAS)を用いて計測した。休憩後,なるべく同様の動作方法で呼吸(主に呼気)運動をしながら起き上がり動作を行うよう指示して,術創部の疼痛を同様にVASで計測した。起き上がり動作の際には側臥位となり,上肢はベッド柵を使用し支持することとした。統計処理にはt-検定を行い,有意水準を5%とした。【説明と同意】 本研究は仙台社会保険病院倫理審査委員会で承認され,対象にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の目的と内容および自由参加の旨を口頭および書面にて説明し,同意の署名を得た。また対象患者の主治医にも事前に許可を得て調査した。【結果】 腎生検後症例および鼠径ヘルニア修復術後症例の双方において、起き上がり動作における術創部の疼痛は呼吸運動が無い場合よりも呼吸運動がある場合において有意に減少した(p<0.01)。【考察】 通常の起き上がり動作において体幹の屈曲運動の際,腹筋群の収縮が求められる。腎生検および鼠径ヘルニア修復術とも腹筋群が切開され筋の侵襲を受けており,術創部の疼痛を引き起こすことが予想される。今回この2つの術式において,起き上がり動作に,主として呼気運動を促すことで腹腔内量を減少させ,それら腹筋群を弛緩させ張力を減少させたことが術創部の疼痛を抑制した要因と考えられた。しかし起き上がり動作の遂行において,呼気運動により腹筋群の張力を発揮困難な状況となり体幹を起こす力が減少することが考えられるが,その代わりにベッド柵を使用して上肢の支持量が増大させていたのではないかと思われる。 通常術後において安静解除直後に理学療法士が関わるのは少なく,その際に医師や看護師から術患者へアドバイスがあると術患者の起き上がり動作における術創部の疼痛が軽減され,ストレスの軽減が期待できる。今後更に胃・肝臓の手術や帝王切開など腹部正中切開する術後において,起き上がり動作時に呼吸運動を促すことで術創部の疼痛の軽減が図られることが期待でき,同様の調査が求められる。【理学療法学研究としての意義】 腹部術後の症例の起き上がり動作時に呼吸運動を取り入れることにより,術創部の疼痛が軽減できれば,離床が進み活動意欲の向上および廃用症候群の予防に貢献でき,早期退院へ寄与できる可能性がある。
  • 中西 智也, 橘 香織, 冨田 和秀, 水上 昌文, 居村 茂幸
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、腹横筋を始めとする体幹深層筋群の働きを向上させ、腰椎の分節的安定性を獲得することで、腰痛や動的な脊椎安定化に好影響であることが報告されている。腹横筋の収縮に関して、樋口(2002)、上村(2008)の超音波画像診断装置を用いた研究により、腹横筋の選択的収縮を伴う腹部引き込み運動(abdominal draw-in)を行うことで腹横筋の収縮が見られたことが報告されている。しかしながら、腹横筋の収縮は非日常的な運動であり、効率的な獲得方法を検討した研究は少ない。我々は、安静呼気(FRC)位から腹筋群を収縮させて呼気を行う腹圧呼吸(campbell 1955, 溝呂木1991)を繰り返しながら腹部引き込み運動を同期させることで、強制呼気で働くとされている腹横筋の活動が向上し、腹横筋をより収縮させることが可能であると仮説を立てた。本研究では、健常者を対象として、2種類の運動課題を課し、腹部引き込み運動の獲得の程度に関して、超音波画像診断装置による腹横筋筋厚の変化を観察し、その運動課題の効果を検証することを目的した。【方法】対象は健常男性18名、女性5名(年齢20.7±0.8歳)とした。腹横筋筋厚の測定はリニア型プローブを装着した超音波画像診断装置(本多電子株式会社製HS-1500)を用いてBモード法、空間分解能7.5MHzで測定した。腹横筋測定部位は村上ら(2010)の方法を参考とし,背臥位で臍レベルの水平線と左前腋窩線上の交点から前内方の部分とした。実験手順は、被験者を無作為に腹圧呼吸運動実施群(腹圧呼吸群)、腹部引き込み運動実施群(Draw-in)群の2群に分けた。腹横筋筋厚は被験者ごとに、安静時(Cont1)、1分間安静後(Cont 2)、各運動課題実施後の計3回測定した。測定時の条件を統一するため、最大限に腹部を引き込ませた状態で腹横筋筋厚の測定を行った。運動課題として腹圧呼吸群は吸気2秒、呼気4秒の腹圧呼吸を20回実施し、呼気時になるべく臍部がへこむよう指導した。Draw-in群は、臍部を引き込ませ、20秒間筋収縮を維持させる等尺性運動を2回実施した。統計学的処理は、各課題・各施行における腹横筋筋厚の平均値について、IBM SPSS Statistics Ver.19を用いて、二元配置分散分析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言及び厚生労働省の「臨床研究に関する指針」に沿って研究を計画・実施した。被験者には、本研究の目的と内容を説明し、同意を得た。【結果】腹圧呼吸群における腹横筋筋厚の平均(±SD)は、Cont1では6.5±1.6mm、Cont 2では6.3±1.8mm、腹圧呼吸課題後7.3±2.1mmであった。Cont 1-2間で有意差みられなかった。Cont 1-腹圧呼吸課題後、Cont 2-腹圧呼吸課題後間では有意な筋厚の増加が見られた(p<0.05)。Draw-in群ではCont 1は6.5±1.3mm、Cont 2は6.5±1.2mm、Draw-in実施後6.9±0.8mmであり、各施行間に有意差はみられなかった。なお、腹圧呼吸群とDraw-in群間には有意な差がなかったが、腹圧呼吸群の方が腹横筋筋厚が増加する傾向にあった。【考察】腹圧呼吸群において、課題実施後に有意な筋厚増加が見られた。一場ら(2002)は、吸気負荷増大時に頚部筋群、呼気負荷増大時に腹部筋群の活動が高まったことを報告している。呼気時に腹部筋群が活動する腹圧呼吸運動に加え、臍部をへこませる腹部引き込ませ運動を行わせたことにより,生理的な呼吸運動と同期させた腹横筋の収縮が繰り返され、より強度な腹部の引き込みが可能となったと考えられる。小泉(2009)は、体幹の安定性を得るためのトレーニング段階として、(1)胸郭・股関節の可動性を得る、(2)腹部引き込み運動による腹圧の獲得、(3)上下肢と連動、(4)無意識過での固定の順で実施することを提唱している。非日常的な腹部引き込み運動を学習するための練習課題として、腹圧呼吸練習を併用した腹部引き込ませ運動を用いることで、より強度な腹横筋の収縮が得られることが超音波画像より明らかとなり、我々の仮説は実証された。【理学療法研究としての意義】体幹の安定性を得るトレーニングの初期段階として、腹横筋の収縮を学習する段階において、本実験で用いた腹圧呼吸練習を併用した方法が有用である可能性が示唆された。
  • 飯田 開, 伊藤 匡佑, 大塚 千愛, 黒部 啓輔, 豊岡 桜子, 望月 久, 和田 祐一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年、体幹の安定性を維持する機能を持つ体幹深層筋の腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋などのインナーユニットに注目が集まっている。実際に腹横筋に着目した研究も多くみられるが、エクササイズ間の比較を行っているものは少ない。そのため本研究では、先行研究で腹横筋エクササイズとして紹介されている3動作を選択し、腹横筋筋厚を最も増加させるエクササイズを検討することを目的とした。【方法】対象は健常成人男女21名(男性10名、女性11名、平均年齢20.6±1.5歳)とした。対象者の筋厚の測定には、超音波画像診断装置My Lab25 (株式会社 日立メディコ)を使用した。測定モードはBモード、プローブは12MHzのリニアプローブを使用した。測定部位は先行研究を参考に肋骨弓と腸骨稜の中間の高さと中腋窩線との交点を基準にプローブ位置を決定した。測定対象は外腹斜筋(External oblique:以下EO)、内腹斜筋(Internal oblique:以下IO)、腹横筋(Transversus Abdominis:以下TrA)とし、測定肢位は安静背臥位、draw-in、Hand-Knee(以下H-K)右上肢挙上、H-K左上肢挙上、ストレッチポール上臥位の5条件で行った。測定手順として、安静背臥位にて両側のEO、IO、TrAを2回ずつ記録し、各エクササイズを無作為に決定した順番で実施し、安静呼気終末時に静止画を2回ずつ記録した。draw-inは肛門を閉めながらゆっくりと下腹部を引き込ませるよう指示し、H-K左右上肢挙上では脊柱を正中位で行うように指示した。記録した画像を同機器の画面上にて読み出し、画像処理ソフトを用いて0.1mm単位で計測し、数値は安静時筋厚を100%として増加率を算出した。draw-in、ストレッチポール上臥位は左右の数値を合算し平均値を算出した。H-K上肢挙上は右上肢挙上時の右TrAを挙上側、左TrAを支持側、左上肢挙上時の右TrAを支持側、左TrAを挙上側として、H-K挙上側とH-K支持側で分け値を合算した。算出した数値を一元配置分散分析、多重比較を用いて解析し、危険率5%未満をもって有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には倫理的配慮や研究内容などを説明し、同意を得たうえで研究を行った。【結果】超音波画像診断装置による各エクササイズの筋厚増加率は、draw-inではEO:99.0±19.0%、IO:126.5±23.9%、TrA:172.5±43.7%、H-K挙上側では、EO:93.5±29.4%、IO:111.5±27.3%、TrA:150.5±42.1%、H-K支持側ではEO:112.0±25.1%、IO:130.5±30.7%、TrA:132.0±31.3%、ストレッチポール上臥位では、EO:101.1±18.5%、IO:108.5±18.5%、TrA:112.0±18.1%であった。各エクササイズ間のTrAの筋厚を比較すると、draw-inとH-K支持側間(p<0.05)、draw-inとストレッチポール上臥位間(p<0.05)、H-K挙上側とストレッチポール上臥位間(p<0.05)で有意差が認められた。H-K支持側とH-K挙上側間(p>0.05)での有意差は認められなかった。【考察】draw-inとH-K支持側間、draw-inとストレッチポール上臥位間でのTrAにおいて有意差が認められた要因として、TrAの収縮様式の違いが挙げられる。draw-inは腹壁を引き込む動作であるため、TrAを随意的に収縮させることができる。それに対しH-K支持側のTrAでは、姿勢保持に必要とされる量のみの自動的な収縮であった。同様にストレッチポール上臥位は、安静臥位に比べ支持基底面が狭小し不安定性が生じる。そのためTrAは体幹と骨盤帯を固定する作用のみの自動的な収縮により、筋厚の増加に差が生じたと考察した。H-K挙上側とストレッチポール上臥位間でのTrAにおいて有意差が認められた要因として、各条件における支持基底面の大きさの違い、上肢の運動の有無が挙げられる。どちらの課題もTrAは姿勢保持作用として働いているが、各条件下での負荷に対する保持に必要な量が異なるため筋厚の増加に差が生じたと考察した。一方、H-K支持側とH-K挙上側で有意差は認められなかったが、支持側EO、IOと挙上側TrAがより働く傾向がみられた。胸椎部を上部体幹、腰椎部を下部体幹と規定すると、右上肢挙上時の上部体幹は左回旋、下部体幹は右回旋方向にストレスが生じる。そのため、左EOと左IOの活動が高まったと考えた。挙上側では支持基底面を失うことで体幹の不安定性が生じる。そのため右TrA は体幹の剛性を高めたと推察される。筋厚の増加にこのような傾向がみられたのは、上記のような運動対応の違いによるものと考えた。【理学療法学研究としての意義】理学療法において対象者に即した治療プログラムを実施することが重要である。そのため最適かつ効果的な腹横筋エクササイズを行うためには、エクササイズの特徴を理解し、対象者の能力やその目的に合わせて選択すること、また肢位や負荷量を段階的に設定することにより、質の高い理学療法を提供できるものと考えている。
  • ~超音波診断装置Real-time Tissue Elastographyを用いて~
    村上 幸士, 齋藤 昭彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年、臨床場面やスポーツ分野において体幹の安定化を目的とした体幹深部筋群のトレーニングやそのメカニズムを解明するための研究が注目されている。その中で、リアルタイムに深部組織を確認できる超音波診断装置を用いた腹横筋・多裂筋の筋厚測定や腹横筋・胸腰筋膜移行部の滑走(胸腰筋膜の変化)測定を行う研究などが報告されている。しかし、腹腔内圧の増加に関連がある腹横筋の収縮に伴う筋の硬さの変化をとらえる研究は少ない。今回使用したReal-time Tissue Elastographyは、組織弾性をリアルタイムに映像化する撮像法であり、乳腺などの診断に使用され、筋硬度の測定にも使用され始めている。本研究の目的は、健常者における腹横筋の筋厚と筋硬度を安静時と収縮時において比較し、その変化を明らかにすることとした。【方法】研究に対して、同意を得られた健常男性12名(21.8±3.8歳)を対象とした。超音波診断装置(日立メディコ社製HI VISION Preirus)を用いた撮像は、臍レベルに統一し、腹部周囲にマーキングを行い、画像での確認をもとに最終的なプローブ(9-4MHz、リニア形EUP-L73S)位置を決定した。また、プローブと皮膚との間に、Ultrasound Gel Pad(SONAGEL)を挿入した。撮像肢位は背臥位とし、安静時および収縮時ともに皮膚、外腹斜筋の筋膜、内腹斜筋の筋膜、腹横筋の筋膜が平行となるように撮像した。この時、腹横筋の収縮は、口頭指示および対象者からも確認できる超音波画像による視覚的フィードバックを用いて行った。なお、すべての測定は左側および右側から行い、無作為に実施した。記録した動画より静止画像を抽出した。安静時および収縮時の腹横筋筋厚は、浅層の筋膜と深層の筋膜をそれぞれ垂直に結んだ線上の距離を測定した。さらに、Real-time Tissue Elastographyを用いて、腹横筋の筋硬度を測定した。測定は、Strain Ratio計測を用い、一定の硬さであるUltrasound Gel Padを基準とし、安静時と収縮時の腹横筋筋硬度を算出した。この時、プローブの圧は、Strain graphを用いて一定にした。これらの測定結果に対し、t検定を用いて、安静時と収縮時を比較した。統計処理はSPSS version 16.0J for Windowsを用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】得られたデータは研究責任者が責任を持って管理し、倫理的な配慮や研究内容・目的・方法および注意事項などを記載した研究同意書を作成した。この研究同意書を元に、個別に研究責任者が被験者に対し説明を行い、被験者が十分に研究に対し理解した上で必ず同意を求め、直筆での署名を得た。【結果】腹横筋の筋厚は、左側、右側ともに、安静時と比較して、収縮時は有意に厚さが増加していた。また、腹横筋の筋硬度は、左側、右側ともに、安静時(Strain Ratio:30.2)と比較して、収縮時(Strain Ratio:11.3)は有意に硬さが増加していた。【考察】腹横筋は、両側性の収縮が起こることで、腹横筋および筋膜で構成される腹部における深部の内径は小さくなり、腹腔内圧が高まると報告されている。腹腔内圧が高まるためには、収縮した腹横筋自体の筋硬度の増加も必要であると考え、測定を行った。また、骨格筋は収縮することで安静時と比較して筋硬度は増加すると考えられるが、深部に位置する腹横筋でも同様に増加するかは不明であった。今回、超音波診断装置Real-time Tissue Elastographyを用いることで、従来測定が難しかった深部に位置する筋である腹横筋の筋硬度を測定することが可能であった。本研究の結果、腹横筋の筋厚増加とともに、腹横筋の筋硬度増加を確認することができた。よって、深部に位置し、腹部を横断的に走行している腹横筋も他の骨格筋と同様に収縮時は安静時と比較して、筋の硬さが増加することを明らかにできた。これは、腹腔内圧の向上のために必要な腹横筋の筋収縮の確認をする時に、筋厚に加え、筋硬度まで測定することでより筋活動を明らかにすることができると考えられる。今後、腹横筋筋厚の測定を行う時に、腹横筋の筋硬度も合わせて測定する有用性が示された。【理学療法学研究としての意義】最近では、超音波診断装置を用いた腹横筋や多裂筋などの体幹深部筋を測定する研究が注目されている。しかし、筋活動の有無を調べる際に筋厚を測定する研究は多くみられるが、超音波診断装置Real-time Tissue Elastographyの利点である筋や組織の硬度を測定する研究は少なく、これらの測定は意義があると考える。今回実施した筋硬度の測定において、腹横筋の収縮時に、安静時と比較して筋の硬さが増加することを明らかにできた。今後、超音波診断装置を用いて腹横筋の筋厚や滑走を測定する時に、加えて、腹横筋の筋硬度も測定および分析することは、脊椎の安定性を考える上で有用である。これらは、理学療法学研究としての意義があると考えた。
  • 回復期病棟入棟時と退棟時における検討から
    田中 陽理, 片岡 英樹, 西川 正悟, 中尾 優子, 吉村 彩菜, 山下 潤一郎, 沖田 実
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】骨粗鬆症性骨折のなかでも,脊椎圧迫骨折(vertebral compression fracture:以下, VCF)は最も頻度が高く,急性腰背部痛を主訴として発症する.VCFに対しては,安静臥床や薬物療法,装具療法といった保存的治療が頻繁に施行され,日常生活動作(Activity of daily living;以下,ADL)や身体活動量の向上を目的にリハビリテーションを進めていくのが一般的である.また,VCFに伴う腰背部痛は1~2カ月で軽減するとされるが,実際は痛みが消失するケースから強い痛みが残存するケースまで腰背部痛の残存状況は様々である.さらに,VCF後の腰背部痛とADLや身体活動量との関係性については明らかでなく,VCF後のリハビリテーションにおいて腰背部痛の軽減のみに固執しすぎるとADLや身体活動量の獲得が不十分となる可能性がある.そこで,本研究では新鮮VCF患者における腰背部痛,ADL,身体活動量に対するアプローチを進めるうえでの基礎的なデータを得ることを目的に回復期病棟入棟時と退棟時においてこれらの関係性を検討した。【方法】対象は2012年3月から10月までに当院回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)に入棟し保存的治療を施行した新鮮VCF患者63名のうち,以下の条件を満たした23名(平均年齢82.04±7.44歳,男性7名,女性16名)とした.対象とした条件は,HDS-Rの得点が20点以上の非認知症であること,歩行時痛の発生部位が腰背部のみであること,退棟時に院内歩行が補助具の有無にかかわらず完全に自立していることとした.対象とした23名のVCF受傷から回復期病棟入棟までの平均日数は19.48±13.45日,退棟までは45.96±18.20日であった.調査項目は1)歩行時の有痛者率2)歩行時痛のvisual analog scale (VAS),2)functional independence measure (FIM),3)身体活動量とした.身体活動量は加速度センサー内蔵型消費カロリー測定器であるライフコーダー(Suzuken)を対象者の骨盤部に24時間装着することで測定した.なお,今回はライフコーダーにより測定される歩数を身体活動量として採用した.分析にあたってはVAS,FIM,歩数を入棟時と退棟時で比較した.また,入棟時,退棟時におけるVASとFIMならびに歩数との関係について検討した.さらに,退棟時の歩行時痛の有無により対象者を群分けし,両群間でFIMと歩数を比較した.統計学的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本調査は対象者に目的を説明した後,同意の得られた者に対して行なった.また,分析にあたっては当院が定める個人情報取り扱い指針に基づき実施した.【結果】入棟時,歩行時痛は20名(86.9%)が訴えていたが,退棟時では11名(47.8%)となり有意に減少していた.また,入棟時に比べ退棟時ではVASは有意に減少し,FIMと歩数は有意に高値を示した.入棟時において,VASとFIMに関連は認められなかったが,VASと歩数には負の相関関係が認められた.一方,退棟時おいてはVASとFIMならびにVASと歩数はともに有意な関連は認められなかった.次に,退棟時の歩行時痛の有無により,FIMや歩数を比較した結果,歩行時痛有り群と無し群の間に有意差を認めなかった.【考察】今回の結果,入棟時に比べ退棟時のVASが減少したことから退棟時ではVCFにともなう急性痛が軽減したことが伺える.また,FIMや歩数の入棟時と退棟時の比較から,VCFに伴うADLや身体活動量の低下が改善したといえる.次に VASとFIMは入棟時,退棟時ともに有意な関連を認めず,退棟時の歩行時痛の有無で検討しても有意差は認められなかった.このことから,VCFに伴う腰背部痛はFIMにより評価されるような基本的なADLに影響を与えないことが示唆された.次に,VASと歩数に関しては,入棟時では関連が認められたものの,退棟時では関連がなく退棟時の歩行時痛の有無で検討しても歩数に有意差は認められなかった.以上の結果からVCFの早期では腰背部痛の軽減に対するアプローチとともに身体活動量を向上させるプログラムを進める必要があるものと考えられた。一方,身体活動量が改善してくれば,腰背部痛が残存していてもこれに固執しすぎず身体活動量の維持・向上を主眼としたアプローチを進める必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究はVCF患者の腰背部痛とADL,身体活動量の関係性が時間経過とともに変化することを客観的に提示しており,VCF患者におけるこれら3者に対するアプローチを進めるうえで参考となる基礎的なデータとして意義深いと考える.
  • 岩佐 志歩, 館 博明, 庄野 泰弘
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 脊椎圧迫骨折における保存療法は、画像所見で骨折の程度を把握し急性期の安静臥床後、患者の状態に応じてコルセットを装着しリハビリテーション(以下、リハビリ)が開始される。当院においても、患者の状態に応じて離床しリハビリによってADLの拡大に取り組んでいる。しかし、離床から退院に至るまでの歩行獲得経過に不明な点も多い。今回、当院における脊椎圧迫骨折患者の離床と歩行獲得経過について検討を行った。【方法】 2009年1月から2012年3月までに入院加療した65歳以上の脊椎圧迫骨折患者45名(平均82.0±6.6歳)を対象とした。入院前は全例自宅で生活し、歩行は独歩もしくは伝い歩きであった。退院時の歩行レベルによって歩行自立群(自立群:27名)と歩行介助群(介助群:18名)に分類し、年齢、受傷椎体、受傷椎体数、圧潰率、コルセットの種類、離床までの期間、リハビリ開始までの期間、歩行開始までの期間、入院期間、リハビリ開始時の歩行能力、リハビリ開始2週目の歩行能力、退院時の歩行能力、退院時の転帰先につき電子カルテより後方視的に比較検討した。なお、歩行レベルは車椅子、歩行器歩行、杖歩行(介助)、杖歩行(自立)、独歩の5項目に分類した。また、統計処理にはunpaired t-testとカイ二乗検定を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、個人が特定されないように個人情報の保護に配慮して検討を行った。【結果】 受傷椎体数(自立群:1.6±1.1椎体 vs 介助群:3.1±2.4椎体 p<0.01)、離床までの期間(自立群:1.7±2.3日 vs 介助群:3.9±4.8日 p<0.05)、歩行開始までの期間(自立群:5.9±4.7日 vs 介助群:11.2±6.2日 p<0.01)、入院期間(自立群:34.5±16.3日 vs 介助群:46.0±15.9日 p≦0.01)、に有意差があった。年齢、受傷椎体、圧潰率、コルセットの種類、リハビリ開始までの期間、リハビリ開始時の歩行能力に差はなかった。リハビリ開始2週目の歩行能力は、自立群では杖歩行(介助)が多かったのに対し、介助群では歩行器歩行が多かった(p<0.05)。退院時の歩行能力は、自立群では杖歩行(自立)以上であったのに対し、介助群では杖歩行(介助)が多かった(p<0.05)。転帰先は、自立群では全例自宅退院したのに対し、介助群では大部分が回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期)への転院を要した(p<0.05)。【考察】 当院の傾向として、受傷椎体数が少なく早期離床が可能であった患者は、リハビリ開始前より病棟での歩行を開始していたためリハビリ開始と同時に積極的な歩行練習を行うことが可能であり、リハビリ開始2週目には杖歩行(介助)、退院時には杖歩行(自立)もしくは独歩で自宅退院した。また、入院期間も短かった。それに対し受傷椎体数が多く離床までに時間を要した患者は、リハビリ開始後から歩行練習を行い、リハビリ開始2週目には歩行器歩行、退院時には杖歩行(介助)と歩行獲得までに時間を要したため回復期へ転院となった。受傷椎体数、離床までの期間、リハビリ開始2週目の歩行能力は、退院時の歩行レベルや転帰先、入院期間の指標になると考えられる。今後は、離床や歩行獲得までの経過に疼痛や併存疾患などがどのような影響を及ぼしているのかを含めて検討を重ねていきたい。【理学療法学研究としての意義】 脊椎圧迫骨折の保存治療は、安静臥床後、リハビリテーションによってADLの拡大を目指すのが一般的であるが、離床から歩行獲得経過に不明な点が多かった。歩行獲得までの経過を明確にすることで、患者の歩行レベルや転帰先を早期に予測する判断材料となり得る。
  • 川鍋 和弘, 指本 一正, 石井 陽峰, 篠原 淳, 依田 克也, 宮川 さゆり, 渡邊 直樹, 関田 真透, 嶌野 敦子, 川島 明, 岩 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】椎体骨折は最も頻度の高い骨粗鬆症骨折であり、わが国では70歳代前半の25%、80歳以上の43%に認められる。椎体骨折は疼痛、脊柱アライメント変化によるADL・QOLの低下、さらに消化器・呼吸器系の機能障害など様々な障害を招く。今回、我々は非外傷性多発性椎体骨折の特徴を知ることにより、椎体骨折の予防策を明らかにできないかと考え、調査を行った。【対象および方法】対象は当院を受診し、調査に同意を得られた閉経後骨粗鬆症患者27名(平均年齢:78歳、範囲:65~92歳)である。方法は1)評価表を作成し他記式の質問紙法にて骨折時の状況・現病歴・生活習慣の調査、2)脊椎X線写真による椎体骨折の評価(semi-quantitative assessment:SQ評価法)、3)CM-100による踵骨超音波骨量測定を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】本臨床研究の目的を患者に十分に説明し、患者の自由意思による同意を口頭にて行った。【結果】<初回骨折時の状況(複数回答可)>1 気づかないうちに骨折(原因不明)21名 2 重い物を持ち上げたとき 7名 3 シャッター・ドアを閉めたとき 2名 4 マッサージなどを受けた後 2名 その他:掃除・草取り・椅子に座ったとき・介護・手をのばした時など・・・<平均椎体骨折数>3.3個3個以上の椎体圧迫骨折患者の37%は1年以内に2個目の新規椎体骨折を発症。<初回骨折時レントゲSQ評価>Grade I(軽度変形)8名 Grade II(中等度変形)4名 Grade III(高度変形)6名 Grade判別不可: 9名(初回複数骨折などのため)<骨量>骨粗鬆症(1479 m/s未満)14名 骨量減少(1470 m/s以上、1501 m/s未満)8名 正常(1501 m/s以上)1名<現病歴・生活習慣>1 現病歴・腎機能障害 74% ・高血圧 48% ・脂質代謝異常 33% ・糖尿病 22% ・心疾患 22% 2 過去に骨粗鬆症治療薬を服用したことがある者 5/27名 3 ステロイド使用者 0/27名 4 過去の運動習慣(~20歳頃まで) 習慣あり 1/27名 ・習慣なし 26/27名 5 飲酒あり 5/27名 ・なし 22/27名 6 喫煙あり 1/27名 ・なし 26/27名【考察】1 非外傷性椎体骨折患者は、骨強度が著しく低下しているため新規椎体骨折を発症する可能性が高い。特に3個以上の椎体骨折を有する患者の37%は初回骨折から1年以内に2個目の新規椎体骨折を起こしており1年以内に2個目の骨折を発症した患者は多発性椎体骨折を発症する可能性が高い。2 初回椎体骨折時SQ Grade I・IIの軽度な骨折においても骨強度が著しく低下している可能性がある。また、骨量においては「骨量減少・正常」が39%存在し、骨量・レントゲンのみで骨強度を判断することには注意が必要である。このため、腎機能障害・糖尿病・高血圧などの現病歴・生活習慣を考慮しながら総合的に治療法・治療薬を検討していくことが重要である。3 理学療法(徒手療法・運動療法)を行う上では、骨折の危険性を念頭に入れ胸・腰椎への過剰なストレスをかけないように注意しながら実施することが必要である。また、日常生活においても胸・腰椎への過剰な負担を減らすための患者への生活指導も重要となる。4 今回の研究では喫煙の影響は認められなかった。運動習慣においては、過去に運動習慣がない患者が多かった。【理学療法学研究としての意義】骨粗鬆症による骨折を予防し、生活の質を維持・改善することは理学療法士としての責務の一つである。今回の調査結果を念頭に置いたうえで、理学療法を実施していくことが肝要と考える
  • 宮原 小百合, 河野 めぐみ, 木本 龍, 篠原 竜也, 渡邉 昌, 常住 美佐子, 宗村 浩美, 菅原 成元, 輪座 聡, 遠藤 洋毅, ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】腰椎後弯症は、脊柱矢状面のアライメント異常によって、強い腰痛、間欠性跛行様の歩行障害、立位保持困難、呼吸障害、逆流性食道炎、外見上の問題などをきたす疾患である。従来保存療法が主体であったが、近年、保存療法では症状が改善しない場合に変形矯正固定手術が選択され、当施設ではその術式としてPSO(pedicle subtraction osteotomy)を施行している。椎体を楔状に短縮骨切りすることで30°程度の前弯矯正が期待でき、侵襲の大きさや合併症が少なくないが、手術手技の向上や高齢化に伴って症例数が増加している。一方、腰椎後弯症の周術期リハビリテーションについての先行研究はない。今回、PSOにおける周術期の経過を調査し、リハビリテーションアプローチについて考察したので報告する。【方法】2008年11月から2012年10月に、腰椎後弯症に対してPSOを施行された28症例を対象とした。診療録から、立位X線像(側面)にて腰椎前弯角(第12胸椎椎体下縁と仙椎上縁のなす角)、SVA(sagittal vertical axis:第7頸椎の垂線から仙骨後壁上縁までの距離)を、臨床所見として術前および退院時の歩行時腰痛(VAS100mm法)、膝伸展筋力(microFETにて測定、左右の平均)、6分間歩行試験(6MD)を、リハビリテーション経過として離床開始および病棟での歩行器歩行自立までの期間を調査した。病棟での手放しまたは杖歩行自立を達成できた症例を達成群、達成できなかった症例を未達成群として比較検討した。統計的検討にはχ二乗検定、対応のないT検定、対応のあるT検定を用いた(有意水準5%)。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の目的、発表時の匿名化について口頭にて説明し、同意を得た。【結果】全例、術前は手放しまたは杖歩行で自宅内ADLは自立しており、自宅退院していた。達成群は16名(男性3名女性13名、64.4±9.4歳)、非達成群は12名(男性3名女性9名、68.9±6.4歳)であり、年齢、性別に有意差はなかった。腰椎前弯角は達成群で術前5.1±14.6→術後38.0±10.3°、非達成群で2.7±16.1→37.7±10.4°、SVAは達成群で9.8±7.4→5.9±4.3cm、非達成群で11.2±7.6→8.4±6.1cmであった。二群間の比較では術前、術後の腰椎前弯角、SVAにはいずれも有意差はなかった。術前後の比較では非達成群のSVA以外は有意な改善を認めた。歩行時腰痛は達成群で術前平均52.6mm→退院時平均48.0mm、非達成群で51.8→1.0mmであり、また膝伸展筋力は達成群で1.19→0.92Nm/Kg、非達成群で0.79→0.78Nm/Kgであり、術前の筋力は非達成群で低下していた。6MDは達成群で289.6→334.2m、非達成群191.2→111.0mであり、術前、退院時とも歩行能力は非達成群で低下していた。離床開始までの期間は達成群4.4±1.8日、非達成群5.8±1.4日、歩行器自立までの期間はそれぞれ13.0±5.2、25.3±13.6日、術後入院期間はそれぞれ34.0±9.9、49.8±25.6日であり、いずれも非達成群で有意に長かった。【考察】両群とも手術によって腰椎前弯角度は平均30°以上と大きな改善を認めたが、7cm以内が理想とされるSVAは非達成群では統計的な改善を認めなかった。一方、術前の下肢筋力、歩行能力は非達成群で低下がみられ、術後も歩行能力改善が遅延していた。よって、非達成群のような歩行能力改善が遅延し入院が長期化する症例は、術前から筋力低下によって歩行能力が低下していることが推察され、そのため後弯が改善し痛みが軽減しても歩行能力改善には至らなかったと考えられる。また、膝伸展筋力が低下していることから体幹や股関節伸展筋力も低下していることが予測され、前弯角の改善がSVAの改善に結びつきにくい可能性が示唆された。歩行練習のみならず適切な筋力強化を中心としたアプローチや、高齢要因も加味した活動設定が重要と考える。本研究の限界として、術後の臨床所見は退院時に測定しているため評価時期にばらつきがあり、特に達成群では手術による侵襲そのもの影響が残存している可能性があることや、長期的な結果をふまえて検討を加える必要性があることが挙げられる。今回の研究を、予後予測についての評価方法の確立や重症度に応じたアプローチ方法の検討につなげていきたい。【理学療法研究としての意義】腰椎後弯症に対するPSOにおける周術期の臨床経過と理学療法アプローチの重要点を提示した。
  • 細野 健太, 田島 進
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】思春期特発性側弯症(Adolescent Idiopathic Scoliosis ;AIS)の治療は、観血的治療より装具や運動療法などの保存療法が主体となっている。一般に、保存療法はCobb角が20°未満に対しては運動療法とADL指導を行い、可能な限り脊柱変形の進行を予防することが大切である。AISは進行性の疾患であるため、経過に関する長期的なデータは重要と思われる。本研究の目的は運動療法を5年間継続して実施した症例について治療経過を示し、Cobb角、身長、体幹筋力、体幹関節可動域の推移について検討した。【方法】症例は当院に通院する特発性側弯症と診断された当初8歳(現在14歳)の女子で身長は144.0cm、体重は32.0kg、BMIは16.3kg/m²、利き手は右手である。運動習慣として水泳を7歳から週1回行っている。レントゲン所見はTh9-L4が左凸のシングルカーブを呈しており、Cobb角は6°であった。立位姿勢では左肩峰の高さが右側に比べて約1横指高く、前屈検査では凸側へのrib humpを認めた。Risser signはgrade 0であった。今回は弯曲の進行予防を行い、装具装着に至らないようにすることを目的として運動療法を開始した。運動療法は自宅で行うホームエクササイズを主体とし、内容は側弯体操を毎日約20分間実施するよう指導した。側弯体操は八幡ら(2001)の方法をもとに、8種類の運動を5年間に渡って継続して指導した。定期的な検査を月に1回実施し、体操の方法の確認と身体機能の評価を行った。身体機能の検査項目は体幹屈曲・伸展筋力、体幹側屈・回旋可動域、指床間距離(FFD)とした。体幹筋力の算出はGT-350(OG技研)を用い、等尺性の最大筋力を測定し体重で除した値とした。効果判定は各項目において開始時と5年後を比較し、運動療法の効果を確認した。【説明と同意】対象と保護者に十分に説明を行い、紙面にて内容の公表について同意を得た。本研究は田島医院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号131)【結果】ホームエクササイズの実施頻度は平均週5回程度実施していた。開始時の体幹側屈可動域は右側40°、左側30°、回旋は右側45°、左側40°であった。体幹筋力は屈曲9.0N/kg、伸展9.7N/kgであった。FFDは-21.0cmであった。5年後の身長は159.3cm(+19.3 cm)、体重は46.0kg(+14.0 kg)、BMIは18.1kg/ m² (+1.8kg/m²)であった。レントゲン所見としてRisser signはgrade 0からgrade 3となり、Cobb角は11°(+5°)に増加した。さらに、立位姿勢も左肩峰の高さが右側に比べて約2横指高くなった。また、体幹側屈可動域は右側45°(+5°)、左側45°(+15°)、回旋は右側50°(+5°)、左側45°(+5°)とそれぞれ拡大した。FFDは±0cm(+21.0cm)と向上した。体幹筋力は屈曲9.3N/kg(+7.7%)、伸展12.3N/kg(+26.8%)とそれぞれ向上した。【考察】AISの治療効果を確認するために5年間の運動療法を行い、本症例は5年間でCobb角が6°から11°へと5°の増加を認めた。AISの治療効果の判定はCobb角の変化によって捉えられており、Cobb角6°以上の増加が「悪化」と定義されている。身長の伸びとCobb角の関係では、身長1cmあたりの伸びに対してCobb角が0.5°進行すると報告されており、本症例でも身長が19.3cm増加したことが変形の進行に影響したと思われる。しかし、今回は5年間で身長は19.3cm増加したにも関わらず、Cobb角は5°と増加は比較的小さかったことから運動療法の影響があると考えた。体幹筋力は明らかに向上しており、運動療法を行わなかった場合さらにCobb角は悪化していたものと考えられ、体幹筋力の向上がCobb角の増大の制限に影響したと考える。また、本症例ではホームエクササイズを平均週5回程度実施したことや運動習慣として水泳を継続したことも体幹筋力の向上に関与したと考える。AISは運動療法を途中でやめてしまう症例があり、気付いた時には増悪しているケ-スも少なくなく、AISでの課題の一つになっている。片山らは自宅での運動療法を開始時から7ヶ月間に渡って毎日継続することができた者は、わずか23.5%しかいなかったと述べており、対象は現在Risser signでgrade 3のため、今後成長が続く可能性が高く、さらに追跡調査をして弯曲の進行を食い止めたいと考える。AISは進行性の疾患であるが、継続的な運動療法により5年という長期間にわたって症状を示すことができた。【理学療法学研究としての意義】Cobb角、身長、体幹筋力、体幹関節可動域など、さまざまな点からAISの長期的な変化を観察して示すことができたことは理学療法上の意味が大きいと考える。
  • ‐頸部伸展筋評価の再現性と妥当性の検証を含む‐
    小島 彰子, 鈴木 智善, 深津 崇行, 髙島 公平, 前山 恵子, 村上 将, 野嶋 治, 大井 雅也, 淵脇 圭史, 太田 進
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】頭部前方偏位は臨床において高齢者で多くみられ頭頸部痛や嚥下障害,そして転倒とも関連が強いとされている.頸部軽度伸展位で得られた伸展筋力と頸部伸展筋群断面積および頸部周囲径との間に関連がみられたとの報告はある(Tsuyama,2000)が,姿勢(頭部前方偏位)と頸部伸展筋との関連は十分に検討されていない.そこで本研究の目的は,頭頸部角度,頸部伸展筋群断面積,頸部周囲径,頸部伸展筋力の再現性および各項目間の関連を検討することとした.【方法】対象は健常女性10名(28.8±6.4歳)である.対象者には頭頸部姿勢評価・頸部MRI撮影 (同一診療放射線技師にて撮影)・頸部周囲径測定・頸部伸展筋力測定の4項目を課した.立位姿勢における頭頸部姿勢評価ではデジタルカメラ(Casio社製)の位置を撮影位置から3m離しカメラの高さは床から90cmとした.対象者が注視するための印を前方の壁へ立位時の眼部の高さにつけた.対象者には外耳道と第7頸椎にマーカーをあてた.立位姿勢にて壁の印を注視した状態で5秒間3回撮影し二次元動作解析装置(ToMoCo-Lite 東総システム社製)を用いて外耳道と第7頸椎を結ぶ線と床と平行線のなす角度の平均値を算出した.MRI撮影は第4頸椎と第5頸椎の横断面で第4頸椎椎体に平行となるよう設定した(Tsuyama,2000).得られた画像から頸部伸展筋群である頭半棘筋・頭板状筋・肩甲挙筋・頭最長筋・頸最長筋・斜角筋・回旋筋群・多裂筋・頸半棘筋・僧帽筋の筋断面積を計測(Konica Minolta社製)した.頸部周囲径測定は座位にて,頭部を外耳道の上縁を通り眼窩下縁から後頭骨に引いた線が水平線と一致する位置とし,メジャーの上縁を喉頭の突出部で頸部の長軸に対し垂直にあて3回の平均値を算出した(Fuzita,1982).頸部伸展筋力測定は背もたれのある椅子に股・膝関節が90度になるように座り,頸部中間位にて背部を検者が徒手にて固定しhand-held dynamometer(Hoggan社製)を頭部へ垂直にあて2回計測し平均値を代表値とした.研究実施に先立ち各評価項目の検者内再現性を,級内相関係数(以下ICC)を用いて検討した.尚,MRIの検者内再現性は1度の撮影の同一画像から面積を算出した.ICCは,それぞれ頭頸部角度(1,3),頸部伸展筋群断面積(1,1),頸部周囲径(1,3),頸部伸展筋力(1,2)にて求めた.各項目間の関連はピアソンの相関係数にて算出し,有意水準は危険率0.05未満とした.【説明と同意】対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】ICCはそれぞれ頭頸部角度(0.92),頸部伸展筋群断面積(0.94),頸部周囲径(0.99),頸部伸展筋力(0.55)であった.各計測項目の平均値(SD)は頭頸部角度平均値52.8度(4.0),頸部伸展筋群断面積1972.0mm²(187.9),頸部周囲径30.3cm(1.7),頸部伸展筋力47.1kg(14.8)であった.各項目間の相関係数では頸部伸展筋群断面積と頸部周囲径は(r=0.70, p<0.05)で有意な相関が認められたが,頸部伸展筋群断面積と頸部伸展筋力には(r=0.47)で有意な相関は認められなかった.一方,頭頸部角度と頸部伸展筋との関連はそれぞれ頸部伸展筋群断面積(r=-0.14),周径(r=0.13),頸部伸展筋力(r=0.47)で有意な相関は認められなかった.【考察】再現性の検討より本計測方法のうち頸部伸展筋力は,臨床応用可能な結果とはならなかったが,その他の計測項目はICC0.75以上と良好な再現性(Portney, 2000)が得られた.頸部伸展筋力の真の値としてMRIの頸部伸展筋群断面積の妥当性を検討したところ頸部周囲径にて良好な結果となり,本研究対象である健常若年女性の結果であるが,頸部伸展筋断面積は,頸部周径を評価することが有用と考えられた.頭頸部角度は先行研究より,健常女性にて49度から52度との報告がある(Raine,1997).本研究の対象者は平均52.8度と類似の結果であり,健常若年女性を対象としたため頭頸部角度のばらつきが小さく(変動係数:4.00/52.8×100=7.5%),頭頸部角度と頸部伸展筋の関連を得ることができなかったと考えられた.今後,頭部前方偏位を呈する高齢者との比較も検討することで立位姿勢における頸部伸展筋との関係性を明らかにしたい.【理学療法学研究としての意義】頸部伸展筋群断面積と頸部周囲径において相関が認められたことから評価指標に成り得ると考えられる.
  • 森山 信彰, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 篠原 博, 笹代 純平, 藤井 絵里, 高井 聡志
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 体幹筋は,表層に位置するグローバル筋と,深部に位置するローカル筋に分類される.ローカル筋は骨盤の固定に寄与しており,下肢と骨盤の分離運動のためにはローカル筋の活動が不可欠である.今回,選択的にローカル筋の活動を促すDrawing-in maneuver(以下,Draw in)といわれる腹部引き込み運動に着目した.主に下肢の運動中にローカル筋による骨盤固定作用を得るために,グローバル筋の活動を抑えながら,ローカル筋の筋活動を高めるDraw inの重要性が知られてきている. 座位では背臥位に比べ内腹斜筋の活動が増加することや(Snijder et al. 1995),腹直筋が不安定面でのバランスに関与することから(鈴木ら2009),Draw inを異なる姿勢や支持面を持つ条件下で行うとこれらの筋の活動量が変化すると考えられる.今回,Draw in中のグローバル筋である腹直筋と,ローカル筋である内腹斜筋を対比させながら,この活動量の比率を求めることで,どのような方法が選択的な内腹斜筋の筋活動量が得られるか示されるのではないかと考えた.本研究の目的は,姿勢や支持面の異なる複数の条件下で行うDraw inのうち,どれが選択的に内腹斜筋の活動が得られるかを検討することとした.仮説としては,座位にて支持基底面を大きくした条件で行うDraw inでは,腹直筋に対する内腹斜筋の筋活動が高くなるとした.【方法】 健常成人男性6名 (年齢25.8±5.7歳,身長173.0±5.2cm,体重65.4±9.0kg)を対象とした.Draw inは「お腹を引っ込めるように」3秒間収縮させる運動とし,運動中は呼気を行うよう指示した.Draw inは,背臥位,背臥位から頭部を拳上させた状態(以下,頭部拳上),頭部拳上で頭部を枕で支持した状態 (以下,頭部支持),足底を接地しない座位(以下,非接地座位),足底を接地させた座位(以下,接地座位)の5条件で行った.筋活動の計測にはpersonal EMG(追坂電子機器社)を用い,下野(2010)の方法を参考に腹直筋,内腹斜筋の右側の筋腹より筋活動を導出した.試行中の任意の1秒間の筋活動の積分値を最大等尺性収縮時に対する割合(%MVC)として表し,各条件について3試行の平均値を算出した.さらに,腹直筋に対する内腹斜筋の筋活動量の割合(以下,O/R比)を算出した.5条件間の腹直筋および内腹斜筋の筋活動量と,O/R比の比較にTukeyの方法を用い,危険率5 %未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象には事前に実験内容を説明し,協力の同意を得た.本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1123).【結果】 背臥位,頭部拳上,頭部支持,非接地座位,接地座位での腹直筋の%MVCはそれぞれ28.0±24.2%,46.4±29.0%,23.0±22.0%,13.2±7.2%,10.6±5.9%であった.頭部拳上では,非接地座位および接地座位より有意に高かった(p<0.05).内腹斜筋の%MVCはそれぞれ48.7±44.1%,49.0±36.9%,47.9±40.8%,45.4±32.1%,50.6±28.4%となり,各群間で有意差は認められなかった.O/R比はそれぞれ2.67±3.10,1.31±1.52,2.58±2.74,3.33±2.62,4.57±2.70であり,接地座位では頭部拳上より有意に高かった(p<0.05).【考察】 内腹斜筋の活動量には条件間で有意差がなく,今回規定した姿勢や支持基底面の相違では変化しないと考えられた.腹直筋は,頭部拳上では頭部の抗重力位での固定の主働筋となるため,筋活動量が他の条件より高いと考えられた.さらに,有意差はなかったが背臥位では座位に比べて腹直筋の活動量が高い傾向があった.背臥位では,頭部拳上の条件以外でも,「お腹をへこませる」運動を視認するために頭部の抗重力方向への拳上と軽度の体幹屈曲が生じ,腹直筋の活動が高まった可能性がある. O/R比は腹直筋の筋活動の変化により,条件間で差が生じることがわかった。背臥位で行うDraw inでは,腹直筋の活動を抑えるために,頭部の支持による基底面の確保に加えて,頭部位置を考慮する,もしくは座位で行うことが有効であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 Draw inを行う際に背臥位から頭部を挙げる条件では,内腹斜筋の活動量が同程度のまま腹直筋の筋活動が高まり,結果としてO/R比が低下するという知見が得られ,効果的に行うためにはこのような条件をとらないよう留意すべきことが示唆されたことは意義深い.
  • 政宗 卓也, 川口 ゆい, 岡田 純樹, 金子 依未, 新沼 慎平, 上田 泰久, 山﨑 敦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 臨床において,股関節疾患の症例では腰痛を併発している場合が多く見られる。近年, Hip-spine syndromeとして股関節と腰椎の密接な関係が報告され(帖佐ら2004),股関節の状態は腰椎に影響を及ぼしていることが考えられる。また,股関節疾患では大腿骨前捻角に過度の前捻がある場合は股関節内旋の対応を,後捻がある場合は股関節外旋の対応をすることが多いと報告されている。股関節の内外旋の対応(以下,股関節肢位)では,筋および靱帯や関節包などの状態も変化することから,股関節肢位によって股関節の運動が制限されて脊柱が代償すると考えられる。本研究の目的は,股関節肢位の違いが体幹の前後屈位の脊柱アライメントに及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】 下肢および脊柱に整形外科疾患の既往のない健常な成人男性20名を対象とした。被験者の身体的特徴として,左右の股関節屈曲・内旋・外旋可動域, SLR,Craig testによる大腿骨前捻角の5項目をゴニオメータで測定した。測定肢位は30cm台上の立位姿勢とし,股関節の内外旋を調節するために足位を自然にした肢位(以下,自然位),足位を30°外転させた肢位(以下,外旋位),足位を20°内転させた肢位(以下,内旋位)の3条件とした。測定機器にはスパイナルマウス(インデックス社製)を使用した。静止立位・体幹前屈位・体幹後屈位における矢状面の脊柱アライメントを測定して,仙骨前傾角・腰椎前弯角・胸椎後弯角を算出した。さらに,体幹前屈位では指床間距離(以下, FFD)を同時に測定した。測定は各2回ずつ行い平均を代表値として用いた。統計処理には,身体的特徴5項目における左右差を比較するために対応のあるt検定を用いた。また,股関節肢位3条件における静止立位・体幹前屈位・体幹後屈位の脊柱アライメントおよびFFDについては,各3条件間を比較するために一元配置分散分析後に多重比較(Bonferroni)を用いて相関分析を行った。さらに,FFDと仙骨前傾角・胸椎後弯角・腰椎前弯角の関係についてPearsonの相関係数を求めた。統計解析には,PASW Statistics18を用いて,有意水準は全て5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の内容を十分に説明し,本人に承諾を得た後に測定を実施した。【結果】 身体的特徴5項目について左右を比較したところ有意差を認めなかった。股関節肢位3条件における脊柱アライメントは,静止立位と体幹前屈位では仙骨前傾角・腰椎前弯角・胸椎後弯角に有意差を認めなかった。一方,体幹後屈位では仙骨前傾角は内旋位で自然位と外旋位よりも有意に増加(p<0.01),腰椎前弯角は内旋位で外旋位よりも有意に増加(p<0.01)し,胸椎後弯角は有意差を認めなかった。股関節肢位3条件におけるFFDでは有意差は認めなかった。また,FFDと脊柱アライメントの関係では,FFDと仙骨前傾角は股関節肢位3条件とも有意な正の相関(p<0.01)を認めた。FFDと腰椎前弯角は,自然位と外旋位に有意な負の相関(p<0.05),内旋位に有意な負の相関(p<0.01)を認めた。FFDと胸椎後弯角は,股関節肢位3条件とも有意な相関を認めなかった。【考察】 体幹後屈位では,仙骨前傾角は内旋位で自然位と外旋位よりも有意に増加し,腰椎前弯角は内旋位で外旋位よりも有意に増加した。股関節中間位から内旋位にすると主な股関節周囲筋は内側方向への筋性モーメントが増加して(今井ら2010),靭帯も緊張する(Neumann DA2010)。つまり,内旋位では自然位や外旋位よりも筋性モーメントや靱帯の影響により,大腿骨頭が内側方向にある臼蓋への圧縮応力が生じて股関節の可動性が低下したため,内旋位での体幹後屈位では仙骨前傾角が増加して腰椎前弯角の増加で代償したことが考えられる。またFFDと脊柱アライメントの関係では,股関節肢位3条件ともにFFDが増加するほど仙骨前傾角が増加し,腰椎前弯角が減少(腰椎の後弯)した。その中でも,内旋位では腰椎前弯角が減少する傾向が強かった。これは,股関節屈曲が90°を超えると股関節内旋筋筋力を発揮しやすく,股関節内旋位で内側への筋性モーメントがさらに増加するため,内旋位で股関節の安定性が高まり骨盤が動きにくくなったことが伺える。さらに,内旋位により股関節外旋筋群や後方関節包の緊張が股関節屈曲を制限する因子となったことが示唆される。これらのことから,内旋位によって仙骨前傾角が増加し,腰椎前弯角の減少で代償する傾向が強くなったものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,股関節肢位と前後屈時の脊柱アライメントの変化について詳細に検証した。股関節と腰椎には密接な関係があり,股関節肢位を考慮して脊柱の評価を展開することは,臨床的に意義がある。
  • 炭本 貴大, 堤 万佐子, 田口 潤智, 脇本 祥夫, 波之平 晃一郎, 阿南 雅也, 新小田 幸一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 高齢者が転倒しやすい動作である起立動作と歩行開始動作には数多くの研究成果が報告されていれる.しかし,座位姿勢から目的を持って動き出す際に,それらの動作は連続して行われるのが一般的であるにも関わらず,複合動作としての起立-歩行動作(以下,STW)についての研究は少ない.また,高齢者に多く観察される円背姿勢はバランス能力や歩行能力の低下に関連すると指摘されており,転倒の発生に何らかの影響を及ぼしていることが考えられる.そこで本研究は高齢者を扱う前段階として,健常若年者を被験者とする模擬円背装具を用いた模擬円背姿勢でのSTWの観察から,円背姿勢がSTWのバイオメカニクスに与える影響と,円背姿勢を呈する高齢者のSTWにおける転倒要因を考える上での一助とすることを目的として行った.【方法】 被験者は脊椎や下肢に整形外科的な既往および障害を有さない健常若年者10人(男性5人,女性5人,年齢21.9±0.9歳,身長167.0±6.7cm,体重56.0±7.2kg)であった.課題動作は椅子座位からのSTWとし,右下肢を1歩目として歩行を開始した.模擬円背姿勢には体幹装具(有薗製作所製)を用い,円背指数が13以上となるように設定した.装具を着用しない条件(以下,通常条件)および装具を着用した条件(以下,円背条件)の2条件で計測を行った.STW中の運動学的データはマーカを身体各標点に貼付し, 3次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製)を用いて計測した.同時に運動力学的データは床反力計4基(Advanced Mechanical Technology社製床反力計2基およびKistler社製床反力計2基)を用いて計測した.得られたデータを基に身体重心(以下,COM),足圧中心(以下,COP),床反力,関節モーメント,各体節の角度と前傾速度の平均値を求めた.1歩目の右下肢が離地した瞬間から再接地した瞬間までを対象とした.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver. 14.0J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,Shapiro-Wilk検定によりデータに正規性が認められた場合は対応のあるt検定を,認められなかった場合はWilcoxonの符号付順位検定を行った.なお有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,演者の所属する機関の倫理委員会の承認の後,被験者に対して研究の意義と目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得て実施した.【結果】 右下肢離地時のCOM-COP傾斜角および前方への床反力は,円背条件が通常条件よりも有意に高値を示した(p<0.01).左股関節および左膝関節伸展モーメント積分値は,円背条件が通常条件よりも有意に高値を示した(p<0.05).解析区間中の体幹および左股関節,左膝関節,左足関節伸展および底屈角度変化量は,円背条件が通常条件よりも有意に低値を示した(p<0.05).大腿前傾速度は,両条件間で有意な差を認めなかったが,下腿前傾速度は,円背条件が通常条件よりも有意に高値を示した(p<0.05).【考察】 歩行はCOMを前方移動させる動作であるが,円背条件では身体が前方へ傾きやすく,より前方への推進力を得ている状態であるため,COMの前方移動を行うと同時に,より高い股関節伸展モーメントの産生によるCOMの前方制動が要求されたものと考えられる.その背景として,股関節が担うCOMの前方制動の機能を支えるために,蹴り出しに伴う大腿前傾を抑制するための下腿の急速な前傾,および支持側下肢の伸展運動の抑制,膝関節伸展筋による支持性を発揮するのに必要な機能が高まったものと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,健常若年者のSTWの解析から,円背姿勢はCOMの挙動を適切に制御するために,股関節と膝関節伸展筋にはより高い負荷を要求し,蹴り出し側下肢にはより高い協調性を求めることを示した点で意義がある.これらの要求は,円背姿勢を呈する高齢者がSTWで転倒しないために必要な身体機能と,用いるべき動作戦略の検討に繋げる上で有益な一助になるものと思われる.
  • 庄﨑 賢剛, 今村 知之, 中道 剛, 松井 良一, 柴田 和哉, 松永 圭一郎, 玉利 光太郎, 原田 和宏, 元田 弘敏
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 現在、腰痛の約80%が原因不明の非特異的腰痛であり、アライメント異常は腰椎椎間関節・腰仙関節などにストレスが生じ、腰部・骨盤帯の不安定性による機能障害や疼痛を引き起こす可能性が考えられる。そのため、理学療法において腰部・骨盤帯に関連する仙腸関節の可動性の評価は重要である。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、新鮮死体用いた報告、生体に直接Wire・ボールを挿入しカメラやX線を用いた報告、MRIを使用した報告などがある。しかし、これらの方法では侵襲やコストの面から臨床応用は困難であると思われる。加えてこれらの報告は腰椎前屈・後屈・股関節屈曲での他動的測定姿勢位で行われており、骨盤周囲筋を動員し自動運動時の測定肢位での研究は見当たらなかった。そのため、本研究では安静立位と自動運動時の骨盤前傾・後傾時にそれぞれX線撮影し、仙腸関節の可動性の定量化と信頼性を検討した。【方法】 信頼性の検討では健常成人男性15名を対象とし(年齢:27.9±4.6歳、身長:168.4±5.9cm、体重:60.8±9.0kg)、仙腸関節の定量化の測定では健常成人男性62名とした(年齢:28.7±5.7歳、身長:169.7±5.9cm、体重:64.0±9.3)。X線撮影は安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位の3つの姿勢にて、腰椎・骨盤における矢状面を立位の左側方からX線を照射し撮影を行った(L→R画像を撮影)。骨盤の動きは検査者が徒手的に骨盤前後傾の動きを誘導した。その際、体幹が前傾・後傾することなく、正中位を保持し、両膝が屈曲位とならない範囲での姿勢を保つように指導した。被験者に動きを十分学習させた後、骨盤周囲筋を最大に動員した自動運動の最終域で姿勢を保持させ撮影を行った。再現性に関しては同様の方法で、その後1か月以内に2回目の撮影を行った。得られた画像はDICOM形式医用画像Viewer(Radis Version 1.2.0)を使用してパソコン上に描写し、その画像処理を行った後、GNU画像編集プログラム(GIMP2.6.7)を使用して、骨盤傾斜角、腰仙角(第1仙椎上縁と水平線との角度)を計測した。本研究では、仙腸角は腰仙角から骨盤傾斜角を引いたものと定義した。骨盤傾斜角はASISとPSISとを結ぶ線と水平線とのなす角度とし定義した。X線撮影に関しては当院の医師の指示の基、診療放射線技師が行った。統計学的解析はSPSS Statistics Ver.20 を用いた。信頼性に関しては、相対信頼性として級内相関係数(ICC)を算出し、また絶対信頼性を検証するために測定の標準誤差、最小可検変化量(MDC)を算出した。そして、安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位において各被験者の各姿勢における平均値を算出した。また仙腸関節の可動性として各姿勢での仙腸角の差の絶対値の平均を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て(承認番号11-31)、各対象者に対し研究の主旨を書面と口頭で十分に説明し、同意書に署名が得られた方を対象とし実施した。【結果】 仙腸角について安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位におけるICCは全て0.99となり、MDCは安静立位0.86°、骨盤前傾立位1.38°、骨盤後傾立位1.11°となった。62名の仙腸角の平均値を算出すると安静立位20.04±6.80°、骨盤前傾立位19.29±6.85°、骨盤後傾立位22.25±6.90°であった。仙腸関節の可動性は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°(最大値9.82°、最小値0.12°)、安静立位と骨盤後傾立位では3.91±2.75°(最大値13.43°、最小値0.13°)という結果になった。骨盤前傾の際、腸骨に対し仙骨が後屈した者は38名(-3.23±2.40°)、前屈した者は24名(3.19±2.63°)であった。骨盤後傾の際は仙骨が前屈する者は37名(5.13±2.73°)、後屈する者は25名(-2.10±1.64°)であった。【考察】 今回の結果ではICCは0.99となり、相対信頼性が良好であることが確認できた。またMDCは0.86°~1.38°となり、仙腸関節の可動性がMDC以上の値となり、「誤差以上の変化」が見られた。今回、仙腸関節は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°、安静立位と骨盤後傾位では3.91±2.75°の可動性が見られた。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、竹井らは一側の股関節最大屈曲位にて仙腸関節は2.3°前屈位となり、両側の股関節屈曲では仙腸関節の動きは認められないとし、Sturessonらは股関節90°屈曲の際に-1.0°~ -1.2°の仙骨の後屈が見られたと報告している。本研究においては仙腸関節の可動性は先行研究を超える値が示された。その原因として、本研究での測定は骨盤周囲筋を最大限に動員した自動運動の測定肢位で行われたことなどが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回考案したX線を用いた仙腸関節の測定法での信頼性の確認と仙腸関節の可動性に関する新たな知見は臨床応用に繋がる可能性がある。
  • 瓜谷 大輔, 川上 哲司, 井上 智裕, 桐田 忠昭
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】顎関節症は顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする、筋骨格系の疾患群とされている。多因子性に発症する顎関節症の一因として、頭頸部や上部体幹における不良姿勢との関係が指摘されているが、一方で一致した見解は得られていない。その一因として、先行研究で主に使用されている、写真を用いた姿勢評価の信頼性に問題があることが指摘されている。そこで本研究では超音波3次元動作解析装置を用いて、顎関節症患者の頭頸部および上部体幹アライメントの特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は日本顎関節学会専門医によって顎関節症と診断された21名(患者群、男性3名、女性18名、平均年齢35.3±13.2歳)と顎関節症を有さないと診断された19名(対照群、男性5名、女性14名、平均年齢25.2±5.9歳)であった。頸椎および顎関節に対する手術歴がある者および60歳以上の者は除外した。頭頸部および上部体幹アライメントの評価項目は、耳珠と第7頸椎棘突起を結んだ線と水平面のなす角度(以下、頸部前傾角度)、第7頸椎棘突起と肩峰角を結んだ線と水平面のなす角度(以下、肩峰前突角度)、耳珠と眼裂外側端を結んだ線と水平面のなす角度(以下、頭部傾斜角度)、肩甲骨下角と肩峰角を結んだ線と水平面のなす角度(以下、肩甲骨上方回旋角度)、両側肩峰角を結んだ距離に対する第7頸椎棘突起と両側耳珠を結んだ距離の平均値の比(以下、頸部長肩幅比)とした。各評価項目の測定値は、耳珠、眼裂外側端、第7頸椎棘突起、肩峰角、肩甲骨下角を触診によって同定したのち、超音波3次元動作解析装置(CMS20S、Zebris社製)を用いて座標化し、座標化した各ランドマークから動作解析ソフト(WinSpine Pointer、Zebris社製)を用いて算出した。頸部長肩幅比以外はすべて左右両側の平均値を測定値とした。また最大開口量を専用の測定ゲージで測定した。測定肢位は被験者に前方を注視し上肢を体側に下垂させ、股関節および膝関節は約90度屈曲位でリラックスした状態での安静座位とした。統計学的解析は、両群の男女比をカイ二乗検定で、各評価項目の測定値を対応のないt検定で2群間の比較をした。統計ソフトはIBM SPSS statistics version20を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は畿央大学ならびに奈良県立医科大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には事前に研究内容について説明し、書面によって研究参加の同意を得た。【結果】患者群と対照群の男女比に有意差はみられなかった。患者群の顎関節症の症型の内訳は日本顎関節学会による症型分類で1型が8名、3型が13名であった。年齢は患者群が対照群よりも有意に高齢であった。頸部前傾角度において患者群が50.9±5.9度、対照群が59.4±7.0度で患者群が有意に低値を示した。また最大開口量は患者群が44.1±9.8mm、対照群が52.0±6.2mmで患者群が有意に低値を示した。その他の評価項目には2群間での有意差は認められなかった。【考察】今回対象とした患者群では咀嚼筋症状を主症状とする1型と関節円板障害を主症状とする3型であった。測定結果からは患者群は対照群よりも頭部前方位姿勢が著明であった。顎関節症は多因子性に発症するとされているが、今回の研究からは病型に関わらず、体幹に対する頭部の位置が顎関節症の発症に影響する一因子であることが示唆された。先行研究では頭部前方位姿勢によって上顎に対する下顎のアライメントが変化することや、咀嚼筋の筋活動が亢進することなどが報告されている。これらのことが体幹に対して頭部が不適切なアライメントを取ることで生じ、顎関節への機械的ストレスとなって症状を誘発するもとと考えられた。ただし今回の対象者は頸椎の退行変性の姿勢への影響を考慮して60歳以上の者を対象から除外したものの、患者群が対照群よりも高齢であった。よって今後は年齢や体格、性別などの影響も考慮して、多変量解析等による調査も行う予定である。【理学療法学研究としての意義】日本ではいまだ顎関節症患者に対して理学療法が介入することは少ない。しかし顎関節症患者の不良姿勢に対するアプローチは理学療法の専門性を発揮できる機会である。顎関節症患者の姿勢についての特徴を明らかにしておくことは、効果的な理学療法評価や治療を効率的に実施し、顎関節症に対する理学療法の有用性を広く世に示すために重要である。
  • 梶原 沙央里, 西上 智彦, 壬生 彰, 山本 昇吾, 岸下 修三, 松﨑 浩, 田辺 曉人
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 これまでに,慢性非特異的腰痛症例においても主に筋や筋膜などの末梢組織器官に対してストレッチや筋力増強運動などの運動療法が行われてきたが十分な効果が得られないことも多い.近年,慢性に強い痛みが生じており,治療に難渋する複合性局所疼痛症候群(CRPS)症例において,身体イメージの異常や2点識別覚の閾値の増加といった中枢神経系の機能異常が報告されている.慢性非特異的腰痛症例においても,2点識別覚の閾値の増加や身体イメージの異常が認められることが指摘されているが,これまでの報告では身体イメージの異常を統計学的に健常群と比較した報告や片側腰痛症例において疼痛側と非疼痛側で比較・検討した報告はなく,中枢神経系の機能異常が生じているかについての根拠に乏しい.本研究では慢性非特異的腰痛症例において,身体イメージの異常を体幹の輪郭の変化及び棘突起の変位とし,身体イメージや2点識別覚の異常が健常群と比較して増加しているのか,さらに,片側腰痛症例において疼痛側と非疼痛側で身体イメージや2点識別覚が異なっているのかについて検討した.【方法】 対象は45歳以上80歳以下で腰背部痛が6ヵ月以上持続する男性6名女性12名の18名(平均年齢66.7±9.7)を腰痛群,腰背部痛がなく腰痛群と同程度の年齢とした男性9名女性9名の18名(平均年齢63.4±12.4)を対照群とした.腰痛群の除外基準は脊椎疾患の診断をうけている,または疑わしい者,神経根性疼痛を有する者,脊椎に対する外科的手術の既往がある者,腰部の著明な変形がある者とした.評価項目は疼痛の強度,身体イメージ及び2点識別覚とした.身体イメージは一部欠けた腰背部の図に体幹の輪郭と棘突起を対象者自身に記入させた.指示は「あなたの腰背部をイメージしてください.この図の欠けている部分に線を描いてください.その際,腰背部は触らないでください.イメージのまま,感じるまま描いてください.感じることができない部分は描かないでください.どのように見えるのかではなく,感じるまま描いてください」とした.輪郭が途中で消失したり,輪郭が正常より歪んでいると輪郭の異常ありとした.棘突起については正中より左右いずれかに変位していると異常ありとした.疼痛の強度はVisual Analog Scale(VAS)にて腰部の左右それぞれを評価した.2点識別覚はMobergの方法に準拠して行った.測定肢位は腹臥位にて,測定部位は腰背部痛のある群では疼痛がある部位のレベルの両側を測定し,対照群ではL4/5レベルの両側を測定した.方法はキャリパーを脊柱に対して垂直にあて,キャリパーの中心は疼痛部位の中心,対照群では脊柱起立筋に位置するようにした.100 mmから始め,5 mmずつ間隔を広げていき,最初に明確に2点と答えた点を記録した.その後,100 mmから5 mmずつ間隔を減らしていき,1点と答えた点を記録した.それぞれ2回測定し,その平均値を2点識別覚の値として採用した.統計はSPSS11.0Jを用いて行った.対照群と腰痛群の比較を2点識別覚については対応のないt検定,体幹の輪郭異常,棘突起の位置異常についてはFisherの正確確率検定を用いて行った.さらに,片側のみに疼痛がある片側腰痛群12例について,疼痛側と非疼痛側の比較を2点識別覚については対応のあるt検定,体幹の輪郭異常,棘突起の位置異常についてはFisherの正確確率検定を用いて行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て実施した.事前に研究目的と方法を十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした.【結果】 腰痛群は対照群と比較して体幹の輪郭異常(p<0.01),棘突起の位置異常(p<0.01),2点識別覚の有意な増加(p<0.01)が認められた.さらに,片側腰痛群において,疼痛側は非疼痛側と比較して体幹の輪郭異常(p<0.05),2点識別覚の有意な増加(p<0.05)が認められた.【考察】 CRPS症例において,身体イメージの異常や2点識別覚の障害は一次体性感覚野の機能が再構築したために生じ,この変化が疼痛を修飾し増強させていることが明らかになっている.本研究において,対照群と比較して腰痛群では体幹の輪郭異常,棘突起の位置異常,2点識別覚の障害が有意に認められ,さらに,体幹の輪郭異常や2点識別覚の障害が片側腰痛群の疼痛側に有意に認められたことから,慢性非特異的腰痛症例においてもCRPS症例と同様な中枢神経系の変化が生じている可能性があり,疼痛の増強に関与していることが示唆される.【理学療法研究としての意義】 慢性非特異性腰痛症例における2点識別覚の障害や体幹の輪郭を指標とした身体イメージの異常を明らかにしたことで,中枢神経系の機能異常が生じている可能性を示唆した点.
  • 佐藤 成登志, 小林 量作, 地神 裕史, 古西 勇, 山本 智章
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに, 目的】 脊柱アライメントを簡便かつ定量的に評価するために,近年,脊柱計測分析器Spinal Mouseを用いた報告がある.我々は第44回の本学術大会において腰痛疾患例の脊柱アライメントの特徴について報告した.しかし,その比較となる健常データが少なく,青年期に偏るなど結果も明確ではない.そこで第45回,第46回,第47回の同学術大会では,20~90歳までのデータを基に脊柱アライメントの特徴の違いを明らかにした.今回は,脊柱可動域に着目して,成人群,前期高齢者群,後期高齢者群間の比較および年齢と脊柱可動域との関係を検討した.【方法】 第45回本学術大会の報告で,脊柱アライメントは男女間において有意差があったことを受けて,今回の対象は,健常成人女性73名(22~96歳,平均年齢58.7±22.7歳)とした.さらに,20歳以上~59歳以下31名(以下,成人群),60歳以上~74歳以下23名(以下,前期高齢者群)と75歳以上19名(以下,後期高齢者群)の3群に分類した.但し,現在腰痛のある方や膝関節の伸展制限のある方は対象から除いた.脊柱計測分析器Spinal Mouse(Index社製)を用い,立位姿勢(普段立っている安楽立位姿勢)における矢状面の脊柱可動域を測定した.脊柱可動域は,第7頸椎と第3仙椎を結んだ直線と垂線とでなす角度とし,体幹前屈可動域,体幹後屈可動域,体幹全可動域(前屈‐伸展)を測定した.体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域における成人群,前期高齢者群と後期高齢者群間との比較および体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域と年齢との関係を統計学的に検討した.年齢との関係は,単回帰分析を行い,目的変数を脊柱可動域,説明変数を年齢とした.尚,有意水準は5%とした.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は当大学の倫理委員会の承認を得たうえで,全対象者には,本研究の趣旨を説明し同意を得て行った.【結果】<体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域における成人群,前期高齢者群と後期高齢者群間との比較> 体幹前屈可動域は,成人群114.8度,前期高齢者群111.9度,後期高齢者群93.0度で有意に後期高齢者群の方が小さかった(p<0.01).体幹後屈可動域は,成人群30.6度,前期高齢者群32.0度,後期高齢者群13.6度で有意に後期高齢者群の方が小さかった(p<0.01).体幹全可動域は,成人群145.4度,前期高齢者群143.9度,後期高齢者群107.0度で有意に後期高齢者群の方が小さかった(p<0.01).<体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域と年齢との関係> 年齢によって,体幹前屈可動域,体幹後屈可動域および体幹全可動域を予測できる有意な回帰式が得られた(体幹前屈可動域:R=0.35 p<0.01,体幹後屈可動域:R=0.36 p<0.01,体幹全可動域:R=0.43 p<0.01).【考察】 高齢者になるにつれて姿勢は変化すると言われている.加齢に伴い,腰背部筋の柔軟性や筋力の低下が起こり易くなり,胸椎,腰椎および仙骨の角度は変化し,脊柱アライメントや脊柱可動域に影響するものと考えられる.本研究では,成人群,前期高齢者群,後期高齢者群の3群に分類し,脊柱可動域について検討した結果,75歳以上の後期高齢者群で有意に小さかった.また,先行研究では,20歳~50歳代位までは腰椎前彎角および仙骨傾斜角の大きな変化は認めなかったが,60歳代から徐々に減少し,80歳代で有意に減少した.下肢や体幹の筋量は,50歳代から有意に減少するとの報告がある.加齢により脊柱を支えている筋量が減少し,60歳代位から脊柱アライメントの変化に影響を与え,75歳位から脊柱可動性が小さくなり,80歳代位で明らかな脊柱アライメン変化をもたらすものと考えられる.また,年齢から体幹の可動域を予測できることが明らかになった.今後はさらに,年齢以外の要因を検討しながら,加齢による脊柱可動域変化のメカニズムを解明することが必要である.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,腰痛疾患例の姿勢の影響を検討するためのコントロールデータとして,健常者データを構築している.加齢に伴う脊柱アライメントの変化や脊柱可動性の特性を知り,そのメカニズムを解明することは,理学療法学において大変意義のある研究と考える.
  • 布施 陽子, 福井 勉
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】我々は妊婦を対象とした理学療法を検討し、幾つかの実験研究も行ってきた。女性は妊娠によって様々な身体的変化を生じるが、身体的愁訴として腰痛,尿失禁などのマイナートラブルが問題視されている。妊婦は腹部が前方へ突出するに従いsway-back姿勢となり易く、それに伴い骨盤帯機能が破綻し腰痛や尿失禁を生じてしまう可能性があると考えられる。骨盤帯機能を再構築するための方法のひとつに腹横筋エクササイズがあり、従来検討を繰り返してきた(2009,2010,2011布施)。上記のように、横断的研究は散見されるが、縦断研究はほとんどみられない。そこで本研究に置いては非妊娠女性を対象とし、上記エクササイズ(以下、EX)の継続が身体機能にどのような影響を与えるかについて縦断的に検討したので報告する。【方法】対象者は健常成人女性10名(平均年齢19.6±1.4歳,身長=160.4±7.6cm, 体重=53.3±10.4kg, BMI=20.6±2.4)の非妊娠女性とした。対象者に対し、1.超音波診断装置による視覚的フィードバックを用いた腹横筋収縮学習、2.ストレッチポール上背臥位1分間(第44回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証)、3.ストレッチポール上背臥位でのu・oの発声10秒間10回(第46回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証)、4.ストレッチポール上背臥位での上肢課題運動を10回(第45回日本理学療法学術大会により上肢外転側と反対側の腹横筋EXとして有効であると立証したものであり、左右の回数については個々に評価した上で比率を検討し実施)の4種類の介入を各被験者において約30分個別的に実施した。その後、2から4までの課題を紙面上に説明した資料を渡し、各自ホームエクササイズとして毎日実施するよう促した。計測項目は、1)骨盤周囲径、2)側腹筋群(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)の筋厚、3)脊柱弯曲アライメント(胸椎後弯,腰椎前弯)の3項目とし、それぞれメジャー、超音波診断装置(HITACHI Mylab Five)、脊柱計測分析器Spinal Mouse(SPM-3.2)を用いて計測した。また、計測肢位は安静立位とした。1)は恥骨結合下縁上を通る周囲径を3回計測した結果の平均値を使用した。2)はわれわれの先行研究で高い信頼性が得られた位置である、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と垂直な直線上で、肋骨下縁と腸骨稜間の中点にプローブを当てて、腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまで押した際の画像を静止画として記録した。記録した超音波静止画像上の筋厚は、筋膜の境界線を基準に左右それぞれについてScion Imageにて計測した。3)は第7頚椎から第3仙椎までの棘突起を計測し、胸椎後弯角と腰椎前弯角を算出し、分析には3回計測した結果の平均値を使用した。以上3項目を、介入前,介入後,1週間後,2週間後,3週間後の5回計測した。統計的解析はSPSS ver18を使用し、反復測定による一元配置分散分析と事後検定としてTukey法を実施し、有意水準1%未満で検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は文京学院大学倫理委員会の承認(承認番号:2012-29)を得た上で、被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明した後、書面での同意を得て実施した。【結果】1.1)骨盤周囲径、2)側腹筋群中の腹横筋厚のみ、3)脊柱弯曲アライメント(胸椎後弯,腰椎前弯)に違いを認めた(p<0.01)。2.2)側腹筋群中の腹横筋厚について、介入前,介入後,1週間後,2週間後,3週間後それぞれについて違いを認め、筋厚値は有意に増加した(p<0.01)。3.3)脊柱弯曲アライメントについて、腰椎前弯角のみ介入前・介入後・1週間後・2週間後・3週間後それぞれについて違いを認め、計測値は有意に減少した(p<0.01)。4.2)側腹筋群中の外腹斜筋厚,内腹斜筋厚については、違いを認めなかった(p=0.41,p=0.17)。【考察】本研究では、骨盤周囲径、腹横筋厚、脊柱弯曲アライメントにおいて我々が先行研究にて立証してきたEXによる身体機能変化を認めた。また、計測項目の中でも計測ごとに腹横筋厚は増加し、腰椎前弯角は減少した。腹横筋は体幹深層筋群の1つであり、姿勢保持作用・腹腔内圧調整作用を持つと言われている。そのため、立位姿勢を保持するとき、腹横筋機能が向上することで背部筋群の活動が抑制され腰椎前弯角が減少したと考えられる。また、腹横筋の活動が腹腔内圧を上昇させ、骨盤周囲径に変化を与えたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から骨盤帯機能を再構築する方法として本研究でのEXが有効であることが示された。今後、妊娠により骨盤帯機能破綻を生じた女性に行う評価・治療の一助になると考えられる。周径については恥骨結合下縁上を通る周囲径としており、妊婦への評価項目として妥当であると考えられる。
  • 田鹿 慎二, 島内 卓
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】体幹の動的安定性を保つ為には、運動の方向や外的な荷重に対処する表層筋と、個々の脊椎間の安定性に関与する深層筋が、適切なタイミングおよび適切な活動量で機能しなければならない。Kaderらは腰痛患者の80%に多裂筋の萎縮があることをMRIにて報告し、多裂筋の機能不全と腰痛には有意な相関があることを報告している。そこで今回、慢性腰痛症患者が外的な荷重に対処した際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用いて検証した。【方法】現在著名な神経症状を有さず、3ヶ月以上腰痛が継続している慢性腰痛症患者10名(男性10名、平均年齢36.8±9.2歳)と腰痛を有さない健常群12名(男性11名女性1名、平均年齢26.7±2.2歳)を対象とした。尚、事前に研究の目的と方法を説明し同意を得た上で測定を実施した。測定肢位は被験者を安楽な立位姿勢に保たせ、次に肩関節屈曲30°、外転0°、肘関節屈曲70°位にて前腕を90°回外させた状態と定めた。被験筋は多裂筋(L5/S1棘突起外側)および脊柱起立筋(L1棘突起外側)とした。また、荷重負荷の瞬間がデータ上に記録されるように圧力センサー(FRS402)を被験者の両手掌面の第2中手骨頭部に固定した。その後重さ3Kgのメディシンボールを被験者の手掌より45cm高位より落下させ、両手にて捕球した際の多裂筋、脊柱起立筋の活動量と反応開始時間を計測した。尚圧力センサーからのアナログ信号をサンプリング周波数1KHzにてパーソナルコンピューターに取り込み解析を行った。計測は5回行い、その平均値を代表値として算出し測定には表面筋電図(Megawin バイオモニターME6000)を用いて動作により得られたデータを全波整流した後、正規化(100%MVC)し各筋のピークトルク値を求めた。また反応開始時間については、圧力センサーが反応した時点を基準の0秒とし、安静立位時における基線の最大振幅±2SDを超えた時点を反応開始時間として算出し比較検討を行った。統計処理には対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】メディシンボールを捕球した直後の脊柱起立筋の筋活動は腰痛群85.6%に対し健常群68.1%と腰痛群が有意に高い値を示し(p<0.05)多裂筋の筋活動は腰痛群49.4%に対し健常群50.3%と有意差は認められなかった。外的荷重に対する多裂筋の反応開始時間に関しては、腰痛群がボールを捕球し圧力センサーが反応する0.19秒前に先行して活動するのに対し、健常群は0.14秒前に先行して活動する結果となり、2群間に有意差は認められなかった。【考察】慢性腰痛症患者に外乱負荷や外的荷重が生じた際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用い客観的に評価し、機能不全の原因を明確にする目的で今回の研究を行った。しかし多裂筋において、負荷発生時の反応開始時間の差は両群間で認められず、Newmanらの慢性腰痛症患者は多裂筋の萎縮により、活動開始時間が遅延し機能不全が生じるとする報告とは異なる結果となった。一方で慢性腰痛症患者の脊柱起立筋の活動量が健常群よりも高いことが確認された。この結果について、両群間において多裂筋のピークトルク値に有意差は認められないものの、慢性腰痛症患者の多裂筋にはMRIにて筋萎縮が認められるとした報告から、外的荷重が発生した際に生じる体幹の前方モーメントに抗する多裂筋の収縮力では腰部の安定化が不十分となり、代償として脊柱起立筋の筋活動が過剰になったと推測した。今回の結果から腰痛が慢性化する背景には、筋バランスの不均整による脊柱起立筋の慢性的な疲労の蓄積が強く関与していることが考えられる。
  • 大谷 貴之, 石田 和宏, 宮城島 一史, 佐藤 栄修, 百町 貴彦, 柳橋 寧, 安倍 雄一郎, 菅野 大己, 増田 武志
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年,腰椎固定術後の治療効果判定に健康関連QOL評価であるMOS 36-Item Short-Form Health Survey ver.2(SF-36)が使用され,術前との比較で概ね良好であるとの報告が多い.先行研究にて我々も術後6ヶ月のSF-36を検討し,術前との比較で同様の結果が得られた.一方,SF36は年代別・性別の国民標準値が算出されており,整形外科領域において幅広く用いられている.しかし,腰椎固定術後のSF-36について国民標準値と比較検討した報告はない.さらに,移植骨の骨癒合が完成し,重労働やスポーツ活動などの制限も解除される術後3~6ヶ月以降のSF-36の改善度を示した報告も認められない.本研究の目的は,術後1年のSF-36と年代別・性別の国民標準値を比較検討すること,術後6ヶ月と術後1年のSF-36の改善度を調査することである.【方法】対象は,2009年4月から2011年3月までに1~2椎間の腰椎固定術を行い,術後1年のSF-36に記載漏れがなかった60・70歳代の81例(60代;男性18例・女性17例,70代;男性17例・女29例)とした.後療法は術後2~3週のクリティカルパスを用い,退院後は入院中の運動を継続するように指導した.定期的な通院リハビリテーション(リハビリ)は実施しなかった.SF-36は,下位尺度である physical functioning(PF:身体機能),role physical(RP:日常役割機能-身体),bodily pain(BP:身体の痛み),general health perceptions(GH:全体的健康感),vitality(VT:活力),social functioning(SF:社会生活機能),role emotiional(RE:日常役割機能-精神),mental health(MH:心の健康)を使用した.年代別・性別の国民標準値は,SF-36マニュアルVer.2を参考にした.術後1年のSF-36と年代別・性別の国民標準値との比較には1標本t検定を用い,さらに効果量(r)も算出した.続いて,術後6ヶ月と術後1年のSF-36の改善度を比較検討した.術後6ヶ月のSF-36は,先行研究の61例のデータを使用した.術後1年のSF-36の対象には,交絡要因と考えられる年齢・性で6ヶ月のデータと無作為にマッチングさせた61例を用いた.統計的検討はMann-Whitneyの検定を行い,有意差を認めた項目について効果量(r)も算出した.有意水準は全て5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象には,ヘルシンキ宣言に則り,本研究の趣旨,目的,方法,参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護についての十分な説明を行い,同意を得た.【結果】術後1年のSF-36と国民標準値との比較では,60歳代の男性はRP・BP・MH,女性はPF・RP・BP・GH・RE,70歳代の男性はPF・RP・RE,女性はBP・MHが国民標準値よりも有意に低く(p<0.05),効果量もr=0.43~0.79(効果量中~大)であった.術後6ヶ月と術後1年の比較では,RP・BP・SF・REが術後1年で有意に改善しており(p<0.05),効果量はBPがr=0.33(効果量中),その他はr=0.20~0.23(効果量小)であった.【考察】本研究の結果より,術後1年のSF-36の下位尺度は国民標準値よりも明らかに低値を示していた.これは,渡辺ら(2009)の報告と同様に,腰椎固定術では骨癒合が完成し,活動制限を与えていない術後1年においても国民標準値には到達しないことを示している.また,Juricekら(2010)は腰椎固定術後6ヶ月から2年のSF-36を調査し,精神的尺度よりも身体的尺度の改善が優れていたと述べている.我々の結果でも,術後6ヶ月と術後1年の比較より,身体的尺度の一つであるBPで6ヶ月以降の改善度が「効果量:中」と良好であった.従って,腰椎固定術後の健康関連QOLは,術後6ヶ月以降の改善も期待できる可能性があり,骨癒合までの活動制限による廃用性の機能障害も考慮し,段階的で継続的な運動療法および生活指導を検討すべきと考える.【理学療法学研究としての意義】本研究は腰椎固定術後のSF-36に関して国民標準値と比較検討した本邦では数少ない報告の一つである.さらに骨癒合が完成し,活動制限が解除される術後6ヶ月から術後1年の改善度を調査したことにより,術後の継続的なリハビリ実施の必要性を示唆することが出来た.
  • 葉 清規, 対馬 栄輝, 森島 英志, 村瀬 正昭, 林 義裕, 大石 陽介
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 近年治療成績において患者立脚型アウトカム評価が利用されるようになり、腰椎疾患の術後治療成績においても、健康関連QOLの代表的指標の一つであるSF36v2を用いた報告が散見される。本邦では腰椎疾患治療判定基準として機能的評価であるJOA scoreが利用されてきた。これらの指標は術後改善が得られることが報告されているが、術前の健康関連QOLや、その関連性についての詳細な報告は渉猟を得たが見受けられない。また腰椎疾患術後早期の健康関連QOLにおいては、身体的健康度の改善は得られるが精神的健康度の改善は得られにくいことが報告されており、より早期からの多角的なアプローチが必要とされている。本研究目的は、術前の健康関連QOLと機能面の関係を、SF36v2とJOA scoreを用い調査し、その特徴を把握することで、より早期からのアプローチの一助とし、腰椎疾患術後に早期QOL向上を図ることである。【方法】 対象は当院で2005年10月から2009年12月の期間に腰椎疾患にて手術、術後後療法を施行した1943例のうち、術前にSF36v2とJOA scoreを評価可能であった345例とした。平均年齢55.6±17.3歳、男性222例、女性123例であった。疾患内訳は腰椎椎間板ヘルニア(LDH)156例、腰部脊柱管狭窄症153例、腰椎変性すべり症36例(腰部脊柱管狭窄症と、腰椎変性すべり症をまとめてLDD)であった。評価基準としてSF36v2の評価基準に則り、機能面に影響を与える可能性がある中枢神経疾患、RA、人工関節置換術既往症例は除外した。 LDH群、LDD群のそれぞれのJOA scoreの総合得点と、SF36v2の下位尺度値(PF:身体機能、RP:日常役割機能(身体)、BP:体の痛み、GH:全体的健康感、VT:活力、SF:社会生活機能、RE:日常役割機能(精神)、MH:心の健康)との関係について検討した。統計学的処理はSPSS ver19を用い、 Shapiro-Wilk検定後に相関係数もしくは順位相関係数を適用し、危険率は5%とした。 またSF36v2の下位尺度値は国民標準値とも比較した。【説明と同意】 本研究については筆頭演者所属施設の倫理委員会の承認を得て、対象者には同意書にて説明を行い、同意を得た。【結果】 JOA scoreと各下位尺度との相関は、LDH群では、PFにやや相関がみられた(rs=.358)。LDD群では、PF(rs=.328)、RP(rs=.276)、BP(rs=.280)、VT(rs=.237)、SF(rs=.246)、RE(rs=.219)にやや相関がみられた。国民標準値との比較では、LDH群、LSS群ともに全ての下位尺度値は国民標準値を下回っていた。【考察】 本研究結果より、術前のLDH群では機能的な障害が身体機能にのみ影響がある可能性が考えられた。術前のLDD群においては機能的な障害が身体的健康度、精神的健康度ともに影響がある可能性が考えられた。これはLDH群が主症状は疼痛であることに対し、LDD群は疼痛以外の症状も呈することや、退行変性疾患であるため年齢や罹病期間などが関与する可能性も考えられるが定かではない。しかし腰椎疾患手術成績には精神医学的問題が関与することがいわれており、本研究で全下位尺度値が国民標準値より下回っていたことからも、LDD群では術前から機能障害に対して可能な範囲でアプローチしていくことが術後のQOLの早期向上につながることが示唆された。LDH群では健康関連QOLと機能面との関連性があまりみられないため、今後さらに多角的な視点から検討する必要性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】 腰椎疾患手術患者の術前からの機能面、健康関連QOLの特徴を把握することは、術後後療法を実施する上で早期のQOL向上のための一助となると考える。
  • 伊藤 貴史, 古谷 久美子, 朝重 信吾, 星野 雅洋, 大森 圭太, 五十嵐 秀俊
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 痛みを訴える患者の中には,心理的問題によって症状が持続または悪化している者も多い.近年,慢性疼痛の維持要因である代表的な認知的問題として,痛みの経験をネガティブにとらえる傾向である破局的思考の重要性が言われている.そして,破局的思考の傾向が強いほど痛みが増強し,日常生活動作(以下ADL)にも支障をきたすと指摘されている.慢性疼痛の発生部位によりADLに及ぼす影響が異り,それには破局的思考も関与していることが考えられる.破局的思考を評価する代表的な指標として,Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)が知られている.PCSは,Sullivanらによって作成された評価法で,13項目5段階の質問形式からなり,そこからさらに「反芻」「無力感」「拡大視」の3つの下位尺度に分類されている.反芻は痛みのことが頭から離れない状態,無力感は痛みに対して自分では何もできないと信じている状態,拡大視は痛みそのものの強さやそれにより起こりうる問題を現実よりも大きく見積もることである.PCSは高い信頼性と妥当性が確認されており,破局的思考を測定する尺度の中で近年最も使用されている尺度である.先行研究では,慢性腰痛症を対象としたものが多く,その他の限局した部位の慢性痛に関する報告や,ADLとの関連性に関する報告などは少ない.そこで本研究では,慢性疼痛を有する頸椎疾患患者を対象に,破局的思考とADLの関連性について検討することを目的とした.【方法】 対象は,当院に2012年4~10月に頸椎の手術目的で入院した患者で,頸部もしくは上肢に慢性的な痛みを伴っていた18名(男性11名,女性7名,平均年齢(標準偏差):63.6(13.3)歳)とした.除外基準は,頸椎疾患以外に著明な合併症を有している者,質問形式の評価法の理解が困難な者とした.疾患の内訳は,頸椎症性脊髄症10例,頸椎症性神経根症4例,頸椎椎間板ヘルニア2例,後縦靭帯骨化症2例であった.評価項目は,痛みはVisual Analog Scale(以下VAS),破局的思考はPCS,能力障害はNeck Disability Index(以下NDI)とし,いずれの評価も自己記入式の質問紙を使用した.NDIは,10項目6段階からなる自己記入式の能力障害の評価表で,腰痛評価の世界水準であるOswestry Disability Indexを頸椎用に改変したものである.なお,すべての評価実施時期は手術前の安静時とした.対象者18名から得られた VAS値,PCS総点数,下位尺度の点数,NDIの点数にどのような関連性があるかPearsonの相関係数を用いて統計解析を行った.なお,統計解析の有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に対して,ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究の目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由について説明を行い,本研究協力への同意を得た.【結果】 VASとNDI,VASとPCS,PCSとNDI間において相関関係が認められた(r=0.70,0.50,0.47).また,PCSの下位尺度との関連性に関しては,VAS,NDIともに無力感とは相関関係を認めた(r=0.54,0.57)が,他の2つとは相関関係を認めなかった.【考察】 本研究の結果では,慢性疼痛を有する頸椎疾患患者において,VAS・NDI・PCSに相関関係を認めた.この結果より,頸椎疾患を有する慢性疼痛患者は,痛みが強いほど破局的思考が強くなりADLにも影響を及ぼしていることが示唆された.この理由として,痛みが生じて,その痛みを破局的にとらえると,痛みに対する恐怖が生じ,痛みが生じる可能性がある行動や活動を回避し,痛み対して過剰に注意を向けるようになる.そして,痛みに対する恐怖が生じ続けることによって,痛みの重篤さが増し,さまざまな機能障害に加え能力障害が生じたものと考えられた.また,VAS・NDIとPCSの下位尺度では両者ともに無力感のみが相関関係を認めた.無力感の強い人は,痛みに対して自分では何もできないと信じている状態である.つまり,慢性疼痛を有している頸椎疾患患者は,依存性が強くなっていたと考えられた.無力感の強い頸椎疾患患者に対しては,受動的な介入より自信を持たせるような能動的な介入が痛みの改善にも繋がりADLの向上につながると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 慢性疼痛を有する頸椎疾患患者に対して,機能障害のみでなく心理的因子の評価を行うことがADL向上につながる可能性が示唆された.また今後,疼痛の発生部位などからも心理的因子を予測できれば,効果的な介入方法の確立が可能になると考える.
  • 谷澤 真, 飛永 敬志, 宮崎 千枝子, 橋本 久美子, 大関 覚
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 腰椎手術は進行性の神経麻痺を認める以外は基本的に待機手術であり,保存的治療が難渋し慢性に経過した患者が対象となる.腰椎変性疾患患者は,機能障害やADL低下のみならず健康関連QOL(HRQOL)の低下も生じるとされている.さらに,HRQOLに及ぼす影響は他疾患より大きいといわれている.先行研究では保存的治療が行われている腰椎変性疾患患者に関する報告や手術前後での比較を行った報告はあるが,術前の特性に関して詳細に検討した報告は渉猟した限り見当たらない.本研究目的は腰椎変性疾患術前の患者に対して,HRQOL,動作能力,セルフ・エフィカシー,身体機能を評価し,術前の特性としてHRQOLの関連要因を明らかにすることである.【方法】 2011年10月から2012年11月までに当院整形外科で腰椎変性疾患にて手術目的で入院し,術前にHRQOL,動作能力,セルフ・エフィカシー,身体機能評価を行った40例(男性24名,女性16名,平均年齢61.2±17.5歳)を対象とした.疾患の内訳は腰椎椎間板ヘルニア(LDH)14例,腰部脊柱管狭窄症(LCS)26例であった.HRQOLの評価指標としてSF-36の下位8尺度の国民標準値に基づいたスコアリング得点および身体的サマリースコア(PCS),精神的サマリースコア(MCS),役割・社会的サマリースコア(RCS)を用いた.また,動作能力としてRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)を用いた.セルフ・エフィカシーは運動セルフ・エフィカシー尺度を用いた.身体機能としてFFDおよびハンドヘルドダイナモメーターによる腹筋,背筋の等尺性筋力を測定した.統計解析には,1)LDH群とLCS群の比較は対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いた.2)腰椎変性疾患患者のQOLの特性を明らかにするため各評価との関連性に対しPearsonの相関係数を求めた.また,ステップワイズ法による重回帰分析を用いてQOLの影響因子を探索した.統計学的分析にはSPSS19.0を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に則り対象者に本研究の趣旨および目的,結果の取り扱いやプライバシー保護について十分な説明を行い同意を得た.【結果】 1)SF-36の下位尺度全てがLDH群、LCS群ともに国民標準値を下回っていた。両群の比較では、SF-36の下位8尺度およびサマリースコア,RDQ,運動セルフ・エフィカシーには有意差は認められなかった.手術時年齢はLDH49.0±19.1歳,LCS67.9±12.9歳であり,FFDはLDH14.7±15.8cm,LCS4.3±9.3cmであり有意差が認められた(手術時年齢p<0.01,FFDp<0.05). 2)SF-36のPCS,RCSおよび全下位尺度はRDQと有意な負の相関が示された(r=-0.328~-0.640,p<0.05).下位尺度のうち,「活力」と「心の健康」は腹筋,背筋とも正の相関が示された(r=0.419~0.629,p<0.05).MCSは腹筋,背筋,FFDのみ正の相関が示された (腹筋r=-0.503,背筋r=0.419,FFD=0.305,p<0.05).重回帰分析の結果,PCSを従属変数としたモデル(R²=0.252)ではRDQが抽出された(β=-0.502).MCSを従属変数としたモデル(R²=0.503)では腹筋(β=0.617),運動セルフ・エフィカシー総得点(β=-0.349),FFD(β=0.296)が抽出された.【考察】 LDHはLCSと比較して若年者において罹患しやすいという特性に応じて手術時年齢に有意な差がみられた.しかし,FFDを除いて,動作能力やQOL,セルフ・エフィカシー低下の違いはみられなかったことから,術前の能力低下やHRQOL低下は腰椎変性疾患として共通した特性であることが示唆された. HRQOLの低下は動作能力の低下と関連性があり,特にPCSはRDQが関連因子として認められた.一方,MCSは身体機能および自己効力感が関連因子として認められた.このことは術前のHRQOLに合わせて理学療法介入標的を同定する重要性を示していると考える.【理学療法学研究としての意義】 腰椎変性疾患はHRQOLに及ぼす影響が他疾患より大きいといわれている.腰椎変性疾患患者のHRQOLに寄与している因子を明確にすることは重要である.術前の疾患特性を明らかにすることで術後に介入する際の手がかりを提示すると考えられる.
  • 古谷 久美子, 伊藤 貴史, 齋藤 裕美, 吉川 俊介, 星野 雅洋, 大森 圭太, 五十嵐 秀俊
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】当院では胸腰部脊椎疾患患者に対して手術療法が多く施行されており,患者の多くが慢性疼痛を有している.慢性疼痛は,身体機能の低下や抑うつ・不安などを引き起こし,睡眠を妨げ,日常生活活動(以下ADL)の多くを阻害しうるといわれている.疼痛を訴える患者の中には心理的問題により症状が維持・悪化している者も多い.慢性疼痛の維持要因である代表的な認知的要因として,痛みの経験をネガティブにとらえる傾向である破局的思考が挙げられており,その程度を評価する尺度として,Sullivanらによって作成されたPain Catastrophizing Scale(以下PCS)が近年最も使用されている.そこで今回,手術が適応となった胸腰部脊椎疾患患者の心理的側面に着目し,PCSと腰痛・下肢痛によるADL障害を評価する疾患特異的評価法オスヴェストリー能力指数(Oswestry Disability lndex:ODI)の関連性について検討したのでここに報告する.【方法】対象は,2012年1月から11月までに胸腰椎脊椎疾患の手術目的で当院へ入院した患者で,腰背部または下肢に慢性疼痛を伴う101名(男性58名,女性43名,平均年齢(標準偏差)65.9(13.0)歳,BMI(標準偏差)24.7(4.0)kg/m²)とした.除外基準は,胸腰椎以外に著明な合併症を有している者,質問形式の評価法の理解が困難な者とした.疾患の内訳は,腰部脊柱管狭窄症73例,腰椎椎間板ヘルニア10例,腰椎変性すべり症8例,変性側弯症3例,変性後弯症7例であった.評価項目は,1)PCS(下位項目「反芻」「無力感」「拡大視」),2)ODIとした.PCS は痛みに対する破局的思考を測定する尺度で,13 項目の質問形式からなり,そこから更に「反芻」「無力感」「拡大視」の3つの下位尺度に分類される.13項目に対し,普段痛みを感じている自分の状態にどの程度当てはまるかを5段階のリッカートスケールを用いて回答する方法である.ODIは世界で最も広く使用されてきた患者立脚型の腰痛疾患に対する疾患特異的評価法のひとつである.評価方法は,手術前の安静時に自己記入方式にて回答させた.統計解析にはPCSおよびPCS下位項目とODIの関連をみるためにPearsonの積率相関係数を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者に対して,ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究の目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由について説明を行い,本研究協力への同意を得た.【結果】PCSの平均値(標準偏差)は30.8(10.2)点で,下位項目では「反芻」11.0(4.6)点,「無力感」12.7(4.0)点,「拡大視」7.1(3.1)点であった.ODIの平均値(標準偏差)は39.9(18.7)%であった.統計解析の結果,PCSとODIに相関を認めた(r=0.394,p<0.001).また下位項目の「反芻」(r=0.435,p<0.001),「無力感」(r=0.320,p=0.001)「拡大視」(r=0.258,p=0.009)についてもそれぞれ相関を認めた.【考察】今回,手術が適応となった慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者において,PCSとODIに相関関係を認めた.また,PCSの下位項目である「反芻」「無力感」「拡大視」とODIについてもそれぞれ相関関係を認め,特に「反芻」との関連が強い事が確認された.この結果より,慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者は,痛みに対する破局的思考が強く,ADLにも影響を及ぼしている事が示された.「反芻」とは同じ事について繰り返し考えることである.長期間にわたり痛みについて反芻する事で恐怖心が生じ,痛みを引き起こす可能性がある行動や活動を回避するようになる.このような逃避・回避行動により活動量が低下することで,機能障害に加えて能力障害が生じると考えられる.慢性疼痛患者はその後うつ状態の有病率が高いとされており,「反芻」は抑うつの発症・維持の認知的要因とも言われている.抑うつ状態もADL低下の要因の一つであることから,反芻を軽減するために心理的側面からの介入を行う事はADLの維持・向上につながると考える.今後の課題として,術前・術後のPCSの変化とODIの関連性を継続的に調査することで,術前の心理的側面の評価が術後ADLの予後予測に役立つと考える.【理学療法学研究としての意義】慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者に対して身体機能向上だけでなく,心理的側面を考慮した介入を行う事がADL向上につながる可能性が示された.術前の痛みに対する破局的思考を把握することは,より効果的な介入方法の確立および臨床成績の向上につながると考える.
  • HTO患者と健常人との比較
    出口 直樹, 山崎 登志也, 平川 善之, 原 道也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性膝関節症(膝OA)は現在2,530万人とされ,発症や進行による疼痛増加や機能障害をきたすことで,転倒や廃用症候群を招くことが問題とされ予防は重要である.悪化要因の1つとして膝の外側動揺が挙げられているため動作解析により膝OAの歩行の特徴を明らかにすることで予防や進行につながる可能性がある.しかし,動作解析には床反力計や三次元動作解析装置が使用されているが,装置は高価で操作や解析処理が複雑であり測定環境も限定されるため,コストや利便性の面からも小型加速度計が近年用いられている.本研究の目的は小型加速度計を用いて膝OA,高位骨切り術患者(HTO),健常者の歩行の特徴を明らかにし臨床応用が有用であるか明らかにすることである.【方法】研究デザインは,ケース・コントロール研究とし測定期間は,2012年6月~11月であった.対象は,当院に入院し2010年2月~2011年9月にHTOを施行し1年以上経過(術後18.1±6.4ヵ月:12-32ヵ月)した患者(HTO群)13名16膝(男性2名3膝,女性11名13膝,年齢(±SD)63.9±6.3歳:58-79,BMI24.6±3.0:22.0-32.0;FTA171.5±2.3度)であった.膝OA患者は,両脚立位時の膝の前後X線撮影で,膝OAと診断があるもので,歩行が自立している者とし,荷重時痛を認め,両膝に手術既往がない患者(膝OA群)10名13膝(男性2名2膝,女性8名,11膝,年齢60.9±7.2歳:52-73,BMI26.3±3.0:20.2-29.7,K/L Grade2:6膝、3:7膝;FTA179.2±1.2度)であった.対照群は,50歳以上で病院受診しており膝OAを有してない者,病院入院患者の付き添いおよび家族,研究者の家族の知人・友人関係11名22膝(男性4名,8膝,女性7名,14膝,年齢62.3±8.0歳;58-69,BMI25.8±2.3;17.3-28.2)でこれまで膝関節で病院受診をしたことがなく膝の疼痛を有さない者とした.方法は,歩行評価の測定課題は裸足での10m区間の自由歩行とした.加速度計測は測定前に30秒間のキャリブレーションを行った.3 軸加速度計(MA3-04Ac マイクロストーン社製)を腓骨頭直下(膝部),足関節外果直上(足部)に10年以上経験がある理学療法士が貼付し,加速度波形をサンプリング周波数は100Hzにて導出した.歩行の加速や減速の影響を考慮し,各試行中の6歩,8歩,10歩目から得られた加速度波形を分析した.測定は各歩行条件で2回行い計6歩行周期の踵接地より外側に最大振幅を算出した値をキャリブレーションした値から除したものを最大外側加速度(ZLAV)とした.また,踵接地からの外内側の最大側方加速度の変化量(加速度変化量)を絶対値にて算出し,この間の峰性数も記録した.統計解析としてHTO群,膝OA群,健常群のZLAN,加速度変化量,峰性数の比較を一元配置分散分析にて検討し,多重比較検定にはFisherのPLSD法を用い,有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】被検者には研究の目的を十分に説明し,書面にて同意を得た。また,本研究は福岡リハビリテーション病院の倫理委員会より承諾を得て行った.【結果】3群間のベースラインでは,膝OA群と対照群のBMI(p=0.483)およびHTO群のFTA(p=0.000)で有意差を認めた.ZLAVはHTO群0.2±8.2m/s2(17.5-13.2),OA群9.6±3.1m/s2(5.9-16.0),対象群は,13.0±4.2m/s2(3.3-19.9)であった.3群間のZLAVの比較では,HTO群はOA群(p=0.000)および対象群(p=0.000)より小さく,膝OA群と健常群は,膝OA群が小さかった(p=0.041).加速度変化量はHTO群16.9±7.0m/s2(3.0-43.1),OA群13.9±5.3m/s2(7.4-35.4),対照群は,20.9±6.5m/s2(3.5-37.5)であった.3群間の加速度変化量は,OA群はHTO群(p=0.002)および対照群(p=0.000)より小さく,HTO群と健常群では,膝OA群が有意に小さかった(p=0.000).峰性数は,HTO群1.2±0.3峰性,OA群1.2±0.3峰性,健常群1.2±0.2峰性であり,3群間に有意な差を認めなかった(p=0.843).【考察】加速度計は,方法論や解析方法の使用課題は多いとされ,膝OAの動作解析を行っている先行研究で,外側の加速度が着目されている.本研究では,HTO群,膝OA群,対照群において峰性数に差を認めないが,ZLAVおよび加速度変化量は異なった波形を示し対照群が大きかった.しかしながら,HTO群とOA群の比較では,外側最大加速度ではOA群が大きいが,加速度変化量では小さいという特徴が観察された.HTO群は膝OA群と比較し,FTAの角度は小さくZLAVおよび加速度変化量が大きいと思われたが,測定する範囲により異なり,波形を観察する際にはZLAVだけではなく波形全体に目をむける必要があるかもしれない.【理学療法学研究としての意義】小型加速度計を使用し,対照者と比較にて膝OAにおける特徴的な波形を明らかにすることが可能であり臨床応用が有用であるが,動作解析をする際,外側側方への解析だけに着目するではなく,波形全体を観察することの必要性を示せたことが本研究の理学療法意義である.
  • 沼田 純希, 糟谷 紗織, 永塚 信代, 近藤 淳, 井上 宜充, 竹内 良平
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性膝関節症に対する手術療法に,高位脛骨骨切り術(以下,High Tibial Osteotomy :HTO)がある.当院では内側開大式高位脛骨骨切り術(以下,Open Wedge High Tibial Osteotomy :OWHTO)において開大部に人工骨としてオスフェリン60(β-TCP,オリンパステルモバイオマテリアル株式会社)を挿入し,内固定材にTomofix(SYNTHES株式会社)を使用し,術後1週間で部分荷重を開始,2週以降で可及的全荷重へ進めている.人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty :TKA)に比べ,歩行時の荷重時痛が残存する印象を受けるが,術前後の経過は明らかになっていない.本研究では,OWHTO術後の歩行能力の回復・改善の関連因子を把握することを目的とし,術前後の歩行速度,疼痛および筋力の推移を計測し,その関係について解析を行った.【方法】対象は,当院にてOWHTOを施行した14症例(男性3,女性11例,年齢64±7.7歳,身長155.4±8.3cm,体重62.1±9.6kg)とした.計測は術前,術後1ヵ月(1M),術後3ヵ月(3M)の時点で実施した.評価項目は,筋力,歩行速度および疼痛とした.筋力は,術側の端坐位での膝伸展(以下,膝伸展),膝伸展拳上(Strait Leg Raising :SLR),背臥位での足関節底屈,背屈について,Hand Held Dynamometer,µTas F-1(アニマ株式会社)を使用し計測した値を体重で除し筋力体重比を算出した(N/kg).歩行能力は10mwsを計測した.疼痛は質問紙法の変形性関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)のうち疼痛項目の合計点(KOOS-pain,9項目,各5点満点,計45点満点)を算出した.なお,KOOSは高得点ほど症状が軽度となる.歩行速度,KOOS-painおよび筋力の術前後の推移について,Friedman検定を用いて解析し,また,各項目の相関分析をSpearmanの順位相関係数を用い解析した.統計的解析には,JSTAT for Windows(佐藤真人,株式会社南江堂)を使用し,有意水準は5%および1%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿っており、当院倫理審査委員会の承認を受け実施し(承認番号:第24-28号),対象者には十分な説明を行い同意を得た.【結果】術側筋力(N/kg)は,膝伸展(術前:3.71±1.50,1M:1.79±0.85,3M:2.89±1.06),SLR(術前:1.55±0.59,1M:0.89±0.53,3M:1.33±0.52),底屈(術前:5.73±2.03,1M:3.95±1.38,3M:5.82±1.14),背屈(術前:2.46±0.84,1M:1.66±0.46,3M:1.99±0.42)であった.歩行速度は術前6.73±2.4sec,1M9.60±1.9sec,3M6.58±1.3secであった.KOOS-pain(点)は術前16.4±8.8,1M16.3±8.1,3M21.8±5.0であった.一元配置分散分析の結果,筋力に関しては,術側膝伸展,SLR,底屈,背屈は1Mで術前より有意に低下したが(p<0.05),3Mと術前では有意差を認めなかった.歩行速度は術前に比べ1Mで有意に低下したが(p<0.01),3Mでは有意差を認めなかった.KOOS-painは術前と1Mで差は認めなかったが,3M では術前に比べ有意に改善した(p<0.05).一方,Spearmanの順位相関係数の結果より,歩行時間とKOOS-painでは術前のみ負の相関関係が認められた(rs-0.61).また,KOOS-painと筋力では,術前足底屈で相関関係が認められた(rs0.62).歩行速度と筋力の関係については,術前術側足底屈(rs-0.59),1M術側膝伸展(rs-0.82),1M術側SLR(rs-0.67),1M術側足底屈(rs-0.86),3M術側膝伸展(rs-0.60),3M術側SLR(rs-0.59),3M術側足底屈(rs-0.78)において歩行時間との負の相関関係が認められた.【考察】以上の結果より,KOOS-painと歩行速度および筋力には術前のみ相関関係が認められた.術側筋力と歩行速度では,1Mおよび3Mの膝伸展,SLR,足関節底屈筋力において有意な相関が認められ,特に1M膝伸展,1M足関節底屈,3M足関節底屈では強い相関が認められた.以上の結果より,術前では,疼痛が筋力および歩行距離に影響するが,術後1か月以降では歩行能力に関しては疼痛より筋力の影響が大きいことが示唆された.術後3ヵ月以降では疼痛・筋力ともに改善するが,歩行能力の改善には相関関係の認められた筋力を強化する必要性があると考えられる.また平澤らは,60歳代の健常者の等尺性膝伸展筋力の筋力体重比平均は男性64.1±12.9kg/Wt×100(N=28),女性50.1±9.4kg/Wt×100(N=56)と報告しており(2004),症例群の筋力低下は著明といえ,膝伸展筋力の強化は重要と考えられる.【理学療法学研究としての意義】HTO術後症例において疼痛ではなく筋力と歩行能力の間に関連を認めたことは,HTO術後のリハビリテーションにおける筋力強化の重要性を示唆しているものと考えられる.
  • 変形性関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)を使用して
    近藤 淳, 沼田 純希, 永塚 信代, 糟谷 紗織, 井上 宜充, 竹内 良平
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】変形性膝関節症患者に対し脛骨近位内側を骨切りし、人工骨を挿入することで内反変形した膝関節を外反位に修正し、膝関節内側への荷重を分散化させ疼痛を軽減する内側開大式高位脛骨骨切り術(以下OWHTO)がある。当院でのOWHTOは内固定材にTomofix(synthes社)及び骨開大部にβ-TCP(オスフェリオン60、オリンパステルモバイオマテリアル社)を使用し、早期荷重が可能(術後1週で部分荷重、術後2週で全荷重)となっている。関節温存しつつ以前に比べ早期に機能回復が得られるため、近年変形性膝関節症に対する術式として注目されている。しかしOWHTOに関する理学療法領域の報告は少ない。理学療法施行上、日常生活動作(ADL)は最も重要視するものの一つであるため、OWHTO術前後のADL変化、および術前後のADLに関連を与える因子を調査するため研究を行った。【方法】対象は2011年7月から2012年7月に当院にて変形性膝関節症にOWHTOを施行した17例17膝(男性5名、女性12名)とした。属性は年齢63.9±7.7歳、身長158.3±8.4cm、体重64.2±10.0kg Body Math Index(以下BMI)25.5±2.7であった(各平均±SD)。ADL評価に変形性膝関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)の中の日常生活項目 (17項目、68点満点、以下K-A)を使用した。術前、術後1ヶ月(以下1M)、術後3ヶ月(以下3M)にK-Aを紙面でアンケート調査し、各時期における差を検定した。術前、1M、3Mにおける年齢、BMI、術側膝関節自動・他動屈曲伸展ROM、術側膝伸展筋力、術側SLR筋力、術側膝疼痛VAS(最大10cm) と、各時期におけるK-Aとの相関を検定した。ROM測定はゴニオメーターを使用し日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会の方法に準じ測定した。筋力はHand-held dynamometer(アニマ社製 µTas F-1)を使用し膝伸展は端座位、SLRは背臥位にて各2回測定し、その平均値を体重で除し筋力体重比を算出した。疼痛VASは10cmの線が記載された紙面を使用した。統計は差の検定にHolm法を、相関の検定にスピアマン順位相関係数検定を使用した(p<0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】全ての対象に研究の目的と内容を説明し、同意を得たうえで計測を行った。本研究はヘルシンキ宣言に沿っており、横須賀市立市民病院の倫理審査委員会の承認(承認番号:第24-28号)を受け実施した。【結果】各平均±SDは以下の通り。K-Aは術前)45.6±9.8点、1M)38.1±9.1点、3M)50.8±6.1点であった。相関を検定した術側パラメーターとして膝自動伸展ROMは術前)-2.4±4.2°、1M)-1.5±2.9°、3M)-2.4±3.6°。膝他動伸展ROMは術前)-1.5±2.9°、1M)-0.3±1.2°、3M)-0.9±2.6°。膝自動屈曲ROMは術前)133.8±5.7°、1M)123.2±9.0°、3M)128.8±6.7°。膝他動屈曲ROMは術前)141.2±6.0°、1M)133.2±7.5°、3M)135.9±7.5°。膝伸展筋力体重比は術前)3.6±1.3 N/kg、1M)1.8±0.9 N/kg、3M)2.7±1.0N/kg。SLR筋力体重比は術前)1.7±0.5 N/kg、1M)0.9±0.5 N/kg、3M)1.3±0.5N/kg。膝疼痛VASは術前)4.2±2.6cm、1M)2.1±1.0cm、3M)1.9±1.8cmであった。有意差が認められたのは術前のK-Aと1MのK-A(p<0.01)、1MのK-Aと3MのK-A(p<0.01)、術前のK-Aと3MのK-A(p<0.05)であった。相関が認められたのは1MではK-AとVAS(rs=-0.65)、3MではK-AとVAS(rs=-0.69)であった。【考察】OWHTOは早期荷重によるリハビリテーションが可能になっている。そのため1Mで術前よりADL低下が認められるが、3Mには術前を上回るADLを獲得できることが示唆された。各時期のADLに関連したのは術後の膝疼痛のみであった。疼痛以外のパラメーターが各ADLに限局的に影響を与えた可能性はあるが、疼痛はADL動作全般に影響を与える可能性が高いため、強く関連したと考えた。また術前の疼痛に相関が認められず、術後のみ認められたことから、術後ADLに影響を与える疼痛は、温存された膝自体の術前から存在した疼痛ではなく、手術により侵襲された組織もしくは修正された下肢アライメントに起因した疼痛である可能性が高いと考えた。【理学療法学研究としての意義】本術式によるOWHTO患者は術後3ヶ月には術前ADLを上回るようゴール設定し、そのために疼痛管理が重要であることが示唆された。疼痛管理は手術により侵襲された組織、もしくは修正された下肢アライメントを考慮したアプローチが重要であることが示唆された。
  • 井上 直人, 中川 泰彰, 向井 章吾, 新宮 信之, 廣瀬 ちえ
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】当院では、変形性膝関節症(以下、膝OA)患者に骨軟骨柱移植術を施行しており、アライメント不良である大腿脛骨角180°以上では高位脛骨骨切り術(以下、HTO)を併用している。骨軟骨柱移植術にHTOを併用した症例においては、2週間の免荷期間を設けており、我々の過去の調査において全荷重で退院になる時期でも膝伸展筋力の低下が認められた。そこで今回、術後6カ月までの膝伸展筋力及び歩行能力を追跡調査し、膝伸展筋力の回復と歩行能力や疼痛の改善までに要する期間を調査することを目的とした。【方法】当院で膝OAと診断され、平成23年8月から平成24年5月末までに骨軟骨柱移植術にHTOを併用した7名7膝(男2名、女5名、年齢63±6歳、身長 159.7±10.3cm、体重 69.8±8.5kg、BMI 27.4±3.3)を対象とした。膝機能の評価として、日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準(以下、JOAスコア)と、膝伸展筋力の測定を非術側と術側で実施した。筋力評価にはCYBEX NORM(CYBEX社製)を用い、等尺性筋力と等速性筋力を測定した。等尺性筋力は、膝角度90度に設定し2回の平均トルクを採用した。等速性筋力は角速度60deg/secで測定しピークトルクを採用した。得られたトルク値は体重で除し100を乗じて%BWを算出した。測定時期は、術前(以下、PRE)、術後3カ月( 以下、PO3M)、術後6カ月(以下、PO6M)とした。膝伸展筋力、JOAスコアを非術側と術側ごとに分けPRE、PO3M、PO6Mで比較した。また、それぞれの時期の非術側と術側を比較した。統計処理には2元配置分散分析を行い、多重比較にはBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮 説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り、対象者に研究の内容データの取り扱いについて十分説明し同意を得た。【結果】等尺性筋力は、非術側PRE 116.6±36.5、PO3M 133.6±41.4、PO6M 133.6±44.0、術側PRE 82.7±41.3、PO3M 90.3±26.2、PO6M 94.0±29.2で、PRE、PO3M、PO6Mそれぞれにおいて、非術側と術側に有意差が認められた(p<0.01)。等速性筋力は、非術側PRE 86.6±31.7、PO3M 105.3±33.5、PO6M 107.7±44.3、術側PRE 63.6±28.1、PO3M 61.1±23.9、PO6M 77.1±33.1で、PREの非術側と術側(p<0.05)、PO3Mの非術側と術側(p<0.01)、PO6Mの非術側と術側(p<0.01)、非術側のPREとPO3M(p<0.05)、PREとPO6M(p<0.01)、術側のPO3MとPO6M(p<0.05)に有意差が認められた。JOAスコアの合計点は、非術側PRE 73.6±13.5点、PO3M 81.4±13.5点、PO6M 84.3±11.7点、術側PRE 60.7±10.2点、PO3M 68.6±4.8点、PO6M 75.7±10.6点でPREの非術側と術側(p<0.01)、PO3Mの非術側と術側(p<0.01)、PO6M(p<0.05)の非術側と術側、非術側のPREとPO3M(p<0.05)、PREとPO6M(p<0.01)、術側のPREとPO3M(p<0.05)、PREとPO6M(p<0.001)に有意差が認められた。疼痛・歩行能は、非術側PRE 24.3±4.5点、PO3M 27.1±3.9点、PO6M 28.6±2.4点、術側PRE22.1±3.9点、PO3M 24.3±1.9点、PO6M 27.1±2.7点でPREの非術側と術側(p<0.05)、PO3Mの非術側と術側(p<0.01)、非術側のPREとPO6M(p<0.01)、術側のPREとPO6M(p<0.05)に有意差が認められた。【考察】我々は過去の調査において、膝OA患者は術前から非術側に比べて術側の膝伸展筋力が低下していることを報告した。今回の結果から術側の膝伸展筋力は、術後3ヶ月で術前と同等なレベルまで筋力が回復することが考えられた。JOAスコアの疼痛・歩行能は、術後3ヶ月で術前と同等なレベルとなり、術後6ヶ月で非術側との差が認められなくなるまで改善することが考えられた。【理学療法学研究としての意義】骨軟骨柱移植術にHTOを併用した膝OA患者の筋力や歩行能力及び疼痛などの経時的な変化は明らかにされていない。今回の調査結果から理学療法の継続期間、身体機能や身体能力の獲得時期の一指標に成り得ると考える。
  • FTA・足部位置覚の変化と関連性について
    野尻 圭悟
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】筆者は第46回日本理学療法学術大会において、高位脛骨骨切術後患者(以下HTO患者)における矯正角と足部位置覚の特徴と関係性について報告した。HTO患者では術側足部が内外反0°もしくは外反位を足部のフラットと捉え、非術側では足部内反位をフラットと捉えており、また矯正角が大きいほど術側をフラットと知覚している患者が多かった。前額面上での膝のアライメント変化が、足部の位置覚にも影響を及ぼすことを示唆した。先行研究において島田ら(2011)はHTO側にLateral Thrustが生じる事を報告し、Martinら(2011)は、HTO術後非術側の内転モーメントの増大と内転角の増大が病態進行を助長すると述べている。バイオメカニクスにおける前額面上の変化は明らかとなっているが、静的な評価(FTA)と患者が捉える足部での平衡感覚の知覚を比較した研究は散見されない。今回HTO側と非術側のFTA・足部位置覚を、術後約1か月後と抜釘術を施行した後で比較し、FTA増大の有無と足部位置覚との関連性を調査したのでここに報告する。【方法】対象の母集団は2010年7月から12月に当院で片側HTOを施行した患者21名(女性16名,男性5名:平均年齢62.4±7.5歳)のうち、膝関節以外に外傷歴および疼痛を伴う関節を呈している症例と反対側のHTOを施行した症例を除外基準として取り込まれた者19名(女性14例,男性5例:平均年齢65.7±6.8歳)であった。対象患者は術後平均27±7.6日でFTA・足部位置覚を測定し、抜釘術(平均863±157日)を施行するために入院された際にまた同様の検査を行った。FTAの計測は両脚荷重下のレントゲン上で行い、位置覚の測定方法は、ハーフのストレッチポールの平らな部分に角度計を設置した。床面と測定面が平行にある状態をフラットと定義し、裸足・立位にて計測を行った。計測足部をハーフのストレッチポールを縦に置いた測定器に乗せ、反対側は同じ高さの台に乗って測定した。測定器と台には2等分線が引かれており、前足部は第1趾と第2趾の間を通り、後足部は踵の中点を通るものとした。測定前の状態を排除するため、被検者は床とフラットである事を目視と足の感覚で覚えた後に内・外反を自分自身で10回実施した。その後足部を目視せずフラットと感じた部分を検者に告げ、その内・外反角度を角度計にて計測した。その角度を「足部内・外反位置覚」とした。統計学的手法においてHTO術後・抜釘後のFTA・足部位置覚はt検定(p<0.05)を用い、FTAと足部位置覚の関連性を検討するためWilcoxon signed-rank testを用いて検討した。【説明と同意】対象者には本研究の内容を十分に説明し、口頭にて同意を得た後実施された。【結果】FTAは術側平均171.3±2.7°であったのが、抜釘後では平均173.2±2.1°とやや内反傾向になり有意差(p<0.04)を認めた。非術側は術後平均180.2±4.2°で抜釘後は平均182.8±2.8と、術側と同様に内反傾向を強める結果となった(p<0.03)。足部位置覚は、術側平均1.4±1.2°外反位が平均0.3±1.9°外反位へと足部内反方向へ変位し、非術側では平均1±1.4°内反位が平均2.6±2.9°内反位へと術側同様に患者がフラットと知覚する足部の位置覚は内反傾向になり、両側ともに有意差を認めた(術側:p<0.046・非術側:p<0.04)。またFTAと足部位置覚との相関では、HTO術後と抜釘後の非術側FTAと位置覚に中等度の相関が認められた(r=0.43)。しかし、術側のFTA・位置覚には術後・抜釘後に相関は認められなかった(r=0.216)。【考察】先行研究では、バイコンを用いた歩行での動的評価であったが、本研究において静的な立位アライメントでもFTAが増大する結果となった。術側におけるFTAの増大には様々な因子が考えられるが、HTOを施行したとしても股関節・足関節または患者の動作戦略を変化させなければ、手術したにも関わらず内反変形を引き起こしてしまう可能性が足部にも影響を与える事が示唆された。非術側でも同じように長期的な経過をみると、膝内反変形は助長されアライメント変化に伴い変形性膝関節症が進行する事が示唆された。また、非術側においてFTAの増大に伴い足部の位置覚も内反方向へ変位することから、患者が捉える床と足部との知覚的な障害も同時に生じており、非術側に対する治療は筋力増強やアライメントの修正だけでなく、深部感覚に対する治療も選択すべき項目になるのではと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究において、HTO術側・非術側での長期成績においてFTAの増大と足部の知覚的要素が関連していることが明らかとなり、手術施行後の入院期間において術側のみならず非術側への治療手段を考慮する必要性を示唆するものであり、臨床上意義深いものであると考える。
  • 佐藤 智代, 松尾 剛, 石井 達也, 井上 智人, 佐々 貴啓
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】高位脛骨骨切り術(High tibial osteotomy)は初期で軽度の内側型変形性膝関節症(Medial compartment osteoarthritis of the knee : 以下膝OA)や大腿骨内顆骨壊死(Spontaneous osteonecrosis of the knee : 以下膝ON)が適応とされている。この術式では自己の関節が温存可能で術前以上の膝機能の回復が期待でき、日常生活上においても術前と同様かもしくはそれ以上の活動性の向上を見込むことができる。中でもLCP(Locking compression plate)と吸収性骨補填材であるβ‐TCP(β-Tricalcium phosphate)を使用した開大式高位脛骨骨切り術(Opening wedge high tibial osteotomy:以下OWHTO)は手術侵襲が少なく初期固定が強固である為、早期より荷重歩行訓練が可能で今後の適応の拡大が期待される。しかし、HTOは初期の変形で若年者に適応となることが多く、高齢者における施術の報告は少ない。そこで今回、当院において高齢者に対しOWHTOが施行された症例を対象とし、術後理学療法の進捗状況を検討したので報告する。目的はOWHTOが高齢者において有効な術式であるかどうかを術後の理学療法プログラムの進捗状況、JOA scoreの改善度にて若年者と高齢者群間で比較し、それにより高齢者におけるOWHTOの有効性の検討と理学療法的アプローチの充実を図る事とした。【方法】当院のOWHTOに対する理学療法は術前に筋力、関節可動域、脚長差、歩行及びADL能力などの評価を行い、筋力訓練、関節可動域訓練を実施している。術後は1週より全荷重許可とし、歩行訓練を開始する。入院期間はおおむね術後5~6週で退院後は週1回程度の外来リハビリテーションを実施している。今回の対象は2009年10月から2012年11月の間に当院にてOWHTOが施行された91症例のうち75歳以上患者10症例(平均78.2歳:以下A群)、50歳代患者10症例(平均54.3歳:以下B群)計20症例とした。疾患としてはA群が膝OA6例、膝ON4例、B群は膝OA8例、膝ON2例であり、男女比はそれぞれ男性3例、女性7例であった。方法は2群間において術直後からの片松葉杖およびT字杖歩行獲得日数、術直後から術後3ヶ月にかけての日本整形外科学会OA膝治療成績判定基準(以下JOA score)の点数改善度を診療録より後方視的に調査し、A群‐B群間で比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査委員会にて倫理審査を行い、適合性を得た。また、発表を行うに際し対象者に十分に説明をし、同意を得た。【結果】片松葉杖歩行獲得日数の平均はA群22.9(±4.6)日、B群23.2(±5.5)日、T字杖歩行獲得日数の平均はA群33.6(±7.4)、B群34.7(±2.9)日日、術後から術後3ヶ月のJOA score点数の改善度に関してもA群21(±10.7)点、B群19(±4.6)点と大きな差は見られなかった。ただし、B群と比較してA群においてT字杖歩行獲得日数においてばらつきがみられ、歩行獲得日数が遅延した症例がみられた。その要因としてはA群では反対側の股関節OAや膝OA、腰痛症等の疾患を保有している症例が存在した事があげられる。しかし結果としては、高齢者群にT字杖歩行獲得日数には幅がみられたものの松葉杖歩行およびT字杖歩行獲得日数とJOA scoreの改善度の平均値において2群ともに大きな差は認められなかった。【考察】両群間で片松葉杖歩行獲得日数、T字杖歩行獲得日数、JOA score点数の改善度の平均値を比較した所、2群間に大きな差は認められなかった。この事から、OWHTOは年齢による術後プログラムの時間的な変更は必要ないと考えられ、75歳以上の高齢者においてもOWHTOは有効な手術であるのではないかと推察される。しかし、結果から高齢者群においてT字杖歩行獲得日数やJOA scoreの改善度にばらつきがあることが分かった。特にT字杖歩行獲得日数が遅延していた症例では腰痛症や反対側の股関節や膝関節におけるOA等の他関節疾患を保有している事などが杖歩行を獲得する際に影響を及ぼしたのではないかと考える。これらの事から、他関節疾患の保有等の合併症が多い高齢者に対しては、特に術前からのJOA scoreや既往歴の把握、他関節の状態、歩行等の評価を行う事が重要であると考えられる。このように状態把握を行うことができれば、より術後リハビリテーションの円滑化を図ることが可能であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の研究を行ったことで、高齢者と若年者間でのOWHTO術後におけるリハビリテーションプログラムの時間的な変更の必要はないと考えられた。この事からOWHTOは高齢者においても有効な術式であるということが示唆された。ただし、高齢者において患者の保有する疾患によってプログラムの進行に差がみられた為、高齢者においては術前からの綿密な評価や既往歴に配慮した術後理学療法が必要であると考えられた。
  • 西江 謙一郎, 江戸 優裕
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々は、第47回日本理学療法学術大会にて、内側型変形性膝関節症(膝OA)患者のX線画像上で膝蓋骨の変形の増大には、正面像で大腿骨長軸と大腿骨内外顆の接線のなす外側角(FC‐FS)の増大と、側面像で脛骨長軸と脛骨高原のなす背側角(PPTA)の低下が関与することを報告した。臨床上、膝OA患者は両側で膝蓋骨の変形を生じている事は少なくなく、疼痛を生じている事を多く経験する。また、両側での下肢アライメントの違いに着目することは、歩行動作など膝OAの原因となる動作を評価する際に有効である。そこで、今回は同一対象者の左右における膝蓋骨の変形と関連する膝関節周囲の骨アライメントを計測し、個体内での関係性を検討及び考察したのでここに報告する。【方法】対象は2010年7月から2012年10月に当院で両内側型膝OAと診断の受け、X線画像の使用に承諾を得ることができた27名(77.0±6.8歳・女性25名・K/L分類Grade1:2名、Grade2:8名、Grade3:9名、Grade4:6名、Grade5:2名)とした。対象者の診断に際して医師の処方の下、放射線技師により撮影されたX線画像を用いて、膝蓋骨の変形の程度、及びFC-FS、PPTAを計測した。膝蓋骨の変形は膝関節側面像において、膝蓋骨のPF関節面の平行線(膝蓋骨長軸線)に対して、膝蓋骨の周囲に増殖した骨棘の近位端と遠位端、及び骨棘を除いた膝蓋骨の上縁と下縁の計4点から各々垂線を引き、その垂線と膝蓋骨長軸線の交点間の距離を計測することにより評価した。尚、膝蓋骨長軸線上での膝蓋骨自体の長さを膝蓋骨長とし、骨棘の長さを近位変形長・遠位変形長、近位と遠位の変形量の和を総変形長と定義した。そして、各変形長を膝蓋骨長で除し、更に百分率で表すことで、近位変形率・遠位変形率・総変形率を算出し、分析に使用した。膝関節のアライメントは、正面像においてFC‐FS、側面像においてPPTAを計測した。統計学的分析には、同一対象者内の左右の二群と近位変形率の大小で二群(大群、小群)にそれぞれ分け、対応のあるt検定で検討した。 尚、検定における有意水準は危険率5%未満で判定した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の主旨を説明し、X線画像の使用に書面で同意を得た。【結果】計測の結果、大小二群ではFC-FSに有意な差はみられなかった(大群81.5±3.1度、小群81.6±3.7度)。PPTAは大群79.2±4.6度、小群82.2±3.2度であり、有意に低下していた(p<0.01)。左右二群では近位変形率、遠位変形率、総変形率に有意な差はみられなかった。FC-FSでは右群80.6±2.1度、左群82.5±4.1度であり、右側に対して有意に増加していた(p<0.01)。PPTAは右群79.6±3.8度、左群81.8±4.3度であり、右側に対して有意に増加していた(p<0.05)。【考察】今回の結果より、近位変形率の大小においてPPTAでは近位変形率の増加に対して有意に低下しており、前回の近位変形率とPPTAの相関が個体内でも一致している事が示唆された。しかし、FC-FSでは近位変形率の大小での有意な差はみられなかった。一方、両変形性膝OA患者においてPPTAは右側で小さく、FC-FSは左側で大きいことが分かった。こういった左右差は個体内での膝蓋骨の変形に関与するPPTAとFC-FSの相関にも左右差がある事が推察された。その為、膝蓋骨の変形に左右差はなく、個体内でのFC-FSに差がみられなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究により個体内でも膝関節周囲の骨アライメントが膝蓋骨の変形に関与することがわかった。また、関連する膝関節のアライメントに左右差があることが示唆された。このように、膝OA患者における形態的な特徴を明確にすることは、立位姿勢や動作分析といった動態的な研究の発展に関与する。今後は、X線画像を用いた静的な評価に加えて動作を用いた動的な研究を進めることが、膝OA患者の病態解析を発展させ、臨床に則した研究になると思われる。
  • 河江 将司, 小林 巧, 山中 正紀, 武田 直樹, 伊藤 俊貴, 入江 学, 小岩 幹, 清水 智, 石田 直樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに・目的】当院では変形性膝関節症(以下、膝OA)により膝に痛みを持つ患者に対し、「膝の痛みリハビリ教室」(以下、膝教室)を開催している。当院での膝教室は、膝痛改善を目的として、理学療法士による膝OAの病態、保存療法および日常生活に関する講義、疼痛、関節可動域、筋力、バランス能力および歩行能力の評価、家庭で実施する運動(関節可動域運動、筋力強化および歩行変容)について個別指導を実施し、定期的に評価および自主運動実施状況の確認を行っている。これまでの膝教室に関する報告では、1回のみ、あるいは集団に向けた講義や実技指導が多く、定期的に個別指導を実施した膝教室参加者の身体・運動機能について経時的に調査した報告は少ない。本研究の目的は、定期的に個別指導を実施した膝教室の有効性について検討することである。【方法】本研究の対象は2012年1月から2012年11月に膝教室に参加した9名(男性1名、女性8名・北大病期分類Stage2:2名、Stage3:5名、Stage4:2名)、平均年齢65.7±7.8歳、平均身長153.4±6.2cm、平均体重57.6±11.1kgとした。対象者は初回、受診後1か月、3か月および6か月に膝教室に参加した。初回に膝OAについての講義と身体・運動機能評価及び運動療法の実技指導を行ない、受診後1か月以降の膝教室では身体・運動機能の再評価および運動療法の確認、再指導を実施した。運動療法は膝屈曲および伸展ROM運動、大腿四頭筋運動(patella-setting、SLR)および歩行変容(内側荷重歩行)について指導した。評価項目は膝屈曲および伸展ROM、膝屈曲および伸展筋力、片脚立位時間、Timed Up and Go-test(以下TUG)、10m歩行試験(最大歩行速度)、変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下、JKOM)の総点、各下位尺度の点数およびVASとした。統計学的分析として、膝教室初回から6か月後までの経時的変化を検討するために、一元配置分散分析およびKruskal-Wallisの検定を用い、事後検定としてTukey HSDを用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】すべての対象者には、初回膝教室時に教室の内容を口頭及び書面を用いて説明し、署名にて同意を得て実施した。【結果】JKOM総点は初回(35.9±16.7点)と比較して3か月後(19.2±7.0点)および6か月後(17.4±10.5点)で、有意に低値を示した(p<0.05)。JKOM下位尺度の「健康状態について」(以下、健康)は初回(4.6±1.9点)と比較して1か月後(2.2±1.7点)、3か月後(2.3±1.1点)および6か月後(2.3±1.3点)で有意に低値を示した (p≦0.05)。また、JKOM下位尺度の「膝の痛みやこわばり」(以下、こわばり)は初回(15.9±6.8点)と比較して3か月後 (8.6±4.0点)および6か月後(8.4±6.0点)で、「ふだんの活動など」(以下、活動)は初回(5.6±3.7点)と比較して6か月後(2.3±1.7点)に有意に低い傾向を示した(p≤0.1)。膝ROM、膝筋力、片脚立位時間、TUG、最大歩行速度、JKOM下位尺度の日常生活及びVASで各時期における有意な差を認めなかった。【考察】本研究の結果から、膝教室初回と比較し3か月以降でJKOM総点は有意に改善した。JKOMは膝OA患者の患者立脚型のQOL評価尺度として開発され、信頼性・妥当性はSF-36やWOMACとの比較検討において認められている評価尺度であり、膝教室参加によりQOLの向上を認められたことが示唆される。特にJKOMの下位尺度の健康、こわばり、活動で改善が認められており、痛みやこわばりの軽減や余暇活動などを含む生活全体の活動が改善したことで、健康状態が改善し、結果としてJKOM総点が改善したと推察される。適切な指導のもとに行われた運動療法は、膝OA患者のADLやQOLの改善につながることが報告されており、本研究における膝教室は、自主運動のみにもかかわらず、個別指導による定期的な運動指導によりQOLが改善したと推察される。本研究が、短期および中期的に膝の痛みに関連するQOL向上における有効性を示したが、今後は長期効果の検討などが必要と考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、JKOM総点や下位尺度の経時的変化を比較検討することで膝教室の有効性を示唆することができた。これにより、各人に適切な運動指導を定期的に実施することで、自主運動のみでもQOL改善に効果的な結果が得られる可能性が示唆された。
  • 加藤 幸恵, 石井 大祐
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】大腿四頭筋皮下断裂の発症率は膝伸展機構損傷の中でも稀であり、術後の理学療法報告は少ない。今回、介達引力により受傷した大腿四頭筋皮下断裂患者を経験したため術後の理学療法を報告する。【方法】40代男性、会社員、身長177cm、体重93kg、BMI29.7。現病歴はゴルフ場の下り坂で足を滑らせ転倒。右大腿部痛にて当院外来受診。歩行が可能であったため同日knee brace装着し帰宅。MRIの結果より右大腿四頭筋皮下断裂の診断で、受傷後9日目で入院。10日目に手術施行し、内側広筋は内側1/2断裂、大腿直筋、外側広筋、中間広筋は全て横走断裂していた。術式は膝蓋骨の近位から遠位に骨孔を作製しBunnell縫合し、さらに補強を行った。既往歴は5年前に左下腿部挫傷。【倫理的配慮、説明と同意】本報告において当院倫理委員会の承認及び、対象者より文章にて同意を得て行った。【結果】術後、右膝関節軽度屈曲位でシリンダーギプス固定し、術後2日目より車椅子開始、術後5日目より1/2荷重開始。術後1週目より大腿四頭筋セッティング練習開始、術後2週よりシリンダーギプスで全荷重開始、術後3.5週より膝ActiveROM ex 開始、術後5週より両側支柱付膝サポーター装着し全荷重開始。術後7週で退院となり、週2回の外来理学療法を継続した。術後12週より両側支柱付膝サポーター除去となり、18週よりジャンプやジョギング等の高負荷な練習開始、術後20週で理学療法終了となった。筋力は徒手筋力計測器μTasF-1を使用し、膝伸展/屈曲筋力(kgf)の患健比を算出(%)。推移は術後4週で23.9/66.9、5週31.5/79.9、6週47.7/87.1、7週61.2/74.9、20週88.3/81.1であった。また筋組織の修復を考慮し4週目から実施した。初期は患部の痛みによる制限であったが、最終では痛みなく行えた。膝屈曲ROMの推移は術後3.5週で55度、5週で110度、7週で125度、20週で130度(健側135度)と左右差はほぼ改善した。大腿周径も最終評価では左右差を認めなかった。また、片脚スクワットやジョギング、階段昇降も安定して可能であった。【考察】大腿四頭筋皮下断裂は、慢性腎不全、SLE、糖尿病等の全身性基礎疾患を有する患者に発症しやすい。さらに中高齢者や肥満、加齢による膝蓋骨上縁骨棘形成、腱の変性等により健常人にも発症すると報告されている(川西ら2012)。本症例は明らかな基礎疾患はないものの中年者、肥満体型、急激な介達外力が加わったことが発症した要因と考えられる。術後の理学療法においては、経過は良好であり、終了時点では軽度の運動が可能となった。可動域は早期より積極的に介入を行うことができたが、筋力に関しては患部の違和感や痛みから最大筋出力の発揮が難しく、最終時点でも筋力低下が残存したと考える。組織の修復段階、筋再断裂防止を考慮し早期から運動内容や負荷量を調節していくことが重要と考える。【理学療法学研究としての意義】大腿四頭筋皮下断裂の術後理学療法における報告を蓄積することが今後の治療介入の一助になることを期待する。
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