理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター発表
  • 壇 順司, 池田 真人, 神吉 智樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】クライマーは,様々な形状のホールドを把持し自重を支えることで指にかなりの負担がかかるため,指の関節可動域(以下ROM)制限ひきおこすことが多いが,その原因についてはまだよく解明されていない.今回クライマーの指の筋力とROMを調査し,さらに前腕の筋の構造からROM制限を起こしやすい指とその原因を考察し,予防法を考案したので報告する.【方法】対象は,クライマー群(以下C群):中級レベル以上のクライマー男性74名(年齢30.2±7.4歳),一般群:クライミング経験のない一般男性40名(年齢23±2.3歳)であった.深指屈筋と浅指屈筋の形態は,2007年熊本大学医学部で解剖された解剖実習体23体左右46肢を用いた.筋力は指の保持力をみるために,2~4の各指で,デジタル握力計(竹井機器工業社製)を頭上で垂直に固定し,そのグリップ部を下方に引くようにして測定した.その後,対象者の体重で除して体重比を算出した.またROMは,2~4指までのDIP,PIP,MP関節(以下DIP,PIP,MP)の屈曲と伸展を指用ゴニオメーターにて測定した.統計解析は,対応のないt検定と多重比較検定を用いた.解剖は深指屈筋と浅指屈筋を剖出し,各指の腱に対応する筋束の数を分類した. 【説明と同意】対象者に,事前に研究目的および内容を説明し同意を得たうえで実施した.また解剖は2007年に熊本大医学部の教授に研究の目的・方法を説明し,許可を得て調査を行った.【結果】筋力は,C群(右2指0.25±0.5,3指0.34±0.9,4指0.22±0.6,左2指0.25±0.6,3指0.34±1.0,4指0.23±0.6)と一般群(右2指0.17±0.4,3指0.22±0.5,4指0.18±0.4,左2指0.16±0.3,3指0.19±0.5,4指0.17±0.4)の各指では,左右ともにC群が有意に強かった(p<0.05).C群では,左右ともに3指が他指よりも有意に強かった(p<0.01).ROMは,全ての関節・運動方向においてC群が有意に小さかった(p<0.05).またC群における左右差はなかった.C群の各関節の屈曲ROMの比較では,右DIPでは,2指72.9±8.4°,3指66.3±8.8°,4指70.5±10.6°であり,左DIPでは,2指74.7±6.8°,3指64.9±15.9°,4指70.9±11.4°で3指が有意に小さかった(p<0.05).右PIPでは,2指99.6±3.2°,3指95.3±8.2°,4指98.2±4.1°であり,左PIPでは,2指99.9±3.1°,3指92.3±8.6°,4指99.3±4.7°で3指が有意に小さかった(p<0.05).右MPでは,2指91.9±8.5°,3指95.3±7.6°,4指96.6±7.5°であり,左MPでは,2指92.4±8.3°,3指95.8±7.2°,4指96.5±7.2°で差はなかった.各関節での伸展に差はなかった.深指屈筋は,2指と3~5指の2筋束(32%)と2指,3指,45指の3筋束(68%)の2タイプであった.浅指屈筋は,全てにおいて25指,3指,4指の3筋束の1タイプであった.またその中でも3指の筋腹が最も大きかった. 【考察】クライミングは,ホールドを把持するときに指に全体重がかかることが多々ある.よって指の屈曲保持に関与する筋は常に最大筋力を発揮する環境にあるため,筋力は向上しやすいと考えられる.特に浅指屈筋の3指の筋腹が大きいことや深指屈筋3指が分離しているタイプが多いことから,3指は使いやすく最も力が入る指であり,他指よりも筋力が強いと推察される.また,3指のDIP,PIPの屈曲制限は,浅指・深指屈筋を過剰に使用することで,これらの腱が腱鞘A2pully(以下,A2)を掌側方向への正常圧を超えてストレスを与え,A2の炎症により腱鞘内で腱の滑走不全を生じさせると考えられる.また,掌側方向への腱が骨より離れる力は,PIPの位置にある腱鞘A3pully(以下,A3)へのストレスとなる.A3はPIPの掌側版に付着しており,これにも掌側方向への牽引ストレスが加わり,炎症・柔軟性の低下が生じ,PIP屈曲時に掌側版が基節骨と中節骨に挟まることで,屈曲制限が生じていると推察される.DIPも同様の理論で屈曲制限が生じていると考えられる.クライマーは,基本的に安静や休息をあまり取る傾向に無いため,腱鞘や掌側板にかかる負担を軽減する方法を考案した.ホワイトテープを指の幅に合わせて裂き,約40cmの長さを準備する.まず,その一部を利用し指関節を軽度屈曲位に保持した状態で,指の掌側基部から爪部にかけてテープを貼る.次に残りのテープをPIP掌側部でクロスしながら,屈曲位を保つように巻く.最後に初めに貼ったテープをDIPより遠位の部分で切る.これにより腱が腱鞘にかける負担を軽減でき,指の痛みやROM制限の予防に繋がると考えられる.【理学療法学研究としての意義】スポーツ障害を治療・予防するためには,スポーツの特性を理解し,障害部位の身体内部の構造より原因を追及し,それに基づく治療・予防法を考案する必要がある.指の詳細な解剖学的構造を踏まえた予防方法を伝えていくことは,理学療法士の役目であり,研究していく意義があると考える.
  • 鳥井 泰典, 飛永 浩一朗, 泉 清徳, 後藤 正樹, 渡邉 哲郎, 井手 睦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】大腿骨近位部骨折患者をバランス能力の面から検討している研究は少ない。また、大腿骨近位部骨折患者のバランス能力の経過をBerg Balance Scale(以下、BBS)により継時的にみた先行研究は見当たらない。今回、大腿骨近位部骨折患者において退院時に自立歩行(T字杖歩行または独歩)を獲得していた群(以下、歩行獲得群)と自立歩行が困難であった群(以下、非歩行獲得群)でBBSを継時的に比較・検討した。その結果、在宅退院に向けた目安の一助となる結果を得たので報告する。【方法】対象は大腿骨頸部骨折または大腿骨転子部骨折後に回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)を2009年2月から2012年2月までに退院した21名(男性3名、女性18名)で平均年齢75.6±11.3歳であった。対象者は全員が観血的加療として骨接合術が選択され、人工骨頭置換術を施行された患者は含まなかった。また、受傷前歩行能力は独歩が自立していた患者とした。この対象者21名を歩行獲得群(12名、平均年齢76.7±8.1歳)と非歩行獲得群(9名、平均年齢80.1±7.3歳)の2群に分け、回復期リハ病棟転入時、転入より4週時、転入より8週時、退院時のBBS測定結果を二元配置分散分析により解析し、多重比較検定(Tukey)により比較・検討した。さらに、歩行獲得群と非歩行獲得群の2群間において、年齢、長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS‐R)、受傷から理学療法開始までの期間、受傷から手術までの期間、手術から回復期転入までの期間、手術からBBS測定までの期間(回復期転入時、転入から4週時、8週時、退院時)についてはMann-Whitney’s U testにて検討した。解析にはSPSSを用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院の臨床研究審査会の承認を得て行なった。【結果】歩行獲得群では回復期リハ病棟転入時と転入から4週時、転入から4週時と8週時の間で有意にBBSの向上を認めたが(P<0.05)、8週時と退院時のBBSには有意差を認めなかった。非歩行獲得群では転入時と転入から4週時で同様に有意なBBSの向上を認めたが(P<0.05)、4週以降のBBSには有意な向上を認めなかった。また、歩行獲得群と非歩行獲得群の2群間で転入時のBBSは有意差を認めなかったものの、転入から4週時のBBSにおいて歩行獲得群でより有意にBBSの向上を認めた(P<0.05)。これらの他に2群間における年齢、HDS‐R、受傷から理学療法開始までの期間、受傷から手術までの期間、手術からBBS測定までの期間には有意差を認めなかった。手術から回復期転入までの期間についても有意差は認めなかったものの、歩行獲得群が非歩行獲得群よりも早期に回復期に転入している傾向にあった(P<0.06)。【考察】歩行獲得群では回復期リハ病棟転入から8週(手術から平均日数76.3±7.1日)までに平均47.9±3.8点となりBBSは有意に向上していた。この点数はHaradaが述べている屋外歩行困難のカットオフ値48点やBergが屋外歩行自立の妥当性として示した48.3点とほぼ同等の点数である。また、Bergは地域在住高齢者が安全に歩行できる目安は45点とも述べており、術後約76日までにBBSでおおよそ48点程度のバランス能力を有するか否かを大腿骨近位部骨折患者が歩行獲得を目標とする際の1つの目安にできるのではないかと考える。一方、非歩行獲得群でも転入から4週までの期間にBBSは有意に向上したものの、2群間のBBSでは4週時点ですでに有意差を認めていた(歩行獲得群:平均点数40.8±2.8点、非歩行獲得群:平均点数33.0±3.8点)。さらに、非歩行獲得群では4週以降にBBSの有意な向上を認めないことや、歩行獲得群で転入から8週以降は退院まで有意なBBSの向上を認めないことから、歩行獲得を目指す上で早期からバランス能力に目を向けた理学療法アプローチが重要となるのではないかと考える。歩行獲得群では手術から回復期リハ病棟転入までの期間が短い傾向にあったことから(P<0.06)、早期から回復期リハ病棟において充実した理学療法が提供できたことも歩行獲得に至った一要因として考えられる。【理学療法学研究としての意義】医療現場では加速的アプローチによる在院日数の短縮化が求められており、在宅退院を目指す回復期リハ病棟において歩行獲得は1つの大きな目標である。今回の研究で歩行獲得群では回復期転入より8週間(術後約76日)までにBBSで約48点程度のバランス能力を有し、屋外歩行自立レベルに達する傾向が示唆された。今後は症例数を増やして歩行獲得に至るまでの期間と継時的BBSの関係をより明確にしていく必要性がある。明確化した値を基準として入院患者のBBSと定期的に比較することで、理学療法の進行程度の確認や是正が可能となり、在宅退院に向けた目安の一助になると考える。
  • 大腿骨近位部骨折術後入院患者を対象とした検討
    金子 義弘, 加藤 宗規
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】ハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)は安価で簡便な筋力測定方法である一方,膝伸展筋力など高い筋力値を測定する場合においては,徒手による固定方法では検者間による測定誤差が生じる可能性がある.この欠点を補うため,徒手に代わり運動を固定する固定用ベルトを使用した計測方法が考案され,先行研究では同一日でのtest-retest再現性について,若年および高齢健常者,脳血管疾患患者において良好な結果であったことが報告されている.しかし,運動器疾患を有する患者における再現性については報告されていない.そこで,本研究では,大腿骨近位部骨折術後の入院患者における本法のtest-retest再現性を検討するとともに,膝伸展筋力値による病棟内杖歩行自立のカットオフ値について検討した.【方法】対象は,大腿骨近位部骨折にて当院入院中で重度な認知症状がなく,免荷指示やその他の影響する疾患を有さない76名(女性60名,男性16名)である.内訳は,平均年齢80歳(55-97歳),平均体重46.7±10.3kg,手術内容は全人工関節置換術1名,人工骨頭置換術41名,骨接合術34名,手術から計測までの平均日数は26.5±8.4日であった.骨折に至った転倒原因は不明だが,計測時の移動能力は病棟内杖歩行自立以上が31名,杖歩行監視以下が45名であった.大腿四頭筋筋力の測定は椅子座位でアニマ社製等尺性筋力測定器 μTas MF-01を使用した.測定にあたり,被検者は体幹をベッドと垂直にして座り,両側上肢は体側両脇に位置して手をベッド面につき体幹を支持した.そして,パッドを含めセンサーを面ファスナーで被検者の下腿遠位部前面で足関節内果上縁の高さに固定し,さらに固定用ベルトでセンサーおよび下腿をベッド脚に固定した.測定肢の膝窩に折りたたんだバスタオルを入れ,測定時に大腿が床面と水平になるようにしたとともに,膝関節が90°屈曲位になるようにベルトの長さを調節した.等尺性膝伸展筋力は,5秒間の最大努力中における最大値として,健側および患側について各3回実施した.そして得られた結果から,3回の測定における再現性について,級内相関係数[The intraclass correlation coefficient;以下,ICC]と対応のある因子の一元配置分散分析により検討した.また,3回の最大値を採用した膝伸展筋力体重比を算出し,Receiver Operatorating Characteristic curveを用いて膝伸展筋力体重比による病棟内杖歩行自立のカットオフ値を検討した.なお,危険率は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者や家族には,研究の目的と方法,およびデータの管理と使用について書面を用いた説明を行い,同意を得た.【結果】膝伸展筋力測定の結果,健側の平均値(±標準偏差)は,1回目12.6±7.6 kgf/kg,2回目13.6±7.8 kgf/kg,3回目13.6±7.4 kgf/kg,患側の平均値は1回目7.6±4.3 kgf/kg,2回目8.2±4.3 kgf/kg,3回目8.5±4.4 kgf/kgであり,一元配置分散分析では両側ともに主効果を認めなかった.3回の測定の再現性について,ICC(1,1)の値は,健側が0.944(95%信頼区間;0.920-0.962),患側がICC=0.953(95%信頼区間;0.932-0.968)であった.また,3回の最大値を採用した体重比の平均値は,健側0.30±0.14 kgf/kg,患側0.19±0.08 kgf/kg,両側の平均値は0.24±0.10 kgf/kgであった.体重比による病棟内杖歩行自立のカットオフ値について,健側0.25 kgf/kg(感度0.65,特異度0.80),患側0.17 kgf/kg(感度0.80,特異度0.73),健患平均0.20 kgf/kg(感度0.70,特異度0.79)であった.【考察】固定用ベルトを用いたHHDによる等尺性膝伸展筋力測定は,大腿骨近位部骨折受傷後の入院患者においても,先行研究に報告された若年および高齢健常者,脳血管疾患患者と同様にtest-retestの再現性が高いことが考えられた.また,病棟内杖歩行自立のカットオフ値として今回示された膝伸展筋力体重比は,臨床における病棟内杖歩行自立の検討に関する一指標となると考えられた.【理学療法学研究としての意義】固定用ベルトを用いたHHDによる筋力測定方法は,大腿骨近位部骨折術後患者においても有効であることが示唆された.
  • 田村 拓也, 岡本 賢太郎, 安田 紀子, 鈴木 楓子, 廣川 槙子
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】大腿骨頚部骨折は、転倒による受傷が多く日常生活に支障をきたし、歩行の再獲得に時間を有する事が多い。一方で急性期病院では、在院日数の短縮に伴い早期に退院を余儀なくされる事が多いため、早期に歩行の予後を見極める必要がある。大腿骨頚部骨折患者の患肢への荷重率と歩行能力に関する報告は、多く行われている。また、骨接合術と人工骨頭置換術では、軟部組織損傷の程度が異なるが同じ大腿骨頸部骨折の術後として報告されている。その為、人工骨頭置換術後の荷重率に対する歩行機能に関する報告は、ほとんどされていない。そこで今回は、大腿骨頚部骨折後に人工骨頭置換術を施行した患者の患肢への荷重率と歩行補助具、歩行機能についての関係を検討することを目的とする。【方法】対象は、当院にて平成23年12月から平成24年8月までに大腿骨頸部骨折に対して人工骨頭置換術を施行し、認知症がない患者16例(女性16例、平均年齢:75.9±7.1歳、在院日数:30.3±13.8日)を対象とした。荷重率(%)は、市販のタニタ社製の体重計を用いて、平行棒内で両上肢支持なく患肢へ最大荷重させ3秒間安定した荷重を3回計測した。3回の平均荷重を体重で除し算出した値を荷重率とした。歩行機能の指標として、修正Timed up and goテスト(以下修正TUG)を実施した。修正TUGは、平行棒内で手すりを使用して測定した。歩行補助具については、測定時に監視で可能であった補助具を補助が大きい順に順序付けし、平行棒、pickup歩行器、サークル歩行器、4点杖、T字杖とした。測定は、術後1週間毎に退院時まで行った。統計処理には、JSTATを用いて、荷重率と歩行補助具、荷重率と歩行機能との相関については、Spearmanの順位相関係数を用いた。次に1週目(以下1w)・2週目(以下2w)・退院時(以下En)荷重率の比較をFriedman検定を用いて行い、事後検定としてTukey法を用いた。また、1w荷重率とEn荷重率の関係について単回帰分析を行った。各相関の有意水準は、5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、本研究の主旨と目的を十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】各補助具使用時の荷重率平均と修正TUGは、平行棒38±11%・修正TUG50.3±31秒、pickup歩行器58±11%・修正TUG23.9±5秒、サークル歩行器62±14%・修正TUG22±8.6秒、4点杖75±17%・修正TUG22.4±4.3秒、T字杖85±12%・修正TUG14.2±5.8秒であった。荷重率と歩行補助具、荷重率と修正TUGとの相関はそれぞれr=0.61(P<0.01)、 r=-0.66(P<0.01)で相関が認められた。1w荷重率は67.4±20%、2w荷重率は80.9±18%、En荷重率は88±12%であった。1w荷重率とEn荷重率に有意な差(P<0.05)と相関(r=0.68、P<0.01)が認められた。【考察】荷重率と歩行補助具の結果より、荷重率の増加によって歩行補助具の補助が軽減することが歩行能力の向上につながる事が示唆された。また、荷重率の向上により修正TUGが減少する事も示唆された。荷重率と修正TUGの間に負の相関があることから修正TUGが術後早期からの歩行機能評価として有用であると考えられる。荷重率の比較については、1w、2wでは荷重時痛や腫脹、患肢への荷重恐怖心の影響のため、荷重率に有意な差が生じなかったと考えられる。2w以降に軟部組織が修復され、荷重時痛や腫脹が軽減するため、Enには患肢への荷重が増加すると考えられる。その為、荷重早期の1wとEnに有意な差が認められた。単回帰分析から、1w荷重率が増加することによってEn荷重率が増加する結果となった。よって、術後早期の荷重率によって退院時の予後予測が出来る可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】人工骨頭置換術後の荷重率が歩行補助具や歩行機能と相関関係があり、荷重率を計測する事により歩行能力や予後予測を行う事が可能であると考えられる。
  • 大川 麻衣子, 小林 巧, 神成 透, 堀内 秀人, 松井 直人, 角瀬 那晃, 野陣 佳織, 山中 正紀, 加藤 新司
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】人工膝関節全置換術(以下、TKA)は重篤な変形性膝関節症患者(以下、膝OA)に対して疼痛除去と機能改善を目的として施行される。立ち上がり動作は多くの日常生活動作に大きく関与する機能的な動作であり、Christiansenら(2010)は膝OAの病期の進行に伴って立ち上がり動作が制限されると報告している。膝OA患者の立ち上がり機能の関連因子を探索した先行研究では、Barkerら(2004)は、膝OA患者の重症度スコア・疼痛と膝伸展筋力と1分間に立ち座りできる回数の関連について検討し、疼痛と膝伸展筋力は有意な相関を示したと報告している。このように膝OA患者の立ち上がり機能に膝伸展筋力や疼痛が関連するなどの報告が多数散見されるものの、立ち上がり機能に影響を与える因子がTKA術前後でどのように変化するか検討したものは無く、また、多因子からそれを調査した報告は無い。本研究の目的はTKA術前後の立ち上がり機能に影響を与える因子について検討することである。【方法】対象はTKAを施行し、支え無しに立ち上がりが可能な患者19名(男性:2名、女性:17名、術前の北大OA分類3:4名4:15名、平均年齢67.5歳、身長152.0cm、体重59.7kg、BMI25.8)とした。測定は、術前およびTKA術後4週で実施した。身体特性として身長、体重およびBMIを測定した。機能的因子として両側の膝の疼痛、ROM、筋力について測定した。疼痛は立ち上がり動作時の膝の痛みについてvisual analog scale(VAS)を用いて数値化した。ROMは膝屈曲および伸展についてゴニオメーターを用いて測定した。筋力はBiodex System 3を用いて、角速度180°/secにて膝屈曲および伸展の等速性peak torque値を算出し、各被験者の体重で除した値を使用した。立ち上がり機能を測定するためにfive times sit to stand(FTSTS)を実施した。座面の高さが43~49cmの椅子を用意し、背もたれに背中を付け、胸の前で腕を組んだ状態を開始肢位とし、「出来るだけ素早く」と指示し合図とともに5回の立ち座りを3回測定し平均値を算出した。統計学的分析としてFTSTS と年齢、身体特性、機能的因子の関連をピアソンの相関係数、FTSTS を目的変数、その他の因子を説明変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行った。有効水準は5%とした。\t【説明と同意】対象者には検査実施前に研究についての十分な説明を行い、研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。【結果】術前についてFTSTS は術側の立ち上がり時のVASとr=0.80、身長とr=0.49の有意な相関を認めた(p<0.05)。また、重回帰分析において、FTSTSの予測因子として患側の立ち上がり時のVAS(β=0.77)が有意な予測因子となりR2=0.61の説明効率の高い単回帰式が得られた。術後4週についてFTSTS は非術側の立ち上がり時のVASとr=0.52の有意な相関を認めた(p<0.05)。また、重回帰分析で、STSの予測因子として非術側の立ち上がり時のVAS(β=0.74)、身長(β=0.69)、術側屈曲筋力(β=-0.33)が有意な予測因子となりR2=0.64の説明効率の高い重回帰式が得られた。【考察】本研究結果から、術前において、術側の疼痛はFTSTSと有意に相関し、FTSTSの有意な予測因子だった。また、TKA術後4週において、FTSTSは非術側の疼痛と有意な相関を示し、FTSTSの有意な予測因子となった。生島ら(1994)によれば膝OA患者の椅子からの立ち上がりには疼痛と膝屈曲筋力が関係していたと報告している。また、熊本ら(2008)は二関節筋であるハムストリングの筋活動が立ち上がり動作時の膝関節安定性の増大に関与すると報告している。本研究結果より、立ち上がり機能向上には、術前では術側の除痛が重要な因子であるが、手術によって術側の疼痛が軽減された後は、非術側の疼痛が重要な因子となるが、単に疼痛の軽減だけでなく術側の膝屈曲筋力向上も重要な因子である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】立ち上がり動作は日常生活で頻度が高く、立ち上がりに関与する因子を同定することは立ち上がり機能向上に重要である。本研究結果から、TKA術前後の立ち上がり機能に関与する因子には違いがあり、その因子をそれぞれ同定したことは臨床において重要と思われる。今後は、立ち上がり能力について、膝関節周囲筋筋力や疼痛に対する介入研究を行い,移動動作能力改善を目的とした適切な理学療法を提供するための根拠を示していく必要がある。
  • 藤原 貴子, 藤田 慎一朗, 楢原 伸二, 吉田 智弘, 山本 渉, 棗田 将光, 松木 道裕, 江澤 香代, 江澤 和彦, 那須 義久
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】現在、生物学的製剤(以下、Bio)の登場により疾患のタイトコントロールが可能となった今、関節リウマチ(以下、RA)の治療は大きなパラダイムシフトが起こっていることは周知の事実である。当院の患者においてもBioの臨床効果判定は医師が行う評価(医科的機能評価)としてDisease Activity Score28- Erythrocyte Sedimentation Rate(以下、DAS28-ESR)やModified Health Assessment Questionaire(以下、mHAQ)等が実施され、Bio導入患者の疾患活動性や生活機能の把握をしている。しかしながら臨床の現場において、それらの臨床効果判定に用いられる医科的機能評価に対し、各身体機能評価・ADL評価間に乖離が生じている事がしばしば見受けられる。そこで今回、Bio導入時における医科的評価および身体機能評価・ADL評価間の相関の有無を検証した。【方法】対象はBio導入前のRA症例で、平成23年4月から平成24年8月までの間に、当院において各医科的評価に加え身体機能評価・ADL評価が可能であった60例(男性:15名、女性45名、平均年齢66.4±9.7(41-81)、平均罹病期間12.7±10.8年(0.2-38)、SteinbrockerのStageはStage1:7名、Stage2:24名、Stage3:6名、Stage4:23名に対し、医科的評価(DAS28-ESR値、mHAQ値)と身体機能評価(10m歩行速度、Functional reach test(以下、FR)、Timed up and go test(以下、TUG)、Disability of arm, shoulder and hand(以下、DASH)、ADL評価( Functional independence measure (以下、FIM))を行い、それぞれの相関を統計学的に比較検討した。相関にはSpearmanの順位相関係数を用い有意水準を5%未満とした。【説明と同意】本研究は、当院倫理委員会の承認を得てヘルシンキ宣言に基づいて実施された。【結果】一般的に強い相関が認められると言われているDAS28-ESRとmHAQとの間には、強くはないが相関が認められた(rs=0.490、p<0.001)。同様にDAS28-ESRと各身体機能評価間において、DAS28-ESRと10m歩行速度(rs=0.179、p=0.119)・FR(rs=-0.332、p=0.004)・TUG(rs=0.212、p=0.064)・DASH(rs=0.390、p<0.001)に加えFIM(rs=-0.185、p=0.108)と相関を認めないか、弱い相関しか認められなかった。一方、mHAQと各身体機能評価間において、10m歩行速度(rs=0.418、p<0.001)・FR(rs=-0.303、p<0.001)・TUG(rs=0.486、p<0.001)に加えFIM(rs=-0.497、p<0.001)との間にも有意な相関があり、特に上肢機能評価であるDASHとの間にはrs=0.651、p<0.001とほかの身体機能評価に比べやや強い相関が認められた。また、FIMと身体機能評価間では、10m歩行速度とはrs=-0.701、p<0.001、TUGとはrs=-0.707、p<0.001と立ち上がりから歩行能力に対して比較的強い相関がみられた。【考察】結果からDAS28-ESRとmHAQやその他の身体機能評価・ADL評価との間に乖離が見られたことについて、不可逆的な関節破壊が進行した症例を含む症例群では、疾患活動性は身体機能・ADL能力に必ずしも反映しない事があると考えられる。また、mHAQと身体機能評価・ADL評価の間には有意な相関を認め、特にDASHとの間に強い相関を認めた事に関しては、すでに完成された機能障害、特に上肢機能障害がmHAQに強く影響しているということを示唆され、それに対してFIMは下肢、特に立ち上がりや歩行に関して強く影響していることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】関節リウマチ治療は、近年の薬物療法の進化、特にBioの登場により大きくパラダイムシフトしている。今回の研究は、Bio使用症例に対して詳細な身体機能評価を実施し、同薬剤導入中の関節リウマチ患者に対するリハビリテーションの具体的な治療戦略を探る為に有用であると考えられる。
  • 上村 明子, 赤崎 卓哉, 原 光一郎, 岩川 良彦, 橋口 円, 俵積田 光宏, 福迫 剛, 砂原 伸彦, 酒瀬川 恵美, 宮崎 雅司, ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】股関節外転トルクは骨盤に広い起始部、大腿骨に停止部を有し、骨盤傾斜によりトルク発揮に影響を及ぼすことが考えられる。一般に、人工股関節全置換(THA)術患者の骨盤傾斜角(Pelvic Inclination Angle: PIA)は術後後傾位に変位すると報告されている。しかしながら、THA術後のPIAと股関節外転筋力などを含めた運動機能との関係について検討した報告はほとんどない。本研究の目的は、1)THA術後15週までのPIAや運動機能の変化を調べること、2)術後のPIAが股関節外転筋力や歩行能力に及ぼす影響を検討すること、3)術前PIAが術後の股関節外転筋力や歩行能力の予測因子となるかどうか調べること、とした。【方法】対象は一側性の変形性股関節症により初回THAを施行した女性患者36名(67.9±10.0歳)とした。評価項目を疼痛、股関節外転筋力、歩行能力、骨盤傾斜角とした。疼痛の評価はVisual Analogue Scale (VAS)を使用した。術側・非術側の外転筋力を徒手筋力計(アニマ社製μ-TasF1)を用いて等尺性筋力を測定した。筋力値は、トルク体重比(Nm/kg)にて算出し、外転筋力比(術側/非術側)を比較検討した。歩行能力はTimed up and go (TUG)テスト、10m歩行速度を評価した。PIAは土井口ら(1992)の方法により、整形外科医の処方により撮影された臥位単純股関節正面X線画像で、骨盤腔の最大横径(T)と両仙腸関節の下縁を結ぶ線に恥骨結合から垂線を下ろしたその縦径(L)の比率(L/T)を計測し回帰式(PIA(°)=-69×L/T+61.6)に代入することで求めた。PIA20°未満を前傾群、20°以上30°未満を中間群、30°以上を後傾群として3群に分類した。評価は術前、術後1週、7週、15週に行った。各時期での比較は一元配置分散分析を用いた。さらに、術前のPIA分類による術後の回復経過は二元配置分散分析を用いて比較し、有意差の見られた項目において一元配置分散分析を用い多重比較検定を行った。また、外転筋力比とPIAの関係をピアソンの相関係数を用いて検討した。いずれの検定も統計学的有意基準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を受け、各対象者には研究参加に対する同意を得て実施した。【結果】VASは、術後7、15週で有意に低値を示し、15週には、疼痛を訴える患者はいなかった。股関節外転筋力は術後7、15週で術前と比較して有意に改善した。しかし、反対側と比較すると有意に減少していた。歩行速度は術後1週に術前と比較して有意に減少したが、7週以降有意に改善した。TUGテストは術後7、15週時に術前と比較して有意に改善を示した。術後PIAの経時的変化に関して、術前と比較し、術後1週で一旦前傾位となったが、その後後傾位に変化した。疼痛の訴えが強い術前、術後1週ではPIA分類による違いは認められなかった。術後7、15週におけるPIA分類では、前傾群あるいは中間群と比較して骨盤後傾群が有意に外転筋力比・TUGテストが低値であった。術前のPIA分類においても同様に骨盤後傾群の外転筋力比・TUGテストが有意に低値を示した。また、術後15週において外転筋力比とPIAに有意な相関が認められた(r=-0.384,p<0.05)。【考察】山田ら(2004)は、健常若年女性において股関節外転トルクが骨盤前傾・後傾位では中間位と比べ有意に減少すると報告している。今回、THA術後患者において、骨盤後傾群が有意に外転筋力の低値を示し、前傾群の外転筋力比が高値を示した。これは、手術介入や年齢などの要因が関係し、健常若年者の結果と異なったのかもしれない。股関節外転筋力は歩行中の骨盤の安定化に寄与し、THA術後の筋力低下は跛行の原因となる。今回、骨盤後傾群のTUGテストの回復が遅かったことは、立脚相における外転筋群の発揮が不十分となったことや、骨盤の安定性を得られなかったことが考えられる。術前のPIA分類と術後7、15週でのPIA分類における股関節外転筋力比やTUGテストにおいて、骨盤後傾群が前傾群や中間群と比較して有意に低値を示したことは術前に骨盤が後傾している患者の外転筋力や歩行能力の回復が遅延することを示している。今回の結果は術前PIAが術後早期の外転筋力や歩行能力の予測因子となることを示唆している。【理学療法学研究としての意義】我々の研究はTHA術後早期のPIAと疼痛、股関節外転筋力、歩行能力の関係を明らかにした。THA術後の理学療法を進める上で有用であると思われる。
  • 田中 繁治, 藤井 賢吾, 三谷 茂, 川上 照彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性股関節症(以下,変股症)患者における腰痛症の有症率は高く,Hip-spine syndromeの概念として知られる.腰痛症は身体活動に制限を与え,日常生活だけでなく就労活動にも影響を及ぼすことがあり,疼痛によって個人のQOLは低下する.変股症患者にみられる股関節の変性と脊柱や骨盤アライメント異常は,腰椎・骨盤リズムに破綻をきたし,結果として腰痛症を合併すると考えられている.変股症患者では腰椎・骨盤リズムに破綻をきたす原因として脚長差や腰椎前弯などが挙げられる.また,股関節の可動域制限を有していることが多く,この制限も腰椎の可動性に影響し,結果として腰痛に関連すると考えられる.しかし,これらの要因が変股症患者の腰痛の原因と考えられているものの,腰痛の有無に対して各要因がどの程度の影響をもたらすかは明らかにされていない.本研究では,変股症患者の腰痛の有無と腰椎前弯や脚長差,股関節可動域を結びつけ,腰痛の有無に関わる要因を検討することに加え,腰痛関連因子のCut off値を明らかにし,保存療法時の目標値を明らかにすることを目的とした.【方法】本研究は横断研究である.対象は女性片側性変股症患者35名である.対象者に腰痛の有無を問診にて聴取した.腰部痛と殿部痛を混同する可能性があるため,腰痛があると回答した者の腰背部を触診することで腰痛の確認を行った.問診にて腰痛があると答えた18名をA群,腰痛がないと答えた17名をB群として分類した.平均年齢はA群62.6±11.0歳,B群64.1±8.4歳,平均BMIはA群26.2±3.6,B群23.2±3.2, JOA scoreはA群43.8±9.9,B群は41.2±5.7であった。従属変数は腰痛の有無とした.独立変数として年齢,BMI,腰椎前弯角度,脚長差,両側股関節屈曲、伸展、外転可動域を聴取・測定した. 統計解析にはPASW Statistics18.0を用いた.A群とB群における各独立変数での対応のないt検定を行った.従属変数を腰痛の有無とし,変数増加法(尤度比)ロジスティック回帰分析を実施した.解析を行うにあたり多重共線性の問題を考慮し,独立変数間でのPearsonの相関係数を求めた.結果,相関係数が0.9を超えるものはなかったため,すべての独立変数を投入するとした.ロジスティック回帰分析では年齢,BMI,腰椎前弯角度,脚長差については,従属変数および独立変数のどちらにも関連する交絡因子として投入し,ロジスティック回帰分析をモデルした.また,有意差の認められた変数のROC曲線を作成し, Cut off値を算出した.これら全ての検定の有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には口頭および書面にて研究内容を説明し,同意を書面にて得た.【結果】対応のないt検定では,BMIと患側股関節屈曲可動域に有意差を認めたが年齢,JOA scoreには差がなかった.ロジスティック回帰分析の結果,最終的に有意であった変数は,BMI(オッズ比1.421,95%信頼区間1.010-1.998)と患側股関節屈曲可動域(オッズ比0.883,95%信頼区間0.796-0.980)であった.よって,BMIが高く,患側股関節屈曲可動域が小さいほうが,腰痛が生じやすい結果となった.χ2検定の結果はp<0.01で有意であった.HosmerとLemeshowの検定ではp=0.389,モデル全体の判別的中率は77.1%であった.実測値に対して予測値が±3SDをこえるような外れ値は存在しなかった.BMIおよび患側股関節屈曲可動域のCut off値は,BMIで25.0,患側股関節屈曲可動域で72.5度であった.【考察】本研究では,腰痛症の有無に関連する因子を抽出した.結果,腰痛の予測因子としてBMI25.0と患側股関節屈曲可動域72.5度と臨床で判断しやすい指標を得ることができた.BMIが高いことで腹部の周径が長くなり,腰部の負担が大きくなることで腰痛が生じていると考えられた.また,患側股関節屈曲可動域の制限は交絡因子からも独立して腰痛の有無を説明した.股関節屈曲の運動が制限されることで,座位姿勢などで腰椎後弯が強制される.変股症患者では腰椎の前弯角度が大きくなっていることが多く,そのため,屈曲制限が生じた状態で座位をとると腰椎に剪断力が生じ,腰痛の原因になると考えられる.今後は体幹筋力を加えることや縦断研究を行い詳細な分析を進めたい.【理学療法学研究としての意義】変股症患者の腰痛症に着目し,各因子との関連性およびCut off値を明らかにしたことで保存療法時の理学療法に寄与できると考える.
  • 南角 学, 秋山 治彦, 田仲 陽子, 西川 徹, 柿木 良介
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】臨床場面において,人工股関節置換術(以下,THA)術後で術前の痛みがなくなった患者さんが,次に期待することは「杖なしで歩くこと」や「きれいに歩くこと」である.このためTHA術後の理学療法では独歩(杖などの歩行補助具を使用しない歩行)の獲得や歩容の改善を目標に運動療法に取り組むことが多い.しかし,術前の股関節や体幹を中心とした機能障害が顕著な症例では,術後に独歩の獲得が可能であっても歩容上での問題点が残存することがある.THA術後の理学療法において,術前の機能障害から術後の歩容を中心とした歩行の回復状況を予測した上で適切なゴール設定を行うことが必要となるが,術前の機能障害と術後の歩容の関連性を検討した報告は少ない.本研究の目的は,THA術後6ヶ月の歩容に関連する術前の機能障害や運動機能を明らかとすることである.【方法】対象は片側変形性股関節症により初回THAを施行され,術後6ヶ月の日常生活で杖を使用していない女性74名(年齢:60.6±10.3歳)とした.全例前外側アプローチによりTHAを施行され,術後のリハビリテーションは同様に行い,術後4週以内で退院となった.当院整形外科医の処方により撮影された股関節正面のX線画像とCTを用いて,術前の骨盤前傾角および中殿筋と腹直筋の筋断面積を測定した.骨盤前傾角は,股関節正面のX線画像の骨盤腔の縦径からKitajimaらが報告した回帰式を用いて算出した.また,術側の中殿筋と腹直筋の筋断面積は,Raschらの方法に従い,仙腸関節最下端での水平断における画像を採用し,画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いて測定した.さらに,術前の運動機能として,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,Timed up and go test(以下,TUG)を計測した.股関節外転筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,筋力値はトルク体重比(Nm/kg)で算出した.さらに,THA術後6ヶ月での歩行観察において,歩行中の患側立脚期に体幹の傾きを認めなかった症例(以下,A群)と体幹の傾きを認めた症例(以下,B群)の2群に分けた.統計には,対応のないt検定,判別分析,ロジスティック重回帰分析を用い,統計学的有意基準は5%未満とした.【説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨および目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果と考察】年齢はA群56.7±9.3歳(37名)とB群64.5±9.6歳(37名)であり,A群がB群と比較して有意に低い値を示したが,BMIについては両群間で有意差を認めなかった.術前の筋断面積は,中殿筋はA群2317.6±372.5mm2,B群1680.0±269.5mm2,腹直筋はA群392.4 ±63.9mm2,B群293.1±81.5 mm2であり,A群の中殿筋と腹直筋の筋断面積はB群と比較して有意に高い値を示した.術前の骨盤前傾角,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,TUGは両群間で有意差を認めなかった.また,2群間で有意差を認めた測定項目について,判別分析を用いて2群の判別値を求めた結果,年齢62.7歳,中殿筋1998.8mm2,腹直筋342.7mm2であり,すべての項目で2群のマハラノビス距離は有意に大きく,error rateは14.9-32.4%であった.さらに,年齢と中殿筋および腹直筋の筋断面積を説明変数,THA術後6ヶ月での歩容を目的変数としたロジスティック重回帰分析を行い,オッズ比を求めた結果,年齢2.0(95%CI:1.03-3.89),中殿筋の筋断面積4.7(95%CI:2.09-10.66),腹直筋の筋断面積3.1(95%CI:1.41-6.93)であり,年齢,中殿筋と腹直筋の筋断面積のオッズ比は有意であった.以上から,THA術後6ヶ月における歩容の回復状況を予測するには,術前の下肢筋力やTUGなどの運動機能の評価では不十分であり,中殿筋や腹直筋の筋萎縮を評価する必要があることが明らかとなった.今後の課題として,術前の股関節周囲や体幹筋の筋萎縮が顕著な症例で対して,THA術後の歩容の改善に有効なトレーニングを検討していく必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】THA術後の歩行の回復状況を予測しながら,術後の理学療法を展開していくことが重要である.本研究の結果から,THA術後の根拠に基づいた目標設定のための一助となることが示唆され,理学療法学研究として意義があると考えられた.
  • 人工股関節全置換術患者5症例による症例集積研究
    中村 瑠美, 山口 良太, 丸山 孝樹, 藤代 高明, 林 申也, 神崎 至幸, 橋本 慎吾, 酒井 良忠
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】大学病院における人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: THA)患者の術後在院日数は様々な要因で遷延する。そこで我々は先行研究において、術後在院日数予測の術前関連要因について検討した結果、手術回数、年齢、術前歩行様式、非術側の股関節機能判定基準(JOA score)、併存疾患数の5項目が抽出された。さらに、これら5項目を説明変数としたディシジョンツリー分析で出力された在院日数予測モデル(以下、予測モデル)に基づいて4パターンのクリニカルパス(以下、パス)を作成した。これらの4パターンのパスは術前関連要因に基づいて作成されており、術後事象によって逸脱する可能性がある。そこで本研究の目的は、全対象患者のうち予測モデルから逸脱した5名について逸脱因子を検討することである。【方法】対象は当院において2009年4月から2012年9月までに再置換術を含むTHAを施行された患者女性122名、男32名の計154名(平均年齢67歳)、173股のうち、予測モデルに基づいて分類された4パターンのパスに逸脱する症例5名を対象とした。調査項目は前述の先行研究において採取した術前関連5項目および術後在院日数に加えて、術後関連要因として初回離床日、杖歩行獲得日、手術時間、術中出血量、荷重制限の有無、術後ヘモグロビン(以下Hb)値、術後合併症の有無とした。さらに診療録記録から逸脱する要因と考えられる記載をフリーワードで抽出した。【説明と同意】本研究は後方視的研究であり、全ての患者からの同意が得られないため神戸大学医学倫理委員会の指針および臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)に則り、診療録から得られた個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず、匿名化したデータベースにして解析を行った。【結果】以下に各症例についての要約を記載する。症例1(70歳女性)は”初回手術”、”70歳”、”独歩”、” JOA score90点”、”併存疾患数5”であり、モデルによる分類では平均在院日数34.3日の5週パスグループに分類されたが実日数は51日であった。在院日数を遷延させる要因としては、短縮骨切り術併用による3週間の免荷期間が設定されていた。症例2(81歳女性)は”初回手術”、”81歳”、”T字歩行”、” JOA score72点”、”併存疾患数4”であり、5週パスグループに分類されたが実日数は50日であった。術後24日で深部静脈血栓症(DVT)が判明して7日間のリハビリ中断に加えて6日間の年末年始休業があった。症例3(73歳女性)は”初回手術”、”73歳”、 ”T字歩行”、” JOA score75点”、”併存疾患数15”であり、5週パスグループに分類されたが実日数は44日であった。術後11日でDVTが判明したがリハビリテーションの中止はなし。術直後から創部治癒が遷延していた。また、右肺下葉に腫瘍病変の疑いを指摘され精査目的の日数延長があった。症例4(64歳女性)は”初回手術”、”64歳”、 ”T字歩行”、” JOA score71点”、”併存疾患数2”であり、4週パスグループ(平均在院日数29.6日)に分類されたが実日数は44日であった。1.5cm以上の脚長差を生じており補高装具の完成まで病棟での歩行獲得が遷延した。また、両側とも下肢筋力低下が著しく両側ロフストランドクラッチ歩行での退院となった。症例5(85歳女性)は”初回手術”、”85歳”、 ”T字歩行”、” JOA score71点”、”併存疾患数3”であり、4週パスグループに分類されたが実日数は37日であった。85歳と高齢であり独居であることが退院に対する不安を助長していた。また、視力障害が著明でありバランス能力獲得に時間を要した。【考察】5症例の検討において抽出された術後関連項目としては、免荷期間の設定、Hb低値、術後合併症(DVT、創遷延治癒)、他部位疾患の合併、補高装具、長期休業が挙げられた。また、術前より採取可能な項目としては下肢筋力低下、独居、視力障害などが挙げられた。術後関連要因のうち免荷期間の設定およびHb低値に関しては手術当日に採取しうる項目であることから、これらの項目を含む予測モデルを作成することにより逸脱を避けられると考えられた。術後合併症の発生は大きくパスを逸脱させる可能性が示唆された。術前に採取しうる項目については、先行研究において多変量解析による有意な項目としては抽出されなかった。今後は、数値化された下肢筋力などを術前項目とした精度の高い予測モデルの作成と、術後関連項目を考慮したパスの運用が望ましいと考えられた。【理学療法学研究としての意義】予測モデルはあくまで予測モデルであり、実際には有意な説明変数になり得ない少数の逸脱要因を意識したアプローチこそが求められる。一方で逸脱要因と考えられるためには、精度の高い予測モデルが存在する必要がある。本研究の結果は、より精度の高い予測モデルの構築とモデル逸脱要因の検索の両者に寄与するものであると考えられる。
  • 身体機能を用いた臨床基準の作成
    田中 友也, 美崎 定也, 古谷 英孝, 廣幡 健二, 西野 正洋, 佐和田 桂一, 坂本 雅光, 三井 博正, 西 法正, 杉本 和隆
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】人工膝関節全置換術(TKA)、単顆置換術(UKA)は安定した術後成績を得ることができるが、固有受容器、筋力、バランス能力の低下があるとされている。そのため、身体機能低下が転倒を引き起こし、それにより骨折や脳外傷を招く可能性があると考える。我々は、先行研究においてTKA・UKA患者の転倒を調査し、転倒群は非転倒群に比べて身体機能が低下していることを報告した。しかし、非転倒群の中にも身体機能が低下している患者が見られた。このような患者の特徴を捉え、転倒予備群の判別ができることで、転倒予防指導時の一助になると考えられる。今回の目的は、転倒群の身体機能を外的基準として、非転倒群より転倒予備群を定義した後、身体機能に関してのカットオフ値を求めることにより、転倒予備群の臨床基準となりうるかを検討した。【方法】2006年~2011年にかけて当院でTKAまたはUKAを施行し、2011年9~12月に定期外来診察を受けた症例を対象とした。転倒の定義は、歩行や動作時に故意ではなく、床や地面もしくは膝よりも低い位置に手や殿部などの身体の一部がついた場合とした。測定項目は、基本属性として1)年齢、2)性別、3)BMI、自記式アンケートとして4)転倒に関するアンケート、日本語版WOMACの5)疼痛6)身体機能、7)日本語版Physical Activity Scale for the Elderly 、身体機能検査として8)股関節可動域(屈伸)、9)膝関節可動域(屈伸)、10)足関節可動域(底・背屈)、11)等尺性膝伸展筋トルク(膝伸展トルク)、12)開眼片脚立位時間、13)ファンクショナルリーチテスト(FRT)を行った。膝伸展筋トルクの測定は、ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas‐F1)を用いた。測定値は体重と下腿長にて標準化した値を採用した。統計解析は、転倒群と非転倒群をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。転倒予備群を定義するために、有意差が見られた身体機能項目を使用し、非転倒群をクラスター分析で3群に類型化し、外的基準となる転倒群と3つの非転倒群の間に一元配置分散分析(Dunnett法)を用いて身体機能項目を比較した。転倒群より有意に低い値を示した項目を持つ群を転倒予備群とし、その項目からReceiver-Operating-Characteristic曲線(ROC曲線)を用いてカットオフ値、ならびに検査の予測能を示すROC曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の目的を事前に説明し、同意が得られた者に対して実施した。【結果】評価とアンケートはTKA・UKA患者156名に対して行い、有効回収率は79%であった。対象者は123名(男性17名、女性106名、平均年齢71.9歳、平均BMI26.0kg/m2)となった。転倒者数は19名であった(15%)。群間比較の結果、非転倒群に比べ転倒群は膝伸展トルク、FRT、WOMAC身体機能が有意に低値を示した。非転倒者を3群に類型化し、転倒群より身体機能が劣る群(16名)を転倒予備群と定義した。この転倒予備群に含まれるカットオフ値は、膝伸展トルク:0.69Nm/kg(AUC:0.95)、FRT:26.5cm(AUC:0.94)、WOMAC身体機能:95点(AUC:0.93)となった。【考察】TKA・UKA患者の15%が転倒を経験していた。TKA患者の転倒発生率は、Swinkelsら(2009)は24.2%、Matsumotoら(2010)は32.9%と報告がある。先行研究に比べ、本研究の結果は低い値を示した。2群間の比較から、筋力・バランス能力低下により身体機能が低下しているTKA・UKA患者は、転倒を起こす可能性があると示唆された。転倒予備群は転倒群より膝伸展トルク、FRT、WOMAC身体機能に有意に低値を示した。転倒予備群の臨床基準として、ROC曲線より各項目ともに高いAUCが得られた。臨床では簡便な指標を選ぶことで転倒予備群の判別が可能であると考えられる。先行研究で、健常者を対象に行われている転倒リスクの調査では、石井ら(2006)は膝伸展トルクのカットオフ値は0.82Nm/kg未満、Thomasら(2005)はFRTのカットオフ値は18.5cm未満とした。本研究の結果より筋力は高値、FRTは低値を示した。転倒予備群は身体機能が劣っているにも関わらず、本調査で転倒は無かった。これは環境や活動量の要因によって転倒に及んでいないと考えられる。今後はこれらの因子を含めた転倒調査が必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本邦でTKA・UKA後患者の転倒を調査した研究が少なく、転倒や転倒予備群の実態を把握できていない。今後、転倒者や転倒予備群の特徴をとらえることにより、理学療法を進める際に必要な治療プログラムや日常生活指導を立案できる。
  • 平野 和宏, 鈴木 壽彦, 五十嵐 祐介, 田中 真希, 石川 明菜, 姉崎 由佳, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】我々は、2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて、人工膝関節全置換術(以下TKA)患者を対象に統一した評価表を用いている。本評価表は機能評価と問診票で構成されており、機能評価にはROMや筋力、最大歩行速度(Maximum Walking Speed 以下MWS)やTimed Up&Goテスト(以下TUG)、伸長-短縮サイクル(stretch-shortening cycle以下SSC)運動である「Quick Squat(以下QS)」などが含まれている。QSとは、膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間に出来るだけ早く行い、その回数を評価するものである。今回の報告では、TKA患者が日本において徒歩何分という表示に用いられる80m/minの速度で歩行するためには、機能評価の中のどのような因子が関与しているのかを明確にし、さらに80m/minの速度で歩行するために必要な評価指標のカットオフ値を得ることを目的とする。【方法】対象は2010年4月から2012年8月までに4病院でTKAを施行し、術前、術後3週、術後8週、術後12週のいずれかの時期に調査項目が評価可能であった症例とした。各評価時期における症例数および平均年齢は、術前142例、74.3±7.2歳、術後3週199例、74.1±7.7歳、術後8週176例、74.4±7.1歳、術後12週157例、74.3±7.3歳であった。調査項目は、5m MWS、QS回数、TUG、JOAスコア、BI、疼痛の有無、術側屈曲・伸展可動域および筋力(nm/kg)として術側膝屈曲・伸展、非術側膝屈曲・伸展の12項目とした。QS回数、TUG、筋力は各々2回測定し、その平均値とした。統計解析としては、5m MSWにて80m/minの速度での歩行の可否を従属変数、上記調査項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。その後、抽出された調査項目に関して80m/minの速度での歩行の可否を判断するカットオフ値を得るために、Receiver Operating Characteristic Curve(以下ROC曲線)から曲線下面積(Area Under the Curve以下AUC)を算出し、感度・特異度からカットオフ値を求めた。統計解析ソフトはSPSS(ver.19)を使用した。【倫理的配慮】本研究は、当学の倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】多重ロジスティック回帰分析の結果、モデルχ2検定は全評価時期においてp<0.01で有意であった。判別的中率は術前83.8%、術後3週92.9%、術後8週92.0%、術後12週88.5%であった。TUGが全評価時期(p<0.01)で有意な変数として抽出され、QS回数が術後8週(p<0.05)、術後12週(p<0.01)で有意な変数として抽出された。抽出された変数におけるROC曲線のAUC、カットオフ値はTUGでは術前0.88、10.3秒、術後3週0.91、10.4秒、術後8週0.92、9.6秒、術後12週0.93、9.5秒であり、QS回数では術後8週0.84、9.5回、術後12週0.87、11.5回であった。【考察】歩行は日常生活で最もよく使われる移動手段であり、高齢者では身体活動量の80%が歩行であるとされている。また、歩行能力が高いと外出頻度が多くその範囲も広くなり、歩行能力が低くなると外出頻度が少なくその範囲も狭くなるという報告もある。TKA患者の高い活動性を維持するためにも、QOLを高めるためにも、外出が出来るか否かは重要であると考える。TKA患者が外出できる歩行能力を有しているのかを判断する場合、日本において徒歩何分という表示に用いられる80m/minという歩行速度は、1つの判断基準となりうると考える。今回、この歩行速度を指標としてTUGとQS回数のカットオフ値を算出することができた。TUGは全評価時期において有意な変数として抽出され、QSに比しAUCは高い傾向であった。しかしながら、TUGには歩行という動作も組み込まれているのに対し、QSは歩行を含まない。このことは、術前や術後早期などに自立歩行が困難でMWSやTUGが評価困難な場合であっても、QSが可能であれば、評価時のQS回数に対し術後8週や12週の目標を定められる利点がある。SSC運動は、スポーツ選手の投擲動作時やジャンプ施行時から健常者の通常歩行時まで幅広く認められており、歩行能力の維持・改善にはSSC運動の遂行能力向上と適切な評価が重要であるとの考えから、4病院ではTKA術後患者にQSをトレーニングとしても取り入れている。我々は、第47回日本理学療法学術大会において、TKA患者のQS回数と10m MWSおよびTUGに相関が認められることを報告しQSの有用性を示した。今回の結果からも、QSはTKA患者における歩行評価の新しい指標となり得るとともに、方法が簡便で評価とトレーニングを兼ねている点でも有用性が高いと考える。【理学療法学研究としての意義】外出の判断基準となりうる80m/minの速度での歩行の可否について、TKA患者におけるTUGとQS回数のカットオフ値を算出した。QSはTKA患者の歩行評価の新しい指標となりうると考える。
  • 鈴木 壽彦, 平野 和宏, 五十嵐 祐介, 田中 真希, 石川 明菜, 姉崎 由佳, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】我々は、2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて、人工膝関節全置換術(以下TKA)患者を対象に統一した評価表を用いている。本評価表は機能評価と問診票で構成されており、評価時期は術前、術後3週、術後8週、術後12週の全4回となっている。機能評価にはROMや筋力、最大歩行速度(Maximum Walking Speed以下MWS)やTimed Up&Goテスト(以下TUG)、Stretch-Shortening Cycle(以下SSC)運動であるQuick Squat(以下QS)などが含まれている。問診表は、「日常生活動作16項目」、「疼痛8項目」、「満足度7項目」の全31項目で構成されており、それぞれ5段階スケールで回答する質問紙法となっている。TKAの術後に関して、機能が高い症例でも、本人の満足感が低い場合がある。今回、問診票を構成している「満足度」の合計点に着目し、どの機能評価が満足度に影響を及ぼすのかを明確にする事を目的とした。【方法】本研究はデータベースからの後方視的調査である。対象は2010年4月から2012年8月までに4病院でTKAを施行し、各評価時期において問診票に記載の漏れが無くかつ歩行可能な症例とした。各評価時期の症例数は、術前232例、術後3週331例、術後8週249例、術後12週233例であった。調査項目は、JOAスコア、BI、疼痛の有無、術側・非術側それぞれの膝屈曲・伸展可動域および膝屈曲・伸展筋力(kgf/kg)、5mMSW、TUG、QS回数の14項目とした。QS回数、TUGは各々2回測定し、その平均値とした。筋力はHand Held Dynamometer(以下HHD)、アニマ社製 μTAS-MT1を用いて、2回測定したうちの最大値を採用した。なお問診表の満足度7項目は以下の通りである。1)膝の状態2)趣味活動3)外出4)歩き姿5)睡眠6)膝以外の体の状態7)身体以外の生活の状態。それぞれの項目で、満足(5点)~不満足(1点)の5段階自己記入式であり、35点満点となっている。統計解析は問診表の満足度の合計点を従属変数として、上記14項目を独立変数とした重回帰分析を行い、問診表の点数に影響を与える機能評価の項目を検討した。統計解析ソフトはSPSS(ver.16)を使用した。【倫理的配慮】本研究は、本学の承認を受け、ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】重回帰分析の結果、術前の偏回帰係数はQS回数0.41、5mMWS0.04、標準偏回帰係数はそれぞれ0.23、0.13、重相関係数(以下R)=0.38。術後3週の偏回帰係数はQS回数0.31、5mMWS0.07標準偏回帰係数はそれぞれ0.18、0.21、R=0.35、術後8週の偏回帰係数はQS回数0.24、5mMWS0.07、標準偏回帰係数はそれぞれ0.15、0.29、R=0.41、術後12週の偏回帰係数は疼痛-4.1、5mMWS0.07、標準偏回帰係数はそれぞれ-0.31、0.25、R=0.45であった。【考察】結果より満足度に影響を与える因子が抽出されたが、その相関は強いものではなかった。本評価表の「満足度」の7項目は、上記2)5)6)7)の様な、情意面や患肢以外を評価する項目が含まれている。これらは機能面とは直接的な関係性が薄いと予測され、その事が相関に影響を与える一因になったと考える。しかしながら、そのような設定項目にも関わらず、5mMWSとQS回数が複数の評価時期において抽出された事は興味深いと考える。QSはSSC運動として、4病院で共通に取り組んでいる評価及びトレーニングである。我々は第47回日本理学療法学術大会において、TKA患者のQS回数と10mMSWおよびTUGに相関が認められることを報告しQSの有用性を示した。今回の結果では術前から術後8週においてQS回数が、全評価時期において5mMWSが満足度に影響を及ぼしており、QSが数多く行えて、歩行速度が速ければ満足度を高める事が示唆された。また、術後12週において疼痛が満足度に影響を及ぼしており、疼痛が遷延化する事は満足度を低下させる事が示唆された。今回の結果より、TKA患者の主観的な満足度が機能面からも予測できうる事が示唆された。【理学療法学研究としての意義】満足度評価に対して、機能評価がどう影響するのかを検討した。満足度には情意面も含め、様々な要因が関係すると思われるが、MWSが速く、QS回数が多いTKA患者は満足度が高いことが示され、早期からこれらの機能を高めることは,患者の満足度向上に寄与すると予測される.
  • ―術後活動量に着目した検討―
    谷口 匡史, 前川 昭次, 小島 弓佳, 大﨑 千恵子, 久郷 真人, 上村 一貴, 川崎 拓
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】人工膝関節置換術(TKA)は、著明な除痛効果があり、術後早期から歩行能力改善が得られる。近年、TKA術後の入院期間が短縮され、より早期から術後理学療法が行われる。限られた入院期間中に退院時の歩行機能を効率的に改善させるためには、筋力や可動域など多くの要因が影響することが予想されるが、どの要因に対して重点的に介入が必要かを特定することが重要である。また、入院中は理学療法以外の時間が長時間を占めるが、この間の活動も退院時機能に影響を受けると考えられる。本研究の目的は、術前後の機能変化および術後活動量が退院時の歩行機能に影響を及ぼすかを検討することである。【方法】2011年6月から2012年10月までの間に当院整形外科を受診し、変形性膝関節症を原因疾患として初回人工膝関節置換術を施行した109名121膝を対象とした。術後合併症によりクリティカルパスから逸脱した者は除外した。平均年齢は74.7±6.0歳、身長151.7±7.6cm、体重59.6±10.9kg、BMI25.3±3.4であった。39名はすでに反対側TKA後であった。変形性膝関節症患者機能評価尺度の術前平均値は53.3±18.8点であった。TKA術前後の歩行機能指標としてTimed up & Go test(TUG)を使用した。なお、歩行補助具の使用有無は、術前は外出時、術後は病棟内歩行時の使用状況とした。5回立ち座りテスト(STS)、開眼閉脚立位における足圧中心軌跡外周面積(RMS)および術側への荷重率(術側下肢荷重量/体重×100%)を求めた。また、膝関節屈曲60度位での術側最大等尺性膝伸展筋力(Nm/kg)、膝関節屈曲可動域を測定した。これらの測定は術前・術後4週時に実施し、STS・RMS・術側荷重率・膝伸展筋力・膝屈曲可動域および歩行時疼痛における術前後の変化量を求めた。また、術後病棟内歩行自立後より対象者に活動量計を持参させ、術後3週目・4週目の一日平均歩数を求めた。クリティカルパスよりも数日早期に退院となった場合には、退院日より遡って7日間毎の一日平均歩数を算出した。統計は術前後のTUGを対応のあるt検定にて比較した。また、従属変数を術後TUG、独立変数として術前TUG、年齢、BMI、性別、反対側TKAの有無、膝伸展筋力・膝屈曲可動域・STS・RMS・荷重率・歩行時疼痛の変化量、術後3週と4週の一日平均歩数の全13項目を投入してステップワイズ重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。さらに、術後TUGをTKA術後歩行機能改善の境界値とされる10.1秒により2値化して、ROC解析を行い、術後歩行機能改善を予測するカットオフ値を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究の内容を十分に説明し、研究に参加することの同意を得た。【結果】TUGは術後有意に改善した(術前11.9±5.1秒、術後10.5±2.8秒;p<0.01)。重回帰分析の結果、抽出された因子は、術前TUG(β=0.692)・術後4週目の平均歩数(β=-0.262)・STS変化量(β=0.253)・荷重率変化量(β=-0.126)・年齢(β=0.126)であり、自由度調整済み決定係数は0.585であった。補正因子である術前TUGを除いて、最も影響度の大きい術後4週目の平均歩数を独立変数として、術後TUGの改善に対するROC曲線を作成した(AUC = 0.736)。Youden indexから求めたカットオフ値は、2882歩(感度62.9%、特異度72.9%)であった。【考察】先行研究により術前機能が術後機能に影響することは明らかであり、ベースラインの影響を考慮するために補正因子として術前TUGを独立変数に投入して重回帰分析を行った。その結果、術後TUGの改善には、術後4週目の一日平均歩数、立ち上がり時間の改善および術側への荷重量増加が関係していた。術前歩行機能の影響や術後の疼痛改善に関わらず、術後の活動性が高いほど退院時の歩行機能は良好であり、術後4週目には一日平均約2900歩の活動量を確保することが歩行機能の良好な改善に寄与することが明らかとなった。また、術前後における立ち上がり時間の短縮と術側への荷重量増加が歩行機能の改善に影響するため、術後理学療法では立ち上がり機能や術側への荷重促通に対しての積極的な介入が重要であることが分かった。【理学療法学研究としての意義】本研究は包括的検討により様々な因子で調整した上でもTKA術後の歩行機能改善への影響が特に大きい要因を明らかにした。また、TKA術後の活動量処方に2900歩という具体的な目標を示すことで、理学療法に有用な情報を提供するものと考える。
  • 石川 明菜, 平野 和宏, 鈴木 壽彦, 五十嵐 祐介, 田中 真希, 姉崎 由佳, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】当大学附属4病院リハビリテーション科では人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行した患者の治療および評価の標準化に向け評価表およびデータベースを作成し、H22年4月より運用を開始している。今回作成した評価表は身体機能評価表と患者の主観的評価による問診表であり、経時的にデータが蓄積できるよう評価時期を術前、術後3週、8週、12週に設定している。問診表は「生活動作」16項目、「疼痛」8項目、「満足度」の3つの下位尺度からなる健康関連QOL(Health-Related Quality of Life:以下HRQOL)の自己評価尺度として独自に作成した。下位尺度である「生活動作」はTKA患者に該当しそうな日常生活動作から抽出し項目を設定した。各下位尺度における信頼性については第47回日本理学療法学術大会において高い内的整合性が確認されたことを報告している。今回、問診表の妥当性を検討することを目的とし、下位尺度である「生活動作」についての妥当性を検討した。【方法】対象はH22年4月からH24年8月までに当大学附属4病院で変形性膝関節症(以下膝OA)と診断されTKAを施行し、術前もしくは術後のいずれかの時期に「生活動作」全16項目回答可能であった症例とした。術前に測定した群を術前群、術後3、8、12週のいずれかで測定した群を術後群とし、術前群は166例(男性37例、女性129例、年齢74±7歳)、術後群は499例(男性101例、女性398例、年齢74±7歳)であった。方法は問診表のデータを使用した後方視的調査である。評価項目は「生活動作」16項目、1)寝起き、2)着替える、3)洗面動作、4)トイレ動作、5)座り仕事または家事、6)立ち仕事または家事、7)階段を昇る、8)階段を降りる、9)靴下をはく、10)足の爪を切る、11)荷物を持つ(買い物)、12)歩く、13)お風呂に入る、14)床の物を拾う、15)転ばずに生活する、16)歩き以外の移動動作とし、各項目を5点「楽に出来る」~1点「できない・やっていない」の5段階で評価した。統計学的分析としてSPSS ver.19.0 for Windowsを用い術前および術後において因子分析を行った。推定法には最尤法を用い、因子の回転には直接オブリミン法を用いた。また因子数の決定はガイザーガットマン基準に従い因子を抽出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当学の倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言に則り行った。【結果】術前、術後とも2因子が抽出された。術前は第1因子として7)、8)、12)を除く13項目が因子負荷量0.39~0.90、寄与率59.9%、特に項目2)~4)、13)~15)が0.8以上の高い因子負荷量を示した。第2因子として項目7)、8)、12)が因子負荷量0.43~0.94、寄与率9.2%を示した。術後は第1因子として項目5)~16)が因子負荷量0.50~0.87、寄与率59.5%、特に項目6)、7)、11)、12)が0.8以上の高い因子負荷量を示した。第2因子として項目1)~4)が因子負荷量0.77~0.92、寄与率9.9%を示した。KMO測度は術前0.928、術後0.939、バートレットの球面性検定は両者ともp<0.01であり、因子分析の適用は保証された。【考察】術前では身の回り動作を中心とした項目が第1因子と関連を示したことから、第1因子は「身の回り動作」を、第2因子は歩行や階段動作と関連がみられたことから「移動動作」を表す因子と考える。これは、術前群は重度OA患者が多く活動性が低いことが予測されるためと考える。一方、術後では術前と反対に第1因子は「移動動作」を、第2因子は「身の回り動作」を表していると考える。これはTKA施行により身体機能が改善され、活動性の高い「移動動作」がより重要な因子として抽出されたと考える。また、術前術後において2因子のいずれかに対し0.2以下の因子負荷量を示した項目がないことから、設定した項目の削除は必要ないと考える。本評価表は、TKA症例において、術後に必要と考える生活動作を抽出し項目設定を行なった。因子分析により術前後において「身の回り動作」、「移動動作」という生活動作を表す2因子による群構造が示されたことから、因子妥当性が認められたと考える。今後は項目の順序性について検討し構成概念妥当性を確認すること、また他の下位尺度についても同様の検討を行い、問診表全体の妥当性を確認することが課題である。【理学療法学研究としての意義】TKA患者に対し身体機能とHRQOLを同時に評価している報告は少ない。今回新たに作成した評価表の妥当性を確認した本研究は、TKA症例に対する多角的な評価や理学療法治療の標準化に意義があると考える。
  • 内田 茂博, 玉利 光太郎, 森田 伸, 田仲 勝一, 伊藤 康弘, 藤岡 修司, 板東 正記, 刈谷 友洋, 小林 裕生, 山田 英司, ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 現在,在院日数の短縮やリハビリ期間の制限により人工膝関節置換術後患者に対し長期的な介入が困難となっている.そのため,術前より術後早期の運動機能に寄与している因子を明確にし,早期退院が可能な症例を予測することで,不必要な入院期間を短縮させることが可能になると考えられる.本研究では,機能的移動能力を測定するTimed Up and Go test(以下,TUG)をアウトカムとして,術前の身体・精神的機能と術後2週のTUGとの関係を明らかにし,抽出された予測因子の検査特性を示すことを目的とした.【方法】 研究デザインは前向きコホート研究であり,変形性膝関節症と診断されTKAまたはUKAが施行された患者を対象とした.術前に独立変数を計測し,従属変数は退院前である術後2週にTUGを計測した. 対象は,当院整形外科にて手術が施行された43名(男性11名,女性32名,平均年齢74.9±6.5歳)とし,測定項目は,独立変数として,1)疼痛,2)術側膝関節可動域(伸展・屈曲),3)術側等尺性膝伸展筋力,4)自己効力感(Self-Efficacy for Rehabilitation Outcome Scale:以下,SER)の4項目とした.また,交絡因子は,1)被験者属性因子(年齢,性別,BMI,エクササイズ習慣),2)TKA例とUKA例,3)片側例と両側例,4)非術側等尺性伸展筋力,5)非術側膝関節可動域(伸展・屈曲)を術前に計測した.統計学的分析では重回帰分析を用い,変数選択法はステップワイズ法により行った.また,交絡因子を分析モデルに強制投入し調整を行った.なお事前に単変量解析によって変数選択を行い,有意水準が0.20を下回る変数のみを重回帰モデルに投入して分析を行った.さらに,Whitneyら(2005)の報告を参考にしてTUGが15.0秒以上の者を遅い群,15.0秒未満の者を早い群として2群に分け,重回帰分析によって抽出された因子について receiver operating characteristic(以下,ROC)曲線を用いてカットオフ値を求め,各検査においてTUGが15.0秒未満となる予測モデルを立て感度・特異度を算出した.統計ソフトは,SPSS Statistics 19.0を使用し,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 当院の倫理委員会の承認を得た.対象者には研究についての説明を行い,十分に理解した上で書面にて同意を得た.【結果】 単変量解析によって抽出された変数はSER,安静時痛であった.重回帰分析の結果(p<0.001,R2=0.556),術後2週目のTUGを説明する変数は,術前のSER(p<0.001,β=-0.571)と安静時痛(p<0.001,β=0.406)であった.交絡因子を投入後の重回帰分析の結果(p<0.001,R2=0.703)も術前のSER(p=0.001,β=-0.407)と安静時痛(p=0.001,β=0.413)が抽出され,それ以外に交絡因子である非術側膝伸展可動域(p=0.027,β=-0.257)が有意であった.また,ROC曲線の曲線下面積は,SERが0.82(p=0.001),安静時痛が0.59(p=0.371),非術側膝伸展可動域が0.62(p=0.213)であった.また,感度と特異度の和が最も大きくなる点をカットオフ値とした場合,SERは88.5点,安静時痛は1.5,非術側膝伸展可動域は-2.5°であった.さらにこの時の検査特性は,SERでは感度64.3%,特異度96.6%,安静時痛は感度41.4%,特異度78.6%,非術側膝伸展可動域では,感度78.6%,特異度41.4%であり,事前確率を30.2%とした場合の事後確率はそれぞれSER90.6%,安静時痛45.6%,そして非術側膝伸展可動域は36.6%であった【考察】 術前に自己効力感が88.5点以上,安静時痛がVASで1.5以下,または非術側膝伸展可動域が-2.5°以下のものは,41.4%~90.6%の確率でTUGが術後2週の時点で15.0秒未満となることが示唆された.また被験者属性因子や非術側の筋力,TKA・UKAの別,片側・両側の別といった要因からも独立してこれらの因子が術後2週のTUGに関連することが示唆された.本研究の限界として,抽出された因子の妥当性についてはRCTの実施によって検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】本研究で得られた知見は,急性期のTKA術後患者のうち運動機能が通常のパスよりも早期に望ましいレベルに達する症例を把握することで,入院期間の短縮を検討する基盤となると考えられる.
  • 山形 卓也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】臨床において腰痛症例は頻繁に観察される。従来から腰痛の原因として、安定性は注目されており鑑別の方法としてX線上での機能写の撮影、疼痛誘発テスト等がある。しかし、発生源の特定は非常に難しく、医師はブロック療法等による補助診断によって,確定診断を行っている。理学療法士として疼痛の発生源を特定することはプログラムを決める上で重要なことだが医師のようにブロックを行うことが出来ないためその代替の手段を模索していく必要がある。その中で、Modic分類を用いた椎体終板変性の画像所見と不安定性と腰痛の関連性は多くの報告がなされており、MRI画像との相関性が報告されている。豊根らによると椎体終板軟骨はMRI のT1強調画像で高輝度を呈するModic Type 2,低輝度を呈するModic Type 1に分類され,Modic Type 1 は椎体間不安定性と腰痛と相関することが報告されている.また、大鳥らによるとType2は椎体間の不安定性が安定化していても軟骨終板の輝度変化異常例では、軟骨終板の変性の程度が強く、それが腰痛の原因となっていると考えられたと述べている。今回、Type2が過少運動性であるという大鳥らの報告を確認するためModic分類と腰椎分節に対する疼痛誘発テストを用いて検討したので報告する。【方法】対象は罹病期間が3カ月以上を有する慢性腰痛症例で、体幹自動運動テストにて腰痛を主訴とする62例(内訳(内訳:【男性41例/平均55.2歳、女性21例/63.0歳】)である。その中から、MRI画像を確認し、椎体終板輝度の変化を確認した。除外項目として明らかな神経学的脱落所見を呈する症例、脊椎すべり症、脊椎の炎症、重度の側彎、脊椎の手術を経験している症例を除外した。評価項目として、椎体軟骨終板の変性をModic分類(Type1 MRIでT1低信号・T2高信号、Type2はMRIで終板沿いのT1高信号・T2高信号、Type3はMRIでT1著明低信号、T2著明低信号)の3分類、椎間板変性は腰椎MRIT2強調画像正中矢状断を撮影し、変性の程度を信号強度に基づき5段階に分類(Pfirrmann分類)、そして腰椎分節レベルでの疼痛誘発テスト(スプリングテスト)を評価した。MRI画像は、1.5TのMRIを使用し、撮影姿勢は背臥位、腰椎MRI画像矢状断面の椎間板中央のレベルで、T1画像とT2画像の信号強度で分類した。スプリングテストは腰椎分節ごとにストレスをかけ、疼痛が出現した場合を陽性、疼痛が出現しなかった場合を陰性とした。【倫理的配慮、説明と同意】症例には、当院の倫理規則に従いこの研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】対象症例62名のうち椎体終板の輝度変化が認められたのは27例となり、Modic分類で、Type1が5例、Type2が12例、Type3が10例となった。Modic分類でType1が認められた分節レベルでの疼痛誘発テストが陽性となったのは5例中3例、Type2が認められた分節レベルでの疼痛誘発テストでは12例全例が疼痛を訴えない結果となった。この結果は、大鳥らの報告を肯定する結果であり、Type2は過剰運動性を伴わないと考えられる結果となった。椎間板変性の程度はPfirrmann分類において、椎体終板輝度正常群では平均3.0、椎体終板輝度異常群では平均4.3と有意に差が見られる結果となり諸々の研究結果を肯定する結果となった。【考察】Modic分類においてModic Type1は不安定性と腰痛との相関性が高いという報告は数多くなされている。今回、Modic Type1は5例中3例で疼痛が出現し陽性となり、半数以上に不安定性が認められた。Modic Type2では12例全例で疼痛誘発テストが陰性となっており不安定性は認められなかった。この結果からMRI画像上のModic Type2と腰椎分節への疼痛誘発テストの陰性は相関していると考えらえた。不安定性を持つ症例では疼痛誘発テストでの症状の再現などで確認を行うことが出来るが、過少運動性に対しては他動運動テストなどでしか確認する事が出来ず、症状の再現を確認する事も難しい。しかし、椎体終板変性により終板変性部位にはTNFが正常群に比べ約7倍の発現を認め、また約5倍の神経線維の増生も報告されている。これらの事から、椎体終板の変性が起こることよって、不安定性だけでなく過少運動性においても疼痛を誘発する原因となることが考えられるため、過少運動性の鑑別も考えていく必要がある。今回の研究で、Modic Type2では疼痛誘発テストでは痛みが出現せず過少運動性が考えられることが示された、今後は過少運動性を呈する分節に対する治療を行い治療効果の判定を行っていく事が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から、画像診断の所見と安定性の相関性が確認された。このことから、理学療法を展開していくうえで画像所見から予測し、症状と臨床所見を照らし合わせ治療方法(モビライゼーション等)の展開を行っていく事が望ましいと考える。
  • ~MRIからみた脂肪変性評価を用いた検討~
    高宮城 あずさ, 神田 真子, 西銘 恵美, 比嘉 俊文, 砂川 元, 島袋 雄樹, 比嘉 丈矢, 濱崎 直人
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】腱板断裂のある腱板筋には病理組織像で筋線維の脂肪変性がみられ、脂肪変性の程度は腱板の退縮の程度に関連するといわれている。当院では症例毎にMRI画像所見にて腱板断裂の範囲を確認するだけでなく、脂肪変性・萎縮の評価を行っている。今回、MRI画像の脂肪変性の程度とJOA scoreの改善度との関連性について検討し、腱板断裂保存療法の予後予測の一因子になるか検討したので報告する。【対象と方法】対象はMRI所見から腱板断裂と診断され保存療法を実施し、6ヵ月以上の経過観察が可能であった11例11肩(男性5肩、女性6肩)である。治療開始時年齢は平均70.4歳(61~77歳)であり、経過観察期間は平均10.4ヵ月(6~36ヵ月)、発症から初診までの期間は平均8.1ヵ月(1日~5年)であった。これらの症例に対して理学療法を中心とした保存療法を行い、一部の症例は投薬や関節内注入を併用した。理学療法は、安楽肢位や生活指導、リラクゼーション、関節可動域・腱板機能強化運動などで、外来リハビリにて週1-3回施行した。治療成績は日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA score)を用いた。検討項目は初診時、3ヵ月時、6ヵ月時のJOA scoreおよび推移(初診時、3ヵ月時、6ヵ月時)、関節可動域(自動屈曲、外旋)とした。脂肪変性の評価はGoutallierの提唱する棘上筋の脂肪変性と筋委縮の分類を用いた。Goutallier分類とは、Stage0:脂肪変性なし、stage1:軽度の脂肪変性と筋委縮、stage2:筋よりも脂肪変性の範囲が広い、stage3:筋と脂肪変性が同程度の範囲、stage4:筋よりも脂肪変性の範囲が大きい、と提唱されている。今回、stage1・2群を脂肪変性軽度群(以下、軽度群)、3・4群を脂肪変性重度群(以下、重度群)として群分けし、各検討項目を比較した。MRI画像の確認はT2強調斜位冠状断像にて同一の医師によって行った。統計学的検討にはt検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は院内における倫理委員会の承認を受けて実施されており、対象者の個人情報は特定できないように配慮した。【結果】初診時、JOA scoreは軽度群(stage1:4肩、stage2:2肩)が59±7.64点、重度群(stage3:1肩、stage4:4肩)は52.6±10.36点であった。両群間に有意差は認められなかった。3ヵ月時では軽度群75.5±10.66点、重度群は65.1±7.35点、6ヵ月時では軽度群84.67±7.85点、重度群にて70±8.25点であった。軽度群と重度群を比較すると3ヵ月時にて軽度群がより改善する傾向にあり(p= 0.065)、6ヵ月時においては有意差が認められた(p< 0.05)。6ヵ月時のJOA score各項目別では、疼痛が軽度群にて24.17±3.44点、重度群にて17±5.1点、機能が軽度群15.5±2.75点、重度群10.8±2.56点であり、それぞれ統計学的有意差を認めた(p< 0.05)。【考察】本研究の結果から、JOA scoreにおいて軽度群が重度群に比べ3ヵ月時により改善の傾向がみられ、6ヵ月時では有意な差を認めた。6ヵ月時におけるJOA score各項目の詳細な検討では、疼痛と機能の項目で有意な差を認めた。軽度群は脂肪変性が少ないことから残存腱板機能が高いことが考えられ、疼痛の軽減に伴い残存腱板機能が十分に発揮されJOA scoreの機能項目が有意に改善したと考えられる。中垣らは、腱板断裂のある腱板筋には筋線維の脂肪変性がみられ、脂肪変性の程度は腱板の退縮の程度に関連すると報告し、Gerberらは腱板修復術にて筋委縮は回復するが、脂肪変性は回復しないとしている。このことは、腱板断裂症例における脂肪変性の評価の重要性を示している。本研究において腱板断裂症例の脂肪変性の程度とJOA scoreの改善度との関連性が示唆されたことから、初診時より脂肪変性を評価することで、残存腱板機能を踏まえた理学療法を展開していく事が重要であると考える。本研究の問題点として、断裂のサイズは統一していないこと、保存療法から手術へ至った症例や6ヵ月以上の経過観察が不可能であった症例は除外しているため、症例数が少なく、治療成績やその他因子に影響を与えている可能性がある。今後は症例数を増やし、手術療法例も含めた検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】腱板断裂症例の保存療法において、MRIでの脂肪変性の評価は予後予測の一因子となりうる。
  • 超音波画像診断装置を用いた膝蓋骨上脂肪体の大腿四頭筋腱側長の観察
    豊田 和典, 山本 泰三, 矢口 春木
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝蓋骨上脂肪体(suprapatella fat pad;以下SPF)は膝蓋骨上端と膝蓋上嚢前面と大腿四頭筋腱遠位後面で形成される三角形を埋めるように存在しており、その機能は膝関節屈曲時の大腿四頭筋腱の滑走や伸展機構の効率を高めること(H.U.Staeubli,1999)や大腿骨と膝蓋骨間での膝蓋上嚢のインピンジメントを予防すること(C.Roth,2004)が報告されている。SPFに関する報告は、MRIを用いての膝関節前面痛とSPF拡大の関係(C.Roth,2004)や滑膜増殖の指標として有効性を検討した報告(M.E.Schweitzer,1993・Lee HS,2000)、超音波画像診断装置を用いてのSPF浮腫に対する超音波検査とガイド下局所注射の有効性を示した症例報告(B.V.Le,2009)がある。静的な指標はあるものの、膝関節運動時のSPF動態に関する報告はほとんどない。そこで今回、SPFの大腿四頭筋腱側の長さ(以下;腱側長)が膝関節屈曲時にどのように変化するか超音波画像診断装置を用いて検討した。【方法】対象は神経学的および整形外科的疾患の既往がない健常男性10名で、測定肢はすべて左下肢とした。対象者の平均年齢は32.9±4.7歳、平均身長は174±6.4cm、平均体重は66.2±9.0kgであった。測定姿勢は背臥位とし、膝関節伸展時および膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時の長軸像を撮影した。膝関節屈曲角度は東大式ゴニオメーターを使用して設定した。撮影は超音波画像診断装置(esaote社製 MyLab25)を使用して、プローブを皮膚に対して直角にあて、過度の圧が加わらないように注意した。撮影したSPF腱側長を内臓デジタルメジャーにて計測した。測定部位は下前腸骨棘と膝蓋骨中央を結ぶ線上でプローブ端を膝蓋骨上端とし、膝関節屈曲時には膝蓋骨とプローブの位置関係が変化しないように膝蓋骨の動きに合わせてプローブを操作した。測定は3回行い、その平均値を測定値とした。測定および計測はすべて同一セラピストが行なった。検討項目は、膝関節伸展時、膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時のSPF腱側長とその増加率とした。増加率は膝関節伸展時の計測値を基準としそれぞれの膝関節屈曲角度で比較した。統計処理は多重比較法を用い、すべての統計解析とも危険率5%未満を有意水準とした。統計処理にはSPSS Ver.14を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】実験に先立ち、対象者には研究内容について口頭にて十分に説明を行い、同意を得た。【結果】膝関節伸展時のSPF腱側長は18.0±1.1mm、膝関節屈曲90度では22.2±1.8mm、膝関節屈曲120度では23.0±1.6mm、最大屈曲では25.7±1.3mm、正座時は28.5±1.4mmであった。SPF腱側長の増加率は膝関節屈曲90度では123.5±10.0%、膝関節屈曲120度では128.3±10.6%、最大屈曲では143.1±10.7%、正座時は158.6±12.3%であった。それぞれの膝関節屈曲角度のSPF腱側長増加率に主効果が認められた。膝関節伸展は膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時、膝関節屈曲90度および120度では最大屈曲・正座時、最大屈曲では正座時との間に有意差があった。膝関節屈曲90度と120度との間には有意差はなかった。【考察】近年、関節拘縮や疼痛の原因の一つとして関節周囲の脂肪体が注目されている。膝関節周囲の脂肪体は膝蓋下脂肪体や大腿骨前脂肪体、SPFがあり、関節もしくは関節周囲のスペースを埋めるように存在している。大腿骨前脂肪体とSPFの機能は比較的類似しており、筋・腱や膝蓋上嚢の滑走性維持、大腿四頭筋腱のレバーアーム長維持による伸展機構の効率化機能が報告されているが、動態についての報告はほとんどない。今回、SPFの腱側長増加率を指標に膝関節屈曲に伴うSPFの動態を分析した結果、腱側長増加率は膝関節屈曲に伴い増加しており、特に最大屈曲、正座時において顕著であった。関節可動域、特に深屈曲や正座を獲得するためには、SPFは大腿四頭筋腱の滑走を促すだけではなく、大腿四頭筋などの他の軟部組織と連動して十分に変形できる柔軟性が必要であり、SPFは関節可動域を制限する軟部組織の一つである可能性が示唆された。今回は、SPF腱側長のみの分析であったが、膝関節屈曲時にはSPF膝蓋骨側が変形する様子も観察できており、今後はSPF膝蓋骨側の動態や関節拘縮との関連性などの研究をさらにすすめていきたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】SPFは膝関節機能改善を図るためには重要な組織であると考えられるが、その動態については明らかにされていない点が多い。今回、健常者のSPF動態の一部が明らかになったことで、理学療法手技や評価に応用していけるのではないかと考える。
  • 八木 宏明, 砥上 恵幸, 中村 勝, 富永 俊克, 松島 年宏, 城戸 研二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脊椎圧迫骨折患者に対する理学療法は、骨折型が安定している場合、離床を目的に入院後早期に開始されるが、骨折を機に歩行能力が低下する症例を少なからず経験する。理学療法初期評価では、体動時痛のために、下肢筋力やバランス能力に代表される身体機能を正確に評価することは困難であり、問診による受傷前の歩行やADL能力の把握、入院診療録からの各種検査結果や既往歴などの情報収集が中心となる。本研究では、脊椎圧迫骨折患者の歩行能力低下に影響を及ぼす受傷前の因子について検討し、理学療法開始時のスクリーニングの際のポイントを見い出すことを目的とした。【方法】2010年1月から2011年12月に脊椎圧迫骨折の診断にて、当院に入院し、保存療法が施行され、自宅復帰となった、60例(男性:22例、女性:38例、年齢:77.1±9.1歳)を対象とした。受傷前と退院時の歩行能力を比較し、同等となったものを到達群、低下したものを非到達群の2群に分類した。2群間において、年齢、性別、要介護認定の有無、痴呆性老人の日常生活自立度判定基準、受傷前の歩行補助具使用の有無、入院前のBarthel Indexの項目のうち、歩行、階段昇降の点数、生活習慣病の有無、骨粗鬆症治療薬使用の有無、入院直近時の血清アルブミン値、脳血管疾患および心疾患、高齢者に多い骨折(大腿骨頚部骨折・上腕骨近位端骨折・橈骨遠位端骨折)の既往の有無、椎体骨折数を検討項目として比較した。椎体骨折数については、入院時の単純レントゲン写真より判定し、1椎体のものを初発骨折、2椎体以上のものを多椎骨折と分類した。脊椎圧迫骨折の判定基準は、日本骨代謝学会の診断基準に従った。統計処理は、R.2.8.1を使用し、統計学的手法は、Shapiro-Wilk 検定にて、正規性について分析し、正規分布に従っている場合は、等分散性を確認し、Welchの補正による2標本t検定を、正規性が確認できない場合は、Mann-WhitneyのU検定を行った。また、名義尺度間の比較には、χ2乗検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に沿い、当院の学術研究に関する方針ならびにプライバシーポリシーを順守して行った。【結果】比較検討に先立ち、両群間の在院日数に有意な差がないことを確認した。到達群は40例(男性:16例、女性:24例、年齢:75.9±9.3歳)、非到達群は20例(男性:6例、女性:14例、年齢:79.6±8.4歳)であり、年齢と性別に差は認められなかった。椎体骨折数の比較では、到達群は初発骨折23例(57.5%)、多椎骨折17例(42.5%)、非到達群は初発骨折5例(25.0%)、多椎骨折15例(75.0%)であり、非到達群に多椎骨折が多く認められた(p=0.02)。Barthel Indexの項目では、歩行(到達群:14.5±1.5点、非到達群:13.0±3.4点)(p=0.04)、階段昇降(到達群:8.6±2.8点、非到達群:6.0±4.5点)(p=0.02)にて有意な差が認められた。要介護認定の有無、痴呆性老人の日常生活自立度判定基準、受傷前の歩行補助具使用の有無、生活習慣病の有無、骨粗鬆症治療薬の使用の有無、入院直近時の血清アルブミン値、脳血管疾患および心疾患、高齢者に多い骨折の既往の有無には、有意な差はなかった。【考察】歩行や階段昇降能力の低下は、下肢筋力やバランス能力の低下を反映していると推察される。また、脊椎圧迫骨折が複数の椎体に及ぶと死亡リスクが高まるとの報告もあり、多椎骨折患者も同様に身体機能が低下していると考えられる。これらの患者では、予備能力が低く、骨折後の疼痛による臥床にて、さらに歩行能力が低下してしまう危険性があると思われる。脊椎圧迫骨折患者の理学療法では、開始時に、歩行能力、階段昇降能力、多椎骨折の有無についてスクリーニングを行い、歩行能力低下への対策が必要である。具体策には、消炎鎮痛薬などによる疼痛のコントロールを行いつつ、早期に離床を図ること、医師や看護師と歩行能力低下の危険性や疼痛の程度、活動状況などの情報を共有し、活動量を低下させないための取り組みが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究において、脊椎圧迫骨折患者の歩行能力低下に影響を及ぼす受傷前の因子は、歩行及び階段昇降能力の低下、複数の椎体に及ぶ脊椎圧迫骨折が示された。理学療法の際には、これらの要因を用いてスクリーニングを行い、歩行能力低下の危険性がある場合には、特に、多職種にて早期離床を促し、活動性を向上させる取り組みが重要である。
  • 山室 慎太郎, 田島 泰裕, 荻無里 亜希, 高橋 友明, 石垣 範雄, 畑 幸彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 腱板断裂手術例において,一般的に腱板機能の改善には腱板自体の回復と,腱板の土台となる肩甲骨周囲筋の機能改善の両方が重要であると言われている.しかしそれぞれの所見がどのように関係しているのかについては明らかになっていない. 今回われわれは,腱板付着部の回復の遅れの原因と腱板機能に及ぼす影響を明らかにする目的で調査したので報告する.【方法】 対象は腱板断裂術後1年を経過した77例77肩とした.性別は男性36肩・女性41肩,術側は右56肩・左21肩であった.手術時年齢は平均63.3歳(53~73歳)であった.なお,非手術側には臨床所見や画像所見で腱板断裂を疑わせる所見は全く認めなかった.症例を術後1年のMRI 斜位冠状断像を用いて棘上筋腱付着部の腱内輝度を村上の分類に従って評価し,type1(低輝度)51肩を低輝度群,type2・3(高輝度)26肩を高輝度群の2群に分けた. 2群間で1:年齢,2:性別,3:罹患側,4:断裂サイズ,5:術後1年での肩甲骨周囲筋の表面筋電図所見,6:術後1年での棘上筋テストついて比較検討を行った.なお,表面筋電図はNoraxon社製Myosystem1400Aを用いて,僧帽筋上部,中部,下部線維を被験筋として棘上筋テストにおける最大等尺性随意収縮3 秒間を3 回計測した.得られた筋電波形を整流平滑化し,筋電図積分値(以下iEMG)を求めた.iEMGを非手術側のiEMGにて正規化し,%iEMGを算出した. 統計学的検定は年齢,断裂サイズ,%iEMGはMann-Whitneyʼs U test を用いて行い,性別,罹患側,棘上筋テストはχ2検定を用いて行い,危険率0.05 未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の趣旨を説明し同意を得られた患者を対象とした.【結果】 手術時年齢,性別および罹患側において2群間で有意差を認めなかった.断裂サイズは高輝度群が低輝度群より有意に大きかった(P<0.05).僧帽筋上部線維の%iEMGは高輝度群が低輝度群より有意に過活動であった(P<0.05).僧帽筋中部線維,僧帽筋下部線維では有意な差を認めなかった.棘上筋テストにおいて低輝度群は有意に陰性が多く,高輝度群は有意に陽性が多かった(P<0.01).【考察】 今回の結果から高輝度群は低輝度群に比べて有意に断裂サイズが大きく,僧帽筋上部線維が過活動となり,棘上筋テストが陽性となることがわかった. 伊坪らは腱板断裂術後MRI画像の高輝度部分の低信号化は腱板自体の回復を示していると報告しており,小林らは腱板付着部の回復に影響する因子として断裂サイズの大きさが関係していると報告している.これらの報告から,断裂サイズが大きいほど,腱板付着部の回復が遅れる可能性があると考えられた. また,君塚らは腱板断裂術後1年のMRI画像での腱板付着部の低信号化しなかった群は低信号化した群より棘上筋筋腹の厚みの回復が有意に悪かったことを報告しており,棘上筋筋腹の厚みは棘上筋筋力に直接影響するので,今回の高輝度群の棘上筋テスト陽性が有意に多かったという結果を裏付けるものであると思われた.  さらに,腱板の筋力低下を代償するために外在筋である僧帽筋上部線維が過剰に収縮するという森原らの報告から,腱板付着部の回復の遅れによる腱板の筋力低下が僧帽筋上部線維の過活動を引き起こし,肩甲骨周囲筋の不均衡を招いていると考えた. 以上のことから,大きな腱板断裂例では腱板付着部の回復が遅れ,それが棘上筋筋腹の厚みの回復の遅れによる棘上筋筋力の低下を引き起こし,僧帽筋上部線維の過活動による肩甲骨周囲筋の不均衡を起こすと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 大きな腱板断裂例では,腱板機能の改善を図るために肩甲骨周囲筋のバランスの改善を含めた腱板トレーニングが必要であることが示唆された.
  • 山本 泰雄, 当麻 靖子, 米澤 遥, 小畠 昌規, 中野 和彦, 皆川 裕樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】肩腱板広範囲断裂などでは、肩周囲筋機能の著しい低下のため、重度の肩挙上制限を示す症例を経験する場合が少なくない。このような症例では運動時の疼痛や著しい腱板機能不全による骨頭求心位の低下のために、肩の機能回復を得るための運動の遂行に難渋し理学療法の遂行に苦慮することを多く経験する。我々は以前より肩腱板の機能回復が困難であると考えられた症例においては、三角筋機能の向上が重要と考えている。今回、機能的電気刺激を併用した三角筋の強化を行い、比較的良好な結果が得られた症例を経験したので、考察を加えて報告する。【方法】症例1:右肩広範囲腱板再断裂例の62歳男性。他院にて鏡視下腱板修復術が施行された。経過観察中に縫合腱板の再断裂が生じ、その後当院受診となった。受診時、再断裂腱板の縫合は困難と判断され保存療法を優先して行うこととなった。理学療法開始時、肩挙上時に、上腕骨頭の上方変位と随伴するインピンジによる激しい疼痛を訴えていた。臥位での肩他動屈曲可動域は100°程度あるものの、座位での自動挙上は引っ掛かり感と肩に力が入らないと訴え、40°程度までが可能な程度であった。症例2:左肩広範囲腱板再断裂例の61歳男性。左肩広範囲腱板断裂の診断で関節鏡視下腱板修復術が行われ経過観察を行っていたが、術後6か月で修復腱板の再断裂が確認され関節鏡視下腱板再修復術が行われた。再手術後、6週間の固定中にアンカー脱転と摘出を経験したが、段階的理学療法を行い、術後15週で肩自動挙上100°程度可能となるなど肩機能の回復が見られた。しかし経過観察中、再度インピンジ徴候と疼痛が出現、肩挙上は40°程度までに低下、再々断裂の徴候を呈した。腱板の修復は困難と判断され保存療法が継続となった。両例とも腱板機能の著しい低下のため、肩挙上時には骨頭求心位がとれず骨頭上方偏位と礫音、疼痛が著しく、本人の随意収縮による肩周囲筋の機能回復は困難と考えられた。そこで、肩周囲筋の筋収縮による骨頭の上方変位を予防するために、腕の重みが利用できる座位を基本肢位とした、機能的電気刺激装置(Compex:シグマックス社)による三角筋の等尺性運動による筋力強化を試みた。電気刺激は疼痛が生じない範囲で等尺性収縮が見られる程度、刺激強度は疼痛が生じない程度から開始、徐々に電気刺激を加えながらの自動介助挙上運動、自動運動に変化させていった。【説明と同意】2症例とも今回の報告に対する理解と同意を得ている。【経過及び結果】症例1:当初より可動域拡大運動と電気刺激による等尺性筋力増強運動を開始した。経過観察中に鏡視下デブリドマンが施行された。刺激開始後3カ月で肩挙上は90度程度まで回復した。対象2:機能的電気刺激開始後もインピンジ傾向が継続したため、再手術後18週で鏡下デブリドマンと残存アンカーの摘出が行われた。その後再び機能的電気刺激を開始、経過は良好に推移し肩挙上140°まで可能となった。【考察】肩腱板広範囲断裂症例では、腱板機能の著しい低下のため骨頭求心位が取れずインピンジ徴候による疼痛の発生、骨頭の上方変位による肩甲上腕リズムの破綻による肩挙上障害など腱板機能の重要性を強く認識させられる。一方で無症候性の腱板断裂の存在や保存療法に反応する広範囲断裂が少なくないことなど、肩の代償作用について深く考えさせられことが多い。また肩腱板広範囲断裂に対する手術治療においては損傷腱板の修復が難しい場合や症状の再発例なども少なくないなどの問題点もある。これらは肩腱板広範囲断裂例に対する保存療法を検討する必要性を示唆するものである。肩腱板広範囲断裂例での肩挙上動作の力原は三角筋に頼らざるをえない。しかし臨床場面においては、腱板機能が著しく失われた症例では三角筋の随意収縮で疼痛が容易に発生してしまう。疼痛発生に対し恐怖心が生じ、筋の収縮そのものを躊躇する症例が少なくないなど、三角筋の機能を向上させるための運動遂行に難渋することが少なくない。今回用いた機能的電気刺激による強化は三角筋の効率的な筋収縮が行える、筋力強化に際し疼痛の発生を軽減できる、心理的負担が少ないなどの利点があると考える。従って重度の腱板機能不全を示す症例の問題を解決する糸口となる特徴を持つものと考える。今後さらに、症例を重ねて検討を加えたい。【理学療法学研究としての意義】肩広範囲断裂例など挙上困難な症例に対する理学療法場面での治療選択の一つに成りえると思われる。
  • 鈴木 静香, 田中 暢一, 村田 雄二, 永井 智貴, 高 重治, 正木 信也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 我々は、第47回日本理学療法学術大会において、結帯動作の制限と考えられる筋に対してストレッチを施行し、結帯動作の即時効果の変化を捉えた。そして、結帯動作の制限因子は、烏口腕筋、棘下筋であることを報告した。その後、「烏口腕筋・棘下筋は介入回数が増えることでより効果が増大し結帯動作は改善するのではないか?」また、「小円筋は介入回数が増えることで効果が出現し結帯動作は改善するのではないか?」という疑問が出てきた。そこで今回は、前回介入した筋に対して、介入する回数を増やし結帯動作の変化を捉えることを目的に研究を行なった。【方法】 対象は左上肢に整形外科疾患の既往のない健常者10名(男性7名、女性3名、年齢22~36歳)とした。結帯動作の制限因子と考えられる烏口腕筋、棘下筋、小円筋を対象とし、これらの筋に対してストレッチを週2回を2週間、計4回実施した。結帯動作の評価方法は、前回同様、立位にて左上肢を体幹背面へと回し、第7頸椎棘突起から中指MP関節間の距離(以下C7-MP)を介入前後で測定し比較を行った。各筋に2分間ストレッチを実施する群(烏口腕筋群、棘下筋群、小円筋群)とストレッチを加えず2分間安静臥位とする群(未実施群)の計4群に分類し、複数回の介入による結帯動作の経時的変化を検討した。よって、1回目介入前の値を基準値とし、C7-MPの変化は、基準値に対し各介入後にどれだけ変化したかを変化率として統計処理を行った。また、それぞれの筋に対する介入効果が影響しないよう対象者には1週間以上の間隔を設けた。統計処理では、各群について、複数回の介入による結帯動作の変化を検討するために対応のある一元配置分散分析を用い、多重比較にはTukey法を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に対して事前に研究参加への趣旨を十分に説明し、同意を得た。【結果】 棘下筋群の変化率の平均は、1回目10.8%、2回目11.4%、3回目15.7%、4回目19.5%であった。一元配置分散分析の結果、棘下筋群のみに有意差を認めた(p=0.0003)。しかし、多重比較では各回数間の有意差は認めなかった。また、烏口腕筋群や小円筋群や未実施群は、有意差は認めなかった。【考察】 結果では棘下筋群のみに有意差を認め、前回の介入でも棘下筋に効果を認めた。高濱らは、結帯動作の制限因子は棘下筋であると述べている。以上より、棘下筋に介入することで結帯動作を改善することができるとわかった。しかし、多重比較において、有意差を認めなかったため、どの回数間で効果が得られているのかを追究することができず介入回数についての考察に至ることができなかった。その原因としては、症例数が少ないことが考えられる。今後は症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組み、介入回数についても考察したいと考える。烏口腕筋では、前回、介入において即時効果を認めていたが、複数回の介入による結帯動作の変化は認めなかった。烏口腕筋は肩の屈筋であり、上腕骨の内面に付いているために伸展および内旋で緊張するという報告もあり、結帯動作における制限因子の可能性は高いと考えられる。しかし、今回有意差を認めなかった原因は、症例数が少ないことや、他にストレッチの強さや場所など方法になんらかの問題があったとも考えられる。今後、方法を確立した上で、症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組んでいきたいと考える。小円筋では、小円筋は介入回数が増えることで効果は出現し結帯動作は改善するのではないかと考えていた。しかし、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めなかった。高濱らは、結帯動作は肩の外転・伸展・内旋の複合運動であり、小円筋は内転位であるために下垂位では緩んでいると述べている。以上より、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めず、結帯動作における改善には小円筋は関係がないと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果より棘下筋に複数回介入することで、結帯動作の変化率はより増大することがわかった。臨床において結帯動作が困難な症例に対しての介入の一つとして有効である可能性がある。具体的な介入回数について追究できなかったため、今後の課題として取り組んでいきたい。
  • 櫻井 博紀, 井上 雅之, 森本 温子, 大道 裕介, 井上 真輔, 池本 竜則, 新井 健一, 西原 真理, 佐藤 純, 牛田 享宏
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 運動器慢性痛患者では痛みとともに筋や関節の機能異常を生じていることがほとんどである。その原因としては、初発の痛みによる不活動に加えて防御反応として姿勢の偏移や運動範囲の制限などが引き起こされ、2次性の廃用に伴う筋力低下や筋痛が発症する。このような2次性の痛みは、元来の痛みの領域を超えて広がるため慢性痛の維持・難治化につながる。そのため、運動機能を痛みの尺度と並行して評価することが、運動器慢性痛の診断・治療においては重要となってくる。そこで本研究では、運動器慢性痛患者の多くを占める慢性腰痛について、姿勢・運動障害を評価し、痛みとの関連を捉える試みを行った。【方法】 愛知医科大学学際的痛みセンター外来を受診する慢性腰痛を有する患者5名において、姿勢・動作パターンを計測した。被験者のうち3名は左側に片側性の腰痛を有しており、動作時の痛みとして体幹回旋による痛みを訴える。また、他の2名は両側性の腰痛を有しており、動作時の痛みとして体幹屈伸による痛みを訴える。姿勢・動作パターンの測定肢位は、立位にて安静姿勢時(30秒)、および、立位での体幹屈伸・側屈・回旋時の各動作を自動運動での最大可動域まで行った(安静5秒の後、動作開始し最終域で5秒停止)。測定項目として、ゴニオメーターにて骨盤・下部腰椎の回旋方向および屈伸・側屈方向の可動域を計測し、また、肩峰・第7頸椎棘突起にマーカーを付け、カメラにて体幹全体の可動域を計測した。また、重心動揺計にて安静時および各動作最終域での重心バランスを計測し、筋電図にて脊柱起立筋、腹斜筋の筋活動を計測した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の趣意を十分に説明し、また、評価内容に関する個人情報は数量的統計的に扱い、個人を特定しない形での研究及び発表に用いる旨を説明し同意を得た。また、本研究は愛知医科大学倫理委員会および浜松大学倫理委員会の承認のもとに行った。【結果】 安静時での骨盤と体幹パターンの関係として、体幹は骨盤に対して正中位に戻すパターンをとり、体幹全体の可動範囲では大きな差がみられなかった。骨盤の安静時および動作時のパターンとしては、正中からの偏移がみられ、それぞれ異なるパターンを示した。片側腰痛を有し体幹回旋で痛みを生じる3名では、安静時の骨盤パターンとして、骨盤回旋方向への偏移が大きく、痛みが生じる方向に骨盤回旋位となっており、かつ、重心バランスもその方向に偏移していた。また、動作時での骨盤可動範囲は小さく、安静時の骨盤回旋位方向の範囲のみであった。一方、両側腰痛を有し体幹回旋で痛みを生じない2名では、安静時の骨盤パターンとして骨盤側屈方向への偏移が大きく、動作時での骨盤可動範囲は回旋で痛みを生じるものと比べて大きく、側屈・回旋とも左右両方向の範囲での動きがみられた。【考察】 体幹は骨盤に対して正中位に戻すパターンをとっており、体幹による対称性への補完が入ることで、体幹のみで特徴を捉えることが難しくなっていると考えられ、体幹全体の動きだけでなく、骨盤の動きを考慮する必要があると考えられた。骨盤の動きに注目してみると、動作痛(回旋痛)を有するものにおいては、安静時において痛みが生じる方向に骨盤回旋位で荷重側となっており、動作時において骨盤の可動範囲は小さく、安静時骨盤回旋方向の範囲のみでの動きであったことから、痛みが生じる方向での骨盤回旋位固定となっており、その方向で不動化が生じている可能性が考えられる。これらより骨盤の偏移に注目することで、姿勢・動作パターンの特徴を捉えることができる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 運動器障害をともなう慢性痛の有病率は世界的に高く、医療費や生産性減少による社会的損失が大きな問題となっている。その中で画像診断などの一般的医学検査では原因が見当たらない非特異的かつ慢性的な痛み患者は多い。このような患者に対して、姿勢・運動パターンの評価を確立していくことで、痛み部位への筋骨格系の関与を探り、不活動・防御収縮による運動障害・問題筋の把握をより詳細にしていくことで、1次的、2次的に生じている痛みへの効果的なリハビリテーションにつながると考えられる。
  • 上田 泰久, 福井 勉, 宮本 秀臣, 山本 澄子
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 臨床において,頸椎疾患の症例では頸部周囲の軟部組織や身体アライメントは左右で非対称なことが多い。さらに,頸椎の回旋および側屈の可動域や組み合わせ運動を評価すると左右で非対称な動きが観察できる。我々は先行研究において,頸椎の回旋および側屈には上半身質量中心位置(Th7-9)の変位,左右肩峰の高低差および左右僧帽筋の硬度差が影響を及ぼしていることを報告してきた。特に上半身質量中心位置(Th7-9)の変位や左右肩峰の高低差は健常者でも多く認められ,回旋および側屈の可動域や組み合わせ運動は左右で異なると考えられる。本研究の目的は,健常者における頸椎の回旋および側屈の可動域や組み合わせ運動を左右で比較して検討することである。【方法】 対象は健常な成人男性20名(年齢20.5±2.6歳,平均身長171.3±4.8cm,体重64.8±5.8kg)とした。計測肢位は40cm台上で両上肢を下垂させた座位姿勢とした。対象者の身体特性を把握するために,軟部組織の硬度および身体アライメントを計測した。軟部組織の硬度の計測には筋硬度計PEK-1(井元製作所製)を用いて,左右の僧帽筋上部線維(以下,僧帽筋)および斜角筋群,胸鎖乳突筋を計測した。計測部位は,僧帽筋は先行研究に準じてC7と肩峰の中点,斜角筋群は後頸三角,胸鎖乳突筋は乳様突起と鎖骨の胸骨端の中点にセンサーを当てた。身体アライメントの計測には超音波方式3次元動作解析システムCMS-20S(Zebris社製)を用いて,専用ポインターで左右肩峰,頸切痕,剣状突起の計4カ所をマーキングして三次元の位置データを収集し,左右肩峰の高さや胸骨の傾斜方向を確認した。頸部の可動域の計測には同様の機器を用いて,専用のマーカーセットを装着して左右回旋と側屈の最大可動域を計測した。さらに,最大回旋に伴う組み合わせ運動(屈曲-伸展,側屈)と最大側屈に伴う組み合わせ運動(屈曲-伸展,回旋)を算出して比較した。なお,回旋では頭位を水平にした運動,側屈では前方を注視した運動になるよう課題を統一した。計測は各3回ずつ実施して平均を代表値として用いた。統計処理には,軟部組織の硬度および回旋および側屈可動域と組み合わせ運動の左右を比較するために対応のあるt検定を用いた。統計解析には,PASW Statistics18を用いて有意水準は全て5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の内容を十分に説明して,本人に承諾を得た後に計測を実施した。なお,本研究は本学倫理審査の承認を得たのちに実施した。【結果】 軟部組織の筋硬度は,僧帽筋および斜角筋群や胸鎖乳突筋には左右で有意な差を認めなかった。身体アライメントは,右肩峰が低いものが14名(70%),左肩峰が低いものが6名(30%)であった。胸骨が右傾斜しているものが14名(70%),左傾斜しているものが6名(30%)であった。回旋可動域は,右回旋57.5±7.1°,左回旋58.9±8.2°であった。側屈可動域は,右側屈32.2±4.8°,左側屈32.0±5.7°であり,回旋および側屈可動域ともに左右で有意な差を認めなかった。組み合わせ運動は,右回旋には屈曲-伸展-13.8±6.6°と右側屈2.0±10.1°,左回旋には屈曲-伸展7.2±6.6°と左側屈2.2±11.1°を伴い,屈曲-伸展で有意差を認めた(p<0.01)。右側屈には屈曲-伸展-2.0±6.2°と右回旋7.2±7.1°,左側屈には屈曲-伸展-5.2±7.6°と左回旋10.5±8.6°を伴い,屈曲-伸展と側屈で有意差を認めた(p<0.05)。【考察】 健常者では頸部周囲の軟部組織(僧帽筋,斜角筋群,胸鎖乳突筋)には左右差がなかったが,身体アライメント(肩峰高低差や胸骨の傾斜)は左右で異なる傾向であった。先行研究においても肩峰や骨盤帯は左右非対称であり(Dieck1985,長久保1995),骨盤帯の非対称性は腰椎の運動の左右差と関連があるとも報告されている(Al-Eisa2006)。本研究においても,健常者では左右肩峰の高さに違いがあり,胸骨もどちらか一方へ傾斜している傾向で,これらが頸椎の回旋および側屈の組み合わせ運動に影響を及ぼしていると考えられる。特に,回旋および側屈の組み合わせ運動では屈曲-伸展が左右で異なり,頸椎の運動を観察する際は矢状面運動にも着目した評価が重要であることが示唆された。今後,身体アライメントとの関係を詳細に検証して頸椎疾患の症例と比較することが課題である。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,健常者における頸椎の回旋および側屈に伴う組み合わせ運動の解析を行った。健常者では頸椎の回旋や側屈可動域に左右差はないが,組み合わせ運動には左右差があることがわかった。今後,健常者と頸部痛の症例で可動域や組み合わせ運動を比較して検証していく。本研究は,頸部疾患における回旋や側屈の運動を評価する際の基礎的情報となり,理学療法学研究として意義があるものと考える。
  • 岩佐 太一, 成瀬 由季子, 和田 真明, 小林 啓美, 尾倉 朝美, 山瀬 薫, 北島 宏和, 川勝 邦浩
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】日本整形外科学会がまとめた大腿骨頸部・転子部骨折のガイドラインには加速的リハビリテーションは有効であると推奨されており多くの急性期病院でクリニカルパスが導入されている.しかし,集中的リハビリテーションについては研究そのものが少なく,その有効性についても賛否両論である.大半の回復期病院では集中的リハビリテーションが行われているが,急性期病院では1日に1単位しか施行できていない所がほとんどである.本研究の目的は大腿骨頸部・転子部骨折患者に対して,急性期における理学療法の一日の施行単位数増加が身体機能や動作能力の改善に影響するかを明らかにし,集中的リハビリテーションの有効性と問題点について検討することである.【方法】対象は2011年4月~2012年6月の間に当院に入院し,大腿骨頸部骨折・転子部骨折に対し人工骨頭置換術および骨接合術を施行された急性期の患者である.このうち「受傷前から歩行困難な者,多発骨折の者,術後に合併症を発症し安静を余儀なくされた者,従命困難な者」は除外した.上記の対象期間を前半と後半に分け,前半に入院してきた患者を従来通りの1日1単位施行群(29名)とし,後半を1日2単位施行群(23名)とした.施行する理学療法の内容については従来通りのものとし,2単位施行群については午前と午後の2回行った.また,医師の了承を得た上で両群ともに可能であればクリニカルパスよりも早く進めて良いものとした.測定は退院・転院する前日に行うこととして,この時にT字杖歩行以上の歩行を獲得できた者のみを測定した.そして歩行を獲得できた1単位施行群をコントロール群とし,同様に2単位施行群を介入群とした.測定項目は5分間の歩行距離(以下,5分間歩行テスト)・10m歩行テスト・立ち上がりテスト・Timed Up & Go Test(以下,TUG)でありその結果を2群間で比較した.また歩行器歩行とT字杖歩行の病棟での自立時期についても手術からの経過日数を比較した.統計学的解析はMann-Whitney’s U testを用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】患者には十分な説明を行い,個人情報保護の徹底と不参加による不利益を被らないことを伝えた上で書面で同意を得た.なお,本研究を実施するにあたり当院の倫理委員会から承認を得ている.(承認番号2011001).【結果】1単位施行群の29名(82.3±8.7歳)中歩行を獲得できたのは19名(コントロール群,79.9±8.7歳)であり,これに対して2単位施行群の23名(76.3±10.1歳)のうち歩行を獲得できたのは21名(介入群,75.0±9.6歳)であった.この2群間の各測定項目について比較すると,5分間歩行テスト・10m歩行テスト・立ち上がりテストでは介入群の方が有意に良い結果であった(p<0.05).TUGでは有意差は見られなかったが介入群の方がより良い傾向にあることが確認された(p=0.06).さらに各歩行の病棟自立時期は介入群の方が有意に早かった(p<0.01).平均をみると介入群が歩行器歩行は5.2日,T字杖歩行も5.2日早く病棟で自立していた.【考察】対象群であった1単位施行群(29名)と2単位施行群(23名)を比較すると1単位施行群の方が歩行獲得に至らなかった者が多かった.その原因は1単位施行群の年齢が有意に高く,さらに歩行非獲得者を個別に調べてみると受傷前から活動量が低下していたものがほとんどであった.そのため歩行獲得率に差が出たことが2単位施行による影響とは断言できない.しかし,コントロール群と介入群は男女比・年齢・術式に有意な差はなく,また測定を実施した日(術後からの経過日数)にも有意な差が認められなかったことからほぼ同じ属性の群を同じ条件で測定できたと言える.その上で2群を比較したところ急性期において理学療法を集中的に施行することが身体機能・能力の改善に有効であることが証明された.その要因として,各歩行の自立が早まったことで病棟での活動量が増え廃用の予防や運動学習の促進につながったのではないかと考える.参加したセラピストにアンケート調査を行ったところ,2単位施行するメリットとして「歩行のレベルを上げるタイミングを1単位施行群では翌日にしていたことが,2単位施行群ではその日の午後にすることができた」という回答が得られている.また「充分な筋力トレーニングができる」など,セラピストに余裕ができることでより質の高い理学療法を提供できたことが今回の結果に影響したのではないかと考える.しかし、デメリットとして「2単位を続けるには人手不足」といった問題点が挙げられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,急性期の大腿骨頸部・転子部骨折術後に対しての集中的リハビリテーションの有効性が認められたと考える.本研究が急性期における理学療法の施行単位数を増やす体制作りを検討するきっかけになればと考える.
  • -感覚神経に注目して-
    木勢 峰之, 赤池 由実子, 山﨑 敦, 古田 常人
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-23
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 運動機能向上には感覚機能も重要であり、メカノレセプターや触圧覚など、感覚機能への治療の重要性が高いと言われている。しかし、整形外科領域で感覚神経を評価した研究は数少なく、術後1週間以内における治療効果を検討したものは渉猟しえた範囲では見当たらない。そこで本研究は、下肢整形外科疾患術後5日以内の患者を対象とし、徒手圧迫が感覚神経や関節可動域に及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】 対象は当院整形外科にて下腿、足部の観血的整復固定術を行い、研究の内容を理解できる術後5日以内の患者7名(男性5名、女性2名、年齢48.4±14.7歳、術後3.4±1.0日)であった。評価項目は、①足関節底背屈可動域(ROM)、②周径、③術側足関節自動底背屈時の主観的疼痛(VAS)、④電流知覚閾値(CPT)とした。ROMは第5中足骨頭と骨底部、腓骨頭と外果にマーカーを貼付し、膝屈曲位にて外側から底背屈自動運動をデジタルカメラで撮影した。それをパソコンに取り込みDARTFISH(DARTFISH社製)を利用し、角度を1°単位で計測した。周径は足軸に対して直角になるように舟状骨中央を通るラインでメジャーを利用して計測した。VASは術側足関節自動底背屈運動時の痛みが「全くなし」を0、「受傷時や術後の最大の痛み」を10とした。CPTはNeurometer CPT/C NS3000(PRIMETECH社製)を使用し、モードはFULLRY AUTOMATICとし、周波数は2,000Hz、250Hz、5Hzで計測した。電極は浅腓骨神経領域の第3趾背側に貼付し、数値としての結果が出た時点で次の項目へと移行した。上記評価項目は術側に対して行い、治療前と治療直後に計測した。治療は、マーカーは貼付したまま下腿と足部を対象者が気持ち良いと思う程度の徒手圧迫を遠位から近位に全体的に加ええ、時間は15分とした。評価と治療は同一検者にて個室で行った。統計処理にはPASW Statistics18を用い、各評価項目の治療前後の結果についてpaired t-testを行い、危険率を5%未満とした。また、各評価項目についてPeasonの相関係数を用いて項目間の相関係数を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に従い、対象者には本研究の趣旨やリスク、撤回の自由などを口頭と文書にて十分に説明し、同意書に署名を得た。また、本研究は当院倫理委員会の承認を得てから行った。【結果】 治療前のCPT値の平均は、健常者の平均値を大きく超えていた。以下に統計結果を評価項目:治療前±標準偏差→治療後±標準偏差と表す。背屈:-18.7±15.4°→-12.6±14.9°、周径:26.7±1.5cm→26.2±1.4cm で有意差が認められた(p<0.001)。また、VAS:20±14mm→12±7mm、底屈:52.4±4.9°→56.7±5.1°、5HzCPT値:236.4±199.3→124.4±130.4でも有意差が認められた(p<0.05)。さらに、VASと250HzCPT値、VASと5HzCPT値、250HzCPT値と5Hz CPT値にて強い正の相関係数が認められた。【考察】 CPTの2,000HzはAβ線維、250HzはAδ線維、5HzはC線維の評価である。治療前のCPT値が健常者平均値を大きく超えていたことで、手術を施行した5日以内は表在・深部感覚が重度鈍麻であったということが伺える。そして、今回の徒手圧迫にてC線維のCPT値は有意に低値を示した。さらにVASも有意に低下し、周径やROMも有意に改善が見られた。これらのことから、徒手圧迫により静脈還流改善が図れ、浮腫軽減につながり侵害刺激が減少したこと、リラクセーション効果が得られたことが考えられる。また、痛覚神経線維の鈍麻とVAS、Aδ線維とC線維に各々強い正の相関が得られた。つまり、手術後の患者が痛みを訴える場合は、痛覚神経は鈍麻であるにも関わらず、主観的な痛みは強いということを示している。これらのことから、感覚鈍麻の閾値を超えた強い痛み刺激が与えられているということが考えられる。今後はデータを蓄積していくことで、術後疼痛のメカニズムやそれに対する治療効果を明確にすることの一助となるものと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は術後5日以内の感覚神経を客観的数値で表したことで、患部の状態を把握することができた。さらに、徒手圧迫という臨床上簡便な方法が、術後急性期で痛みが強く運動困難な患者に対する治療の一つとして、有効であることが示唆された。
  • 菅原 亮太, 小野寺 智亮, 梅田 健太郎, 荒木 浩二郎, 瀬戸川 美香, 村田 聡, 石橋 晃仁
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-23
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 足関節果部骨折は比較的頻度の高い外傷疾患である.足関節果部骨折の治療成績は整形外科医により報告されているが理学療法士による報告はなく,また,それらの内容は客観的なアウトカム研究でしかなされていない.近年,医療のアウトカム研究において,客観的指標のみではなく患者自身の主観的指標が積極的に取り入れられるようになってきている.そこで本研究の目的は,当院における足関節果部骨折骨接合術後患者の治療成績を調査すること,および,客観的な機能アウトカムと患者の主観的満足度との関連を検討することである.【方法】 対象は2012年1月から2012年8月までに当院で骨接合術と術後理学療法を行い理学療法終了時まで経過観察可能であった足関節果部骨折(開放骨折,脱臼骨折を含む)33例とした.内訳は男性20例,女性13例,受傷時平均年齢は48.1±16.8歳,受傷前ADLは全例独歩,骨折型はLange-Hansen分類SER型25例,PER型3例,SA型1例,PA型4例であった.理学療法終了時最終評価は術後平均135.7±59.7日で行われた.最終評価では足関節背屈ROM,底屈ROM,機能アウトカム,主観的満足度を調査した.機能アウトカムには,日本足の外科学会足部・足関節疾患治療成績判定基準の足関節・後足部判定基準(以下,JSSF)を使用した.主観的満足度はVisual Analogue Scale(以下,VAS)で0mmを「現在の足関節機能にまったく満足していない」,100mmを「現在の足関節機能にかなり満足している」として評価した.客観的指標であるJSSFの小項目(疼痛,機能,アライメント)の点数と主観的満足度(VAS)の関係についてSpearmanの順位相関係数を求めた.すべての検定における有意水準は5%未満とした.統計解析にはSPSSver12.0を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 本調査はヘルシンキ宣言に基づき,個人情報保護に十分注意し,患者の了承を得て施行した.【結果】 最終評価時の平均ROMは背屈23.6±5.3°,底屈54.1±5.2°であった.JSSFは平均96.5±4.9/100点であった.患者満足度はVASで平均87.5±10.9mmであった.主観的満足度とJSSFの小項目(疼痛,機能,アライメント)との相関関係について,JSSF疼痛と主観的満足度との間に有意な相関は認められず,JSSF機能と主観的満足度の間には有意な相関が認められた(r=0.567).なお,JSSFアライメントは全例が満点であったため相関係数は求めなかった.【考察】 足関節果部骨折は,軟部組織損傷,軟骨損傷などを伴うと治療に難渋する場合もあるが,一般的には安定した治療成績が報告されている.本調査でも最終評価時のROM,JSSFは良好な結果を認めた.患者の主観的満足度も比較的高い結果を認め,治療成績は良好であったと捉えられる.一般的に主観的指標の評価としてはSF-36などが使われることが多いが,本調査では臨床上簡便に計測できるVASで主観的満足度を評価した.過去の報告で主観的健康感や主観的幸福度をVASで調査した報告は散見されており,主観的満足度においてもVASの使用は有用であると考える.主観的満足度とJSSF機能との間には正の相関を認めた.これは,機能的な改善がみられると患者満足度にも改善がみられるということを示し,我々が普段行っている理学療法は患者満足度向上において有用であると考えられる.JSSF機能をさらに細かく見ると,活動制限や路面状況による歩行困難さで減点が多く認められた.これについて詳細な検討は行っていないが,動作上の制限があると満足度が低くなる可能性が示唆された.主観的満足度とJSSF疼痛との間に相関は認めなかった.これについては,33例中25例が満点であり,データのばらつきが少なかったために相関を認めなかったと考える.傾向としては,疼痛が残存している症例は満足度も低下する傾向にあった.痛みの強い者は主観的健康感も有意に低下するという報告もあり,痛みと主観的指標との間には密接な関係があると思われる.これらを明らかにするためには症例数の増加や疼痛評価法の再検討が必要である.【理学療法学研究としての意義】 患者の機能面と主観的満足度において,機能面の向上は患者満足度の向上につながる可能性が示唆された.整形外科医は機能アウトカムの評価を重要視するが,主観的な評価を取り入れることでより臨床的な治療成績を出すことが可能である.足関節果部骨折は骨折型により軟部組織損傷の程度が異なり手術や後療法の進め方も変わるため,今後臨床成績を調査するにあたり,骨折型別の成績や術後の継時的な変化について検討していく必要がある.
  • 吉岡 慶, 岩田 泰典
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-23
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脛骨、腓骨、距骨から構成される距腿関節は足部と下腿の間で運動を調整している。距腿関節底背屈運動に伴い腓骨の挙上、下制、内旋、外旋などの運動が起こる。脛腓骨の位置関係は距骨の可動性や安定性の変化を引き起こし、他の足根骨間の適合性を変化させる。また、下腿内外旋の運動に関与し、歩行などの荷重を伴う運動時に膝関節や股関節への運動連鎖を引き起こす。そのため、脛腓骨の位置関係を把握することは理学療法の展開を行う上で重要な手がかりとなる。臨床場面において、脛腓骨の位置関係を把握する方法として、足部を床面に接触させない非荷重位の端座位姿勢で、内果と外果の位置を触知し、感覚的に左右の差異を比較する方法を行っている。下腿のアライメントを評価する方法として、下腿捻転角の臨床的計測方法の報告は散見される。水平面における捻転角と前額面における内果と外果を結ぶ線の傾斜角(以下,内外果傾斜角)を関連付ければ、空間における脛腓骨の位置関係を把握するための一助に成り得ると考える。脛腓骨の位置関係の把握や距骨下関節などの他関節との関連を明らかにするための基礎研究として、非荷重位における内外果傾斜角の計測の試行と信頼性の検討を本研究の目的とした。【方法】下肢に疾患を有さない健常成人男性12名(平均年齢26.9±3.6歳)の24脚を対象とした。測定肢位は、昇降式ベッドに端座位をとり、下腿後面がベッドに触れない様に注意し、ベッド面の高さを上げ、足部が床面に触れない肢位とした。脛骨膝関節面の傾斜(以下,脛骨傾斜角)の左右差を確認するため、脛骨膝関節面辺縁を膝蓋腱の内側と外側で触知し、その2点を結んだ線を勾配角度測定器にて計測した。また、内果、外果それぞれの最突出部の2点を結んだ内外果傾斜角を同様に勾配角度測定器にて計測した。測定回数は左右それぞれ3回計測を行った。脛骨傾斜角と内外果傾斜角の各計測値の検者内信頼性を検討するためにICCを算出した。また脛骨傾斜角と内外果傾斜角のそれぞれで左と右の平均値の差の分析を対応のあるt検定を用いて行った。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対して研究の主旨と内容、得られたデータは研究以外で使用しないこと、および個人情報漏洩に注意することについて十分な説明を行い、同意を得て研究を行った。【結果】脛骨傾斜角、内外果傾斜角の各計測におけるICC(1,1)は0.939、0.891であった。脛骨傾斜角の平均値(±標準偏差)は右1.92(±2.40)度、左1.89(±2.28)度となり左右における有意差は認められなかった(p>0.05)。内外果傾斜角の平均値(±標準偏差)は右17.03(±2.11)度、左20.36(±3.68)度となり左右における有意差が認められた(p<0.05)。【考察】内果、外果をランドマークとしてそれぞれの最突出部を結んだ線の傾斜を計測する方法の検者内信頼性を検討した結果、高い級内相関係数が得られた。実際にレントゲン撮影を行った被験者の内外果傾斜角の計測を行うことができれば、妥当性が高まると考える。また、内外果傾斜角の左と右との2標本における平均値の差に有意差が認められた。これは、脛骨傾斜角の左右差に有意差が認められなかったことから、脛腓骨の骨形状や脛腓骨の位置関係に左右差が存在していること示唆すると考える。標本数を増やし、利き足なども考慮し検討することが今後必要である。【理学療法学研究としての意義】今回、信頼性を検討した内外果傾斜角と脛骨捻転角などの他の指標を関連付けることにより、空間における脛骨と腓骨の位置関係を把握するための指標として、また隣接する膝関節や距骨下関節との関連を調査するための指標として応用できると考える。
  • 山根 寛司, 中村 朋朗, 森田 枝里香, 福原 千史, 山本 圭彦, 浦辺 幸夫
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-23
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性膝関節症(以下、膝OA)のADLやQOLの評価として日本版膝関節症機能評価尺度(JKOM)が用いられており、身体機能との関連性について報告されているが、下肢筋力においては主に膝関節伸展筋力に注目したものが多い。しかし、運動療法で股関節周囲筋の重要性は示されているにもかかわらず、JKOMと股関節周囲筋の筋力との関係を検討しているものは少ない。今回は、JKOMを用いて股関節周囲筋の筋力がADLやQOLに関係しているかについて確認することとした。【方法】対象は膝OAと診断され当院に週2回以上外来通院中の65歳以上の女性高齢者22名とした。平均年齢(±SD)は81.0±5.8歳、身長は146.5±5.4cm、体重は53.0±8.3kg、BMIは24.7±3.5であった。対象側はKellgren-Lawrence分類で重症側を選択した。左右同一の重症度の場合には、主たる症状を認めている側を対象側とした。測定項目は、JKOM、膝関節伸展筋力、股関節屈曲筋力、股関節伸展筋力、股関節外転筋力、股関節内転筋力とした。JKOMは質問紙により総合点数と下位評価尺度(visual analog scale、膝の痛みとこわばり、日常生活の状態、ふだんの活動、健康状態について)の平均値を使用した。Power Track 2(J Tech Medical Co.,USA)を用いて等尺性最大筋力を3回測定し、平均値を体重で除した値とした。筋力の測定肢位は膝関節伸展筋力は坐位にて膝関節屈曲90°位、股関節屈曲および伸展筋力はMMTの肢位に準じた。股関節外転・内転筋力は代償を防ぐため背臥位の肢位にて測定した。統計学的分析はJKOMの総合点数ならびに下位評価尺度に対する各筋力との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象には本研究の趣旨、および測定時のリスクがないことを説明したうえで同意を得た。本研究は福原リハビリテーション整形外科・内科医院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1202)。【結果】重症度の分布はgrade1が2名、grade2が12名、grade3が7名、grade4が1名だった。JKOMの総合点数は65.8±22.1点であった。膝関節伸展筋力は2.99±0.79N/kg、股関節屈曲筋力は2.37±0.59 N/kg、股関節伸展筋力は2.06±0.53N/kg、股関節外転筋力は2.33±0.85N/kg、股関節内転筋力は1.94±0.84 N/kgであった。JKOMの総合点数と各筋力の相関は股関節屈曲筋力のみ有意な相関を認め(r=-0.83、p<0.01)、その他の筋力には有意な相関は認められなかった。下位評価尺度と各筋力の相関は、「visual analog scale」ではすべての筋力と有意な相関は認められなかった。「膝の痛みやこわばり」では股関節屈曲筋力に有意な相関を認めた(r=-0.87、p<0.01)。「日常生活の状態」では股関節屈曲筋力に有意な相関を認めた(r=-0.81、p<0.01)。「ふだんの活動など」では股関節内転筋力に有意な相関を認めた(r=-0.67、p<0.05)。「健康状態について」では股関節屈曲筋力に有意な相関を認めた(r=-0.66、p<0.05)。【考察】今回の結果よりJKOMの総合点数および下位評価尺度と下肢筋力で有意な相関を認めた項目は膝関節伸展筋力より股関節屈曲筋力や内転筋力であり、膝OAのADLやQOLにおいては股関節周囲の筋力が重要となることが示された。これまでの研究では膝関節伸展筋力の重要性が述べられているが、研究では有意な相関が得られなかった。秋田ら(2007)は膝OAに対する運動療法介入でJKOMと下肢身体機能の関係を報告し、grade1のような変形が軽度の場合は下肢筋力が関わり、変形が重度化すると筋力より膝関節などの関節可動域が関連すると述べている。今回、grade2~4の対象が全体の91%を占めており比較的変形が重度な対象が多く、これらが膝関節伸展筋力との相関が低くなったことの背景にあると考える。膝OAの歩行の特徴として、関節変形が重度化すると歩行中の体幹の前傾角度や側方動揺が大きくなることがあげられ、股関節との関連が強くなることが考えられる。そのため、変形が重度化してくると、ADLやQOLにおいても膝関節周囲に加え股関節周囲の筋力が重要になる可能性があり、今後は変形の進行程度による分析も必要となると考えられる。【理学療法研究としての意義】JKOMを用いてのADLやQOL評価をしていくうえで膝関節伸展筋力の他に股関節周囲の筋力の状態を把握していく必要性があることが示された。
  • 国分 貴徳, 金村 尚彦, 藤野 努, 前島 洋, 森田 定雄, 高柳 清美
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-23
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々はこれまで,ラットにおいて膝前十字靭帯(以下ACL)完全損傷後に,関節の異常運動を制動することでACL完全損傷でも治癒しうることを報告し,ACL損傷後の靱帯治癒能には,損傷後における膝関節キネマティクスが関与していることを明らかにした.しかし,8週経過時点における治癒靱帯の力学的強度は正常靱帯の5割程であった.膝関節内側側副靱帯(以下MCL)の保存的治癒関するAmielら研究においては,損傷後急性期から一定期間までのCollagen type1および type3の動態が強度の回復に関与していることが報告されている.我々の先行研究においても,回復段階におけるCollagen動態が力学試験の結果に影響している可能性が免疫組織学染色により示唆されているが,詳細は不明である.そこで本研究においては,これまでに確立したACL損傷のラット保存治癒モデルを対象として,損傷後2,4,6週間経過時点においてACLを採取し,治癒経過におけるCollagen type1およびtype3のmRNA発現レベルを,real-time RT-PCR法により解析した.これらの結果から,本モデルにおける損傷後ACLの治癒に関する保護的な関節運動の効果を明らかにし,治癒を期待する運動療法を確立するための基礎となるデータを得ることが本研究の目的である.【方法】Wistar系の雄性Rat12週齢36匹をランダムに各12匹ずつ3群に振り分け,それらをそれぞれ2,4,6週群とし,更にControl群(以下Con群),Sham群,Experiment群(以下Ex群)に4匹ずつ振り分けた.ラットの右後肢を対象とし,Ex群は外科的にACLを完全に切断後,脛骨に骨孔を作成し,同部と大腿遠位部後面にナイロン糸を通してループを形成し,脛骨の前方引き出しを制動した. Sham群は,ACLは切断せず脛骨への骨孔の作成や,関節包の切開など実験群と同様の処置を行った.Con群は通常飼育とした.介入後は,ゲージ内で自由飼育し,2,4,6週経過時点で屠殺しACLを採取した.採取したACLから専用のKit(QIAGEN社)を使用してRNAを抽出した.抽出したRNAをRiboGreen RNA Assay Kitを使用してNanoDropにて定量し, High Capacity RNA to cDNA Kit(ABI社製)を使用してcDNAを合成した.合成したcDNAをもとに,Collagen type1・type3のプライマー(ABI社TaqMan Gene Expression Assay)を使用しmRNAの発現量を解析した.発現量の解析には,ΔΔCt法を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学動物実験倫理委員会の承認を受け実施した.【結果】Con群の発現量を1として各群の発現量を比較した.Collagen type1の mRNA発現量は,4週経過時においてEx群で約2倍の発現量を認めた.またCollagen type3の mRNA発現量は,Ex群で2,4,6週経過の各期において発現量の増加を認めた.各群におけるCollagen type1/type3の発現量に関しては,他の2群に比べEx群においてCollagen type3の発現量が高いことが示された.【考察】我々は先行研究において,免疫組織化学染色の結果から保存的に治癒したACL実質部でCollagen type3が増加している可能性について報告したが,本研究結果はそれをmRNAレベルで支持する結果であった.この結果は,これまで報告されている損傷後の断端ACLにおけるmRNA発現に関するNegativeなデータと異なるものであり,また,MCLの保存的治癒経過におけるCollagen各typeの含有割合を報告した先行研究の結果と類似したデータを示している.以上より,受傷後早期から異常運動を制動した関節運動を行うことが,ACLの治癒においてその強度に関連するCollagen type1およびtype3の発現を促進する可能性があることが本研究により明らかとなった.今回はmRNAレベルでの発現量の分析であったが,今後タンパクレベルでの発現量の解析を行い,ACLの治癒における関節運動の効果について更なる解明を進めていく.【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,これまで治癒しないとされてきたACL完全損傷における断端靱帯のMetabolismに関して,早期からの保護的な関節運動がPositiveな変化をもたらしうることを示した研究であり,早期からの適切な理学療法介入がACLの治癒に寄与しうることを明らかにしている.
  • 美崎 定也, 古谷 英孝, 廣幡 健二, 木原 由希恵, 田中 友也, 坂本 雅光, 三井 博正, 佐和田 桂一, 西野 正洋, 西 法正, ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年,患者立脚型アウトカム(Patient-reported outcome; PRO)を用いたQuality of Life(QOL)の評価が盛んに行われている.この尺度は,患者の主観的評価に基づいているため,医療者にとって,介入効果の判定において重要な情報を提供する.しかし,QOL に対する患者自身の価値観は,治療等の介入前後で変化し,その変化は主観的評価の結果に影響を与えることが指摘されている.この様な時間の経過に伴う価値観の変化は,レスポンスシフト現象(response shift phenomenon; RSP)として説明されている.本研究の目的は,日本人の人工膝関節置換術後患者のPROによるQOL評価において,1)RSPの有無を明らかにし,RSPが認められた場合,その程度を見積もること,2)QOLに対する患者満足度へのRSPの影響を明らかにすることとした.【方法】研究デザインは,Then-test法(治療後のある時期において,治療前の状態を振り返って回答させる方法)で行った.対象は,平成22年4月から平成24年8月までの期間において,当院で初回人工膝関節置換術を受けた者とした.重篤な併存疾患(心疾患,神経疾患等)を有する者,膝関節以外に骨関節疾患の手術既往を有する者,認知障害を有する者は除外した.測定項目は,1)Western Ontario and McMaster University Osteoarthritis Index 疼痛項目(WOMAC-P),2)WOMAC身体機能項目(WOMAC-F),3)術後QOLに対する11段階の満足度(満足度)とした.WOMACは,術前,術後に聴取し,術後聴取しえた者に対して,Then-test(then),満足度を郵送により回答させた.統計解析は, WOMAC術前およびthenスコアで対応のあるt検定およびBland-Altman分析を行い,RSPの有無を評価した.RSPの程度は,CohenのEffect Size(ES)を算出した.また,満足度とWOMAC術前後スコア差,術後thenスコア差との相関分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,当院の倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号第5号).対象には研究の主旨,個人情報の保護等について説明し,同意を得た.【結果】 質問票を郵送した150名中84名から有効な回答を得た.男性17名,女性67名,人工膝関節全置換術47例,単顆置換術37例,片側41例,両側43例であった.年齢(平均±標準偏差)は72.9±8.0歳,BMIは24.7±3.6kg/m²,術後経過日数は350±273日であった.WOMAC-Pにおいて,術前よりもthenスコアは有意に低値を示した.術前とthenスコア差は,10.5点(95%信頼区間;4.5-16.4)であり,RSPが認められた.ESは0.49と中等度の程度を示した.WOMAC-Fにおいては,術前よりもthenスコアは低値を示したが,有意差は認められなかった(P = 0.10).術前とthenスコア差は4.6点(-0.9-10.1)であり,RSPは認められなかった.ESは0.2と小さい程度を示した.WOMAC-PおよびFにおいて,術前後スコア差と満足度には相関は認められなかったが,術後thenスコア差と満足度には相関が認められた(WOMAC-P; r=0.35, WOMAC-F; r=0.36).【考察】 日本人の人工膝関節置換術後患者において,PROによる疼痛の評価にRSPが存在しており,実際の術前の状態と比較し,振り返った術前の状態のほうがより強い痛みを有していたと見積もっていることが示された.すなわち,痛みにおいては,術前後のスコア差以上の改善を患者は感じていることが推察される.加えて,術後のQOLに対する満足度は,術前後のスコア差ではなく,術後とthen-testとのスコア差と関連していたことから,PROを用いて人工関節置換術前後の手術および理学療法等を含めた介入効果を評価する際は,術前後のスコア差だけでなく,RSPの影響を考慮すべきである.【理学療法学研究としての意義】 PROを用いて介入効果の判定を行う場合,RSPの影響を考慮した真の効果を見積もることができる.
  • 小林 巧, 山中 正紀, 神成 透, 堀内 秀人, 松井 直人, 角瀬 邦晃, 野陳 佳織, 大川 麻衣子, 武田 直樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】人工膝関節全置換術(以下、TKA)は重篤な変形性膝関節症(以下、膝OA)患者に対して疼痛除去と機能改善を目的として施行される。TKA術後の筋活動に関して、Stevens-Lapsleyら(2010)は大腿四頭筋と大腿二頭筋の筋活動量について測定し、膝伸展運動時の大腿二頭筋の筋活動量が増加することを報告している。これまで、TKA術後の筋活動量に関する報告は散見されるが、筋活動開始時間に関する報告は見当たらない。Saraら(2007)は足関節不安定症患者の筋活動開始時間について、傷害部位を代償するパターンが見られたことを報告しており、何らかの局所障害を有する患者は正常パターンとは異なった筋活動パターンを示すことが考えられる。本研究の目的は、両脚立位から片脚立位へ移行する姿勢制御課題を用いて、TKA患者の筋活動パターンについて検討することである。【方法】対象は聴覚障害ならびに平衡機能障害の既往が無い、TKA術後4週が経過した女性7名(平均年齢69.4歳、身長152.9cm、体重61.4kg)と対照群として健常若年女性7名(平均年齢22.4歳、身長157.7cm、体重52.5kg)とした。施行動作は、両上肢を対側に位置させた両脚立位を開始肢位とし、音刺激開始後すぐに下肢を挙上させ片脚立位となる動作とした。TKA患者は術側および非術側、対照群は利き足と対側の下肢について測定を実施した。筋活動開始時間の測定はNoraxon社製筋電計TELEMYO G2を使用し、導出筋は支持側の大殿筋、中殿筋、長内転筋、外側広筋、大腿二頭筋、前脛骨筋および外側腓腹筋とした。データはサンプリング周波数1500HzでA/D変換し、解析の際のバンドパスフィルターは10~500Hzとした。音刺激開始をtime0とし、音刺激開始直前の安静立位100msでの平均筋活動を基線とし、time0から基線より2SDの範囲を越えた最初の時間を筋活動開始時間と定義した。また、挙上側母趾と踵部にフットスイッチを取り付け、下肢挙上時間を測定した。統計学的分析として、TKA患者の術側、非術側および健常群の比較と各群における筋活動開始時間および下肢挙上時間の比較に二元配置分散分析を実施した。多重比較の調整としてBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には検査実施前に研究について十分な説明を行い、研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。【結果】TKA患者の術側、非術側および健常群の比較について、筋活動開始時間および下肢挙上時間に有意な差を認めなかった。各群における比較について、TKA患者の術側では下肢挙上時間(1.08±0.38s)と比較して、中殿筋(0.55±0.24s)、長内転筋(0.49±0.21s)、大腿二頭筋(0.50±0.21s)および前脛骨筋(0.43±0.32s)の筋活動開始時間が有意に早かった。非術側では下肢挙上時間(1.13±0.52s)と比較して、長内転筋(0.45±0.26s)および前脛骨筋(0.32±0.15s)の筋活動開始時間が有意に早かった。また、健常群では下肢挙上時間(1.04±0.15s)と比較して、長内転筋(0.52±0.24s)、外側広筋(0.54±0.34s)、大腿二頭筋(0.49±0.25s)および前脛骨筋(0.46±0.13s)の筋活動開始時間が有意に早かった。【考察】本研究結果から、両脚立位から片脚立位移行への姿勢制御課題において、TKA患者の術側、非術側および健常群で下肢挙上時間より筋活動開始時間が有意に早くなる筋に違いがあることが観察された。特に、健常群では下肢挙上に先行して外側広筋の筋活動が開始されるが、TKA患者では術側、非術側ともに下肢挙上時間と外側広筋の筋活動開始時間に差を認めなかった。西上ら(2007)は膝OA患者では歩行時の内側広筋の筋活動開始時間が遅れることを報告しており、TKA術後は大腿四頭筋機能を代償する正常とは異なった筋活動パターンを用いる可能性が示唆された。また、非術側については、診断名はついていないもののVASで平均2.4mmの疼痛を有していたことから、軽度膝OAの可能性があり、これらの影響が推察される。本研究で得られた片脚立位移行時の筋活動パターンの違いが姿勢安定性に影響を与える可能性も推察され、今後さらに詳細な検討が必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】TKA術後の筋機能の障害については、筋力低下にのみ焦点が当てられている。しかしながら、筋力低下が著明でないにも関わらず、バランスや動作障害を有する患者は多い。本研究で用いた片脚立位移行動作において観察された筋活動パターンの違いがTKA術後の姿勢制御や歩行に影響することも予想され、本研究結果は臨床上、有用な知見である。今後、健常高齢者や膝OA患者との比較検討も加え、TKA術後の筋活動パターンをより明確にし、パフォーマンスに与える影響などについて更なる調査を進めたい。
  • 西川 徹, 南角 学, 柿木 良介, 松田 秀一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)は,変形性膝関節症患者や関節リウマチ患者などの痛みや変形に対して施行され,疼痛の軽減や身体機能の改善と,それらに伴う生活の質(以下,QOL)の向上が期待できる.しかし,TKA術後においては,クリニカルパスの導入により医療の効率化や在院日数の短縮が図られ,早期退院を目標としたリハビリテーションが実施されていることが多い.このため,術後のQOLを十分に配慮した理学療法を実践できていないのが現状である.TKA術後により効率的に膝関節機能や運動機能の改善を図りながらQOLの向上を目指すためには,術後のQOLに関わる因子を検討する必要性がある.先行研究において,運動器疾患を有する患者のQOLに関わる因子を検討した報告は多くあるが,TKA術後長期が経過した症例を対象とした報告は少ない.そこで,本研究の目的は,TKA術後患者の下肢機能およびQOLの長期的な術後の回復過程を評価するとともにTKA術後1年におけるQOLに関連する因子を検討することとした.【対象と方法】対象はTKAを施行された28名(男性3名,女性25名,年齢64.5 ± 13.7歳,BMI 23.6 ± 4.3kg/m²)とした.対象者は当院のTKA術後プロトコールに準じてリハビリテーションを行い,術後4週で退院となった.測定項目は,術前とTKA術後1年の歩行能力,膝関節可動域,下肢筋力,片脚立位時間,膝関節痛,QOLとした.歩行能力としては10m歩行時間を測定した.10m歩行時間は,12mの直線歩行路を設け前後1mを除いた10mの所要時間を測定した.下肢筋力は両側の膝関節伸展・屈曲筋力,脚伸展筋力とした.測定には IsoforceGT-330(OG 技研社製)を用い,膝関節伸展・屈曲筋力はトルク体重比,脚伸展筋力は体重比にて算出した.片脚立位時間は,、足底が離地し再び接地するまでの時間とした.また,膝関節痛の評価にはVisual Analog Scale(以下,VAS),QOLの評価にはJapan Knee Osteoarthritis Measure (以下,JKOM)を用いて評価した.統計処理には,術前とTKA術後1年の各測定項目の比較には対応のあるt検定とWilcoxonの符号付き順位検定を用いた.さらに,術後1年のJKOMと術後1年の各測定項目の関連性の検討には Spearman の相関係数を用い,術後1年のJKOMと有意な相関関係を認めた項目を説明変数,JKOMを目的変数とした Stepwise 重回帰分析を行った.なお,統計学的有意基準は危険率 5% 未満とした.【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施し,各対象者に本研究の趣旨と目的を詳細に説明し,参加の同意を得た.【結果と考察】JKOMに関しては,術前73.5±19.6点,術後1年52.9±22.5点であり,術後1年のJKOMは術前と比較して有意に低い値を示し,QOLの向上を認めた.術側の下肢機能(膝関節伸展可動域,片脚立位時間,膝関節屈曲筋力,脚伸展筋力)に関しては,術前と比較して術後1年で有意に改善した.一方,非術側の下肢機能に関しては,全ての項目で術前と術後1年で有意差を認めなかった. 10m歩行時間については,術前で11.05±3.35秒,術後1年で7.82±2.11秒であり,術側のVASについては,術前で5.3±2.5,術後1年で2.3±3.1であり,それぞれ術前と比較して術後1年で有意に改善していた.また,術後1年のJKOMと有意な相関関係を認めたのは,年齢(r=0.40),10m歩行時間(r=0.61),非術側の膝関節伸展筋力(r=-0.37),術側のVAS(r=0.49)であった.さらに,重回帰分析の結果より,TKA術後 1 年のJKOMを決定する因子として,10m歩行時間と術側のVASが選択された(標準偏回帰係数:10m歩行時間0.43,VAS 0.48,回帰式の修正済み決定係数:R2 = 0.51).以上より,TKA術後1年で歩行能力が高く,術側の膝関節痛が軽度な症例では術後のQOLが良好であることが明らかとなった.これらの結果から,TKA術後1年後のQOLの向上をより効率的に図っていくためには,術後の歩行能力の改善や膝関節痛の軽減を目的とした介入が必要であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】TKA術後 1年におけるQOLに関連する評価項目として,10m歩行時間と術側のVASであることが明らかとなった.このことは,TKA術後の長期的な視点でのQOLの向上を考慮した理学療法の介入のための一助となると考えられ,理学療法研究として意義のある研究データであると考えられた.
  • -JCOMとPCSを用いた検討-
    比嘉 俊文, 島袋 雄樹, 大嶺 啓
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】変形性膝関節症(以下、膝OA)の危険因子として、年齢、性差、筋力低下、肥満などいくつか報告されているが、その機能面のみで帰結に至るのは不十分である。近年、疼痛と心理的因子の関連性の報告が増えてきており、Cookらは痛みに対する破局的思考が直接的に、または逃避・回避行動を介して間接的に日常生活に悪影響を及ぼし、痛みは慢性化するとしている。ゆえに慢性疼痛疾患ないし痛みを有する病態を理解する際に、心理的因子の影響を評価することは重要である。そこで本研究では、変形性膝関節症患者における痛みの程度と心理的因子としての痛みに対する破局的思考の関連性を検討した。【対象と方法】当院に外来通院している膝OAの診断されている患者32名のうち、回答不備を除いた21名(男性11名、女性10名、平均年齢64.4±11.2歳)を対象とした。痛みの機能的尺度は、痛みの程度と痛みによる活動制限を評価する質問紙法として日本整形外科学会が推奨する変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下、JCOM)を構成する項目の中から、膝の痛みの項目を抜粋して利用した(JKOM-P)。JCOM-Pの痛みの項目は、8項目の質問からなり重症度により0から4の5段階で評価し、数値化した合計点数を採用した。痛みに対する心理的因子の評価は、痛みの破局的思考の評価として信頼性の高い、松岡らのPCS日本語版を用いて調査した。PCSは13項目の質問からなる質問紙法であり、あてはまる破局的思考の程度を0から4の5段階で表し、その合計点数と、反すう、拡大視、無力感の3つの下位尺度それぞれの点数を算出した。統計学的解析は、JKOM-PとPCS合計点数、反すう、拡大視、無力感の点数をそれぞれPearsonの相関係数にて行い、さらにJKOM-PとPCS13項目のそれぞれに対してSpeamanの相関係数を用い解析した。【説明と同意】対象者には本研究の主旨を十分に説明し、承諾を得た上で実施した。【結果】JKOM-PとPCS合計点数、下位尺度である反すう、拡大視、無力感との相関は認められなかった。質問13項目それぞれの検討では、質問5「これ以上耐えられないと感じる」にのみ有意な相関が認められた(r=0.45,p < 0.05)。その他の質問との相関関係は認められなかった。【考察】痛みに対する評価として、田中らは、運動器疾患患者を対象にVASとPCS13項目すべての質問との間に有意な相関があり、痛みに対する主観的尺度であるVASは心理的因子の影響を受けやすいとしている。本研究では、JKOM-PとPCS合計点数、各下位尺度との相関は認められず、PCSの質問5の「これ以上耐えられないと感じる」にのみ相関関係を認めた。このことから機能的尺度であるJKOM-Pは、主観的尺度であるVASに比べ、心理的因子の影響を受けにくいことが考えられる。痛みの評価において、VASとJKOM-Pを組み合わせることで、情動による痛みの助長の変化も踏まえた評価が可能になることが示唆され、有効な痛みの評価方法として利用できると考える。【理学療法学研究としての意義】JKOMによる痛みに対する機能評価尺度と主観的尺度であるVASを組み合わせることで、心理的因子の影響も踏まえた痛みの評価が可能になることが示唆された。今後はJKOM-PとPCSに加え、VASの評価を組み合わせながら、経時的変化を踏まえ、臨床での有効性について知見を重ねていきたいと考えている。
  • ランダム化比較試験のメタ回帰分析
    南有田 くるみ, 田中 亮, 木藤 伸宏, 小澤 淳也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】疼痛は変形性膝関節症(膝OA)の主症状であり,多くの罹患者を悩ませる問題の一つである.筋力増強運動や有酸素運動といった運動療法は,膝OAの疼痛を改善させる治療法として推奨されている.しかしながら,運動療法のどういった要素が疼痛軽減効果に影響を及ぼすかは不明のままである.また,運動の頻度や期間が効果に及ぼす影響も十分に明らかにされていない.これらの疑問を解明することは,より効果的な運動療法プログラムの質や量を検討するのに役立つ.本研究の目的は,膝OA罹患者の疼痛軽減効果に影響を及ぼす運動療法プログラムの要因を明らかにすることである.【方法】本研究のデザインは,ランダム化比較試験のメタアナリシスおよびメタ回帰分析とした.論文の適格基準は,膝OA罹患者が対象に含まれている,運動もしくは運動療法が介入として実施されている,対照群は無介入あるいは教育的介入のみ実施されている,アウトカムとして疼痛が含まれている,研究デザインはランダム化比較試験(RCT)である,とした.測定バイアスの影響を減らすために,VASもしくはWOMAC以外の測定尺度を使用しているRCTは除外した.文献検索には,5つの電子データベースを使用した.適格基準に合致した論文に記載されている統計量から標準化平均差を算出した.従属変数を疼痛の標準化平均差とした単変量のメタ回帰分析を実施した.独立変数として「非荷重位筋力増強運動の有無」「荷重位筋力増強運動の有無」「有酸素運動の有無」「運動頻度」「運動期間」を投入し,運動の有無は有を1,無を0とした.また,運動療法プログラム以外の要因として,「対照群の介入の有無」「測定尺度」「RCTのrisk of bias」も独立変数として投入し,測定尺度は,VASを0,WOMACを1とした.RCTのrisk of biasは,PEDroスケールを用いて評価した.メタ回帰分析にて有意性が認められた要因については,疼痛軽減効果の説明因子として運動療法プログラム以外の要因から独立しているか検討するために,χ²検定およびMann-WhitneyのU検定を実施した.すべての統計解析の有意水準は5%とした.【結果】検索の結果,707編の論文が抽出された.そのうち,適格基準に合致した22編(運動群 = 32群)のRCTに対してデータの統合およびメタ回帰分析を実施した.32群のうち,非荷重位筋力増強運動を含んでいた運動群は20群であり,荷重位筋力増強運動,有酸素運動が実施された運動群は,それぞれ13群ずつであったが,いずれの運動も含まなかった運動群は3群あった.運動頻度および運動期間の中央値は,それぞれ3回/週,9週であった.メタ回帰分析の結果,疼痛に影響を及ぼしていた運動療法プログラムの要因は,「荷重位筋力増強運動の有無」(回帰係数=-0.32, p<0.01),「運動期間」(回帰係数=-0.01, p<0.01)であり,運動療法プログラム以外の要因はすべて有意な影響を及ぼしていた.χ²検定およびMann-WhitneyのU検定の結果,「荷重位筋力増強運動の有無」と「運動期間」は相互に関連しておらず,さらに運動療法プログラム以外の要因とも有意に関連していなかったことから,独立して疼痛軽減効果に影響を及ぼしていた.【考察】運動療法による疼痛軽減効果は,運動療法プログラムに荷重位筋力増強運動を含めないほうが大きいことが明らかにされた.田中らは第47回本学術集会において,膝OAの疼痛に対する運動介入の短期的効果は非荷重位筋力増強運動が荷重位筋力増強運動よりも高かったことを報告している.Baliunas et al.(2002)は膝への過剰な負荷を伴う運動により,患者の症状,こわばり,炎症が悪化したと報告している.これらの知見をふまえると,荷重という要素は運動療法による疼痛軽減効果にネガティブな影響を及ぼすと考えられる.また,介入開始初期ほど疼痛軽減の効果は有意に大きいことも明らかにされた.過去のシステマティックレビューによると,治療回数が12回未満よりも12回以上のほうが効果は大きいが(Fransen and McConell,2009),6ヶ月を超えると効果のエビデンスは乏しくなる(Pisters et al., 2007).以上の知見を考慮すると,運動頻度を週3回にした場合,運動療法による疼痛軽減効果は,介入開始4週目以降の早い時期にピークを迎え,その後は小さくなるものの,少なくとも6ヶ月まで期待できると考えられる.【理学療法学研究としての意義】膝OAの疼痛軽減効果に影響を及ぼす運動療法の要素や,より大きな効果が得られる運動療法の時期を明らかにした.
  • スポーツレベル別の検討
    田中 龍太, 今屋 健, 藤島 理恵子, 中山 誠一郎, 遠藤 康平, 川村 麻衣子, 戸渡 敏之
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】膝前十字靱帯(ACL)再建術後の膝筋力は健患比を用いて評価することが多い。しかし、健患比は健側筋力に対する相対的な患側筋力の評価となるため、純粋に患側筋力が回復したかは不明である。このため、健側、患側それぞれの筋力のピークトルク体重比(体重比)の推移を追う必要がある。また、スポーツレベル別に筋力の回復経過を辿った報告は少ない。そこで今回、症例をスポーツレベルで分類し、術前から術後の健側、患側の体重比と健患比の回復の推移を調査したので報告する。【方法】対象は2006から2009年に当院で半腱様筋・薄筋腱によるACL再建術を施行した311例、男性135例(27.6±7.2歳)、女性176例(25.2±7.9歳)である。当院ではスポーツレベルを、レベル0:スポーツ活動なし、レベル1:趣味レベル(下級)、レベル2:趣味レベル(上級)、レベル3:地方(県)大会レベル、レベル4:全国大会レベル、レベル5:トップレベルの6段階に設定している。本研究ではスポーツレベルをカテゴリー1(C1:レベル0、1)、カテゴリー2(C2:レベル2、3)、カテゴリー3(C3:レベル4、5)の3群に分類し比較した。内訳は、C1(男性67例、女性72例)、C2(男性55例、女性81例)、C3(男性13例、女性23例)であった。筋力測定はBiodex System3を用い60deg/secで行った。術前、術後5ヶ月(5M)、術後8ヶ月(8M)で、膝伸展筋力(Q)、屈曲筋力(H)の健側および患側における体重比を計測した。以上の項目において男女各々のカテゴリーでQ、Hの、1)術前、術後の健側体重比の平均値の推移、2)術前、術後の患側体重比の平均値の推移、3)術前、術後の健患比の推移を検討した。統計にはrep ANOVAと多重比較法(Tukey)を用いて平均値の差の検定を行った。データ解析は、統計ソフトDr.SPSS IIを使用し、有意水準はp<0.05とした。【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会の承認を受けて行った。【結果・男性】1)健側Qは、C1では術前より5Mおよび8Mで有意に増加し、C2では術前より8Mで有意に増加した。C3では統計上変化がなかった。健側HはC1、C2共に術前より5Mおよび8M、 5Mより8Mで有意に増加し、C3では術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。2)患側Qはどのカテゴリーも術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。患側Hは健側同様、C1、C2共に術前より5Mおよび8M、 5Mより8Mで有意に増加し、C3は術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。3)健患比Qは、C1では術前より5Mで有意に減少し、5Mより8Mで有意に増加した。C2では術前より8M、5Mより8Mで、C3では5Mより8Mで有意に増加した。【結果・女性】1)健側Qは全てのカテゴリーで術前より5Mおよび8Mで有意に増加した。健側Hは全てのカテゴリーで術前より5Mおよび8M、5Mより8Mで有意に増加した。2)患側Qは、C1、C2では術前より5Mおよび8M 、5Mより8Mで有意に増加し、C3では術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。患側Hは健側同様、全てのカテゴリーで術前より5Mおよび8M 、5Mより8Mで有意に増加した。3)健患比Qは、C1では5Mより8Mで、C2とC3では術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。健患比Hは、C1、C2では術前より8Mで有意に増加したが、C3では統計上有意な差はみられなかった。【考察】我々は以前、ACL再建術後の体重比の回復は、健側、患側共に術前の体重比と高い相関があり、健側、患側の体重比を評価することの重要性を報告した。そこで今回、健側、患側の体重比はスポーツレベルによって回復推移が異なり、スポーツレベルが高いほど回復が早く、低いほど遅いのではないかと考え本研究に至った。しかし今回の結果からはスポーツレベルを問わず、健側、患側の体重比は術前から時期を追うごとに順次回復する傾向がみられた。健患比は健側体重比の相対的な患側の割合であるため、患側の回復を絶対値で評価できないが、健側と患側のバランスを評価するには良い。健患比が減少しても患側体重比は増加している場合もあるため、ACL再建術後の筋力評価として、健側、患側の体重比並びに、健患比を評価していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後はスポーツレベル別での体重比の差を比較検討し、本研究と併せ、スポーツレベル別の体重比の目標設定を可能とし、スポーツ復帰への指標を提案していきたい。
  • 長谷川 敏史, 舌 正史, 小野 誠, 長野 真, 南 銀次郎, 原 邦夫
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】計測時の運動速度を一定に保つ等速性筋力測定装置は様々な角速度を設定することにより筋の力‐速度関係を把握する事ができるとされ術後や受傷後のスポーツ復帰の指標として等速性膝伸展筋力が用いられている.その評価としては,ピークトルクを体重で除することで求められるピークトルク体重比(以下体重比)が用いられている.1989年原らは競技復帰の目安として前十字靱帯(以下ACL)再建術後の筋力が角速度60deg/sec短縮性膝伸展筋力(以下60°筋力)で2.5Nm/kg,180deg/sec短縮性膝伸展筋力で1.5Nm/kgを越えた時期であろうとしている.2009年4月に当院でもCYBEXを導入し体重比を用いて術後評価を行っており,上記の条件を競技復帰時の目標としている.しかし健側,患側共に個人差が大きく,年齢や体重,競技レベルなどの要素が影響すると考えられる.今回ACL再建術後患者の筋力を筋力測定時の術後経過日数をもとに検討した結果若干の知見を得たので報告する.【方法】対象者は当院で2007年7月から2012年10月の間にACL再建術を行った830名のうち当院で筋力測定が可能であった男性患者で計測時の経過日数が5か月以上である166名を対象とした.計測時の術後経過日数は7.2カ月±3.2であった.方法はCYBEX NORM(メディカ株式会社製)を用いて等速性膝伸展筋力を測定した.測定項目は角速度60deg/secにて5回の反復運動を行わせた.運動中に計測されたピークトルクを採用し体重で除した値を体重比とした.採用した記録は,対象者の60°筋力が初めて2.5Nm/kg以上を記録した日とし,2.5Nm/kg未満の対象者は最終計測日とした.計測した60°筋力と経過日数をもとに4群に分類した.A群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以上で計測時の経過日数が190日未満である群(以下良好群:66名).B群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以上で計測時の経過日数が190日以上である群(以下筋力回復遅延群:31名).C群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以下で健側60°筋力が2.5Nm/kg以上である群(以下筋力改善不良群:44名).D群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以下で健側60°筋力も2.5Nm/kg以下である群(以下筋力不足群:24名).各群における経過日数,体重,健側60°筋力,患側60°筋力を一元配置分散分析を用いて検討し,その後の検定としてTukeyの多重比較検定を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の同意を得たうえで行っている.【結果】術後経過日数は,良好群1.6ヶ月±0.91,筋力改善遅延群9.58ヶ月±3.20,筋力改善不良群8.42ヶ月±3.24,筋力不足群8.15ヶ月±3.17であった.体重は良好群68.5kg±9.72,筋力回復遅延群67.1kg±8.02,筋力改善不良群71.1kg±10.3,筋力不足群74.7kg±13.2であった.健側60°筋力は良好群299.0Nm/kg±30.93,筋力回復遅延群285.4Nm/kg±28.75,筋力改善不良群278.7Nm/kg±23.28,筋力不足群218Nm/kg±32.90であった.患側60°筋力は,良好群276.5Nm/kg±24.54,筋力回復遅延群270.5Nm/kg±19.13,筋力改善不良群221.8Nm/kg±23.80,筋力不足群202.7Nm/kg±36.59であった.経過日数は,良好群のみ他の群間と有意差(p<0.05)を認めた.体重は,筋力不足群と筋力回復遅延群間に有意差(p<0.05)を認めた.健側60°筋力は筋力不足群と他の群間,筋力改善不良群と良好群間に有意差(p<0.05)を認めた.患側60°筋力は,良好群と筋力回復遅延群間のみ有意差を認めなかったが他の群間では有意差(p<0.05)を認めた.【考察】今回の結果により良好群は他の群と比較し経過日数が短い結果となった.他の群を考えると筋力回復遅延群は良好群と比較し筋力に差が見られないためリハビリテーション継続により筋力の改善が見られたものと考える.筋力改善不良群は,筋力回復遅延群と比較しても経過日数に差がないため,患側の筋力が改善することで目標値達成が可能な群であり術後の筋力低下の影響を最も受けた群であるといえその後筋力回復遅延群へ移行すると思われる.しかし,良好群と比較すると健側筋力においても低値を示したため健側筋力が低い者は患側筋力の回復が遅延することが示唆された.筋力不足群は,どの群と比較しても筋力の低い群であるといえ術後早期より患部外トレーニングを十分に行い基礎体力向上が競技復帰に向け最大の問題点である群といえる.しかし,今回の研究においては競技レベル等の個人因子については検討していないため,各群に分かれる原因の追究が今後の課題であるといえる.【理学療法学研究としての意義】術後患者を経過日数と筋力にて分類することで各群の問題点が明らかとなった.早期復帰に向け術後理学療法を行うに当たり個々に応じたプログラムを展開するうえで重要な知見であるといえる.
  • 渡邉 博史, 梨本 智史, 古賀 良生, 佐藤 卓, 大森 豪, 田中 正栄
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)損傷患者は、関節固有感覚の破綻が生じ重心の動揺性が増加するため、バランス保持能力が低下すると報告されている。また、損傷予防において膝周囲筋では、伸筋力と屈筋力とのバランスが重要と指摘されている。今回、ACL損傷患者の静的重心動揺と膝周囲筋力を健常膝と比較し、ACL損傷患者の特徴を検討したので報告する。【対象】ACL片側受傷患者(ACL群)43名:女性22名(13-49歳、平均22.0±11.1歳)、男性21名(15-47歳、平均27.5±10.1歳)と膝疾患の既往がない健常成人(対照群):男性9名(21-33歳、平均27.4±4.6歳)18膝を対象とした。【方法】全対象者に対し、重心動揺計(GRAVICORDER GS-11 ANIMA社製)で、閉眼片脚立位10秒間の測定を行った。膝周囲筋力は、BIODEX SYSTEM 4(BIODEX社製)で角速度60deg/secと180deg/secの等速性膝伸展および屈曲筋力を測定した。評価項目を重心動揺では、総軌跡長、外周面積、左右・前後方向の動揺中心変位(以下左右変位、前後変位)とし、膝周囲筋力では、伸筋および屈筋の最大トルクを体重で除した値(以下膝伸筋力、膝屈筋力)と膝伸筋力に対する膝屈筋力の割合(H/Q比)とした。これらの項目について、ACL群内で受傷側と非受傷側とを比較した。また男性ではACL群と対照群を比較した。統計的解析は対応のないt検定を用い、有意水準を5%未満とした。【説明と同意】本研究は対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て行った。【結果】ACL群内の受傷側と非受傷側の比較で、重心動揺は前後変位のみ差を認め、受傷側1.3±1.3cm、非受傷側0.7±1.5cmで受傷側が有意に大きかった。膝周囲筋力は60deg/sec 、180deg/secとも膝伸筋力とH/Q比で差を認め、受傷側の膝伸筋力が有意に小さく、H/Q比は有意に大きかった。膝屈筋力は有意差を認めなかった。次にACL群と対照群の比較では、重心動揺は受傷側および非受傷側とも全ての項目において有意差を認めなかった。膝周囲筋力は、対照群に比して受傷側では、60deg/sec の膝伸筋力と180deg/secの膝伸筋力と膝屈筋力で差を認め、受傷側が膝伸筋力、膝屈筋力とも有意に小さかった。非受傷側では60deg/secの H/Q比のみ差を認め、非受傷側42.5±9.7%、対照群48.6±6.9%で対照群が有意に大きかった。【考察】今回の結果、受傷側では膝伸筋力が非受傷側および対照群に対し全ての項目で有意に小さく、膝屈筋力は差を認めた項目が少なかったことから、ACL損傷患者の損傷後における受傷側の筋力低下は、膝伸筋力への影響が大きいことが示唆された。また重心動揺では、受傷側が非受傷側に対し有意に前方変位していた。このことからACL損傷患者の損傷後の受傷側は、膝屈筋優位の姿勢制御をしていると示唆された。これは脛骨の関節面が後方傾斜しており、静的な立位でも後方重心の姿勢では、膝伸展モーメントが働くことから、相対的な脛骨の前方移動力が生じ、ACL損傷患者では不安感が大きくなるため、回避姿勢として重心を前方に変位させ膝屈筋優位の姿勢制御をしていると考える。また、受傷後の筋力低下の影響や、非受傷側のH/Q比が対照群に対し有意に小さいことから、受傷側も受傷前はH/Q比が低かった可能性が推察された。ACL損傷予防において、膝屈筋は着地や急激なストップ・ターン動作時に膝伸筋の収縮に伴う脛骨前方引き出し力に抗する拮抗筋で、反射的に緊張して、ACL損傷を防止する重要な機能があり、角速度60deg/secのH/Q比は70%以上が理想と報告されている。今回のH/Q比は、対照群でも50%以下で、ACL群はこれよりさらに低い値であり、このことからACL損傷患者における膝周囲筋力の特徴として、受傷・非受傷側に関係なくH/Q比の低さが挙げられ、損傷要因のひとつとして関与している可能性が示唆された。また再建術後では、非受傷側の筋力を目標にすることも少なくないが、今回の結果から受傷側の筋力回復だけでなく、非受傷側を含めた筋力バランスにも着目する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】ACL患者の姿勢や筋力のバランス特性を理解することは、損傷予防や再建術後の理学療法において重要と考える。今後は女性の対照群を追加し、男女別に検討を行っていく。さらに再建術後における姿勢や筋力のバランス特性について、経時的な変化を検討していく必要がある。そして、動的なバランス能力との関連へと発展させることが重要である。
  • 立位ステッピングテストでの検討
    岩根 浩二, 舌 正史, 後藤 美紀子, 齊城 一範, 長谷川 敏史, 小野 誠, 加治 美咲, 吉井 彩夏, 長野 真, 南 銀次郎, 原 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】立位ステッピングテストは、スポーツ選手の敏捷性の評価に用いられその妥当性が報告されている。前十字靭帯(以下ACL)再建術後の患者の競技復帰ならびに復帰後の再受傷予防のためには筋力回復とともにステップ動作能力が重要であると考える。今回、我々はACL再建術後のステッピング動作が適切に行えているのかを調査し検討することを目的とした。【方法】対象者はスポーツ中にACL損傷し当院で再建術を施行後、本研究に協力が得られた女性14名とした。平均年齢19.57±4.73歳であった。対象者の測定条件は、術後6ヵ月以上が経過し医師より競技復帰が許可された患者を対象とした。対象者には、立位ステッピングテストと股関節および膝関節屈曲、伸展の等速性筋力測定を実施した。立位ステッピングテストでは立位で股関節軽度屈曲、膝関節軽度屈曲した姿勢から5秒間全力ステッピング動作を行い足底が床から完全に離床した状態を1回とし回数を求めた。また、対象者を5秒間の計測期間中すべての動作で足底が完全に離床可能であった群を完全群(10名)、1回でも足底が完全に離床できなかった群を不完全群(4名)とし2群に分類した。この測定には、デジタルカメラEX-FC150(CASIO社製)のハイスピードモードで撮影した動画を用いた。股関節および膝関節屈曲、伸展の等速性筋力測定には CYBEX NORM(メディカ社製)を用いた。健側と患側それぞれ角速度60dge/secで測定し、ピークトルク体重比(以下%BW)で評価した。統計処理はSPSSを用い2群間の比較にはMann-Whitneyの検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、研究の目的や内容および方法を説明し対象者から研究協力の同意を得た。【結果】立位ステッピングテストのステッピング回数は、完全群平均57.60±4.97回、不完全群平均47.75±6.41回であった。ステッピング回数の完全群と不完全群の2群比較では、完全群で有意にステッピング回数が多かった(p<0.05)。角速度60dge/secでの股関節および膝関節屈曲、伸展筋力は、完全群に対して不完全群は健側、患側ともに有意差は示さなかった。【考察】山本らの報告では、体育大学に所属するスポーツ選手を対象とした立位ステッピングテストのステッピング回数は平均55.6±5.9回との報告がある。今回の我々の研究では、ステッピング回数は、完全群平均57.60±4.97回であったことから、体育大学に所属するスポーツ選手と同等の素早く動く能力が獲得されていることが確認できた。不完全群では、平均47.75±6.41回であり素早く動く能力としては不十分であると考える。完全群と不完全群を比較すると、筋力に関しては、すべてで有意差を示さなかったがステッピング回数では有意差を示した。この結果から完全群のステッピング動作は個々の筋力ではなく股関節、膝関節、足関節の3関節の複合関節運動が効率よく行われていることが予測される。また、動画より不完全群は、足底が完全に離床しないステッピング動作と足底が完全に離床するステッピング動作が不規則に認められた。実際の競技場面を考えるとステップから切り返す動作などで足底と床との摩擦力が多くなる可能性があり、再受傷の危険性があると考えられる。立位ステッピングテストはステッピング回数の多少と足底が離床することの規則性の有無を把握し評価する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】立位ステッピングテストはステッピング回数だけでなくステッピング動作の方法にも注目することでACL再建術後の復帰に向けた敏捷性の評価・再受傷予防の一助になると考えられる。
  • 須賀 康平, 神先 秀人
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】前十字靱帯(以下ACL)損傷はジャンプの着地や方向転換,急激な減速時に起こりやすいとされ,股浅屈曲,膝浅屈曲・外反の肢位での脛骨前方剪断力と回旋が原因と考えられている.その要素のひとつに,足部の回内・外反が考えられている.それに対して後足部過剰回内防止を目的としたインソール装着で女子バスケットボール選手のACL損傷率が減少したといった報告などがなされている.踵骨が外反し,足部内側縦アーチ低下,距骨下関節回内位となると,足根骨間の結束が緩む.この時に距骨の滑り込み不全による足関節背屈不全で膝浅屈曲・外反位となるのを,インソールは防いでいると考えられる.しかし,インソールとACL損傷率に関連する報告や健常者での分析は散見されるが,ACL再建術後患者を対象に,インソール装着効果の定量的な研究は見当たらない.よって,ACL再建術後患者におけるインソール装着が膝・股関節の運動学・運動力学に与える影響を矢状面から定量的に分析する事を目的に研究を行った.【方法】 対象はACL再建術後6ヶ月以上経過し,外来フォローのある1年以内で承諾が得られた者で,かつ主治医により実験参加の許可の得られた男女7名(男性3名で平均年齢35.3±6.7歳,女性4名で平均年齢27.4±11.1歳)とした.また,山形済生病院で走行動作を許可している患側の膝伸展筋力が%BW60%に満たないものは除外した.課題動作は落下垂直跳びで,測定には三次元動作解析装置(VICON MX T20),赤外線カメラ8台(250Hz)と床反力計2枚(Kistler社 2000Hz)を使用し,被験者にはPlug-In-Gait FullBodyモデルに沿って35個の反射マーカーを貼付した.動作方法は先行研究(Hewett et al.2005)を参考に30cm台の上で足部を35cm離した状態から,2枚の床反力計に左右別々に着地し,そこから両上肢を挙上して即座に最大ジャンプを行うこととした.課題動作は裸足,靴,靴と後足部過剰回内防止インソール(Superfeet社製 トリムブルー)の組み合わせの3条件で実施した.実験用の靴には足部マーカーの位置に穴を空けて加工した.データは一回目に床反力計に接地している期間を用い,床反力垂直成分が10Nを越えた時点を初期接地とし,COMの垂直成分が最も下行した時点までを解析対象とした.膝・股関節の運動学・運動力学的データは各3条件それぞれの患側下肢の3回平均のデータを採用した.そこから初期接地の時点の値,最高値,最低値を膝・股関節の矢状面について分析した.統計解析にはR2.8.1を使用し,反復測定分散分析を用いて条件間を比較し,post hocにはシェイファーの多重比較法を用いた.有意水準はp=0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象には本研究の目的,方法,リスクなどを口頭および文書で説明し,未成年は保護者も含めて署名にて同意を得た.本研究は山形県立保健医療大学と済生会山形済生病院の倫理審査委員会の承認を得ている.【結果】初期接地の時点における,膝屈曲角度については裸足で15.7±6.3度,靴で15.6±5.2度,靴とインソールで17.8±5.6度の値であり,平均値に差を認めたものの統計学的に有意ではなかった.その他,膝と股関節の屈伸角度と外的屈伸モーメントを初期接地の時点の値,最高値,最低値について分析を行ったが,裸足,靴,靴とインソールの3条件間にいずれの値も有意な差は認められなかった.【考察】インソールの装着は回内防止効果によって足根骨の骨結束を高め,距骨を遠位脛腓関節の間に滑り込みやすくすることが考えられる。それにより,初期接地時のインソールの条件で膝屈曲角度が2度以上増加したと考えられたが,統計学的有意差は認められなかった.この要因として本研究では対象者が7名と少なく,統計学的に保守的な結果となりやすい点が考えられ,今後対象人数を増やしての検討が必要であると考えられた.また,前額面や横断面の分析に加えて筋電図学的な検討も考慮していく必要が考えられる.【理学療法学研究としての意義】ACLの再損傷予防においては,神経筋コントロールが重要であり,インソールは挿入するだけでそれを改善できる可能性がある.実際のACL再建術後患者に対して,インソール挿入の効果を定量的に検討することは,根拠を持った適応の一助となると考えられる.
  • ~障害発生状況から今後の関わりについて~
    佐々木 泰彦, 本間 佑介, 平石 武士
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年、スポーツ障害予防に関する重要性が叫ばれているが、ミニバスケットボール選手(小学生)を対象とした報告は少ない。そこで、障害予防活動の一助とするために、群馬県ミニバスケットボール選手の障害発生状況を調査した。【方法】群馬県ミニバスケットボール選手451名(4年生男子:68名、4年生女子:79名、5年生男子:151名、5年生女子:153名)を対象に障害発生状況に関するアンケート調査を実施した。内容は、学年、年齢、性別、疼痛の有無と程度(足関節・膝関節)、既往歴、医療機関受診の有無、練習日数と時間について等である。【倫理的配慮、説明と同意】アンケート調査により得られたデータの利用について、書面にて説明し同意を得た。【結果】アンケート回収率は61.1%であった。足関節痛について、過去に足関節痛を有した経験のある選手は全体の199名(44.1%)で、4年生男子28名(41.2%)、女子31名(39.2%)、5年生男子74名(49.0%)、女子66名(43.1%)であった。現在、足関節痛を有している選手は全体の35名(7.7%)で、4年生男子6名(8.8%)、女子6名(7.6%)、5年生男子10名(6.6%)、女子13名(8.5%)であった。各群における有意差は認められなかった。膝関節痛について、過去に膝関節痛を有した経験のある選手は全体の167名(37.0%)で、4年生男子22名(32.4%)、女子23名(29.1%)、5年生男子65名(43.1%)、女子58名(37.9%)であった。現在、膝関節痛を有している選手は全体の55名(12.2%)で、4年生男子6名(8.8%)、女子9名(11.4%)、5年生男子21名(13.9%)、女子19名(12.4%)であった。各群における有意差は認められなかった。また、過去・現在の経験を含め、足関節または膝関節痛を有した経験のある選手は全体の263名(58.3%)であった。医療機関への受診率は、過去に受診した選手35名(9.6%)、現在受診している選手13名(14.9%)であった。平均練習日数は週4±1.02回、1回の平均練習時間は1日2時間53分±1時間14分であった。【考察】成田ら(2001)は、バスケットボールは競技特性から下肢関節に多大な負荷がかかり、足関節や膝関節に外傷や障害が発生し易いと報告している。また、狩野ら(1998)は、近年、スポーツ選手の低年齢化が進み、成長期においてスポーツ選手の障害は高頻度で発生していると述べている。今回の調査結果より、58.3%の選手が過去・現在の経験を含め足関節や膝関節に疼痛を有していた事が分かった。10~11歳頃は骨格の活発な発育によって身長が急速に伸びる時期である。今回の疼痛経験者の割合からも、成長期を迎えるミニバスケットボール選手にとって足関節や膝関節の障害が高頻度に発生する危険性を持っていると考えられた。その他に、ミニバスケットボール選手の平均練習日数と時間を調査したが、日本臨床スポーツ医学会における青少年の野球障害に対する提言の中では、「小学生の練習は、週3日以内、1日2時間を超えない事が望ましい」とされている。今回の群馬県ミニバスケットボール選手の練習量を比較すると、日数・時間ともにミニバスケットボールの方が上回っていた。この事も、疼痛の起因となっている可能性があると推察する。今回、アンケート調査のみを実施したが、アンケート結果だけでは障害発生と身体特性の関連等の精査は困難である。また、「運動器の10年」における「成長期のスポーツ外傷予防啓発委員会」では、成長期のピッチャーを対象とした障害予防の取り組みを行っている。一方、ミニバスケットボール選手を対象とした障害予防活動や報告は、未だに少ないのが実状である。今後の関わりとして、障害発生状況を調査するだけではなく、身体状況を定期的に把握する為にメディカルチェックを実施する事、バスケットボール特有の障害や成長期特有の障害、身体能力・練習内容や量との関連を明らかにし情報提供をしていく事で、成長期のミニバスケットボール選手の障害予防を図っていきたい。また、それらの活動を通し、選手、保護者、監督・コーチの障害予防に対する認識の向上を促していきたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】ミニバスケットボール選手の障害発生状況を調査する事で、成長期である選手の障害予防を図る為の一助とする。
  • ~高校野球と中学野球の傾向を踏まえて~
    遠藤 康裕, 宇賀 大祐, 阿部 洋太, 高橋 和宏, 中澤 理恵, 坂本 雅昭
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】群馬県では,高校野球選手のスポーツ障害予防を目的に,群馬県高等学校野球連盟(高野連)からの依頼により,2002年の第84回全国高等学校野球選手権群馬県大会(以下:夏季大会)から,理学療法士(以下:PT)によるメディカルサポートが開始となった.さらに,2006年から秋季関東地区高等学校野球大会群馬県予選(以下:秋季大会),2007年から春季関東地区高等学校野球大会群馬県予選(以下:春季大会)においてもメディカルサポートを開始した.これまで数回にわたり,本学会においてその結果を報告させていただいている.さらに本年度は全国中学校軟式野球大会(以下:全中大会)においても同様のサポートを実施した.今回,2002年からこれまでの11年間の高校野球メディカルサポートおよび全中大会メディカルサポートにおけるPTによるサポートについて,各世代の傾向をふまえ報告する.【方法】対象は2002~2012年度までに開催された群馬県高校野球夏季大会11大会,春季大会6大会,秋季大会7大会の計24大会(以下:高校野球)と全中大会1大会(以下:中学野球)とした.配置PT数は,夏季大会の4回戦以前,春季・秋季大会・全中大会が1会場2人,夏季大会の4回戦以降は1会場6人以上とした.対応は,事前に県高野連および中学校体育連盟(中体連)と協議した内容に従い,障害予防やアクシデントに対する応急処置やリコンディショニングと,夏季大会4回戦以前の希望チームと4回戦以降の全チーム,秋季・春季大会・全中大会の希望チームに対して試合後の投手のクーリングダウンを行った.また,夏季大会4回戦以降の全チームに対して野手の集団クーリングダウンを行なった.【倫理的配慮、説明と同意】サポート実施にあたり,選手および指導者に対しサポート内容の趣旨を十分に説明した.今回の報告にあたっては個人情報の保護,倫理的配慮に十分注意し集計を行った.【結果】高校野球メディカルサポート参加PT数は,2002年には述べ64名であり,対象試合の増加とともにPT数も徐々に増加している.最も多かったのは2011年で述べ106名であった.選手に対する応急処置等の対応件数は,高校野球で述べ508件(一試合平均0.85件),全中大会で述べ17件(一試合平均0.71件)であった.高校野球では部位として下腿(78件),大腿部(59件),障害内容としては筋痙攣(124件),打撲(51件)が多く,その9割以上が夏季大会での対応であった.対応内容はストレッチング(147件),テーピング(138件)が多かった.中学野球では,前腕(2件),肩関節(2件),足関節(2件)が多く,対応内容としては試合後のコンディショニング指導(6件),ストレッチング(4件),テーピング(4件)が多かった.投手クーリングダウンを行った投手は,高校野球延べ711名(一試合平均1.18件,実数411名),中学野球延べ61名(一試合平均2.54件,実数38名)であった.高校野球の年度別でみると,サポート拡大から3年後の2008年度より大幅に実施者数が増大した.肩関節や肘関節に他動運動時痛を有する投手は,高校野球では実数で137名(33.3%)おり,2012年度年間平均では45.2%となっていた.中学野球では9名(34.2%)であった.【考察】高校野球に対するサポートでは,応急処置として,大腿・下腿部,特に筋痙攣への対応が多く,夏季大会でその傾向が顕著であった.夏季大会における気候および連戦による全身的,局所的な筋疲労が影響している可能性が考えられる.対応内容として,テーピング,ストレッチングが多かったのも,その多くが大腿部,下腿部の筋痙攣に対応したことが要因であった.投手クーリングダウンでは,各年度の有痛者率をみると減少しているとはいえず,まだまだ障害予防の取り組みが不十分であると考えられる. 中学野球においては,試合後のコンディショニング指導希望が多く,また,投手クーリングダウンも一試合平均2.5人と非常に多くの要請を頂いた.この年代ではまだコンディショニングやクーリングダウンについての知識が不十分であり,PTへの需要が高くなったと考えられた.今後はクーリングダウンの重要性や適切な方法の指導など,大会期間以外での障害予防の啓発活動が重要になると考える.より適切かつ十分なサポートを提供できるよう,参加PTの育成やマンパワーの確保も重要な課題である.【理学療法学研究としての意義】過去11年間のメディカルサポート結果を集計した今回の報告は,課題の見直し,今後の取り組みへの指針として有用であると考える.また,中学生年代からのサポートの重要性が示唆されたことも重要な点である.
  • 田代 雄斗, 行武 大毅, 梶原 由布, 山田 実, 青山 朋樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】ボート競技における艇を漕ぐという動作は、優れた持久力と瞬発力、柔軟性が求められる全身運動であるが、ボート選手のトレーニングは非常にハードであることから、様々なスポーツ障害が発生する。特に発生率の高い障害部位は腰背部、肋骨、膝周囲などであり、ボート競技によって発生した障害のうち、膝周囲が29%、腰背部が22%、肋骨が9%であったことが報告されている。特に、日本では大学生から導入される左右非対称の動作を行うスイープ種目により、身体の左右バランスの変調が生じ、それによって障害が発生することも想定される。しかし、ボート競技者の身体的左右差と障害発生との関連についての検討はほとんどなされていない。本研究の目的は、1)日本国内の大学生ボート選手における障害の実態を調査すること、および、2)障害発生との関連因子を検討することである。【方法】本研究は全国の大学生ボート選手を対象にアンケートを実施し、その結果を解析する横断研究である。アンケートは、研究協力の了承を得た大学生ボート団体15チームに配布した。アンケートの内容は、年齢、性別、主な競技種目(スカルもしくはスイープ)、競技歴、2000mエルゴスコア、過去一年間の疼痛の有無(腰背部、肋骨、膝周囲)、主観的左右差(振り向き、脚長差、脚組み)、練習量、アップ・ダウンの有無・時間・内容とした。統計解析としては、各部位の疼痛発生を従属変数とし、各アンケート項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行い、各部位の疼痛発生に関与する危険因子を検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には直接紙面及び口頭で十分な説明を行い、同意を得て実施した。本研究は京都大学医の倫理委員会に承認されている。【結果】解析には、回答を得られた9チーム(183人分)のデータを用いた。選手の内訳は、男性132人(72%)、女性52人(28%)であり、主な競技種目の内訳は、スカル78人(43%)、スイープ106人(57%)であった。過去一年間の腰背部痛既往者は118人(65%)、肋骨痛既往者は、47人(25%)、膝周囲痛既往者は44人(24%)であった。ロジスティック回帰分析の結果、腰背部痛と肋骨痛において主観的脚長差の存在が有意な関連要因として抽出された。腰背部においては主観的脚長差が存在すると痛みが発生しており、肋骨においても同様の結果であった(腰背部痛:オッズ比 3.7, 95%CI :1.56-8.9, p<0.01、肋骨痛:オッズ比2.4, 95%CI: 1.0-5.3, p<0.05)。【考察】本研究の結果、腰背部痛が65%、肋骨痛、膝周囲痛がそれぞれ25%程度発生しており、先行研究と同様に日本国内の大学生においてもこの3部位の障害発生割合が高い現状が認められた。腰背部痛や肋骨痛の発生要因には練習量や内容、クールダウンの状況など様々な報告がなされているが、今回の解析では痛みの発生に関わりうるこれらの因子で調整してもなお、主観的脚長差の存在が痛みの有無に影響していることが明らかとなった。ボート競技は主に、下肢で生み出した力を体幹、上肢へと伝達させることで艇を動かしているので、主観的脚長差の存在によって体幹、上肢への負荷にも偏りが発生することが、障害発生にもつながる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回、ボート選手における障害発生において、身体に生じている主観的左右差が関係している可能性が示唆された。スポーツ現場において、各選手において生じている左右差を正しく評価してアプローチを行うことで障害の予防、改善を行える可能性があることが分かった。
  • 学校単位での運動器検診はスポーツ障害を防げる可能性がある
    妹尾 翼, 布野 優香, 加藤 勇輝, 太田 珠代, 江草 典政
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 2012年より、島根県スポーツの発展と障害予防を目的とし、島根大学医学部附属病院整形外科と出雲圏域の病院に所属する理学療法士を中心としてチームを立ち上げた。今回、その活動の一環として、スポーツ障害の早期発見と予防を目的に運動器検診と柔軟性の評価を行ない、さらにコンディショニングやセルフケアの指導を実施した。検診を通して得られた調査結果から、中学生の柔軟性とスポーツ障害有病率の実態について報告する。【方法】 対象は隠岐の島町の中学校4校(A,B,C,Dとする)の1、2年生240名(男子112名、女子128名)であった。検診の測定項目は、柔軟性の指標として下肢伸展挙上(SLR)、股関節内旋(HIR)、股関節外旋(HER)、踵殿間距離(HBD)、膝屈曲位での足関節背屈(DKF)、膝伸展位での足関節背屈(DKE)をそれぞれ計測し、その結果を学校別、男女別で比較し検討した。統計解析は4校間の柔軟性の比較にはKruskal-Wallis検定を、男女の柔軟性の比較にはMann-WhitneyのU検定を、スポーツ障害有病率の男女差の有無についてはχ²検定を行った。いずれも、有意水準は危険率5%未満とした。また、マークシートを用いたスクリーニングにより運動器疾患の疑いのある生徒を抽出し、整形外科医が診察してスポーツ障害の有無を診断した。【倫理的配慮、説明と同意】 事前に各学校に検診の意義と方法について説明し同意を得て実施した。なお収集したデータは個人が特定できないように匿名化した。【結果】 4校全体での先天性疾患を含む運動器疾患の有病率は22%(53名)であった。またスポーツ障害に限定した場合の全体に対する有病率は9.5%(23名)であった。学校別では、A中学校は他3校に比べて有意に柔軟性が高く、D中学校は低い傾向にあるなど学校によって柔軟性が異なることが明らかとなった。また、スポーツ障害有病率もA中学校は8.1%と低く、D中学校は18.1%と高い傾向にあった。男女の各項目の平均値は、(男子/女子)SLR71.6°/75.4°、HIR53.7°/61.1°、HER63.7°/64.3°、HBD-1.1/-0.4cm、KFD23.4°/24.8°、KED13.0°/13.6°であり、女子群のSLR、HIR、HBDの柔軟性が有意に高かった(p<00.5)。各性別におけるスポーツ障害有病者数は男子112名のうち17名(15%)、女子128名のうち6名(5%)であり、有病率は男子が有意に高値を示した(p<0.01)。【考察】 文部科学省は昭和23年より、「学校における幼児、児童及び生徒の発育及び健康の状態を明らかにすること」を目的に学校保健統計調査を開始した。2012年度の報告では、耳疾患、心電図異常、ぜん息ともに約3%であった。この結果と比較すると、今回の運動器検診により運動器疾患と診断された22%は非常に多く、運動器検診の重要性が示唆された。学校別でA中学校が他校と比較し柔軟性が高く、またスポーツ障害有病率が低かった理由としては、A中学校のスポーツ障害予防に向けた取り組みが挙げられる。2011年も各中学校に整形外科医が検診とセルフケアの講義を行ったが、その後の口頭による調査によりA中学校のみがカリキュラムとしてスポーツ障害予防と体力向上を目的に、柔軟体操と長距離走に取り組んだことが確認された。この取り組みが今回の結果に反映されたと考えられる。この結果から、医療関係者が積極的に介入し、かつ学校が主体となり予防対策を継続することによりスポーツ障害を未然に防ぐ事ができる可能性が示唆された。男女別で女子群のSLR、HIR、HBDが男子群と比較し有意に柔軟性が高かった理由として、成長期における男子の身長・筋断面積の増加率は高く筋タイトネスが生じること、女性の腱伸張性が高いこと、女性の大腿骨前捻角は大きく解剖学的に股関節内旋位になること、女性ホルモンが関節弛緩性を増大させることなど、様々な影響が先行研究により示されている。今回の検診により男女でスポーツ障害の有病率が異なっていることから考えると、SLR、HIR、HBDの柔軟性低下がスポーツ障害を引き起こす要因である可能性が示された。成長期スポーツ障害予防を考える際はもちろん、日常診療においてもこの点を考慮する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 学校単位で運動器検診の実践例は少なく、部活動やスポーツの種類の範囲にとどまらない検診活動を継続し、かつ理学療法士が中心となったコンディショニング・セルフケア指導を行うことが、スポーツ障害の予防に重要である可能性を示した。
  • -都市部での野球肘検診の取り組み-
    濱中 康治, 志村 圭太, 梅村 悟, 永井 洋, 伊藤 博子, 中島 啓介, 長崎 稔, 木村 鷹介, 中村 拓成, 田中 尚喜, 柏口 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】成長期における野球肘においては、発育途上にある骨端骨軟骨の障害が多いことに特徴がある。なかでも離断性骨軟骨炎とも呼ばれる、上腕骨小頭骨軟骨障害(以下OCD)は進行すると治療に難渋するため早期発見が望まれる。OCDの早期発見を目的として、1981年から徳島県で実施されている野球肘検診をはじめ、全国各地で野球肘検診活動の取り組みが行われ、その活動は広まり始めている。その多くは、各地の野球教室や野球大会と合同で開催され、野球教室や大会の現場での検診が実施されているが、大規模な検診になると、より多くの機材やマンパワーが必要となるため、都市部での野球肘検診の実施には高いハードルがある。当院では、都市部における野球肘検診活動として、2010年より医療機関内における野球肘検診を実施している。OCD発症予防のための啓発活動と野球肘検診活動の更なる拡大を目的として、その取り組みの紹介とこれまでの検診結果を報告する。【検診方法】当院では1ヵ月に1度、平日の午後6時から、スポーツ健康医学実践センター内で野球肘検診を実施している。野球肘検診については、その目的と機能から保険外診療とし、1件の受診料は2500円に設定している。対象はOCDの好発年齢・保存的加療の適応年齢を考慮し、原則として10~12歳の小学生としている。理学療法士(以下PT)による理学所見評価、臨床検査技師による超音波画像検査(以下エコー検査)、医師による総合評価を実施する。 理学所見評価については、肘関節屈曲・伸展の他動運動時の疼痛と可動域制限の有無、内側上顆・腕橈関節・肘頭の圧痛、外反ストレステストでの疼痛、手関節屈筋群(上腕骨内側上顆に起始するもの)の筋委縮、橈骨頭の肥大、尺骨神経溝部での尺骨神経亜脱臼の有無を評価し、その他、肘関節以外にも利用者が疼痛を訴えた箇所に必要な所見を評価している。エコー検査では前方・後方から上腕骨小頭の不整像の有無とその程度を評価し、それらの結果から、医師による総合評価で二次検診の必要性を判断し、二次検診の必要ありと判断された利用者には、医師が紹介状を作成し、医療機関での精査を勧めている。【倫理的配慮、説明と同意】今回の報告におけるすべての調査は電子カルテを用いて後方視的に行っており、対象者に有害事象は生じなかった。また匿名性の保持と個人情報流出には十分留意した。【検診結果】2010年6月から2012年11月までに、延べ119名の利用があった。年齢は10.5±1.1才だった。理学所見評価での異常所見は肘関節の他動運動時痛3名(2.3%)、可動域制限39名(32.8%)、内側上顆の圧痛10名(8.4%)、肘頭の圧痛1名(0.8%)、腕橈関節部の圧痛0名(0%)、外反ストレステストでの内側部痛20名(16.8%)、手関節屈筋群の筋委縮2名(1.7%)、橈骨頭の肥大4名(3.4%)、尺骨神経溝部での尺骨神経亜脱臼3名(2.5%)に認められた。エコー検査での異常所見を認めたものが6名(5.0%)であった。医師の総合評価によって二次検診の必要ありと判断されたのは27名(22.7%)で、肘内側部障害の疑い18名、OCD疑い6名、上腕骨近位骨端線障害1名、体幹・下肢の骨軟骨障害疑い4名だった。二次検診の必要ありと判断された利用者27名のうち、当院でのフォローアップを実施したものは18名(66.7%)であった。【考察】OCD疑いと判断された6名のうち、3名が肘内側部に圧痛・外反ストレス痛を認めた。1名は肘関節の伸展制限のみを認めたが、2名についてはエコー所見以外、全ての所見で異常は認められなかった。一般的にOCDは投球時の肘外反ストレスによる肘外側部への圧迫・剪断力によって生じ、外側部に疼痛が出現するとされているが、当院の野球肘検診でOCDが発見された6名はいずれも肘外側部の理学所見は認めなかった。このことは早期のOCDは理学所見に乏しく、OCDの早期発見にはエコー検査が有用であることを示すものである。また、当院でフォローアップを実施したOCD疑い5名の中で、定期的な野球肘検診の必要性を示唆する1例を紹介する。初回の検診時(10歳10ヶ月時)にはエコー検査を含めた全ての所見で異常を認めなかったが、その7ヶ月後(11歳5ヶ月時)の検診で外反ストレステストでの内側部痛があり、エコー検査で初期のOCDが発見された。その後、投球動作を禁止することで約7ヶ月後に良好な骨化が確認され、競技復帰が可能となった。この経験から、当院では10歳前後のOCD好発年代には定期的な検診の必要性を啓発し、6ヶ月に1度の検診を勧めている。【理学療法学研究としての意義】医療機関における野球肘検診を紹介することで、野球肘検診を実施できていない地域にも野球肘検診を広め、PTがその活動に参加することにより、より多くの野球プレーヤーを障害から守ることが可能になる。
  • 竹内 明禅, 五十峯 淳一, 八反丸 健二(MD)
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 サッカーは世界で最も人気があるスポーツと位置づけられ、競技団体としては世界最大である。近年、スポーツにおける傷害予防を目的とした予防プログラムの必要性が提唱されており、2011年国際サッカー連盟医学評価研究センター(以下、F-MARC)はサッカー選手を対象とした傷害予防プログラム「The 11+」を作成した。しかし、先行研究は社会人・大学生などのカテゴリーが多く、基準としてのU-15年代の客観的データは少ない。 今回、男子中学サッカー選手を対象に傷害予防プログラム「The 11+」を実施して傷害発生率及びパフォーマンスの変化を調査した結果、若干の知見を得たので報告する。【対象】 2011年~2012年に鹿児島県内トップレベルの某クラブチームに所属する選手43名とし、全て中学2年生で競技レベルが同一の2群に分類した。1.コントロール群(以下、C群):2011年19名(年齢:13.5±0.5歳・身長:156.1±8.0cm・体重:42.7±8.1kg)2.The11+群(以下、11+群):2012年 24名(年齢:13.5±0.5歳・身長:156.7±7.9cm・体重:44.4±6.6kg)【方法】 「The 11+」施行期間は6カ月間とし、頻度は2回/週とした。練習・試合時間を調査し傷害発生率として選手1人の1000曝露時間当たりの発生率を算出した。[傷害発生率=発生件数/曝露時間(練習+試合時間)×1.000]  次にパフォーマンス調査として4月と9月に1)ステップ50 2)10m×5走 3)30m走 4)立ち幅跳び(両足)5)立ち幅跳び(左足) 6)立ち幅跳び(右足) 7)20mシャトルランの7項目のフィジカルテストを実施した。1.C群と11+群の2群間で傷害発生率を比較2.11+群において「The 11+」施行前(4月)と施行後(9月)に1)~7)の項目を比較【倫理的配慮、説明と同意】 測定実施に際し、研究の趣旨をクラブ代表者及び保護者へ説明し、同意が得られた選手を研究対象とした。また、本研究にあたり当院の教育作業委員会及び倫理委員会の承諾を得て研究を実施した。【結果】1.C群(2.79)と比較して11+群(1.90)の方が有意に傷害発生率は減少(p<0.05)2.1)~3)については有意差を認めなかったものの、4)~7)の項目については有意に増加(p<0.05)4)前183.6±18.9 ・後192.3±10.9(cm) 5)前156.4±16.9 ・後164.9±16.0(cm) 6)前151.8±17.0 ・後163.5±16.0(cm) 7)前92.6±16.9 ・後101.5±14.6(本)【考察】 「The 11+」の目的は総合的な傷害発生予防に主眼が置かれ、特に14歳以上のサッカー選手に対するプログラムである。今回の調査よりF-MARCの提示する先行研究と同様の傷害発生率の減少という結果を得た。また、パフォ-マンスにおいてはスプリント能力・俊敏性という運動能力への影響が少なかった。要因として14歳前後はポストゴールデンエイジの「クラムジー」の時期で筋・骨格・神経系のバランスが不均衡になり一時的に運動能力が低下するためだと考えられる。しかし、パワー系の項目が有意に増加する結果については福林の「The 11+で下肢筋量が有意に増加した」との報告から「The 11+」はランニング系と筋力・プライオメトリクス・バランス系のトレーニング時間は同様であるが、筋に対する影響力が高いものと推察される。今後、各カテゴリー別のデータ蓄積が急務となり、それに伴い効果判定及び分析が必要であると考える。
  • 菅原 康史, 尾崎 勝博, 児玉 祐二, 大山 史朗, 落合 錠
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】我々は育成年代のサッカー部のサポート活動を行っているが、その主要な目的のひとつにスポーツ傷害予防がある。成長期特有の傷害としては、腰椎分離症やオスグッド病などがあり、さらにサッカーに好発する傷害ではgroin painやfootballer’s ankle、アキレス腱断裂などに注意が必要とされている。現場レベルで活動する中で、プレーを継続する選手でも何かしらの症状を抱えているケースを度々経験する。重症化する前に早期対応を行うため、このような潜在的な症状を把握する手段としてメディカルチェック(以下、MC)の重要性が提唱されている。大場らは現場で実施できるMC項目として、体格、柔軟性、局所の圧痛を検査する必要性をあげている。先行研究にて、下肢柔軟性の低下(以下、タイトネス)がスポーツ傷害の発生に関連していることは多く報告されているが、中学生競技者に対するMCにおいて圧痛に関する報告は少ないのが現状である。そこで今回、中学校サッカー部員のMCにおいて、圧痛の有無について調査し、その現状について検討したので報告する。【方法】対象:宮崎県中学校サッカー部員52名(1年生23名、2年生15名、3年生14名)、平均身長/平均体重では、1年生154.2±6.1cm/45.4±5.7kg、2年生164.3±7.9cm/57.5±7.1kg、3年生168.2±5.0/50.7±7.2であった。MCは全員同日同会場にて測定した。圧痛は、成長期特有やサッカー特有のスポーツ傷害の好発部位について検査し、腰部、股関節、脛骨粗面、アキレス腱、足部の全9部位について検査し、集計を行なった。1)全体の圧痛発生率 2)各圧痛の発生率 3)圧痛有訴者の平均圧痛部位数について集計し、その現状について検討する。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、監督、選手、学校に十分な説明と同意を得て行った。【結果】1)圧痛の発生率(全部員における何かしら圧痛を有している者の割合)55.8%(29人/52人)の内、疼痛自覚有訴者は10.3%(3人/29人)であった。2)各圧痛部位の発生率、A:腰部の圧痛を有する者の割合:19.2%(10人/52人)。B:股関節の圧痛を有する者の割合:7.7%(4人/52人)。C:脛骨粗面の圧痛を有する者の割合:9.6%(5人/52人)。D:アキレス腱の圧痛を有する者の割合:13.5%(7人/52人)。E:足部の圧痛を有する者の割合:5.8%(3人/52人)3)圧痛有訴者の平均圧痛部位数:1.3部位(37部位/29人)であった。【考察】MCにおいて中学生サッカー部員が有する圧痛について調査した。チームの約半数の部員がプレーを継続しながらも何かしらの圧痛を有している現状が明らかとなる一方、自覚症状がない者が多い傾向にあることが覗えた。各部位の発生率をみると、腰部19.2%、アキレス腱13.5%が上位2項目であり、成長期やサッカー特有の好発部位と符合する結果となった。本調査で明らかとなった圧痛の特性と成長期の筋バランスの不均衡やタイトネスとの関連性を考える必要がある。また成長期において、自覚症状を訴える者は少なく、気付かないまま痛みを抱えながらプレーすることでパフォーマンスの低下につながり、より重度な傷害を招くリスクをはらんでいる。傷害の重症化や成長期特有の傷害予防、早期発見につなげるために、MCにおいて圧痛所見を確認することが有効な一つの手段と考える。【理学療法学研究としての意義】圧痛の検査をすることで、早期発見と傷害予防から、成長期のタイトネスや関節弛緩性、競技特性などへつなげていく必要がある。
  • キックの種類による比較
    山根 鉄平, 三浦 雅史, 川口 徹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】サッカーという競技において、キック動作は最も特徴的であり、使用頻度の高い技術の一つである。サッカー選手に多いスポーツ障害の一つとして、第5中足骨疲労骨折が挙げられるが、術後再骨折したとの症例報告や発症が軸足(ボールを蹴る時、蹴る方の足と反対の支持側下肢)に多かったという報告がある。しかし、第5中足骨疲労骨折の発症後・術後における理学療法で患部への負荷を軸足側の下腿傾斜角度やキックの種類から検討した報告は少ない。第5中足骨疲労骨折について、キック動作時における軸足の影響や理学療法の際にどの種類のキックから始めると患部への負荷が少ないか等を検討していくことが今後必要である。そこで本研究の目的を、キックの種類によって軸足側の下腿傾斜角度が異なるかを比較・検討することとした。【方法】対象はアマチュア一般社会人サッカーチームに所属する健常男性10名とした。運動課題は、3m先の的(90cm×90cm)に向かって、静止したサッカーボールを全力でキックする動作とした。助走は任意の距離・角度からの一歩助走とし、軸足は的の方向へ真っすぐ向けることとした。キック動作は、インサイドキック、インステップキック、アウトサイドキック、インフロントキックの4種類を利き足(ボールを蹴るのが得意な方の足)でそれぞれ5本ずつ行った。なお、キックの種類の順番は順序効果を考慮し、無作為に決定した。全てのキック動作をデジタルビデオカメラ(SONY社製、30コマ/秒)を使用し、軸足の踏み込み位置より約3m後方から撮影した。撮影した動画は、2次元動作解析ソフト(ダートフィッシュソフトウェアVer pro5.5、ダートフィッシュ社製)を使用し、ボールインパクトの瞬間における軸足の下腿傾斜角度を前額面上で測定した。下腿傾斜角度は、反射マーカーを貼付した腓骨頭・外果を結んだ直線と床面からの垂直線のなす角度とし、外側方向(左下肢が軸足の場合は左側方)への傾斜を正とした。4種類のキックそれぞれについて、5本の平均値をもって下腿傾斜角度の記録とした。統計学的解析は、それぞれのキックの種類における下腿傾斜角度の平均値を求めた。また、キックの種類の違いによる下腿傾斜角度の比較には一元配置分散分析を行った。多重比較検定にはScheffeの方法を用いて行った。有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象には、ヘルシンキ宣言に則り、被検者の保護・権利の優先、自由参加、研究内容、研究による身体への影響の可能性などを口頭および文書にて説明し、同意を得た後に測定を行った。【結果】対象の属性および身体組成は、年齢20.9±1.7歳、競技歴11.9±2.7年、身長170.1±6.1cm、体重63.7±7.6kgであった。下腿傾斜角度の平均値は、インサイドキック13.7±6.8°、インステップキック26.1±6.5°、アウトサイドキック14.7±5.3°、インフロントキック22.6±7.8°であった。これら4種類のキック動作間で下腿傾斜角度に有意な差が認められた(p<0.001)。そのうち、インサイドキックとインステップキック間(p<0.01)、インサイドキックとインフロントキック間(p<0.05)、インステップキックとアウトサイドキック間(p<0.01)において有意な差が認められ、インステップキックとインフロントキックがインサイドキックと比較して、インステップキックがアウトサイドキックと比較して下腿傾斜角度が大きかった。【考察】サッカーのキック動作では、軸足側の下腿傾斜角度が大きくなり外側荷重となることで、外側縦アーチが低下し第5中足骨へのストレスが生じると考えられる。このことが第5中足骨疲労骨折の一因であると予想し、今回キックの種類と軸足の下腿傾斜角度に着目してキック動作の分析を行った。インサイドキック、インステップキック、アウトサイドキック、インフロントキックの4種類のキック動作では軸足の傾斜角度が異なり、特にインステップキックおよびインフロントキックにおいて、軸足は外側方向への傾斜が大きくなる。よってインステップキックとインフロントキック動作時では、軸足の足部外側への荷重負荷が大きい可能性があり、例えば第5中足骨疲労骨折に対する理学療法を開始する際などにキックの種類を考慮する必要性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】キックの種類によって、軸足の足部外側への荷重負荷が異なる可能性がある。今後、軸足傾斜角度と下肢アライメント等との関係や、軸足における実際の足底圧等についても検討を加えることで、第5中足骨疲労骨折の予防や理学療法の一助となると考える。
  • 大学選手と高校選手の比較
    和田 孝明, 吉田 昌平, 吉川 信人, 豊島 康直, 秋本 剛, 杉之下 武彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-P-27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 従来の自転車エルゴメーターを用いた体力テストで求められる最大無酸素パワー(MAnP)はペダル負荷が重く、低回転数で得られるパワーのみの評価であった。それに加えて吉田らは、ペダル負荷が軽く、高回転で得られるピーク回転数を評価することで動作の特異性を予測することが可能なPrediction of Instantaneous power and Agility performances used by pedaling test(PIA pedaling test)を考案した。 本研究では、大学生男子サッカー選手と高校生男子サッカー選手においてPIA pedaling testを実施し、それぞれの世代のパフォーマンスの特異性について検討することを目的とした。【方法】 大学生男子サッカー部(関西1部リーグ)53名(年齢19.4±1.1歳、身長173.5±7.2cm、体重167.6±17.4cm、体重62.4±8.7kg)と高校生男子サッカー部(京都府ベスト4)40名(年齢16.2±0.7歳、身長167.6±17.4cm、体重62.4±8.7kg)を対象とした。 自転車エルゴメーターにおけるパワー発揮能力の評価はcombi社製PowerMaxVIIを使用し、十分なウォーミングアップの後に体重の5、7.5、10%の各負荷でそれぞれ10秒間の全力ペダリングを実施し、中村らの方法にて最大無酸素パワー(MAnP)を求めた。セット間の休息は2分とした。パワー発揮能力の指標はMAnPにおける体重当たりの仕事量(HP)と、5%負荷におけるピーク回転数(HF)とした。大学生と高校生のパワー発揮能力について検討した。統計処理には大学生と高校生のHPとHFのそれぞれの比較に対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の研究において対象者に研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】 大学生はHPが13.4±1.3watts/kgであり、HFは187.6±10.1rpmであった。高校生はHPが13.7±1.6watts/kgであり、HFは178.8±12.5rpmであった。大学生と高校生のHPに有意差はないが(p=0.34)、HFでは大学生が高校生より有意に高かった(p<0.01)。【考察】 PIA pedaling testで評価されるHPは、股関節伸展筋力を中心とした脚伸展筋力を主動作筋とし、実際の動作における垂直跳びと相関を認めた(吉田ら、2007)。また、HFは股関節屈曲筋力を中心とした脚屈曲筋力を主動作筋とし、実際の動作におけるアジリティーと相関を認めた(吉田ら、2009)。したがって、同じ自転車エルゴメーターにおける全力ペダリングであっても、負荷の違いによりその主動作筋は変化し、評価の対象となる筋やパフォーマンスは異なる。このことからPIA pedaling testは、狭義の体力要素の中でも瞬発力やアジリティーといった動作の特異性を客観的に評価が可能になると考える。 本研究の結果は、大学生と高校生を比較し瞬発力に有意差は認められなかったが、アジリティー能力において大学生が有意に高値を示していた。Hiroseら(2010)は、成長段階であるユース年代のフィールドテストにおいて20mや40mスプリントのような単純課題のパフォーマンステストでは成長に伴う順位変動が低く、シャトルランのような複雑な課題によるフィールドテストでは、成長に伴う順位変動が大きいことを報告している。つまり、瞬発力の要素が大きくなる20mや40mスプリントでは、そのスピードがタレント的素因に影響していると考えられるが、アジリティーの要素が大きくなるシャトルランのような複雑な動作では、成長過程によるトレーニングやそれに伴う環境的な要因に左右されることが考えられる。したがって、ユース年代のトレーニングではアジリティーに対するトレーニングを積極的に行わせることや、その主動作筋と考えられる脚屈曲筋力に対するアプローチを行うことが、パフォーマンスの向上の一要因となると考えた。【理学療法学研究としての意義】 今回の我々の結果から大学生、高校生サッカー選手の基本的体力要素である瞬発力とアジリティーについてその特徴が明確となった。また成長段階であるユース年代の選手ではアジリティーを向上させるトレーニングを導入することで、パフォーマンス向上に寄与できると考える。
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