臨床リウマチ
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35 巻, 3 号
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誌説
  • 林 太智
    2023 年 35 巻 3 号 p. 115-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     乾癬性疾患は全身性炎症性疾患であり,脂肪肝炎をはじめとして皮膚・筋骨格以外にもさまざまな病態を合併する.特に乾癬性疾患では心血管疾患による死亡リスクが高く,乾癬性関節炎では尋常性乾癬と比べても有意にそのリスクが高い.付着部炎は患者報告アウトカム(PRO)として反映され,乾癬性疾患患者のQOL障害に大きく関与しているが,現状で十分に評価されているとは言い難く,今後もその評価は難しいと考えられる.こうしたこともあって今なお乾癬性疾患の治療満足度は低く,より早期からの積極的な全身性治療介入が望まれる.乾癬性疾患にはいくつかの治療リコメンデーションがあるが,最終的な治療薬選択は医師に委ねられている.IL-23阻害薬は皮膚病変や付着部炎に対する有効性だけでなく,末梢関節炎においても比較的高い有効性を示しており,バランスが良いことに加えて,長期マネジメントに有用性が高く,近年では乾癬患者の乾癬性関節炎発症抑制の可能性も報告されており,早期から検討すべき薬剤と考えられる.

総説
  • 藤井 隆夫
    2023 年 35 巻 3 号 p. 122-130
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     本邦では5剤のJAK阻害薬が使用できるが,現在までトファシチニブとバリシチニブについては6か月観察時の製造販売後(全例)調査が終了し報告された.感染症は開始後比較的短い期間で発現することが多いため,これら2剤については感染症に関する本邦のエビデンスが確立したと考えられる.その結果,日本リウマチ学会で示されたガイドあるいは使用の手引きに準じて使用することで生物学的抗リウマチ薬に比し重篤な感染症の頻度は必ずしも増加しないと考えられるが,帯状疱疹の発現は高頻度である.そしてそのリスク因子として高齢,グルココルチコイドの使用,帯状疱疹の既往などが世界的にも示唆されている.重篤な感染症においてはリンパ球数にも注意する必要がある.リウマチ医は,これらのリスク因子に留意しながらJAK阻害薬を開始する適切な患者を選択し,もしグルココルチコイドが使用されている場合には減量中止を心がけること,また肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンを積極的に考慮することで,感染症の重症度および頻度の抑制に心がけるべきである.

特集
  • 田中 良哉
    2023 年 35 巻 3 号 p. 131-138
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     生物学的抗リウマチ薬や経口JAK阻害薬の高い有効性は,自己免疫疾患の治療の向上に貢献してきた.関節リウマチに対する分子標的薬としては,9種類の生物学的製剤,5種類のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬が使用可能である.標準的治療はメトトレキサートで開始するが,6ヶ月以内に十分な効果が得られなければ,生物学的製剤またはJAK阻害薬を追加する.それでも目標に到達しなければ,3-6ヶ月を目処に生物学的製剤またはJAK阻害薬を切替える.生物学的製剤とJAK阻害薬の相互の切り替えについては,ほぼ同等の有効性であると示された.また,一部のJAK阻害薬については,直接比較試験でTNF阻害薬よりも高い有効性が示され,さらに,複数の分子標的薬に治療抵抗性のdifficult-to-treat関節リウマチに対しても,前治療薬に依存せず有効性が示された.しかし,ORAL-surveillance試験では,リスクのある患者ではTNF阻害薬と比較してJAK阻害薬では死亡,主要有害心血管イベント,悪性腫瘍,血栓症が増加することが示された.治療前のスクリーニング検査によるリスクアセスメント,および,治療中の定期的なモニタリングや有害事象発生時の適切な全身管理の必要性,並びに,各々の患者における安全性と有効性のバランスを考慮した治療戦略の構築の必要性が十分に認識されるべきである.

  • 山岡 邦宏
    2023 年 35 巻 3 号 p. 139-145
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     トファシチニブは経口内服薬として初めて生物学的製剤と同等の有効性を示した一方で,HZの増加や安全性面でTNF阻害薬との非劣性を示せないことをJAK阻害薬として初めて明らかにした.ORAL Surveillance試験(OS試験)は,IL-6阻害薬が安全性においてTNF阻害薬との非劣性を証明する目的に行ったENTRACTE試験の最中に開始された.いずれも脂質異常症を誘発する薬剤であり,臨床試験や臨床研究の中で心血管事象を増加させないことは示されていたが,TNF阻害薬との比較により新たな手法での安全性証明が試みられた.IL-6阻害薬では非劣性が証明され,JAK阻害薬では証明されなかった.注意すべきは,対照群で使用されたTNF阻害薬は,実臨床で経験豊富な薬剤として用いられており,安全な薬剤の指標ではない点である.欧米では心血管事象に対する注目度が高いが,OS試験で最も重要な結果は,疾患活動性とリスクの高いRA患者に通常用量または過剰用量のトファシチニブを投与すると悪性腫瘍が増加するという点である.最近の本邦からの報告では,生物学的製剤導入時にCTでスクリーニングを行った患者群では単純レントゲン写真で行った場合と比較して死亡率が10分の1まで抑制されていた.このことは,欧米先進国と比較して人口密度が高く,広範にCT普及がしている本邦独自の安全性を向上させた分子標的治療の可能性を物語っている.帯状疱疹に対してはサブユニットワクチンが普及しており,患者負担を考慮しつつ接種を進める工夫が必要である.

  • 中山田 真吾, 田中 良哉
    2023 年 35 巻 3 号 p. 146-152
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     バリシチニブはJAK1/2を標的とする分子標的合成抗リウマチ薬(tsDMARD)である.関節リウマチ(RA)に対するバリシチニブの第3相臨床試験では,メトトレキサート(MTX)未使用の早期RA,MTXに治療抵抗性のRA,TNF阻害薬に治療抵抗性のRAに対して,いずれもプラセボよりも有意に高い有効性と安全性が示されてきた.特に,MTX治療抵抗性のRAに対しては,内服薬でありながらTNF阻害薬よりも有意に高い臨床効果を示した初めてのJAK阻害薬である.本邦では,既存治療で効果不十分なRA,アトピー性皮膚炎,円形脱毛症,SARS-CoV-2による肺炎に対して,バリシチニブ4mgの1日1回経口投与が承認されている.約7割が腎排泄であり,腎機能に応じて2mgへ減量あるいは回避が必要である.重大な副作用として,感染症,消化管穿孔,リンパ球減少,肝機能障害,間質性肺疾患などがあげられ,バイオ抗リウマチ薬(bDMARD)と同様あるいはそれ以上に十分なスクリーニングとモニタリングのもとで投与すべきである.これまでの臨床試験や市販後調査で蓄積されたバリシチニブの有効性と安全性の知見をもとに,専門医による適正な使用が望まれる.

  • 髙梨 敏史, 金子 祐子
    2023 年 35 巻 3 号 p. 153-161
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     ペフィシチニブは,日本で開発され,関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)に対して承認されたヤヌスキナーゼ阻害薬(JAK阻害薬)の1つである.JAK阻害薬本邦では現在関節リウマチに対して5種類のJAK阻害薬は使用可能であるが,ペフィシチニブはJAK1,JAK2,JAK3,Tyk2の4種類すべてのJAKファミリーを阻害するpan-JAK阻害薬である点や腎機能による用量調節が不要な点で他のJAK阻害薬を異なる特徴を有する.現在までにpeficitinibを対象とし,3つのphase2b試験(RA21, RA22, RAJ1)と2つのphase3試験(RAJ3, RAJ4)が実施された.海外の試験で実施されたphase2b試験では,プラセボ群でのACR20反応率が高いという影響もあり,有効性を示すことができなかった.アジア中心に実施されたphase3試験ではペフィシチニブ100mg/日群,150mg/日群ともにプラセボ群と比較して,ACR20,50,70反応率の有意な改善を認めた.また,RAJ4では関節破壊抑制効果も認めている.安全性に関しては,帯状疱疹の発生率は他のJAK阻害薬と同様に頻度が多い傾向がみられた.悪性腫瘍や新血管系のイベントに関しては,長期試験の結果が待たれる.

  • 亀田 秀人
    2023 年 35 巻 3 号 p. 162-168
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     ウパダシチニブはJAK1に高い選択性を示す低分子化合物であり,関節リウマチや脊椎関節炎,炎症性腸疾患,アトピー性皮膚炎の治療薬として国内で承認されている.疾患や患者の状態に応じて1日投与量として7.5 mgから45 mgまで使用されることから,有効性・安全性と用量の関係性を理解することに大いに役立つことが期待されている.多剤治療抵抗例にも有効性を認めているが,他のJAK阻害薬と同様に帯状疱疹をはじめとした感染症には留意する必要がある.ただし,ウパダシチニブが心血管事象や悪性腫瘍の発現リスクを高めることを示唆するエビデンスはこれまでに得られていない.

  • 加藤 将, 渥美 達也
    2023 年 35 巻 3 号 p. 169-176
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

     JAK1を比較的選択的に阻害するフィルゴチニブは,高い臨床効果,関節破壊進行抑制効果,良好な安全性,忍容性を有し,ベネフィット・リスクバランスの良好な薬剤である.また,薬物相互作用が少なく,その使用が患者背景に影響を受けにくい.フィルゴチニブに関する基礎研究,臨床試験の結果は,difficult-to-treat rheumatoid arthritisやrapid radiographic progressionの治療戦略,プレシジョン・メディシン,JAK阻害薬cyclingといったRA診療におけるアンメットニーズを解決していく上でも重要と考えられる.

原著
  • 黒瀬 理恵, 若井 裕司
    2023 年 35 巻 3 号 p. 177-188
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    目的:関節リウマチ患者に対する骨粗鬆症治療として,ロモソズマブが骨密度を増加させることが報告されているが,報告数はまだ多くはない.本研究は,関節リウマチ患者の骨粗鬆症に対するロモソズマブの有効性について,グルココルチコイド投与の有無で検討した.

    対象:当院でロモソズマブの投与を受けた関節リウマチ患者29人を対象とした.腰椎骨密度は,ベースライン時,ロモソズマブ投与6ヵ月後,12ヵ月後に測定した.さらに,骨代謝マーカーと関節リウマチの臨床パラメータを,ベースライン時,3,6,12ヵ月後に測定した.これらのデータは,グルココルチコイド投与の有無に分けて検討された.

    結果:腰椎骨密度は,ロモソズマブ投与後12ヵ月で13.5%増加した.しかし,グルココルチコイド投与群は,非投与群よりも骨密度の変化率が低かった.また,投与6ヵ月後の血清NTX値の変化率は,グルココルチコイド投与群で有意に高かった.血清骨BAP値は投与3ヵ月で上昇した.関節リウマチの臨床パラメータに有意な変化はみられなかった.

    考察と結論:関節リウマチにおけるロモソズマブ治療により,骨形成マーカーが上昇し,骨密度が増加した.しかし,グルココルチコイド投与は骨吸収抑制効果を弱めた.以上より,関節リウマチの治療においては,グルココルチコイドの減量や中止を考慮すべきと考える.

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