保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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原著論文
  • 茨田 匡, 新井 隆史, 久保 昌也, 北村 亘
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2138
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/05/01
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    要 約: 風力発電の設置基数が増加するにつれ、鳥類の衝突事故増加が問題となっており、2021年には発電量が3万7500kW以上の風車について、建設時に希少猛禽類に対して環境アセスメントが求められている。一方、小形風力発電機(以下、小形風車という)は環境アセスメントの義務がなく、影響評価による建設中止がないことから立地選定の制限が少なく大型風車では建てることができない場所にも建設することができ、近年設置基数は増加し続けている。日本での小形風車による鳥類の死亡報告回数は増加傾向にあり、オジロワシHaliaeetus albicillaなどの希少な野鳥の衝突事例(バードストライク)が確認されている。しかし日本では小形風車におけるバードストライクのリスク評価のための研究は未だされていない。日本ではリスク評価に必要なバードストライクの調査データが十分得られていないため、本研究では小形風車から一定の範囲に入った鳥類の接近回数を調査した。定点観察調査による接近回数を目的変数とした一般化線形モデルを用いて飛翔頻度に影響を与える季節や気象などの要因を明らかにした。最も多く接近が観察された種はオオセグロカモメLarus schistisagusで537回、次にウミネコLarus crassirostrisで536回、ハシブトガラスCorvus macrorhynchosで459回、カワラヒワChloris sinicaが292回記録された。希少種であるオジロワシとオオワシH. pelagicusはそれぞれ29回と2回記録された。オオセグロカモメは大型風車でも衝突事例が多い種で共通性も見られたが、小形風車では草原性の小型の鳥類であるカワラヒワでも接近がみられた。風車の稼働調節によるリスク管理として、風速は鳥種によって影響が異なり、ハシブトガラス、カワラヒワでは強風時に接近が少なかったが、逆にオジロワシ、オオセグロカモメでは強風時に接近が多かった。季節の効果は、夏鳥であるカワラヒワだけでなくハシブトガラス、オオセグロカモメにおいても4月-8月の繁殖期に10m範囲内への接近が多く、繁殖期はリスクが高い季節であった。風車の設置場所選択や周辺構造物による鳥類の衝突リスク管理では調査地点数が少なく信頼できる結果は得られなかった。

  • 江口 勇也, 佐久間 幹大, 舩越 優実, 東 典子, 嶌本 樹, 片平 浩孝
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2324
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/06/01
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    電子付録

    要 約:神奈川県では1950年前後にクリハラリスCallosciurus erythraeusが定着し、今なお分布拡大が続いている。その起源には諸説あり、飼育個体の逸脱や伊豆大島を経由した導入が挙げられてきたが、未だ明確な結論は得られていない。そこで本研究では、県内における本種の遺伝的集団構造を明らかにし、地理的由来や分散経路を推察することを目的として、鎌倉市と横浜市および横須賀市において駆除された個体のミトコンドリアDNA cytochrome b(cyt b)領域および調節領域の一部(D-loop)のハプロタイプ組成を調べた。解析の結果、検査した214個体すべてが台湾に由来するcyt bハプロタイプを有していた。さらに、得られた各cyt bハプロタイプに対応する38個体を任意に選抜し、台湾内でのデータが充実しているD-loopの配列と比較したところ、東部系統および東部・南部系統の姉妹グループ(以下、姉妹グループ)に加え西部系統の存在が認められた。鎌倉市では東部系統および姉妹グループが混在しており、従来から有力視されてきた伊豆大島経由の導入およびペットとして飼育されていた個体の逸脱を由来とする可能性が改めて支持された。横浜市ではこれら2系統に加えて西部系統が混在し、さらには東部系統および姉妹グループのハプロタイプ組成も異なるため、鎌倉市とは異なるルートで複数回に渡り人為的に個体が持ち込まれた複雑な導入の経緯が推察された。横須賀市に関しては、鎌倉市と同じ2系統が認められたものの、独自のハプロタイプ組成が見られ、これまで記録されていない未知の導入歴が示唆された。神奈川県ではクリハラリスの更なる拡散を防ぐために分布最前線における積極的駆除が求められており、ソースとなる集団の判別や拡大ルートの推定に対して、今回得られた遺伝情報の有効活用が期待される。

  • 西田 貴明, 遠香 尚史, 吉成 絵里香, 大澤 剛士
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2301
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/06/01
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    電子付録

    要 約:近年、日本において、地域の経済振興、防災減災、環境保全など、さまざまな社会課題の解決に向けて、グリーンインフラ、及び生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)に注目が集まっている。これまで自然環境分野の政策研究では、国や地方自治体の行政計画や施策・事業を分析し、生物多様性に関する政策の変遷や導入状況、実施効果を中心に明らかにしてきた。しかし、近年、注目されるグリーンインフラ・Eco-DRRについて、全国規模で行政計画や事業の導入状況を明らかにした研究はほとんどない。そこで、本研究では、全国の地方自治体の担当者を対象として、グリーンインフラ・Eco-DRRに関わる担当者の認識や、行政計画、関連事業に関するアンケートを実施し、日本のグリーンインフラ・Eco-DRRの全体的な導入状況を調査した。本調査の結果、グリーンインフラ・Eco-DRRに関する行政計画の位置付けの状況は、行政計画の種類ごとに異なっており、グリーンインフラ・Eco-DRRの関連事業は、事業が実施される生態系タイプごとに異なっていた。さらに、本調査により、地方自治体の規模が、地方自治体のグリーンインフラ・Eco-DRRの導入に影響を与えることが示された。大規模の自治体では、小規模自治体と比べて、グリーンインフラ・Eco-DRRに関する行政の担当者の認識が高く、行政計画の位置付けが進み、関連する施策事業の取組意向が高い傾向が示された。地方自治体におけるグリーンインフラ・Eco-DRRの政策導入の違いは、地方自治体の規模と関係が深い、情報伝達の機会や、専門人材、財源の不足等に起因する可能性がある。 キーワード: 気候変動、行政計画、生物多様性、自然環境政策、自然に根ざした解決策 Abstract: Green infrastructure and ecosystem-based disaster risk reduction (GI/Eco-DRR) policies have recently attracted attention in Japan for their potential to resolve various social pressures such as regional economic development, disaster prevention and mitigation, and environmental conservation. Past studies of policies related to the natural environment have mainly investigated changes in biodiversity-related administrative plans, policies, and projects led by national and local governments, and the status and effects of their implementation. However, few such studies have examined municipal GI/Eco-DRR administrative plans, policies, and projects in Japan at the national scale. Therefore, this study conducted a nationwide survey of municipal officials regarding their awareness of GI/Eco-DRR administrative plans and the implementation of related projects. The results revealed that the role of GI/Eco-DRR in administrative plans differs according to the type of plan, and that the implementation of GI/Eco-DRR-related projects is influenced by the type of ecosystem in which the projects are implemented and the size of the local population. Staff awareness of green infrastructure tends to be higher in larger than in smaller municipalities, and larger municipalities are more likely to proactively incorporate GI/Eco-DRR into their administrative plans. Differences in the implementation status of GI/Eco-DRR policies among municipalities are attributable to factors such as the lack of information dissemination opportunities, specialised human resources, and financial resources, which are closely related to municipal population size.

調査報告
  • 山口 朝美, 大澤 剛士*
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2314
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/08/01
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    Abstract: Unmanaged bamboo forests are spreading in several parts of Japan. Bamboo forests tend to have low plant species diversity due to the lack of sunlight. Gastrodia pubilabiata Y. Sawa and G. confusa Honda et Tuyama, which are threatened plants in Japan, are often found in bamboo forests. Both species are mycoheterotrophic plants and theoretically grow in dark environments, along with their symbiotic fungi. Previous studies have suggested that G. pubilabiata and G. confusa prefer forest understories that do not fully cover the vegetation. This environmental condition may match the understories of bamboo forests. In this study, we tested the hypothesis that bamboo spread has created a long-term stable forest harbouring G. pubilabiata through the establishment of a dark environment with little vegetation cover. We focused on G. pubilabiata as there has been minimal misidentification among recently collected specimens. We collected specimen records for the Kanto region of Japan, and established a land cover map using a time series of aerial photographs of the surrounding region for analysis. We also conducted a field survey of G. pubilabiata and analysed its local environmental conditions. Our analyses of the specimen records and field surveys showed that G. pubilabiata inhabits a bamboo forest within the long-term stable forest. Our findings suggest that bamboo forests can harbour this threatened plant species depending on the local conditions. Although we were only able to evaluate this role in the short term, our results suggest that bamboo forests can have positive effects on regional biodiversity. Therefore, the role of unmanaged bamboo forests in the conservation of regional biodiversity should be reconsidered.

  • 吉田 誠, 山本 大輔, 鶴田 博嗣
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2317
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/05/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    電子付録

    要旨:近年、国内複数の水系において特定外来生物チャネルキャットフィッシュIctalurus punctatusの分布拡大が報告されている。矢作川水系では2005年に本種の侵入が確認されて以降、地元の研究機関および市民団体による継続的な採集調査を通じて、矢作川本川の中流域で多数の個体が採捕された。しかし,2014年以降、水系内で本種を対象とした調査は行われておらず、現在の生息状況は不明である。また、矢作川における本種の分布情報はこれまでに、上述した採集調査の経過報告も含む複数の文献で公表されているが、記載された情報の内容や精度には文献間でばらつきがあり、同一の事例を指すと思われる記述の内容にも一部で相違が見られる。本種の防除活動を効率的に進めるためには、個別の分布情報の確度を精査し、その違いを加味して生息域を特定した上で防除策を立てることが不可欠である。本研究では、生息域を特定する手がかりとなる分布情報(捕獲および目撃事例)の水系内での空間的な広がりを把握するため、以下4つの手法を併用して情報収集を行った:(1)文献調査、(2)公開データベースの検索、(3)過去の採集データの再精査、(4)市民(地元住民や釣り人等)を対象とした情報収集。データベース検索は、国土交通省が実施する「河川水辺の国勢調査」のデータが収録された「河川環境データベース」を対象とした。市民からの情報収集では、情報提供を呼びかけるチラシ・カードを作成・配布し、対面およびオンラインで聞き取り調査をおこなった。得られた分布情報を整理した結果、本種の確実な出現記録は、中流域の阿摺ダム湖(愛知県豊田市内、河口から約53 km上流)から明治用水頭首工の湛水域(同市内、同約35 km上流)までの区間で計122 個体分が確認された。このうち14件(12%)は市民からの魚体提供ないし情報提供だった。一方、物証を伴わない捕獲・目撃事例は、上流の矢作ダム湖(同市内、同約70 km上流)から下流の矢作古川分派地点(愛知県西尾市内、同約10 km上流)までの区間で確認された。本種の分布情報が得られた地点は中流部に集中しており、これはサンプリングバイアスに起因すると考えられた。今後、本種の生息域を特定するには、水系全体をカバーする広域・多地点における、体系的かつ定量的な生息調査の実施が求められる。

  • 福島 路生, Michio Fukushima
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2332
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/05/01
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    要 約:絶滅危惧種イトウParahucho perryiの現在また過去の生息河川や捕獲履歴については比較的多くの知見が残るものの、生息数の長期変動が分かる統計データは日本にはない。そのことが本種の絶滅リスクの推定や効果的な保全策の立案や実施を困難にしている。2023年春、北海道宗谷丘陵を流れる猿払川の支流、狩別川上流で水中音響カメラを用いたモニタリングを23日間実施し、この川を遡上する魚類を合計315個体検出した。陸上に設置したビデオカメラの映像を教師データとして遡上魚の内訳を推定すると、イトウ139個体、サクラマスOncorhynchus masou 23個体、ウグイ属Pseudaspius spp. 153個体という結果が得られた。イトウのこの遡上数は、この川で過去(2013 - 2015年)に得られた観測値と比べるとそのわずか3 - 4割程度であり、10年ほどの間に生息数が著しく減少したことが示唆された。イトウ遡上数激減の直接の原因は、2021年夏に道北地方を襲った記録的な熱波によって本種が大量死したことではないかと考えられた。猿払川流域を含む宗谷丘陵南部は風力発電開発が急速に進められており、森林伐採を伴う大規模事業がイトウ個体群へ及ぼす影響を評価する観測手法の確立が急務となっている。非侵襲的かつ効率的に魚類の個体数を推定する音響カメラによる長期モニタリングが、絶滅危惧淡水魚の効果的な保全につながると期待される。

  • 高槻 成紀, 片山 歩美
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2334
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/06/01
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    電子付録

    要旨: これまで情報の乏しかった九州のシカの食性の例として宮崎県椎葉村の九州大学宮崎演習林において2022年と2023年の四季にシカの糞を分析した。本調査地では1970年代からシカが増加し、2000年頃にはスズタケが消滅するなど森林生態系が強いシカの採食影響を受けている。シカの糞組成は一年を通じて貧弱であり、夏でも生葉(枯葉以外の各植物の葉の合計)が30%ほどしか占めておらず、繊維や稈が大半を占めていた。2000年代初期に行われた胃内容物や各地で行われた糞組成と比較し、現在のシカの食性は近年のシカ増加に伴う林床植生の劣化によって著しく劣悪なものとなっていると考えた。 キーワード: 九州、採食影響、ニホンジカ、糞分析

  • 山本 康仁, 西田 一也
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2325
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/10
    [早期公開] 公開日: 2024/07/02
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    J-STAGE Data

    要約:多摩川の低平地水田地帯を流れる一ノ宮用水は主に二面・三面コンクリート張り護岸の用排兼用水路である。一部に残存していた未改修区間の護岸崩壊の進行等に伴い、2014年の第1四半期に改修工事が行われたが、生物の生息に配慮した護岸工法として片岸を木杭護岸とし(I-3区間)、隣接する橋下の水底を30cm切り下げた深みが造成された(I-2区間)。これらの上流側に位置する二面コンクリート張り区間(I-4区間)を対象区とし、また下流側に位置する二面コンクリート張り護岸横にキショウブが植栽された区間(I-1区間)を含めて、2014年から2021年にかけて市民参加によるモニタリング調査を実施し、トンボ目幼虫の生息状況と環境条件の推移を記録して工法の効果を検証した。なお、事業直前の2013年11月にも予備的な調査を行っている。調査の結果、全区間を合計すると6科9種の生息が確認された。2014年の改修後の工法間の比較では対象区(I-4区間)と比較して、木杭護岸のI-3区間においては、垂下植物が生育するとともに、シオカラトンボ及びホンサナエ幼虫が他の区間と比べて多く採捕された。また、対象区(I-4区間)と同様に、砂泥が水路床を覆い、沈水植物が繁茂した。深みが造成されたI-2区間では落葉落枝や砂泥が堆積し、緩やかかつ安定した流水環境が保たれるとともに、コオニヤンマ及びコヤマトンボ幼虫が他の区間と比べて多く採捕された。キショウブが植栽されたI-1区間では、ギンヤンマ、アジアイトトンボ及びハグロトンボ幼虫が他の区間と比べて多く採捕された。I-3区間における改修前後の比較では、水路改修前である2013年11月の調査で確認されたのはシオカラトンボ幼虫1種だったのに対し、改修後の同区間において2014年から2021年にかけて実施した調査の結果、5科6種のトンボ目幼虫が確認された。調査を行った各区間において流速、水深、落葉落枝や砂泥の堆積深、植生の繁茂状況は大きく異なっており、既改修区間も含め、これらの多様な水路環境が複合して、トンボ目の種の多様性に関連している可能性があると推察された。こうした推移は、長年調査をしたことによって明らかになった事象であり、継続した調査を行うことの重要性と、そのために市民参加型の調査形態が有効である可能性が示唆された。

  • 藤井 太一, 南 基泰, 長野 康之
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2326
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/08/01
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    電子付録

    要旨:ニホンライチョウ(以降、ライチョウ)の分布北限に位置する火打山(新潟県)は、イネ科等植物が急速に繁茂したことによってライチョウの採食植物が衰退しているとされ、環境改善事業としてイネ科等植物除去の効果検証が実施されているが、火打山におけるライチョウの主要な採食植物はこれまで調査されたことがない。そのため、イネ科等植物除去による採食植物の回復、保全効果を検証するためには、火打山におけるライチョウの主要な採食植物を明らかにしておく必要がある。本研究では、2019年5、6、7、10月にライチョウの糞を96サンプル採取し、DNAメタバーコーディング法で採食植物を推定した。ライチョウ生息地で採取された植物136種からなるrbcLローカルデータベースとNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースを用いて相同性検索した結果、40分類群(種レベル32種、属レベル4分類群、科レベル3分類群、目レベル1分類群)が同定できた。シャノン・エントロピー指数による希薄化曲線を構築した結果、本調査期間中の主要な採食植物の98.2%を網羅していると推定された。採食植物として推定された12科のうち最も多く検出されたのは、セリ科(96糞サンプル中の62.5%から検出。以下同様)で、次いでユキノシタ科(53.1%)、ツツジ科(52.1%)、バラ科(50.0%)となった。種レベルでは、イブキゼリモドキ(38.5%)、ベニバナイチゴ(38.5%)、ズダヤクシュ(37.5%)、クロクモソウ(36.5%)、ミヤマハンノキ(30.2%)の順に検出頻度が高かった。他のライチョウの生息地では採食頻度が低いセリ科、ユキノシタ科植物が、火打山では採食頻度が高いという地域特異性が見られた。本調査で明らかになった主要な採食植物は、火打山山頂およびその周辺のハイマツやミヤマハンノキの林縁部やその周辺部に生育する。そのため、これら樹種の伸長や生育地拡大によって主要な採食植物が生育している植生が衰退することは、採食場所の質を低下させる可能性がある。従って、これら樹種の生育を抑制することも、イネ科等植物除去と同時に検討すべき課題と考えられる。

  • 高槻 成紀, 前迫 ゆり
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2401
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/07/02
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    要旨: 奈良公園の飛火野と春日山原始林のシカの糞を分析したところ、飛火野の糞では5月から10月までシバが30-40%を占める主要な食物であったが、1月には繊維が多くなった。春日山原始林の糞では葉は少なく、繊維と不明物(半透明な種子破片、芽鱗など)が多く、7月でも葉は少なかった。これらは調査地の下層植生の量を反映していた。春日山原始林のシカは、林外の草原を餌場として利用せず、林内の樹皮、下層植生の枝葉、枝、林床の種子・果実などを採食しており、森林の構造と更新に深刻な影響を及ぼしている。このことから奈良公園のシカの保護と春日山原始林の保全の両立の問題点を指摘した。

  • 村上 哲生, 南 基泰
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2402
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/08/01
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    Abstract: In this study, we examined hydro- and hygrophytic vegetation in small, seasonal wetlands along the shoreline of the Taguchi Oohora Pond, an irrigation reservoir constructed ~130 years ago in Inuyama, central Japan. Traditional rice cultivation practices in the region intermittently but significantly reduce the water level of the reservoir. During these irrigation periods, submerged shoals are transformed into sand and gravel wetlands. These shoals formed through the abundant supply of friable deposits from the geological features of the watershed, and because the reservoir is no longer dredged to maintain the water capacity. Few reservoirs in the area exhibit this type of wetland formation, as water levels are increasingly maintained by water supplied from rivers or other reservoirs via irrigation channels that cross catchment boundaries. We identified over 100 hydro- and hygrophytic taxa, including eight endangered species, in the target reservoir and nearby wet environments including riversides, rice fields, and low-lying swamps, both up- and downstream from the target reservoir. Given the transitional nature of these habitats, it is uncertain whether the plant species observed in this study will persist. In local communities, discussions have just started regarding stopping vegetational succession at a desirable stage to preserve endangered species or to maintain species diversity. The associated problems are common to many substitutional conservation sites.

  • 中村 光一朗, 安井 さち子, 上條 隆志, 吉倉 智子, 宮野 晃寿, 繁田 真由美
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2331
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/10/01
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    電子付録

    要旨:コウモリ類の保全には、その生息洞穴の保全が重要である。本研究では、千葉県の洞穴性コウモリ類の基礎的情報を得ることを目的とし、コウモリ類の生息洞穴の分布を明らかにするとともに、保全上優先すべき洞穴の評価を試みた。コウモリ類の現地調査は、千葉県内の119ヶ所の洞穴で行った。保全上優先すべき洞穴の評価については、コウモリの生息状況から評価するCave Biotic Potential(BP)を用い、相対的な個体数などから最も保全上重要と判定されるLevel 1から最も低いと判断されるLevel 4の4段階で評価した。評価はコウモリの出産哺育等の時期を考慮し4期間に分けて行った。現地調査の結果、70ヶ所の洞穴において、ニホンキクガシラコウモリRhinolophus nippon、コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus、モモジロコウモリMyotis macrodactylus、ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosusの4種の生息が確認された。ユビナガコウモリについては、初めて県内で出産哺育洞穴が確認された。この出産哺育洞穴では、16,331頭のユビナガコウモリが確認されたことから、千葉県における本種の個体群維持上重要な洞穴と考えられた。春から冬の4期中、少なくとも1期以上についてBPによる評価がLevel 1となった洞穴は15ヶ所と全体の12.6%であった。本研究の結果は、千葉県においてコウモリ類が生息する洞穴ついてその保全対策の優先順位を決める上で有効な情報になると考えられた。一方、ニホンキクガシラコウモリの出産哺育が確認された10ヶ所の洞穴のうち、Level 1とLevel 2となった洞穴はそれぞれ1ヶ所のみであった。本研究でのBPは、確認個体数が大きな影響を及ぼす値であり、ニホンキクガシラコウモリのような少数で出産哺育集団を形成する種に対して、出産哺育洞穴の重要性が過小評価される可能性がある。

  • 岩下 大輔, 小池 文人
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2221
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/09/01
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    電子付録

    要旨:都市の公園における地表植生は裸地化を防ぐことで地面に座る場所を提供し、雨天直後にも泥濘化せず、また乾燥時の砂ぼこりや土壌の侵食を防ぎ、雨水を浸透させて洪水を防ぐなどの生態系サービスを提供する。都市内には歴史的な背景により種組成が異なるさまざまな緑地が存在することが知られており、埋立地などに新しく造成された公園では里山の林床に生育する耐陰性種などが種プールから欠落している可能性があるため、林縁や林床における生態系サービスの低下が危惧される。この研究では、首都圏の都市域にあるさまざまな公園において種プールの生態特性(耐陰性および踏圧耐性)を調査し、生態系サービスと関連が深い地表植生の葉面積指数への影響を解析した。公園における葉面積指数は光環境のみでなく踏圧の影響も受けるため、土壌貫入抵抗値を用いて踏圧の影響を考慮した。種プールの種組成における耐陰性種の欠落は、公園の林縁や林床における葉面積指数の低下につながっていた。本研究で検出された耐陰性種はドクダミ、ジャノヒゲ、チヂミザサ、ヘクソカズラ、アズマネザサ、スゲ属などの在来種であり、近世の里山が残存している公園の種プールにはこれらの耐陰性種を含む傾向がみられた。公園内の樹冠下における生態系サービスを向上させるためには耐陰性が高い在来種を含む種プールが重要であり、公園のリノベーションや造成に当たっては、在来の耐陰性種が消失しないよう園内の歴史的里山を保全する対応が望ましい。

実践報告
  • 照井 滋晴, 深津 恵太
    2024 年29 巻2 号 論文ID: 2333
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/08
    [早期公開] 公開日: 2024/08/01
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    現在、釧路湿原周辺域では太陽光発電施設の乱立によって、絶滅危惧種キタサンショウウオSalamandrella keyserlingiiの生息環境の消失・減少が生じており、効果的な保全対策の検討・実施が急務となっている。筆者らが、太陽光発電事業地内において本種の生息状況調査を行った結果、事業地全域に本種が生息することが明らかになり、保全対策を講じる必要性が生じた。そこで、筆者らは移転による保全対策を実施することとした。保全対策を実施する際は、(1)移転先の選定、(2)移転対象個体の捕獲・保護、(3)遺伝的攪乱への配慮、(4)移転元の選定などの点に留意した。事業地全域での卵嚢確認調査及び事業地南西部に設定した移転先水域への移転は、工事期間中(2018、2019年)及び開所後(2020、2021年)の4年間継続して実施した。加えて、2022年に保全対策後のモニタリング調査として移転先の卵嚢確認調査を実施した。調査の結果、2018年から2020年までは、改変区域内の卵嚢数が年々減少していたが、施設開所から2年目の2021年に産卵地点数及び卵嚢数が増加に転じた。この結果から、改変区域における繁殖水域や植生の回復・安定とともに残存していた亜成体や成体による産卵が増加したことが示唆された。保全対策の結果、2018年に移転した卵嚢由来の雌雄がともに繁殖活動に参加し始めると考えられた2021年に、移転先で確認された卵嚢数(333対)が、2020年(107対)と比べ約3倍に増加した。2022年に確認された卵嚢数も282対と同様の水準を維持していた。統計解析の結果でも、卵嚢数が年の経過とともに有意に増加していることが示された。そして、卵嚢数に影響を与えると考えられている繁殖期の降水量と移転先の卵嚢数の間に有意な関係性が検出されず、卵嚢数の増加の要因が繁殖期の降水量ではないことが示唆された。この結果から、2018年,2019年に実施した移転による効果が得られていると考えられた。本研究と先行研究により、少なくとも数年間の時間スケール(繁殖開始齢を越える程度)であれば個体群の一部を移転できることが明らかになった。ただし、5年から数十年の時間スケール(個体の寿命を越える程度)での移転を成功させるには、今後の継続したモニタリング調査とともに、野外での個体群密度の決定要因を明らかにする必要がある。

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