園芸学研究
Online ISSN : 1880-3571
Print ISSN : 1347-2658
ISSN-L : 1347-2658
13 巻, 4 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
原著論文
育種・遺伝資源
  • Tshering Penjor, 永野 幸生, 三村 高史, 松本 亮司, 山本 雅史
    2014 年 13 巻 4 号 p. 307-314
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    2007年9月にブータン王国において自生・在来カンキツ類の遺伝資源を調査した.調査は東部のモンガルおよびタシガン,西部のワンデュ・ポダンおよびティンプーならびに南部のチランで実施した.調査した14系統のうちNo. 11のみはカンキツ近縁属のベルノキ(Aegle marmelos)で,他の13系統はカンキツ属植物であった.このうち自生・在来カンキツは11系統であった.内訳はイーチャンパペダ類縁種が1点,ライム類縁種が4点,無酸ライムが2点,シトロン類縁種が2点,ラフレモン類縁種が1点,未同定種が1点であった.イーチャンパペダ類縁種は冬季の低温のため他のカンキツが生育していない標高2,000 m付近で生育していた.調査した数点について葉緑体遺伝子のmatKの塩基配列を解明して主要カンキツ類との類縁関係を調査したところ,ブータン王国のイーチャンパペダ類縁種は佐賀大学農学部保存のイーチャンパペダではなく,カシーパペダと同一の配列であることが確認できた.ライム類縁種のmatKの塩基配列には多様性が認められた.DNA分析を実施することにより,形態面の調査だけよりも正確に供試系統を同定することができた.
  • 田中 哲司, 大藪 哲也, 井上 栄一
    2014 年 13 巻 4 号 p. 315-321
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    トマトの栽培の省力化に有効な単為結果性品種を育成するために,単為結果性個体の効率的選抜法を検討した.受精しやすい春季および秋季において,柱頭切除法はこれまで行われてきた除雄法より作業時間を短縮でき,判定結果もほぼ同じであったことから,実際の育種場面において有効であると考えられた.また,放任管理下で受精しにくい冬季には,最低気温を8°C以上に管理し,低温処理開始後に開花・結実した果実で正常肥大かつ無種子のものを選抜すれば,単為結果性個体の選抜ができることを明らかにした.以上のことから,春季および秋季には柱頭切除法,冬季には低温を利用した判定法を用いれば,単為結果性個体を効率的に選抜できることが示唆された.
  • 執行 みさと, 森田 恭代, 西村 謙一, 井上 諭司, 國武 久登, 小松 春喜
    2014 年 13 巻 4 号 p. 323-333
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    我が国に自生する野生種のクロマメノキ(Vaccinium uliginosum L. section Vaccinium)(2 n = 6 x = 72)とラビットアイブルーベリー(V. virgatum Aiton section Cyanococcus)(2 n = 6 x = 72)数品種との正逆交雑を行い,節間交雑の可能性を検討した.その結果,クロマメノキを種子親とした場合には,8交配組合せから5交配組合せで完全種子が得られ,3交配組合せで計13個体の実生が得られた.それに対し,花粉親とした場合には,8交配組合せから3交配組合せでのみ着果したが,完全種子は全く得られなかった.このようにクロマメノキとRB品種間では一側交雑不和合性が認められ,クロマメノキを種子親とした場合にのみ種子が得られることが明らかとなった.これらの種子は,層積後播種することで発芽した.これらの中から,クロマメノキとT100との交雑から得られた12個体の交雑実生(KT系統)について,雑種性,倍数性,核DNA含量,花や果実の形態的特徴および果実成分について評価した.RAPD分析により,少なくとも10系統はVaccinium節とCyanococcus節との節間雑種であることが確認された.また,フローサイトメトリーにより,12系統はいずれも六倍体と推察されたが,核DNA含量に差が見られた.また,樹勢の強い系統が見られ,調査した6系統では稔性花粉が生産されており,着果に至った8系統すべてで放任受粉下での着果が見られた.それらの果実は,クロマメノキで時に見られる果柄の小苞葉を果柄中部に1対有していた.果実品質には系統間で差が見られ,KT-9および15の果実はT100と同程度の糖および有機酸含量を示し,KT-4,9および15の果実はクロマメノキと同じかそれ以上のアントシアニンおよび総ポリフェノール含量と抗酸化活性を示した.これらの雑種は高品質と高機能性を有し,西南暖地に適した新品種を育成するための有用な育種材料になり得ると思われた.
土壌管理・施肥・灌水
  • 吉田 純也, 岩崎 光徳
    2014 年 13 巻 4 号 p. 335-341
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    樹体の乾燥ストレスをコントロールするために必要な点滴灌水域を明らかにするため,灌水域の割合が幼木および成木の樹体の乾燥ストレスに及ぼす影響について調査した.その結果,根域に対する灌水域の容積割合と樹体の乾燥ストレスとの間には高い相関関係が認められ,夏秋季の過乾燥を防ぐためには,幼木の場合,根域の約50%以上の灌水域が必要であった.これに対して,成木の場合は,玄武岩質土壌の13年生‘不知火’で根域の19.5%以上(本試験の灌水チューブ4本以上),21年生‘原口早生’で根域の14.2%以上(本試験の灌水チューブ3本以上)の灌水域が目安となることが明らかとなった.チューブは細根密度の高い主幹から100 cm以内に設置し,1回当たりの灌水時間を,乾燥条件下の花崗岩質土壌で20分以内,玄武岩質土壌で20~60分,安山岩質土壌や火山灰土壌においては60分程度とすることで,細根域を効率的に灌水できると考えられた.また,灌水チューブの点滴孔間隔は花崗岩質土壌では20 cm以上,他の3種類の土壌では30 cm以上とすることで無効水を減らすことができると考えられた.
栽培管理・作型
  • 大江 孝明, 岡室 美絵子, 櫻井 直樹, 土田 靖久, 山崎 哲弘, 奥井 弥生, 石原 紀恵, 城村 德明
    2014 年 13 巻 4 号 p. 343-347
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    ウメ‘南高’樹を用いて,光環境の違いが梅酒の香気,苦みおよび機能性成分に及ぼす影響について調査した.90%遮光用寒冷紗で遮光した部位の果実は同一樹の無処理の部位の果実に比べて,6日完熟落果期が遅延した.樹冠内の気温や完熟落果期の果実の熟度指標には遮光の有無による差がなかった.梅酒の香気成分について,遮光部位に着生した果実を原料とした梅酒は無処理部位のものに比べて,γ-デカラクトン,δ-デカラクトン,酪酸エチルおよび酢酸ブチルといった芳香成分の含量が少ない傾向であり,未熟な香りを呈する安息香酸エチルが多かった.また,遮光部位に着生した果実を原料とした梅酒は無処理部位のものに比べて,梅酒のクエン酸,リンゴ酸,ソルビトールおよびポリフェノールといった機能性成分の含量が少なく,フリーラジカル消去活性が小さかった.以上のように,日照量が低下すると,梅酒の芳香および機能性成分量が減少し,未熟な香気成分が多くなるため,梅酒品質に悪影響を及ぼす危険性が明らかとなったため,高品質梅酒を製造するための原料果実生産のためには,良好な日射を確保する必要があると判断される.
発育制御
  • 森 義雄, 中島 拓, 藤本 拓郎, 常見 高士, 住友 克彦, 久松 完, 後藤 丹十郎
    2014 年 13 巻 4 号 p. 349-356
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    自然開花期が6~7月である小ギク9品種を用いて,同一親株から得た挿し穂および暗期中断処理を利用した7~9月の高需要期(7月上旬,8月上旬および9月中旬)連続出荷の可能性を検討した.‘精こまき’,‘すばる’,‘はるか’および‘精ちぐさ’は,暗期中断処理によって早期発蕾が完全に抑制でき,消灯時期の変更による7~9月の連続出荷が可能であることを明らかにした.次に,6~8月咲き小ギク33品種を4月28日に植え付け,自然日長下における開花日と暗期中断処理による発蕾遅延日数との関係を調査したところ,‘精雲’,‘精こまき’,‘すばる’,‘はるか’および‘精ちぐさ’は,自然日長下での開花日が7月4~19日で,暗期中断処理によって発蕾日が20日以上遅延するという共通の特性を持っていた.このことから,自然日長下の開花日と暗期中断処理による発蕾遅延日数を用いた,7~9月連続出荷が可能な品種の選定可能性が示唆された.
  • 白山 竜次, 郡山 啓作
    2014 年 13 巻 4 号 p. 357-363
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    夏秋ギク5品種および秋ギク5品種を用いて,それぞれの品種の限界日長と効果の高い暗期中断時間帯の関係について調査した.夏秋ギク‘フローラル優香’,‘岩の白扇’,‘サザングレープ’,‘サザンチェルシー’および‘サザンペガサス’の8月開花における限界日長(暗期長)は,15(9)~16(8)時間で,暗期開始(Dusk)から花芽分化抑制効果の高い時間(NBmax)までの時間(Dusk-NBmax)は,電照時間1時間を加えると6.5~8.5時間であった.一方,秋ギク‘神馬’,‘山陽黄金’,‘雪姫’,‘白粋’および‘秀芳の力’の12月開花における限界日長(暗期長)は,5品種ともに13(11)時間で,秋ギク5品種のDusk-NBmaxは,電照時間40分を加えると概ね9~10.5時間であった.秋ギクに比較して限界暗期長の短い夏秋ギクはDusk-NBmaxも秋ギクに比較して短かった.これらの結果は,各品種のDusk-NBmaxはそれぞれの限界暗期の長さと連動しており,限界暗期長付近の暗期中断が最も花芽分化に影響を及ぼしていることを示し,個々の品種の限界日長が確認できれば,効果の高い電照時間帯を推定できる可能性を示唆する.
収穫後の貯蔵・流通
  • 文室 政彦, 堀川 勇次, 櫻井 直樹
    2014 年 13 巻 4 号 p. 365-370
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    カンキツのす上がり果の判別に音響振動法の適用を検討した.ブラッドオレンジの凍結によるす上がり果は弾性指標が健全果より有意に低かった.す上がり程度との関係は認められなかった.す上がり程度が高いほど果実比重は有意に低下した.果実比重と弾性指標との間に,比較的高い正の相関が認められた.す上がりが見られない弾性指標の最小値(閾値)を80 × 105とすると,す上がり果の判別率は約70%であった.比重法によるす上がり果の判別率は,閾値を0.88とすると約78%であり,弾性指標より若干高かった.ハッサクでは,初期の生理的す上がり果は健全果よりも弾性指標が有意に高かった.果実比重はす上がり程度が高いほど有意に低下した.ブラッドオレンジでは,可溶性固形物含量は,す上がり程度による差がなかったが,クエン酸含量はす上がり程度の高い果実が健全果より低かった.ハッサクでは,可溶性固形物含量は,健全果がす上がり程度の高い果実よりわずかに高かったが,クエン酸含量はす上がり程度による有意差が認められなかった.以上の結果,音響振動法は改良によって凍結によるす上がり果および生理的す上がり果の判別に適用できる可能性があることが示された.
  • 山崎 博子, 庭田 英子, 矢野 孝喜, 長菅 香織, 稲本 勝彦, 山崎 篤
    2014 年 13 巻 4 号 p. 371-378
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    ニンニクりん茎は周年出荷のため約−2°Cで長期貯蔵される.貯蔵終了後の常温条件では根や芽が伸長し,商品価値が低下するため,これを抑制する目的で高温処理が行われる.りん茎の内部温度を48°Cで6時間維持する従来の高温処理条件は障害を引き起こすなどの問題があることから,本研究では,より実用性の高い処理条件の探索を行った.収穫・乾燥後の8月から−2°Cで異なる期間貯蔵したりん茎に40~50°Cと4~48時間の条件を組み合わせた26通りの高温処理を行い,15°Cで4週間保管後の根,芽の伸長を調査した.10月出庫時の処理では,全26区のうち根および芽の伸長はそれぞれ5区,3区のみで抑制されたが,4月出庫時の処理ではそれぞれ26区,15区で抑制された.伸長抑制効果は処理時間の延長によって高まる場合が多かった.一方,処理温度の上昇は効果の向上につながらない場合が多く,12月に出庫したりん茎の根の伸長は46~48°C処理より40~44°C処理で強く抑制された.9~6月まで約1か月間隔で出庫したりん茎に対して,41°C・12~48時間および従来法に相当する48°C・8時間の高温処理を行い,実用性を比較した.41°C・12~48時間処理は48°C・8時間処理に比べて広範囲の処理時期において根の伸長抑制に有効であった.41°C・48時間および48°C・8時間処理では時期によっては障害が発生したが,41°C・12~24時間処理では障害は発生しなかった.これらの結果から,41°Cでの高温処理は伸長抑制効果および障害を回避できる安全性が高く,従来の高温処理よりも実用性に優れることが示された.
新品種
  • 久保 隆, 深澤(赤田) 朝子, 藤村 泰樹, 山道 和子, 神田 由起
    2014 年 13 巻 4 号 p. 379-384
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    大果で高品質なオウトウ品種を育成するため,種子親を‘紅秀峰’,‘サミット’を花粉親として交雑を行い,新品種‘ジュノハート’を育成した.本品種は1998年に交配後,2004年に35個体の実生のなかから選抜された.成熟期は育成地で満開57日以後の7月上旬で‘佐藤錦’の約5日後である.果実は大きく,果重は約11 gである.果形は短心臓形で,果皮色は濃赤である.果肉は硬く,糖度は19.1°で甘味が多く,酸含量は0.53%で酸味は少ない.核は大きいが,離れやすく食べやすい.S遺伝子型はS1S6で,‘佐藤錦’,‘紅秀峰’,‘南陽’および‘サミット’と交雑和合性で,紅さやか’および‘北光’と交雑不和合性である.‘佐藤錦’の受粉樹としての利用が可能である.‘ジュノハート’は見栄えが良く食味も優れることから,贈答用あるいは観光果樹園での普及が期待される.
feedback
Top