日本画像学会誌
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60 巻, 5 号
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論文
  • 角谷 繁明, 林 拓馬, 和哥山 拓也, 宇都宮 光平
    2021 年60 巻5 号 p. 450-457
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    先の論文では,インクジェットプリンタの往復走査間の位置ずれによって生じる大幅な粒状性劣化を劇的に改善できる,ロバスト性向上ハーフトーン技術を新たに開発したことを報告した.これにより,粒状性劣化の問題は解決したが,同じ原因から生じる濃度変動の問題は未解決で,コックリングむら (メディアのコックリング発生部に生じる濃度むら) などの,致命的な画質問題を生じさせていた.そこで,この課題の解決を目指した結果,近距離にある2画素のペアが同時にドットオンとなる確率が,入力階調値の二乗,となるようにドット発生を制御することで,往復走査起因の位置ずれによる濃度変動を大幅に低減できることを発見した.また,それを適用した濃度ロバスト性向上ハーフトーン技術を新規開発し,その効果を確認した.

  • 杉浦 聡哉, 田村 理人, 土井 浩敬, 佐野 凌平, 塚田 学, 星野 勝義
    2021 年60 巻5 号 p. 458-466
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    近年,我々は過塩素酸イオンがドーピングされた3-メトキシチオフェンオリゴマーを合成し,その塗布膜が金色調光沢を発現することを報告してきた.本オリゴマーは,いくつかの極性溶媒に溶解するものの,良溶媒が限定されるという課題がある.本研究では,オリゴマーと溶媒の相互作用が双極子-双極子相互作用であることを特定し,いくつかの良溶媒を選定することができた.また,良溶媒を用いて調製した塗布液から塗布膜をを作成し,膜の光学物性,色物性,および構造を検討した.その結果,塗布液中でπ-ダイマーを形成しやすい溶媒ほど,高いエッジオンラメラの結晶化度,高い反射率,そして強い黄色味をもつ金色調塗布膜が得られることがわかった.

Advanced Technology
  • 川村 怜, 志連 陽平
    2021 年60 巻5 号 p. 468-477
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    物理的な抗菌機能を持つ微細構造について述べる.抗菌機能を発現させる原理に関しては諸説あるが,吸着エネルギーにより機能が発現しているという先行研究仮説に基づき,吸着エネルギー,細菌の破断条件を導入して計算を行った.計算結果は,先行研究により示されてた微細構造膜の菌種に対する抗菌効果の差を説明することができた.また,ピラー構造の構造因子に応じた抗菌能力をほぼ網羅的に図示した.この仮説を元に設計した微細構造膜を印刷により実現したところ,抗菌機能が発現した.また,この微細構造膜に接触した細菌の経時変化を蛍光顕微鏡測定により行い,細胞膜が微細構造膜側に吸引されるという,仮説を裏付ける挙動を確認した.更に,同様の原理によるウイルスへの効果を狙い,より微細な微細構造膜を製作したところ,抗ウイルス機能の発現を確認した.

  • 浦瀬 舞, 吉岡 大輝, 桑折 道済
    2021 年60 巻5 号 p. 478-485
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    構造色は,周期的な微細構造に光が当たった際に物理的現象により発現する色である.自然界の生物の発色においても構造色はしばしば見られ,これら生物の構造発色においては,メラニンが重要な役割を果たしている.孔雀の羽毛の色は構造色として知られる.羽毛内部にはロッド型メラニン顆粒が周期的に配置された微細構造が存在し,構造色が発現するとともに散乱光を効果的に吸収して,結果として明るい構造色をもたらす.近年,天然メラニンの模倣物質としてポリドーパミンが注目されている.本解説では,ポリドーパミンを素材とする人工メラニン粒子を使用したメラニン系構造色に関する最近の研究動向をまとめた.人工メラニン材料によって実現された視認性の高い構造発色の特徴を生かした,インクやセンサー材料などへの応用展開についても概説する.

  • 吉岡 伸也, 大貫 良輔
    2021 年60 巻5 号 p. 486-496
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    タマムシのように自然界には金属のような輝き持つ色の生物が存在している.そのような色は光の波長サイズの微細構造によって生み出されるため,色素による色とは区別して,構造色と呼ばれている.構造色を生み出す微細構造には,薄膜が積層した多層膜構造,三次元的に構造が周期的なフォトニック結晶など様々な形状が知られている.構造の繰り返し周期が光の波長サイズであるとき,反射あるいは散乱された光は特定の波長で強め合う干渉を起こすため,その波長に対応した色を呈する.しかし,自然界の生物が持つ構造色は単純な干渉だけではなく,さまざまな工夫を併用し,鮮やかな色を生み出していることが分かってきた.本稿ではいくつかの微細構造についてその発色の仕組みを解説し,生物の具体例を紹介する.また,構造色を持つ人工的な材料として,フォトニックボールと呼ばれるコロイド粒子凝集体の発色現象について解説する.

  • 星野 勝義
    2021 年60 巻5 号 p. 497-510
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    チオフェン重合体は様々な機能をもつ分子であり,電子材料や画像工学への応用が期待されている.著者らのグループは,そのようなチオフェン重合体の中で,塗布法や電解重合法によって形成された膜が金色調あるいはブロンズ調を発現する重合体を見出し,学術的および工学的な検討を行ってきた.本解説では,そのチオフェン重合体の化学合成とその塗布液および塗布膜の物性,そして,電解合成とその電解重合膜の物性について概説した.そして,それら一連の検討を通して,膜が金色調を示す機構についても考察した.化学合成によって得られたチオフェン重合体は,有機溶媒や水に溶解して塗布液を形成することができ,ガラスや紙などの様々な基体に塗布でき,かつ大気中で高い安定性を示すので,光輝塗料・インクへの候補となる.

  • 不動寺 浩, 澤田 勉
    2021 年60 巻5 号 p. 511-519
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    ソフトマテリアルと構造色を組み合わせることによって構造色を調整できる新しい弾性材料がこの20年間で多数発表されている.典型的な例として,コロイド結晶は,結晶格子の粒子間隔を変形させることにより,構造色の変化を可能にする.我々は張力 (伸縮),圧縮,外部応力による膨張によって構造色が変化するフォトニックラバーと呼ぶ弾性材料を提案した.一軸配向した高品質コロイド結晶からの反射スペクトルに1つの回折ピークが観察される.回折ピークは応力によりシフトするため,シフト量と応力の関係を利用してセンサーとしての応用が期待される.フォトニックラバーの伸縮,圧縮,膨張の基本特性を調べた.現在,実用化のための研究を行っている.耐久性については,10万回を超える往復運動による引張試験での構造色変化に大きな劣化はなかった.一方で,均質なコロイド結晶のサイズを大きくしたり,膜の形成速度を上げたりするなど,製造コストに関連するより実際的な問題に取り組んでいる.

  • 竹岡 敬和
    2021 年60 巻5 号 p. 520-527
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    生物多様性保全の観点から,21世紀は,SDGsの達成に向け,環境に配慮したものづくりが求められている.我々の生活を彩り鮮やかで豊かにしてくれる染料や顔料などの色材においても,人の健康や環境に有害になるものは,安全な材料から成る代替品に転換しなければならない.自然界では,毒性が懸念される重金属や化合物を使用せずに,様々な色合いを示す安全で退色性の低い構造発色性材料を既に活用している.本稿では,我々人間が,これまでの生活において利用してきた従来の色材に遜色ない鮮やかな色相で,角度依存性のない構造発色性材料を,安全で安価な白色と黒色の物質からできた素材のみを用いて作れることについて紹介する.

  • 佐藤 亮太, 増原 陽人
    2021 年60 巻5 号 p. 528-536
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    ペロブスカイト量子ドットは,高い発光量子収率や狭線発光等の優れた光学特性のほか,構成元素のハロゲン種を変えるだけで,視認できる99.9%の色が再現可能な半導体ナノ結晶であり,次世代ディスプレイへの応用が期待されている.現在では,赤・緑・青色の三原色に焦点を当てた研究が展開され,カドミウム/セレン系,インジウム/リン系等の競合する量子ドットの光学特性を上回るペロブスカイト量子ドットが開発されてきた.その一方で,現行のペロブスカイト量子ドットは,その作製条件が煩雑であり,工業展開に即した大量合成手法が未確立である.本稿では,当方の研究グループが保有するペロブスカイト量子ドットの作製法やその高性能化に関する技術シーズについて概説する.

  • 髙原 淳一
    2021 年60 巻5 号 p. 537-543
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    近年,2次元のメタマテリアルであるメタサーフェスを用いた構造色が注目を集めている.特に金属メタ原子を用いた構造色はプラズモニックカラーともよばれ,100000dpiという回折限界に匹敵する高い解像度と広い視野角をもつカラー画像が実現されている.しかし,金属の損失のために高解像度と高彩度の両立が困難であった.本稿では単結晶シリコンを用いた誘電体メタサーフェス構造色の原理と研究の現状について紹介する.誘電体メタサーフェスは波長より薄く金属を用いないために損失がほとんどなく,高解像度と広視野角を維持したままで高彩度の構造色を実現できる.さらに,高温でのシリコンの酸化を利用することにより,後から色を変化させることが可能となる.これは秘匿画像などへ応用できる.誘電体メタサーフェスは機能性をもつ回折限界解像度カラープリンティングへの応用が期待される.

  • 高橋 圭子
    2021 年60 巻5 号 p. 544-552
    発行日: 2021/10/10
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    山形産ベニ餅から,伝統的な手法に準じてベニバナ色素を抽出・精製した.核磁気共鳴,NanoESI (nano electrospray ionization) 質量分析,蛍光X線分析,原子吸光分析を総合した結果,伝統的笹色紅,ベニバナ色素はカルサミン-3'カリウム塩であった.黒色基盤に塗布されたベニバナ色素膜は,金属光沢を有した緑色を呈していた.ベニバナ色素膜は白色光入射に対して,波長550nm付近に全反射による極大を有するスペクトルを示した.この反射極大波長には角度依存性は現れなかった.また,この金属光沢を有する反射光は,主に膜の入射側の界面で生じていることが明らかとなった.この反射光には,直線偏光成分が少ないことも明らかとなった.これらの結果は,ベニバナ色素膜の緑色光沢が,金属の反射とよく似ていることを示唆している.笹紅色は構造色でも玉虫色でもない.FT-IR (Fourier transform infrared spectroscopy),ラマンスペクトルの検討により光による笹色紅の変化はカルボニル基及び長共役の消失によることが判明した.さらに,偏光反射特性から,「吸収する光波長と反射光波長が同じである」いう大変ユニークな特性を有することが判明した.

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