日本画像学会誌
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56 巻, 1 号
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巻頭言
論文
  • 黒田 章裕, 須賀 俊介, 中林 浩人, 木山 修一, 前田 秀一
    2017 年 56 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    ヘッドアップディスプレイ (HUD) は現在,ハーフミラー方式が多用されているが,ハーフミラーは金属薄膜による光の反射を利用した方式であり,可視光領域に光吸収を持つため,背景が不透過であったり,色の再現性が悪いなどの問題がある.我々はディスプレイに多用されている光学原理である回折散乱,幾何散乱,多重散乱といった散乱領域ではなく,ミー散乱領域を活用することで,プロジェクターを用いてディスプレイに浅い角度で映像を照射した場合でも映像の視認が可能で,かつ背景の情報も認識可能である,色再現性,透明性に優れたシースルータイプのHUD用のデバイスを開発し,その特性を評価した.ビーズミル粉砕され,レイリー散乱やミー散乱を示すナノ酸化亜鉛とナノ酸化チタンを樹脂と共に薄層ガラスに固定した試料を用いて比較したところ,ナノ酸化亜鉛にHUDに好適な領域が存在していることが判った.また,赤,緑,青色レーザー光を用いて,散乱形態を評価した際に,特定の散乱パターンの時に視認性と背景透過性が両立していることを見いだした.

  • 高岸 賢輔, 梅津 信二郎
    2017 年 56 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    近年,3Dプリンティング技術が発達し,様々な方式の3Dプリンティングが様々な分野で活用されている.熱溶解式3Dプリンティング (Fused Deposition Modeling (FDM) ) は,装置を安価に作製可能であることと,広く用いられているABS樹脂を印刷可能なため,一般家庭に広まることを期待されていた.しかし,現在期待されているほどFDM式3Dプリンタは世間に浸透していない.その理由としては,熱で溶解した材料を一層ごとに積層し,造形を行うという原理上,発生する積層痕であると考えられる.積層痕は造形物の外観を悪化させ,ユーザーのイメージ通りの造形を不可能にする.そこで著者らは,この積層痕を除去する方法として,3次元化学溶解仕上げを開発した.この3次元化学溶解仕上げによって積層痕を平滑化させることは可能になった.しかし,この3次元化学溶解仕上げを評価する方法はいまだに確立されていない.そこで今回,画像から取得した明度を用いて3次元化学溶解仕上げを評価する方法を開発した.

  • 岩松 正, 平川 弘幸, 山本 治男
    2017 年 56 巻 1 号 p. 16-23
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    大気中で安定動作可能な新規構造の電子放出素子を開発した.この素子は,絶縁性材料に導電性ナノ粒子を分散した不均質な半導電層を特長とする.従来の放電を原理とするスコロトロンやローラ帯電では,オゾン発生と感光体膜削れの2つの課題の両立が困難であったが,電界電子放出素子はこれらを原理的に解決でき,複合機の帯電器として応用可能となる.大気中での電子放出特性として,電子放出素子の駆動電圧は20V程度,電子放出電流密度は数十μA/cm2まで可能である.素子寿命は,A4サイズの素子で4.8μA/cm2の電流密度で300時間以上の動作を確認できた.本稿では,このような電子放出素子の真空中や大気中での基本特性,電子の挙動などについて詳細に評価·分析した結果について論じるとともに,帯電器として応用した場合の素子特性,オゾンや感光体膜削れの特性についても報告する.

  • 峯岸 なつ子, 内川 惠二
    2017 年 56 巻 1 号 p. 24-34
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    印刷画像の画質を劣化させる濃度ムラは,濃度差が大きくても,市場で出力される一般画像上では目立たない場合がある.本研究では,濃度ムラの視認性に影響を及ぼす入力画像の特徴量を特定し,その相関関係を明らかにすることを第一の目的とした.第二の目的は,今後この相関関係を利用して入力画像の特徴量から濃度ムラの視認性を予測するためのパラメータとして,適切な特徴量を示すことにした.入力画像の特徴量は,顕著性または明度分布の空間周波数だと予想した.それらの定量値と濃度ムラ視認性との相関を調査し,空間周波数から算出した定量値が濃度ムラ視認性の相関が比較的強いことがわかった.この定量値は濃度ムラ視認性を予測する上で適切な性質を有しているが,濃度ムラのサイズに対する汎用性に欠ける点が今後の課題である.

依頼解説
  • 日下田 成, 村司 雄一, 竹田 正明
    2017 年 56 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    プリンタに求められる特性として,高速性,高画質といった基本的な性能に加えて,近年は省電力,リサイクルの推進,排気ガスの低減といった環境への配慮などが注目されており,各社様々な技術開発が進められている.省電力化を目的としたトナー粒子の開発においては,特性制御のためにトナー内部における含有成分の分布状態や物性値を把握することは重要である.しかしながら,トナー粒子は5~10μm程度と微小で,かつ柔らかく,これらの分析は難易度が高いことが多い.

    本稿では,トナーについて複数の手法を用いて,含有成分の分布状態の観察,微小部の物性評価や組成情報の解析などについて分析した例を紹介する.

  • 仲山 和海
    2017 年 56 巻 1 号 p. 42-50
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    ゴム,プラスチック,繊維などの高分子材料は金属材料と無機材料にはない特徴を有するために,今日の工業製品にとってなくてはならない材料であるが,最大の欠点は劣化による影響を受けやすいことである.劣化が生じるとたとえ小さな部品であっても,製品としての機能を維持できなくなり,トラブルのもとになる.的確なトラブル対策を講じるためには,劣化原因を化学分析によって特定化する必要があるが,劣化現象は不均一で複雑であるため,容易なことではない.その解析のためには,使用履歴や環境に関する情報,高分子材料の特徴 (特に弱点) と分析に関する知識,高度な分析機器と分析技術が必要となる.高分子材料の劣化因子と各種分析法について解説する.

  • 中本 圭一
    2017 年 56 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    「alpha300」 シリーズは,光学顕微鏡を基本として共焦点レーザー顕微鏡,共焦点ラマン顕微鏡,近接場光学顕微鏡,原子間力顕微鏡を任意に組み合わせて1台の装置として構築できる複合顕微鏡である.複合機としていくつかの機能を組み合わせても,各機能単体での性能と操作性を損なわない設計がされている.共焦点レーザー顕微鏡,共焦点ラマン顕微鏡では,フォトニックファイバのコアをピンホールとして使用することで,大きく共焦点性を向上させている.共焦点ラマン顕微鏡で使用される分光器は,レンズ方式を採用しスループットとスペクトル対称性を大幅に向上させている.また,対物レンズに装着する原子間力顕微鏡は,高分解能で試料の表面形状の観察ができ,コンパクトで他の観察機能を阻害しない画期的なものである.この原子間力顕微鏡機能を用いた近接場光学顕微鏡は,唯一穴付きカンチレバを採用し,回折限界を超えて光学像の観察ができる.本稿では,これらの機能の説明と複合化のメリットと観察例について紹介する.

  • 冨永 哲雄
    2017 年 56 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    高分子材料は,自動車,情報通信など様々な分野で利用され人々の生活に役立っている.それぞれの用途に応じて使われる形態が異なり,求められる機能も異なる.ナノコンポジット,高分子薄膜など高分子材料の機能発現にはナノ領域における構造制御が重要である.材料開発には機能発現メカニズム解明が必要であり,そのために精密な構造解析が求められる.放射光を応用した構造解析技術は,国内の放射光施設の充実に伴い近年急速に発展しており,高分子材料についても強力なツールとなっている.本稿では,放射光による高分子材料の構造解析の例として,省燃費タイヤ用末端変性スチレンブタジエンゴム,液晶配向膜用ポリイミド薄膜への応用について紹介する.

  • 今野 早紀, 山口 大地
    2017 年 56 巻 1 号 p. 67-75
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    トナー1粒子単位でのミクロな帯電計測は,電子写真の画像品質向上に向けた,良好な帯電特性を持たせたトナーの処方設計や,画像形成プロセス中のトナー挙動の正確な制御に有効な技術である.本稿では,微小静電気力検知に効果的なデバイスである,走査型プローブ顕微鏡用カンチレバーを利用したミクロな帯電計測技術として,KFM (Kelvin Force Microscope) と称される走査型プローブ顕微鏡の電位イメージング技術と,カンチレバーによる力計測とナノピンセットによる微粒子操作を組み合わせた一粒子帯電量計測技術を紹介する.前者は一粒子トナー表面上の帯電分布,後者は部品上の任意の一粒子トナーの帯電量を評価できる.静電気力による片持ち梁 (カンチレバー) の変形や振動変化を検知するというシンプルな測定原理ながら,何れの手法とも,トナーの微小電荷評価に十分に効果を発揮する.両手法について,計測原理とトナーの評価事例を紹介する.

  • 小川 徹, 長尾 剛次
    2017 年 56 巻 1 号 p. 76-81
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    誘電体中に導電粒子を分散させた導電粒子含有誘電体について,導電機構の検討を行った.誘電体中の導電粒子の3次元位置分布を可視化し,さらに定量化する解析技術と導電粒子の3次元位置分布が可視化された空間領域における導電計測が可能なミクロ導電計測技術を新たに開発した.これらの技術を用いて,導電粒子含有誘電体の導電モデルを定義し,導電機構を記述する物理モデルを新たに構築した.この新規物理モデルを使って,導電粒子添加量,電界,および電界印加方向の膜厚を変化させた導電粒子含有誘電体での体積抵抗率計算を行った.計算および実験結果で同様の要因効果が再現できることを確認し,構築した物理モデルの妥当性を検証した.

  • 島田 泰拓
    2017 年 56 巻 1 号 p. 82-86
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    近年の高性能·高品質な電子写真への要求により,ますます高機能なトナーが望まれている.その評価において,数多くの測定装置が提案されている.基礎的な物性である粉体層せん断力,粒子強度,付着力,静電気拡散率の評価を実施した.市販の各社トナーについて,せん断試験で得られる内部摩擦角は製造方法の違いにより3倍程度の違いが見られた.粒子強度は約20MPa~40MPaであり2倍程度の範囲内となった.付着力測定では1nN~4nN程度まで分布が見られた.静電気拡散率において,シアントナーの (+) 側の減衰特性は (-) 側よりも大きく,初期帯電において大きな差が見られた.これらの物性を複写機·プリンタに合わせて適切に設計することで,安定した品質と高い性能を確保できると考えられる.

依頼論文
  • 稲葉 伸英, 秋山 政義, 稲葉 繁
    2017 年 56 巻 1 号 p. 87-91
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    電子写真方式においてトナー付着力の発現メカニズムを解明することは重要である.特に静電的付着力はトナーの帯電状態だけでなく,粒径や表面状態とそれらのバラツキにも依存し複雑な挙動を示す.この問題に対し,超音波振動方式のトナー付着力測定法によりトナー個々の帯電量と付着力を同時計測して,帯電量と付着力の二次元分布を解析する手法を構築した.本解析技術を用いることにより,従来の手法では困難であった転写性能評価に対して帯電量と付着力の2軸で定量評価することを実現した.さらに撹拌状態が影響する静電付着メカニズムとして,トナー部分帯電モデルが最も適切であると数値計算により考察した.

依頼解説
  • 中川 活二, 上原 利夫
    2017 年 56 巻 1 号 p. 92-97
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    表面電位計測手法は古くからあるが,高精度,高空間分解能,高電圧計測は簡単ではない.ここでは,高精度な測定のための手法や,高電圧計測に優れた手法を紹介した.精度の高い計測には,探針が長いことが重要であり,高電圧計測で安定に計測するためにゼロ位法を用いることを説明した.また,半導体不純物濃度分布計測について紹介し,半導体表面電位は,そのバンド構造を反映しており,不純物濃度の違いで表面電位の違いとして観測することが出来る.大気中での計測では,半導体表面状態をコントロールできないことから,定量的な解析は簡単ではないが,定性的解析は可能であろうと思われる.さらに,これらの手法の応用分野は広く,その一例として環境発電のためのエレクトレット評価について説明した.

  • 大森 雅夫, 大島 穣
    2017 年 56 巻 1 号 p. 98-106
    発行日: 2017/01/10
    公開日: 2017/02/13
    ジャーナル フリー

    帯電プロセスは感光体表面に電荷を付与する電子写真の最上流プロセスである.感光体の帯電電位は,次のプロセスである静電潜像形成やトナー現像の基準となるため,表面全体を均一に帯電することが重要である.しかし,帯電プロセスにおいて放電現象を制御して帯電分布を均一にするメカニズムは明確になっておらず,帯電不均一に起因する白点や色線などの画質不良の発生が課題となっている.近年は高速·高画質領域の複写機やプリンタにおいても小型化,低コスト化の要求が高くなっており,安価な帯電ローラ方式における放電メカニズムを解明し,均一な帯電を実現することが急務となっている.

    本稿では,帯電プロセスで発生する放電形態を明らかにする放電解析技術について紹介する.さらにこの技術を用いて,ニップ領域の放電分布を計測した結果と,帯電不均一性による画質欠陥の発生条件や帯電分布ムラ形成過程を考察した事例について述べる.

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