国際保健医療
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28 巻, 4 号
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原著
  • ~創始期先駆者の視点~
    竹迫 和美, 中村 安秀
    2013 年 28 巻 4 号 p. 279-286
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/01/14
    ジャーナル フリー
    目的
    本研究は、米国でプロフェッショナルの医療通訳士が誕生し発展した過程を分析することを目的とした。その成果は、医療通訳士育成の途上にある日本に大きな示唆を与えると期待される。
    方法
    世界最古の医療通訳士団体、The Massachusetts Medical Interpreters Association (MMIA)の創設者と初期メンバーを対象とし、医療通訳士が誕生した経緯や課題および発展過程について聞き取り調査を実施した。逐語録を作成し、テーマ分析を行った。調査対象者から提供された資料も参照し、1970年代創始期から通訳法が制定された2000年までの発展過程を分析した。
    結果
    院内通訳士が希少であった1986年当時、マサチューセッツ州ボストン市に通訳士の集まるグループが結成された。最初は、通訳が困難な事例などを語り合う会合であったが、医療通訳士の団体に発展し、共通の課題を討議するようになった。役割を明確にするため、行動規範を定めた。地位向上と雇用機会の増大を目指し、州法制定のため利害関係者(ステークホールダー)と協働した。聞き取り調査対象者8名の内6名は、病院で雇用された当初からプロフェッショナルの研修講師として後進を指導し、会議に参加してネットワークを拡大した。州政府は、医療通訳士養成研修に対して支援金を提供し、病院に対し指針を出して指導した。
    結論
    医療通訳士という職業を定着させるには、医療通訳士が団体を結成し、地位確立を目的とした活動に取り組むことが不可欠であった。創始期の医療通訳士は、職能団体を結成し、各種規範を出版し、利害関係者への働きかけを行い、プロフェッショナルの研修講師として外部団体の研修コースで後進を教育し、発展の過程で重要な役割を果たした。彼らが多様な利害関係者と協働したことが、発展を促進した。また、医療通訳関連の会議が開催され、利害関係者間のネットワークが拡大したことも発展を促進した。調査対象者は、研修コースの欠如、医師との関係、ストレスコントロールに苦慮していた。日本で実施された調査では、研修コースの不足、医療者や患者の理解不足、精神的支援の欠如が課題であると報告されている。これらの共通性から、本研究の結果は、日本における医療通訳の発展を考える上で教訓になると考察した。
フォーラム
資料
  • 下村 真貴子, 中村 安秀
    2013 年 28 巻 4 号 p. 293-303
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/01/14
    ジャーナル フリー
    1954年に138人の研修員を日本へ受入れて以来、国際協力機構(JICA)は、2011年までの57年の間に、本邦研修として累計27万人以上の研修員を途上国から受入れてきた。
    本研究は、本邦研修の意義の有無、研修員にとって有用な学びとなる日本の知識や技術、帰国後自国で活用できる日本の知識や技術、活用する際に寄与した要因と課題を検証することを目的とする。
    JICAにメールアドレスが登録されていた、インドネシア601名、ラオス264名の帰国研修員に質問紙を送付し、インドネシア116名(回収率24.4%)、ラオス65名(回収率31.9%)から回答を得た。また、JICA関係者の推薦を通じ、Snowball sampling方式でコンタクトがとれた、インドネシア28名、ラオス15名の帰国研修員に対しインタビューを行った。
    質問紙調査を通じて、多くの回答者が本邦研修の意義として、「日本の現場を視察して現状を理解できた」、「日本の最新の知識を得ることができた」、「日本の技術の発展の経緯を学ぶことができた」、ことを挙げていた。
    本邦研修で学んだことが仕事に役に立ったかどうかについては、『技術』に比べて、『知識』のほうが役立ったと回答した研修員の割合がやや多く、今回の調査結果をみる限り、日本の『知識』のほうが『技術』に比べて有用であったということができる。
    一方、日本で得た知識や技術を十分活用できない理由として、両国ともに、予算の問題が最も多く、続いて日本の状況が自国の状況と異なる、施設や設備が整っていないという理由が挙げられた。
    また、インタビュー調査結果より、大半の研修員が、日本で学んだ技術や知識を帰国後に積極的に活かしているというグッドプラクティス事例を持っていた。その要因として、研修員のニーズと日本側が紹介したリソースが合致した、研修の中で研修員による内発的な新しい学びや気づきがあった、研修員と日本人講師との間で帰国後も交流が続いている、ことが考えられた。
    本邦研修で学んだことを、帰国後途上国において普及・伝播させていくためには、JICAは、途上国にとっての適正技術を丁寧に確認し、普及・伝播の過程で途上国が必要とするサポートを継続的な対話を通じて行う必要があると考えられた。
  • 田中 郁子, 柳澤 理子
    2013 年 28 巻 4 号 p. 305-316
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/01/14
    ジャーナル フリー
    目的
    本研究の目的は、医療施設で活動している外国人医療通訳者の体験した困難とその対処方法を明らかにすることである。
    方法
    愛知県内の2つの医療施設に常勤雇用されている、ポルトガル語とスペイン語の外国人医療通訳者5名に対し、半構成的面接を実施した。通訳になるまでの経緯、困難やジレンマ、工夫や心構え、必要な知識や訓練、要望について日本語でインタビューを行い、逐語録を作成、通訳上の困難や工夫、今後の改善点、要望などに言及している部分を抽出しコード化した。コードの内容を比較検討しながら、類似のコードをまとめてカテゴリーにまとめた。
    結果
    外国人医療通訳者として体験した困難とその対処に関し、40のサブカテゴリーが抽出され、それらは8つのカテゴリーにまとめられた。8カテゴリーは次のような体験としてまとめられた。(«»はカテゴリーを示す)。すなわち、外国人医療通訳者は、«未経験・未訓練による手探り状態»のまま医療現場に立ったために、知識不足、経験不足による«初期の困難・苦労»に直面した。これに対して、個人で工夫を重ねたり、周囲の人々に助けを求めたりする«初期の対処・克服方法»を見出していた。医療通訳に慣れてくると、新たに«経験を重ねるうえでの戸惑い・ジレンマ»を経験した。これには、«経験を重ねるうえでの工夫・変化»、すなわち気持ちを切り替えたり、経験を生かしたりして対処していた。周囲が医療通訳に慣れていくことを通して、自然に変化が生じて困難を克服できた側面もあった。そして医療従事者や患者に«通訳者としての配慮»をしながら通訳できるようになり、その過程を通して、やりがいや満足など、«継続している意味»を見出すとともに、与えられた業務を超えた«新たな役割の開拓»をしていた。
    結論
    本研究は、外国人医療通訳者が事前訓練の機会もないまま医療現場に立ち、困難や苦労、戸惑いやジレンマを抱えながら、その困難を努力と工夫で克服し、医療通訳の意義と喜びを見出していく体験を明らかにした。外国人医療通訳者は、日本人通訳者に比べ、より患者に近い立場で文化の仲介者、患者の代弁者となっている。その質向上のためには、研修機会提供、医療通訳制度確立、労働条件整備などの公的政策が必要で、現行の医療保健制度の中に医療通訳者を位置づけていくような行政の指針が必要だと思われる。
  • 椿(高) 知恵
    2013 年 28 巻 4 号 p. 317-325
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/01/14
    ジャーナル フリー
    目的
    保健室が設置されておらず養護教諭が常駐していない朝鮮初級学校に子どもを通わせる保護者の、家庭での性に関する教育の実施状況と学校での性教育へのニーズを明らかにし、朝鮮学校に通う生徒の特徴を踏まえた系統だった初級学校での性教育に向けての基礎的な資料を得ることを目的とする。
    方法
    大阪、京都の朝鮮初級学校の4、5、6年に子どもが在籍している保護者を対象に、無記名自記式質問紙調査を行った。調査期間は2012年6月~11月、調査内容は属性、家庭での性に関する教育の必要性と実施状況、学校での性教育の必要性、などの計20項目である。
    結果
    質問紙は8校の初級学校で289部配布し、回収数49部(回収率17.0%)、有効回答45部(有効回答率15.6%)であった。家庭での性に関する教育を「必要」だと回答した者は42名(93.4%)で、実施すべき時期は「中学」が27名(64.3%)と最多で、次いで「小学6年」19名(45.2%)であった。家庭で必要な性に関する教育の内容は「生命の大切さ」28名(62.2%)、「男女の体の違い」26名(57.7%)が多かった。家庭での性に関する教育実施状況は「実施している」17名(37.7%)、「実施していない」27名(60.1%)であり、実施している者17名の実施時期では「小学4年」が8名(47.0%)、内容では「男女の体の違い」12名(70.6%)が最も多かった。学校での性教育の必要性は45名全員が「必要」と回答しており、適していると考える学校での性教育実施時期は、「小学6年」25名(55.5%)が最も多く、希望する内容は「男女のからだの違い」41名(91.1%)や「生命の大切さ」33名(73.3%)が多かった。希望する性教育実施者は外部講師(看護師、保健師、助産師)が42名(93.3%)で最多であった。
    結論
    家庭での性に関する教育は「必要」だと考える保護者が多いにも関わらず、実施できているものは少ないという本調査の結果から、子ども達が性についての正しい知識を持ち、自分を守るためには、学校での性教育が重要な位置を占めると言える。朝鮮初級学校では、看護師・助産師などの外部の医療専門職者による教育が求められていること、教員や保護者からの在日医療人への期待が大きいことなどから、このテーマにおける在日韓国・朝鮮人医療専門職者の役割は大きいと考えられた。
  • 田中 一江, 西谷 純, 垣本 和宏
    2013 年 28 巻 4 号 p. 327-336
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/01/14
    ジャーナル フリー
    目的
    女性性器切除(FGM : female genital mutilation)はアフリカを中心に現在でも社会的慣習として広く行われており、瘢痕からの分娩時出血などによる妊産婦死亡の危険性増加やリプロダクティブヘルスの低下要因になることから、MDGsにある「妊産婦の健康の改善」の弊害要因の一つである。また、精神的観点からは女性へのバイオレンスとして捉えることができる。そこで、本研究では、公表されている保健統計を用いてアフリカ諸国のFGM実施率の状況や最近の動向を分析し把握することを目的とした。
    方法
    WHOの報告書「Eliminating female genital mutilation」FGMの実施が報告されている28ヶ国のうち、2002年以降に最新のDemographic and Health Survey (DHS)が英語で公表されているアフリカの国で、直近の年のDHSと概ね10年前のDHSとの比較が可能な国(タンザニア、ナイジェリア、エチオピア、エリトリア、ケニア、エジプトの6ヶ国)のDHSを対象とし、データを比較した。
    結果
    ナイジェリアを除く5ヶ国ではFGM実施率は低下傾向にあり、都市部よりも農村部の方のFGM実施率が高かった。これらの国では、若年層ほど減少が大きい傾向がみられた。ナイジェリアのFGM実施率は、農村部より都市部で高く、教育レベルが低い女性のFGM実施率が低いなど、近代化とFGM実施率には必ずしも関連は見られなかった。また、同じ国でも地域や民族による実施率の差異が大きく、地域での社会的文化的慣習としての根深さも示唆された。
    結論
    多くの国において、直近の報告での若年者でのFGM実施率が低下しており、実施率は将来さらに減少傾向になると予想された。今後母親となる若年者への健康教育やコミュニティーへのアプローチがFGMの更なる減少に効果的であると予想された。しかしながら、実施率の傾向は国によっては特徴的であり、その対策には社会的・文化的な根深い要因を考慮すべきであると示唆された。
特別寄稿
  • 一盛 和世, 矢島 綾, 森岡 翠, 福田 智美, 鴨川 由美子
    2013 年 28 巻 4 号 p. 337-347
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/01/14
    ジャーナル フリー
    世界保健機関(World Health Organization)はこれまで、顧みられない熱帯病に含まれる17の特定熱帯病について、疾患別に対策戦略を講じるべく、専門家会議を度々開催し、1948年から2012年に開催された過去の世界保健総会では、実に66ものNTD疾患に関連する決議が採択されてきた。しかし、1970年代に提唱されたプライマリヘルスケア、2015年を達成期限として発表されたミレニアム開発目標(MDGs)など、世界における国際保健動向に伴い、従来の疾患別縦割りプログラムよりも、それまで「その他の伝染病」と呼ばれていた特定熱帯病をNTDとしてまとめて制圧することにより、より効果的に貧困削減、ひいてはMDGs の達成に貢献することを目指して、2005年にはNTD対策部を発足した。その後、2007年に初のNTD対策国際パートナー会議開催、2010年に初のNTDリポート発表、2012年にNTD各疾患を制圧するための指針として「NTDの世界的影響克服の推進-実施に向けたロードマップ」を発表、同年に製薬会社13社や資金・技術援助を行う米・英政府、ビル・メリンダゲイツ財団、世界銀行を含む22の保健分野の国際組織による「NTDに関するロンドン宣言」採択、2013年にNTDレポート第2版を発行、というダイナミックな流れを受けて、ついに2013年にジュネーブで開催された第66回世界保健総会で、疾患別ではなく「顧みられない熱帯病」として初めて、その制圧・対策に向けた活動の更なる強化を要請する決議が採択された。この決議により、NTDの2020年制圧・対策目標の達成に向けて、WHOと蔓延国、そのパートナーたちの取り組みがさらに加速していくことが確信される。
  • 池上 清子
    2013 年 28 巻 4 号 p. 349-357
    発行日: 2013/12/20
    公開日: 2014/01/14
    ジャーナル フリー
    背景
    2000年9月の「ミレニアム宣言」を受けて、「ミレニアム開発目標(MDGs)」(以下MDGs)が国際社会における開発分野の最大枠組みとして各国で実施されてきた。2005年、2010年と5年毎の見直しを経て、2013年9月には「MDGs特別イベント」が国連で開催された。このイベントでは「開発」「環境」を重視する国連加盟国の発言が多く、「2015年以降の開発枠組み」を考える上で、大きな転換期を迎えていることを示した。
    しかしながら、2013年の現段階では、「リオ+20」で提示された「持続可能な開発(SDGs)」が目指す環境を中心に据えた開発アプローチと、「ミレニアム開発目標(MDGs)」のように社会開発に主眼を置くアプローチとが並立した状態であることが明らかになった。これをどのように統合(merge)していくのかという大きな課題を抱えたことになる。国際社会がMDGsとSDGsという重要なアプローチを並立させただけの状態ではなく、一つの開発枠組み(one framework)にどのように昇華させていくかが問われている。
    目的
    目的は以下の2点を明らかにすることである。
    ① 現時点までに「一つの開発枠組み」に関して国際社会に共通認識があるとすれば、それは何か。それらを踏まえた上で、MDGsとSDGsの接点はあるのか。
    ② 「一つの開発枠組み」として含まれるべきアジェンダは何か。
    方法
    In-depth Interview形式をとり、MDGsやSDGsを直接担当する国連職員及び環境NGOの職員に対して、上記目的の2点について、自由に質問に答えていただいた。調査1)は2013年9月3日から5日の3日間、ニューヨークで実施した。インタビュー対象者2)は在京の国連機関を通して紹介された本部の担当・責任者4名と環境NGOの1団体である。
    結果
    ① MDGsとSDGsとの関連性については、共通認識として重要であることは一致しているが、まだ議論の途中であるため、具体的な方向性や接点に関する意見やコメントは少なかった。その中で、経済・社会・環境の領域が接点となり得ることが指摘された。
    ② 国連全体として1つのポジションをとることが重要であり、各国連機関がそれぞれ異なるポジションをとることはないとの指摘があった。この指摘を前提とした上で、共通項として挙げられたのは、MDGsの未達成の課題(unfinished agenda)とジェンダーの2点であった。
    結論
    i) 2015年秋の国連サミットまで継続的なフォローアップの必要性(特にSDGsのOWGの動きと方向性)
    ii) 2015年以降の「一つの枠組み」に向けてと一つの国連
    iii)特筆すべき提案(指標、政治的な宣言など)
    などが導かれた。
書評
第28回日本国際保健医療学会学術大会in沖縄 ベスト口演賞・ベストポスター賞受賞報告
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