都市計画論文集
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55 巻, 3 号
都市計画論文集
選択された号の論文の168件中101~150を表示しています
  • 齊藤 広子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 947-953
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、東京都に立地する超高層マンションを対象に、管理及び地域との連携の実態と、地域連携要因を明らかにした。マンションが地域との連携をするには、管理組合の基本的な体制がある、マンション内のコミュニティ形成、地域に開いた施設の存在、地域と一緒の活動が有効である。よって、行政は、施設をつくる、地域組織に加入することを促進するのではなく、それらを通じての実質的な活動の促進する体制を整備して、供給するように、開発事業者を誘導する必要がある。

  • 全国の外国人集住団地管理者へのアンケート調査の分析
    王 爽, 藤井 さやか
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 954-961
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、外国人人口が急増しており、今後も増加する可能性が高い。本研究では、全国の外国人集住がすすむ公的住宅団地を抽出し、外国人集住の実態と課題、対策の現状と効果を把握し、今後の対応策の検討を目的とする。団地の抽出は2015年の国勢調査小地域集計を利用して110の外国人集住団地を抽出した。外国人集住団地は、300戸以下の小規模かつ外国人率20%以下のものが多いが、一部に外国人率45%以上の団地もあった。半数以上は中部圏に立地している。次に外国人集住の実態と課題を調査するために110団地の118管理者にアンケート調査を行った。半数以上の団地で特定の国籍住民の集住があり、騒音問題、ごみ問題、無断転居、無断駐車といった管理上の問題と自治会不参加、コミュニケーションといったコミュニティ上の問題が発生していた。集住している国籍ごとに問題傾向の違いがあった。トラブルへの対応を進めている団地は半数で、一部の改善はありつつも、抜本解決には至っていない。外国人のコミュニケーションに苦労しており、新しいツールの活用や担い手との連携が必要なことが分かった。

  • 中澤 知己, 杉田 早苗, 土肥 真人
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 962-967
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本国内では2016年のヘイトスピーチ解消法後も、年間300を超えるヘイトスピーチが行われている。本研究では国内で初めてヘイトスピーチに対して罰則刑を定めた川崎市の条例の成立背景を明らかにすることを目的とする。 分析方法としては、川崎市の革新的な取組の背景を明らかにするために、市議会の議論に注目し、議事録からヘイトスピーチに関する発言、全1313件を抽出し、6つの論点に分類し、分析・考察した。また、条例に対する2万6千を超えるパブリックコメントを整理し、市民の意見を概観し、市議会での議論と比較し考察した。結論として、川崎市には外国人市民の抱える問題に対し、市民、市議会が協働して支援を拡充し、全国で初めての試みを行うなど、都市の中に多文化共生の意識が育っていること、止まらないヘイトスピーチに対して市民の訴えに市議会が応えたことで、全国で初めてのガイドラインや、条例などの対策が講じられたこと。都市の中に多文化共生の共通認識があったからこそ、全国初となる対策や支援を何度も実行できたこと、都市のビジョンを共有することは都市の態度を決め、都市問題に立ち向かう力になるということがわかった。

  • インフォーマルな居場所に焦点を当てて
    高階 麻美, 後藤 智香子, 新 雄太, 近藤 早映, 泉山 塁威, 吉村 有司, 小泉 秀樹
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 968-975
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年日本では、精神障害者やひきこもりなど心の健康を損ない、生きづらさを抱えた人にとって支援として居場所を提供することの重要性が指摘されている。公的制度に基づかず柔軟な支援を行うインフォーマルな居場所も増加している。これまで居場所づくりを通じた支援の形態ごとの役割や、インフォーマルな居場所の詳細については明らかにされていない。本研究ではこれらに焦点を当て、地域で安心して暮らすための支援の一つとして担いうる要素について考察することを目的とする。”居場所”関係者へのインタビューとアンケートからは、支援の目的によっても”居場所”を分類可能で、形態ごとに強みや弱みがあることが明らかになった。インフォーマルな居場所である居場所Xでの参与観察では、中高年のひきこもりを中心として、「話す」行為を通じて人と関わることができるようになり、自己自認に至り、進みたい道を見つける場が成立していると明らかになった。これらの考察を通し、今後生きづらさを抱えた人の”居場所”づくりを発展させ、きめ細やかな支援を目指すための示唆を得た。

  • 既成市街地の持続再生に向けた新たな枠組み
    久保 夏樹, 村山 顕人, 真鍋 陸太郎
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 976-983
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、米国ポートランド発祥のエコディストリクト認証制度を対象に、既成市街地において持続可能なまちづくりを展開する際に重視される点を明らかにすることを目的とする。地区スケールの持続性評価ツールの中で、エコディストリクト認証制度はパフォーマンス基準と市民参加を組み合わせて進化したプロセスベースツールとして分類された。エコディストリクトの枠組み開発の過程では、開発当初の環境面が重視されたサステナビリティ戦略から、地区の公正性やレジリエンスに視野が広がり、計画プロセスにおいて地区のリーダーシップが重要な要素として取り入れられた。エコディストリクトの枠組みと指標は地域の特性に合わせた目標設定が可能であり、枠組み自体が、地域で議論する際のコミュニケーションツールや教育ツールとして機能している。また、エコディストリクトが適用された15事例の分析より、枠組みは既存地区の再生における活用、コミュニティ再生における活用、開発プロセスにおける活用の3つの活用がみられた。

  • ローカルプランの策定を要する場合とコムーネプランとの関係について
    鶴田 佳子, 木村 祐太
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 984-990
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、市の裁量的運用によるローカルプラン策定について、コペンハーゲン市のローカルプランの各計画書用いた事例分析により、策定背景・目的を把握することを目的とする。分析の結果、ローカルプランの策定を要する場合は1)コムーネプランの追加・変更が必要2)大規模な計画である、3)建築許可基準の明示、4)公共施設の建設の4つがあることが分かった。このうち、1)の場合は、計画規模の大小に関係なくローカルプランの策定が必要であり、それらのプランの策定目的は、市の計画で定められた建築物形態規制の緩和および用途変更と申請プロジェクトに併せた土地利用規制の具体化・詳細化の2つがあった。また、3)や4)の事例では小規模でもローカルプラン策定対象となっていることも分かった。

  • 関東地方の自治体での整備事例を対象に
    間瀬 智紀
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 991-998
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、地方自治体がPFIやデザインビルド 、ECI方式を用いて行う庁舎整備事業において、民間活力の導入目的とその実態を、文献調査やヒアリングを通じて研究を行った。民活方式とは、民間企業が持つ技術やノウハウを公共事業に用いる方式である。日本国内では、政府により地方自治体で行う事業にその活用が推奨されている一方で、最近では様々な課題があると指摘されている。本研究では、最初に民活方式の導入背景について明らかにしたのち、民活方式の導入には、事業期間の長期化や資金活用、地域企業の活用などといった民活方式を用いる上での課題への対処が求められていることを明らかにした。その後、民活方式を用いた事例では課題に対して様々な方策が取られており、効果を見せているもののの、課題の解消には未だ不十分であること、また、本来の目的に沿った民活の運用ができていないことや、時勢に合わせた効率の良い施設のあり方がの議論、実現ができていないことが明らかとなった。

  • 対象公園立地及び,参加インセンティブ導入が民間側の参加意欲に及ぼす影響についての官民の認識の差異に着目して
    岩岡 宏樹, 川島 宏一
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 999-1006
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、公園分野においてサウンディングが多く実施されている現状ある。しかし、現状の問題として、サウンディングを活用できる公園は立地が民間企業にとって魅力的な市場性のあるものに限られていることを挙げる。そこで、問題解決のため、対象公園立地の違い及び民間側の参加インセンティブの参加意欲への影響度、4つの参加インセンティブ手法の導入による民間側の参加意欲への影響についての官民の認識の差異に着目して調査を実施する。その結果、各立地において参加インセンティブの効果について官民の認識の差異が見られた。また結果の考察より、立地を考慮した参加インセンティブ手法の導入方法として2つ提案する。1つ目は市場性の低い立地の公園でのサウンディング実施において、民間側の参加意欲向上には「公募時の加点」が効果的であること。2つ目はそれぞれの立地にて参加が想定される民間事業者の特徴を理解し、民間事業者のサウンディングへの参加意向を踏まえた上で適切なインセンティブを導入することが重要であると結論付けた。

  • 大都市圏郊外部の横浜市青葉区、都筑区、緑区を対象として
    山口 行介, 饗庭 伸
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1007-1012
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、効率的な通所系・訪問系介護サービスの提供に向け、通所介護、地域密着型通所介護、小規模多機能型居宅介護、訪問介護、訪問看護の大都市圏郊外部での建築物単位での整備特性、都市空間への立地特性を把握し、整備特性、立地特性と潜在利用者人口の分布との関係を把握した。整備特性では、7割以上がストック活用であり、特に店舗・事務所を転用してのものが多く、立地特性については、用途地域では第2種中高層住居専用地域、準住居地域、近隣商業地域に立地が集中し、鉄道駅への近接性では0.5km圏への立地が75%以上となっていた。このような立地特性の多くは特定の整備特性に依っていることが多く、整備特性が特定の地域への在宅介護・医療事業所の立地集中に影響していた。このような立地特性を潜在利用者人口の分布と比較すると、概ね潜在利用者人口に対応した対象事業所の立地となっており、利用者の自宅の近くで、環境の変化が少なく、効率的な介護サービスの提供が可能な立地となっている。しかし一部では非対応の事例があることが確認され、そのような場合には何らかの対応が必要となる。

  • 東京都心縁辺部の高経年住宅団地を対象としたアンケート調査に基づいて
    関口 達也, 樋野 公宏
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1013-1020
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,以下の2つの研究課題(RQs)について検証し,その結果から,食料品の買い物弱者問題の解決に向けた支援策や都市整備の在り方を提示する事である.RQ1) 買い物における食料品の入手の不自由の有無は,利用店舗に対するいかなる主観的評価により説明できるのか?,RQ2 買い物において食料品の入手に不自由を感じる環境下にある事は,個人の購買行動,食品摂取にいかなる悪影響を及ぼすのか?主な結果として,まず,人々が買い物環境に対して不自由を感じる要因には,距離・交通利便性のみならず,安全性(重視される場合)や商品の品質の評価も含まれる事が示された.しかし,食料品の入手が不自由であると感じる買い物環境下にいる事が,ただちに食品摂取へ悪影響を及ぼすわけではなく,徒歩や公共交通で買い物を行う人々が不自由を感じている場合に買い物頻度の低下をもたらし,十分な量・多様な食料品の入手・摂取を妨げるという間接的な影響が示唆された.本稿の結果は,食料品の買い物弱者問題を論じるうえで,多様な観点から人々の買い物環境を考慮し,食事への影響まで見た評価に基づいた対策立案の重要性を示すものと言える.

  • 田部 友彦, 松本 邦彦, 澤木 昌典
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1021-1026
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、容積率や斜線高さ制限の緩和を伴う防災街区整備地区計画が策定された地区において、規制緩和が適用された建築物及び敷地の空間特性、壁面後退及び壁面後退区域への設置制限による防災上の課題、防街地区計画及び規制緩和による建替えへの影響を明らかにすることで、密集市街地整備にあたっての防街地区計画の効果と課題を明らかにすることを目的とする。規制緩和が適用された建築物の空間的特性は、敷地面積が小さい、前面道路種が二項道路でその幅員が4ⅿ以下でセットバックが必要であるなど、建替えには悪条件である敷地において規制緩和の適用を受け建替えが行われていることが明らかになった。設置制限は約半数で遵守されておらず、鉢植えなど住民が設置したものだけでなく、表札用門柱など施工時から設置されているものもある。また、規制緩和を建替え理由として挙げている人はおらず、規制緩和は建替えには直接的には影響していない一方で、自宅への規制緩和の適用について居住者は認知していないが、施工主が規制緩和を利用して必要な延床面積を確保したり部屋数を増やすことで、居住者の要望を満たし建替えを促進している可能性が示唆された。

  • 大阪府門真市を対象として
    副島 脩平, 岩崎 義一, 山口 行一
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1027-1032
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本は少子高齢化が急速に進展し、第二次世界大戦後初めて、かつてないほどの人口減少を経験しました。 また、空家の増加に伴う住環境の悪化は、都市問題として注目されています。 本研究では、特に、空き家や低未利用地が密集市街地を対象にしている。 土地区画整理事業の導入に伴う住環境の変化の分析をおこなった。 公共施設の整備が防災や景観に影響を与えることがわかりました。 このことから、密集市街地における区画整理事業の有効性が示されたものと考えられます。

  • 線形計画問題としての定式化と東京都市部のタクシープローブデータを用いた分析
    森本 奎太郎, 丹野 一輝, 濱田 賢吾, 小貝 洸希, 田中 健一
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1033-1040
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,降雨などのイベント発生時に,鉄道駅を起点とするタクシー需要が増加する点に着目する.そして,イベント発生後の駅でのタクシー需要を,機械学習を用いてタクシープローブデータから推定し,空車タクシーを鉄道駅へ適切に配車する数理最適化問題を提案する.評価尺度として,駅および駅に向かう途中で獲得される需要量と,駅へタクシーを配車する際の移動コストの2つを採用する.提案モデルにおいて,一部の仮定を簡略化することで,線形計画問題として定式化する.短時間で最適解を求められるため,実際の配車に対しても十分に適応可能なモデルである.東京都心部のタクシープローブデータを用いて配車のための数値実験を行い,獲得需要と配車コストをうまくバランスする解を得ることに成功した.

  • 新貝 航平, 三瀬 遼太郎, 渋川 剛史, 森本 章倫
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1041-1046
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本における人口減少は今後避けられない事態となっており,持続可能な都市を維持するためにも「コンパクト+ネットワーク」の都市構造へ転換することが望ましいとされている.現在,立地適正化計画について具体的な取組を行い,都市機能誘導区域を定めている自治体は多くある.しかし都市機能誘導区域を定めるうえで商業施設の動向調査は不可欠であり,これまでは短時間での人々の消費行動については把握しづらい状況であった.近年,交通系ビッグデータの登場により短期的な人口の変化を読み取ることが可能になった.本研究では,短期変動データである携帯電話基地局データを用いた消費行動の評価を行い,都市機能誘導区域での消費の原単位予測について考察する.

  • 愛媛県四国中央市伊予三島地区を対象として
    篠永 信一朗, 松村 暢彦, 片岡 由香
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1047-1054
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、祭礼活動への関与度と地域コミュニティに関する意識の関連性を明らかにすることである。本研究では、地域コミュニティに関する意識として「地域愛着」、「時間的展望」、「ソーシャル・キャピタル」の3つを指標とし、祭礼活動への関与度に着目しながら、調査・分析を行った。調査方法は次のとおりである。:(1)祭礼活動が地域に与える影響に関する既往研究の文献調査、(2)対象地域での事前調査、(3)祭礼活動と地域に関するアンケート調査の実施、である。アンケートの分析の結果、祭礼活動への関与度が大きい人は、関与していない人よりも「地域愛着」、「未来に関する時間的展望」、「ソーシャル・キャピタル」が高いことが明らかになった。

  • 2変量ローカルモラン統計量を用いた共集積の分析
    穴井 宏和, 柴崎 亮介
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1055-1062
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、(1)スタートアップ及びそのエコシステムの集積状況を明らかにする、(2)エコシステムの空間的な特徴と課題を抽出して、スタートアップ支援政策等に生かすことである。既存研究では、スタートアップのみ、投資家のみの立地分析を行ったものが多かった。一方で、スタートアップ、投資家、大学・研究機関などで構成されるエコシステムを一体的に研究した例は少ない。本研究では、スタートアップとその支援機関の共集積の状況を2変量ローカルモラン統計量によって明らかにしたのが特徴。検証の結果、スタートアップの集積がありながら支援機関が少ないエリアとして、東新宿、代々木、五反田、茅場町、芝浦などがあることが明らかになった。これらの地域は、政府・民間のスタートアップ支援によってエコシステムを強化できる可能性がある。

  • 栗田 治
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1063-1070
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    需要が連続的に分布する線分都市上に,同一種類の複数の施設の存在を仮定し,住民による施設選択確率を非集計ロジットモデルで与える.その効用関数は施設への移動距離と施設の魅力度の重み付き和で与えられるものと想定する.施設配置に依存する住民の便益を,期待最大効用の平均値で測り,その最大化問題を考える.すると,最適施設配置に関して分散相と凝集相が存在することが証明される.そして相転移の臨界点が地域のモビリティ水準に依存する様子が示される.

  • 田部井 優也, 三橋 伸夫
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1071-1077
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,各地方自治体で策定されている立地適正化計画では,居住誘導に必要な都市機能の維持・誘導が課題となっている.都市機能の中でも特に生活に欠かせない機能である食料品店を,立地適正化計画区域内に一定数確保することは,計画の推進上極めて重要である.そのためにも食料品店の立地上の課題,特にこれまでの食料品店に係る新規出店や撤退事例を踏まえて整理する必要がある.そこで本研究では,宇都宮市をケーススタディとし,食料品店の築年数や建物構造といった建築物属性に着目した撤退状況などの立地動向に関する分析を行い,食料品店の立地上の課題を明らかにすることを目的とする.分析の結果,食料品店は2000年以前に建設された食料品店が多く,老朽化が進行していること,都市機能誘導区域内の店舗が他の地域と比較し老朽化が目立っていることを明らかにした.また,築27~34年を超えて閉店した食料品店はそのほとんどが解体され,宅地など別用途へ転用されている点を明らかにし,老朽化している店舗を中心に今後食料品店の閉店が増加し,店舗数が減少する可能性を示した.

  • 嚴 先鏞, 長谷川 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1078-1085
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    市街地拡大と人口密度低下により,インフラ維持コストの増大や公共交通の衰退が懸念されている中で,都市機能と公共交通の一体的な考慮による効果的かつ実現可能な都市構造の構築が求められている.本研究では,住民施設利用の実態と自治体における現状の施設配置と公共交通網に基づき,複数施設利用のメリットを考慮した拠点配置手法を提案し,利用可能人口の割合(充足率)と複数施設利用のメリットから自治体の利便性の現状と施設改善効果を評価することを目的とする.まず,住民の日常生活の外出に関するWebアンケートから1回の外出で複数の施設の利用と公共交通によるアクセスが利便性の向上に重要な要素であることがわかった.次に,複数施設利用を考慮した拠点配置モデルを構築し,現状の市施設利用における充足率と複数施設利用メリットの2つの指標から評価した結果,施設は利用できるものの,複数施設利用メリットには優劣があることを明らかにした.その指標に基づいた利便性向上の方針を提案した.さらに,施設の新設場所と種類を求めるモデルを構築し,具体的な都市での拠点配置結果より,施設追加による充足率の改善に効果を示した.

  • 佐野 雅人, 嚴 先鏞, 鈴木 勉
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1086-1091
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    都市の拠点計画評価にとって拠点を構成する都市施設の立地は重要な要因である.本研究では,日本の1,892の自治体における地域の施設配置をアクセシビリティ,施設充実度,超過率の観点から評価し,施設の近接関係を用いた都市拠点の数理的設定方法の試論を展開することを目的とする.第一に,各指標は自治体ごとに異なり,アクセシビリティと施設充実度が負の関係にあることを明らかにする.第二に,超過率の高い自治体ではミニサム配置による最適配置と現状配置の間に大きな乖離があることを明らかにする.第三に,ドローネ網の部分グラフで定義される施設間近接性で拠点を構築する手法により,超過率の高い自治体での拠点設定に最適配置問題を用いた拠点設定および再配置がアクセシビリティ改善に有効であることを明らかにする.

  • 一都三県Webアンケート調査に基づく類型化およびモデル分析
    山田 崇史, 中岡 奈月
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1092-1099
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    現在日本では、少子高齢化に伴う長時間労働の深刻化、育児や介護との両立、働き方のニーズの多様化など様々な問題に直面している。さらに、雇用形態の変化、女性の就業率の増加、出産や育児に対応した社会における環境整備が課題となっている。働く女性の居場所に関する調査や働く女性の生活行動とその子供との関係性を分析した事例は少ないため、本研究では、都市部において働く女性の居場所および居場所の利用行動を調査する。そして、居場所の利用者属性と利用行動の関係性を分析し、居場所の分類化を行う。さらに、働く女性の時間の使い方に関するモデル分析を行い、居場所における利用行動や日常の生活行動について実態を把握することを目的とする。分析の結果、年代や職業などの個人属性による居場所における利用行動の違いを明らかにした。そして、居場所での利用行動について、利用目的を基に5つの指標として評価し、居場所を5つに類型化した。さらに、子供とのコミュニケーションの時間、家事時間、自由時間といった生活行動に関するモデル分析を行い、生活行動の時間に影響する変数を定量的に把握することができた。

  • 2015年常総市水害を踏まえて
    古矢 潤, 徳田 伊織, 小又 暉広, 渡司 悠人, 小林 隆史, 大澤 義明
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1100-1106
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本は近年、熊本地震(2016)、台風19号(2019)など多くの自然災害に被災しているにも関わらず、公用車を活用した災害時電源確保についてはこれまで研究対象とされてこなかった.自然災害多発、人口減少などの時代背景を踏まえると、移動電源としての電動公用車を持つこと、周辺自治体と協力することには大きな意義があると考える.本研究は、公用車の電気自動車への転換や周辺自治体との広域連携が、有事にどの程度機能するのかを定量的に分析することを目的としている.まず、アクセスと維持管理費用とのトレードオフに注目し、自治体人口と面積を用いた簡単な数学的モデルによって公用車の台数を推計する.そして、電動公用車のエネルギー保有量をもとに、首都直下地震、南海トラフ地震を想定した停電克服について数値で検討した.南海トラフ地震のケースでは、首都直下地震のケースと比べて周辺自治体から賄えるエネルギー量が多く、より良い支援網が敷けることが分かった.

  • 曽我部 哲人, 牧 紀男
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1107-1112
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    兵庫県神戸市は1995年、阪神・淡路大震災により甚大な被害を受けた。その一方で、1990年代後半に日本の都心区では「都心回帰」と呼ばれる人口増加が起こり、その人口増加には高層集合住宅の建設が影響を与えた。このことから、1995年以降の神戸市の人口動態はそれら2つの出来事が影響を与えていると考えられる。以上の背景のもと、本研究では1) 被災後の神戸市被害甚大地域の長期的人口動態の概略、2) 住宅被害と超高層集合住宅開発の関係性、3) 超高層マンション開発による被災後の都心区である中央区の人口動態への影響を示す。本研究は、1km×1kmメッシュ単位で、住宅被害と人口増減、人口構造変化を集計し、それらと超高層マンション立地との相関を評価する。本研究は都心区における長期的な人口増加と人口更新があること、地域の震災被害や超高層マンション建設はそれらの傾向を促進したことを示した。このことは、震災復興と都心回帰は相互に影響を与えたと考えられ、震災復興は地域の社会的状況を踏まえ、計画を行う必要があると示唆された。

  • 外国人支援策に着目して
    高橋 諒, 奥村 蒼, 谷口 守, 藤井 さやか
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1113-1120
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本における国内の総人口は減少を辿る一方,外国人人口は増加を続けており,その影響力は無視できない局面に至っている.近年,外国人人口による人口の維持や減少の緩和について関心が高まっているが,それに影響を与える外国人支援策について定量的に分析した研究はない.そこで本研究では外国人人口による人口の維持や減少の緩和を考える際に有効な施策を検討するために,外国人人口に影響を与える要因や外国人支援策を定量的に分析した.その結果,市区町村の所得水準や雇用環境に関する変数の影響が大きいこと.外国人の医療福祉や外国人労働者に関する支援策を実施した自治体の外国人人口割合が実施前よりも大きくなる傾向があることが明らかになった.

  • 金 炅敏, 松橋 啓介, 石河 正寛, 有賀 敏典
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1121-1127
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は2000年から2015年までの国勢調査の第4次メッシュを用いて、全国人口構成に対する個々のメッシュ人口構成を対象とし、「ベイズ型APC分析」を適用することで、人口変動に対する効果として年齢・時代・コーホートの3つの要因のどれが影響しているか、特に年齢効果について、どの年齢層が影響しているかを明らかにした。100人以上のメッシュで行った分析の結果より、柏市では約21%、つくば市では約41%のメッシュにおいて、「コーホート効果」よりも、「年齢効果」や「時代効果」の方が人口変動の要因として大きいことが分かった。また、年齢効果の最大区間を推定することによって、当該メッシュの人口構成比が全国に対して、どの年齢区間で多いかを把握することできた。また、現況や将来の生活を支援する施設の整備に生かすことを検討した。なお、2000年と2005年以降で国勢調査地域メッシュ統計での人口同定方法が異なるため、特に小規模のメッシュにおいて「時代効果」が過剰に出る課題がある。今後、2020年度の国勢調査の結果が得て、2005~2020年の4時点間のデータを分析することができれば、小規模のメッシュについても詳しいAPC分析を行うことができる可能性がある。

  • 台湾におけるモラコット台風を事例として
    蔡 松倫, 楊 景元, 鄧 傳忠, 落合 知帆
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1128-1135
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    地球温暖化や気候変動の影響により、世界各地でさまざまな自然災害が発生し、人命や財産が失われた。2009 年8 月に発生した台風モラコットは台湾を襲い、台湾南部山間部の少数民族集落は甚大な影響を受けた。災害後、政府はNGO と協力し、災害後の復興計画を実施した。この研究では、テキスト分析とインタビューとを用い、台風モラコット時の台湾政府による災害復興の意思決定に関する特徴と課題について明らかにした。結論は1)政府は、仮設住宅の建設を中止する一方で、迅速な恒久住宅政策を進めた、2)再建場所の選択は、少数民族に対して土地との関係性を重視するため、課題となる頻度が高い、3)生業と文化に関する復興は、少数民族の生業脆弱性と文化の特殊性のため、モラコット台風による災害復興の中核となる、4)NGO 主導型再建には、コミュニティと他の再建関与団体の参加機会を減らすという影響がある。

  • 首都圏中古戸建て住宅を対象に
    鈴木 雅智, 新井 優太
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1136-1142
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では、資料請求情報という新しい住宅市場データを用いて、首都圏中古戸建て住宅市場における需給バランスの把握を試みた。この指標は、1物件に対する購入検討者のボリュームを示し、アンケート調査やヘドニック価格関数の構築といった既存手法では限界があった、売り手に対する潜在的な買い手の比率を明示的に捉えられる。分析を通して次の傾向が明らかとなった:①都心から離れるほど資料請求レベルは低下するが、近年では(都心に比べて相対的に)近郊・外縁での資料請求レベルが高まってきている。②最寄り駅から徒歩15分以上の地域で資料請求レベルが低下するが、近年では近郊・外縁で、駅近物件志向がより顕著になってきている。③築年数が増加しても資料請求レベルは低下することはなく、むしろ都心では資料請求レベルが上昇する。④延床面積120m2以上の広い物件に比べ、価格を抑えられる延床面積80m2未満の狭い物件の方が関心を持たれている。

  • 首都圏を対象として
    馬場 弘樹, 清水 千弘, 浅見 泰司
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1143-1150
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は今後建替えの問題に直面する旧耐震マンションを取り上げ、建替え要因の傾向と建替え予測の空間分布についてプロビットモデルを用いて分析した。対象地域は早期の段階で分譲マンションが供給された首都圏を対象とし、旧耐震基準のマンションを対象として分析した。結果、以下の点が明らかになった。第一に、観測可能な全ての旧耐震マンションを用いて、建替えマンションの傾向が既往研究の結果に従うことを明らかにした。本研究は増床可能性などの物的な建替え可能性が有意であることを示し、既往研究結果を支持することとなった。第二に、マンション特性が建替えに与える影響の程度について、定量的な限界効果の値を示した。例えば、築年数、敷地面積、戸当たり増床可能面積の1標準偏差の増分はそれぞれ1.49、1.42、0.75ポイント建替え確率を高め、総戸数、都心までの距離はそれぞれ0.75、0.61ポイント建替え確率を低減させることがわかった。第三に、建替え可能性の高いまたは低い地域について3次メッシュで可視化し、今後、都心東部、南部では老朽マンションのホットスポットが現れ、その他の地域では緩やかに老朽マンションの蓄積が生じうることを明らかにした。

  • 和歌山県田辺市本宮町を事例として
    落合 知帆
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1151-1158
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    熊野川沿い集落は古来より洪水常襲地域であったため,伝統的な水防建築の一様である「アガリヤ」を建て,水害時に備えた.本研究では,和歌山県田辺市,新宮市,三重県紀宝町の熊野川沿い集落での調査により,アガリヤの分布を確認し10の集落において現存を確認した.また,田辺市本宮町を対象とした詳細調査において,アガリヤは住居式,倉庫式,住居倉庫式に分類され,地区によって倉庫式または住居倉庫式が多数を占める違いがあった.また,その配置は,住宅の裏に石段を築き整地した上に建てられた敷地内盛土型と,住宅のある敷地から離れた高台に建てられた敷地外高台型に分類した.アガリヤの減少または消失の要因は, 昭和28年以降大規模な水害の減少,公共事業や治水対策の実施,二階建住宅の普及に伴う住民の水害危機感の減少,公的避難所の整備による自己対策から避難所避難への意識変化が挙げられる.現代社会において地域に残る伝統的な水害対策の知恵の継承が重要である.

  • 福井県吉田郡永平寺町柴神社を事例として
    山田 歩美, 加藤 雅大, 有賀 隆
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1159-1164
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は「過疎地域神社活性化推進施策」を受け、氏子と神社が地域運営を担う一員同士の繋がりであるという視点の上で祭礼運営を行うことが重要であるという背景を受け、社会的紐帯と祭礼形式の変容の相互関係を解明し、祭礼形式が変容しながらもそれが持続していく上での課題を、氏子側の祭礼に対する意識を踏まえ考察することを目的としている。⑴祭礼内容の歴史的変容、⑵祭礼を実行する組織運営、⑶祭礼に対する住民意識、以上3点について調査の結果、⑴対象神社の祭礼は福井地震を契機として祭礼内容が変容し、現在も人口減少に合わせて一部内容を変化しながら継続している。⑵氏子は町内会を介して祭礼に参加している。⑶氏子の祭礼に対する意識は各町内の人口特性や祭礼への参加形式の多様性によって各町内で差異が生まれている。以上より対象神社における社会的紐帯は町内会を介した間接的且つ段階的な繋がりの上に成り立つ事が明らかになった。また、各町内毎は祭礼形式に利点や課題を持ちつつも、全体としての枠組みは全地区で一貫されている事が地域運営の課題といえ、各町内の組織が有する祭礼形式の変容の方向性や課題を共有する事が重要であると考えられる。

  • 非線引き都市・岩手県花巻市を対象として
    山梨 裕太, 姥浦 道生
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1165-1172
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は立適策定自治体を対象に、計画公表前後の建築行為の量的・空間的変化を把握することで、立適制度による開発誘導の効果、課題とその要因を明らかにすることを目的とする。花巻市では立適の公表後に誘導区域内での建物の立地が進行し、都市機能誘導区域や居住誘導区域でも誘導を意図する用途の立地が進行するなど、当該計画の意図する誘導が外形的には実現されているといえる。また、誘導区域外においても用途地域内や誘導区域から近いエリアでの新築が増加し、誘導を意図したエリアへの集約化の傾向も見られる。しかし、具体的な誘導効果を見ていくと、誘導施設の件数は計画策定当初から意図したものの他は立地誘導が進んでおらず、誘導区域内から誘導区域外へ移転した例も見られるなど、都市機能誘導に逆行する動きもみられた。居住誘導についても、届出を義務付けている大規模な住宅開発は計画公表後も誘導区域外に立地し、むしろ誘導区域内よりも増加率が高い。このように、当該計画の具体的な施策について見た場合、実態として直接的な効果が出ているとは評価しがたい。結果として、従来から土地利用規制のない非線引き都市においては、小学校区や地価などの選好要因による無秩序な住宅開発等が継続しており、「線引きの代替措置」として期待していた立地誘導機能は十分に発揮されていないといえる。

  • 山川 冴子, 後藤 春彦, 森田 椋也, 山崎 義人
    原稿種別: 論説・報告
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1173-1180
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    豊富町では2000年頃から、地域外のアトピー性皮膚炎患者が湯治のために訪れ始めた。本研究では、2019年調査時までの湯治者受け入れ体制の変化を3つの時期で捉えた。一期では、行政により湯治者向けの町営施設が整えられたものの、湯治者にとって療養以外の行動は難しい環境であり、人間関係も湯治者間に止まっていた。二期では、民間のサービスやイベントの拡充により、湯治者の居場所が広がった。中でもコンシェルジュデスクは、湯治者の行動に大きく寄与した。湯治者間のコミュニティの充実により、地域に貢献する湯治者もこの時期から見られ始める。三期では、地域に移住した湯治者による温泉街、市街地双方での地域貢献が見られるようになる。このことが後続の湯治者の市街地での行動を容易にし、行動の選択肢を広げるきっかけとなった。本事例では、新参の湯治者に対して古参の湯治者による治療面に止まらない広義のピアサポートが確認された。かつて来訪者の立場だった人材が来訪者の窓口を担い、その役割を後続の来訪者がまた引き継いでいけるような仕組みを来訪者の受け入れ体制に取り込むことが、ヘルスツーリズムの持続可能性を高める上で有用であると考えられる。

  • 小池 則満, 橋本 操
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1181-1188
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    シシ垣(猪垣,鹿垣,猪土手)と呼ばれる土木構造物が,特に近世において日本各地に作られてきたが,そのほとんどは使命を終えて山野に埋もれている.本研究ではシシ垣が,防獣目的だけでなく当時の地域社会の中で「多面的な役割を果たしていた」という仮説をたてる.文献調査および現地調査等を通じて,それぞれの場所において果たしていた役割について論じ,シシ垣という構造物を地域資源として利活用する方法について考察することを目的とした.中部地方にある5か所のシシ垣について、現況や保存活動等を調査した結果,シシ垣は,境界,砂防,作業路,狩猟など,さまざまな機能を合わせ持った構造物と考えらえるとともに,地域・場所によってその機能は大きく異なり,その特徴と合わせて考えることが,シシ垣の保存や利活用を進めるためには重要だと指摘した.

  • 長曽我部 まどか, 谷本 圭志, 土屋 哲
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1189-1196
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    小規模高齢化が懸念される中山間集落に対して,自治体は様々な支援施策を実施している.しかしながら,集落組織の能力を総合的に評価する指標がないため,支援の必要性や緊急性を十分に考慮したうえでの支援が困難となっている.そこで本研究は,集落の持続可能性に寄与する集落組織の能力を明らかにすることを目的として,マッキンゼーの組織の健康度指数(OHI)を参考に,集落組織を総合的に評価するための質問項目を作成した.鳥取市の52集落を対象に調査を実施し,共分散構造分析を行った結果,「住民の対外部志向」という集落組織の能力が集落の持続可能性に影響を及ぼす可能性が明らかになった.さらに,住民の対外部志向には,住民の発展的な活動へ参加意欲を高めること,さらに集落の基礎的な活動を維持することも重要であることが分かった.

  • 安曇川沖積平野(木津荘, 滋賀県)を対象として
    吉田 裕枝
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1197-1204
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は琵琶湖西唯一の安曇川沖積平野中央部に位置する条里制集落・針江地区の換地以前の耕作地灌漑水利を分析対象とし,共同体間の関係性の解明を目的とする。具体的には,換地直前の1984年の直近耕作地間の水利を紐解き,耕地所有者属性の分析から,耕作地水利を介して存在したであろう,集落内外の共同体間の関係性を考察するものである。当該地は伝統的な景観の利用が進むほど保全が担保される地域の水環境システムが評価され,湧水利用による特徴的な生活井の居住域,水田地帯,湖岸のヨシ群落域が,重要文化的景観に選定された。本研究の分析結果から,「耕地を複数の水路と関連づけることで,耕作者の集落に対する帰属意識を高める」安曇川流域に伝統的な耕地零細分散所有に内在する,具体的な関係性が明らかになった。すなわち,集落の中心部に居住する隣組が,より多くの矮小な耕地を所有し,集落内外のあらゆる属性と日々の耕作を通して交流を図っていた姿である。直近耕地の水利における関係性を通して,集落内外の各属性の特徴的な相関関係や役割に関する詳細,支配者目線の歴史史料では描かれることのない居住地開発の新旧までが考察された。

  • 豊坂 弥雲, 三島 伸雄
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1205-1210
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    長崎県壱岐島の農村部では、古くから<背戸山+宅地+前畑+畑・他>の土地利用からなる散居集落の形態をとる。散居ユニットという<背戸山+宅地+前畑>のまとまりと、それ以外の田畑から構成されるのが壱岐の農村部の土地利用である。現在その散居集落の幹線道路沿いにおいて、建物が立ち並び土地利用が変化しつつある。しかし、いつ頃からどのように変化しているかは明らかでない。そのような土地利用の変化が見られる郷ノ浦町本村触を対象地として、明治期以降の土地利用変遷を明らかにする。まず、旧土地台帳と明治期の地籍図を用いて、対象地の復元地籍図を年代別に作成し、宅地化前後での土地利用の変化を見る。そしてグラフ化し数値的に土地利用変遷を分析する。結果としては、壱岐島郷ノ浦町本村触において、散居ユニットは明治30年代まで形を保っていたが、幹線道路沿いの宅地化が山側から始まって散居ユニットの一部が宅地になり、平坦な側も大正期から宅地化が始まり、昭和40年代には道沿いのほぼ全体が宅地化されるという土地利用の変遷を明らかにできた。

  • 大門 創
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1211-1218
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿の目的は,市街地形状が,公共交通サービス水準および公共交通利用に与える影響を実証的に明らかにする.さらに,市街地形状をコントロールするための,既存の都市計画関連制度の課題と方策を整理する.その結果、第一に,①同じ面積,人口,公共交通財政支出でも,市街地の形状によって公共交通運行本数や公共交通分担率が大きく異なること,②市街地の規模が大きい都市では,市街地形状が公共交通利用に与える影響は大きいこと,③当初市街化区域の指定状況の如何によらず,その後拡大した市街化区域の空間特性(線形か円形か)によって,市街地形状指標は大きく変化し,ひいては公共交通サービス水準および公共交通分担率にも一定の影響を与える可能性があること,④地方都市において,市街化区域拡大の空間的配置に配慮することによって,相当程度の公共交通分担率を改善させることができること,が明らかとなった.第二に,市街地形状をコントロールするためには,既存法制度を前提とした場合でも,市街地形状を歪曲化させることはある程度可能だが,公共交通ネットワークを再編する場合や,新しい公共交通軸を新設する場合には,限界があることが明らかとなった.

  • サブスクリプション型平準化運賃制度に着目して
    伊藤 将希, 武田 陸, 谷口 守
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1219-1226
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,地方部を中心とした人口減少やモータリゼーションにより,公共交通サービスの衰退が問題視されている.特に路線バスの影響が強く,利用者数の減少により経営状況が悪化し,赤字路線の廃止を余儀なくされている.地域公共交通を担う路線バスを地域住民のための基本サービスとして社会全体で支える必要がある場合,一定額支払うことで一定のサービスを担保し得るサブスクリプション型平準化運賃制度の検討が重要であると言える.そこで本研究では,広域連携に着目し,路線バスの維持管理費を負担することで路線バスの乗り放題を実現する仕組みについて検討した.その結果,より広域での連携が進むほど無理のない平準化運賃が導入できることが示された.

  • 榎本 俊祐, 嚴 先鏞, 鈴木 勉
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1227-1232
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,全国的な規模で日本の公共交通運賃の具体的水準とその空間構造を明らかにするとともに,距離当たりの運賃の地域差と自動車利用時費用との対比という2つの側面から運賃水準を比較することにより,公共交通が有利となる地域とその空間的特徴を明らかにし,公共交通の利用促進のための運賃設計に資する知見を得ることを目的とする.全国の40km圏内の市区町村間移動の所要時間と運賃の計算に基づき,自動車利用時費用との競合性を考慮し全国の公共交通分担率を推定した.その結果,20~30円/kmという日本の共通した交通にかける費用水準があるが,地域により運賃水準に違いが存在し,遠距離の移動のほどその差が大きくなることがわかった.東京・大阪京阪神都市圏パーソントリップ調査に基づいた公共交通分担率の推定から公共交通分担率は時間・運賃の減少に伴い増加することが示された.その結果に基づき,全国の自治体における運賃の変化による分担率の変化を調べた結果,運賃低減政策は主要都市圏辺縁部において,統一運賃政策では地方部の一部において公共交通の分担率を向上させることのできる地域が存在することが示唆された.

  • 欧州14都市実態調査から導かれること
    ペリー 史子, 塚本 直幸
    原稿種別: 論説・報告
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1233-1240
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本の多くのまちでLRT(Light Rail Transit)と呼ばれる次世代型路面電車システムの計画、構想があるが、なかなか実現してこない。そこで、トラム整備に成功した欧州の事例における整備計画内容の構成について、現地調査と交通計画担当者へのヒアリング結果から分析した。これらから、社会的に受容されるLRT計画立案を進めるためには、地球環境にまで配慮した都市全体の大きな枠組みの中でのLRT計画の明確な位置づけ、市民にわかりやすく目に見える形で伝わること、整備効果の測定には交通分野以外の都市環境や生活の質に関わる評価軸が必要であること等を導き出すことができた。制度や財源については、日本とは異なる仕組みを持っているが、都市の将来ビジョンに則って市民に様々な情報公開をしてきている点には、学ぶべきところも多い。日本で社会的に受容されるためには、交通計画の枠ではなく市民の生活空間の質の向上や都市の将来像の中での明確な位置づけに基づいてLRTプロジェクトを計画し、整備効果についても交通以外の多面的な側面から測定することが重要であり、そうすることによって、より豊かな質の高い生活環境構築を目指したLRT計画が実を結んでいくと考えられる。

  • 中道 久美子, 桐山 弘有助, 呂 田子, 花岡 伸也
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1241-1248
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    コンパクトシティ・プラス・ネットワークの実現のためには、転居と住区特性の関係を把握することが重要である。転居の理由としては、ライフステージの変化が多くを占めており、居住誘導の観点からも注目される。本研究では、全国の都市を対象に転居時ライフステージごとの住宅地タイプ等の転居傾向及び転居意向を把握することにより、居住誘導の検討に資することを目的とする。最近の住区特性データを用いて住宅地タイプを分類するとともに、各世帯構成の転居時のライフステージを推定して分類した。分析の結果、特に就学・就職を機に転居をした若い単身世帯や、退職や子の独立を機に転居した世帯では、転居意向と実際に転居した住宅地タイプ類型は異なる場合が多いことが明らかになった。

  • 都心商業地の「ウラ」の変容と住商共存に向けた取組み
    青木 公隆, 出口 敦, 中野 卓
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1249-1256
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本論では、「ウラ」の商業化と変容に関する研究である。「ウラ」とは、目抜き通り等の沿道型商業地域に隣接する本来商業地区でないエリアに飲食業・小売業が集積して形成された集客地域である。明治通りと表参道に隣接する地域を住商混在地に商業化が進行した「ウラ」の事例として捉え、裏原宿における住宅地から住商混在地への変容を3つの観点から明らかにした。1つ目は、個々の経済主体の行動に伴う住宅地から商業集積地への用途変容を4段階のプロセスとして示した。次に住商混在地におけて、居住環境の変化に応じながら、地域住民の居住環境の維持という理念のもと、住民や商店会を中心とした地域マネジメントの組織化とその役割を明らかにした。最後に、商業化の傾向に対して、「ウラ」の都市空間の形成に影響を与える都市計画制度等の役割と効果を整理し、居住環境を維持するために地区計画等や地域固有のルールを都市計画への導入を促す協議会の役割を明らかにした。

  • New York Industrial Retention Network の活動に着目して
    諸隈 紅花, 窪田 亜矢
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1257-1264
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    世界的な金融や文化の中心都市であるニューヨーク市は、脱工業化時代の近年、製造業維持 (IR)という考え方を反映した土地利用規制システムを導入した。IRは、民間団体であるNew York City Industrial Retention Network (通称NYIRN)という団体により推進されたが、その先進的な主張に反して、都市計画・政策分野ではあまり研究がなされていない。本論文ではNYIRNの活動に着目し、その設立背景、構成員、活動や主張、その成果を明らかにする。NY市は長年、工業地域を住宅等の都市的用途への転換を推進してきたが、都心回帰による旺盛な不動産需要により、工業地域で許可された混在状態が、市場原理により製造業の追い出し(ジェントリフィケーション)へとつながる構造を解明し、IRを土地利用政策で解決することを提言した。結果として市はゾーニングのインセンティブ制度を使った製造業用スペースの整備手法やホテルやセルフストレージなどの競合用途の立地規制手法を導入し、NYIRNは一定の影響力を市に与えた。

  • 西川 亮
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1265-1272
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、これまで都市計画の不在と乱開発が指摘されてきた1960年代の熱海市を対象に、都市計画の展開を明らかにするものである。熱海市では、高山英華が手がけた総合開発計画構想案(通称「高山プラン」)が1960年代の都市計画の指針となった。計画はマスタープランとして位置付けられ、都市計画法を根拠とする内容と観光施設整備など法的根拠を持たない内容の両方を組み入れた総合的なもので、多くの事業や都市計画決定が実施された。住民による海岸景観保全運動や行政と住民との間で眺望地益権の保護契約締結など、海岸景観への意識も高かった。しかし、市街地については、美観地区や高度地区など高山プランで記されたものの、都市の建築が作り出す景観に対する規制は実現されなかった。

  • 李 薈
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1273-1279
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では満鉄の鉄道付属地獲得した20世紀初頭から「奉天工業土地株式会社」の創設した1935年まで鉄西工業区成立の経緯を明らかにした。満州事変前、鉄西工業区は満鉄付属地拡張計画の一部であり、土地取得困難のため、満蒙毛織会社工場のみが設立され、鉄西工業区の起点と言える。満州事変後、満鉄による鉄西工業区の土地買収は失敗した。関東軍と満鉄は三つの方案を順次に作成し、鉄西工業区に関する土地買収方法、経営管理方式を決定した。満鉄は満鉄既買収地以外の土地買収を奉天市政公署に依頼した。法律上の便宜、満鉄主導権と奉天市協力の実現を図るため、満鉄と奉天市政公署共同出資の「奉天工業土地株式会社」が成立した。奉天工業土地株式会社の成立は、鉄西工業区設立時の土地買収問題を解決でき、将来工業区運営にあたる満鉄主導の行政、さらに治外法権撤廃後の満州国奉天市政公署による一元的行政を実現するために条件を作った。

  • 木曾 悠峻, 久保 勝裕, 安達 友広
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1280-1287
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    北海道の市街地は、多くが農業地帯に対して都市的サービスを提供するために、計画的に建設された。地方都市の建設は明治20年代から本格化したが、特に内陸都市では、原野区画が先行し、一定程度の入植が進展した後に市街地が区画されるのが一般的であった。従って、市街地の区画は、原野区画に埋め込むように建設され、その方向は強く規定された。本研究では、北海道殖民都市のグリッド市街地を分析対象として、①市街地範囲の設定方法と、②街区・宅地計画の方法(市街地区画道路の割り付け方法)の詳細を明らかにする。分析の結果、①原野区画の中に市街地区画を計画する場合、小規模市街地の範囲は、市街地用地の買収時の農地単位で規定された。300間四方の原野区画(中画)の内側に収め、100間×150間の「小画」の境界線を市街地の外枠とした。②具体の街区・宅地計画は、原野区画道路を基準線として設計された。一部の例外を除き、原野区画道路は付け替えや線形の変更をされることなく、原野の基本寸法の枠内で、市街地区画道路と街区の寸法が割りつけられた。この原野区画道路によって、市街地と周囲の農村部が空間的に連続化された。

  • 久保 勝裕, 安達 友広, 木曾 悠峻
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1288-1295
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    明治期に建設された北海道の市街地の多くは、市街地区画図に基づいて極めて計画的に建設された。しかし、その後の市街地拡大の状況はそれぞれ固有性を持ち、それに対する市街地再編の中で寺院敷地の再配置が象徴的に行われた。つまり北海道では、市街地拡大の過程で「2度目のデザイン」が施されたのではないか。本研究では、市街地拡大に応じた寺院の再配置の方法を解明し、市街地固有の景観を創出してきた実態を明らかにした。例えば、余市では、近世市街地に接して市街地を増設した際に、従前からの寺院群を開拓使の意向で新市街地外側の道路端部に移転させた。寿都では、大火を契機に近世市街地を再編した際に、新規の道路開削と一体的に寺町を建設した。これらでは、①市街地区画地外に配置する、②市街地端部の道路の軸線上に配置する、③寺院敷地を連続させる等の手法が用いられた。以上、北海道の市街地では、設計手法を徐々に蓄積し、時代に応じた宗教統制が行われ、やがて両者が接点を見つけていった。その過程では、各々の時代背景や制度的背景、市街地拡大の状況に応じて、それぞれ特徴的な寺院の再配置が行われ、固有の景観を今日に継承してきた。

  • 安達 友広, 久保 勝裕, 木曾 悠峻
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1296-1303
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    明治20年代から本格化した北海道の市街地建設では、多くがグリッド市街地と鉄道施設が同時期に建設された。そして、鉄道駅に直交する駅前通りの設置、それに間口を向けた街区計画など、合理的な計画が実践された。しかし、開拓の経緯や、近世遺構や微地形などが市街地設計に影響を与えており、北海道における市街地空間の固有性の検証においても、こうした視点を改めて見直すことが必要であろう。本研究では、かつての舟運に注目し、建設時から現在までの船着場を中心とした市街地構造を把握し、現在まで継承されてきた都市軸の実態を明らかにした。例えば、名寄市街地では、駅から離れた船着場付近に当時の中心街が形成された。現在では、その後に拠点化した駅前地区との間に「L字骨格」を継承している。千歳市街地では、自衛隊基地等の立地も影響し、船着場があった川沿いに飲食店街等が発達した。現在でもそのゾーニングは継承され、千歳川を都市軸として都市機能が集積している。以上、開拓期の船着場は物流基地として高い拠点性を持った。これが一因となり、市街地固有の都市軸の形成を促し、駅中心の市街地構造に移行しながらもそれを現在に伝えている。

  • 1972年マスタープラン大綱完成まで
    森 朋子, 黒瀬 武史, 西村 幸夫
    原稿種別: 論説・報告
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1304-1309
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
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    丹下健三が、当時のウ・タント国連事務総長から直々に釈迦生誕の地ルンビニの荒廃を聞き、この「聖地を永久に残すためのプラン」を依頼されたのは1969年であった。半世紀前に描かれたプランが、今もなお実現に向けて工事が進む一方で、近年では約17km東に位置するバイラワ空港の国際空港化工事が進み、周辺では幹線道路の拡幅と、大規模工場やホテル建設が進む。丹下プランの内部でも、当時描かれていない大規模ホールの建設や、各国から寄贈された仏像の建立等、統制のない変化が著しい状況にある。本稿は、国際連合が事業化を模索した初動期を対象に、丹下プラン完成までの一連の事業化プロセスから、具体的に明示された空間計画に着目して丹下プランの位置付けを明らかにし、そこから丹下プランの全体枠組みに対する計画意図を捉えることを目的とする。

  • 新宗教都市天理を対象として
    町田 匠人, 真野 洋介
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 55 巻 3 号 p. 1310-1317
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では新宗教に根ざした都市として天理を取り上げ、天理の都市の誕生から現在までの一連の中心市街地の変容を明らかにすることを目的としている。信者数や宗教施設の建設数など定量的な天理教の教勢の変化は、第二次世界大戦やオウム真理教地下鉄サリン事件などの出来事を境に3つの時期に区分されるが、天理の中心市街地の変容もそれらの時期区分毎に特性が異なるため、本研究では天理の都市の誕生から戦前までを第一期 : 「信者過多期」、戦後から1980年頃までを第二期 : 「都市発展期」、1990年頃から現在までを第三期 : 「教勢衰退期」と定義して、教勢の変化と新宗教都市の変容との関係性を考察している。また、統計資料や地図等の定量的な分析に加えて、商店街歩行者、商店主、宿泊施設経営者等様々な主体に対するヒアリング調査を行うことで、宗教都市の変容を多視点から考察している。結果として、天理の中心市街地は天理教の教勢に牽引されて発展し、天理教の信者も非信者も利用する都市へと発達したことが明らかになった。また近年では天理教の教勢の衰退に伴って宗教に依存するだけの産業は衰退傾向にあることも明らかとなった。

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