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大橋 慶介
2020 年76 巻2 号 p.
I_301-I_306
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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扇状地では表流水と地下水の交換現象が生じる.おもに扇頂部で失水現象,扇端部で得水現象が生じるが,その水収支を正確に計算するためには,扇状地スケールの大域的な透水係数を知ることが不可欠である.本研究では,Schwarz-Christoffelの公式やJoukowskyの関数を用いる複素解析により,物理空間である浸透モデルを,地下水流動の単純な記述が可能なポテンシャル空間へ写像し,両者を関係付けることで,浸透モデルの幾何条件から透水係数を算出する方法を扇状地に適用した.現地観測の代わりとして,校正された数値計算の結果を入力したところ大域的な透水係数は約1×10-3から1×10-4m/sの範囲を示した.これは準平行流仮定による透水係数の1/10,局所透水係数であるボーリング試験値に対しては同オーダー或いは10倍程度の値であった.透水層厚の設定が不要な地下水流動系におけるモデルパラメーターとして従来法の透水係数に対する特徴が得られた.
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井上 一哉, 高田 大輝, 鈴木 麻里子
2020 年76 巻2 号 p.
I_307-I_312
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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本研究では,塩水阻止型地下ダムの健全性評価に資する塩水分布計測の活用方法について検討した.地下ダム止水壁の透水係数分布を均質に形成したケースを健全状態として,止水壁の下部,中央部にそれぞれ高い透水係数を配置することにより遮水機能の弱部を想定した二次元塩水浸入実験と数値解析を実施した.その結果,弱部の有無や位置,貯留水位に依存した残留塩水塊の分布形状になる点,貯留水が越流状態にある場合,止水壁内に存在する弱部の位置に応じて,止水壁の下流側に淡水が流入する度合いに変化が生じる点を明らかにした.これらの知見は,地下ダムの水質管理にて塩水濃度を計測する止水壁上流側に加えて,下流側の塩水濃度計測により,止水壁の健全性評価に応用できると考えられる.
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栗原 克幸, 田端 幸輔, 福岡 捷二
2020 年76 巻2 号 p.
I_313-I_318
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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洪水時の基盤浸透による堤防破壊危険性を評価するためには,基盤の空隙構造を適切に考慮し,堤防裏法先付近での浸透流の集中・発達の機構を水理的に明らかにする必要がある.本論文では,粒子配置と空隙構造の不均質性に伴う透水係数の異方性を考慮し,堤防基盤浸透流をモデル化した.構築したモデルを用いて漏水弱点部を有する基盤層の浸透流解析を行い,被覆土の厚さと弱点部の拡大が,基盤層内のピエゾ水頭変化と,弱点部に向かう流れの集中・発達に及ぼす影響を明らかにした.また,薄い被覆土に弱点部が形成されると,法先近傍の高流速域が発達し,堤防破壊危険性が高くなる可能性があることを示した.
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牧 洋平, 前田 健一, 伊神 友裕
2020 年76 巻2 号 p.
I_319-I_324
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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近年,河川水が透水性基礎地盤に浸透することで,堤内において漏水や噴砂が発生し,パイピング破壊に至る危険性が増加している.河川堤防のパイピングメカニズムを解明し,重点監視箇所を検討することは今後の重要な課題である.本論文では,パイピングメカニズムについて噴砂の発生及び堤体下のパイピング孔の進展に着目した三次元浸透流解析と実験を実施した.その結果,噴砂の発生によって基礎地盤内の水圧減少の伝播の様子を解析により再現した.また,パイピング孔が進展する際,パイピング孔先端では孔径の約10倍の範囲から三次元的集水によって流速が増大し,特に複層の場合ではパイピング孔全体に浸透流が作用することが,パイピングを助長させる要因となることが明らかになった.
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泉 典洋, 前田 健一, 岡村 未対
2020 年76 巻2 号 p.
I_325-I_330
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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河川堤防周辺の浸透流は堤防決壊の一因であり工学的に重要な問題であることから,古くより地盤工学や河川工学の分野で数多くの研究が行われてきた.浸透流を記述する方程式系は比較的単純であるため数値計算も容易で,それによっておおかたの問題は解くことが可能であろう.そのような中で本研究は,基本的な物理メカニズムの理解を目的として,Dupuit-Forchheimer型の簡易なモデルを用いて複層を有する堤防周辺地盤の浸透流解析を行ったものである.複層構造の地盤では上層と下層の透水係数の比が小さいほど,透水層の広がりが狭いほど,堤内地側透水層内のピエゾ水頭は高くなり,パイピングのリスクが高まることが示された.また,堤防の透水性は堤内地側のピエゾ水頭を上昇させることを理論的に明らかにした.
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門田 拓樹, 金子 凌, 小野村 史穂, 仲吉 信人
2020 年76 巻2 号 p.
I_331-I_336
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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物理学に基づいた気象の1ヶ月予測は困難であるため,気象庁では数値予報ではなく,気温や降水量について,階級での確率予報を発表している.本研究では,機械学習を用いた平均気温・降水量の定量的な予測の可能性について検討する.モデルの中間層には時系列データの学習に適したLSTMと画像学習に適したCNNを用い,入力データとして地上気象観測データと海水面温度データを用いて予測を試みた.平均気温の予測は,上昇・下降傾向の予測はできたものの,夏・冬の気温を過小・過大評価する傾向も見られた.降水量の予測は,増減の傾向は概ね予測できているものの,突発的な降水量の増加を予測することに課題が残った.また,海水面温度データの学習が予測精度の悪化につながる可能性も示唆された.
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木原 拓海, 泉 翔太, 藤森 祥文, 森脇 亮
2020 年76 巻2 号 p.
I_337-I_342
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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集中豪雨が頻発し,日本各地で甚大な被害をもたらしている中,ダム管理や適切な情報発信のために降水量予測の高精度化が必要不可欠である.本研究では,面的な気象データ(GPV)と,ある降雨観測地点の降水量との関係性を学習させ深層学習モデルを構築し,数時間先の降水量の予測を試みた.結果,AMeDASデータのみ用いて深層学習モデルを構築した藤森ら(2019)に比べて,一部の降水パターンを除き予測精度が向上することが確認された.さらに,面的な気象データによる学習が,リードタイムの長大化に伴う降水予測の精度低下を防ぐ可能性を示した.また,AMeDASデータと面的な気象データを合わせて学習させることによってそれぞれを単体で学習させた深層学習モデルより精度が高くなる可能性を示した.
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武樋 力, 込山 晃市, 山本 隆広, 中村 茂, 陸 旻皎
2020 年76 巻2 号 p.
I_343-I_348
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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中小河川流域において防災や水資源を考えるうえで高頻度かつ高精度な降水の水平分布情報を得ることは重要である.一方で,都道府県営の補助ダムでは管理所を除いて流域内に地上降水量計が存在しないことが多いため,流域内の適切な降水の水平分布情報を把握することは困難である.レーダーは広範囲の降水の分布を知ることができるためレーダー降水量をダム運用に使用することができればダムの運用能力向上に資すると考えられる.そこで本研究では,気象庁の解析雨量を正解データとする深層学習により高時間解像度で配信される国土交通省Cバンドレーダーの高精度化を検討する.深層学習を用いた補正により補正降水量が解析雨量に近づき,計算ダム流入量の波形を良く再現したことから,深層学習による降水の補正は可能であると示唆された.
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皆川 裕樹, 安瀬地 一作, 木村 匡臣, 奥村 直人, 木村 延明, 馬場 大地
2020 年76 巻2 号 p.
I_349-I_354
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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観測値が少ない豪雨時を想定した模擬データを機械学習に用いるための指針検討に向けて,低平農業地域における排水施設操作支援のための深層学習モデルの構築を試みた.まず3日雨量100-,300-,500mmで各1000パターンの降雨波形を模擬発生させ,それを低平農業地域に適用した物理モデルに入力して人工の水位ハイドログラフを得た.それらを用いて,RNNモデルの一つであるLSTMで学習させて検証した後,対象地区における実降雨イベント時の観測水位を予測させた.1時間先の水位予測に適用した結果,どの雨量規模で学習させたモデルも全体的には良く予測できていたが,学習範囲を超えるような極端なイベントでは,予測精度が下がる可能性が示された.次ステップとして,予測時間の延長や,高精度な予測を可能にするための効率的な学習方法等の検討が必要となる.
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藤塚 慎太郎, 河村 明, 天口 英雄, 高崎 忠勝
2020 年76 巻2 号 p.
I_355-I_360
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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都市型水害が頻発しており,複雑な流出機構である都市中小河川流域において,簡易にモデルの構築が可能な機械学習モデルの洪水予測分野への適用に対する期待も大きい.そこで本論文では,大河川流域とは異なる1分ごとの短い観測間隔で作成された都市中小河川実流域データセットを用いて深層学習モデルを構築し,学習洪水数や中間層ノード数などのハイパーパラメータを変化させた場合のベンチマークテストを実施した.深層学習モデルと比較するためANNモデルも構築し、深層学習モデルパラメータ数と観測データ数をPD比という新たな指標で性能を評価した。その結果、同じ程度のPD比では学習・検証洪水に対してANNモデルよりも深層学習モデルの方が優位であり、特にANNモデルでは検証洪水において実績に沿わない急激な変動がみられることが分かった。
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Manoj KHANIYA, Yasuto TACHIKAWA, Yutaka ICHIKAWA, Kazuaki YOROZU
2020 年76 巻2 号 p.
I_361-I_366
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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This paper presents a study on the performance of the Ensemble Kalman Filter with different system error settings when multi-site river flow observations are assimilated into a distributed hydrological model based on kinematic wave theory. We varied the scaling factor of the model error term and its correlation structure for a fixed observation error scaling and found the filter behaviour and the prediction accuracy to be highly dependent on the model error properties.While using standard normal model errors without scaling produced inferior results, with scaled errors, the effect of the scaling diminished when the model errors had higher correlation lengths. Identifying the proper model error correlation structure is therefore more important than determining the magnitude of the scaling for improving the filter performance.
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小槻 峻司, 桃井 裕広, 菊地 亮太, 渡部 哲史, 山田 真史, 阿部 紫織, 綿貫 翔
2020 年76 巻2 号 p.
I_367-I_372
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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気象・気候分野で進められている大アンサンブル予測データの有効利用を目的に,降雨流出氾濫モデルのエミュレータを開発した.このエミュレータは,降雨の空間・時間分布から,降水イベントの最大浸水深を予測する.まず3種の正則化回帰学習器を作成し,Random Forestによるそれらのアンサンブル学習を行った.この構成は,劣決定問題における過学習回避と,弱学習器を複数とりまとめるスタッキングによる非線形変換という2つの役割を果たしている.最大浸水深の予測精度には,回帰学習器の正則化手法による違いは殆ど見られず,回帰学習器は深い最大浸水深を過小評価する傾向が見られた.複数の回帰学習器のスタッキングにより,学習器の予測精度が大幅に改善した.特に,回帰学習器に見られた最大浸水深の過小評価が大きく改善した.
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永里 赳義, 石田 桂, 上田 誠, 横尾 和樹, 木山 真人, 尼崎 太樹
2020 年76 巻2 号 p.
I_373-I_378
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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本研究では深層学習を用いた降水量ダウンスケーリングの特性を調査した.大気場データを入力,流域レベルの降水量を出力とし,深層学習手法としてCNNを用いた.ダウンスケーリングにおいて入力変数を抽出する等圧面や水平範囲,及び入力変数の組み合わせの違いによる降水量推定精度への影響評価を行い,特性について考察を行った.結果より,CNNによる降水量ダウンスケーリングの特徴として,物理的情報の入力を必要とするが精度が向上するとは限らず,精度が落ちる可能性もある.また,対象流域の大きさに対し水平方向に比較的広範囲の情報が精度向上に寄与するがその範囲は限定的である.加えて,入力変数が多いほど精度向上が期待できるとは限らないことが示された.以上より入力データの領域及び入力変数の選択が重要であることが明らかとなった.
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Sunmin KIM, Tsuguaki SUZUKI, Yasuto TACHIKAWA
2020 年76 巻2 号 p.
I_379-I_384
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
フリー
A rainfall occurrence prediction model was developed using a convolutional neural network (CNN), a representative machine learning algorithm in image recognition. A spatiotemporal data array was created from the time series of related atmospheric variables from multiple ground gauge observation sites and used as the image data set. By feeding the atmospheric data array into the CNN algorithm as an input, the algorithm was trained to classify whether there will be rain in the next 30 min. The trained models demonstrate promising results for three different cities in Japan, with a 64 – 76 % detection ratio for a 30 min prediction lead time. The high false alarm ratio is an issue that should be addressed in further research, with additional input data. This paper presents the basic concept of the developed model and the results from modeling tests, with various model structures and input data combinations.
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辻 和也, 松本 健作
2020 年76 巻2 号 p.
I_385-I_390
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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地中を局所的に流動する流動地下水は,堤防漏水や山地斜面での地滑りなどの発生リスクとなるため,その高精度な探査手法の確立が課題となっている.1m深地温探査は比較的簡便且つ安価に流動地下水を推定し得る探査手法であるが,その高精度な推定には長年の経験が必要とされており,熟練技術者の技術を継承し,広範に活用するためのシステム構築が求められている.そのような背景から,本研究では1m深地温探査の結果から流動地下水の平面的な位置を推定するCNNモデルを開発した.テストデータによるCNNモデルの精度検証の結果,正解率が99.7%を達成し,良好に学習が進んだことが確認できた.当該モデルの実現場に対する適用性を検証するため,同一の現地観測結果を対象として,熟練技術者と本モデルとの推定経路を比較することで,本研究で開発したCNNモデルの現場有効性を確認することができた.
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新井 涼允, 豊田 康嗣, 風間 聡
2020 年76 巻2 号 p.
I_391-I_396
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
フリー
本研究は日本の最上流域における流量特性マップを作製するために,ニューラルネットワーク(ANN)を利用した流況推定手法の構築と精度検証を実施した.ANNの出力値を年平均流出高(QMEAN)と9種類の日流出高のパーセンタイルとし,入力値を気象,土地利用,地質,土壌および地形に関する流域特性指標とした.ANNの汎化性能はQMEANにおいてR2=0.70を示し,9種類の日流出高のパーセンタイルにおいてR2=0.20~0.74の範囲を示した.本研究は日本の最上流域を対象とした流量特性マップの作製に成功し,日本の降雨および降雪特性を反映していることを確認した.流量特性マップの結果から,流れ込み式水力発電所開発には東北・北陸地方の日本海側の豪雪地域が適していることが明らかとなった.
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Youngkyu KIM, Sunmin KIM, Yasuto TACHIKAWA
2020 年76 巻2 号 p.
I_397-I_402
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
フリー
This study aims to determine the most dominant meteorological factors for extreme precipitation, such as probable maximum precipitation (PMP); this is important in determining the conditions that generate extreme events to understand their magnitude. This study analyzed historical heavy rainfall events and their corresponding meteorological factors. The factors considered in this study are precipitable water (PW), surface dew point (SDT), temperature, relative humidity (RH), convective available potential energy (CAPE), and vertical wind velocity (VVEL) in eight different regions in Japan. To collect sufficient data, we utilized reanalysis data from “Japanese 55-year Reanalysis” (JRA-55), and the relation between historical rainfall events and the selected factors was analyzed via the cumulative density function (CDF) exceeding 0.95. In southern Japan, the VVEL and PW were highly correlated factors for historical events. In northern Japan, PW was the highest correlated factor for the events. Conversely, temperature had the lowest extreme ratio in all areas. Based on this analysis, we can conclude that PMP estimation via PW is reasonable for these areas.
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金子 凌, 小野村 史穂, 仲吉 信人
2020 年76 巻2 号 p.
I_403-I_408
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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多発する豪雨災害により,リアルタイム降水予測の重要性が高まっている.近年,深層学習を用いたシステムが,様々な分野で従来法の性能を覆している.そこで本研究では,前6時間の気象庁の解析雨量分布を入力すると,5段階の降水量カテゴリー分布を6時間先まで1時間間隔で予測するよう,深層学習モデルU-Netに学習させた.更に,降水量の多い事例は比較的少ないため,それらのデータを,回転,拡大することにより,移流方向や降水範囲の違う擬似的な降水現象を大量に生成することで,データ拡張を行った.その結果,擬似的な気象データを学習させたモデルは,学習させなかったモデルよりも,降水量の多い現象に対して精度良く予測できることが明らかとなった.
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中渕 遥平, 鈴木 博人, 金原 知穂, 遠藤 理, 中北 英一
2020 年76 巻2 号 p.
I_409-I_414
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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鉄道では,降雨時の列車運転規制を鉄道沿線に設置された雨量計の実況値を用いて行っている.降雨予測情報の精度が高ければ,列車運転規制にこれを活用することで列車運行の安全性をさらに高められる可能性がある.本研究では,運動学的予測手法である移流モデルと気象庁が配信する高解像度降水ナウキャストを対象として,算出される予測値を補正する複数の手法を検討した.雨量計による実測値を真値として,10分先予測値の積算雨量の精度および列車運転規制の発令予測精度から,各手法の精度向上効果を評価した.その結果,両予測手法ともエラーアンサンブルを導入した補正により予測精度が向上すること,補正後の最終的な精度は移流モデルの方が高解像度降水ナウキャストよりも高いことがわかった.
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今 日出人, 久加 朋子, 橋場 雅弘, 土田 宏一, 西山 典志, 瀧川 憲, 杉山 拓大, 清水 康行
2020 年76 巻2 号 p.
I_415-I_420
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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近年,想定以上の大規模水災害が全国各地で発生している.国や都道府県が管理する河川ではリアルタイムで情報伝達される観測システムを用いた避難勧告等の伝達システムが構築されてきた.一方で,基礎自治体が管理する中小河川では観測施設がない,あるいは設置されていても通信設備がなくリアルタイムで状況を確認できないなど,整備が遅れている.そこで本研究では,電波不感地域の中山間地においてソーラーシステムによって駆動する河川情報観測設備およびLPWA通信を利用した情報伝達を行うためのシステムを構築し,現地運用による実現性と課題の検証を行った.さらに,それらデータを用いた防災力向上への応用として,現地観測の水位データとドローンによる測量成果を用いた氾濫計算結果(事前に実施)を併用することで,基礎自治体の避難勧告等の発令の支援が可能となる仕組みまでを提案した.
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守谷 将史, 深草 新, 辻倉 裕喜, 米勢 嘉智, 田中 裕士
2020 年76 巻2 号 p.
I_421-I_426
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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全国の河川において,降雨流出モデルや不定流モデル等の物理モデルとデータ同化を使用した洪水予測システムが導入されている.一方で,物理モデルに依らず,既知諸量から経験的に未知量を予測するDNNの洪水予測への適用も見られるようになってきた.
本論文では,同化変量別の予測計算結果を比較分析し,予測精度を最も向上させる最適な同化変量は洪水中にも変化することを把握した上で,データ同化における同化変量をDNNにより逐次最適化する手法を考案した.本手法を,水位流量予測シミュレーションのデータ同化手法へ適用することで,予測精度が向上することを確認した.
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木村 延明, 吉永 育生, 関島 建志, 安瀬地 一作, 馬場 大地, 福重 雄大
2020 年76 巻2 号 p.
I_427-I_432
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
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近年,画像分類に特化した畳み込みニューラルネットワークを用いた河川水位の予測モデルが開発されている.しかし,実用化に向けて2つの課題があった.予測時間の延長化と複数観測地点の入力画像上の空間特性(距離・配置)を最適にすることであった.前者について,予測時間を6時間後まで延長し,複数の洪水イベントの再現性では3時間後まで良好な予測が可能となった.また,予測対象の洪水波形が相対的に滑らかに変化する場合には,6時間後まで良好な予測結果が得られた.後者について,予測地点からの距離の順に観測地点を配置した空間特性をもつ入力画像を使った予測結果は,距離に応じた重み付けや観測項目を減らして作成した空間特性などの入力画像の結果よりも良好な再現性を示した.
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杉浦 正之, 田中 耕司
2020 年76 巻2 号 p.
I_433-I_438
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
ジャーナル
フリー
洪水予測に使用されているフィルタには粒子フィルタをはじめとし多種があるが,フィルタの性能を情報量規準WAICによって評価した事例はない.洪水予測では,粒子の縮退が問題であるため,動体追跡,信号処理,画像認識,気象予報等の分野から,縮退に対応できる可能性がある5種類のフィルタを選定し,性能をWAICで評価した.フィルタの性能は,5種類ともに十分であったが,WAICにわずかな差があった.WAICの差の有意性を評価するために,予測雨量誤差を想定し,予測雨量誤差による水位誤差の大きさを解析し,水位誤差に占めるフィルタ間の差の大きさを推定した.その結果,予測水位誤差に対してフィルタ間の差が小さく,さらに,フィルタ間の差は非常に小さいことがわかり,5種のフィルタの性能にほとんど差がないと判断した.
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木村 匡臣, 石川 貴大, 奥村 直人, 安瀬地 一作, 飯田 俊彰
2020 年76 巻2 号 p.
I_439-I_444
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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低平農業地域である新潟市亀田郷地区鳥屋野潟流域を対象に,降雨量および鳥屋野潟からの排水量を入力として,鳥屋野潟への流入量を出力する機械学習モデルを作成し,鳥屋野潟の短期水位予測モデルへの適用可能性を検討した.機械学習モデルの入力学習データには,実際の降雨イベントにおける観測データの他に,排水解析シミュレーションにより模擬的に発生させて取得した模擬生成データも併せて利用する方法を試行した.その結果,実測データに含まれないほどの大きな規模の降雨イベントに対しても短時間でシミュレーションを実施することが可能となり,模擬生成データにより学習データを補完する手法の有効性が示唆された.本研究により提案された低平地湖沼における短期水位予測モデルは,排水機場の運転操作判断の支援ツールへの応用が期待される.
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寺村 淳, 北村 圭太, 島谷 幸宏
2020 年76 巻2 号 p.
I_445-I_450
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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伝統的な河川技術である霞堤は,いくつかの種類があり,松浦川には下流域でよく見られる遊水地を有した霞堤がある.本研究では,松浦川の大川野地区の霞堤について,2019年8月に発生した出水を基に,平面2次元計算などによって,その機能を検証した.この結果,大川野の霞堤では,霞堤内に流入する洪水の流速は極めて遅く,霞堤内の水位はどの地点においても同じであることが明らかになった.また,顕著なピークカット機能は確認できなかったが,ピークを遅延する結果が得られた.これにより,大川野の霞堤は下流の治水機能より,現地の農地を保全する機能が大きいことが明らかになった.
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伊藤 康, 石川 忠晴, 赤穗 良輔
2020 年76 巻2 号 p.
I_451-I_456
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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全球的気候変動による豪雨災害増加が懸念される今日,治水安全度を確保・向上させるために,河川上流域の保水・遊水機能の確保・増強が望まれている.本研究では,山間河道の洪水を旧河道や水田等に計画的に氾濫させ,洪水低減期に下流河道に還元する「流水型遊水地」について検討した.治水地形分類図,河川管理施設等構造令,河川砂防技術基準を参考に谷底平野を蛇行する河道及び旧河道の形状を想定し,単位氾濫原の上流側に計画高水位を天端とする越流堤,下流側に堤防開口部を配置した流水型遊水地モデルを作成した.その洪水調節機能を数値シミュレーションで調べたところ,計画流量の1.6倍の出水を安全に流下させつつ,洪水ピーク流量を3.7kmの河道距離において約5%低減できる可能性が示された.
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原田 翔太, 石川 忠晴, 赤穂 良輔, 前野 詩朗
2020 年76 巻2 号 p.
I_457-I_462
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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河川沿いの狭隘低地に上流側から計画的に越流させ下流側で洪水ピーク後に排水する「流水型遊水地」のケーススタディを行った.福島県須賀川市の阿武隈川堤防と山裾に挟まれた2つの狭隘低地を暗渠で接続し,上流端に天端がHWL+0.5mの越流堰を,下流端に排水樋門を設けて,延長4000m,面積100ha,の流水型遊水地モデルを作成した.続いて断片的に得られている資料をもとに2019年出水の水文条件を推定し,数値シミュレーションにより洪水調節効果と浸水範囲および減水後の排水可能性を検討した.その結果,近傍にある浜尾遊水地が満杯となった後のピーク流量低減に効果を持つことが示された.同様の狭隘地形を遊水地群として利用することにより超過洪水のさらなる調節効果が期待できると考えられた.
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横川 涼, 武藤 裕則, 鎌田 磨人, 田村 隆雄
2020 年76 巻2 号 p.
I_463-I_468
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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本研究では, 徳島県にある海部川支川善蔵川流域を対象とし, 農地や湿地をグリーンインフラとし, 洪水調節機能を定量的に評価する内水氾濫解析モデルを構築し, 人口減少が進む当該流域における将来の土地利用の在り方を考察した. 平成26年台風12号を元に, Hazen法によって確率雨量を評価し, 降雨外力の違いと土地利用の違いによる洪水調節機能に与える影響を評価した. 前者では, 床上浸水の被害が20年確率降雨以上で顕著に増加したことから, 水害リスクの高い場所と農地による洪水調節機能の発揮限界について検討した. 後者では, 宅地転換が進む前の過去の土地利用では, 湛水量の増減の応答が早く, とりわけ集中的に浸水する領域を特定した. 以上から, 浸水リスクがある場所での開発を控え, 社会状況に連動した優先的な退避の施策の成立が今後重要視される.
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池田 裕一, 長田 一輝, 飯村 耕介
2020 年76 巻2 号 p.
I_469-I_474
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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近年,毎年のように甚大な河川災害が発生しており,今後は流域全体の挙動を考慮した総合的な対策が求められる.霞堤などの伝統的施設も多面的な検証が必要である.本研究では,鬼怒川中流域を例として急流河川の霞堤の治水機能を,2次元流解析で検討した.解析条件として,1000年確率規模に至るいくつかの流量を与えるとともに、上流で破堤した場合の氾濫流の挙動や堤内地での土砂動態も検討した。その結果,1000年確率規模の流量であっても、解析区間内のすべての霞堤で堤内への遊水は発生しなかった.また道路橋に伴う盛土によって決壊口からの氾濫流が堤内地側に広がるために,氾濫流は霞堤から河道へ半分ほどしか還元されず,堤内地全体に土砂堆積範囲が広がる可能性があることを明らかにした.
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押川 英夫, 杉林 高彰, 阪本 こなん, 小松 利光
2020 年76 巻2 号 p.
I_475-I_480
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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直列配置されたダム群において上流側のダムの非常用洪水吐きからの越流を許容する“カスケード方式”を適用する際,最下流のダムを除いて上流側ダムの計画高水流量を最適化することがカスケード方式の効率化のために重要である.本研究では,2基および3基の流水型ダムが直列配置された流域にカスケード方式を適用した場合を対象に,従来は最下流のダムの無害放流量に相当する計画高水流量と同じで一定としていた上流側のダムの最適な計画高水流量について,系統的な数値実験により検討した.なお,ここでは基本的な洪水制御能力を評価するために支川の無い本川のみの場合を対象としている.その結果,カスケード方式の適用の際,全ての流水型ダムの計画高水流量を最下流のダムの計画高水流量と同じ値としても最適に近い洪水制御効果が期待できることが分かった.また,カスケード方式の治水効果は,無次元総治水容量と線形関係にあることが分かった.
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太田 皓陽, 伊藤 毅彦, 小野村 史穂, 片岡 智哉, 二瓶 泰雄
2020 年76 巻2 号 p.
I_481-I_486
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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令和元年8月佐賀豪雨により,佐賀県六角川流域において発生した内水氾濫状況の実態を明らかにするために,現地調査と1次元・2次元カップリング型氾濫シミュレーションを実施した.洪水痕跡に関する現地調査により,六角川・武雄川の左岸では,浸水深2m以上のエリアが広く存在し,全体では,氾濫面積は56.8km²,氾濫水量は4,088万m³となり,この氾濫面積は平成30年西日本豪雨の約30%に相当した.氾濫シミュレーションにより,内水量のピーク値はポンプ排水量最大値の7倍に達し,今次豪雨では,ポンプ排水だけでは内水排除は困難であった.このため,内水・外水対策のバランスの取れた流域治水の必要性について検証した.
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久松 力人, 多部田 茂, 金 洙列, 水野 勝紀
2020 年76 巻2 号 p.
I_487-I_492
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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損害保険業界では,リスク管理のために精緻な高潮リスク評価が求められている.米国ではJoint Probability Method (JPM)と呼ばれる手法により確率論的な高潮リスク評価を行ってきたが,その計算負荷の大きさから,近年ではJoint Probability Method – Optimal Sampling (JPM-OS)と呼ばれる手法により計算負荷を抑えた評価方法が適用されているものの計算精度がJPMと比較し落ちることが分かっている.既往研究による天文潮位の不確実性を考慮可能で計算負荷削減を目的とした高潮リスク評価手続きでは,計算負荷削減による計算精度の維持に関する考察が不十分である.
そこで本研究では,既往研究による高潮リスク評価手続きを資産が集積する東京湾に適用し,計算負荷削減により計算精度が維持できているかどうか考察することで,評価手続きの有用性を確認した.
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宇野 宏司, 谷口 夏海
2020 年76 巻2 号 p.
I_493-I_498
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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中小河川を中心に浸水想定が未整備の流域における洪水浸水リスクの評価が課題となっている.本研究では,水害に関係が深いとされる災害地名地点において既定の浸水予想区域内の災害要因の組み合わせパターンを抽出し,これを教師データとして,浸水予想区域外の水害地名地点の浸水可能性を簡便に判定する方法を提案した.本手法により,災害素因から想定される浸水未想定区域の洪水被災リスクは全国各地に点在していることがわかった.また,堤防整備等によって浸水しないと判断されている潜在的浸水可能性区域を抽出することができた.
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下山田 隆, 清野 聡子
2020 年76 巻2 号 p.
I_499-I_504
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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低平地では,世界的課題である水利用と災害の危機管理が持続可能性を考える上で特に重要となる.
本研究では,2019年8月の佐賀県の豪雨災害を体験した公立中学校の生徒による経験の集約にもとづく制作活動により,防災意識の伸長をめざした.
これらの取組は2019年度文化発表会等への学習であり,継続してきた流域学習の延長とした.アンケート調査からは,制作やその発表を通じて中学生の防災意識の伸長が認められた.さらに発表活動は,生徒と住民や行政関係者・専門家との交流により,低平地の災害対策に向けた人材育成の機会となった.本研究は,国内外の低平地に共通する豪雨災害と学校,地域を結ぶ概念の中等教育への導入としても重要であった.
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岡野 佑亮, 池内 幸司
2020 年76 巻2 号 p.
I_505-I_510
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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現在,河川氾濫のおそれがある場合には,広範囲に同時に避難勧告が発令されている.しかし米国では,避難に必要な時間が十分確保できない場合には,避難指示を出さないという判断が行われている事例がある.本研究では筑後川中流域を対象に,浸水シミュレーションやリードタイムの分析を行い,避難場所へ「逃げるリスク」と自宅での垂直避難にとどめる「逃げないリスク」を比較考慮することで,一様な避難勧告ではない「垂直避難を促す勧告」をすることの妥当性を検討した.結果として,各エリアごとに「逃げるリスク」と「逃げないリスク」は大きく異なり,十分な避難時間を確保できない場合には,エリアによっては避難せずに家にとどまった方が安全であるなど,エリアごとに適切な避難行動を選択する必要があることがわかった.
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関根 正人, 巫泳林 , 磯谷 朗太
2020 年76 巻2 号 p.
I_511-I_516
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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近年,気候変動の影響で集中豪雨による河川氾濫が多発している一方,台風による浸水被害が増加傾向にあり,2019年の台風19号は全国71河川140箇所の堤防を決壊させ,深刻な被害をもたらしたことは記憶に新しい.本研究では,東京23区を対象に荒川右岸堤防の決壊を想定した数値予測計算を行った.これにより荒川氾濫による浸水の発生,拡大プロセスを解明した.さらにこの結果を踏まえ,荒川決壊時に深刻な被害を受けると考えられる以下の2点について検討を行った.(1) 地下鉄K駅に注目し,駅構内とトンネル内における浸水を解析し,浸水プロセスを解明するとともに地下鉄の被害軽減対策効果の検証を行った.(2) 足立区,荒川区に注目し,主な要配慮者施設までの浸水プロセスを解明し,病院や高齢者福祉施設の避難対策の検討を行った.
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小刀祢 海斗, 谷口 健司
2020 年76 巻2 号 p.
I_517-I_522
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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石川県を流れる一級河川梯川流域において将来気候を考慮した降雨データを作成し,それを入力とした氾濫シミュレーションを実施したのち,得られた浸水深を用いて氾濫発生時の被害額を算出した.氾濫被害額の算出においては,今後日本において人口減少が発生した場合の人口分布や,住民の移転等に伴う都市構造の変化を仮定し,対象地域における総被害額や氾濫被害の空間分布に生じる変化を検討した.これまでと同様の都市構造のまま人口減少が生じた場合,主に市街地で被害額の減少がみられた.また,人口減少に伴って生じた低リスク地域内の余剰地を,高リスク地域からの移転先として活用した場合,移転率を最大とした場合には,氾濫発生時に失われる可能性のある資産の約4割削減され得ることが示された.
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富田 邦裕, 三﨑 貴弘, 松本 敬之, 小田 洋平, 田中 克幸, 田中 規夫
2020 年76 巻2 号 p.
I_523-I_528
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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令和元年東日本台風による越辺川と都幾川の合流部における破堤時の洪水位の再現を行った.洪水位の再現として,粗度係数と樹木の樹高と密生度を考慮した平面二次流況解析を行った結果,令和元年東日本台風時の洪水位と計算水位は概ね一致した.令和元年東日本台風による出水では,樹木群が越辺川と都幾川の洪水位を上昇させていることが確認された.この計算モデルを用いて樹木伐採による管理の水位低下効果の検討を行った.伐採箇所と伐採割合に注目して解析した結果,越辺川で破堤箇所付近40%伐採が,今回検討した中で伐採箇所が少なく最も効果的な伐採方法といえた.
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Md. Touhidul ISLAM, Keisuke YOSHIDA, Koichi SAKAI, Satoshi NISHIYAMA, ...
2020 年76 巻2 号 p.
I_529-I_534
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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This study demonstrates the accuracy of vegetated lower Asahi River surveying using both the improved airborne LiDAR topo-bathymetry (ALB) and newly launched unmanned aerial vehicle (UAV)-borne green LiDAR system (GLS), with comparisons among systems-derived, depth-averaged numerically simulated, field- and sensor-based data. This report also examined the applicability of both systems data for low-water flow simulations considering vegetation effects, which enables us to select the most feasible LiDAR-based technique for developing a novel hydrodynamic flow model. Results on topo-bathymetry and vegetation assessment revealed that both systems data were almost identical to the field observations, with an outperformed accuracy of a few dozen centimeters. Based on overall aspects taking account of high spatial resolution aerial image and shortcoming to deep-water, it can be inferred that the compact GLS would be a cost-effective tool worldwide for shallow vegetated rivers management measures after further studies.
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北島 夏実, 瀬戸 里枝, 山崎 大, Xudong ZHOU , Wenchao MA, 鼎 信次郎
2020 年76 巻2 号 p.
I_535-I_540
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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災害時の状況把握において,夜間や雲のある状況でも遠隔からの広域観測が可能であるSAR衛星は,氾濫域の観測に有効であるとされる.既存のSAR衛星は観測機会が1日2回程度にとどまっているが,近年の技術革新により小型SAR衛星を用いた多衛星(コンステレーション)運用による高頻度観測の可能性が出てきた.そこで本研究では,氾濫域変動を捉えるための要求観測性能を示す目的で,Walker Constellationに基づいた多数小型SAR衛星配置を設計し,40機配置で約1時間間隔での観測が達成されることを求めた.そして,CaMa-Floodを用いて出力した1時間毎の氾濫原水深データと想定観測条件を組み合わせ,観測カバー率変動の解析を行うことで,観測の傾向や制約,有意性を示すことが可能となった.
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Aung Khaing MIN, Takashi TASHIRO
2020 年76 巻2 号 p.
I_541-I_546
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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In recent years, cities are facing pluvial floods more frequently due to global climate change and rapid urbanization. This problem causes more severe damages in the cities with old aged drainage infrastructures. In these cases, the urban drainage systems cannot meet the original design requirements, which causes traffic jams and hygienic problems in the downtown areas. This study adopts InfoWorks Integrated Catchment Modeling (ICM) to evaluate the effects of design storms and channel sediment depths for the old storm drainage system in Yangon, Myanmar on the urban flood severities. The simulations with different design storms clarify that they have larger effect on flood discharges but smaller effect on flood durations, relatively. Whereas, those with the varied sediment depositions suggest that they could strongly influence both of the flood discharges and durations. The study could find that the maintenance work was essential for the reduction of such the urban flood severity.
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関本 大晟, 渡部 哲史, 小槻 峻司, 山田 真史, 阿部 紫織, 綿貫 翔
2020 年76 巻2 号 p.
I_547-I_552
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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大規模アンサンブル気候実験データの現在再現結果1500年相当を入力値とした降雨流出氾濫モデル実験結果を教師データとする機械学習手法により,浸水範囲予測を行う流出氾濫モデルのエミュレータを作成した.過去に水害が頻発している雄物川流域を対象とした検証結果を行い,河道付近に広がる主要な浸水範囲に関しては,およそ8割から9割の精度でモデル実験結果を機械学習により再現できることを明らかにした.機械学習により得られたエミュレータに対して平成29年7月洪水における実観測降雨量を入力した結果を実績の浸水範囲と比べた結果,機械学習の方法により再現精度は異なるものの,降雨流出氾濫モデルによる実験と同程度の予測結果を得ることができた.
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鈴木 博人, 中渕 遥平, 道広 有理, 大西 瑞紀, 佐藤 大輔, 田中 淳一
2020 年76 巻2 号 p.
I_553-I_558
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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鉄道の車両基地等に留置中の車両を浸水が発生する前に避難させる判断に用いるために,1日程度先の河川氾濫の発生をリアルタイムで予測する方法を開発した.本方法では,車両基地等に浸水をもたらす河川について,車両基地等の最寄りの水位観測所における流域平均雨量の予測値を求めて,その値が計画降雨量を超過した場合に,河川氾濫が発生する可能性があると評価する.本方法は,河川水位が計画高水位を超過した5事例のうち3事例で,河川水位が計画高水位に達する1日程度以上前に予測できた.また,流域平均雨量の予測値が計画降雨量を超過した11事例のうち4事例で河川水位が計画高水位を超過し,超過しなかった7事例のうち4事例で避難判断水位を超過した.これから,本方法を車両基地等から車両を避難させる判断基準として利用することにした.
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重枝 未玲, 秋山 壽一郎, 桂 佑樹, 中島 晴紀
2020 年76 巻2 号 p.
I_559-I_564
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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本研究は,降雨を外力とした流域流出・洪水氾濫解析の遺伝的アルゴリズムに基づく最適化手法を構築するとともに,同最適化法を平成29年7月九州北部豪雨時の花月川の大臣管理区間に適用し,既往の解析結果と比較することで,その有効性について検討したものである.本研究から,同手法は,(1)降雨と水位情報から流量の推定や流域のパラメータの最適化を可能にし,(2)水位・流量ハイドログラフの再現精度については既往の解析結果と同程度であるものの,浸水域の再現精度を向上させ,(3)経験的な手法に比べ最適パラメータを効率良く推定できることが確認された.
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Md Masum BILLAH, Junji YAGISAWA
2020 年76 巻2 号 p.
I_565-I_570
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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Embankment failure due to overtopping flow takes place by headcut formation and its propagation toward upstream. Vertical, nearly vertical or cliff-shaped terrain called headcut forming at landside toe of the embankment is key to cohesive embankment failure during overflow. This steep terrain or headcut triggers further erosion and propagates upstream direction until crest of the embankment is reached and breached. In this study, experiments were conducted to understand the effect of the seepage state on initial position and migration of the headcut. For this purpose, three experiment cases firstly, no seepage into the embankment, secondly and thirdly with seepage and phreatic line exit point on downstream/landside slope at 1/3 and 1/6 of embankment height, h, from toe level respectively were conducted in laboratory. From the experimental results, it was found that the higher the exit point of phreatic line on the downstream slope, the higher the initial occurrence position of the headcut and higher the migration speed. When the experimental results were applied to a previous predictive formula regarding the headcut location, a large error occurred between the measured value and the predicted value for the case where initial phreatic line exit point was higher. In order to solve this problem, modification was made to address the effect of the seepage state in its predictive formula. As a result, for 1/6h permeation case, the predicted value for the position of the headcut almost agreed with the measured value. However, for 1/3h permeation case, it was confirmed that the predicted value of the headcut position was greatly underestimated compared to the measured one.
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海野瀬 綾乃, 田中 規夫, 小倉 睦, 五十嵐 善哉
2020 年76 巻2 号 p.
I_571-I_576
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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河川水が堤防を越水する前に堤内地で湛水している場合,湛水プールが越流水の勢いを減衰させ堤防侵食が抑制される,ウォータークッションの効果があることが知られている.2019年の台風19号においても,堤防越水前に堤内地に氾濫水が侵入し,湛水状態になっていた被災箇所が報告されている.本研究では,堤内地側の湛水条件が,河川堤防の越流侵食プロセスに与える影響を定量的に評価することを目的とし,越流侵食実験,解析モデルによる実験の再現・検証,台風19号で被災した都幾川上流部の土質・水理条件を用いた現地適用計算を行った.これらの結果から,湛水により堤防裏法尻が保護され,湛水深が大きいほど法面下部の洗堀が抑制されることが明らかになった.
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渡邊 康玄, 川尻 峻三, 三嶋 葵
2020 年76 巻2 号 p.
I_577-I_582
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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天然ダムは越水により決壊が発生すると下流域に甚大な被害が発生することから,越水への対策が早急に実施される必要があるとともに,対策の実施にはその機構解明が必要不可欠となっている.天然ダムの決壊機構の解明について種々研究が実施されてきているものの,天然ダムへの堰き止められた河川水の浸透状況による崩壊現象の違いなど,十分に明らかにされていない状況にある.本研究では,北海道胆振東部地震で発生した日高幌内川の天然ダムの土質調査を基にし,天然ダムへの浸透の違いが越流破堤にどのような違いをもたらすかを明らかにすることを目的として水理模型実験を実施した.その結果,浸透の違いにより崩壊の状況が大きく変化するとともに,崩壊の仕方によっては,崩壊土砂が下流へ流されるまでに時間を要し,現象が遅くなることを確認した.
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伊波 友生, 井上 卓也, 平松 裕基
2020 年76 巻2 号 p.
I_583-I_588
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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護床ブロックは一般的に護岸の力学設計法に基づき設計されている.護岸の力学設計法では,構造物に作用する抗力や揚力を平均流速を用いて算出している.反砂堆が形成されているような高速流下においては,三角波と呼ばれる水面波が形成され内部流況が局所的に変化することが指摘されているが,その影響は考慮されていない.本研究ではブロック形状に着目し,高速流下においてブロック形状がブロックの安定性に与える影響を把握する実験を実施した.また,局所流や上昇流を考慮したブロックの力の釣り合い,モーメントの釣り合いを求め,ブロックの安定条件について考察した.検討の結果,局所流と上昇流を考慮したモデルは実験結果とおおむね一致し,ブロックの安定性に局所流や上昇流が大きく影響していることが明らかとなった.
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奥田 醇, 清水 康行, 久加 朋子, 岩崎 理樹
2020 年76 巻2 号 p.
I_589-I_594
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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国内の主な沖積河川において,高水敷や堤防を水流による侵食作用から保護するために護岸がのり面に設置される.基礎部周辺の洗掘による護岸崩壊が護岸の一般的な損傷例であるが,2016年8月の北海道豪雨においては,護岸背後の高水敷上に顕著な侵食が発生し堤防決壊の危険性が高まった事例が多数確認された.本研究では,護岸背後の高水敷侵食の発生機構を把握するために,蛇行河道を模した水理模型実験を行った.実験では被災箇所に似た高水敷侵食が観察され,流れが高水敷に越流する場所よりやや下流にて最も大きな侵食が発生した.実験の再現計算を行い高水敷侵食の詳細を検証した所,蛇行形状によって高水敷上の流砂量分布に大きな差が生じ,平面的に流砂量が不均衡になりやすいことが,大規模な高水敷侵食の要因の一つであることが示された.
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小山 真輝, 川尻 峻三, 倉上 由貴, 佐名川 太亮, 森山 晃行
2020 年76 巻2 号 p.
I_595-I_600
発行日: 2020年
公開日: 2021/11/30
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近年の洪水規模拡大によって,道路や鉄道橋梁の橋台背面盛土の浸食・流出が発生している.鉄道橋の橋台背面盛土の盛土のり面には翼壁と小規模な土留め壁(以下,腰土留め)が施工されているが,その被災メカニズムには不明な点が多い.本研究では,翼壁と腰土留めを再現した模型盛土に対する開水路実験を行い,崩壊挙動に関する基礎的な検討を行った.その結果,翼壁と腰土留めの境界部で盛土のり面の陥没が発生し,この陥没箇所を起点として盛土天端の崩壊の進行および翼壁と腰土留めが流出した.
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