日本温泉気候物理医学会雑誌
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79 巻, 2 号
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Editorial
総説
  • 田中 信行
    2016 年 79 巻 2 号 p. 97-105
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/07/04
    ジャーナル フリー
      私の温泉,入浴の研究は昭和48年,鹿児島大学霧島分院(現霧島リハセンター)で始まった.
      1.まず単純泉または人工塩類泉の41℃,10分の入浴により,有意の末梢血管抵抗の低化による血圧下降と心拍出量増加,静脈血ガスの浄化(pO2上昇,pCO2低下)をはじめて報告した.それは温熱性の末梢血管拡張と心拍出量増加による「組織への十分なO2供給とCO2排出」という,入浴効果の基本的機序を示している.
      2.田中式自律神経機能検査法を用いて,心拍増加は血圧降下に対する反射性の迷走神経抑制,血管拡張は非自律神経性(多分温熱性のNO産生)のものであることも示した.
      3.また入浴によりPAHを用いた腎血漿流量は著明に上昇し,また内服したアセトアミノフェンの血中濃度上昇速度から,入浴による消化管吸収の著明な促進も示した.
      4.鄭,堀切らと従来の「入浴は心不全に禁忌」の定説に,温熱性血管拡張(Afetrload低下)の有用性への信念からSwan-Ganzカテーテル下の入浴に挑戦した.更にサウナ浴で入浴時の静水圧による心内圧上昇を防止し,重症心不全で心拍出量の増加,NYHAの改善をCirculation誌91:1995に発表し,鄭らの心不全の「和温療法」の基盤となった.
      5.また大学退官後は民間の病院で,指宿砂むし温泉の腰痛や筋肉痛等への効果が,砂の圧力による静脈還流増加に基づく著明な心拍出量増加と組織の好気的代謝の促進にあることを,乳酸,ピルビン酸濃度の低下から明らかにした.
      6.その他,ほぼ同一レベルの心拍を示す41℃10分の入浴と200m/1.2分走行の血液ガス,組織代謝の比較,またブドウ糖静注後の血糖低下がOne Compartment Theoryで説明できることから,簡便な入浴,運動時の糖処理速度の算出法も示した.
      7.昭和63年,霧島分院を国立大初のリハ医学講座と霧島リハセンターに改組し,温泉医学は物理療法としてリハ医学の一部門に位置づけた.
原著
  • 美和 千尋, 島崎 博也, 出口 晃, 前田 一範, 水谷 真康, 川村 陽一, 森 康則
    2016 年 79 巻 2 号 p. 106-111
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/07/04
    ジャーナル フリー
      部分浴は体に一部を入浴する方法で,足浴と手浴がよく用いられている.部分浴は温められた部分の大きさにより温熱効果が異なると思われるが,その詳細は明らかとなっていない.そこで,この論文では,足浴と手浴における体温応答がどのように異なるのかを検討する.若年健常者10名(平均年齢23.2±1.3歳)の被験者を対象とし,座位にて安静5分間,足浴として一側と両側の下腿部を,手浴として一側と両側の前腕部を42°Cの湯に15分間浸け,さらに終了後5分間安静を行った.測定項目は鼓膜温,皮膚血流量,発汗量と主観的変化として温熱感と快適感を申告させた.鼓膜温についてはサーミスターにより外耳道の皮膚温を,皮膚血流量として右側の上腕部(非浸水部)をレーザードップラー血流計で,発汗量として右側の上腕部(非浸水部)をカプセル換気法で測定した.両側の足浴と手浴時の鼓膜温は,有意に上昇し,最大上昇温度は入浴しないときに比べ,有意に上昇した.皮膚血流量と発汗量は,全ての負荷条件で有意な増加は認められなかった.温熱感と快適感は全ての入浴負荷で,入浴しないときに比べ,有意に,「暑い」,「快適である」と申告した.温熱感においては両側の足浴,手浴で一側と比べて,「暑い」と申告した.これらの体温応答の変化は,同一身体部位においては温める表面積の大きさに依存し,異なる身体部位では,様々な要因により異なることが示唆された.
  • 早坂 信哉, 原岡 智子, 尾島 俊之
    2016 年 79 巻 2 号 p. 112-118
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/04
    [早期公開] 公開日: 2016/02/22
    ジャーナル フリー
    【背景・目的】介護保険によって入浴サービスが提供されているが,現在,高齢者にとって安全な入浴が可能か否かの具体的な判断基準・指針がなく,介護現場の入浴担当者は判断に困難を感じている.特に入浴前の体調確認は主に血圧測定,体温測定によって実施されていることから,本研究は,入浴前の血圧や体温と,入浴に関連した体調不良や事故の発生との関連について明らかにすることを目的とした.
    【方法】
    1.研究デザイン:症例対照研究(前向き調査による症例登録方式).
    2.調査対象:訪問入浴事業所として登録がある2,330か所の全事業所.
    3.調査方法:症例は入浴に関連した体調不良・事故の症例(以下,異常例と言う).対照は各事業所2例無作為抽出.調査期間は2012年6月~2013年5月までの1年間.
    4.解析方法:年齢,性別,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),要介護度,modified Rankin Scale,意識レベル,認知症高齢者の日常生活自立度,入浴前の血圧,入浴前の体温を単純比較した.その後,ロジスティック回帰分析を用いて,すべての体調不良・事故発生及び発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生を目的変数に,その他の測定項目を説明変数とした単変量・多変量解析を実施した.
    【結果】異常例596件,対照1,511件を解析した.単純比較では異常例で体温が高かった.発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生での多変量解析では,収縮期血圧は160~179mmHgでオッズ比(95%信頼区間)3.63(1.39-9.50),拡張期血圧は100~109mmHgで同14.71(1.31-165.77),体温は37.5~37.9℃で同16.47(3.30-82.40),38.0℃以上で同6.57(1.40-30.81)と有意な関連があった.
    【結論】高齢者における160/100mmHg以上の血圧,37.5℃以上の体温は入浴関連の体調不良・事故の危険因子である可能性がある.
  • —自覚的ストレス,STAI,SF-36,唾液コルチゾールによる検討—
    松浦 悠人, 藤本 英樹, 古賀 義久, 安野 富美子, 坂井 友実
    2016 年 79 巻 2 号 p. 119-129
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/07/04
    ジャーナル フリー
    目的:肩こりは国民の多くが経験する症状であるが,肩こりに関する研究は非常に遅れているのが現状である.そこで本研究では,肩こりの特性を明らかにするため,肩こりを有する者と有しない者の比較検討を行った.
    方法:対象は自覚的な肩こりの有無により,肩こりを有する成人男性13名(NP群,平均年齢20.2±0.7歳)と肩こりを有しない成人男性10名(CON群,平均年齢21.2±1.5歳)とした.肩こりの評価にはVisual Analogue Scale(VAS),圧痛・硬結所見を用い,ストレスの評価には自覚的ストレスのVAS,State-Trait Anxiety Inventory(STAI),MOS 36-Item Short-Form Health Survey(SF-36),唾液コルチゾールを用いた.唾液コルチゾール濃度は,酵素免疫測定法(ELISA法)により求めた.また,唾液の採取時間は,午前9時から10時以内の採取とした.
    結果:NP群の肩こり感全体のVASは56.9±17.3mmであった.圧痛・硬結所見では,硬結所見に有意差は認められなかったが,左右僧帽筋上部線維,右頭板状筋の圧痛がNP群で有意に高かった(P<0.05).自覚的ストレスのVASではNP群59.1±23.7mm,CON群10.8±17.6mmで有意差が認められた(P<0.05).STAIでは,特性不安ではNP群52.7±9.1点,CON群44.6±9.9点で有意差は認められなかったが,状態不安においてNP群42.2±6.6点,CON群35.9±9.1点で有意差が認められた(P<0.05).SF-36では,下位尺度8項目のうち,身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的健康感,活力,心の健康に有意差が認められた(P<0.05).唾液コルチゾール濃度はNP群16.3±8.2nmol/L,CON群14.8±4.5nmol/Lで有意差は認められなかった.
    考察・結語:肩こりの心理・身体的な特性について検討した結果,唾液コルチゾール濃度では有意差は認められなかったが,肩こりを有する者は,自覚ストレス度や不安度が高く,精神的・身体的な健康度が低いことが示された.このことから,肩こりに身体的要因のみならず,心理社会的要因が関与している可能性が示唆された.
  • 西川 浩司
    2016 年 79 巻 2 号 p. 130-145
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2016/07/04
    ジャーナル フリー
      入浴中急死は本邦に特有の現象で,病院外心肺停止の10~15%を占めるとされ,現在正確な入浴関連死亡件数の把握は困難であるが,死亡者は年間10,000人を超えていると推測されている.また,高齢者のそれに至っては,交通事故死亡者数を上回ると言われ,増加の傾向にある.
      登別市において発生した入浴関連事故について身体医学的状況,環境因子及び事故発生施設から検討するため,登別市消防署救急救助隊に協力を得て調査票を記載してもらい,2014年4月1日から2015年3月31までの調査期間で52症例が回収され,データの解析を行った.
       男性27例の平均年齢は70.7±18.2歳,女性25例は64.4±20.5歳で,事故発生件数には性差はないが,男性患者の平均年齢が高い傾向にあった.
      心肺停止は11例あり,男性8例,女性3例と男性に多い傾向であり,事故発生月は11例中10例で11月から3月の冬期間に発生していた.
      今回の調査で,飲酒と事故発生やその重症化の間に統計学的な相関は認めなかったが,男性に重症例が多い原因として,登別温泉ホテル・旅館において,飲酒が多いことによる可能性は否定できなかった.また,飲酒による重度泥酔症例を経験し,脱水や水没・溺水の誘因になると考えられ,大量の飲酒後の入浴は厳に慎むべきである.
      事故月別発生件数と登別市の月別平均気温の相関を統計学的に検討したが,自宅においてr=-0.70,P<0.05と,気温の低下とともに入浴関連事故発生件数が有意に増加していた.患者自宅においての入浴関連事故は,登別温泉ホテル・旅館での入浴と比較し,患者平均年齢,浴室や脱衣所と居室の温度差などが異なっている可能性があり,入浴関連事故防止対策をそれぞれ別に講じる必要があると考えられた.
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