日本生気象学会雑誌
Online ISSN : 1347-7617
Print ISSN : 0389-1313
ISSN-L : 0389-1313
45 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 橋本 好弘, 森谷 きよし, 大塚 吉則
    2008 年 45 巻 4 号 p. 109-119
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    消防活動は重装備の激しい活動であり,過労・ストレスによる隊員の死傷者が多い.本研究では,寒冷環境下における消防活動が隊員に及ぼす身体負担を経時的に分析し,休憩の必要性を検討した.北海道 S 市の消防隊員 71 名に対して 24 時間の拘束勤務中にホルター心電計を装着させ,消防活動中の心拍数変化を測定し,Wu et al.(2001)の maximum acceptable work duration(MAWD)でその負担を評価した.出動途上の平均最高心拍数は 145.5 拍/分であり,急激に心拍数が上昇していた.現場活動中の最大心拍数と活動時間には正の有意な(P<0.01)相関が認められた.小規模火災 2 件で MAWD を大きく超え,活動開始 5 分間の負担は平均で 92.6 並びに 93.6% heart rate reserve (HRR),活動全体の平均でも 72.3 と 70.2% HRR であった.災害現場での消防隊員の死傷事故減少には,寒冷環境下の小規模火災でも,火勢制圧後,隊員に休憩・交替を与え,過労・ストレスを軽減させる必要がある.
  • 渡邊 慎一, 小金澤 真二, 堀越 哲美, 冨田 明美
    2008 年 45 巻 4 号 p. 121-129
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    これまで屋外の温熱的快適性評価を扱った研究において,人体の日射吸収率として VDI 3787 に規定される 0.7 が多く用いられてきた.しかし,着衣の日射吸収率は布の素材や色彩によって異なることが考えられる.そこで,本研究では 2 種の素材(綿 100%,ポリエステル 65%・綿 35%混紡)と 5 色(黒,白,灰,赤,青)を組み合わせた 10 種の着衣素材の日射吸収率を求めた.実験は日射計を用いて,全天日射,反射日射および布の透過日射を測定した.実験により以下の知見を得た.綿 100%の布の日射吸収率は,黒が 0.61,青が 0.57,赤が 0.47,灰が 0.36,白が 0.17 となった.ポリエステル 65%・綿 35%混紡の布の日射吸収率は,黒が 0.61,青が 0.49,赤が 0.44,灰が 0.35,白が 0.17 となった.着衣の日射吸収率は,直達日射量および拡散日射量に影響されない.布の素材および色彩によって日射吸収率は異なる.
  • 橋本 好弘, 森谷 きよし, 大塚 吉則
    2008 年 45 巻 4 号 p. 131-139
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    消防隊員の熱中症を予防するための基礎資料を得るために,夏季の外気温を想定した 3 種類の温熱条件(35℃,30℃,25℃;湿度 70%)下で,消火活動模擬実験を行った.その実験では,消火活動装備品を装着した男性消防隊員 16 名が,自転車エルゴメータペダリング運動による模擬消火活動を実施した時の生理的反応と自覚的感覚を測定した.許容温度(耳内温:39.0℃)に上昇するまでの時間と発汗量は,35℃の温熱条件下では 20.0 分と 2.5 kg/h,30℃で 26.6 分と 2.0 kg/h であった.25℃では,実験上限時間の 40 分経過時点で平均耳内温が 38.5℃,発汗量が 1.7 kg/h であった.Borg スケールの RPE と温熱感覚には温熱条件による有意差(p<0.05)が認められた.また,両値はそれぞれ耳内温と有意な(p<0.001)正相関を示した.30℃以上の環境下で長時間消火活動を行う場合は,着衣の見直し,身体冷却及び飲水や休憩等の対策を講じることが必要であると考えられる.
  • 長野 和雄, 高柴 日香, 小松 充典, 兼子 朋也, 堀越 哲美
    2008 年 45 巻 4 号 p. 141-164
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    島根県吉田町の 2 集落を対象に,集落気候と室内気候の実測,住まい方や生活実感に対する住民へのアンケート調査を行い,伝統的住宅自身が備える,あるいは住まい方の中に隠れた,地域気候に対する適応の技術を検証した.集落気候の空間的分布と経時的な変化を体感指標 ETV で評価した.これにより,山間部の起伏に富んだ地形によって大きく変化する日射量や風速の影響,時間や季節による放射や着衣の影響を詳細に捉えた.室内気象は,建物自身の熱的性能によってある程度緩和されつつも,その外界気象に応じて変化した.特に夏季については日射の影響が明らかであった.夏季は至適域よりも高く,冬季は至適域よりも低い室内気候が形成されていた.その室内気候に対する居住者の実感,暑さ・寒さの対処法の実態を明らかにした.夏季には,エアコンの使用を控えて扇風機の使用に留め,通風や着衣による調節,環境選択などのエネルギー消費を要しない手法を多用した,地域気候に適応した生活が展開されていた.冬季にはほとんどの世帯でコタツまたは炭コタツが多用されていた.開放式燃焼器具も多くの世帯で併用されていたが,間欠的に使用していた世帯よりも常時使用していた世帯の方がむしろ不満と感じていた.また,室内での着衣の多さなど,ここでも過度にエネルギーを消費しないよう工夫されていた.
  • 森田 えみ, 岩井 吉彌, 阿岸 祐幸
    2008 年 45 巻 4 号 p. 165-172
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    ドイツには,約 390 の保養地があり,温泉型保養地,海洋療法保養地,クナイプ療法保養地,気候療法保養地の 4 種類に分類できる.森林内の歩行は,主に森林帯気候に属する気候保養地で,地形療法として行われていた.クナイプ保養地等での運動療法は,場所が森林か否かについては重要視されていなかった.ドイツの保養地では,森林内の歩行は医療の一部として実施されているものの,ドイツの医療全体から見れば一般的な療法ではなかった.更に,森林浴の概念はドイツでは知られてはおらず,ドイツと日本の両国では,森林と健康の関連の考え方や方法,目的は異なっていた.日本の森林浴は,森林や樹木が人体に良い影響を及ぼし,メンタル面での効用を重視しているのに対し,ドイツの地形療法での森林内歩行は,森林の立地条件や森林環境(日射,地形等)を利用し,主に運動による身体機能の改善を重視しているという違いが見られた.
短報
  • 入來 正躬, 三枝 岳志
    原稿種別: 短報
    2008 年 45 巻 4 号 p. 173-180
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,人工炭酸泉作成装置で作成した高濃度炭酸水(800~1000 ppm)への下肢浴の継続(以降,炭酸泉下肢連浴)が生体の液性調節に及ぼす作用について検討した.
    短期入所療養介護施設利用者 5 名(男 1 名,女 4 名,平均年齢 87.4 ± 5.9 才)を被験者とし,週 2 回以上の炭酸泉下肢連浴を 3ヶ月間継続した.炭酸泉下肢連浴開始前,3 週間後,および 3ヶ月後に採血し,血液一般検査及び血液生化学検査を行った.(1)血液一般検査では,3 週間後に平均赤血球容積が有意に減少,平均赤血球ヘモグロビン濃度が有意に増加した.3ヶ月後には上記 2 項目に加えて赤血球数,ヘモグロビン濃度,及び血小板数が有意に増加した.(2)造血因子であるエリスロポエチンには有意の変化は認められず,血清鉄,フェリチンにも有意な変動は認められなかった.(3)血液生化学検査では 3ヶ月後に血清総蛋白とアルブミンの有意の増加,アルドステロンと K+ の有意の増加がみられた.
    本データより,炭酸泉下肢浴の長期継続が,造血機能,蛋白代謝,水電解質代謝などの生体の液性調節に影響を与える可能性が示された.
feedback
Top