理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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セレクション口述発表
  • 久郷 真人, 前川 昭次, 小島 弓佳, 谷口 匡史, 三村 朋大, 川崎 拓
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:以下,THA)は関節の痛みを除去し,歩行機能,QOLを向上させる効率的な治療介入であり,本邦でも年間4万件の手術が行われている.近年では,最小侵襲手術(Minimally Invasive Surgery:MIS)などの手術手技の改良やクリティカルパスの導入により平均在院日数が短縮されている.一方で,退院時に股関節機能の回復が不十分であり,十分なリハビリを受けられないまま在宅での生活を余儀なくされる患者も多くない.そのため,限られた期間での機能回復が望まれ,より効果的な理学療法介入が重要である.そこで,本研究の目的は,初回THA患者における退院時の歩行機能に影響を与える因子を明確にし,入院中の理学療法展開の一助とすることである.【対象と方法】 対象は2011年10月から2012年8月までの間に初回THAを施行した末期変形性股関節症患者41名41股(男性6名,女性35名,平均年齢66.9±10.4歳,身長152.4±8.6cm,体重55.6±12.3kg,BMI23.3±4.0kg/m²,日本整形外科学会股関節機能判定基準49.6±14.6点)とした.侵入方法はDall法7名,Mini-one anterolateral incision法34名であった.全例術後は当院クリティカルパスに準じて同様の理学療法を行い,退院時に術側下肢筋力と運動機能を測定した.下肢筋力評価では,術側股関節屈曲・外転・伸展筋力,術側膝関節伸展筋力を測定した.股関節筋力はHand-Held Dynamometer ISOFORCE GT-300 (OG技研社製),膝関節伸展筋力はISOFORCE GT-360(OG技研社製)にて最大等尺性筋力を各々2回測定し,最大値を採用しトルク体重比(Nm/kg)を算出した.また,運動機能には5秒立ち座りテスト(Sit-To-Stand test;以下,STS)およびTimed up & Go test(以下,TUG)を用いた.STSは40cmの椅子から5回立ち座りを行う際に要した時間を計測した.それぞれの実施条件としてできるだけ素早く行うように指示した.なお,TUGの際の歩行補助具の使用状況は退院時病棟歩行条件と一致させた.各測定はそれぞれ2回ずつ行い最小値をデータ処理に採用した.統計処理は退院時TUGに影響を与える因子を抽出するために,従属変数を退院時TUG,独立変数には年齢,BMI,術側股関節屈曲・外転・伸展筋力,術側膝伸展筋力,STSの全7項目を投入しステップワイズ重回帰分析を行った.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者には術前より本研究の趣旨を説明し,十分に理解が得られたのち同意を得て実施した.【結果】 平均在院日数は30.5±6.0日であった.退院時の平均TUGは11.7±4.1sec,術側股関節屈曲筋力0.68±0.3Nm/kg,外転筋力0.65±0.22Nm/kg,伸展筋力0.63±0.29Nm/kg,膝伸展筋力1.02±0.38Nm/kg,STS11.4±3.7secであった.さらに,重回帰分析の結果,退院時TUGを決定する独立変数として第1にSTS(β=0.41),第2に術側膝伸展筋力(β=-0.339)が選択された.また,寄与率を表す自由度調整済み決定係数(R*2)は0.367であった.【考察】 今回,初回THA患者の退院時TUGに影響を与える因子を検討した結果,術側膝伸展筋力,STSが抽出された.先行研究では術後半年における歩行機能には股関節外転筋力が重要であることは明らかだが,今回退院時には股関節筋力よりも機能代償としての術側膝伸展筋力の寄与が歩行機能に影響を及ぼすことが明らかとなった.また,STSは下肢全体の筋力を反映しているとされ,TUGには術側股関節機能だけでなく全身としての立ち上がり能力が重要であることが示唆された.しかし,寄与率が36%からも,今回対象としなかった他の身体的要因も関連していると思われ,今後さらな検討が必要である.【理学療法学研究としての意義】 初回THA後退院時の歩行機能に影響を与える因子を明確にすることは,術後の機能回復の為のより効果的な理学療法を展開するうえで,治療対象を把握する一助となることを示唆しており,理学療法学研究として意義のあるものと考えられる.
  • 平川 善之, 原 道也, 藤原 明, 花田 弘文, 森岡 周
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】人工膝関節置換術(以下TKA)は膝痛を改善し、生活の質の向上を目指す外科的治療として行われる。しかしTKA患者の15%において術後痛が慢性化すると報告がされている(Hofmann2011)。本研究では術後早期の状態が術後痛の予後に与える影響を調査し、術後痛が慢性化に至る要因について明らかにすることを目的とした。【方法】対象の母集団は2011年6月から2012年8月までに当院にてTKAを施行された患者92名のうち、認知症、術後神経損傷を有している者、そして複数回のTKA施行者(反対側のTKA、再々置換術)や変性疾患以外の原因(骨壊死、リウマチなど)によるTKA患者を除外基準として取り込まれた者74名(平均年齢75.2±5.9歳男20名女54名)であった。評価項目は、術後3週時点での術後痛(visual analog scale以下VAS)、認知的要因としてneglect-like symptoms score(以下NLS-s)を、機能的要因として膝関節位置覚(以下関節位置覚)、大腿部の2点識別覚、膝伸展筋力、膝関節屈曲可動域を、精神的要因として、今回は特に不安要因および痛みへの破局的思考を取り上げ、State-Trait Anxiety Inventory(下位項目STAI1;状態不安,STAI2;特性不安に分類)、Pain Catastrophizing Scale(以下PCS:下位項目 反芻、無力感、拡大視に分類)を評価した。さらに術後痛の予後として術後4カ月時点でThe Western Ontario and McMaster Universities Arthritis Index(以下WOMAC)を評価し、その下位項目である「痛み」を用いた。この「痛み」に対し、術後3週での各要因が与える影響を分析するため、「痛み」を従属変数、その他の評価項目を独立変数とした重回帰分析を行った。なお分析には事前に「痛み」と各要因の単回帰分析を行い、有意水準0.20以上のものは除外した(内田2011)。また多重共線性を考慮し、独立変数間で相関係数が0.8以上の項目において、「痛み」と相関係数が高い項目を選択した。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮および説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った。また全対象者には本研究の趣旨を書面にて説明し署名にて同意を得た。【結果】単回帰分析や項目間の相関係数を検討した結果、独立変数はNLS-s、関節位置覚、反芻、無力感、拡大視が選択された。これをもとに痛みを従属変数とした重回帰分析を行った結果、決定係数r2=0.30となりNLS-s(β=0.25 p=0.04)、関節位置覚(β=0.28 p=0.01)、反芻(β=0.31 p=0.01)が優位な関連項目として抽出された。【考察】NLSとはGalarらが1995年にcomplex regional pain syndrome(CRPS)患者の有する運動機能障害(動き始めの遅延、自発性運動の低下、緩慢な動き)を指したものである。今回の結果から術後3週でのNLSの強さが術後4カ月の「痛み」の予測因子となることが分かった。NLSを有する患者には後頭頂葉の活動低下が認められ、このため感覚統合機能に問題があると報告されている(Vartiainen2009)。また感覚モダリティの統合により形成される身体イメージが不正確になることもNLSの原因になるとする報告(Bultitude2009)もある。これに対し今回関節位置覚も有意な関連項目として抽出されており、関節位置覚の低下により、他の感覚モダリティとの統合が正確に行われないと考えられる。一方、反芻とは痛みに対し注意が過度に向き、痛みに固執した状態(Sullivan1998)であり、痛みの予後に悲観的な不安感を現わしている。これらの結果をまとめると、術後の関節位置覚の低下とNLS、そして術後痛への固執と不安感が、術後痛が慢性化する一因と考えられる。これらのことから、TKAの術後リハとして関節位置覚を中心とした感覚機能の回復とその統合を促す必要があると考えられる。また術後痛への固執が強く、反芻の状態に陥った症例に対しては、術後痛への対処方法を教育するとともに、術後痛の長期予後を明示することにより、患者の抱える不安を軽減させる必要がある。これらは術後痛を慢性化させないために有効な手段であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から術後痛の慢性化慢性化を予防するため、NLSへの対応として関節位置覚へのアプローチ、また患者教育や術後予後を明示することで術後痛への不安を軽減させる必要性があることが示唆された。
  • Seated Side Tapping testを用いて
    佐野 佑樹, 岩田 晃, 松井 未衣菜, 藤原 明香理, 堀毛 信志, 西 正史, 淵岡 聡, 渡邉 学
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 近年,疾患に関わらず体幹機能が歩行能力に影響を及ぼすことは,多数報告されている.朝野らは,変形性膝関節症(以下膝OA)に対する人工膝関節全置換術(以下TKA)後の理学療法の内容と留意点として,除痛,関節可動域,筋力の他に,体幹の評価,分析が必要と述べている.また木藤らは,OA患者に対する運動療法として,体幹の機能訓練を積極的に行うよう述べている.臨床的にも,TKA術後患者の歩行能力にとって体幹機能が重要であることは,しばしば経験される.しかし我々の知る限り,TKA術後患者の体幹機能と歩行速度の関係について,客観的な指標に基づき明らかにした研究はない. 体幹機能の評価としては,近年Seated Side Tapping test(以下SST)が用いられている.このテストは坐位で体幹を左右に出来るだけ速く動かす能力を測定するもので,健常高齢者,虚弱高齢者のどちらを対象とした場合でも,歩行速度やTimed Up & Go test(以下TUG)と有意な相関関係が認められている.そこで本研究は,TKA術後患者においてSSTを用いて測定した体幹機能と歩行速度との関連を明らかにすることを目的とする.【方法】 2012年5月から9月までに,当センター整形外科に入院し,膝OAと診断され,TKAを施行された症例39例39膝を対象とする.本研究では,SST,5m歩行速度,TUGに加えて,痛みの評価としてVisual Analog Scale(VAS)を測定した. SSTは,坐位で両上肢を側方に挙上し,その指先から10cm 離した位置にマーカーを設置し,対象者に出来るだけ速くマーカーを交互に10 回叩くように指示し,要した時間を測定した.歩行速度は,対象者に通常速度で歩くように説明し,8m の歩行路の中央5m の歩行に要した時間から算出した.TUG は,Podsiadlo らの原文に基づき,椅子から立ち上がり,通常速度で3m 先のラインまで歩き,方向転換し,椅子に戻り坐位になるまでに要した時間を測定した.全ての項目についてストップウォッチを用いて2施行測定し,最速値を解析に用いた.測定は術後1週,2週,3週の計3回行った.5m歩行速度は術前にも測定した. 統計処理は,週ごとのSSTと5m歩行速度,TUGとの関係を検討するために,年齢を統制した偏相関係数を求めた.SPSS ver.20を用い有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 当センター臨床医学倫理委員会並びに,大阪府立大学研究倫理委員会の承認を経た.また,全ての対象者に本研究の内容及び測定データの使用目的について書面を用いて十分な説明を行い,書面による任意の同意を得た.【結果】 対象者は,年齢75.8±5.8歳,身長151.3±6.5cm,体重60.0±10.4kg,BMI26.1±3.3,性別は男性8例,女性31例であった.術前の5m歩行速度の平均は,1.02±0.25(m/s)であった.5m歩行速度が平均±2SD以上の2例については,解析対象から除外し,男性8例,女性29例の計37例を解析対象とした. 各測定項目の平均値及び標準偏差を1週,2週,3週の順に示す.SST(秒)は6.2±1.5,5.7±1.2,5.5±1.1であった.5m歩行速度(m/s)は,0.75±0.18,0.89±0.21,0.97±0.20であった.TUG(秒)は,17.4±6.5,13.2±3.4,11.6±2.8であった.VASは36.6±23.5,21.0±20.6,10.4±15.0であった. SSTと5m歩行速度の関係について,年齢で補正した偏相関係数を以下に示す.1週がr=-0.58(<0.01),2週がr=-0.47(<0.01),3週がr=-0.45(<0.01)であった.SSTとTUGの偏相関係数は,1週がr=0.56(<0.01),2週がr=0.50(<0.01),3週がr=0.63(<0.01)であった.【考察】 今回,SSTと歩行速度,TUGとの間に中等度の相関が認められた.このことは,臨床で感じている歩行能力に対する体幹機能の重要性を,客観的に示すことができたと考えている.従来の体幹機能の評価には,体幹筋のMMT,関節可動域などの機能的な評価や,坐位バランスなど静的な評価が多い.今回行ったSSTは,体幹の動的な機能を表しており,歩行能力との関連を示すことができた要因と考察した. さらに,術後1週,2週,3週のどの時期においても,SSTと歩行能力の間に相関を認めた.一方でVASの値は術後1週が平均36.6と高く,3週では10.4まで減少している.この結果は,下肢の痛みに関わらず,歩行において体幹機能が重要であることを示している.【理学療法学研究としての意義】 TKA術後患者の歩行動作における体幹機能の重要性を,客観的指標に基づき示した点.
  • 斎藤 功, 岡田 恭司, 若狭 正彦, 齋藤 明, 木元 稔, 木下 和勇, 高橋 裕介
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】進行した変形膝関節症(以下OA膝)に対しては人工膝関節全置換術(以下TKA)が広く行われている。しかし、TKA後に膝部痛は改善しても足部痛を訴えたり、早期の歩行能力が十分改善しなかったりする症例をしばしば経験する。よって本研究では、TKA前後の足圧分布を比較して手術前後の足圧分布の変化を明らかにし、術後の足部痛を訴えた例の足圧分布に特徴がないかを明らかにすることを目的とした。【方法】両側のTKAの予定となった両側性OA膝患者さんのうち、杖なしで20 m以上の歩行が可能であった22例44膝(男性2例、女性20例、平均年齢76歳)を対象とした。44膝中14膝はKellgren & Lawrence分類でグレード3、18膝がグレード4、12膝がグレード5であった。理学的評価と種々の計測はTKA前(以下術前群)と、術後に独歩が可能となりADLが自立した時点(術後群)で行った。測定には足圧分布解析システムF-scanを用い、快適速度で歩行時の足圧分布と足圧中心軌跡を3回計測し、その平均値を求めた。歩行路は10mとし前後に各3mの助走路を設けた。足圧は足底を踵部、足底中央部、中足骨部、母趾部、足趾部に細分し、それぞれの部位の足圧の体重に対する比(%PFP)を求めた。足圧中心軌跡からは、前後径の足長に対する比(以下%Long)と、前額面での移動距離の足幅に対する比(以下%Trans)を算出した。また足長に対する舟状骨の高さの比(アーチ高率)を求めた。術前群と術後群間全体の統計学的分析には対応のあるt検定を用いた。足部痛がみられた例の術前後に比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は秋田大学倫理委員会の承認を得て実施した。またヘルシンキ宣言に従い、被験者には事前に本研究の目的、方法について十分な説明し、所定の書面にて研究参加の同意を得た。【結果】術前群では16肢に足部痛が認められた。この16名中10例では術後も足部痛が認められた。膝関節の平均ROMは術前群-5~130度、術後群は0~130度であった。部位別の%PFPは、踵部(54.9±23.2% vs 64.3±19.2%, p=0.0094)、母趾部(2.1±2.3% vs 22.0±7.6%, p<0.001)、足趾部(2.5±3.0% vs 4.8±3.7%、p<0.001) で術前群に比べ術後群が有意に高値であった。一方、足底中央部では術前群71.8±28.1%に比べ、術後群31.1±13.8%で有意に低値であった(p<0.001)。%Longは、術前群の48.4±5.5%に比べ、術後群が57.0±5.4%で有意に高値であった(p<0.001)。%Transとアーチ高率は術前群と術後群で有意な差が見られなかった。術前に足部痛があり術後に痛みが消失した7例では、術前に比べ術後で、踵部の%PFP (59.7±25.5% vs 72.1±20.3%, p=0.0098)、母趾部の%PFP (1.8±2.1% vs 4.4±3.4%、p<0.00)と%Long (50.4±7.1% vs 60.5±4.7%, p<0.01)が有意に高値となっており、足中央部の%PFPが有意に低値となっていた(81.6±27.5 vs 23.6±7.8%, p<0.001)。一方で術後も足部痛が改善しなかった9例では術前、術後間で足圧分布に有意な変化は見られなかった。TKAを要するような変形性膝関節症患者では健常者の足圧分布と異なり、踵部の足圧が低く、足圧中心軌跡が短くなるのが特徴とされている。今回TKAの前後で比較すると、TKA前に比べ歩行時に踵部と足趾にかけての荷重が増加し、足圧中心軌跡の前後長も長くなり、健常者の足圧分布パターンに近づいていた。特に術前の足部痛が術後に改善した例では足圧分布が健常者と類似のパターンへ改善していたが、足部痛が術後も残存していた例では、術前後の足圧分布に変化がみられなかった。TKA術後もアーチ高率は変化がなく、%Transにも改善が明らかでないなど、変形性膝関節症に伴う足部変形は残存していることが足部痛の残存に関連していると思われた。【理学療法学研究としての意義】足圧分布解析による評価指標は多様であるが、分析方法を工夫することで一般にも分かりやすく説明することが可能である。TKA前後の治療に足圧解析を用いることで変形性膝関節症自体の病態の解明だけでなく、術後の足部痛に対しても有用な情報が得られ、より効率的で新たなTKA前後のリハビリテーションが実現できることが期待される。
  • 高橋 裕司, 千葉 慎一, 尾崎 尚代, 松久 孝行, 西中 直也, 筒井 廣明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】以前より上肢挙上時に肩甲上腕関節が外旋し、肩峰下に大結節が通過する空間を作ることが言及されている。肩関節外転時に負荷をかけると肩甲上腕リズムや肩甲骨の動態が変化するという報告は散見されるが、肩甲上腕関節の動態を検討した報告は渉猟できなかった。そこで本研究の目的は、生体肩で6自由度パラメータが推定可能な3D-2Dレジストレーションを用いて無負荷時、負荷時の動的な外転運動における肩甲上腕関節の回旋角度を検討することとした。【方法】対象は文書による同意を得た健常成人18例18肩。年齢は平均28歳(23―38歳)である。方法は、まずX線透視像を前後方向1方向にて手掌を前方に向けたthumb upの条件で肩甲骨面上での自動外転運動の動態撮影を行った。試技は無負荷時と前腕に3kgの重錘を巻いた3kg負荷時の二種類を行った。その後、各被験者の肩甲骨・上腕骨のCT撮影を行い、そのCT画像よりコンピュータソフトを用いて骨の3Dモデルを作成し、それぞれに座標系を設定した。肩甲骨の座標系は肩甲骨関節窩面の長軸の二等分点を原点とし、その長軸をY軸、肩甲骨関節窩面上を長軸に直交する線をZ軸、ZY平面に直交する線をX軸とした。上腕骨の座標系は上腕骨頭中心を原点として上腕骨軸に平行な線をY軸、骨頭中心と結節間溝を結ぶ線をZ軸、YZ平面に直交する線をX軸としてそれぞれ規定した。完成した骨モデルを透視画像の輪郭にコンピュータソフトを用いてマッチングさせ、上腕骨・肩甲骨の空間位置での三次元動態を推定した。えられた結果から肩甲上腕関節の外転角度に対する回旋角度を算出し、無負荷時と3kg負荷時の群間比較を、two-way repeated-measure ANOVA (p<0.05) を用いて比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は昭和大学保健医療学部(承認番号179号)の倫理委員会の承認を得て行った。説明は共同演者である医師がX線透視による動態撮影の前に行い、同意を得ている。【結果】下垂位から最大外転位までで肩甲上腕関節は無負荷時では26.5°、3kg負荷時では16.8°外旋した。また下垂位では3kg負荷時が無負荷時より10.1°外旋位をとっていた。肩甲上腕関節の外旋角度は下垂位から最大外転位までで無負荷時と3kg負荷時で有意差を認めなかった。【考察】下垂位から最大外転位にて無負荷時は3kg負荷時と比較して外旋角度の変化量は大きいが、統計学的に有意差は認めなかった。3kg負荷時では下垂位で、すでに10.1°外旋位をとっていたにも関わらず最大外転位での外旋角度は負荷時と無負荷時でほぼ同様の角度であった。このことから、肩甲上腕関節は最大外転時に同様な回旋角度になるように調整され外旋することが示唆された。Yamamotoら(2009)はインピンジメントサインのメカニズムを屍体肩にて検討し、内旋位での外転では大結節の烏口肩峰靭帯への接触圧が外旋位または回旋中間位での外転より有意に高いことを報告している。今回の結果では肩甲上腕関節は負荷時でも無負荷時と同様に外旋していた。これは過去の報告から肩関節は内旋位での外転では烏口肩峰靭帯へのインピンジメントが起きてしまうため、健常肩においては肩関節外転時には外旋を伴い、大結節が肩峰下を通過する空間を作りインピンジメントを回避していることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】より詳細な肩関節の基礎バイオメカニクスを明らかにすることにより健常肩関節機能再獲得のための情報を得ることが可能となる。これは病態の評価や運動療法における治療効果の判定・治療への応用につながることが考えられる。
  • 柏木 圭介, 野田 健登, 孫田 岳史, 松本 仁美, 東福寺 規義, 南谷 晶, 海老沢 恵, 正門 由久, 内山 善康
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 肩腱板断裂術後患者において,日常生活動作の獲得は重要な要素である.日常生活動作の獲得は様々な運動機能や環境要素が組み合わさることで可能となるものであり,医療従事者側からの客観的評価(JOA score,Constant score 等)のみではなく患者側による評価も重要な要素である.この患者側による評価を用いた研究は術後6ヶ月,1年,2年と経過の長い対象の報告が多いが,詳細な経時的なデータはなく,術後6ヶ月以内の比較的早期の報告はない.今回我々は2011年に日本肩関節学会より作成された患者立脚型評価システムShouder36 V.1.3(以下,S36)を使用し,当院で行った肩腱板断裂術後患者を対象に経時的評価を行ったので報告する.【方法】 対象は関節鏡を利用したmini-open法で手術を行い,当院の肩腱板断裂術後プロトコールで理学療法を施行した中断裂以下の肩腱板断裂患者12名12肩(男性:9名,女性:3名)とした.手術時年齢は平均57.3±13.0歳であり,術後3,4,5ヶ月時点にS36の用紙による自己記述式アンケート調査を実施し,各領域において各月の点数を比較検討した.なお,S36は全6領域36項目であり,各項目の順番をランダム化し,疼痛(6項目),可動域(9項目),筋力(6項目),日常生活動作(7項目),健康感(6項目),スポーツ能力(2項目)について回答する.点数は5段階(0-4)で値が大きいほど良好な状態を示し,各領域間の平均値を算出するものである.統計処理はTukeyのHSD検定を用い,有意水準5%未満を有意差有りとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,東海大学医学部付属病院臨床研究審査委員会(受付番号11R085号)により承認された.尚,対象者には研究目的および研究方法を十分に説明し同意を得た.【結果】 S36の各項目の得点は,術後3ヶ月,4ヶ月,5ヶ月の順に,可動域は3.3点,3.7点,3.8点であり,3ヶ月と5ヶ月間に有意な改善を認めた(p=0.017).疼痛は3.2点,3.7点,3.8点であり,3ヶ月と5ヶ月間に有意な改善を認めた(p=0.016).筋力は2.9点,3.3点,3.5点,日常生活動作は3.3点,3.8点,3.8点,健康感は3.3点,3.8点,3.8点,スポーツ能力は2.3点,2.6点,2.9点であり,筋力,日常生活動作,健康感,スポーツ能力においては有意差を認めなかった.【考察】 S36において,術後3ヶ月と5ヶ月間で可動域と疼痛の改善に有意差がみられた。これは可動域と疼痛の項目は肩関節下垂位や挙上90°以下の動作が多く,比較的難易度が低い運動であるため,術後に改善が得られたと考える.しかし,筋力の項目は挙上90°以上での保持動作が多いため,3ヶ月から5ヶ月の短期間では改善が乏しく,差が出なかったと考えられた.次に有意差を認めた領域の項目を検討すると,可動域において術後3ヶ月と5ヶ月間で最も得点の変化が少なかったのが「反対側のわきの下を洗う」であり,次いで「エプロンのひもを後ろで結ぶ」であった.これは,今後の内転,内旋動作獲得の重要性が示唆された.また,疼痛の項目において術後5ヶ月で最低得点であった「後ろポケットに手を伸ばす」は患側の肩関節伸展,内旋動作により棘上筋への伸張ストレスによる疼痛が考えられ,改善が乏しかった.このことより,当院の肩腱板断裂術後プロトコールでは伸展と内旋のストレッチを6週まで制限しており,その他の運動と比較すると運動許可時期が遅いため,その後の改善に時間を要すと考えた.以上より,疼痛と肩関節内旋可動域制限との比較の必要性が示唆された.さらに,術後3ヶ月で最低得点であった「患側を下にして寝る」は術後5ヶ月で改善がみられた.それは圧迫ストレスの疼痛であり,術後の炎症や術前の疼痛が関連し,術後経過と共に疼痛が軽減したものと考えられる.日常生活動作と健康感は術後3ヶ月時点ですでに高得点であり,その後の改善に有意差を認めなかった.スポーツ能力は術後3ヶ月から5ヶ月において低い得点のままであり,対象の年齢では項目の難易度が高いことが考えられた.【理学療法学研究としての意義】 患者立脚型評価としてのS36を用いて,中断裂以下の肩腱板断裂術後患者における各領域の3ヶ月から5ヶ月の経過を追い,術後3ヶ月から5ヶ月で可動域と疼痛の項目の改善を認めた.今後はS36と医師(整形外科医,リハビリ科医),理学療法士からの客観的評価を比較検討していきたい.
  • - 断裂サイズごとの疼痛,自動可動域,DASHの変化‐
    工藤 篤志, 山崎 肇, 佐藤 史子, 及川 直樹, 榊 善成, 山内 真吾, 高橋 由希, 成田 和真, 岡村 健司
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】 当院リハビリテーション科では鏡視下腱板修復術(以下ARCR)を行う患者に対し,術前における患者の状態把握のため,理学療法評価(可動域・筋力・疼痛・Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand(以下DASH)など)を実施している.また,回復状態の把握の一助として,同様の理学療法評価を術後定期的に実施している. 我々は術後3か月においても断裂サイズが肩甲骨面挙上筋力と外旋筋力に関連することを明らかにし,外旋,内旋,肩甲骨面挙上の各筋力が術後3か月において術前よりも改善が認められることを報告した.そこで今回は術後における疼痛,肩関節自動可動域およびDASHについて断裂サイズごとに検討し,術後3か月における短期成績について調査した.【方法】 対象は平成22年4月~平成24年10月の間に当院にてARCRを実施した患者のうち,術前と術後3か月の評価項目をすべて満たした193人(性別:男性102人,女性91人.手術時平均年齢: 63.7±8.5歳.利き手:右189人,左4人)193肩(術側:右136人,左57人)とした.両側肩腱板断裂や関節リウマチ合併例などは除外した.断裂サイズは1cm未満を小断裂,1cm以上~3cm未満を中断裂,3cm以上~5cm未満を大断裂,5cm以上もしくは二腱以上の断裂を広範囲断裂とした.断裂サイズは手術記録から確認した.小断裂は63人(男性29人.女性34人.62.2±8.6歳),中断裂は87人(男性53人,女性35人.64.4±8.9歳),大断裂は24人(男性10人,女性14人.63.3±7.0歳),広範囲断裂は16人(男性8人,女性8人.66.9±7.6歳)であった. 評価項目は1.疼痛(安静時,運動時,夜間時)をVisual Analogue Scaleを用いて測定した.2.肩関節自動可動域(屈曲,外転)を端座位にてゴニオメーターを用いて測定した.3.DASH(自己記入式質問票)の機能障害/症状についてのスコア(以下DASHスコア)を測定した. 比較検討には疼痛,肩関節自動可動域,DASHスコアを断裂サイズ(小断裂,中断裂,大断裂,広範囲断裂)と評価時期(術前,術後3 ヵ月)を要因としたFriedman検定を用いた.多重比較検定はSteel-Dwass法を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】 事前に評価内容等の使用に対する説明を十分に行った上で,同意が得られた患者を対象とした.【結果】 Friedman検定では疼痛,自動可動域,DASHスコアすべての項目で断裂サイズおよび評価時期に有意な差がみられた. 多重比較検定では安静時痛において術後は術前と比較して小断裂(p<0.01),中断裂(p<0.05)で有意に低値を示した.同様に運動時痛において術後は術前と比較して小断裂と中断裂(p<0.01),大断裂(p<0.05)で有意に低値を示した.夜間時痛において術後は術前と比較して小断裂と中断裂(p<0.01)で有意に低値を示した. 【考察】 今回の結果からARCR術後3か月において疼痛,自動可動域,DASHスコアが術前よりも改善することが明らかとなった.小断裂と中断裂では3項目すべての疼痛が術前より有意に低下しており,術後3か月に高い疼痛改善効果が得られることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 術前説明や術後の経過説明を患者に行う際,断裂サイズに応じた予後予測の参考になると考える.
  • 腱板断裂、インピンジメント症候群および拘縮肩患者を対象に
    中野 禎, 村西 壽祥, 新枦 剛也, 片岡 紳一郎, 阿曽 絵巳, 森 耕平, 中土 保, 伊藤 陽一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】丸山らにより作成された患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver.1.3(Sh36)は、計量心理学的検証を経た肩関節疾患に対する包括的患者立脚評価とされており、36項目の質問により構成されている。Sh36による評価は患者の主観に基づく評価シートであり、EBM確立に大いに役立つ評価法として期待されているがSh36に関する報告は少ない。本研究の目的は、Sh36における機能領域の主観的評価と肩関節に障害をもつ術前患者の機能実測値評価と関連性について調査し、評価シートの妥当性について検証することである。【方法】対象は肩関節疾患を有する術前患者117名(男性62名、女性55名、平均年齢63.2歳)117肩で、その内訳は腱板断裂55名55肩(腱板断裂群)、インピンジメント症候群41名41肩(インピンジ群)および拘縮肩21名21肩(拘縮群)であった。術前機能評価として、visual analogue scale(VAS)を用いた痛みの評価、肩関節可動域測定、筋力評価ならびにSh36評価シートによる自己回答を実施した。VASは運動時痛を評価し、可動域測定は自動屈曲および自動外転とした。筋力評価はベッド上背臥位、肩関節外転0°、肘関節屈曲90°、前腕中間位を測定肢位とし、ハンドヘルドダイナモメーターを用い、外旋および外転筋力をそれぞれ3秒間の等尺性運動を3回行わせ、その平均値を測定値とし、患側/健側比を算出した。次にSh36で機能領域にあたる3項目「可動域」、「筋力」および「疼痛」の重症度得点有効回答の平均値を算出し、Spearmanの順位相関係数にてそれぞれの客観的実測値可動域(自動屈曲、自動外転)、筋力(外旋および外転筋力)及びVASの関連性を検証した。また疾患別で同様の検討を行った。【説明と同意】対象者には本研究の目的を文書と口頭にて説明し、同意書に自署を得た後に術前機能評価、評価シートへの回答を実施した。【結果】全疾患117肩を対象にした場合、可動域ではSh36と実測値の相関係数は自動屈曲、自動外転でそれぞれ0.59、0.61、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.47、0.45、疼痛は-0.42であり、有意な相関関係を認めた(p<0.01)。また疾患ごとの検討において、腱板断裂群は可動域が自動屈曲、自動外転ではそれぞれ0.63、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.55、0.44、疼痛は-0.45と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。インピンジ群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.53、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.49、0.54、疼痛は-0.53と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。拘縮群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.49、0.57有意な相関関係が認められ、筋力や疼痛に有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究により、Sh36と客観的実測値には中等度の関連性がみられたが、疾患別では腱板断裂群が可動域において、インピンジ群では可動域および疼痛において、相関が高かった。これらは疾患の特徴を反映するものであり、腱板断裂群では自動屈曲、外転制限が日常生活上の困難性を示し、インピンジ群ではインピンジメントによる疼痛誘発を示す評価としてSh36の有用性を認めた。しかし、拘縮群は筋力と疼痛において客観的実測値とSh36は相関が弱かった。その理由として、Sh36の筋力領域は「患側の手で頭より上の棚に皿を置く」、「患側の手でバスや電車のつり革につかまる」など他4項目、疼痛領域は「患側の手でズボンの後ろポケットに手をのばす」、「テーブル上の調味料を患側の手を伸ばしてとる」など他4項目が質問項目として設定されている。拘縮群は自他動とも可動域制限をきたしているため、可動域制限が原因で質問項目の動作が行えないことが考えられ、必ずしも筋力や疼痛が影響しているとはいえない。また、拘縮肩患者は痛みが生じない代償動作を獲得している可能性も考えられ、領域別平均値と客観的実測値に乖離が認められたと考える。このことから、Sh36は肩関節疾患の一般的評価としてその有用性は認められるものの、疾患によっては客観的実測値を反映しない可能性について留意すべきである。Sh36は日常生活の実態を捉えたものであるため、日常生活における代償機能獲得による機能改善指標としての評価ツールとしても有効であると考える。【理学療法学研究としての意義】主観的評価と客観的評価の関連性を検証することにより、治療者側のみの判断を回避でき、患者満足度を考慮した評価、治療技術発展のために有意義と考える。
  • 溝口 想, 柳田 鷹王, 早坂 仰, 佐藤 謙次, 岡田 亨
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】肩関節疾患のリハビリテーションでは棘下筋に対するアプローチが注目されており、肢位や角度、負荷量が肩関節周囲筋の筋活動に与える影響を検討した報告は多い。しかし、運動速度が筋活動に与える影響を検討した報告は少ない。そこで、本研究の目的は肩関節外旋運動時の運動速度が棘下筋・三角筋の筋活動に与える影響を検討することとした。【方法】対象は肩関節に既往のない健常者15名(平均年齢:26.7±4.4歳、平均身長:171.5±7.0cm、平均体重:66.3±10.6kg)とした。全例利き手は右であり、利き手側を測定した。表面筋電図の測定にはマイオトレース400(Noraxon社製)を用い、被験筋は棘下筋と三角筋前部・中部・後部線維とし、電極間距離は2cmとした。測定肢位は側臥位肩関節屈伸中間位・内外旋中間位、肘関節90°屈曲位、前腕回内外中間位とした。運動課題は肩関節内外旋0°から外旋30°までの反復外旋運動とし、メトロノームを用いて60回/分・180回/分の運動速度で実施した。なお、測定順序は無作為に決定した。解析にはマイオリサーチXP(Noraxon社製)を使用し、各運動速度で5回の外旋運動時の平均筋活動を算出した。なお、解析区間は筋電波形が明らかな上昇を示した位置から外旋運動終了までの時間とした。また、各筋の最大随意収縮(MVC)を徒手筋力検査法に準じた肢位で5秒間測定し、中間3秒間の値からMVCの平均筋活動を算出した。各運動速度での平均筋活動をMVCの平均筋活動で除し最大随意収縮時筋活動の相対値(%MVC)を算出した。得られた各運動速度での三角筋前部・中部・後部の%MVCを棘下筋の%MVCで除し棘下筋に対する三角筋前部・中部・後部の筋活動の割合を算出した。検討項目は、棘下筋に対する三角筋前部・中部・後部の筋活動の割合を運動速度間で比較した。統計処理はSPSS ver12.0を使用し、Mann WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は船橋整形外科病院倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には本研究について口答にて説明し同意を得た。【結果】棘下筋に対する三角筋前部の筋活動の割合は60回/分では7.0%であり、180回/分では11.2%であり有意差を認めなかった。棘下筋に対する三角筋中部の筋活動の割合は60回/分では13.1%であるのと比較し、180回/分では22.9%であり有意に高値を示した。棘下筋に対する三角筋後部の筋活動の割合は60回/分では21.4%であるのと比較し、180回/分では38.2%であり有意に高値を示した。【考察】本研究では60回/分と180回/分という運動速度での検討を行い、運動速度の増加に伴い棘下筋に対する三角筋中部・後部の筋活動が有意に増加した。このことから、一定以上の運動速度における外旋運動では棘下筋に対する三角筋中部・後部の筋活動が大きくなることが示された。【理学療法学研究としての意義】腱板断裂術後のリハビリテーションではより選択的に棘下筋の活動を促通することが重要とされている。本研究より180回/分では60回/分より棘下筋に対する三角筋中部・後部の筋活動が大きく、三角筋が活動しやすい運動速度であったと考えられた。このことから、棘下筋をより選択的に促通する場合は180回/分と比べ60回/分のほうが有用と考えられた。運動速度は負荷を決定する要因の1つであり目的にあった運動速度で実施することが重要と考えられた。
  • dart-throwing およびopposite dart-throwing motion とDASHの関係
    粕渕 賢志, 土肥 義浩, 藤田 浩之, 福本 貴彦
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年,手関節の機能的な運動方向として橈背屈から掌尺屈のダーツスロー・モーション(以下 DTM)が注目されている。DTMの運動で日常生活活動(以下 ADL)にあまり不自由をきたさないといわれている。橈骨遠位端骨折後では,ADL能力と関節可動域(以下 ROM)には関連がなく,握力のみ関連があるとの報告が多い。そこで,我々はDTM面ROMとADL能力の関係を調査し,DTM面ROMとADL能力に相関が得られたことを報告した。また,DTMに直交し橈掌屈から尺背屈のopposite DTMは橈骨遠位端骨折後に必要な橈骨手根関節の動きが中心となる。よって,今回はopposite DTM面ROMの評価も加え,橈骨遠位端骨折後症例の身体機能とADL能力の関係を調査することとした。【方法】対象は,橈骨遠位端骨折後症例26名,平均年齢65.7 ± 10.6歳,男性7名,女性19名であった。骨折型はAO分類type A 5例,typeB 2例,TypeC 19例であり,治療方法は26例とも掌側プレートであった。評価時期は受傷後から平均10.3 ± 6.0ヵ月後であった。評価項目は身体機能とADL能力を評価した。身体機能は患側の掌背屈,橈尺屈,回内外,DTM面,opposite DTM面のROMと握力の患健比とし,それぞれ二回ずつ測定し,平均値を求めた。DTM面ROM,opposite DTM面ROMは開発した専用のゴニオメーターで測定した。DTM面は手根中央関節の回転軸が斜め45°に貫通していることから,DTM面用ゴニオメーターでは前腕回内45°の肢位から上方を橈背屈,下方を掌尺屈と定義して測定した。opposite DTM面ROMはDTMに直行している運動方向のため,前腕回外45°の肢位にて上方の橈掌屈から下方の尺背屈と定義して測定した。ADL能力はDASHスコアにて評価した。統計学的解析はDASHスコアを従属変数とし,各ROM,握力の健患比を独立変数として重回帰分析を行い,ステップワイズ法により変数を選択した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究倫理委員会の承認(H21-15)を得て行った。被験者に対し研究の説明を行い,同意を得られた者のみデータを採用した。【結果】DASHスコア21.1 ± 24.4点,掌背屈114.2 ± 28.7°,橈尺屈60.8 ± 17.2°,回内外163.3 ± 31.9°,DTM面ROM 68.1 ± 25.9°,opposite DTM面ROM58.8 ± 21.1°,握力の患健比0.76 ± 0.28%であった。重回帰分析の結果,DASHスコアに関連する因子としてDTM面ROM(Partial regression coefficient(PRC):-0.556),opposite DTM面ROM(PRC:-0.392)が選択され,回帰モデルの寄与率は77%であった。【考察】DASHスコアに関連する因子としてDTM面ROMとopposite DTM面ROMが選択された。重回帰分析の結果,最もDASHスコアと関連していたことから,橈骨遠位端骨折後においても同様にDTM面ROMが最もよく使う運動方向であると考えられる。さらに,ADLでは尺背屈方向の動きを用いるとも報告されている。尺背屈とはopposite DTM面の運動であり,本研究でも橈骨遠位端骨折後にopposite DTM面ROMも重要であるということが示された。opposite DTMは橈骨手根関節の動きが中心であり,橈骨遠位端骨折後は橈骨手根関節の回復と早期からのROM exerciseが重要であると報告されている。よって,橈骨手根関節に障害が生じる橈骨遠位端骨折後では,opposite DTM面ROMの回復により,手関節の機能が向上しDASHスコアの改善に繋がるのではないかと考えられる。また,DTMは手根中央関節が中心の運動であり,橈骨手根関節の動きは少なくなるため,術後早期から骨折部にストレスをかけずに手を動かすことができるかもしれないといわれている。よって,DTM面とopposite DTM面のROM exerciseを組み合わせることにより,有意義な理学療法に繋がると考えられる。【理学療法学研究としての意義】橈骨遠位端骨折ではADL能力に,DTM面とopposite DTM面のROMが重要であることが示された。またDTM面とopposite DTM面のROMは理学療法において,治療,評価のどちらにも重要であると示唆された。
  • 中山 善文, 金井 章, 長尾 恵里, 福島 恭平, 杉浦 紳吾, 谷口 裕樹, 田口 大樹, 辻 貴泉, 渡邊 貴美, 米川 正洋
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 レントゲンで診断可能な我が国の変形性膝関節症(以下、膝OA)患者は2530万人に及び、多数の高齢者が膝OAに罹患していると推測されている。高齢者は膝関節屈曲位の立位をとりやすく、これは靭帯や骨による支持性が減少するため、膝OAの発症や進行に影響すると考えられる。本研究の目的は、高齢者における膝関節伸展制限(以下、伸展制限)の有無が歩行時の膝関節へ及ぼす生体力学的影響を検討することである。【方法】 対象は膝OAと診断され、アメリカリウマチ学会による膝OAの臨床診断基準を満たす膝OA群9名9膝(平均年齢75.4±7.8歳)と膝関節痛がなく同基準を満たさない高齢者29名29膝とした。高齢者においては立位時の膝関節伸展角度(以下、伸展角度)を計測し、5°以上の伸展制限がある者を制限あり群(平均年齢73.2±6.2歳、平均伸展角度-9.0±2.9°、10名)、ない者を制限なし群(平均年齢74.5±5.1歳、平均伸展角度-0.5±1.3°、19名)とした。以上の対象者に対して、Plug-In-Gaitのマーカーセットにて10mの自由歩行を、三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Motion Systems社製)と床反力計OR6-7(AMTI社製)を用いて計測した。得られた結果から歩行時の膝関節角度と外部膝関節モーメントを算出して、一元配置分散分析後、多重比較検定を行い3群の比較検討を行った。さらに立位時の伸展角度と歩行時の内反角度及び内反モーメント値をピアソンの相関係数を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されており、対象者へは研究の主旨を説明し、書面にて同意を得た。【結果】 歩行速度は、膝OA群1.01±0.02m/sec、制限なし群1.18±0.03m/sec、制限あり群1.20±0.03m/secであり、制限なし群、制限あり群と比較して膝OA群で有意に低値を示した(p<0.05)。歩幅は、膝OA群0.53±0.03m、制限なし群0.60±0.05m、制限あり群0.58±0.08mであり、制限なし群と比較して膝OA群で有意に低値を示した(p<0.05)。角度及びモーメントは立脚初期の最大値を代表値として、内反角度は膝OA群13.36±4.45°、制限なし群8.71±5.34°、制限あり群13.66±4.73°であり、制限なし群と比較して制限あり群で有意に高値を示した(p<0.05)。内反モーメントは膝OA群0.61±0.09Nm/kg、制限なし群0.52±0.18Nm/kg、制限あり群0.71±0.21Nm/kgであり、制限なし群と比較して制限あり群で有意に高値を示した(p<0.05)。屈曲モーメントは膝OA群-0.03±0.12Nm/kg、制限なし群0.04±0.17Nm/kg、制限あり群0.07±0.19Nm/kgであり、有意差は認めなかった。また伸展制限が大きいほど、内反角度(r=0.48、p<0.05)、内反モーメント(r=0.30、p<0.05)が増加した。さらに、内反角度が増加するほど内反モーメントも増加した(r=0.61、p<0.05)。【考察】 内反角度及び内反モーメントは制限あり群では制限なし群と比較して有意に高値を示し、伸展制限が大きいほど内反角度及び内反モーメントが増加した。その要因として、膝関節屈曲位では側副靭帯が弛緩し、その状態での荷重により内反角度が増加し、それに伴い内反モーメントが増加すると考えた。内反モーメントは膝関節内側コンパートメントに対する負荷の指標とされ、膝OAの発症や進行に影響すると報告されている。つまり伸展制限は膝OAの発症や進行に関与する可能性が示唆された。一方で、膝OA群は制限なし群と比較して有意差を認めず、歩行速度の低下、歩幅の狭小により膝関節内側コンパートメントへの負荷を減少させていると考えた。また、他関節で代償している可能性もあり、今後の検討課題である。以上より、膝OAの発症や進行の予防には伸展制限のない膝関節機能が重要であると考えた。膝OA群では膝関節内側コンパートメントへの負荷を減少させるため、歩行速度の低下などの運動機能低下が生じると考えた。また、一般的に生じるとされる立脚初期の屈曲モーメントが3群とも低値であり、高齢者は膝関節への負担を軽減させるために屈曲モーメントをコントロールしていると考えた。【理学療法学研究としての意義】 伸展制限が膝関節内側コンパートメントへの負荷の増加に関与することが示唆され、本研究が膝OAに対する予防や治療の一助になると考えている。
  • 小栢 進也, 内藤 尚, 沖田 祐介, 井上 純爾, 岩田 晃, 樋口 由美, 淵岡 聡, 田中 正夫
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 内側型変形性膝関節症は脛骨大腿関節内側部に過剰な圧迫力が加わることで進行が助長されると考えられている。膝関節外部内反モーメント(内反モーメント)の増加が脛骨大腿関節内側部の圧迫力(内側関節圧迫力)増加になると考えられてきたため、内反モーメントを測定した先行研究が多い。しかし、関節圧迫力は筋が収縮することでも生じるため、内反モーメントだけでは関節圧迫力を十分に説明できないことが近年報告されている。本研究では筋骨格シミュレーション解析を用いて高齢者の歩行データから関節圧迫力を求め、内反モーメントと内側関節圧迫力の関係を検討することを目的とした。【方法】 対象は歩行が自立している地域在住高齢者120名(年齢74.0±6.3歳、男性31名、女性89名)とした。被験者の体表17点にマーカーを張り付け、床反力計上を歩行した際の関節角度、セグメントのモーメントを求めた。本研究で用いた筋骨格シミュレーションモデルは関節角度に応じて変化する筋長およびモーメントアームから筋出力を算出するものであり、4セグメント42筋の筋骨格で構成されている。セグメントに付着する筋により発生するモーメントが計測されたモーメントと等しくなるとし、筋活動量の三乗和が最小になるよう各筋の筋活動を求めた。次に内反モーメント、筋活動、床反力から内側関節圧迫力を算出した。また、各筋の収縮による内側関節圧迫力への影響を調べた。内反モーメントは身長と体重、内側関節圧迫力は体重を基準に正規化し、それぞれNm/%BW(body weight)*height、BWで表した。なお立脚期を100%として、%Stance Phase(%SP)で表して時間変化を調べた。統計はPearsonの相関係数を用い、内反モーメントおよび内側関節圧迫力のピーク値の関係性を検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は大阪府立大学研究倫理委員会にて承認を得て実施した。なお、被験者には測定内容を事前に説明し、紙面にて同意を得た。【結果】 立脚期の内反モーメントは二つのピークを持ち、33%SPおよび71%SPでピーク値(2.43±1.93 Nm/%BW*height、2.06±2.17Nm/%BW*height)を示した。一方、内側関節圧迫力も二つのピークを持ち、26%SP、79%SPでピーク値を示した。初めのピーク(第1ピーク)の内側関節圧迫力は1.80±0.53BW、筋による内側関節圧迫力が0.63BWと35%が筋収縮によるものであった。各筋の影響を調べた結果、大腿四頭筋の内側関節圧迫力が0.51BWと高い値を示した。次のピーク(第2ピーク)値の内側関節圧迫力は2.48±0.72BW、筋による内側関節圧迫力が1.33BWと54%が筋収縮によるものであった。ここでは腓腹筋の内側関節圧迫力が1.04BWと高い値を示した。内反モーメントと内側関節圧迫力の相関係数は0.59(寄与率0.34)と有意な関係を認めた。 【考察】 内反モーメントおよび内側関節圧迫力はどちらも二つのピークがみられたが、ピーク出現時期が異なった。相関分析では内反モーメントと内側関節圧迫力の関係性は認められたものの、寄与率は0.34であり、内反モーメントの膝関節圧迫力の34%しか説明できないことが分かった。内側関節圧迫力の第1ピークでは大腿四頭筋、第2ピークでは腓腹筋が強く関与することから、内側関節圧迫力を検討するにはこれらの筋の収縮力を考慮する必要があると思われる。【理学療法学研究としての意義】 これまで内側型変形性膝関節症患者の歩行に関する研究では内反モーメントが注目を浴びていたが、内側関節圧迫力を考える上では膝関節周りの筋出力、特に大腿四頭筋や腓腹筋の収縮力を考慮する必要があることが示された。
  • 藤堂 庫治, 坂本 麻紀, 左座 正二郎, 松坂 達也, 馬目 知人, 山口 基
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝後外側支持機構(以下、PLC)は、膝外側側副靱帯、膝窩腓骨靱帯、膝窩筋によって構成され、直達外力による膝関節内反または過伸展で外旋力が加わって損傷されるが、単独損傷はまれで、膝前十字靱帯や後十字靱帯との合併損傷が多い。PLCの損傷は膝関節の膝後外側回旋不安定性を引き起こし、これを評価する方法の一つとしてExternal Rotation Recurvatum test(ERRT)がある。しかし、PLC損傷膝の不安定性に関する報告の多くは、屍体膝の靱帯切離前後の脛骨前方移動量および後方移動量、外旋角度の変化について解析されているが、膝関節運動中の不安定性に関する運動学的特徴を3次元的に調べた報告は少ない。今回、膝前十字靱帯損傷を合併したPLC損傷に対して、膝後外側回旋不安定性の運動学的特徴を明らかにするためにERRTを用いた三次元動作解析を行ったので報告する。【方法】対象は、23歳の男性、身長172cm、体重63kgである。診断名は膝前十字靱帯損傷、PLC損傷および内側半月板損傷である。受傷機転は、器械体操で膝関節完全伸展位のまま着地したことである。主訴は、不意に発生する膝くずれ現象と疼痛である。対象者をベッド上で仰臥位として、半円状枕の上に両膝を乗せて膝関節軽度屈曲位で安楽肢位とした上で測定側の大腿部を固定し、ERRTを両側に3回実施した。ランドマークは、膝蓋骨上縁上3cm、大腿骨外側上顆、脛骨粗面、腓骨頭とした。動画はカシオ社製EXILMを用いて撮影した。2台のカメラをそれぞれ三脚に固定し、膝関節側方の頭側と尾側に設置し、カメラスピード60fpsで撮影した。動作解析は、株式会社DKH社製Frame-DIASⅣを用いた。3次元DLT法で座標を算出した。周波数30Hzでデジタイズし、3点移動平均でフィルター処理された座標値を用いた。得られた座標値から、膝関節屈曲角度(Flex)、膝関節外旋角度(ER)を算出した。Flexは、膝蓋骨上縁上3cmと大腿骨外側上顆を通る直線と脛骨粗面と腓骨頭を通る直線のなす角度で算出し、健側初回最大伸展位を0度に補正し、屈曲を正の値で示した。ERは、大腿骨外側上顆、膝蓋骨上縁上3cmと腓骨頭による平面に対する法線ベクトルと、大腿骨外側上顆、脛骨粗面と腓骨頭による平面の法線ベクトルのなす角度を膝関節屈伸運動に伴う変化として定義した。開始肢位を0度とし、外旋を正の値で表記した。検討項目は、膝関節伸展運動に伴うFlex、ERに関する波形の特徴を視覚的に検討した。Flex、ERについては、開始肢位から膝関節0度まで、0度から最終伸展域までの運動範囲を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者より本研究の趣旨に賛同を得た上で、本研究は実施された。【結果】関節運動の波形を視覚的に検討すると、患側では膝関節0度以降の過伸展域で急激な膝関節過伸展と外旋運動がみられた。Flexの総運動範囲は、健側10.29±0.48度、患側22.00±2.65度であった。患側に11.97±2.94度の過伸展を認めた。ERの総運動範囲は、健側3.28±0.29度、患側11.32±1.69度であった。膝関節屈曲0度までの運動範囲は、健側3.28±0.29度、4.70±0.82度であり、膝関節屈曲0度以降に6.62±1.16度の外旋がみられた。【考察】膝関節伸展角度は、患側で約12度の過伸展を認めた。膝前十字靱帯もPLCも膝関節伸展強制は受傷機転に挙げられている。本症例の発生機転は膝伸展位での着地動作であり、この時、膝関節を強く伸展強制されたと推測される。患側は、伸展0度を超えた後に、急激な伸展と外旋がみられた。この結果から、後外側回旋不安定性は過伸展域に発生し、膝関節の急激な11.97度の伸展と11.05度の外旋が発生する現象といえる。【理学療法学研究としての意義】ERRTでの膝後外側回旋不安定性の運動形態を解明することで、症状発生動作で患部に発生する関節運動を推測することができ、効果的な運動療法や補助具療法を考案することができる。
  • 梅原 弘基, 高村 隆, 黒川 純, 細川 智也, 藤井 周
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 反復性膝蓋骨脱臼に対する内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術後の膝関節屈曲可動域に関しては良好な回復との報告されている一方で、合併障害として膝関節屈曲可動域制限症例に関する報告もされている。しかしながらこれらの報告は最終フォローアップ時であることが多く、膝関節屈曲可動域の推移を詳細に検討した報告は少なく一定の見解を得られていない。また当院ではMPFL再建術後に膝伸展位でのニーブレースを一定期間装着する為、膝関節屈曲可動域は理学療法初期における重要な課題となるが、膝関節屈曲可動域回復は症例により経過が異なることを経験する。本研究の目的はMPFL再建術後における膝関節屈曲可動域の推移について検討することである。【方法】対象は2005年12月~2011年4月までに当院にて反復性膝蓋骨脱臼と診断されハムストリングス腱を用いたMPFL再建術を施行した患者で術後12ヶ月まで経過が確認出来た20例20膝(男性3例3膝、女性17例17膝)とした。年齢22.6(12-42)歳、身長161.1±6.5cm、体重57.1±8.2kgであった。診療記録より定期診察時の膝関節屈曲角度、完全屈曲獲得日数、apprehension sign、再脱臼の有無を抽出した。抽出した項目から膝関節屈曲角度の推移、膝関節完全屈曲獲得日数の平均値を基準とした2群間での膝関節屈曲角度の比較及びapprehension sign陽性例と再脱臼の発生件数について検討した。膝関節屈曲角度の推移は術後1・2・3・4・6・8・10・12ヶ月での推移を一元配置分散分析の後Games-Howellの多重比較にて比較検討を行った。膝関節屈曲角度の比較は平均日数よりも完全屈曲獲得日が早期であった群(獲得早期群)と遅延した群(獲得遅延群)に分類し、可動域回復期とされる術後2・4・6・8・12・16週における膝関節屈曲角度について時期と群の2要因による二元配置分散分析の後Mann-WhitneyのU検定を用いて比較検討を行った。また術後12ヶ月におけるapprehension sign陽性例と再脱臼の発生件数を2群間で比較検討した。統計学的処理にはSPSS ver12を使用し有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究では診療記録使用にあたり対象者に対して倫理的な配慮や人権擁護がなされていることを説明し同意を得ている。また個人情報の取り扱いには十分に配慮し行った。【結果】膝関節平均屈曲角度は1ヶ月74.8°、2ヶ月118.3°、3ヶ月134.0°、4ヶ月137.8°、6ヶ月145.0°、8ヶ月146.5°、10ヶ月147.5°、12ヶ月148.3°であった。1ヶ月に対しては全ての時期で有意に高値を示し、2ヶ月に対しては3ヶ月以外の時期で、3ヶ月に対しては4ヶ月・6ヶ月以外の時期で有意に高値を示した。4ヶ月以降は全ての時期で有意差をみとめなかった。膝関節完全屈曲獲得平均日数は177.4日であり、これを基準とし獲得早期群10名10膝と獲得遅延群10名10膝に分類した。各群の膝関節平均屈曲角度はそれぞれ獲得早期群・獲得遅延群の順で2週58.5°・46.0°、4週80.5°・69.0°、6週104.5°・93.5°、8週125.0°・111.5°、12週141.5°・126.5°、16週148.5°・127.0°であり12週及び16週において獲得早期群が有意に高値を示した。術後12ヶ月におけるapprehension sign陽性例及び再脱臼発生件数は両群とも0件であった。【考察】本研究の結果、膝関節屈曲可動域は術後4ヶ月まで有意に改善し術後12ヶ月の膝関節屈曲角度は148.3°と緒家らの報告と同様に良好な回復であった。また群間比較では12週及び16週において獲得早期群の膝関節屈曲角度が高値であった。MPFLの長さは膝関節屈曲0°から60°にて長くなると報告されており、膝関節屈曲可動域の早期アプローチは膝蓋大腿関節の不安定性を発生させることが懸念されるが、獲得早期群における術後12ヶ月apprehension signは全例陰性であり再脱臼も発生していないことから、膝関節屈曲可動域の獲得が早期であっても膝蓋大腿関節の不安定性に対する影響は少なく早期からのアプローチが可能であると考える。【理学療法学研究としての意義】MPFL再建術後における膝関節屈曲可動域の推移に関しては一定の見解を得られてない為、術後理学療法において膝関節屈曲可動域の目標設定が困難であるが、可動域の推移を詳細に検討した本研究の結果は膝関節屈曲可動域アプローチにおける目標設定の一助となることが示唆される。
  • 福原 幸樹, 平田 和彦, 河江 敏広, 島田 昇, 日當 泰彦, 松木 良介, 對東 俊介, 雁瀬 明, 折田 直哉, 西川 裕一, 植田 ...
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 膝前十字靱帯(ACL)は,スポーツ活動で損傷され,膝関節不安定性を引き起こす.ACL損傷には,半月板損傷が高率に合併し,その割合は39-65%と報告されている.半月板損傷の合併がACL再建術後の膝機能回復にどのように影響するかについて,膝不安定性と筋力の経過に関しては多く報告されている.近年,ACL再建後の膝固有感覚に関して報告がなされているが,半月板損傷合併例の膝固有感覚についての報告は少ない.本研究の目的は,半月板損傷を合併したACL損傷患者の膝固有感覚,不安定性,筋力をACL単独損傷患者と比較し,術前と術後の変化を検討することとした.【方法】 対象は2009年8月~2011年7月までに当院でACL再建術を行い,術後1年までリハビリフォロー可能であった28例とした.対象の内訳は,ACL再建術に半月板修復術を追加した群(ACL+meni群)が13例(男性6例,女性7例,平均年齢21.2±7.8歳),ACL再建術のみを行った群(ACL群)が15例(男性6例,女性9例,平均年齢24.9±12.6歳)であった. 膝機能の測定として,固有感覚は当院で独自に開発した固有位置覚・運動覚測定装置(センサー応用,広島)を使用し,Shidaharaの方法を参考に運動覚の測定を実施した.測定条件は開始角度15°と45°,運動方向は伸展方向・屈曲方向で,角速度0.2°/sとし測定した.得られた値から,それぞれの開始角度と運動方向の平均反応時間の患健差を算出した.膝不安定性は,Kneelax3(Monitored Rehab社製,Netherland)を使用して,30pound牽引時の脛骨前方移動量を測定し,患健差を算出した.筋力はBiodex System3(Biodex社,USA)を用いて,60°/sでの等速性膝伸展・屈曲筋力を測定し,最大トルクの患健比を算出した.各膝機能の測定時期は術前と術後12ヶ月で測定した. 統計解析にはPASW18(SPSS社,日本)を使用した.術前の各膝機能の群間比較にMann-Whitneyの検定を用い,術前と術後12ヶ月の各膝機能の比較にwilcoxonの符号付順位検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究では,世界医師会による「ヘルシンキ宣言」を遵守し行った.また,本研究に参加するにあたり研究の趣旨について十分な説明を行い,同意が得られた症例を対象とした.【結果】 固有感覚の患健差について,ACL群は,開始角度45°からの屈曲方向で術前4.88±5.63秒,術後12ヶ月2.17±2.38秒と有意な差を認めた(p<0.05).ACL+meni群は術前と術後12ヶ月の固有感覚に有意な差を認めなかった.膝不安定性は,ACL群で術前5.53±3.21mm,術後12ヶ月1.17±2.81mm,ACL+meni群で術前4.65±2.30mm,術後12ヶ月1.02mm±2.16で両群ともに術前後で有意な差を認めた(p<0.05).膝伸展筋力の患健比は,ACL群で術前37.0±16.0%,術後12ヶ月17.8±13.6%,膝屈曲筋力の患健比が術前30.3±16.7%,術後12ヶ月14.8±16.9%で術前後と比較し膝伸展・屈曲筋力それぞれに有意な差を認めた(p<0.05).ACL+meni群は術前26.4±18.0%,術後12ヶ月19.0±17.7%,膝屈曲筋力の患健比が術前13.8±29.6%,術後12ヶ月13.8±17.7%で術前後と比較し膝伸展・屈曲筋力それぞれに有意な差を認めなかった.また,ACL群とACL+meni群の群間において術前の膝不安定性,筋力,固有感覚に有意な差を認めなかった.【考察】 今回の結果より,ACL単独損傷者は術前と術後12ヶ月を比較して膝固有感覚,不安定性,筋力の全てに有意な改善を認めたが,半月板損傷合併例においては膝不安定性の改善を認めたものの,固有感覚,筋力の改善を認めなかった.ACL再建術後の固有感覚の回復に関する報告は多くなされている(Iwasa 2000,Shidahara 2011)が,半月板損傷を合併したACL再建術後の膝固有感覚の検討は,ほとんどない.今回,半月板損傷合併例の関節固有感覚に回復を認めなかった理由として,半月板内のメカノレセプターが損傷したことで固有感覚機能が損なわれたことが考えられる.Al-Dadah(2011)は術後約1年で半月板切除例において固有感覚の低下を報告しており,半月板損傷を合併したACL再建術後の固有感覚の回復にはより長期間を要する可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 半月板損傷合併例では術後の固有感覚の回復により焦点を当てた運動療法の構築が必要な可能性がある.
  • 工藤 優, 櫻井 愛子, 原藤 健吾, 飯田 智絵, 砂田 尚架, 増本 項, 福井 康之, 大谷 俊郎
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 ACL損傷例の歩行で,膝関節屈曲伸展を抑制し不安定性を防止するStiffening Strategyが知られている.我々はStiffening Strategyが,矢状面のみでなく,水平面での脛骨回旋運動にも作用すると予測したが,半月板損傷を伴うACL損傷例では,脛骨内旋運動がむしろ大きい傾向にあった.そのため,ACL損傷例の脛骨回旋運動は,ACLのみでなく半月板損傷による影響も大きいと推察した. 半月板は脛骨回旋に関する二次的な制動を果たすとされている.半月板切除術後において,膝関節機能が低下することが指摘されており,脛骨回旋制動も低下することが予測される. そこで,今回,半月板損傷の有無がACL再建術後の歩行においても影響を与えるのではないかと考え,ACL単独再建群(ACL群)とACL再建に半月板部分切除を伴う群(M+ACL群)の歩行時の膝関節屈曲伸展運動と脛骨回旋運動を比較し,ACL再建術に伴う半月板部分切除の有無が歩行に与える影響について明らかにすることを目的とした.【方法】 ACL群4名4膝(年齢27.0±10.6歳,女性4名),M+ACL群4名4膝(年齢19.0±5.4歳,男性3名・女性1名),コントロール群として健常者4名8膝(年齢23.0±1.4歳,男性2名・女性2名)を対象とした.計測は,体表に反射マーカー36点を貼付し,三次元動作解析システムVICON MXを用いて行った.計測前に数回の練習を行った後,自由速度の歩行を3回施行した.計測したマーカー位置よりAndriacchiらのPCTを用いて膝関節屈曲伸展角度,脛骨内外旋角度を計算し,静止立位角度により補正した.屈曲伸展角度に関しては,立脚初期から中期における屈曲ピーク値と立脚期中期の伸展ピーク値の差を算出し,屈伸変化量とした.脛骨内外旋角度に関しては,踵接地時の内旋角度と立脚中期の内旋ピーク値の差を算出し,内旋変化量とした.術前,術後1カ月,術後3カ月のACL群,M+ACL群とコントロール群の屈伸変化量,内旋変化量を比較した.統計学的解析にはKruskal Wallis H-testを用いた(p<0.05).【倫理的配慮、説明と同意】 国際医療福祉大学三田病院倫理委員会の承認を受け,対象者に充分な説明を行い,同意を得て実施した.【結果】 屈伸変化量は,術前後ともにACL群(術前;11.3±5.2度,術後1カ月;8.5±5.0度,術後3カ月;7.3±3.0度),M+ACL群(術前;12.6±8.1度,術後1カ月;10.6±9.1度,術後3カ月;13.2±3.9度)がコントロール群(19.3±6.0度)と比較し有意に小さかった(p<0.05).  内旋変化量は,術前後ともにM+ACL群(術前;16.5±3.4度,術後1カ月;16.2±4.2度,術後3カ月;15.2±2.1度)が ACL群(術前;10.1±1.6度,術後1カ月;11.3±2.4度,術後3カ月;10.2±1.7度), コントロール群(9.8±3.3度)と比較し有意に大きかった(p<0.05).【考察】 本研究では,ACL群,M+ACL群は術前後とも屈伸変化量が小さい傾向を認めた.術前のACL損傷例の歩行では,Stiffening Strategyをとることが知られているが,今回,術後の大腿四頭筋の筋萎縮による筋力低下やACLへの過度のストレスに対する逃避行動として,術後にもStiffening Strategyが継続したのではないかと考えられる. また,M+ACL群は術前後ともACL群,コントロール群より脛骨内旋変化量が大きい傾向を認めた.半月板は衝撃吸収や荷重分散,膝関節安定性などの機能があげられるが,半月板切除後には,その機能が十分に果たせなくなることが考えられる.そのため,ACL群ではACLの再建により脛骨回旋運動を抑制することができたが,M+ACL群では脛骨内旋運動を制動する機能が低下し,脛骨内旋変化量が大きかったと考える.樋口らは半月板切除術後,良好な臨床成績が示されたが,長期経過では変形性膝関節症が進行すると報告している.本研究において,M+ACL群の脛骨内旋運動が大きい傾向にあったことは,短期的な膝関節不安定性だけでなく,長期的な変形性膝関節症への考慮もM+ACL群では重要であることを示唆している. 一方,Loganらは若く,活動性の高いhigh-demandな症例では積極的に半月板縫合術を行うべきと報告している.しかし,半月板縫合術では切除術に比較し,運動復帰に長期間を要することや縫合後の再損傷などの問題点があげられる.本研究では,ACL単独損傷群とACL再建に半月板部分切除を伴う群との比較であったため,今後,半月板縫合例との比較が重要となってくると考えられる. また,長谷川らはACL再建術後3カ月では筋力低下や動作に対する不安により安定した歩行状態ではなく,術後12カ月以降でより典型的な術後変化を示すと報告している.そのため,今後はACL再建術後の歩行を経時的に検討していく必要性があると考える.【理学療法学研究としての意義】 脛骨の過度な内旋運動は,再建靭帯の過緊張や将来的な変形性膝関節症のリスクにもつながるため,今後も経時的に分析を進め,靱帯再建後の理学療法へつなげていく.
  • ―投球障害発生との関連―
    行武 大毅, 山田 実, 青山 朋樹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 学童期における投球障害の発生割合は増加しており、特に12歳前後が好発年齢といわれている肘の障害は深刻な問題となっている。そこで、学童期の投球障害の予防のために、日本では臨床スポーツ医学会が、アメリカではUSA Baseball Medical & Safety Advisory Committeeがそれぞれ提言(投球数制限)を発表しており、12歳の選手に対する1日の全力投球数として、それぞれ50球以内、75球以内が推奨されている。しかし、これらの提言は、指導者が正しく理解、順守することで初めて意味を持つものである。アメリカにおける報告では、4割の指導者が投球数制限の正しい知識を持っており、7割の指導者が投球数制限を順守していたが、日本における現状は明らかではない。その現状を調査することは、指導者啓発の一助となると考えられる。また、指導者の投球数制限に対する意識が障害発生にどう影響するかは明らかではない。本研究の目的は、日本の学童期野球指導者における投球数制限の認知度、順守度を調査し、選手の障害発生との関連を明らかにすることである。【方法】 学童期野球チームの指導者と選手の保護者を対象とした2種類のアンケートを作成し、京都市内の平成23年宝ヶ池少年野球交流大会参加チーム111チームに配布した。指導者に対するアンケートの内容は、年齢、指導歴、選手歴、年間試合数、週あたりの練習日数、シーズンオフの有無、年間試合数に対する意見とした。加えて、投球数制限について正しい知識を持っているか、日常的に順守しているかを調査した。選手の保護者に対するアンケートでは、基本情報として選手の年齢、身長、体重、野球歴を調査し、さらにアウトカムとして、ここ1年間での肘関節の投球時痛を項目に含めた。統計解析としては、まず投球数制限の認知度、順守度の割合をそれぞれ算出した。続いて、指導者の投球数制限に対する認知や順守が選手の疼痛発生に与える影響を探るため、従属変数を選手のここ1年間での肘関節の疼痛の有無とした多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。ここでは、指導者の中からチームごとに指導責任者を抽出し、独立変数として選手の基本情報、認知や順守を含めたコーチ関連要因、チーム要因を投入した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、説明会において口頭で十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 アンケートを配布した111チームのうち、58チーム(指導者123名、選手の保護者654名)から回答が得られた(回収率52.3%)。解析には、欠損データを除いた指導者113名、選手の保護者339名のデータを用いた。指導者113名のうち、投球数制限に対して正しい知識を有している指導者は45名(39.8%)であり、投球数制限を日常的に順守している指導者は32名(28.3%)であった。選手におけるここ1年間での肘関節の疼痛既往者は54名(15.9%)であり、多重ロジスティック回帰分析では、選手の身長(オッズ比1.08、95%CI: 1.01-1.15、p < 0.05)と年間試合数を多いと感じている指導者の率いるチーム(オッズ比0.29、95%CI: 0.11-0.75、p< 0.01)が疼痛発生に対する有意な関連要因として抽出された。指導者の投球数制限に対する認知度や順守度は、有意な関連要因とはならなかった。【考察】 本研究は、日本の学童期野球チームの指導者の投球数制限に対する認知度と順守度を調査した。加えて、それらの認知度や順守度と選手から報告された疼痛との関連を明らかにした。投球数制限に対して正しい知識を有している指導者の割合は39.8%であり、アメリカにおける報告(7割)と同水準の値を示したが、投球数制限を日常的に順守している指導者の割合は28.3%であり、アメリカにおける報告(7割)とは異なる値を示した。このことから、投球数制限に対する問題点に対して、世界レベルで取り組むべき問題と各国で取り組むべき問題とが存在していることが伺える。しかし、これらの認知度と順守度と実際の疼痛発生に有意な関連は見られず、年間試合数を多いと感じている指導者の率いるチームに有意な関連性が見られた。指導者が試合数に対して多いと感じることで練習量を抑えるといった二次的な影響が示唆され、オーバーユースを単なる試合での投球数のみでなく練習量も含めたものとして捉える必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 投球数制限を含めた学童期の投球障害に対して各国が連携して取り組むことで、学童期野球界への指導啓発の発展が期待される。また、指導者の年間試合数に対する意識が障害発生のリスクファクターとして抽出されたことから、この結果をスポーツ現場へ還元することにより、指導者の意識向上と障害発生割合の減少が期待される。
  • 共通所見と具体的な理学療法アプローチについて
    青木 啓成, 村上 成道, 児玉 雄二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】野球による肘関節障害は、内側型、外側型、後方型に分類される。特に内側型の障害が多く、内側上顆障害、内側側副靭帯損傷、尺骨神経障害などがある。尺骨神経障害はしびれのみでも競技能力に影響を与え、保存療法に抵抗する場合があるため手術治療を要することが多いと報告されている。尺骨神経障害は手術療法の報告はあるものの、理学療法アプローチに関する報告は渉猟した限り見あたらない。今回、投球を契機に生じた尺骨神経障害に対する保存療法を経験したので、共通所見と具体的な理学療法について報告する。【対象、方法】対象は2007年1月~2012年9月までに当センターで尺骨神経障害と診断され理学療法が処方された4例である(年齢14歳~16歳)。受傷機転につては、3例は一球投球した際に強い痛みが増強したエピソードがあり発症から受診までの期間は3~4週であった。1例は肘伸展位荷重時に強い痛みを生じ、受診までに3ヶ月経過していた。主訴は肘関節自動運動での肘内側の痛みに加え、ランニングで痺れや痛みが増強し、投球は困難であった。4例の共通所見は、肘関節は10~20度の伸展制限(健側比)を認め、肩関節は外転90度内旋、伸展制限が顕著であった。チネルサインは上腕内側遠位に認め、小指外転筋力の低下や尺骨神経領域の感覚障害は認めなかった。触診上は上腕内側・外側筋間中隔、円回内筋、肘筋と上腕三頭筋の付着部に滑動障害を認めた。競技復帰の条件は、しびれや痛みがなくランニング・バッティングが可能になり、かつ塁間投球が80%の強度で可能となることとし、復帰までの経過を後方視的に診療録より調査した。【倫理的配慮、説明と同意】患者・保護者には初回受診の際に個人データの使用許可を得た。【結果】治療方針は初診から3週間の理学療法で症状が改善しない場合に投薬とMRI検査を実施し、6週間で改善を認めない場合は神経伝導速度の検査を実施する。4例中、投薬、MRI検査、神経伝導速度検査を実施したのは1名であった。3例の競技復帰までの期間は受傷後12.5週~14週であった。受診までの期間が長かった1例はバッティングが可能になったが、十分な強度の投球が困難で完全復帰できなかった。理学療法プログラムは、まず、肘関節の伸展制限の改善を最優先した。徒手的に橈骨頭周囲のmobility改善、肘頭外側・肘筋下の癒着改善をはかり、更に上腕外側・内側筋間中隔の滑動性の改善のために徒手で同部位を圧迫しながら肘関節の他動運動を反復した。また、初期には肘関節の自動運動を中止し、他動運動を推奨したことが可動域改善に有効であった。肩・肘関節可動域と肘・上腕の軟部組織の滑動性を改善させることで徐々にチネルサインは消失し、受傷後6週程度でランニングが可能となった。その後バットスイングを開始し、肩甲帯・体幹の柔軟性・安定性や肘周囲の筋力を高めながらバッティング練習、シャドーピッチングへ移行した。シャドーピッチングの痛みが無くなった段階で実際の投球へと進めた。【考察】いずれの症例も緩徐に運動時痛が増強するのではなく、急激な運動時痛が特徴である。そのため、肘内側から後面に炎症症状をきたした可能性が高く、尺骨神経周囲の軟部組織や内側筋間中隔の癒着が症状の要因であったと考えられた。内側筋間中隔の癒着部は徒手的に圧迫するとしびれが出現しやすい。そこで同部位の滑動を改善させるために、まず上腕遠位外側筋間中隔ならびに上腕筋と上腕三頭筋の連結障害を改善させた。結果的にそれが上腕内側筋間中隔の緊張を緩和することにつながり、尺骨神経のストレス減少につながったと考えられた。林は超音波解剖所見より上腕骨小頭前面の60%を上腕筋が覆被すると報告している。つまり、上腕筋の緊張緩和は肘関節伸展制限の改善にも大きく影響したと考えられ、肘筋周囲の滑動性改善のみでは伸展制限は改善しなかった可能性が高い。肘の伸展制限の改善を最優先したことで日常生活上の上腕部のリラクゼーションが得られたことも改善要因の一つであったと考えられた。また、セルフケアとしての肘関節自動運動は、結果的に上腕二頭筋・三頭筋の緊張を高めることになってしまったことから上腕筋間中隔の緊張が緩和されないことが推察された。そこで自動運動を中止し、他動運動に切り替えたことは初期の肘関節可動域改善において重要なポイントであった。尺骨神経障害の理学療法において注意する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】野球による尺骨神経障害に関する保存療法や理学療法については具体的な報告が皆無である。このような臨床症例の報告は患者の症状改善のみならず理学療法士の治療技術の発展のためにも意義があると考える。
  • 長谷川 恭一, 木勢 千代子, 山形 沙穂, 森田 真純, 中村 睦美
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】近年,小学生において新体力テスト項目の1つであるソフトボール投げの全国平均値は,低下する傾向にある。ソフトボール投げは,「投」の運動能力を測る指標であるが,低下の原因として児童達のスポーツや外遊びの中で「投」にかかわる類似の運動を経験する機会が減少したことがあげられる。また「投げる」動作は「歩く」,「走る」といった動作に比べ,後天的に獲得される動作で練習や効果的な指導が必要であるとされている。投能力に関する先行研究では,高校生や大学生などにおける研究は多いが,地域少年野球に関する研究は少ない。そこで本研究では,地域少年野球チームに所属する児童の軟式球投げを調査し,体格,体力,運動能力との関係を検討することを目的とした。【方法】対象者は,地域少年野球チームに所属する小学5年生10名を対象とした。測定項目は身長,体重,握力,長距離走(2.5km),50m走,片脚立位(60秒を上限とした),立位体前屈,膝伸展筋力,軟式球投げとした。体力テストの方法は文部科学省の「新体力テスト実施要項」に準じて行い,立位体前屈は立位にて前屈を行い第三指の指尖がついた位置を測定面より計測し測定面を0cmとし,足底より下を+(プラス)値,足底より上を-(マイナス)値とした。膝伸展筋力はμ-tas(アニマ社製)を用い椅子座位にて体重支持側下肢にて2回行った値の最大値を採用し体重比(%)を算出した。また,軟式球投げに用いたボールは (公財)全日本軟式野球連盟公認球であるケンコーボールC号を使用した。統計解析には,軟式球投げと各測定間の関係を検討するためにPearsonの相関係数を用いた。また40m以上投げられる群(高能力群)と投げられない群(低能力群)の2群に分け,各測定値を対応のないt検定で行った。なお,統計解析ソフトはSPSS19.0J for Windowsを用いて行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての児童に対して研究の趣旨,内容,それに伴う危険性について事前に口頭で説明し,保護者に対しては書面にて十分な説明を行い,署名を以って同意を得た。【結果】各測定値は,身長141.8±5.1cm,体重39.7±9.1kg,握力19.5±2.9kg,長距離走17.3±3.2分,50m走10.1±1.2秒,片側立位60.0±0.0秒,立位体前屈-2.4±8.6cm,膝伸展筋力(体重比)1.6±0.5%,軟式球投げ41.6±6.8m,であった。軟式球投げと各測定間の相関の結果は,全ての測定値の間で有意な相関は認められなかった。また,高能力群は6名で低能力群は4名であり2群間の比較では立位体前屈でのみ有意差が認められ高能力群は1.6±6.2cm,低能力群は-8.5±4.7cmであった。【考察】本研究の結果,地域少年野球チームに所属する児童において,軟式球投げと体格,体力,運動能力との間に相関関係は認められなかった。小学生におけるソフトボール投げに関する先行研究では,50m走とソフトボール投げが正の相関を認めたという報告がある。今回は投能力と各指標間に相関を認めなかったが,今後は,他学年の児童も研究対象に加え対象者を増やし再検討が必要である。しかし,投能力の高い群と低い群の2群に分け検討した結果,立位体前屈において有意差が認められ,柔軟性が高い児童ほど投能力に優れていた。投球動作は下肢から体幹,上肢へと効率よくエネルギー伝達する全身運動であり,その動作の中心となるのが体幹であるといわれている。優れた投球動作を行うためには身体の大きさ,筋量だけでなく,下肢,体幹で発生した力を上肢に伝達するための体幹の動きや,投球の際におけるスムーズな回旋を行うための関節可動域も重要であることが報告されている。立位体前屈によって測定される柔軟性は,体幹背部から腰部,大腿および下腿後部の筋や腱の伸長性,脊柱から股関節,膝関節,足関節に至るまでの関節や靱帯の構造など多くの身体的要素が複雑に影響している。また,成長期に頻発する障害は成長期特有の力学的ストレスが作用して発症するものであり,その予防においては柔軟性を高め,筋・腱付着部の伸張ストレスを軽減させることが重要である。本研究より,投能力の高い児童ほど柔軟性が高いことが示され,成長期の児童に対して投能力を高めるためには,体格を考慮した正しいストレッチの指導を行い,投動作を練習する事が重要であると考えられる。今後は,他学年の児童も研究対象に加え対象者を増やして調査を継続していきたい。また,投動作において動作分析を行い,他部位の筋の柔軟性や関節可動域を調査し投能力向上と障害予防に努めていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究より成長期児童において投能力が高いほど柔軟性が高いことが示され,柔軟性を高める事は投能力向上や投球障害予防につながると考えられる。
  • 石垣 智恒, 山中 正紀, 江沢 侑也, 加藤 巧, 武田 直樹, 菅原 誠
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】投球動作における後期コッキング肢位で、肩甲上腕関節後方関節包拘縮は上腕骨頭を上方へ移動させ、肩関節障害に寄与することが示唆されてきた。これまで肩甲上腕関節後方関節包拘縮が上腕骨頭移動に与える影響は、in vitroで計測されることが多かった。Burkhartらは、野球選手において拘縮した関節包の肥厚を確認した。それゆえ、関節包厚の計測によって関節包拘縮が評価できると考えられる。また、これまで肩関節評価における肩関節可動域指標として、GIRD(glenohumeral internal rotation deficit)、total rotation ROM conceptが用いられてきた。本研究の目的は、超音波画像診断装置を用いて計測した肩甲上腕関節後方関節包厚と後期コッキング肢位における上腕骨頭移動との関連性を検討するとともに、関節包厚および上腕骨頭移動と関連する肩関節可動域指標を検討することである。【方法】対象は大学野球選手7名(19.3歳±0.8歳、身長169.1cm±6.8cm、体重62.7kg±6.5kg、野球歴9.3年±3.1年)とした。MyLab 25超音波ユニット(esaote)を用いて、上肢体側下垂位での肩甲上腕関節後方関節包厚、上肢体側下垂位および肩外転90°最大外旋位(後期コッキング肢位)での肩峰上腕骨頭間距離を計測した。上腕骨頭移動は、後期コッキング肢位における肩峰上腕骨頭間距離から体側下垂位での肩峰上腕骨頭間距離を減じた値とした。肩関節可動域計測は、被験者を背臥位とし、投球側および非投球側の肩関節90°外転位での内旋角度および外旋角度を計測した。可動域計測には傾斜計(Human Performance Measurement,Inc)を使用した。可動域指標として以下の3項目を算出し、検討した;(1)内旋差:非投球側内旋角度から投球側内旋角度を減じた値、(2) 外旋差:投球側外旋角度から非投球側外旋角度を減じた値、(3) Total ROM差:非投球側と投球側との全回旋可動域の差。統計解析にはSPSSを使用し、関節包厚、上腕骨頭移動、各可動域指標との関連をピアソンの相関係数にて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は北海道大学保健科学研究院の倫理委員会によって承認された。被験者には事前に実験内容を説明し同意を得た。【結果】肩関節後方関節包厚は、後期コッキング肢位における上腕骨頭上方移動と有意な相関を示した(r=-.773, p<.05)。また、外旋差のみが後方関節包厚(r=.831, p<.05)および上腕骨頭上方移動(r=-.767, p<.05)と有意な相関を示した。【考察】本研究は、in vivoにて、後方関節包拘縮が後期コッキング肢位での上腕骨頭上方移動と関連することを示し、過去のin vitro研究の結果と一致する。また本研究結果は、後方関節包拘縮が肩関節外転位での外旋可動域の増加を導くとしたBurkhartらの概念を支持する。野球選手における後方関節包厚の増加や肩関節外旋可動域の増加が、後期コッキング肢位における上腕骨頭上方移動を導き、投球障害の発生に影響を与える可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は、後方関節包拘縮が後期コッキング肢位での上腕骨頭上方移動に影響を与えることをin vivoにて明らかにした。また本研究は、これまで投球障害肩に対する肩関節内旋可動域制限が注目されてきた一方で、肩関節外旋可動域計測も重要な評価項目であることを示唆した。
  • ~年齢における対立筋群の機能の差について~
    栗田 健, 高木 峰子, 木元 貴之, 小野 元揮, 吉田 典史, 中西 理沙子, 山﨑 哲也
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】われわれは過去に投球障害肘患者(以下肘群)と投球障害肩患者(以下肩群)において手内筋である母指・小指対立筋(以下対立筋群)の機能不全について検討をしたところ,肘群が肩群より有意に機能不全を認めた.さらに対立筋群機能不全を多く認めた肘群において, 非投球側に対立筋群の機能不全がある場合,投球側にも機能不全を認めた.また,この対立筋群の機能不全は,筋や骨などの成長が関与している可能性が考えられた.そのため,今回は年齢により対立筋群に機能不全の差が認められるのかどうかを検討したので報告する.【方法】対象は投球障害で当院を受診した45名の投球側45手とし,他関節の障害の合併や既往,神経障害および手術歴を有する症例は除外した.性別は全例男性で,年齢によりA群10歳~12歳,B群13歳~15歳,C群16歳~18歳の3群に分けた.評価項目は,投球時のボールリリースの肢位を想定した対立筋群テストとし,座位にて肩関節屈曲90°位にて肘伸展位・手関節背屈位を保持して指腹同士が接するか否かを観察した.徒手筋力検査法の3を基準とし,指腹同士が接すれば可,IP関節屈曲するなど代償動作の出現や指の側面での接触は機能不全とした.なお統計学的解析には多重比較検定を用い,3群間に対し各々カイ二乗検定を行い,Bonferroniの不等式を用いて有意水準5%未満として有意差を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対し本研究の目的を説明し同意の得られた方のデータを対象とし,当院倫理規定に基づき個人が特定されないよう匿名化にてデータを使用した.【結果】各群の人数は,A群9名,B群17名,C群19名であった.また,機能不全の発生率はA群33.3%,B群52.9%,C群47.3%であり,各群間のカイ二乗検定では,A群×B群(p=0.34)A群×C群(p=0.48)B群×C群(p=0.738)となり,すべての群間において有意差は認められなかった.【考察】一般的なボールの把持は,ボール上部を支えるために示指・中指を使い,下部を支えるために母指・環指・小指を使用している.手内筋である母指・小指対立筋は,ボールを下部より効率よく支持するために必要である.ボールの把持を手外筋群によって行うと,手関節の動きの制限や筋の起始部である上腕骨内側上顆に負担がかかることが示唆される.過去の報告から投球障害における母指・小指対立筋機能不全は投球障害肘群に多く認めることが分かっている.しかし手指の対立動作は骨の成長による影響や運動発達による影響など,年齢による影響がある可能性もあり,機能不全発生の機序までは断定できなかった.本研究の結果から,対立筋群の機能不全は年齢間差が無いことから,年齢を重ねることで機能不全が改善する可能性は否定的な結果であった.また同様に年齢を重ねることで対立筋群の機能不全が増えるわけでもなく,どの年代においても一定の割合で発生している事がわかった。この事から対立筋群の機能不全は骨の成長による影響や運動発達など成長による影響ではなく,癖や元々の巧緻性の低下などその他の要素によって発生していることが示唆された.以上により手内筋による正しい対立機能を用いたボールの把持できなければ投球動作を繰り返す中で肘の障害が発生する可能性が示唆された.その為、投球障害肘の症例に対してリハビリテーションを行う場合には,従来から言われている投球フォームの改善のみではなく遠位からの影響を考慮して,母指・小指対立筋機能不全の確認と機能改善が重要と考えられた.また障害予防の点においても,投球動作を覚える段階で手指対立機能の獲得とボールの持ち方などの指導が必要であることも示唆される.【理学療法学研究としての意義】本研究では対立筋群の機能不全は年齢による影響はないと示唆された.また過去の研究より投球障害肘の身体機能の中で手内筋である母指・小指対立筋に機能不全を多く有することが分かっている.投球障害を治療する際には、対立筋群の機能に着目することが重要と考える.また今回設定した評価方法は簡便であり,障害予防の観点からも競技の指導者や本人により試みることで早期にリスクを発見できる可能性も示唆された.
  • 芝 俊紀, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 篠原 博, 笹代 純平, 國田 泰弘, 河野 愛史, 松浦 由生子
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 投球動作のwind-up相での,骨盤後傾や非投球側への過度の体幹側屈といった不良姿勢は,以降の相でのスムーズな運動連鎖を阻害し,投球障害を引き起こしやすいといわれている(筒井ら,2004).これに対して,片脚立位の安定性を高める練習が推奨されている(House,1994).実際に,健常男性より野球選手の方が,片脚立位バランス能力(以下,バランス能力)が高いという報告がある(伊藤ら,2011).さらに,wind-up相での挙上側股関節屈曲角度(以下,屈曲角度)の増加が,以降の相への並進運動の位置エネルギーを増加させる利点があるとされている(西川ら,1992).よって,屈曲角度を増加させた状態で高いバランス能力を有することは,投球動作を向上させるうえで重要であると考える.本研究は足圧中心(center of pressure;COP)の偏移量をバランス能力の指標とし,屈曲角度の違いによるバランス能力の変化を確認することを目的とした.仮説として,投手はwind-up姿勢でのバランス能力が高く,屈曲角度を増加させてもバランス能力に変化はみられないとした.【方法】 対象は,下肢に整形外科疾患の既往のない投手12名(年齢20.7±1.0歳)をP群,野球経験がなく運動習慣のない健常男性12名(年齢20.7±0.8歳)をC群とした.COPの測定は,平衡機能計(ユニメック社)を使用した.片脚立位は,3m前方(捕手方向)の一点を注視させ,軸脚(右投げは右脚,左投げは左脚)で実施した.測定者が安定していると判断した時点から,10秒間の計測を各条件で3回ずつ行った.屈曲角度は,P群が投球時の角度(以下,通常)と最大屈曲時(以下,最終域)の2課題とした.C群は,P群の通常角度を参考に屈曲角度90°の1課題とした.単位軌跡長,前後方向単位軌跡長,左右方向単位軌跡長の平均値を求めた.マーカーを対象の挙上側の肩峰,大転子,大腿骨外側上顆に貼付し,デジタルカメラ(SONY社)で撮影した.撮影した動画から,画像処理ソフト(Image J)を用いそれぞれの屈曲角度を確認した.統計処理は,SPSS (IBM社)を使用した.P群の通常とC群の屈曲角度90°の比較には対応のないt検定を,P群での屈曲角度の違いによる比較には対応のあるt検定を用いた.いずれも危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象には本研究の趣旨について十分な説明を行い,書面で同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1224).【結果】 P群では,屈曲角度が通常で91.3±7.4°,最終域で109.5±7.9°となった.単位軌跡長は通常で60.8±6.6mm/s,最終域で72.3±8.0mm/sであり,前後方向単位軌跡長は通常で37.9±4.8mm/s,最終域で46.3±6.9mm/s,左右方向単位軌跡長は通常で39.8±4.3mm/s,最終域で46.2±4.0mm/sであった.C群では,単位軌跡長が72.4±7.9mm/s,前後方向単位軌跡長は46.7±5.3mm/s,左右方向単位軌跡長は46.8±5.7mm/sになった.P群の通常は,C群およびP群の最終域よりも全ての項目で有意に小さかった(p<0.01).【考察】 本研究より,P群はC群よりも股関節屈曲90°付近で約14~20%COP偏移量が小さく,伊藤ら(2011)の報告と同様に,健常男性より投手のバランス能力が優れていることが示された.これは,wind-up相での高いバランス能力が投球動作で必要であることを反映していると考える.しかし,P群では屈曲角度のさらなる増加によって,約15~22%COP偏移量が増加することが確認された.このことは,屈曲角度を増加させた状態を保持することが,バランス能力の高いP群でも困難になったためと考える.したがって,屈曲角度を増加させ,それを維持するようなバランス検査が,投手のバランス能力の高さをより顕著に反映する可能性がある.このことから,屈曲角度を増加させた状態でのバランス検査が,投手に対する評価法,またはトレーニングとして提案できるのではないかと考える.今後は屈曲角度を増加させた時のバランス能力と,実際の投球動作や制球力などのパフォーマンス,投球障害との関係を調べる必要がある.【理学療法学研究としての意義】 本研究より,高いバランス能力が必要とされる投手でも,股関節屈曲角度を増加させた状態を保持すると,バランス能力が低下することが示された.よって,今回の片脚立位の測定方法が,投手のバランス能力を反映する検査として有用となる可能性がある.
  • 木下 一雄, 中島 卓三, 吉田 啓晃, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々はこれまで後方進入法による人工股関節全置換術(以下THA)後早期(退院時)における靴下着脱動作に関与する因子の検討を行ってきた。そこで本研究においてはTHA後5か月における靴下着脱動作の可否に関与する股関節の可動域を検討し、術前後の各時期における具体的な目標値を提示することを目的とした。【方法】対象は2010年の4月から2012年3月までに本学附属病院にてTHAを施行した110例116股(男性23例、女性87例 平均年齢60.9±10.8歳)で、膝あるいは足関節可動域が日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が定める参考関節可動域に満たない症例は除外した。疾患の内訳は変形性股関節症85股、大腿骨頭壊死31股である。調査項目は術前、退院時(術後平均22.7±7.0日)、術後2か月時、術後5か月時の股関節屈曲、外旋、外転可動域、踵引き寄せ距離(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100)と術後5か月時の端座位での開排法による靴下着脱の可否をカルテより後方視的に収集した。靴下着脱可否の条件は端座位にて背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし、それ以外のものを不可能とした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いて目的変数を術後5か月時における靴下着脱の可否とし、説明変数を各時期における股関節屈曲、外旋、外転可動域、踵引き寄せ距離とした。有意水準はいずれも危険率5%未満とし、有意性が認められた因子に関してROC曲線を用いて目標値を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した。また本研究は当大学倫理審査委員会の承認を受けて施行し、患者への説明と同意を得た上で測定を行った。【結果】 術後5か月時の靴下着脱の可否は可能群103股、不可能群は13股であった。術後5か月時の靴下着脱の可否に関与する因子として、術前では股関節外旋と踵引き寄せ距離が抽出され、外旋のオッズ比(95%信頼区間)は1.124(1.037-1.219)、踵引き寄せ距離は1.045(1.000-1.092)、判別的中率は93.1%であった。それぞれの目標値、感度、特異度、曲線下面積は、外旋では25°、76.7%、92.3%、0.912で、踵引き寄せ距離は40.4%、84.5%、76.9%、0.856であった。退院時、術後2か月時、術後5か月時においては踵引き寄せ距離が因子として抽出され、退院時のオッズ比(95%信頼区間)、判別的中率は1.054(1.012-1.097)、91.4%、術後2か月時は1.092(1.008-1.183)、89.6%、術後5か月時は1.094(1.007-1.189)、91.3%であった。各時期の目標値、感度、特異度、曲線下面積は、退院時では40.4%、88.3%、61.5%、0.814であり、術後2か月時は50.0%、93.2%、61.5%、0.842で、術後5か月時では61.0%、80.1%、92.3%、0.892であった。【考察】我々の靴下着脱動作に関する先行研究は、術後早期における長座位での靴下着脱動作に関与する因子の検討であった。退院後の生活環境やリハビリ継続期間を考慮すると、実用性のある端座位での靴下着脱動作を継続期間中に獲得するための機能的因子を明確にすることが必要であった。先行研究では術前に靴下着脱が困難なものが退院時に着脱可能となるには外旋可動域が必要であった。今回の結果からも術前では股関節の変形により可動域制限がある場合でも股関節の外旋により代償して靴下着脱が可能となることが術後5か月の着脱動作能力に必要であると考えられる。また、術後5か月の靴下着脱を可能とするための機能的な改善目標として踵引き寄せ距離が抽出された。臨床的に術後の股関節可動域は概ね改善するが、疼痛や習慣的な動作姿勢の影響により改善経過は多様である。また、靴下着脱動作は股関節から足関節までの下肢全体を使った複合関節による動作である。このことから術後では単一方向の可動域を目標とするだけではなく、総合的、複合的な可動域の改善目標により着脱能力の獲得を目指すべきであると考える。具体的には術後2か月までに対側の膝蓋骨上まで踵を引き寄せられることが望ましいと考える。今後は踵引き寄せ距離に影響する軟部組織の柔軟性や疼痛の評価を行い、踵引き寄せ距離を改善するためのアプローチに関しても検討していきたい。\t【理学療法学研究としての意義】本研究により各時期の具体的な目標値が明確になり、術後5か月時までの経時的な改善指標となり得る。これにより術前後の患者指導の効率化や質の向上が図られると考える。
  • ShearWave Elastographyを用いての検討
    永井 教生, 福吉 正樹, 小野 哲矢, 杉本 勝正, 山本 昌樹, 中野 隆, 浅本 憲, 林 典雄
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 上腕筋は肘関節前面に広く存在し、前方関節包とは結合組織を介し連結している。諸家により上腕筋の瘢痕化を肘関節屈曲拘縮の主因と指摘する報告は多い。臨床において上腕筋の伸張性低下や硬さは主観的に評価されており、目の前にいる屈曲拘縮症例の伸展制限の原因が本当に上腕筋であるか否かの評価基準は曖昧と言わざるを得ない。本研究の目的は健常群と軟部組織性の屈曲拘縮群を対象に、最終伸展域における上腕筋弾性の特徴を定量的に評価することである。【方法】 対象は、肘関節に障害のない成人14名28肘(23~39歳、平均29.8±6.5歳)を健常群ならびに軟部組織性の屈曲拘縮症例9名18肘(13~26歳、平均15.4±3.7歳) を拘縮群とした。弾性計測は健常群の利き手と非利き手、拘縮群の患側(全て利き手)と健側で行った。拘縮群の患側の最大伸展角度はすべて-5°の者を抽出した。計測肢位は、前腕回内外中間位で屈曲30°、20°、10°、0°の計4肢位(A)~(D)を計測し、拘縮群患側の(D)は-5°とした。また、拘縮群健側の(D)´は0°で計測した。弾性の計測には、定量的計測が可能なShearWave Elastgraphy(Super Sonic Imagine社製超音波診断装置AIXPLORER Multi Wave)にて、プローブはSuperLinear15-4を用いた。弾性はkPa単位の弾性率で算出され、5回計測した平均値を採用した。プローブは上腕の腹側より上腕骨長軸上で走査し、計測部位は上腕遠位1/3(以下、近位部)と上腕骨滑車内側面(以下、遠位部)上の2部位とした。各群における左右差および健患差の比較には2元配置分散分析と多重比較を行い有意水準は5%以下とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】 健常群と拘縮群ともに肘関節伸展に伴い上腕筋の弾性率は有意に漸増していた。健常群の利き手の近位部は(A)52.0±15.6 kPa、(B)52.9±20.1 kPa、(C)59.5±16.4 kPa、(D)79.0±25.3 kPa、遠位部は(A)77.5±23.6 kPa、(B)93.5±44.9 kPa、(C)118.3±55.0 kPa、(D)169.3±75.4 kPaであり、利き手と非利き手との間に有意差は認められなかった。一方、拘縮群の患側の近位部は(A)44.6±10.9kPa、(B)54.3±17.8kPa、(C)61.5±24.5kPa、(D)92.4±39.5kPa、遠位部は(A)65.9±21.8kPa、(B)88.6±29.7kPa、(C)112.1±49.2kPa、(D)205.1±73.5kPa、健側の近位部は(A)43.6±12.1kPa、(B)47.8±11.4kPa、(C)52.7±12.3kPa、(D)62.6±14.0kPa、(D)´72.6±18.5kPa、遠位部は(A)59.8±18.3kPa、(B)70.9±12.8kPa、(C)82.3±19.4kPa、(D)109.3±29.0kPa、(D)´136.4±48.8kPaであった。拘縮群では近位部、遠位部ともに(D)において患側と健側との間で有意差が認められた(P<0.05、P<0.01)。【考察】 弾性率が大きいことはその組織が変形しにくいことを意味し、硬さを反映することになる。健常群の結果より近位部と遠位部ともに全ての角度で左右差がないことから、拘縮という病態がなければ上腕筋の弾性率に左右差は生じない。これに対し拘縮群では、1)患側の近位部・遠位部とも最終伸展になるにしたがい急激に漸増すること、2)患側の伸展-5°の弾性率は、健側の0°よりも大きいことから、臨床上難渋する最終伸展域の制限因子として上腕筋の硬さが関与することが示唆された。また、同じ伸展制限でも組織弾性の評価において上腕筋の硬さがない場合では、その他の組織を念頭に対処する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 臨床において上腕筋の伸張性低下が拘縮の原因であるかの評価基準は曖昧であることから、肘頭の骨棘切除術の安易な選択あるいは無意味な保存療法の継続または断念など闇雲に治療方針が決定されることは少なくない。このような観点から軟部組織性拘縮の主因である上腕筋が伸展制限因子か否かの判断を定量的かつ明確に行うことは意義がある。
  • 立ち上がり速度をアウトカムとした1年間の縦断研究
    天野 徹哉, 玉利 光太郎, 浅井 友詞, 河村 顕治
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 運動機能障害が起こると活動制限や転倒リスクが高まり,要支援・要介護状態に陥る可能性がある。そのため,保存療法を実施している変形性膝関節症(膝OA)患者に対する理学療法では,転倒予防や活動制限からの脱却が重要な目標の1つである。しかし,治療にもかかわらず,転倒予防や活動制限からの脱却が期待できない症例も少なからず存在しているのも事実である。したがって,それらの症例を早期に把握することによって,理学療法の妥当性や透明性を客観的に示すための根拠を提示できると考える。本研究の目的は,膝OA患者の基本属性・医学的属性・身体機能および立ち上がり速度を調査・測定し,1年後に運動機能障害が存在する状態を予測するClinical Prediction Rule(臨床予測モデル)を抽出することである。【方法】 対象はM病院整形外科で膝OAと診断され,保存療法を実施している外来患者のうち,下記の取り込み基準を満たし協力が得られた40名(男性10名,女性30名,年齢74.2±7.5歳)であった。取り込み基準は,上肢支持なしで椅子からの立ち上がりが可能な者とした。なお,本研究対象者は,すべて内側型膝OA患者であった。研究デザインは前向きコホート研究で,ベースライン調査として基本属性である性別・年齢・身長・体重の4項目,医学的属性である障害側(両側性または片側性)・非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)使用の有無・関節内注射の有無・関節穿刺排液の有無の4項目,身体機能である膝伸展筋力・膝屈曲筋力・大腿四頭筋に対するハムストリングの筋力比(H/Q比)・疼痛(VAS)・膝関節伸展可動域・膝関節屈曲可動域の6項目の調査および測定を行った。さらに追跡調査として,ベースライン調査から約1年後の5回立ち上がりテスト(TCS-5)の測定を行った。統計解析は,TCS-5が8.3秒以上の者を高運動機能障害群,8.3秒未満の者を低運動機能障害群として分け,2群の身体機能の比較を行った。また,身体機能とTCS-5とのROC曲線分析を行い,カットオフ値を算出した。さらに,TCS-5をアウトカムとしたロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析によって抽出された変数の偏回帰係数(PRC)を基に,標準偏回帰係数(SPRC)を算出し,アウトカムへの影響度を重み付けしたうえで各身体機能を得点化した尺度(運動機能障害予測スケール)の合計得点とTCS-5とのROC曲線分析を行い,特性を算出した。統計ソフトはSPSS Statistics 19を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究は倫理委員会の承認(承認番号:08-14)を得て実施し,対象者には書面および口頭にて本研究の説明を行い,同意を得た。【結果】 低運動機能障害群と比較して,高運動機能障害群では膝伸展筋力と膝屈曲筋力が有意に弱く,VASが有意に強かった。また,1年後に運動機能障害が存在する可能性が高い症例のカットオフ値は,膝伸展筋力30.9%以下,膝屈曲筋力19.2%以下,VAS 0.7点以上であった。さらに,検査前確率を40名中22名が高運動機能障害群であったことを踏まえて55.0%とすると,運動機能障害予測スケールの合計得点が2点の時の陽性尤度比(LR+)は5.7,検査後確率は87.5%,3点の時のLR+は9.0,検査後確率は91.7%であり,合計得点が高くなるに従い上昇した。【考察】 本研究の結果より,膝伸展筋力と膝屈曲筋力およびVASの検査結果の組み合わせにより,1年後に運動機能障害が存在する確率を高い精度で予測できることが示唆された。すなわち,3つの検査から構成される臨床予測モデルのうち,膝伸展筋力30.9%以下,膝屈曲筋力19.2%以下,VAS 0.7点以上であった場合,LR+が9.0となり一定の判別能力を有するため,転倒予防や活動制限からの脱却が期待できない症例を把握することができる可能性がある。本研究の限界として,アウトカムを追跡調査時の立ち上がり速度としたため,治療効果については言及できないことが挙げられる。さらに,本研究はシングルアームであるため,抽出された臨床予測モデルが治療成績の予測因子なのか,そうでないのかを判別できないことが挙げられる。今後の課題として,臨床予測モデルの妥当性の検証や臨床予測モデルを活用した治療成績の比較について検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,適切な臨床推論・理学療法診断に基づく治療を推進していくための一手法として,理学療法士が検査可能な身体機能の検査結果を用いて,運動機能障害を予測する臨床予測モデルを抽出することができた点に意義があると考える。さらに,本研究で抽出された臨床予測モデルを活用することによって,治療成績や医療費削減への影響を検討できるため,理学療法学の構築に寄与できると考える。
  • 早期からの予後予測を目的とした検討
    対馬 栄輝
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】高齢な大腿骨近位部骨折(大腿骨骨折)患者の退院時日常生活活動(ADL)に対し,入院後比較的早期に入手可能な情報をもとにした影響要因を検討した.その構造は交絡因子も存在し複雑であるため,適切な多変量解析による検討が必要である.そこで,高齢な大腿骨骨折患者の退院時ADLに影響する要因について,データの尺度や母集団分布を仮定しない累積ロジスティック回帰分析を用いて検討した.【方法】対象は,一般病院に入院して手術療法を受け,理学療法を施行された大腿骨骨折患者140名(女性119名)とした.平均年齢は80.2±7.5歳(範囲60歳~95歳),平均入院日数は56.2±21.8日であった. 対象者について,年齢,受傷機転(屋内・屋外),キーパーソンへの聞き取りによる受傷前ADL(Katz’s index[KI]),受傷前の移動機能(移乗可能~屋外歩行で5段階評価),身体機能へ影響すると思われる合併症の数・種類(大腿骨骨折以外の整形外科疾患,中枢神経疾患,循環器系疾患,呼吸器系疾患),術式,入院から手術・理学療法(PT)開始・立位・歩行練習開始までの日数,立位・歩行開始時の知能(CDR)などを評価した.また,退院時ADLについては,退院日前1週間にKIを用いて評価した.なお,これら全ての評価は1名の理学療法士が行った. 退院時ADLに影響する要因を抽出するため,退院時のKI(7段階の順序尺度)を従属変数,その他全ての評価項目を独立変数として,尤度比検定による変数増減法の累積ロジスティック回帰分析を適用した.次に,受傷前のKIがA(全自立)またはB(入浴以外自立)の者のみ99名(平均年齢79.4±8.0歳;女性85名)を対象とし,退院時ADL低下の程度を従属変数,その他全ての評価項目を独立変数とした累積ロジスティック回帰分析による解析を行った.統計的解析には,R2.8.1(CRAN)ならびにSPSS 20.0(日本IBM)を使用した(有意水準5%).【倫理的配慮、説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った.評価項目は日常診療で必要な情報であり,観察研究であるがゆえに実験的介入はない.しかし,対象者または家族に対して,研究目的・方法を十分説明した後,同意書を作成した.【結果】KIによる対象者の受傷前ADLは,Aが79名,Bが20名,CとDが8名,Eが11名,Fが8名,Gが6名であった.また,退院時ADLはAが27名,Bが37名,Cが8名,Dが5名,Eが8名,Fが36名,Gが19名であった.受傷前と退院時ADLの連関はクラメールのV係数で0.43であった(p<0.01).入院から荷重練習開始までは平均11.1±10.6日(中央値8日)であった. 退院時ADLに影響する要因はCDR(標準化したえオッズ比4.07),受傷前の移動機能(2.63),年齢(1.93),受傷前の排泄コントロール(1.72)であった(modelχ²検定p<0.01;判別的中率50.4%).Wald検定では,全ての独立変数がp<0.01であった.  受傷前のKIがAまたはBの者のみを対象としたADL低下の程度に影響する要因も,ほぼ上述と同様で,CDR(標準化オッズ比2.85),年齢(2.73),脳卒中の有無・下肢障害の程度(1.63),受傷前の移動機能(1.46),術翌日から立位・歩行練習開始(1.44)であった(modelχ²検定p<0.01;判別的中率51.5%).各独立変数のWald検定では,受傷前の移動機能と術翌日から荷重練習開始が有意ではなく,脳卒中の有無・下肢障害の程度がp<0.05以外はp<0.01であった.【考察】退院時ADLと受傷前ADLの連関係数はさほど大きくなく,受傷前ADLのみを参考として退院時ADLを予測するのは不十分である.解析の結果,退院時ADLには知能の程度や年齢が大きく影響した.これは予想通りの結果だったが,各々の要因を単独に解釈するのではなく,複数要因を組み合わせて判断しなければならない.つまり知能が低下していても,比較的に受傷前の移動機能は良好で年齢も低ければ,予後不良とは限らない.また,受傷前の排泄コントロールの状態も有効な予後判定の基準となる. 受傷前ADLが,ほぼ自立していた者に限っても同様の結果となったが,特に脳卒中による運動麻痺を伴う症例では注意が必要であるということと,手術後早期から立位・歩行練習を行えることが重要となる. また,何れの解析においても判別的中率は良いといいきれないため,PTによる効果やケース毎に配慮すべき要因を再検討することが必要である.【理学療法学研究としての意義】大腿骨骨折患者の機能的予後予測は単純ではない.従って,複雑な統計解析から得られた結果をもとに,適切な解釈・判断が必要となる.また,その判断基準を客観的かつ明確にすることによって,理学療法方針のための有効な情報としていかなければならない.
  • クラスター分析による検討
    小山 優美子, 建内 宏重, 後藤 優育, 大塚 直輝, 小林 政史, 市橋 則明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)は中高年者の運動器疾患の中でも特に有病率の高いものであり,保存的治療として理学療法士による介入が行われることは多い.理学療法評価において歩行分析はよく行われ,得られた歩行の特徴より導き出された運動機能の問題点は,治療プログラムを決定する上で有用な情報となる.また,膝OA患者と健常者との歩容の相違や重症度と歩容の関連はこれまでに多数報告されている.しかし,膝OA患者の歩行パターンを定量的に分類し,その特徴毎に運動機能評価を行った報告はない. そこで,本研究の第一の目的を膝OA患者の歩容パターンを関節運動によって分類することとし,第二に歩行パターンの異なる群間で変形の程度,症状,運動機能の違いを検討することとした.【方法】対象は内側型変形性膝関節症と診断された地域在住の女性30名(62.9±7.0歳,身長154.8±5.4cm,体重55.8±6.4kg)とした.対象者が両側性の膝OAと診断されている場合はより疼痛の強い方を測定下肢とした.診断時に撮影されたX線画像より大腿骨軸と脛骨軸とのなす内側の角度(FTA)及びKellgren-Lawrence分類による重症度の評価を行った.さらに, JKOM(日本版変形性膝関節症患者機能評価表)を使用し疼痛やADL能力の評価を行った.JKOMの項目1「痛みの程度」はVASとして算出した. 動作課題は快適歩行とし,3回の測定を行った.計測には三次元動作解析装置VICON NEXUS及び床反力計を使用し,被験者には全身35箇所に反射マーカーを貼付した.踵接地時の膝関節角度,歩行周期の0~20%における膝関節最大屈曲角度及び屈曲角度変化量,歩行周期の20~50%での膝関節最大伸展角度及び伸展角度変化量,遊脚期の最大膝屈曲角度をそれぞれ算出し,3試行の平均値を角度パラメータとして解析に用いた.角度パラメータと同様にして立脚初期における膝内反モーメントの最大値も算出した. 歩行パターンの分類のために各被験者の角度パラメータを変数とする階層的クラスター分析を行った.被験者間の非類似度はユークリッド平方距離により算出し,クラスター間の非類似度の定義にはward’s法を用いた.分類を行った後に,FTA,重症度,JKOMスコア,VAS,歩行時の膝内反モーメント最大値をそれぞれ群間で比較した.正規性の確認された変数の比較にはTukey検定用いた.正規性の確認されなかった変数についてはMann-whitneyのU検定を行い,p値をHolm法によって補正した.また重症度の比較にはカイ自乗検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の主旨について説明の上,書面での同意を得た.【結果】 クラスター分析の結果,30名の歩容パターンは3つの群に分割された(A群=8名,B群=11名,C群=11名).3群で重症度,VAS,JKOMスコア,FTAに統計学的有意差は確認されなかった.また,歩行時の膝内反モーメントの最大値にも差は見られなかった.角度パラメータを群間で比較した結果,踵接地時の膝屈曲角度はC群が他の2群と比較して大きく,歩行周期の0~20%における膝最大屈曲角度はC群,A群,B群の順に大きく,屈曲角度変化量はB群が他の2群と比較して小さかった.また,歩行周期の20~50%での膝最大伸展角度はC群が他の2群より大きく,伸展角度変化量はB群が他の2群と比較して小さかった.遊脚期の膝屈曲角度はA群が他の2群と比較して大きい結果となった.【考察】 本研究では症状や重症度を反映すると言われている歩行時の膝関節運動を,比較的観察しやすい矢状面から分析することを試みた.分類に使用した角度パラメータの比較結果より,歩行周期全体で膝の屈伸運動が比較的十分な群(A群),立脚期での膝屈伸変化量の少ない群(B群),接地時より膝が屈曲している群(C群)の3群に分類された.3群の間で疼痛や内反変形の程度,ADL機能に差が見られなかったことから,膝OA患者の歩行分析において3つの膝関節運動パターンが観察でき、異なるパターンであっても膝関節機能は同程度に障害されている可能性が考えられた.また,これらの群で矢状面での膝関節運動が異なるにもかかわらず,膝内反モーメントに差が見られないことから,歩行時の膝内反ストレスを誘発する原因は3つの歩行パターン毎に異なっている可能性が示唆された.今後,他の関節の運動や筋活動などを包括的に分析し,膝関節の力学的負荷に影響する因子を検討する必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 先行研究にて膝OA患者の歩行特性は数多く報告されているが,歩行パターンにより膝OA患者を分類した研究はこれまでにない.本研究結果より,症状や内反変形の程度に依らず歩行時の膝屈伸運動が変化し,歩容の異なる患者間では歩行時の力学的負荷に影響する因子が異なっている可能性が示唆された.今後詳細な検討を行うことにより,膝OA患者の評価を行う際に有用な知見となると考える.
  • 山口 良太, 中村 瑠美, 藤代 高明, 林 申也, 神崎 至幸, 橋本 慎吾, 酒井 良忠
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: THA)は手術方法や手術器材の進歩により術後在院日数(以下、在院日数)の短縮が著しく、術後2週間のクリニカルパスを導入する医療機関が増加している。しかし、大学病院におけるTHA患者では、他の医療機関において高齢や併存疾患によるリスクを指摘された場合や再置換術症例であるなど、在院日数を単純に短縮できない要因が多く存在する。そこで、当院において過去に再置換術を含むTHAを施行された患者における診療録を後方視的に調査し、術後在院日数に影響を与える要因について多変量解析を用いて抽出した。さらに、抽出された項目をデータマイニング手法の一種であるディシジョンツリー分析を用いて術後在院日数予測モデルを構築することを目的とした。【方法】 対象は当院において2009年4月から2012年9月までに再置換術を含むTHAを施行された患者女性122名、男32名の計154名(平均年齢67歳)、173股とした。この内、在院日数が100日を超えた2名2股および在院中に死亡した2名2股を調査から除外した。調査方法は、電子診療録を使用して術前から採取可能な以下の項目および術後在院日数を後方視的に調査した。一般情報として性別、年齢、身長、体重、同居人、職業の有無、術前歩行様式、医学的情報として診断名、THA回数、併存疾患数、術側および非術側の日本整形外科学会股関節機能判定基準点数(JOA score)および術前ヘモグロビン値とした。これらの項目を説明変数とし、従属変数に術後在院日数を投入した多変量解析(ステップワイズ法)を行い、術後在院日数に影響を与える項目を抽出した。さらに抽出された項目を説明変数、術後在院日数を従属変数としてChi-squared Automatic Interaction Detection (CHAID)アルゴリズムに基づいたディシジョンツリーを作成し、算出された予測在院日数を23日以内(3週パス)、24~30日(4週パス)、31~37日(5週パス)、38日(6週以上)の4グループに分類した。すべての統計解析はSAS Institute Japan社製jmp7を使用し、統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究は後方視的研究であり、全ての患者からの同意が得られないため神戸大学医学倫理委員会の指針および臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)に則り、診療録から得られた個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず、匿名化したデータベースにして解析を行った。【結果】 全対象患者の術後在院日数の中央値は33日であった。多変量解析の結果、術後在院日数に影響を与える項目として手術回数(初回、再置換の2値)、年齢、術前歩行様式(独歩可とT字杖歩行可をgood、両松葉や老人車などをpoorとした2値)、非術側JOA score、併存疾患数の5項目が抽出された。これらの項目をCHAIDアルゴリズムに投入して作成されたディシジョンツリーを、矢印を用いて以下に記載する。最上位は”手術回数”であり、”初回手術”と”再置換”に二分された。3週パス達成モデルは、”初回手術”→”47歳以下”の1モデル(予測在院日数23.3日)のみであった。4週パス達成モデルは、”初回手術”→”47歳以上”→“歩行good”→“非術側JOA score68点以上”→“併存疾患数4以下”のモデル(予測在院日数29.6日)と”初回手術”→”47歳以上”→“歩行good”→“非術側JOA score68点以上”→“併存疾患数4以上”→” 63歳以下” (予測在院日数29.8日)の2モデルであった。同様に5週パス達成モデルは、”初回手術”以下で6モデル、”再置換”以下では1モデルのみであった。6週以上は、”初回手術”以下で2モデル、”再置換”以下で2モデルであった。【考察】 CHAIDアルゴリズムに基づくディシジョンツリー分析はデータマイニング手法の一種であり、従属変数の予測モデルを視覚的に理解しやすい利点があるとされている。本研究ではCHAIDアルゴリズムにより導かれた予測モデルを4つのグループに分類した。予測モデルでもっとも多く分類されたのは5週パスであり、術後在院日数の中央値が33日であることから妥当な結果であったと考えられる。ディシジョンツリー最上位は”手術回数”、その下位ノードには”年齢” ”歩行様式”と続いており、これらの結果は臨床における印象と一致していた。その他には”非術側JOA score”が選択されたことから、非術側の股関節機能が保たれていることが術後在院日数の短縮に寄与すると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は、術前の患者情報から術後在院日数をグループに分けたモデル化を可能にするものであり、理学療法プログラムの実施やクリニカルパス作成および運用などに寄与できると考えられる。また、本研究で用いたデータマイニング手法を用いることで他の疾患や臨床症状などにも応用可能であることから、本研究の方法自体が理学療法学研究に寄与し得ると考える。
  • 建内 宏重, 塚越 累, 福元 喜啓, 黒田 隆, 宗 和隆, 秋山 治彦, 市橋 則明
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】変形性股関節症(以下、股OA)は、関節可動域制限や疼痛、筋力低下を生じるため、歩行動作に著しい障害を認める。従来、股OA患者の動作特性を調べるために直線歩行が研究対象となり、健常者に比べ股関節角度やモーメントが低下していることが多く報告されている。しかし、日常的な移動動作としては、直線歩行ばかりでなく歩きながら方向転換する動作が多用されていると思われる。その上、方向転換歩行は直線歩行よりも股関節に複雑な動きが要求されるため、患者の代償的な動作特性がより顕著に現れる可能性がある。しかし、そのような観点からの調査は皆無である。本研究の目的は、方向転換歩行を詳細に分析することにより股OA患者の動作特性を明らかにすることである。【方法】対象は、股OAの女性患者14名(年齢59.3±5.3歳)と健常女性13名(年齢62.6±4.4歳)とした。股OA患者の病期は全て末期であり、Harris hip scoreは61.1±10.5点であった。課題は、直線歩行と直線歩行の途中で左45°および右45°へ方向転換を行う歩行の3種類とし、各3試行を記録した。方向転換歩行について、健常者は、非利き脚を支持側とし利き脚を外側に踏み出す動作(ステップ)と利き脚を支持脚側に踏み出す動作(クロス)とし、患者は、患側を支持脚とし反対脚を外側に踏み出す動作(ステップ)と患側に踏み出す動作(クロス)とした。歩行速度は、患者は自由歩行とし、健常者は自由歩行とともに、両群で歩行速度に有意差が出た場合に速度を揃えて歩行パラメータの比較分析を行うため速度を遅くした動作の測定も行った。測定には、3次元動作解析装置(VICON 社製:200Hz)と床反力計(Kistler社製:1000Hz)を用いた。各動作時の歩行速度、および股屈伸・内外転、膝屈伸、足底背屈の関節角度と内的関節モーメントを算出した。関節角度と関節モーメントは、支持脚側の下肢(健常者は非利き脚、患者は患側)を対象とし、歩行周期における最大値を求めた。なお、足底屈モーメントについては、立脚期の前半・後半それぞれの最大値を求めた。関節モーメントは、体重と下肢長の積により標準化した。各動作について3試行の平均値を解析に用いた。統計解析として、まず、健常者と患者との間で各動作の歩行速度の差を検定した(対応のないt検定)。有意差があった場合は、健常者のなかで歩行速度が速い者から順に遅い歩行動作を対象として、歩行速度に有意差がなくなった段階で、両群間の関節角度と関節モーメントの比較を行った(対応のないt検定)。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し参加への同意を書面で得た。【結果】歩行速度について、ステップとクロスについては有意差を認めなかったが、直線歩行では患者よりも健常者の歩行速度が有意に速かった。健常者2名について、遅い歩行動作を対象としたところ両群に歩行速度の差がなくなったため、その後に3条件各々での関節角度・モーメントの群間比較を行った。直線歩行では、股屈曲・伸展・内転角度、膝屈曲角度と股伸展・屈曲モーメント、膝屈曲モーメントが、健常者よりも患者で有意に低値を示した。足関節の角度、モーメントには差を認めなかった。ステップでは、股屈曲・伸展・外転角度、股屈曲モーメント、膝屈曲モーメントが患者で有意に低値を示した。また、足底屈モーメント(前半)は患者で高い傾向を示したが有意ではなかった(p = 0.07)。クロスでは、股屈曲・伸展・内転角度、膝屈曲角度と股外転モーメント、膝伸展モーメントが患者で有意に低値を示したが、足底屈モーメント(前半)は患者で有意に高値(25%増)を示した。【考察】股OA患者においては、直線歩行では、股関節の可動範囲や力発揮が減少していることが示され、先行研究と一致した結果を得た。一方、方向転換歩行では、股関節での機能低下を認めるとともに立脚期前半からの足底屈筋による力発揮が健常者よりも強くなる傾向にあることが確認され、方向転換歩行では股関節よりも相対的に足底屈筋へ依存した制御が行われることが明らかとなった。方向転換歩行では股関節に要求される運動が複雑になるため、代償的に用いやすい足底屈筋を作用させ、立脚早期からの前足部での荷重により方向転換を行う傾向にあるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により、直線歩行よりも方向転換歩行のほうが、股OA患者の動作特性がより顕著に現れることが示された。臨床場面においても、直線歩行の観察やその改善のみならず方向転換歩行への着目が重要であることを、本研究は示唆している。
  • ~Craig testを用いて~
    髙橋 真, 三上 紘史, 井所 和康
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】日常生活やスポーツ動作において股関節は運動連鎖の中心的役割を果たしているため、股関節の機能低下は上肢、体幹、下肢障害の原因となりうる。特に股関節内旋可動域の低下は膝関節疾患や投球障害肩などに関与すると諸家により報告されている。臨床では股関節内旋可動域改善を目的とした理学療法を実施するが、内旋可動域は軟部組織だけでなく大腿骨前捻角の評価であるCraig testの測定値(Craig test値)に依存していることを経験する。我々は先行研究において、Craig test値がMRIの大腿骨前捻角度と相関関係があることを報告した。しかし、股関節内旋可動域とCraig test値に関する検討はしていない。そこで、本研究では腹臥位股関節内旋(腹臥位内旋)および背臥位股関節内旋(背臥位内旋)とCraig test値との関連性の検討および腹臥位内旋角度の良好群と不良群の2群間に分け、Craig test値に差があるかを明らかにすることが目的である。【方法】対象は股関節に既往の無い健常男性17名、女性8名の50肢とした(年齢28.3±7.5歳、身長168.1±8.2cm、体重60.4±9.6kg、BMI21.3±2.0)。腹臥位内旋は腹臥位、股関節内外転0°、股関節伸展0°、膝関節屈曲90°とし、背臥位内旋は背臥位、股関節屈曲90°、膝関節屈曲90°にて股関節内旋角度を測定した。Craig testの測定方法について、検者は熟練者であり、Craig test実施者と角度測定者の2名とした。腹臥位内旋と同一肢位とし、大転子が最外側に触れた位置で下腿を固定し、股関節回旋角度を計測した。1肢につきそれぞれ3回ずつ測定し、平均値を求めた。角度の測定には東大式ゴニオメーターを使用し1°単位で記録した。また、腹臥位内旋において正常可動域45°以上の25肢を良好群、45°未満の25肢を不良群とした。統計学的分析において、腹臥位および背臥位内旋とCraig test値との関連性はSpearmanの相関係数を用いて検討した。また、腹臥位内旋の良好群と不良群のCraig test値の比較はMann-Whitney検定を用いて分析した。いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は船橋整形外科病院倫理委員会の承認を得て施行した。尚、各被験者には研究の目的や実験内容などを書面にて説明し、口頭にて同意を得た。【結果】全体の平均値において腹臥位内旋は42.3°±9.2、背臥位内旋は35.0°±8.9、Craig test値は9.9°±2.5であった。腹臥位および背臥位内旋とCraig test値との相関関係はそれぞれr=0.529(p<0.01)、r=0.346(p<0.05)であった。腹臥位内旋良好群のCraig test値は11.3°±2.3、不良群は8.5°±2.2で両群に有意差を認めた(p<0.01)。【考察】股関節内旋と外旋可動域は臼蓋および大腿骨の骨形態が関与し、大腿骨前捻角が過前捻すなわちCraig test値が高いほど内旋可動域も高値を示す。本研究の結果からも、腹臥位および背臥位内旋とCraig test値は正の相関関係を示した。特にCraig test値と関連性が強かったのは背臥位内旋(r=0.346)よりも腹臥位内旋(r=0.529)であった。これは、背臥位内旋が股関節屈曲位であるのに対して、腹臥位内旋は股関節中間位であり、軟部組織の制限を受けなかったため、Craig test値に鋭敏だったと考えられた。また、腹臥位内旋良好群のCraig test値が11.3°に対して不良群は8.5°と有意に低値であり、股関節内旋可動域45°に満たない場合のCraig test値は約10°未満であることが示唆された。このことから、股関節内旋可動域は軟部組織のみならず大腿骨前捻角が影響を及ぼしていると考察された。【理学療法学研究としての意義】股関節内旋可動域には大腿骨前捻角が関係しており、内旋制限を有する症例に対するCraig test値の評価は理学療法の一助となる。
  • 高橋 誠, 賀好 宏明, 寺松 寛明, 立石 聡史, 梶原 浩一, 鎌田 陽一郎, 佐伯 覚, 内田 宗志, 宇都宮 啓
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年、股関節痛や変形性股関節症の原因として、Femoroacetabular Impingement(以下、FAI)の概念が提唱されている。FAIとは臼蓋縁と大腿骨頸部でのインピンジメントを生じ、股関節唇を損傷し、難治性の股関節痛を呈する病態である。当院ではFAIに対し鏡視下で骨棘切除を行い、合わせて股関節唇修復術(以下、FAI手術)を行っている。術後の理学療法はPhilipponらが作成したプロトコールを参考にして改良し施行している。FAI患者の股関節筋力の特徴や手術前後での股関節筋力の変化を調査した報告はない。本研究の目的は、FAI手術前および術後の筋力状態と、術後の筋力変化を調査し、現在のリハビリプロトコールの問題点を明らかにすることである。【方法】当院にてFAIと診断され、手術前後の測定が可能であった14名(性別:男性9名、女性5名;年齢31.6±18.7歳;体重 63.5±11.3kg)を対象とした。除外基準は、FAI両側例、臼蓋形成不全、滑膜性骨軟骨腫症、外傷例とした。術後3ヶ月以上経過した患者に筋力測定を実施し、手術からのフォローアップ日数は平均157.0±63.5(日)であった。筋力測定はHandheld dynamometer(パワートラックⅡMMTコマンダー、日本メディック社)を用い、両側股関節の屈曲・伸展・外転・内転の等尺性筋力を測定し、それぞれ体重比(N/kg)を求めた。なお、測定の再現性を高めるとされる固定用ベルトを使用した。術前後での股関節機能として、Modified Harris Hip Score(MHHS)を指標とした。分析は、1.術前、術後それぞれでの健側と患側の比較、2.患側筋力の術前後での比較を行い、1.2.ともにpaired t-testを用いた。MHHSの術前後の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いた。有意水準はいずれも5%未満とした。【説明と同意】本研究では、対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】術前の健側と患側の股関節筋力を比較すると、屈曲(P=0.004)、伸展(P=0.01)、外転(P=0.02)、内転(P=0.03)のいずれの方向においても患側が有意に低下していた。術後では伸展、外転、内転の健患差はなく、屈曲のみ患側が有意に低下していた(P=0.02)。患側における術前後での股関節筋力の比較では、外転(P=0.03)、内転(P=0.02)の術後筋力が術前より有意に改善していた。MHHSは術前 65.2±19.9(点)、術後 90.5±12.0(点)へと有意に改善していた(P<0.01)。【考察】本研究の結果から、1. FAI患者の術前股関節筋力は健側と比較して、屈曲、伸展、外転、内転のいずれにおいても一様に低下していること、2.手術および術後のリハビリによって、伸展、外転、内転の筋力は統計学的に有意差がなくなること、3. 患側の外転および内転筋力は、術前と比較して有意に改善すること、4. 術後の股関節屈曲筋力は依然、健側と比較して有意に低下していることが示された。PhilipponはFAI術後には腸腰筋腱の炎症を生じやすいことを報告しており、今回の対象者にも同様の問題が生じていた可能性がある。その一方で、腸腰筋の炎症を避けるために、腸腰筋に対する筋力強化の負荷を軽くする症例もあり、筋力低下の原因として考えられた。今回の結果は、屈曲筋力の改善を目指したプロトコールの更なる改良の必要性を示唆するものであると考える。本研究のlimitationとして、症例数が少ないことがあげられる。【臨床的意義】FAI患者に対する関節鏡手術は今後も増加すると予想されており、FAI患者の特徴を調査していくことは臨床的意義が高い。関節鏡手術において、術前、術後の理学療法は治療の重要な役割を担っており、本研究の結果を踏まえて対策を講じていく必要がある。
  • 江渕 貴裕, 荒畑 和美, 太田 隆, 時村 文秋
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 大腿骨近位部骨折を受傷する症例の多くは転倒を契機としており、その原因には筋力低下や歩行能力低下、バランス能力低下などの身体機能障害や、認知機能障害などが存在する。また、大腿骨近位部骨折症例では著しく痩せている症例や、栄養状態の指標の一つである血清アルブミン値(以下Alb値)の低い症例が散見され、低栄養状態が転倒、受傷の背景にあることが予測される。治療は入院・手術・リハビリテーションを実施し、歩行再獲得を目標とするが残念ながら全例が歩行可能となるわけではない。 そこで本研究では高齢大腿骨近位部骨折症例における術後Alb値の推移と歩行能力との関係を明らかにすることを目的とする。【方法】 2008年1月から2011年3月までに当センターに入院し、当科に依頼のあった高齢大腿骨近位部骨折症例529例のうち、受傷前歩行能力が屋内歩行レベル(屋内歩行見守り以上、屋外歩行不可)であり、人工骨頭置換術または観血的骨固定術を施行した61例(男性8例、女性53例)を対象とした。なお、脳血管疾患やパーキンソン病など歩行やADLに影響する疾患を有する者、上肢骨折合併例、術後免荷期間を必要とした者は除外した。対象群の年齢は85.8±6.6歳、MMSEは16.5±9.7点、BMIは19.4±3.3であり、平均理学療法期間は36.0±15.5日であった。 全対象の入院から術後3週までのAlb値の推移を調査した。次に術後3週までに歩行再獲得できた群とできなかった群の2群に分類しAlb値の推移を調査、比較検討した。その他、年齢、BMI、MMSE、握力、受傷から手術までの期間、術後PT期間についても2群間で比較検討した。更にAlb値と最大歩行距離の関連性についても調査した。なお、歩行再獲得の定義は「介助を必要とせず50m以上歩行可能。歩行補助具の使用は制限しない。」とした。 統計手法は対応のないt検定、ピアソンの相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され、当センターの平成22年度当院院内研究課題審査にて承認されたのち実施された。【結果】 全対象の入院時のAlb値の平均は3.4±0.5g/dlであった。歩行再獲得した者は30例(49.1%)であった。Alb値の推移は歩行再獲得群(g/dl)VS歩行不能群(g/dl)で入院時3.5±0.5VS3.2±0.4、術直後2.7±0.4VS2.4±0.3、術後1週2.7±0.3VS2.5±0.4、術後2週2.9±0.3VS2.7±0.4、術後3週3.1±0.3VS2.8±0.3であった。術後1週を除く全ての時点で歩行不能群が有意に低値を示した(入院時、術後2週でp<0.05、術直後、術後3週でp<0.01)。 歩行再獲得群VS歩行不能群で年齢83.4±6.3歳VS88.0±6.1歳、BMI19.7±2.6VS19.0±3.8、MMSE21.9±8.1点VS11.4±8.4点、握力0.3±0.1kg/体重VS0.2±0.1kg/体重、受傷から手術までの日数6.3±3.4日VS6.7±5.1日、手術後PT期間40.2±12.2日VS32.7±17.7日であった。このうち2群間で有意差を認めたものは年齢、MMSE(いずれもp<0.01)、握力(p<0.05)であった。術後3週でのAlb値と獲得できた最大歩行距離との相関係数は0.37であった。【考察】 入院時のAlb値の平均は3.4±0.5g/dlであった。これは東京都健康長寿医療センター研究所の低栄養の基準である3.8g/dlを下回っており、61例中50例は受傷前から低栄養状態であったと考えられた。 Alb値の推移は歩行再獲得群、歩行不能群ともに手術後に急激な低下を認め、その後緩やかに回復を認めるが、術後3週時点では入院時の値まで回復していなかった。また、入院時、術直後、術後2週、術後3週の時点において歩行不能群は有意に低値を示した。今回は受傷前歩行能力が屋内歩行レベルの者を対象としたが、歩行不能群では歩行再獲得群よりも更に低栄養の者が多いことが示された。Alb値と最大歩行距離には弱い正の相関があり、歩行不能群の中のMMSEが0点であった一例を除けば術後3週の時点でAlb値が3.2g/dlより高値の者では歩行再獲得しなかった者はいなかった。しかし、3.2g/dl以下では歩行再獲得群、歩行不能群が混在していた。2群間で年齢、MMSE、握力で有意差を認めたことはAlb値以外の筋力や認知面などの因子が歩行再獲得に影響を及ぼしている可能性があることを示唆していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 栄養状態は理学療法を進める上で把握すべき情報である。今回の結果は術後の栄養管理の指標や予後予測の因子の一つとなりうる可能性がある。
  • 川端 悠士, 林 真美, 佐藤 里美, 澄川 泰弘
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】疼痛は大腿骨近位部骨折患者のリハビリテーション進行の阻害要因となることが多く,疼痛による意欲低下により練習に拒否的な反応を示す症例も少なくない.大腿骨近位部骨折術後例における疼痛は骨折部や術創部の存在する股関節周囲に発生し,骨癒合や術創部の治癒が進行するに従い消失する.しかしこれらの治癒が進んでも股関節周囲の遠隔部位に疼痛を訴える症例をしばしば経験する.坂本(2010)は大腿骨近位部骨折患者の術後疼痛発生状況について,股関節周囲の疼痛は術後経時的に減少するが,一方で荷重時の疼痛に関しては残存する傾向にあり,その発生部位は大腿部に多く認められたと報告している.このような荷重時に大腿部痛を訴える症例に対し,弾性包帯(Elastic Bandage;EB)で大腿部を圧迫することにより,荷重痛が即時的に軽減されることを臨床的に経験する.しかし我々の渉猟範囲では,EBによる大腿圧迫の荷重痛軽減効果について検証した報告は無い.本研究では大腿骨近位部骨折例を対象としてEBによる大腿圧迫の荷重痛軽減効果を明らかにすることを目的とする.【方法】対象は観血的治療の適応となった大腿骨近位部骨折術後例で,術後1ヶ月以上が経過した症例とした.このうち荷重時に大腿部に疼痛を有し,1本杖歩行が監視下にて可能な連続11例(女性11例,平均年齢84.2±6.5歳,術後経過日数42.5±12.2日)を対象とした.認知機能低下によりNumerical Rating Scale(NRS)による疼痛評価が困難な例は対象から除外した.研究デザインにはランダム化クロスオーバーデザインを使用し,弾性包帯装着(EB-on),弾性包帯非装着(EB-off)の2条件で各々2回ずつTimed Up & Go test(TUG)を測定した.TUG測定に当たっては疲労による影響や学習効果を排除するために,乱数表を用いて先にEB-on条件でTUGを測定する群と,先にEB-off条件でTUGを測定する群に割り付けた.EBは10cm幅のものを使用し,装着については先行研究を参考に大腿全体を不快でない範囲で可能な限り強く巻いた.疼痛評価にはNRSを使用した.EB-on条件・EB-off条件間および前半2回・後半2回の試行間でTUG,NRSを比較した.TUGの比較にはデータ分布の正規性を確認した後に対応のあるt検定を,NRSの比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を使用した.またTUG,NRSの比較に当たっては効果量を算出した.さらにTUGについては測定標準誤差を用い,EB-off条件の2回の試行から最小可検変化量を算出し,EB装着によるTUGの変化が測定誤差範囲内の変化か真の変化かを検討した.統計処理にはSPSSを用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】対象には研究の趣旨を説明し同意を得た.なお得られたデータは匿名化し個人情報管理に留意した.【結果】TUGのEB-on,EB-off条件における平均値はそれぞれ24.2±9.5sec,29.4±11.4secとEB-on条件で有意に短縮した(p<0.05).統計量tから算出した効果量rは0.81と大きな効果量を得た.なお前半・後半2回の試行間の比較では有意差は認めなかった.最小可検変化量は1.8sec,EB-on・EB-off条件間のTUGの差の平均値は5.6±1.4secであり,EB装着によるTUGの時間短縮は測定誤差を上回るものであった.NRSについてはEB-on条件,EB-off条件における中央値はそれぞれ2,7とEB-on条件で有意に疼痛軽減効果が得られた(p<0.05).統計量Zから算出した効果量rも0.85と大きな効果量を得た.【考察】結果よりEBによる大腿圧迫の荷重痛軽減効果が明らかとなった.大腿圧迫による鎮痛作用機序として脊髄分節性抑制系および下行性抑制系の賦活化が考えられる.歩行速度の改善については上述した機序により鎮痛が得られたこと,大腿圧迫により膝関節の固有受容感覚が向上したことが寄与したものと思われる.一方でEBによる大腿圧迫は疼痛に対する対症療法にすぎず,解剖学・運動学的視点から疼痛の原因を考え対処することも必要であろう.本研究の限界として研究デザインの性質上,プラセボ効果を排除できないといった点が挙げられる.また圧迫強度を定量化できていない点も本研究の限界である.今後は圧迫強度を定量化し,圧迫強度と鎮痛の程度との関連を検討し,圧迫による鎮痛効果を再検証する必要がある.【理学療法学研究としての意義】本研究は臨床場面で用いられることの多いEBによる大腿圧迫の疼痛軽減効果を科学的に示した点でその意義は高いと考える.
  • 楠 美樹, 青柳 陽一郎, 岡西 哲夫, 平塚 智康, 粥川 知子, 菊池 航, 井元 大介, 日沖 雄一
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 大腿骨近位部骨折は,高齢者に最も多い下肢骨折であり,機能予後を悪化させることが知られている.日本整形外科学会のガイドラインでは,機能予後に影響する因子として年齢が挙げられている.また,退院後のリハビリテーション(以下,リハ)は身体機能の向上に有効であるとされているが,本邦におけるリハの効果に関するエビデンスは乏しい.以前,われわれは,退院後の身体機能の変化を退院時から退院3ヶ月後まで評価し,機能予後に関連すると言われている外来リハの有効性と,年齢の影響について検討した.その結果,歩行速度は年齢や外来リハ施行の有無に関わらず退院後に改善し,5回立ち上がり時間,膝伸展筋力(術側,非術側)は,外来リハを行った患者および75歳未満の患者で改善を認め,年齢や外来リハ施行の有無が筋力などの機能改善に影響を与えることを示した.本研究では前回の研究よりも分析をすすめ,退院後の快適歩行および筋力の改善が退院時の身体機能とどのような関係があるのかを検討した.【方法】 2009年1月から2012年11月までの間に,当院で大腿骨近位部骨折により観血的骨接合術が施行され,退院3ヶ月後まで評価を行い,HDS-Rが21点以上であった22名を対象とした.全対象者の平均年齢は 71.0±9.7歳,外来リハは週1回程度行い,施行群が12名,未施行群が10名であった.身体機能評価は,退院時,退院3ヶ月後にFunctional Reach Test(以下,FRT),5回立ち上がり時間,片足立位時間(術側,非術側),膝伸展筋力(術側,非術側),快適歩行速度を測定した.統計学的分析では,快適歩行の改善度(退院3ヶ月後の快適歩行速度-退院時の快適歩行速度)および膝伸展筋力の改善度(退院3ヶ月後の膝伸展筋力-退院時の膝伸展筋力)と退院時の身体機能との関連性を検討するために,ピアソンの積率相関係数とスピアマンの順位相関係数を求めた.さらに,快適歩行速度および膝伸展筋力の改善度を従属変数とし,FRT,5回立ち上がり時間,片足立位時間(術側,非術側),膝伸展筋力(術側,非術側),快適歩行速度,年齢,外来リハの有無を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究を行うにあたり,藤田保健衛生大学疫学・臨床研究倫理審査委員会の承認を得た.また,対象者には本研究の目的と内容を説明し書面にて同意を得た上で実施した.【結果】 快適歩行速度の改善度は,退院時の快適歩行速度と有意な相関を示した(r=-0.43,p<0.05).重回帰分析の結果から,快適歩行速度の改善度に最も影響を与える因子は,退院時の快適歩行速度であり,有意な説明変数として抽出された(β=-0.7,p<0.05).術側膝伸展筋力の改善度は,年齢と相関を認めた(r=-0.54,p<0.05).重回帰分析の結果から,術側膝伸展筋力の改善度に最も影響を与える因子は,年齢であり,有意な説明変数として抽出された(β=-0.6,p<0.01).【考察】 今回の結果から,快適歩行速度の改善は退院時の快適歩行速度と負の相関があることが示され,退院時の歩行速度が遅い患者は退院後の歩行速度の改善の余地があることが示された.術側膝伸展筋力は年齢の高いものほど改善が乏しいという,先行研究を支持する結果となった.【理学療法学研究としての意義】 転倒に関する研究結果において,筋力低下が転倒発生の中で最も高いリスク因子であると報告されている.大腿骨近位部骨折は機能予後を悪化させ,反対側の骨折リスクが高くなることが知られているが,これらの研究結果と今回の研究結果を合わせ考えれば,高齢な患者ほど退院後の筋力改善が乏しく,転倒発生による再骨折のリスクが高くなることが推察された.先行研究から退院後リハが身体機能の改善に影響を与えるという中等度のエビデンスが示されており,退院後もリハを行い,転倒による再骨折予防を行う必要があることが推察された.
一般口述発表
  • 田中 暢一, 高 重治, 杉本 彩, 村田 雄二, 永井 智貴, 鈴木 静香, 倉都 滋之
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに,目的】 近年,股関節疾患患者に対する評価に主観的QOLを用いた報告は増加傾向にある.我々も以前よりMOS Short Form-36 scale ver.2.0(以下SF-36)やOxford Hip Score(以下OHS)を用いてQOL評価を実施してきた.しかし,SF-36は包括的健康尺度であり,股関節に特化した尺度ではなく,OHSは洋式生活を中心とした質問であり日本独特の生活様式は把握できなかった.日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下JHEQ)は,日本整形外科学会により作成され,和式生活に対する質問が含まれた疾患特異的尺度である.しかし,JHEQを用いてQOL評価を行った報告は少ない.そこで,今回の目的は,JHEQを用いて人工股関節全置換術(以下THA)前の変形性股関節症(以下OA)患者のQOLを評価することとした.【方法】 対象はOAを罹患しTHA施行目的で入院された27例28関節とした.性別は女性24例,男性3例,平均年齢は65.5歳(46-81歳)であった.全例に対して術前にJHEQを用いて主観的QOL評価を行った.JHEQは,痛み,動作,メンタルの3つの下位尺度から構成される自己記入式アンケートである.設問数は21問であり,設問ごとに0点から4点の配点が与えられる.よって,下位尺度では0点から28点,合計点では0点から84点となり,点数が高いほどQOLがよいことを表す.また,合計点に含まず単独の指標として股関節の状態不満足度をVAS(0-100点)にて評価され,点数が高いほど不満が強いことを表す.検討項目は,1)下位尺度ごとの合計点とすべての合計点,不満足度の点数を算出した.2)設問ごとに回答に対する相対度数を算出し,各下位尺度の特徴を調査した.3)下位尺度,合計点,不満足度との関係性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計解析ソフトは,SPSS 20.0を使用した.【倫理的配慮,説明と同意】 対象者には本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得られたものに対して実施した.【結果】各下位尺度の点数は,痛み6.9±3.7点,動作5.2±4.3点,メンタル10.6±6.6点,合計点22.7±11.6点であった.不満足度は75.7±29.3点であった.下位尺度ごとの特徴として,痛みでは動き出す時に痛むか,痛みのために動かしにくいか,痛みのために力が入りにくいかといった設問で低値を示すものが多く,動作では床や畳からの立ち上がり,和式トイレの使用,足の爪切りについて低値を示すものが多かった.メンタルは低値を多く示す設問はなかった.また,すべての下位尺度は合計点と有意な相関を認め(痛み:r=0.5301,動作:r=0.7891,メンタル:r=0.8682,すべてp<0.01),動作においてはメンタルと不満足度と有意な相関を認めた(メンタル:r=0.5210,p<0.01,不満足度:r=-0.3771,p<0.05).【考察】 THA前のOA患者にJHEQを用いてQOL評価を行った結果,下位尺度の動作が最も低く,メンタルが最も高いことがわかった.末期OA患者は,OA由来の疼痛から可動域制限や筋力低下が生じ,日常生活動作にも影響が及ぶ.その結果としてQOLの低下も生じるといわれている.我々は過去にSF-36を用いて術前のQOL評価を行い,身体機能,体の痛み,心の健康の順に低値であった.今回も同様の結果であり,THAを受ける末期OA患者は動作面のQOLの低下がより大きい状態であることがわかった.下位尺度ごとでは,痛みは動作開始時の痛み,痛みによる動きにくさや力の入れにくさにおいて低値であったことから,安静時の疼痛より運動時の疼痛がより深刻になっていることがわかった.動作では,床上動作や和式トイレの使用,爪切り動作において低値を示した.床上動作や和式トイレは日本の生活スタイルに近く,股関節の可動性と支持性の両者が必要とされ,爪切り動作は上肢を足先までリーチするために股関節により大きな可動性を必要とする.これらは,OAによる可動域制限や筋力低下により自立度が低いとされており,JHEQにおいてもその影響が反映されたのではないかと思われる.また,動作はメンタルと不満足度と有意な相関を示しており,動作能力の低下は精神面だけでなく,股関節全体に対する不満にも影響を及ぼすことから,QOLの低下における重要な要因であると思われる.【理学療法学研究としての意義】 JHEQは,患者自身が行う主観的評価尺度であり,患者へ直接聞くことで股関節症状に対する思いや不安などの問題点が明確となる.今回は,THAが適応となったOA患者を対象に評価を行った結果,メンタルは比較的保たれていたが,痛みと動作が低かった.特に動作は,精神面だけでなく股関節全体に対する不満にも影響を及ぼしており,末期OA患者の動作能力の低下がより深刻であることがわかった.この動作面に対して我々理学療法士は介入が可能であり,運動療法や代償動作を駆使して,少しでも末期OA患者のQOL向上に寄与できればよいと考える.
  • 高山 正伸, 二木 亮, 阿部 千穂子, 松岡 健, 江口 淳子, 陳 維嘉, 長嶺 隆二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 股関節疾患のみならず膝関節疾患においても股外転筋力の重要性が指摘されており,なかでも中殿筋は特に重要視されている。中殿筋の筋力増強運動として坐位での股外転運動(坐位外転運動)を紹介している運動療法機器カタログや病院ホームページを散見する。しかし坐位における中殿筋の走行は坐位外転の運動方向と一致しない。坐位においては外転ではなく内旋運動において中殿筋は活動すると考えられる。本研究は①坐位外転運動における中殿筋の活動性は低い,②坐位内旋運動における中殿筋の活動性は高いという2つの仮説のもと,坐位外転運動と坐位内旋運動における中殿筋の活動量を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は下肢に既往がなく傷害も有していない20~43歳(平均29.6歳)の健常者14名(男性9名,女性5名)とした。股関節の運動は①一般的な股屈伸および内外転中間位での等尺性外転運動(通常外転)②坐位での等尺性外転運動(坐位外転),③坐位での等尺性内旋運動(坐位内旋)の3運動とし,計測順序はランダムとした。筋電図の導出にはTELEMYO G2(ノラクソン)を使用しサンプリング周波数1000Hzで記録した。表面電極は立位にて大転子の上方で中殿筋近位部に電極間距離4cmで貼付した。5秒間の等尺性最大随意収縮を各運動3回ずつ記録した。筋の周波数帯である10~500Hz以外の帯域をノイズとみなしフィルター処理を行った。5秒間の筋活動波形のうち3秒間を積分し平均した値を変数として用いた。統計解析は有意水準を5%としFriedman検定を行った。多重比較についてはWilcoxon符号付順位検定を行い,Bonferroniの不等式に基づき有意水準を1.6%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者にはヘルシンキ宣言に基づき結果に影響を及ぼさない範囲で研究内容を説明し同意を得た。【結果】 通常外転積分値の中央値(25パーセンタイル,75パーセンタイル)は149.5(116.0,275.0)μV・秒で坐位外転のそれは127.5(41.8,204),坐位内旋のそれは219.5(85.1,308)であった。Friedman検定の結果3運動には有意差が認められ,多重比較の結果坐位外転は坐位内旋に対して有意に活動量が劣っていた(P=0.0054)。通常外転と坐位外転にも中央値に違いがみられたが統計学的な差は認められなかった(P=0.0219)。通常外転と坐位内旋にも有意差を認めなかった(P=0.124)。最も大きな筋活動量が得られた被験者の数は通常外転4名,坐位外転1名,坐位内旋9名,逆に最も筋活動量が小さかった被験者の数は通常外転3名,坐位外転10名,坐位内旋1名であった。MMTの方法に類似している通常外転によってその他の2運動を正規化すると坐位外転の中央値は76.9(31.2,102.3)%,坐位内旋のそれは119.2(86.9,183.7)%であった。坐位外転では筋力増強運動に必要な筋活動量40%を下回る被験者が4名(14.9~31.2%)みられ,100%を超える者は3名だけであった。一方坐位内旋においては40%未満の被験者はみられず,9名の被験者が100%以上であった。最小値は69.7%であった。【考察】 股関節は球関節のため肢位によって筋作用は変化する。股関節が屈伸中間位のとき矢状面でみた中殿筋の走行は大腿骨長軸と概ね一致しており同筋は外転作用を有する。しかし股関節が屈曲位となる坐位では走行が大腿骨長軸と一致せずむしろ直角に近くなり,中殿筋の作用は外転ではなく内旋になる。本研究結果では通常外転と坐位外転に有意差を認めなかったが,効果量を0.5,有意水準を0.016,検出力を0.8に設定すると48名のサンプル数が必要で我々のサンプル数は不足している。差がないと結論付けることには慎重であるべきである。この状況下においても坐位外転と坐位内旋には有意差が認められた。本研究結果は坐位外転運動が中殿筋の筋力増強運動として非効率であることを明らかにした。加えて坐位内旋運動では通常の外転運動と同等以上の筋活動が得られることも明らかとなった。この傾向は前部線維で強くなり,後部線維では異なる結果をもたらすと予想される。どの運動によって最も大きな筋活動が得られるかは被験者によって異なっていた。その原因として坐位における骨盤の肢位が影響していると考えられる。骨盤が後傾すればするほど中殿筋の走行はより大腿骨長軸と一致する。多くの被験者に関しては坐位内旋運動で高い中殿筋の筋活動が得られたが,一部にそうでない被験者もみられた。骨盤が後傾することによって内旋運動における筋活動は低下し,逆に外転運動における活動が増加すると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究によって中殿筋に対する誤った運動指導は是正されるであろう。
  • 釜谷 幸児, 平川 善之, 熊野 貴史, 内藤 正俊
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】寛骨臼回転骨切り術(Curved Periacetabular Osteotomy:以下CPO)は,進行性変形性股関節症に対する関節温存術として施行されている.CPO術後,臨床場面において坐骨周囲の痛みを訴える症例を散見する.先行研究では恥骨下枝の疲労骨折として診断されることが多く,臨床上の影響は少ないと判断されている.しかし痛みを訴える症例は,入院中や退院後も日常生活に支障を来している印象を受ける.本研究の目的は,CPO術後に起こる坐骨周囲の痛みに関わる要因を身体的特性から検討し,その痛みがADLまたはQOLに影響を及ぼすかを調査するものである.【方法】2010年5月~2012年6月の間,当院またはF病院にてCPOを施行した50例51関節を対象とした(平均年齢38.0±12.1歳,男性1関節・女性50関節).計測項目は,年齢,BMI,CE角の術後増加角,恥坐骨長,術前・全荷重期(平均70.3±11.8日)・独歩許可期(平均100.3±11.8)でのJOAスコア・WOMACスコアを計測した.その内,坐骨周囲に痛みがない群をN群(39股),坐骨結節内側に圧痛を有し日常生活上での坐骨周囲の痛みを訴える症例を,痛みがある群としてP群(12股)とした.統計には,N群・P群2群間において身体的要因となる年齢,BMI,CE角の術後増加角,恥坐骨長に差があるかを,二元配置分散分析を用い,多重比較検定としてTukey法にて実施した.結果因子としてJOA・WOMACに対しては,t検定を用いた.いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】本研究は福岡リハビリテーション病院の倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に法り被検者には事前に十分な説明と同意を得た上で実施した.【結果】年齢では,N群37.1±12.3歳,P群40.8±11.9歳.BMIでは,N群21.9±2.8,P群22.6±2.4.CE角の術後増加量では,N群19.4±6.1°,P群17.5±6.0°.恥坐骨長では,N群11.2±2.1mm,P群11.0±2.8mmとなり,二元配置分散分析および多重比較検定を実施したが,いずれも両群間に有意差は認められなかった.術前JOAでは,N群70.6±16.1,P群69.4±11.8.術前WOMACでは,N群79.7±8.4,P群82.2±6.4となり,術前での2群間の有意差を認めなかった.全荷重期JOAでは,N群79.5±11.6,P群64.6±13.0となり,有意差を認めた(p<0.01).独歩許可期JOAでは,N群86.1±5.0,P群70.2±17.1となり,有意差を認めた(p<0.05).全荷重期WOMACでは,N群83.1±7.8,P群73.3±4.4となり,有意差を認めた(p<0.05).独歩許可期WOMACでは,N群87.8±4.6,P群82.1±7.1となり,有意差は認められなかったが,P群が低い傾向にあった(p=0.06).【考察】CPO術後における恥骨下枝の疲労骨折の原因は,術中操作による影響(今井2012)や,骨盤内の荷重分散ができないこと(永山2007)などが挙げられている.本研究においては,身体要因から原因を特定することはできなかった.今後は理学的所見や活動量などを加味してより詳細に調査する必要があると思われる.一方JOAの結果より,術後全荷重期・独歩許可期において両群間に有意差を認めた.これは,坐骨周囲の痛みが関節可動域の減少,歩行距離の短縮や跛行の出現に繋がり点数の減点が起きたのではないかと考える.またWOMACの結果より,術後全荷重期においてP群が有意に低い値を示した.WOMACは主観的に生活の質を評価するスコアであり,QOLの尺度となる.P群では,痛みが出現している全荷重の期間に実際の生活場面においてできない動作の項目が増えたことで,WOMACの項目に減点が起きたと考えられる.しかし独歩許可期においては,WOMACに2群間の有意差は見られなかった.これは,全荷重期に生じていた坐骨周囲の痛みが安静指示や運動療法などで軽減したことにより,できる生活動作項目が増えたためと考えられる.以上より,坐骨周囲の痛みはADLおよびQOLに影響を及ぼすことが示された.よって理学療法おいては,坐骨への負担を軽減する運動療法を検討する必要があると思われる.【理学療法研究としての意義】本研究は,CPO術後の坐骨周囲の痛みがADLおよびQOLに影響を与えることが示唆され,原因を具体的に調査するための先行研究になると思われる.
  • 本間 大介, 地神 裕史, 佐藤 成登志
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 変形性股関節症患者(以下,変股症)は中殿筋の弱化に伴い,骨盤の傾斜と伴に特徴的な跛行を呈する.中殿筋の弱化を大腿筋膜張筋が代償することで生じる収縮リズムの破綻も問題となる.我々は第47回本学術大会で二本のポールを使用するノルディックウォーキング(以下,NW)が変股症の体幹動揺を減少させることを報告した.このことから,NWは体幹の動揺を軽減させ,正常に近い歩行を学習する為の有効な運動手段となることが考えられた.しかし,変股症は股関節に器質的な変化を生じており,NWは体幹のみでなく骨盤の傾斜も減少させ,周囲の筋活動に対しても影響を与えることが考えられる.しかし,NWが骨盤周囲の活動に与える影響は明らかになっていない.また,NWには日本式(以下,JS),ヨーロッパ式(以下,ES)という歩行様式があり,ポールの使用方法が異なることから,各歩行様式においても骨盤の動き,筋活動に影響を与えることが考えられる.そこで今回は,健常成人にJS,ES,通常歩行(以下,OW)を実施し,骨盤動揺,骨盤周囲の筋活動,歩幅に与える影響を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象者は,健常成人8名(21.4±1歳)とした.使用機器は筋電図計測装置一式,荷重量測定器内臓ポール,メトロノーム,三軸ジャイロセンサー,フットセンサーとし,全対象者にOW,JS,ESを各二回ずつ実施した.測定前に全日本ノルディックウォーク連盟が推奨しているJS,ESという方法に準じて指導を行ったのち,実施した.課題動作は,荷重量測定器内臓ポールを用いてポールに加わる荷重量を自重の10%となるように設定し,メトロノームを用いて歩調を112step/minに統一した.筋電図計測装置と三軸ジャイロセンサーを手動で同期し,サンプリング周波数を1KHzに統一した.右踵骨部に貼付したフットセンサーの信号から歩行周期を同定し,各課題動作における連続する二歩行周期を解析区間とした. 骨盤動揺の指標として,前後傾角度,回旋角度,傾斜角度を計測し,骨盤周囲の筋活動(腹直筋,腰部脊柱起立筋,大腿直筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋),歩幅を算出した.骨盤の動きは,両PSISを結んだ中点に三軸ジャイロセンサーを貼付し計測した.今回は骨盤動揺の振れ幅として,解析区間内の最大角度変化の絶対値の和を算出した.筋活動は高域通過フィルターを20Hzで処し,全波整流した.各筋のMVCから,1歩行周期中の%IEMGを算出した.歩幅は歩行距離を歩数で除し,一歩幅を算出した.JS,ES,OWにおける筋活動,骨盤動揺,歩幅に関して統計学的に検討した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得た上で行われた.全対象者には,口頭と書面にて本研究の趣旨を説明し,署名にて同意を得た.【結果】 筋活動に関して,腹直筋がESで6.25±3.54%,OWで2.06±1.59%となりESで有意に高く,大腿筋膜張筋がOWで8.62±4.96%,JSで6.73±4.33となりOWで有意に高い値となった(p<0.05).骨盤動揺に関して,傾斜角度はJSで10.38±2.31°,ESで11.11±3.06°,OWで12.29±2.59°となり,JS,ESよりもOWで有意に高い値となった(p<0.05).歩幅に関してJSで52.4±6.85cm,ESで56.16±6.46cm,OWで52.56±4.78cmとなり,JS,OWよりもESで有意に高い値となった(p<0.05).【考察】 今回三軸ジャイロセンサーを使用し,JS,ES,OWで骨盤の前後傾角度,回旋角度,傾斜角度,筋活動,歩幅を算出した.その結果,傾斜角度がJS,ESでOWよりも有意に減少し,NWは体幹の側屈角度と同様に骨盤傾斜角度の減少が生じることが明らかとなった.また,杖の様にポールを使用するJSはOWと比較し,大腿筋膜張筋の活動が有意に低くなった.中殿筋の活動に有意差はなく,JSは大腿筋膜張筋の活動を選択的に減少させる歩行様式であることが示唆された.股関節の器質的変化に伴い,中殿筋の弱化が生じる変股症は,大腿筋膜張筋で活動を代償するとされており,変股症患者は長期間の逃避性の跛行が運動学習されることで,筋力の回復のみでは跛行の改善がしにくいことが報告されている.これらのことから,JSは大腿筋膜張筋の活動のみを減少させ,骨盤傾斜を軽減し歩行を行うことができる可能性が示唆され,変股症患者にとって正常な歩行を再学習する際の,有効な運動療法の一つになる可能性が示唆された.しかし,本研究の限界として健常者のデータであり,実際に変股症患者に同様の効果が生じるかは明らかではない.今後は,変股症を対象にしたデータ計測を行い,より詳細な効果を検討していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,NWは骨盤の傾斜角度を軽減させる効果があり,特にJSは大腿筋膜張筋の活動を選択的に軽減させる歩行様式であることが示唆された.変股症患者に有効な運動手段の一つとなる可能性が示唆されたことから,意義のある研究であると考える.
  • 地域連携パス運用病院との比較
    津野 良一, 福島 美鈴, 谷岡 博人, 浜窪 隆, 三宮 真紀, 有田 久
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめ】在院日数の短縮、チーム医療の促進、情報収集時間の短縮等を目的として地域連携パスを運用する病院が増加傾向にある.一方、県内においては地域連携パスを運用している病院は約39%程度にとどまっているとする調査報告が見られる.県内に2施設ある県立総合病院では、大腿骨近位部骨折の地域連携パスが一方ではすでに運用されており(A病院)、他方では運用に向けて検討中である(B病院).そこで今回、この2総合病院間と転院先の回復期病院のバーセル・インデックス(以下BI)と歩行様式の結果を比較することで地域連携運用パスの有効性を理学療法の面から検討することを目的に調査を行った.【方法】平成22年1月~平成24年9月までに2総合病院に救急搬送され、手術が施行された大腿骨近位部骨折症例、A病院64名(男性16名、女性48名)、診断、頸部骨折20名、転子部骨折44名、平均年齢85.6±5.8歳、B病院86名(男性18名、女性68名)、診断、頸部骨折35名、頸基部骨折2名、転子部骨折49名、平均年齢84.9±7歳、を対象とした.A病院からは、連携パスデータベースより診断、術式、性別、年齢、在院日数、退院時と回復期病院退院時のBI、歩行様式を抽出した.B病院からは、診療録より診断、術式、性別、在院日数をリハビリテーション科データベースより退院時のBI、歩行様式を抽出し、転院先の回復期病院より退院時のBI、歩行様式の情報提供を受けた.そして、これらの情報を比較検討した.統計処理は、R-2.8.1を使用し、ピアソンのχ二乗検定、WelchT検定を用いて行った.【倫理的配慮、説明と同意】今回の調査は、当院倫理委員会申請書にて提出し委員会にて許可を得た.また、対象とする個人の人権擁護と倫理配慮よりデータは、対象者が特定出来ないように記号化し、調査が終了後保存している電子メディアをフォーマットし完全に消去した.【結果】両病院間の症例において、男女差、年齢に有意差はなかった.在院日数は、A病院は、13.5±4.1日、転院した回復期病院、53.2±33.6日、B病院35.9±11.1日、転院した回復期病院73.4±24.7日、で連携パス運用により有意に減少していた.(p<0.01)BIの平均得点の比較では、A病院49.2±31.4、B病院平均59.1±18.3でB病院が高かった.(p<0.01)各項目で比較してみると、食事、着替え、排便、排尿に差が見られ(p<0.01)、入浴、階段、移乗、整容、トイレ、歩行には差が無かった.回復期病院のBIの比較では、A病院から転院した回復期病院では70.4±31、B病院から転院した回復期病院では、75.5±22で有意差を認めなかった.しかし、各項目の比較では、階段昇降、着替え、排便でB病院から転院した回復期病院で高かった.(p<0.05)移動様式の比較では、歩行器、老人車、一本杖の割合がB病院で高かった.(p<0.01)それぞれの回復期病院での退院時の移動様式には、有意差は認められなかった.【考察】今回の調査結果より、在院日数は地域連携パスを運用するA病院で約22日、転院先の回復期病院で約20日の有意な短縮を認め、在院日数の短縮化に効果が認められた.要因として、連携病院との交流の促進、回復期病院への転院調整期間、退院時計画期間の短縮が考えられた.A、B病院退院時に差が見られた移動様式は、それぞれの回復期病院退院時には差が無くなり在院日数短縮において地域連携パスの有効性が認められた.しかし、回復期病院を退院する時点では、BI3項目でB病院から転院した回復期病院で高い結果となっていた,原因として、在院日数短縮による理学療法期間の減少が考えられ、この差が退院後、維持期の病院での外来通院や介護療養型施設内等での運動練習で補っていけるかどうかが問題と思われる.今回は、理学療法の方法や質的な内容、理学療法時間については調査を行わなかったがこれらの検討も今後必要と思われる.差の認められるBIの項目が、階段昇降、着替え、排便の基本的機能であるため、ADLを同レベルまで引き上げた上での在院日数の短縮が課題であり、自宅への退院か施設入所かの判断においても差が出てくる可能性が考えられ、今後の検討課題と思われた.【理学療法学研究としての意義】地域連携パスの運用は、在院日数短縮や地域連携の促進において、ますます重要性を増すと思われる.しかし、最終的なADLや歩行様式の帰結に差があるようであれば理学療法の方法、質、練習時間等の面での検討が必要と思われる.以上の面より、今回の比較調査は意義があると思われる.
  • MNA-SFとサルコペニアの検討
    澤田 篤史, 本間 久嗣, 西谷 淳, 中村 宅雄, 目良 紳介
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改定第2版」で、年齢、受傷前歩行能力、認知症、骨折型などが大腿骨近位部骨折患者の予後における影響因子として報告されている。また、ガイドラインでは周術期の栄養介入によってリハビリテーション期間の短縮が期待できると報告されているが、術後の栄養評価に基づいて自宅退院について検討した報告は少ない。我々は、2012年に高齢者を対象にした簡易栄養状態評価表(以下:MNA-SF)を用いて、術後2週時のMNA-SFが、大腿骨近位部骨折患者の自宅復帰を予測するのに有効である可能性を報告した。また、栄養障害に伴って進行するサルコペニアについて、真田らはBMIなどから骨格筋指数(以下:SMI)を推定し、サルコペニアを評価する方法を報告している。我々は、この評価法を基に、サルコペニアがある大腿骨近位部骨折患者はサルコペニアがない者と比べ、自宅復帰率が約50%であることを報告した。したがって、栄養学的因子やサルコペニアが大腿骨近位部骨折患者の自宅退院に影響を及ぼしている可能性あるが、これまでの因子と比べ、栄養学的因子が大腿骨近位部骨折患者の自宅復帰に関する及ぼす影響度は未だ明確ではない。そこで本研究の目的は、大腿骨近位部骨折患者において、栄養学的因子を加えた種々の因子と自宅退院との関連を検討することである。【方法】2010年12月から2012年3月までに当院にて大腿骨近位部骨折にて手術を受けた85名の入院患者のうち、死亡・急性増悪例、受傷前歩行不能例、および他施設からの入院例を除く63例を調査対象とし、退院時の転帰先から自宅群と施設群に分類した。自宅群は45例(男性10例・女性35例、平均年齢75歳)で頚部骨折20例・転子部骨折25例、施設群は18例(男性2例・女性16例、平均年齢83歳)で頚部骨折4名・転子部骨折14名だった。調査項目は、術前項目として年齢、性別、骨折型、術前待機日数、入院時Alb値、BMI、SMIを、術後項目として術後2週のMNA-SF、FIM、健側大腿四頭筋等尺性筋力、健側大腿周径を後方視的に調査した。この調査項目に対し、数値項目はt検定とMann-WhitneyのU検定を、カテゴリー項目は分割表検定を用いて、自宅群と施設群の2群間比較を行った。単変量解析にて有意差が認められた項目のうち、説明変数間の相関関係を認めなった項目を説明変数、転帰先を目的変数としてステップワイズ法による判別分析を行い、各説明変数の順位付けを行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院倫理委員会の承認の下、患者に対し書面による説明と同意を得た上で実施した。【結果】調査項目のうち、2群間比較にて有意差を認めた項目は、年齢、入院時Alb値、SMI、MNA-SF、FIM、大腿四頭筋筋力、大腿周径であった。そのうち、筋力と周径には強い相関関係を認めたため、周径を項目から除外し、残りの5項目について判別分析を行った結果、FIMとMNA-SFが自宅退院を判別するのに重要な因子であった(それぞれp<0.01、p<0.01)。また、その際の2群の判別精度は80%だった。【考察】栄養学的因子について、古庄らは栄養摂取量と術後4週のAlb値が大腿骨近位部骨折患者の歩行再獲得に影響する一因子である可能性を示した。また、濱田らは、術後早期の運動能力が自宅退院に影響している可能性を報告している。本研究では、栄養学的因子として入院時Alb値、SMI、MNA-SFが自宅退院に関する2群間比較において有意な差を示した。判別分析の結果から、術後2週のFIMとMNA-SFが自宅退院を予測する最も重要な因子であることが明らかとなった。MNA-SFは食事摂取量やBMIなどの栄養状態の評価に歩行能力や認知精神機能評価を加えた総合的な評価法であり、大腿骨近位骨折患者の機能的予後に影響を及ぼす因子を多く含んでいる。つまり、術後2週のMNA-SFは、大腿骨近位部骨折患者の包括的評価尺度として予後予測に活用できると思われる。一方、SMIは2群間比較では有意差を認めたものの判別分析での重要度は低かった。今回はBMIからSMIを推定したが、施設群にはBMI18.5以下のやせ型が多かったが、一方でBMI30前後の高度肥満例もおり、2極化している傾向があった。そのことがSMIでの判別精度の低下を招いたかもしれない。【理学療法学研究としての意義】近年、栄養状態を含めた全身状態を評価し、リハビリテーションと栄養管理を同時に行うリハビリテーション栄養の考え方が急速に普及し、栄養障害やサルコペニアがリハビリテーション効果に影響することが報告されている。一方で、栄養状態の視点から大腿骨近位部骨折患者の予後を検討した報告は少なく、未だエビデンスが不十分である。本研究は、簡易栄養状態評価表であるMNA-SFが大腿骨近位部骨折患者の自宅復帰を判別する上で重要な因子であることを示した点で理学療法学研究としての意義がある。
  • 障害予防に向けて
    土居 健次朗, 遠藤 辰明, 河原 常郎, 大森 茂樹, 倉林 準, 門馬 博, 八並 光信
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】足部形態は活動様式や履物,荷重量など様々な要因によって変化が生じる.また,足部形態の違いは歩行などの動作に影響を与え,さまざまな障害を惹起する要因となり得た.第46回本学会で榎本らは外反母趾角度と変形性膝関節症の重症度との関係を示した.第47回本学会で我々は足アーチ構造が歩行立脚期の踵骨動態とCOP軌跡に影響を及ぼすことを示した.また,若年患者は運動靴での活動量が多く,シンスプリントなどのオーバーユース障害が多かった.中年患者は革靴での活動量が多く,足底筋膜炎やアキレス腱周囲炎が多かった.高齢患者は活動量が急激に減少し下肢変性疾患が多かった.本研究の目的は年代別にみた足部形態と足機能の特徴を明らかにすることとした.【方法】対象は足部に変性疾患を有しない男女58名116足(男性28名,女性30名,43.9±22.6歳)とし,下記の通り活動様式の特徴に差の生じる年代で群を分けた.若年群(Y群):13歳以上24歳未満の男性10名,女性9名,15.9±2.4歳.中年群(M群):24歳以上60歳未満の男性11名,女性10名,42.5±11.6歳.高齢群(O群):60歳以上79歳未満の男性7名,女性11名,70.6±5.6歳.計測機器は非接触三次元足形計測装置INFOOT USB Standard type(以下INFOOT,型番IFU‐S‐01,I-Ware Laboratory社製),OGGIKEN製ゴニオメータ,電子スケールSF‐400A(ソフトサービス社製)を用いた.計測項目は1)足部形態:INFOOTを用い座位非荷重下と両側立位荷重下において下記寸法を算出した.足長(mm),足囲(mm),足幅(mm),インステップ囲長(mm),足囲最高点(mm),インステップ囲最高点(mm),第一趾側角度(度),第五趾側角度(度),舟状骨点(mm),アーチ高率(%)(舟状骨点/足長×100),横アーチ高率(%)(足囲最高点/足幅×100),Load Constant(以下、LC)((非荷重位の各寸法‐荷重位の各寸法)/非荷重位の各寸法/体重×100)2)母趾屈曲筋力(kg):端座位にて股関節90°,足関節軽度底屈位となりスケールを第一中足指節関節以遠に設置し母趾屈曲のみで床を押す力とした.3)第2-5趾屈曲筋力(kg):2)同様の肢位にてスケールを第二―五中足指節関節以遠に設置しスケールが第二―第五趾屈曲のみで床を押す力とした.解析方法は上記計測項目の各群間での差の有無を一元配置分散分析にて検証し,多重比較はBonferroni法を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た.対象には,ヘルシンキ宣言をもとに保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを説明した.同意が得られた者のみを対象に計測を行った.【結果】非荷重位では足長でY群(243.76±13.46mm)とM群(237.33±17.75mm)に,横アーチ高率でY群(41.17±3.41%)とO群(39.25±4.00%),M群(41.57±3.51%)とO群に有意差を認めた.荷重位では足長でY群(246.84±13.72mm)とO群(233.41±11.89mm)に,足囲最高点でM群(39.50±3.64mm)とO群(37.4±2.69mm)に,横アーチ高率でM群(39.72±3.63%)とO群(37.21±2.58%)に有意差を認めた.LCでは足囲最高点でY群(0.09±0.07)とM群(0.04±0.01)に,インステップ最高点でY群(0.11±0.05)とM群(0.07±0.05)に,Y群とO群(0.07±0.06)に,舟状骨高でY群(0.2±0.17)とO群(0.11±0.16)に,アーチ高率でY群(0.23±0.18)とO群(0.13±0.16)に有意差を認めた.また,母趾筋力ではY群(3.25±1.77kg)とO群(2.37±0.94kg)に有意差を認めた.【考察】LCはY群とO群の比較でインステップ最高点と舟状骨高とアーチ高率に差を認めた.同様にY群とO群の比較で母趾屈曲筋力に差を認めた.第47回本学会で我々は歩行時底屈モーメントが舟状骨点の変位が大きい程大きくなることを示した.母趾屈曲筋力は蹴り出し時に重要であるため類似した結果であった.足部のLCは足部の緩衝作用を反映していると考えられた.これは,加齢に伴う下肢変性疾患との関係が示唆された.若年では荷重による舟状骨変位量が大きかったため,シンスプリントなどの発生機序との関連が示唆された.また,横アーチ高率は非荷重位と荷重位ともにO群で有意に低値を示した.横アーチの指標は足幅や足囲を用いることが多い.本研究で用いた横アーチ高率は新たな横アーチの評価指標となり得ることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】今回,足部形態と足機能の特徴が年代によって違いが生じることが示唆された.今後,各年代に特異的な障害と足部形態との関わりを明らかにすることで,その障害に対する足部へのアプローチや,それらの障害予防に向けた靴やインソール開発の具体化が可能となると考えた.
  • 高井 聡志, 浦辺 幸夫, 篠原 博, 笹代 純平
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 外反母趾は、母趾MTP関節の外反と内旋を伴う有痛性の疾患である。外反母趾を有する者は、外反母趾角(Hallux valgus angle:以下HVA)が20°以上になり、疼痛を覚えることで診断されることが多い(2008、外反母趾ガイドライン)。HVAの増大とともに、母趾外転筋は足部の底側へ移動し、母趾を外転させる機能が弱くなる。臨床上、外反母趾を有する若年者、高齢者の足部は、回内していることが多い。しかし、足部の回内とHVAが増加するメカニズムは検証されてない。年齢が高まるにつれ、HVAは増加することが多いが、その要因は多種多様であろう。外反母趾を有する者の足部構造(前、中、後足部)について、年齢による違いを示した報告は少なく、検証する必要があると考えた。本研究では、三次元分析で外反母趾を有する若年者と高齢者の足部形状を比較し、それぞれの特徴を示すことを目的とした。仮説として、高齢者の足部は若年者と比較し前、中、後足部がそれぞれ回内していると考えた。【方法】 対象は全例女性で、HVAが20°以上の学生10名(平均年齢22.8±3.8歳)と、老人保健施設に入所している高齢者10名(84.2±2.5歳)、計20名とした。測定姿位は安静立位にて、三次元足型測定装置(アイウェアラボラトリー社)を使用し測定した。足部16ヶ所にマーカを貼付し、8台の小型カメラで足部立体構造を算出し分析に用いた。足部形状の分析には、HVAに加え、前足部、中足部、後足部のアーチ構造の指標をもちいた。前足部の評価には横アーチ長率を用い、第1、5足趾のMTP関節隆起部のなす長さを足幅とし、足長に対する足幅の割合で計算した(横アーチ長率=足幅/足長×100)。横アーチ長率は、値が大きければ足部横アーチは低下しているものとした。中足部の評価には、アーチ高率を用い足長に対する舟状骨高の割合で求めた(アーチ高率=舟状骨粗面高/足長×100)。後足部の分析にはレッグヒールアングルを用いた。レッグヒールアングルは、角度が大きいほど後足部が回内しているものとした。若年者、高齢者の足部形状の比較には、対応のないt検定を用い、危険率5%未満を統計学的に有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、介護老人保健施設エルダーヴィラ氷見倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号0001)。【結果】 HVAは若年者で21.8±1.9°、高齢者で31.3±5.4となり、高齢者が若年者と比較し有意に大きい値となった(p<0.01)。横アーチ長率は若年者で41.7±0.9%、高齢者で43.7±1.7%となり、高齢者が若年者と比較し有意に大きな値となった(p<0.05)。アーチ高率は、若年者で17.5±1.8%、高齢者で17.9±7.4%とり若年者と高齢者の間に有意差は認められなかった。レッグヒールアングルは若年者で2.4±2.7°、高齢者で0.9±3.9°となり、若年者と高齢者では有意差は認められなかった。【考察】 本研究の対象の若年者、高齢者の外反母趾はそれぞれ、軽度と中等度と判断されるものであった。横アーチ長率は高齢者が若年者より有意に大きい値となり、高齢者の方が、横アーチが低下していた。また、アーチ高率、レッグヒールアングルは、若年者、高齢者との間に有意差を認めなかったことから、HVAの増加が足部横アーチ機能に関連がある可能性が考えられた。高齢者のHVAは中等度であったことから、母趾外転筋の機能は若年者と比較して低下している可能性が高く、母趾外転筋の機能や母趾アライメントの違いも前足部の形状に影響を与えているのかもしれない。また、母趾外転筋は足部の縦アーチとして、アーチの剛性を高めるとの報告もあるため、中足部、後足部にもHVAの増加は影響を与えることが考えられる。本研究では、アーチ高率、レッグヒールアングルには若年者と高齢者の間に有意差は見られなかったが、今後注意深い検証が必要である。今回は外反母趾がない者との比較を行っていないため、一般的な足部アーチと比較しどれくらい低下しているのかは不明である。今後健常な足との比較もおこない検証を進めたい。【理学療法研究としての意義】 筆者らは、外反母趾に対する運動療法(随意的な母趾外転運動)を実施し、HVAの減少に加えて、母趾外転筋の筋力、筋活動が増加することを報告している(2012、高井ら)。本研究により外反母趾の運動療法で注意すべきポイントが示された。外反母趾を有する高齢女性では、足部横アーチ低下を認め、運動療法を実施するうえで注目しておくべきであろう。
  • 遠藤 辰明, 土居 健次朗, 大森 茂樹, 河原 常郎, 倉林 準, 門馬 博, 八並 光信
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 足部は身体の中で地面と唯一接触している部位であり、身体制御に重要な役割を担っている。入江らによると、内反小趾角と踵骨外反傾斜の増大は重心動揺の増大に関与するとした。臨床現場において、外側不安定性に対する小趾機能低下は、よく経験することである。外側不安定性を呈する場合は小趾の機能改善により重心動揺を軽減でき、内反小趾角増大を抑制することが一つの手段であると考えられた。外反母趾の特徴を検討した報告は多数みられるが、内反小趾角が増大する者の特徴を検討した報告は少ない。今回、荷重時の内反小趾角の増大がその他の足部形態に与える影響を検証した。【方法】 対象は平成24年7月から10月に当院に来院された足部に変性疾患のない57名113足(男性25名、女性32名、年齢43.8±22.2歳)とした。足形計測には(株)I-ware Laboratory社製のINFOOT USB Standard type(IFU-S-01)を使用した。計測肢位は片脚立位(荷重位)と座位(非荷重位)にて行った。片脚立位では、上肢での支えをありとして、非検査側の股・膝関節軽度屈曲位にて地面に接地しない程度に浮かせて保持させた。座位では、股・膝関節屈曲90°位、股関節内外転中間位、足関節中間位で保持させた。計測項目は足長、足幅、足囲最高点、第1趾側角度、第5趾側角度、舟状骨点高、踵骨傾斜角とし、計測した数値から内側縦アーチ高率(舟状骨点高/足長×100)、横アーチ高率(足囲最高点/足幅×100)を算出した。第1趾側角度、舟状骨点高、踵骨傾斜角、内側縦アーチ高率、横アーチ高率の荷重位と非荷重位の差分を体重で正規化し、各項目の定数を算出した。各項目を第5趾内反群(以下、内反群)と第5趾外反群(以下、外反群)の2群に分けた。解析は各項目の群間差を2元配置分散分析にて検証した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明し同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】 横アーチ高率定数は内反群-0.03±0.03、外反群-0.04±0.05、舟状骨高定数は内反群-0.05±0.06、外反群-0.09±0.11、第1趾側角度定数は内反群-0.003±0.06、外反群は0.03±0.05、内側縦アーチ高率定数は、内反群-0.03±0.03、外反群-0.04±0.05であった。横アーチ高率定数のみ有意差を認めた(p<0.05)。内反群は外反群に比べて横アーチ高率定数の低下が大きかった。【考察】 本研究より、内反群と外反群において横アーチ高率の間に差が認められた。今井らは外反母趾罹患者の研究で、外反母趾角がLeg Heel Alignmentとの間に負の相関、横アーチ長率との間に正の相関があると報告した。同様に第5趾側角度が踵傾斜や横アーチと関係すると推測したが、本研究では踵傾斜との関係は認められなかった。第1列と踵は運動連鎖による相互関係が強く、第5列と踵は運動連鎖による相互関係が弱いことが示唆された。また、横アーチの低下は内反小趾角の増大に関与することが示唆された。横アーチは左右方向へのバランスの維持に関与する。入江ら、熊王らは第5趾側角度と重心動揺に正の相関があることを示した。荷重は横アーチを低下させるため、第5中足骨外転、第5基節骨内転に作用し、第5趾側角度が増加したと考えた。よって、左右方向へのバランス能力向上には横アーチの保持に加え、小趾屈筋などの第5趾へのアプローチが重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 重心の左右動揺は足関節内反捻挫発症のリスクとなる。今回、荷重により第5趾側角度増大や横アーチの低下が起こることが示唆され、これらは左右重心動揺の増大因子と考えられた。今後は、第5趾内反群・外反群と重心動揺との関係を追究すること、捻挫発症者での検証することが必要であった。そして、第5趾に対するアプローチから足関節捻挫の予防に繋げていきたいと考えた。
  • アーチ低下による疼痛発生メカニズムの検討
    清水 新悟, 横地 正裕, 竹中 裕人, 宮地 庸祐, 古田 国大, 鈴木 惇也, 猪田 邦雄, 花村 浩克
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】扁平足を呈する人はスポーツや走行時などに何らかの異常ストレスがかかり、足底部に疼痛が出現することがある。我々の先行研究によると扁平足の疼痛および胼胝の出現頻度は第1中足骨頭や第2中足骨頭、第3中足骨頭、踵骨などの地面と接する箇所、足底全体では内側部の方に高かった。そこで実際に各足底部位にかかる圧力に差があるのかを明確にするために歩行時の正常アーチ足と低アーチ足の足底にかかる圧力の比較を行なった。また足圧中心軌跡の比較も行ない、低アーチ足が足に及ぼす影響を検討した。【対象と方法】対象は下肢の骨折や外傷など特記すべき既往歴のない健常者18例36足であり、全例がボールを蹴る足が右であった。これらの症例に対しアーチの評価を行い、正常アーチ群と低アーチ群に分類して足底圧力と足圧中心軌跡の比較を行った。アーチの評価は床面から舟状骨下端までの距離を足長で除した値に100を掛けた内側縦アーチ高率を用いた。正常アーチ足は内側縦アーチ高率が男性16.5%以上、女性14.7%以上とした。低アーチ足群(扁平足変形)は内側縦アーチの低下で内側縦アーチ高率が男性16.4%以下、女性14.6%以下とした.足底圧力と足圧中心軌跡はモンテシステム・ソリューションのRS scan(300Hertz)を用いて歩行時の足底圧力10 zone(母趾、2~5趾、第1中足骨部、第2中足骨部、第3中足骨部、第4中足骨部、第5中足骨部、アーチ中央部、踵部外側、踵部内側)と足圧中心軌跡の座標を測定し、その結果を正常アーチ足群と低アーチ足群との間で比較した。足底圧力は体重と重力9.8で除した値とし、足圧中心軌跡は足長と足幅で除した値とした。統計学的解析はwinstatを用いてMann-Whitney 検定とspearmanの順位相関係数を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の目的と方法、健常者としての権利および個人情報の保護について書面と口頭にて十分な説明を行い、同意を得た。なお本研究は三仁会あさひ病院の倫理委員会の承認を得た。【結果】正常アーチ群と低アーチ群に分類した内訳は、左正常アーチ足(女性6足、男性3足)が9足、左低アーチ足(女性2足、男性7足)が9足、右正常アーチ足(女性6足、男性3足)が9足、右低アーチ足(女性2足、男性7足)が9足であった。足底圧力は左が低アーチ群で第1中足骨、第3中足骨、第5中足骨、アーチ中央部、踵部外側、踵部内側において有意に高く(p<0.05)、右は低アーチ群でアーチ中央部において有意に高い値を示した。足圧中心軌跡は左右ともに低アーチ群で正常アーチ群と比べて、一定ではなく内側寄りとなり、不規則な波形を示した。立脚中期時の足圧中心X座標は正常アーチ足と低アーチ足で比較したところ、左がp=0.0153、右がp=0.1769となり、左低アーチ群が正常アーチ群と比べて有意に内側寄りの軌跡であった(p<0.05)。【考察】通常、アーチが低下する扁平足は床との接触面積が増加するため、地面と接する箇所の圧力は低下すると考えられるが、今回の結果では扁平足の方が、明らかに圧力が増加していた。これはアーチの衝撃吸収機能が低下したことにより圧力が増加した可能性がある。実際に本研究結果は我々の先行研究で行った疼痛箇所に関するデーターとも一致しており、衝撃吸収機能の低下が疼痛発生メカニズムの一要因と思われた。また不規則な足圧中心の軌跡は、扁平足の疼痛が足底の様々な箇所に生じることに関連しているとも考えられた。さらに足圧中心の軌跡が内側に寄っていることは、疼痛発生部位が内側に多いことに関与しているのではないかと推察した。【理学療法学研究としての意義】アーチ低下による足底の圧力増加や足圧中心の内側寄りで不規則な軌跡から足部への負担増加による様々な疾患が出現する可能性が示唆された。実際アーチ低下が原因の1つといわれている足部疾患は多数あるが、そのメカニズムが明確にされているわけではない。本研究結果は、そのメカニズムを解明する一助となるとともに足部疾患の治療方法を考える上でも意義のある内容であると考える。
  • 縦断研究による試み
    城下 貴司, 福林 徹
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】 我々は足趾底屈エクササイズを考案した。第43回および第46回本学術大会で足趾エクササイズの臨床研究および筋電図解析を行い、その根拠を示してきた。第47本学術大会では足趾底屈エクササイズと足内側縦アーチ(MLA)の関係を明らかにするためにMLAの形態学的変化に着目し横断研究を行った、しかしいくつかの限界があった、験者が1人でありバイアスを取り除くことができない、横断研究であるが故に原因と結果を明確にできない等である。 以上から本研究は、コントール群、タオルギャザリングエクササイズ(TGE)群、母趾底屈エクササイズ群、母趾以外の足趾底屈エクササイズ群に振り分け5週間の足趾トレーニングを行った。トレーニング前後の比較し足趾エクササイズとMLAの形態学的関係を明確にすることを目的とする。【対象と方法】 対象は、特に足趾運動をしても問題なく、過去6ヶ月間足関節周囲の傷害により医療機関にかかっていない健常者40名,40足(男性20名、女性20名)、平均年齢20.6±0.64歳、平均身長164.9±8.4cm、平均体重 57.7±10.1 kgであった。コントロール群、母趾底屈エクササイズ群、母趾以外の足趾底屈エクササイズ群、TEG群に被験者を各々10名(男性5名、女性5名)に分類した。 測定項目は、Brody(1982)が考案したNavicular Drop(ND)、Williams(2000)らが提唱しているArch Height(AH)、足関節背屈可動域(膝伸展位)とした。尚、NDは既に我々が信頼性を報告(臨床スポーツ2011)し推奨した坐位足部荷重量20%で計測した、AHとは足趾を除く足長の長さに対する足背部の高さのことである。 各群の抵抗と頻度については、先行研究に従ってTGEは足趾完全伸展から完全屈曲までを1日3分間3回を施行した。各足趾底屈エクササイズについては端坐位姿勢で膝上に重りをのせ、頭部が膝の直上にくるまで体幹伸展位で前傾させた、そして約80%MVC程度の抵抗となるように指導し1日10回3回足趾底屈エクササイズを施行した、母趾群は母趾頭のみ(IP関節中間位、MP関節伸展位)を母趾以外群(DIP伸展位、PIP屈曲位)は母趾以外の趾頭を台の上にのせた。また日常生活上、足趾を意識させるためにポロンソフト2mm厚のパッド(10×10mm)を母趾群は母趾頭に、母趾以外群は母趾以外の趾頭に貼付することも併せて指導した。コントロール群は普段通りの日常生活活動をさせた。すべてのトレーニング期間は5週間とした、トレーニング前後を各々のパラメーターで比較した。 統計処理は、各群のトレーニング前後の比較をWilcoxonの符号順位検定で各トレーニング前後の変化量をKruskal Wallis検定後Mann-Whitney検定で比較した。尚、Wilcoxonの符号順位検定およびKruskal Wallis検定の有意水準は5%未満、Mann-Whitney検定の有意水準は1%未満とし統計ソフトはIBM SPSS Statistics19を使用した。【説明と同意】 すべての被験者に対して、実験説明書予め配布し研究の主旨と内容について十分説明をした後、同意書に著名がされた。また本研究は群馬パース大学および早稲田大学の倫理委員会の承認のもと行った。【結果】 TEG群では、NDは変化を示さずAHでMLAが有意に低下し足関節背屈可動域が9.8°からトレーニング後13.3°となり有意に増加した(p=0.012<0.05)。母趾底屈エクササイズ群では、いずれの測定項目も変化を認めなかった。母趾以外の足趾底屈エクササイズ群では、NDが5.11mmから 3.13mmと約2mm有意にMLAが低下しなくなった(p=0.007<0.05)。 トレーニング前後のND変化量については、コントロール群(約0.47mm)、TGH群(約-0.06mm)、母趾底屈エクササイズ群(0.01mm) に対して母趾以外の底屈エクササイズは1.98mmとなり、いずれの群よりも有意にMLAが低下しなくなった(p=0.001<0.05、p=0.002<0.01、p=0.007<0.01)。【考察】 母趾以外の足趾底屈エクササイズで有意にMLAが低下しなくなった、すなわちMLAの剛性が促通された、その傾向は他のトレーニング群やコントロール群と比較しても顕著であった。解剖学的に第1足根中足関節と2から5足根中足関節は独立した関節包を持つとされている 、母趾と外側4趾は分離してとらえる必要性が示唆された。一方でTGEはNDで変化を示さずAHではアーチが低下する傾向を示したが足関節背屈可動域が増加した、母趾以外の足趾底屈エクササイズ群と対称的であった。我々の臨床研究や横断研究と類似した傾向を示し、今日までの研究の妥当性が示唆された。 一方で、測定結果を予測できない理学療法学科学生が主に測定者とした、測定前に充分な練習を積んだが測定誤差を避けられない、その点も注意して解釈する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 臨床上、MLAを促通するに母趾以外の足趾に着目すべきこと、TGEの再考が示唆された。
  • 長時間の立ち仕事を行う女性を対象とした効果検証
    石橋 健, 田澤 智央, 倉田 勉, 矢内 宏二, 笹原 潤, 小黒 賢二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年、足部アーチサポートによる疲労軽減効果を謳う機能靴下が流通している。我々は先行研究において機能靴下による即時的なアーチサポート効果を確認している。しかし、機能靴下を長時間装着した際のアーチサポート効果や疲労軽減効果は明らかにされていない。そこで、本研究では足底や下腿後面の疲労の訴えが多いとされる長時間の立ち仕事を行う女性(以下、勤労女性)を対象に、機能靴下によるアーチサポート効果、疲労軽減効果を検証した。【方法】対象は当院に勤務する女性20名(平均40.7±7.7歳)の左右40足とした。尚、明らかな足底腱膜炎の症状を訴えたものは除外した。使用した靴下は機能靴下と通常靴下とし、2日に分けて各靴下を勤務中に装着させた。靴下を装着する順番は無作為に決定した。測定項目は勤務中の歩数、勤務前後の下腿後面疲労感、足底疲労感、下腿内側後面の筋硬度(以下、筋硬度)、足底腱膜起始部の圧痛閾値(以下、圧痛閾値)、片脚立位時の足底圧及び重心動揺とした。疲労感はVAS(visual analogue scale)を使用し0-100で評価した。筋硬度と圧痛閾値の測定には組織硬度計/圧痛計OE-220(伊藤極超短波社製)を使用し3回ずつ測定し平均値を用いた。片脚立位時の足底圧と重心動揺は同時計測し、片脚立位10秒間、左右各3セット行い、測定は裸足にて行った。足底圧はFscanⅡ(ニッタ社製)を用いて測定し、片脚立位のArch Index(以下AI)、Modified Arch Index(以下MAI)を算出した。重心動揺はBalance Master (日本光電社製)を用いて測定し、片脚立位時の総軌跡長、外周面積、矩形面積を算出した。歩数は対応のあるt検定を用いて靴下間の比較検討を行い、他の項目は勤務前後の測定値の差から変化量を求め、同様の比較検討を行った。尚、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】各対象者には本研究を実施するにあたり研究目的や方法を十分に説明し同意を得た上で行った。【結果】各測定項目の変化量は機能靴下、通常靴下の順に下腿後面疲労感は12.50、33.10、足底疲労感は15.60、33.80、筋硬度は0.38、2.86となり、機能靴下が有意に疲労を抑えた。圧痛閾値は-1.26、-0.84となり、有意な差を認めなかった。AIは-0.0016、-0.0022となり、有意な差を認めなかった。MAIは-0.007、0.013となり、機能靴下が有意に足部アーチの低下を抑えた。総軌跡長は-0.32、0.44、矩形面積は-0.08、0.17となり、有意な差を認めなかった。外周面積は-0.25、0.23となり、機能靴下が有意に重心動揺を減少させた。歩数は6924歩、7068歩と有意な差を認めなかった。【考察】長時間の立位や歩行による荷重負荷は足部アーチを低下させ、下腿筋群の筋活動の需要を高め、筋疲労が生じると考えられる。そのため筋力的に不利である女性において足底や下腿後面の疲労を訴えることが多い。本結果では機能靴下の使用は通常より足部アーチの低下を抑え、足部・下腿の疲労を軽減した。背景には機能靴下の繊維張力が、本来維持されるべきアーチサポートに関わる諸機能を補ったためと考えられる。また一般的に、疲労により重心動揺は増加するが、機能靴下使用後には重心動揺は減少した。これも機能靴下による下腿筋群の疲労軽減が影響していると推察される。また当初、我々は足部アーチの低下に伴い、足底腱膜起始部の圧痛が生じると予測していたが、圧痛閾値では靴下間に差を認めなかった。足底疲労の指標として圧痛閾値は不適切であったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】勤労女性を対象に足部アーチサポートを目的とした機能靴下の効果を検証した。機能靴下は勤労女性の愁訴である足底や下腿後面の疲労を抑えることができた。機能靴下はアスリート、スポーツ愛好家のみならず、勤労女性に対しても推奨できる。
  • 工藤 賢治, 山本 澄子, 櫻井 愛子, 四宮 美穂, 石渡 圭一, 畔柳 裕二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 変形性股関節症(変股症)は股関節の機能低下が原因で起こる側方への過剰な骨盤傾斜や体幹動揺など前額面での歩容異常が特徴的である。変股症はHip-Spine Syndrome(HSS)の代表的疾患でもあり、股関節の影響から脊柱の前額面の動きに制限が生じていることが多い。変股症に対しては人工股関節全置換術(THA)が施工されることが多いが、THA後に股関節機能が改善しても脊柱の動きに制限が残存すると歩容の改善が不十分になる可能性が考えられ、股関節からの影響を排除した脊柱自体の評価が重要となる。また、脊柱の動きは加齢による影響も受けるため、加齢による制限と変股症による制限を区別することも変股症の歩容改善のために重要となる。 今回の目的は、股関節の影響の少ない座位での側方移動動作における脊柱アライメントについて変股症患者の術前(術前群)術後(術後群)と健常高齢者(高齢者群)及び健常若年者(若年者群)間で比較検討し、変股症が脊柱の動きに及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】 対象は変股症患者3名(年齢64±8歳、日本整形外科学会X線病期分類:進行期2例、末期1例、術式:THA)と健常高齢者6名(66±5歳)、健常若年者10名(26±3歳)とした。変股症患者は片側性に有痛症状があり、脊椎及び両下肢に手術の既往がないものとし、同一対象者について術前日、術後約4か月に計測した。 X線撮影は整形外科医の指示のもと診療放射線技師により行われ、静止座位と側方移動時(患側・健側)の3条件における全脊柱を撮影した。撮影肢位は、椅子の上に設置した2台の体重計の境界線上に被験者の仙骨稜を位置させ、股関節内外転・内外旋中間位、股・膝・足関節90°屈曲位で撮影する静止座位、静止座位時の2つの体重計の合計値を基準に、片側の体重がその80%となる位置まで側方移動する80%荷重位とした。側方移動時はできる限り骨盤を動かさず胸郭を側方に平行移動するよう口頭指示した。 撮影したX線画像から、前額面における第1胸椎から第6胸椎を上位胸椎、第7胸椎から第12胸椎を下位胸椎とし、腰椎も含めて脊柱を3分節に分け、それぞれの側屈角度及び側方移動量を計測した。側屈角度は各分節の最上位の椎体の上関節面と最下位の椎体の下関節面の側方傾斜角度の差、側方移動量は両椎体の中心間の側方距離とした。なお、算出データはすべて荷重側方向を正とし、側方移動量は実測値を静止座位の第1・5腰椎両椎体の中心間の鉛直方向距離で除した値で表した。統計処理には多重比較(steel法)を使用し、80%荷重位における各分節の側屈角度と側方移動量について各群の平均値を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 計測に先立ち、全対象者に文書及び口頭にて研究の趣旨を説明し、同意書への署名をもって同意を得た。なお、本研究計画は国際医療福祉大学の倫理審査会の承認を得ている。【結果】 80%荷重位の各分節の側屈角度と側方移動量について若年者群を対照群とし高齢者群、術前群及び術後群との比較を行った。下位胸椎側屈角度は若年者群に比べ他の3群全てで有意に大きかった(全てp<0.05)。腰椎側方移動量は若年者群に比べ高齢者群で有意に大きく(p<0.05)、術前群で有意に小さかった(p<0.05)。下位胸椎側方移動量は若年者群に比べ高齢者群及び術後群で有意に大きかった(ともにp<0.05)。上位胸椎側方移動量は若年者群に比べ他の3群全てで有意に大きかった(全てp<0.05)。その他の項目では有意差はなかった。【考察】 下位胸椎側屈角度は若年者群に比べ他の3群全てで大きかった。80%荷重位では腰椎で荷重側へ側屈し下位胸椎で反対側に立ち直る傾向があり、下位胸椎側屈角度の増大は反対側への立ち直り角度の制限を意味する。変股症の有無ではなく年齢の異なる群間で有意差があったことから立ち直り角度の制限は加齢によるものと思われる。側方移動量については若年者群に比べ高齢者群では腰椎以上で、術後群では下位胸椎以上で、術前群では上位胸椎で側方移動量が大きくなった。このことから変股症によって下位胸椎及び腰椎の側方移動量が制限され、術後において下位胸椎では改善するが腰椎では制限が残存する可能性が示唆された。今回は股関節の影響の少ない座位での検証であり、腰椎での動きの制限が股関節機能改善後も残存する可能性は十分に考えられ、術後の歩容異常の要因となる可能性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 変股症において術後も術前の歩行戦略が残存することは知られており、その戦略を決定する要因が腰椎の側方への動きである可能性は十分に考えられる。今後、股関節機能や歩行分析と合わせて検証することで変股症の歩容改善のための理学療法の一助になると考える。
  • 二木 亮, 高山 正伸, 阿部 千穂子, 小西 将広, 陳 維嘉, 長嶺 隆二
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 人工股関節全置換術(以下、THA)後の股屈曲角度は術後日常生活活動(以下、ADL)動作との関連が強いとされている。そのため術前より術後屈曲角度を予測できれば、術後理学療法における可動域獲得の指標となるだけでなくADL動作指導の参考となる。THA後の股屈曲角度を予測した報告は少なく、改善率を用いて予測した報告は見当たらない。そこで本研究の目的はTHA後早期の股屈曲角度を改善率によって予測が可能であるか検討することである。【対象と方法】 対象は2009年6月から2012年10月までに当院で施行したTHA151例157股のうち、変形性股関節症以外でTHAとなった症例、後側方進入法以外のTHA、再置換術を行った症例を除外した初回THA71例71股とした。内約は年齢68.0±8.6歳、男性7股、女性64股であった。全例とも機種はJMM社製 Kyocera PerFix 910 Seriesであった。カップ設置角度の平均値は前方開角12.3±6.0度、外方開角43.2±6.0度であった。 後療法は術翌日より全荷重が許可され、疼痛に応じて自己他動または他動運動での関節可動域運動を開始した。評価項目は術前・術後3週の股屈曲角度とした。角度の計測は他動にて柄の長いゴニオメーターを使用し日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の方法に準じて1度単位で測定した。改善率は術後3週角度/術前角度×100にて算出した。 統計学的検定は従属変数を改善率、独立変数は年齢、体重、術側術前角度、反対側術前角度としステップワイズ法により回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的と内容を説明し同意を得た。【結果】 術前屈曲角度の平均値は術側89.1±16.8度、反対側104.2±19.3度、術後3週のそれは術側88.8±8.1度、改善率は103±20.2%と術後3週での屈曲角度は術前とほぼ同等まで改善していた。改善率は術前角度が良好であるほど低くなり、術前角度が不良であるほど高くなる傾向であった。ステップワイズ法による回帰分析の結果、改善率に影響を与える因子として術側術前角度が採用され回帰式にて表された。数式は[改善率=197.012-1.054×(術側術前角度)]、決定係数は0.77であった。【考察および結論】 THA後の股屈曲角度を予測した報告ではオシレーション角、カップの外方開角、前方開角、ネックの前捻角、ネック水平面からの角度によって人工関節自身の可動域を予測した吉峰らの報告が知られているが、臨床的には予測された人工関節自身の可動域と同等の可動域を獲得することが困難である。そのため軟部組織による影響を考慮した臨床的可動域の予測が必要であると考えられる。 THA後の臨床的屈曲可動域を予測する因子としては術側術前角度に加えて反対側角度を用いた報告も見られるが、改善率を用いた本研究では術側術前角度のみで予測が可能であった。また今回得られた回帰式は決定係数が0.77と当てはまりがよく、諸家らの報告と比べても優れた結果であった。THA後早期の股屈曲角度には術側術前角度が最も影響していたことから、術前はもちろんのこと保存期からの理学療法の関わりが術後の良好な可動域改善に重要であると思われる。 THA後の靴下着脱動作や爪切り動作の獲得はADLの向上において不可欠であると考えている。筆者らは靴下着脱動作を開排位にて獲得するためには屈曲85度以上もしくは屈曲+外旋110度以上が必要であると報告した。今回得られた回帰式を用いると術前屈曲70度であれば改善率が120%となり術後3週で屈曲86度に達すると予測され、開排位での靴下着脱動作の獲得が期待できる。一方で術前屈曲角度が70度未満である場合でもあらかじめ開排位以外の靴下着脱方法を選択して指導することも可能である。当院の退院時期は3~4週間が目安であるため本研究では術後評価日を3週と設定した。しかしTHA後の股屈曲可動域は術後1年まで改善が見込まれるとの報告もあり、術後3週で動作を獲得できていない症例であっても術後1年までに可動域改善による動作獲得は可能であると考えられる。そのため今後は長期成績について改善率から予測可能であるか検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から改善率はTHA術後早期の股関節屈曲可動域の予測に有用であることが明らかとなった。今後は長期的な検討が必要である。
  • 術前理学療法の必要性について
    濱崎 圭祐, 妹尾 賢和, 澤野 靖之, 石垣 直輝, 平尾 利行, 田巻 達也, 老沼 和弘
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年の診療報酬包括化や手術手技の進歩により,人工股関節置換術(THA)患者の在院日数は短縮傾向にある.当院では前方進入法による人工股関節全置換術(DAA-THA)に対してクリニカルパス(パス)を導入し,2012年2月から術後4日目退院(在院期間6日)のパスを運用している.現在我々はその運用とともにパスの妥当性の検証を進めているがADLとの関連性は検証されていない.そこで本研究の目的は,片側DAA-THA術後4日目退院パスの達成率を検討し,パスを達成できなかった症例のADL状況をWOMACを用いて調査することである.【方法】2012年2月から5月までに施行した片側DAA-THA137例(初回THA129例,revision THA8例)を対象とした. 内訳は女性122名,男性15名,平均年齢69.3歳(38-87歳)であった.各診断名は,変形性股関節症120例,大腿骨頭壊死症3例,大腿骨頚部骨折術後4例,関節リウマチ2例,revision THA8例であった.検討項目はパスの妥当性に対して在院日数,パス達成率,退院先,合併症の有無を調査した.理学療法におけるアウトカムは,階段昇降自立,300m以上のT字杖歩行自立,屋外歩行自立と3点である.またADLの調査は術前のWOMAC点数,入院期間中の各退院基準獲得日数を調査した.WOMACは股関節および膝関節の変形性関節症患者の健康状態を測る自己記入式の評価表であり,THAの術後評価法としても推奨されている.内容は痛み,こわばり,身体機能面に分かれており,健康状態が悪いほど合計点数が高値を示す.術前のパス達成群とパス非達成群のWOMAC合計点と各項目点をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した.また,パス達成群とパス非達成群の入院期間中の各退院基準獲得日数をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した.それぞれ有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき対象者に人権擁護がなされていることを説明し同意を得て実施した.【結果】術後の退院までの日数は4.4±1.9日であり,パス達成率は88.3%であった.全症例が自宅へ退院し,感染,症候性静脈血栓塞栓症,再手術を要した症例はなかった.術前のWOMAC合計点はパス達成群42.6±19.6点,パス非達成群55.3±10.3点,痛みの点数ではパス達成群9.3±5.9点,パス非達成群10.5±3.37点,こわばりの点数ではパス達成群3.7±2.1点,パス非達成群4.2±1.1点,身体機能面の点数では,パス達成群29.7±15.2点とパス非達成群40.3±7.7点となり,合計点,身体機能面において有意差を認めた.痛みとこわばりにおいて有意差はみられなかった.退院基準の獲得日数は,階段昇降でパス達成群2.3±0.5日,パス非達成群4.3±3.8日,T字杖歩行はパス達成群2.6±0.5日,パス非達成群5.3±4.2日,屋外歩行はパス達成群3.1±0.5日,パス非達成群6.4±4.2日であった.すべての項目でパス非達成群の獲得日数が有意に遅延していた.【考察】DAA-THAの術後4日目退院クリニカルパス達成率は88.3%であった.阿部らはクリニカルパスには80%程度の症例がパス通りにケアが進み,20%は逸脱,脱落するとされる80-20ルールがあると述べている.本研究の結果からも80-20ルールで判断すると20%までの逸脱が許されると考えられ,妥当性が証明された.更に在院期間の短縮に起因する合併症を認めず,退院時歩行能力も問題のない結果であった.またWOMACの調査結果から,パス達成群に比べパス非達成群が,術前におけるWOMACの合計点が高く,特に身体機能面の点数が高い結果となり,術前の身体機能低下が退院基準の獲得日数遅延と関連することが示唆された.WOMAC身体機能面の点数が高い,つまり身体機能が低い患者に対して術前から可動域,筋力向上を目的とした理学療法を行うことにより,ADL動作の早期獲得が可能となりパス達成率の向上につながる可能性があると考える.【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,当院のDAA-THA術後4日目退院パスは妥当性が証明されたが,パスの非達成群は存在する.パス達成率の向上のために,術前からWOMACの調査を行い,身体機能の低下が見られる患者に対して術前理学療法を行うことが重要である.
  • -10m歩行速度との関連性-
    小松 絵梨子, 妹尾 賢和, 澤野 靖之, 石垣 直輝, 平尾 利行
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-O-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】当院ではDAA-THAを施行しており、術後3週から筋力トレーニングを開始し、術後12週において日常生活動作やスポーツ活動を制限なく許可している。また術前後の歩行能力の評価として10m歩行速度測定に加え、2ステップテストを導入している。2ステップテストに関する先行研究では健常者等を対象に10m歩行速度、6分間歩行テスト、Functional reach、Time up and go、立ち上がりテストなどの機能評価との相関があり、日常生活の自立度や高齢者転倒リスクを簡便に推測し得ると示している。また2ステップ値1.0以上で歩行自立度が高いと報告されている。厚生労働省でも転倒リスク評価のセルフチェックの項目として2ステップテストを紹介しており、近年普及されつつある評価法である。しかし、変形性股関節症患者やTHA術後患者における2ステップテストの関連性を述べた報告はない。そこで我々は、THA術前後の各時期における2ステップ値と10m歩行速度の関連性とその有用性を検討した。【方法】対象は2012年4月~8月に当院にて進行期、末期の変形性股関節症と診断され、DAA-THAを施行した55名67股(女性49名、男性6名)、平均年齢61.9(36-85)歳、平均身長156.2±7.4cm、平均体重55.4±9.8kgを対象とした。内訳は両側同時THA12名、片側THA43名であった。crowe2型以上の変形性股関節症や特発性大腿骨頭壊死、骨折例は除外した。測定は術前、術後3週、術後6週、術後12週時に実施した。10m歩行速度は十分な練習を行った後、10m測定区間の手前3mから歩行を開始し、16m地点を歩行終了位置とした。測定にはストップウォッチを用いて1/100秒単位で計測し、可能な限り最大努力で1回測定した。その際杖の使用は許可した。2ステップテストとはバランスを崩さずに実施可能な最大2歩幅長(開始肢位の両側つま先から最終肢位のつま先までの距離)を身長で除した値である2ステップ値を算出する方法である。測定にはメジャーを用いて1cm単位で計測し、2回測定のうち最大値を採用した。先行研究により踏み出し脚による左右差はないと報告されているため(r=0.99、P<0.001)、踏み出し脚は指定せず踏み出しやすい脚から実施した。ただし2回目も同脚となるように実施した。また級内相関係数ICC=0.92で良好な再現性が証明されている。統計学的処理は、各時期における2ステップ値と10m歩行速度の関連性をSpearmanの相関係数を用いて検討し、有意水準は5%とした(SPSS Ver.12.0)。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき対象者に人権擁護がなされていることを説明し同意を得て実施した。【結果】2ステップ値と10m歩行速度の相関係数は、術前r=-0.717、術後3週r=-0.727、術後6週r=-0.703、術後12週r=-0.748であり、すべての時期において高い負の相関を認めた(P<0.01)。【考察】先行研究では2ステップテストは広い測定空間を必要としない簡便な評価法であり、高い再現性が証明されている。身長を指標としているため、医療者側だけでなく患者本人にも理解しやすい目標値の提示を可能とすることから、臨床における有用性は高い。村永らは健常者等を対象に2ステップ値と最大努力10m歩行速度は高い相関があると報告しているが、各疾患における報告は少ない。本研究ではTHA術前後において2ステップ値と10m歩行速度に高い相関が見られた。2ステップテストは変形性股関節症患者やTHA術後患者の歩行能力を簡便に推定する方法として有用であると考える。【理学療法学研究としての意義】2ステップテストは、代表的な歩行能力推定法である10m歩行速度や6分間歩行テストなどと比較して、広い測定空間を必要としない簡便な評価法であり、厚生労働省などでも転倒予防の指標として広く取り上げられている。現在は高齢者や健常者を中心に報告されているが、本研究より変形性股関節症患者、THA術後患者において歩行能力を簡便に推定する方法として2ステップテストの有用性が示唆された。
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