国際保健医療
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原著
  • 上里 佳那子, 坂本 真理子, 若杉 里実, 淺野 いずみ
    2025 年40 巻2 号 p. 47-58
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/24
    ジャーナル フリー

    目的

      在日ベトナム人女性の妊娠期から育児期における体験と、どのようなソーシャル・ネットワークを通じて情報を収集したかを明らかにすることを目的とした。

    方法

      愛知県に在住し、出産当時日本語を話すことができなかったベトナム人女性5人を対象に半構造化面接を行った。希望者はベトナム語通訳を通し、妊娠中から産後1年間の体験と情報収集方法、情報収集内容について語ってもらった。逐語録から妊娠期から育児期の体験に関する内容とソーシャル・ネットワークに関する内容を抽出し、意味のまとまりごとにコード化を行った。その後質的帰納的分析方法でサブカテゴリーを抽出し、カテゴリーを生成した。

    結果および考察

      5人のベトナム人女性にインタビューを実施した。研究協力者の平均年齢は32.2(29-35)歳、在留期間は平均7.2(4-12)年であった。

      在日ベトナム人女性の妊娠期から育児期における体験は14カテゴリーが生成され、ソーシャル・ネットワークは8カテゴリーが生成された。

      研究協力者らは、【日本の健診や予防接種システムに対する満足感】を抱いていたが、言語の壁だけでなく、【母国と日本の分娩管理方法の相違による不安感】があった。日本とベトナムの文化的慣習の相違だけでなく、ベトナム人女性の間で子どもの発育への考え方が違っていた。日本での子育て支援は、【期待と違う日本の子育て支援サービス】だと認識していた。それは、ベトナムにはない保健師の役割が不明確だったことが考えられる。

      在日ベトナム人女性のソーシャル・ネットワークは、日本人・同国出身者問わず慎重に選択した人間関係が中心となっていた。核家族である研究協力者らは、夫を頼りとし、【頼れるが不安にもなる同国人からの情報】とインターネットを情報源とし、自分自身で情報を収集していた。日本人の医療従事者を信頼する一方で、【状況に応じて日本と母国の医療従事者を選択】していた。日本人との間に壁を感じながらも、繋がるきっかけを掴めると日本の育児支援に価値を感じていた。子どもの成長に伴い日本人との人間関係を拡大させていた。

    結論

      在日ベトナム人女性には、出産の管理方法、妊娠中の食事に関する考え方の違いがあった。産後は、支援者となる保健師の役割が明確ではなかった。在日ベトナム人女性のソーシャル・ネットワークは、日本人、同国出身者に関わらず慎重に選択した人間関係を中心とし、情報源は主に同国人の情報とインターネットであった。

研究報告
  • 勝田 茜, 小池 伸一
    2025 年40 巻2 号 p. 59-69
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/24
    ジャーナル フリー

    目的

      世界には、低中所得国の貧困層の健康向上を主な目的とするNGOが数多く設立されている。ドイツにあるNGO(以下、A団体)は低中所得国の子どもに対し医療支援を行っている。本研究では、医療支援から8年経過した対象(以下、B氏)へのインタビュー調査を行い、A団体の医療支援の効果とB氏に対する国境を越えた作業療法の関わりについて検討することを目的とした。

    対象と方法

      A団体の医療支援を受けドイツに一時移住(以下、渡独)したウズベキスタン共和国在住のB氏を対象とし、B氏に対するA団体の医療支援について、A団体のカルテから情報を収集した。B氏の帰国後の国際生活機能分類における現在の「心身機能・構造」や「活動」、「参加」などの状況を把握することを目的にインタビュー調査を行った。

    結果

      B氏はほぼ全ての四肢で拘縮と短縮が認められ、A団体の医療支援により3度渡独し、計8回の入院を行い治療を受けた。退院後はA団体の施設内で作業療法を受けた。医療支援の結果、B氏の身体機能および活動に変化が得られた。3度目の渡独からの帰国直前には屋内での車椅子移動は自立し、食事動作も環境設定を行えば自立していた。帰国時にはA団体職員が保護者に対しドイツでの医療支援の内容と継続すべきリハビリテーション(以下、リハビリ)について情報提供を行った。インタビュー調査から、現在は大学生とビジネスマンとして生活しており、地域行事への参加もあることが分かった。一方で屋内の移動を含め、日常生活動作は全般に介助を要していた。

    結論

      帰国後に食事動作を含む活動に介助を要することになった要因として、帰国時にB氏の保護者へリハビリに関する内容を含む情報提供が適切に行えていなかったのではないかと考える。国境を越えたリハビリにおいて、対象を含めた関係者のリハビリに対する知識や国境を超える前後での医療環境や社会環境の違いを配慮し、連携する必要があることが示唆された。

資料
  • 藤井 美穂子, 須藤 恭子, 山内 こづえ, 宮林 菜々子, 岩本 あづさ, 藤田 雅美
    2025 年40 巻2 号 p. 71-81
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/24
    ジャーナル フリー

      新型コロナウィルス感染症(以下、COVID-19)パンデミックを背景に、2022年に「日本ではたらくベトナム人のための健康ハンドブック(以下、ハンドブック)」が作成された。本ハンドブックは、国立研究開発法人国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine:以下NCGM)国際医療協力局が国際移住機関(International Organization for Migration:以下IOM)ベトナム国事務所から委託を受け、日本人の医療専門家が執筆し、ベトナム人医療者等の確認を経て製本版とPDF版が公開された。その後、みんなの外国人ネットワーク(Migrants’ Neighbor Network & Action:以下、MINNA)によりWeb版が作成された。Web版の多言語化を見据え、また行動変容を促進するヘルスコミュニケーションツールとしての有用性に着目し、Patient Education Materials Assessment Tool(以下、PEMAT)日本版を用いてハンドブックWeb版の日本語版を評価した。

      PEMATは患者や一般市民向け教育資料の「理解しやすさ」と「行動しやすさ」を評価する指標であり、移民向け健康教育資料や健康情報の評価にも活用されている。評価の結果、スコアは「理解しやすさ」が81.3%、「行動しやすさ」は66.7%であった。行動しやすさを改良するため、イラストの配置変更やフローチャートの活用などが提案された。評価指標を用いたことにより、関係者間で評価基準を共有しながら改良点について協議でき、教材を作成する上での視点を学ぶことができた。ただし、PEMATは文化的信念や価値観は評価対象外であるため、今後は日本で就労中または就労予定のベトナム人の視点からフィードバックを収集する必要がある。

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