-
中村 孝文, 厚海 恭子, 澤田 陽一, 田内 雅規
p.
59
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【目的】 点字ブロックの普及が進み、白杖での点字ブロック利用による単独歩行に役立っている。現在、低プロファイルの点字ブロックの開発が進められているが、白杖利用についての機能検証はまだ行われていない。そこで本研究では、白杖走査時における衝撃発生の面から、各種石突による突起のなぞりやすさの特徴を推測することを目的とした。
【方法】 1種の白杖(125cm、直杖、アルミ製)と3種の石突(標準、パーム、ローラー)を用い、先端部付近に加速度計を取り付けた白杖をロボットアームに固定した。白杖を50cm/s、100cm/s、200cm/sの速度で点字ブロックの線状突起に垂直に当たるように直線的にスライドさせ、発生する振動の大きさを計測した。評価した点字ブロックは線状突起(上面17mm、底面27mm)で、突起高3~5mm(0.5mm刻みで5種)を用いた。
【結果】 標準チップの場合は、50cm/sにおいて突起高5mmになると振動の増加が見られた。100cm/sでも50cm/sと同様の傾向を示したが、増加の程度はさらに顕著であった。一方200cm/sにおいては3.5mmから振動が大きくなった。ローラーでは、50cm/s及び100cm/sにおいては突起高が変化しても振動変化は小さかったが、200cm/sになると3.5mmから振動が増加した。パームの場合は、50cm/s、100cm/s及び200cm/s共に振動変化が小さかった。突起検出時の振動変化の大きさはパーム<ローラー<標準であった。
【結論】 すべての石突において突起高が増すと振動の大きさも増すことが示されたが、突起に当たった時の白杖の振動変化の大きさはパーム<ローラー<標準であったことから、突起をなぞる際の衝撃に関しては突起高の影響を受けにくいのはパームであり、突起検出との関係に興味が持たれる。
抄録全体を表示
-
「ゆうぽうと」の取組み
高橋 和哉
p.
60
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
1.はじめに 2011年12月、宿泊施設「ゆうぽうと」において、既存施設を点検し、それを活かす形で施設整備を行った。
2.ある会合をきっかけとして 研修施設が併設され、使用料も比較的安価であり、視覚障害者が多く集まる研修会がたびたび開催されていた。参加者には晴眼者もおり、特段の不便は感じていなかったようだが、単独行動を好む視覚障害者は、「ゆうぽうと」に対して、点字表示などの整備をお願いしていた。副総支配人が、その要望に対応しようと考え、移動支援施設整備の計画が始まった。
3.整備の方針1)1982年に開業したホテルである。現在でも活用できる移動支援施設が多く残っており、既存施設を有効利用する。
2)視覚障害者以外の移動制約者にとってバリアになるような整備は行わない。
3)スパイラルアップの考え方に基づき、単年度で完結せず、継続させること。
4)ハード整備より情報提供(ソフト)に重きを置き、経費を削減する。
5)従業員に理解しやすい整備を行う。
4.整備後の利用者意見 点字使用者に点字案内がフロントで配布されることに対して、非常に良い印象を与えたようである。また、点字案内があることにより、知られなかった既存の点字表記を利用できるようになった。
5.今後の課題1)従業員の理解を得る。
ブロック敷設に抵抗を感じる従業員がおり、現在は仮敷設の状況である。反対意見も貴重であり、理解を得る活動が必要である。
2)移動制約利用者の意見を集約する。
3)終わりがないことを理解していただく。
「ゆうぽうと」の概要1)場所:東京都品川区東五反田(東急池上線 大崎広小路駅から徒歩1分)
2)運営会社:西洋フード・コンパスグループ株式会社(2008年から)
3)開業:1982年
4)客室数:236室(うち和室21室)
館内には、多目的ホール、会議室、結婚式場、レストラン、フィットネスジム(別会社)が備わっている。
抄録全体を表示
-
盲学校における特別支援教育コーディネーターの役割をめぐって
神崎 好喜
p.
61
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
特別支援学校高等部在籍の視覚障害のあるAさんが、家人の介護と看護が急遽必要になったために通学が困難(=学習継続が困難)な状態に陥った。
それまでAさんは、要介護1の認定を受けることになる父親と、主に父親が介護に当たっていた、要介護2の認定を受けてデイサービスを利用していた母親との3人暮らしであったが、父親の急な入院のために母親の介護をしなければならない状況となった。
学級担任は、Aさんから事情を聞き取って専攻科の職員会議へは報告したものの、Aさんの真の悩みである「学校に通いたいが通えない。前期末試験も迫る中で進級にも影響があるのではないか。さらに、せっかく入学できたのに退学しなければならないかもしれない。」という不安には応えることができなかった。
そこで、専攻科所属の特別支援教育コーディネーターがAさんの通学を保障するための支援に当たることとなり、本人の状況、両親の状況、居住地域における社会資源の状況等を調べるとともに、母親を担当している地域包括支援センターの介護支援専門員と連絡を取り、当面は母親の介護はショートステイとして行い、その間に特別養護老人ホームへの緊急入所の手続きを進め、父親の退院を待ちつつ、Aさんの通学保障(=学習継続保障)を実現する方針で取り組んだ。
その結果、特別支援教育コーディネーターが介護支援専門員であったこと、地域活動の中心者でもあったために介護・福祉施設とも面識があったこと等により、母親の緊急入所も叶い、父親も退院することができ、前期末試験を無事受験することができた。
このケースは、ややもすると外部からの依頼による視覚障害教育支援が本務と思われがちな盲学校の特別支援教育コーディネーターが、盲学校に在籍する学生の学習継続保障までも成し得る立場にあることを示すものであり、その業務の広がりが有効であることを物語っている。
抄録全体を表示
-
保有視覚・触知覚による概念形成を先行導入した指導の試み
伊東 良輔, 武田 貴子, 中村 龍次, 柴垣 明
p.
62
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】 福岡県北九州市が実施する「中途視覚障害者緊急生活訓練事業(以下、訓練事業)」の一環で、平成21年度より視覚障害生活訓練等指導者(以下、歩行訓練士)が、視覚障害リハビリテーションとして、中途視覚障害者を対象として開催している点字講習会について、「保有視覚・触知覚による概念形成を先行導入した指導方法の試み」として報告する。
【カリキュラム・教材開発までの経緯・方法】 平成14年度より、点字講習会を開始。当事者講師を招聘し、1対1の対面形式で実施してきた。対面形式で実施する講習会では、受講者の点字学習における学習進度の差が大きく、目標設定が難しかった。
そのため、訓練事業を担当する歩行訓練士は、目標と期間を設定した視覚障害リハビリテーションとしての講習会の必要性を感じていた。
そこで、平成22年度より、3名の参加者で、点字の基礎知識のみを習得することに特化した全5回のスクール形式の講習会を企画し、点字習得を支援するカリキュラムと学習器を開発した。
【結果】 講習会終了時に参加者の習熟度を「点字表記の基礎」と「点字イメージ」の2つの項目に分類し、9名を評価した。「点字表記の基礎」では、学習器を利用し点字表記クイズの正答率、「点字イメージ」では、点字板で文字を書き、「鑑文字」の発現率で評価した。その結果、点字表記の基礎習得率は100%、点字イメージの理解率は89%であった。
本講習会は点字学習未経験者を対象とした、全5回の講習会で、あくまで点字学習の入り口であり、触読に関しては、今後の継続的な学習で獲得することを前提としたため、習熟度の評価に含まなかった。
【考察】 中途視覚障害者の点字習得は非常に多くの年月を必要とするため、受講者、指導者共に多大な労力を必要とする。そこで、点字の基礎知識を習得することに特化した講習会を立案し、イメージと触知覚を一致させる指導法と学習器を考案した。その結果、9名の受講者全員が点字表記の基礎を理解することができた。現在の状況では、被験者の数が少ないが、今後も講習会の開催を継続し、実践を重ねデータを蓄積することで、より効率的な指導方法に繋げていきたい。
抄録全体を表示
-
松谷 詩子
p.
63
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
日本点字図書館点字教室では、1960年の開始以来50余年にわたり、中途視覚障がい者を対象に点字学習の支援を行ってきた。この間に、利用者ニーズがどのように変化してきたのかを明らかにするため、1975年から今日までの利用者プロフィールをデータ化し、その分析を試みた。
受講者の受け入れ人数、受講開始時の年齢、手帳等級、受講結果の4点に着目して、変化を辿ったところ、
・近年の点字学習希望者の減少
・受講者全体に占める高年齢層の構成比の増加
・手帳未取得者の受講希望の増加
・「受講年限満期終了」のケースの増加
という傾向が特徴的に明らかになった。
データを分析してみると、高年齢層の増加と「受講年限満期修了」のケースの増加とはリンクしており、点字の習得を目標に据えながら学習機会を生活に取り入れることに重きを置いているという側面が見えてくる。それは更に、手帳未取得の受講者のニーズにも通じていると考える。それらの人々にとって、1週間に1度の点字教室は、点字習得の機会であるにとどまらず、自らのQOLを保持する、あるいは高めるための情報に触れる機会として、位置づけられていることを示している。それはとりもなおさず、情報提供施設における点字教室の特色と言えるのではないだろうか。
上記を踏まえ、1情報提供施設における点字学習支援プログラムが、中途視覚障碍者のQOL向上を援助する社会資源として、リハビリテーション施設や特別支援学校とどのような連携を取りうるのかを考察する。
抄録全体を表示
-
~A市視覚障害者へのアンケート調査から~
高田 明子
p.
64
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
本報告の目的は、糖尿病網膜症や緑内障などで増加している高齢視覚障害者の基礎データ(高齢化の実態、地域で生活している高齢視覚障害者の状態像、外出の状況など)を把握し、その外出に関するニーズを明らかにすることである。四国地方A市(約4.5万人)の視覚障害による身体障害者手帳所持者全数(201名)に郵送アンケート調査を実施(回収率54.7%)し、有効回答から65歳以上の高齢者(65名)を抽出して分析した。
結果は、視覚障害者の65.7%が高齢者であった。地域で生活している高齢視覚障害者の状態像は、中途障害者が79.2%と多く、視機能はLV・不明者が80.5%であった。精神的にうつ傾向は53.8%にあった。高齢視覚障害者の中で、視覚障害以外の疾患や他の障害が理由で移動が困難な者は18.3%だった。
外出状況としては、「危険な外出(転倒・衝突の経験)68.8%」「閉じこもり(外出頻度週一回未満)44.6%」であった。家庭内での転倒経験ありは70.3%にあった。
A市における高齢視覚障害者の外出状態をまとめ、外出への関連要因として「年齢75歳以上」「中途障害」「家族」「福祉サービス活用」「精神的健康」に関して分析・検討を行った。
高齢期の視覚障害による生活習慣病リスク、転倒や骨折、うつ病などが指摘され、また寝たきりや認知症などの介護予防において閉じこもり対策は強化分野になっており、何よりも視覚障害者の生きがいや社会参加の向上のためにも「安全な外出」を保障することは重要な課題である。本報告による地域で生活している高齢視覚障害者の外出状況からも「安全な外出」を支援するサービスの必要性が示唆された。
抄録全体を表示
-
高齢視覚障害者施設における日常生活の実際から視機能を考える
新阜 義弘
p.
65
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
研究目的として、高齢視覚障害者施設(盲老人ホーム)の専門的な設備とケアが、利用者の生活場面にどのように生かされ、生活面での視力と視野にどう影響するか考察した。
中高年で、中途視覚障害者となり、在宅時には、移動も含めあらゆる生活場面で受け身で介護状態にある高齢視覚障害者が、入所後は、生活者として、少しずつリハビリ的な支援と共に、日常生活の中で、様々な生活ニーズを実現していくことや自立して行動範囲を確立していくことに着目したことから研究を開始した。
その具体的な生活面での取り組みは、
1.日常生活におけるロービジョン者の生活課題としての食事に関する食器、食堂内設備、食材について考察していく。
2.高齢視覚障害者の居室整理と周辺情報のための心的地図のオリエンテーションの課題の考察。
3.安全な移動や場所確認のための生活視力の実際的な問題点。
4.住環境アセスメントからみた高齢視覚障害者の生活に必要な視力と視野の現状を探る。(施設内点字案内図・点字表示・音声エレベーター・点字ブロック・手すりの使用等を具体的に考察してみた。)
この研究で、高齢視覚障害者の生活視力と視野は、専門的な設備やケアで大きく変わることがわかる。カラーリング、コントラスト・照明、手触り、丁寧な声かけと音声環境が、高齢視覚障害者の食事や食事環境、居室等の住居環境、館内外移動時の設備、具体的な施設設備での物的・人的なサポートに大きく影響されているといえる。
結論的には、高齢視覚障害者の生活視力の実際的なケアは、視覚障害者リハビリテーションの基礎知識の活用と設備面での配慮、高齢者介護技術と生活支援のための支援者の援助の融合によって、眼科的な視機能が生活視機能として大きく変化すること、生活視力や生活視野は、医学モデルではなく、生活モデルとして確立していかねばならない分野であるといえるのではないかと考察した。
抄録全体を表示
-
~セラピューティックレクリエーション的視点を取り入れた試み~
木本 多美子, 小林 幸一郎, 高梨 美奈
p.
69
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
本実践報告は、東京都武蔵野市における中高年視覚障害者クライミング教室のセラピューティックレクリエーション(Therapeutic Recreation、以降TR)的視点を取り入れた試みに基づく報告である。
TRとは、疾病や障害など何かしらの問題をかかえる人々を対象に、レクリエーションを意図的・段階的に治療的に利用する専門的サービスのことをいう。米国では確立されたレクリエーションセラピストの資格が存在し、彼らは病院、施設、地域等で広く活躍している。
武蔵野市民社会福祉協議会では、市からの委託を受け、障害者の社会参加や自立を促す事業の一環として、スポーツ(エアロビ等)や文化活動(絵画・和太鼓等)を積極的に取り入れている。その事業の一つに2012年2月より3回に渡り、「視覚障害者対象 ボルダリング(クライミング)体験教室」が開催された。参加者は38~75歳(平均55.9歳)の男女7名であった。指導にはNPOモンキーマジックより2名の指導者(内1名は自身視覚障害者のクライミング指導者・1名は晴眼者のTR分野の指導者)が進行を行った。
参加者は、積極的に参加する様子が見られ回を重ねるごとに「面白い!」「できなくて悔しい。どうしたらいいか家で考えていました」「これははまる」「自分たちでサークル作りたいって話していたの」というポジティブな発言が多く聞かれた。また、同市社会福祉協議会職員からはひきこもりがちな男性Aさんの様子を見て「初めてAさんが自分から発言しているのを聞いた」という感想が聞かれた。
一概に「視覚障害」といえど、レクリエーションに自ら選択し、積極的に参加するに至るまでには、身体的、精神的、スキル、知識の問題等が考えられる。参加者が今どんな問題を抱えているのかを把握し、何を現在の目標とするのか等、意図的・段階的に行う今回のTR的視点を取り入れた試みは、視覚障害者クライミング教室の成功に繋がった要因だと考えられる。
抄録全体を表示
-
金平 景介, 山本 隆志, 別府 あかね
p.
70
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】 高知県では、視覚障害者のフリークライミングが盛んに行われている。きっかけは、「独立行政法人福祉医療機構 平成21年度長寿・子育て・障害者基金助成事業」の助成を受け、NPO法人モンキーマジックや高知県山岳連盟、高知県障害者スポーツセンターなどの協力を得て始まった。現在では、当事者が中心となり毎週サークル活動を行い、大会(第1回よさこいコンペ)を開催するまでに至った。
【内容】 本発表は、高知県での視覚障害者を対象としたフリークライミングの経過報告である。
【まとめ】 フリークライミングという共通の目的をもった仲間同士があつまり、障害の有無にかかわらず楽しむことのできるコミュニティができあがった。人数は少ないが、新規のメンバーの参加や見学もあり、今後の広がりも期待できる。高知県障害者スポーツセンターやNPO法人モンキーマジックなどの協力を得ながら、大会を継続して行う体制も整いつつある。
【課題】 視覚障害者が参加可能な大会では、トップロープ種目(ロープを使い、高さを競う種目)が開催されている。高知県でサークル活動として行っているのは、ボルダリング種目(ロープを使わず比較的低い壁を使う種目)で、トップロープ種目の練習をする環境がない。現在は、県外(広島)のトップロープ種目をすることのできるジムへ遠征し、練習を行っている。高知県内には、トップロープ種目を練習することのできる施設が数か所あるが、トップロープ種目を練習するための技術習得が課題である。
抄録全体を表示
-
末田 靖則
p.
71
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】 七沢更生ライトホームでは、視覚障害者への訓練の一環として、様々なレクリエーション種目を取り入れてきた。2006年以来、フライングディスク(以下FD)を感覚訓練の中で提供してきた。今回の発表では、その経過と成果を報告する。
【訓練について】 利用者数とFD訓練提供数は、2006年、38名中11名、2007年38名中30名、2008年46名中30名、2009年37名中27名、2010年31名中30名 、2011年31名中27名である。大会に参加する者は、2006年から少しずつ増え、2007年に5名、2010年には10名、2011年には9名と3分の1程度となっている。
【おわりに】 ディスタンスでは、比較的早い時期に最高値がでており、比較的学習しやすいことを示している。すべての利用者で成績は向上している。高齢者でも、早期視覚障害者でも、学習でき、技能の習得が容易であることを示している。
新たな種目を開拓するためには以下のような作業が必要となる。
・訓練としての有効性を証明する
・導入方法を整理する
・実践して報告、紹介する
・競技可能な社会環境を整える (設備・スタッフ・競技者の養成等)
今後さらに継続していきたい。
抄録全体を表示
-
韓 星民
p.
72
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
日本の盲学校高等部には点字使用者より拡大文字を含めた墨字使用者が多く在籍している。ところが、過去の大学進学率を調べたところ、点字使用者が弱視児童より大学進学率が高いことが確認された(韓 2010)。
本研究は視覚障害者の大学進学者数の推移について、論文雑誌『視覚障害』の調査をもとにまとめたものである。本調査は『視覚障害』が毎年全国の盲学校を中心に行ってきたものであるが、2006年度を最後に入学者集計に終止符を打ちたいと書かれている。その理由として、個人情報に関して日本全体が敏感になっていることから、盲学校からも協力が得られなくなったためと記されている。
2006年までの12年間の視覚障害学生の大学進学者数は、合計488名で点字使用者281名、点字以外207名となっている。
現在は「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」が制定され、拡大図書の標準的な規格が定められている。
本報告で使用するデータは、弱視児童のための拡大教科書が法律に定められる前のデータであるが、点字受験者の大学進学率は、弱視児童の文字選択に示唆するものがあると考える。
点字学習は最近の脳科学から16歳前後が臨界期とされており、小学校のときからの学習を必要とする。本報告では、最近の脳科学の知見を点字学習に応用し、弱視児童の文字選択に関して考察を深めたい考えである。
弱視児童の文字選択に点字か墨字(普通文字)かを悩むケースもあるが、負担なく読める文字を持つことが大変重要であると考えられる。拡大本の有効性を否定することはできないが、文字読みに多くの集中力を使うことでかえって読んでいる内容が理解できない場合は、点字を学ぶことを視野に入れた方がよいかと思われる。弱視児童を持つ親の中では、点字より普通の文字を子供に教えたいという親の障害受容(社会受容)の問題も絡み、また、点字を知らない先生の勧めもあって墨字教育に向かいがちな傾向も見受けられるが、医療や科学的な知見によって点字か墨字かを判断する客観的な基準を設けることが、今後重要であるように感じる。
抄録全体を表示
-
―高齢視覚障害者とその他の視覚障害者の比較から―
矢部 健三, 渡辺 文治, 喜多井 省次, 内野 大介, 角石 咲子, 加藤 正志
p.
73
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【目的】 中途視覚障害者には、点字触読の習得に大きな困難を抱えるケースが少なくない。過去2回の調査では、特に50代以降の中途視覚障害者で点字触読の習得が困難になることを報告した。今回は、高齢中途視覚障害者に点字触読訓練を実施する際に、どのような目標を設定すればよいかを検討するために、七沢更生ライトホームで実施した点字読み訓練の結果について、高齢中途視覚障害者とその他の中途視覚障害者を比較して報告する。
【方法】対象者:1991年度~2011年度の当施設利用者478名(入所350名、通所128名)
調査方法:訓練記録の参照、訓練担当者などへの聞き取り
調査内容:基本属性、触知覚の状況、点字読み訓練の結果等
実施時期:2012年1月~2月
【結果と考察】 点字読み訓練を実施した者は、261名で、その内、39歳以下の者(若年層)は85名(32.6%)、40歳以上64歳以下の者(中年層)は158名(60.5%)、65歳以上の者(高齢層)は18名(6.9%)であった。
初期評価として実施した触知覚テストの結果は、若年層では最も得点の高いグループ(36~40点)の者が59.7%を占めたのに対し、中年層では31~35点の者が41.5%で最も多く、高齢層では21~25点の者が31.3%で最も多かった。
点字触読訓練の結果では、点字読速度が実用段階(標準点字32マス18行1ページ10分未満)に到達した者が、若年層では22.4%、中年層では7.6%であったのに対し、高齢層で実用段階に到達した者はいなかった。一方、紹介程度(清音・濁音・拗音などの単語読みで終了)や構成学習(50音などの構成学習のみで終了)の段階の者は、高齢層では83.3%を占めた。紹介程度や構成学習の段階で終了した者が、若年層では31.8%、中年層でも64.6%であったのに比べると、その割合は非常に高かった。
これらの結果から、高齢中途視覚障害者に点字触読訓練を実施する際の目標としては、まず清音・濁音・拗音・数字などの単語・短文読みが可能になる段階を設定することが妥当であるといえるだろう。
抄録全体を表示
-
舛田 翔太, 渡辺 哲也
p.
74
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【目的】 駅構内図の触地図に対するニーズを把握するために、触地図の(潜在的な)利用者を対象としたアンケート調査を実施した。
【調査方法】 NPO法人ことばの道案内に調査を委託し、同法人の利用者である視覚障害者、及びその知り合いの視覚障害者を対象に聞き取り調査を行ってもらった。
【結果】 障害等級1~2級の視覚障害者28人に回答してもらった結果を報告する。
1)冊子型駅構内図の触図(触地図)へのニーズ
冊子型駅構内図の触図があれば便利だと思いますかという質問に対して、はいと回答した人が11人、いいえが16人、どちらともいえないが1人であった。以下の質問のうち2)~5)ははいと回答した人11人、6)はいいえと回答した人16人に対する質問である。3)~6)は複数回答である。
2)触地図に掲載すべき情報
トイレ、階段は全ての人が触地図に必ず載せてほしいと回答し、バス・タクシー乗り場、誘導ブロック、切符売り場は約8割(9人)の人が触地図に必ず載せてほしいと回答した。
3)触地図が必要な駅
ときどき、あるいは初めて使う駅で11人、定期的に利用する駅で3人、触地図が必要であると回答した。
4)触地図の入手方法
事前に触地図を送ってもらいたいという人が10人、駅で触地図を受け取りたいという人が6人であった。
5)触地図の作成方法
4種類の作成方法を好みの順に並べてもらった結果、UV印刷を4人、サーモフォームを2人、立体コピーを1人、点図を1人が一番作成してほしいと回答した。
6)触地図が不要な理由
触地図が不要な理由として、図を触って読むのが苦手、または時間がかかるからと回答した人が4人、点字が読めないからと回答した人が3人、誘導してくれる人がいるからと回答した人が2人であった。その他の具体的な回答には、わからないときには人に尋ねるから、置く場所がなく、持ち歩きできないからなどがあった。
抄録全体を表示
-
太田 智加子
p.
75
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
英検、TOEICなどの英語の資格試験のスコアは、近年特に就職、進学対策として需要の高まりを見せているが、視覚障害を持つ人々にとって公平な受験機会を得られているとは言い難い。
現状では、英検について視覚障害者特別措置が明文化されているが、TOEICでは視覚障害者特別措置が不十分であり、意欲のある学生であっても、公開テストにおいては、拡大文字受験体制が不十分であること、点字受験が不可能であること、時間延長措置が認められていないことなどの理由で、受験困難な状況である。また、IPテスト(団体特別受験制度)においては、拡大文字受験体制が十分とはいえないが、点字受験が可能であること、1.5/2倍の時間延長措置が認められていることなど、公開テストに比較すると受験しやすくなった。しかし1番の問題は、IPテストは学籍を有する者以外受験資格がないため、学校を卒業すると、公開テストの壁に突き当たることである。
本発表では、TOEICを受験する際に視覚障害者が抱える困難と、今回、発表者がそれらをどのように対処しながら勤務校初のTOEIC団体特別受験実施に至ったかを報告する。そして、まだ視覚障害者にとっては十分に門戸が開かれていないTOEICの現状を提示し、解決すべき課題を考察して、今後、視覚障害者が本来得られるべき公平な受験機会を得られることをめざす一提言とする。
抄録全体を表示
-
作業効率の向上を目指して
野澤 しげみ, 稲葉 妙子, 田中 直子, 鈴木 志寿香, 小野瀬 正美, 納田 かがり, 宮城 愛美, 長岡 英司
p.
76
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【背景】 本学の視覚障害学生の約8割がロービジョン者用教材を必要としている。そこで、教材作成室では、点字化やDAISY化に加え学習資料の拡大印刷や電子データ化にも力を注いでおり、三通りの文字サイズを基本にきめ細かくニーズに対応している。そのためのツールとしては、主にMicrosoft Wordを使用しているが、文字を一律に拡大するとレイアウトが崩れ、その調整に時間と労力を要するという難点がある。
【目的】 近年、様々な形式の電子書籍が誕生している。中でも米国の標準化団体IDPFが仕様策定を行っているEPUBは、画像、音声、リフロー等に対応し、どのような媒体でも閲覧が可能なオープンな電子書籍フォーマットである。こうしたことから、EPUBの活用は、教育現場におけるロービジョン者用教材の作成の簡便化、効率化をもたらすものと考え、その導入を目指して検討を進めた。
【方法】 EPUB形式の電子データを作成・編集するソフトについての情報を収集し、その結果、教材作成の手段として適していると思われる三つのソフトウェア(うち二つは組み合わせて使用)を選定した。2011年の夏から秋にかけて、これらのソフトを用い、解剖学教科書等を素材にして教材作成を試行した。EPUBデータ及びPDFデータの教材を試作する過程で各ソフトの機能を確認するとともに利点と問題点を挙げ、どちらのソフトがより効率的に活用できるかを比較検討した。
【考察】 教材作成において重要視すべき機能に基づいて各ソフトの可用性を比較した結果、いずれにもツールとしては改良の余地があることが明らかになった。また、改良に際しては、ロービジョン者用の教材を効率的に作成するという視点からの積極的な提案が必要との認識を得た。
【結論】 ロービジョン者用の教材作成では、効率的に文字拡大やファイル変換ができることが求められる。また、その作業には多くの人が関わることから、ツールは誰もが簡便に利用できることが望ましい。そうした視点から、今回試用したソフトについての具体的な改良事項を提案し、その実現を図ることとした。
抄録全体を表示
-
伊藤 和之, 加藤 麦, 伊藤 和幸, 石川 充英, 清田 公保, 江崎 修央, 奈良 雅之, 福田 文彦, 内村 圭一
p.
77
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【研究目的】 本研究は、点字や普通文字、PCでの文字入力に困難を有し、ノート・テイキングに苦慮する中・高齢層中途視覚障害者の自立訓練、学習、就労を支援する文字入力システムの開発をとおして、筆記行動を促進するリハビリテーション・サービスを創造することを目的とした。
【研究方法】 1年目は開発する文字入力システムの適合に関する仮説の形成、2年目は、自立訓練、理療教育、福祉工学の3研究分科会を組織し、文字入力システムの開発と筆記行動支援システムの仕様策定、3年目は、筆記行動支援システムを開発することとした。また、普及の準備として、筆記行動支援研修プログラム案を策定し、地域でのワークショップを開催し、検証することとした。
<倫理面への配慮> 本研究は、当センター倫理審査委員会の承認の下で実施した。
【研究結果及び考察】 1)点字タイプライター式文字入力システム、2)手書き式文字入力システム、3)予約管理・予診票・施術録作成システムを開発した。エンドユーザーによる試用評価により、システムの有効性が実証されたが、編集機能の強化やより細かなニーズへの対応が課題として挙げられた。点字タイプライター式システムは製品化が実現した。2012年度中に発売予定である。また、文字入力システムの利活用の一提案として、教育・訓練システム、教育・訓練教材を開発し、全体をワンパッケージとして、「筆記行動支援システム」を提案するに至った。地域での普及活動については、その意義が確認されるとともに、支援システムとエンドユーザーをつなぐ存在の重要性が示唆された。
【今後の課題】 視覚障害リハビリテーション分野における新規リハ・サービスの普及方法の開発である。
抄録全体を表示
-
豊田 航
p.
78
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
視機能の低下や欠損が生じた高齢者や視覚障害者への配慮のために、消費生活製品の操作スイッチ上に触覚の手がかりとして、凸バー(凸状の横バー)と凸点(凸状の丸い点)が付されるようになった。凸バーと凸点の推奨寸法については、2000年にJIS、2011年にIS(国際規格)の中で規定されているが、その根拠となる定量的データが必ずしも十分とは言えない。そこで本研究では、加齢及び触知経験を考慮した識別しやすい凸バーと凸点の寸法を明らかにする事を目指し、凸バーと凸点の寸法がそれらの識別容易性に及ぼす影響を評価する事を目的とした。実験の結果、年齢及び触知経験に関わらず、凸バーの長辺と短辺の差が大きいほど、凸バーを早く確信をもって正確に識別できる傾向である事が明らかとなった。一方で、晴眼高齢者では凸バーの長辺と短辺の差が3.0mm以上、晴眼若年者及び視覚障害を持つ若年者と高齢者では、その差が2.0mm以上あれば、ほぼ正確に凸バーを識別できた。これらの事から、触知経験が浅い晴眼高齢者では、凸バーを正確に識別するために、長辺と短辺の差をより大きくする必要があると考えられる。また、凸点は、エッジのRが大きく直径が小さいほど、早く確信をもって正確に識別できる傾向である事が明らかとなった。とりわけ、晴眼及び視覚障害の高齢者は、直径が大きい2.0mmの条件では、正答率が顕著に低下し、凸バーであるか凸点であるかが識別しにくい事が分かった。
抄録全体を表示
-
山本 潔, 高柳 泰世
p.
80
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
本郷眼科・神経内科での眼科診療における、眼科医を窓口とした視覚障害リハビリテーション相談について発表してきました。
今回は、この研究発表大会が「高齢視覚障害者」をテーマの一つにしていることから、前回までの報告に加えて、23年度分を加えるとともに、今後の高齢視覚障害者に対する視覚障害リハビリテーションの実践の一助とすることを目的として、この相談から把握できた65歳以上の視覚障害者の方々の状況を中心に実態を報告します。
抄録全体を表示
-
中途視覚障害者の事例報告
佐藤 洋子, 坂部 司
p.
81
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】 中途視覚障害者が、ロービジョンクリニックを受診後、家族の理解、ロービジョンエイドの活用、歩行訓練や点字触読訓練等のリハビリテーションを受けるようになった経緯を紹介する。
【事例のプロフィール】 名古屋市在住、女性、50歳代。黄斑部異常ありと平成21年に告知され、身障手帳1種2級である。家族構成は70歳代の母親、夫と3人暮らしで、老人福祉施設に入所する母親の介護をしている。
【訓練経過】 平成21年、名古屋大学付属病院ロービジョンクリニックで、当センター職員と面談する。以後、夫も視覚障害をよく理解し、生活の中でも大変協力的になった。その後、薄暗い場所での転落をきっかけに、また、白杖歩行訓練を希望して当センターへ来所した。自宅周辺や公共交通機関の歩行訓練を行う。その中で盲導犬貸与と点字の読み書きの技術習得を希望するようになる。盲導犬貸与申請、当センターのTDLルーム(日常生活技術訓練室)を利用する計画をしていたが、母親への介護負担が重くなり、一時それらを中断する。平成24年より、TDLルームに週2回通って点字の触読訓練を受ける。
【まとめ】 高齢になれば親の介護問題・子供の独立・配偶者と死別する可能性は高くなるため、自分の身辺処理や情報を分かち合える場を確保することの重要性はむしろ上がる。このケースは、点字の読み書き、単独歩行について、訓練生が高齢であることに伴う問題を本人も、指導者もかなりのエネルギーを使って柔軟に対応・克服して身につけなければならないケースである。
抄録全体を表示
-
堀内 恭子
p.
82
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
当養成部では、奈良県、和歌山県、堺市、宝塚市の4自治体から委託を受け、視覚障害者の自宅に訪問して生活訓練を行っている。
平成17年から平成24年2月までの在宅指導受講者の延べ人数は、訓練継続者も含め264名であった。受講者の平均年齢は50才代であり、60才以上の割合は、42.8%、70才以上の割合は20.1%であった。
発表者が実際に関わってきた視覚障害者は、52名であり、その内の26.9%が65才以上であった。
主に、高齢者といわれる65才以上の視覚障害者が、在宅指導においてどのような内容を求めてきたのかを明らかにし、高齢者における在宅指導の現状と課題について考察したい。
抄録全体を表示
-
木村 仁美
p.
83
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
ろうベースの盲ろう者であるAさんは、若い頃に手帳を取得していたが、社会との接点を持たず、社会資源も活用することなく在宅生活を送っていたようである。ところが、同居家族の逝去により、突然、独居となってしまった。
幸いにも、近隣の親戚から支援が得られ、福祉事務所につながることができたものの、もともと交流が乏しかったため、従前のAさんのライフスタイルを知る人は誰もいない。ホームヘルパーの導入などでライフラインを整えることはできたが、Aさんとのコミュニケーションが十分に取れない中で、何を望み、どういう生活を本人が目指しているのかはきちんと見えていない。
まだ、本人の意向を十分に把握するには至っていないが、多職種、多事業所が関わり、情報交換をしながら、少しずつ本人への理解が進んできたと言えるところである。福祉事務所とヘルパー事業所の関わりだけでも、生活は維持でき、時間の経過とともに落ち着きを見せるようにはなってきたが、大きく流れが変化したのは、専門職が関わるようになってからである。自分の意思で行動する機会が持てるようになり、行動範囲を広げることができると在宅のストレスも緩和されてきた様子で、最近では表情も明るくなったと周囲から言われている。専門職集団である福祉センターの存在、および地域に視覚障害の専門職が配置されていることが大きく貢献していると言える。
現在も支援は進行形であり、試行錯誤を繰り返しながら、格闘してきた約1年間の関わりを報告する。
抄録全体を表示
-
幸田 康宏
p.
84
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
視覚障害者養護老人ホーム土佐くすのき荘は高知県内で唯一の視覚障害者を対象とした盲養護老人ホームである(盲養護老人ホームは全国に48施設ある)。清流仁淀川を眼下に臨み、緑豊かな自然の里である。
入所対象者は60歳以上の視覚障害を持つ方で、身障手帳1種1級から4級までお持ちの方か、医師にこれと同等の障害があると診断された方で、市町村民税の所得割りの非課税の方が入所できる。
施設整備における設置基準は、一般の養護老人ホームと同じであるが、専門的なハード面がある。たとえば、転落防護柵の設置や段差をできる限り排除した構造、そして通路には物を置かない配慮等である。また、施設内はシンプルな構造(回廊式)で、位置確認のために、居室の扉・手すり等の要所に点字の表示を行っている。玄関・通路の曲がり角・トイレの入口・階段の始点、終点等の要所に点字ブロックを設置しており、目立つように点字ブロックを蛍光テープで縁取りしている。
ソフト面でも視覚障害のある高齢者が自立した生活が送れるように専門的な支援を行っている。
このように実施している取り組みから見えてきたものについて発表する。
ハード面を考えると、施設内には手すりを設置しているが居室前、トイレの前など設置できない箇所があるのが現状である。
ソフト面では、入社した時に基本の誘導方法など研修を行っているが、視覚障害者生活訓練指導員等の専門の職員ではない。しかし、高齢者施設の誘導は視覚障害以外の障害や老化があり、手引き誘導を行うようになる。
視覚障害高齢者施設では、視覚障害の援助という部分で視覚障害者生活訓練指導員等の基本的なサポートが必要と思われるが、高齢化によって生じた様々な障害への援助と視覚障害リハとをどうマッチングさせていくか、視覚に加え高齢者の抱える様々な生活上の困難をどう総合的にサポートできるかは大きな課題である。
抄録全体を表示
-
石光 和雅
p.
85
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
静岡中途視覚障害の会(かがやきの会:以下、本会)は、中途視覚障害者有志により1996(平成8)年3月に設立された。本会の通り名としての「かがやきの会」の由来は、中途視覚障害者に輝かしい未来があるようにという表の意味と、発足当初の役員(会長、副会長、事務局長:全員が中高年男性)が自らの後退した頭髪状態を指した裏の意味があった。設立16周年を迎えた2012年3月現在、三役の年齢は60歳を超え、まさに高齢化を迎えつつある。因みに、2012年1月1日に他界された本会相談役は享年94歳であった。そこで、第21回視覚障害リハビリテーション研究発表大会のテーマが「高齢化社会と視覚障害リハビリテーション」であることに鑑み、本会をはじめとした静岡県における視覚障害当事者団体の高齢化の実態を把握するとともに、高齢化がもたらす福祉的課題について検討することを目的とする。
抄録全体を表示
-
原田 敦史, 内田 まり子
p.
86
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】 日本盲人委員会が立ち上げた東日本大震災視覚障害者対策本部の現地の支援員として、1年間活動をしてきた。災害規模が大きくその支援は困難を極め、中でも支援を行うための準備は急を要したが、残念ながらすぐに活用できるものは多くはなかった。我々は第一次から第三次の支援に際して、当てのないまま支援物資の準備と資料の作成を行った。今回の報告では、災害時にはどんな物資が必要で、どのような情報があったのか、それを活用するためにどんなマニュアルを作成したのか、今後も活用できる部分を中心に紹介する。
【現地の支援活動】 対策本部では、岩手県と宮城県の避難所を中心に約750か所を訪問し視覚障害者を探して支援を実施した。また安否の確認ができなかった方、支援の要望があった方の自宅を訪問し支援を実施した。その数は300件近くとなった。
これら支援の交通手段は車で、その際には支援グッズを積んで回った。
【準備をしたもの】○物資について
最初はラジオや、携帯の充電器、白杖、音声時計、乾電池を準備した。その後は支援団体から届いた物資を加えながら増やしていった。
○情報について
スーパー開店状況等の食料事情や医療機関の情報は多くの被災者が必要とした。また視覚障害者支援団体や業者より様々な支援策が実施されていた。それらをまとめて一つの情報にして資料を作成した。これには随時新しいものを加えていった。
○マニュアル・個別表について
第一次の避難所中心の訪問から第三次の個人宅中心の訪問まで、マニュアルは三回とも更新した。また対応したことが分かりやすいように個別対応表も作成し、これも更新をしていった。その場でメモを取らなくてはいけないことは何か、今後必要になってくる情報はなにか模索しながら資料を更新していった。
【まとめ】 阪神大震災でも視覚障害者支援は実施されたが、役に立った物資等については、報告内に少しはでてくるものの、細かい資料等は残っておらず、一から資料作成をした状態であった。また何を聞くべきか、何を残すべきか、どんな支援物資を届けるべきか、常に考えているものの、答えが出ないものでもあった。ただし、被災地支援に関わったものとして、一つのまとめを残す必要があるかと考え、また、実際の支援にも役に立った部分もあるので、今後の支援準備の参考になればと思う。
抄録全体を表示
-
三浦 貴大, 叶 亜寿香, 池松 朔太郎, 上田 麻理, 鈴木 淳也, 藪 謙一郎, 坂尻 正次, 伊福部 達
p.
87
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【背景・目的】 昨年3月11日の東日本大震災は、公共交通機関や電力を必要とする施設に混乱をもたらし、多くの帰宅困難者や被災者を発生させた。これまで、視覚障害者の移動支援装置として、聴覚や触覚へ環境情報を提示するものが屋内外に設置されてきた。しかし、これらの装置も、災害に伴って状況が変化した緊急時では、時に利用するのが難しい。
また、弱視・全盲など障害状況の違いによって、必要とする情報や支援の内容が異なる。しかし、災害時などの緊急時においては、取得するべき情報が時々刻々と変化しうる。さらに、緊急時においても情報取得・判断を効果的に支援できる機器やインタフェースについて、現状では詳しく分かっていない。よって、視覚障害の状況ごとに、平常時と緊急時において、必要な情報が何であるかについて明らかにし、実用的な情報支援インタフェースを提案・創出する必要がある。
そこで本研究では、視覚障害者が特に緊急時において必要とする情報を明らかにし、メンタルモデルやインタフェース設計指針の提案を最終目的とする。このための基盤として、視覚障害者が平常時/緊急時の移動の際に必要とする情報、情報取得の方法に関して、インタビューを通じて検討した。
【結果の要約】 平常時と緊急時に関するインタビューの結果を比較したところ、特に弱視者において、リアルタイム情報に対する意識や、利用するアクセシビリティ機能に違いがあることが分かった。
平常時においては、全盲者に比べて、弱視者のリアルタイムな情報取得に対する意識は低かったが、緊急時では障害状況の差は見られなかった。情報源はテレビやラジオ、インターネットを通じたものであった。
アクセシビリティ機能に関しては、弱視者は平常時には視覚的な支援機能を利用する人が多かった。一方で、緊急時では暗い場所が発生するためか、弱視者でも音声を主として利用するという人が見受けられた。
抄録全体を表示
-
千葉 康彦, 永井 伸幸
p.
88
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】 東日本大震災発生後、宮城県立視覚支援学校教育支援相談部の有志が中心となり、卒業生や地域の相談対象者達に対して様々な支援を行った(支援者は、特別休暇を所属長に申請し支援を実施)ので報告する。
【実施内容】 (1) 近所のスーパーがオープンしだしたが、詳しい情報が分からないため、一緒にスーパーへ買い物に行き必要な物を購入。(2) 自宅の水道、ガスが止まっていて調理ができないため、豚汁を作り自宅へ届ける。(3) 震災後1週間経った頃から、銭湯や郊外の温泉がオープンしだしたが、移動手段がないため同行し入浴。(4) ガイドヘルパー派遣が震災後の混乱でできないため、通院のためのガイドを実施。(5) 避難所で生活している卒業生から、一日中何もしないでいるのが辛く何かお手伝いをしたいとの相談があったので、一緒に避難所の対策本部へ出向き、避難所内でのマッサージ支援を申請し実施。(6) 白杖を必要な方へ配布。(7) 長期にわたる支援が必要な卒業生や、今後見守りが必要な卒業生に関して、地元の大学やNPO法人を紹介し必要な支援を実施してもらう。 (8) 衣類等の提供を視覚支援学校職員へ呼びかけ、集まった衣類等を避難所へ届ける。
【考察】 被害が甚大でない地域では、自分から物資を入手するために情報を集め行動を起こす必要があるが、視覚障害者の「移動の困難」と「情報障害」が行動の妨げとなってしまう。また、非常時には、通常使えていたサービスが機能しなくなる。それゆえ、平常時は自立していた視覚障害者であっても支援が必要な状態になってしまう。支援者は、「災害直後」に無事であればいいのではなく、「その次の時期」に視覚障害者特有の困難が待ち受けていることを理解しておく必要がある。また、教育機関・訓練機関が、卒業生・元利用者の生活状況の把握に努めることは、支援を必要としている視覚障害者を見つけることにつながると考えられる。
抄録全体を表示
-
金井 政紀
p.
89
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【目的】 日本盲導犬協会仙台訓練センターは被災地に存在する唯一の盲導犬育成施設である。未曾有の災害で、「どう対応すべきか」が手探りの状況でのユーザー支援となった。今後も起こり得る災害時に備える意味を込めて報告をする。
【経緯】1)震災発生直後の職員・施設の安否と状況確認
2)ユーザー、ボランティアの安否確認
3)支援計画と支援行動
センター自体が被災地にあり、安否確認が行えず、他センターや報道機関の協力を得て、震災8日後に被災地全ユーザーの安否確認を終えた。
【支援計画】1)被災地全ユーザーの訪問
2)ユーザー、盲導犬、歩行状況と環境の確認
3)支援物資の供給
ガソリンの確保がままならず、訪問地域は徐々に広がった。食料、ドッグフード、水、応急処置薬品などを提供し、歩行状況の確認を行った。
【支援結果】1)自宅在宅者と自宅外避難者での違い
2)ユーザーの精神面
自宅在宅者は、周辺環境にも大きな変化は少なかったため、盲導犬歩行に大きな影響を及ぼす状況は少なかったが、余震が続いていたため、単独での外出頻度は減った。自宅外避難者は、環境が変わり、精神的にも不安が高く、単独での外出はほとんど無かった。
余震のたびに盲導犬が落ち着かないなど、ユーザーの様子を敏感に感じて反応をしている犬はいたが盲導犬作業に著しく支障があるものでは無かった。
【今後について】 災害の状況や程度によって、盲導犬協会がすぐに支援を行える場合と行えない場合がある。普段から、ユーザーに対して災害への心構えを意識付けすることは出来る。その上でユーザー自身が備えられることは備え、そして何よりも家族、隣人、知人からのサポートは大きな支えとなった。
抄録全体を表示
-
山田 明子, 仲泊 聡, 西田 朋美, 岩波 将輝, 茅根 孝夫, 中西 勉, 久保 明夫, 三輪 まり枝, 西脇 友紀, 小松 真由美
p.
90
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】 平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって、多くの被災者が避難所生活を強いられた。当センターにおいても、被災地からの障害者の避難受け入れを積極的に行ったため、当院で対応した被災地からの視覚障害者の状況について報告する。
【対象と方法】 平成23年3月11日から9月30日までの期間に、当院で対応した視覚障害を有する被災者を対象に行ったケア内容についてまとめた。
【結果】 対象は計7例であり、当センター入院避難2例、当センター内宿舎避難3例、眼科外来受診のみ2例であった。7例の疾患内訳は、網膜色素変性症4例、糖尿病網膜症1例、ベーチェット病1例、黄斑上膜1例だった。7例のうち、3例は眼科疾患の治療・管理、残りの4例には、ロービジョンケアを行った。ロービジョンケアの内容は、主に遮光眼鏡や拡大読書器などの視覚補助具の選定、歩行訓練、日常生活訓練であった。そのうち以下の3例は、震災に伴う強い不安やストレスを考慮した支援が必要であった。
1)50代 男性 網膜色素変性症。入院避難。帰郷の希望が強く、現地での生活基盤の確立に対するソーシャルワーカーによる支援を迅速に行う必要があった。
2)60代 男性 網膜色素変性症。入院避難。体力向上を目的としたリハビリ体育での運動プログラム等を行った結果、日常生活レベルの向上がみられた。
3)60代 女性 糖尿病網膜症。当センター内宿舎避難。視覚補助具に関するニーズよりも、環境変化による不安やストレスを強く訴え、補助具の選定に集中できる状態ではなかったため、傾聴がケアの中心となった。
【考察】 今回のような避難受け入れでは、通常のロービジョン対応に加えて、環境変化から生じる不安、ストレスを考慮した支援が必要であった。また、帰郷先での生活基盤の確立には当院および帰郷先のソーシャルワーカーの連携が重要であり、各人それぞれの抱える多様なニーズに合わせた対応や連携が求められた。
抄録全体を表示
-
森 英雄, 丹沢 勉
p.
91
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
歩行ガイドロボット「ニューひとみ」は、視覚障害者が朝の散歩や近所の友人宅の訪問などで利用するロボットです。従来のインテリジェント車いす「ひとみ」は、1.玄関から道路に出るまでによくある一寸した段差が乗りこせない、2.路面の凹凸により20センチメートルくらいよろめいて塀や縁石をこすり進めなくなる、3.駐車した自動車や自転車などの障害物にあたり動けなくなる、などの課題がありました。「ニューひとみ」は課題1を次のように解決し、2と3は次のような解決の途上です。
課題1は、ロボットの車台の電動車いすを後ろ向き、すなわち、後輪を前にキャスターを後ろにし、さらにキャスターを大型の一輪にすることによって解決しました。そのかわり、人は乗れなくなりました。
課題2と3は、ロボットが塀や障害物にあたったとき、やり直し走行、すなわちバックして少し方向を変えて前進する走行を導入しました。ロボットは障害物が何であるかを正しくは認識できませんが、おおよそのところを音声で伝えることにします。やり直し走行には、バックと前進の程度により幾つかのタイプがあります。利用者はそのなかから一つを選んで実行します。全自動ではなくて利用者が複数のやり直し走行の一つを選ぶのです。
「ニューひとみ」は、盲導犬に比して階段が登れず、電車や車に乗れないなどの短所がありますが、操作やメンテナンスが簡単である、目的地までの道順はロボットが記憶する、 量産すれば製造コストは百万円ていどになる、などの利点があります。
「ニューひとみ」の普及には、道路交通法の改正、厚生労働省の補装具の改正、盲導犬協会の協力などの社会的認知と産業の参入が必要です。社会的認知に至るには、ロボットのデモでは不十分で、視覚障害者が「ニューひとみ」を利用して日常生活を改善した事例を作ることが先決と考えています。
抄録全体を表示
-
大倉 元宏
p.
92
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【目的】 視覚障害者のプラットホームからの転落事故の未然防止策として、事故事例を多数集めて、当事者はもちろんのこと、視覚障害リハ関係者、鉄道事業者、行政者、一般市民等に広く公開することが考えられる。そこで、転落事例をデータベース化するための調査票を作成したので報告する。
【方法】 大倉らの先行研究1)を参考に、視覚リハ専門家、工学者、生理学者、デザイナー、当事者等の集まりである「O&M勉強会*」で調査項目を議論した。
【結果】 調査項目は大きく、転落者の属性、駅とプラットホーム、事故の経緯の3つに分かれる。転落者の属性については、年齢、性別、職業、障害の原因、発症年齢、左右の視力と視野、夜盲や羞明の程度、色覚、聴力、歩行訓練(電車利用を含む)、単独での電車の利用頻度などが含まれる。駅とプラットホームについては、ホームの形状、縁端部の点字ブロックの仕様、階段部における音サインの設置、ホームの長さと幅などが含まれる。事故の経緯に関しては、発生日と時刻、天候、番線、当該駅の利用頻度、ホーム上の混雑度、電車利用の目的、ホーム上の移動方向、転落までのホーム上の移動状況(文章と図)、推定される事故原因と対策などが含まれる。
【今後の展開】 WEBベースでの入力を可能として、歩行訓練の専門家に広く呼び掛けて事例の収集と入力を依頼し、インターネット上に転落事例データベースを構築することを考えている。
【文献】1)大倉元宏,村上琢磨,清水 学,田内雅規:視覚障害者の歩行特性と駅プラットホームからの転落事故,人間工学,31(1),pp.1-8,1995.
*議論には以下の各氏が参画した。青木卓,阿保裕子,石川充英,稲垣具志,川嶋一広,河原佐和子,清水美知子,田内雅規,中村孝文,堀内陽子,村上琢磨,松野吉泰,諸熊浩人,箭田裕子,吉田洋美,吉本浩二。
抄録全体を表示
-
野崎 正和
p.
93
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
歩行訓練は歩行技術と指導法というふたつの要素から成り立つと思うが、私の場合いずれも日本ライトハウスで33年前にお世話になり、そこで教わった方法からあまり進歩していない。そこで、全盲で高次脳機能障害を伴う方に対する訓練の中で学んだ行動療法の技法を通して、歩行訓練における指導法について考えてみた。
全盲で高次脳機能障害を伴う方の訓練では、我々が通常行なっている方法ではうまく行かないことも多かった。中でも、歩行訓練で重視する、状況を判断して行動すること、自分で考えて答えを出すこと、失敗から学ぶことなどは特に困難であった。しかも、一般的な高次脳機能障害リハビリテーションの手法は、代償手段として視覚的手掛かりを多用するため、ほとんど利用することができなかった。ただ、スモールステップやエラーレス・ラーニングなど、行動療法の技法を訓練に取り入れることで少しずつ可能性が広がっていった。また、このような技法は、認知機能に衰えがみられる高齢の方の訓練にも応用できると思われる。
例1、単独で外出できない方に対して、外歩きの恐怖を取り除き単独歩行を可能にする指導→<歩行訓練の流れ>手引き歩行でコミュニケーションをはかる、静かな環境で白杖歩行を導入する、少しにぎやかな歩道で環境音に慣れ利用できるようにする、徐々に指導員が離れ単独歩行につなげていく→<行動療法の技法>エクスポージャー(曝露反応妨害法)、教示、フェイディング
例2、高齢者のルート歩行の指導→<歩行訓練の流れ>静かな環境で白杖歩行の導入、小部分に区切った繰り返しの練習と積み重ね、間違える前にきめ細かく正しい方法を指示する→<行動療法の技法>スモールステップ(課題分析)、チェイニング(行動連鎖)、教示、エラーレス・ラーニング(誤り無し学習)
※全体を通して心がけることは、構造化、ポジティブ・フィードバック、達成感、自己効力感など。
抄録全体を表示
-
―弱視者の安全な利用のために―
田邉 泰弘
p.
94
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
2011年3月の東日本大震災による原発事故の影響で、全国の原子力発電所が停止し、深刻な電力不足が発生した。大口需要家である鉄道に対しては、経済産業省等から強い節電要請が行われた結果、多くの駅で減灯が実施され、弱視者、とりわけ夜盲のある人にとって、一時はかなり危険な状況が生じた。多くの視覚障害者の要望によって、徐々に明るさが戻ってはいるが、現在も多くの駅で減灯が継続されている。
減灯前の明るさは駅によって大きく異なり、減灯の程度も鉄道会社によりまちまちである。照明を半減しても安全上大きな支障のない駅もあれば、すべての照明が点灯してもなお夜盲のある弱視者には不安な箇所も存在する。
弱視者の明るさに対する感じ方は多様であり、すべての弱視者にとって最適な明るさを決めるのは困難であるが、減灯しない場合には多くの駅で安全が確保されていたと仮定することで、必要な明るさの目安を推測可能と思われる。
本会では、2011年6月から、東京都、愛知県、京阪神の約30駅(約120地点)における照度を計測した。結果をJIS規格と比較したところ、多くの地点で乗降客の多寡にかかわらずホームや通路の明るさがJISで最も明るいA級駅(一日の乗降客15万人以上)の水準(200lx)を上回っていることが判明した。弱視者にとって必要な「明るさの最低保障」となる新たな基準が必要であるとの結論に至った。
営業中の駅で大規模な検証を行うことは困難であるため、実験環境下で多くの弱視被験者による検証に基づいた基準作りが望まれる。
抄録全体を表示
-
大内 誠, 菊地 拓也, 尾崎 千尋, 関 喜一, 岩谷 幸雄
p.
95
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【研究の背景と目的】 白杖を持って歩道を歩いているとき、視覚障害者が最も危険を感じるのは、近づいてくる自転車であると言われている。事実、視覚障害者が自転車と衝突したり、接触して白杖を折られたりする事故が多発している。このような事故から自分自身を守るためには、自転車などの移動障害物がどの方向からどれくらいのスピードでこちらに近づいてくるのかを認識し、とっさに回避する能力を身につける必要があるが、そのような訓練手段はほとんど存在しない。そこで、私たちは、仮想聴覚ディスプレイの技術を応用し、移動物体の位置や移動方向を音像だけで表現するゲームを開発した。これを用いて訓練することにより、移動障害物の回避能力を安全に効率的に向上させることが本研究の目的である。
【開発ゲーム概要】 プレーヤはWiiリモコンを搭載したヘッドホンを装着し、手にもWiiリモコンを持つ。プレーヤは向かってくる移動物体の音像を聞き分け、自動車(今回は自転車ではなく認識し易い自動車の音を用いた)ならば回避行動を取り、アイテムならば腕を振ってそれを取得する。アイテムを取得できると得点が加算され、自動車に当たると減点される。移動速度は自動車もアイテムも時速25キロメートルである。
【訓練効果の検証と結果】 訓練効果を検証するため22名の晴眼者に対して実験を行った。この内半数の11名に対して7日間~10日間の訓練を実施した。訓練は1日当たり3ゲーム(1ゲーム当たり60秒のプレイ時間)連続で行った。また、22名全員に対して訓練の初日と最終日に、転がってくるボールを目隠しした状態で回避する実験を行った。その結果、訓練を行ったグループの衝突回避猶予時間が有意に短縮され、移動障害物が近づいて来た際にとっさに回避行動に移れるようになったことが証明された。なお、訓練を行っていない残りの11名のグループでは衝突回避猶予時間に変化はなかった。以上の点から、本ゲームは移動障害物を認知回避する能力を向上させるために有効であることが明らかとなった。
抄録全体を表示
-
関 喜一, 三浦 貴大, 岩谷 幸雄, 大内 誠
p.
96
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
【背景・目的】
視覚障害者は、視覚情報に頼ることが困難であるため、触覚や聴覚などの残存感覚を頼りに環境を認識している。特に、全盲の視覚障害者は、周囲環境中の発音物体および非発音物体の存在や距離を、音情報によって知覚できる。このような聴覚による空間情報認知の能力が高まることで、視覚障害者にとっての移動がより行い易くなるはずである。
空間情報認知の訓練は、歩行訓練士によって行われる。訓練対象者は目的地への移動という課題を与えられ、環境認知(周囲環境中の物体と自身の相対位置を把握)と身体運動(ある目的地点へ身体を動かす)の方法を習得する。しかし、歩行訓練の対象者が全国に約20万人であるのに対し、訓練士は約500人足らずで、その実働数は約半数である。そこで、訓練士の負担を軽減し、簡易的かつ効果的に聴覚による空間認知訓練を安全に行える手法が必要である。
そこで筆者らは、聴覚による空間知覚能力の訓練システムを提案し、開発を進めてきた。本システムは訓練者の頭の向きに応じて、訓練音を仮想的にヘッドホン提示できる。実環境での歩行訓練を行う前にこの装置を用いることで、訓練者の危険や恐怖心を軽減できると考えられる。本システムは視覚障害リハビリテーションの現場に、ソフトウェアとして提供され、臨床での効果検討がなされている。
前回の本研究発表大会においては、筆者らは実用/普及に耐えうる位置・姿勢センサについて調査し、各センサの実装指針について述べた。しかし、どのセンサにおいても、長時間の利用時では誤差が蓄積されることが分かった。そこで本研究では、長時間のセンサ使用時における誤差(ドリフト成分)の蓄積を軽減するための、フィルタリング技術の実装を目的とする。
【手法・進捗状況】 姿勢検出におけるフィルタリング手法についてMatlab上でシミュレーションを行った。検討対象は、姿勢(Euler角)検出に当たっての加速度/ジャイロセンサの出力データ列である。時間変化に対応するフィルタとして、拡張カルマンフィルタ(EKF)、Unscentedカルマンフィルタ(UKF)について検討した。この結果、いずれのフィルタを用いる場合でも、ドリフト成分を抑制できることが分かった。本発表ではこれらの結果について述べた上で、システムへの実装状況について報告する。
抄録全体を表示
-
田内 雅規, 中村 孝文, 村上 琢磨
p.
97
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
2012年2月に、3年に一度開催される国際モビリティカンファレンス(International Mobility Conference, 略称IMC)の第14回大会がニュージーランドのパルマーストンノース(Palmerston North)市で2月13日~16日の4日間にわたって開催された。同市は今回のホストであるマッセイ大学(Massey University)の在るところで、同大学のスティーブ・ラグロー教授が会長であった。同国際モビリティカンファレンスはO&Mスペシャリストが主の世界規模の大会であり、様々な国から歩行訓練士、視覚リハ専門家、関連研究者等が集って臨床経験、調査、研究等の発表を行っている。今大会では世界18ヶ国の参加者から口演106題、ポスター12題の発表があった。発表者の国名はニュージーランド、オーストラリア、米、仏、スウェーデン、スペイン、オランダ、ノルウェー、スイス、香港、南アフリカ、独、日本、カナダ、ハンガリー、オーストリア、英、インド(順不同)であった。参加者の総数は正確ではないが300名程度であったと思われる。今回の発表では、第14回国際モビリティカンファレンスの状況と発表トピックスについてその概要を発表する。因みに次回のカンファレンス(IMC15)はカナダケベック州のモントリオールで7月初旬に開催される。
参考URL(IMC14):http://www.imc14.com/page.php?1
抄録全体を表示
-
村上 琢磨, 関田 巖, 宍戸 久子, 石川 充英, 遠藤 律子, 酒井 智子, 山口 規子, 千葉 康彦, 河原 佐和子, 中口 潤一, ...
p.
98
発行日: 2012年
公開日: 2012/06/20
会議録・要旨集
フリー
ガイドヘルプサービスを利用する視覚障害者の大多数は歩行訓練士による歩行訓練を受けていない。さらに、歩行訓練士やその他の晴眼者によるガイドヘルプの受け方を学んでいない。
にもかかわらずガイドヘルパー(移動支援従業者、同行援護従業者)となるために学ぶ技術は視覚障害者がガイドヘルプの受け方を学んでいることを前提にしている。
そのため、現場においてガイドヘルパーが養成研修で学んだ行動を視覚障害者が取れないことによる問題が生じている。
例えば、ドア(狭い所)を通過するとき、ガイドヘルパーは視覚障害者が障害にぶつからないように腕を背中側に回す。にも関わらず、ドアにぶつかってしまう人が少なくない。回り込む程度がわからないためであったり,意味が理解できず背中側に回り込もうとしないためなどが考えられる。
そこで、NPO法人視覚障がい者しろがめは晴眼者によるガイドヘルプの受け方を学んでいない視覚障害者を前提としたガイドヘルプ技術の必要性を示し、場面ごとの技術を提案する。
狭い所を通過するとき、ガイドヘルパーは腕を後ろに回す代わりに、ぶつかりそうな箇所に視覚障害者の手を導くことを提案する。こうすることにより、視覚障害者はぶつかりそうな箇所を自ら避けることができる。
つまり、ガイドヘルプの受け方を学んでいない人(前記したガイドヘルパーが腕を背中側に回した意味が理解できない人、背中側に回り込む程度がわからない人、さらに身体機能の関係で背中側に回れない人など)も、障害にぶつからずに狭い所を通過することができる。
参考資料 村上琢磨、関田巖著:目の不自由な方を誘導する ガイドヘルプの基本 第2版、文光堂、2009
抄録全体を表示