日本ペインクリニック学会誌
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17 巻, 4 号
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総説
  • 福井 弥己郎, 岩下 成人
    2010 年 17 巻 4 号 p. 469-477
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    痛みは不快な感覚・情動を伴う主観的体験であり,そのとらえ方はヒトによって大きく異なることから,客観的評価を行うことが困難であった.近年,画像医学の技術進歩に伴い,ポジトロン放出断層撮影(PET),機能的磁気共鳴画像(fMRI),核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)をはじめとする機能的画像診断法が確立し,痛みの脳内機構に関してさまざまな知見が明らかにされている.また,機能的画像診断法のみならず,3D-MRIを応用したvoxel-based morphometry(VBM)によって脳内組織の容積を直接測定する形態学的画像診断法も確立されつつある.これらの研究から,慢性痛患者では痛みの認知面,情動面に関与する部位の神経化学的・解剖学的・機能的変化が深く関与していることが示唆されている.これらの画像診断法をもとに明らかにされてきた痛みに関するさまざまな研究とその成果について概説する.
原著
  • 秋元 望, 本多 健治, 松本 恵理子, 川田 哲史, 右田 啓介, 牛島 悠一, 高野 行夫
    2010 年 17 巻 4 号 p. 478-484
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    目的:神経障害痛の発症機序にミクログリア細胞の関与が示唆されている.ミクログリア細胞の活性は抗生物質ミノサイクリンで抑制されることが報告されているので,神経障害痛発現に対するミノサイクリンの抑制効果を検討した.
    方法:神経障害痛モデルはマウスの坐骨神経を部分結紮し,作製した.痛みの強さはvon Frey フィラメント刺激に対する痛み様行動をスコア化し,評価した.脊髄グリア細胞の変化は,免疫組織染色法とウエスタンブロット法により検討した.
    結果:坐骨神経部分結紮後,結紮側で痛みスコアが上昇(アロディニア発現)し,脊髄ミクログリアの発現量が増加した.ミノサイクリンを結紮前(20 mg/kg)とその後7日間(20 mg/kg/日)の反復投与によりアロディニアの発症と脊髄ミクログリアの発現量が抑制された.ミノサイクリンを結紮3日後から7日間(20 mg/kg/日)の投与により,アロディニアの発現は一部抑制されたが,ミクログリアの発現量は抑制されなかった.
    結論:神経障害痛に対してミノサイクリンは有効であり,その作用機構に脊髄ミクログリア細胞の活性の抑制が一部関与することが示唆された.
症例
  • 瀧波 慶和
    2010 年 17 巻 4 号 p. 485-487
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    交通事故の打撲を契機に,下肢の慢性的な痛みやしびれ,腫脹を訴えた64歳男性患者の治療を報告する.経過中に患者の行動から複合性局所疼痛症候群(CRPS)ではなく,詐病と考えられたこともあった.しかし,病歴を詳細にとり,検査所見を再検討し,CRPSを疑い,積極的に神経ブロックやリハビリテーションにより不動を回避し,患者の理解と努力を得て10カ月間の治療を行った.その結果,最終的には受傷から9カ月後の腰部交感神経節ブロック施行後に,症状が著しく改善した.
  • 山本 洋介, 山田 信一, 有川 貴子, 永田 環, 中川 景子, 大石 羊子, 澤田 麻衣子, 福重 哲志, 牛島 一男
    2010 年 17 巻 4 号 p. 488-490
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    膝蓋下脂肪体炎で下肢痛を生じ,歩行困難となった症例を報告する.症例は 81歳の男性で,当科を受診する 1カ月半前に,右大腿前面から膝に及ぶ痛みが起こった. MRI検査により L3/4外側ヘルニアと判断され,仙骨硬膜外ブロックや L3の神経根ブロックを数回受けたが,痛みは軽減しなかった.膝の MRI検査で外側半月板変性も疑われ,膝関節内に局所麻酔薬の注入を受けたが,痛みは軽減せず,歩行困難となったので当科を紹介された.痛みは視覚アナログスケールで 83 mmであり,大腿四頭筋は萎縮し,筋の両側辺縁に沿った部位と膝関節周囲に強い圧痛があった.右大腿部の感覚障害はなかった.痛みが膝から始まり,膝蓋下に強い圧痛があったので,膝蓋下脂肪体炎を疑い,診断的ブロックとして,膝蓋下脂肪体に 1%メピバカイン 3.5 mlとベタメタゾン 2.5 mgを局所注入した.ブロック直後から痛みは軽減し,歩行が可能となった.その後,局所麻酔薬の注入を計 3回行い,1カ月後からは鎮痛薬内服だけで,膝の違和感が残っただけであった.大腿四頭筋の萎縮は,朝,夜に坐位からの起立運動を行うことで改善し,2カ月後に違和感も消失した.
  • 北島 美有紀, 境 徹也, 樋田 久美子, 澄川 耕二
    2010 年 17 巻 4 号 p. 491-493
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    明らかな原因を発見できない口腔内灼熱感のうち,痛みが舌に限られるものが舌痛症と定義されている.心理的要因が関与しているとされるが,発症の原因は不明である.今回,漢方薬の抑肝散加陳皮半夏(エキス製剤7.5 g中に半夏5 g,蒼朮4 g,茯苓4 g,川きゅう3 g,釣藤鈎3 g,陳皮3 g,当帰3 g,柴胡2 g,甘草1.5 gを含む)により痛みが軽減した舌痛症の1症例を報告する.患者は82歳の男性で,4年前に脳梗塞を発症し,その約1年後から舌の痛みが出現した.歯科で口腔内の器質的障害は否定されていた.脳梗塞の後遺症で歩行障害があり,患者はいらいら感や胃部不快感を訴えていた.また,舌に何か異常があるのではないかという不安を持っていた.漢方的診察により得られた証に随って,抑肝散加陳皮半夏7.5 g/日を開始した.内服開始7日後には,痛みの程度は数値評価スケールで8/10から4/10に軽減し,範囲も半減した.患者の証に沿った漢方薬の選択が,難治であった舌痛の緩和に繋がった.
  • 又吉 宏昭, 川井 康嗣, 白源 清貴, 大竹 由香, 松本 美志也, 坂部 武史
    2010 年 17 巻 4 号 p. 494-497
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    カルバマゼピン内服中に高度の低ナトリウム血症を生じ,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が疑われた症例を報告する.75歳の女性で,特発性三叉神経痛の治療をカルバマゼピンの内服と下顎神経ブロックで行っていた.下顎神経ブロックの効果が減弱し,カルバマゼピン600 mg/日でも痛みがコントロールできなかったので,下顎神経ブロックの目的で入院した.入院当日夜に痛みが増強し,血圧が上昇した.カルバマゼピン100 mgを追加した.翌日から気分不良,全身倦怠感,嘔気と頭痛が生じた.血清ナトリウムが119 mEq/Lと低下していた.尿量が減少しており,血漿浸透圧が低値で,尿浸透圧は高値であった.カルバマゼピンを中止し,水分摂取を制限した.入院8日目に血清ナトリウムは 135 mEq/Lに改善した.その後,下顎神経の高周波熱凝固を行い,痛みは消失し,カルバマゼピンを中止した.カルバマゼピンによるSIADHの頻度は低いが,注意すべき副作用である.三叉神経痛で,薬物療法の副作用が生じた場合は,高周波熱凝固術は有意義であると考えられた.
  • 野上 堅太郎, 谷口 省吾
    2010 年 17 巻 4 号 p. 498-501
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    歯痛を主訴とした腹部片頭痛の1症例を経験したので報告する.14歳の男児で,右側の下顎臼歯部に痛みが起こり,歯科処置を受けたが痛みは軽減しなかった.頭部CTで器質的疾患は否定され,当科を紹介された.痛みは,右側の上顎臼歯部から下顎臼歯部にかけて,1日に1~2回,朝と夜に多く起こり,2~3 時間持続していた.詳細に病歴を聴取すると歯痛が起こる前に閃輝暗点が起こり,歯痛が発現した時に嘔気,光過敏,同側の流涙を伴っていた.ゾルミトリプタン2.5 mgの服用約10分後に発作は軽減し,流涙は消失した.その後,紹介した頭痛専門医による詳細な問診で,幼少期から上腹部痛,嘔気,嘔吐を頻回に繰り返していたことが明らかになり,腹部片頭痛と診断された.
  • 小島 康裕, 白石 義人, 中島 芳樹, 五十嵐 寛, 山口 昌一, 谷口 美づき, 佐藤 重仁
    2010 年 17 巻 4 号 p. 502-505
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    難治性の手指潰瘍と痛みに,星状神経節ブロックが奏効した症例を報告する.77歳の女性で,1カ月前から両手指のしびれと痛みが生じていた.近医で,温熱療法,牛車腎気丸,ビタミンE製剤の内服を開始したが,症状は改善しなかった.その後,血管拡張薬の点滴治療を開始されたが治療効果に乏しく,左2,3指の先端が壊死になった.当院を受診後,膠原病,血栓症,血管炎などを精査したが,確定診断には至らなかった.左側の星状神経節ブロックを連日実施し,右側の星状神経節近傍への直線偏光近赤外線照射を併用した.星状神経節ブロックを1回施行後から痛みは軽減し,手指の色は1週間後から改善傾向を示した.治療開始1カ月後頃から潰瘍は肉芽化した.治療開始3カ月後には,左2,3指に肉芽を残すのみで痛みは消失した.肉芽化していた指は約4カ月後に上皮化した.原因不明の手指の難治性潰瘍に対して星状神経節ブロックは選択すべき治療法のひとつである.
日本ペインクリニック学会安全委員会報告
  • 日本ペインクリニック学会安全委員会 , 田口 仁士, 村川 和重, 宇野 武司, 津田 喬子, 益田 律子
    2010 年 17 巻 4 号 p. 506-515
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    日本ペインクリニック学会安全委員会は,専門医指定研修施設の全307施設を対象に,医療安全のアンケート調査を実施した(2009年2月).アンケートの回収率は64%であり,おもな調査結果は次の通りであった.過去1年間で「ひやり」とした経験は,54%(103/191)にみられ,過去10年間で実害なしでもトラブルになった経験は,34%(65/192)にみられた.回答者の半数が患者からの暴力的言動を受けていた.事故防止対策は,「十分またはかなり実施」が61%であったが,医療事故を52%(101/195)が経験し,感染が最も多く,気胸,神経損傷,呼吸停止が続いた.事故による医事紛争は,20%が経験していた.患者とのトラブル回避方法では「十分な診療の説明」が,医事紛争の要因では「患者との希薄な信頼関係」が,それぞれ最も多くあげられた.これまでの調査で神経ブロックに関する事故や紛争の状況が明らかになってきたが,今回の調査で,ペインクリニックの診療全般において安全上の諸問題が多発していることが示された.患者と医療者がともに安心できる診療のために,よりいっそうの対策が急務であると考えられる.
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