高比重の局所麻酔薬をくも膜下に投与すると神経障害が起こると疑われたが,蒸留水とブドウ糖液で溶解した局所麻酔薬の神経毒性は組織学的に検討されていない.われわれは,蒸留水と10%ブドウ糖液で溶解した0%, 0.5%, 1%, 2.5%, 5%のテトラカイン溶液をラットのくも膜下腔に投与し,下肢の機能を観察した後,脊髄組織を光顕と電顕で評価した.下肢の運動機能はテトラカインの濃度が0.5%以上ではブドウ糖群が蒸留水群よりも早く回復し,不可逆性の運動麻痺は蒸留水群の5%テトラカインのみで起こった.組織学的な病変の出現頻度は,5%テトラカインで蒸留水群(100%)とブドウ糖群(67%)で有意差はなかったが,2.5%テトラカインで蒸留水群(71%)はブドウ糖群(0%)より有意に高かった.どの群でも後根入口部に主病変があり,病変は軸索変性により後索へと広がっていた.以上のことから,10%ブドウ糖液は,蒸留水に比べ,テトラカインの神経毒性を悪化させず,むしろ軽減することが示された.
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