脊椎疾患の保存的治療における疼痛および障害の改善に影響する因子を縦断的に調査した.施設倫理委員会承認後,2018年7月~2019年12月に当センターを受診した18歳以上の脊椎疾患患者185名を解析した.患者背景(年齢・性別・body mass index・罹患期間・罹患高位・脊椎手術歴),治療因子(内服・神経ブロック・運動療法),および初診時・3カ月後の簡易疼痛質問票(BPI),疼痛生活障害尺度(PDAS),不安抑うつ尺度(HADS),痛みの破局化思考(PCS)を調査した.3カ月後の疼痛および障害の改善は,BPI減少率≥50%およびPDAS減少率≥30%と定義した.短い罹患期間および神経ブロック治療が疼痛改善と有意に関連した(p<0.05).若年齢,短い罹患期間,および脊椎手術歴がないことが障害改善と有意に関連した(p<0.05).3カ月間のHADSおよびPCSの変化量は,BPIおよびPDASの変化量と有意に相関した(p<0.001).脊椎疾患の保存的治療では,早期介入や局所鎮痛がアウトカム改善に寄与するが,高齢者や脊椎手術既往者では治療反応性は乏しく,治療内容の再考を要する.
脳脊髄液漏出症の診断のための主な画像検査として,CTミエログラフィー,MRミエログラフィーと脳槽シンチグラフィー(radioisotope cisternography:RIC)がある.当院では,以前よりRICを実施してきたが,RIC単独で漏出部位を特定できる症例は少ないとされている.今回われわれは,RICに単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(single photon emission computed tomography:SPECT/CT)を併用することで,漏出部位を特定できた3症例を経験した.3症例とも,SPECT/CTを追加することで長軸および水平方向の漏出部位を正確に判定でき,硬膜外自家血注入で治癒した.脳脊髄液漏出症を診断する際,RICとSPECT/CTの併用は,鋭敏な検査法として選択肢の一つになりえる.造影剤アレルギー等によりCTミエログラフィーが実施できない症例などに対して良い適応であり,画像判定基準では明確な診断ができない場合には,検討すべき検査である.
【症例】46歳女性,身長157 cm,体重58 kg.20歳ごろより両股関節痛を生じ,変形性関節症と診断され保存的に加療していた.当院整形外科紹介受診し,左人工股関節置換術施行予定となった.腰神経叢ブロックと傍仙骨部の坐骨神経ブロックを施行後,全身麻酔導入し,手術を行った.術後のレントゲンで脚延長は20 mmであった.覚醒後,両下肢に運動障害と感覚障害があった.症状は数時間以内に改善し,腰神経叢ブロックが硬膜外ブロックになったと考えられ,画像検査で血種による神経圧迫などを除外した上で経過観察となった.その後,感覚障害と運動障害は改善傾向であったが左足関節の背屈運動のみ回復が遅れ,術28日後の筋電図検査にて腓骨頭レベルでの軽度腓骨神経障害と診断された.術32日後,杖歩行安定し退院した.【まとめ】本症例の神経症状は,腓骨頭レベルでの神経障害であることから,腓骨神経の過伸展等の物理的因子に起因することが推察されるが,腰神経叢ブロックが硬膜外ブロックになったことにより麻痺症状が初期段階ではマスクされた.また今回の神経ブロックが麻痺に影響した可能性も否定できない.
【背景】脊椎側弯症矯正術後の痛みは強く,小児では術後痛管理に難渋する.【症例】11歳女児.脊椎側弯症矯正術を行った.創部痛に加え右上腕と腋窩のしびれと痛みがあり神経障害性痛の合併が示唆された.術後痛に対してフェンタニルの経静脈的自己調節鎮痛法(IVPCA)を行った.術後5日目,IVPCA中止を試みたが拒否された.また痛みに怯え,洗髪のため看護師が髪に触ることも拒絶し,体位変換を行うこともできなかった.そこで,小児は適応外であるが,プレガバリンの投与を開始しIVPCAを中止することができた.術後7日目に座位,術後8日目に歩行器立位,術後11日目には歩行器歩行,術後19日目に自立歩行,術後21日目に退院した.【考察】小児に投与可能な経口鎮痛薬の種類は少なく,麻薬性鎮痛薬は非がん性痛には禁忌である.本症例は侵害受容性痛と神経障害性痛の混合性疼痛であったと考えられる.また不安,抑うつを認め,心理社会的因子の関与が示唆された.患者,保護者の承諾を得て,プレガバリンの投与を開始した.プレガバリンの抗不安効果も良好な経過をもたらしたと考えられる.【結語】小児の側弯症術後痛に対しプレガバリンが有効であった.