日本ペインクリニック学会誌
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27 巻, 4 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
委員会報告
  • 日本ペインクリニック学会安全委員会, 前田 愛子, 山田 信一, 田中 信彦, 益田 律子, 關山 裕詩, 津田 勝哉, 中塚 秀輝, 山蔭 ...
    原稿種別: 日本ペインクリニック学会安全委員会報告
    2020 年 27 巻 4 号 p. 271-280
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/07/28
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    日本ペインクリニック学会安全委員会では,2009年より有害事象調査を行っている.本稿では2018年の1年間にペインクリニック専門医指定研修施設で発生した有害事象についての調査結果を報告する.【方法】国立大学病院長会議医療安全管理協議会の定めた「インシデント影響度分類」のレベル3a以上およびその他(社会的問題)を報告対象とした.また,レベル3b以上は重大な有害事象として詳細な報告を求めた.【結果】98%の施設から回答が得られた.鎮痛薬・鎮痛補助薬に関する有害事象:25件の報告のうち,重大な有害事象としてレベル3b,レベル5,その他の社会的問題がそれぞれ数件ずつ報告された.神経ブロック・インターベンショナル治療に関する有害事象:145件の報告のうち,重大な有害事象としてレベル3bが44件,レベル4a,レベル4bがそれぞれ数件ずつ報告され,レベル5の報告はなかった.例年よりも手術療法に関連した報告が増加した.【結語】有害事象情報を学会員間で共有し,痛み診療における危機管理意識向上と有害事象の再発防止を促したい.

原著
  • 佐野 禎一, 横山 順一郎
    原稿種別: 原著
    2020 年 27 巻 4 号 p. 281-286
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/09/15
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    【目的】斜角筋間腕神経叢ブロック(ISB)単独での,肩関節鏡手術におけるデキサメタゾン添加による効果を後ろ向きに検討した.【方法】ISB単独で関節鏡下肩腱板断裂手術を行った症例のうち,局所麻酔薬に1%メピバカイン10 mlと0.75%ロピバカイン10 mlを用いた52例を対象とした.局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加しなかったC群(26例)とデキサメタゾン6.6 mgを添加したD群(26例)の2群に分けた.麻酔開始から導入完了までの時間(麻酔導入時間),麻酔開始後24時間以内の術後初回の鎮痛剤使用までの時間(麻酔効果時間),合併症などについて評価した.麻酔導入完了はC5,C6神経根領域の冷覚消失および運動神経遮断が得られた時点と定義した.【結果】C/D群の手術時年齢,手術時間,使用したアンカー数の中央値は68/69歳,75/78分,4/4個であり,両群間で差はなかった.BMIはD群で有意に低かった(p=0.027).C/D群の麻酔導入時間,麻酔効果時間の中央値はそれぞれ11/12分,494/746分であり,麻酔効果時間はD群で有意に長かった(p=0.001).【結論】局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加すると麻酔効果時間が有意に延長した.局所麻酔薬としてのデキサメタゾンは術後鎮痛に有用であった.

  • 馬場 正之, 黒羽 正範, 和崎 陽介, 大和田 章一
    原稿種別: 原著
    2020 年 27 巻 4 号 p. 287-295
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
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    【目的】糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)患者を対象としたミロガバリンの第3相試験(J303試験)のなかから,しびれ感のみを有する患者を対象にサブグループ解析を事後的に行い,しびれ感に対するミロガバリンの効果を検討した.【方法】プラセボ,またはミロガバリン15 mg/日,20 mg/日,30 mg/日を投与し,14週時点での評価を行った.おもな評価項目は,しびれ感の平均スコア(ADPS),ADPSのレスポンダー率,平均睡眠障害スコア(ADSIS),患者の全般的な状態の変化(PGIC)およびしびれに対する自覚症状の印象とした.【結果】解析対象は168名であった.30 mg/日群のADPSおよびADSISは,プラセボ群と比べ改善する傾向を示した.同群のPGICおよび自覚症状の印象は,プラセボ群と比べ改善した.また,同群でのおもな有害事象は,傾眠,浮動性めまい,末梢性浮腫および体重増加であった.これらの結果は,J303試験全体の結果とおおむね同様であった.【結論】ミロガバリンはDPNPのしびれ感に効果があることが示唆された.

症例
  • 橋本 法修, 大屋 清文, 岡村 知直, 柏木 秀行, 木附 康
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 296-299
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/07/28
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    身体症状症は,身体症状により日常生活に支障をきたし,苦痛を伴う症状への異常な思考・感情・行動が持続的にみられる疾患である.薬物療法の有効性は限られ,同時に精神療法を行う.今回,身体症状症の比較的珍しい表現型である下肢灼熱感に対し,支持的精神療法を行い症状が改善に向かった1例を経験した.74歳の女性が,胃がんと転移性肝がんの診断で化学療法を受けた.治療開始10日後から両足先から両下腿に広がる灼熱感が出現した.症状増悪のため入院し,原因検索を行ったが,症状につながる病変はなかった.DSM-V診断基準より身体症状症と診断した.患者の症状に対する苦痛や考えを受容し,感情の表出などを行う支持的精神療法を通じ症状は改善し退院した.身体症状症は比較的珍しい表現型に下肢灼熱感がある.原因検索を行うことは重要だが,医学的に説明ができないことを説明することで,患者に安心感よりもわかってくれなかったという悲しみや辛さを与える可能性がある.患者の医療に対する期待値を把握しながら,支持的精神療法を意識した構造的な患者医師関係の構築が有用であることが示唆された.

  • 青山 泰樹, 青山 有佳, 松井 秀明, 太田 栄理子
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 300-303
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/09/15
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    慢性痛に対しては心理アセスメントが重要視され,時に精神療法も奏効するが,急性痛においては慢性痛のそれに比して重視されることが少ない.今回,身体症状症および関連症群と判明した急性両下肢痛の小児症例を経験した.10歳の女児が身体的に有意な契機なく両下肢痛,歩行困難を自覚し,両膝屈曲不能で車椅子で受診し入院した.各科診察,各種検査で原因不明であった.入院5病日に学校担任教師の面談後,両下肢痛が消失し歩行可能となった.身体症状症および関連症群に分類される短期身体症状症と診断された.心理社会的因子の解消により急激に改善し得る重度急性痛が存在することが判明した.小児急性痛症例でも心理的アプローチが有用である可能性が示された.

  • 松本 知之, 白井 達, 森本 昌宏, 上原 圭司, 岩元 辰篤, 中尾 慎一
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 304-307
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/09/15
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    胸髄損傷後の両下肢痙性(不随意運動)に対して,高周波熱凝固(radiofrequency thermocoagulation)による神経根ブロック(RFTC root)が著効した症例を経験した.症例は13歳,女児.150 cm,38 kg.両下肢の不随意運動とそれに伴う両膝関節周囲痛(腱伸展時の痛み)を主訴に紹介受診となった.両下肢症状に対して対症療法的に,両アキレス腱切離術,両ハムストリングス腱切離術など複数回の手術歴があった.両下肢の不随意運動によるactivity of daily livingの著しい低下を認めており,本人と家族の強い希望があったために,不可逆的な神経変性を伴う治療である旨を事前に十分に説明したうえで,RFTC rootを計画した.伏臥位の保持が困難で,鎮静下での施術を強く希望したため,全身麻酔下に両側第2–4腰神経根RFTC root(おのおの90℃×180秒)を施行した.麻酔覚醒直後より両下肢の不随意運動とそれに伴う両膝関節周囲痛は消失し,登校が可能になるなど,通常の日常生活を取り戻しつつある.

  • 渋谷 まり子, 平良 豊, 比嘉 康敏
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 308-313
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/09/15
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    われわれは椎間関節造影とステロイド注入により寛解した,腰椎椎間関節嚢腫による下肢痛の3例を経験した.3例ともMRIで嚢腫様の腫瘤による神経根の圧迫所見があり,痛みの部位と一致した.椎間関節造影では椎間関節と嚢腫の交通が確認され,造影時に下肢痛の再現があった.2例は造影剤注入により嚢腫が破裂し,1例は破裂できなかったが,3例とも翌日には痛みが劇的に改善した.全例で6カ月以上経過しても再発がみられなかった.椎間関節造影は,本疾患において最初に行うべき治療法と思われた.

  • 杉部 清佳, 前田 愛子, 西ヶ野 千晶, 中山 昌子, 東 みどり子, 山浦 健
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 314-317
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/09/15
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    【症例】20代の男性.現病歴:左前縦隔腫瘍に対して胸腔鏡補助下腫瘍切除術を施行した.手術体位は右半側臥位,左上肢挙上(離被架吊り下げ)で同体位での固定時間は約8時間であった.全身麻酔覚醒直後より左上肢の疼痛と感覚・運動障害を認めた.術後7日目の腕神経叢の造影MRIで左腕神経叢の腫大がみられ腕神経叢損傷と診断された.運動障害が改善したため術後9日に退院となった.術後よりメコバラミン,プレガバリン(300 mg/日),トラマドール(200 mg/日)を内服していたが,退院後に左上肢痛が増強し術後43日に当科紹介受診となった.初診時現症:左前腕外側から母指の感覚障害と強い痛みがあり,運動障害も軽度みられた.治療経過:内服薬追加の希望はなく,腕神経叢ブロック(斜角筋間法)(1%メピバカイン,デキサメタゾン)を数回施行した後,疼痛は消失した.【まとめ】本症例は,手術体位による左腕神経叢損傷による神経障害性疼痛と考えられた.また画像所見から同部位に神経炎症が残存していると推測された.腕神経叢ブロックを施行することで早期に痛みが改善された.

  • 牛山 実保子, 加藤 実, 坂田 和佳子, 山田 幸樹
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 318-322
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/09/15
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    30歳代女性,主婦.10年間持続する右胸痛を主訴に,集学的多職種診察を行っている当院緩和ケア・痛みセンター内痛みセンター外来に紹介された.生活・家族背景などについて看護師診察の丁寧な聴取で,完璧主義で真面目な性格,母や夫に見捨てられないよう気を使っていること,40カ所の医療機関で見出せなかったトラウマ体験が明らかになり,かつ痛みで自分は死ぬというとらわれにつながっていたことが判明した.看護師は母とも面談を行い,学童期の通学中に同級生の死体遭遇体験,数々の傷つき体験,不安・恐怖感が強く周囲を気にかけての生育歴が判明した.身体的要因とトラウマ体験に伴う強い不安と恐怖感の情動要因の両者に対応した結果,初診から2カ月後に弱オピオイドの減量,痛みの軽減と日常生活の改善が得られた.身体的要因のみに焦点を当てた痛み治療で改善しない症例において,集学的多職種診察チームの看護師診察による本人や家族への介入で,本人の強い不安と関連する重要なトラウマ体験が明らかになり,独特な認知行動特性への多職種の対応が可能となり,集学的診療の効率をあげ有用であった.

  • 萩原 綾希子, 小田 浩之, 牧野 綾, 合田 由紀子, 松山 茂子, 長尾 知哉
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 323-326
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
    [早期公開] 公開日: 2020/09/15
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    症例は虫垂がん,腹膜転移根治術後の20歳代女性で,2年4カ月間明らかな再発を認めなかった.治療過程でフェンタニル口腔粘膜吸収剤[以下,OF(oral fentanyl)]を使用していたが,次第に回数が増加し,800 μg/回のOFを1日に10回以上使用するようになった.OF処方を過剰に要求し,希死念慮も出現したため入院管理下に減量・中止が計画された.1,800 μg/日まで減量されたが,それ以上の減量が困難となったため,薬剤調整目的に当院に紹介となった.精神科病棟に入院させ,本人の同意を得てOFをメサドン10 mg/日へ置き換えた.当初はOF使用を強く要求したが,クエチアピンの投与やスタッフによる支持的精神療法を行ううちに要求は減少した.入院15日目にはブプレノルフィン貼付剤に切り替え,25日目にオピオイド使用を完全終了した.入院経過を通じて身体離脱症候は認められなかった.OFの断薬には,精神療法・支持療法とともにメサドン・ブプレノルフィンへの切り替えが有効であった.

  • 松村 実穂, 木下 舞, 池田 真悠実, 谷口 洋, 井上 潤一
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 327-330
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
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    69歳男性.Stage IVの小細胞肺がんに対し化学療法2nd line終了後,痛みの増悪および全身倦怠感を訴え入院となった.オピオイドの内服継続に加えステロイド投与が開始されたが症状の改善なく,緩和ケアチーム紹介となった.肺がん診断当初よりリンパ節転移が主因と思われる前胸部痛を訴えていたのに対し,緩和ケアチーム初診時は心窩部痛を訴えた.画像検査では心窩部痛の原因となりうる病変は認めず,オピオイド抵抗性の痛みであった.痛みは胸焼けを伴い空腹時に増強したため,上部消化管病変を疑って内視鏡検査を実施した結果,食道カンジダ症と診断された.抗真菌薬の静脈内投与によって心窩部痛は消失し,全身状態も改善し,オピオイドを減量することができた.担がん患者の痛みや全身状態の悪化は,がんに起因するとは限らず,終末期であっても時にがん以外の対処可能な原因が存在することを念頭に置いたうえで,注意深い観察が求められる.

  • 伊藤 篤史, 舛田 昭夫, 山本 寛人, 横山 和明, 内田 篤治郎
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 331-334
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
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    腹部アンギーナはおもに食後の腹痛を呈し,しばしば疼痛コントロールに難渋する.脊髄刺激療法(SCS)はBuerger病などの虚血肢の疼痛コントロールに有効であるが,今回腹部アンギーナの患者に対し,SCSを用いることで症状が改善した症例を経験したので報告する.74歳男性.43歳時に腹部アンギーナに対し,大動脈–脾動脈バイパス術が施行された.その後,腹腔動脈および上腸間膜動脈が狭窄し,それに伴いとくに食後の腹痛が増悪するようになった.腸管の相対的虚血による疼痛と診断し,薬物治療や硬膜外ブロックによる治療を開始したが,効果は一過性であり症状改善は乏しかった.腹腔内は側副血行路が発達し手術による血行再建は不可能と判断された.SCSの適応を考慮し,試験刺激後にデュアルリード電極の先端をTh 8付近に留置した.植え込み後の疼痛コントロールは良好であった.3年後に他疾患の精査にてMRI検査の必要性に迫られSCSを抜去したが,その後鎮痛薬を要せず経過は良好である.末梢血行障害による虚血痛に対し,四肢に限らず体幹部においても,SCSは有効な治療法である可能性がある.

  • 藤田 陽介, 西山 隆久, 前田 亮二, 富野 美紀子, 岩瀬 直人, 板橋 俊雄
    原稿種別: 症例
    2020 年 27 巻 4 号 p. 335-339
    発行日: 2020/10/25
    公開日: 2020/10/28
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    内シャント設置後に生じた透析アクセス関連スチール症候群(以下,スチール症候群)にシャント閉鎖術を施行されたが,指尖部の虚血症状が残存した.この残存した虚血症状に星状神経節ブロック(以下,SGB:stellate ganglion block)が奏効した症例を報告する.50歳代男性,慢性腎不全のため10年前に内シャントを左前腕に設置された.当科初診2カ月前より透析時に増悪する左手指の蒼白と冷感と痛みが出現した.内シャント設置術後の虚血症状と考えられ,スチール症候群と診断された.当院血管外科より鎮痛薬と血管拡張薬の内服を開始され,シャント閉鎖術を施行された.しかし,指尖部の虚血症状は十分に改善しなかった.当科初診後,鎮痛薬を増量と変更し,複数回の左側のSGBを予定した.シャント閉鎖術から1カ月後に施行した初回のSGBで冷感と痛みの軽快がみられた.2回のSGBで虚血症状の増悪なく,手指の蒼白も劇的に軽快し,3カ月後に当科終診となった.スチール症候群は内シャントへの盗血による末梢循環障害が原因であり,シャント閉鎖術後にも残存する虚血症状にSGBによる血流改善効果は有効な治療法となり得る.

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