経皮的硬膜外腔癒着剥離術(percutaneous epidural adhesiolysis:PEA)で,薬液がくも膜下腔へ誤投与されることは危険であり,それを防ぐために脊髄造影の検出は重要である.腹臥位で正側2方向透視下にPEAを施行し,腹側硬膜外造影と判断して治療薬液も注入したが,術後脊椎CT(仰臥位)にて硬膜外造影と脊髄造影の併存が明らかとなった2症例を経験したので報告する.PEAでは偶発的くも膜下注入の可能性を常に念頭に置き,疑わしい場合はCT検査の併用が必要である.
症例は15歳女性.2年前より腰痛が出現し,前医で精査加療するも症状軽快を認めず,当科紹介となった.硬膜外ブロック施行時,不安が強く流涙し,その後,注射による治療を拒否した.MRIで椎間関節水腫を認め,臨床症状からも椎間関節による痛みが示唆された.診断目的で鎮静下の椎間関節ブロックを施行し,症状は一時的に軽快した.鎮静下の椎間関節ブロック,後枝内側枝ブロックパルス高周波法を疼痛の急性増悪時に施行した.鎮静下の神経ブロックは合併症の早期発見を阻害するため推奨されないが,不安が強い若年者で選択肢となり得る.若年者の慢性腰痛に鎮静下の椎間関節ブロックが有効であった症例を経験した.
下顎骨形成術にガッゼル神経節ブロックのランドマークを参考に超音波ガイドにて下顎神経ブロックを実施した.卵円孔周辺の頭蓋底をエコーで描出し,口角外側3 cmより刺入し神経刺激による下顎神経のtwitchが出現した地点でロピバカインを注入した.術中は少量のオピオイド併用で循環動態が安定し,補助鎮痛として有用であった.
寒冷環境で約2週間過ごした後,入浴により下肢を温めたことを契機に激痛を生じ歩行困難となった症例を経験した.皮膚,軟部組織には凍傷は認めなかった.自発痛はなく誘発痛のみで,両足先に軽く触れると激痛(アロディニア)を生じた.痛みを生じる部位の冷覚とピンプリック痛覚は脱失していた.血管拡張薬や交感神経ブロックでは痛みに変化はなかった.nonfreezing cold injury(NFCI)と診断し,プレガバリン,アミトリプチリン,トラマドールの投与,腰部持続硬膜外ブロックなどの治療を開始したが,鈍的圧迫でも激痛が誘発されるため歩行困難が持続した.内側足底神経へのパルス高周波療法,リハビリテーションなどを追加し治療を入院から外来治療に移行し観察していたところ,発症約2カ月後,冷覚およびピンプリック痛覚は突然回復し,痛みもなく歩行可能となった.寒冷環境にさらされて生じたNFCIの症例を経験し,2カ月の治療後完全寛解したので報告する.
Ramsay Hunt症候群(以下,Hunt症候群)に伴う末梢性顔面神経麻痺は,治療に難渋する場合がある.今回,鍼治療が後遺症の軽減とQOLの向上に寄与した高度肥満の1症例を経験したので報告する.症例は53歳女性.当院にてHunt症候群と診断され,麻痺スコアは柳原40点法で4点であった.ステロイドと抗ウイルス薬が投与されたが著変せず,発症17日後に麻酔科を紹介受診した.高度肥満のリスクにより星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)は行わず,直線偏光近赤外線治療,silver spike point(SSP)療法を実施した.発症7カ月後に14点に改善したが,その後は改善がみられず,右顔面のこわばり感が残り,発症9カ月後に鍼治療を開始した.1~2週間に1回の頻度で計10回実施したところ,こわばり感が軽減し,発症13カ月後には麻痺スコアは20点に改善した.鍼治療は,SGBの実施において,ハイリスクな背景因子を有する治療抵抗性の末梢性顔面神経麻痺の後遺症とQOLに対し,安全性の高い有用な治療法として,ペインクリニック診療で考慮すべき治療法の一つと考えられた.
包括的慢性下肢虚血の急性増悪痛を高周波熱凝固法による末梢神経ブロックで緩和した1例を経験した.症例は50歳代の女性.足関節以下の痛みで受診,腎動脈下腹部大動脈以下の広範な血栓と動脈閉塞のため緊急入院した.救命のために下肢切断の適応があったが,患者が積極的治療を希望せず,緩和ケアの方針となった.坐骨神経,伏在神経に対し高周波熱凝固法を計4回施行したところ,痛みは緩和された.包括的慢性下肢虚血に対する末梢神経の高周波熱凝固法は,患者予後や日常生活動作のバランスを考慮すれば,鎮痛方法として有効な選択肢となる.
【はじめに】ヒドロモルフォンは構造式がモルヒネに類似したオピオイドで効果,副作用,代謝も類似している.腎機能が低下した症例でも比較的安全に使用できるとされているが高用量,長期間で使用すると神経毒性が報告されている.【症例】79歳男性,左肺上葉扁平上皮がんをもち中等度の腎機能低下患者に,持続皮下注射で3日間使用し神経興奮を生じたが,モルヒネ持続皮下注射に変更したところ速やかに終息した.【結語】過去に神経興奮の記録がなく,ヒドロモルフォン開始とモルヒネへの変更により機を一にして神経興奮を発症し終息したためヒドロモルフォンによる神経興奮が疑われた.ヒドロモルフォンの代謝産物ヒドロモルフォン–3–グルクロニドは蓄積すると神経興奮作用があり,その使用には少量短期間であっても注意が必要である.