日本小児循環器学会雑誌
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40 巻, 2 号
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巻頭言
Review
  • 廣野 恵一
    2024 年 40 巻 2 号 p. 71-81
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー

    心筋症とは,心機能障害を伴う心筋疾患と定義され,原因はしばしば遺伝性である.小児の心筋症では様々な遺伝子に様々な変異があり,遺伝的多様性が特徴である.遺伝形式も常染色体顕性,常染色体潜性,X連鎖性,ミトコンドリア性と様々である.遺伝性心筋症の特徴として,同一遺伝子内の異なる変異は異なる病型を示すこと,遺伝子変異の多くが稀で同一のホットスポットや変異を有することは稀であること,同一の家族内でも様々な浸透率を示すことが挙げられる.また,同一の遺伝子変異を有していたとしても,臨床経過,転帰は同一家族内でも様々である.家族を含めた遺伝学的検査を行うことが重要であり,遺伝学的背景を念頭においた包括的な診療が不可欠である.

  • 石田 秀和
    2024 年 40 巻 2 号 p. 82-90
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー

    小児期発症の特発性心筋症は比較的稀な疾患であるが,小児循環器専門医にとってはその診断と治療に関して十分な知識を備えておくべき疾患である.本総説では,2023年7月8日に開催された日本小児循環器学会第20回教育セミナーベーシックコースでの発表内容をもとに,小児心不全に対する薬物療法の基礎および最近の進歩について総論として紹介し,各論として拡張型心筋症,肥大型心筋症,拘束型心筋症について,その診断に関連する主な臨床検査と治療について概説する.最後に,日本および当院における小児心臓移植医療の現状について簡単に紹介する.

  • 安田 和志
    2024 年 40 巻 2 号 p. 91-102
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    電子付録

    「2023年改訂版 心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」では,心筋炎はその発症様式や時間経過により,急性心筋炎,慢性活動性心筋炎,慢性心筋炎,慢性炎症性心筋症,心筋炎後心筋症に分類された.心内膜心筋生検が心筋炎診断のgold standardであるが,近年,心臓MRIの重要性が高くなっていることを反映し,急性心筋炎を示唆する症状,徴候,臨床経過に心筋トロポニン値の上昇を伴う場合,心臓MRIでLake Louise Criteriaを満たす画像所見を示せば,心筋生検を施行せずに急性心筋炎と診断する診断アルゴリズムが提言された.しかし慢性活動性心筋炎,慢性炎症性心筋症の確定診断には心内膜心筋生検が必須である.本総説では2023年改訂版ガイドラインに沿って,心筋炎の診断,治療,管理について自験例を織り交ぜて概説する.心筋炎は臨床経過と非侵襲的検査のみでは診断できないため,心筋生検and/or心臓MRIで確定診断する必要がある.拡張型心筋症と臨床診断した症例の中には慢性活動性心筋炎,慢性炎症性心筋症が一定数存在する.これらの症例を適切に診断,治療,管理することは小児期のみならず,成人期に至るまで重症心不全診療の成績向上に寄与するものと期待する.

  • 山本 祐華
    2024 年 40 巻 2 号 p. 103-112
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー

    心不全とは心臓のポンプ機能が低下し,全身の臓器に必要とする酸素が供給できない状態とされる.胎児心不全の場合胎児水腫を認めることが多いが,胎児水腫=胎児心機能低下ではない.胎児の全身状態を評価する際には胎児循環や胎児の生理学的な特性を念頭に置く必要がある.胎児心機能の評価方法はさまざまあり,収縮能や拡張能を交えて総合的に評価するが,その一つにCVPスコアがある.胎児心機能だけでなく,動静脈ドプラを組み合わせていることがその特徴である.また胎児心不全に至った原因により病態生理に合わせた項目を選択し評価する必要がある.例えば高拍出性心不全では心拍出量が鍵となり,エブスタイン病では左室のTei indexや三尖弁逆流の最大血流速度などが重要となる.どの疾患においても胎児水腫が完成する前の娩出が望まれるものの胎児の未熟性との兼ね合いを考慮し,生後の治療を念頭においた総合的な周産期管理が望まれる.

  • 泉 岳
    2024 年 40 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー

    体格制限のある小児や,特有の心臓構造を持つ先天性心疾患ではリードや植込み法の選択のみならず,その自然歴を勘案したデバイス治療が重要である.また,新しい機能,ペーシングデバイスも登場しており,同領域での植込み数の増加が予想される.本稿では,小児・先天性心疾患のデバイス治療の最近の知見について述べる.

  • 竹内 宗之
    2024 年 40 巻 2 号 p. 121-126
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー

    小児循環器疾患の主たる治療はもちろん循環管理であるが,だからこそ呼吸管理で患者の予後を悪化させないようにしたい.そのためには,酸素化とガス交換だけでなく,肺傷害の予防,呼吸仕事の適正化,患者人工呼吸器同調性,呼吸循環相互作用の4つの因子も考慮しながら人工呼吸器を設定する必要がある.本稿では,上記4つの因子が患者に及ぼす影響や,小児,とくに新生児・乳児の人工呼吸の注意点を概説する.

症例報告
  • 江口 太助, 吉川 英樹, 塩川 直宏, 櫨木 大祐, 野村 裕一, 緒方 裕樹, 松葉 智之
    2024 年 40 巻 2 号 p. 127-131
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー

    右冠動脈肺動脈起始(ARCAPA)は稀な先天性心疾患である.体重増加不良の経過観察中に原因検索の一環として行った心臓超音波検査で診断した1歳2カ月の女児を経験した.心臓超音波検査で左冠動脈主幹部はやや太く,右冠動脈の起始部が不明であり,カラードプラで心室中隔に複数の血流シグナルを認めた.冠動脈CTで右冠動脈が主肺動脈から起始しておりARCAPAと診断を確定した.心臓カテーテル検査による左冠動脈造影では左冠動脈から側副血行路を介し右冠動脈に造影剤が流れ込み主肺動脈が造影された.心臓超音波検査での心室中隔の複数の血流シグナルは左冠動脈から右冠動脈への側副血行路であった.ARCAPAは心筋梗塞や突然死を来すことがあり,本例も右冠動脈の大動脈への再移植が行われた.特長的な所見を示す本症の診断には心臓超音波検査が有用であった.

  • 倉信 大, 宮井 健太郎, 吉敷 香菜子, 石井 卓, 細川 奨, 宮田 理英, 村上 信行, 清原 鋼二
    2024 年 40 巻 2 号 p. 132-137
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー

    重複大動脈弓(double aortic arch: DAA)は血管輪を来す代表的な疾患である.一方Prader–Willi症候群(PWS)は先天異常症候群の一つで,特に新生児期から乳児期は筋緊張低下による哺乳障害や,時に呼吸障害を起こすことがある.これまでPWSにDAAを合併した症例報告はない.症例は他院でPWSと診断されフォローされていた.1歳6カ月時に吸気性喘鳴を認め当院の救急受診し,精査でDAAと診断した.軽度の吸気性喘鳴のみで酸素化不良や努力様呼吸は認めず待機手術の方針として退院したが,退院後17日目に自宅で食事中に誤嚥による窒息で死亡した.本症例ではPWSに伴う筋緊張低下や呼吸障害がDAAの診断を困難にし,さらに症状の増悪を惹起したと考えられた.筋緊張低下や嚥下障害のリスクの高い基礎疾患を有する症例に血管輪を合併した場合には,厳重な管理のもと速やかに治療を行うことが肝要である.

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