日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第48回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1039件中51~100を表示しています
  • 田中 真幸, 高野 順平, Wallace S. Ian, Daniel M. Roberts, 藤原 徹
    p. 051
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    昨年までにNIP遺伝子の一つであるNIP5;1がホウ素欠乏条件において根で強く発現誘導され、低ホウ素条件でのホウ素の効率的な輸送に必須であることを報告した (Takano et., al, 2006)。今回は、NIP5;1遺伝子に最も相同性の高い遺伝子、NIP6;1について研究を行ったので報告する。アフリカツメガエルの卵母細胞の発現系を用いてホウ酸の輸送能についての解析を行ったところ、NIP6;1にホウ酸輸送活性が認められた。NIP6;1はシロイヌナズナにおいて細胞膜に局在し、地上部のなかでもとくに節、葉脈に存在していた。根と地上部でmRNAが検出されたが、地上部の方が発現が強かった。また、ホウ素栄養による発現誘導は地上部で認められた。複数の独立に得られたNIP6;1遺伝子破壊株をホウ素欠乏条件で栽培したところ、葉の一部の生育が異常になった。この異常は通常のホウ素条件で栽培した場合には見られなかった。これらのことから、NIP6;1 はNIP5;1同様ホウ酸チャンネルであり、ホウ素欠乏条件での植物の正常な生育に必須であることが明らかになったとともに、ホウ素輸送における役割は両者で異なっていることも示された。
  • 上野 大勢, 山地 直樹, 馬 建鋒
    p. 052
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    イネ科植物は三価鉄キレーターであるムギネ酸類を根圏に分泌し、鉄―ムギネ酸錯体のまま吸収するという独特な鉄獲得機構を持っている。鉄ームギネ酸錯体の輸送を司る遺伝子はトウモロコシ(ZmYS1)とオオムギ(HvYS1)から単離されているが、HvYS1は鉄―ムギネ酸錯体を特異的に輸送するのに対し、ZmYS1は鉄以外の金属とニコチンアナミンも輸送できる性質を持っている(Murata et al., 2006)。本研究ではその基質特異性の違いを明らかにするために、組織別ZmYS1の発現や日周変動、コードされているタンパク質の局在性などについて調べ、HvYS1と比較した。ZmYS1は鉄欠乏によって発現が誘導され、根と地上部とも発現が認められた。しかも根と比べ、地上部でのZmYS1の発現が高かった。これは主に根で発現しているHvYS1とは異なっていた。地上部では鉄欠乏が進んだ新葉のほうが古い葉よりZmYS1の発現が高かった。トウモロコシのムギネ酸分泌とZmYS1の発現の日周性を調べたところ、明確な日周性を示すオオムギのムギネ酸分泌とHvYS1の発現とは違いトウモロコシにおいてはムギネ酸分泌とZmYS1の発現は明確な日周性を示さなかった。ZmYS1の抗体を用いて抗体染色を行った結果、ZmYS1はHvYS1同様根の表皮細胞に局在していた。現在、ZmYS1の地上部での細胞局在性について調べているところである。
  • 三谷 奈見季, 山地 直樹, 且原 真木, 馬 建鋒
    p. 053
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    イネ科のNIPはその類似性に基づいて大きく3つのサブグループに分類されている。イネの根から同定されたケイ酸トランスポーターLsi1はNIP2サブグループに属している。今回はアフリカツメガエル卵母細胞のアッセイ系を用いて他のNIPのケイ酸輸送活性をまず比較した。その結果、イネNIP1:1とNIP3:1は輸送活性を示さなかったが、Lsi1と同じNIP2に属するLsi6、トウモロコシのZmNIP2-1と2-2はLsi1と同様ケイ酸の輸送活性を示した。次にLsi1の基質特異性について調べた。Lsi1はグリセロールに対して輸送活性を示さなかったが、尿素やホウ酸に対して輸送活性を示した。しかし、ケイ酸と等モルの尿素の共存下でケイ酸の輸送活性が影響されなかった。また等モルのホウ素の共存下で、ケイ素の輸送活性は20%減少した。これらのことはLsi1がケイ酸に対して高い親和性を持っていることを示している。またLsi1のケイ素輸送活性は水銀により阻害されたが、低温では阻害されなかった。さらにトウモロコシZmNIP2-1の細胞局在性を抗体染色で調べたところ、イネのLsi1とは異なり、根の表皮細胞に局在していた。これらの結果からZmNIP2-1はイネのLsi1と同様、トウモロコシの根の細胞内へのケイ酸輸送を担っていると考えられる。
  • 山地 直樹, 三谷 奈見季, 馬 建鋒
    p. 054
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    イネは代表的なケイ素集積植物であり、その安定多収にはケイ素の蓄積が欠かせない。我々はケイ素の吸収能力が低下したイネの変異株を用いて、陸上植物から初めてケイ素の吸収に関わる遺伝子(Lsi1, Lsi2)を単離し、それらのコードするトランスポーターがいずれも根の外皮と内皮に特徴的な局在を示すことを昨年報告した。ここではLsi1と相同性が高いイネの遺伝子Lsi6の機能解析について報告する。アフリカツメガエルの卵母細胞にこの遺伝子を発現させると、Lsi1と同様にケイ酸の輸送活性を示した。 Lsi1, 2が根にのみ発現するのに対して、Lsi6は根と地上部の双方で発現がみられた。免疫組織染色の結果、葉鞘と葉身の導管に隣接する柔組織に局在していることがわかった。T-DNAが第二イントロンに挿入された株では、短期間の根からのケイ酸吸収には変化がみられなかった。しかし、葉身へのケイ素の蓄積を観察したところ、野生型では葉脈に沿ったケイ化細胞に続いて機動細胞が選択的にケイ化されるのに対して、変異株では機動細胞に加えて、背軸側の表皮細胞が高い頻度でケイ化されていた。これらの結果からLsi6は導管からのケイ酸のアンローディングに関与し、それに続く組織特異的なケイ素の蓄積に影響すると推測された。
  • 西山 友, 崔 祥子, 信濃 卓郎, 小山 博之, 伊藤 進, 和崎 淳, 大崎 満
    p. 055
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    これまでに、演者らは低リン条件で育つイネにおいて強く発現が誘導される機能未知遺伝子OsPI1を単離した。低リン条件で迅速に発現が誘導されるOsPI1は低リン適応機構において重要な役割を果たしていると考えられる。また、OsPI1は低リン誘導性の機能未知non-coding RNAからなるTPSI1/Mt4 familyに属することが示唆されている。このファミリーに属する遺伝子は低リン条件下でリン酸の再転流機構を制御する可能性がシロイヌナズナにおいて示唆されているが、その詳細はまだ解明されていない。本研究では低リン条件に強い植物の一つであるイネから単離されたOsPI1について、RNAiノックダウン株を解析に用いることでその機能に迫った。
    ホモ系統として確立した2つのOsPI1ノックダウン株と野生株(キタアケ)の水耕栽培(+P: 0 ppm、-P: 1 ppm)を行った。処理10日目の植物体について、地上部と地下部に分けてマイクロアレイ解析を実施した結果、低リン条件で認められるリン酸再転流に関わるいくつかの遺伝子の発現変動が野生株よりノックダウン株で小さくなることがわかった。また-P区での全リン濃度はノックダウン株で野生株よりも高く、root/shoot比はノックダウン株で野生株より低かった。これらの結果から、OsPI1がリン酸再転流機構を正常に機能させる上で重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • 丸山 隼人, 田中 美穂, 山村 卓也, 信濃 卓郎, 伊藤 進, 和崎 淳, 大崎 満
    p. 056
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    リン鉱石資源の枯渇が問題になる一方で、土壌中には有機態リンが高い割合で未利用のまま存在する。植物は有機態リンを直接吸収することはできないが、根圏にホスファターゼを分泌することで有機態リンを分解し、リン獲得効率を高めている。特にシロバナルーピンはその分泌能力が高く、乏しいリン栄養条件でも比較的良好に育つことが知られている。本研究では、シロバナルーピンから単離された、根分泌性酸性ホスファターゼ遺伝子LASAP2を導入したタバコを作成し、LASAP2遺伝子導入によるリン吸収能力の向上効果を検証した。
    唯一のリン供給源としてフィチン酸を与えたフィチン酸施与区、無機リン酸を施与した+P区、リン非施与の-P区を設け、無菌的に野生株とLASAP2導入株を砂耕栽培した場合、フィチン酸施与区においてLASAP2導入株は生育量、リン吸収量ともに野生株と比べて高かった。そこで、実際の土壌での効果を検討するために北海道大学3要素区試験圃場の-P区の土壌を用いてフィチン酸施与区、+P区、-P区を設けてポット栽培を行った。その結果、-P区とフィチン酸施与区においてLASAP2導入株の生育およびリン吸収量は野生株よりも高かった。以上の結果から、LASAP2の導入がフィチン酸を含めた土壌中に存在する有機態リン由来のリン吸収能力の向上に効果があることが示唆された。
  • 平川 有宇樹, 土井 秀高, 西谷 千佳子, 澤 進一郎, 福田 裕穂
    p. 057
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    篩部組織は、糖の転流やシグナル分子の運搬など植物の成長に重要な機能を果たしているが、その形成や機能の維持に関与する分子機構は今のところほとんど明らかになっていない。我々はこれまでヒャクニチソウの HD-Zip 遺伝子 ZeHB3 が未成熟な篩部に特異的に発現することを見出してきた。ZeHB3 およびそのシロイヌナズナ相同遺伝子 AtHB5 をシロイヌナズナで過剰発現させると根冠に蓄積するアミロプラストが消失し、実生致死の表現型を示した。このとき、篩部のマーカーである SUC2::GUS の異所的な過剰発現が観察された。しかし、他の篩部マーカーであるAHA3::GUSAPL::GUSの過剰発現は観察されず、篩部の形成パターンは正常であると考えられた。SUC2 は、植物体内でのスクロース輸送に重要なスクローストランスポーターである。このことから、 ZeHB3AtHB5 が篩部機能の維持に寄与する因子である可能性が考えられる。現在、ZeHB3 および AtHB5 の過剰発現植物を用いたマイクロアレイ解析とEMS処理によるサプレッサースクリーニングを行っており、その結果についても合わせて報告する予定である。
  • 永井 真紀子, 上原 健生, 三浦 栄子, 坂本 亘, 山上 睦, 深城 英弘, 北村 晃, 三村 徹郎
    p. 058
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    細胞内外のイオン環境の維持は生命反応を円滑に進行させるための基本条件である。これまでに細胞内のイオン環境を検討した研究は多いが、一枚の葉の中の無機イオン分布を調べた研究は少ない。我々は、オオムギを用いた研究から、植物の成長に大量に必要とされる硝酸やカリウムは葉の基部で含有量が高く、逆に塩化物イオンは先端で含有量が高くなり、リン酸は一枚の葉を通じて一定であるというように、一枚の葉の中にはイオンによって異なる環境が存在する事を見出した。また、このイオン環境の違い(イオン勾配)が湿度や培地のイオン環境によって変化する事、組織からプロトプラストを作成する事によりイオン勾配は細胞自体のイオン濃度の違いに由来する事を確認している。
    本研究では、このイオン勾配を特性蛍光X線用いた二次元解析で確認するとともに、イオン環境の違いが植物にとってどのような生理的意味を持つのかについて調べるため、二次元PAMを用いて葉の光合成活性を測定した。また、このイオン勾配がどのように形成されるのかについて調べるため、葉の各位置でのトランスポーターの発現量の比較を併せて行ったのでそれについて報告する。
  • 藤本 優, 有村 慎一, 堤 伸浩
    p. 059
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    動物細胞において、エンドサイトーシスを実行する主要な因子の1つにダイナミンが挙げられる。ダイナミンはエンドサイトーシスの際に、細胞質側に陥入した膜の根元にポリマー状に局在し、その膜をくびり切って小胞化する。シロイヌナズナゲノム中には、このダイナミンと相同性をもつダイナミン様タンパク質(以下、DRP (Dynamin-related protein)と略す)をコードする遺伝子が16個存在し、それらはアミノ酸配列の相同性からDRP1~6までの6グループに分類されている。しかしながら、植物細胞のエンドサイトーシスに関与するDRPは未だ同定されていない。本研究では、カバーグラス近傍のみを高感度に観察可能な全反射照明蛍光顕微鏡及び緑色蛍光タンパク質GFPを用いて、植物細胞のエンドサイトーシスへの関連が予想されるDRP1及びDRP2の細胞膜近傍における局在様式・動態を解析した。その結果、これらのDRPのシグナルは細胞膜近傍において直径が200~300nm程度の点状に局在し、それらの動態は動物のダイナミンの細胞膜付近でのパターンと類似していることが明らかとなった。
  • 永野 惇, 深尾 陽一朗, 西村 いくこ
    p. 060
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    ERボディはシロイヌナズナに存在する機能未知のオルガネラであり.傷害によって誘導されることから,生体防御に関与することが示唆されている.ERボディには,β-グルコシダーゼのひとつPYK10が局在している.PYK10は病傷害などによって,細胞内構造が破壊された時,活性を保った巨大な複合体(1μm~70μm以上)を形成する.我々は,ERボディに関係するタンパク質を以下の3つのアプローチで探索した.1,ERボディを欠失するnai1-1変異体のトランスクリプトーム解析.2,公開されているDNAマイクロアレイデータの再解析による,PYK10と発現相関を示す遺伝子の探索.3,活性型PYK10複合体の単離精製と,その構成タンパク質の同定.以上の解析の結果,複数のアプローチで共通して見出された7つのJacalin like lectin (JAL)と,3つのGDSL lipase like protein (GLL)に着目して解析を進めた.それぞれの遺伝子のノックアウト変異体を単離し,PYK10の活性を測定したところ,野生型と差が見られなかった.しかし,活性型PYK10複合体のサイズは,野生型より大きくなっていた.また,JALはサイトゾル,GLLは細胞外に局在すると予想されることから,JAL,GLLは組織が壊れたあとPYK10と相互作用し,活性型PYK10複合体の大きさを制御していることが示唆された.
  • 渡辺 むつみ, 野路 征昭, 斉藤 和季
    p. 061
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    システイン合成酵素(CSase)は、硫化物イオンとO-アセチルセリンからシステインを生成する酵素である。シロイヌナズナゲノムには、9つのCSase様遺伝子(Bsas)が存在する。それらのうち遺伝子発現量及び基質親和性からBsas1;1、2;1、2;2は主要CSaseと考えられており、Bsas3;1はCSaseよりもシステインと青酸イオンを基質とするβ-シアノアラニン合成酵素(CASase)であることが示唆されている。しかしながら、植物体内での各Bsasアイソフォームの役割の違いは明らかとなっていない。本研究では、各Bsasの役割を解明するために、各BsasのT-DNA挿入変異株を単離し、遺伝子発現解析、活性測定及び代謝物分析を行った。各変異株におけるBsasの発現量を測定した結果、野生型株と比較して各標的Bsasの発現は抑制されていたが、その他のBsasの発現量に著しい変化は観察されなかった。活性測定の結果、野生型株と比較してbsas1;1変異株のCSase活性は54%に減少し、bsas3;1変異株のCASase活性は36%に減少した。また、bsas1;1変異株においてシステイン蓄積量の減少が観察された。これらのことから、Bsas1;1は植物体内でのシステイン合成に、Bsas3;1はβ-シアノアラニン合成において最も重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • 森川 智美, 嵯峨 寛久, 太田 大策
    p. 062
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    ステロールは真核生物の膜構成成分として,またステロイドホルモン前駆体として細胞機能に必須の役割を担うがその組成は生物種により多様である.高等植物における膜ステロール生合成最終段階である側鎖不飽和化反応は,シトクロムP450であるCYP710Aが担う.シロイヌナズナCYP710A1のアミノ酸配列を用いた相同性検索の結果,ヒメツリガネゴケゲノムに2種のCYP710Aをコードすると予測される配列を同定した.逆転写PCRにより得た2種のヒメツリガネゴケCYP710A遺伝子コード領域(Pp710A13, Pp710A14)はアミノ酸レベルで81.2 %の相同性を示し,またシロイヌナズナCYP710A1の基質認識に関与すると予測される領域の構造がよく保存されていた.半定量的PCRではPp710A遺伝子は原糸体形成の初期段階において特異的な発現が見られた.シロイヌナズナT87培養細胞において作製したPp710A過剰発現株のステロールプロファイリングの結果,側鎖不飽和ステロールであるスチグマステロールの顕著な蓄積が見られた.また昆虫細胞発現系にて作製した組換えPp710Aタンパク質のβ-シトステロールを基質したP450反応系においてC-22側鎖不飽和化活性を確認した.以上の結果はCYP710Aの持つステロール側鎖不飽和化活性が,高等植物のみならず植物機能として幅広く保存されることを示している.
  • 石川 孝博, 谷本 雅史, Dowdle John, Smirnoff Nicholas
    p. 063
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    D-マンノース/L-ガラクトース(D-Man/L-Gal)経路は、高等植物で最も主要なアスコルビン酸(AsA)生合成経路である。これまでに同経路に関わるほぼ全ての代謝酵素が遺伝子レベルで解明されたが、GDP-L-GalからL-Gal-1Pへの変換を触媒する酵素は唯一未同定である。そこで本研究では、同触媒反応に関わる酵素について解析した。エンドウ子葉軸およびシロイヌナズナから調整した粗酵素液を用いてGDP-L-Gal触媒反応を調べたところ、無機リン酸依存的にGDPが生成すること、フォスファターゼ処理後の反応液にはL-Galの生成が認められることから、同反応は新規酵素GDP-L-Galフォスフォリラーゼにより進行することが示された。葉中AsA含量が野生株の約20%程度まで減少したシロイヌナズナ変異体より同定されたVTC2遺伝子の推定アミノ酸配列中には、ヌクレオチド代謝酵素に見られるHITモチーフが存在することからVTC2の機能について解析した。3つのvtc2アリルはいずれも顕著なGDP-L-Galフォスフォリラーゼ活性の低下が認められた。大腸菌で発現させた組換え体VTC2はGDP-L-Galフォスフォリラーゼ活性を示すこと、またその変異酵素では触媒効率の低下が認められた。以上のことから、VTC2遺伝子はGDP-L-Galフォスフォリラーゼをコードしていることが明らかになった。
  • 新屋 智崇, 児玉 豊, 佐野 浩
    p. 064
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    カフェインは、キサントシンを前駆体として、3回のメチル化と1回の脱リボース化によって合成される。私たちは、これに関わるN-メチル化酵素、CaXMT、CaMXMT、CaDXMTをコーヒーから同定し、基質特異性を明らかにした。組換え蛋白質を用いたin vitroでのカフェイン合成にも成功した。しかしながら、酵素としての作用機構については、不明な点が多い。本研究では、その一端を知るために、蛋白質の特性を解析した。サンジソウのサリチル酸C-メチル化酵素(SbSAMT)は、CaMXMTと相同性が高く、in vitroでホモ二量体化することが報告されている。したがってCaMXMTもホモ二量体化する可能性が考えられた。さらに、上記3種類のN-メチル化酵素はアミノ酸レベルで80%以上の相同性があるため、ヘテロ二量体化することも示唆された。これらを検証するため、YFPの構造補完を利用したBiFC(Bimolecular Fluorescence Complementation)法を用いた。二量体化が細胞内で可視化できるからである。その結果、CaMXMTは、細胞質でホモ二量体化し、CaXMT およびCaDXMTとヘテロ二量体化することが明らかになった。このことは、カフェイン生合成経路が酵素蛋白質の二量体化によって制御される可能性を示唆する。現在、それらの基質特異性を解析中である。
  • 松井 健二, Rasonabe Zinna Marie
    p. 065
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    みどりの香り(GLV)は炭素数6(C6)のアルデヒド、アルコールからなる植物特有の揮発性化合物で、植物組織の破砕に伴い急激に生成される。GLVはリノレン酸など、不飽和脂肪酸のリポキシゲナーゼ(LOX)による酸素添加、引き続く脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)による開裂反応により生成する。これまで、LOXが遊離脂肪酸を良い基質とすること、植物組織破砕時に急激に脂質が分解されることからGLV生成には脂質加水分解による遊離脂肪酸の生成が必須であると考えられてきた。しかし、我々は脂質加水分解を伴わなくてもGLVが生成される可能性を見いだした。HPL活性を欠失したシロイヌナズナ変異体の葉を破砕し、その後の脂質含量、脂肪酸ヒドルペルオキシド組成を詳細に解析した。HPL欠損変異体ではLOXで生成された遊離の脂肪酸ヒドロペルオキシドが蓄積すると予想されたが、遊離脂肪酸ヒドロペルオキシドの蓄積は見られず、ほとんどがエステル化されたままであった。このことから、シロイヌナズナのGLV生成には脂質のアシル基が加水分解を受けずにLOXにより酸化され、引き続くHPL反応により生成されている可能性が示唆された。一方、LOXを欠損した変異体ダイズでは破砕に伴うGLVの生成時に遊離脂肪酸の蓄積が認められなかった。この結果から、ダイズにおいてもGLVの生成には脂質加水分解が必須でない可能性が示唆された。
  • 山本 恭子, 水戸 光司, 佐々木 佳菜子, 小原 一朗, 櫻井 望, 鈴木 秀幸, 柴田 大輔, 矢崎 一史
    p. 066
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon)はその根部でナフトキノン系赤色二次代謝産物であるシコニン誘導体を生産・蓄積している。ムラサキ培養細胞においてシコニン生合成はCu2+やMJなどによって促進され、NH4+や光などによって抑制される。シコニンはシキミ酸経路由来のp-hydroxybenzoic acidとメバロン酸経路産物であるgeranyl diphosphateが結合して生合成されるが、生合成後半の反応、特にナフトキノン環の形成に関与する酵素の実体はこれまで未解明のままであった。
    本研究では、ナフトキノン骨格形成に関する生合成反応について明らかにすることを目的とし、シコニン生産の暗黒下特異性を利用して、PCRセレクト・サブトラクション法により生合成に関わる調節遺伝子を網羅的に取得した。特に今回、発現が高かったPolyphenol oxidaseと相同性を示すクローン (LePPO1) に着目し、まずRACE法により全長cDNAを単離した。ノーザン解析を行った結果、LePPO1のmRNAの発現はシコニンの蓄積と極めて良く一致する発現パターンを示し、シコニン生合成の後半のステップを担うことが示唆された。PPOファミリーはC-C結合の形成を伴う閉環反応に関与するものも知られるため、ナフトキノン骨格形成酵素の有力候補と考えられる。現在、大腸菌発現系を用いてタンパク質の発現を行っている。
  • 梶川 昌孝, 加藤 彰, 橋本 隆
    p. 067
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    ニコチンはタバコに含まれる塩基性アルカロイドであり、虫害からの化学防御を担う物質である。ニコチンは主に根部においてN-メチルピロリニウムカチオンとニコチン酸関連物質の縮合反応により生合成されると予想されるが、その生合成酵素遺伝子は同定されていない。我々は、この縮合反応を担う候補遺伝子としてイソフラボノイド還元酵素遺伝子ホモログのA622およびベルベリン架橋酵素遺伝子ホモログのNBB1の機能解析を行った。これらの遺伝子発現はニコチン生合成調節因子であるNIC遺伝子座の制御下にあり、かつ根特異的でジャスモン酸応答性を示した。RNAi法によりA622およびNBB1遺伝子の発現を抑制した毛状根、BY-2細胞においてはニコチンアルカロイド量が有意に減少した。BY-2細胞においてA622-GFPおよびNBB1-GFP融合タンパク質を発現させたところ、それぞれプラスチドおよび液胞に局在することがわかった。この結果から、ニコチン生合成はこれら2種のオルガネラで段階的に行われていることが示唆された。
  • 大宮 あけみ, 岸本 早苗, 間 竜太郎, 能岡 智
    p. 068
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    白色花弁のキクから突然変異により黄色花弁が生じることがある。しかし、その逆の現象は起こらない。このことは、白色花弁においてカロテノイドの蓄積に抑制的に働いている因子が突然変異により欠失し、黄色花弁に変わるという可能性が考えられる。その因子を明らかにすることを目的に、キクの白色花弁と黄色花弁において差次的に発現している遺伝子をサブトラクティブハイブリダイゼーション法によりスクリーニングした結果、白色花弁で発現が高い遺伝子としてカロテノイド分解酵素ホモログ遺伝子(CmCCD4a)を得た。CmCCD4aのRNAiコンストラクトを白花キク品種に導入した結果、カロテノイドを蓄積し花弁が黄色になった形質転換体が得られた。また、CmCCD4aを黄花キク品種の花弁で過剰発現させると、花弁が白色になった形質転換体が得られた。このことからキクの白色花弁では、カロテノイドを合成しているもののCmCCD4aによって分解されることにより白色が形成されるものと考えられた。デジェネレートプライマーを用いてキクに存在するカロテノイド分解酵素遺伝子をスクリーニングし、CmCCD4aのほかに3タイプのホモログを得た(CmCCD4b、CmNCED3a、CmNCED3b)。これらのホモログは花弁における発現がきわめて低かった。したがって、カロテノイド分解酵素ホモログの中で花弁の白色の形成に関与しているのはCmCCD4aのみであると考えられた。
  • 姫野 亜里紗, 荻田 信二郎, 加藤 康夫
    p. 069
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    マルトール(3-hydroxy-2-methyl-4-pyrone)は、植物由来の香気成分であり、香料や食品添加物として広く用いられている。最近では、マルトール-金属錯体が糖尿病の治療薬として有効であることが報告され、医薬の分野で注目されている。しかし、植物内におけるマルトール生成のメカニズムや生理学的役割については解明されていない。本研究では、紅葉に伴って葉に大量のマルトールを生成する、落葉広葉樹であるカツラ(Cercidiphyllum japonicum)を実験材料に用いて、マルトール生成を制御することを目的とした。
    まず、カツラの紅葉から落葉時期にかけて経時的に葉を採取し、マルトールおよび植物内での貯蔵体と推定されるマルトールグルコシドの含量をHPLCによって分析した。併せて、糖およびアミノ酸含量についても調べた。次にin vitroでのマルトール生成系を構築するため、カルス培養法の確立に取り組んだ。カツラの種子を滅菌し、滅菌水を含ませた脱脂綿上で2週間ほど培養することにより、芽生えが得られた。チジアズロンを2μMの濃度で添加した改変1/2MS培地で芽生えを培養することにより、胚軸や子葉からカルスが誘導できた。各種ホルモン、光、温度条件を変化させてカルスを培養し、カルスの緑色化、赤色化および褐色化条件を明らかにすると共に、マルトール類や糖、アミノ酸含量の変動性を考察した。
  • 奥田 裕樹, 阿部 裕, 野田 尚信, 鈴木 正彦, 寺坂 和祥, 水上 元, 石川 彩, 小林 信之, 北村 美江, 佐々木 伸大, 小関 ...
    p. 070
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    アントシアニンアシル基転移酵素 (AAT) は、これまでに、アシルCo-Aをアシル基供与体とするタイプの酵素についての研究が進められ、その酵素および遺伝子の単離がなされ、詳細が明らかにされてきた。さらに転移されるアシル基には、脂肪族性のものと芳香族性のものがあり、近年、芳香族性のアシル基の転移において、アシルグルコースをアシル基供与体とする AAT 活性 (AGDAT 活性) が見いだされ、それに対する cDNA がチョウマメから単離された。当研究室で培養している変異ニンジン懸濁培養細胞株は、ニンジン培養細胞から恒常的にアントシアニン生産を行う細胞塊を選抜することによって樹立された培養細胞系であり、そこに含まれる主要なアントシアニンは cyanidin 3-[Xyl-(sinapoyl-Glc)-Gal] である。その粗酵素液を用いたアシル化反応の解析の結果から桂皮酸アシルグルコースを供与体とする AGDAT 活性を有することが示唆された。そこで、その生化学的な性質を解明するために、アシル基供与体としてセンニチコウ由来配糖化酵素の組換え酵素を用いて様々な種類の桂皮酸誘導体アシルグルコースを合成し調製した。一方、アシル基受容体はこの変異株細胞より抽出した色素成分の主要色素を分離・精製した後、脱アシル化したものを調整した。これら調製した基質を用いて、桂皮酸誘導体アシルグルコースを基質とする AGDAT の基質特異性について検討した。
  • 金 鍾明, 藤 泰子, 石田 順子, 諸沢 妙子, 佐藤 将一, 川嶋 真貴子, 篠崎 一雄, 関 原明
    p. 071
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    ヒストンN末端の化学修飾に依存したクロマチン構造の変化は遺伝子の転写制御に関与している。植物においても、発生や形態形成などにかかわる遺伝子領域の転写制御にヒストン修飾の変化をともなうと考えられている。
    我々は、ストレス応答時における遺伝子発現制御とヒストン修飾との関連について、シロイヌナズナを用いてゲノムワイドでの解析を行っている。まず、ゲノム上にコードされるすべてのヒストンメチル化、アセチル化および脱アセチル化酵素の遺伝子破壊型ホモ系統の作成を進めるとともに、これら遺伝子破壊株を用いてストレス感受性試験を行った。その結果、ヒストン脱アセチル化酵素破壊株で乾燥ストレス感受性を確認した。この遺伝子破壊株を用いて、乾燥ストレス下における遺伝子発現の変化についてマイクロアレイ解析を行ったところ、乾燥ストレス応答に関与する幾つかの遺伝子群について、野生型株とは異なる発現変動が見られた。現在、これら変動が見られた遺伝子領域について、ヒストン脱アセチル化酵素のターゲット部位の同定とヒストン修飾の量的変化について解析を行っている。
  • 丸山 明子, 中村 有美子, 斉藤 和季, 高橋 秀樹
    p. 072
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
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    高親和型硫酸イオントランスポーターSULTR1;2は、シロイヌナズナの根における外界からの硫酸イオン吸収に主要な役割を果たす。SULTR1;2の遺伝子発現は環境中の硫酸イオン濃度の減少に応答して増加し、このことは硫黄欠乏下(-S)で植物が硫酸イオンの吸収を増すための適応機構であると考えられている。本研究では-Sに応答したSULTR1;2の発現誘導の分子機構を明らかにする目的で、SULTR1;2プロモーターに存在するシス配列の同定を試みた。ルシフェラーゼ遺伝子をレポーターとしてシロイヌナズナの形質転換体を作製し、5'デリーション解析・塩基置換解析を行ったところ、SULTR1;2の-S応答には上流-371から-360の間の12bpが必要であることが分かった。この12bpはWRKY結合配列を含むが、単独では-S応答を誘導することができなかった。そこでこの12bpよりも下流のプロモーター領域についても同様の解析を行ったところ、12bpとともに上流-328から-323の領域が-S応答に必要であることが明らかになった。この領域はダイズのβ-コングリシニンβサブユニット遺伝子の-S応答領域であるSEF4モチーフを含んでいた。これらの結果から、SULTR1;2の-S応答は、異なる2つの転写因子が協調的に働くことで制御されている可能性が示唆された。
  • 戸澤 譲, 寺石 政義, 佐々木 忠将, 園池 公毅
    p. 073
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物の葉緑体ゲノム上の光合成関連遺伝子は、主にPEPと呼ばれる原核生物型酵素により発現調節を受けており、シグマ因子が転写開始プロモーター認識に機能している。イネ、シロイヌナズナにおいては、核ゲノム上の6種類のSIG遺伝子がシグマ因子をコードしていると考えられ、SIG2、SIG5およびSIG6に関しては既にシロイヌナズナ変異株を用いた解析により、それぞれが転写調節を行なう遺伝子の同定解析が進んでいる。本講演では、機能が不明であったSIG1について、イネのトランスポゾン挿入変異株2系統を用いた解析結果を紹介する。まず、SIG1欠損変異株の表現型として、野生型と比較して3割のクロロフィル含有量の減少、PSIの光反応活性の低下が観察された。続いて、網羅的な葉緑体遺伝子の転写解析の結果、主にPSIの主要な構成因子をコードするpsaAオペロンの転写レベルの減少が見出され、該当するチラコイド膜上のタンパク質も実際に減少していることも確認された。実際に我々はこれらの結果より、SIG1は展開葉の葉緑体において光合成装置PSIの機能を維持することが主な機能であると結論付けた。
  • 藤田 清仁, 太田 にじ
    p. 074
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    紅藻・褐藻・クリプト藻などの葉緑体は祖先型シアノバクテリア共生の後、二酸化炭素固定酵素RuBisCOをコードするrbcL-rbcS<I/>とcfxQが遺伝子水平移動によりプロテオバクテリア型のものと入れ変わり進化したと考えられている。このcfxQに関してはバクテリアにおいては破壊すると光合成独立生育が不可能になることからRuBisCOの発現に必須遺伝子とされてきた。
    原始紅藻Cyanidioschyzon merolaeは最近全塩基配列が決定され、以前色素体で報告されていたcfxQと共に核ゲノムにもcfxQがコードされていることがわかった。また、この二つの遺伝子は系統、転写様式も異なっていることを我々は明らかにしてきた。本研究では色素体と核にコードされている二つのcfxQについて機能とそれぞれの相違点を明らかにすることを目的として研究を進めている。
    今回、核と色素体のCfxQタンパク質を精製しゲルシフト解析を行った結果、両CfxQが色素体ゲノム上のrbcLプロモーター領域に結合すること、また結合に影響を与える因子が存在することが明らかになった。この結果や転写発現を基にCfxQの機能について考察した。
  • 藤本 祥恵, 太田 にじ
    p. 075
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    光合成関連遺伝子のほとんどは、明期に発現量が多く、暗期には非常に少ないと考えられているが、その時系列的変化の詳細は明らかではない。本研究では、最も原始的な真核生物の一つとして知られる原始紅藻Cyanidioschyzon merolae 10D を用い、明期12時間、暗期12時間の光周期により細胞分裂を同調させ、光合成遺伝子の転写産物の蓄積量をノーザン解析により計時的に測定した。その結果、遺伝子によって発現のパターンが数種類に分類されることが明らかとなった。例えば、psaA、psbB-T などでは、明期に多く存在した転写物は、暗期に入ると徐々に減少し、次の明期で増加を示した。psbO、psbU、psbC では、暗期に入ると蓄積量が急激に減少したが、その後徐々に増加を始め、明期に入ると、急激に増加した。psbAの転写物蓄積量は、他の植物で、生体内時計による厳密な制御が示唆されている例もあるが、明暗に関わらず、ほぼ一定であった。psbEFLJ の蓄積量は、明期に入ると徐々に増加した。現在、他の光合成関連についても解析中である。転写産物蓄積量により遺伝子をグループ分けし、考察を行う。
  • 木村 彩子, 大塚 智弘, 田部 記章, 吉村 和也, 重岡 成
    p. 076
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】植物において、ストレス応答や防御に関する多くの遺伝子が選択的スプライシングによる発現調節を受けている。我々はこれまでに、シロイヌナズナにおけるセリン-アルギニンリッチ(SR)タンパク質の一つであるatSR45aが強光により発現誘導されることを明らかにした。そこで本研究では、atSR45aのスプライセオソームにおける機能を詳細に解析した。
    【方法・結果】atSR45aは自身の選択的スプライシングにより6種類の成熟型mRNA(atSR45a-1a~e, -2)を生成する。各スプライシング産物の発現量を解析した結果、5'-末端側のみの配列が異なるatSR45a-1aおよび-2 mRNAの発現率が強光条件下において増加していた。酵母two-hybrid法による解析の結果、atSR45a-1aおよびatSR45a-2タンパク質は、恒常的および選択的スプライシングにおいて5'-スプライス部位の認識に機能するU1-70Kタンパク質と相互作用することが明らかになった。また、atSR45a-1aおよびatSR45a-2タンパク質はそれら自身および互いと作用した。以上より、atSR45aはスプライセオソーム形成に関与することが示唆された。現在、atSR45aタンパク質が選択的プライシング効率を制御する遺伝子の同定を試みている。
  • 原口 雄飛, 櫻井 玲子, 門倉 嘉知, 尾之内 均, 内藤 哲
    p. 077
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナにおいてシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)をコードするCGS1遺伝子のmRNAは、メチオニンの代謝産物であるS -アデノシルメチオニン(SAM)に応答して分解が促進される。このmRNA分解制御はCGS1第1エキソンの翻訳中に起こり、第1エキソン内部に存在する制御領域(MTO1領域)のアミノ酸配列が重要である。またmRNA分解に先立ち、SAMに応答した翻訳の一時停止がMTO1領域の翻訳直後に起こる。
    小麦胚芽の試験管内翻訳系でこの制御は再現される。プライマー伸長解析により、mRNA分解の際に5’側の欠けたmRNA分解中間体(3’側断片)が複数種類蓄積することが示された。チオ化ヌクレオチドを分解位置の5’領域に挿入し、5’-3’エキソヌクレアーゼの進行を阻害した場合にも同一の3’側断片が検出された。さらに、mRNAの5’領域に相補的なビオチン標識DNAを用いて5’セレクション解析を行ったところ、3’側の欠けたmRNA断片(5’側断片)も数種類検出された。これら5’側断片の3’末端は、先の3’側断片の5’末端付近に位置していた。以上の結果から、CGS1 mRNAの分解制御にエンドヌクレアーゼが関与することが示唆された。
  • 今村 講平, 今井 華子, 松岡 信, 北野 英己, 佐塚 隆志
    p. 078
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    イネ棍棒状胚(club-shaped embryo; cle)変異体は球状胚期以降、野生型にはない棍棒状の胚を形成し胚性致死に至る劣性突然変異体の1つである。我々はcle型を示す10系統を同定しアレリズム検定を行った結果、この表現型は少なくとも3遺伝子座(CLE1-CLE3)に支配されていることを明らかにした。このうちの1つCLE1は、ポジショナルクローニングの結果、イネDicer-like1 (OsDCL1)が原因遺伝子の有力候補と考えられた。cle1のアリル3系統のOsDCL1をシーケンスした結果、RNase IIIドメイン内での1アミノ酸置換を導く点突然変異、N末端領域のナンセンス変異、エキソンイントロン境界の変異が見いだされた。
    OsDCL1の発現パターン解析では、野生型の受粉後4-6日の基部領域で特異的発現が検出され、OsDCL1によるmiR167を介した標的遺伝子の一つであると考えられるARF8の発現は、cle1の遺伝的背景でその時期、領域で亢進していた。一方、未分化領域のマーカーであるOSH1は、野生型では受粉後3-4日のイネ胚腹側のSAM予定領域で発現するが、cle1変異体ではSAM予定領域に限定されず基部全体の背腹両側に発現が広がって検出された。このことからcle1胚では、DCL1の機能欠失によって基部領域全体の細胞が未分化のまま維持されている可能性が示唆された。
  • 田上 優子, 稲葉 直子, 栗原 志夫, 朽名 夏麿, 渡邊 雄一郎
    p. 079
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    転写後遺伝子発現制御に関与するsmall RNAには、発生段階や環境変化により発現量が変化するものが知られている。これらは様々な状況で特異的に発現し、標的遺伝子を負に制御することで発生の制御、病害抵抗性の獲得などに寄与する。ウイルスが感染した植物においてもsmall RNAの発現が変化し、それによって標的遺伝子が制御される可能性が考えられるがいまだ明らかではない。
    そこで我々は、+鎖RNAゲノムを持つタバコモザイクウイルスを感染させたシロイヌナズナおよび非感染のシロイヌナズナの葉からsmall RNAをクローニング・配列決定を行い、ウイルス感染によるsmall RNAの発現量及び種類に対する影響を調べた。
    ウイルス感染体では、約80%が植物ゲノムに由来し、約10%がウイルスゲノムに由来する配列が得られた。ウイルス由来の配列は+鎖と-鎖両方に由来していた。そしてウイルス感染体では非感染体に比べて、多種類のmicroRNAが増加することが明らかとなった。さらに興味深いことに、ウイルス感染植物にのみ特異的に見られる新規small RNAを得ることができた。これは植物の耐病性に関与しているのかもしれない。さらに本研究により、シロイヌナズナにおいてもウイルス感染植物を用いることによって、まだ発見されていないsmall RNAを見出す可能性があることが示唆された。
  • 池内 絵理, 山崎 朋人, 大濱 武
    p. 080
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    我々の研究グループではChlamydomonas reinhardtiiにおいて、spectinomycin耐性賦与遺伝子であるaadAが生産するmRNAを破壊するために、aadA配列の一部がhairpin構造として転写されるsilencer DNAコンストラクト作成した。これを、aadA形質転換体に導入することによりaadA mRNAの約80 %が破壊されるようになった株を得ている。この株に対して、パロモマイシン耐性賦与遺伝子であるaphVIIIを含むplasmid DNAをtagとして用い、ランダムな遺伝子破壊を行った。およそ、31,000株のtag挿入体かのうち、RNAi反応が強くなった株が126株、RNAi反応が著しく弱くなった株が114株得られた。このような、形質の変化はtagの挿入により、RNAi関連や転写抑制関連遺伝子が破壊された事に起因する可能性が高い。
    tagの挿入位置はRESDA-PCR法を用いて、その上流と下流のゲノム配列の一部を決定し、すでに公表されているChlamydomonasのゲノム配列と比較する事で決定した。これまでにRNAi効果が促進された株では、ヒストン遺伝子や、APG5が、抑制された株ではリン酸転移酵素やATPase、遺伝子内にtagが挿入されている事がわかった。また、トランスポゾン転移が活発化した株も得られた。
  • 松井 章浩, 神沼 英里, 金 鍾明, 中嶋 舞子, 諸澤 妙子, 佐藤 将一, 栗原 志夫, 豊田 哲郎, 篠崎 一雄, 関 原明
    p. 081
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    近年、非常に多くのタンパクをコードしないRNAが転写されることが明らかになりつつある。small RNAは20-25塩基のタンパクをコードしないRNAで、mRNAの切断、DNAメチル化、ヒストン修飾を介して、自身の配列や配列相同性をもつ遺伝子の転写の抑制に関与すると考えられている。これまでに数万種類のsmall RNAがモデル植物のシロイヌナズナを中心に単離同定されてきた。このうち幾つかのsmall RNAは形態形成・ホルモン応答などの様々な局面でその重要性が示されているが、植物のストレス応答における役割については、まだほとんど明らかになっていない。私たちは植物の乾燥、低温、塩などの環境ストレスへの応答機構を解明するため、ストレス応答におけるsmall RNAを介した制御に注目し研究を進めている。乾燥、低温、塩などのストレスやABA処理をした植物および無処理の植物から抽出したsmall RNAを454 Life Sciences社の高速シーケンス技術を用いて大量配列解析を行った。今回得られたデータや既知のsmall RNAのデータベースを基にしてストレス応答性のsmall RNAを探索し、ノーザン解析を行い、これまでにストレス応答性のmiRNAを10個同定した。現在、同定した新規のストレス応答性miRNAに関して機能解析を進めている。
  • 西村 芳樹, 内宮 博文, スターン デービッド B.
    p. 082
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    色素体において、mRNAの安定性制御は遺伝子発現の重要な調節機構である。緑藻クラミドモナス葉緑体形質転換体Δ26pAtEでは、葉緑体のATP 合成酵素の βサブユニットをコードするatpB mRNAが強制的にポリアデニル化される。葉緑体でポリアデニル化はmRNA不安定化のシグナルとして機能するため、atpB mRNAは速やかに分解され、その結果Δ26pAtEは光合成能を失っている。我々はこの変異体を出発点としたサプレッサースクリーニングにより、葉緑体mRNA安定性制御機構の解析を行った。
    得られた変異体のうち、spa19/23変異体は二つの異なる葉緑体ゲノム(PS+, PS-)をもっていた。遺伝学的解析および、鎖特異的なRT-PCR、S1ヌクレアーゼプロテクション法、ノーザン解析など一連の分子解析の結果、PS-ゲノムからポリアデニル化された不安定なatpB mRNAが転写される一方で、PS+ゲノムからはatpB mRNAの3’部位に対するアンチセンスRNAが転写され、両者が二重鎖RNA構造を形成して3’→5’RNaseを阻害し、上流のmRNAを保護することが示唆された。これを証明するため、アンチセンスRNAを形質転換により導入したところ、atpB mRNAの安定化が確認された。以上の結果から、葉緑体においてアンチセンスRNAがmRNAを安定化し得ることが示された。
  • 谷内 由貴子, 大城 香
    p. 083
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    単細胞ラン藻は、窒素固定を夜間に行うことで、光合成により発生する酸素による窒素固定酵素の失活を防いでいる。しかし、連続明(CL)に順応した細胞では、窒素固定活性と光合成活性が同時に検出される。我々は、海産単細胞ラン藻Gloeothece sp. 68DGAを細胞の生理状態を長期間にわたって一定に保つことができる連続培養系を用いて培養した。12時間明期12時間暗期の明暗周期(12L/12D)からCLへの順応過程における光合成による酸素発生速度と窒素固定活性の変動と、免疫細胞化学的検出法による細胞レベルでの窒素固定酵素の消長を解析した。本株は、12L/12Dでは暗期にのみ窒素固定酵素を合成し、窒素固定を行った。CL移行後一回目の主観的暗期では、70%以上の細胞が窒素固定酵素を合成しているにもかかわらず、酸素発生がある条件では窒素固定を行わなかった。しかし、約9世代後には常に87%以上の細胞が窒素固定酵素を合成し、周期性は残るものの常に窒素固定を行うようなった。約30世代培養した細胞では、常に約92%の細胞が窒素固定酵素を発現し、窒素固定活性と酸素発生がほぼ一定の値を示した。CLに順応した細胞を12L/12Dへ戻すと、約60%の細胞に窒素固定酵素が存在するにもかかわらず、窒素固定活性は2回目の暗期以降は周期的な変動を回復した。
  • 神木 隆行, 山崎 秀雄
    p. 084
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    渦鞭毛藻類のうち、サンゴのような海産無脊椎動物と共生しているものは「褐虫藻」と総称されている。共生状態の褐虫藻は、球形の細胞形態を示すことが知られている。一方、単離培養状態の褐虫藻は遊泳性を有し、卵形の細胞形態を示すことがKawaguti(1944)によって報告されている。この細胞形態変化を伴う遊泳性の発現が起きるメカニズムは不明のままである。本研究では、褐虫藻の単離培養株Symbiodinium microadriaticum CCMP829を用いて、培地中の窒素態が褐虫藻の運動性に与える影響について調べた。0.1から1mMの異なる濃度の硝酸態窒素(NO3-)、あるいはアンモニア態窒素(NH4+)を培地に加え培養をおこなった。両方の窒素態を加えない培地を比較対象として用いた。各培地を用いて4週間の培養をおこなったところ、培養開始から3日目以降に遊泳細胞が観察された。光学顕微鏡下で細胞数を計測し、総細胞数に対する遊泳細胞の割合を算出した。その結果、遊泳細胞の割合は、培地中のNO3-濃度に比例することが明らかとなった。この比例関係は、4週間の培養期間中に消失していた。これらの結果は、褐虫藻の遊泳性の発現が、NO3-によって誘導されることを示唆している。実験結果を踏まえ、窒素態による褐虫藻-サンゴ共生系の制御システムについて考察する。
  • 蓑田 歩, 谷口 光隆, ウィーバー アンドリアス
    p. 085
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物におけるアンモニア同化は主に葉緑体で行なわれ、アミノ酸合成の炭素骨格となる2-OGの葉緑体への取り込みとGS/GOGATサイクルにより生成されたグルタミン酸(Glu)の排出は、リンゴ酸を介して、葉緑体包膜に存在する2種のジカルボン酸トランスポーター(DiT)によって行われる。2-OGを葉緑体内に取り込むDiT1と葉緑体からGluを排出するDiT2は、共に光呼吸経路上の重要な酵素でもあり、その欠損株は通常大気条件下での生育が悪化する。アラビドプシスのゲノム上には3つのDiTが存在し、系統解析の結果から、上記の2種のDiTのどちらのブランチにも属さないDiT(pdct2)が存在する事が報告されている(Taniguchi M et al. (2002) PCP, 43:706, Taniguchi Y et al. (2004) PCP, 45:187)。pdct2はDiT2に高い相同性を示すことから、DiT2欠損株をバックグラウンドにしてpdct2を過剰発現させたところ、部分的に通常大気条件での生育の悪化を改善したが、完全には相補しなかった。このことと他のDiTと異なるpdct2の発現パターンは、pdct2は、現在までに報告されているDiTと異なる基質特異性と機能をもつ事を示唆する。現在、私達は、pdct2の基質の同定を進めており、その機能解析とともに報告したい。
  • 辻本 良真, 安田 恭子, 前田 真一, 日渡 祐二, 長谷部 光泰, 小俣 達男
    p. 086
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物は窒素源として主に硝酸イオンを利用している。我々は相同組み換えによる遺伝子機能解析が容易に行えるヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)を材料として硝酸イオン輸送に関する研究を行い、硝酸イオン能動輸送体の本体であるNRT2の遺伝子8個(PpNRT2;1-PpNRT2;8)を同定した。これらのうち、PpNRT2;5は定常状態においては全体の3-6%と少ない発現量であるものの、アンモニア培地から硝酸イオンまたは亜硝酸イオンを含む培地に移した際に最も早く誘導される点および発現に硝酸イオンまたは亜硝酸イオンが必須であるという点で特異であった。PpNRT2;5を相同組み換えによって破壊した株(ΔNRT2;5)は硝酸イオンを唯一の窒素源とする培地で正常に生育したが、アンモニア培地から低濃度の硝酸培地、亜硝酸培地に原糸体を移した後の硝酸イオンと亜硝酸イオンの吸収の誘導が遅く、吸収速度も低下していた。この結果は、PpNRT2;5が硝酸、亜硝酸同化活性の誘導初期に重要な役割を担っていることを示唆するものである。
  • 高橋 正昭, Griffith Grant, 杉浦 美羽
    p. 087
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の硝酸同化において亜硝酸がアンモニアに還元される過程には細胞質から葉緑体への亜硝酸の能動輸送が含まれる。我々はこの亜硝酸輸送に働くトランスポーター(CsNitr1-L)を初めてキュウリ葉緑体包膜に見出した。このトランスポーターの亜硝酸に対するKmは~0.1 mMで高親和型トランスポーターに分類される。Arabidopsisゲノムに1コピー含まれる亜硝酸トランスポーター遺伝子のT-DNA変異株は高い濃度の亜硝酸を蓄積し窒素欠乏の表現型を示すが硝酸のみをN源としても正常に生育する。亜硝酸の吸収を種々の亜硝酸濃度で調べると、低濃度域での亜硝酸の吸収効率はT-DNA変異株では明らかに減少していたが、しかし、野生型では蓄積することのない高濃度域の亜硝酸では野生型よりも高い吸収速度を示した。この結果は葉緑体には野生型の植物に見られる10 μMオーダーの濃度の亜硝酸の吸収に関与する高親和型のトランスポーターに加えて、亜硝酸の蓄積によって誘導される低親和型の亜硝酸輸送があることを示した。
  • Grant Griffith, Miwa Sugiura, Masaaki Takahashi
    p. 088
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    The Nitrite Transporter (CsNitr1-S) was first cloned from cucumber. CsNitr1-S is an efflux type nitrite transporter. The CsNitr1-S is located at the plasma membrane and is anticipated to transport nitrite out of the cell at the early stage of germination or de-etiolation. To better understand the function of the CsNitr1-S, transgenic tobacco lines overexpressing and suppressing the nitrite transporter were made by inserting the CsNitr1-S in the sense and antisense directions using Agrobacterium tumefaciens. In this study, nitrate reductase, nitrite reductase, chloroplast development, and intra cellular nitrite concentrations were analysed along the course of seed germination. Results have indicated that CsNitr1-S saves the seed from a toxic effect of nitrite accumulation, which can occur before chloroplast development. The relatedness of the nitrite transporter function with other phenotypes such as drought tolerance will also be discussed.
  • 中川 彩美, 高橋 美佐, 森川 弘道, 坂本 敦
    p. 089
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    キサンチン脱水素酵素 (XDH) はプリン化合物の異化代謝を担う普遍的な古典的酵素であるが,その生理的役割は必ずしもよく理解されていない。本酵素はプリン異化反応の副産物としてスーパーオキシドを発生するが,近年,亜硝酸を還元して一酸化窒素を生成する活性も示唆されており,活性酸素や活性窒素の生成の観点からも,その機能と植物生理との関わりに興味がもたれる。そこで本研究では,RNA干渉法によりXDH遺伝子を発現抑制した形質転換シロイヌナズナ (xdh) を作出し,植物個体レベルにおけるXDH機能の検証を行った。
    野生株では植物全体に分布し,特に根と成熟葉で強く見られるXDHの発現が,xdh 植物では著しく抑制されていた。xdh 植物は実生の生育遅延や,果実あたりの種子数と乾重量の減少,不稔果実の増加などの表現型を呈したが,XDH阻害剤であるアロプリノールで処理した野生株でも同様の表現型が観察された。さらに,xdh 植物では成熟葉のクロロフィル含量が減少する一方で,細胞質型グルタミン合成酵素や SAG12,SAG13 などのセネッセンス関連タンパク質・遺伝子の発現が活性化されていた。これらの結果から,XDHは栄養期と生殖期を通じて植物の成長に重要な役割を持ち,セネッセンスの抑制に関与することが示唆された。
  • 高橋 美佐, 古橋 孝将, E. H. Adam Suaad, 重藤 潤, 坂本 敦, 森川 弘道
    p. 090
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、大気中窒素酸化物(NOx: 実質的に一酸化窒素NOと二酸化窒素NO2とからなる)は、植物の成長、栄養素の取り込み、代謝を包括的全般的に活性化する(「バイタリゼーション作用」)ことをNicotiana plumbaginifolia1)およびArabidopsis thaliana2)について報告した。本研究では、さらにレタス(Lactuca sativa L.), ヒマワリ(Helinthus annuus L.), キュウリ(Cucumis sativus L.) およびカボチャ(Cucurbita moschata Duch. ex Lam.)を対象として、この作用の植物種や器官における共通性と特異性の解明を目的とし、(i) 「バイタリゼーション作用」を発揮する最適NO2濃度は種依存的か、 (ii) 器官特異性は存在するか、 (iii) 栄養素の取込はバイオマス増加に比例するか(栄養素の恒常性は維持されるか)および(iv) NO2由来の窒素(NO2-N)の全窒素への寄与は「無視しうる程度」か、について調査した。その結果、答えはほぼすべてYESであった。

    1) Takahashi, M. et al. New Phytol. 168: 149-154(2005)
    2) 高橋美佐ら、昨年度本年会
  • 田渕 真由美, 室塚 英美子, 梅津 俊子, 山谷 知行
    p. 091
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    イネのサイトゾル型グルタミン合成酵素(GS1)遺伝子は、OsGS1;1OsGS1;2OsGS1;3の3種類があり、小遺伝子族を形成している。本研究ではイネの発芽過程における3種のGS1の生理機能の解明をめざし、各OsGS1の発現解析を行った。
    発芽過程のGSタンパク質蓄積量を、吸水前および30℃吸水後0、12、24、48、72時間後について解析した。その結果、GS1は供試した全てのサンプルで検出された。一方、プラスチド型のGS2は検出されなかった。GS活性を測定した結果、吸水、発芽に伴って1粒あたりのGS活性が増加していた。活性の挙動はタンパク質蓄積量の増加と一致しており、1粒あたりのGS1含量が増加したことにより活性が増加していた。3種のGS1のそれぞれの発現組織を知るために、各OsGS1のプロモーター下流にGUSを連結した融合遺伝子を導入した形質転換イネを作出し、発芽過程における各OsGS1のプロモーター活性の分布を解析した。吸水前および吸水後0、12、24、48、72時間後について観察した結果、OsGS1;1は主に72時間後のshootで、OsGS1;2は主に胚盤で、OsGS1;3は主に糊粉層で発現が観察された。各GS1が異なる組織で発現しており、異なる機能を担っている可能性が考えられる。現在、各OsGS1 mRNAの蓄積量の解析を進めている。
  • 小原 実広, 田村 亘, 小野 久智, 蛯谷 武志, 安藤 露, 矢野 昌裕, 佐藤 雅志, 山谷 知行
    p. 092
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    穀物は外来の窒素濃度が低いときに、根を伸長させることが知られているが、この機構は明らかではない。本研究では、イネにおけるNH4+の根での吸収、輸送、同化あるいはその後の代謝を制御している遺伝子群の同定を目的とした。様々なNH4+濃度で栽培されたイネの根長を窒素利用の指標として、そのQTLマッピング、並びに第6染色体長腕のQTLに関する高精度連鎖解析を行った。
    Koshihikari及びKasalathに由来する染色体断片置換系統群 (CSSLs) を、5, 50, 500 μM NH4+濃度で水耕法 (pH 5.5)により育成した。Koshihikariと各CSSLの播種7日後の根長を比較したところ、様々なNH4+濃度において根長を支配しているQTLが、第1, 2, 4, 6-12染色体に検出された。それらの中で第6染色体長腕に検出されたQTLは、全てのNH4+濃度において寄与率が最も高く、Kasalathの対立遺伝子が根の伸長を促進させることが判明した。また、50, 500 μM NH4+濃度において、このQTLのKasalathの対立遺伝子は、個体あたりの窒素含量を増加させることが判明した。一方、5, 1000 μM NH4+濃度において、窒素蓄積へのQTL効果は認められなかった。これらより、QTL原因遺伝子は、特定のNH4+濃度域における窒素利用に重要な機能を担っていることが示唆された。第6染色体長腕の戻し交雑後代において、根長を指標とした目的QTLの高精度連鎖解析を行ったところ、QTL原因遺伝子は 24.3kbの領域に位置づけられた。
  • 田村 亘, 小原 実広, 小野 久智, 蛯谷 武志, 矢野 昌裕, 佐藤 雅志, 山谷 知行
    p. 093
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    植物における窒素利用は、根での吸収、植物体内での同化、輸送、並びにその後の代謝と、様々な段階で複数の因子により制御されている。イネは、供給される窒素が少ない場合、根の伸長を促進する。KoshihikariとKasalathに由来する染色体断片置換系統群(CSSL)を用いた解析から、低NH4+濃度で根長を支配しているQTLを、第8染色体の長腕側に検出した。本研究では、このQTL原因遺伝子の同定を目的として、様々なNH4+濃度でのQTLの特徴付け、並びに連鎖解析を行った。Koshihikariを遺伝背景とし、第8染色体の長腕側のみKasalath由来の断片に置換されたCSSL、SL‐225とKoshihikariを、5, 25, 50, 500 μM NH4+ を含むpH 5.5の水耕液で9日間育成した。その結果、5 μM NH4++濃度で育成した場合のみ、SL-225の根長は、Koshihikariの根長に比較して有意に高い値を示した。このことから、このQTLは、低NH4+濃度において窒素の利用に重要な役割を担っていることが示唆された。そこで、SL‐225に由来する戻し交雑後代BC 1F 3の分離集団を5 μM NH4+濃度で育成し、連鎖解析を行った。その結果、目的とするQTLは、約150 kbの領域に絞り込まれた。現在、更なる分離集団を用いて高精度連鎖解析を行っている。
  • 工藤 徹, 河合 亜希子, 山谷 知行, 早川 俊彦
    p. 094
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物において、グルタミン(Gln)をシグナルとし、窒素代謝系の制御に関与する情報伝達系の存在が示唆されているが、その分子実体は不明である。演者らは、イネのGln情報伝達系の分子実体を明らかとするため、Glnセンサータンパク質の候補であるACT domain repeat protein(ACR)の機能解析を進めている。イネのACRをコードする遺伝子は、OsACR1からOsACR9まで9つ推定されている。このうち、OsACR9は、葉身において非常に若い時期に転写産物の蓄積が顕著であり、器官の発達・成熟に必要な窒素の代謝制御に関与している可能性が考えられる。そこで、ACR9タンパク質を特異的に認識する抗体を作製し、ACR9の蓄積様式をイムノブロット法により解析した。その結果、ACR9は、葉身では転写産物と同様に若い時期に特に多く蓄積していた。また、登熟過程の頴果では、開花日から開花後25日目までの全ての時期で同程度蓄積していた。これらの結果は、ACR9が、器官の発達・成熟に関与している可能性を支持するものと考えられる。一方、根では、窒素欠乏時でもACR9は蓄積していたが、NH4+の投与により増加した。また、ACR9の組織内や細胞内における局在性の解析結果もあわせて報告する予定である。
  • 高橋 真哉, 栗山 朋子, 市川 尚斉, 近藤 陽一, 長谷川 由果子, 川島 美香, 武藤 周, 廣近 洋彦, 松井 南
    p. 095
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    我々はイネ完全長cDNA約13,000種類を個々に発現するシロイヌナズナ形質転換系統(イネFOXライン)を用いて有用形質を示す変異体の選抜をすることで、イネ有用遺伝子の探索を行っている。植物へのUV-B照射は様々な要因による生育阻害を引き起こす。その解決には遺伝子発現増強によるUV-B耐性の付与がひとつの手段であると考えられる。そのため本研究ではイネFOXラインからのUV-B耐性変異体のスクリーニングを進めている。今回はそのスクリーニング結果について報告する。
    スクリーニングはroot bending assayにより行なった。UV-B照射下で、野生型と比べ根の成長抑制が少なかった系統をUV-B耐性変異体候補として選抜した。現在までに約3,900系統のT2種子を用いたスクリーニングが終了しており、その中から50系統の候補を単離し各々のイネFOXラインに含まれるcDNAを同定した。同定されたcDNAには転写因子、細胞周期制御、ストレス応答等に関連することが予想されるもののほか、機能未知なものも多く含まれていた。単離された変異体の中には、UV-Bの有無に関わらず根の成長が促進される変異体も含まれていることが予想される。そのため現在単離された変異体の詳細な分類を試みている。本研究は、平成18年度科学振興調整費「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」によって行なわれている研究である。
  • 野口 直人, 三巻 耕太郎, 山崎 聖司
    p. 096
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    280-320nmの波長領域の光(UV-B)は,環境ストレスとして植物に様々な影響を及ぼす。我々はこれまでに,キュウリ子葉の表面において先端が尖ったトライコームと球状のトライコームの二種類の存在を確認し,UV-B照射は,先端が尖ったトライコームの基部の細胞分裂を促進することを明らかにした。また,先端が尖ったトライコームのみトルイジンブルーOで染色される。このことから,先端が尖ったトライコームにはポリフェノール化合物が蓄積することが考えられる。本研究では,先端が尖ったトライコームにおけるポリフェノール化合物の蓄積に及ぼすUV-Bの影響を,トルイジンブルーO染色と,蛍光顕微鏡を用いた自家蛍光の観察によって解析した。その結果,UV-B照射によって,トルイジンブルーOの染色部位は,先端が尖ったトライコームを中心として周辺の表皮細胞の細胞壁まで拡大した。自家蛍光を示した領域は,トルイジンブルーOの染色部位とよく一致した。以上のことから,UV-B照射は,先端の尖ったトライコームを中心として周辺の表皮細胞にポリフェノール化合物の蓄積を誘導することが組織学的に明らかになった。一方でUV-B照射は,キュウリ子葉のリグニン含量を増加させた。そのため,キュウリ子葉に対するUV-B照射は,先端の尖ったトライコームを中心として周辺の表皮細胞に,ストレス誘導性のリグニンを蓄積する可能性がある。
  • 田口 託, 日出間 純, 寺西 美佳, 小野 泰一, 熊谷 忠
    p. 097
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    UVB (280~320 nm) 量の増加は、植物の生育阻害を引き起こす。これまでに我々はイネを材料に、1)UVB感受性は品種間で異なる、2)この品種間差異は、シクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD) を修復するCPD光回復酵素遺伝子の突然変異に由来する酵素活性の違いに起因している可能性を指摘した。本研究ではこの可能性を実証するために、イネでUVB抵抗性を示すササニシキ、感受性を示す農林1号、さらにはインド型品種で超感受性を示すサージャンキに、ササニシキ由来のCPD光回復酵素遺伝子をセンスまたはアンチセンス方向に導入した形質転換体を作製し、これらを材料にCPD光回復酵素活性とUVB感受性との関係について解析した。各野生型にセンス方向に導入した形質転換体は、どれも転写レベルで約20~150倍、活性レベルで約5~50倍増加していた。一方、アンチセンス形質転換体はほとんど活性を検出できなかった。これら形質転換体と野生型をUVB付加条件下で生育させたところ、各センス系統は野生型と比較して、UVBによる生育傷害が軽減され、アンチセンス形質転換体は、生育に致命的な影響を受けた。以上のことから、イネ品種間のUVB感受性はCPD光回復酵素活性によって決定されており、CPD光回復酵素活性を増加させることで、UVB抵抗性を獲得できることが、本実験により実証された。
  • 高橋 正明, 川崎 順二, 寺西 美佳, 竹内 敦子, 熊谷 忠, 日出間 純
    p. 098
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    UVBによって誘発されたピリミジン二量体(CPD)を、青色光を利用して修復するCPD光回復酵素の活性は、植物のUVB抵抗性を決定している。植物細胞には、核、葉緑体、ミトコンドリアに固有のゲノムを有しているが、CPD光回復酵素が全てのオルガネラ内で機能しているか否かは不明である。これまで我々は、イネにおいては、核のみならず葉緑体やミトコンドリアDNA上に生成したCPDが、青色光照射時間に依存して、修復されている事実を見出した。CPD光回復酵素の遺伝子は、核に1コピーでコードされているため、イネにおいては、CPD光回復酵素が、核、葉緑体、ミトコンドリアへ移行して、CPD修復の機能を担っている可能性が示唆された。本研究では、この可能性を検証するために、CPD光回復酵素活性の異なるイネ品種(ササニシキ、サージャンキ)、ならびに酵素活性を著しく増加(センス)、または低下(アンチセンス)させたCPD光回復酵素形質転換体イネを用いて、各オルガネラでのCPD光修復速度の解析を行った。光回復酵素活性が高いササニシキでは各オルガネラでのCPD光修復速度が、酵素活性の低いサージャンキを比較して高かった。また、アンチセンス形質転換体イネでは、各オルガネラでの光修復活性は認められなかった。以上の結果から、CPD光回復酵素は、核、葉緑体、ミトコンドリアへ移行して機能していることが強く示唆された。
  • 寺西 美佳, 中村 憲太郎, 日出間 純, 熊谷 忠
    p. 099
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    UV照射によるDNA損傷 (シクロブタン型ピリミジン二量体 CPD)の光回復酵素活性は、植物のUV感受性を左右する重要な因子である。この酵素はCPDに特異的に結合し、青色光エネルギーを利用してCPDをモノマーにし、基質から遊離する。イネCPD光回復酵素遺伝子の大腸菌発現タンパク質は約55kDaの単一蛋白質であるが、イネのみならず高等植物のネイティブな酵素については解析がなされていない。我々は、イネ葉から、硫安分画、陰イオン交換カラム、ヘパリンカラムを用いて精製した標品を、CPD-DNA-結合磁気ビーズに結合させた後、青色光照射により遊離させることで活性を持つ酵素を飛躍的に精製できること、この精製標品は約54kDaと56kDaの2つのCPD光回復酵素を含む可能性を見出した。ただ野生型イネのCPD光回復酵素含量は微量であるため、種々の検討が困難であった。本研究ではササニシキCPD光回復酵素遺伝子のcDNA配列をササニシキに導入し、CPD光回復酵素含量が高く、極めて強いUV抵抗性を示す過剰発現体を作成し、このイネから酵素を精製し、タンパク質の性質を解析した。イネCPD光回復酵素抗体を用いたウエスタンブロットの結果、やはり2つのCPD光回復酵素が含まれており、2つの酵素は青色光照射によりCPD-DNA-磁気ビーズから遊離し、活性を有していた。この結果2つのアイソフォームの存在が分かった。
  • 中西 華代, 佐塚 隆志, 前島 正義, 久堀 徹
    p. 100
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/13
    会議録・要旨集 フリー
    [背景] 生体内で還元調節を仲介する分子の一つであるチオレドキシンは、分子量12,000の小さなタンパク質で、他のタンパク質のジスルフィド結合を還元することでその活性を制御する。これまで、植物では葉緑体内の種々の酵素に加えて、自家不和合性や病害応答に関わるレセプターキナーゼ、液胞型ATPアーゼなどの膜タンパク質の機能が、チオレドキシンで調節されると報告されている。
    [目的] 膜輸送体やレセプターなど細胞機能に重要な分子を含む細胞膜から、チオレドキシンと相互作用する分子を網羅的に捕捉し、これらの分子の還元調節機構を生化学的に解析することで、チオレドキシンによる活性制御に共通の仕組みを明らかにすることを目指した。
    [方法と結果] シロイヌナズナ培養細胞から調製した細胞膜画分を可溶化し、チオレドキシン変異体固定化担体を用いてスクリーニングを行った。捕捉した分子について、MALDI-TOF/TOF MSを用いた質量分析を行い、シークエンスタグ法で分子種を同定した。その結果、膜アンカー型カルシウム依存キナーゼ、GTP結合タンパク質、ホスホイノシチド特異的リパーゼCなど情報伝達に関わる分子が新たにチオレドキシン標的膜タンパク質候補として同定された。現在、いくつかの候補分子について、チオレドキシンによるレドックス調節の生化学的解析を行っている。その結果と候補分子のリストから、細胞膜信号分子がレドックス制御を受ける生理的意義を考察する。
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