日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第49回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1105件中301~350を表示しています
  • 丹羽 康夫, 西川 博, 齋藤 武範, 小澤 一央, 久留戸 涼子, 関 亮太朗, 森安 裕二, 谷 幸則
    p. 0301
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    茶は栽培条件によりその味や香り、葉色が変化することが知られている。 植物にとって光は、光形態形成や光合成のために必須である。シロイヌナズナを例にとると、弱光条件下では徒長した胚軸や子葉の淡緑色化を引き起こす。一方、チャの新芽の場合、例えば被覆処理により光量を制限することにより葉色の緑化がみられる。この現象は昔から経験的に知られており、 玉露やてん茶などいわゆる商品価値の高いお茶は、被覆栽培されたチャ葉から生産されている。また、被覆栽培により,チャ葉中のアミノ酸含量は増加する一方で,タンニンの含量は低下することが知られている。本研究では、被覆栽培によるチャ葉への影響について、葉中成分の分析、形態学的な解析、遺伝子レベルでの解析を行うことで、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。
    まずはじめに、新芽の生育期に被覆処理を行うことでチャの葉色の改善を試みたところ、数日の被覆処理で顕著な効果が見いだされることがわかった。そこで、 高速液体クロマトグラフィー法により、クロロフィルおよび各種カロテノイドの色素類、さらにカテキン類の定量分析を行った。また、光学および電子顕微鏡により形態学的な解析を行った。その結果、通常のすなわち無被覆栽培条件下では形態的に異常な葉緑体が多く観察されたことから、新芽の発達時期の条件下では光が強すぎることが原因となり緑化が阻害されていると考えられた。
  • 奈島 賢児, 金山 善則, 山木 昭平, 白武 勝裕
    p. 0302
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    リンゴなどのバラ科果樹は,ソース葉でスクロースに加えソルビトールを合成し,シンク器官へと転流するというユニークな糖の合成・転流機構を持つ.このためバラ科果樹は,スクロースのみを転流する植物に比べ,高い光合成能力を持つと言われている.また,ソルビトールは乾燥ストレスや低温ストレスに対する適合溶質として働くことや,ホウ素の移動を促進するなどの有用性も報告されている.我々はリンゴにおけるソルビトール合成の鍵酵素であるソルビトール-6-リン酸脱水素酵素(S6PDH)の遺伝子をシロイヌナズナに導入し,非ソルビトール植物におけるソルビトール合成能力の付与を試みた.プロモーターには,ソース葉特異的にS6PDHを発現させる目的に,クロロフィルa/b 結合タンパク(cab)プロモーターを用いた.S6PDHの導入が確認できた個体を6系統得たため,葉内のソルビトール含量を測定したところ,1系統ではソルビトールがほとんど検出できなかったが,他ではソルビトールの合成が確認できた.ソルビトール合成がほとんどみられなかった系統の表現型は野生型と変わらなかったが,他のS6PDH導入系統の生育は著しく悪く,成育中に枯死するものも多かった.それらの系統の葉は小さく肉厚になり波打っており,花成が早まる傾向が見られた.
  • 今井 剛, 伴 雄介, 寺上 伸吾, 山木 昭平, 山本 俊哉, 森口 卓哉
    p. 0303
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    モモ(品種:ゆうぞら)果実由来の懸濁培養細胞を用いてアスコルビン酸含量の変化を調べた。植継ぎ2日後に0.4 μM/gFw 程度でもっとも高く、細胞の増殖とともに減少し、18日後には 0.13 μM/gFw 程度になった。還元型の割合は、80-90%で、培養10日後以降は若干低下する傾向が見られた。細胞容積の増加は18日後以降はほぼ停止した。培地のpHはロットによる変動が大きかったが、培養2-7日後ぐらいまではpH4程度で推移した後次第に上昇し、18日後にはpH5以上になった。アスコルビン酸合成に関わる5つの酵素(L-ガラクトノラクトン脱水素酵素、L-ガラクトース脱水素酵素、GDP-マンノースピロホスホリラーゼ、GDP-マンノースエピメラーゼ、アルド-ケト還元酵素)の発現量の経時的変についても報告を行う。
  • 田部 記章, 木村 彩子, 高橋 香織, 吉村 和也, 重岡 成
    p. 0304
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】植物のストレス応答や防御に関する多くの遺伝子が選択的スプライシングにより複数の転写産物を生成している。これまでに、シロイヌナズナのスプライシング制御因子であるセリン-アルギニンリッチ(SR)タンパク質の中で、atSR45aが強光により発現誘導され、5’スプライス部位認識に機能するU1-70Kと相互作用をすることを明らかにした(Plant Cell Physiol. 48: 1036-1049, 2007)。そこで本研究では、スプライセオソーム形成におけるatSR45aの役割を酵母two-hybrid法により検討した。
    【方法・結果】atSR45a自身の選択的スプライシングにより生成する6つの成熟型mRNA(atSR45a-1a~e, -2)のうち、機能型と推定されるatSR45a-2 mRNAがコードするタンパク質をBaitとして、酵母Two-hybrid法によりシロイヌナズナcDNAライブラリーから相互作用因子を検索した。その結果、atSR45a-2は、3’スプライス部位で機能するU2AF35bと相互作用した。さらに、BiFC法による解析の結果、atSR45a-2とU2AF35bとの相互作用を示すYFP蛍光が核において検出された。このことより、atSR45aは核においてスプライシング基本構成因子との相互作用を通して、スプライセオソーム形成に機能していることが示唆された。
  • 湯川 眞希, 杉浦 昌弘
    p. 0305
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ndhK 遺伝子はNADHデヒドロゲナーゼのサブユニットをコードしており、タバコでは葉緑体ゲノム上で上流に存在する ndhC、下流に存在する ndhJ 両遺伝子とともに共転写され、蓄積したポリストロニック mRNA が翻訳されて ndhK 遺伝子産物が合成される。ndhK mRNA の 5’領域には 180 nt 以内に同じ読み枠で 4 つの AUG コドン(上流側から順に S1, S2 ,S3, S4 とする)が存在しており、このうち上流側 3 つの AUG コドンは ndhC のコーディング領域内に存在している。我々はタバコ葉緑体 in vitro 翻訳系を用いた解析により、ndhK の翻訳は主に S3 から開始されており、両遺伝子がオーバーラップしていることを明らかにした。また、この S3 からの翻訳開始機構について行った解析について、その結果を報告する。
  • 田上 優子, 本瀬 宏康, 渡辺 雄一郎
    p. 0306
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    RNAサイレンシングは真核生物で広く保存された遺伝子制御機構で発生段階の制御やウイルス抵抗性など様々な生命現象に関与している。RNAサイレンシングでは20塩基程度のsmall RNA分子が重要な役割を担っている。Small RNAは相補的な配列を持つ標的に結合し、mRNAの翻訳阻害や分解による転写後制御、及びクロマチンの修飾による転写制御を誘導する。最も研究されているsmall RNAはmicroRNA (miRNA)である。シロイヌナズナにおいてmiRNAはステムループ構造を形成するmiRNA前駆体転写産物からRNaseIII酵素であるDICER-LIKE 1 (DCL1)によって切り出される。このDCL1はHYL1及びSERRATEタンパク質と協同的に働きmiRNA/miRNA*二本鎖を生成する。miRNAはRNA-induced silencing complex (RISC) に取り込まれ、相補的な配列を持つ標的mRNAと結合し、RNA切断活性を持つARGONAUTE 1 (AGO1)を介して標的mRNAを切断する。このように、これらの因子がmiRNAの生成過程及びmRNAの負の制御に関与する基本的な役割は明らかとなってきた。しかしmiRNAによるこのような遺伝子制御が実際に植物の発生や生理状態にどのように関与するのかまだあまり研究されていない。そこでわれわれはmiRNAの蓄積が野生型に比べて減少するhyl1変異体に着目し、植物の形作りが組織・器官レベルでどのようにmiRNAによって制御されるかについて解析を行った。さらにmiRNA経路に関与する新たな因子が存在する可能性についても述べたい。
  • 中澤 悠宏, 平栗 章弘, 金屋 明宏, 森山 裕充, 福原 敏行
    p. 0307
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年、様々な生物において、2本鎖RNA結合モチーフ(dsRBM)を有するタンパク質が細胞内シグナル伝達や遺伝子発現制御に重要な役割を果たすことが報告されている。モデル植物シロイヌナズナではdsRBMを有するタンパク質が16種見出されており、生体内における機能が明らかにされてきている。本研究では、シロイヌナズナHYL1/DRBファミリー2本鎖RNA結合タンパク質(HYL1/DRB1, DRB2, DRB3, DRB4, DRB5)に着目し解析を行っている。
    これまでに、DRB4遺伝子のT-DNA挿入変異株(drb4-1)が、発生後期にアントシアニンが蓄積しやすく赤紫色に呈色することを確認した。また、免疫沈降法を用いた解析によって、シロイヌナズナ生体内においてDRB4がDicer様タンパク質DCL4と相互作用し、RNAサイレンシング(trans-acting siRNA経路)に関与することを明らかにした。drb4-1系統に35S::DRB4-HAコンストラクトを導入した相補実験によって、赤紫色に呈色する異常を示さなくなること、野生型より蓄積量が減少していたsiRNA蓄積量が回復することを確認した。現在、生体内におけるDRB4の詳細な機能を明らかにすることを目的に、DRB4と相互作用する因子の探索を行っている。また、他のDRBタンパク質に関しても同様に解析を進めている。さらに、T-DNA挿入変異株を用いた生理学的な解析に関しても合わせて報告したい。
  • 太田垣 駿吾, 河合 文珠, 増田 税, 金澤 章
    p. 0308
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、植物における2本鎖RNAを介した遺伝子発現抑制現象の一つとして知られている転写型ジーンサイレンシング(Transcriptional Gene Silencing ; TGS)に着目し、その機構解明を目的とした解析を行った。
    我々はこれまで、CaMV 35Sプロモーターの転写制御下でGFPを発現しているNicotiana benthamiana形質転換体に対して、35Sプロモーター配列を組み込んだベクターをゲノムの構成要素として持つキュウリモザイクウイルスを2本鎖RNAの供給源として感染させることで、RNAを介したDNAのメチル化(RNA-directed DNA methylation; RdDM)によりGFP遺伝子のTGSが誘導される系を確立している。今回我々は、長さあるいは部位の異なる35Sプロモーター配列をウイルスベクターに挿入した種々のコンストラクトを用いることで、RdDMの誘導源となる2本鎖RNAの構成がTGSの誘導に及ぼす影響を解析した。その結果、挿入配列の違いは35Sプロモーター配列と相同な2本鎖RNAの蓄積量には影響を与えないものの、35Sプロモーター領域に対するメチル化、およびTGSの誘導効率は挿入配列の長さの制約を受けることが明らかとなった。また、TGS誘導個体におけるメチル化の誘導様式も一様ではなく、動的な変化を伴うことが示された。
  • 平井 清華, 児玉 浩明
    p. 0309
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    α-リノレン酸の合成を触媒するタバコ小胞体局在型ω-3脂肪酸不飽和化酵素をコードする遺伝子(NtFAD3)のコサプレッション株(S44株)では、CaMV 35Sに由来するEl2プロモーターが導入遺伝子の転写に用いられている。El2の一部の配列をターゲットとする3種類のヘアピンコンストラクトをS44株に導入し、プロモーターDNAのメチル化を誘導した。その結果、一部のコンストラクトを導入した二重形質転換体(S44-end株)において、NtFAD3 siRNAが消失しα-リノレン酸含量が野生株よりも増加した。過剰発現の表現型となったS44-end株のプロモーター領域は親株のコサプレッション株と比較して高度にメチル化されていたが、NtFAD3遺伝子のコーディング領域のDNAメチル化の程度には差が見られなかった。一般的にDNAのメチル化は、ヒストン修飾を介したクロマチン構造の変化を伴うと言われている。そこで本研究では、プロモーターDNAのメチル化によるコサプレッションから過剰発現への表現型の転換に伴う、導入遺伝子領域のクロマチン構造の変化について、プロモーター領域と、導入・内在NtFAD3コーディング領域のヒストン修飾の状態をクロマチン免疫沈降法により解析した。
  • 殿村 元基, 長島 史子, 青山 れい子, 河合 利枝, 丹羽 康夫, 小林 裕和
    p. 0310
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    器官特異的な遺伝子発現制御機構を解明する目的で,光合成遺伝子RBCS-3Bプロモーターの制御下にレポーター遺伝子を置いたシロイヌナズナを用い,メタンスルホン酸エチル (EMS) 突然変異系統を選抜した.その結果, rex2 (relaxed expression of transgenes) 系統の根において,外来RBCS-3Bプロモーター特異的に遺伝子発現抑制が解除されることを見いだした.
    rex2突然変異系統において,エピジェネティックな発現制御機構が関与している可能性が考えられた.そこで, bisulfite法を用いて,RBCS-3Bプロモーター領域のメチル化を調べた. 外来プロモーターではメチル化シトシンはほとんど検出されなかった.しかし, 内在プロモーターではメチル化シトシンが検出された. したがって,外来プロモーターと内在プロモーターの発現の違いには,このメチル化シトシンが関与する可能性がある.さらに,クロマチン構造とヒストンタンパク質の修飾に注目し,クロマチン免疫沈降法を用いて,内在RBCS-3Bプロモーターと外来RBCS-3Bプロモーターのクロマチン構造を比較した.
    原因遺伝子座の解析を行ったところ, rex2突然変異系統の原因遺伝子座の予測範囲を,約50 kbpにまで狭めることができた.原因遺伝子座を同定するためこれらの領域のDNA塩基配列を決定した.
  • 深井 英吾, 程 朝陽, 井澤 毅, 宮尾 安藝雄, 廣近 洋彦
    p. 0311
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物ゲノムではCGに加え、CNGやCNNなどのnon-CGサイトのシトシンもメチル化の標的となる。シロイヌナズナではCNGメチル化の維持にはChromomethylase 3 (CMT3)が主たる役割を果たしていること、CNGメチル化はトランスポゾンの抑制に重要な意味を持つことが示唆されている。我々はシロイヌナズナよりもゲノム中のトランスポゾンの割合が高いイネにおけるCNGメチル化の機能を解析するため、CMT3のイネにおける機能的オーソログであるOsMET2aの、機能欠失変異体の解析を行った。osmet2a変異体ではトランスポゾンの転写と転移が誘導されていた。osmet2a変異体では機能遺伝子の転写上昇も起きており、この点はもっぱらトランスポゾンの転写が誘導されたcmt3変異体とは異なった。osmet2a変異体で転写上昇した複数の遺伝子について、WTとのF1 (OsMET2a/osmet2a)において、メチル化状態の回復や転写の正常化が起きるかを解析した。osmet2a変異体において、メチル化状態の不安定化が生じたゲノム領域を見出した。以上の解析から植物のCNGメチル化の意義について、ゲノムにおけるトランスポゾンの比率との関係から考察した。
  • 関口 陽, 溝井 順哉, 西田 生郎
    p. 0312
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    CDP-コリン合成酵素(CCT)はCDP-コリン経路によるホスファチジルコリン(PC)生合成の律速酵素であり、シロイヌナズナでは2つのCCT遺伝子CCT1およびCCT2にコードされている。われわれは、CDP-コリン経路によるPC合成の意義を明らかにするために逆遺伝学的研究を行ってきた。その結果、T-DNA挿入変異株cct1-1およびcct2、ならびに二重変異株cct1-1 cct2は野生型と変わらない栄養生長をしめすが、cct1-1株の2世代目やcct1-1 cct2株の1世代目で雄しべが雌性化するホメオティック変異が観察された。この形態異常は、世代を重ねることでより顕著になることから、エピジェネティックな変異である可能性が考えられた。そこで、花の形態形成におけるABCモデルのBクラス遺伝子ついて、野生株、cct1-1株、cct1-1 cct2株におけるメチル化レベルをバイサルファイト法で比較し、Bクラス遺伝子のメチル化レベルを調べた。Bクラス遺伝子のメチル化レベルとホメオシスの関係について考察する。
  • 山本 雅也, 林 陽子, 川鍋 光慶, 遠藤 斗志也, 西川 周一
    p. 0313
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    小胞体は,正しい高次構造を形成したタンパク質のみをゴルジ体以降に送り出す,品質管理の機能をもつ.小胞体に蓄積した異常タンパク質は小胞体関連分解(ERAD)とよばれる機構により,サイトゾルでプロテアソーム依存的に分解される.酵母液胞のカルボキシペプチダーゼY(CPY)の変異体CPY*は,酵母における代表的なモデルERAD基質である.本研究では,シロイヌナズナのCPYオルソログAtCPYを元にして,植物細胞におけるERAD基質の開発を行った.AtCPYのC末端にGFPを融合したAtCPY-GFPをシロイヌナズナ培養細胞で発現すると, AtCPY-GFPは液胞まで輸送されることが示された.一方,AtCPY-GFPにCPY*と同様の変異を導入したAtCPY*-GFPは小胞体に局在し,プロテアソーム依存的に分解されることがシクロヘキシミドチェイス実験によって示された.また,その分解はERAD因子であるCDC48の優性欠損変異体の共発現によって抑制された.以上の結果は,AtCPY*-GFPが植物細胞においてERADにより分解されることを示している.現在AtCPY*-GFPを元に膜結合型ERAD基質の開発も行っており,その解析結果についても合わせて報告する.
  • 高村 裕介, 野田 耕, 長渕 美緒, 中川 強, 岡田 祥子, 田中 克典
    p. 0314
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    翻訳後修飾分子であるSUMOはユビキチンと類似した構造を持つ。しかし、その機能はユビキチンとは異なり、タンパク質の活性・局在の変化、安定化などに機能している。SUMOはC末端が切断され2つのグリシン残基が露出した成熟型となることで、標的タンパク質との共有結合が可能となる。シロイヌナズナには8つのSUMO遺伝子が存在しており、これらの因子が何らかの形で使い分けられていると考えられる。我々は、これまでにESTの確認がなされていなかったAtSUMO4, 6, 7が実際に発現していることを明らかにした。さらにGUSレポーター遺伝子を用いてAtSUMO1-7がそれぞれ組織特異的に発現することを明らかにし、各SUMO分子が、時期・組織特異的に働いている可能性を示した。さらに、SUMOの機能分担について、C末端切断による成熟化、基質との共有結合能力の有無、基質特異性といった観点から現在、解析を進めている。AtSUMO4, 6, 7においては、他のSUMOアイソフォームに保存されている成熟型C末端の2つのグリシン残基が1つしか保存されておらず、共有結合によるSUMO化修飾とは異なる機能を持つ可能性が考えられる。このことから、AtSUMO4, 6, 7が最近報告された非共有結合型のSUMO-標的タンパク質の相互作用によるタンパク質の機能変換に関与する可能性についても検討している。
  • 池田 洋平, 小村 理行, 伊藤 繁, 小池 裕幸, 佐藤 和彦
    p. 0315
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    地球上における一次生産者として珪藻類は重要な役割を担っているが、最近2種のゲノム解析が終了し、そのデータベースが公開されている。私たちは第47回日本植物生理学会筑波大会にて中心目珪藻Chaetoceros gracilisの光化学系I(系I)複合体の精製法について報告した。しかし系I複合体の収量が少なく、スケールアップが困難であったことから、精製法の再検討を行った。その結果、より簡便な方法で系I複合体を高純度に精製することができたので報告する。また、この精製法はThalassiosira pseudonanaのチラコイド膜に対しても有効であることを確認した。精製したC. gracilisの系I複合体のアンテナサイズは255クロロフィルa/P700であった。この値はHPLCの解析から、2分子のメナキノンあたりで算出したアンテナサイズと一致した。閃光照射による430nm付近での吸収変化測定からこのメナキノンは機能的に結合しており、またC. gracilisから精製したチトクロムc6の高い光還元活性から、系I複合体は完全な電子伝達鎖を持っていることがわかった。現在、この系I複合体からfucoxanthin-chlorophyll-binding protein Iの単離を試みているので、その経過もあわせて報告する予定である。
  • 小澤 真一郎, 高橋 裕一郎
    p. 0316
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系I(PSI)複合体は集光性クロロフィルタンパク複合体I(LHCI)と結合しPSI-LHCI超分子複合体(PSI-LHCI)を形成する。高等植物ではマイナーなものも含めて6つのLHCIサブユニットが存在し、アラスカ豆のPSI-LHCIのX線結晶構造解析は4つのLHCIがPSI複合体に結合していることを明らかにした。これに対してクラミドモナスから単離されたPSI-LHCIには9種のLHCIが存在する。電子顕微鏡によるPSI-LHCIの構造解析ではLHCIの数を正確に求めることが難しく、6から11コピー存在すると報告されている。そこで、本研究ではクラミドモナスのLHCIサブユニットのコピー数を生化学的に求めたので報告する。チラコイド膜をドデシルマルトシドで可溶化後、ショ糖密度勾配超遠心法とDEAEクロマトグラフィーによりPSI-LHCIを精製した。LHCIポリペプチドは近接して分離されるので、電気泳動による分離条件を最適化し、さらに2種類のゲルシステムを利用した2次元電気泳動も用いた。分離されたポリペプチドを蛍光色素Flamingoで染色し定量した。各ポリペプチド間で染色度は分子質量にのみ比例すると仮定し、染色バンドの面積と分子質量からPSI複合体のサブユニット(PsaA/BおよびPsaD/F)に対するLHCIサブユニットの量比を求めた。得られた定量結果とLHCIの構造について議論する予定である。
  • 森川 陽介, 大竹 伸也, 小林 正美, 池上 勇
    p. 0317
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    PS1RC(PsaA/B) complexからエーテル処理によってChl aの大部分を除去し、P700当たり約13分子のChl aしか含まない標品を調製した。(1)これにChl a より長波長側に赤色帯吸収を持つChl dをリン脂質PGと共に加え、Chl dが結合した標品を得た。(2)Chl dは添加量の約1/4が結合し、添加量の約1/3が結合するChl aに比べて、結合の親和性はやや低かった。(3)Chl dの結合によってP700の光酸化初速度が増加したが、その光エネルギー伝達効率は同様な方法によって結合させたChl aの約1/2~1/3であった。(4) Chl dを結合したPS1 complexは、Chl aによるケイ光(Fl680)と共に、Chl dによるケイ光(F706)が観察された。(5)これらのケイ光にたいするケイ光励起スペクトルより、Chl aから結合したChl dへの励起エネルギー移動が認められた。また、Chl dからChl aへの励起エネルギー逆移動も認められた。以上の結果から、結合したChl dはenergy sinkとして抽出されずに残っているChl aとの間で励起エネルギー平衡状態にあり、吸収した光エネルギーをP700へ伝達し得ると推定された。
  • 三木 健嗣, 柿谷 吉則, 李 春勇, 小山 泰, 長江 祐芳
    p. 0318
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物におけるカロテノイドからクロロフィルへのエネルギー伝達は、カロテノイドの内部転換に競合して起こる。全トランスカロテノイドには種々の対称性を持つ一重項励起エネルギー準位があり、光合成系でのエネルギー伝達は、これらのエネルギー準位での内部転換と振動緩和により制御されている。本研究はこれらのエネルギー準位をフェムト秒時間分解吸収分光で検出することを目標とした。
    光合成系カロテノイドには、異なる共役二重結合数nをもつカロテノイドが存在し、Tavan and Schultenの計算結果から求めたエネルギーダイアグラムより、励起状態のエネルギー準位は高いものからn = 11 ~ 13では1Bu+, 3Ag-, 1Bu-, 2Ag-となっている。当研究室では主に1Bu+, 1Bu-, 2Ag-に関して研究を行ってきたが、3Ag-準位に関しては光学禁制であり、ほとんど情報が得られなかった。そこで本研究では極性溶媒であるTHFを用い、約30 fsのパルス幅のフェムト秒時間分解吸収分光での測定を試みた。本実験では共役二重結合数n = 9 ~ 13のカロテノイドを対象にして、検出されたピークをエネルギーダイアグラムに沿って帰属した。
    測定の結果、初期の時間領域で光学活性な1Bu+からの誘導蛍光とは別に、幾つかの低エネルギーな準位からの誘導蛍光がみられた。この測定で検出された誘導蛍光ピークをエネルギーダイアグラムにより帰属したところ、3Ag-状態、1Bu-状態からの蛍光であることがわかった。
  • 柿谷 吉則, 石井 秀和, 小山 泰, 王 鵬, 付 立民, 張 建平, 長江 裕芳
    p. 0319
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
       紅色光合成細菌Rhodobacter sphaeroides 2.4.1において、三重項状態における光反応中心に結合した15シスカロテノイドの構造変化と結合部位との分子間相互作用に関して、ラマン分光が微小な構造変化の検出に有効であることから、低温のサブマイクロ秒時間分解EPR分光で得られている知見(柿谷ら,Biochemistry 45 (2006) 2053)の追試を、室温のサブマイクロ秒時間分解ラマン分光を用いて検討した。
       EPRで観測された3つの三重項種3Car(I),3Car(R),3Car(II)が、3つの異なるラマンスペクトルのパターンとして観測された。また、1458 cm–1の非対称変角振動に帰属されるラマン線が励起直後に非常に強くなっており、このことはカロテノイドの13Meの炭素原子とGly M178のC=Oの酸素原子との間で立体障害が起こっていることを示していた。立体障害を避けるために、シス型C15=C15'結合周りに初期の回転運動が起こり、立体障害が隣にあるトランス型C13=C14結合周りの反対方向への、その後に起こる回転運動の要因になっていると考えられる。光反応中心における三重項エネルギー散逸において、スピン軌道相互作用を通した静的メカニズムよりも、カロテノイドの中心付近の二重結合周りの回転運動を通した動的メカニズムが、より重要な役割を果たしているという結論に至った。
  • 石井 秀和, 柿谷 吉則, 小山 泰
    p. 0320
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    紅色光合成細菌の光反応中心(RC)では、電荷分離反応に始まる一連の電子伝達反応が起こっており、この反応は電子の蓄積状態を反映する酸化還元電位によって支配されていることが期待される。そこで今回は、RCの酸化還元電位を化学的/電気化学的に制御し、RCの電子吸収スペクトルがどのように変化するのか追跡した。Rba. sphaeroides R26.1からRCを単離精製した。化学的に電位を制御する場合には、酸化剤としてアスコルビン酸Na,還元剤としてジチオナイトを用いた。電気化学的に電位を制御する場合には、RCと電極との電子伝達を媒介するためのメディエーターとして“フェロセン及びその誘導体”を加え、ポテンシオスタットにより電圧を変化させながら、電子吸収スペクトルを測定した。その結果、電圧値を大きくすることでRCは酸化し、小さくすることで還元することを確認した。すなわち、酸化還元電位を制御することにより、RCの酸化および還元を可逆的に制御することに成功した。現在、RCの電子伝達反応を追跡するために、RCの酸化還元電位を制御しながら、スペシャルペアバクテリオクロロフィルを励起して、近赤外領域のサブマイクロ秒時間分解吸収スペクトルの測定を試みているところである。
  • 鈴木 博行, 杉浦 美羽, 野口 巧
    p. 0321
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系IIで行われる水分解反応は、5つの中間状態 (S0-S4) の光誘起サイクルにより進行し、二分子の水が一分子の酸素と4つのプロトンに分解することが知られている。しかし、各中間状態遷移におけるプロトン放出パターンについては、未だ最終的な結論が得られていない。そこで本研究では、水分解反応におけるプロトン放出パターンをフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて見積もった。YD由来のプロトン放出による干渉を避けるため、好熱性シアノバクテリアThermosynecoccus elongatusのYD-less変異体 (D2-Y160F)の光化学系IIコア複合体を試料として用いた。試料をMes及び重水素化Mes (D13-Mes) の高濃度緩衝液に懸濁し、12回の閃光照射により、FTIR差スペクトルを測定した。得られた閃光誘起差スペクトルには、緩衝剤と蛋白質に由来するシグナルが重なって観測された。緩衝剤の正確な変化量を見積もるため、Mes − D13-Mes二重差スペクトルを計算し、蛋白質のシグナルを除去した。Mesシグナルの強度増大の閃光数依存性は、水分解反応に特徴的な4閃光周期振動を示した。単一のmiss factorを仮定したシュミュレーションの結果、S1→S2、S2→S3、S3→S0、S0→S1遷移でのプロトン放出パターンは、およそ0:1:2:1であることが示された。
  • 篠山 稔晴, 西田 康二, 福島 佳優, 中村 洋子, 伊藤 繁
    p. 0322
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    光合成反応中心における光化学反応は可逆的であり、光反応で生じた初期電荷分離状態の一部は光反応の逆反応である電荷再結合反応ににより蛍光(遅延蛍光)を出し消失する。光化学系II反応中心複合体内においても、光励起後ある程度の時間にわたり電子供与体の励起一重項状態(P680*)とアンテナ色素の励起状態(Chl*)が電荷分離状態(P-H+)との平衡により生じて、遅延蛍光を出すことが知られている。逆に遅延蛍光を測定することで光化学系II cofactor間の自由エネルギー差などの情報を得ることが出来る。
    しかし、多段階の電子移動反応により生じる様々な電荷分離状態(P+H-, P+QA-, P+QB-,Y+QA-, S2QA-, S2QB-状態など)が時間とともに生成消滅し、遅延蛍光を出すChl*との平衡にかかわるため、遅延蛍光の減衰は複雑な時間経過を示す。通常の光化学系II反応中心ではクロロフィルa(Chl a)が主要色素であり、他の色素はアンテナタンパク質としてのみ機能し遅延蛍光もださない。しかし、Acaryochloris marinaはChl dを主要色素とし、720-740 nmの遠赤色光を用いて光合成を行う。この光化学系IIではChl aとChl d両方の遅延蛍光が報告されており興味深い。
    今回、Acaryochlorisの蛍光と遅延蛍光をレーザ励起後ピコ秒領域から、ナノ秒-ミリ秒、秒スケールまでにわたり包括的に測定した。これにもとづきこの新型光合成生物の光化学反応を検討した。
  • 高橋 武志, 米倉 ゆかり, 菓子野 康浩, 小池 裕幸, 高橋 裕一郎, 佐藤 和彦
    p. 0323
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    好熱好酸性の原始紅藻Cyanidioschyzon merolaeは最も原始的な真核光合成生物の一種であると考えられている。光化学系II ( 系II )複合体の特徴を解明し、紅藻と他の光合成生物との共通点、相違点を明らかにするため、我々はC. merolaeから、高い活性を保持した系II複合体を高純度に精製し、詳細な解析を行った。精製された系II複合体の収率は可溶化チラコイド膜に含まれていたクロロフィルaの約20%であり、そのうちの約20%が単量体、80%が二量体であった。精製された標品にはPsbO, PsbQ, PsbU, PsaV, Psb30 ( Ycf12 )などを含む17以上のサブユニットから構成されていた。Psb30の遺伝子は被子植物以外の光合成生物に広く保存されているが、C. merolaeにおいても実際に発現していることが確認された。反応中心あたりの色素およびキノンの結合量は、単量体、二量体ともにラン色細菌Thermosynechococcus elongatusで報告されている値と同じであった。これらの結果は、C. merolaeの系II複合体はラン色細菌型であることを示す。この系II複合体標品における酸素発生活性のpH依存性、溶質依存性から推察される特長についても併せて発表する。
  • 川上 恵典, 岩井 雅子, 池内 昌彦, 神谷 信夫, 沈 建仁
    p. 0324
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    PsbYは光化学系II 複合体(PSII)の低分子量サブユニットの1つであり、分子量4.7 kDaで1回膜貫通へリックスを持っており、ラン色細菌から高等植物まで高度に保存されている。しかし、これまで報告されたPSIIの結晶構造ではPsbYの存在位置は特定されていない。PsbYの位置を明らかにするため、我々はPsbYを欠失させたThermosynechococcus elongatus変異株からPSIIの精製・結晶化を行い、野生株由来PSIIの電子密度と変異体由来PSIIの電子密度の差フーリエを計算した。得られた差フーリエ図を3.7Å分解能の結晶構造(Kamiya and Shen, 2003, PNAS, 100, 98-103)と重ね合わせた結果、PsbYはPSII二量体の外縁部、シトクロムb-559α, βの近傍に存在する、未同定のヘリックスに対応することが分かった。このヘリックスは3.0Å分解能の結晶構造にも存在し、ヘリックスX2とされていたが (Loll et al., 2005, Nature, 438, 1040-1044)、3.5Åの結晶構造(Ferreira et al., 2004, Science, 303, 1831-1838)では対応するヘリックスが存在せず、この領域が空白になっていた。従って、3.5Åの結晶構造解析において、PsbYが精製の過程で脱落した、あるいは分解能が不十分なため対応するへリックスの電子密度が弱かった、ということが考えられる。
  • 沈 建仁, 川上 恵典, 梅名 泰史, 神谷 信夫
    p. 0325
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    塩素イオン(Cl-)は光化学系II(PSII)の酸素発生反応に必要不可欠な因子である。しかし、Cl-検出の困難さから、これまでの結晶構造解析でPSIIにおけるCl-の結合部位は同定されていない。我々は、好熱性ラン色細菌Thermosynechococcus vulcanus由来PSIIをBr-またはI-で置換し、結晶化・結晶構造解析を行い、それぞれの結合位置を同定したので報告する。PSIIをBr-で置換した場合、酸素発生活性は未置換(Cl-を結合)のものとほぼ変わらないが、I-で置換するとほぼ完全に失活し、Cl-がI-によって置換されたことが確認された。Br-で置換したPSII及びI-で置換したPSIIの結晶のX線回折データから、native PSII(Cl-PSII)との差フーリエ及び異常分散差フーリエを得ることができ、その結果、Br-及びI-がそれぞれ2箇所結合していることが分かった。この2つの部位はBr-とI-の間で同じであり、Mn4Caクラスターの両側に1個ずつ存在し、Mn原子との距離がそれぞれ約7 Å、また、Ca原子との距離がそれぞれ約10 Åであることが分かった。I-置換PSIIにおける酸素発生活性の失活及びBr-またはCl-の添加による活性の回復から、この2つの部位がCl-の結合部位であることが推定され、その配位構造から酸素発生反応におけるCl-の機能に関する新しい知見を得た。
  • 奥村 彰規, 鈴木 克則, 小甲 裕一, 鈴木 健裕, 堂前 直, 中里 勝芳, 榎並 勲
    p. 0326
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物のPsbPは結晶構造解析がなされているが、光化学系II複合体(PSII)への結合部位の詳細に関しては不明である。以前、我々はPsbPの正・負電荷を消去する化学修飾法により、ホウレンソウPsbPがPSIIへ結合するためにはリジン残基の正電荷が重要であり、結合に関与している可能性がある6領域(Lys11-Lys14、Lys27-Lys38、Lys40、Lys90-Lys96、Lys143-Lys152、Lys166-Lys174)を見出した。今回は、これらの中で、どのリジン残基の正電荷が結合に直接関与しているかを決定するために、正電荷をもつリジン残基を電荷のないグリシン残基に置換したPsbPを作製し、PSII標品に対して再構成実験を行い、その結合能を調べた。その結果、Lys11-Lys14、Lys27-Lys38、Lys143-Lys152、Lys166-Lys174の4領域に存在するリジンをグリシンに置換したPsbPは、PSIIへの結合能が明らかに減少していた。これらの領域の中で高等植物間で完全に保存されている8つのリジン残基(Lys11、Lys13、Lys33、Lys38、Lys143、Lys166、Lys170、Lys174)を1つずつ置換したPsbPを作製し、それらの結合能を調べつつある。こうして得られた結果をPsbPの結晶構造に当てはめて議論する予定である。
  • 長尾 遼, 奥村 彰規, 岩井 雅子, 鈴木 健裕, 菓子野 康浩, 榎並 勲
    p. 0327
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、中心目珪藻Chaetoceros gracilisから高い酸素発生活性を有するPSIIの単離に初めて成功した。この珪藻PSIIには反応中心(2 Pheophytin)あたり229分子ものChl.aが結合していた。また、Blue-Native PAGEにより得られた珪藻PSII coreにも反応中心あたり約80分子のChl.aが結合しており、他の植物種のPSIIに比べ、そのアンテナサイズがはるかに大きい特徴をもつ。さらに、このPSII coreには、約14分子のβ-carotineと珪藻のキサンチンサイクルに関与するdiadinoxanthinが約3分子結合していた。珪藻が、弱光下に適応するために、集光性色素であるFCPを増加するのみならず、PSII coreのアンテナサイズも大きく保持している可能性がある。そこで、本研究では、これらの色素がPSII coreを構成するどのペプチドに結合しているか明らかにする目的で、まずCP47, CP43, D1/D2 coreの分離を試みた。珪藻PSIIをHTGで可溶化した後、DEAEトヨパールに吸着させ、各種NaClとHTGを含むbufferで循環することにより、CP47, CP43, D1/D2 coreを部分的に精製することができた。それらのペプチドに結合した色素組成について報告する予定である。
  • 佐藤 修正, 中村 保一, 金子 貴一, 浅水 恵理香, 加藤 友彦, 田畑 哲之
    p. 0328
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物に特有の形質を分子レベルで解明するためのモデル植物としてミヤコグサ(Lotus japonicus)が注目を集めている。我々は、共生系のメカニズムやマメ科植物の多様性・有用性を解明するための基盤整備を目的として、ミヤコグサゲノム解析プロジェクトを進めている。
    これまでに、2000を超えるゲノムクローンを解析することにより187Mbpのnon-redundantなゲノム配列情報が得られており、併用しているwhole genome shotgun 法で得られた情報と合わせて、ミヤコグサESTの9割をカバーするゲノム配列情報が蓄積されている。これらの配列情報を基に遺伝子予測を行った結果、部分予測を含め31000の遺伝子領域が予測された。これらの予測遺伝子情報を基にしてミヤコグサゲノムの遺伝子構成について検討した結果、ARFファミリーなどの転写因子や、微生物との相互作用に関わる受容体キナーゼファミリーなどで遺伝子数の顕著な増加が認められた。また、他のマメ科植物のゲノム、EST情報との比較により、ミヤコグサで認められた傾向の多くはマメ科植物に共通のものであることが示唆された。
    本報告では、ミヤコグサのゲノム構造、遺伝子構成の特徴を紹介するとともに、蓄積されたゲノム配列情報と位置情報を利用して行っているマメ科植物間の比較ゲノム解析の状況についても紹介する。
  • 浅水 恵理香, 福岡 浩之, 小野 章子, 渡邊 安希子, 笹本 茂美, 和田 津由子, 金子 貴一, 田畑 哲之
    p. 0329
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    2004年に発足したInternational SOL Project では、トマトをナス科のモデルと位置付け、そのゲノム解読プロジェクトを開始した。全ゲノム950 Mb のうち25%程度と予測されているユークロマチン領域の全解読を目標に、配列解読を進めている。かずさDNA研究所は8番染色体を担当しており、一部を野菜茶業研究所が分担している。配列解読は、BAC-by-BACの手法で進めている。2007年11月現在91 BACの解読を完了しており、9.25 Mbの非重複長が得られている。これは、8番染色体ユークロマチン領域の約50%をカバーする長さである。このBAC-by-BACに加えて、全ゲノムを対象としたショットガンシークエンスの蓄積を、末端配列に高反復配列をもたないBACを混合して作製したライブラリーを材料に進めている。これまでに120万リード、総延長860 Mbを蓄積した。Tomato Gene Indexを用いた相同性検索により、58%のunigeneを含んでいることが分かった。トマトEST配列を用いて、DNAマーカーの大規模開発を進めている。これまでに500以上のマイクロサテライトマーカーを標準遺伝地図EXPEN2000上に位置づけた。マップベースクローニング、QTLマッピングなどへの展開を視野に入れ、トマト品種間で利用可能なマーカー開発を進めている。
  • 堤 祐司, 江藤 祐, 近藤 隆一郎
    p. 0330
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Populus trichocarpaゲノムデータベースから79個のペルオキシダーゼ(PO)遺伝子を同定し、それらのゲノム構造およびアミノ酸配列について考察した。POのゲノム構造を解析した結果、4エキソン、3イントロン構造の遺伝子が65%と多数を占めており、祖先型POのゲノム構造であることが予想された。またゼニゴケPOを含む系統樹解析により、PO44およびPO85がポプラの始原POであると予想した。重複遺伝子も存在し、進化の過程でのスーパーファミリーの形成の証拠であることが予想された。
    PO成熟タンパクのアミノ酸配列アライメント解析結果から、活性部位近くのアミノ酸置換ならびに基質結合部位のアミノ酸置換を受けたアイソザイムが見つかった。Pro-139がAlaに置換されたPO74のホモロジーモデリングを行った結果、PO74のヘムポケットは通常のPOより広くなっていることが示唆された。高分子基質を酸化可能なP. alba 由来のPOであるCWPO-Cはタンパク表面上に露出したTyr-74、Tyr-177が推定基質酸化部位と推測されている。CWPO-CとオルソログなP. trichocarpa PO13は両Tyr残基を持つ唯一のPOであった。オルガネラ局在能を有するプロペプチド配列を持つPOアイソザイムは他のアイソザイムとは異なる機能を保持することが予測された。
  • 持田 恵一, 吉田 拓弘, 櫻井 哲也, 荻原 保成, 篠崎 一雄
    p. 0331
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    膜輸送システムは細胞活動の維持に不可欠である。植物では、膜輸送システムは土壌からの効率的な必須元素の取り込みや、環境の変動に伴う種々のストレスに適応するためのイオン恒常性維持機構において重要なはたらきを担う。植物の膜輸送系についてのゲノムワイドな比較解析を行うために、植物ゲノムに典型的な59のトランスポーターファミリーをコードすると推定される遺伝子群を、シロイヌナズナ(TAIR)、イネ(RAP-DB)、ポプラ(JGI)の推定プロテオームセットと、それらに加えて16植物種のUniGene (NCBI)を用いて、隠れマルコフモデルを用いたプロファイル検索と相同性検索により同定した。同定したトランスポーター遺伝子について総当たりの相同性検索を行い、同祖遺伝子の推定を行うとともに、系統プロファイリングを行い、それぞれの植物種のトランスポーター遺伝子群のゲノム中の構成を特徴づけた。また、各植物種の推定アミノ酸配列について、膜貫通領域を予測するTMHMMおよびSOSUIを用いて、その膜貫通の回数と領域を予測した。植物ゲノム情報から推定されたトランスポーター遺伝子の情報は、膜貫通領域の予測結果、タンパク質ドメイン検索の結果とともに、データベースとして統合された。
  • Takanari Ichikawa, Youichi Kondou, Akie Ishikawa, Mika Kawashima, Yuka ...
    p. 0332
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    After screening of over c.a. 24,000 transgenic Arabidopsis plants randomly expressing the normalized rice full length cDNAs, 8 FOX mutants were isolated that mimic phenotype of over-expression of either iaaM or tms1 (bacterial IAA biosynthesis gene). When cDNAs isolated from these lines were re-transformed into Arabidopsis, transgenic plants showed the original auxin phenotype in T1 generation. These mutants were categorized into three different groups according to the auxin dose-curve response of main root. Among these 8 genes, annotations of two genes show obvious correlation with auxin synthesis (YUCCA homologue) and auxin signal transduction (IAA homologue), respectively. Function of these genes and other rice auxin gene candidates will also be discussed.
  • 横谷 尚起, 冨士本 奈加, 市川 尚斉, 近藤 陽一, 松井 南, 廣近 洋彦, 岩渕 雅樹, 小田 賢司
    p. 0333
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    FOX Hunting Systemは完全長cDNAを用いて多数の遺伝子の機能を解析する手法である.我々はこの手法を利用して,植物に有用形質をもたらすイネの遺伝子の探索を進めている.このため,約13,000種類のイネ完全長cDNAを高発現する形質転換シロイヌナズナ(イネFOXライン)を20,000以上作成した.本研究では,高塩ストレス耐性に関わるイネ遺伝子を明らかにするため,作成したイネFOXラインのT2種子を150mM NaClを含む培地上に播種した.その結果,発芽や生育が良好な耐塩性候補が208ライン得られた.これらのうち,gPCRによって181ラインに導入されているイネcDNAを同定した.さらに,これまでに17遺伝子についてシロイヌナズナに再導入を行い,12遺伝子で表現型の再現を確認した.これらの遺伝子の多くは高塩ストレス耐性との関連性が報告されていないものであった.このようなラインの一つとして単離されたラインR07047にはカルシウムを介した脂質結合に関わるC2ドメインタンパク質をコードする遺伝子が挿入されていた.また,このラインは高浸透圧ならびに乾燥ストレスに対しても耐性を示した.現在,このラインの詳細な解析を行っている.本研究は科学技術振興調整費の支援の下に行われた.
  • 神沼 英里, 吉積 毅, 栗山 朋子, 越 智子, 武藤 周, 豊田 哲郎, 松井 南
    p. 0334
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、シロイヌナズナ個体の3次元形状計測データに基づいて網羅的にin silicoで変異体表現型を解析する手法を開発している。これまでレーザレンジファインダやマイクロフォーカスX線CTを用いてシロイヌナズナの精密形状計測を行い、個体形状の3次元モデル化を行ってきた。しかしレーザやX線CTでは、遺伝子発現情報を形状と同時に計測する事が出来ない。デジタルwhole mount in situ hybridization(digital WISH)を試みるには、形状計測とは別に収集した遺伝子発現データから、発現と位置の各々の情報を抽出し、個体形状モデルとの位置を合わせて発現値をマッピングする必要がある。本研究では、まずデジタルWISH実現に向けた第一歩として、遺伝子発現情報と位置情報の定量抽出を目指す。具体的にはCCDカメラシステム(ARGUS-50)を使い、理研PSCで開発されたシロイヌナズナのLuciferase Tag(LucTag)ラインを用いて2次元発光発現の時系列画像データを収集した。LucTagラインの数は1000系統を超える為に、既知データを使って計測日の10日目付近で高発現を示す系統をランキングした。上位系統で試験撮影をした所、シュート頂分裂組織、本葉と子葉での発現量差や、根冠分裂組織や側根形成部といった位置での発光を、デジタル画像として収集する事が出来た。このデジタル画像を元に、発光発現量を定量的に抽出する方法について紹介する。
  • 朽名 夏麿, 桧垣 匠, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎
    p. 0335
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    細胞の構造解析は,分子機能と目に見える表現形質を橋渡す重要なアプローチである.近年,生体分子や細胞内構造の可視化などイメージング技術の開発や,画像データベースの構築が進んでいる.一方,得られた画像の解析は,観察と人手を要する計測に頼っているのが現状である.そこで私たちは客観的で効率的な画像解析法の開発を進めている.その端緒として植物細胞をターゲットとして,多くの顕微鏡画像から個々の細胞の構造を評価し,細胞集団中での分布を明らかにする方法を検討した.解析対象には,細胞骨格やオルガネラを可視化したタバコBY-2細胞の共焦点像を主に用いた.そして塩基配列や遺伝子発現の解析における重要な統計手法であるクラスタリングに着目し,画像解析への応用を試みた.しかしクラスタリングに必要なサンプル間の距離について,顕微鏡画像にはゲノム情報等と異なり適切な距離尺度(画像間の差異の定量法)が存在しないという問題があった.そこで観察条件やアノテーション情報などのメタデータを用いて適応的に画像間距離を算出する方法を探った.その結果,多様な可視化対象と撮像法について,画像解析システムを逐一開発せずに対応できるクラスタリングアルゴリズムを考案した.細胞周期の進行にともなう細胞内構造の推移など,定量が困難な形態変化について本法で解析を行なった結果とあわせて報告する.
  • 土井 考爾, 保坂 アエニ, 永田 俊文, 佐藤 浩二, 鈴木 宏史, Mauleon Ramil, Mendoza Michael Jon ...
    p. 0336
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    発現プロファイルの共通する(たとえばdrought stressによってup regulateするなど)遺伝子群のプロモーター領域に特徴的に出現するモチーフは、発現制御タンパク質の結合部位であるシス因子である可能性が高く、遺伝子発現機構の研究上注目に値する。しかし、それらを膨大な実験データの中から抽出することはしばしば困難な作業である。我々はイネ遺伝子を対象としてシス因子候補を簡易に抽出できるWebツールRiCESを開発・公開した(http://hpc.irri.cgiar.org/tool/nias/ces)。RiCESは、ユーザが定義した遺伝子群において保存的に見られるモチーフを枚挙し(モチーフ探索プログラムMEMEを利用)、着目した遺伝子群においてどの程度特徴的に分布しているのかを、アソシエーションルール解析という手法により評価できる。また、既知あるいは研究者自身の実験によって得られたシス因子候補モチーフやそれらの共存性についても同様に評価できる。得られたシス因子候補群はマッピング情報、遺伝子のGOアノテーション、パスウェイなどの関連情報とともに提示され、容易に妥当性を検討できる。これを利用しウェット・ドライ双方の視点から未知のシス因子候補の探索を進めている。特にストレス応答性などいくつかの条件から対象遺伝子群を抽出したケーススタディについて進捗状況を報告する。
  • 福島 敦史, 和田 眞昌, 金谷 重彦, 有田 正規
    p. 0337
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、2300枚を越える公的に利用可能なAffymetrix ATH1 GeneChipを整理し、特異値分解 (SVD) によるデータ次元圧縮を施すことが、個々の遺伝子間共発現関係の強調化に対応することを見出した。これは次元圧縮が、遺伝子機能の予測向上へ寄与することを示唆している。具体例として、次元圧縮の目安である特異値の上位40個によって再構成したデータ行列では、主要な概日時計関連遺伝子群やPMG1 (Myb28) といった転写因子遺伝子群の共発現関係がより強まっていた。また、選択した特異値と元のアレイデータセットとの対応付けを行い、これによってshoot, root, stamenといった組織特異的なデータセットの重要性も示された。
    遺伝子間共発現関係の推定は計算の元となるデータセットの質と多様性に大きく依存している。現存する共発現データベース群は、アレイプラットフォームの相違の存在や多様なデータセット、複数の推定手法 (ピアソン相関あるいは順位相関) を用いているために、相互に直接比較が行えず、その計算方法もまた厳密に評価されていない。したがって、我々の行った共発現計算の評価は、植物の生理現象を解明する上でトランスクリプトーム実験をする際の指針となり、機能ゲノミクスにおける他のオミックスデータを用いた相関関係計算においても有益な基準になると考えられる。
  • 尾崎 洋史, 園池 公毅
    p. 0338
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年、遺伝子の配列情報は急速に蓄積しているが、遺伝子機能の解明はその速度に追いついていない。このため、新たな遺伝子機能予測の方法が求められている。我々は、シアノバクテリア遺伝子破壊株の中から、強光下での光化学系量比調節に異常がある破壊株をクロロフィル蛍光強度の経時変化を用いて効率よく単離できることを報告している。このことは、クロロフィル蛍光が破壊された遺伝子の機能の指標となりうることを意味している。一方、様々な薬剤をシアノバクテリアに与えると、薬剤ごとに特徴的なクロロフィル蛍光の挙動変化が見られ、その変化の大きさは薬剤の濃度に依存した。つまり、阻害された機能の種類がクロロフィル蛍光の挙動変化のパターンに反映され、阻害の大きさが蛍光挙動変化の大きさを反映すると考えられる。従って、変化の大きさを長さに、変化のパターンを方向にとった表現型ベクトルとしてクロロフィル蛍光を扱えば、遺伝子破壊株においては欠損した機能の種類がベクトルの方向に、表現型の強さがベクトルの長さに対応するのではないかと予測した。そこで、約500の遺伝子変異株においてこの表現型ベクトルを比較すると、強光下で光化学系量比に異常のある破壊株のベクトルの向きがある一定の方向に集まることが分かった。クロロフィル蛍光に対する遺伝子破壊の影響を阻害剤の影響と比較した結果についても合わせて報告したい。
  • 佐々木 直文, 豊島 正和, 藤原 誠, 佐藤 直樹
    p. 0339
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    異なるゲノム間の遺伝子の隣接関係は、ゲノム再編成等によるゲノム進化の指標であるが、異なるゲノム間で遺伝子のオルソログ関係を同定する必要があるため、進化的に離れた種間の比較には適さなかった。この問題を回避するため我々はGclustサーバー ( http://gclust.c.u-tokyo.ac.jp ) によって推定されたゲノムセット間で保存された相同的遺伝子のカタログの内、シアノバクテリアに関するデータセットを用い、それらのゲノム上での遺伝子の距離関係について解析した。16種のシアノバクテリアに関する解析の結果、これらの生物種では保存された遺伝子の近接関係がモザイク状に保存されていることを、前回報告した。本発表では、ゲノム数をシアノバクテリア25種に拡張したデータセットを用い解析を行った結果を報告する。
  • 浜口 綾, 小泉 宣哉, 内藤 隆人, 木羽 隆敏, 山篠 貴史, 水野 猛
    p. 0340
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナには、転写因子をコードする遺伝子が1600近く存在すると推定されている。しかし、それらの生理学的機能は充分に理解されていない。
    本研究において、我々はMYB-型転写因子をコードする小さな遺伝子ファミリーのメンバーをRSM1からRSM4 (RADIALIS-LIKE SANT-MYB 1-4) と名付け、その遺伝学的機能解析を行った。RSM遺伝子群はキンギョソウのRADIALISに高い相同性を示す。RADIALISは花弁の非対称性を決定する遺伝学的経路において機能する興味深い転写因子をコードしている。
    本研究では主にRSM1遺伝子について解析したところ、シロイヌナズナの花弁形態形成には直接関与していないことが明らかになった。しかし、この遺伝子がHLS1と密接な関係を持ちながら、芽生え初期形態形成制御に関与していることを示す結果が得られたので報告する。RSM1過剰発現体(RSM1-ox)は、黄色芽生えにおいて、hls1に類似した表現型(フックの欠如・短胚軸・重力屈性の異常)を示した。また、RSM1-oxとhls1-1は初期形態形成において共に赤色光に高感受性であり、野生株より短胚軸であることも分かった。RSM1-ox黄色芽生えにおけるDR5::GUS発現解析の結果を交えながら、RSM1が初期形態形成を制御するHIS1-依存性オーキシン情報伝達経路で機能している可能性に関して考察する。
  • 石田 快, 横山 明弘, 山篠 貴史, 水野 猛
    p. 0341
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    サイトカイニン(CK)は、細胞分裂、分化、シュートの形成など、植物の成長・分化の様々な場面に関わる重要な植物ホルモンである。シロイヌナズナにおけるCK情報伝達初発分子機構は、AHK(CK受容体)→ AHP → Type-B ARR(転写因子)からなるリン酸リレー系により制御されている。シロイヌナズナにはType-B ARRが11種存在し、そのうち7種がCK情報伝達に深く関与していることが知られている。しかし、それらの機能重複や機能分担に関しては不明な点が多い。今回我々は、これら7種類のType-B ARRに関してそれぞれT-DNA挿入変異体を確立した。次いで、多重欠損変異体を作製してCK情報伝達におけるType-B ARRの機能に関する遺伝学的な解析を行った。
    その結果、arr1-4 arr10-5 arr12-1三重欠損変異体は生育全般にわたり重篤な表現型を示すことが明らかになった。根の伸長阻害、カルスからのシュート分化、CK応答性遺伝子発現等においてCK非感受性を示した。また、種子の肥大、主根形成不全と不定根の形成、根の維管束分化の異常、茎頂・根端分裂組織領域の減少が観察された。これらの表現型はCK受容体(AHK)三重欠損変異体(ahk2/3/4)に極めて類似していた。以上の結果より、7種類のType-B ARRの中で、ARR1、ARR10、ARR12がCK初期情報伝達経路において必須の役割を担っていることが示唆された。
  • 笠原 博幸, 菅原 聡子, 軸丸 祐介, 菱山 正二郎, 西村 岳志, 小柴 共一, 神谷 勇治
    p. 0342
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    現在、推定されている植物のオーキシン(IAA)生合成経路において、トリプタミンからN-ヒドロキシトリプタミンを生成するYucca経路が注目されている。この他のYucca経路中間体としてはインドールアセトアルドキシム(IAOX)が推測されているが直接的な証拠はない。一方、シロイヌナズナはTRPから合成するIAOXを分岐点として、生体防御物質のインドールグルコシノレート(IG)を合成する。このIAOX合成酵素はシトクロームP450モノオキシゲナーゼ(Cyp79B2、Cyp79B3)であり、これらの酵素遺伝子を欠損した二重変異体cyp79b2cyp79b3はIGを合成できず、また高温条件下でIAA 内生量が減少することが既に示されている。本研究ではIAA生合成経路の全容解明を目的としてIAOXのLC-TOF-MS/MS分析法を確立し、IAOXがIG生合成経路以外の推定IAA生合成経路に含まれる可能性について検討した。その結果、シロイヌナズナの野生型で検出されたIAOXが二重変異体cyp79b2cyp79b3では検出されなかった。また、シロイヌナズナ以外の植物からもIAOXは検出されなかった。これらの結果、IAOXはアブラナ科植物に特異的なIG生合成中間体であり、Yucca経路や他のIAA生合成経路には存在しない可能性が高いことが示された。
  • 永島 明知, 山口 由紀子, 古川 聡子, 小柴 共一, 黒羽 剛, 岡田 清孝, 酒井 達也
    p. 0343
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    胚軸の光屈性に働く偏差成長は、青色光受容体であるフォトトロピンに強く依存している。一方、赤色光受容体フィトクロムによる光屈性の調節機構の存在も示唆されている。我々はこの調節機構を明らかにするために、赤色光下で明確な胚軸屈曲を示す変異株 flabby を単離した。その原因遺伝子はABCトランスポーターファミリーに属するPGP19であり、オーキシン輸送に関わることが知られている。そこで、赤色光がオーキシンの極性輸送と分布に与える影響を観察した。その結果、(1)赤色光照射は黄化芽生え胚軸の求基的な極性輸送に対し抑制的に働き、これがフィトクロムとPGP19に依存することと、(2)赤色光照射とPGP19の欠損は偏差成長に必要とされる横方向のオーキシン勾配形成を促進することが明らかとなった。またPGP19について発現解析を行ったところ、(3)胚軸中のPGP19タンパク質量はフィトクロムによって負の制御を受けることが明らかとなった。これらのことより、赤色光により活性化されたフィトクロムはオーキシンの輸送制御を介して胚軸の偏差成長を調節しており、PGP19がこれに対し抑制的に機能すること、そしてフィトクロムはPGP19のタンパク質量を減少させることで偏差成長を促進することが示唆された。これに加えて、青色光およびオーキシン輸送・応答関連因子が上記の偏差成長に与える影響についても報告する。
  • 山口 由紀子, 永島 明知, 酒井 達也
    p. 0344
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    オーキシン輸送阻害剤を使用した研究は、オーキシンの極性輸送の機能と役割を明らかにする上で重要である。N-1-ナフチルフタラミン酸(NPA)はオーキシン極性輸送の阻害剤であり、その作用はシロイヌナズナの胚軸において伸長および偏差成長の抑制を引き起こすことが知られている。しかしながら、これらの成長阻害に関わる分子メカニズムの実体は不明である。
    最近、我々はオーキシンの輸送に関わるPGP19が、光に応答した偏差成長に重要な役割を果たしていることを明らかにした。そこで偏差成長に関わるPGP19の分子機能を解明するために、pgp19欠損株胚軸の成長に対するNPAの効果を調べた。その結果、NPAによってpgp19の胚軸伸長は野生株と同様に阻害されるものの、偏差成長においてpgp19はNPAに非感受性であり、正常な光屈性と重力屈性を示すことが明らかになった。さらに、オーキシンレポーター遺伝子DR5:GUSを用いて野生株およびpgp19胚軸のオーキシン分布を観察した。その結果、NPAはオーキシンの偏差的な分布を、PGP19を介して抑制していることが示唆された。これらの結果は、偏差成長を抑制するためのNPAの標的が、PGP19を含むオーキシンの横方向の分配機構であることを示唆している。これに加えて、オーキシンの横方向の分配に関わるもう一つの因子PIN3とPGP19の二重変異体の表現系解析についても報告する。
  • 綿引 雅昭, 山本 興太朗
    p. 0345
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    IAA19は胚軸屈性や側根形成などにかかわるオーキシン応答性遺伝子である(Tatematsu et al., 2004)。IAA19の組織特異性を調べるため、約3kbpのプロモーター領域と蛍光タンパク質、又はβ‐グルクロニダーゼ(GUS)レポーターの融合遺伝子を作成し、形質転換シロイヌナズナを解析した。その結果、発芽後5日目の芽生えの根では、根端部の原生木部、後生木部、根冠及び根冠側部で発現する事がわかった。また、根の中心柱では所々強く発現する部位があり、その一部では側根形成が認められた。このような散発的な発現変化を明らかにするには1個体の計時観察を行う必要がある。そこでより非侵襲的な観察が可能であるルシフェラーゼ(Luc)をレポーター遺伝子として用い、pIAA19:Lucの発現変化を時間的空間的に解析した。その結果、pIAA19:Lucは側根形成の初期段階で発現していることが明らかになった。また、根端を垂直状態から水平状態に置いた場合、根冠側部での発現は中心柱に対して下側に強く、上側は弱くなることがわかった。この発現変化はすでに報告されているDR5:GFPの発現変化と類似しており(Paciorek et al., 2005)、重力刺激によるオーキシンの極性輸送変化を反映していると考えられる。その後垂直状態に転じた根端で対称的な発現に転じる様子も確認できた。細胞内で比較的半減期の短いルシフェラーゼレポーターを用いることで、より広範なオーキシン応答を可視化できることを報告する。
  • 岡本 崇, Rahman Abidur, 大野 豊, 鶴見 誠二
    p. 0346
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々は植物の根の先端に物理的刺激が恒常的に与えられるシンプルな実験系―透析膜でカバーした寒天培地上に播種し、水平に置いて生育するーを開発し、根が寒天に潜り損なう過程で得られる恒常的な物理的刺激が、Arabidopsis thalianaの根の形態形成にどのような影響を与えているかを研究している。 これまでに1.Arabidopsisの根の伸長は、恒常的な物理的刺激を受けている場合に根の成長はコントロールに比べおよそ半分となっていることと、2.恒常的な物理的刺激の下ではエチレン産生向上を伴うことなくエチレン応答が増幅していることを明らかにした。 今回、恒常的な物理的刺激が根の伸長阻害にどのように影響しているのかを調べる目的で、種々のホルモンに対する応答を特にエチレン応答と非常に関連の深いオーキシン応答とのクロストークに焦点を絞り、 DR5::GUS IAA2::GUS染色及びオーキシン関連遺伝子のリアルタイムPCRによって、エチレンとオーキシンの役割を報告する。
  • 小西 美稲子, 柳澤 修一
    p. 0347
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    EIN3はシロイヌナズナのエチレン信号伝達の鍵転写因子である。エチレンシグナルは26SプロテアソームによるEIN3の分解を抑制し、EIN3の蓄積を促す。EIN3の分解に関わるとされているのがSCFEBF1/2複合体であり、この複合体中のEIN3を特異的に認識するF-boxタンパク質としてEBF1とEBF2が同定されている。EBF1とEBF2は高い相同性を持つ。本発表では、EIN3がEBF2の発現を促進することにより引き起こされるエチレン信号伝達系のフィードバック制御機構について報告する。EBF1とEBF2はEIN3による転写を同程度に抑制することを碓認し、一方で、EBF2プロモーターのみがエチレンによって活性化されることを見いだした。そこで、プロトプラストを用いた一過的発現系とゲルシフト法による解析を行ない、EIN3はEBF2プロモーターに直接結合し、活性化していることを明らかにした。さらに、ebf2変異体において、EIN3結合部位を破壊したEBF2プロモーター下でEBF2を発現させた場合には、野生型EBF2プロモーターでEBF2を発現させた場合とは異なり、ebf2変異体と同様のエチレン高感受性を示すことが分かった。以上の結果から、EIN3とEBF2によるフィードバック制御機構がエチレン応答の調節に重要であることが示された。
  • 浦上 恵理子, 山口 五十麿, 浅見 忠男, 鈴木 義人
    p. 0348
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    抗体を植物体内に導入しin vivoで標的物質の機能を抑制することにより個体に新たな機能を持たせる手法をイムノモジュレーション(IM)という。私たちはこれまでに,シロイヌナズナとタバコにおいて抗活性型ジベレリン(GA)抗体を発現させるIMにより,矮化などGA作用が低下した植物体の作出に成功している。またGA生合成前駆体であるGA24に対する抗体を用いたIMにおいても矮性タバコが作出されたが,シロイヌナズナにおいてはGA24抗体が蓄積せず抗体の効果が認められなかった。今回,GA24抗体をGFPとの融合タンパク質として発現させることによって抗体の安定な生産が可能になり,その結果GA欠損と考えられる形質を示す植物体を得ることに成功した。これらの植物体では,抽苔期の遅延に伴うロゼット葉の増加に加え,主茎の生長が早期に終了し,その一方で側枝は正常に伸長するなど,抽苔期に特徴的な表現型が現れた。この形質は抗活性型GA抗体を用いた場合に植物体が全体的に小さくなる形質とは明らかな差異があった。抗GA4抗体は活性型GAの活性発現を抑制するのに対し,抗GA24抗体は前駆体から活性型ジベレリンへの変換を抑制するという違いがある。両抗体による形質の差異は,抗体の生産およびGA生合成の調節様式を反映したものと考えられ,そのメカニズムの解明には両者の時間的,空間的な詳細な解析が必要である。
  • 安益 公一郎, 上口(田中) 美弥子, 辻 寛之, 近藤 真紀, 西村 幹夫, 芦苅 基行, 松岡 信
    p. 0349
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    GAMYBは大麦のアリューロンにおいて加水分解酵素遺伝子群のジベレリン(GA)依存的な発現を誘導する転写因子として同定された。また、最近我々は、イネのgamyb変異体の解析から、GAMYBが葯においてもGA信号伝達に必須であることを見いだした。本研究は、GAMYBのGA信号伝達における機能解明を目的としている。
    まずgamyb変異体とGA関連変異体の葯の形態を観察した。その結果、いずれの変異体でも、葯壁最内層のタペータムと花粉壁のエキシンに共通の異常が見られた。葯での遺伝子発現変化をマイクロアレイにより比較した結果、GAMYBが葯においても GA応答遺伝子群の発現を制御していることが明らかになった。またGA関連変異体で発現が減少した遺伝子の多くは、その5’上流域にGAMYB結合様配列を有していた。そこで、エキシン形成に関与する2つの脂肪酸代謝関連遺伝子に注目し、これら遺伝子の発現がGAMYBにより直接制御されていることを、GAMYB結合様配列とGAMYBがin vitroで結合すること、さらにプロモーター:GUS形質転換体を用いたシス配列の解析から、GAMYB結合配列が植物体内でシス配列として機能することにより確認した。また、標的遺伝子の機能欠損型変異体もエキシン異常を示したことから、GAはGAMYBを介して脂肪酸代謝関連遺伝子の発現を制御しエキシン形成を誘導すると考えられる。
  • 安益 公一郎, 上口(田中) 美弥子, Chhun Tory, 浅野 賢治, 山本 英司, 渡辺 正夫, 北野 英巳, 芦苅 基行, 松岡 ...
    p. 0350
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ジベレリン(GA)は、茎葉伸長・種子発芽・花粉形成などに関わる植物ホルモンである。我々は、これまでイネを研究材料として、多くのGA欠損変異体やGA非感受性変異体を単離し、これらの遺伝解析を行って来た。この遺伝解析の過程で、奇妙な遺伝現象、すなわち、GA非感受性変異体の遺伝はメンデルの法則に適合する一方、GA欠損変異体の遺伝浸透性は極めて低く、メンデルの法則に適合しないことを見出した。この原因を明らかにするため、半稔性を示す新たなGA欠損、非感受性変異体の2系統を単離し、花粉形成と花粉管伸長について調べた。その結果、GA欠損変異体であるrpe1 (reduced pollen elongation1)の半稔性の原因は花粉管伸長の異常がその主たる要因である一方、非感受性変異体Slr1-d3は成熟花粉の形成異常が要因であることが解った。さらに各発達段階の野生型の葯を用いてGA生合成遺伝子とシグナル伝達因子の遺伝子について発現解析を行った。その結果、生合成遺伝子は花粉母細胞の減数分裂期以降に強く発現が見られたが、減数分裂期より早い時期では、その発現は殆ど検出できなかった。逆にシグナル伝達因子遺伝子は、減数分裂前の発達ステージで強く発現していた。以上の結果をもとに、GA欠損変異体と非感受性変異体間の遺伝様式の違いをもたらす要因について考察する。
feedback
Top