老年社会科学
Online ISSN : 2435-1717
Print ISSN : 0388-2446
42 巻, 3 号
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原著論文
  • 高杉 友, 近藤 克則
    2020 年 42 巻 3 号 p. 173-187
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー

     日本の高齢者を対象にした認知症関連リスク要因を検証した研究をシステマティックレビューし,研究の到達点と今後の課題を提示することを目的とした.医学中央雑誌及びPubMed文献データベース検索とハンドサーチにより,2007年以降に発表された34編の論文が抽出された.全体の8割が縦断研究であった.残存歯数,日本食,歩行時間等の生物学要因にとどまらず,うつなし等の心理要因,社会参加,ソーシャルサポート等の社会的要因と認知症リスクとの関連が示唆された.海外での研究に比した独自性は社会的な結びつきに関連する研究が豊富なこと,認知症リスク評価スコア研究や災害地域における研究などと思われた.

     今後は個人レベルの要因にとどまらず,認知症対策の新たな戦略・社会政策を検討するためのエビデンスとして,より広い地域や社会,異なる時代の社会・環境要因を明らかにしていく社会科学的研究が必要と考えられた.

  • ―― 仕事の要求度−資源(JD-R)モデルによる検討 ――
    畦地 良平, 北村 世都, 内藤 佳津雄
    2020 年 42 巻 3 号 p. 188-199
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,仕事の要求度-資源(JD-R)モデルに準えつつ,仕事の量的・質的負荷とバーンアウト,ワークエンゲイジメントの関係について調べた.5種の介護サービス181事業所から計1,129人の介護職員のデータが集められた.共分散構造分析の結果,JD-Rモデルに修正を加えたモデルが適合した.具体的には,量的負荷が情緒的消耗感を媒介として脱人格化に影響していた.質的負荷は個人的達成感に直接影響し,かつワークエンゲイジメントが両変数を媒介していた.そして,ワークエンゲイジメントは脱人格化を減じる可能性が示唆された.これらの変数間の影響に関しては,通所・訪問介護群,短期入所・小規模多機能群でも同様に確認された.適切な仕事量と裁量権,明確な役割を与えることで,情緒的消耗感を軽減し,かつワークエンゲイジメントを高めることが重要であるものと考えられる.

  • ―― 後悔を引き起こす要因と後悔に影響する選択の仕方 ――
    塩﨑 麻里子, 佐藤 望, 増本 康平
    2020 年 42 巻 3 号 p. 200-208
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,認知症高齢者の家族の代理意思決定に焦点を当て,①家族の後悔を引き起こす要因と②後悔に影響する選択の仕方を質的調査の結果から,明らかにすることであった.家族介護者11人を対象に,半構造化面接を実施した.質的内容分析によって,後悔を引き起こす要因は,3テーマ(知識の欠如・家族の心理的要因・他家族への影響)の10カテゴリーに分類された.また,後悔に影響する選択の仕方は,9カテゴリーに分類された.得られた結果と後悔に関する研究知見を踏まえて,後悔が生じにくい選択の仕方について考察した.結論として,認知症高齢者家族の代理意思決定において,決めることから逃げない,選択肢をトレードオフで比較しない,正解を選択しようとしない,の3点が重要であることが示唆された.

  • ―― 65〜66歳会員の3時点10年間の変化 ――
    石橋 智昭, 森下 久美, 中村 桃美
    2020 年 42 巻 3 号 p. 209-216
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー

     シルバー人材センター会員の就業実態は,これまで横断研究に限られ,加齢に伴う就業状況の変化は解明されていない.本研究では,全国から64か所のシルバー人材センターを選定し,2006年時点に65〜66歳であった会員1,710人(男性1,094人,女性616人)を対象に2011年(5年後)と2016年(10年後)の就業状況を把握して,その変化を記述分析した.就業状況は,配分金額と仕事の内容の2変数を用い,年次間の変動を統計学的に検定した.

     分析の結果,男女ともに配分金収入が加齢とともに減少する傾向が認められ,とくに75歳以降に顕著に縮小することが確認された.仕事の内容は,複数の職種で75歳以降に離職する会員が増えるものの,全体的には後期高齢期に差し掛かっても同一の仕事を継続している実態が明らかとなった.会員の就業可能な期間の延伸に向け,心身の変化に応じて仕事をスムーズに転換する体制の構築が課題である.

資料論文
  • 田渕 恵, 小島 康生
    2020 年 42 巻 3 号 p. 217-225
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,認知症高齢者と生後12か月未満の乳児との交流場面において,「乳児と視線が合うこと」が認知症高齢者の行動に与える影響を明らかにすることであった.グループホームに入居中の高齢者5人(全員女性;年齢は83〜97歳)を対象とし,5人の乳児(男児3人,女児2人;3〜9か月)とのその親を研究協力者とした.高齢者5人が着座している場所に母親が乳児を抱いて近づき,1組ずつ高齢者と乳児が対面する場面(高齢者5人×乳児5人=25場面)を記録した.高齢者の4種類の行動(笑顔,発話,手を伸ばして触れる,なでる・あやす)の生起時間を,乳児と視線が合っている場合(視線あり)と合っていない場合(視線なし)に分けて測定し,視線の有無によって各行動の生起時間比率が異なるかを検討した.その結果,すべての行動において,乳児と視線が合っている場合のほうが合っていない場合よりも有意に行動が生起していた.2者間で互いに積極的な相互作用や言語的反応がなくても,乳児とただ「視線が合う」だけで,認知機能低下が認められる高齢者において自発的なコミュニケーション行動がより生起することがわかった.

  • 吉田 直美, 松本 真希
    2020 年 42 巻 3 号 p. 226-235
    発行日: 2020/10/20
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,老年期に血液透析導入となった高齢者が導入後も継続できている生活行動を明らかにすることを目的とした.A市で通院透析を受ける65歳以上で血液透析を導入した50人を分析対象とし,生活行動ごとに継続できている人数の割合を算出した.

     老年期に血液透析を導入した高齢者が導入後も継続して行っていた生活行動は「テレビをみる」「新聞を読む」「音楽を聞く」「子どもや親せきと電話をする」「歌を聞く」「食堂やレストランで食事をする」「携帯電話やパソコンを使う」であり,75歳以上で導入した高齢者では「自動車やバイクに乗って運転をする」「国内旅行に行く」の生活行動は導入後に中断されることが多かった.

     「テレビをみる」「新聞を読む」「子どもや親せきと電話をする」「携帯電話やパソコンを使う」の生活行動は導入後も行いやすいことが考えられた.

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