老年社会科学
Online ISSN : 2435-1717
Print ISSN : 0388-2446
43 巻, 1 号
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原著論文
  • 崔 煌, 権藤 恭之, 増井 幸恵, 中川 威, 安元 佐織, 小野口 航, 池邉 一典, 神出 計, 樺山 舞, 石崎 達郎
    2021 年 43 巻 1 号 p. 5-14
    発行日: 2021/04/20
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は高齢者の社会参加と主観的幸福感の関連において,ソーシャル・キャピタルがどのような役割を果たしているのかを明らかにすることである.地域在住高齢者のデータ(74〜78歳,N=624)を分析した結果,社会参加と主観的幸福感の関連は認められないが,4種類の社会参加のなか,地縁組織への参加は主観的幸福感と統計的に有意な関連があること,また,ソーシャル・キャピタルへの認識と近所の人の数を介した間接効果があることが確認された.この結果から,社会参加の種類によって主観的幸福感との関連が異なり,地縁組織への参加はソーシャル・キャピタルを介して主観的幸福感に影響を与えることが明らかになった.

  • ―― 死に対する準備性と看取りケア効力感に着目して ――
    久保田 彩, 佐藤 眞一
    2021 年 43 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2021/04/20
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究は,高齢者施設の介護職員の,利用者の死に対する悲嘆の程度を検討することと,回顧的にたずねた死に対する準備性と看取りケア効力感,およびその交互作用と悲嘆との関連を検討することを目的とした.オンライン調査で看取り経験のある介護職員399人から有効回答を得た.介護職員は,いちばん最近経験した利用者の死に対して一定の悲嘆を感じていることが示された.また,悲嘆に対する階層的重回帰分析の結果,死に対する準備性の有意な負の効果,看取りケア効力感の有意傾向の正の効果,および,死に対する準備性と看取りケア効力感の有意な交互作用が確認された.単純傾斜の検定の結果,看取りケア効力感の高さは悲嘆の強さと関連するが,死に対する準備性の高さがその関連を緩衝することが示唆された.看取りケア効力感は看取りケアの実施に必要なものであるため,介護職員の悲嘆による問題を予防するうえでは,死に対する準備性を高めることの有用性が示唆された.

  • 村山 陽, 山崎 幸子, 長谷部 雅美, 高橋 知也, 小林 江里香
    2021 年 43 巻 1 号 p. 26-35
    発行日: 2021/04/20
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     単身男性中高年者の将来展望を抑制する心理的要因を明らかにすることを目的とした.インターネット調査会社に登録している50〜79歳までのモニター1,200人を対象者とし,オンライン・アンケート調査を実施した.因子分析の結果,将来展望の意識には「将来諦め・放棄」と「将来不安」の2因子が抽出された.「将来諦め・放棄」と「将来不安」を従属変数,年代,世帯状況および性別を独立変数とし,健康感,主観的経済状態,仕事の有無を共変量とする3要因共分散分析を行った.その結果,年代にかかわらず単身男性中高年者は,将来諦め・放棄が有意に高いことが示された.一方で,60代において単身男性中高年者の将来不安は,単身女性中高年者より有意に低いことが認められた.こうした結果から,単身男性中高年者は中年後期から高齢期に至るまで将来に対する展望を諦める意識が強く,そのことにより将来の生活に向けた準備が抑制される可能性が示唆された.

  • ―― 仕事特性および主観的ウェルビーイングとの関連 ――
    小林 江里香, 原田 謙, 斎藤 民
    2021 年 43 巻 1 号 p. 36-48
    発行日: 2021/04/20
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     高齢者就労の促進に伴い,仕事と地域活動の両立は中高年者自身にとっても活動の担い手が不足する地域にとっても課題となっている.本研究は,東京都内の無作為抽出された55〜84歳対象の郵送調査における就労者(n=399)を分析対象とし,地域活動参加と①仕事特性,および②主観的ウェルビーイング(SWB)との関係,その男女差について検討した.地域貢献型,趣味・学習型の2種類の地域活動への参加についてのロジスティック回帰分析の結果,両活動ともフルタイムより短時間就労者のほうが参加していたが,通勤時間の短い人や仕事の裁量度が高い人ほど参加する傾向は地域貢献型活動のみでみられ,通勤時間との関連は男性より女性で強かった.また,SWBについての重回帰分析では,活動の種類やSWBの指標(人生満足度,幸福感)による違いはあるが,就労者においても地域活動に参加する人ほどSWBが高い傾向が示された.

実践・事例報告
  • 渡邉 篤尚
    2021 年 43 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2021/04/20
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,援助ができる関係の構築が困難な認知症高齢者とその支援者に対して,ソーシャルワーカー(SW)が対人援助論に基づき実施した援助によって,援助ができる関係が成立した2事例への援助内容と成果について記述的に明らかにすることである.対象者は,援助関係の構築が困難な認知症高齢者とその支援者の2事例である.方法はSWが援助を実施し,参与観察法を用いてデータを収集し記述現象学の手法を用いて分析した.かかわりを拒否され支援できずスピリチュアルペインに苦しむ支援者にSWが傾聴を行った.そして傾聴を通して得られた支援者の気がかりを手がかりに,認知症高齢者本人にも傾聴を行った結果,気がかりを聴いてもらえた認知症高齢者本人と気がかりを気遣うSWの間に援助ができる関係が成立した.またSWと支援者にもサポートができる関係が成立した.援助関係の構築が困難な認知症高齢者の援助には,傾聴が有効であることが示唆された.

資料論文
  • 相原 洋子, 石原 逸子
    2021 年 43 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2021/04/20
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

     65歳以上の在留外国人数が多い兵庫県と大阪府の地域包括支援センターの職員を対象に,外国人対応経験と専門通訳者利用の意識について把握することを目的に質問紙調査を行った.外国人対応経験,通訳利用意識の実態と職種別の差異の有無を統計分析した.また通訳利用意識の理由に関して,利用につながる要因と妨げる要因を探索的に検討した.回答者453人のうち約5割が外国人対応の経験を有し,通訳の利用について8割の回答者が「毎回/時々利用する」と回答した.社会福祉士に通訳利用意識が高かったが,職種別の利用意識に統計学的有意な差異はなかった.自由記述結果より,〈対象者を理解する〉〈円滑なコミュニケーションを図る〉ことが通訳者利用につながり,逆に〈費用負担や調整時間の懸念〉が利用を妨げる可能性が示唆された.高齢在留外国人のケアの質を保障するうえで,今後通訳制度に関する検討が必要である.

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