中国では1949年に、国民に対する民族識別作業が行われ、56の民族が公認された。漢族を除く55の民族は人口数が少ないため、「少数民族」と称されている。
中国の2000年第5回人口センサスによると、少数民族の人口は10,449.07万人で、全国人口総数の8.41%を占める。しかし、少数民族の自治区域の面積は611.73万km
2にも及び、国土面積の63.72%も占め。さらに、その居住は各々に長い歴史をもって、地域の特性に応じた民族固有の生活様式を定着させており、地域と民族の関係は深い。
少数民族の地域分布をみると、少数民族の割合はチベット(94.1%)、新疆(59.4%)、広西(38.3%)、寧夏(34.5%)などの自治区と、青海(45.5%)、貴州(37.9%)、雲南(33.4%)の順となるものの、少数民族の数を見れば、雲南省には、22の少数民族もあり、ある程度の人口で一定の集落を構成して居住している。うち、ハニ、タイ、リス、ラフ、ワ、ナシ、チンポー、ブーラン、アチャン、プミ、ヌー、ジノー、ドアン、トールンなど14の少数民族は95%以上の人口が雲南省に居住している。雲南省だけに居住する民族もあれば、ミャンマー、ベトナム、ラオス、タイなど国境を跨って広くメコン川流域に散在する民族もある(杜、2008)。多民族が混在しているのが、雲南省の少数民族分布の最大な特徴となる。省レベルのみならず、州または県レベルでも同様な混在傾向が著しい。
多民族の混在性は、特にその地域の自然の複雑差によるものであると考えられる。雲南は横断山脈の存在によって、中国で最も複雑かつ多様性に富む地域であると言われる。南北に連なる横断山脈が東西の交通を切断したため、民族のコミュニケーションと文化的交流も切断された。したがって、横断山脈およびその周辺地域では多数の独特な少数民族文化が形成され、多種多様な民族文化に溢れる(杜、2006)。現在、雲南省には8の民族自治州と29の民族自治県が行政区画に制定されている(雲南省統計局、2007)。
このような、自然条件かつ民族文化が多様性に富む地域は、中国の後進地域とも言われ、政府または民間の開発によって変化が激しく現れてきた。本研究は、中国で公表されている最小スケールの県別統計データを利用し、1997年と2002年、2007年を対象年と選定し、主成分分析の結果により、雲南省の社会経済的な地域変化を明らかにすることを試みる。
県レベルの行政区画では、1997年に16市と4区、108県(計128単位)、2002年に10市と9区、109県(計128単位)、2007年には9市、12区、108県(計129単位)の変化があったものの、大きな変更はなかった。分析上、11市と6区、107県の計124統計区域にまとめた。
1997年と2002年、2007年の雲南省統計年鑑には、県レベルの統計は、GDP、工業・農業生産高、人口、従業員数・給与額、国営企業固定資産、財政収入・支出、住民預金残高、農民収入、農産物生産量、工業企業数および生産高、郷鎮企業数および生産高、工業製品生産量、工業企業主要財務指標、小売業売上総額など16分類から構成されている。3つの年とも共通する48項目の統計データを選出し、分析に用いた。
主成分分析の結果を3つの年を通して考察するため、各年の6成分に着目して比較した。1997年には第2次産業、非農業人口、農作物、農民収入、住民経済状況、性別、そして、2002年には第2次産業、非農業人口、小売、農作物、農民収入、性別、2007年には非農業人口、第2次産業、農業、性別、工業、農作物の6成分が存在し、雲南省の社会経済的な地域構造および変容を示す。
参考文献
杜 国慶(2008):中国のエスニック社会.pp.158-165.
山下清海 編著(2008):エスニック・ワールド.明石書店.257p.
雲南省統計局 編(1997):雲南省統計年鑑1997.中国統計出版社.682p.
雲南省統計局 編(2002):雲南省統計年鑑2002.中国統計出版社.
雲南省統計局 編(2007):雲南省統計年鑑2007.中国統計出版社.667p.
杜 国慶(2006):観光開発に伴う世界遺産「麗江古城」の変容.アジア遊学、第83号.145-159.
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