最近の医学は日を追つて新らしい抗生物質を生み出し, また在来の抗生物質を改良して, 耐性菌の問題, 交叉耐性の問題, 血中濃度上昇の問題等に対応しているが, いずれにしても抗生物質のうちTetracycline系薬剤の占める位置がきわめて大きいことは論を俟たない。しかし, 経口投与による血中濃度は, 最近のGlucosamine加Tetracycline (Cosa-Tetracyn) をこおいて従来のものより優れた成績を得, かなりの有効濃度を持続することが知られている.が, やはり一定の限度があつて, 急速に高い血中濃度を期待する場合とか経口投与不可能な症例に持続的に投与したい場合に, 非経口的投与, 特に静脈内への適用が許されるならば, 日常臨床上の利点はきわめて大きなことが容易に想像される。もちろん, 従来からこのような試みは各方面でおこなわれてはいたが, Tetracycline系薬剤は局所的ならびに全身的の耐薬性が悪いために, その作用が制限され, 使用に際しては溶剤を多量に要し, 多くの時間を費し, その上に注射局所の不快な障碍, たとえば血栓形成, 血管痛等を生じ, 全身的にも種々の障碍を来たして, 実際的にはあまり使用されない状態であつた。
Pyrrolidinomethyl tetracycline (Hostacycline-PRM)(PRM-TC と略) は, Hoechst社によつて部分合成的方法によつて得られたTetracyclineの新らしい誘導体で, 高濃度の液を多量に静脈内に投与することができるという物理化学的特性をもつ。
この度, 吾々の教室においても日本ヘキスト社から試供品の提供を受けたので, 種々の尿路感染症にこれを適用し, 若干の知見を得たので報告する。
PRM-TCについて
(1) PRM-TCは中性附近で水に対し1,250mg/mlの溶解度を示す。これはTetracycline hydrochlorideの約10倍の溶解度である。
(2) 内服Tetracyclineの血中濃度は, 服用後2~3時間でピークを示すのに対して, PRM-TCは注射後直ちに高い血中濃度が得られ, 長時間持続する。また尿中排泄量は, 血中濃度の数十倍を示す。
(3) 腸内排泄がきわめて少いため, 胃, 腸管に対する副作用は経口投与より遙かに少く, 生理的腸内菌に対する影響も少い。
(4) Tetracycline感性菌のすべてがPRM-TCによつて発育が抑制され, Tetracycline hydrochlorideと同様のantibiotic spectrumをもつ。
(5) 高い血中濃度が得られるため, 細菌の耐性限界が高い。
以上のように, 従来のTetracyclineと較べると多くの利点をもつている。
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