開腹術, ことに術中不潔操作を余儀なくされる消化管手術にさいして, 腹腔内に抗生物質を投与することは, 感染初期に高濃度の薬剤を作用させるとともに, 術後の抗生物質投与による局所有効濃度維持を容易にすることができる意味において, 術後感染防止に有効な方法と考えられる。
Penicillin, Streptomycin, Sulfa剤に関しては, すでに検討され, 臨床的に応用されているが, われわれの教室においても, Pyrrolidinomethyl tetracycline, Oxytetracyclineの局所投与について検討を加え, すでに報告しており, これらの抗生物質, またはSulfa剤を開腹術にさいしてroutineに局所探与している。
薬剤の腹腔内投与については, 次にあげる諸点が問題となる。(1) 薬剤の有効範囲および毒性,(2) 腸管吻合創治癒に対する障害性の有無,(3) 腹膜癒着増強の有無,(4) 腹膜に対する刺戟症状,(5) 術後, 腸管運動恢復に対する影響等である。
Erythromycin (EMと略) の抗菌スベクトルは, 比較的広く, グラム陽性球・桿菌のすべて, グラム陰性の球菌・桿菌の一部に対して有効である。特に, 最近問題とされている院内耐性ブドウ球菌感染に対して有効な薬剤の1つとされている。EMの毒性については, モルモット腹腔内投与LD
50は413.4mg/kg, マウスでは490mg/kgで, ぎわめて毒性は低く, 通常臨床的に使用すべき量では, 問題とならない。
一方, EMの腹腔内投与については, まだ検討されていず, 以上の点から, 著者らはEMを腹腔内に投与したとぎの腹膜癒着に及ぼす影響について, 実験的ならびに臨床的に追究し, また, 腸管内グラム陰性球菌に対して有効な 5-Methyl-3-sulfanilamidoisoxazoleとの併用局所投与についても, 腹膜癒着に及ぼす影響について検討をおこなつたので, 得られた成績について報告する。
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