今や放射性物質, 殊に同位元素は, 科学の各分野においてエネルギー源として, 道標として用いられ, 医学においては研究の領域だけでなく, 疾病治療にも活用され, その利用範囲は拡大されっつある現状である。放射性物質の利用が盛んになるにつれ, その障碍は種々の予防対策を用いてもさけ難く, 同位元素は人体内にに取り入れられる可能性が非常に多く, 従がつて特定の臓器に沈着し, 障碍を与える。放射線障碍の機序に関し, JACOBSON1)やALLSCOPP2)3)等の報告があり, 予防並びに治療について, 多くの先人は興味ある成績を報告している。しかし, いずれも実験の域を脱せず, 将来に残された問題の多い憾が深い。
先に我々は, P
32の薬理学的観察4)において, P
32連続適用動物の血清Cholinesterase (ChE) 活性が正常動物のそれに較べ明らかに亢まり, その際, 自律神経毒であるAcetylcholine (ACh) 感受性が低下していることを知つた。このような事実が直ちに放射能隙碍の原因, 或いは結果であるかどうかは, なお多くの考慮すべき点があるが, AChが生体内において重要な役割を演じている点から見逃すことはできない。他方, 我々は数年来, 抗生物質対生体作用の重要性にかんがみ, 諸機能や物質代謝に及ぼす影響について, 実験を重ね, その一環として血清ChE及び臓器ChEの消長を験し5), Chlortetracycline (Aureomycin (AM)) 等1, 2の抗生物質はChE値を低下させることを知つた。また, AMは細菌の核酸代謝のうち, 特にその生合成過程の附燐作用を阻害6) する。上述のように, AMはChE活性及び核酸代謝を中心としてP32の作用と全く相反する作用を示す。なお, Penicillin, Streptomycin7)(SM) 及びAM等8) の抗生物質は, X-rayの障碍の予防並びに治療に対して効果的であり, 期待をかけられている物質の1つであるが, 腸内細菌叢ないし2次感染症の改善が, これら抗生物質の作用本態の1つとみなされている。
このような諸事実から, P
32障碍に対して, AMは有効ではなかろうかと考え, 主として延命効果を中心に1, 2の実験を試み, 興味ある成績を得た。それらについて記述する。
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