梅沢等1)が放線菌培養液の実験動物腫瘍阻止作用をしらべてSarkomycinを発見し, HACKMANN2)がActinomycin Cの実験動物腫瘍阻止作用を報告してから, 微生物生産物中に制癌物質を探索する研究は, 抗生物質領域の最も重要な課題となつている。
梅沢3)は, 培養液中の制癌物質の探索法として, 実験動物腫瘍を用いる法, 腫瘍細胞の組織培養による法, その他の補助的試験法について報告しているが, 組織培養された腫瘍細胞に対する阻止作用を試験する方法は, 実験動物腫瘍を用いる方法に次いで重要視されている。新田4, 5, 6)は, 人体子宮頸部癌に由来するHeLa細胞に対する諸種の抗生物質および制癌物質の阻止作用をしらべ, 制癌作用をもつ物質では, マウスのLD
50とHeLa細胞最小阻止濃度の比が他に比して一般に大きいことを示し, HeLa細胞を用いる方法は, 制癌物質の重要な1探索法であることを示した.
Aspergillus fumigatusの生産物であるFumagillinが実験動物腫瘍に阻止作用をもつことは報告7)されているが, 制癌物質は主として放線菌から得られている。著者は, 糸状菌の保存菌株を培養し, 培養液のHeLa細胞阻止作用をしらべ, 糸状菌の培養液中にHeLa細胞阻止物質が存在することを観察した。さらに,
Aspergillus terreusの生産する抗HeLa細胞物質は, これを抽出し, Terric acidと同定した。他方, 土壌から分離し, 抗HeLa細胞作用試験で選出した1糸状菌の抗HeLa細胞物質を抽出精製し, 抗HeLa細胞作用のほか, エーリッヒ癌に阻止作用をもつことを確認し, 本物質の物理的ならびに化学的性状を明らかにした。
本報告には, 糸状菌保存菌株のHeLa細胞阻止物質の生産に関する研究, Terreic acidのHeLa細胞阻止作用ならびに1糸状菌の培養液から分離した新制癌抗生物質について報告する。
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