上記の実験データは, 未だこれに基ずいて考察を進めるに足る充分な結果を与えてはいないが, 適応酵素としてのPenicillinaseの性格をかなり明瞭に示しており, その特異的基質であるペニシリンとの関係は酵素適応の面からも, またペニシリンの抗菌作用機序の面からも更に考究を加える価値のあるものと判断される。
本報に関する主要事項を要約すると, 次のとおりである。
(1)
B. mycoidesと判定される1種の好気性桿菌を24℃に振盪培養し, そのPenicillinase生産について実験した。
(2) 本酵素は完全に菌体外酵素として培養液中に存在する。
(3) ペニシリンを添加しないブイヨンまたはCorn steep liquor培地にも若干の酵素生産が証明されるが, ペニシリンの添加によつて酵素生産は著るしく促進される。
(4) このペニシリンの効果は, 細菌が現に分裂増殖を続けている時期に添加された時に最も顕著である。
(5) 完全なペニシリンのみがこの効果を示し, ペニシリンの分解物はどのようなものも無効である。
(6) ペニシリン添加直後から酵素量は増加し始め, 少量のペニシリンでもその効果は, 数時間から十数時間持続する。
(7) 従がつて, ペニシリンは培地中のPenicillinaseの分解作用を受けぬうちに迅速に細菌菌体に吸着, 吸収され, そこでは不活性作用から保護された状態にあるものと考えられる。
(8) ペニシリンのPenicillinase生産促進は, 直接的な刺戟作用であつて, 細菌の生育を通して間接に影響しているのではない。
(9) 酵素の高収量を得る手段としてペニシリン生産用
Penicilliumと混合培養する方法を述べた。これによつて150,000u/cc程度の収量が得られる。純合成培地においても, 細菌は
Penicilliumの代謝物に依存して生育し, 充分の酵素生産を結果する。
(10) 本細菌はペニシリンに対して全く感受性をもたないのではなく, 10u/cc附近の濃度でかなりの抑制作用を受けるが, 感受性試験の結果は接腫菌量により左右されることが甚だしい。
抄録全体を表示