近年, 各種抗生剤の普及につれて, 感染症の病態に著るしい変化が現われつつある。特に, 胆道感染症については, 起炎菌の種類および性質が従来と著るしく変つて来ていて, 特有な所見として, 耐性菌株の出現と弱毒菌の混合感染が指摘される。
したがつて, 胆道感染症を治療するに当つて, どのような細菌が起炎菌であるか, 炎症発作がいつから起つたか, 以前使用された抗生剤がなにか, ないかを常に念頭におく必要があろう。一般に, 胆道感染の起炎菌は, 腸内細菌であり, 胆汁鬱滞, 結石の存在, 蛔虫迷入等の原因によつて上行感染がおこるばあいが多い。しかし, 長期にわたつて発作が繰返され, その間に各種の抗生剤が使用されたばあいは, 菌交代現象の結果として起炎菌の種類はその都度変化を示し, 緑膿菌等の弱毒菌, または, 耐性をもつた大腸菌等が残るのが普通である。したがつて, 胆石症のばあい, よほど注意しないと, 無効な抗生剤が無駄に使われたり, 術後重篤な全身感染を惹起する危険もある。
筆者は, 以上のような観点から最近, 手術時または術後得られた感染胆汁中の細菌を同定し, その抗生剤感受性について検討したので, これを報告するとともに, 今後の化学療法の参考にしたいと思う。
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