1949年, WAKSMANおよびLECHEvALIER1) は土壌菌
Streptomyces fradiaeに属する1菌株から抗菌性物質を分離し, Neomycinと命名した。これは始め
Streptomyces fradiaeの培養液から広くグラム陽性菌, 陰性菌および抗酸性菌の発育を阻止する有効物質を, Streptomycinと同様の方法で抽出したものでNeomycinA, BおよびCの成分からなる混合物 (Neomycin complex) であるが, このうち, Neomycin Bを90%以上含有する物質が最も有効なものとされ, 実用に供された。本邦においては, それぞれ別個に梅沢2), 相磯3) および緒方4) が
Streptomyces fradiaeから抗菌性物質を分離し, それぞれFradiomycin, FlavomycinおよびDextromycinと命名したが, これらは皆Neomycinと同一系統の抗生物質に属することが判明した。本邦においては, 梅沢2) の発見がWAKSMAN等1) よりも早いところから, Fradiomycinの名称が採用されている。
Fradiomycin (NMと略) の硫酸塩は白色, 吸湿性の粉末で, 融点205~215℃, 比施光度 (Complex) [α]
25D=+50.0°, 水に可溶で, ク戸ロホルム, ベンゾール, メタノール, エタノール, エーテル, 酷酸エチル等の有機溶媒に対し頗る難溶である (数mcg/ml程度) 。
力価は硫酸塩粉末で507~581mcg/9である。安定性は, 硫酸塩粉末では100℃6時間の加熱によつて力価の低下をみとめない。水溶液ではpH3.0以上, N・NaOH溶液の間では, 100℃1時間の加熱に対して安定, 24℃ に保存して3週間安定であり, 従がつて, 極めて安定度の高い抗生物質といい得る。
毒性は, マウス (18~20g) に対して, LD
50は, 静脈注射36土15mg (力価) /kg, 皮下注射254土10mg (力価) /kg, 腹腔内注射328±13mg (力価) /kgとされ, 経口投与はSPENCR4) 等によれば, LD
50は2,880mg/mouseとされている。人間に使用して (筋注, 内服), 聴神経および腎への毒性があげられ, WAISBREN & SPINK5) は聴力障害または聾の出現を報告している。
抗菌作用は, グラム陽性菌, 陰性菌および抗酸性菌にも作用し, 抗菌スペクトラムは広く, 桿菌類に対する作用は注目さるべきものであるが, 肺炎球菌, 溶血連鎖球菌に対しては他の抗生物質より発育阻止作用はやや劣つている。
NMは既に外用薬として広く使用され, 注射, 内服薬としても基礎的, 臨床的実験がすすめられている。私は, NMの耳鼻咽喉科領域疾患への応用を試みると共に, 基礎的実験として, その経口投与に関して, 家兎およびマウスを使用し, 諸臓器中含有量の消長, 連続経口投与による発育ならびに諸臓器への影響を検察し, 更に, 孵化鶏卵卵白内負荷による鶏胎仔の発育および諸臓器への影響を検索したが, 本篇においては, 耳鼻咽喉科領域疾患への使用成績について報告する。
本実験に先立ち, NMの抗菌性を確めるため, 次のように抗菌性試験を実施した。
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