ペニシリンの発見と相次ぐ抗生物質の出現によつて, 各種疾患の治療は革命的の進歩をもたらしたが, 往々にして病因菌を明らかにすることなしに, 各種の抗生物質を用いることと, 結核, 梅毒等の長期治療の止むを得ない事情等によつて, しばしば菌交代現象30) の様相を示す症例がみとめられている。現在では, 広範囲抗生物質療法によつて治癒した後に, 理由のない発熱等が続く場合には, 菌交代現象による
Candida症を疑うことは常識となつて来た。従がつて, 患者の排泄物等, すなわち尿, 喀痰, 胆汁, 血液, 糞を培養して
Candidaの有無を検査する必要がある。殊に, 男子の尿, 婦人のカテーテル尿から
Candidaが検出されることに意義がある。
1946年, 抗カビ性抗生物質Actidioneの発見以来, Antifungal antibioticsは内外国において, 現在までに48種の多きにのぼるに到つた。殊に, 吾国においては, Chromin (1952, 若木ら) 2), Flavacid (1952, 高橋) 3), Rotaventin (1952, 細谷ら) 4), H-2075物質 (1952, 細谷ら) 5), Trichomycin (1952, 細谷ら) 6), Mycelin (1952, 相磯ら) 7), Microcin A, B (1952, 平ら) 8), Eurocidin (1953, 中沢) 9), Mediocidin (1954, 岡見ら) 10), Toyokamycin (1954, 菊地ら) 11), Eurotin (1955, 細谷ら) 2), Akitamycin (1957, 細谷ら) 13), その他12種類14~24) ほどの報告がある。
1954年, 米国Rutgers大学のVINING, TABER, GREGORYら26)は, 種々の
Streptomycesの菌体および培養濾液から抽出されるAntifungal antibioticsをPolyene系抗生物質とよび, 紫外線吸収の極大値から推算し, 二重結合の数によつてTetraene antibiotics (Fungicidin-rimocidin-chromin group), Pentaeneantibiotics (Eurocidinakitamycin-group), Hexaene antibiotics (Mediocidin-flavacid group), Heptaene antibiotics (Trichomycincandicidin-ascosin-eurotin group) に区別した。
このように, Tetraene, Pentaene, Hexaene antibioticsは, 血清等によつて不活性化されるので, 生体内では, その効力を発揮できないのが欠点である。Trichornycin groupは血清によつて不活性化される程度が少いから, 治療効果26)が期待できる。
著者は1955年以来, 細谷省吾東京大学名誉教授指導の下にAntifungal antibioticsの研究に従事していたが, 細谷, 添田, 岡田, 藤田2)(1955) が発見した
Streptomyces griseusに近い菌株 (H-5592株, H-5598株) の培養菌体から抽出された抗真菌性抗生物質Eurotin, 更に精製されたEurotin A28)(1956) を用いて, 実験的
Candida症の治療実験をおこない, 興味のある成績が得られたので報告する。
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