日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
6 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 高橋 和子, 佐々木 明子
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,介護者の介護に関する自己評価の実態を把握し,自己評価の関連要因と評価の相違による社会サービス利用状況の特徴を明らかにすることで,在宅療養における社会的支援の方向性を検討することを目的とする.方法:対象は,山形県A市訪問看護ステーションの65歳以上の利用者の介護者85人である.調査は,基本属性,介護状況,社会的支援の状況について自記式調査票の記載を依頼し,郵送法で回収した.要介護高齢者のADL状況などについては,担当訪問看護師が調査栗の記載を行った.介護者の介護自己評価は,日常生活介護7項目について必要な介護項目のみ5段階で自己評価をしてもらった後,「できる」群,「できない」群に2分した.また,他要因との関連の検討は,合計点の平均値をもとに「できる」群,「できない」群に2分して分析を行った.結果:「歩行・車椅子移動介助」,「コミュニケーションの工夫」は,他の介護項目と比較し,「できる」と評価した割合が低かった.インフォーマルサポートとの関連では,「家族の介護への協力のしかた」,「友人・親戚の介護への協力のしかた」,「家族の精神的な支え」の満足度が「できる」群より「できない」群で有意に低かった.社会サービス利用希望については,「できない」群は,「訪問入浴サービス」,「ホームヘルプサービス」,「ショートステイ」の継続利用を希望しない割合が比較的高く,「日常生活用具貸与・支給」,「介護手当支給」の利用希望割合が高かった.結論:介護自己評価の「できない」群は,物質・経済的支援の社会サービス利用希望は高いが,人的な介護支援サービスの利用希望は低く,インフォーマルサポートの満足度も低かった.「できない」群の介護者へは技術的援助とともに介護社会における孤立を予防する支援の必要性が示唆された.
  • 別所 遊子, 細谷 たき子, 長谷川 美香, 吉田 幸代
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    在宅の寝たきり高齢者に対して,訪問看護師が回想法を活用した働きかけを行う効果を明らかにする目的で,介入研究を実施した.研究方法は,F県の5か所の訪問看護ステーションを利用している寝たきり高齢者18名に,訪問看護師が過去の肯定的な経験を振り返って語るよう促す介入を,5テーマについて各2週間ずつ合計10週間継続し,介入群とした.介入群と同じ訪問看護ステーションの高齢利用者で,寝たきりの程度その他の条件が介入群と同様の16名を対照群とした.両群について,介入前後の訪問看護時に,対象と訪問看護師との会話の録音記録をとった.その逐語録に基づいて研究者が,感謝,感情,笑い,誇り・自慢,人生観,現在の状態の受けとめ,質問,意思・要求,自発的な症状の訴えの合計9項目ごとに発話を抽出し,それぞれ会話時間10分あたりの発話頻度を算出して,統計的に分析した.その結果,介入前(開始時)と介入後(終了時)の発話頻度は両群に差がなかった.項目別に見ると,「自分の状態の受けとめ」の項目は介入群のほうが対照群よりも有意に増加の割合が高かった.自尊感情5項目の合計得点は,開始時と終了時および前後変化のいずれについても両群に有意差がなかった.自尊感情の項目別に見ると,「自分はいろいろな良い素質をもっている」のみ介入群のほうが対照群よりも改善割合が有意に高かった.介入群について介入前後で比較した場合には合計得点が有意に増加しており,項目別には,「自分はいろいろな良い素質をもっている」と「物事を人並みにはうまくやれる」の2項目が有意に改善していた(p<.05).さらに,「大体において自分に満足している」の項目は改善傾向がみられた(p=.073).対照群では,合計得点も項目別得点も開始時と比較して終了時に有意な変化はなかった.寝たきり高齢者に対する回想法を活用した訪問看護師の働きかけは,対象の自己認識を肯定的な方向に改善すること,対象の言語的自己表出を促して訪問看護師とのコミュニケーションが促進されること,看護師がケアの方向を考える際の貴重な情報を得ることができることが示唆された.今後介入の方法,評価方法をさらに検討していきたい.
  • 佐伯 和子, 和泉 比佐子, 宇座 美代子, 高崎 郁恵
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 32-39
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    行政機関に働く保健師の専門職務遂行能力をベースにした系統的な継続教育のプログラムの構築をめざして,保健師の専門職務遂行能力の測定用具を開発することを目的とした.4県の行政で働く保健師3,024人を対象に質問紙による郵送調査を行い,専門職務遂行能力の測定を自己評価により行った.1,614人の有効回答を分析し,信頼性と妥当性を検討した.20項目から成る行政機関に働く保健師の専門職務遂行能力は,主因子分析の結果,「対人支援能力」8項目と「地域支援および管理能力」12項目の2つの因子から構成されていた.「対人支援能力」には,個人家族への支援と方法としての集団支援が含まれた.「地域支援および管理能力」には,地域活動と施策化と管理教育の内容が含まれた.全体のクロンバックα係数は0.97であり,「対人支援能力」0.96,「地域支援および管理能力」0.96であった.外的基準との相関係数は「対人支援能力」0.54,「地域支援および管理能力」0.63であった.以上より,保健師の専門職務遂行能力測定用具は信頼性,妥当性があると確認された.
  • 東 清巳, 永田 千鶴
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 40-48
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:在宅での看取りを達成するために,家族がケアの過程で生じる困難な状況にどのように対処しているか,その家族対処の特徴と,家族対処を促すためになされた看護介入について検討した.対象および方法:平成10〜13年度のK県訪問看護職研究会の事例検討会に出された,在宅ターミナルケア6事例の家族と,その事例を担当した訪問看護師6名である.方法は,事例検討会で報告された内容の中から,ケアの過程で生じた困難な状況を乗り切るためにとられた家族対処の内容を抽出し,質的に分析し,それぞれの構造を明らかにした.結果および考察:家族対処として,<情緒的支え合い><セルフケア能力の向上><介護者役割を引き受ける><自己表出><あきらめる><依存><揺れ><死の受容><こだわる><療養者の意向に添う>の10項目が抽出された.その構造の特徴は,核に<こだわる>があり,それを前提に<療養者の意向に沿う>と<介護者役割を引き受ける>があった.そして,これらが他の家族対処を支えていた.また家族対処を促す看護介入として,【承認】【安心の保証】【受容】【傾聴】【待つ】【力を強くする】【関わり続ける】【受けとめる】【共感】【専心】【指示する】の11項目が認められた.その特徴は,核に【こだわる】と【専門的知識・技術】があり,これらを基盤にして在宅での看取りに向けて【関わり続ける】ために,その他のケアが,【バランスをとる】ケアに支えられながら提供されていた.また,本研究の家族は,ターミナルケアという困難な状況をさまざまな対処方法を用い,また看護師の専門的介入によって乗り越え,5家族が在宅死を看取り,1家族が死の数時間前まで在宅療養を続けた.
  • 小野 ミツ, 小西 美智子
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,在宅の要介護高齢者に対する介護者の虐待に関係する要因を明らかにするとともに,介護者が要介護高齢者との間にとる対人距離が虐待とどのように関係しているかを検討することである。調査対象者は,介護者53名である.このうち虐待ありは27名,虐待なしが26名であった.対象者には,次の2つの調査を実施した.(1)虐待の有無とその背景に関する質問紙調査,(2)介護者の要介護者に対する心理的距離を投影法的に捉える「介護者に対する対人距離テスト」(以下,対人距離テストと略す)を実施した.「対人距離テスト」は,さまざまな介護場面を設定し,部屋と見立てた四角な枠の中央に高齢者の姿を描いた「図版」のうえに,介護者の姿を描いた「介護者カード」を,最も相応しいと感じる場所に配置させるものである.対人距離は,図版の高齢者と介護者カード間の距離を測定したものである.その結果,質問紙調査から,虐待を受けている要介護高齢者には,痴呆症状はあるが自立度の高い者が多かった.虐待する介護者は,介護負担が強く,要介護高齢者との人間関係が悪いと回答した者が多かった.対人距離テストでは,介護者の距離の取り方に,大きく2つの型があることがわかった.1つは,高齢者のいる室内(枠内)に介護者カードを置く室内型と,室外(枠外)に介護者カードを置く室外型である.室内型の対象者の特徴は,一般に積極的に高齢者と関わることが必要と考えられる介護場面条件で,要介護高齢者から遠く離れた距離をとる傾向が認められた.一方,介護者を情緒的に刺激する場面では,要介護高齢者に接近する傾向がみられた.室外型では,介護放棄や無視といった虐待の認められる介護者が多かった.さらに,対人距離の取り方をクラスター分析により類型化すると,(1)「高齢者中心型」,(2)「介護者中心型」,(3)「密接型」,(4)「遠隔型」の4タイプに分けることができた.虐待あり群では,「遠隔型」が多くを占め,「介護者中心型」も多かった.配偶者が介護している場合には「密接型」が多く,嫁が介護している場合には「高齢者中心型」が多かった.高齢者虐待の要因の一つである介護者と要介護高齢者の人間関係を理解しようとするとき,対人距離という視点から見ることは,両者の関係を捉える方法として有効であり,虐待の早期発見,虐待防止の働きかけのきっかけになるとも考えられる.
  • 千田 みゆき, 菊池 チトセ, 山路 真佐子, 藤川 あや
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    看護教育の立場と訪問看護ステーションの立場での学生の訪問看護実習におけるケア内容の許容の程度を明らかにするため,埼玉県内の訪問看護ステーションと訪問看護実習を実施している看護教育施設,および全国の看護短大専攻科(保健師養成課程)に質問紙調査を行った.その結果,県内の約4分の1の訪問看護ステーションで厳しい条件下で実習を受け入れていた.看護師学生の場合は情報収集に関する項目,足浴・手浴,病床・病室の整理,更衣の援助は看護師と共に実施できる項目として,また,気管切開開口部のケアは見学も実施も経験させない項目として認識されていた.保健師学生は看護師学生であがった項目に加え,全身清拭,洗髪が看護師と共に実施できる項目として,気管切開開口部のケアは見学できる項目として認識されていた.また,看護師学生の場合,実習を受け入れている訪問看護ステーションは教育施設よりリハビリテーションに関する項目や水分・栄養・食事の指導で許容の程度が低かった.以上から,看護系教育施設と訪問看護ステーションでは,ケア内容の許容の程度に差があるので,実習前の情報交換と打ち合わせを十分に行う必要があることが示唆された.
  • 齋藤 茂子
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    少子高齢化社会のニーズに対応できる地域看護教育には,ニーズ指向,協働への意識高揚,倫理教育が求められ,さらに激変する社会ニーズに対応できる能力として自己教育力が重要とされている.我々は,知識・技術・態度および倫理面の統合教育と学生の自己教育力を育成するための地域看護における学習方略の開発を試みた.その学習方略の特徴は,3年課程の看護教育において,すべての学年にフィールドワークを位置づけたことにある.1年次においては,情意領域の教育を意図し,看護学生のニーズ指向を養うことを目的とした早期体験学習を試みた.今回,早期体験学習の評価から,情意領域に重点をおいて,自己教育力を育成する学習方略の開発について検討した.島根県立看護短期大学学生1年次84名を対象とし,フィールドワークの過程で作成した学生のレポートの記述を,(1)学習課題の選択状況,(2)学生の学び:ニーズ評価の視点10項目に分類,(3)情意領域の学び:3分類,(4)自己学習課題:3領域に分類,以上の4つの評価項目について,学習課題別にKJ法によりカテゴリー化して分析し,フィールドワークの教育効果を検討した.フィールドにおける早期体験学習の結果,(1)学生は,地域看護に必要な生活者のニーズを実感できる機会により,生活者の自己実現,精神的援助,関係機関や社会資源等について学ぶことができ,(2)価値観の変化についての学びが多くみられ,情意教育としての効果が得られること,(3)学生の自己学習課題は,認知領域,精神運動領域,情意領域のそれぞれの割合が3つの学習課題に共通する傾向がみられ,特に認知領域の課題が多かった.以上のことから,早期体験学習は,自己教育力を育成する地域看護教育の学習方略として開発する意義があるといえる.
  • 許 翠萍, 三上 洋, 伊藤 美樹子, 有馬 志津子
    原稿種別: 本文
    2003 年 6 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2003/09/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:中国では人口の高齢化が急速に進んでいるが,高齢化社会を迎えるに当たって,高齢者ケアのための社会保障制度が不備な現状にある.こうした背景を踏まえて中国における高齢者の健康,介護,経済的な現状を分析し,今後の中国の高齢者ケア体制のあり方について検討することを目的とした.方法:中国衛生部より刊行された中国衛生年鑑,中国統計局より刊行された中国統計年鑑,中国衛生部が行った第二回衛生服務調査,全国人口全面調査公報,中華看護協会における資料および関係者の調査結果を用いて,高齢化の状況,高齢者の健康状況,経済的な状況,介護者の負担,在宅サービスおよび施設サービスの利用意向の文献的検討を行った.結果:中国における高齢者ケア体制の現状の特徴として以下の4点が明らかになった.(1)平均寿命の延長および「一人っ子政策」による出生率の低下による人口構造の高齢化,(2)経済発展が不十分なため社会保障制度が未整備のまま,急速な高齢化が始まった,(3)高齢化に伴う慢性疾患有病率の上昇と要援護高齢者の増加,(4)核家族化,家族の扶養意識の変化による子どもとの同居率の低下と一人暮らしおよび夫婦のみの高齢者世帯の増加による家族介護機能の低下である.このような現状に対応するため,今後の高齢者ケア体制のあり方として,(1)保健・医療・福祉が連携したシステムの構築,(2)在宅サービスの充実および施設介護の整備,(3)高齢者の健康づくりによる健康寿命の延伸,(4)地域における介護のためのマンパワーの早急な育成および能力強化などが考えられた.結論:中国は日本の保健・医療・福祉改革の経験を参考にしながら,中国の国情にあわせた社会保障制度の構築を通して高齢者ケア体制の整備を図る必要がある.
feedback
Top