日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
24 巻, 2 号
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原著
  • 赤堀 八重子, 齋藤 基, 大澤 真奈美
    2021 年 24 巻 2 号 p. 4-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:特定保健指導該当者を対象とした特定保健指導の利用を阻害する要因を測定するための尺度(以下,「特定保健指導の利用阻害要因尺度」)を開発することを目的とする.

    方法:先行研究などから50質問項目「特定保健指導の利用阻害要因尺度」原案を作成した.2市1町1村における国民健康保険被保険者のうち,2017年度の特定保健指導に該当した積極的および動機づけ支援者3,738人に対して質問紙調査を実施し,信頼性および妥当性を検討した.

    結果:質問紙の回収数は1,849人(回収率49.5%)であり,欠損を除く1,459人(有効回収率39.0%)を分析対象とした.項目分析および探索的因子分析の結果,【生活習慣を変えることに対する無益感】【保健行動よりも優先される価値観】【保健指導に対する否定的な感情】【自身の健康の判断に対する自負心】の4因子18項目が抽出された.全体のCronbach α係数は0.904,下位尺度は0.737~0.845であった.確認的因子分析によるモデル適合度は,GFI=0.951,AGFI=0.935,CFI=0.952,RMSEA=0.053であった.既知グループ法では有意な関連があり,基準関連妥当性では,HLC尺度との有意な負の相関がみられ尺度の妥当性が確認された.

    結論:本尺度は,4下位尺度18項目から構成され,特定保健指導の利用を阻害する要因を測定するために有用である.

研究報告
  • 森 久仁江, 都筑 千景, 大川 聡子
    2021 年 24 巻 2 号 p. 13-21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:出生体重2,000~2,500 g未満の低出生体重児のうち,後期早産児をもつ母親の育児への思いを明らかにし,LP児とその家族への地域の支援について検討すること.

    方法:市町村保健師が継続的に支援しているLP児のうち,出生体重2,000~2,500 g未満の4歳または5歳児をもつ母親10人を対象に半構成的面接を行い,データを質的に分析した.

    結果:大カテゴリー〔小さく産まれたことへの不安により募る自責の念〕として7カテゴリー,大カテゴリー〔育児への充足感と子どもの成長に伴う安堵感〕として4カテゴリーが抽出された.母親は【小さく産んだことに対する自責の念】をもち,出産後は【予定外に早い出産に対する心配】【他児との比較による不安】という自責の念をもつ一方,【小さくても順調に育ったことに安堵する】という安堵感をもっていた.また【母乳育児を続けることはむずかしかった】という思いをもつ一方で,【早産・低体重で生まれた分できることをがんばった】という思いももっていた.母親の自責の念と安堵感は,子どもが4~5歳になるまで続いていた.

    考察:母親の〔小さく産まれたことへの不安による自責の念〕と〔育児への充足感と子どもの成長に伴う安堵感〕という思いは幼児後期まで続くことが示された.出生体重が2,000 g以上でも,入院中は医療機関,退院直後から保健機関が中心に母の思いを聴き,就学まで就園先と連携しニーズを見極め支援する必要がある.

  • 杉本 由利子, 山下 清香, 小野 順子, 香月 眞美, 山口 のり子, 尾形 由起子
    2021 年 24 巻 2 号 p. 22-29
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:市町村保健師の発達障害児の支援における連携に関する技術の構成概念を明らかにする.

    方法:調査1は,フォーカスグループインタビューを実施し,保健師の発達障害児の支援における連携技術に該当する内容を抽出し,その内容をもとに質問紙を作成した.研究対象は,母子保健事業に10年以上従事している市町村保健師7人とした.調査2は,調査1で作成した質問紙を用い,連携技術の構成概念を明らかにするため量的調査を実施し,因子分析を行った.調査はA県内の市町村に勤務し母子保健事業に従事している保健師280人を対象とした.

    結果:発達障害児の支援における保健師の連携技術項目の因子構造は,〔多職種連携を行うための仕組みづくり〕〔多職種との相互理解に基づいて役割を検討する〕〔多職種の支援技術を高める〕〔母親に子どもの特徴を伝える〕〔継続的に母親に関わる〕の5因子31項目となった.

    考察:市町村保健師の発達障害児の支援における連携に関する技術の構成概念が明らかになった.対象のアセスメントと支援,多職種との協働,地域に応じた仕組みづくりが連動しており,何らかの過程を踏まえていると思われるが,その過程に関する分析には至らなかった.

  • 栗田 真由美, 巽 あさみ
    2021 年 24 巻 2 号 p. 30-39
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:高齢者福祉分野の保健師が委託型地域包括支援センターとともに,地域包括ケアの発展に向かううえで直面している経験を明らかにすることを目的とする.

    方法:高齢者福祉分野の保健師8人に半構造化面接を行い,修正版グランデッド・セオリー・アプローチを用いて質的帰納的に分析した.

    結果:19の概念で構成される7つのカテゴリーが抽出された.高齢者福祉分野の保健師は委託型包括との間で生じた【予防をめぐる奮闘】を起点に【包括と担当部署の狭間の苦悩】と向き合い【活動をみせる】ことや【後方からコーディネート】を行い,その取り組みに対し【内省による立て直し】をしていた.このなかで,高齢者福祉分野の保健師の取り組みは【組織の覚醒】を生み,【地域包括ケア発展への気づき】を得ることにつながっていた.

    考察:高齢者福祉分野の保健師が,予防重視の支援展開の力と行政に属する立場を強みとし,包括や担当部署などを巻き込み,【内省による立て直し】を繰り返しながら【活動をみせる】ことや【後方からコーディネート】することにより,課題解決につながることが明らかとなった.それら高齢者福祉分野の保健師の取り組みから生まれた周囲の変化とともに,委託型包括との協働には〈司令塔を担える組織〉として成熟していくことが,地域包括ケア発展へのアプローチとして重要であることが示唆された.

資料
  • 田村 須賀子, 安田 貴恵子, 山﨑 洋子, 髙倉 恭子
    2021 年 24 巻 2 号 p. 40-49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:市町村保健部門から福祉部門に配置された保健師(以下,福祉部門保健師)による,障害者および児童福祉等の利用者と家族に対する家庭訪問援助の特徴を検討した.

    研究方法:福祉部門保健師6人の意図と行為を調査した.保健師には家庭訪問援助事例を記述してもらい,面接にて内容を確認した.7つの分析の視点に関連する記述を事例ごとに取り出し,概観して援助内容を記述した.援助内容の記述の類似性から特徴をまとめた.研究協力依頼に先立ち,所属機関の倫理審査委員会の承認を得た(臨認24-126).

    結果:保健師の意図と行為の組み合わせから,20の援助内容にまとめた.「訪問目的を明確にし,伝える方法を検討する」他,福祉の支援が必要な当事者・家族の特性に沿う,福祉部門保健師に新たな援助内容があった.「当事者・家族との人間関係をつくり,支援者として受け入れてもらえるようにする」他,信頼関係形成,緊急性を想定し見守り支援体制づくりに向けた援助内容等は,福祉部門保健師にもあった.

    考察:福祉部門でも保健師は,当事者・家族との信頼関係形成,自立した地域生活の実現,近隣住民も含めたケアチームづくり・支援体制整備と,保健師がどの部門に配置されても志向される基本的で不変な援助を提供していた.しかし福祉部門ではさらに,生活の自立と身体・精神的支援ニーズに配慮,安定した生活基盤の確立,近隣住民・関係職種からの支援者確保を判断するところに特徴があると考えられた.

  • 竹内 千亜紀, 河野 あゆみ
    2021 年 24 巻 2 号 p. 50-58
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,現状の在宅看護教育の特性を明らかにし,効果的な実習モデルを提示するために,看護基礎教育における在宅看護教育の特性と教員が修得を期待する実習成果との関連を明らかにすることである.

     方法は,看護系大学247校の在宅看護担当教員を対象とした質問紙調査を実施した.分析対象は108校(有効回答率43.7%)である.調査内容は,基本属性,在宅看護実習体制の特徴,教員が修得を期待する実習成果には在宅看護実践行動と多職種連携行動に関するものとし,強制投入法による重回帰分析を行った.分析の結果,在宅看護実践行動期待項目平均得点は95.2点(SD19.2),多職種連携行動期待項目の平均得点は52.7点(SD11.8)であった.重回帰分析の結果,訪問看護実習日数割合が高い群は在宅看護実践行動期待項目得点が高かった(β=.187,p=.047).准教授以下の職位(β=.231,p=.019)や在宅看護教員経験年数が10年以上(β=.281,p=.004)の教員,学年定員が80名未満(β=-.237,p=.012),在宅看護独立型(β=-.209,p=.023)の大学は,多職種連携行動期待項目得点が高かった.

     本研究では,教員が修得を期待する実習成果を向上するために,訪問看護ステーションでの実習を保持することおよび在宅看護教育体制を多面的に整える必要性が示唆された.

  • ─回復者の結核の認識と治療に関連する行動に着目して─
    安本 理抄, 上野 昌江, 大川 聡子
    2021 年 24 巻 2 号 p. 59-66
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
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    目的:結核をもち生活している人々を支援していくためには彼らの状況を理解し,1人ひとりの状況に合わせた支援を展開していくことが求められている.本研究の目的は,結核回復者の結核の認識と結核治療に関連する行動に着目し,結核という病の受け止め過程を明らかにすることである.

    方法:治療終了後6か月以上経過した結核回復者5人を対象に半構成的面接を行い,データを質的に分析した.

    結果:結核の認識として6つのカテゴリーが抽出された.【予想外の診断への困惑】【診断への怒り】【服薬への期待】【治療が思うように進まない焦り】【結核を抱えた生活への緊張】【周囲との関係性が崩れることへの不安】が示された.結核治療に関連する行動は,【生活の段取りをつける】【結核発病の引き金を振り返る】【隔離中の時間が有効になるようにする】【お互いに励まし合う】【保健師を社会との仲立ちにする】【生活習慣の改善に努める】ことが抽出された.

    考察:結核回復者は結核診断に戸惑い,その診断に怒りを感じ,葛藤しながら入院の指示に従っていた.入院中は,発病までの生活を振り返り,副作用への不安をもちつつも治ることを信じて日常を取り戻すために服薬を継続していた.退院後は服薬が完了しても再発を恐れ,結核に罹患した事実に対峙しながらいまの生活を送っていることが示された.個々の人々の生活状況や結核という病の受け止め過程に応じた支援が求められる.

  • 仲 文子, 草野 恵美子
    2021 年 24 巻 2 号 p. 67-75
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:40歳未満の労働者の生活習慣とワーク・エンゲイジメント(以下,WE)との関連についての既存データを活用した検討を行うことを目的とする.

    方法:A社の40歳未満の社員を対象として,既存データである健康診断結果を用いた.WE測定尺度は新職業性ストレス簡易調査票(以下,NewBJSQ),生活習慣項目は標準的な質問票から抽出した.交絡因子としてNewBJSQと同質問票から,基本属性および病歴・既往歴,業務の状況に関する情報を把握した.WEと生活習慣の関連を調べるため,男女別にχ2検定を実施し,有意差および有意な傾向がみられた生活習慣項目と交絡因子を独立変数とし,WEを従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した.

    結果:男性で「睡眠で休養が十分にとれている」でオッズ比が1.496(95%信頼区間1.047─2.137,p=0.027),女性で「1回30分以上の軽く汗のかく運動を週2回,1年以上している」でオッズ比が3.547(95%信頼区間1.509─8.338,p=0.004)と高いWEとの有意な関連がみられた.

    考察:40歳未満においてWEに関連する生活習慣は,男性は睡眠,女性は運動であり,40歳未満の労働者のWEを考慮した保健指導では,これらの点に留意する必要性が示唆されるとともに,既存データを活用した産業保健分野での検討に関する基礎資料となった.

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